アリスのワンダーランド冒険記
ルイス・キャロル 作
第一章 うさぎ穴を落ちて
アリスは、土手で姉のそばに座っているのにも、何もすることがないのにも、すっかり飽きはじめていた。一度か二度、姉が読んでいる本をのぞきこんでみたけれど、そこには絵も会話もなかった。「絵も会話もない本なんて」とアリスは思った。「いったい何の役に立つの?」
そこでアリスは、心の中で考えていた(暑い日だったので、とても眠くてぼんやりしていて、できるかぎりではあったけれど)。ひなぎくの首飾りを作る楽しみは、わざわざ立ち上がってひなぎくを摘む手間に見合うだろうか――そんなことを考えていた、そのとき、突然、ピンクの目をした白うさぎが、すぐそばを走り抜けた。
それだけなら、それほど驚くようなことではなかった。うさぎがひとりごとのように、「大変だ! 大変だ! 遅れてしまう!」と言うのを聞いても、アリスはそれほどおかしいとは思わなかった(あとになって考えれば、ここで不思議がるべきだったのだと思い当たるのだが、そのときは何もかもごく自然に思えたのだ)。けれども、そのうさぎが本当にチョッキのポケットから時計を取り出し、それを見て、また急いで駆けだしたとき、アリスはぱっと立ち上がった。チョッキのポケットを持ったうさぎも、そこから取り出す時計を持ったうさぎも、これまで一度も見たことがない、と頭にひらめいたからだ。好奇心に胸を燃やして、アリスは野原を横切ってそのあとを追い、幸運にも、うさぎが生け垣の下の大きなうさぎ穴へ、ぽんと飛びこむところをちょうど見ることができた。
次の瞬間、アリスもそのあとを追って飛びこんでいた。どうやって戻ってくるつもりなのかなど、まるで考えもしなかった。
うさぎ穴は、しばらくトンネルのようにまっすぐ続いていたが、やがて急に下へ落ちこんだ。あまりにも突然だったので、アリスは止まろうと考えるひまもなく、気がつくと、とても深い井戸を落ちていた。
井戸がよほど深かったのか、それともアリスがよほどゆっくり落ちていたのか、とにかく落ちながら、あたりを見まわしたり、次に何が起こるのか考えたりする時間はたっぷりあった。まず下を見て、どこへ行き着くのか見きわめようとしたが、暗すぎて何も見えなかった。そこで井戸の壁を見ると、そこには戸棚や本棚がぎっしり並んでいるのに気づいた。ところどころには、釘に地図や絵が掛けてある。通りすがりに棚から壺を一つ取ってみると、ラベルには「オレンジ・マーマレード」とあった。ところが、大いにがっかりしたことに中は空っぽだった。下にいる誰かに当たって死なせてしまってはいけないと思い、壺を落とす気にはなれなかったので、落ちながらどうにか近くの戸棚へ押しこんだ。
「まあ!」アリスは心の中で思った。「こんな落ち方をしたあとなら、階段から落ちるくらい、何でもないわ! 家のみんなは、どんなに勇敢だと思うかしら! だって、屋根のてっぺんから落ちたって、きっと何も言わないもの!」(それはたぶん本当だった。)
落ちる、落ちる、どこまでも落ちる。落下はいつまでも終わらないのだろうか。「今ごろ、何マイルくらい落ちたのかしら?」アリスは声に出して言った。「地球の中心にかなり近づいているにちがいないわ。ええと、下へ四千マイル(約六千四百キロ)くらいだったと思うけど――」(というのも、アリスは学校の授業でこういうことをいくつか習っていたのだ。聞いてくれる人が誰もいないので、知識をひけらかすにはとてもよい機会とはいえなかったが、それでも口に出しておさらいするのはよい練習だった)「――そう、そのくらいの距離よね――でも、今いるところの緯度や経度はいくつなのかしら?」(アリスは緯度が何なのか、経度が何なのか、どちらもよくわかっていなかった。ただ、口にすると立派でいい言葉だと思っていたのだ。)
しばらくして、また話しはじめた。「このまま地球を突き抜けて落ちたらどうなるのかしら! 頭を下にして歩く人たちの中へ出ていくなんて、ずいぶんおかしな感じでしょうね! アンティパシースだったかしら――」(今度ばかりは、誰も聞いていなくてよかった、と少し思った。どうにも正しい言葉には聞こえなかったからだ)「――でも、その人たちに、その国の名前を聞かなくちゃいけないわね。すみません、奥さま、ここはニュージーランドですか、それともオーストラリアですか?」(そう言いながら、アリスはお辞儀をしようとした――空中を落ちながらお辞儀をするところを想像してごらん! あなたにできると思う?)「そんなことを聞いたら、なんて無知な小さい女の子だと思われるでしょう! だめ、聞くなんてとんでもないわ。どこかに書いてあるのが見えるかもしれないし。」
落ちる、落ちる、どこまでも落ちる。ほかにすることもないので、アリスはすぐまたしゃべりはじめた。「今夜はダイナが、きっと私をとても恋しがるわ!」(ダイナというのは猫の名前だ。)「お茶の時間に、あの子のミルクのお皿を忘れないでいてくれるといいんだけど。ダイナ、かわいい子! あなたもここに一緒にいればいいのに! 空中にはネズミはいないでしょうけど、コウモリなら捕まえられるかも。コウモリって、ネズミによく似ているものね。でも、猫ってコウモリを食べるのかしら?」
ここでアリスはだんだん眠くなり、夢うつつの調子でひとりごとを続けた。「猫はコウモリを食べる? 猫はコウモリを食べる?」ときどきは「コウモリは猫を食べる?」とも言った。どちらの問いにも答えられないのだから、どう言い換えたところで大した違いはなかった。うとうとしはじめ、ちょうどダイナと手をつないで歩きながら、とても真剣に「ねえ、ダイナ、本当のことを言って。あなた、コウモリを食べたことがある?」と尋ねる夢を見はじめた、そのとき、突然、どさっ! どさっ! アリスは枝と枯れ葉の山の上に落ち、落下は終わった。
アリスは少しもけがをしておらず、すぐにぴょんと立ち上がった。上を見上げたが、頭上は一面まっ暗だった。前にはまた長い通路が伸び、白うさぎがまだ見えていて、その奥へ急いでいる。一瞬たりともぐずぐずしてはいられない。アリスは風のように走りだし、うさぎが角を曲がりながら言うのをちょうど聞いた。「ああ、耳とひげにかけて、なんて遅れているんだ!」
アリスも角を曲がったときには、すぐ後ろまで追いついていた。だが、うさぎの姿はもうどこにも見えなかった。気がつくと、低くて長い広間に立っていた。天井から吊るされたランプが一列に並び、あたりを照らしていた。
広間のまわりにはぐるりと扉があったが、どれも鍵がかかっていた。アリスは片側を端から端まで行き、反対側も端から端まで戻りながら、すべての扉を試した。それでも開くものは一つもなく、どうやってここから出ればいいのだろうと考えながら、悲しげに広間の真ん中を歩いた。
突然、小さな三本脚のテーブルに出くわした。全体が分厚いガラスでできていて、上には小さな金の鍵が一つ載っているだけだった。アリスはまず、これは広間のどれかの扉の鍵かもしれないと思った。ところが、ああ、残念! 錠が大きすぎるのか、鍵が小さすぎるのか、とにかくどの扉も開かなかった。しかし二度目に広間をまわったとき、アリスは前には気づかなかった低いカーテンを見つけた。その向こうには、高さ十五インチ(約三十八センチ)ほどの小さな扉があった。小さな金の鍵を錠に差してみると、大喜びすることに、ぴったり合った!
アリスが扉を開けると、その先はネズミ穴より少し大きいくらいの小さな通路につながっていた。ひざまずいて通路の向こうをのぞくと、そこにはこれまで見たこともないほど美しい庭が広がっていた。暗い広間から出て、明るい花壇や涼しげな噴水のあいだを歩きまわれたら、どんなにいいだろう。だが、戸口には頭さえ通らなかった。「たとえ頭が通ったとしても」と、かわいそうなアリスは思った。「肩が通らなければ、たいして役には立たないわ。ああ、望遠鏡みたいに縮めたらいいのに! やり方さえわかれば、できる気がするんだけど。」
というのも、最近あまりにも常識外れのことが続いたので、アリスは、本当に不可能なことなど、実はごくわずかしかないのではないかと思いはじめていたのだ。
小さな扉のそばで待っていても仕方がなさそうだったので、アリスはテーブルへ戻った。もしかすると別の鍵が載っているかもしれない、少なくとも人間を望遠鏡みたいに縮める規則の本くらいはあるかもしれない、と半ば期待していた。すると今度は、小さな瓶が載っていた(「これはさっき、絶対になかったわ」とアリスは言った)。瓶の首には紙のラベルが巻かれていて、そこには大きな文字で「ワタシヲオノミ」と美しく印刷されていた。
「お飲み」と言われたからといって、賢い小さなアリスは、そう簡単にそれをするつもりはなかった。「いいえ、まず確かめなくちゃ」とアリスは言った。「『毒』って書いてあるかどうか見てみるの。」というのも、アリスは、やけどをしたり、野獣に食べられたり、そのほか不愉快な目にあった子どもたちの教訓的なお話をいくつも読んだことがあったからだ。そういう子どもたちはみな、友だちが教えてくれた簡単な決まりをどうしても覚えていなかったせいで、そんな目にあった。たとえば、真っ赤に焼けた火かき棒を長く持っているとやけどをする、とか、ナイフで指をとても深く切れば、たいてい血が出る、とか。そしてアリスは、「毒」と書かれた瓶からたくさん飲めば、遅かれ早かれ、まず間違いなく体に合わない、ということも忘れたことがなかった。
けれども、この瓶には毒とは書かれていなかったので、アリスは思いきって味見をしてみた。するとたいへんおいしいことがわかった(実際それは、チェリータルト、カスタード、パイナップル、ローストターキー、トフィー、熱々のバタートーストを混ぜ合わせたような味だった)。アリスはすぐに飲み干してしまった。
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「なんて不思議な感じ!」アリスは言った。「私、望遠鏡みたいに縮んでいるんだわ。」
そして実際そのとおりだった。アリスはいま、たった十インチ(約二十五センチ)の高さしかなかった。これならあの小さな扉を通って、美しい庭へ行けると思うと、顔がぱっと明るくなった。とはいえまず、これ以上縮むかどうか確かめるために数分待ってみた。アリスは少し心配だった。「だって最後には」とアリスはひとりごちた。「ろうそくみたいに、すっかり消えてしまうかもしれないでしょう。そのとき私は、いったいどんなふうになるのかしら?」
そこで、吹き消されたあと、ろうそくの炎がどんなふうになるのか想像してみようとした。そんなものを見た記憶は一度もなかったからだ。
しばらくして、それ以上何も起こらないとわかると、アリスはすぐに庭へ行こうと決めた。ところが、ああ、かわいそうなアリス! 扉のところまで行ってみると、小さな金の鍵を忘れてきたことに気づいた。テーブルへ戻って取ろうとしたが、どうやっても手が届かない。ガラス越しに鍵ははっきり見えているし、テーブルの脚の一本をよじ登ろうと一生懸命試したが、あまりにもつるつるしていた。とうとう試し疲れて、かわいそうな小さなアリスは座りこみ、泣きだした。
「さあ、そんなふうに泣いても無駄よ!」アリスは、自分に向かって少しきつく言った。「今すぐやめなさい、いいわね!」
アリスはたいてい自分にたいへんよい助言をした(もっとも、それに従うことはめったになかった)。ときにはあまりにも厳しく自分を叱るので、涙が出てくることもあった。以前、自分対自分でクロッケーをしていて、自分をごまかした罰に、自分の耳をぴしゃりと叩こうとしたことさえ覚えている。というのも、この風変わりな子は、二人の人間のふりをするのが大好きだったからだ。「でも今は」と、かわいそうなアリスは思った。「二人の人間のふりをしても無駄ね! だって、まともな一人を作るだけの私だって、ほとんど残っていないんだもの!」
まもなく、テーブルの下に置かれている小さなガラスの箱が目に入った。開けてみると、中にはとても小さなケーキが入っていて、その上には干しぶどうで「ワタシヲオタベ」と美しく文字が並べてあった。「よし、食べてみるわ」とアリスは言った。「大きくなるなら鍵に手が届くし、小さくなるなら扉の下をくぐれる。どちらにしても庭へ行けるんだもの、どっちだってかまわないわ!」
少しだけ食べて、不安そうに「どっち? どっち?」とひとりごちた。どちらへ伸びるのか感じようと、手を頭のてっぺんに当てていたが、自分が同じ大きさのままでいることに、すっかり驚いた。もちろん、ケーキを食べるとたいていそうなるものだ。けれどもアリスは、常識外れのことばかりが起こると期待する癖がすっかりついていたので、人生が普通どおりに進むのは、ひどく退屈でばかばかしく思えた。
そこでアリスは本腰を入れ、あっという間にケーキを食べきってしまった。
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第二章 涙の池
「へんてこりんの、もっとへんてこりん!」アリスは叫んだ(あまりにも驚いたので、その瞬間、正しい英語の話し方をすっかり忘れてしまっていた)。「今度は、世界一大きな望遠鏡みたいに伸びてるわ! さようなら、足さん!」(下を見たとき、足があまりにも遠くなって、ほとんど見えなくなりそうだったからだ。)「ああ、かわいそうな小さな足さんたち、これから誰があなたたちに靴や靴下をはかせてくれるのかしら? 私には絶対無理よ! あなたたちのことにかまっていられないくらい、私は遠くに行ってしまうもの。自分たちで何とかするしかないわね。――でも親切にしてあげなくちゃ」とアリスは思った。「でないと、私の行きたいほうへ歩いてくれないかもしれないもの! ええと、クリスマスごとに新しいブーツを一足あげることにしましょう。」
そして、それをどうやって実行するか、ひとりで計画しつづけた。「運送屋に頼まなきゃ」とアリスは思った。「自分の足へ贈り物を送るなんて、どんなにおかしな感じでしょう! 宛名も妙な見た目になるわね!
アリスの右足 様
暖炉前の敷物
火よけのそば
(アリスより愛をこめて)。
ああ、まったく、なんてくだらないことを言っているのかしら!」
そのとき、アリスの頭が広間の天井にぶつかった。実際、いまや身長は九フィート(約二・七メートル)を超えていた。アリスはすぐに小さな金の鍵を取り上げ、庭への扉へ急いだ。
かわいそうなアリス! 横向きに寝そべって、片目で庭をのぞくのが精いっぱいだった。通り抜けることなど、前よりもずっと望みがなくなっていた。アリスは座りこみ、また泣きはじめた。
「恥ずかしいと思いなさい」とアリスは言った。「あなたみたいに大きな女の子が」(そう言っても少しもおかしくないほどだった)「こんなふうに泣きつづけるなんて! 今すぐやめなさいって言っているの!」
けれどもアリスは相変わらず泣きつづけ、何ガロン(何十リットル)もの涙を流した。しまいには、まわりに大きな池ができ、深さは四インチ(約十センチ)ほど、広間の半分あたりまで広がった。
しばらくすると、遠くから小さな足音がぱたぱたと聞こえてきた。アリスは何が来るのか見ようと、急いで目をぬぐった。戻ってきたのは白うさぎだった。すばらしく着飾り、片手には白いキッド革の手袋、もう片方には大きな扇を持っている。うさぎはたいへん急いで小走りにやってきて、歩きながらひとりごとをつぶやいていた。「ああ! 公爵夫人、公爵夫人! ああ! お待たせしたとなれば、どれほどお怒りになることか!」
アリスはすっかり追いつめられた気持ちだったので、誰にでも助けを求めるつもりでいた。そこで、うさぎが近づいてくると、低くおずおずした声で言いはじめた。「あの、もしよろしければ――」うさぎは激しく飛び上がり、白いキッド革の手袋と扇を落とすと、暗がりの中へできるかぎりの速さで駆け去ってしまった。
アリスは扇と手袋を拾い上げた。広間はとても暑かったので、話しつづけながらずっと扇であおいでいた。「まあ、まあ! 今日は何もかもなんて変なのかしら! 昨日は何もかもいつもどおりだったのに。夜のうちに私が変わってしまったのかしら? 考えてみましょう。今朝起きたとき、私は同じ私だった? 少しだけ違う感じがしていたような気が、ほとんど思い出せるわ。でももし同じ私でないなら、次の問題は、私はいったい誰なの? ああ、それこそ大きな謎だわ!」
そして、知っている同じ年ごろの子どもたちを一人ひとり思い浮かべ、自分がその誰かに変わってしまったのかどうか考えはじめた。
「エイダでないことは確かだわ」とアリスは言った。「だってあの子の髪は長い巻き毛だけど、私の髪はちっとも巻いていないもの。それにメイベルでも絶対ないわ。私はいろんなことを知っているけれど、あの子は、まあ! ほんの少ししか知らないもの! それに、あの子はあの子で、私は私で、それで――ああもう、何もかもこんがらがる! 前に知っていたことを、まだ知っているか試してみよう。ええと、四の五は十二、四の六は十三、四の七は――ああ大変! そんな調子じゃ、いつまでたっても二十にならないわ! まあ、九九なんてどうでもいいわ。地理をやってみましょう。ロンドンはパリの首都、パリはローマの首都、ローマは――いいえ、これは絶対に間違ってる! やっぱりメイベルになってしまったんだわ! 『小さき――』を言ってみよう」そして授業で暗唱するときのように両手を膝の上で組み、唱えはじめた。だが声はしわがれて変に響き、言葉もいつものようには出てこなかった。――
「小さなワニはいかにして
光る尾をみがきあげ、
ナイルの水をふりそそぐ
金のうろこの一枚ごとに!
「なんと陽気ににやりと笑い、
なんときれいに爪ひろげ、
小さな魚を迎え入れる
やさしく笑うあごの中!」
「これは絶対、正しい言葉じゃないわ」と、かわいそうなアリスは言った。そして目にまた涙をためながら続けた。「やっぱり私はメイベルにちがいないわ。あの窮屈な小さな家に住みに行って、遊ぶおもちゃもほとんどなくて、ああ! 覚えなきゃいけない勉強が山ほどあるんだわ! いいえ、決めた。もし私がメイベルなら、ここにいる! みんなが頭を下に突っこんで『また上がっておいで、いい子だから!』なんて言っても無駄よ。私はただ見上げて、『じゃあ私は誰なの? まずそれを教えて。それで、その人でいるのが気に入ったら上がるわ。気に入らなければ、誰か別の人になるまでここにいる』って言うだけ――でも、ああ!」アリスは突然涙をどっとこぼして叫んだ。「本当に、誰かが頭を下に出してくれたらいいのに! ここでひとりぼっちでいるのには、もうすっかり疲れてしまったわ!」
そう言いながら手元を見ると、話しているあいだにうさぎの小さな白いキッド革の手袋を片方はめていることに気づいて驚いた。「どうしてそんなことができたのかしら?」アリスは思った。「また小さくなっているにちがいないわ。」
立ち上がってテーブルのところへ行き、それと比べて自分の背丈を測ってみた。だいたいのところ、今は二フィート(約六十センチ)ほどで、しかもどんどん縮みつづけている。すぐに、持っている扇が原因だとわかったので、あわててそれを落とした。完全に消え去ってしまう寸前だった。
「危ないところだった!」急な変化にかなりおびえながらも、まだ自分が存在していることに大いにほっとして、アリスは言った。「さあ、今度こそ庭へ!」そして全速力で小さな扉へ走って戻った。ところが、ああ! 小さな扉はまた閉まっており、小さな金の鍵は前と同じようにガラスのテーブルの上に載っていた。「それに、状況は前よりひどくなっているわ」と、かわいそうなアリスは思った。「だって、こんなに小さかったことは今まで一度もなかったもの、一度も! 本当にひどすぎるったら!」
そう言ったとたん足がすべり、次の瞬間、ばしゃん! アリスは塩水にあごまで浸かっていた。最初に思ったのは、どういうわけか海に落ちてしまったのだ、ということだった。「それなら鉄道で戻れるわ」とアリスはひとりごちた。(アリスは生まれて一度だけ海辺へ行ったことがあり、イギリスの海岸ならどこへ行っても、海にはたくさんの更衣小屋[訳注:ヴィクトリア朝時代、海水浴客が着替えて海へ入るための小屋付きの車]があり、砂浜では子どもたちが木のスコップで砂を掘り、その先に貸し宿が一列に並び、その後ろに駅があるものだ、というおおざっぱな結論に達していた。)しかしすぐに、ここは自分が九フィート(約二・七メートル)だったときに泣いて作った涙の池なのだとわかった。
「あんなに泣かなければよかった!」アリスは出口を探して泳ぎまわりながら言った。「今その罰として、自分の涙で溺れることになるんだわ! それはたしかに変なことね! でも今日は、何もかも変なんだもの。」
ちょうどそのとき、少し離れた池の中で何かがばしゃばしゃしているのが聞こえた。アリスはそれが何か見きわめようと近づいていった。最初はセイウチかカバにちがいないと思ったが、今の自分がどれほど小さいかを思い出し、すぐに、それは自分と同じように落ちてきた一匹のネズミにすぎないとわかった。
「今このネズミに話しかけても、役に立つかしら?」アリスは思った。「ここでは何もかも常識外れだから、話せる可能性はかなりありそうね。とにかく、試して悪いことはないわ。」
そこでアリスは話しかけた。「おおネズミよ、この池から出る道をご存じ? ここで泳ぎまわるのにはすっかり疲れてしまったの、おおネズミよ!」(アリスは、ネズミに話しかけるならこれが正しい言い方にちがいないと思った。そんなことは一度もしたことがなかったが、兄のラテン語文法の本で「ネズミ――ネズミの――ネズミに――ネズミを――おおネズミよ!」というのを見た記憶があったからだ。)ネズミは少し好奇心ありげにアリスを見つめ、小さな片目でウインクしたように見えたが、何も言わなかった。
「たぶん英語がわからないのね」とアリスは思った。「きっとウィリアム征服王と一緒に渡ってきたフランスのネズミなんだわ。」(アリスは歴史の知識をそれなりに持っていたが、何がどれほど昔に起こったのかについては、あまりはっきりした考えを持っていなかった。)そこでまた話しかけた。「Où est ma chatte?」これはフランス語の教科書の最初の文だった。ネズミは水から突然跳び上がり、全身を恐怖で震わせたように見えた。「まあ、ごめんなさい!」かわいそうな動物の気持ちを傷つけてしまったのではと恐れて、アリスはあわてて叫んだ。「猫が嫌いだってこと、すっかり忘れていたの。」
「猫が嫌いだと!」ネズミは甲高く、激情にかられた声で叫んだ。「きみがわしだったとして、猫が好きになれると思うかね?」
「ええ、まあ、たぶん無理かもしれないわ」とアリスはなだめるような調子で言った。「でも怒らないで。それでも、うちの猫のダイナを見せてあげられたらいいのに。あの子を一目見れば、猫が好きになると思うの。とてもおとなしくてかわいい子なのよ」アリスは池の中をゆったり泳ぎまわりながら、半分ひとりごとのように続けた。「暖炉のそばで気持ちよさそうにのどを鳴らして座って、前足をなめて顔を洗うの。それに抱くととても柔らかくて素敵で――それからネズミを捕るのが本当に上手で――ああ、ごめんなさい!」アリスはまた叫んだ。今度はネズミが全身の毛を逆立てており、本当に怒らせてしまったにちがいないと思ったのだ。「いやなら、もうあの子の話はしないわ。」
「われわれが、だと!」ネズミは尻尾の先まで震わせて叫んだ。「わしがそんな話題を語るものか! わが一族は昔から猫が大嫌いなのだ。いやらしくて、卑しくて、下品なやつらめ! 二度とその名を聞かせるな!」
「絶対に言わないわ!」アリスは大急ぎで話題を変えようとして言った。「あなたは――あなたは犬は――犬は好き?」
ネズミは答えなかったので、アリスは熱心に続けた。「うちの近くに、とてもかわいい小さな犬がいて、ぜひ見せてあげたいの! 目のきらきらした小さなテリアでね、ああ、とても長くてくるくるした茶色い毛をしているの! 物を投げると取ってくるし、おすわりしてごはんをねだったり、いろんなことをするの――半分も思い出せないくらい――それで農夫の飼い犬なのよ。その人が言うには、とても役に立つから百ポンドの価値があるんですって! ネズミをみんな殺してくれるって、それから――ああ大変!」アリスは悲しそうな声で叫んだ。「また怒らせてしまったみたい!」
というのも、ネズミはアリスから全力で泳ぎ去り、そのせいで池にかなりの波を立てていたからだ。
そこでアリスは、その後ろ姿に向かってやさしく呼びかけた。「ねえ、ネズミさん! 戻ってきて。猫の話も犬の話もしないから、嫌いなら!」
これを聞くと、ネズミは向きを変え、ゆっくりとアリスのところへ泳いで戻ってきた。顔は真っ青だった(怒りのせいだ、とアリスは思った)。そして低く震える声で言った。「岸へ上がろう。そうしたら、わしの身の上話をしてやる。なぜ猫と犬が嫌いなのかもわかるだろう。」
もう行くのにちょうどよい時だった。池には、落ちてきた鳥や動物たちでかなり混み合ってきていたからだ。アヒル、ドードー、ロリー、ワシの雛、そのほか見慣れない生き物が何匹もいた。アリスが先に立ち、一同は岸へ向かって泳いだ。
第三章 コーカスレースと長いお話
岸に集まった一行は、実に奇妙な見た目だった。鳥たちは羽をぐっしょり垂らし、動物たちは毛皮が体にぺったり張りついている。みなずぶ濡れで、不機嫌で、居心地が悪そうだった。
もちろん最初の問題は、どうやってまた体を乾かすかだった。みんなで相談を始め、数分もすると、アリスはまるで生まれてからずっと知っていた相手のように、彼らと気軽に話している自分を、まったく自然に感じるようになっていた。実際、ロリーとはずいぶん長く言い合いになった。最後にロリーはすねてしまい、「私はあなたより年上だから、よく知っているに決まっている」としか言わなくなった。だがアリスは、ロリーが何歳なのか知らないまま、それを認めるつもりはなかった。ロリーがどうしても年齢を言わないので、それ以上言うことはなくなった。
ついに、一同の中で権威ある人物らしく見えるネズミが叫んだ。「みんな座れ、そしてわしの話を聞け! わしがすぐに乾かしてやる!」
みんなはすぐに大きな輪になって座り、ネズミが真ん中に入った。アリスは不安そうに目をネズミへ釘づけにしていた。すぐに乾かなければ、ひどい風邪をひくに違いないと思っていたからだ。
「えへん!」ネズミはもったいぶった様子で言った。「みな準備はよいか? わしが知っている中でいちばん乾いた話だ。どうか全員静粛に! 『ウィリアム征服王は、教皇の後押しを受け、その主張を支持されていた。指導者を求め、近ごろは簒奪と征服にすっかり慣れていたイングランド人は、まもなく彼に服従した。マーシア伯エドウィンとノースアンブリア伯モーカーは――』。」
「ううっ!」ロリーが身震いしながら言った。
「失礼!」ネズミは眉をひそめつつも、とても丁寧に言った。「何か言ったかね?」
「言ってない!」ロリーはあわてて言った。
「言ったように思ったが」とネズミは言った。「――続ける。『マーシア伯エドウィンとノースアンブリア伯モーカーは、彼の側につくことを表明した。また、愛国的なカンタベリー大司教スティガンドでさえ、それを賢明と考え――』。」
「何を見つけたって?」アヒルが言った。
「それをだ」とネズミは少しむっとして答えた。「もちろん『それ』が何を意味するかは知っているだろう。」
「私が何かを見つけたときの『それ』の意味なら、十分わかっている」とアヒルは言った。「たいていカエルかミミズだ。問題は、大司教はいったい何を見つけたのかということだ。」
ネズミはこの質問に注意を払わず、急いで続けた。「『――エドガー・アシリングとともにウィリアムに会いに行き、王冠を捧げるのが賢明だと考えた。ウィリアムの振る舞いは当初穏健だった。しかし彼のノルマン人たちの傲慢さは――』どうだね、もう乾いてきたかな、お嬢さん?」そう言いながらアリスのほうを向いた。
「前と同じくらい濡れているわ」とアリスは憂鬱そうに言った。「ちっとも乾かしてくれないみたい。」
「その場合」とドードーが厳かに立ち上がって言った。「本会議は、より精力的な対策をただちに採択するため、休会することを提議する――」
「ちゃんと英語で言えよ!」ワシの雛が言った。「その長い言葉の半分も意味がわからないし、それに、きみだってわかっているとは思えない!」
ワシの雛は笑いを隠そうとして頭を下げた。ほかの鳥たちの何羽かは、声に出してくすくす笑った。
「私が言おうとしていたのは」とドードーは気分を害した調子で言った。「我々を乾かすのにいちばんよいのは、コーカスレースだということだ。」
「コーカスレースって何?」アリスは言った。とくに知りたかったわけではないが、ドードーが、誰かが何か言うべきだと思っているかのように言葉を止めたし、ほかの誰も何も言いそうになかったからだ。
「つまり」とドードーは言った。「いちばんよい説明の仕方は、やってみることだ。」(あなたも冬の日に試してみたいかもしれないので、ドードーがどう進めたかを話しておこう。)
まずドードーは、なんとなく円形の競走コースを描いた(「正確な形はどうでもいい」と言った)。それから一行全員が、コース上のあちらこちらに配置された。「一、二、三、はい出発」という合図はなく、走りたいときに走りはじめ、やめたいときにやめるので、いつレースが終わったのかは簡単にはわからなかった。それでも三十分ほど走って、みんながすっかり乾いたころ、ドードーが突然「レースは終了!」と叫んだ。みんなは息を切らしながらドードーのまわりに群がり、「でも、誰が勝ったの?」と尋ねた。
この質問に答えるには、ドードーには相当の熟考が必要だった。ドードーは長いあいだ、一本の指を額に当てて座っていた(絵の中のシェイクスピアがよくしている姿勢だ)。その間、ほかのみんなは黙って待っていた。やがてドードーは言った。「全員が勝った。したがって、全員に賞品が必要だ。」
「でも、誰が賞品を出すの?」と、合唱のようにいくつもの声が尋ねた。
「もちろん、彼女だ」とドードーは一本の指でアリスを指した。すると一同はたちまちアリスのまわりに集まり、「賞品! 賞品!」と口々に叫んだ。
アリスはどうしてよいかわからなかった。途方に暮れてポケットに手を入れると、糖菓の箱を取り出し(幸い塩水は入っていなかった)、賞品としてみんなに配った。ちょうど一人一個ずつあった。
「でも、この子自身にも賞品がなければいけない」とネズミが言った。
「もちろんだ」とドードーはたいへん重々しく答えた。「ほかにポケットに何が入っている?」そう言ってアリスのほうを向いた。
「指ぬきだけ」とアリスは悲しそうに言った。
「こちらへ渡したまえ」とドードーが言った。
するとみんなはもう一度アリスのまわりに群がり、ドードーは厳かに指ぬきを贈呈して言った。「この優美なる指ぬきを、どうかお受け取りいただきたい。」そしてこの短い演説が終わると、みんなは歓声を上げた。
アリスは何もかもとてもばかげていると思ったが、みんながあまりにもまじめな顔をしているので、笑う勇気がなかった。何を言えばよいかも思いつかなかったので、ただお辞儀をし、できるだけ厳かな顔つきで指ぬきを受け取った。
次は糖菓を食べる番だった。大きな鳥たちは自分の分の味がわからないと不満を言い、小さな鳥たちは喉に詰まらせて背中を叩いてもらわなければならず、少し騒がしく混乱した。それでもようやく終わり、みんなはまた輪になって座り、ネズミにもう少し話をしてくれと頼んだ。
「あなた、身の上話をしてくれるって約束したでしょう」とアリスは言った。「それから、どうしてあなたが――CとDを嫌いなのかも」また怒らせるのではないかと半分心配しながら、最後はささやき声で付け加えた。
「わしのは長くて悲しい尾話だ!」ネズミはアリスのほうを向き、ため息をついて言った。
「たしかに長いしっぽね」とアリスはネズミのしっぽを不思議そうに見下ろして言った。「でも、どうして悲しいなんて言うの?」
そしてネズミが話しているあいだもずっとそのことで頭を悩ませていたので、アリスの思い描いた話は、こんな具合になった。――
「フューリーが
ネズミに言った、
家で出会った
そのネズミに、
『ふたりで
裁判に
行こうじゃないか。
私が
おまえを訴える。
さあ、
拒否は
認めない。
裁判を
しなくては。
だって本当に
今朝は
することが
ないのだから。』
ネズミは
犬に言った、
『そんな裁判は、
親愛なる
だんな、
陪審も
裁判官も
いないなら、
息の
無駄遣い
という
ものです。』
『私が
裁判官に
なり、
私が
陪審に
なろう。』
ずる賢い
老フューリーは
言った。
『この
事件を
まるごと
裁き、
おまえに
死を
宣告
して
やる』。」
「聞いていないな!」ネズミはアリスに厳しく言った。「何を考えているのだ?」
「ごめんなさい」とアリスはとても恐縮して言った。「五つ目の曲がり角まで来ていたと思うのだけど?」
「来ておらん!」ネズミは鋭く、とても怒って叫んだ。
「結び目!」アリスはいつでも役に立とうとするので、不安げにあたりを見まわしながら言った。「まあ、ほどくのを手伝わせて!」
「そんなことは絶対にせん」とネズミは立ち上がって歩き去りながら言った。「そんなばかげたことを言って、わしを侮辱するとは!」
「そんなつもりじゃなかったの!」かわいそうなアリスは訴えた。「でもあなた、すぐに怒ってしまうんですもの!」
ネズミは返事の代わりにうなっただけだった。
「お願い、戻ってきてお話を終わらせて!」
アリスはその後ろ姿に呼びかけた。ほかのみんなも声をそろえて「そうだ、お願い!」と言ったが、ネズミは苛立たしげに首を振るだけで、少し足を速めた。
「残ってくれればよかったのに!」ネズミの姿が完全に見えなくなると、ロリーがため息をついた。すると年老いたカニが、その機会をとらえて娘に言った。「ああ、いいかい、おまえ! これを教訓にして、決して癇癪を起こさないことだよ!」 「黙っていてよ、お母さん!」若いカニは少しとげとげしく言った。「お母さんときたら、牡蠣の忍耐だって試すくらいなんだから!」
「ダイナがここにいたらいいのに、本当に!」アリスは特に誰に向けるでもなく、大きな声で言った。「あの子なら、すぐに連れ戻してくれるのに!」
「差し支えなければ、そのダイナとはどなたかな?」ロリーが言った。
アリスは熱心に答えた。ペットの話ならいつでも喜んでしたからだ。「ダイナはうちの猫よ。ネズミを捕るのが本当に上手で、あなたには想像もつかないくらい! それに、ああ、鳥を追うところを見せてあげたいわ! 小鳥なんて、見るなりすぐ食べてしまうの!」
この言葉は一同のあいだにたいへんな波紋を広げた。鳥たちの何羽かはすぐに急いで飛び去った。年老いたカササギは念入りに身支度を始め、「本当にもう家へ帰らなければ。夜気は喉によろしくないのでね!」と言った。カナリアは震える声で子どもたちに呼びかけた。「おいで、かわいい子たち! もうみんな寝る時間をとっくに過ぎているわ!」
さまざまな口実でみんな立ち去り、アリスはすぐにひとりぼっちになった。
「ダイナのことを言わなければよかった!」アリスは憂鬱そうにひとりごちた。「ここでは誰もあの子を好きじゃないみたい。でも、あの子は世界一すてきな猫なのに! ああ、かわいいダイナ! 私、もう一度あなたに会えるのかしら!」
ここで、かわいそうなアリスはまた泣きはじめた。とても寂しく、気落ちしていたからだ。けれどもしばらくすると、また遠くから小さな足音がぱたぱたと聞こえてきた。アリスは、もしかしてネズミが考え直して、話の続きをしに戻ってきたのではないかと半ば期待し、勢いよく顔を上げた。
第四章 うさぎ、小さなビルを送りこむ
それは白うさぎだった。ゆっくり小走りに戻ってきて、何かをなくしたかのように、不安げにあたりを見まわしていた。そしてアリスには、うさぎがひとりごとをつぶやくのが聞こえた。「公爵夫人! 公爵夫人! ああ、ぼくの大事な前足! ああ、ぼくの毛皮とひげ! フェレットがフェレットであるくらい確かに、あの方はぼくを処刑なさる! いったいどこに落としたんだろう?」
アリスはすぐに、うさぎが扇と白いキッド革の手袋を探しているのだと見当をつけ、親切にも探しはじめた。だが、どこにも見当たらない。池で泳いでからというもの、すべてが変わってしまったようで、ガラスのテーブルや小さな扉のある大広間も、すっかり消えていた。
まもなく、探しまわっているアリスにうさぎが気づき、怒った声で呼びつけた。「おい、メアリー・アン、こんなところで何をしているんだ? 今すぐ家へ走っていって、手袋を一組と扇を取ってこい! 早く!」
アリスはひどく驚いて、うさぎが指さした方向へすぐに駆けだした。うさぎの勘違いを説明しようともしなかった。
「私を女中と間違えたんだわ」と、走りながらアリスは思った。「私が誰かわかったら、どんなに驚くかしら! でも扇と手袋は持っていったほうがいいわね――見つけられればだけど。」
そう言っているうちに、こぎれいな小さな家にたどり着いた。扉には明るい真鍮の表札があり、「W. RABBIT」と彫られていた。アリスはノックもせずに中へ入り、急いで階段を上った。本物のメアリー・アンに会って、扇と手袋を見つける前に家から追い出されるのではないかと、とても心配だった。
「なんて変な感じかしら」とアリスはひとりごちた。「うさぎの使い走りをするなんて! そのうちダイナまで私にお使いを言いつけるのかしら!」
そして、どんなことが起こるか想像しはじめた。「『アリスさん! すぐにこちらへ来て、お散歩の支度をなさい!』『今行きます、乳母さん! でもその前に、ネズミが逃げないように見張らなくちゃ』。でも」とアリスは続けた。「もしダイナがそんなふうに人に命令しだしたら、家の中に置いてもらえないと思うわ!」
そのころには、窓際にテーブルのある、きちんと片づいた小さな部屋にたどり着いていた。その上には(期待していたとおり)扇と、小さな白いキッド革の手袋が二、三組置いてあった。アリスは扇と手袋を一組取り上げ、部屋を出ようとした。そのとき、鏡のそばに置かれた小さな瓶が目に入った。今度は「ワタシヲオノミ」というラベルはなかったが、それでもアリスは栓を抜き、唇に当てた。「食べたり飲んだりすると、きっと何か面白いことが起こるってわかっているもの」とアリスはひとりごちた。「だから、この瓶が何をするのか見てみよう。どうかまた大きくなれますように。本当に、こんなにちっぽけでいるのにはすっかり飽きてしまったんだもの!」
実際そのとおりになった。しかも思っていたよりずっと早く。瓶の半分も飲まないうちに、頭が天井を押しつけているのに気づき、首が折れないように身をかがめなければならなかった。アリスはあわてて瓶を置き、ひとりごちた。「もう十分――これ以上大きくならないといいけど――このままじゃ、扉から出られない――こんなに飲まなければよかった!」
ああ! そう願うには遅すぎた。アリスは伸びて、伸びて、まもなく床にひざまずかなければならなくなった。さらに一分もすると、それさえできる場所がなくなり、片ひじを扉に押しつけ、もう片方の腕を頭のまわりに丸めて横になってみた。それでもなお伸び続けたので、最後の手段として片腕を窓の外へ出し、片足を煙突の中へ上げて、ひとりごちた。「もうこれ以上どうしようもないわ。何が起こっても。いったいどうなってしまうのかしら?」
幸い、魔法の小瓶の効き目はそこで尽き、アリスはそれ以上大きくならなかった。それでもたいへん窮屈で、二度とこの部屋から出られる見込みがまるでなさそうだったので、アリスが悲しい気持ちになったのも無理はなかった。
「家にいたほうがずっとよかったわ」と、かわいそうなアリスは思った。「いつも大きくなったり小さくなったり、ネズミやうさぎに命令されたりしないもの。うさぎ穴なんて降りなければよかったと、少し思うわ――でも――でも――こういう暮らしも、ちょっと面白いのよね! 私にいったい何が起こったのか、本当に不思議! 昔おとぎ話を読んでいたころは、こんなことは本当に起こったりしないと思っていたのに、今では私がその真っ最中にいるんだもの! 私のことを書いた本があってもいいはずよ、本当に! それで大きくなったら、私が一冊書くわ――でも、私はもう大きくなっているのね」と悲しそうに付け加えた。「少なくとも、ここではこれ以上大きくなる余地なんてないもの。」
「でも、それなら」とアリスは考えた。「私は今のまま、もう二度と年を取らないのかしら? それなら一面では慰めになるわ――おばあさんにならずにすむもの――でもそのかわり、いつまでも勉強しなくちゃならないなんて! ああ、それは嫌だわ!」
「ああ、ばかなアリス!」アリスは自分で自分に答えた。「こんなところでどうやって勉強するの? だって、あなたのいる場所だってほとんどないし、教科書を置く場所なんてまるでないじゃない!」
そんなふうに、片方の立場を取ったり、もう片方の立場を取ったりして、すっかり会話のようになっていた。だが数分後、外から声が聞こえたので、アリスは口をつぐんで耳をすませた。
「メアリー・アン! メアリー・アン!」声が言った。「今すぐ手袋を持ってこい!」
続いて階段を上がる小さな足音がぱたぱたと聞こえた。アリスには、うさぎが自分を探しに来たのだとわかった。今の自分がうさぎの千倍ほども大きく、怖がる理由などないことをすっかり忘れ、家が揺れるほど震えた。
やがてうさぎは扉のところまで来て、開けようとした。だが扉は内側へ開く造りで、アリスのひじが強く押しつけられていたため、その試みは失敗した。アリスには、うさぎがひとりごとを言うのが聞こえた。「それなら回りこんで窓から入ろう。」
「それはさせないわ!」アリスは思った。そして、うさぎが窓の真下に来たらしい音がするまで待ってから、突然手を広げ、空中をつかんだ。何もつかめなかったが、小さな悲鳴と、落ちる音、そしてガラスが割れる音が聞こえたので、たぶんキュウリ栽培用の温床か何かに落ちたのだろうと結論した。
次に怒った声――うさぎの声がした。「パット! パット! どこにいる?」
すると聞いたことのない声が答えた。「へい、ここにおりますだ! りんごを掘っておりますだ、だんな!」
「りんごを掘るだと!」うさぎは怒って言った。「こっちへ来い! これからぼくを出すのを手伝え!」(さらにガラスが割れる音。)
「さて、パット、窓のところにあるあれは何だ?」
「へい、腕でございますだ、だんな!」(彼は「うで」を「うでぇ」と発音した。)
「腕だと、この間抜け! あんな大きさの腕を誰が見たことがある? 窓いっぱいじゃないか!」
「へい、そのとおりでございます、だんな。けど、それでも腕でございますだ。」
「ともかく、あそこにあるべきものじゃない。行ってどけてこい!」
そのあと長い沈黙があり、アリスにはときどきささやき声だけが聞こえた。「へい、わしは嫌でございます、だんな、まったくもって嫌でございます!」 「言うとおりにしろ、この臆病者!」そしてついに、アリスはまた手を広げ、もう一度空中をつかんだ。今度は小さな悲鳴が二つ、それからさらにガラスの割れる音がした。「キュウリの温床がずいぶんたくさんあるのね!」とアリスは思った。「次は何をするつもりかしら! 私を窓から引っぱり出すというなら、むしろそうできるものならしてほしいわ! もうここにこれ以上いたくないのは、私だって確かなんだから!」
しばらく待っても、それ以上何も聞こえなかった。やがて小さな荷車の車輪がごろごろ鳴る音と、大勢の声が一度にしゃべる音が聞こえてきた。アリスは言葉を聞き分けた。「もう一つのはしごはどこだ? ――いや、一つしか持ってこいと言われてないぞ。もう一つはビルが持ってる――ビル! こっちへ持ってこい、若いの! ――ここだ、この角に立てろ――いや、先に縛り合わせろ――まだ高さが半分にも届かない――おお! それで十分だ、細かいことは言うな――おい、ビル! この綱を持て――屋根はもつか? ――その緩いスレートに気をつけろ――ああ、落ちるぞ! 下の者、頭を引っこめろ!」(大きな衝撃音)「今のは誰だ? ――ビルだと思う――誰が煙突を降りる? ――いや、俺は行かない! おまえが行け! ――俺だって嫌だ! ――ビルが降りることになった――おい、ビル! ご主人さまが、おまえに煙突を降りろとおっしゃっているぞ!」
「あら! つまりビルが煙突から降りてくるのね?」アリスはひとりごちた。「まあ、みんな何でもビルに押しつけるみたい! 私なら、かなりもらってもビルの立場にはなりたくないわ。この暖炉はたしかに狭いけれど、少しなら蹴れると思う!」
アリスは足を煙突の中でできるだけ下まで引き、何か小さな動物(何の動物かは見当もつかなかった)が、すぐ上の煙突の中でかりかり、がさごそ動く音がするまで待った。そして「これがビルね」とひとりごちると、鋭く一蹴りし、次に何が起こるか待った。
最初に聞こえたのは、「ビルが飛んだぞ!」というみんなの合唱だった。それからうさぎの声だけが続いた。「生け垣のそばの者、受け止めろ!」次に静寂、そしてまた声が入り乱れた。「頭を支えろ――ブランデーを――喉を詰まらせるな――どうだった、相棒? 何があった? ぜんぶ話してくれ!」
最後に、か細いきいきい声がした(「あれがビルね」とアリスは思った)。「ええと、よくわかんねえんで――もう結構です、ありがとうごぜえます。だいぶよくなりました――でも、すっかり取り乱しちまって話せねえ――わかってるのは、何かがびっくり箱みたいに飛びかかってきて、わしは花火みたいに上へ飛び上がったってことだけです!」
「そのとおりだったぞ、相棒!」ほかの者たちが言った。
「家を焼き払わねば!」うさぎの声が言った。するとアリスは、できるだけ大声で叫んだ。「そんなことをしたら、ダイナをけしかけるわよ!」
たちまち完全な沈黙が訪れた。アリスは思った。「次は本当に何をするつもりかしら! 少しでも分別があるなら、屋根を外すはずだけど。」
一、二分すると、彼らはまた動きはじめた。そしてアリスには、うさぎが「まずは手押し車いっぱいで足りるだろう」と言うのが聞こえた。
「何を手押し車いっぱい?」アリスは思った。だが、長く疑っている暇はなかった。次の瞬間、小さな小石の雨が窓からぱらぱらと降りこみ、そのいくつかがアリスの顔に当たった。「これをやめさせなくちゃ」とアリスはひとりごち、大声で叫んだ。「もう二度とそんなことをしないほうがいいわよ!」するとまた完全な沈黙が生まれた。
アリスは、床に落ちた小石がみな小さなケーキに変わっていることに気づき、少し驚いた。そしてよい考えが浮かんだ。「このケーキを一つ食べれば」とアリスは思った。「きっと私の大きさに何か変化が起こるはず。それに、これ以上大きくなるはずはないのだから、たぶん小さくなるに違いないわ。」
そこでケーキを一つ飲みこむと、すぐに縮みはじめたので大喜びした。扉を通れるくらい小さくなると、アリスは家から走り出た。外には小さな動物や鳥たちが大勢待ちかまえていた。かわいそうな小さなトカゲのビルは真ん中にいて、二匹のモルモットに支えられ、瓶から何かを飲ませてもらっていた。アリスが姿を見せると、みんな一斉に飛びかかってきた。だがアリスは全力で逃げ出し、まもなく深い森の中で無事だとわかった。
「まずしなきゃいけないことは」と、森の中を歩きまわりながらアリスはひとりごちた。「本来の大きさに戻ること。それから二つ目は、あの美しい庭へ行く道を見つけること。これが一番いい計画だと思うわ。」
たしかにそれはすばらしい計画に聞こえたし、たいへんきちんと簡単に整えられているように思えた。ただ一つ難点があった。どうやって始めればいいのか、アリスにはまったく見当がつかなかったのだ。木々のあいだを不安げにのぞきこんでいると、頭のすぐ上で小さく鋭い吠え声がしたので、アリスはあわてて見上げた。
巨大な子犬が、大きな丸い目でアリスを見下ろし、片方の前足を弱々しく伸ばして、触ろうとしていた。「かわいそうな小さい子!」アリスはなだめるような声で言い、懸命に口笛を吹こうとした。だがそのあいだじゅう、もし子犬がお腹を空かせていたら、どれほどなだめても自分を食べてしまうかもしれないと思い、ひどく怖かった。
自分が何をしているのかほとんどわからないまま、アリスは小さな枝切れを拾い、子犬に差し出した。すると子犬は喜びの鳴き声を上げ、四本の足をいっぺんに地面から離して跳び上がり、枝へ突進し、それを噛みついてやっつけるふりをした。アリスは踏みつぶされないよう、大きなアザミの陰へ身をかわした。反対側に出たとたん、子犬はまた枝へ突進し、つかもうと急ぐあまり、頭からひっくり返った。アリスは、まるで荷馬車を引く馬と遊んでいるみたいだと思い、今にも踏みつぶされるのではと身構えながら、もう一度アザミのまわりを走った。すると子犬は枝へ向かって短い突進を何度も繰り返し、毎回ほんの少し前へ走っては長く後ろへ下がり、そのあいだずっとしわがれた声で吠えつづけた。やがてかなり離れたところに座りこみ、舌を出して息をはずませ、大きな目を半分閉じた。
これは逃げ出すよい機会だとアリスは思った。そこでただちに駆け出し、すっかり疲れて息が切れ、子犬の吠え声が遠くでかすかに聞こえるようになるまで走った。
「でも、なんてかわいい小さな子犬だったのかしら!」アリスは休むためにキンポウゲにもたれかかり、その葉っぱで自分をあおぎながら言った。「芸を教えてあげたかったわ、もし――もし、私がそれをできる大きさだったなら! ああ大変! また大きくならなきゃいけないことを、もう少しで忘れるところだった! ええと――どうすればいいのかしら? 何かを食べるか飲むかしなくちゃいけないんでしょうけど、大問題は、何を、ということよね。」
大問題はたしかに、何を、だった。アリスはまわりの花や草の葉を見まわしたが、この状況で食べたり飲んだりするのにふさわしそうなものは見当たらなかった。近くに大きなキノコが生えていて、高さはアリスと同じくらいだった。その下や両側や後ろをのぞいてみたあとで、上に何があるのか見てみてもよさそうだと思いついた。
アリスはつま先立ちになって体を伸ばし、キノコの縁からそっとのぞきこんだ。するとたちまち、上に座って腕を組み、長い水ぎせるを静かに吸っている大きな青いイモムシの目と目が合った。イモムシはアリスにも、ほかの何にも、まるで気を留めていなかった。
第五章 イモムシの助言
イモムシとアリスは、しばらく黙って見つめ合っていた。やがてイモムシは水ぎせるを口から外し、だるそうな眠たげな声でアリスに話しかけた。
「おまえは誰だ?」イモムシが言った。
これは会話の出だしとして、あまり励みになるものではなかった。アリスは少しはにかんで答えた。「私――今のところ、自分でもよくわからないんです、旦那さま――少なくとも、今朝起きたときに誰だったかはわかっているんですけれど、それから何度も変わってしまったと思うんです。」
「それはどういう意味だ?」イモムシは厳しい声で言った。「自分を説明しろ!」
「自分を説明することは、残念ながらできません、旦那さま」とアリスは言った。「だって、ご覧のとおり、私は私ではないんです。」
「見えんな」とイモムシは言った。
「これ以上はっきり言えなくてごめんなさい」とアリスはたいへん丁寧に答えた。「そもそも自分でもわからないんですもの。一日に何度も違う大きさになるなんて、とても混乱します。」
「混乱せん」とイモムシは言った。
「まあ、あなたはまだそう感じたことがないのかもしれません」とアリスは言った。「でも、さなぎにならなくちゃいけないとき――いつかはなるでしょう――それから蝶になるとき、少しは変な感じがすると思いませんか?」
「少しも」とイモムシは言った。
「そうですか。あなたの感じ方は違うのかもしれません」とアリスは言った。「私なら、私にとっては、とても変な感じがすると思うんです。」
「おまえ!」イモムシは軽蔑したように言った。「おまえは誰だ?」
それで二人はまた会話の最初へ戻ってしまった。アリスは、イモムシがあまりにも短いことばかり言うので少しいら立ち、胸を張って、とても真面目に言った。「まず、あなたが誰なのか教えてくださるべきだと思います。」
「なぜ?」イモムシが言った。
またもや困った質問だった。アリスにはよい理由が思いつかなかったし、イモムシは非常に感じの悪い気分でいるようだったので、アリスは背を向けた。
「戻れ!」イモムシが背中に呼びかけた。「大事なことを言ってやる!」
それはたしかに期待できそうだった。アリスは振り向き、また戻った。
「癇癪を起こすな」とイモムシは言った。
「それだけですか?」アリスは怒りをできるだけ飲みこんで言った。
「違う」とイモムシは言った。
ほかにすることもなかったので、アリスは待ってもいいと思った。結局、何か聞く価値のあることを言ってくれるかもしれない。イモムシは数分間、言葉もなくぷかぷか煙を吐いていたが、やがて腕をほどき、また水ぎせるを口から外して言った。「それで、おまえは自分が変わったと思っているのか?」
「ええ、そうだと思います、旦那さま」とアリスは言った。「前のように物事が思い出せないんです――それに十ぷん続けて同じ大きさでいられません!」
「何が思い出せない?」イモムシが言った。
「ええと、『小さな忙しい蜂はいかに』を言おうとしたんですけれど、全部違って出てきてしまいました!」
アリスはたいへん憂鬱な声で答えた。
「『年を取ったな、ウィリアムおじいさん』を唱えろ」とイモムシは言った。
アリスは両手を組み、唱えはじめた。――
「年を取ったな、ウィリアムおじいさん」と若者は言った、
「髪もすっかり白くなった。
それなのにしょっちゅう逆立ちばかりして――
その年で、それは正しいと思うのか?」
「若いころには」とウィリアムおじいさんは息子に答えた、
「脳を傷めるのではと恐れておった。
だが今は、自分に脳などないと完全にわかったので、
何度でも、何度でもやるのだ。」
「年を取ったな」と若者は言った、「前にも言ったが、
それにたいそう珍しいほど太った。
なのに戸口で後ろ宙返りをした――
いったいその理由は何なのか?」
「若いころには」と賢者は白髪を揺らして言った、
「この軟膏のおかげで、体じゅうがしなやかだった――
ひと箱一シリング――
二箱ほど売らせてもらえんか?」
「年を取ったな」と若者は言った、「顎は弱すぎて
脂身より硬いものは無理なはず。
それなのにガチョウを骨もくちばしも食べきった――
いったいどうやってやったのか?」
「若いころには」と父は言った、「法律に手を出し、
妻とあらゆる事件を論じ合った。
そのおかげで顎に宿った筋力が、
残りの生涯ずっと続いているのだ。」
「年を取ったな」と若者は言った、「目が今も変わらず
しっかりしているとは、とても思えない。
それなのに鼻先でウナギをつり合わせた――
何がそこまで賢くさせたのか?」
「三つの質問に答えた。もう十分だ。」
父は言った。「偉そうにするな!
そんなくだらんことを一日中聞いていられると思うのか?
出て行け。さもないと階段から蹴り落とすぞ!」
「正しく言えていない」とイモムシは言った。
「完全には正しくないようです」とアリスはおずおず言った。「言葉がいくつか変わってしまったんです。」
「最初から最後まで間違っている」とイモムシはきっぱり言った。そして数分間、沈黙が流れた。
先に口を開いたのはイモムシだった。
「どのくらいの大きさになりたい?」と尋ねた。
「あの、大きさにこだわりはありません」とアリスはあわてて答えた。「ただ、こんなにしょっちゅう変わるのは好きじゃないんです。」
「わからん」とイモムシは言った。
アリスは何も言わなかった。生まれてからこれほど反対ばかりされたことはなく、癇癪を起こしそうになっているのが自分でもわかった。
「今の大きさで満足か?」イモムシが言った。
「ええと、できれば少し大きくなりたいです、旦那さま」とアリスは言った。「三インチ(約七・五センチ)なんて、あまりにもみじめな背丈ですもの。」
「とてもよい背丈だ!」イモムシは怒って言い、言いながら体をまっすぐ起こした(イモムシはちょうど三インチの高さだった)。
「でも私は慣れていないんです!」かわいそうなアリスは情けない声で訴えた。そして心の中で思った。「生き物たちが、こんなにすぐ怒らなければいいのに!」
「そのうち慣れる」とイモムシは言った。そして水ぎせるを口にくわえ、また煙を吸いはじめた。
今度はアリスも辛抱強く、イモムシがまた話す気になるまで待った。一、二分すると、イモムシは水ぎせるを口から外し、あくびを一つ二つして、体を揺すった。それからキノコを降り、草の中を這っていきながら、ただこう言った。「片側はおまえを大きくし、もう片側はおまえを小さくする。」
「何の片側? 何のもう片側?」アリスは心の中で思った。
「キノコのだ」とイモムシは、まるでアリスが声に出して聞いたかのように答えた。そして次の瞬間には、もう姿が見えなくなっていた。
アリスはしばらくキノコを考え深げに見つめ、どちらが二つの側なのか見きわめようとした。だがキノコは完全に丸かったので、これはたいへん難しい問題だった。それでもついに、両腕をできるだけ回してキノコを抱え、左右の手で縁をひとかけらずつ折り取った。
「さて、どっちがどっち?」アリスはひとりごち、効果を試そうと右手のかけらを少しかじった。次の瞬間、あごの下に激しい衝撃を感じた。あごが足にぶつかったのだ!
このあまりにも突然の変化にアリスはかなり怖くなったが、どんどん縮んでいるので、一刻も無駄にできないと感じた。そこでただちにもう一方のかけらを食べはじめた。あごが足にぴったり押しつけられていて、口を開ける隙間もほとんどなかったが、ついにはどうにか開け、左手のかけらを一口飲みこむことができた。
* * * * * * *
* * * * *
* * * * * * *
「やっと頭が自由になったわ!」アリスは喜びの声で言った。だが次の瞬間、自分の肩がどこにも見当たらないことに気づき、その声は不安に変わった。下を見たときに見えるのは、はるか下に広がる緑の葉の海から茎のように伸び上がる、途方もなく長い首だけだった。
「あの緑のものは、いったい何なの?」アリスは言った。「それに、私の肩はどこへ行ってしまったの? ああ、かわいそうな手さんたち、どうして見えないの?」
そう言いながら手を動かしてみたが、遠くの緑の葉が少し揺れただけで、何の結果も起こらないようだった。
手を頭のところへ持ってくる見込みはなさそうだったので、今度は頭を手のところへ下げようとした。すると首がヘビのように、どの方向へもたやすく曲がることがわかり、アリスは大喜びした。ちょうど首を優雅なジグザグに曲げて、葉の中へ潜りこもうとしたところだった。葉というのは、さっきまで自分が歩きまわっていた木々の梢にすぎないとわかったのだ。すると鋭いシューッという音がして、アリスはあわてて身を引いた。大きなハトが顔めがけて飛んできて、翼で激しく打ちつけてきたのだ。
「ヘビ!」ハトが叫んだ。
「私はヘビじゃない!」アリスは憤慨して言った。「放っておいて!」
「ヘビだ、もう一度言う!」ハトは繰り返したが、少し声は弱まり、すすり泣くように付け加えた。「あらゆる方法を試したのに、どれもあいつらには合わないんだ!」
「あなたが何の話をしているのか、私には少しもわからないわ」とアリスは言った。
「木の根も試した。土手も試した。生け垣も試した」とハトはアリスに構わず続けた。「でもあのヘビたちときたら! どうやっても満足しないんだ!」
アリスはますますわけがわからなくなったが、ハトが話し終えるまで何も言っても無駄だと思った。
「卵をかえすだけでも十分大変なのに」とハトは言った。「その上、昼も夜もヘビを見張っていなきゃならない! この三週間、一睡もしていないんだよ!」
「それは大変でしたね」と、アリスは言った。何のことを言っているのか、少しわかりはじめていた。
「そして森で一番高い木を選んだというのに」とハトは続け、声は悲鳴に近くなった。「これでようやく逃れられると思ったそのときに、やつらは空から身をくねらせて降りてくるんだ! うう、ヘビめ!」
「だから、私はヘビじゃないって言っているでしょう!」アリスは言った。「私は――私は――」
「では! 何なんだ?」ハトが言った。「何かでっち上げようとしているのは見え見えだよ!」
「私は――小さな女の子よ」とアリスは言った。その日に経験した変化の数々を思い出して、やや自信なさげだった。
「よくもそんな話を!」ハトは心の底から軽蔑した調子で言った。「これまで小さな女の子をたくさん見てきたけれど、そんな首をした子なんて一人もいなかった! だめだめ! おまえはヘビだ。否定しても無駄だよ。次には、卵を食べたことがないとでも言うつもりだろう!」
「卵は食べたことがあるわ、たしかに」と、とても正直な子どもだったアリスは言った。「でも小さな女の子だって、ヘビと同じくらい卵を食べるものよ。」
「信じないね」とハトは言った。「だがもし食べるなら、小さな女の子はヘビの一種だ。それだけのことさ。」
これはアリスにとってまったく新しい考えだったので、一、二分すっかり黙ってしまった。その隙にハトは付け加えた。「おまえが卵を探していることは、私にはよくわかっている。小さな女の子だろうがヘビだろうが、私にとって何の違いがある?」
「私にとっては大きな違いよ」とアリスはあわてて言った。「それに、たまたま卵を探しているわけじゃないわ。もし探していたとしても、あなたの卵はいらない。生では好きじゃないもの。」
「なら、どこかへ行きな!」ハトはむっつりした調子で言い、また巣に落ち着いた。アリスはできるだけ身をかがめて木々のあいだへ入っていった。首が枝にからまってばかりで、ときどき止まってほどかなければならなかった。しばらくして、まだ手にキノコのかけらを持っていることを思い出した。そこで慎重に、片方を少しかじってはもう片方をかじり、ときに背が高くなり、ときに低くなりながら、ついにいつもの身長まで自分を戻すことに成功した。
本来の大きさに近いものになったのはあまりにも久しぶりだったので、最初はすっかり変な感じがした。だが数分で慣れ、いつものようにひとりごとを言いはじめた。「さあ、計画の半分は終わったわ! こういう変化って本当にややこしい! 次の瞬間に自分が何になるのか、少しも確信が持てないんだもの! とにかく、本来の大きさには戻ったわ。次は、あの美しい庭へ入ること――いったいどうやってやればいいのかしら?」
そう言ったとき、アリスは突然ひらけた場所に出た。そこには高さ四フィート(約一・二メートル)ほどの小さな家があった。「誰が住んでいるにせよ」とアリスは思った。「この大きさで近づくわけにはいかないわ。きっと腰を抜かすほど怖がらせてしまうもの!」
そこでアリスはまた右手のかけらをかじりはじめ、身長を九インチ(約二十三センチ)まで縮めてからでなければ、あえて家に近づかなかった。
第六章 ブタと胡椒
アリスは一、二分、その家を眺め、次に何をすればいいのか考えていた。そのとき突然、森の中から制服を着た召使いが走り出てきた――(アリスが召使いだと思ったのは制服を着ていたからで、顔だけを見て判断するなら魚と呼んだだろう)――そして扉をこぶしでどんどん叩いた。扉は、やはり制服を着たもう一人の召使いによって開けられた。丸い顔で、カエルのような大きな目をしていた。二人とも、頭中にくるくる巻いた粉をふった髪をしているのにアリスは気づいた。何が起こっているのかとても知りたくなり、少し森から這い出して耳をすませた。
魚の召使いは、まず自分と同じくらい大きな立派な手紙を脇の下から取り出し、それを相手に手渡して、厳かな調子で言った。「公爵夫人へ。女王よりクロッケーのお誘い。」
カエルの召使いは、同じく厳かな調子で、ただ言葉の順序を少し変えて繰り返した。「女王より。公爵夫人へクロッケーのお誘い。」
それから二人は深々とお辞儀をし、巻き毛が互いにもつれ合った。
アリスはその様子にあまりにも笑ってしまい、聞こえるのを恐れて森の中へ駆け戻らなければならなかった。次にそっとのぞいたときには、魚の召使いはいなくなっており、もう一人は扉のそばの地面に座って、ぼんやり空を見上げていた。
アリスはおずおずと扉へ近づき、ノックした。
「ノックしても何の役にも立たない」と召使いは言った。「理由は二つある。第一に、私は君と同じ扉のこちら側にいる。第二に、中があまりに騒がしいので、誰にも聞こえるはずがない。」
たしかに中からは、たいへん異様な騒ぎが聞こえていた。絶え間ない泣き声とくしゃみ、それにときどき皿かやかんが粉々に割れるような大きな音がした。
「それでは、すみません」とアリスは言った。「どうすれば中に入れるのでしょう?」
「君がノックすることにも、少しは意味があるかもしれない」と召使いはアリスに構わず続けた。「もし扉が私たちのあいだにあればね。たとえば君が中にいるなら、君がノックして、私が君を外へ出せるというわけだ。」
話しているあいだじゅう、召使いは空を見上げていた。これは明らかに失礼だとアリスは思った。「でも、しかたがないのかもしれない」と心の中で言った。「目が頭のずいぶん上のほうについているんだもの。でも質問には答えられるはずよ。――どうすれば中に入れるんですか?」アリスは声に出して繰り返した。
「私はここに座っている」と召使いは言った。「明日まで――」
その瞬間、家の扉が開き、大きな皿が召使いの頭めがけてまっすぐ飛び出してきた。皿は鼻をかすめ、後ろの木にぶつかって粉々に割れた。
「――あるいは明後日までかもしれない」と召使いは、まるで何事もなかったかのように同じ調子で続けた。
「どうすれば中に入れるんですか?」アリスはもう一度、もっと大きな声で尋ねた。
「そもそも君は中に入るべきなのか?」召使いは言った。「まず問題はそこだろう。」
たしかにそうではあった。だがアリスは、そう言われるのが気に入らなかった。「本当にひどいわ」とアリスはつぶやいた。「ここの生き物たちの議論のしかたときたら。気が狂ってしまいそう!」
召使いは、これは自分の発言を少し変えて繰り返すよい機会だと思ったらしい。「私はここに座っている」と言った。「出たり入ったりしながら、何日も何日も。」
「でも、私はどうすればいいの?」アリスは言った。
「好きにすればいい」と召使いは言い、口笛を吹きはじめた。
「ああ、この人と話しても無駄だわ」とアリスは絶望的に言った。「完全にばかなんだもの!」
そしてアリスは扉を開け、中へ入った。
扉はそのまま大きな台所へつながっていた。台所は端から端まで煙でいっぱいだった。真ん中では公爵夫人が三本脚の腰掛けに座り、赤ちゃんを抱いていた。料理人は火の上に身をかがめ、大きな大釜をかき混ぜていた。中身はスープのようだった。
「あのスープには、確かに胡椒が多すぎるわ!」
アリスは、くしゃみをしながら、どうにかそうひとりごちた。
たしかに空気中にも胡椒が多すぎた。公爵夫人でさえ、ときどきくしゃみをしていた。赤ちゃんにいたっては、くしゃみと泣き声を休む間もなく交互に繰り返していた。台所でくしゃみをしていないのは、料理人と、炉のそばに座って耳から耳までにやにや笑っている大きな猫だけだった。
「あの、教えていただけませんか」とアリスは少しおずおずと言った。自分から先に口をきくのが礼儀にかなっているか、あまり自信がなかったのだ。「どうしてあなたの猫はあんなふうに笑うんですか?」
「チェシャ猫だからさ」と公爵夫人は言った。「だからだよ。ブタ!」
最後の言葉をあまりに突然、激しい口調で言ったので、アリスは飛び上がった。だが次の瞬間、それが自分ではなく赤ちゃんに向けられたものだとわかり、勇気を取り戻して続けた。――
「チェシャ猫がいつも笑うなんて知りませんでした。というより、猫が笑えることも知りませんでした。」
「どの猫もできるよ」と公爵夫人は言った。「たいていの猫はやるさ。」
「そんな猫は知りません」とアリスはたいへん丁寧に言い、会話に入れたことをかなりうれしく思った。
「おまえは大して知らないね」と公爵夫人は言った。「それが事実だよ。」
アリスはこの言い方がまったく気に入らず、別の話題を持ち出したほうがよさそうだと思った。何にしようか考えているあいだに、料理人はスープの大釜を火から下ろし、たちまち手の届くものを何でも公爵夫人と赤ちゃんに投げつけはじめた。最初に飛んできたのは火かき道具で、そのあと鍋、皿、大皿が雨のように続いた。公爵夫人は、当たってもまったく気に留めなかった。赤ちゃんはすでにあまりにも泣き叫んでいたので、ぶつかったものが痛かったのかどうか、まるでわからなかった。
「ああ、お願いだから気をつけて!」アリスは恐怖で取り乱し、飛び跳ねながら叫んだ。「ああ、あの子の大事な鼻が!」いつもより大きな鍋が鼻のすぐそばを飛び、もう少しで鼻をもぎ取るところだった。
「みんなが自分のことだけ気にしていれば」と公爵夫人はしわがれたうなり声で言った。「世界は今よりずっと速く回るだろうよ。」
「それはよいことではありません」とアリスは言った。少し自分の知識を披露する機会ができて、たいへんうれしかったのだ。「昼と夜がどんなことになるか考えてみてください! だって地球は自転軸のまわりを二十四時間かけて――」
「軸の話なら」と公爵夫人は言った。「あの子の首をちょん切りな!」
アリスは料理人がその合図を本気にするつもりかどうか、かなり不安そうにちらりと見た。だが料理人は忙しくスープをかき混ぜていて、聞いていないようだったので、また続けた。「二十四時間だと思います。それとも十二時間? 私――」
「ああ、私をうるさがらせるんじゃないよ」と公爵夫人は言った。「数字なんて昔から大嫌いさ!」
そう言って、また子どもをあやしはじめた。あやしながら子守歌のようなものを歌い、各行の終わりごとに赤ちゃんを乱暴に揺さぶった。
「小さな坊やには荒く言え、
くしゃみをしたならぶちなさい。
坊やはわざとやっている、
いら立つことを知っているから。」
合唱。(料理人と赤ちゃんも加わった):
「わあ! わあ! わあ!」
公爵夫人が歌の二番を歌うあいだ、赤ちゃんを乱暴に上下へ放り上げつづけた。かわいそうな赤ちゃんはひどく泣き叫んだので、アリスには歌詞がほとんど聞こえなかった。――
「私は坊やを厳しく叱る、
くしゃみをしたならぶつのです。
坊やは心から楽しめる、
望むときには胡椒をね!」
合唱。
「わあ! わあ! わあ!」
「ほら! よければ少し抱いておいき!」公爵夫人はそう言いながら、赤ちゃんをアリスへ投げつけた。「女王とクロッケーをする支度をしなきゃならないんだ」と言って、部屋を急いで出ていった。料理人は出ていく公爵夫人めがけてフライパンを投げたが、少し外れた。
アリスは苦労して赤ちゃんを受け止めた。奇妙な形をした小さな生き物で、手足を四方八方に突き出していた。「まるでヒトデみたい」とアリスは思った。受け止めたとき、かわいそうな赤ちゃんは蒸気機関車のように鼻を鳴らし、体を二つに折り曲げたり、またまっすぐ伸ばしたりしつづけた。そのため最初の一、二分は、抱いているだけで精いっぱいだった。
正しい抱き方がわかると(それは赤ちゃんを結び目のようにねじり、それからほどけないように右耳と左足をしっかりつかんでおくというものだった)、アリスは外へ連れ出した。「この子を連れていかなければ」とアリスは思った。「きっと一日か二日のうちに殺されてしまうわ。置いていくなんて、殺人ではないかしら?」
最後の言葉を声に出して言うと、小さな生き物は返事のようにぶうと鳴いた(そのころにはくしゃみをやめていた)。「ぶうぶう言わないの」とアリスは言った。「それは自分の気持ちを表すのに、まったくふさわしいやり方じゃないわ。」
赤ちゃんはまたぶうと鳴いた。アリスは、何が悪いのかとても心配になって顔をのぞきこんだ。その鼻が非常に上を向いており、本物の鼻というよりずっと鼻づらに似ていることは疑いようがなかった。目も赤ちゃんにしてはやけに小さくなっている。全体として、アリスはその見た目がまったく気に入らなかった。「でも、ただすすり泣いているだけかもしれない」と思い、涙があるかどうか、もう一度目をのぞいた。
いや、涙はなかった。「もしブタになるつもりなら、あなた」とアリスは真剣に言った。「もうあなたの面倒は見ませんからね。いい?」
かわいそうな小さな生き物はまたすすり泣いた(あるいはぶうと鳴いた。どちらかは判別できなかった)。しばらく二人は黙ったまま進んだ。
アリスがちょうど、「さて、この生き物を家に連れて帰ったら、私はどうすればいいのかしら?」と思いはじめたとき、その生き物はまた、今度はひどく激しくぶうと鳴いたので、アリスは少し不安になって顔を見下ろした。今度ばかりはまったく間違いようがなかった。それはまぎれもなくブタで、これ以上抱いていくのはまったくばかげているとアリスは思った。
そこで小さな生き物を下ろし、それが静かに森へ小走りで入っていくのを見て、アリスはたいへんほっとした。「あのまま大きくなっていたら」とアリスはひとりごちた。「恐ろしく醜い子どもになったでしょうね。でもブタとしては、なかなか立派だと思うわ。」
そして、ブタになってもかなりよさそうな、知っているほかの子どもたちのことを考えはじめた。ちょうど「もし変える正しい方法さえわかれば――」とひとりごちていたとき、数ヤード(数メートル)先の木の枝にチェシャ猫が座っているのを見て、少し驚いた。
猫はアリスを見ると、ただにやりと笑った。気立てはよさそうに見える、とアリスは思った。それでもとても長い爪と、たくさんの歯を持っていたので、敬意をもって扱うべきだと感じた。
「チェシャの猫ちゃん」とアリスは少しおずおずと話しかけた。その呼び名を気に入るかどうか、まったくわからなかったのだ。だが猫は、ただ少し笑みを広げただけだった。「よし、今のところ気に入っているわ」とアリスは思い、続けた。「どうか教えてくれませんか。ここからどちらへ行けばいいのでしょう?」
「それは、どこへ行きたいかによって、ずいぶん違うね」と猫は言った。
「どこでもあまりかまわないの」とアリスは言った。
「それなら、どちらへ行ってもかまわない」と猫は言った。
「――どこかに着きさえすれば」とアリスは説明として付け加えた。
「ああ、それなら必ず着くよ」と猫は言った。「十分長く歩きさえすればね。」
アリスは、それは否定できないと感じたので、別の質問をしてみた。「このあたりには、どんな人たちが住んでいるの?」
「あちらの方向には」と猫は右の前足を振って言った。「帽子屋が住んでいる。あちらの方向には」ともう一方の前足を振った。「三月ウサギが住んでいる。好きなほうを訪ねるといい。どちらも気が狂っている。」
「でも私は、気の狂った人たちのところへは行きたくないわ」とアリスは言った。
「ああ、それは避けられないね」と猫は言った。「ここではみんな狂っている。ぼくも狂っている。きみも狂っている。」
「私が狂っているって、どうしてわかるの?」アリスは言った。
「そうに決まっている」と猫は言った。「でなければ、ここへは来なかったはずだから。」
アリスは、それで証明になるとはまったく思わなかった。それでも続けた。「じゃあ、あなたが狂っているって、どうしてわかるの?」
「まず」と猫は言った。「犬は狂っていない。これは認めるね?」
「たぶん」とアリスは言った。
「では」と猫は続けた。「犬は怒っているときにうなり、うれしいときに尻尾を振る。ところがぼくは、うれしいときにうなり、怒っているときに尻尾を振る。だからぼくは狂っている。」
「それはうなるんじゃなくて、のどを鳴らすって私は言うわ」とアリスは言った。
「好きに呼べばいい」と猫は言った。「今日、女王とクロッケーをするのかい?」
「ぜひしたいわ」とアリスは言った。「でもまだ招待されていないの。」
「そこで会えるよ」と猫は言い、姿を消した。
アリスはそれほど驚かなかった。奇妙なことが起こるのに、もうすっかり慣れてきていたからだ。猫のいた場所を見つめていると、突然また猫が現れた。
「ところで、赤ちゃんはどうなった?」猫は言った。「聞くのをすっかり忘れるところだった。」
「ブタになったわ」とアリスは静かに言った。まるで猫が自然に戻ってきたかのように。
「そうなると思った」と猫は言い、また姿を消した。
アリスは少し待った。半ばまた猫が現れるのではないかと思っていたが、現れなかった。一、二分して、三月ウサギが住んでいると言われた方向へ歩きだした。「帽子屋なら前にも見たことがあるわ」とアリスはひとりごちた。「三月ウサギのほうがずっと面白いはず。それに今は五月だから、狂い方も激しくないかもしれない――少なくとも三月ほどではないでしょう。」
そう言いながら見上げると、そこにはまた猫が木の枝に座っていた。
「ブタと言ったのかい、それともイチジク?」猫は言った。
「ブタって言ったの」とアリスは答えた。「それに、そんなに急に現れたり消えたりしないでほしいわ。すっかり目が回るもの。」
「わかった」と猫は言った。今度はとてもゆっくり姿を消した。尻尾の先から消えはじめ、最後に笑みが残った。その笑みは、ほかの部分が消えたあともしばらくそこに残っていた。
「まあ! 笑っていない猫なら何度も見たことがあるわ」とアリスは思った。「でも猫のいない笑みなんて! 生まれてから見た中でいちばん不思議なものだわ!」
それほど遠くへ行かないうちに、三月ウサギの家が見えてきた。その家に違いないとアリスは思った。煙突が耳の形をしており、屋根が毛皮で葺かれていたからだ。家はとても大きかったので、もう少しキノコの左手のかけらをかじって、身長を二フィート(約六十センチ)ほどに伸ばしてからでなければ近づく気になれなかった。それでも、かなりおずおずと家のほうへ歩いていきながら、ひとりごちた。「やっぱりひどく狂っていたらどうしよう! 帽子屋を見に行けばよかったかも!」
第七章 狂ったお茶会
家の前の木の下にテーブルがしつらえてあり、三月ウサギと帽子屋がそこでお茶を飲んでいた。二人のあいだにはヤマネが座っていて、ぐっすり眠っている。ほかの二人はそのヤマネをクッション代わりにし、ひじを乗せ、頭越しに話していた。「ヤマネにはずいぶん居心地が悪いでしょうね」とアリスは思った。「でも眠っているから、気にしていないのかしら。」
テーブルは大きかったが、三人はその片隅にぎゅうぎゅうに集まっていた。「席がない! 席がない!」アリスが来るのを見ると、三人は叫んだ。「席ならたくさんあるじゃない!」アリスは憤慨して言い、テーブルの端の大きな肘掛け椅子に座った。
「ワインをどうぞ」と三月ウサギがすすめるような調子で言った。
アリスはテーブルの上をぐるりと見たが、お茶以外は何もなかった。「ワインなんて見えないわ」と言った。
「ないからね」と三月ウサギは言った。
「それなら勧めるなんて、あまり礼儀正しくないわ」とアリスは怒って言った。
「招待もされずに座るのも、あまり礼儀正しくないよ」と三月ウサギは言った。
「あなたのテーブルだなんて知らなかったわ」とアリスは言った。「三人よりずっと大勢のために用意されているんだもの。」
「髪を切ったほうがいい」と帽子屋が言った。帽子屋はしばらく前から、たいへん好奇心ありげにアリスを見ていたが、これが最初の発言だった。
「個人的なことを言わないように学ぶべきです」とアリスは少し厳しく言った。「とても失礼よ。」
これを聞いて帽子屋は目をとても大きく見開いた。だが言ったのはこれだけだった。「ワタリガラスが書き物机に似ているのはなぜか?」
「さあ、面白くなってきたわ!」アリスは思った。「なぞなぞを出しはじめてくれてうれしい。――それ、当てられると思うわ」と声に出して付け加えた。
「答えを見つけられると思う、という意味かい?」三月ウサギが言った。
「まさにそうよ」とアリスは言った。
「それなら、自分の意味することを言うべきだ」と三月ウサギは続けた。
「言っているわ」とアリスはあわてて答えた。「少なくとも――少なくとも私は、言ったことを意味しているの――同じことじゃない。」
「少しも同じじゃない!」帽子屋が言った。「『私は食べるものを見る』が『私は見るものを食べる』と同じだと言うようなものだ!」
「同じように」と三月ウサギが付け加えた。「『私は手に入れたものが好き』が『私は好きなものを手に入れる』と同じだと言うようなものだ!」
「同じように」と、眠りながら話しているようなヤマネが付け加えた。「『私は眠るときに息をする』が『私は息をするときに眠る』と同じだと言うようなものだ!」
「おまえの場合は同じだ」と帽子屋が言った。そこで会話は途切れ、一同は一分ほど黙って座った。そのあいだアリスは、ワタリガラスと書き物机について覚えていることを総動員して考えたが、大して多くはなかった。
沈黙を最初に破ったのは帽子屋だった。「今日は何日だ?」アリスのほうを向いて言った。帽子屋はポケットから時計を取り出し、不安げに見ていた。ときどき時計を振り、耳に当てている。
アリスは少し考えてから言った。「四日よ。」
「二日ずれている!」帽子屋はため息をついた。「バターは機械に合わないと言っただろう!」そう付け加え、三月ウサギを怒ったように見た。
「最高級のバターだったんだ」と三月ウサギはおとなしく答えた。
「そうだが、パンくずもいくらか一緒に入ったに違いない」と帽子屋はぶつぶつ言った。「パン切りナイフで入れるべきじゃなかったんだ。」
三月ウサギは時計を取り、陰気な顔で眺めた。それからお茶のカップに時計を浸し、もう一度眺めた。だが最初と同じ発言以上によいことは思いつかなかった。「最高級のバターだったんだよ。」
アリスは興味津々で肩越しにのぞきこんでいた。「変な時計ね!」と言った。「日にちはわかるのに、何時かはわからないなんて!」
「なぜわかる必要がある?」帽子屋はつぶやいた。「きみの時計は何年か教えてくれるか?」
「もちろん違うわ」とアリスはすぐ答えた。「でもそれは、同じ年がとても長く続くからよ。」
「それは私の時計の場合とまったく同じだ」と帽子屋は言った。
アリスはひどく混乱した。帽子屋の言葉には意味がまるでないようだったが、それでも確かに英語だった。「よくわかりません」とアリスはできるだけ丁寧に言った。
「ヤマネがまた眠った」と帽子屋は言い、ヤマネの鼻に熱いお茶を少し注いだ。
ヤマネは苛立たしげに頭を振り、目を開けずに言った。「もちろん、もちろん。ちょうど私もそう言おうとしていたところだ。」
「なぞなぞはもう解けたか?」帽子屋がまたアリスのほうを向いて言った。
「いいえ、降参するわ」とアリスは答えた。「答えは何?」
「まったく見当もつかない」と帽子屋は言った。
「私も」と三月ウサギが言った。
アリスは疲れたようにため息をついた。「答えのないなぞなぞを出して時間を無駄にするより」と言った。「もっとましな時間の使い方があると思うわ。」
「もしきみが私くらい時をよく知っていたなら」と帽子屋は言った。「それを無駄にするなんて言い方はしないだろう。時は彼だ。」
「何を言っているのかわからないわ」とアリスは言った。
「もちろんわからないだろう!」帽子屋は軽蔑したように頭を振った。「どうせきみは、時と話したことさえないのだろう!」
「たぶんないわ」とアリスは慎重に答えた。「でも音楽を習うとき、拍子を取らなければならないことは知っているわ。」
「ああ! それでわかった」と帽子屋は言った。「彼は叩かれるのに我慢できないんだ。もし彼と仲よくしていれば、時計で好きなことをほとんど何でもしてくれる。たとえば、朝の九時、ちょうど授業を始める時間だとしよう。時にちょっとささやくだけで、時計はたちまちぐるりと回る! 一時半、夕食の時間だ!」
(「そうだったらいいのに」と三月ウサギが小声でひとりごちた。)
「それは確かにすばらしいわ」とアリスは考え深げに言った。「でもそのとき、私はまだお腹が空いていないでしょうね。」
「最初はそうかもしれない」と帽子屋は言った。「だが好きなだけ一時半にしておける。」
「あなたはそうやっているの?」
アリスは尋ねた。
帽子屋は悲しげに首を振った。「いや!」と答えた。「私たちは去年の三月にけんかをしたんだ――彼が狂う少し前のことだよ」(ティースプーンで三月ウサギを指しながら)「――ハートの女王が開いた大音楽会で、私は歌わなければならなかった。
『きらきら光れ、小さなコウモリ! おまえは何をしているのか!』
この歌を知っているかな?」
「似たようなものを聞いたことがあるわ」とアリスは言った。
「続きは、こうだ」と帽子屋は続けた。「こんなふうに――
『世界の上を飛んでいく、
空の茶盆のように。
きらきら、きらきら――』。」
ここでヤマネが身を震わせ、眠りながら「きらきら、きらきら、きらきら、きらきら――」と歌いはじめた。あまりにも長く続けるので、止めるためにみんなでつねらなければならなかった。
「さて、私は一番をほとんど歌い終えるところだった」と帽子屋は言った。「そのとき女王が飛び上がって怒鳴った。『こやつは時を殺しておる! 首をはねよ!』。」
「なんて恐ろしく乱暴なの!」アリスは叫んだ。
「それ以来」と帽子屋は悲しげに続けた。「彼は私の頼みを何一つ聞いてくれない! 今はいつも六時なんだ。」
アリスの頭に名案が浮かんだ。「だからここには、こんなにたくさんのお茶道具が並んでいるの?」と尋ねた。
「そう、そのとおり」と帽子屋はため息をついて言った。「いつでもお茶の時間で、合間に道具を洗う時間もないんだ。」
「それで、ぐるぐる席を移っていくのね?」アリスは言った。
「まさにそうだ」と帽子屋は言った。「道具を使いきるにつれてね。」
「でも、また最初のところへ戻ってきたらどうなるの?」
アリスは思いきって尋ねた。
「話題を変えよう」と三月ウサギがあくびをしながら割りこんだ。「この話には飽きてきた。若いお嬢さんに話をしてもらうことに賛成だ。」
「残念だけど、私、お話を知らないの」とアリスはその提案に少しおびえて言った。
「それならヤマネが話す!」二人は同時に叫んだ。「起きろ、ヤマネ!」
そして二人はヤマネを両側から同時につねった。
ヤマネはゆっくり目を開けた。「眠ってなんかいなかった」と、しわがれた弱々しい声で言った。「君たちの言っていることは一言残らず聞いていたよ。」
「話をして!」三月ウサギが言った。
「ええ、お願い!」アリスも頼んだ。
「それに急いで」と帽子屋が付け加えた。「終わる前にまた眠ってしまうぞ。」
「昔々、三人の小さな姉妹がいました」とヤマネはたいへん急いで話しはじめた。「名前はエルシー、レイシー、ティリー。そして三人は井戸の底に住んでいました――」
「何を食べて暮らしていたの?」食べ物や飲み物の問題にはいつも大いに興味を持つアリスが言った。
「糖蜜を食べて暮らしていた」とヤマネは一、二分考えたあとで言った。
「そんなことはできないでしょう」とアリスはやさしく言った。「病気になってしまうわ。」
「なっていた」とヤマネは言った。「とても病気だった。」
アリスはそんな途方もない暮らしがどんなものか想像しようとしたが、あまりにも難しかったので続けた。「でも、どうして井戸の底に住んでいたの?」
「もっとお茶をどうぞ」と三月ウサギが、たいへん真剣にアリスに言った。
「まだ何もいただいていないわ」とアリスは気分を害した調子で答えた。「だからもっとは無理よ。」
「君が言いたいのは、少なくはできないということだ」と帽子屋は言った。「何もないより多く取るのは、とても簡単だ。」
「あなたの意見なんて誰も聞いていないわ」とアリスは言った。
「今、個人的なことを言っているのは誰かな?」帽子屋は勝ち誇って尋ねた。
アリスはこれに何と言えばいいのかよくわからなかった。そこで自分でお茶とバターつきパンを取り、それからヤマネのほうを向いて質問を繰り返した。「どうして井戸の底に住んでいたの?」
ヤマネはまた一、二分考え、それから言った。「それは糖蜜井戸だったんだ。」
「そんなもの、あるはずないわ!」
アリスはとても怒って言いはじめた。だが帽子屋と三月ウサギは「しっ! しっ!」と言い、ヤマネはむっつりして言った。「礼儀正しくできないなら、自分で話を終わらせたほうがいい。」
「いいえ、お願いだから続けて!」
アリスはたいへん恐縮して言った。「もう邪魔しないわ。きっと一つくらいはあるのかもしれないもの。」
「一つだって!」ヤマネは憤然と言った。それでも続けることには同意した。「それで、この三人の小さな姉妹は――絵を描くことを習っていたんだ――」
「何を描いていたの?」アリスは約束をすっかり忘れて言った。
「糖蜜」とヤマネは今度はまったく考えずに言った。
「きれいなカップが欲しい」と帽子屋が割りこんだ。「みんな一つずつ席を移ろう。」
帽子屋は言いながら移動し、ヤマネもあとに続いた。三月ウサギはヤマネの場所へ移り、アリスはかなり不本意ながら三月ウサギの場所を取った。席替えで得をしたのは帽子屋だけだった。アリスは前よりずっと具合が悪くなった。三月ウサギが今しがた、自分の皿の中にミルク差しをひっくり返していたからだ。
アリスはまたヤマネを怒らせたくなかったので、とても慎重に言いはじめた。「でも、わからないの。三人はどこから糖蜜を描いたの?」
「水の井戸から水を汲み出せるのだから」と帽子屋は言った。「糖蜜の井戸からは糖蜜を汲み出せると思うがね――どうだ、ばか者?」
「でも三人は井戸の中にいたのよ」とアリスはヤマネに言った。最後の言葉は聞かなかったことにしたのだ。
「もちろん中にいた」とヤマネは言った。「――井戸の中に、よく入っていた。」
この答えに、かわいそうなアリスはすっかり混乱し、しばらくヤマネに邪魔せず話を続けさせた。
「三人は絵を描くことを習っていた」とヤマネは続け、あくびをし、目をこすった。とても眠くなっていたのだ。「そしていろんなものを描いた――Mで始まるものなら何でも――」
「どうしてMなの?」アリスが言った。
「どうしてだめなんだ?」三月ウサギが言った。
アリスは黙った。
ヤマネはそのころには目を閉じ、うとうとしかけていた。だが帽子屋につねられて、小さな悲鳴とともに目を覚まし、続けた。「――Mで始まるもの、たとえばネズミ捕り、月、記憶、多量さ――『どれもこれも同じようなもの』って言うだろう――多量さの絵なんてものを見たことがあるかい?」
「そう言われてみると」とアリスはひどく混乱して言った。「私は思わ――」
「それなら話すべきじゃない」と帽子屋は言った。
この失礼さは、アリスにはもう我慢の限界だった。すっかり腹を立てて立ち上がり、歩き去った。ヤマネはたちまち眠りこんだ。ほかの二人は、アリスが去ることに少しも注意を払わなかった。もっともアリスは一度か二度、呼び止めてくれることを半ば期待して振り返った。最後に見たとき、二人はヤマネをティーポットの中へ押し込もうとしていた。
「とにかく、もうあそこには二度と行かないわ!」アリスは森の中を足元に気をつけて進みながら言った。「生まれてから出た中で、いちばんばかげたお茶会だったわ!」
そう言ったちょうどそのとき、一本の木に扉がついていて、そのまま中へ入れるようになっているのに気づいた。「これはとても不思議ね!」アリスは思った。「でも今日は何もかも不思議なんだもの。すぐ入ってみてもよさそうだわ。」
そして中へ入った。
またしてもアリスは、あの長い広間にいて、小さなガラスのテーブルのすぐそばにいた。「今度はもっと上手にやるわ」とひとりごち、まず小さな金の鍵を取り、庭へ続く扉の錠を開けた。それからキノコを少しずつかじりはじめた(アリスはそのかけらをポケットに取っておいたのだ)。身長が一フィート(約三十センチ)ほどになるまでかじると、小さな通路を歩いていった。そしてついに――明るい花壇と涼しげな噴水に囲まれた、美しい庭の中にいた。
第八章 女王のクロッケー場
庭の入口近くに大きなバラの木が立っていた。そこに咲いているバラは白かったが、三人の庭師が忙しく赤く塗っていた。アリスはこれはたいへん奇妙なことだと思い、彼らを見るために近づいていった。ちょうどそばまで来たとき、そのうちの一人が言うのを聞いた。「気をつけろよ、五! そんなふうに俺へ絵の具をはねかけるな!」
「仕方ないだろ」と五はむっつりした調子で言った。「七が肘をぶつけたんだ。」
すると七が顔を上げて言った。「そうだとも、五! いつでも人のせいにするんだな!」
「おまえは黙っていたほうがいいぞ!」五が言った。「昨日、女王が、おまえは首をはねられて当然だって言っているのを聞いたんだからな!」
「何のことで?」最初に話した者が言った。
「おまえには関係ない、二!」七が言った。
「いや、こいつにも関係ある!」五が言った。「だから教えてやる。料理人に、玉ねぎの代わりにチューリップの球根を持っていったからだ。」
七は刷毛を投げ出し、「まったく、こんな不公平なことが――」と言いはじめたところで、たまたま彼らを見て立っているアリスに目がとまり、急に口をつぐんだ。ほかの二人も振り返り、三人とも深々とお辞儀をした。
「教えていただけますか」とアリスは少しおずおずと言った。「どうしてそのバラを塗っているの?」
五と七は何も言わず、二を見た。二は低い声で話しはじめた。「実はですね、お嬢さん、これは本当は赤いバラの木でなきゃならなかったんですが、私らが間違えて白いのを植えてしまいまして。もし女王さまに見つかったら、私らみんな首を切られてしまうんです。だからですね、お嬢さん、女王さまがおいでになる前に、できるだけ――」そのとき、庭の向こうを不安げに見ていた五が叫んだ。「女王だ! 女王だ!」三人の庭師はたちまち地面に顔を伏せて平たくなった。たくさんの足音が聞こえ、アリスは女王を見ようと、待ちきれずに振り返った。
最初に来たのは、クラブを持った十人の兵士だった。彼らは三人の庭師と同じ形をしていて、細長く平たく、手足が四隅についていた。次に十人の廷臣が来た。彼らは全身にダイヤの模様を飾り、兵士たちと同じように二列で歩いていた。その後から王家の子どもたちがやってきた。十人いて、かわいい子どもたちは二人ずつ手をつなぎ、楽しげに跳ねながら進んできた。みんなハートの模様で飾られていた。次に来たのは客たちで、ほとんどが王や女王だった。その中に、アリスは白うさぎを見つけた。うさぎは急いだ神経質な調子で話し、何を言われても笑い、アリスに気づかず通り過ぎた。続いてハートのジャックが、深紅のビロードのクッションに王の冠を載せて運んできた。そしてこの壮麗な行列の最後に、ハートの王とハートの女王が現れた。
アリスは、三人の庭師のように顔を伏せて地面に寝そべるべきかどうか、少し迷った。だが行列のときにそんな決まりがあるとは聞いた覚えがなかった。「それに、もしみんなが顔を伏せて寝そべらなければならないなら」とアリスは思った。「行列なんて何の役に立つの? 見られないじゃない。」
そこでアリスはその場に立ったまま、待った。
行列がアリスの正面まで来ると、みんな立ち止まってアリスを見た。女王は厳しい声で言った。「これは誰だ?」
女王はハートのジャックに言ったのだが、ジャックは答えにただお辞儀をして笑っただけだった。
「ばか者!」女王は苛立たしげに頭を振って言った。そしてアリスのほうを向き、続けた。「名前は何という、子ども?」
「私の名前はアリスでございます、陛下」とアリスはとても丁寧に言った。だが心の中では付け加えた。「なんだ、結局ただのトランプの一組じゃない。怖がる必要なんてないわ!」
「ではこれは誰だ?」女王はバラの木のまわりに伏せている三人の庭師を指さして言った。というのも、彼らは顔を伏せており、背中の模様はほかのカードと同じだったので、庭師なのか、兵士なのか、廷臣なのか、それとも自分の子ども三人なのか、女王には見分けがつかなかったのだ。
「私が知るわけないでしょう?」アリスは自分の勇気に驚きながら言った。「私には関係ありません。」
女王は怒りで真っ赤になり、一瞬、野獣のようにアリスをにらみつけてから叫んだ。「この子の首をはねよ! 首を――」
「ばかげています!」アリスはとても大きく、きっぱりした声で言った。すると女王は黙った。
王は女王の腕に手を置き、おずおずと言った。「考えてみなさい、君。この子はまだ子どもだ!」
女王は怒って王に背を向け、ジャックに言った。「ひっくり返せ!」
ジャックは片足で、とても慎重に三人をひっくり返した。
「立て!」女王は甲高い大声で言った。三人の庭師はたちまち飛び起き、王、女王、王家の子どもたち、そのほか全員にお辞儀をしはじめた。
「やめろ!」女王は叫んだ。「めまいがする。」
それからバラの木のほうを向き、続けた。「ここで何をしていた?」
「陛下のお気に召しますように」と二がたいへんへりくだった調子で言い、話しながら片ひざをついた。「私どもは、ただ――」
「見ればわかる!」女王は、その間にバラを調べていた。「こやつらの首をはねよ!」そして行列は進んでいき、不運な庭師たちを処刑するため、三人の兵士が後に残った。庭師たちは保護を求めてアリスのところへ走ってきた。
「首なんてはねさせないわ!」アリスは言い、そばにあった大きな植木鉢の中へ三人を入れた。三人の兵士は一、二分彼らを探して歩きまわり、それから静かにほかのみんなの後を追って行進していった。
「首は落ちたか?」女王が叫んだ。
「首はなくなりました、陛下のお気に召しますように!」兵士たちが叫んで答えた。
「よろしい!」女王は叫んだ。「クロッケーはできるか?」
兵士たちは黙り、アリスを見た。この質問は明らかにアリスに向けられていたからだ。
「できます!」アリスは叫んだ。
「では来い!」女王がどなり、アリスは次に何が起こるのか大いに不思議に思いながら、行列に加わった。
「きょ、今日はとてもよいお日柄で!」そばでおずおずした声がした。アリスの横を歩いていたのは白うさぎで、不安そうにアリスの顔をのぞきこんでいた。
「とても」とアリスは言った。「――公爵夫人はどこ?」
「しっ! しっ!」うさぎは低く急いだ声で言った。話しながら不安そうに肩越しに見て、それからつま先立ちになり、口をアリスの耳元へ寄せてささやいた。「処刑の判決を受けているんです。」
「何のために?」アリスは言った。
「『なんてお気の毒に!』とおっしゃいましたか?」うさぎは尋ねた。
「いいえ、言っていないわ」とアリスは言った。「少しも気の毒だとは思わないもの。『何のために?』って言ったの。」
「女王のお耳を殴ったのです――」うさぎは言いはじめた。アリスは思わず小さく笑い声を上げた。「ああ、しっ!」うさぎはおびえた調子でささやいた。「女王に聞こえます! つまり、公爵夫人は少し遅れてきまして、それで女王が――」
「位置につけ!」女王が雷のような声で叫ぶと、人々は四方八方へ走りまわり、互いにぶつかって転んだ。それでも一、二分するとどうにか落ち着き、競技が始まった。アリスは、これほど奇妙なクロッケー場を生まれてから見たことがないと思った。地面は畝と溝だらけで、ボールは生きたハリネズミ、マレットは生きたフラミンゴ、兵士たちは体を二つ折りにして、手足で立ち、アーチにならなければならなかった。
アリスが最初に苦労した最大の問題は、自分のフラミンゴを扱うことだった。胴体を腕の下にうまく収め、脚をぶら下げておくところまでは、かなり気持ちよく成功した。だがたいてい、首をうまくまっすぐに伸ばし、その頭でハリネズミを打とうとした瞬間、フラミンゴがどうしても体をねじってアリスの顔を見上げる。その困惑した表情がおかしくて、アリスは笑い出さずにはいられなかった。やっと頭を下げさせ、また始めようとすると、ハリネズミが丸まるのをやめ、這って逃げようとしているところなのを見つけて、たいへん腹立たしかった。それに加えて、ハリネズミを送ろうとする場所にはたいてい畝か溝が邪魔をしていたし、二つ折りの兵士たちはしょっちゅう立ち上がって別の場所へ歩いていってしまう。アリスはすぐに、これは実に難しい競技だと結論した。
競技者たちは順番など待たずに一斉にプレーし、ずっと言い争い、ハリネズミを奪い合っていた。ほどなく女王は激怒し、どすどす歩き回り、一分に一度くらい「この者の首をはねよ!」あるいは「あの者の首をはねよ!」と叫んだ。
アリスはたいへん不安になりはじめた。確かにまだ女王とは言い争っていなかったが、それがいつ起こってもおかしくないとわかっていた。「そうなったら」とアリスは思った。「私はどうなってしまうの? ここではみんな、人の首をはねるのが恐ろしく好きなんだわ。誰かが生き残っていることのほうが、大きな不思議よ!」
アリスは逃げ道を探してあたりを見まわし、見つからずに逃げられるかどうか考えていた。そのとき、空中に妙なものが現れているのに気づいた。最初はひどくわけがわからなかったが、一、二分見ているうちに、それが笑みだとわかった。そこでひとりごちた。「チェシャ猫だわ。これで話し相手ができる。」
「うまくやっているかい?」口が話せるだけの大きさになると、猫が言った。
アリスは目が現れるまで待って、それからうなずいた。「話しかけても無駄だわ」と思った。「耳が出てくるまで、少なくとも片耳が出てくるまでは。」
さらに一分ほどで頭全体が現れた。そこでアリスはフラミンゴを置き、話を聞いてくれる相手ができたことを大いに喜びながら、競技の様子を説明しはじめた。猫は、もう十分なだけ姿が見えていると思ったらしく、それ以上は何も現れなかった。
「みんな、ちっとも公平に遊んでいないと思うの」とアリスは少し不満げに話しはじめた。「それにひどくけんかばかりしているから、自分の声も聞こえないくらい――特別な規則なんてないみたいだし、少なくとも、もしあっても誰も守っていないわ――それから、何もかも生きているからどれほど混乱するか、あなたにはわからないでしょう。たとえば次に私が通らなければならないアーチが、競技場の反対側を歩きまわっているの。それにさっき女王のハリネズミをクロッケーするところだったのに、私のが近づくのを見て逃げてしまったのよ!」
「女王は好きかい?」猫が低い声で言った。
「まったく好きじゃないわ」とアリスは言った。「あの人はあまりにも――」ちょうどそのとき、女王がすぐ後ろにいて聞いていることに気づいた。そこで続けた。「――勝ちそうなので、競技を最後までやる意味がほとんどないくらいです。」
女王はにっこりして通り過ぎた。
「誰と話しているのだ?」王がアリスに近づき、猫の頭をたいへん興味深そうに見ながら言った。
「私の友人です――チェシャ猫です」とアリスは言った。「ご紹介いたします。」
「この見た目はまったく気に入らぬ」と王は言った。「とはいえ、望むならわしの手に口づけしてもよい。」
「遠慮しておく」と猫は言った。
「無礼を言うな」と王は言った。「それにそんなふうにわしを見るな!」
言いながら、王はアリスの後ろに隠れた。
「猫は王を見ることができます」とアリスは言った。「どこかの本で読んだことがあります。どこかは覚えていませんけど。」
「では、それは取り除かねばならぬ」と王はたいへんきっぱり言い、ちょうど通りかかった女王を呼んだ。「君! この猫を取り除いてもらいたい!」
女王には、大きい問題にも小さい問題にも、解決法は一つしかなかった。「首をはねよ!」振り返りもせずに言った。
「私が自分で処刑人を呼んでこよう」と王は熱心に言い、急いで去っていった。
アリスは、遠くで女王が怒り狂って叫ぶ声が聞こえたので、戻って競技の進み具合を見てもよさそうだと思った。すでに女王が、順番を逃したという理由で三人の競技者に処刑を宣告するのを聞いていた。事態の様子はまったく好ましくなかった。競技はあまりにも混乱していて、自分の番なのかどうか、まるでわからなかったからだ。そこでアリスは自分のハリネズミを探しに行った。
そのハリネズミは別のハリネズミとけんかをしている最中だった。アリスには、片方で片方をクロッケーする絶好の機会に思えた。ただ一つ難点があった。フラミンゴが庭の反対側へ行ってしまい、木に飛び上がろうとしてどうしようもなくもがいているのが見えたのだ。
アリスがフラミンゴを捕まえて連れ戻すころには、けんかは終わっており、二匹のハリネズミはどちらも見えなくなっていた。「でも大した問題じゃないわ」とアリスは思った。「こちら側のアーチは全部なくなっているんだもの。」
そこで逃げないようにフラミンゴを腕の下に押しこみ、友人ともう少し話をするために戻った。
チェシャ猫のところへ戻ると、そのまわりにかなり大勢の人が集まっているのを見て、アリスは驚いた。処刑人、王、女王のあいだで議論が起こっており、三人とも一度に話していた。そのほかのみんなはすっかり黙りこみ、とても居心地悪そうに見えた。
アリスが現れた瞬間、三人全員が問題を解決してくれと訴え、それぞれの主張をアリスに繰り返した。とはいえ、みんなが一度に話すので、何を言っているのか正確に聞き取るのは本当に難しかった。
処刑人の主張はこうだった。切り落とす相手の体がなければ、首を切ることはできない。こんなことはこれまで一度もしたことがないし、この年になって始めるつもりもない。
王の主張はこうだった。頭があるものは何であれ首をはねることができるので、ばかげたことを言ってはならない。
女王の主張はこうだった。即刻どうにかしなければ、周囲にいる者を残らず全員処刑する。(この最後の発言が、一同をあれほど深刻で不安な顔にさせていたのだ。)
アリスは「これは公爵夫人のものです。あの方にお尋ねになったほうがいいと思います」と言う以外、何も思いつかなかった。
「公爵夫人は牢にいる」と女王は処刑人に言った。「ここへ連れてこい。」
処刑人は矢のように飛び出していった。
処刑人が去るやいなや、猫の頭は薄れはじめた。そして公爵夫人を連れて戻ってくるころには、すっかり消えてしまっていた。そこで王と処刑人は、猫を探して激しく行ったり来たり走りまわった。一方、そのほかの一同は競技へ戻った。
第九章 ニセカメの身の上話
「また会えて、どんなにうれしいかわからないよ、いとしい古なじみさん!」公爵夫人は愛情こめてアリスの腕に自分の腕を絡め、一緒に歩きだしながら言った。
アリスは公爵夫人がこんなに機嫌よくしているのを見て、たいへんうれしかった。そして、台所で会ったときにあんなに乱暴だったのは、きっと胡椒のせいだったのだろうと心の中で思った。
「私が公爵夫人になったら」とアリスはひとりごちた(あまり望みのありそうな調子ではなかったが)。「台所には胡椒なんて少しも置かないわ。スープは胡椒なしでも十分おいしいもの――たぶん、人を短気にするのはいつも胡椒なんだわ」と、新しい規則を見つけたことにたいへん満足して続けた。「それから人をすっぱくするのは酢で、苦くするのはカミツレで――それから――それから麦芽糖やそういうものが子どもたちを優しい気性にするのね。みんながそれを知っていればいいのに。そうしたら、そんなにけちけちしないでしょうに――」
そのころには公爵夫人のことをすっかり忘れていたので、すぐ耳元で声がしたとき、アリスは少しびっくりした。「何か考えているのね、かわいい子。それで話すのを忘れてしまうんだ。今すぐその教訓が何かは言えないけれど、少しすれば思い出すよ。」
「もしかすると、教訓なんてないのかもしれません」とアリスは思いきって言った。
「ちぇっ、ちぇっ、子どもだね!」公爵夫人は言った。「どんなものにも教訓はある。見つけさえすればね。」
そう言いながら、公爵夫人はアリスの脇へさらにぴったり体を寄せた。
アリスは、そんなに近くにいられるのがあまり好きではなかった。第一に、公爵夫人はとても醜かった。第二に、公爵夫人の背丈は、あごをアリスの肩に載せるのにちょうどよく、そのあごが不快なほど尖っていた。それでも失礼にはしたくなかったので、できるだけ我慢した。
「競技は今、少しうまく進んでいるみたいですね」とアリスは、会話を少しつなげようとして言った。
「そのとおり」と公爵夫人は言った。「その教訓は――『ああ、愛だ、愛こそが世界を回す!』。」
「誰かが言っていました」とアリスはささやいた。「みんなが自分のことだけ気にしているから世界は回るんだって!」
「ああ、まあ! だいたい同じ意味だよ」と公爵夫人は言い、尖った小さなあごをアリスの肩に食いこませながら付け加えた。「その教訓は――『意味を大事にすれば、音は自分で何とかする』。」
「この人、何にでも教訓を見つけるのが本当に好きなのね!」
アリスは心の中で思った。
「どうして私があなたの腰に腕を回さないのか、不思議に思っているでしょう」と公爵夫人は少し間を置いて言った。「理由は、あなたのフラミンゴの気性がよくわからないからだよ。試してみようか?」
「噛むかもしれません」とアリスは慎重に答えた。試してほしいとはまったく思っていなかった。
「まったくそのとおり」と公爵夫人は言った。「フラミンゴもマスタードも、どちらも噛む。そしてその教訓は――『同じ羽の鳥は群れ集う』。」
「でもマスタードは鳥ではありません」とアリスは言った。
「いつものように正しいね」と公爵夫人は言った。「なんて物事をはっきり言う子なんだろう!」
「それは鉱物だと思います」アリスは言った。
「もちろんそうだよ」と公爵夫人は言った。アリスが言うことなら何にでも同意するつもりのようだった。「この近くには大きなマスタード鉱山がある。そこでの教訓は――『私のものが多ければ多いほど、あなたのものは少なくなる』。」
「ああ、わかった!」アリスは叫んだ。最後の発言は聞いていなかったのだ。「それは植物です。そうは見えないけれど、そうなんです。」
「まったく同感だよ」と公爵夫人は言った。「その教訓は――『そう見られたいものにおなり』――もっと簡単に言ってほしければ――『他人に、あなたがそうであった、あるいはそうであったかもしれないものが、あなたがそうであったなら他人にそう見えたかもしれないものと違わないように見えるかもしれない、などと決して自分を想像しないこと』。」
「それは書いてあれば、もっとよくわかると思います」とアリスはたいへん丁寧に言った。「でも、そう言われると少しついていけません。」
「私が望めば言えることに比べれば、それは何でもないよ」と公爵夫人は満足そうに答えた。
「どうか、それ以上長くおっしゃるご面倒はなさらないでください」とアリスは言った。
「ああ、面倒の話なんておよし!」公爵夫人は言った。「これまで私が言ったことは全部、あなたへの贈り物にしてあげる。」
「安っぽい贈り物だわ!」アリスは思った。「誕生日の贈り物にそういうものをくれなくてよかった!」
だが、それを声に出して言う勇気はなかった。
「また考えているの?」公爵夫人は、尖った小さなあごでまた突きながら尋ねた。
「私には考える権利があります」とアリスは鋭く言った。少しうんざりしはじめていたからだ。
「それくらいの権利なら」と公爵夫人は言った。「ブタに空を飛ぶ権利があるのと同じくらいだね。そしてその教――」
だがここで、アリスがたいへん驚いたことに、公爵夫人の声は、大好きな言葉「教訓」の途中でさえ消えていき、アリスの腕に絡めていた腕が震えはじめた。アリスが見上げると、そこには女王が二人の前に立っていた。腕を組み、雷雲のように顔をしかめている。
「よいお日柄でございます、陛下!」公爵夫人は低く弱々しい声で言いはじめた。
「では、はっきり警告しておく」と女王は地面を踏み鳴らしながら叫んだ。「おまえか、おまえの首か、どちらかがここを去らねばならぬ。それも即刻だ! 選べ!」
公爵夫人は選び、次の瞬間には姿を消していた。
「競技を続けよう」と女王はアリスに言った。アリスは怖すぎて一言も言えず、ゆっくり女王についてクロッケー場へ戻った。
ほかの客たちは女王の不在を利用して、日陰で休んでいた。だが女王の姿を見るやいなや、急いで競技へ戻った。女王はただ、一瞬の遅れが彼らの命取りになると述べただけだった。
競技中、女王はずっとほかの競技者たちと言い争うのをやめず、「この者の首をはねよ!」や「あの者の首をはねよ!」と叫びつづけた。
女王に宣告された者たちは兵士たちに拘束された。兵士たちはもちろん、そのためにアーチでいるのをやめなければならなかった。そのため三十分ほど経つころには、アーチは一つも残らず、王、女王、アリスを除いた競技者全員が拘束され、処刑の宣告を受けていた。
そこで女王はすっかり息を切らしてやめ、アリスに言った。「ニセカメにはもう会ったか?」
「いいえ」とアリスは言った。「ニセカメが何なのかも知りません。」
「ニセカメスープの材料になるものだ」と女王は言った。
「見たことも、聞いたこともありません」とアリスは言った。
「では来い」と女王は言った。「あれがおまえに身の上話をするだろう。」
二人が一緒に歩いていくと、アリスには王が一同に向かって低い声で「おまえたちは全員赦免だ」と言うのが聞こえた。「まあ、それはよかった!」とアリスはひとりごちた。女王が命じた処刑の数が多くて、すっかり心苦しく思っていたからだ。
二人はまもなく、日なたでぐっすり眠っているグリフィンに出くわした。(グリフィンが何かわからないなら、絵を見るといい。)「起きろ、怠け者!」女王は言った。「この若いお嬢さんをニセカメのところへ連れていき、身の上話を聞かせてやれ。私は命じておいた処刑がどうなったか見に戻らねばならぬ。」そして女王は歩き去り、アリスをグリフィンと二人きりにした。アリスはその生き物の見た目があまり気に入らなかったが、全体として考えれば、あの荒々しい女王についていくのと同じくらいには、ここにいるほうが安全だろうと思った。そこで待った。
グリフィンは起き上がって目をこすった。それから女王が見えなくなるまで見送り、くすくす笑った。「面白いな!」グリフィンは半分ひとりごと、半分アリスに向かって言った。
「何が面白いの?」アリスは言った。
「そりゃあの人さ」とグリフィンは言った。「あれは全部あの人の思いこみだよ。実際には誰も処刑なんてされやしないんだ。さあ来な!」
「ここではみんな『来な!』と言うのね」とアリスは、ゆっくり後を追いながら思った。「生まれてからこれほど命令されたことはないわ、本当に!」
それほど遠くへ行かないうちに、遠くにニセカメが見えた。小さな岩棚に悲しげに、ひとり寂しく座っている。近づくにつれ、アリスにはニセカメが胸も張り裂けそうにため息をつくのが聞こえた。アリスは深く同情した。「何が悲しいの?」とグリフィンに尋ねると、グリフィンは前とほとんど同じ言葉で答えた。「あれは全部あいつの思いこみだよ。実際には悲しみなんてないんだ。さあ来な!」
そこで二人はニセカメのところへ行った。ニセカメは涙でいっぱいの大きな目で二人を見たが、何も言わなかった。
「こちらの若いお嬢さんが」とグリフィンは言った。「おまえの身の上話を知りたいんだとさ。」
「話してやろう」とニセカメは深くうつろな声で言った。「二人とも座って、わしが話し終えるまで一言もしゃべるな。」
そこで二人は座り、数分間、誰も話さなかった。アリスは心の中で思った。「始めなければ、いつまでたっても終わりようがないと思うのだけれど。」
それでも辛抱強く待った。
「かつて」とニセカメはようやく深いため息とともに言った。「わしは本物のカメだった。」
この言葉のあと、たいへん長い沈黙が続いた。ときおりグリフィンが「ヒックルル!」と声を上げるのと、ニセカメが絶えず重くすすり泣く音だけが沈黙を破った。アリスは危うく立ち上がって「興味深いお話をありがとうございました」と言いそうになったが、まだ続きが必ずあるはずだと思わずにはいられず、じっと座って何も言わなかった。
「小さかったころ」とニセカメはようやく、前より落ち着いて続けた。もっとも、ときどきまだすすり泣いていた。「わしらは海の中の学校へ通っていた。先生は年老いたカメで――わしらはあの方を陸ガメと呼んでいた――」
「カメじゃなかったのに、どうして陸ガメと呼んだの?」
アリスは尋ねた。
「陸ガメと呼んだのは、わしらを教えたからだ」とニセカメは怒って言った。「まったく、おまえはずいぶん鈍いな!」
「そんな簡単な質問をして、恥ずかしいと思うべきだ」とグリフィンも付け加えた。それから二人とも黙って、かわいそうなアリスを見つめた。アリスは地面に沈みこみたい気持ちだった。やがてグリフィンがニセカメに言った。「続けろ、相棒! 一日中かけるなよ!」するとニセカメはこう続けた。
「そう、わしらは海の中の学校へ通っていた。信じないかもしれんが――」
「信じないなんて言っていないわ!」アリスが口をはさんだ。
「言った」とニセカメは言った。
「黙ってろ!」グリフィンが付け加えた。アリスがまた話す前にだった。ニセカメは続けた。
「わしらは最高の教育を受けた――実際、毎日学校へ行っていた――」
「私だって通いの学校に行っていたわ」とアリスは言った。「そんなに威張らなくてもいいじゃない。」
「追加科目つきでか?」ニセカメが少し不安そうに尋ねた。
「ええ」とアリスは言った。「フランス語と音楽を習ったわ。」
「洗濯は?」ニセカメが言った。
「もちろん習っていません!」アリスは憤慨して言った。
「ああ! なら、おまえの学校は本当に良い学校ではなかったのだ」とニセカメはたいへん安心した調子で言った。「わしらのところでは請求書の最後に『フランス語、音楽、洗濯――追加』とあった。」
「あなたたちには、あまり必要なかったでしょう」とアリスは言った。「海の底に住んでいるんですもの。」
「それを習う余裕はなかった」とニセカメはため息をついて言った。「わしは普通課程だけ取ったのだ。」
「それは何だったの?」アリスは尋ねた。
「まずもちろん、よろけ読みと身もだえ書きだ」とニセカメは答えた。「それから算数のいろいろな分科――野心算、散漫算、醜化算、嘲笑算。」
「『醜化算』なんて聞いたことがありません」とアリスは思いきって言った。「それは何ですか?」
グリフィンは驚いて両方の前足を上げた。「何だと! 醜くすることを聞いたことがない!」と叫んだ。「美しくするというのは、知っているのだろう?」
「ええ」とアリスは自信なさげに言った。「それは――何かを――もっと――きれいにすることです。」
「なら」とグリフィンは続けた。「醜くすることを知らないなら、きみは単純な子だ。」
アリスは、それについてさらに質問する気にはなれなかった。そこでニセカメのほうを向き、「ほかには何を学ばなければならなかったの?」と言った。
「そうだな、謎学があった」とニセカメはひれで科目を数えながら答えた。「――古代および近代の謎学、それに海理学。それからだらだら描き――だらだら描きの先生は年老いたアナゴで、週に一度来ていた。あの方は、だらだら描き、伸び、巻きつき気絶を教えてくれた。」
「それはどんなものだったの?」アリスは言った。
「まあ、わし自身は見せてやれない」とニセカメは言った。「体が硬すぎる。それにグリフィンは習わなかった。」
「時間がなかった」とグリフィンは言った。「だが古典の先生には通ったぞ。年老いたカニだった、あいつは。」
「わしはあの方のところへは行かなかった」とニセカメはため息まじりに言った。「笑いと悲しみを教えていたそうだ。」
「そうだ、そうだ」とグリフィンもため息をついて言った。そして二匹とも前足で顔を覆った。
「一日に何時間、授業をしたの?」アリスは話題を変えようと急いで言った。
「初日は十時間」とニセカメは言った。「次の日は九時間、というふうに。」
「なんて不思議な仕組み!」アリスは叫んだ。
「だから授業はレッスンと呼ばれるのだ」とグリフィンが言った。「日ごとに減っていくからな。」
これはアリスにとってまったく新しい考えだったので、次の発言をする前に少し考えた。「それなら十一日目はお休みだったの?」
「もちろんそうだ」とニセカメは言った。
「十二日目はどうしたの?」
アリスは熱心に続けた。
「授業の話はもう十分だ」とグリフィンは非常にきっぱりした調子で割りこんだ。「今度は遊びのことを話してやれ。」
第十章 ロブスター・クアドリール
ニセカメは深々とため息をつき、ひれの甲で目元をぬぐった。アリスを見つめ、何か言おうとしたが、一、二分ほどはすすり泣きに声をふさがれていた。「喉に骨でも刺さったみたいだな」とグリフィンは言い、ニセカメを揺さぶったり背中をどついたりし始めた。ようやくニセカメは声を取り戻し、頬に涙を伝わせながら、また話を続けた。――
「おまえさんは、海の底で暮らしたことはあまりないだろう――」(「ないわ」とアリスは言った)――「それに、ロブスターを紹介されたことすら、たぶん一度もないだろう――」(アリスは「一度、食べたことなら――」と言いかけたが、あわてて口をつぐみ、「いいえ、一度も」と言い直した)「――ならば、ロブスター・クアドリールがどれほど楽しいものか、想像もつくまい!」
「ええ、本当に」とアリスは言った。「どんな踊りなの?」
「そりゃあ」とグリフィンが言った。「まず海辺に沿って一列に並ぶんだ――」
「二列だ!」とニセカメが叫んだ。「アザラシ、カメ、サケ、そのほかいろいろ。で、クラゲを残らずどけたら――」
「それがたいてい、少々時間を食うんだ」とグリフィンが口を挟んだ。
「――二歩進む――」
「それぞれロブスターを相手にしてな!」とグリフィンが叫んだ。
「もちろんだ」とニセカメは言った。「二歩進んで、相手と向き合い――」
「――ロブスターを替えて、同じ順で下がる」とグリフィンが続けた。
「それから、ほれ」とニセカメは続けた。「おまえさんは――」
「ロブスターを!」とグリフィンが叫び、空中へ跳ね上がった。
「――できるだけ遠く沖へ投げる――」
「追いかけて泳ぐ!」とグリフィンが金切り声を上げた。
「海の中で宙返り!」とニセカメが叫び、狂ったように跳ね回った。
「もう一度ロブスターを替える!」とグリフィンが声を限りにわめいた。
「また陸へ戻る。これで第一の型はおしまいだ」とニセカメは、急に声を落として言った。そしてそれまでずっと、気がふれたように跳びはねていた二匹は、またひどく悲しげに、静かに腰を下ろし、アリスを見つめた。
「きっと、とてもきれいな踊りなんでしょうね」とアリスはおずおずと言った。
「少し見てみたいかね?」とニセカメが言った。
「ぜひ」とアリスは言った。
「よし、第一の型をやってみよう!」とニセカメがグリフィンに言った。「ロブスターなしでもできるさ。どちらが歌う?」
「ああ、おまえが歌え」とグリフィンは言った。「歌詞を忘れた。」
そこで二匹は、 solemn にアリスのまわりをぐるぐる踊り始めた。近づきすぎるたびにときどきアリスの足を踏み、前足を振って拍子を取りながら、ニセカメがとてもゆっくりと、悲しげに歌った。――
「もう少し速く歩かないか」とキスがカタツムリに言った。
「すぐ後ろにネズミイルカがいて、ぼくのしっぽを踏んでいる。
見ろよ、ロブスターもカメたちも、あんなにいそいそ進んでる!
小石の浜で待ってるよ――きみも踊りに加わらないか?
来るかい、来ないかい、来るかい、来ないかい、踊りに来るかい?
来るかい、来ないかい、来るかい、来ないかい、踊りに来ないかい?
「ぼくらがロブスターと一緒につかまれて、
海へ投げ込まれる楽しさなんて、きみには本当にわからない!」
けれどカタツムリは「遠すぎる、遠すぎる!」と横目でちらり――
キスには丁重に礼を言ったが、踊りには加わらないと言った。
行かない、行けない、行かない、行けない、踊りには加わらない。
行かない、行けない、行かない、行けない、踊りには加われない。
「どこまで行こうと何の問題がある?」うろこだらけの友は答えた。
「向こう側には、別の岸があるじゃないか。
イングランドから遠ざかるほど、フランスには近づく――
だから青ざめないで、いとしいカタツムリよ、来て踊りに加わろう。
来るかい、来ないかい、来るかい、来ないかい、踊りに来るかい?
来るかい、来ないかい、来るかい、来ないかい、踊りに来ないかい?」
「ありがとう、とても面白い踊りでした、見ているぶんには」とアリスは言った。やっと終わったのがとてもうれしかったのだ。「それに、キスについてのあの不思議な歌、とても好きだわ!」
「ああ、キスのことなら」とニセカメは言った。「あれらは――もちろん見たことがあるだろう?」
「ええ」とアリスは言った。「食卓でよく見たことが――」あわてて言葉を飲み込んだ。
「食卓がどこにあるのかは知らんが」とニセカメは言った。「そんなに何度も見たなら、もちろんどんなものか知っているだろう。」
「たぶん」とアリスは考え込みながら答えた。「しっぽを口に入れていて――それに全身にパン粉がついているわ。」
「パン粉のところは間違いだ」とニセカメは言った。「パン粉なんぞ、海の中ではみんな洗い流されてしまう。だが、しっぽを口に入れているのは本当だ。そのわけは――」ここでニセカメはあくびをし、目を閉じた。――「そのわけや何やらを、この子に話してやってくれ」とグリフィンに言った。
「そのわけはだな」とグリフィンは言った。「あいつらが、どうしてもロブスターと踊りに行くと言い張ったからだ。だから海へ投げ出された。するとずいぶん長い距離を落ちるはめになった。だからしっぽが口にしっかりはまり込んだ。だから二度と抜けなくなった。それだけだ。」
「ありがとう」とアリスは言った。「とても面白いわ。キスについて、こんなにたくさん知ったのは初めて。」
「望むなら、もっと教えてやれるぞ」とグリフィンは言った。「なぜホワイティング[訳注:英語でキスなどの白身魚を指す語。ここでは“白くする”という意味との言葉遊び]と呼ばれるか知っているか?」
「考えたこともなかったわ」とアリスは言った。「どうして?」
「長靴や靴を白くするからだ」とグリフィンはひどく厳かに答えた。
アリスはすっかり面食らった。「長靴や靴を白くする!」と、驚いた調子で繰り返した。
「じゃあ、おまえの靴は何で仕上げてあるんだ?」とグリフィンは言った。「つまり、何でそんなにつやつやしているんだ?」
アリスは自分の靴を見下ろし、少し考えてから答えた。「靴墨だと思うわ。」
「海の底の長靴や靴は」とグリフィンは低い声で続けた。「ホワイティングで仕上げるのだ。これでわかったな。」
「じゃあ、それは何でできているの?」
アリスはひどく興味津々な声でたずねた。
「もちろん、靴底とウナギだ」とグリフィンはいささか苛立たしげに答えた。「そんなこと、エビだって知っている。」
「もしわたしがそのキスだったら」と、まだあの歌のことを考えていたアリスは言った。「ネズミイルカにこう言ったわ。『下がっていてください。わたしたちはあなたに一緒に来てほしくありません!』って。」
「あれには一緒にいてもらわねばならんかったのだ」とニセカメは言った。「賢い魚なら、ネズミイルカなしでどこかへ出かけたりはしない。」
「本当にしないの?」とアリスはたいへん驚いた調子で言った。
「もちろんしない」とニセカメは言った。「なにしろ、もし魚がわしのところへ来て、旅に出ると言ったら、わしはこう聞くね。『何のネズミイルカを連れて?』。」
「『何の目的で』のことじゃないの?」とアリスは言った。
「わしは言ったとおりの意味で言っている」とニセカメは気分を害した調子で答えた。するとグリフィンが付け加えた。「さあ、今度はおまえの冒険を聞かせてもらおう。」
「今朝からのことなら、お話しできます」とアリスは少しおずおずと言った。「でも昨日に戻っても仕方がないんです。だって、そのころのわたしは別人でしたから。」
「そこを全部説明しろ」とニセカメが言った。
「いや、いや! 冒険が先だ」とグリフィンが苛立った調子で言った。「説明なんぞ、とてつもなく時間がかかる。」
そこでアリスは、初めて白うさぎを見たときからの冒険を語り始めた。最初のうちは少し緊張した。二匹が両側からぴったり近寄り、目も口もとても大きく開けていたからだが、話しているうちにだんだん勇気が出てきた。聞き手たちは、アリスがイモムシに向かって「年をとったね、ウィリアムおじいさん」を暗唱したこと、しかも言葉が全部違って出てきたところまで、まったく静かにしていた。そこでニセカメが長く息を吸い込み、「それは実に妙だ」と言った。
「これ以上ないほど妙だな」とグリフィンは言った。
「全部違って出てきた!」とニセカメは考え深げに繰り返した。「今、この子に何か暗唱させてみたい。始めるように言ってくれ。」
ニセカメは、まるでグリフィンがアリスに対して何らかの権威を持っていると思っているかのように、グリフィンを見た。
「立って、『怠け者の声がする』を暗唱しろ」とグリフィンは言った。
「ここの生き物たちは、どうして人にあれこれ命令して、暗唱までさせるのかしら!」とアリスは思った。「これならいっそ学校にいるのと変わらないわ。」
それでもアリスは立ち上がり、暗唱を始めた。けれど頭の中がロブスター・クアドリールのことでいっぱいだったので、自分が何を言っているのかほとんどわからず、言葉は実に奇妙なものになってしまった。――
「これはロブスターの声、こう言うのが聞こえた、
『焼きすぎて茶色くなった、髪に砂糖をかけなくちゃ』。
アヒルがまぶたでするように、彼は鼻で
帯とボタンを整えて、つま先を外へ向ける。」
[後の版では次のように続く
砂がすっかり乾くと、彼はヒバリのように陽気になり、
サメのことを見下した口調で語る。
けれど潮が満ち、サメがあたりにいると、
その声はおびえて震えた響きになる。]
「わしが子どものころに言っていたのとは違うな」とグリフィンは言った。
「まあ、わしは前に聞いたことがない」とニセカメは言った。「だが、並外れてばかげた響きだ。」
アリスは何も言わなかった。両手で顔を覆って座り込み、何かがまた自然なふうに起こることなどあるのだろうかと考えていた。
「説明してもらいたい」とニセカメが言った。
「この子に説明はできない」とグリフィンはあわてて言った。「次の詩へ進め。」
「でも、つま先のことは?」とニセカメは食い下がった。「鼻で、いったいどうやってつま先を外へ向けられるのだ?」
「踊りの第一ポジションです。」
アリスは言った。けれど全体がひどくわけがわからず、話題を変えたくてたまらなかった。
「次の詩へ進め」とグリフィンが苛立たしげに繰り返した。「『彼の庭のそばを通ると』で始まるやつだ。」
アリスは、きっとまた全部おかしくなると確信していたものの、逆らう勇気はなかったので、震える声で続けた。――
「彼の庭のそばを通ると、片目で見た、
フクロウとヒョウがパイを分け合っているのを――」
[後の版では次のように続く
ヒョウはパイ皮と肉汁と肉を取り、
フクロウはごちそうの取り分として皿をもらった。
パイがすっかりなくなると、フクロウは恩恵として、
親切にもスプーンを懐に入れることを許された。
一方ヒョウはうなりながらナイフとフォークを受け取り、
宴を締めくくった――]
「そんなものをずらずら暗唱して何の役に立つのだ」とニセカメが遮った。「進みながら説明しないのなら。わしがこれまで聞いた中で、間違いなくいちばん混乱するものだ!」
「そうだな、もうやめたほうがいいと思う」とグリフィンが言った。アリスはそうできることが、ただただうれしかった。
「ロブスター・クアドリールの別の型を試してみるか?」とグリフィンは続けた。「それとも、ニセカメに歌を歌ってもらいたいか?」
「ああ、歌をお願いします。ニセカメさんがよろしければ」とアリスがあまりに熱心に答えたので、グリフィンはいささか気分を害した調子で言った。「ふん! 好みというものはわからんな! この子に『カメのスープ』を歌ってやれ、なあ、相棒。」
ニセカメは深々とため息をつき、ときどきすすり泣きに詰まる声で、歌い始めた。――
「美しいスープ、濃くて緑の、
熱いスープ鉢で待っている!
こんなごちそうに身をかがめぬ者があろうか?
夕べのスープ、美しいスープ!
夕べのスープ、美しいスープ!
うつく――しいスー――プ!
うつく――しいスー――プ!
夕べ――え――のスー――プ、
美しい、美しいスープ!
「美しいスープ! 魚だろうと、
獲物の肉だろうと、ほかのどんな皿だろうと、誰が気にする?
たった二ペンスぶんだけの美しいスープのためなら、
ほかのすべてを差し出さぬ者がいるだろうか?
たった一ペニーぶんだけの美しいスープ?
うつく――しいスー――プ!
うつく――しいスー――プ!
夕べ――え――のスー――プ、
美しい、うつく――しきスープ!」
「もう一度、合唱だ!」とグリフィンが叫び、ニセカメがちょうど繰り返し始めたそのとき、遠くから「裁判が始まるぞ!」という叫び声が聞こえた。
「来い!」とグリフィンは叫び、アリスの手を取って、歌の終わりも待たずに急いで駆け出した。
「何の裁判なの?」
走りながらアリスは息を切らして聞いた。けれどグリフィンは「来い!」と答えるだけで、さらに速く走った。そのあいだにも、後ろから吹いてくる風に乗って、悲しげな歌詞がだんだんかすかに届いてきた。――
「夕べ――え――のスー――プ、
美しい、美しいスープ!」
第十一章 タルトを盗んだのは誰?
二人が着くと、ハートの王と女王は玉座に座っており、そのまわりには大群衆が集まっていた。ありとあらゆる小鳥や獣、それにトランプ一組まるごとである。ハートのジャックは鎖につながれ、両側に一人ずつ兵士を置かれて、その前に立っていた。王のそばには白うさぎがいて、片手にラッパ、もう片方の手に羊皮紙の巻物を持っていた。法廷のど真ん中にはテーブルがあり、その上に大皿いっぱいのタルトが載っていた。あまりにおいしそうで、アリスは見るだけでお腹がすいてきた――「早く裁判をすませて」とアリスは思った。「お菓子を配ってくれればいいのに!」
だが、どうもそんな気配はなさそうだったので、アリスは時間つぶしに、まわりのものを見回し始めた。
アリスはこれまで裁判所に入ったことはなかったが、本で読んだことはあったので、そこにあるものの名前をほとんど知っているとわかって、かなりうれしくなった。「あれが裁判官ね」とアリスは心の中で言った。「大きなかつらをかぶっているもの。」
ちなみに裁判官は王だった。そして王はかつらの上に王冠をかぶっていたので(どうやったのか見たければ口絵を見るといい)、まったく居心地がよさそうには見えず、確かに似合ってもいなかった。
「それから、あれが陪審員席ね」とアリスは思った。「あの十二匹の生き物は」(中には動物もいれば鳥もいたので、「生き物」と言わざるを得なかったのだ)「きっと陪審員だわ。」
アリスはこの最後の言葉を、二、三度心の中で繰り返した。少し得意だったのだ。というのも、自分と同じくらいの年の女の子で、この言葉の意味を知っている子はほとんどいないだろうと考えたからで、それは確かにその通りだった。もっとも、「陪審の人たち」でも十分だったのだけれど。
十二人の陪審員は、みな石板にせわしなく何かを書いていた。「何をしているの?」
アリスはグリフィンにささやいた。「裁判が始まる前なんだから、まだ書き留めることなんて何もないはずでしょう。」
「自分の名前を書いているんだ」とグリフィンがささやき返した。「裁判が終わる前に忘れてしまうと困るからな。」
「ばかみたい!」
アリスは憤った大きな声で言い始めたが、あわてて口をつぐんだ。白うさぎが「法廷内は静粛に!」と叫び、王が眼鏡をかけ、誰がしゃべっているのか見定めようと、不安げにあたりを見回したからだ。
アリスには、まるで肩越しにのぞき込んでいるかのように、陪審員たちが全員、石板に「ばかみたい!」と書いているのが見えた。しかも、そのうち一人が「ばか」のつづりを知らず、隣の者に聞かなければならないことまでわかった。「裁判が終わるころには、あの石板、とんでもないごちゃごちゃになるでしょうね!」とアリスは思った。
陪審員の一人が、きいきい鳴る鉛筆を持っていた。もちろんアリスには、それが我慢ならなかったので、法廷をぐるりと回ってその背後に行き、まもなく機会を見つけて取り上げた。あまりに素早くやったので、かわいそうな小さな陪審員(それはトカゲのビルだった)は、それがいったいどこへ行ったのかまるでわからなかった。そこであちこち探したあげく、その日の残りのあいだ、指一本で書かなければならなくなった。もっとも、これはほとんど役に立たなかった。石板には何の跡も残らなかったからだ。
「布告官、起訴状を読め!」と王が言った。
すると白うさぎはラッパを三度吹き鳴らし、それから羊皮紙の巻物を広げ、次のように読み上げた。――
「ハートの女王、タルトを焼いた、
ある夏の日のこと。
ハートのジャック、そのタルト盗み、
すっかり持ち去った!」
「評決を考えよ」と王が陪審員に言った。
「まだです、まだです!」とうさぎがあわてて割り込んだ。「その前に、まだたくさんあります!」
「第一の証人を呼べ」と王が言った。すると白うさぎはラッパを三度吹き鳴らし、「第一の証人!」と呼ばわった。
第一の証人は帽子屋だった。片手にティーカップ、もう片方の手にバターつきパンを持って入ってきた。「申し訳ございません、陛下」と帽子屋は話し始めた。「こんなものを持ち込みまして。ただ、お呼びがかかったとき、まだお茶を飲み終えていなかったもので。」
「飲み終えておくべきだった」と王は言った。「いつ始めた?」
帽子屋は、ヤマネと腕を組んで法廷についてきた三月ウサギを見た。「三月十四日だったと思います」と帽子屋は言った。
「十五日」と三月ウサギが言った。
「十六日」とヤマネが付け加えた。
「それを書き留めよ」と王は陪審員に言った。陪審員たちは三つの日付をすべて石板に熱心に書き、それからそれらを足し合わせ、答えをシリングとペンスに換算した。
「帽子を取れ」と王は帽子屋に言った。
「私のものではありません」と帽子屋は言った。
「盗品だ!」と王は叫び、陪審員のほうを向いた。陪審員たちはすぐさまその事実をメモした。
「売り物として持っているのです」と帽子屋は説明として付け加えた。「自分のものは一つもありません。私は帽子屋ですから。」
ここで女王が眼鏡をかけ、帽子屋をじろじろ見つめ始めた。帽子屋は青ざめ、そわそわした。
「証言せよ」と王が言った。「そして緊張するな。さもなくば、その場で処刑する。」
これは証人を少しも励まさなかったらしい。帽子屋は片足からもう片足へ重心を移し続け、女王を不安げに見ていた。そして混乱のあまり、バターつきパンではなくティーカップを大きくかじってしまった。
ちょうどそのとき、アリスはひどく奇妙な感覚に襲われ、それが何なのかわかるまで大いに戸惑った。アリスはまた大きくなり始めていたのだ。最初は立ち上がって法廷を出ようかと思ったが、考え直し、自分のいる余地がある限り、そのままいることに決めた。
「そんなに押さないでくれないか」と、隣に座っていたヤマネが言った。「息もろくにできない。」
「しかたないの」とアリスはとてもおとなしく言った。「わたし、伸びているんだもの。」
「ここで伸びる権利なんて、きみにない」とヤマネは言った。
「ばかなことを言わないで」とアリスは少し強気に言った。「あなたも伸びているじゃない。」
「ああ、でもぼくは道理にかなった速さで伸びる」とヤマネは言った。「そんなばかげた伸び方じゃない。」
そしてひどく不機嫌そうに立ち上がると、法廷の反対側へ移っていった。
そのあいだずっと、女王は帽子屋を見つめるのをやめなかった。そしてヤマネが法廷を横切ったちょうどそのとき、廷吏の一人に「前回の演奏会に出た歌い手たちの名簿を持っておいで!」と言った。これを聞いて気の毒な帽子屋はひどく震え、両方の靴を振り落としてしまった。
「証言せよ」と王は怒って繰り返した。「さもなくば、緊張していようがいまいが処刑する。」
「私は哀れな男でございます、陛下」と帽子屋は震える声で始めた。「――それにお茶を始めてもおりませんでした――一週間かそこらしか経っておらず――バターつきパンがこんなに薄くなってしまうわ――お茶がちらちらするわで――」
「何がちらちらするだと?」と王が言った。
「お茶から始まったのです」と帽子屋は答えた。
「ちらちらがTで始まるのは当然だ!」と王は鋭く言った。「わしを間抜けだと思っているのか? 続けろ!」
「私は哀れな男でございます」と帽子屋は続けた。「それからたいていのものがちらちらしまして――ただ三月ウサギが言いました――」
「言ってない!」と三月ウサギが大あわてで割り込んだ。
「言った!」と帽子屋が言った。
「否認する!」と三月ウサギが言った。
「本人が否認している」と王が言った。「その部分は省け。」
「ええ、とにかく、ヤマネが言いました――」帽子屋は続けながら、不安げにあたりを見回した。ヤマネまで否認するか確かめようとしたのだ。だがヤマネはぐっすり眠っていたので、何も否認しなかった。
「そのあと」と帽子屋は続けた。「私はバターつきパンをもう少し切りまして――」
「だがヤマネは何と言ったのだ?」と陪審員の一人がたずねた。
「それは思い出せません」と帽子屋は言った。
「思い出さねばならん」と王が述べた。「さもなくば処刑する。」
哀れな帽子屋はティーカップとバターつきパンを落とし、片膝をついた。「私は哀れな男でございます、陛下」と言い始めた。
「おまえは実に哀れな話し手だ」と王は言った。
ここでモルモットの一匹が喝采し、ただちに廷吏たちに鎮圧された。(「鎮圧」というのは少し難しい言葉なので、どうやって行われたか説明しておこう。口をひもで縛れる大きな帆布の袋があり、廷吏たちはそこへモルモットを頭から滑り込ませ、それからその上に座ったのだ。)
「あれを見られてよかった」とアリスは思った。「新聞で裁判の終わりによく、『拍手が起こりかけたが、ただちに廷吏によって鎮圧された』と読んだけれど、今まで意味がわからなかったもの。」
「それだけしか知らないなら、下がってよい」と王は続けた。
「これ以上低くは下がれません」と帽子屋は言った。「もう床におりますので。」
「では座ってよい」と王は答えた。
ここでもう一匹のモルモットが喝采し、鎮圧された。
「よし、これでモルモットは片づいたわ!」とアリスは思った。「これからは少しましに進むでしょう。」
「できればお茶を終えたいのですが」と帽子屋は、歌い手の名簿を読んでいる女王を不安げに見ながら言った。
「行ってよい」と王が言った。帽子屋は自分の靴を履くのを待つことさえせず、急いで法廷を出て行った。
「――それから外であやつの首をはねておやり」と女王が廷吏の一人に付け加えた。だが廷吏が戸口へたどり着く前に、帽子屋はもう見えなくなっていた。
「次の証人を呼べ!」と王が言った。
次の証人は公爵夫人の料理人だった。手に胡椒入れを持っていたので、アリスはその料理人が法廷に入ってくる前から、戸口近くの人々が一斉にくしゃみをし始めた様子で、それが誰なのかわかった。
「証言せよ」と王が言った。
「しないよ」と料理人は言った。
王は不安げに白うさぎを見た。白うさぎは低い声で言った。「陛下がこの証人を反対尋問なさらねばなりません。」
「まあ、しなければならぬなら、しなければならぬ」と王は憂鬱そうに言い、腕を組んで、目がほとんど見えなくなるほど料理人にしかめ面をしてから、低い声で言った。「タルトは何でできている?」
「たいてい胡椒だよ」と料理人は言った。
「糖蜜」と、その背後で眠そうな声がした。
「そのヤマネを捕まえなさい」と女王が金切り声を上げた。「そのヤマネの首をはねなさい! そのヤマネを法廷からつまみ出しなさい! 鎮圧しなさい! つねりなさい! ひげをむしり取りなさい!」
数分のあいだ、法廷中がヤマネを外へ出そうとして大混乱になった。そしてようやく落ち着いたころには、料理人は姿を消していた。
「気にするな!」と王は大いにほっとした様子で言った。「次の証人を呼べ。」
それから女王に小声で付け加えた。「本当に、わが妃よ、次の証人はそなたが反対尋問しなければならぬ。まったく額が痛くなる!」
アリスは、白うさぎが名簿を探り回るのを見守りながら、次の証人がどんな者かとても気になっていた。「――だって、まだ証拠らしい証拠はあまり出ていないもの」と心の中で言った。だから白うさぎが、かん高い小さな声を張り上げて「アリス!」という名前を読み上げたとき、アリスがどれほど驚いたか、想像してほしい。
第十二章 アリスの証言
「はい!」とアリスは叫んだ。その場のあわただしさで、この数分のうちに自分がどれほど大きくなったかをすっかり忘れていた。そしてあまり急いで立ち上がったものだから、スカートの端で陪審員席をひっくり返し、陪審員たち全員を下にいる群衆の頭の上へぶちまけてしまった。陪審員たちはそこで手足をばたばたさせて転がり、アリスには先週うっかりひっくり返してしまった金魚鉢のことが強く思い出された。
「ああ、本当にごめんなさい!」とアリスはひどくうろたえた声で叫び、できるだけ素早く陪審員たちを拾い集め始めた。金魚の事故が頭から離れず、すぐに集めて陪審員席へ戻さなければ、みんな死んでしまうような、ぼんやりした考えがあったのだ。
「裁判は進められぬ」と王はひどく重々しい声で言った。「陪審員全員が正しい席に戻るまでは――全員だ」と、王はその言葉を強く繰り返し、言いながらアリスをじっと見た。
アリスが陪審員席を見ると、急いだせいでトカゲを頭から逆さまに入れてしまっていた。かわいそうな小さなトカゲは、まったく身動きが取れず、しょんぼりした様子でしっぽを振っていた。アリスはすぐに取り出し、ちゃんと入れ直した。「もっとも、大した違いはないでしょうけど」と心の中で言った。「裁判の役に立つという点では、どちら向きでもまったく同じだと思うわ。」
ひっくり返された衝撃から陪審員たちが少し立ち直り、石板と鉛筆が見つかって返されると、彼らはたいへん熱心にその事故の経緯を書き出し始めた。ただしトカゲだけは別だった。すっかり打ちのめされたらしく、口を開けたまま座り、法廷の天井を見上げることしかできなかった。
「この件について何を知っている?」と王がアリスに言った。
「何も」とアリスは言った。
「何ひとつか?」と王は食い下がった。
「何ひとつ」とアリスは言った。
「それは非常に重要だ」と王は陪審員のほうを向いて言った。陪審員たちがちょうどそれを石板に書き始めたところで、白うさぎが割り込んだ。「非重要、という意味でございますね、陛下、もちろん」と、非常にうやうやしい調子で言った。ただし話しながら、王に向かって眉をひそめたり顔をしかめたりしていた。
「非重要、もちろん、そういう意味だった」と王はあわてて言い、それから小声でひとりごとのように続けた。
「重要――非重要――非重要――重要――」まるで、どちらの言葉の響きがよいか試しているようだった。
陪審員の何人かは「重要」と書き、何人かは「非重要」と書いた。
アリスは石板をのぞき込めるほど近くにいたので、それが見えた。「でも、少しも問題ないわ」と心の中で思った。
そのとき、しばらくのあいだ手帳にせっせと何かを書いていた王が、「静粛に!」と甲高く叫び、手帳から読み上げた。「第四十二条。身長一マイル(約1.6キロメートル)を超える者は全員、法廷を退去すること。」
みんながアリスを見た。
「わたしは一マイルもありません」とアリスは言った。
「ある」と王は言った。
「ほとんど二マイル(約3.2キロメートル)だわ」と女王が付け加えた。
「どちらにしても、わたしは行きません」とアリスは言った。「それに、それはちゃんとした規則じゃないわ。今、作ったんでしょう。」
「この本でいちばん古い規則だ」と王は言った。
「それなら第一条であるべきだわ」とアリスは言った。
王は青ざめ、あわてて手帳を閉じた。「評決を考えよ」と、低く震える声で陪審員に言った。
「まだ証拠がございます、陛下」と白うさぎが大あわてで跳び上がって言った。「この紙がたった今拾われました。」
「中には何があるの?」と女王が言った。
「まだ開いておりません」と白うさぎは言った。「ですが、囚人が――誰かに宛てて書いた手紙のようです。」
「そうに違いない」と王は言った。「誰にも宛てていないのでなければな。そんなことは普通ないからな。」
「宛名は誰になっている?」と陪審員の一人が言った。
「宛名はまったくありません」と白うさぎは言った。「実のところ、外側には何も書かれていません。」
白うさぎはそう言いながら紙を広げ、付け加えた。「結局、手紙ではありません。詩の一組です。」
「囚人の筆跡か?」と別の陪審員がたずねた。
「いいえ、違います」と白うさぎは言った。「そこがいちばん妙なところです」(陪審員たちはみな困惑した顔をした。)
「誰かほかの者の筆跡をまねたに違いない」と王が言った。(陪審員たちはみなまた顔を明るくした。)
「恐れながら陛下」とジャックは言った。「私はそれを書いておりませんし、彼らにも私が書いたとは証明できません。最後に署名もありません。」
「署名していないなら」と王は言った。「そのぶん事態は悪くなるばかりだ。何か悪さを企んでいたに違いない。そうでなければ、正直者らしく自分の名前を署名したはずだからな。」
これには一同から拍手が起こった。その日、王が言った中で初めて、本当に賢い言葉だったからだ。
「それが有罪の証明だわ」と女王は言った。
「そんなこと何も証明していません!」とアリスは言った。「だって、その詩が何についてのものかさえ、あなたたちは知らないじゃない!」
「読め」と王が言った。
白うさぎは眼鏡をかけた。「どこから始めましょうか、陛下?」とたずねた。
「初めから始めよ」と王は厳かに言った。「そして終わりに着くまで続けよ。それから止まれ。」
白うさぎが読んだ詩は、次のようなものだった。――
「あの人たちは、きみが彼女のところへ行ったと私に告げ、
彼に私のことを話したと言った。
彼女は私をよい人だと評したが、
私は泳げないと言った。
彼はあの人たちに、私が行かなかったと知らせた
(それが本当だと私たちは知っている)。
もし彼女がこの件を押し進めたら、
きみはどうなるだろう?
私は彼女に一つ、あの人たちは彼に二つ、
きみは私たちに三つかそれ以上を与えた。
それらはみな彼からきみへ戻った、
もとは私のものだったのに。
もし私か彼女がたまたま
この件に巻き込まれることになったなら、
彼はきみがあの人たちを自由にしてくれると頼りにしている、
まさに私たちがそうだったように。
私の考えでは、きみは
(彼女がこの発作を起こす前には)
彼と、私たちと、それとの間に立つ
障害だった。
彼女があれらをいちばん気に入っていたことを、彼に知らせてはいけない、
なぜならこれは永遠に、
ほかのすべての者に伏せられた秘密でなければならないから、
きみと私との間だけの。」
「これはこれまで聞いた中で最も重要な証拠だ」と王は手をこすりながら言った。「だから今こそ陪審員は――」
「もし誰かこの詩を説明できる人がいるなら」とアリスは言った。(この数分でとても大きくなっていたので、王の言葉を遮ることが少しも怖くなかったのだ)「その人に六ペンスをあげるわ。わたしには一片の意味もあるとは思えないもの。」
陪審員たちはみな石板に「彼女はそれに一片の意味もあるとは思っていない」と書いたが、誰もその紙を説明しようとはしなかった。
「もしそこに意味がないなら」と王は言った。「大いに手間が省けるというものだ。意味を探そうとしなくていいのだからな。とはいえ、どうだろう」と王は続け、膝の上に詩を広げて片目で見た。「やはり、いくらか意味が見えるような気もする。『――私は泳げないと言った――』おまえは泳げないな?」と、ジャックのほうを向いて付け加えた。
ジャックは悲しげに首を振った。「私が泳げそうに見えますか?」と言った。(確かにまったくそうは見えなかった。全身が厚紙でできていたからだ。)
「ここまではよろしい」と王は言い、詩をぶつぶつと読み進めた。「『それが本当だと私たちは知っている――』これはもちろん陪審員のことだ――『私は彼女に一つ、あの人たちは彼に二つ――』ふむ、それはつまり、あやつがタルトをどうしたかということに違いないな――」
「でも、続きには『それらはみな彼からきみへ戻った』とあります」とアリスは言った。
「ほら、そこにあるではないか!」と王は勝ち誇って言い、テーブルの上のタルトを指さした。「これほど明らかなものはない。さらに――『彼女がこの発作を起こす前には――』妃よ、そなたは発作など起こしたことはないと思うが?」と王は女王に言った。
「一度もない!」と女王は激怒して言いながら、インク壺をトカゲに投げつけた。(不運な小さなビルは、指一本で石板に書くのをやめていた。何の跡もつかないとわかったからだ。だが今は、顔を伝って流れ落ちるインクが続くかぎり、それを使ってあわててまた書き始めた。)
「ならば、その言葉はそなたには合わぬな」と王は法廷を見回して、にっこり笑いながら言った。しんと静まり返った。
「しゃれだ!」と王は気分を害した調子で付け加え、みんなが笑った。「陪審員は評決を考えよ」と王はその日、二十回目くらいに言った。
「いいえ、いいえ!」と女王は言った。「判決が先――評決はそのあと。」
「ばかばかしい!」とアリスは大声で言った。「判決を先にするなんて!」
「黙りなさい!」と女王は紫色になって言った。
「黙りません!」とアリスは言った。
「この娘の首をはねなさい!」と女王は声の限りに叫んだ。誰も動かなかった。
「あなたなんか、誰が怖がるものですか?」とアリスは言った。(このころにはもう、元の大きさにすっかり戻っていた。)「あなたたちはただのトランプの束じゃない!」
するとトランプの束全体が空中に舞い上がり、アリスめがけて飛びかかってきた。アリスは恐怖半分、怒り半分で小さく悲鳴を上げ、それらを払いのけようとした。そして気がつくと、土手の上に横たわり、頭は姉の膝の上にあった。姉は、木々からひらひら落ちてアリスの顔にかかっていた枯れ葉を、そっと払いのけていた。
「起きなさい、アリスちゃん!」と姉が言った。「まあ、ずいぶん長く眠っていたのね!」
「ああ、とても不思議な夢を見たの!」とアリスは言った。そして、あなたがたが今読んできたばかりの、この奇妙な冒険の数々を、覚えているかぎり姉に話して聞かせた。話し終えると、姉はアリスにキスをして言った。「それは本当に不思議な夢だったわね、アリス。でも、さあ、お茶に行きなさい。もう遅くなってきたわ。」
そこでアリスは立ち上がり、駆けていった。走りながら、当然のことながら、なんてすばらしい夢だったのだろうと考えていた。
けれど姉は、アリスが残していったそのままの場所に座り続け、片手に頭をもたせかけ、沈む夕日を見つめながら、小さなアリスとその不思議な冒険の数々を思っていた。やがて姉もまた、ある意味で夢を見始めた。その夢はこうだった。――
まず姉は、小さなアリス自身を夢に見た。小さな手がもう一度、自分の膝の上で組まれ、明るく好奇心に満ちた瞳がこちらを見上げている。姉にはアリスの声の調子そのものが聞こえ、いつも目に入ろうとする、まとまらない髪を払うために、ちょっと首を振るあの変な仕草も見えた。そして耳を傾けているうちに、あるいは耳を傾けているような気になっているうちに、まわり一帯が、妹の夢に出てきた奇妙な生き物たちで息づき始めた。
足元では白うさぎが急いで通り過ぎ、長い草がかさかさ鳴った――怯えたネズミが近くの池を水しぶきを上げて進んでいく――三月ウサギとその仲間たちが終わりのない食事を分け合うティーカップのがちゃがちゃいう音が聞こえ、女王が不運な客たちを処刑に送るかん高い声も聞こえる――またしても豚の赤ちゃんが公爵夫人の膝でくしゃみをし、そのまわりでは皿や鉢ががらがら砕ける――またしてもグリフィンの叫び、トカゲの石筆のきいきい鳴る音、鎮圧されたモルモットたちの息詰まる音が、哀れなニセカメの遠いすすり泣きと入り混じって、あたりに満ちた。
こうして姉は目を閉じたまま座り続け、半ば自分がワンダーランドにいるのだと信じていた。もっとも、もう一度目を開けるだけで、すべてが退屈な現実に変わってしまうことはわかっていた――草はただ風にそよぐだけになり、池は揺れる葦に波立つだけになる――がちゃがちゃいうティーカップは羊の鈴のちりんちりんという音に、女王のかん高い叫びは羊飼いの少年の声に変わる――赤ちゃんのくしゃみ、グリフィンの叫び、そのほかすべての奇妙な物音は、忙しい農場の庭の入り混じったざわめきに変わるのだと、姉にはわかっていた――そして遠くで鳴く牛の声が、ニセカメの重いすすり泣きの代わりになるのだ。
最後に姉は、同じこの小さな妹が、いつの日か大人の女性になるさまを心に描いた。そして成長した歳月を通じて、子どものころの素朴で愛情深い心をずっと保ち続けるだろうことも。やがてまわりに別の小さな子どもたちを集め、たくさんの不思議な物語で、もしかすると遠い昔のワンダーランドの夢そのもので、その子たちの瞳を明るく輝かせ、好奇心でいっぱいにするだろうことも。そして子どもたちの素朴な悲しみのすべてに寄り添い、素朴な喜びのすべてに楽しみを見いだすだろうことも。自分自身の子ども時代と、幸せだった夏の日々を思い出しながら。
おしまい
公開日: 2026-07-01