王子と乞食

The Prince and the Pauper

出版年: 1881年

作者: マーク・トウェイン

訳者: 双子具空(ふたご ぐくう)

概要: 16世紀イングランドを舞台に、身分や運命に翻弄される二人の少年の物語である。一人は王室に生まれたウェールズ公エドワード、もう一人は貧しい乞食トム・キャンティ。彼らは互いの外見がそっくりであることから思いがけない運命に巻き込まれていく。王の威厳と庶民の苦難が交錯する中、少年たちは己の正体と立場に揺れ動……

公開日: 2025-05-30

わたしは、ある男から聞いたとおりの話を書き留めることにする。その男は父からそれを聞き、父はさらにその父から聞き、その父もまた同じように父から聞いた――そうして三百年あまり、父から子へ、子へと受け継がれ、語り継がれてきた話である。史実かもしれないし、ただの伝説――言い伝えにすぎぬのかもしれない。起きた出来事かもしれないし、起きなかった出来事かもしれない。だが、起きていてもおかしくはない。昔は賢者や学者が信じていたのかもしれぬし、無学で素朴な者たちだけが愛し、真に受けていたのかもしれぬ。

第一章 王子と乞食の誕生

古い都ロンドンで、十六世紀第二四半期のある秋の日、キャンティという貧しい家に男の子が生まれた。望まれていない子である。
その同じ日、テューダーという裕福な家にも、別のイングランドの子が生まれた。こちらは望まれた子だった。そしてイングランドじゅうが、その子を望んでいた。

イングランドはその子を長く待ち焦がれ、望み、神に祈り続けてきた。だから、ついに本当にその子が来たと知るや、人々は嬉しさに半ば正気を失った。顔見知り程度の者どうしが抱き合い、ほほに口づけし、泣き声を上げた。誰もが休みを取り、身分の高い者も低い者も、金持ちも貧乏人も、宴を張り、踊り、歌い、すっかり上機嫌になった。その騒ぎは昼も夜も、何日も続いた。

昼のロンドンは見ものだった。どのバルコニーからも屋根からも色鮮やかな旗が翻り、きらびやかな行列が通りを練り歩く。夜のロンドンもまた見ものだった。角ごとに大きな焚き火が燃え、そこを囲んで酔客たちの群れが大騒ぎで浮かれ回る。

イングランドじゅう、話題は新しい赤ん坊のことばかり――エドワード・テューダー、ウェールズ公である。絹とサテンにくるまれて寝かされ、周囲の大騒ぎなど知りもせず、偉い貴族や貴婦人がつききりで世話をして見守っていることも知らない――しかも、知ったところで気にもしないだろう。

だが、もう一人の赤ん坊、粗末なぼろ布に包まれたトム・キャンティのことは、誰も話題にしなかった。話したのは、彼が生まれてきたせいで厄介を背負い込むことになった、あの貧民一家の間だけである。

第二章 トムの幼いころ

数年飛ばすことにしよう。

ロンドンは千五百年の歴史をもち、当時としては大都会だった。人口は十万――倍はいたという者もいる。通りはとても狭く、曲がりくねり、汚かった。とりわけトム・キャンティの住む一帯は、ロンドン橋からそう遠くない場所で、ひどいものだった。

家は木造で、二階は一階より張り出し、三階はさらに二階から肘を突き出すようにせり出している。上へ伸びるほど横にも太り、まるで逆さまの段々だ。頑丈な梁を斜めに交差させた骨組みに、隙間を固い材料で埋め、しっくいを塗ってある。梁は持ち主の趣味で赤や青や黒に塗られ、そのため家並みは妙に絵になった。窓は小さく、菱形の小さなガラスがはめ込まれ、蝶番で外側に開く――扉のように。

トムの父親の家は、プディング・レーンから入った「オファル・コート」という、汚れた袋小路の奥にあった。小さく、朽ち、ぐらぐらしていたが、みじめに貧しい家族がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。キャンティ一族が占めていたのは三階の一間である。母と父には部屋の隅に一応の寝台があった。だがトムと祖母、それに妹が二人、ベットとナンには「制限」がない。床じゅうが彼らの寝場所で、好きな所に寝てよかった。

毛布の残骸が一、二枚、古びて汚れた藁の束がいくつか――それらは「寝具」と呼べなくもないが、まとまりがない。朝になると蹴り集められて山になり、夜になるとその山から必要な分だけ掘り出して使う、という具合だった。 ベットとナンは十五歳で、双子だった。根は優しい娘たちだが、不潔で、ぼろをまとい、無知の底に沈んでいた。母も同じである。

だが父と祖母は、二匹の悪鬼だった。飲めるときは必ず酔っぱらい、酔うと互いに殴り合うか、邪魔に入った者を殴る。酔っていようが醒めていようが、呪いの言葉と悪態と罵詈雑言が止まらない。ジョン・キャンティは盗人で、その母親は物乞いだった。子どもたちを物乞いには仕立てたが、盗人には仕立てそこねた。

その家に巣くう恐ろしい下層の群れの「中にいながら同類ではない」者として、善良な老司祭が一人いた。王が小銭同然の年金だけ渡して住まいも職も取り上げた男で、子どもたちをこっそり呼び寄せては、正しい道を秘密に教えた。アンドリュー神父はトムに、少しのラテン語も教え、読み書きも教えた。娘たちにも同じことをしてやりたかったが、娘たちは友だちの冷やかしが怖かった――女の子がそんな妙な芸当を身につけるなど、仲間に耐えられないことだったのだ。

オファル・コート一帯も、キャンティの家と同じような蜂の巣である。毎晩、そしてほとんど夜通し、酔い、騒乱、喧嘩が「日課」だった。飢えと同じくらい、頭蓋骨の割れた者がそこらにいた。

それでも小さなトムは不幸ではなかった。暮らしはきついが、それを「きつい」と知らなかった。オファル・コートの少年は皆そういう暮らしをしている。だからそれが正しく、当たり前で、まあまあ心地よいものだと思っていたのだ。

夜、手ぶらで帰れば、父がまず罵って殴り、終わったと思えば恐ろしい祖母がもう一度最初からやり直し、さらに上乗せする――トムはそれを知っていた。そして夜更け、飢えた母が、こっそり忍び寄っては、自分が食を抜いてでも取っておいた惨めな切れ端や固い皮を渡してくれることも知っていた。だが母はそういう「反逆」をしばしば夫に見つかり、そのたびに手ひどく殴られた。 そう、トムの暮らしは、まあそれなりに回っていた。とくに夏は。

物乞いは、身をつなぐ分だけにしておいた。物乞いを禁じる法は厳しく、罰も重かったからだ。そのぶん、トムは多くの時間を、アンドリュー神父が語る古い物語や伝説を聞いて過ごした。巨人と妖精、小人と精霊、魔法の城、豪奢な王と王子――そういう話である。

トムの頭は、そうした不思議でいっぱいになっていった。夜、暗がりで、薄汚い藁の上に横たわり、疲れ、空腹で、殴られた痛みにひりつきながらも、想像の鎖をほどいてしまえば、まもなく痛みも苦しみも忘れた。甘美な絵巻――宮殿で溺愛される王子の、魔法にかかったような暮らし――それを胸の内に描けばよかった。

やがて一つの望みが、昼も夜も離れず取り憑くようになった。自分の目で、本物の王子を一度でいいから見たい。オファル・コートの仲間に一度その話をしたことがある。だが彼らは容赦なく嘲り笑ったので、それ以来トムは夢を胸の奥にしまい込んだ。 トムはしばしば司祭の古い本を読み、わからぬところは説明してもらい、話をふくらませてもらった。読書と空想は、やがて彼の内側に変化を起こした。

夢の中の人々はあまりに立派で、彼は自分のぼろ衣と汚れを嘆き、清潔になり、もっとましな服を着たいと思うようになった。それでも泥の中で遊ぶのは同じで、しかも相変わらず楽しかった。だが、テムズ川で水しぶきを上げるのも、ただ楽しいからではなくなった。洗えて、汚れが落ちる――その「得」が、喜びに一つ加わったのだ。

チープサイドのメイポールの周りではいつも何かが起きていたし、見世物市もあった。時にはロンドンじゅうが、軍隊の行進を見る機会にも恵まれた。名高い不運者がロンドン塔へ、陸路か舟で護送されるときだ。ある夏の日、トムはスミスフィールドで哀れなアン・アスキューと男三人が火刑にされるのを見た。元司教が彼らに説教をしたが、トムの興味を引かなかった。――そう、全体として見れば、トムの人生は変化もあり、十分に楽しかったのである。 そのうち、王子の生活についての読書と空想が、あまりに強くトムを染め、知らぬ間に彼は「王子のまね」をし始めた。言葉づかいも振る舞いも、奇妙に儀礼張って宮廷風になっていく。親しい仲間は大いに感心し、大いに笑った。

だがやがて、若者たちの間でトムの影響力は日々増していった。いつしか彼らは、驚きと畏れをまじえ、トムを「格上の存在」のように見上げるようになった。とにかく物を知っている。驚くようなことを言い、驚くようなことをやってのける。しかも、底が知れぬほど深く賢い。

少年たちはトムの言葉や「お芝居」を大人に伝え、大人もまたトム・キャンティを話題にするようになり、ひとかどの天才、風変わりな逸材として眺め始めた。大人は困り事を解決してもらいにトムのところへ来て、しばしばその機転と判断に唖然とした。要するに、トムは知る者すべての英雄になった――ただし家族だけは別で、家族だけは彼に何も見なかった。 やがてトムは、ひそかに「宮廷」を組織した。自分が王子。特に親しい仲間たちが、近衛、侍従、従者、侍女、そして王族という役目を務める。日々、トムの恋愛小説的な読書から借りてきた、手の込んだ儀式で「王子」は迎えられる。日々、王室会議で「王国」の大事が議され、日々、模擬の殿下は、架空の陸軍・海軍・総督領に向けて勅令を下す。

そのあとトムは、ぼろをまとって外へ出、数ファージングを乞い、みすぼらしい固パンをかじり、いつもの平手や罵倒を受け、汚い藁をひとつかみ分だけ確保して体を伸ばし、そして夢の中で空虚な栄華を再開するのだ。

それでもなお――肉身の、現実の、本物の王子を、たった一度でいい、ひと目見たいという望みは、日ごと、週ごとに膨らんだ。ついにそれは他の望みをすべて飲み込み、人生でただ一つの情熱になった。 一月のある日、いつもの物乞いの道すがら、トムはミンシング・レーンからリトル・イースト・チープのあたりを、何時間も、とぼとぼと歩き回った。裸足で、寒さに震えながら、惣菜屋の窓をのぞき込み、そこに並ぶおぞましい豚肉パイや、ほかの致命的な発明品を欲しがってはため息をついた――トムにとっては、あの匂いだけで、天使の食べ物だと判じられるほどのご馳走だった。もっとも、運悪く、買って食べたことは一度もない。

冷たい霧雨が降り、空気は煤け、気が滅入る日だった。夜、家に着くころには、びしょ濡れで、疲れ果て、腹もぺこぺこで、父と祖母もさすがに――彼らなりの仕方で――その悲惨さを見落とせなかった。なので二人はさっそく、きびきびと殴りつけて寝床へ追いやった。

痛みと空腹、建物じゅうで続く罵り合いと殴り合いが、長いことトムを眠らせなかった。だがついに、思いは遠い恋の国へ漂い、広大な宮殿に住む宝石だらけの小王子たちに混じって眠りに落ちた。召使いたちは彼らの前にひれ伏し、命令を受ければ飛ぶように走る。そしていつものように、夢の中でトム自身が小王子になった。

夜通し、王の身分の栄光が彼を照らし、彼は光の洪水の中で大貴族や貴婦人の間を歩いた。香水の息を吸い込み、甘い音楽に酔い、きらめく群衆が道を開けてひれ伏すたび、ここでは微笑み、あちらでは王子らしく顎を引いて応えた。

だが朝、目を覚まして周囲の惨めさを見たとたん、夢はいつも通りの効果を発揮した。身の回りの卑小さを千倍に濃くしてしまうのだ。苦さがこみ上げ、胸は裂け、涙が出た。


第三章 トム、王子に会う

トムは腹を空かせたまま起き上がり、腹を空かせたままぶらぶらと出ていった。だが頭の中は、昨夜の夢のぼんやりした豪奢で忙しい。街のあちこちを歩き回り、自分がどこへ向かっているのか、周囲で何が起きているのか、ほとんど気づきもしない。人はトムにぶつかり、荒い言葉を浴びせる者もいたが、物思いの少年には届かなかった。

やがてトムはテンプル・バーにいることに気づいた。こちら方向へ来たのは、生まれて初めての遠出である。少し立ち止まって考え、それからまた空想に落ち込み、ロンドンの城壁の外へ出てしまった。

当時ストランドは、田舎道ではなくなって「街路」を気取っていた。ただし、それはかなり無理のある自称だった。片側には家並みがそこそこ続いていたが、反対側にあるのは、裕福な貴族の宮殿のような大建築が点々とするだけで、その間には広く美しい庭が川まで伸びていた――いまではそこも、陰鬱なレンガと石の街区がぎっしり詰まっている。

ほどなくトムはチャリング村を見つけ、昔の悲嘆に暮れた王が建てた美しい十字架のもとでひと休みした。それから静かで愛らしい道をぶらぶら下り、偉大な枢機卿の壮麗な宮殿の前を過ぎ、さらに向こうにそびえる、はるかに強大で荘厳な宮殿――ウェストミンスターへ向かった。

トムは嬉しい驚きに目を見開いて、その巨大な石造建築、翼のように広がる棟、険しい稜堡と塔、巨大な石の門、その金色の格子、堂々たる花崗岩の獅子像――そしてイングランド王権の印と徴に見入った。魂の望みは、ついに満たされるのか。ここは紛れもなく王の宮殿だ。天が許すなら、今こそ王子を見られるのではないか――血の通った、本物の王子を。

金色の門の両側には、生きた彫像が立っていた。つまり、頭から足まで輝く鋼の甲冑で包んだ、直立し、威厳に満ち、ぴくりとも動かぬ衛兵である。少し離れたところには、田舎者や町の人々が大勢いて、王族の姿がちらりとでも見えはしないかと待ち構えていた。ほかにもいくつもの堂々たる門が王宮の囲いを貫き、そこからは豪華な馬車が出入りし、豪華な人々が乗り、外には豪華な従者がついていた。

貧しい小さなトムは、ぼろをまとって近づいた。胸をどきどきさせ、希望を膨らませながら、番兵の前をおずおずと通り過ぎようとした、その瞬間――金の格子の向こうに、叫び出したくなるほどの光景が見えた。

中にいたのは、端正な少年だった。戸外の遊びや鍛錬で日に焼け、健康的に褐色で、衣装は美しい絹とサテン、宝石がきらめいている。腰には宝石を飾った小剣と短剣。足には洒落た半長靴、かかとは赤い。頭には粋な深紅の帽子、垂れた羽根飾りが大きな眩い宝石で留めてある。近くには絢爛たる紳士たちが数人――おそらく従者である。

ああ、王子だ。王子――生きている王子、本物の王子、疑いようもなく。そしてついに、貧しい少年の祈りがかなったのだ。

興奮で息は浅く早くなり、目は驚きと歓喜で大きく見開かれた。トムの心の中は一瞬で、ただ一つの望みだけになった。王子に近づき、食い入るようにしっかりと眺めたい。

気づけばトムは門の格子に顔を押しつけていた。次の瞬間、兵の一人が乱暴にトムを引きはがし、口をあんぐり開けた田舎者やロンドンの暇人たちの中へ、独楽のように放り飛ばした。

兵は言った。

「行儀をわきまえろ、この小乞食め!」

群衆はやんやと冷やかし笑った。だが若い王子は顔を赤くして門へ駆け寄り、目を怒りに燃やして叫んだ。

「貧しい子に、よくもそんな真似ができるな? よくも王たる父の、最も卑しい臣民にそんな扱いができるな! 門を開けろ。中へ入れてやれ!」 その移り気な群衆が、さっと帽子を脱ぐのを見るべきだった。
そして「ウェールズ公殿下、万歳!」と歓声を上げるのを聞くべきだった。

兵たちは鉾槍を捧げ銃のように構え、門を開き、そして再び捧げた。ひらひらしたぼろをまとった「貧乏国の小さな王子」が中へ入っていき、無尽蔵の富の王子と手を取り合うのだ。

エドワード・テューダーは言った。

「疲れて腹も減っているようだ。ひどい目に遭ったのだな。私と来い。」

六人の従者が飛び出した。何をしようとしたのかは知らない――口出しだろう。だがエドワードはまことに王子らしい仕草で彼らを退け、従者たちは像のようにその場で固まった。

エドワードはトムを、宮殿の豪華な一室へ連れて行った。エドワードはそこを自分の「書斎」と呼んだ。命令で食事が運ばれたが、トムがそれまで本でしか見たことのないようなご馳走だった。王子は、王子らしい繊細さと育ちのよさで、召使いを下がらせた。卑しい客が、彼らの値踏みする視線に怯えぬようにである。それから近くに座り、トムが食べる間、問いかけた。

「名は?」

「トム・キャンティでございます。殿下。」

「妙な名だ。住まいはどこだ?」

「町でございます。殿下。プディング・レーンから入った、オファル・コートに。」

「オファル・コート! それもまた妙だな。親はいるか?」

「父母がおります。それに祖母も――あまり尊い人とは言いにくうございます、どうかお許しを。双子の姉が二人、ナンとベット。」

「すると祖母は、あまり優しくないのだな?」

「誰に対してもでございます、殿下。心の曲がった者で、生涯ずっと悪事に手を染めております。」

「おまえをいじめるのか?」

「眠っている時か、酒に負けている時だけは手が止まりますが、正気に戻れば埋め合わせとばかりに、見事な打擲をくださいます。」

小さな王子の目に烈火が走った。

「何だと! 殴るだと?」

「はい、ええ、まことに。殿下。」

「殴る……! おまえほど小さく弱いのに。よいか、今夜までにはロンドン塔へ――父王が――」

「恐れながら殿下、祖母の身分をお忘れでございます。ロンドン塔は偉い方だけの牢でございます。」

「そのとおりだ。考えが及ばなかった。罰は考え直す。父は優しいか?」

「ガマー・キャンティと同じほどでございます、殿下。」

「父親など皆似たものかもしれぬ。私の父も人形のような気性ではない。手は重いが、私には手加減する。だが舌の方は、必ずしも手加減してくれぬこともある。母はどうだ?」

「母は良い者でございます。私に痛みも悲しみも、いかなる苦しみも与えません。ナンとベットも母と同じでございます。」

「姉たちは幾つだ?」 「十五でございます、殿下。」

「姉のレディ・エリザベスは十四。従妹のレディ・ジェーン・グレイは私と同い年で、美しく、しかも愛らしい。だが姉のレディ・メアリーは陰気な顔つきで――ところで。おまえの姉たちは、罪が魂を滅ぼすと言って、召使いに笑うことを禁じたりするか?」

「姉たちが? 殿下、まさか。姉たちに召使いがいるとお思いで?」

小さな王子はしばらく、真顔で小さな貧民を見つめた。それから言った。

「では、なぜいない? 夜、誰が衣を脱がせる? 朝、誰が着せる?」

「誰もいたしません、殿下。あの者たちに、衣を脱がせて裸で寝ろとでも? 獣のように。」

「衣、だと! 一枚しかないのか?」

「殿下、もう一枚あって何にいたしましょう。姉たちに体は二つずつはございません。」

「なんと奇妙で、不思議な話だ! 許せ、笑うつもりではなかった。だが、おまえの良いナンとベットには、衣も従者も十分に与えよう。すぐにだ。私の会計係に命じる。――いや、礼はいらぬ。些細なことだ。おまえは話しぶりがよい。気品がすっと出てくる。学はあるのか?」

「自分に学があるかどうか、私にはわかりません、殿下。アンドリュー神父という良い司祭が、親切にも本から教えてくださったのです。」

「ラテン語は?」

「ほんの少しでございます。殿下。」

「学べ。初めは難しいが、すぐに楽になる。ギリシア語はもっと難しい。だが姉のレディ・エリザベスと従妹にとっては、ラテン語もギリシア語も、他のどんな言葉も難しくないらしい。あの娘たちの見事なこと! だが、おまえのオファル・コートの話を聞かせよ。あそこは楽しい暮らしか?」

「はい、まことに。殿下、腹が減る時を除けば。パンチ・アンド・ジュディの人形芝居[訳注:棒遣いの人形劇で、乱暴者パンチと妻ジュディの掛け合いが名物]や猿もおります――あの道化ぶり! それに衣装の見事さ! それから芝居もございます。役者が大声で叫び、斬り合い、しまいには皆死んでしまう――あれがまた素晴らしいのです。しかも一ファージングで見られます。もっとも、その一ファージングを手に入れるのが、まことに難しいのですが。」

「もっと言え。」

「オファル・コートの私どもは、時々、職人の徒弟の真似をして、棒で打ち合いをいたします。」

王子の目が光った。

「それは嫌いではない。もっと言え。」

「走り比べもいたします、殿下。誰が一番速いか。」

「それもよい。続けよ。」

「夏は運河や川に入り、歩いたり泳いだりいたします。互いを水に沈め、水をかけ、潜って叫び、転げ回り――」

「一度それを味わえるなら、父の王国と引き換えでもよい! 頼む、続きを。」

「チープサイドのメイポールの周りで踊り歌います。砂の上で遊び、互いを砂で埋めます。時には泥で菓子を作ります――ああ泥は素晴らしゅうございます、この世であれほど楽しいものはございません! 私ども、殿下、文字どおり泥にまみれて転げ回ります。御前で申し上げるのも憚られますが。」

「もうよい、もうよい、まことに輝かしい! もし私が、おまえのような服を着て、裸足になり、誰にも咎められず止められず、泥にまみれて一度――たった一度でも遊べるなら、王冠など手放してもよい気がする!」

「そしてもし私が一度、殿下のように――たった一度でも、このお召し物を――」

「おお、してみたいか? ならばそうしよう。ぼろを脱げ、これを着よ! 短い幸福だが、短いからこそ鋭く甘い。誰かが邪魔しに来る前に、しばし味わい、また着替えればよい。」 数分後、ウェールズ公殿下はトムのひらひらした寄せ集めのぼろで飾り立てられ、乞食国の小さな王子は王権の派手な羽衣を着せられていた。

二人は並んで大鏡の前に立った。すると、奇跡である。何も変わっていないように見えたのだ。二人は互いを見つめ、鏡を見つめ、また互いを見つめた。

やがて困惑した小王子が言った。

「これは、どういうことだ?」

「殿下、どうか私に答えをお求めにならぬよう。私の身分の者が口にすべきことではございません。」

「ならば私が言う。おまえは私と同じ髪、同じ目、同じ声と様子、同じ体つきと背丈、同じ顔と面差しを持っている。裸で並べば、どちらがどちらか誰にもわからぬだろう。そしていま私が、おまえの服を着た以上、あの獣の兵が――聞け、手の甲のそれは痣ではないか?」

「はい。ですが些細なことでございます。殿下もご存じのとおり、あの貧しい兵は――」

「黙れ! 恥ずべき行いで、残酷だ!」小さな王子は裸足で床を踏み鳴らした。「父王が――よいか、私が戻るまで一歩も動くな。命令だ!」

王子はテーブルの上にあった国家的に重要な品をひったくるように取り上げてしまい込み、扉を飛び出した。そして旗印のようにぼろを翻し、顔を紅潮させ、目を燃やしながら宮殿の庭を疾走した。

大門に着くや、格子をつかんで揺すぶり、叫んだ。

「開けろ! 門を開けよ!」

トムに乱暴した兵は、すぐに従った。王子が王者の怒りに半ば息を詰まらせて門を突き破って出た瞬間、兵は王子の耳を強烈に殴りつけ、王子は道へくるくると転がった。

兵は言った。

「これで勘定だ、この乞食の落とし子め。殿下に叱られて、俺に恥をかかせやがった分だ!」

群衆はどっと笑った。王子は泥の中から起き上がり、番兵に猛然と向かって叫んだ。

「私はウェールズ公だ。王族の身は神聖である。私に手を上げた罪で、おまえは絞首刑だ!」

兵は鉾槍を捧げ持ち、嘲るように言った。

「謹んで敬礼申し上げます、尊き殿下。」

そして怒鳴った。

「失せろ、この気違いの屑め!」 すると嘲笑する群衆が哀れな小王子を取り囲み、押し合いへし合いしながら遠くまで追い立てた。口々に囃し立てる。

「道を開けろ、殿下のお通りだ! 道を開けろ、ウェールズ公殿下だぞ!」


第四章 王子の災難、始まる

何時間も執拗に追い回され、からかわれた末、ようやく小王子は野次馬どもに見捨てられ、ひとりになった。群衆に向かって怒り狂い、王子らしく脅しをかけ、王子らしく命令を下しては笑いものになる――そのあいだは、王子は彼らの格好の玩具で、十分に面白かった。だが疲れがついに王子の口を閉ざさせたとき、彼はもはや使い道がなくなり、連中は別の娯楽を求めて去っていったのだ。

王子はあたりを見回したが、土地勘がない。ロンドン市内にいる――それだけはわかった。あてもなく歩き出すと、ほどなく家並みは途切れ、人通りもまばらになった。

王子は、いまのファリンドン通りのあたりを当時流れていた小川で、血のにじむ足を洗った。少し休んでからまた歩き、やがて、家が点在するだけの広い場所と、巨大な教会に行き当たった。王子にはその教会がわかった。あちこちに足場が組まれ、職人が群れをなし、念入りな修復が行われていた。

王子はたちまち勇気を取り戻した。これで災難は終わる、と感じたのだ。

「ここは元グレイ・フライヤーズ教会だ。父王が修道士から取り上げ、貧しく見捨てられた子どもたちの永久の住まいとして与え、『クライスト・チャーチ』と改名した場所。あれほど気前よくしてくれた王の息子なら、喜んで助けてくれるに違いない――それに、その息子自身が、今日ここに匿われる者たちと同じほど貧しく、心細いのだから。」

王子はすぐ、少年たちの群れの中に入った。少年たちは走り、跳び、ボール遊びをし、馬跳びをし、そのほかにもはしゃぎ回って、しかも大声で騒いでいた。服装は皆お揃いで、当時の召使いや徒弟に流行した格好だった。つまり、皿ほどの大きさの平たい黒帽子を頭頂にちょこんと載せているが、あまりに小さくて帽子として役に立たず、しかも飾りとしても役に立たない。その下から髪が分け目もなく額の半ばまで垂れ、周囲を一直線に刈り揃えてある。首には聖職者風の襟。青いガウンは体にぴったりで、膝か膝下まで垂れる。袖は太く、赤い幅広の帯。鮮やかな黄色の長靴下を膝上で留め、靴は低く、金属の大きなバックルがついている。お世辞にも美しいとは言えぬ装いだった。

少年たちは遊びを止め、王子を取り囲んだ。王子は生まれつきの威厳で言った。

「よいか。院長に伝えよ。ウェールズ公エドワードが面会を望む、と。」

それを聞くなり大笑いが起き、無作法な一人が言った。

「へえ、乞食さまは殿下の使いかよ?」

王子の顔は怒りで赤くなり、反射的に腰へ手が伸びた。だが何もない。どっと笑いが起き、別の少年が言った。

「見たか? 剣があるつもりだったぞ――こいつ、本人が殿下なんじゃねえか。」

この機知はさらに笑いを誘った。哀れなエドワードは誇らかに背筋を伸ばし、言った。

「私は王子だ。父王の慈善で養われる身でありながら、このような口を利くとは、そなたらは恥を知るべきだ。」

笑い声が、その「受け」の良さを証明した。最初に口を開いた若者が、仲間に向かって叫んだ。

「おい豚ども、奴隷ども、殿下の父君の年金で生きる腰抜けども、礼儀はどうした! 皆ひざまずけ、腹ばいになれ。王者の御風格と王家のぼろ衣に、敬礼しろ!」

連中はどっと陽気に、いっせいにひざまずいて、獲物に向かって嘲りの礼をした。王子は足で一番近い少年を蹴り飛ばし、激しく言った。

「この恥辱、明日まで覚えておけ。明日にはおまえのために絞首台を立ててやる!」

だが、これは冗談では済まなかった。遊びの一線を越えたのだ。笑いは一瞬で消え、代わりに怒りが噴き上がった。十人ほどが叫んだ。

「引きずり出せ! 馬の池へ放り込め! 馬の池だ! 犬はどこだ! おい、ライオン! おい、ファングス!」

そして、イングランドが見たこともない光景が続いた。王位継承者の神聖な体が、無礼な平民の手で乱暴に打たれ、犬に襲われ、服を引き裂かれたのである。 その日の夜が更けるころ、王子は街の家並みの密な一角のずっと奥にいた。体は打撲だらけで、手は血を流し、ぼろは泥で汚れ切っていた。王子は歩き続け、ますます道に迷い、疲労と眩暈で片足をもう片足のあとへ引きずるのがやっとだった。

誰にも道を尋ねなくなっていた。尋ねても答えは情報ではなく侮辱だったからだ。王子はぶつぶつ呟き続けた。

「オファル・コート――そうだ、その名だ。力尽きて倒れる前にそこへたどり着ければ助かる。あそこの連中が私を宮殿へ連れて行き、私はあの者たちの仲間ではなく、本物の王子だと証明され、すべてを取り戻せる。」

そして時折、クライスト・ホスピタルの少年たちに受けた扱いが脳裏へ戻り、王子は言った。

「私が王になったら、あの者たちに与えるのはパンと寝床だけではない。本で学ぶ教えも与える。腹が満ちても、心と精神が飢えていては値打ちがない。今日の教訓を忘れまい。民がそのことで苦しむことのないように。学びは心を柔らげ、優しさと慈愛を育てるのだから。」

灯がちらほら瞬き始め、雨が降り出し、風が強まり、生ぬるい突風の吹く寒い夜になった。家なき王子、イングランド王位の継承者は、それでも歩き続けた。貧困と悲惨が群れ固まる、汚れた路地の迷路へ、さらに深く漂い込んでいく。

突然、酔っぱらいの巨漢が王子の襟首をつかみ、言った。 「またこんな夜更けに出歩いて、しかも家に一ファージングも持って帰ってねえってか! そうなら、この痩せっぽちの骨を一本残らず叩き折ってやらねえと、俺はジョン・キャンティじゃねえ、別人だ。」

王子は身をよじって逃れ、汚された肩を無意識に払ってから、切実に言った。

「おお、するとおまえが――あの子の父なのか? 本当に? 天よ、そうであってくれ――ならば、あの子を連れて行け。そして私を元に戻してくれ!」

「『あの子の父』だと? 何を言ってやがる。俺は――おまえの父だ。すぐに思い知ることに――」

「冗談はよせ、はぐらかすな、ぐずぐずするな! 私は疲れ切り、傷つき、もう耐えられない。父王のもとへ連れて行け。父王は、おまえが夢見る以上の金持ちにしてくれる。信じろ、男よ、信じろ! 私は嘘を言わぬ、真実しか言わぬ! 手を差し伸べて私を救え! 私はまことにウェールズ公なのだ!」

男は唖然として少年を見下ろし、それから首を振って呻いた。

「ベドラムのトムみてえに、すっかり気違いだ!」[訳注:ベドラムはロンドンの精神病院の俗称で、「ベドラムのトム」は狂人のたとえ]

そしてまた襟首をつかみ、下品に笑って悪態をついた。

「だが気違いだろうが何だろうが、俺と婆さんで、てめえの骨の柔らけえ所を見つけてやる。そうできねえなら、俺は男じゃねえ!」

そう言うと男は、狂乱して抵抗する王子を引きずっていった。楽しげに騒ぐ人間の害虫どもがぞろぞろと後を追い、前庭へ消えた。


第五章 貴族としてのトム

王子の書斎に一人残されたトム・キャンティは、この好機を存分に使った。大鏡の前であちらを向きこちらを向き、身なりの見事さに見惚れた。それから王子の育ちのよい歩き方をまねて歩いてみて、鏡に映る様子を確かめた。

次に、美しい剣を抜き、刃に口づけし、胸に当てて一礼した。少し前――五、六週間ほど前、ノーフォーク公とサリーという大貴族が投獄のため引き渡され、ロンドン塔の副官に引き渡される場に居合わせたとき、ある高貴な騎士がそうやって挨拶するのを見たのだ。腿に吊るされた宝石の短剣でも遊び、部屋の高価で精緻な飾りをあちこち調べ、豪奢な椅子を一つずつ試し、オファル・コートの連中がこの姿を覗き見できたなら、どれほど誇らしいだろうと考えた。

家へ帰ったらこの驚くべき話をするが、連中は信じるだろうか。それとも首を振って、「想像力を酷使しすぎて、とうとう頭がおかしくなった」とでも言うだろうか。

三十分ほどして、急に思った――王子が戻るのが遅い。するとたちまち心細くなり、ほどなく耳を澄まして待ち焦がれ始め、周囲の美しいものに手を伸ばす気も失せた。落ち着かなくなり、焦り、ついに怯えた。

誰かが来て、王子の衣装を着た自分を見つけたらどうなる? 王子がいなければ説明できない。即座に絞首刑にされ、事情聴取はその後かもしれない。偉い人は些細なことほど手早い――トムはそう聞いていた。

恐怖は膨らみ続けた。震えながら、控えの間へ通じる扉をそっと開けた。王子を探して逃げ、王子の口から庇護と解放を得ようと決心したのだ。

すると、きらびやかな紳士の召使いが六人、位の高い小姓が二人、蝶のような服を着て、さっと立ち上がり、深々とお辞儀をした。トムは素早く身を引き、扉を閉めた。言った。 「馬鹿にされている! きっと言いつけに行く。ああ、なぜぼくはここへ来て命を捨てに来たんだ!」

トムは床を行き来し、名状しがたい恐怖でいっぱいになり、些細な音にもびくりとした。やがて扉が開き、絹の小姓が言った。

「レディ・ジェーン・グレイ様でございます。」

扉が閉じ、豪奢に着飾った可憐な少女が軽やかに近づいてきた。だが急に立ち止まり、苦しそうに言った。

「ああ、殿下、どうなさったのです?」

トムは息も絶えそうだったが、なんとかどもりながら言った。

「ああ、どうかお慈悲を! まことに私は殿下ではありません、町のオファル・コートの貧しいトム・キャンティでございます。どうか王子にお会いさせてください、王子が恵み深く、私にぼろを返し、ここから無事に行かせてくださいます。どうか、どうか慈悲を――助けてください!」

その時にはトムはもうひざまずき、言葉だけでなく、目と差し伸べた手でも懇願していた。少女は恐怖に打たれたようだった。叫ぶ。 「殿下が、ひざまずいて――この私に!」

少女は怯えて逃げ去った。トムは絶望に打ちのめされ、くずおれながら呟いた。

「助けはない。望みもない。もう彼らが来て、私を連れて行く。」

トムが恐怖で痺れたまま横たわっている間にも、宮殿では恐ろしい知らせが駆け巡っていた。噂は――いつも囁きだが――下僕から下僕へ、貴族から貴婦人へ、長い回廊を伝い、階を下り、また上り、広間から広間へと飛んでいく。

「王子が狂った、王子が狂った!」

ほどなく、どの広間にも、きらめく貴族や貴婦人の群れができ、さらに位の低い輝かしい人々の群れもでき、皆が声を潜めて真剣に話し合っていた。どの顔にも不安がある。

やがて壮麗な官吏が人々の間を行進し、荘重に布告した。

「国王陛下の御名において! 

この虚偽にして愚かなる風説に耳を貸すこと、死罪。これを論ずること、死罪。外へ伝えること、死罪。国王陛下の御名において!」

囁きは、囁いていた者が突然口を利けなくなったかのように、ぴたりと止んだ。

まもなく回廊のあちこちで、ざわめきが起きた。「王子だ! 王子がおいでだ!」

哀れなトムがゆっくりと歩いていく。低く頭を下げる人々の間を過ぎながら、トムも返礼をしようと努めるが、見慣れぬ環境に、困惑と哀切の目を向けるばかりだ。左右には大貴族がつき、トムを支え、歩みを安定させる。後ろには宮廷医たちと召使いが続いた。 やがてトムは宮殿の立派な部屋に入り、背後で扉が閉まる音を聞いた。周囲には自分についてきた者たちがいる。少し離れた前方には、非常に大柄で非常に太った男が横たわっていた。顔は広く、ぶよぶよして、表情は険しい。大きな頭は白髪で、頬ひげも――顔の周りに枠のように生やしたそれも――灰色だった。衣装は上質だが古く、ところどころ擦り切れている。腫れた脚の一方は枕に載せられ、包帯が巻かれていた。

沈黙が落ちた。そこにいる誰一人として頭を下げぬ者はいない――ただ一人、この男を除いて。険しい顔のこの病人こそ、恐るべきヘンリー八世だった。

王は言った。口を開いた途端、顔つきは柔らいだ。

「どうした、エドワード卿、我が王子。そなたは、そなたを愛し、優しく扱うこの良き父王を、つまらぬ冗談でからかう気になったのか?」

哀れなトムは朦朧としながらもこの言葉を聞いていたが、「この良き父王」という語が耳に落ちた瞬間、顔面は青ざめ、撃たれたかのようにひざまずいた。両手を上げて叫ぶ。 「あなたが――国王? ならば私は本当におしまいです!」

この言葉は王を茫然とさせたようだった。王の目は、あてもなく人々の顔から顔へさまよい、やがて目の前の少年に、困惑したまま止まった。そして深い落胆の声で言った。

「おお、噂ほどではあるまいと信じていたが……どうやらそうではないらしい。」

王は重いため息をつき、優しい声で言った。

「父のところへ来い、我が子。具合がよくないのだ。」

トムは助け起こされ、震えながら、イングランドの至高の威厳へと近づいた。王は怯えた顔を両手で包み、理性が戻った徴がないかと探すように、しばらく熱心に、しかも愛情深く見つめた。それから巻き毛の頭を胸に抱き寄せ、優しく撫でた。

やがて王は言った。

「父がわからぬのか、我が子? 老いた心を砕かぬでくれ。わかると言ってくれ。わかるのだろう? わかるな?」

「はい。あなたは恐るべき我が主、国王陛下。神のご加護がありますよう。」

「そうだ、そうだ――よいぞ。安心せよ、そんなに震えるな。ここにいる誰もおまえを傷つけぬ。皆おまえを愛している。もうよくなった。悪い夢が消えたのだ――そうであろう? また名乗りを取り違えたりはせぬな? 少し前にそうしたと皆が言うが。」

「どうか、陛下。恵みによって信じてください、私は真実を申しただけでございます。私は陛下の臣民のうち最も卑しい者、貧民として生まれた者でございます。そして私はひどい不運と事故でここへ――けれど私に罪はございません。私はまだ若く、死にとうございません。陛下は、たった一言で私を救えます。どうか、その一言を!」

「死ぬ? そんなことを言うな、愛し子よ――おお、よい、よい、苦しむ心を鎮めよ――おまえは死なぬ!」

トムは嬉しさに叫び、ひざまずいた。

「神よ、陛下の慈悲に報い、陛下を長くこの国の祝福としてお守りください!」

そして跳ね起きると、付き添いの二人の大貴族へ喜びに満ちた顔を向けて叫んだ。

「聞いたな! 私は死なぬ。国王陛下がそう言った!」

動きはなかった。皆が厳かに頭を下げただけで、誰も口を開かなかった。トムは少し戸惑ってから、恐る恐る王へ向き直り、言った。

「では……私は、もう行ってもよろしいのでしょうか?」 「行く? よいとも、望むなら。だが、なぜもう少しここにおらぬ? どこへ行きたい?」

トムは目を伏せ、へりくだって答えた。

「あるいは私の思い違いかもしれません。ですが私は自由になったのだと思い、それで、生まれ育ち、惨めさを教えられたあの溝へ戻ろうと――けれどそこには母と姉たちがおります。私にとっては家でございます。それに比べれば、このきらびやかさ、この栄華は、私の身には慣れぬもの……ああ、どうか、どうか行かせてください!」

王はしばらく黙って考え、顔には次第に苦悩と不安が滲んだ。やがて、わずかな希望を声ににじませて言った。

「この一点だけの狂いで、ほかは理性が保たれているのかもしれぬ。神よ、そうであれ! 試してみよう。」

王はトムにラテン語で問いかけた。トムは拙くも同じ言語で答えた。大貴族も医師たちも満足げな様子を見せた。

王は言った。

「普段の学びと能力に比べれば出来は悪いが、心が致命的に壊れたのではなく、病を得たにすぎぬ証であろう。どうだ、医師よ?」

指名された医師は深く頭を下げ、答えた。

「陛下、まさしく我が確信と一致いたします。陛下の洞察は正しいと存じます。」 王は、これほど優れた権威から励ましを得て満足し、勢いを得て言葉を継いだ。

「よいか、皆の者。さらに試すとしよう。」

彼はトムにフランス語で問いかけた。トムは、幾十もの視線が自分に突き刺さっていることに気後れし、しばし黙っていたが、やがておずおずと言った――

「この言葉は存じませぬ、陛下……」

王は寝椅子にもたれこんだ。侍従たちが駆け寄ったが、王は手で追い払い、こう言った――

「騒ぐな……ただの忌々しい立ちくらみだ。起こしてくれ! ……よい、それで足りる。こちらへ来い、子よ。ほら、かわいそうに乱れた頭を父の胸に預け、安らげ。すぐよくなる……一時の妄想にすぎぬ。怖がるな、すぐよくなる。」

そして一同のほうへ向き直ると、さっきまでの柔らかな物腰が消え、目に不吉な稲妻が走った。王は言った――

「よいか、皆の者、聞け! わが子は狂っておる。だが永くは続かぬ。学びすぎがこうさせ、閉じこめすぎもいくらか効いた。書物も教師も遠ざけよ! よいな、怠るでない。遊びを与え、健やかな楽しみで心を紛らせ、元の健康を取り戻させよ。」

王はさらに身を起こし、勢いよく続けた。「狂っておる。だがわが子であり、イングランドの世継ぎだ。狂っていようが正気であろうが、必ずや王位に就かせる! そして、もう一つ――布告せよ。この病のことを口にする者は、この王国の安寧と秩序に刃向かう者なり、絞首台送りとする! ……飲み物を……焼けるようだ。この憂いがわしの力を吸い取る……。……よい、杯を下げよ……。支えよ……うむ、よい。狂っている、だと? たとえ千たび狂っていようとも、あれはウェールズ公である。わしが王として、それを確と認める。この明朝、しかるべき古式にのっとり、王子の位に正式に就ける。直ちに手配せよ、ハートフォード卿。」 貴族の一人が王の寝椅子のそばに跪き、言った――

「陛下、イングランド世襲の軍務伯(アール・マーシャル)はロンドン塔にて私権剥奪の身にございます。私権剥奪の者に――」

「黙れ! あの憎い名でわしの耳を汚すな。あの男はいつまでも生きるつもりか? わしの意志は妨げられるのか? この王国に、反逆の汚れなき軍務伯がいないからといって、王子の叙任を延ばすと申すか。断じてならぬ、神の栄光にかけて! 国会に告げよ。次の日の出までにノーフォークの裁きをわしの前に持ち出せ。さもなくば、重く償わせるぞ!」

ハートフォード卿は言った――

「王の御意志は法でございます」そして立ち上がり、元の位置へ戻った。 やがて老王の顔から怒りが薄れ、言った――

「わが王子よ、ほほ口づけしてくれ。……さあ……何を怖れておる? 父は、おまえを愛しておるではないか?」

「身のほど知らずの私に、そのようにお慈悲を賜り、まことに……それは真に存じております。ですが……ですが……あの方が死なねばならぬことを思うと、胸が痛み――」

「ああ、まさにおまえらしい、まさに。心は変わらぬのだ、たとえ思考が傷ついても。おまえは昔から優しい気質であった。だが、あの公爵が、おまえと栄誉の間に立ちふさがっている。代わりに、あの大役に汚れなき者を据えよう。安心せよ、わが王子。この件でその小さな頭を悩ませるでない。」

「ですが、陛下……あの方を死へ急がせるのは、私ではございませぬか? 私がいなければ、まだ長く生きられたのでは――」

「考えるな、わが王子。あれは値せぬ。もう一度口づけし、さあ、くだらぬ遊びにでも戻れ。わしの病がつらい。疲れた……休みたい。叔父ハートフォードと家臣たちと行け。わしの体が楽になったら、また来い。」

トムは重い心のまま退出させられた。最後の言葉は、いまこそ自由になれるとひそかに抱いていた望みへの、とどめの一撃だった。再び耳に入る、低いざわめき――「王子だ、王子がおいでだ!」

きらめく列をなして頭を垂れる廷臣たちの間を進むにつれ、気力は沈む一方だった。自分が今や真の囚われの身となり、この金箔の鳥籠に永遠に閉じこめられかねない――憐れで友のない王子として。神が憐れみ、救い出してくださらぬかぎり。

どちらを向いても、空中に漂うように見えてくるのは、ノーフォーク公の切り落とされた首と、脳裏に焼きついたあの顔。責めるように自分を見据える目。

昔の夢はあんなにも甘かったのに、現実はあまりに荒涼としていた。


第六章 トム、指示を受ける

トムは壮麗な居室群の中心の間へ導かれ、座るよう命じられた――しかし周囲には年長の者や高位の者がいたので、座るのをためらった。彼は彼らにも座るよう頼んだが、彼らは礼をして礼を述べるか、礼をつぶやくだけで、立ったままだった。トムがなおも言い募ろうとすると、「叔父」たるハートフォード伯が耳もとでささやいた――

「どうか、殿下、固執なさいますな。お立ち会いの者が殿下の御前で腰を下ろすは不相応にございます。」

セント・ジョン卿の来訪が告げられ、トムに礼をしてから、こう言った――

「王の御用で参りました。内々にすべき件にございます。殿下、ハートフォード伯を除き、この場の者をお下がりにしていただけますか。」

トムがどうすればよいかわからぬ様子なのを見ると、ハートフォードは、言葉は要らぬ、手で合図するだけでよいとささやいた。控えの者たちが退くと、セント・ジョン卿は言った――

「陛下のご命令により、国家のしかるべき重大なる理由から、王子殿下は快癒して元の御身となるまで、御不調を可能なかぎりあらゆる手段で隠されよ、とのことにございます。すなわち――自らが真の王子にして、イングランドの偉大さの継承者であることを、誰にも否定してはならぬこと。王子としての尊厳を保ち、その尊厳に古来より当然に付随する敬意と服従を、抗議の言葉も素振りもなく受けること。病が呼び起こした卑しい生い立ちや暮らしの話を、もはや誰に対しても口にせぬこと。かつて見慣れた顔ぶれを記憶に取り戻すべく、勤勉に努めること――思い出せぬ時は黙し、驚きやその他の素振りで忘却を露わにせぬこと。国事の場において、なすべきこと、発すべき言葉に迷いが生じた折は、見物の好奇の目に不安を見せず、ハートフォード卿、または微賤なるこの身の助言を仰ぐこと。われらは陛下より、この務めに就き、いつでも召しに応じて近く控えるよう命ぜられております――この命が解かれるまで。以上、陛下の仰せにございます。陛下は殿下に御機嫌をお伝えになり、神の慈悲により速やかな御快癒と、常に御守護があるよう祈っておられます。」

セント・ジョン卿は礼をし、脇へ退いた。トムは観念したように答えた―― 「王がそう仰せなら、それまでだ。王命を、都合のよいようにごまかし、巧みにかわして痛みを和らげるなど、誰にもできぬ。王には従わねばならぬ。」

ハートフォード卿が言った――

「陛下が書物などの重き事を禁じられたことにつきましては、殿下、今宵の饗宴に備え、軽い娯楽で時をお過ごしになるのがよろしいかと存じます。お疲れのまま宴へ出られては、御身に障りましょう。」

トムの顔に、問いかけるような驚きが浮かび、すぐ頬が赤らんだ。セント・ジョン卿の目が、哀しげに自分へ注がれているのに気づいたからだ。卿は言った――

「記憶がまだ殿下を裏切っておりますな。驚きをお見せになった。――ですがお気になさらぬよう。病が癒えれば自然と消えることにございます。ハートフォード卿が申したのは、陛下が二か月ほど前に約された、市の饗宴に殿下がご臨席なさる件です。今は思い出されましたかな?」

「申し訳ないが、すっかり抜け落ちておった」とトムはためらいがちに言い、また赤くなった。

そのとき、レディ・エリザベスとレディ・ジェーン・グレイの来訪が告げられた。二人の卿は意味ありげに目を交わし、ハートフォードは素早く戸口へ向かった。若い姫君たちが彼の横を通るとき、彼は低い声で言った――

「姫君方、どうか殿下の気まぐれをお見とめにならぬふりを。記憶が途切れても驚きをお見せになりませぬよう――どの些事にもつまずかれるのを見るのは、おつらいことでございましょう。」 その間、セント・ジョン卿はトムの耳もとで言っていた――

「殿下、陛下のお望みをしかと胸に。覚えておられるかぎりを覚え――それ以外も、覚えているように見せてください。いつもと大きく変わったと気づかせてはなりませぬ。旧き遊び仲間がどれほど殿下を大切に思っているか、そしてそれが彼らをいかに悲しませるか、ご存じでしょう。よろしければ、私も残りましょうか――そして叔父君も。」

トムは身振りと小さな言葉で同意を示した。彼はもう学び始めていたし、素朴な心の底で、王命に従い、できるかぎり役を果たそうと決めていた。

どれほど用心しても、若者たちの会話は時に気まずくなった。何度もトムは、耐えきれずに真相を告白し、この恐るべき役は自分には務まらぬと白状しそうになったが、エリザベス王女の機転に救われた。あるいは警戒を怠らぬ二人の卿が、偶然を装って挟むひと言が、同じようにうまく効いた。あるとき小さなレディ・ジェーンがトムのほうへ向き直り、こんな問いで彼を青くさせた――

「殿下、今日は王妃陛下にご挨拶はなさった?」

トムはためらい、困り果てた顔になり、咄嗟に何かを口走ろうとしたところで、セント・ジョン卿が言葉を引き取り、気難しい難所に慣れ、即応の心得ある廷臣の優雅さで答えた――

「ええ、姫君。王妃陛下は殿下を大いに励ましてくださいました、陛下のご容体のことにつきまして――そうでございますね、殿下?」

トムは同意らしきものをごにょごにょと口にしたが、危ない地面に踏み込んでいる気がしてならなかった。少し後、当分は勉学を禁じられた話が出ると、小さな姫君は叫んだ――

「まあ、残念! 残念だわ! あんなに立派に進んでいらしたのに。でも辛抱して待って。きっと長くはないわ。いずれお父上のような学問が身につき、王子殿下の舌は陛下と同じだけ多くの言語を自在に操れるようになるわ。」

「父上!」トムは不意を突かれ、叫んでしまった。「――とてもそんな、豚小屋にうずくまる豚どもでもなければ意味がわからぬような言葉しかしゃべれぬお方だし、学問だなんて――」

見上げると、セント・ジョン卿の目が厳しい警告を投げていた。

トムは言葉を止め、赤くなり、それから低く悲しげに続けた。「ああ、また病が私を責め立て、心が迷った。王の御威光を侮ったつもりはない。」

「承知しているわ、殿下」エリザベス王女は『兄』の手を両の掌で包み、敬意を失わず、しかも優しく撫でるようにして言った。「そのことでご自分を責めないで。悪いのは殿下ではなく、病なのですもの。」

「そなたは、なんと優しい慰め手だ」トムは感謝して言った。「礼を申したい心が胸に満ちる――こんな無礼が許されるなら。」

一度、目の回るほど陽気な小さなレディ・ジェーンが、簡単なギリシア語の句をトムへ放った。エリザベス王女の鋭い目は、標的の顔に浮かぶ澄んだ空白を見て、矢が完全に外れたと悟った。そこで王女は落ち着いて、トムの代わりに響きのよいギリシア語で見事に応酬し、すぐさま別の話題へ切り替えた。

時は概して楽しく、そしておおむね滑らかに過ぎた。ひっかかりや浅瀬は次第に減り、皆が愛情深く助け、失敗を見逃してくれるのを見るにつれ、トムもだんだんくつろいだ。夜の市長主催の饗宴に姫君たちが同伴すると知れたとき、心は安堵と喜びで躍った。大勢の見知らぬ者の中で、もう一人ぼっちではないと思えたからだ。つい一時間前なら、姫君たちが同行するという考えだけで、耐えがたい恐怖に押し潰されていただろう。

だが、トムの守護天使たる二人の卿は、他の者ほど面談を楽しめてはいなかった。危険な瀬戸を大船で抜ける水先案内のように、絶えず神経を尖らせ、この役目が子どもの遊びでないことを思い知らされていた。そこで姫君たちの訪問が終わりに近づき、ギルフォード・ダドリー卿の来訪が告げられると、彼らは、トムも十分疲れたうえ、自分たちもまた、同じ難航をもう一度繰り返すのに最良の状態ではないと感じた。ゆえに二人は丁重に、トムが面会を辞退するよう勧めた。トムは喜んで従ったが、華やかな若武者の入場を断られたと聞いたとき、レディ・ジェーンの顔にわずかな失望の影が走ったのを、見て取る者もいたかもしれない。 ここで一瞬、間が空いた。トムには理解できぬ、待ち構えるような沈黙。彼はハートフォード卿を見やると、卿は合図をした――だがそれもわからない。機転の利くエリザベスがいつもの優雅さで救いに入った。王女は礼をして言った――

「王子殿下、兄上、私どもはこれにて退出してもよろしゅうございますか。」

トムは言った――

「姫君方が望まれることなら、乞われるまでもなく何でも差し上げたい。だが、私の力の及ぶどんな品よりも、ここから姫君方の光と祝福に満ちた御姿が去ってゆくことだけは、お許ししたくない。どうか良い夕べを。神の御加護がありますよう!」

そして心の内で微笑んだ――「読書の中で王子たちとだけ暮らしてきたのは、無駄ではなかったな。あの刺繍めいた雅な言葉遣いを、舌に少しばかり覚え込ませていたのだから!」

高貴な姫君たちが去ると、トムは疲れきって見張り役に向き直り、言った――

「どうか、どこか隅へ行って休む許しをいただけぬか。」

ハートフォード卿が言った――

「殿下、命じるのは殿下、従うのは我らにございます。お休みになるのは必要にございます。まもなく市へお出ましの旅がございますゆえ。」

卿が鈴を鳴らすと小姓が現れ、サー・ウィリアム・ハーバートを呼ぶよう命じられた。その紳士がすぐに来て、トムを内側の部屋へ案内した。トムはまず水の杯に手を伸ばしたが、絹とビロードをまとった召使いがそれを取り上げ、片膝をつき、黄金の盆に載せて差し出した。 次に疲れた囚人は腰を下ろし、ブスキン(編み上げ靴)を脱ごうとした。目で恐る恐る許しを乞うと、また別の絹とビロードの「不便の種」が膝をつき、その役目を奪った。トムは二、三度、自分で何かしようと試みたが、そのたびに先回りされ、ついに諦めてため息をつき、小声で言った。「まったく……息まで代わりにしてくれと言い出さぬのが不思議だ。」

柔らかな室内履きをはかされ、豪奢な寝衣を羽織らされ、ようやく横になって休もうとした。だが眠れはしない。頭は考えごとでいっぱいで、部屋は人でいっぱいだった。前者は追い払えず居座り、後者は追い払う知恵が足りず居座った――トムは大いに後悔し、そして相手もまた大いに後悔した。

トムが去ったあと、二人の高貴な見張り役は二人きりになった。しばらく首を振り合い、歩き回り、やがてセント・ジョン卿が言った―― 「率直に言いましょう。どう思われます?」

「率直に言えば、こうだ。王はもう長くない。わが甥は狂っている――狂人が玉座に就き、狂人のままでいる。神よイングランドに加護を――いずれ必要になるゆえ!」

「まこと、その兆しが濃い。だが……だが……あなたは、……その……その……」

話し手はためらい、ついに黙った。いかにも微妙な話題に踏み込んだと思ったのだろう。ハートフォード卿は立ち止まり、澄んだ率直な目で相手の顔を覗き込み、言った――

「言うがよい。ここに聞く者は私しかいない。何についての疑念だ?」

「口にするのも気が引けます。殿下と血が近いあなたに対してはなおさら。しかし無礼をお許しいただきたく――狂気が、あれほど立ち居振る舞いまで変えるというのは、奇妙ではございませぬか? もちろん、威儀も口ぶりも王子らしさは残っております。だが、以前の癖とは、些細な点であれあちこちが違う。狂気が、父君の面影そのものを記憶から盗み去るでしょうか。周囲から受けるべき作法と敬意のしきたりを忘れさせるでしょうか。ラテン語は残し、ギリシア語とフランス語だけ奪うなど。――怒らぬでください、ただ心の不安を鎮めたいのです。殿下が『自分は王子ではない』と申したことが、どうにも頭から離れず――」

「よせ、卿。それは反逆の言葉だ! 王命を忘れたか。私が聞いているだけでも共犯になる。」 セント・ジョン卿は青ざめ、慌てて言った――

「私が過ちました。告白いたします。どうか密告なさらぬでください。あなたのご厚意としてお許しいただければ、二度とこのことを考えも語りもいたしませぬ。手厳しくなさらぬでください。さもなくば私は破滅です。」

「よい、卿。二度と、ここでも他人の耳にも、同じ過ちをせぬなら、今の言葉はなかったことにしよう。だが疑う必要はない。あれは妹の子だ。揺り籠のころから声も顔も姿も見慣れている私が、見誤るものか。狂気というものは、君が見ているような矛盾をいくらでも起こす――もっと奇怪なことすら起こす。昔、老バロン・マーリーが狂ったとき、六十年見慣れた自分の顔を忘れて他人のものだと言い張ったのを覚えておらぬか。いや、マグダラのマリアの息子だと名乗り、頭はスペイン硝子でできていると言い立てた。実際、うっかり割られてはならぬと、誰にも触らせなかったほどだ。疑念をお鎮めなさい、卿。これは正真正銘の王子だ――私がよく知っている。そして間もなくあなたの王となる。これを忘れぬがよい――そして、もう一方の考えより、こちらをより深く心に留めるがよい。」

さらにいくらか話すうちに、セント・ジョン卿は、自分の失言を取り繕うべく、今は信念がすっかり固まり、二度と疑いは襲わぬと繰り返し誓った。やがてハートフォード卿は同僚を解放し、一人で監視の座についた。ほどなく沈思に落ち、考えれば考えるほど苦しんでいる様子だった。やがて床を歩き回り、独り言をつぶやき始めた。 「ふん、あれは王子でなければならぬ! この国に、血も生まれも違う二人が、あれほど見事に双子のように似ているなどと言い張る者がいるか? 仮にそうだとしても、偶然が片方をもう片方の座へ投げ込むとは、さらに奇怪な奇跡だ。馬鹿げている、馬鹿げている、馬鹿げている!」

しばらくして言った――

「もしも偽者が王子を名乗るなら、それは自然だ。筋が通る。だが、王に王子と呼ばれ、宮廷に王子と呼ばれ、皆に王子と呼ばれながら、その尊厳を否定し、昇格に反対する偽者が、この世にいたためしがあるか? ない! 聖スウィジンの魂にかけて、ない! これは真の王子だ――狂気に堕ちた真の王子だ!」


第七章 トム、初めての王子の食事

午後一時過ぎ、トムは観念して、食事のために着替えさせられるという試練を受けた。衣装は相変わらず見事だったが、襟巻から靴下に至るまで、すべてが以前とは違い、すべてが変わっていた。やがて厳かな行列に伴われ、広々として装飾華やかな大広間へ導かれた。そこには一人分の卓がすでに整えられていた。調度はすべて重厚な黄金で、ベンヴェヌート[訳注:ルネサンス期イタリアの金細工師・彫刻家]の手による意匠で飾られ、その価値はほとんど値のつけようもないほどだった。部屋の半分は高位の給仕役たちで埋まっていた。王室司祭が祈りを唱え、トムは腹ぺこで手をつけようとしたが、バークレー伯が進み出て、ナプキンを首に結びつけた。ウェールズ公に仕える「ダイアパラー(食卓用の布を扱う役)」の重職は、この貴族家の世襲だったのである。給仕長は控えており、トムが自分で葡萄酒を取ろうとするたび先回りした。さらに「試食係」もいて、命じられれば怪しい料理を味見し、毒殺の危険を引き受ける。今のところは飾りの役目にすぎず、その働きが求められることも稀だったが、遠い昔には試食係の職は危険で、栄達どころか望まぬ重荷だった時代もあった。犬か水道工にさせればよいのにと思うが、王権のすることは何もかも不思議である。ダーシー卿――侍従長――もいて、何をするのか神のみぞ知るが、ともかくそこにいた。それで十分だ。王室の筆頭給仕長もいてトムの椅子の後ろに立ち、近くには大執事と料理長が立って式次第を取り仕切っていた。トムにはこのほか三百八十四人の召使いがいたが、もちろん全員がその部屋にいるわけではなく、四分の一ですらなかった。トムはまだ、自分にそれほどの者が付いていることすら知らなかった。

居合わせた者たちは皆、この一時間の間に、王子が一時的に正気を失っていることを記憶し、奇行に驚きを見せぬよう厳しく仕込まれていた。その「奇行」はほどなく披露されたが、彼らの心を動かしたのは笑いではなく、憐れみと悲しみだった。愛する王子がこうまで打ちのめされているのを見るのは、彼らにとって重い苦痛だった。

哀れなトムは主に指で食べた。しかし誰も笑わず、気づいた様子すら見せなかった。彼はナプキンを興味深そうに、物珍しそうに眺めた。たいへん繊細で美しい布だった。それから素直に言った――

「どうか取り下げてくれ。うっかり汚してしまいそうだ。」

世襲のダイアパラーは、うやうやしくそれを取り上げ、反論も抗議も一言も口にしなかった。 トムはカブとレタスを興味深く眺め、これは何で、食べるものかと尋ねた。オランダから贅沢品として輸入するのではなく、イングランドで栽培し始めたのはごく最近だったからだ。質問には厳粛な敬意をもって答えられ、驚きは一つも示されなかった。デザートを終えると、トムはナッツをポケットに詰め込んだが、誰も気づかぬふりをしたし、気に病むふうもなかった。ところが次の瞬間、当のトムがそれに動揺した。食事の間、自分の手で許された「奉仕」はこれだけだったのに、それがひどく不作法で王子らしくないことをしてしまったに違いないと思ったのだ。ちょうどそのとき、鼻の筋肉がぴくぴくし始め、鼻先が持ち上がってしわが寄った。収まらず、トムは苦悶の色を深めた。彼は周囲の卿たちを次々にすがるように見、目に涙が浮かんだ。彼らは驚いて駆け寄り、どうしたのかと乞うた。トムは真に苦しげに言った――

「どうかお許しを。鼻がひどく痒い。この非常の折、作法はいかがいたすべきか。早く……もう少ししか耐えられぬ。」

誰も笑わなかった。だが皆、途方に暮れ、深い苦悩の面持ちで互いの顔を見合わせ、助言を求め合った。しかし、ここに壁があった。イングランドの歴史に、この壁の越え方を教えてくれる章はない。式典長は不在だった。誰ひとり、この未知の海へ踏み出し、この厳粛な難問を解く冒険をしてよいと思える者がいなかった。ああ、世襲の「鼻掻き係」がいれば! その間に涙は堤を越え、トムの頬を伝い始めた。ぴくつく鼻は、ますます切実に救いを求めた。ついに自然が礼儀作法の柵を打ち破った。トムは、もし誤りなら赦してくださいと胸の内で祈り、宮廷の重荷を軽くするように、自分で鼻を掻いた。

食事が終わると、ある卿が広く浅い黄金の皿を差し出した。香り高い薔薇水が入っており、口と指を清めるためのものだった。世襲のダイアパラーがそばに立ち、ナプキンを用意した。トムは皿を訝しげにしばらく見つめ、それから唇に運び、厳かに一口飲んだ。そして待つ卿へ返し、言った――

「いや、これは好かぬ、卿。香りは良いが、力が足りぬ。」 この新たな奇癖に、周囲の心は痛んだが、誰の胸にも笑いは起こらなかった。

次の無意識の失策は、従軍司祭が椅子の背後に立ち、両手を掲げ、目を閉じて祝福の祈りを始めようとしたその瞬間に、トムが立ち上がって卓を離れてしまったことだった。それでも誰も、王子が常ならぬことをしたと気づいた様子すら見せなかった。 トムの望みにより、彼は私室の書斎へ案内され、ひとりきりにされた。樫の羽目板の壁に打たれた鉤には、磨き上げた鋼の甲冑の各部が掛かっていた。全体に美しい意匠が施され、金の象嵌が精緻にきらめいている。この武装一式は本物の王子のもので、王妃パー[訳注:キャサリン・パー。ヘンリー八世の六番目の王妃]から最近贈られた品だった。トムは脛当て、籠手、羽飾りの兜など、助けなしで身につけられるものを装着した。しばらくは人を呼んで完成させる気にもなったが、食事から持ち出したナッツのことを思い出し、群衆に見つめられず、世襲の大役たちに望まぬ奉仕で悩まされずに食べられる喜びが胸に湧いた。そこで美しい品々を元の場所に戻し、ナッツを割り始めた。神が罰として自分を王子にして以来、初めて少しだけ自然に幸せな気分になれた。ナッツが尽きると、戸棚の中に魅力的な本がいくつもあるのを見つけた。その中にはイングランド宮廷の作法についての本があった。これは宝物だ。トムは豪奢な長椅子に横たわり、真面目な熱意で学び始めた。しばらく彼をそのままにしておこう。


第八章 国璽の行方

五時ごろ、ヘンリー八世は疲れの取れぬまどろみから目を覚まし、独りごちた。「不穏な夢、不穏な夢! 終わりが近い――この警告がそう告げ、衰える脈がそれを裏打ちしておる。」

やがて目に邪悪な光が燃え上がり、つぶやいた。「だが、あれが先に逝くまでは、わしは死なん。」

王が目覚めたのを見て取った侍従の一人が、外で待つ大法官について伺いを立てた。

「通せ、通せ!」王はせき立てるように叫んだ。

大法官が入り、王の寝椅子のそばに跪いて言った――

「ご命令どおり手配いたしました。貴族たちは礼服をまとい、今、貴族院の柵の内に並び立っております。ノーフォーク公の裁きを確認し、陛下の次のご指示を、つつしんでお待ちしております。」

王の顔に獰猛な歓喜が走った。王は言った――

「起こせ! 自ら国会へ出向き、この手で、やつを取り除く令状に封を――」

声が途切れた。灰色の蒼白が頬の紅潮をさらい、侍従たちは王を枕へ戻し、慌てて回復薬を用いた。しばらくして王は悲しげに言った――

「嗚呼、この甘き時をどれほど待ち望んだことか! なのに遅すぎた。待ち焦がれた機会を奪われた。だが急げ、急げ! わしに許されぬなら、他の者にこの幸福な務めを果たさせよ。国璽は委員会に付託する。委員を選び、仕事にかかれ。急げ! 日の出と日没の間に、あやつの首を持て。わしがこの目で見たい。」

「仰せのままに。――つきましては陛下、直ちに職務にかかれますよう、国璽を私にお戻しいただけますでしょうか。」 「国璽? 国璽を預かるのはおぬしではないか。」

「陛下、二日前、陛下は国璽を私からお取り上げになり、『ノーフォーク公の令状には自らの御手で押すまで、国璽は働かせぬ』と仰せでした。」

「そうだ、確かに。思い出した……。では、どこへやった……? ……わしはひどく弱っておる……。近ごろ、記憶がしょっちゅう裏切りおる……。妙だ、妙だ――」

王は言葉にならぬうなりへ落ち、灰色の頭を弱々しく振りながら、国璽をどうしたか思い出そうとしていた。ついにハートフォード卿が跪き、恐る恐る助言を申し出た――

「陛下、恐れながら、陛下が国璽をウェールズ公殿下にお渡しになり、あの日まで預けるよう仰せになったと、私同様に覚えておる者が数名おりますが――」

「そのとおりだ、まさにそのとおり!」王は遮った。「取って来い! 行け、時間がない!」

ハートフォード卿はトムのもとへ飛んだが、ほどなくして不安げに、手ぶらで王のもとへ戻ってきた。彼の報告はこうだった――

「陛下、重く不快なお知らせを申し上げねばならぬこと、痛恨に存じます。ですが、神の御心により、王子殿下のご不調はなお続き、国璽を受け取ったことを思い出せませぬ。そこで私は急ぎ戻り、この貴重な時を無駄にするは愚かと存じ、王子殿下に属する長大なる部屋々々を探し回るのも、あまり益がないかと――」

ここで王の呻きが卿の言葉を断ち切った。しばらくして陛下は、深い悲しみを帯びた声で言った――

「もうあの子を煩わせるな、かわいそうに。神の手が重くのしかかっておる。わしの心は愛の憐れみで満ち、老いて苦しみに重い肩で、その荷を代わってやれぬことが悲しい――そうすれば、あの子も安らげように。」

王は目を閉じ、またぶつぶつ言い、やがて沈黙した。しばらくして目を開き、ぼんやり見回すうち、跪く大法官に視線が止まった。すると即座に顔が怒りで紅潮した――

「何だ、おぬしはまだここにいるのか! 神の栄光にかけて、裏切り者の件に取りかからぬなら、明日はその頭がないゆえに、おぬしの法冠も休暇になるぞ!」

震える大法官が答えた――

「陛下、どうかお許しを……国璽を待っていたのですが。」

「愚か者、正気を失ったか? 小印璽なら、昔わしが外出に持ち歩いたものが、わしの宝物庫にある。国璽が飛んだなら、それで足りぬのか? 正気を失ったか? 出て行け! ――そして聞け。あやつの首を持って来るまで、二度と来るな。」

哀れな大法官は、この危険な場所から逃げ去るのに手間取らなかった。委員会もまた、卑屈な国会の仕事に勅許を与えるのを先延ばしせず、翌日を、イングランド最高位の貴族にして不運のノーフォーク公の斬首の日と定めた。


第九章 川のパレード

夜九時、宮殿の広大な河岸は光に燃え上がっていた。川面は、目の届くかぎり市街のほうまで、水夫の舟や遊覧船でびっしり埋まり、いずれも色とりどりの提灯で縁取られ、波にゆるく揺れていた。その景色は、夏の風にそよぐ無限の花園が燃えるように輝くさまに似ていた。水辺へ下る石の大階段――ドイツの小国の軍勢すら一塊に並べられそうなほど広いその段々――は、磨き上げた甲冑を着た王室の槍斧兵の列と、きらびやかな衣装の奉仕者たちが準備に忙しく上下左右へ走り回るさまも相まって、まこと絵になる光景だった。

やがて号令がかかると、階段から生き物が一斉に消えた。空気は期待と緊張の沈黙で重くなった。目の届くかぎり、舟の中の無数の人々が立ち上がり、提灯と松明の眩しさを手で遮り、宮殿のほうを凝視するのが見えた。

四十から五十艘ほどの儀礼船が階段へ寄せた。金箔をふんだんに施され、高い舳先と艫は精緻に彫り込まれていた。旗や吹き流しで飾られたものもあれば、金襴や紋章を刺繍したタペストリーで覆われたものもある。無数の小さな銀鈴を縫いつけた絹旗を掲げる船もあり、そよ風がはためかせるたび、嬉々とした小さな音の雨を降らせた。さらに格の高い船――王子直属の貴族たちのもの――は、舷側が見事な盾で柵のように飾られ、紋章が豪奢に描かれていた。儀礼船はそれぞれ小舟に曳かれていた。漕ぎ手のほか、その小舟には、光沢ある兜と胸当てをつけた武装兵の一団と、楽師たちが乗っていた。 ほどなく、待ち望まれた行列の先駆けが大門に現れた。槍斧(ハルバード)を持つ兵士の一隊である。彼らは黒と黄褐色の縞のホーズをはき、脇に銀の薔薇を飾ったビロードの帽子をかぶり、くすんだ赤紫(マレイ)と青の布の胴衣を着ていた。前後には王子の紋章たる三本の羽根が金糸で織り込まれている。槍斧の柄は深紅のビロードで覆われ、金の鋲で留められ、金の房飾りが揺れた。彼らは左右に分かれて、宮殿の門から水際まで続く二列の長い回廊を作った。続いて厚手の筋模様の敷布が広げられ、王子の金と深紅の制服を着た従者たちが、その間に敷いた。終えると、内側からラッパのファンファーレが轟いた。水上の楽師たちが陽気な前奏を奏で、白い杖を持つ二人の儀仗官が、ゆっくりと威厳ある足取りで門口から進み出た。その後ろに市の大杖を担ぐ役人、さらに市の剣を持つ者が続く。次に市衛兵の伍長たちが完全武装で、袖に徽章をつけて続き、ガーター紋章官がタバードをまとって現れ、バス勲爵士たちがそれぞれ白い紐を袖につけて続き、その従者が続く。次いで判事たちが緋の法衣と頭巾で、ついでイングランド大法官が、前を開いた緋の衣にミネヴァー(白い毛皮)の縁取りで続く。さらに緋の外套の市参事会員団、そして各同業組合の長たちが礼装で続く。ここでフランス大使の随員である十二名のフランス紳士が、白いダマスクの胴着に金の筋を入れ、紫のタフタを裏に張った深紅のビロードの短いマント、カーネーション色のホーズという華美な装いで階段を下りた。続いてスペイン大使随員の十二名の騎士が、飾り気のない黒ビロードの装いで下りた。その後ろに、数名のイングランドの大貴族が従者を伴って続いた。

内側から再びラッパが鳴り、王子の叔父――のちに偉大なるサマセット公となる人物――が門から現れた。『黒地の金襴の胴衣に、金の花模様を散らした深紅のサテンの外套、そして銀の網目のような飾り紐』という装いだった。彼は向き直り、羽根飾りの帽子を脱いで深く礼をし、一歩ごとに頭を下げながら後ずさりした。長く引き伸ばしたラッパの響きののち、「道を開けよ、ウェールズ公エドワード卿、尊貴にして強大なるお方のお通りだ!」という触れが上がった。

宮殿の壁の高みから、赤い炎の舌が一列に跳ね上がり、雷鳴のように轟いた。川に集まる世界の塊が、歓迎の大咆哮を爆発させた。そしてその中心であり英雄であるトム・キャンティが姿を見せ、王子としての頭をわずかに垂れた。 彼は『白いサテンの胴衣に、前面は紫の織金布、そこへダイヤモンドを散らし、縁には白テン(オコジョ)の毛皮。さらに三本羽根の紋章を型押しした白の金襴のマントをまとい、裏は青いサテン、真珠と宝石で飾られ、留め金はきらめく宝石。首にはガーター勲章と、外国の王侯の勲章がいくつも下がっていた』。光が当たるたび、宝石は目を射る閃光で応えた。ああトム・キャンティ、掘っ立て小屋に生まれ、ロンドンの溝で育ち、ぼろと泥と惨めさに親しんだ少年よ――これは何という見世物だ! 


第十章 王子、罠にかかる

ジョン・キャンティが、正真正銘の王子をオファル・コートへ引きずって行き、その後ろに騒々しく歓喜する群衆がついて行ったところで、話を切ったのだった。その群衆の中で、囚われの少年をかばう言葉を口にした者はたった一人しかいなかった。そしてその声は顧みられず、ほとんど聞かれもしなかった。騒ぎがあまりに大きかったからだ。王子は自由を求めてもがき、受けている扱いに憤り続けたが、ついにジョン・キャンティの乏しい忍耐も尽き、突然激昂して樫の棍棒を王子の頭上に振り上げた。少年をかばう唯一の男が飛び出して腕を止めようとし、棍棒の一撃はその男の手首に落ちた。キャンティは吠えた――

「口を出す気か? なら、褒美をくれてやる。」 棍棒はその男の頭に叩き落とされた。呻き声が上がり、ぼんやりした影が群衆の足もとへ崩れ落ち、次の瞬間には闇の中に一人きりで横たわっていた。群衆は押し流れるように進み、この出来事で興が削がれることもなかった。

やがて王子は、ジョン・キャンティの住まいの中にいた。戸は外の者に閉ざされている。瓶に差した獣脂ロウソクのぼんやりした光で、王子はその不潔な巣の大まかな様子と、そこにいる者たちを見て取った。みすぼらしい娘が二人と中年の女が、隅の壁に身を寄せて縮こまっていた。乱暴な扱いに慣れ、いまもそれを予期して怯える動物のような顔つきだ。別の隅からは、白髪を振り乱し、悪意に満ちた目をした干からびた老婆が忍び出てきた。ジョン・キャンティはこの老婆に言った――

「待て! 面白い見世物がある。楽しむまでは台無しにするな。楽しんだら、好きなだけ手を重くしていい。前へ出ろ、坊主。忘れてなきゃ、もう一度その戯言を言え。名を名乗れ。お前は誰だ?」

侮辱された血がまたも小さな王子の頬に上り、彼はまっすぐな憤りの目で男の顔を見据え、言った――

「そのような者が私に話せと命じるとは、無作法も甚だしい。今ここで言う。先ほども言ったが、私はエドワード、ウェールズ公である。それ以外の何者でもない。」 この返答の衝撃で、老婆は床に縫い止められたように動けず、息も詰まるほどだった。愚鈍な驚きで王子を見つめ、その様子がならず者の息子を大いに楽しませたので、男はどっと笑い出した。だがトム・キャンティの母と姉妹にとっては、受けた衝撃の質が違った。身体の危険への恐怖は、別の苦しみにすぐさま置き換わった。三人は悲嘆と驚愕の顔で駆け寄り、叫んだ――

「まあ、かわいそうなトム、かわいそうに!」

母親は王子の前に膝をつき、両手を彼の肩に置き、こみ上げる涙越しに切々とその顔を見つめた。それから言った――

「かわいそうに、私の子! お前の愚かな読書が、とうとう取り返しのつかぬことをしてしまった。正気を持って行ってしまったのだよ。ああ! だから止めろと、あれほど言ったのに、どうして縋りついたの! お前は母さんの心を折ったよ。」

王子は彼女の顔を見て、優しく言った――

「そなたの息子は健やかで、正気も失ってはおらぬ、奥方。安心せよ。あの者のいる宮殿へ連れて行ってくれれば、我が父王がただちに彼をそなたのもとへ戻そう。」

「父が王だなどと! ああ、我が子よ……その言葉は、お前に死を運び、近くにいる者すべてを破滅させる。そんなことは言わないでおくれ。恐ろしい夢を振り払って。迷った記憶を呼び戻して。私を見て。私はお前を産み、お前を愛している母じゃないか。」

王子は首を振り、名残惜しげに言った――

「神にかけて、そなたを悲しませたくはない。だが真実、私はそなたの顔を今まで見たことがない。」

女は床へへたり込み、両手で目を覆い、心の折れる嗚咽と泣き叫びに身を委ねた。

「続けろ、見世物を!」キャンティが叫んだ。「おいナン! おいベット! 行儀知らずめ! 王子の御前で立っているか! ひざまずけ、貧乏くずども、敬礼しろ!」

そしてまた馬鹿笑いを放った。娘たちはおずおずと兄のために嘆願し始め、ナンが言った――

「お父さん、お願い。寝かせて休ませてあげて。眠れば治るよ、この狂いは……お願いだよ。」

「そうしてよ、お父さん」とベットが言った。「今日はいつもより、ずっとくたびれてるんだもの。明日になればまた元どおりで、せっせと物乞いして、今度は手ぶらで帰ったりしないわ。」

この一言で、父親の陽気さはしぼみ、頭はたちまち勘定へと戻った。ジョン・キャンティは王子に腹立たしげに向き直り、言い放った。

「明日になりゃ、この穴ぐらの持ち主に二ペニー払わにゃならん。二ペニーだ、よく覚えとけ――半年の家賃がそれだけだ。払えねぇなら、ここから叩き出される。さあ、怠けた物乞いで集めたもんを出してみろ。」

王子は言った。

「卑しい金の話でわたしを汚すな。もう一度言う。わたしは王の息子だ。」

キャンティの幅広い手のひらが王子の肩に、容赦ない一撃を叩き込んだ。王子はよろめいてキャンティ夫人の腕の中へ倒れ込む。夫人は王子を胸に抱き、殴りつける拳と平手の雨を、自分の体を盾にして受け止めた。怯えた娘たちは隅へ退いたが、お祖母さんは息子に加勢しようと前へ乗り出す。王子はキャンティ夫人の腕から跳ねるように離れ、叫んだ。 「奥方、わたしのせいで苦しむことはない。こいつら豚どもは、わたし一人に好きなだけ手出しすればよい。」

この言葉が豚どもの癇に障り、連中は待っていましたとばかりに仕事に取りかかった。二人がかりで少年を容赦なく打ち据え、さらに被害者に同情したというだけで、娘たちと母親まで殴りつけた。

「さあ」とキャンティが言った。「寝ろ、全員だ。余興で疲れちまった。」

灯りが消され、一家は引き上げた。家長とその母親のいびきが、眠りに落ちた合図となるや、娘たちはそっと這い寄り、王子の体に藁やぼろ布をかけて、寒さをやわらげた。母親もまた忍び寄って髪をなで、泣きながら、途切れ途切れの慰めと哀れみの言葉を耳元にささやき続けた。食べさせようと一口分も取っておいたが、少年は痛みで食欲をすっかり失っていた――少なくとも、黒くて味気ない堅パンの端切れなど、喉を通らない。王子は、夫人の勇敢で身を削るような庇い立てと、その哀れみに心を打たれ、いかにも高貴で王子らしい言葉で礼を述べ、眠って悲しみを忘れるようにと頼んだ。そして、父王はその忠実な親切と献身を必ず報いてくださる、と付け加えた。この「狂気」に戻った言葉が、夫人の心をまたもや引き裂いた。夫人は王子を何度も何度も胸に抱き締め、涙に溺れながら寝床へ戻っていった。

横になって思い悩むうち、夫人の心に、ある考えがじわじわと忍び込んできた。この少年には、トム・キャンティにはない、言い表せない何かがある――正気でも狂っていても。説明できない。何がどうとは言えない。それでも鋭い母の本能が、それを嗅ぎ取り、見抜こうとしている。もしや、この子は本当は自分の息子ではないのでは? ――ばかばかしい! 悲しみと苦労のさなかにあっても、夫人は危うく笑いかけた。だが、その考えは「引っ込む」どころか、しつこくつきまとって離れない。追い回し、苛み、まとわりつき、振り払われることを拒む。ついに夫人は悟った。疑いを明確に、疑いようもなく断ち切る試しを考え出さない限り、安らぎは訪れないのだ――この少年が息子か否かを証明する試しを。

ああ、そうだ。それこそがこの難儀から抜け出す正しい道。夫人はすぐさま知恵を絞り、その試しを案じ始めた。だが言うは易く、行うは難し。次から次へと試案を思い浮かべては捨てた――どれも絶対に確実、絶対に完璧ではない。完璧でないものでは、夫人は満足できない。どうやら徒労らしい――諦めるしかないのか。そんな陰鬱な思いがよぎったとき、夫人の耳に少年の規則正しい寝息が入った。眠りに落ちたのだ。そして聞き耳を立てていると、その整った呼吸に、夢にうなされる者が漏らすような、かすかな驚きの声が混じった。その偶然が、夫人に一瞬で、先ほどまでの苦心の試案すべてを束ねて投げ捨てるほどの妙案を授けた。

夫人はたちまち熱に浮かされたように、しかし音を立てぬように、ロウソクに火を入れ直し始め、独りごちた。 「もしあのとき見ていさえしたら、わかったはずなのに! 小さいころ、顔の前で火薬が破裂して以来、この子は夢の中でも考えごとの最中でも、急に驚かされると必ず手を目の前にかざす――あの日と同じように。しかも、普通みたいに掌を内側に向けるんじゃない。いつも掌を外へ向けて……百回は見た。ずっと変わらず、外れたこともない。そう、すぐわかる。今度こそ!」

夫人はロウソクを手に、光が漏れぬように覆い、眠る少年の脇へ忍び寄った。胸の高鳴りを押し殺し、息さえ控えながら、そっと身を屈める。突然、少年の顔へ光を走らせ、耳元の床を拳の関節でコツンと打った。

眠り手の目がぱっと見開かれ、驚いた視線が周囲を彷徨った――だが、手は何ひとつ特別な動きをしなかった。 哀れな女は、驚きと悲嘆にほとんど打ちのめされかけた。それでも感情を隠し、少年をなだめてまた眠らせると、離れた場所へ這い戻り、実験の惨憺たる結果について、みじめに自問自答した。トムの狂気が、あの癖の動作を消し去ったのだ、と信じようとした――だが無理だった。 「いいえ」と夫人は言った。「狂っているのは頭でも、は狂わない。あんな古い癖を、こんな短い間で忘れられるはずがない。ああ、今日は重い日だこと!」

それでも希望は、先ほどまでの疑いと同じくらい頑固だった。夫人は試しの判定を受け入れられない。もう一度やらねばならない――失敗は偶然にすぎない。夫人は二度目、三度目と、間を置いて少年を驚かせて起こした――結果は最初と同じだった。ついに夫人は寝床へ引きずるように戻り、悲しみのままに眠りに落ちながら言った。 「でも、この子を手放せない……だめ、だめよ、できない――この子は、きっと私の子なんだ!」 哀れな母親の妨げが止み、王子の痛みも次第に力を失っていくと、ついに疲労がまぶたを封じ、深く安らかな眠りが訪れた。時が過ぎても、死んだように眠り続ける。四、五時間がそうして流れた。やがて深い眠りが薄れ始め、半分眠り半分目覚めたまま、王子はつぶやいた。

「サー・ウィリアム!」

しばらくして――

「おお、サー・ウィリアム・ハーバート! こちらへ来い、この世でいちばん奇妙な夢を聞け……サー・ウィリアム! 聞こえるか? わたしは乞食に変えられたと思い……おい! 衛兵! サー・ウィリアム! 何だ、侍従は控えておらぬのか? ああ、これでは――」

「どうしたの?」近くで囁く声がした。「誰を呼んでるの?」

「サー・ウィリアム・ハーバートだ。おまえは誰だ?」

「私? 誰って、ナン姉さんに決まってるじゃない。……ああ、トム、そうだった! まだ狂ってるのね――かわいそうに、まだ狂ってる。こんなこと知ってしまうくらいなら、目覚めなければよかった。でもお願い、口を慎んで。じゃないと、みんな死ぬまで殴られるよ!」

驚いた王子は半身を起こしたが、固まった打ち身が鋭く痛み、我に返る。王子は汚れた藁の上へうめき声とともに崩れ落ち、うめいた。

「嗚呼……では夢ではなかったのか!」

眠りが払い落としてくれていた重い悲嘆と惨めさが、たちまち胸に戻ってきた。王子は悟る。もはや宮殿で甘やかされ、国じゅうの憧れの眼差しを浴びる王子ではない。ぼろをまとった乞食、追放者。獣しか似合わぬ巣穴の囚人。物乞いと盗人に囲まれているのだ。

嘆きの最中、王子は、どうやら一、二区画先あたりから、陽気な騒音と叫び声が上がっていることに気づいた。次の瞬間、戸を叩く鋭い音が何度も響いた。ジョン・キャンティは鼾を止めて言った。

「誰だ。何の用だ。」

声が答えた。

「おまえが棍棒で殴った相手が誰か、知ってるか?」

「知らねぇ。知ろうとも思わねぇ。」

「すぐにその口の利き方も変わるだろうさ。首を守りたいなら、逃げるしかない。そいつは今しがた息を引き取ろうとしてる。相手は司祭、アンドリュー神父だ!」

「神よ!」とキャンティが叫んだ。家族を叩き起こし、しゃがれ声で命じる。「起きろ、逃げるぞ――さもなきゃここにいて、まとめて死ね!」

五分もしないうちに、キャンティ一家は通りへ飛び出し、命がけで逃げていた。ジョン・キャンティは王子の手首をつかみ、暗い道を急がせながら、低い声で警告した。

「口を慎め、この狂い者。俺たちの名を口にするな。法の犬どもを撒くために、すぐ別名を名乗る。いいか、口を慎め!」 そして家族には唸るように言った。

「はぐれたら、各々ロンドン橋へ向かえ。橋の上で最後の麻布商の店まで行けた者は、そこで待て。全員そろったら、いっしょにサザークへ逃げ込む。」

そのとき一行は、突然、暗闇から光の中へ飛び出した――しかもただの明かりではない。川沿いに群がる、歌い踊り叫ぶ人々の大群のまっただ中だった。テムズ川の上下、見渡す限り篝火の列が続いていた。ロンドン橋は照らし出され、サザーク橋も同様に輝いている。川面は色とりどりの灯火のきらめきで燃え、花火の爆ぜる音が絶え間なく空を満たし、飛び交う光の錯綜と、目もくらむ火花の雨が、夜をほとんど昼に変えてしまうほどだ。どこもかしこも浮かれ騒ぐ群衆。ロンドンじゅうが通りへ繰り出したかのようだった。

ジョン・キャンティは激しく悪態を吐き、退くよう命じたが、もう遅い。キャンティとその一味は、人の蜂の巣に呑み込まれ、瞬く間に互いを見失った。もっとも、王子を一味に数えてはいない――キャンティはなおも王子の手首を離さなかった。だが王子の心臓は今、逃げられるという希望で高鳴っていた。

酒でかなり出来上がった屈強な渡し守が、群衆をかき分けようとするキャンティに乱暴に押され、怒って大きな手をキャンティの肩に置き、言った。

「おいおい、そんなに急いでどこへ行く、友よ? 皆が真っ当な男として祝ってるというのに、卑しい用事で魂を腐らせるつもりか?」

「俺の用は俺の用だ。お前に関係ねぇ」とキャンティは荒く答えた。「手をどけろ、通せ。」

「そういう気分なら、なおさら通さねぇ。ウェールズ公に乾杯するまではな」と渡し守は言い、頑として道を塞いだ。

「なら杯をよこせ、急げ、急げ!」

そのころには、ほかの浮かれ者たちも面白がっていた。口々に叫ぶ。

「ラヴィング・カップを! ラヴィング・カップを!」[訳注:「loving-cup」=共同の大杯で順に回して飲む儀礼用の杯] 「この不機嫌面にラヴィング・カップを飲ませろ。飲まねぇなら魚の餌にしてやれ!」

かくして巨大なラヴィング・カップが運ばれてきた。渡し守は片方の取っ手を握り、もう一方の手で架空のナプキンの端を持ち上げる仕草をして、古式ゆかしくキャンティに差し出した。キャンティは反対側の取っ手を片手で掴み、もう片手で蓋を取らねばならない――これもまた古い作法である。つまり、その一瞬、王子の手は自由になった。王子は迷わず、周囲の脚の森へ身を滑り込ませ、姿を消した。次の瞬間には、あの揺れる生命の海の下で、たとえ波が大西洋のそれで、王子が落とした六ペンス硬貨だったとしても、探し出すのは同じくらい難しかっただろう。 王子はすぐにそれを悟り、もはやジョン・キャンティのことなど考えず、己の用事に取りかかった。もう一つ、別のことにもすぐ気づいた。つまり、自分の代わりに、偽のウェールズ公が市民から歓待されている、ということだ。王子はたやすく結論した。乞食の少年トム・キャンティが、この途方もない好機に乗じて、意図的に簒奪者となったのだ。

ならば取るべき道は一つ――ギルドホールへ行き、身分を明かし、偽物を告発する。さらに王子は、トムには魂の準備のための相応の時間を与え、その後、反逆罪における当時の法と慣習どおり、絞首・内臓抉出・四つ裂きに処すと決めた。[訳注:「hanged, drawn and quartered」=反逆罪に科された苛烈な処刑(絞首後に内臓を抜き、遺体を四分するなど)]


第十一章 ギルドホールにて

王の艀は、絢爛たる随伴船団を従え、照らし出された無数の舟の荒野を縫いながら、テムズ川を威容のまま下っていった。空気は音楽を含み、川岸は喜びの炎で縁取られる。遠くの都は、見えない幾千もの篝火の柔らかな光に包まれ、その上に、細い尖塔が幾本も天へ突き立っていた。尖塔はきらめく灯りで縁取られ、遠目には宝石を散りばめた槍が空へ突き上げられているように見える。船団が進むにつれ、岸からは途切れぬ、しゃがれた歓声の轟きが湧き上がり、砲撃の閃光と轟音が絶え間なく応えた。

絹のクッションに半ば埋もれたトム・キャンティには、この音と光景が、言いようもなく崇高で驚嘆すべき奇跡だった。だが脇にいる小さな友だち――レディ・エリザベスとレディ・ジェーン・グレイにとっては、何でもないことだった。

船団はドウゲートに着くと、澄んだウォルブルック川を曳航されてバックラーズベリーまで上った(この川筋は今では二百年ものあいだ、広大な建物群の下に埋もれて見えない)。家々の間を過ぎ、浮かれ者で賑わい、眩く灯された橋の下をくぐり、ついに古都ロンドンの中心部――いまのバージ・ヤードに当たる場所の船溜まりで止まった。トムは上陸し、華やかな行列とともにチープサイドを横切り、オールド・ジュリーとベイジングホール通りを少し進んで、ギルドホールへ向かった。

トムと二人の小さな淑女は、金の鎖と緋色の式服をまとったロンドン市長と市参事会(シティの長老たち)に、正式な儀礼をもって迎えられた。先導する紋章官の布告、メイスと市剣に続いて、大広間の上座に設けられた豪奢な天蓋の下へ案内される。トムと二人の友に付き従うべき貴族たちは、彼らの椅子の背後に位置した。 やや低い卓には、宮廷の大貴族や高位の客が、市の重鎮たちとともに着いた。庶民は広間の床に並べられた無数の卓へ散った。高みに構える古の市の守護者、巨人ゴーグとマゴーグが、幾世代も見慣れたこの光景を見下ろしている。[訳注:ゴーグ/マゴーグ=ロンドンの伝説的守護巨人像] ラッパが鳴り布告があると、左手の壁の高い所に、太った給仕頭が姿を現し、従僕たちを従えて、堂々たる牛肉の巨大な塊――王のロースト――を、厳かな手つきで運び入れた。湯気を立て、刃を待っている。

祈りの後、トムは(教えられて)立ち上がり――広間の全員も立ち上がり――ふくよかな黄金のラヴィング・カップから、レディ・エリザベスとともに飲んだ。杯は彼女からレディ・ジェーンへ渡り、そこから会衆を巡っていった。こうして宴が始まった。

真夜中には、浮かれ騒ぎは最高潮に達した。ここで当時とりわけ好まれた、絵巻のような見世物が登場する。その記述が、目撃した年代記作者の古風な言い回しのまま、今も残っている。

『場をあけると、ほどなくして男爵一人と伯爵一人が入場す。衣装はトルコ風、長き袍は金粉を散らした錦(バウドキン)にて、頭には深紅の天鵞絨の帽子、金の大きな巻きを添う。腰には二振りの刀、シミターと呼ばるるものを佩び、金の太き革紐にて吊るす。次いでさらに男爵一人、伯爵一人が続く。衣装はロシア風、黄のサテンの長衣に白サテンの筋を横たえ、その白の曲線ごとに深紅サテンの曲線を重ねる。頭には灰色の毛皮縁取りの帽子、手には斧を持ち、靴は尖りて、尖端は一フィート(約0.30メートル)ほど上へ反り返る。次に一人の騎士、続いて大提督が入り、さらに五人の貴族が随う。衣装はプロイセン風、深紅の天鵞絨の胴衣は背と胸が鎖骨(カンネル・ボーン)まで大きく刳られ、胸は銀の鎖にて編み上ぐ。その上に深紅サテンの短き外套を羽織り、頭には踊り手風の帽子、雉の羽根を挿す。松明持ちはおよそ百人、深紅サテンと緑にてムーア人の如く装う。顔は黒く塗らる。次に仮装劇(モマリー)あり[訳注:「mommarye」=仮面・仮装の余興(仮装劇)]。次いで変装した楽士らが踊り、また諸侯と婦人らも乱舞して、見るに実に愉し。』

そしてトムが高座から、この「乱舞」を見つめ、下で渦巻くけばけばしい人影が織りなす万華鏡の色彩に見とれているそのとき、外では、ぼろをまとった本物のウェールズ公が、自分の権利と不当を叫び、偽者を罵り、ギルドホールの門で入場をわめき散らしていたのだ。群衆はこの一幕を大いに楽しみ、前へ押し寄せ、首を伸ばして小さな暴れ者を見物した。やがて連中は彼をからかい、嘲り、わざと癇癪を煽って、もっと面白がろうとした。屈辱の涙が王子の目に滲んだが、王子は退かず、王者らしく民衆に挑んだ。嘲笑がさらに続き、針のようなからかいが重なると、王子は叫んだ。

「もう一度言うぞ、この無作法な野犬ども! わたしはウェールズ公だ! たとえ見捨てられ、友もなく、助けの言葉一つくれる者もいないとしても、ここを追い払われたりはせぬ。わたしはここを守り抜く!」

「おまえが王子だろうが王子でなかろうが、どっちでもいい。おまえは見事な小僧だし、友がいないわけでもない! ほら、俺がここに立っている――それで証明してやる。マイルズ・ヘンドンより悪い友を探すのは難しいぞ、足を棒にするだけだ。顎を休めろ、坊や。俺はこの下劣な犬小屋ネズミどもの言葉を、地の者みたいに喋れるんでな。」

話者は、服装も風貌も身のこなしも、まるでドン・セザール・ド・バザンのような男だった。背は高く、締まった体つきで筋肉質。胴衣と半ズボンは上等だが色褪せて擦り切れ、金糸の飾りも見る影もなくくすんでいる。襞襟は乱れ、つば広帽の羽根は折れて、濡れそぼった薄汚れた印象。脇には長いレイピアを、錆びた鉄の鞘に収めて下げ、威張りくさった歩きぶりだけで、野営の荒くれ者とわかる。奇抜なこの男の発言に、嘲笑と大笑いが爆発した。「また変装した王子だ!」と叫ぶ者、「気をつけろ、危ねぇぞ!」と言う者、「なるほど危なそうだ――目を見ろ!」と言う者、「小僧を引き剥がせ! 馬洗い池へ放り込め!」と吠える者。

この「名案」に煽られて、たちまち王子に手が伸びた。その瞬間、見知らぬ男の長剣が抜き放たれ、手出しした者は剣の平で叩き落とされて地面に転がった。次の瞬間、「犬を殺せ! 殺せ、殺せ!」という声が一斉に上がり、暴徒が戦士へ殺到した。男は壁を背にして踏ん張り、狂ったように長剣を振り回す。犠牲者はあちこちにのたうつが、群衆の潮は倒れた体を踏み越えて、勢いの衰えぬまま擁護者へぶつかり続けた。 男の命はもはや数え切れるほど、破滅は確実――そう見えた、そのときである。突如、ラッパが鳴り響き、「王の使者に道を開けろ!」と叫ぶ声がした。騎馬の一隊が暴徒へ突撃し、群衆は足の続く限り逃げ散った。大胆な男は王子を抱え上げ、ほどなく危険と群衆の彼方へ遠ざかった。

ギルドホールの内へ戻ろう。突然、歓喜の咆哮と宴の轟きのはるか上で、澄み切ったラッパの一音が鳴り渡った。たちまち静寂が落ちる――深い沈黙。やがて一つの声が立った。宮殿からの使者である。その者が布告を読み上げ始め、全員が立ったまま耳を澄ませた。

厳粛に告げられた結びの言葉は――

「国王は崩御された!」

大集会は一斉に頭を垂れ、しばし深い沈黙のまま動かなかった。やがて全員がどっと膝をつき、トムへ両手を差し伸べると、建物を揺さぶるほどの大歓声が炸裂した。

「国王陛下、万歳!」 哀れなトムの茫然とした目は、この卒倒しそうな光景の上をさまよい、ついに、膝をつく二人の王女に一瞬止まり、それからハートフォード卿へ移った。トムの顔に、ふいに意図が差す。トムはハートフォード卿の耳元へ、低い声で言った。

「真実を答えよ。そなたの信義と名誉にかけて! ここで私が、王だけに許された特権と大権によってのみ発し得る命令を下したなら、それは従われ、誰一人として異を唱えぬか?」

「陛下、これら全領土のいずこにも、そのような者はおりませぬ。陛下のお体にイングランドの威光は宿っております。陛下こそ国王――御言葉は法にございます。」

トムは強く、真剣な声で、生き生きと言った。

「ならば王の法は、この日より慈悲の法とする。もはや血の法ではない! 立て、行け! ロンドン塔へ赴き、国王の裁可として告げよ。ノーフォーク公を死なせてはならぬ、と!」

言葉は唇から唇へと広間を走り、ハートフォード卿が駆け去ると、さらにもう一度、とてつもない歓声が弾けた。

「血の治世は終わった! イングランド王エドワード、万歳!」


第十二章 王子と救い主

マイルズ・ヘンドンと小さな王子が暴徒から抜け出すと、二人は裏路地や狭い路地を縫って川の方へ向かった。ロンドン橋へ近づくまでは道は塞がれずに済んだが、そこからまた群衆へ突っ込むことになった。ヘンドンは王子の――いや、国王の――手首をしっかり掴んだまま離さない。

凄まじい知らせはすでに広がっていて、少年は千の声から同時に聞かされた。「国王は崩御された!」

その知らせは哀れな小さな漂泊児の心を凍らせ、全身を震わせた。失ったものの大きさを悟り、苦い悲しみに満たされる。あの冷酷な暴君は他人には恐怖でしかなかったが、少年に対してはいつも優しかったのだ。涙が目に湧き、すべてが滲む。一瞬、少年は神に見捨てられた生き物の中で、自分こそ最も孤独で、最も追われ、最も放り出された者だと感じた――だが次の叫びが夜を震わせ、遠くまで轟いた。「国王エドワード六世、万歳!」それを聞くと少年の目は燃え、指先まで誇りが走った。 「ああ」と少年は思う。「なんと偉大で、不思議な響きだ――わたしは国王なのだ!」 二人は橋の上の人波を、ゆっくりと縫って進んだ。この橋は六百年ものあいだ立ち続け、その間ずっと騒々しく、人の絶えぬ通り道だった。実に奇妙な構造で、川の片岸からもう片岸まで、橋の両側には店と商い小屋が隙間なく並び、その上に家族の住まいが載っている。橋は一つの町そのものだった。宿屋もあれば、酒場も、パン屋も、衣料小物屋も、食料市も、職人の工房もあり、果ては教会まである。橋は、自分が繋いでいる二つの隣人――ロンドンとサザーク――を、郊外としてはまあよいが、それ以上に重要なものとは見ていない、とでも言いたげだった。

橋は言うなれば閉鎖的な自治体であり、五分の一マイル(約322メートル)ほどの一本通りからなる細長い町だった。人口は村程度で、住民は互いをよく知り、互いの父母の代から知り合いで――その上、家ごとの小さな揉め事まで、全部お見通しだった。もちろん「貴族階級」もある。何百年も同じ店構えを守ってきた肉屋だのパン屋だのの古い名家がいて、橋の歴史を最初から最後まで知り尽くし、奇妙な伝説も知っていた。橋の者はいつも橋の話し方をし、橋の考え方をし、橋らしく、長く、平坦に、まっすぐで、どっしりした嘘をつく。狭量で無学でうぬぼれ屋になるには、うってつけの住民である。

橋で生まれた子どもは橋で育ち、老い、ついには死ぬまで、ロンドン橋以外の土地へ一歩も足を踏み入れないことさえあった。そういう人々は当然、昼も夜も橋の通りを動き続ける、あの混沌たる大行列――叫びと怒号のごうごうという響き、いななき、牛の吠え、羊の鳴き、そして鈍い雷鳴のような蹄の轟き――こそがこの世で最も偉大なものだと思い込み、自分たちがそれの所有者であるかのように感じる。実際、ある意味では所有者だった。窓からそれを見物させ、金を取って見せびらかすことができたのだから。帰還する王や英雄が一瞬の栄光を与えるとき、ここほど長くまっすぐで遮りのない行進の眺めを提供できる場所はなかった。

橋で生まれ育った者には、他所の暮らしは耐え難く退屈で空虚だった。史書によれば、七十一歳で橋を離れ、田舎へ引っ込んだ者がいる。だがその者は寝床で身悶えし、眠れなかった。深い静けさが苦痛で、恐ろしく、重苦しかったのだ。ついに耐え切れず、痩せこけた亡霊のようになって古巣へ逃げ帰り、叩きつける水音と、ロンドン橋のどん、がらがら、雷鳴のような轟きに子守唄のように揺すられながら、ようやく安らかな眠りと夢を得たという。

私たちが描くこの時代、橋は子どもたちに「イングランド史の実物教材」を提供していた。すなわち、門楼の上の鉄の杭に突き刺された、名だたる男たちの青黒く腐りかけた首級である。だが、話が逸れた。 ヘンドンの宿は橋の上の小さな宿屋にあった。小さな友だちを連れて戸口へ近づくと、荒い声が言った。

「よう、やっと来やがったな! もう逃がさねぇぞ。骨を叩いて粥にしてやりゃ少しは覚えるだろう。二度と待たせるなよ、いいな」――そう言ってジョン・キャンティが少年を掴もうと手を伸ばした。

マイルズ・ヘンドンが間へ入って言った。

「そう急くな、友よ。ずいぶん乱暴ではないか。この子はおまえにとって何だ?」

「お前が他人のことに口を出してかき回すのが商売なら、こいつは俺の息子だ。」

「嘘だ!」と小さな国王が激しく叫んだ。

「よく言った。頭がまともでも壊れてても、俺は坊やの言葉を信じるぞ」とヘンドンは言った。「だがこの薄汚れた悪漢が父親だろうが何だろうが、同じことだ。この子が俺と一緒にいる方を選ぶなら、脅しどおり殴って虐げさせるために渡す気はない。」

「はい、はい、そうする。こいつは知らない。憎い。こいつと行くくらいなら死ぬ。」

「なら決まりだ。もう言うことはない。」

「そうはいくか!」ジョン・キャンティが叫び、ヘンドンの脇を抜けて少年に迫る。「力ずくで――」

「指一本触れたら、おまえという生きた屑を、鵞鳥みたいに串刺しにしてやるぞ!」ヘンドンは道を塞ぎ、剣の柄に手を置いた。キャンティは後ずさった。 「よく聞け」とヘンドンは続けた。「この子は、おまえみたいな群れに弄ばれて――殺されかけていたかもしれん――そのとき俺が庇護した。今さら、もっとひどい運命へ見捨てるとでも思うか? おまえが父親だろうが何だろうが――正直に言って、俺は嘘だと思っているが――こんな子にとっては、おまえの獣じみた手の中で生きるより、まともで早い死の方がましだ。だから失せろ。さっさと行け。俺は口論が好きじゃないし、気が長い方でもない。」 ジョン・キャンティは呪いと脅しをぶつぶつ言いながら立ち去り、群衆に呑まれて見えなくなった。ヘンドンは食事を部屋へ運ばせるよう命じたのち、預かりものを連れて三階分の階段を上がり、自分の部屋へ入った。みすぼらしい部屋で、擦り切れた寝台と、古い家具の寄せ集めがあるだけ。病的に弱々しいロウソクが二本、ぼんやりと照らしている。小さな国王はふらふらと寝台へたどり着き、飢えと疲れでほとんど力尽きたまま横になった。丸一日と一晩の大半を立って過ごし(今は夜中の二時か三時である)、その間何も口にしていない。国王は眠たげに呟いた。

「食卓が整ったら起こしてくれ。」

そう言うなり、深い眠りへ沈んだ。

ヘンドンの目が笑い、独り言を言った。

「まったく、この小乞食め。人の部屋に馴染んで、人の寝台を乗っ取る様子が、まるで自分のものみたいに自然で平然としていやがる。『失礼』も『よろしいですか』も何もなし。病んだ妄想で自分をウェールズ公だと言ってたが、その役を見事に守り通すじゃないか。哀れな身寄りなしの小鼠――虐待で心が壊れたのだろう。よし、俺が友になってやる。助けた縁で、妙に心が惹かれる。もう、あの口の達者な小悪党が愛おしい。煤だらけの下衆どもに、兵士みたいに立ち向かい、高々と啖呵を切ったあの姿! それに、眠りが悩みと悲しみを追い払った今の顔の、なんと端正で、甘く、穏やかなことか。教えてやろう。治してやろう。そうだ、兄として世話し、守ってやる。こいつを辱めたり傷つけたりしようとする奴は、棺桶の手配でもしておけ。俺がそのために火刑になろうと、こいつに必要なのはそっちだ!」 ヘンドンは少年に身を屈め、優しさと憐れみを込めて眺め、若い頬をそっと叩き、絡まった巻き毛を大きな褐色の手で撫でつけた。少年の体が小さく震えた。ヘンドンは呟く。

「まったく、男ってやつは……こんなふうに裸同然で寝かせ、命取りの冷えを体に入れちまう。さて、どうする? 抱き上げて寝台に入れりゃ起きる。だが睡眠が必要だ。」

追加の掛け物を探したが見当たらない。ヘンドンは胴衣を脱いで少年に巻きつけ、「俺は薄着と寒風には慣れてる。寒さなんぞどうってことはない」と言って、血を巡らせるために部屋を行き来しながら、先ほどの独白を続けた。

「傷ついた心が、自分をウェールズ公だと思い込んでいる。だが今、あの『王子』は王子ではなくなり、国王になった。こちらは王子のままでいるというのも妙な話だ――この哀れな頭はその一つの幻想に取り憑かれて、今こそ王子を捨てて国王と名乗るべきだとは理屈で導けないのだろう……父がまだ生きているなら、七年も異国の牢に放り込まれて家の便り一つ聞けなかった俺のために、この哀れな子を歓迎し、惜しみなく庇護してくれるはずだ。善良な兄アーサーもそうするだろう。もう一人の兄ヒューは――だがあいつが邪魔をするなら頭を叩き割ってやる、あの狐心で性根の腐った畜生め! よし、そこへ行こう――すぐに、だ。」

召使いが湯気の立つ食事を運び込み、小さな安い卓に並べ、椅子を置いて出ていった。貧乏な宿泊客は自分で世話をしろ、というわけだ。扉がバタンと閉まり、その音で少年は目を覚まし、跳ね起きて嬉しそうに周囲を見回した――が、すぐに顔が曇り、深い溜息とともに独り言を漏らした。

「ああ、夢だったのか……なんという不幸。」

次に少年はマイルズ・ヘンドンの胴衣に気づき、それからヘンドンへ目を移し、自分のために払われた犠牲を理解すると、穏やかに言った。

「そなたはわたしに良くしてくれる。いや、実に良くしてくれる。返そう、着るがよい――わたしにはもう要らぬ。」

そうして少年は立ち上がり、隅の洗面台へ歩いていって、そこで待った。ヘンドンは陽気な声で言った。

「さあ、腹いっぱい食って飲もう。何もかも香りがよくて、熱々だ。そのうえ昼寝もした。これでまた元気になる、心配はいらん!」

少年は答えず、背の高い剣の騎士を、重々しい驚きと、少しの苛立ちを含んだ目で見据えた。ヘンドンは首を傾げた。

「どうした?」

「善き御仁、わたしは手を洗いたい。」

「それだけか? 望むことにいちいちマイルズ・ヘンドンの許しなど要らん。ここでは好きにしてよい。持ち物はすべて歓迎だ。」

それでも少年は動かず、さらに小さな足で床を二、三度、苛立たしげにトンと打った。ヘンドンは完全に訳がわからない。

「神よ、何なんだ?」

「水を注いでくれ。口が多いぞ!」 ヘンドンは馬鹿笑いをこらえ、「まったく、これは見事だ!」と心で言いながら、さっと前へ出て小さな不遜者の命令どおりにした。それから呆然と立ち尽くしたが、「さあ、タオル!」という命令で我に返った。少年の鼻先からタオルを取り、黙って渡す。ヘンドンは自分も顔を洗い始め、その間に養子同然の子どもは食卓に着いて食べる準備を整えた。ヘンドンは手早く洗い終え、もう一つの椅子を引いて座ろうとした。そのとき少年が憤然と言った。

「控えよ! 国王の前で座るつもりか?」

この一撃はヘンドンの足元をぐらつかせた。ヘンドンは独り言を言った。 「なるほど、哀れな子の狂気は時勢に追いついたか! 国に起きた大転換に合わせて変わり、今度は自分を国王だと思い込んだのだ。やれやれ、これも相手をしてやるしかない――ほかに手はない。下手をすればロンドン塔へ送られかねん!」

そう思うと、その冗談が妙に愉快になり、ヘンドンは椅子を食卓から外し、国王の背後に立ち、自分にできる限りの礼儀正しさで給仕役を務め始めた。

国王が食べるうち、王者としての厳格さは少し緩み、満ち足りるにつれて、話したい気持ちが芽生えた。国王は言った。 「そなたはマイルズ・ヘンドンと名乗ったな、聞き違いでなければ?」

「はい、陛下」とマイルズは答え、内心こう付け加えた。「この子の狂気につき合うなら、『陛下』と呼ばねばならん。『ご威光』とも言わねばならん。中途半端はだめだ。役を演じるなら徹底しなければ、下手を打ってこの優しい施しを台無しにする。」

国王は二杯目の葡萄酒で心を温め、言った。 「そなたを知りたい。身の上話をせよ。そなたは見事な立ち居振る舞いだ。生まれも良いのか――高貴の出か?」

「我らは高貴の末端にございます、陛下。父は準男爵で、騎士奉仕による小領主の一人――ケント州のモンクス・ホルム近く、ヘンドン・ホールのサー・リチャード・ヘンドンにございます。」

「名は記憶から落ちておる。続けよ――話せ。」 「たいした話ではございませんが、よりよい話の代わりに短い半刻ほどの慰めになるなら幸いです。父サー・リチャードは大富豪で、きわめて気前の良い方です。母は私がまだ少年のころに亡くなりました。兄弟は二人。兄アーサーは長兄で、魂も父に似ております。弟ヒューは私より年下――卑しい心根で、強欲、陰険、裏切り者、邪悪で、腹黒い……爬虫類です。生まれたときからそうでした。十年前、最後に見たときもそう――十九にして手のつけられぬ悪党、私は二十、アーサーは二十二でした。

 ほかの親族は従妹のレディ・イーディスのみ――当時十六。美しく、優しく、善良で、伯爵の娘にして一族最後の血、莫大な財産と、失われた爵位の継承権を持つ身でした。父は彼女の後見人でした。私は彼女を愛し、彼女も私を愛しました。ですが彼女は揺り籠のころからアーサーと婚約しており、サー・リチャードはその契約を破ることを許しませんでした。アーサーは別の娘を愛していて、私たちに元気づけ、時と幸運がいつかそれぞれの願いを叶えてくれると信じて待とう、と言いました。

 ヒューはレディ・イーディスの財産を愛していました。本当は彼女自身を愛していると言ってはいましたが――あれはいつも、言うことと腹の中が逆の男です。だが娘には通用しませんでした。父は欺けても、ほかの誰も欺けない。父は三人の中でヒューをいちばん可愛がり、信じ、頼りました。末っ子で、ほかの者が嫌っていたからです。――古今、親の最愛を勝ち取るにはそれで十分です。さらにヒューは口が達者で、嘘の才能が見事でした――盲目の愛情が自分自身を欺くには、これほど役立つ資質もありません。

 私は荒れておりました。実を言えば、ずいぶん荒れていた、と言ってもよいでしょう。ただし、それは無垢な種類の荒れ方で、害するのは自分だけ、誰にも恥をかかせず、損もさせず、罪や卑劣の臭いもなく、身分に恥じぬ範囲のものでした。

 ところが弟ヒューはこの欠点を巧みに利用しました。兄アーサーの健康が万全でないのを見て、兄に万一があれば自分の得になると願い、さらに私が道から消えれば好都合だと考えたのです――それは長い話で、陛下、語るほどの値打ちもございません。手短に申せば、弟は私の欠点を罪にまで大きく見せ、最後に私の部屋から絹の縄梯子を見つけ出しました――自分の手で持ち込んでおいて。召使いやその他の嘘つきどもに偽証をさせ、父を信じ込ませたのです。すなわち私はイーディスをさらって父の意志に真っ向から逆らい、結婚するつもりだったのだ、と。

 父は言いました。家とイングランドから三年追放すれば、私も兵士に、男になり、多少は賢くなるだろうと。私は大陸戦争で長い試練を戦い抜き、痛打、困窮、冒険を腹いっぱい味わいました。ですが最後の戦で捕虜となり、この七年――満ちては欠ける七年のあいだ――異国の牢が私の住処でした。知恵と勇気でようやく自由の空気を勝ち取り、真っ先にここへ逃げ戻ったのです。今の私は財布も衣も貧しく、さらにこの鈍い七年がヘンドン・ホールとそこに属する人々に何をもたらしたか、その知識はもっと貧しい。以上、陛下、私の乏しい話は終わりです。」

「そなたはひどい目に遭わされたのだ!」小さな国王は目を閃かせて言った。「だが、わたしが正してやる――十字にかけて! 国王がそう言った。」 それから国王は、マイルズの不当な境遇の話に焚きつけられ、舌の堰が切れたように、自分の最近の災難の顛末を、驚き呆れた聞き手の耳へ注ぎ込んだ。話が終わると、マイルズは心の中で言った。

「なんという想像力だ! まったく、これは凡庸な頭ではない。狂っていようが正気であろうが、こんなにも筋が通り、こんなにも派手な物語を、虚空の材料だけで織り上げられるはずがない。哀れな崩れた小さな頭よ。俺が生きている限り、友も庇護も欠かせはしない。こいつは俺の傍を離れない。俺の愛玩、俺の小さな相棒になる。そして治してやる――そうだ、完全に、健やかに。そうなればこいつは名を成すだろう。そして俺は胸を張って言えるのだ。『そうだ、こいつは俺のものだ。家もない小さなぼろ小僧を拾ったが、俺には中身が見えた。いつか名が響くと言った。見ろ、よく見ろ――俺は当たったか?』。」

国王は、思案深く、落ち着いた調子で言った。

「そなたはわたしを傷と恥から救った。おそらく命を――そして王冠を。かかる働きは豊かな褒美を求める。望みを申せ。王権の及ぶ範囲であれば、すべてそなたのものだ。」

この奇想が、ヘンドンを空想から引き戻した。ヘンドンは礼を述べ、ただ義務を果たしただけで褒美など望まない、と言ってこの件を退けようとした。だが、より賢い考えが浮かび、しばし黙って恩寵ある申し出を検討する時間がほしい、と願い出た。国王は重々しくそれを認め、「かほど大事なことは、性急であってはならぬ」と言った。

マイルズはしばらく考え、心で言った。 「そうだ、それしかない――それ以外では手に入らん。そして今夜だけでも、今のまま続けるのは骨が折れて厄介だとよくわかった。よし、提案しよう。あの機会を取り逃がさなくて、まったく幸運だった。」

そして片膝をつき、言った―― 「わたくしの拙き奉公など、臣下として当然の務めの範囲を一歩も出ぬもので、功などあるはずもございませぬ。されど陛下がその労を賞し、何らかの褒美に値するものとお認めくださるというなら、この身にも思い切って願い事を申し上げる勇気が湧きましょう。――今よりほぼ四百年前、陛下もご存じのとおり、イングランド王ジョンとフランス王の間に不和の血が流れ、争いを“神の裁き”――いわゆる神判により決するべしとして、両国より選ばれた二人の挑戦者が馬場で決闘することに定まりました。両王はもとより、スペイン王までもが立ち会い、審判として集まりましたが、フランス側の挑戦者が現れるや、その者の恐るべき剛勇に、わがイングランドの騎士たちは誰ひとり武器を交えようといたしませぬ。かくして重大な争いは、戦わぬ敗北――不戦敗により、イングランド王の不利に決する寸前でございました。

 その折、ロンドン塔には、イングランド随一の剛腕として名高きド・クルシー卿が、爵位も領地も奪われ、長き幽閉で衰えながら繋がれておりました。そこへ救いを求める嘆願が届き、ド・クルシー卿はこれを受け、戦装束に身を固めて出陣いたします。ところがフランスの挑戦者は、その巨躯をひと目見、名を聞いた瞬間に逃げ散り、フランス王の訴えは潰えました。

 ジョン王はド・クルシー卿の爵位と領地を元どおりに戻し、『望みを申せ、たとえ我が王国の半分が代償となろうとも与えよう』と言いました。そこでド・クルシー卿は、まさに今のわたくしのように跪き、こう答えたのでございます――『ならば、この願いを。わたくしと、その後継者が、今後イングランドの王の御前において、玉座の続く限り、頭を覆ったまま居る特権を賜りたく存じます』と。

 陛下もご存じのとおり、この恩典は許されました。それから四百年、この家は一度も跡継ぎを欠いたことがなく、ゆえに今日に至るまで、その古き家の当主は、国王陛下の御前において帽子なり兜なりを着けたまま、何の妨げもなく立ち居することが許されております。これを許されるのは、その者ただ一人、ほかには誰も叶わぬことでございます。

 この先例を拠り所として、わたくしの願いをお聞き届けくださいますよう伏してお願い申し上げます。わたくしが望む褒美は、これ一つで十分でございます。他には何も要りませぬ。すなわち――イングランド陛下の御前において、わたくしとわたくしの子孫が、永劫にわたり、座っていてよい、という特権を賜りたいのでございます!」

「立て、マイルズ・ヘンドン卿、騎士よ」王は厳かに言った――ヘンドンの剣で叙勲の一撃を与えながら。「立って、座すがよい。願いは聞き入れた。イングランドが存続し、王冠が続く限り、その特権が失われることはない。」 陛下は少し離れて歩き、思案に沈んだ。ヘンドンは卓の椅子へどさりと腰を落とし、胸の内でこう呟いた。

「見事な思いつきだった。おかげで大いに救われたわい。脚がくたくたでかなわん。あれを思いつかなんだら、うちの可哀そうな坊やの正気が戻るまで、何週間も立ちづくめだったろうよ。」

しばらくして、彼はまた続けた。

「それにしても、わしは“夢と影の王国”の騎士に成りおおせたわけだ! なんとも奇妙な地位だな、これほど現実一点張りの男にとっては。笑うまい――いや、笑ってはならん。神に誓っても。わしにとっては実体のない戯れでも、あの子にとっては本当なのだ。しかも、別の意味では、わしにとっても偽りではない。あの子の中にある、優しく気前のよい魂――それを、まぎれもなく映しているのだから。」

少し間を置いて、

「だが、もし人前でわしをその立派な称号で呼んだらどうなる? 栄光と衣服の落差が、滑稽どころじゃないぞ。……まあいい、あの子が喜ぶなら好きに呼べ。わしはそれで満足だ。」


第十三章 王子失踪

やがて二人の仲間に、重い眠気がのしかかった。王は言った。

「そのぼろを脱がせよ」――自分の衣服のことだ。

ヘンドンは異を唱えず、何も言わずに少年の衣を脱がせ、寝床にきちんと寝かしつけた。それから部屋を見回し、苦々しく独りごちた。

「またわしの寝台を取られた。前と同じだ――さて、わしはどうする?」

小さな王はその困惑を見て取り、一言で霧を払った。眠たげに言う。

「戸口を横切って寝よ。そこで守りをせよ。」

次の瞬間には、王は深い眠りに落ちていた――悩みなど、何ひとつ知らぬ顔で。

「まったく……あの子は王として生まれるべきだった!」ヘンドンは感嘆してつぶやいた。「役どころが見事すぎる。」

そして満ち足りた気分で言いながら、戸の前の床に身体を横たえた。

「七年のあいだ、もっとひどい宿にも泊まってきた。これしきに文句を言うのは、天の御方への恩知らずというものだ。」

夜明けが見え始めたころ、ヘンドンは眠りに落ちた。正午近くになって起きると、眠りこけた“お守り役”の掛け布団を少しずつめくり、紐を当てて寸法を測り始めた。仕事を終えたちょうどそのとき、王が目を覚まし、寒いとこぼして、何をしているのかと尋ねた。

「もう済みましたぞ、陛下」ヘンドンは言った。「外に少し用がございますが、すぐ戻ります。もう一度お休みください――疲れが溜まっておいでだ。ほら――頭も覆いましょう。すぐ温まります。」

言い終える前に、王はまた夢の国へ戻っていた。マイルズはそっと出て行き、三十分から四十分ほどで同じようにそっと戻った。手には、古着の少年用一式――安物で、使い古した気配はあるが、こざっぱりして季節にも合う――を抱えている。腰を下ろし、買ってきた品を改めながら、ぶつぶつ言った。

「財布がもう少し太けりゃ、もう少しましなのが買えた。だが太くない財布で無理はできん――

『町にひとり女がいて、
 その女は――』 「今、身じろぎした気がするな……歌はもう少し小声にしよう。旅を控えているのに、あれほど疲れた可哀そうな子の眠りを邪魔しちゃいかん……この服は――まあ悪くない。ここを一針、あそこも一針すれば、きちんとする。こっちはもっといいが、これも二針ほど足してやればさらに良い……

 これは上等で丈夫だ。小さな足も温かく、乾いたままでいられる――あの子には、たぶん初めてのことだろう。きっと夏も冬も裸足で歩いてきたに違いないからな……糸がパンだったらいいのに。四分の一ペニーで一年分足りるほど手に入るのに、糸だけはそうはいかん。針のほうは、愛想で立派に大きいのをタダ同然でくれるくせに。さあ、糸通しは悪魔の仕業みたいに手こずるぞ!」

そして、そのとおりになった。男というものは昔から、そしておそらく永遠に、同じことをする――針を動かさぬように持ったまま、糸を穴へ押し込もうとするのだ。女のやり方とは真逆である。何度も何度も糸は狙いを外し、針の片側をかすめたり、反対側へ逃げたり、軸に突き当たって折れ曲がったりした。だがヘンドンは辛抱した。兵隊暮らしの頃にも、この苦行を何度もくぐってきたからだ。ついに糸は通り、膝の上に置いたまま待っていた衣服を取り上げ、繕い仕事に取りかかった。

「宿代は払ってある――これからの朝食も込みだ――それに、ロバを二頭買って、ヘンドン・ホールで待つ豊かさまでの二、三日の道中の小遣いくらいは残っている――

『女は夫を――』

「ちくしょう! 針を爪の下に刺した!」……「まあいい、珍しいことでもない。しかし便利でもない……ヘンドン・ホールでは楽しくなるぞ、ちび助、心配するな。お前の苦労は消える。あの悲しい病も――

『女は夫を愛したが、
 ほかの男――』

「なんと堂々たる大縫いだ!」――衣服を持ち上げ、感心して眺める――「威厳がある。仕立屋のちまちましたケチな縫い目など、ひどく卑小で下賤に見えてしまう――

『女は夫を愛したが、
 ほかの男を女は愛し――』

「よし、できた。しかも上出来だ、手早く済んだ。さあ起こして、着せて、祈りをさせて、食わせて、それからサザークのタバード・イン近くの市へ――さあ陛下、お起きくだされ! ――返事がない――おい、陛下! ――これは、言葉が届かぬほど深い眠りか。ならば恐れながら、御身に触れて起こすほかあるまい。……えいっ!」

掛け布団を跳ね返した――少年の姿が、ない! 

一瞬、声も出ず呆然と立ち尽くした。ふと気づくと、預かった“ぼろ服”までも消えている。次の瞬間、ヘンドンは怒号を上げ、宿の主人を呼び立てた。ちょうどそのとき、朝食を運ぶ使用人が入ってきた。

「説明しろ、この悪魔の手先め。さもなくば今が命日だ!」戦場育ちの男は怒鳴り、あまりに獰猛に給仕へ飛びかかったので、相手は恐怖と驚きで、その場では舌が回らなかった。「子どもはどこだ?」

使用人は途切れ途切れに、震える声で答えた。

「あなた様が出て行かれてすぐでございます、旦那様。若者が走り込んできて、坊やをすぐにあなた様のもとへ寄越せというご意向だと申しまして。橋のサザーク側の端で待っている、と。わたしが坊やをここへ連れてきまして、若者が坊やを起こしてその言づてを伝えると、坊やは“こんな早くに”と少しぶつぶつ言いましたが、すぐにぼろを身につけ、若者と一緒に出ていきました。ただ、『礼儀としては、あなた様ご自身が来るべきで、見知らぬ者をよこすのは――』と、そう申しただけで――」

「つまりお前は馬鹿だ! 馬鹿で、たやすく騙される! お前の血筋まとめて吊ってしまえ! ……だが、まだ害はないかもしれん。坊やに危害を加えるつもりではない可能性もある。迎えに行く。食卓を整えておけ。待て――寝床の掛け布団が、まるで誰かが中にいるように整えてあったが、あれは偶然か?」

「存じませぬ、旦那様。若者が掛け布団をいじるのは見ました、坊やを迎えに来た若者が。」

「千の死だ! わしを欺くためだ――時間稼ぎだ、明らかに。よく聞け! その若者は一人だったか?」

「一人でございます、旦那様。」

「本当か?」

「本当でございます、旦那様。」

「散らばった頭を寄せ集めろ。よく考えろ。焦るな。」

しばらく考えて、使用人は言った。

「来たときは、誰も一緒ではございませんでした。ですが今思い出しました――二人が橋の人混みに入るとき、ならず者のような男が近くから飛び出してきて、ちょうど合流するところで――」

「それからどうした! さっさと言え!」ヘンドンは痺れを切らし、遮って怒鳴った。

「ちょうどそのとき、群衆に呑まれて姿が隠れ、見えなくなりました。わたしは主人に呼ばれまして――主人は書記が注文した肉が届いていないと怒り狂っておりまして、ですが聖人方に誓って申します、そんな手違いの責をわたしに負わせるなど、生まれてもいない赤子を、犯すはずの――」

「目の前から消えろ、この愚か者! その無駄口で気が狂う! 待て、どこへ逃げる? 一瞬もじっとしておれんのか? 向かった先はサザークのほうか?」

「そのとおりでございます、旦那様。ですから先ほど申しましたあの肉の件、胎内の赤子のほうがまだ――」

「まだいるのか! しかも喋っている! 消えろ、さもなくば喉を締めるぞ!」

使用人は消え失せた。ヘンドンも後を追い、追い越し、階段を二段飛ばしで駆け下りながら呟いた。

「やはり、あの薄汚い悪党だ。自分の息子だと言い張ったあいつ……わしはお前を失ったのか、哀れな小さな狂ったご主人――考えるだけで胸が裂ける。しかも、いつの間にかお前が愛しくなっていたのに! だが違う! 誓って、失ってなどいない! 失ってたまるか。この国じゅうをさらってでも、必ず見つけ出す。可哀そうな子だ、朝食があそこに――わしの分もあるが、腹は減らん。鼠にでもくれてやれ。急げ、急げ! それだけだ!」

ロンドン橋の騒がしい群衆を、身体をくねらせるようにして素早く進みながら、ヘンドンは何度も自分に言い聞かせた――まるでそれが、とびきり愉快な考えであるかのように、しがみつくように。

「ぶつぶつは言ったが、行った――行ったんだ。マイルズ・ヘンドンが呼んだと思ったから、あの優しい子は。ほかの誰のためにも、あんなことはしない。わしには分かる。」


第十四章 「王は死んだ――王万歳。」

同じ日の明け方近く、トム・キャンティは重い眠りから身じろぎし、暗闇の中で目を開けた。しばらく黙って横たわり、混乱した思考と印象を分析し、そこに意味を見いだそうとした。すると突然、歓喜に震えながらも声を抑えて叫んだ。

「分かった、全部分かった! 神に感謝だ、とうとう本当に目が覚めたんだ! 喜べ、悲しみよ消えろ! おい、ナン! ベット! 藁を蹴飛ばして、こっちへ来い。お前たちの信じない耳に、夜の精霊どもが人の魂を驚かせるためにこしらえた、史上いちばんの気違いじみた夢を流し込んでやる! ……おい、ナン! 聞こえないのか! ベット!」

傍らにぼんやりと人影が現れ、声がした。

「ご命令を賜りますでしょうか?」

「命令? ……ああ、なんてことだ、その声を知っている! 言え――僕は誰だ?」

「あなた様は……昨夜まではウェールズ公。今日からは、われらがもっとも慈悲深き君主、エドワード――イングランド王であらせられます。」

トムは枕に顔を埋め、情けなく呟いた。

「やっぱり夢じゃなかった……。休んでくれ、優しい方よ――僕は悲しみに沈ませてくれ。」

トムは再び眠り、やがて楽しい夢を見た。夏で、自分はひとり、グッドマンズ・フィールズという美しい草地で遊んでいる。そこへ突然、背中が曲がり、赤い長いひげを生やした、身長一フィート(約0.30メートル)の小人が現れて言った。「あの切り株のところを掘れ。」

言われたとおり掘ると、新品の輝くペニー銀貨が十二枚――とんでもない大金だ! だが喜びはそれだけではない。小人は言った。

「お前を知っている。お前はいい子で、報われるに値する。苦しみは終わる。褒美の日が来たのだ。七日ごとにここを掘れ。いつも同じ宝――輝く新しいペニー銀貨が十二枚出てくる。誰にも言うな。秘密にしろ。」

そう言うと小人は消え、トムは宝を抱えてオファル・コートへ飛んで帰りながら考えた。「毎晩お父さんに一ペニーあげよう。僕が乞うてきたと思うだろうし、喜ぶ。そうすれば殴られずにすむ。週に一ペニーは僕を教えてくれる優しい神父に。残り四枚は母さん、ナン、ベットに。これでもう飢えもぼろも終わりだ。恐れも苛立ちも、残酷な仕打ちも終わりだ。」

夢の中でトムは、息を切らしながらも目を輝かせて汚らしい家へ着き、銀貨を四枚、母の膝に投げ入れて叫んだ。

「母さんのだ! ――全部だ、四枚とも! ――母さんとナンとベットのためだ――ちゃんと手に入れたんだ、乞うたんじゃない、盗んだんでもない!」

驚きと幸福でいっぱいの母はトムを胸に強く抱きしめ、叫んだ――

「夜も更けてまいりました。陛下、お起きあそばされますよう。」

ああ、それはトムの期待した返事ではない。夢はぷつりと切れ――彼は目を覚ました。

目を開けると、豪奢な衣をまとった寝室長官が、寝台の傍らに跪いていた。嘘の夢の喜びは消え失せ、哀れな少年は、自分がまだ囚われの身であり、しかも王であることを思い知った。部屋には紫の外套――喪の色――を着た廷臣たちと、君主に仕える高位の召使いたちが満ちている。トムは寝床に身を起こし、重い絹の帳の向こうの華やかな面々を見つめた。

着替えという重々しい儀式が始まった。衣服を着せる最中、廷臣が次々と跪いて弔意を述べ、幼い王へ忠勤の礼を尽くす。まず、控えの侍馬長がシャツを取り上げ、それを猟犬長官に渡し、猟犬長官が第二寝室紳士に渡し、第二寝室紳士がウィンザーの森の監督官に渡し、監督官が第三式部役に渡し、第三式部役がランカスター公領王室大法官に渡し、大法官が衣装係長に渡し、衣装係長がノロイ紋章官に渡し、ノロイ紋章官がロンドン塔の司令官に渡し、司令官が王室家政長官に渡し、家政長官が世襲大おむつ係に渡し、世襲大おむつ係がイングランド大提督に渡し、大提督がカンタベリー大主教に渡し、大主教が寝室長官に渡し、最後に寝室長官が受け取った“残り”をトムに着せた。可哀そうに、驚きっぱなしの少年には、火事場のバケツリレーを思い出させた。 衣服は一枚ごとに、この遅く荘重な手続きを踏まねばならない。結果、トムは儀式にうんざりし、ぐったり疲れた。疲れ果てたあまり、長い絹の靴下が列を下って回され始め、いよいよ終わりが近いと知ったときには、胸が熱くなるほど感謝した。だが喜ぶのが早すぎた。寝室長官が靴下を受け取り、トムの脚に履かせようとした瞬間、顔色が変わり、驚愕の表情で、靴下を大主教へ押し戻して小声で言った。「ご覧ください、閣下!」そして靴下に付いている何かを指さした。大主教は青ざめ、次いで赤くなり、靴下を大提督へ渡して囁いた。「ご覧ください、閣下!」

大提督は靴下を世襲大おむつ係へ渡し、息も絶え絶えに言った。「ご覧を、閣下!」

靴下は列を逆戻りし、家政長官、ロンドン塔司令官、ノロイ紋章官、衣装係長、ランカスター公領王室大法官、第三式部役、ウィンザーの森の監督官、第二寝室紳士、猟犬長官――と、“見よ! 見よ! ”という驚愕と恐怖の囁きを伴いながら流れていき、ついに控えの侍馬長の手へ渡った。侍馬長は青白い顔で原因を見つめ、かすれ声で言った。

「命に誓って言うが、結び紐の先端の飾りが外れている! ――王の靴下番頭をロンドン塔へ!」

そう言い終えると、侍馬長は猟犬長官の肩にもたれ、抜けてしまった力を取り戻そうとした。結び紐に傷のない新しい靴下が運ばれてくるまでの間。

だが、どんなことにも終わりはある。こうして時が過ぎ、トム・キャンティはようやく起き上がれる支度が整った。正規の役人が水を注ぎ、正規の役人が洗面を取り仕切り、正規の役人がタオルを構えて待ち、トムは清めの段階を無事に終えて、王室理髪師の手に委ねられる。理髪師の手を離れるころには、紫のサテンの外套と半ズボン、紫の羽根飾りの帽子をまとい、少女のように可憐で、しかも堂々とした姿になっていた。トムは壮麗な行列の中、朝食の間へと威儀を正して進み、通り過ぎると人々は左右に退き、跪いて道を開けた。

朝食の後、トムは大官たちと、金色の戦斧を捧げ持つ五十名の近衛紳士を従え、王者の儀礼により玉座の間へ導かれ、国務を執った。『叔父』であるハートフォード卿が玉座の傍らに立ち、王の判断に賢明な助言を添える役を務める。

先王が遺言で執行者に任じた高名な男たちが現れ、彼らの幾つかの行為についてトムの承認を求めた。形式に近いが、まだ摂政が定まっていない以上、完全な形式ではない。カンタベリー大主教が、先王陛下の葬儀について遺言執行評議会が下した決定を報告し、最後に執行者たちの署名を読み上げた――カンタベリー大主教、イングランド大法官、セント・ジョン卿ウィリアム、ラッセル卿ジョン、ハートフォード伯エドワード、リズル子爵ジョン、ダラム司教カスバート――

トムは聞いていなかった。文書の前の条項が腑に落ちず、頭を悩ませていたのだ。そこでトムはハートフォード卿へ向き直り、囁いた。

「埋葬の日取りは、いつだと言った?」

「来月十六日でございます、陛下。」

「妙な馬鹿げたことだ。遺体はもつのか?」[訳注:“Will he keep?”は「腐らないのか」「保つのか」という素朴な疑問]

可哀そうに、王族の慣習にまだ馴染めず、オファル・コートの哀れな死者が、まるで別の“迅速さ”で片づけられるのを見慣れていたのだ。だがハートフォード卿が二言三言で不安を鎮めた。

国務長官が、翌日の十一時に外国大使を謁見させるという評議会の命令を示し、国王の裁可を求めた。 トムはハートフォード卿へ問いかけるような目を向けた。卿は囁く。

「陛下はご同意を示されます。大使らは、彼らの君主が、陛下とイングランド王国に降りかかったこの大いなる災厄をいかに痛み、いかに悼むかを表すために参ります。」

トムは言われたとおりにした。別の長官が、先王の家政費に関する前文を読み始める。直前六か月で二万八千ポンドという巨額――トム・キャンティは息をのんだ。そのうち二万ポンドが未払いだと分かり、また息をのんだ。さらに、王室の金庫がほとんど空で、千二百人の奉公人が賃金未払いで困窮していると聞き、三度目の驚愕を覚えた。トムは不安にかられて口走った。

「これは犬の道だ、滅びへの道だ。もっと小さな屋敷に移り、奉公人は放免すべきだ。あいつらは価値がない――何をするにも遅らせ、面倒な役目ばかり押しつけて心を荒ませ魂を辱める。自分で何もできぬ人形にしか似合わぬ。ビリングズゲートの魚市場の向かいに小さな家が――」

トムの腕に鋭い圧がかかり、愚かな舌は止まり、顔が赤くなった。しかし居並ぶ顔のどれひとつとして、この奇妙な発言に気づいた様子も、気にした様子も見せなかった。

国務長官が報告する。先王が遺言によりハートフォード伯に公爵位を与え、その弟サー・トマス・シーモアを貴族に叙し、さらにハートフォードの息子を伯爵に叙するなど、ほかの王室重臣にも同様の栄進を授ける意向を示していたため、評議会は二月十六日に会合を開き、これらの栄誉を授与・確定することに決めたという。だが先王は、それに見合う所領を文書で与えていなかった。評議会は先王の私的な意向を知っていたゆえ、それに従い、現国王がよしとされるなら、シーモアには「年収五百ポンドの土地」、ハートフォードの息子には「年収八百ポンドの土地に加え、次に空位となる司教領から年収三百ポンド分」を与えるのが適当と判断した、と。

トムは、まず先王の借金を返してからにすべきではないか、と口走りかけたが、思慮深いハートフォード卿が腕に触れて制し、危ういところで無分別を免れた。トムは口では何も言わず、内心の不快だけを抱えたまま裁可を与えた。自分がいとも簡単に、奇妙で眩い奇跡を次々と起こしていることにふと考え込んでいると、愉快な思いつきが閃いた――母を“オファル・コート公爵夫人”にし、所領を与えたらどうか。だがすぐ、悲しい考えがそれをさらっていった。自分は名ばかりの王で、重臣や老獪な貴族たちこそ主人である。彼らにとって母は、病んだ頭が生んだ幻でしかない。そんな計画を話せば、信じない耳で聞いたあと、医者を呼ぶだけだろう。

退屈な仕事はだらだら続く。請願、布告、特許状、その他、公務に関する冗長で反復だらけの紙が読み上げられ、トムは情けないため息をつき、独り言ちた。

「僕は何を罪したのだ、善い神が僕を野原と自由な空気と日差しから引き剥がし、ここへ閉じ込めて王にし、こんな苦しみを与えるなんて。」

やがて混乱した頭はこくりこくりとし始め、肩へ垂れた。帝国の仕事は、批准する力――あの崇高なる要素――が眠ってしまったため停止した。眠る子の周囲は静まり、国の賢人たちは議論をやめた。

午前中、トムは監視役のハートフォード卿とセント・ジョン卿の許しを得て、レディ・エリザベスと幼いレディ・ジェーン・グレイと楽しいひとときを過ごした。ただし王家に落ちた大打撃のため、姫君たちの気分は沈みがちだった。訪問の終わりに『姉』――後に歴史で「血まみれのメアリー」と呼ばれる――が、厳かな面会で彼を冷え冷えとさせた。トムにとっての美点はただ一つ、その短さだけだ。

ひと息つく間もなく、十二歳ほどの細身の少年が通される。首元の真っ白な襞襟と手首のレースを除けば、服は黒一色――胴衣も靴下もすべて黒。喪章らしいものはなく、肩に紫のリボンの結び目があるだけだ。少年は頭を下げ帽子を取り、ためらいがちに近づいてトムの前に片膝をついた。トムは動かず、しばし冷静に眺めた。やがて言う。

「立て。お前は誰だ。何用だ。」

少年は立ち、優雅に姿勢を保ったが、顔には不安が浮かんでいる。 「きっとお覚えでいらっしゃるはずです、殿下。わたしは“鞭打たれ役”でございます。」

鞭打たれ役?」

「そのとおりでございます、陛下。わたしはハンフリー――ハンフリー・マーロウ。」

トムは理解した。監視役たちが、前もって教えておくべき人間が現れたのだ。まずい――どうする? 知っているふりをして、口を開くたびに知らぬことが露呈するのは危険だ。いや、それは駄目だ。ここで一案が浮かんだ。ハートフォード卿とセント・ジョン卿は遺言執行評議会の一員で、急用で席を外すことも多いだろう。今後こういう事故は頻発するに違いない。ならば非常時に備え、自分で方策を立てるべきだ。そうだ、この少年で練習し、どこまで通用するか試そう。トムは額を困ったように撫で、しばらくして言った。

「お前のこと、少しは思い出せる気がする……だが苦しみで頭が霞んでおる。」

「ああ、哀れなご主人様!」鞭打たれ役は情を込めて叫び、心中で付け加えた。「本当だ……皆が言っていたとおり、御心が壊れてしまったのだ。だが、しまった、忘れていた! 何もおかしいと気づいた様子を見せてはいけないのだった。」

「近ごろは記憶が気まぐれで困る」トムは言った。「だが気にするな。回復は早い。小さな手がかりひとつで、逃げた名や出来事が戻ってくることも多い。(しかも逃げたものだけではない。聞いたこともないことまで戻ってくる――この少年には分かるまい。)用向きを申せ。」

「さほど重大ではございませぬが、陛下のお耳に入れておきとうございます。二日前、陛下がギリシア語の授業で、三度お間違えになったこと――朝の稽古で。お覚えで?」

「う――む……覚えがある。……(嘘というほどでもない。わたしがギリシア語に手を出したなら、三度どころではなく四十度は間違えたはずだ。)ああ、思い出した。続けよ。」

「教師が、あまりに怠慢で愚かな出来だと怒り、わたしを手ひどく鞭打つと申しました。そして――」

「鞭打つのはお前か!」トムは我を失って叫んだ。「なぜ私の間違いでお前が打たれる?」

「陛下、またお忘れで。陛下が授業でしくじるたび、いつも鞭を受けるのはわたしでございます。」

「そうだ、そうだ――忘れていた。お前が私を内々に教え、私が失敗すれば、教師はお前の務めが不十分だったと――」

「陛下、それは何というお言葉! 卑しき臣下のわたしが、陛下をお教えするなど!」

「ならば、お前にどんな非がある? これは何の謎だ? 私が本当に狂ったのか、それとも狂っているのはお前か? 説明しろ、言え。」

「ですが陛下、簡単なことでございます。ウェールズ公の御身に手を上げることは許されませぬ。ゆえに殿下が間違えれば、わたしが打たれるのです。そうあるべきでございます。それがわたしの役目であり、生計でございますゆえ。」 トムは平然と立つ少年を見つめ、心中で言った。「なんと不思議なことだ――奇怪きわまる商売だ。私の髪を梳く役、着替えさせる役を引き受ける少年まで雇ってくれればいいのに――できるものなら、そうしてほしい! ――もし鞭打ちの役を引き受ける者がいるなら、私はこの身で鞭を受けよう。神に感謝して、喜んでそうする。」

そして声に出して言った。

「では、その約束どおり、お前は打たれたのか、可哀そうに。」

「いいえ、陛下。罰は本日に定められております。ただ、この喪の季節にふさわしくないとして取り消されるやもしれませぬ。わたしには分かりませぬ。ですから恐れながら参上し、陛下がわたしのためにお取り成しくださると約してくださったことを――」

「教師に? お前の鞭打ちを免じるために?」

「ああ、覚えていてくださった!」

「記憶は戻りつつある。安心せよ。お前の背は無傷で済む――私が取り計らう。」

「ありがとうございます、良き陛下!」少年は叫び、また片膝をついた。「もうこれ以上は出過ぎた真似かもしれませぬ。ですが――」

ハンフリーがためらうのを見て、トムは“許す気分だ”と言って先を促した。

「では申し上げます。心からの願いでございます。陛下はもはやウェールズ公ではなく王でございます。望むままに命じられ、誰も否とは申せませぬ。ゆえに、つらい学びなどもうなさらず、本を焼いて、もっと気楽なことに心を向けられるのが道理――そうなれば、わたしは終わりでございます。孤児の妹たちも共に!」

「終わり? どういうことだ。」

「わたしの背が、わたしの糧でございます、陛下! 背が暇になれば飢えます。陛下が学びをおやめになれば、わたしの務めは消えます。鞭打たれ役など不要になります。どうかわたしを追い払わないでください!」

その痛切な嘆きにトムは胸を打たれた。王らしい気前のよさが、勢いよく噴き出した。

「もう心配するな。お前の役目は、お前とその血筋に永遠に与える。」

そう言うとトムは剣の平で少年の肩を軽く叩き、叫んだ。

「立て、ハンフリー・マーロウ! イングランド王家に仕える世襲大鞭打たれ役とする! 悲しみを追え――私は本に戻り、ひどく勉強してやろう。あまりにひどくて、正義のためにお前の賃金を三倍にせねばならぬほど、お前の務めが増えるようにな!」

感激したハンフリーは熱烈に応えた。

「ありがとうございます、気高き陛下。この王者のご寛大は、わたしが最も取り乱した夢に描いた幸運をも、はるかに超えております。これでわたしは生涯幸せに暮らせます。わたしの後のマーロウ家も皆。」

トムは賢かった。この少年は役に立つ。そう直感した。トムが話を促すと、ハンフリーは喜んで語った。トムの“治癒”の助けになっていると信じられて、彼は嬉しかったのだ。宮殿の学校やそのほかでの出来事を、あれこれ思い出させてやるたび、トムがそれをはっきり“思い出す”ように見えたからである。およそ一時間ののち、トムは宮廷の人物や事情に関して、非常に価値の高い情報を山ほど積み込まれていた。これを毎日学びの源にしようと決め、国王が他の者と用がなければいつでも王の私室へ通すよう命じるつもりになった。

ハンフリーが下がって間もなく、ハートフォード卿がまた別の難題を携えて現れた。

評議会の諸卿は、国王の健康が損なわれたという過度の噂がどこかから漏れ、広まっているかもしれぬと恐れている。ゆえに、二、三日後から陛下が公の場で食事を始めるのが賢明で最善だ、というのだ。健康そうな顔色、力強い歩み、そこに慎重に抑えた落ち着きと、自然な品位と、優雅な振る舞いが加われば、万一悪い噂が流れていたとしても、他のどんな策より民心を鎮める――という判断である。

そして伯は、“すでにご存じのことを思い出していただく”という薄い仮面の下に、公の食事の場で守るべき作法を、きわめて慎重に教え始めた。だが伯が驚き喜んだことに、その点でトムにはほとんど助けが要らなかった。トムはすでにハンフリーをその目的で活用していたのである。ハンフリーは、数日うちに公の場で食事を始めると、宮廷の早耳な噂から聞きつけて話していたのだ。トムはもちろん、その事実は伏せたままにした。

王の記憶が改善しているのを見て、伯は何気ないふうを装いながら、どこまで回復したか幾つか試した。結果は、ところどころ――ハンフリーの足跡が残る箇所――で見事に当たり、全体として伯は大いに満足し勇気づけられた。勇気づけられた伯は希望に満ちた声でこう言った。 「陛下がもう少し記憶をお働かせになれば、“国璽”という難問も解けましょう。昨日は重大でしたが、本日は、先王の崩御とともにその効力も尽きましたゆえ、重大ではございませぬ。ただ――試みていただけますか?」

トムは途方に暮れた。国璽など、まったく知らない。少し迷って、無邪気に尋ねた。

「それは……どんな形をしておるのだ、卿?」

伯はほとんど気づかれぬほど小さく身震いし、心中で呟いた。「ああ、また理性が飛んでしまった! 無理をさせるなど愚かだった」――そして巧みに話題を変え、国璽のことをトムの頭から追い払うよう努めた。その目論見はたやすく成功した。


第十五章 王としてのトム

翌日、外国大使たちが豪奢な随員を引き連れてやって来た。トムは恐るべき威厳をまとって玉座に座し、彼らを謁見した。最初は、その光景の絢爛が目を楽しませ、想像力を燃え立たせた。だが謁見は長く退屈で、演説もまた長く退屈だった。喜びとして始まったものは、やがて倦怠となり、望郷の思いへ変わっていった。トムは時折ハートフォード卿に口へ入れられる言葉を繰り返し、何とか役目を果たそうと努めたが、あまりに不慣れで、あまりに落ち着かず、せいぜい及第点が限界だった。見た目は十分に王だったが、心が王になりきれない。儀式が終わったとき、トムは心底ほっとした。

一日の大半は、トムの心の中では“浪費”と名づけられた王務の労苦で消えた。王子の遊びや気晴らしに当てられる二時間でさえ、規則と儀礼に縛られ、楽しみどころか重荷だった。だが鞭打たれ役との私的な一時間だけは、はっきり得だと感じた。娯楽にもなり、必要な情報も手に入るからである。

トム・キャンティが王となって三日目も、ほぼ同じように過ぎた。ただ一つ、雲が少し晴れた面がある。初日ほど居心地が悪くない。境遇や環境に少し慣れてきた。鎖はまだ皮膚を擦ったが、常にではない。高貴な者たちに囲まれて敬意を受けることが、時間が経つほど彼を鋭く怯えさせ、当惑させる度合いが減っていくのを感じた。

ただ一つの恐怖さえなければ、四日目の到来もそれほど苦に思わなかっただろう――公の場での食事、それがその日から始まるのだ。予定にはもっと重大な案件もある。世界中に散る諸外国への方針について、意見と命令を示し、評議会を主宰しなければならない。その日、ハートフォードが正式に摂政の大官職――護国卿――に選ばれることも決まっていた。ほかにも大事なことはいくつもあった。だがトムにとっては、好奇の目が無数に貼りつき、口が無数に囁き合う中で、ひとり食事をするという試練――しかも不運にも失敗すれば、その失敗が囁かれる――それに比べれば、すべてが取るに足らなかった。

とはいえ四日目は止められない。こうして四日目は来た。哀れなトムは気落ちし、ぼんやりしていた。気分は晴れない。朝の常務は手元に重くのしかかり、疲れさせた。囚われの感覚が、また重く戻ってきた。

午前も遅く、トムは大広間でハートフォード伯と話しながら、相当数の高官や廷臣が儀礼の訪問に来る定刻を、ぼんやり待っていた。 しばらくして、窓辺に歩み寄り、宮殿の門外を走る大通りの人の流れに興味を惹かれていたトムは――ただの興味ではない。その喧騒と自由の中へ、自分も飛び込みたいと心の底から渇望しながら――道の上方から、みすぼらしい男や女や子どもが騒ぎ立てる無秩序な群れの先頭が近づいてくるのを見た。

「何の騒ぎだろう、知りたい!」少年らしい好奇心いっぱいに叫んだ。

「陛下は国王であらせられます」伯は厳粛に、うやうやしく応じた。「ご命令を賜り、わたくしが処置いたしましょうか?」

「うん、もちろん! ぜひ!」トムは興奮して叫び、心中で満足げに付け加えた。「なるほど、王も憂鬱ばかりじゃない。利点も便利もある。」

伯は小姓を呼び、近衛隊長へ命じた。

「群衆を止め、何ゆえの動きか調べよ。国王陛下のご命令により!」

数秒ののち、鋼鉄の鎧に輝く王室の衛兵たちが門から出て、大通りを横一線に塞ぎ、群衆の前に陣取った。使者が戻り、群衆は、王国の安寧と威厳を損なう罪を犯した男・女・若い娘の三人を、処刑へ連行しているのだと報告した。

死――しかも暴力的な死が、あの哀れな者たちに! その想像がトムの胸を締めつけた。憐れみの心がトムを支配し、他の一切を締め出した。法の怒りも、三人の犯罪者が被害者にもたらした悲嘆や損失も、考えられない。ただ断頭台と、恐ろしい運命が有罪者たちの頭上にぶら下がっていることだけが、心を埋めた。

その心配は、束の間、トムに“自分は偽りの王で実体ではない”という意識さえ忘れさせた。そして気づけば命令を口走っていた。

「ここへ連れて来い!」

言った途端、トムは真っ赤になり、弁解めいた言葉が唇へ湧いた。だが伯や待機する小姓が少しも驚かぬのを見て、口にかけた言葉を飲み込んだ。小姓は当たり前のように深々と礼をし、後ろ向きに下がって命令を伝えに行った。トムは誇らしさと、王の務めの埋め合わせとなる利点を改めて感じ、胸が熱くなった。「本当に、神父が語る古い物語を読んで、僕が王子になったつもりで、『これをせよ、あれをせよ』と命じ、誰も僕の意志を妨げられないと想像していた、あの感じにそっくりだ。」

やがて扉が開き、鳴り響く称号が次々と告げられ、持ち主たちが入ってきて、広間はたちまち貴族と華麗な衣装で半ば埋まった。だがトムは、その人々の存在にほとんど気づいていない。別の、より興味深い出来事に心を奪われ、張り詰めていたからだ。トムはぼんやりと玉座に座り、焦れた期待を隠さず扉を見つめ続けた。それを見て人々は邪魔をせず、互いに公務と宮廷の噂話を取り混ぜた会話を始めた。

ほどなく、武人の足音が規則正しく近づき、罪人たちが、下級保安官に引き渡され、国王衛兵の一隊に護送されて入ってきた。文官はトムの前に跪き、立って脇へ退いた。死刑囚の三人も跪き、そのまま動かない。衛兵はトムの椅子の後方に配置についた。

トムは囚人たちを好奇心で眺めた。男の服装か雰囲気か、何かが記憶の底をかすめる。「この男を前に見た気がする……だが、いつ、どこでが分からない」――トムはそう思った。ちょうどそのとき、男が素早く顔を上げ、すぐまた伏せた――王威の恐ろしさに耐えられなかったのだ。しかしトムが一瞬で見たその顔で十分だった。

「分かった」トムは心の中で言った。「この男は、元日のあの風の強い寒い日に、テムズ川からジャイルズ・ウィットを引き上げ、命を救った見知らぬ男だ。勇敢な善行だった。……だが残念だ、卑しいこともして、この惨めな目に遭ったのだろう。あの日も、時刻も忘れない。なぜなら一時間後、十一時の鐘とともに、祖母の手で折檻され、それがあまりに見事で、前後のどの打擲も比べものにならぬほどで、他はすべて撫でられたも同然に思えるほどだったからだ。」 トムは女と娘をしばらく退室させるよう命じ、それから下級保安官に向かって言った。

「良き者よ、この男の罪は何だ?」

文官は跪いて答えた。

「陛下、この者は毒をもって臣民の命を奪いました。」

溺れた少年を救った勇者としての敬意と、囚人への憐れみは、その言葉で大きく揺らいだ。

「証拠は揃っているのか?」トムは尋ねた。

「まったくそのとおりに、陛下。」

トムはため息をつき、こう言った――

「連れて行け――こやつは死に値する。惜しいことだ、勇気ある男だった――いや、いや、違う、勇気がありそうな“面構え”だった、という意味だ!」

囚人は急に力が入ったように両手をきつく握り合わせ、絶望のあまり揉みしだきながら、同時に“王”へと必死にすがりついた。言葉は途切れ途切れで、恐怖に震えていた――

「お、お慈悲を、王さま! 見捨てられた者を哀れめるお心がおありなら、どうかこの身を! わたしは無実にございます――しかも、わたしにかけられた嫌疑など、証明されたとて心許ない程度……とは申しますまい。判決はすでに下り、もはや変えられぬ。それは承知しております。されど極限の身として、お願いが一つ。わたしの宣告は、耐えられぬほど重い。どうか、どうか、王さま! 王の憐れみで、願いをお聞き届けください――命じてください、わたしを絞首にしてくれ、と!」

トムは呆気に取られた。こんな結末を想像していなかったのだ。

「おれの命にかけて、妙な“願い”だ! それはお前に定められた運命ではないのか?」

「と、とんでもございません、わが君! わたしは……生きたまま煮られることになっております!」

この忌まわしい言葉の衝撃に、トムは椅子から跳ね上がりそうになった。ようやく正気を取り戻すと叫んだ――

「望みどおりにしてやる、哀れな者よ! お前が百人に毒を盛ったとしても、そんな惨めな死を味わわせはせぬ。」

囚人は顔を床に伏せ、激情のような感謝の言葉を噴き出した――そしてこう結んだ。

「もし、もしもいつか、あなたさまが不幸を知ることがあれば――神がそれをお防ぎくださいますよう! ――本日のこのご慈悲が思い出され、報いられますように!」

トムはハートフォード卿に向き直って言った。

「卿、この男にかくも獰猛な死刑令状があるなど、信じられるのか?」

「法律でございます、殿下――毒殺犯には。ドイツでは偽金作りを油で煮殺します。いきなり投げ込むのではなく、縄で吊って少しずつ油へ下ろし、ゆっくりと。まず足、それから脚、それから――」

「お、おやめください、卿、それ以上は……耐えられぬ!」とトムは叫び、両手で目を覆ってその情景を追い払おうとした。「お願いです、どうかこの法律は改める手立てを。ああ、もうこれ以上、哀れな者たちをこの責め苦で訪れることがありませんように。」

ハートフォード卿の顔には、深い満足が浮かんだ。慈悲と寛大さの衝動を持つ男――この苛烈な時代、その階級にはさほど珍しくない資質ではないが、それでも貴重なものだ――である。卿は言った。

「殿下のこの高潔なお言葉が、その法律の死を封じました。歴史は、王家の誉れとしてこれを記すでしょう。」

下級保安官が囚人を連れて行こうとした。トムは待てと合図し、言った。

「保安官殿、この件はもう少し確かめたい。男は、自分の罪はろくに立証されていないと言った。そなたの知るところを述べよ。」

「恐れながら陛下、裁判では、当の男がイズリントンの村はずれの家に入ったことが明らかとなりました。病人が一人で寝ていた家でございます。証人三名は朝十時と言い、二名はそれより幾分遅かったと申しました――病人はそのとき一人、眠っておりました――男はほどなく家を出て立ち去り、病人は一時間もしないうちに痙攣と嘔吐に引き裂かれて死にました。」

「毒を与えるところを見た者は? 毒物は見つかったのか?」

「とんでもございません、陛下。」

「では、そもそも毒が使われたと、どうして分かる?」

「恐れながら陛下、医師が証言いたしました。そのような症状で死ぬのは毒以外にない、と。」

単純な時代において、これは重い証拠であった。トムはその強さを悟り、言った。

「医師は医師の道を知る――おそらく正しいのだろう。この哀れな男には不利に見える。」

「しかし陛下、それだけではございません。さらに、より悪しきことが。村から姿を消し、行方も知れぬ魔女が、以前から予言していた、と多くの者が証言しております。病人は毒で死ぬ、そしてそれを与えるのは見知らぬ者――茶色の髪で、擦り切れた粗末な服を着た見知らぬ者だ、と耳元で囁かれた者もおります。まさに、この囚人はその書き付けに恐ろしく当てはまります。陛下、予言された事柄でございますゆえ、しかるべき重みをもってご勘案を。」

迷信が力を持つ時代、この議論は途方もなく強力だった。トムは、これで決まりだと感じた。証拠というものに価値があるなら、この男の罪は立証されたに等しい。だがそれでも、囚人に最後の機会を与えた。

「弁明があるなら申せ。」

「申しても無駄にございます、王さま。わたしは無実、されどそれを示せぬ。友もなく――友があれば、あの日イズリントンにいなかったと証明できたのに。さらに、あの時刻、彼らが言う場所から一リーグ(約4.8km)以上離れたワッピング・オールド・ステアーズにいたことも。さらに、王さま、彼らがわたしが命を奪っていたと言うその時刻、わたしは命を救っていたことさえ示せたのです。溺れていた少年を――」

「黙れ! 保安官、犯行の日付を言え!」

「朝十時、あるいは数分後――新年の初日にございます、最も高貴なる――」

「囚人を放免せよ――それが王の意志だ!」 王らしからぬこの爆発のあと、さらに赤面が続き、トムは体裁を繕うように言い足した――

「これほど空虚で、思いつきの、根無し草の証拠で人を絞首にするとは……腹立たしい!」

場内に低いざわめきが走った。トムの宣告そのものへの賞賛ではない。毒殺の罪で有罪となった者を赦すのが妥当か得策か――そうしたことを、そこにいる多くが口にするのさえ憚っただろう。いや、賞賛はトムの見せた知性と気迫に向けられていた。ひそひそ声の言葉はこんな具合だった――

「これは狂王ではない――頭は確かだ。」

「質問の仕方がなんと理に適っていることか。あの急な断が、なんと以前の本来の姿に近い!」

「神に感謝! 病は去った。弱者ではなく王だ。ご自身の父王のように振る舞われた。」

拍手が空気を満たし、トムの耳にも自然といくらか入った。そのせいで彼は大いに気が楽になり、体の芯にまで心地よい感覚が満ちていった。

しかし、少年の好奇心はすぐにその快い思いを追い越した。あの女と幼い少女が、いったいどんな恐ろしい悪事を働いたことになっているのか――知りたくてたまらない。命令によって、震え、すすり泣く二人が王の前へ連れて来られた。

「この者らは何をした?」とトムは保安官に尋ねた。 「恐れながら陛下、黒き大罪がかけられ、しかも明白に立証されております。ゆえに裁判官は法に従い、絞首を宣告いたしました。悪魔に身を売った――それが罪にございます。」

トムは身震いした。そういう邪悪を働く人間は憎むべしと教わっていた。とはいえ、好奇心を満たす楽しみまで手放す気にはなれず、尋ねた。

「それはどこで――いつだ?」

「十二月のある真夜中、崩れた教会にて、陛下。」

トムはまた身震いした。

「その場にいたのは誰だ?」

「この二人だけでございます、殿下――そしてもう一人。」

「この者らは自白したのか?」

「いいえ、陛下、否認しております。」

「では、どうして分かったのだ?」

「証人が、この者らがそこへ向かうのを見ております、陛下。それが疑いを生み、のちに恐ろしき出来事が、その疑いを裏づけ正当化いたしました。とりわけ証拠として、彼女らが得た邪悪な力により、嵐を呼び起こし、周辺一帯を荒らしたと。嵐については四十名以上が証言しております。もっと集めようと思えば千人でも可能でしょう。皆が被害を受け、忘れようもないのですから。」

「なるほど……これは重大な件だ。」

トムはこの暗い悪行をしばらく頭の中で転がし、やがて尋ねた。

「女もまた、その嵐で被害を受けたのか?」 集まった者の中の年配者が何人も、うなずいてこの質問の賢さを認めた。だが保安官は、この問いに深い意味を見いだせず、素朴にまっすぐ答えた。

「もちろんでございます、陛下。しかも、皆が申すには、まことに当然の報いだと。住まいは流され、女と子は雨露をしのぐ場所も失いました。」

「自分にそこまでの害を与える力を、得るには高すぎる代償だったようだ。たとえ一ファージングでも払っていたなら騙されていたことになる。魂を払い、しかも子の魂まで払ったというのなら、狂気の沙汰だ。狂っているなら、自分のしていることが分からぬ。ならば罪でもない。」

年配者たちは再びうなずき、ある者が小声でこう呟いた。「噂では王も狂っておいでだと言うが……だとしても、その狂いは、わしの知る何人かの正気を良くしてしまう種類のものだ。神のやさしい摂理で、感染るならな。」

「子は何歳だ?」とトムは尋ねた。

「九つにございます、陛下。」

「イングランドの法では、子どもが契約を結んで自らを売ることはできるのか、卿?」とトムは学識ある判事へ向き直った。

「法は、子どもが重い事柄に関わることを許しませぬ、陛下。未熟な知恵では、年長者の熟した知恵と邪悪な企みに太刀打ちできぬと見なすゆえ。悪魔が子どもを買い、子どもが同意したなら、それは成立するやもしれませぬ。だがイングランド人がそれをするのは不可――その場合、契約は無効でございます。」

「イングランドの法が、イングランド人に与えぬ特権を、悪魔のためには浪費できるようにしているとは……なんと無作法で、非キリスト教的で、出来の悪い仕掛けだ!」とトムは腹の底から憤った。

この新奇な見方に、あちこちで笑いが起こった。宮廷で繰り返し語られ、トムの独創性、そして精神の回復の証として記憶されることになった。

年長の女はすすり泣きをやめ、興奮した関心とふくらむ希望でトムの言葉に縋りついていた。トムはそれに気づき、危うく、味方もない立場にいる女へ強く同情した。やがて尋ねた。

「嵐はどうやって起こした?」

靴下を脱いで、でございます、陛下。」

トムは仰天し、好奇心は熱病のように燃え上がった。身を乗り出して言った。

「なんと不思議な! いつもそんな恐ろしい効果があるのか?」

「いつでもでございます、陛下――少なくとも、女が望み、必要な言葉を、心の中でも口に出してでも唱えれば。」

トムは女に向き直り、抑えきれぬ熱で言った。

「力を示せ――嵐が見たい!」

迷信深い集団の頬が、さっと青ざめた。誰も口には出さぬが、一刻も早くここから出たいという空気が広がる――だがトムにはまるで伝わらない。彼は提案された大変動のことしか頭になかった。女の顔に困惑と驚きが浮かぶのを見ると、さらに興奮して言い添えた。

「恐れるな――咎は負わせぬ。さらに――自由にしてやる。誰もお前に手を出させぬ。力を示せ。」

「王さま……わたしにはそのような力はございません。濡れ衣でございます。」

「恐れが足を止めているのだ。しっかりせよ、害は受けぬ。嵐を起こせ――どんなに小さくてもよい。大きく危険なものは要らぬ、むしろその反対がよい。そうすれば命は助ける――子とともに自由だ。王の赦免状を持って出てゆけ。この国の誰の害意からも守ってやる。」

女はひれ伏し、涙ながらに、そんな奇跡を起こす力はないと訴えた。もし力があるなら、子の命だけは助けたい、王の命令に従うことでその恩寵が得られるなら、自分の命など惜しくない、と。

トムは促したが、女の主張は変わらない。ついにトムは言った。

「この女の言うことは真実だと思う。もしおれの母が同じ立場にいて、悪魔の力を授かっていたなら、おれの命を助ける代償がそれだというなら、一瞬もためらわず嵐を呼び、国中を廃墟にしていたはずだ。母というものはそういう型で作られている。ほかの母も同じだろう。そなたは無罪だ、女よ――子とともに自由だ。おれはそなたを無実と見る。さあ、いまは赦したのだ、恐れることはない――靴下を脱げ! ――そして嵐が起こせるなら、褒美に富を与える!」

救われた女は声を張り上げて感謝し、命令に従い始めた。トムは胸を躍らせて見守り――期待は高かったが、わずかな不安がそれを濁した。廷臣たちは明らかな不快と落ち着かなさを見せた。女は自分の足をさらし、幼い娘の足もさらし、王の寛大さに報いようと、地震でも起こすつもりで必死にやってみせた――だが失敗、徹底した失敗で、期待は見事に裏切られた。トムはため息をつき、言った。

「もうよい、善き者よ。それ以上、身を悩ませるな。そなたから力は去ったのだ。安らかに行け。そして、もし力がいつか戻ったなら、おれを忘れるな――嵐を持って来い。」{13}


第十六章 宮中晩餐

夕食の刻が近づいてきた――だが不思議なことに、トムの胸の痛みはわずかで、恐怖もほとんどなかった。今朝の経験が見事に自信を作り上げたのである。哀れな小さな灰まみれの子猫は、四日も奇妙な屋根裏暮らしを続ければ、成熟した大人がひと月かかるより早く、そこに慣れてしまう。状況への適応のしやすさ――子どもというものの特性が、これほど鮮やかに示されることはない。

特権ある我々は、トムがこの荘厳な場に備えて身支度を整えられている間に、壮麗な宴会場へ急ぎ、そこでの様子を覗いてみよう。そこは広々とした部屋で、金箔の柱と柱型、絵で飾られた壁と天井がある。扉のところには背の高い衛兵が、像のように微動だにせず立っている。衣装は豪奢で絵になるもので、手にはハルバード槍を持つ。部屋をぐるりと取り巻く高い回廊には楽隊がいて、男女の市民が華やかな衣装でびっしり詰めかけている。部屋の中央、ひな壇の上にトムの卓が据えられている。では古い年代記作者に語らせよう。 「杖を持った紳士が一人入室し、もう一人、卓布を持った者を伴う。二人は最大限の敬虔さをもって三度ひざまずき、それから卓布を卓上に広げ、再びひざまずいて退出する。次に二人が来る。片方は再び杖を携え、もう片方は塩入れと皿とパンを持つ。先の者らと同様にひざまずき、持参したものを卓に置き、同じ作法のもとに退く。最後に豪奢な衣装の貴族が二人、味見用の小刀を持った者とともに来る。最も優雅な所作で三度ひれ伏してから近づき、王がそこにおわすかのごとき畏れをもって、パンと塩で卓をぬぐう。」

これで荘厳な前儀は終わる。さて――遠く、反響する廊下の奥からラッパの音が聞こえ、かすかに叫び声が響く。「王のために道を! 最も優れたる陛下のために道を!」

その声が繰り返され、次第に近づき――やがてほとんど我々の目前で、軍楽の鋭い音が鳴り渡り、「王のために道を!」と響く。

その瞬間、きらめく行列が現れ、整然と扉から入ってくる。年代記作者にもう一度語らせよう。

「まず紳士、男爵、伯爵、ガーター勲章の騎士たちが、いずれも豪奢な装いで、脱帽して来る。次いで大法官が来る。両脇には二名、片方は王笏を、もう片方は赤い鞘に収められ金の百合紋で飾られた国剣を持つ。剣先は上に向けられている。次に王自らが来る――その姿が現れるや、十二のトランペットと多くの太鼓が大きく歓迎を奏し、回廊の者は皆立ち上がって『国王陛下万歳!』と叫ぶ。王のあとには近侍の貴族が続き、左右には儀仗の衛兵――金色の戦斧を持つ五十名の王室年金受給紳士が行進する。」 それは華やかで楽しい光景だった。トムの鼓動は高鳴り、目には喜びの光が宿った。立ち居振る舞いは見事に優雅で、しかもその優雅さは、彼が自分の所作を意識していないからこそ一層自然だった。陽気な光景と音に心を奪われていたのだ――それに、ぴったり合った美しい服を少し着慣れてしまえば、誰だってひどく不格好にはなりようがない。とりわけ、その服を着ていることを一瞬忘れているならなおさらだ。トムは教えられたとおり、羽飾りのついた帽子の頭をわずかに傾け、礼儀正しく「礼を申す、良き民よ」と挨拶を返した。 トムは帽子を取らぬまま卓につき、少しの気後れもなくそれをやってのけた。帽子をかぶったまま食事をするというのは、王たちとキャンティ一家が、奇妙にも唯一“共通の地面”で一致している王家の習わしだったからだ。この点では、どちらも相手に慣れの優位がない。行列はほどけて絵になるように散り、皆脱帽のまま立った。

さて、陽気な音楽に合わせ、近衛兵が入ってくる――「イングランドで最も背が高く最も屈強な男たち、という点に注意深く選抜される」――だがここも年代記作者に任せよう。

「近衛兵は脱帽し、深紅の衣に背中の金の薔薇を負い、次々と大皿の料理を運んでくる。料理は順に紳士が受け取り、卓に置く。その間、毒を恐れて、味見役が各兵に、その運んだ料理を一口ずつ食べさせる。」

トムは、何百という目が一切れごとに口元を追い、爆薬でも飲み込むのを期待するかのように見張っているのを意識しながらも、しっかり食事をした。急がぬよう注意し、そして何より、自分で何かをしないよう細心の注意を払った。ふさわしい役人がひざまずいて、すべてをしてくれるまで待つのだ。彼は一つも間違えなかった――非の打ちどころのない、貴重な勝利。 食事がついに終わり、輝く行列に囲まれて退場したとき、耳に残るのはラッパの咆哮、太鼓の轟き、雷鳴のような歓声――トムは思った。もし、公の場での食事が最悪の難所だというのなら、これを一日に何度でも耐えてよい。その代わり、王の務めが求めるもっと恐ろしい要件のいくつかから解放されるのなら。


第十七章 フーフー一世

マイルズ・ヘンドンは橋のサザーク側へ急ぎ、探す相手を目を皿にして探しながら、すぐ追いつけるはずだと期待していた。だが当てが外れた。問いただして、サザークの街中を途中まで追跡できたものの、その先で手掛かりが途切れ、どう動くべきか迷った。それでもその日じゅう、できる限り探し続けた。日暮れには足は棒、半ば飢え、目的は相変わらず遠いまま。ヘンドンはタバード・インで夕食をとり、床に入った。朝は早く出て、街を徹底的に探す――そう決めた。横になって考えを巡らせるうち、こう推理し始める。あの少年は、ならず者――父親だと名乗る男――から逃げられるなら逃げるだろう。ではロンドンへ戻り、かつての住み処へ行くだろうか? いや、戻るまい。再捕獲は避けるはずだ。では何をする? 世の中に友も守り手もなかった少年が、マイルズ・ヘンドンに出会って初めてそれを得たのだ。ロンドンや危険へ向かわずに済むなら、当然、その友を再び探そうとするだろう。ヘンドン・ホールへ向かう――そうに違いない。ヘンドンが帰路についていることを知っているのだから、そこで会えると見込める。そうだ、話は明白だ、とヘンドンは結論した。サザークでこれ以上時間を失うべきではない。すぐにケント州へ抜け、モンクス・ホルムへ向かい、森を探し、行く先々で尋ねるのだ。では、姿を消した小さな王のほうへ戻ろう。 橋の宿の給仕が、若者と王に「合流しようとしている」と見たならず者は、正確には合流したのではなかった。ぴたりと後ろにつき、足取りを追ったのだ。何も言わない。左腕は吊り、左目には大きな緑の当て布。足をわずかに引きずり、樫の杖を支えにしていた。若者は王を連れてサザークの曲がりくねった道を進み、やがて街道へ出た。王はいらだち、ここで止まると言った。ヘンドンのほうが王に来るべきで、王がヘンドンへ行くなど筋が違う。そんな無礼には耐えぬ、ここで止まる、と。若者は言った。

「ここに留まるのか、友があの森で傷を負って倒れているというのに? そうしたいなら、そうすればいい。」

王の態度は一変した。叫んだ。

「傷を? 誰がそんなことをした! ――いや、それは後だ。行け、行け! 急げ、この悪党め! 靴底に鉛でも仕込んだか? 傷を負っただと? やったのが公爵の息子であろうと、必ず後悔させてやる!」

森までは距離があったが、二人はすぐに辿り着いた。若者はあたりを見回し、地面に突き立てられた枝――小さな布切れが結ばれている――を見つけると、森へ入った。同じような枝を間を置いて見つけながら進む。目的地への目印らしい。やがて開けた場所へ出た。そこには焼け焦げた農家の残骸があり、近くに崩れかけた納屋が一つ、朽ちていた。どこにも命の気配はなく、沈黙だけが支配していた。若者は納屋へ入った。王はその踵へと急いで続く。だが中には誰もいない! 王は驚きと疑いを込めた視線を若者に投げ、尋ねた。

「どこだ?」

返事は嘲るような笑いだった。王はたちまち激怒した。薪の一片を掴み、若者へ突進しようとしたそのとき、別の嘲笑が耳に落ちた。少し離れてついてきた、足の悪いならず者の笑いだ。王は振り向き、怒って言った。 「何者だ? ここで何をしている?」

「芝居はやめろ」と男は言った。「落ち着け。変装が上手くもないのに、父親が分からぬふりをするのか。」

「お前は父ではない。知らぬ。余は王だ。もし余の従者を隠したのなら探し出せ。さもなくば、やったことを後悔しながら夕餉を食う羽目にしてやる。」

ジョン・キャンティは、厳しく、抑えた声で答えた。

「お前が気でも違っているのは明らかだ。罰するのは本意ではない。だが挑むなら、罰せねばならん。ここにはお前の戯言を聞くべき耳がないから害はない。だが場所が変われば危ない。用心ある言葉遣いを舌に仕込んでおけ。おれは人を殺した。家にはおれぬ。お前もだ――おれにはお前の働きが要る。名は変える、賢明な理由があってのことだ。おれはホッブズ――ジョン・ホッブズ。お前はジャックだ。よく覚えろ。さあ答えろ。母親はどこだ? 姉妹はどこだ? 奴らは指定の場所に来なかった――どこへ行ったか知っているのか?」

王は不機嫌に答えた。

「その謎かけはやめよ。余の母は死んだ。姉妹は宮殿にいる。」

近くの若者が侮る笑いを噴き出し、王は殴りかかろうとしたが、キャンティ――いまはホッブズと名乗った男――が止めて言った。

「やめろ、ヒューゴー、苛立たせるな。こいつの頭はずれている。お前のやり方が癪に触るのだ。座れ、ジャック、静かにしろ。あとで食い物をやる。」

ホッブズとヒューゴーは小声で話し始め、王はできる限り二人から離れた。納屋の奥の薄闇へ退くと、土の床には藁が一フィート(約30cm)もの厚さに敷かれている。王はそこへ横になり、毛布の代わりに藁をかぶった。すぐに考えに沈む。悲しみは多かったが、小さな悲しみは、最大の悲しみ――父の死――に呑まれてほとんど忘れられた。世間にとってヘンリー八世という名は身震いを呼び、鼻息だけで破滅を吐き、手で鞭と死を配る鬼のような存在を思わせた。だがこの少年にとって、その名は喜びしか連れてこない。呼び起こされる姿の顔は、優しさと愛情だけでできていた。父と自分の間にあった愛の場面が次々と思い出され、少年はそれに縋るように浸った。溢れる涙が、その悲しみの深さと真実を証していた。午後が消えていくにつれ、悩みに疲れた少年は、次第に穏やかで癒やす眠りへ落ちていった。 どれほど経ったか――本人には分からない――感覚が半分ほど意識へ戻り、目を閉じたまま、ここがどこで何が起きていたのかをぼんやり探っていると、低くざわめく音に気づいた。屋根を打つ雨の鈍い連打だ。ぬくもりのある安らぎが忍び寄ったが、次の瞬間、甲高い笑い声と下卑た爆笑の合唱が、それを乱暴に砕いた。少年は不快に驚き、頭の藁をどけて、どこから邪魔が入ったのかを見た。目に飛び込んできたのは、陰惨で醜悪な絵だった。納屋の反対側、床の中央に明るい火が燃え、その赤い照りに怪しく照らされて、男女取り混ぜ、これまで読んだことも夢に見たこともないほど雑多な、ぼろをまとった下水の屑とならず者の群れが、だらしなく寝転び、崩れ落ちていた。日に焼けた巨体の男――長髪で、奇妙な破れ布を身にまとっている。荒々しい面構えの中背の若者――同じくぼろぼろの格好。目をつぎはぎした乞食――実際は健やかな目を隠すため。木の脚や松葉杖の不具者。膿む傷が、役に立たぬ包帯の隙間から覗く病人。荷を背負った悪党面の行商。刃物研ぎ、鍋修理屋、そして理髪兼外科医――それぞれ道具を携えている。女たちは、育ちきらぬ少女もいれば盛りの者もいる。しわくちゃの老女もいる。だが全員が大声で、厚顔で、口汚く、身なりは汚れ、だらしがない。顔にできものだらけの赤子が三人。首に紐をつけられ、盲人を導く役目の、痩せこけた犬が二匹。 夜が来て、連中はちょうど宴を終えたところだった。乱痴気が始まろうとしている。酒の入った缶が口から口へ回される。誰かが叫んだ。

「歌だ! 歌を! バットとディックとドット=アンド=ゴー=ワンの歌を!」

盲人の一人が立ち上がり、見事な目を覆う当て布と、哀れを誘う“失明の理由”を書いた札を放り捨てて支度をした。ドット=アンド=ゴー=ワンは木の脚を外し、健やかな足で仲間の悪党の横へ並んだ。二人は陽気な悪党歌をがなり立て、各節の末尾では一味全員が荒々しい合唱で加勢した。最後の節に来るころには、半酔いの熱狂が極まって、誰も彼もが最初から最後まで通しで歌い、梁を震わせるほどの悪漢の音量になった。歌詞はこうだ――

『Bien Darkman’s then, Bouse Mort and Ken, The bien Coves bings awast, On Chates to trine by Rome Coves dine For his long lib at last. Bing’d out bien Morts and toure, and toure,

Bing out of the Rome vile bine, And toure the Cove that cloy’d your duds, Upon the Chates to trine.』

(『The English Rogue』より。ロンドン、1665年。) そのあと会話になった。さっきの歌の泥棒隠語は使わない。あれは、敵の耳があるかもしれないときだけの言葉だ。話の中で、「ジョン・ホッブズ」がまったくの新参ではなく、以前も一味にいたことが分かった。近頃の身の上を聞かれ、男が「事故で」人を殺したと言うと、連中は大喜びした。相手が神父だったと付け加えると、喝采を浴び、全員と飲み交わさねばならなくなった。旧友は歓声で迎え、新顔は握手できることを誇った。なぜ「何か月も姿をくらましていた」のかと問われ、ホッブズは答えた。

「ロンドンのほうが田舎よりいい。近年は安全でもある。法が苦くなり、執行も厳しくなったからな。あの事故さえなければ、ロンドンにいた。そう決めていた――二度と田舎に戻るまいと。だが事故がそれを終わらせた。」

一味は今、何人いるのかと尋ねた。「ラフラー」――首領――が答えた。

「二十五人だ。頑丈なバッジ、バルク、ファイル、クラッパードギオン、マウンダー[訳注:当時の浮浪者・犯罪者集団の階層や役割を示す隠語]に、デルやドクシーやほかのモートも数えてな。ほとんどはここにいる。残りは冬の稼ぎ場に沿って東へ流れている。夜明けに追う。」

「仲間の中にウェンが見えない。どこだ?」

「あの可哀れな奴は、いまや硫黄食いだ。繊細な舌には熱すぎる。真夏あたり、どこかの喧嘩で死んだ。」

「それは残念だ。ウェンは腕の立つ男で、勇気もあった。」

「まったくだ。やつのデル、ブラック・ベスはまだうちにいるが、東の移動に出ていて不在だ。行儀がよく、しつけもいい上物で、酔っているところを見た者はいない――七日のうち四日を超えて酔っていたことはな。」

「相変わらず厳格か――覚えている。見事な娘で、褒めるところばかりだ。母親はもう少し自由で、細かいことに頓着しなかった。厄介で気性の荒い婆だったが、並の者よりずっと頭が切れた。」

「その頭のせいで失った。手相見やら何やらの占いが祟って、とうとう魔女扱いの名と評判が立った。法が、じわじわ火で炙って殺した。あの婆が最期を迎える見事さには、こっちまで妙に胸が熱くなったよ――面白がって見物する群衆に向かって呪い散らし、罵り散らし、炎が顔へ舐め上がって細い髪を捉え、白髪の頭の周りでぱちぱち音を立てる間じゅう、呪い続けた。千年生きても、あれほど堂々たる呪詛は聞けまい。ああ、芸はあいつと一緒に死んだ。卑しく弱い真似事なら残っているが、本物の冒涜はない。」 ラフラーがため息をつき、聞き手も同情のため息を漏らした。冷えた沈黙が一瞬、仲間に落ちた。こういう堕落した流れ者でさえ、感情が完全に死んでいるわけではない。ときに、そして都合のよい条件が揃えば――たとえば今のように、才と教養が去り、後継を残さぬ場合など――失った痛みをかすかに感じもするのだ。だが、全員で深く一杯やると、すぐに気分は戻った。

「ほかにも、ひどい目に遭った仲間は?」とホッブズが尋ねた。

「いる――特に新参だ。たとえば、小作農が、農地を取り上げられ羊の牧場に変えられて、世に放り出され、飢えと無能に落ちたような連中だ。乞えば、荷車の尻で鞭打たれた。腰から上は裸にされ、血が流れるまで。次はさらし台に入れられ、石をぶつけられる。もう一度乞えば、また鞭。耳を一つ奪われる。三度目に乞う――哀れな奴ら、ほかにどうしろという? ――頬を焼印で焦がされ、奴隷として売られる。逃げれば狩り立てられ、絞首だ。短い話で、すぐに終わる。ほかの者は、もう少し楽に済んだ。さあ立て、ヨークル、バーンズ、ホッジ――飾りを見せろ!」 三人は立ち上がり、ぼろをまくって背中をさらした。鞭の跡が縄のような古いミミズ腫れとして縦横に走っている。一人は髪をかき上げ、かつて左耳があった場所を見せた。もう一人は肩の焼印――Vの文字――と、切り取られた耳を見せた。三人目が言った。

「おれはヨークル。昔は農場主で、栄えた身。愛しい妻と子もいた――いまは違う暮らし、違う稼業だ。妻も子もいない。天国にいるのか、そ、それとも別の場所か――だが慈悲深い神に感謝だ、もうイングランドにはいない! 罪のない老母は病人の看病でパンを稼ごうとした。だが看病していた一人が死に、医者にも死因が分からず、母は魔女として焼かれた。幼子らがそれを見て泣き叫ぶ前でだ。イングランドの法! ――さあ皆、杯を上げろ! ――声をそろえて乾杯だ! ――彼女をイングランド地獄から救ってくれた慈悲深いイングランドの法に! ありがとよ、仲間たち。おれは家から家へ乞うた――妻と一緒に、飢えた子を連れて。だがイングランドでは、腹が減るのは罪だった。だからおれたちは裸にされ、三つの町を鞭で引き回された。もう一度、慈悲深いイングランドの法に乾杯だ! ――その鞭はおれのメアリーの血をたらふく飲み、祝福された救いはすぐ来た。妻は無縁墓地に眠っている。もう何の害も受けぬ。子どもたち? まあ、法が町から町へおれを鞭打つ間に、飢え死にした。飲め、野郎ども――一滴でいい、一滴をあの子らに。誰にも害を与えなかった子どもたちに。おれはまた乞うた――パン屑を求めてな。得たのはさらし台、そして耳を一つ。ほら、ここに切れ端が残ってる。もう一度乞うたら、もう一つも同じ目に遭って、こうして二つ目の切れ端が思い出させてくれる。それでも乞うたら、奴隷として売られた――この頬の染みの下だ、洗えば赤いSの焼印が見えるはずだ! 奴隷だ! その言葉が分かるか? イングランドの奴隷――それがおれだ。主人から逃げた。捕まれば――天の重い呪いが、この命令をした国の法に下れ! ――おれは絞首だ!」

濁った空気を裂いて、澄んだ声が響いた――

「お前は吊られぬ! ――そして今日、その法は終わる!」 皆が振り向いた。奇妙な姿の小さな王が、早足で近づいて来るところだった。光の中へ出て正体がはっきりすると、問い合わせが爆発した。

「誰だ? だ? どこの小人だ、お前は?」

少年は驚きと詮索の目に囲まれても怯まず、王者の威厳で答えた。

「余はエドワード、イングランド王である。」

嘲り半分、冗談の出来の良さへの歓喜半分の、野放図な笑いが起きた。王は刺されたように言った。

「無作法な浮浪者どもめ! 余が約した王の恩寵に対し、それが礼というものか!」

怒声と身振りでさらに言い募ったが、嘲笑と罵声の旋風に飲まれ、何も届かない。ジョン・ホッブズは騒ぎの上から何度も声を張り、ようやく通した。

「仲間よ、こいつはおれの息子だ。夢見がちの阿呆で、正真正銘の狂人だ。相手にするな――自分が王だと思い込んでいる。」

「余は王だ」とエドワードは彼へ向き直った。「いずれ、痛い目で思い知る。お前は殺人を自白した――絞首になる。」

お前が密告するのか――お前が? この手が届いたら――」 「やれやれ!」と、がっしりしたラフラーが割って入り、王を救うのに間に合った。そのうえで拳でホッブズを殴り倒し、「王だろうがラフラーだろうが、敬意というものを知らんのか? もう一度ここで無礼を働けば、おれが自分の手で吊るしてやる。」

そして陛下に言った。口調はきっぱりしているが、どこか愛嬌がある。

「仲間に脅しはかけるな、坊主。外で仲間の悪口を言う舌も慎め。王様ごっこがしたいなら勝手にしろ――だが害をなす王であるな。さっきの肩書は捨てろ――反逆だ。おれたちは些細な悪事はいくつかするが、王に逆らうほど下劣な奴は一人もいない。そこだけは忠義で、愛国心もある。おれの言うとおりだろう。よし――皆で:『エドワード、イングランド王、万歳!』。」

「エドワード、イングランド王、万歳!」

寄せ集めの一味から雷鳴のような返答が来て、狂った建物が音で震えた。小さな王の顔は一瞬、喜びで明るくなった。軽く頭を傾け、重々しく素朴に言った。

「礼を申す、良き民よ。」

この予想外の結果に、連中はまた笑いの発作を起こした。ようやく少し落ち着くと、ラフラーがきっぱり言った。だが語気は柔らかい。

「やめろ、坊主。賢くないし、良くもない。どうしても妄想を楽しみたいなら、別の称号にしろ。」

鍋修理屋が甲高く提案した。

「フーフー一世! 月の間抜けども(ムーンカーフ)の王!」

この称号が一発で“受けた”。一斉に喉が応え、吼えるような叫びが上がった。

「フーフー一世、月の間抜けどもの王、万歳!」

続けて口笛、やじ、爆笑が巻き起こる。

「引っ張り出して戴冠だ!」

「法衣を着せろ!」

「王笏を持たせろ!」

「玉座に据えろ!」

こうした叫びが二十も同時に噴き上がり、哀れな犠牲者が息をつく間もないほどに、頭には錫のたらいが載せられ、ぼろ毛布をローブにされ、樽を玉座にされ、鍋修理屋の半田ごてを王笏にされた。すると全員がその周りにひざまずき、汚れたぼろ袖や前掛けで目をぬぐいながら、皮肉な嘆願と泣き声の合唱を天へ投げた。 「ご慈悲を! 甘美なる王よ!」

「乞う虫けらを踏み潰さないでくださいませ、高貴なる陛下!」

「奴隷を憐れみ、王の蹴りで慰めてくだされ!」

「主権の燃える太陽よ、その恩寵の光で我らを温めて!」

「御足の一触れで大地を聖別し、我らが土を食らって高貴となれますように!」

「我らに唾をお吐きください、陛下! 子の子の子まで、王のご寛大を語り、永遠に誇り、幸せになれますように!」

だがその夜、最も“当てた”のは陽気な鍋修理屋で、栄冠をさらった。ひざまずき、王の足に口づけしようとする真似をし、王に怒って蹴り飛ばされると、今度は顔の、足が触れた場所に貼りつける布切れを乞い歩いた。卑俗な空気に触れさせてはならない、百シリングで見世物にして大儲けするのだ、と言うのである。あまりに殺人的に可笑しくて、汚らしい群れの羨望と賞賛を一身に集めた。

屈辱と憤怒の涙が、小さな君主の目に滲んだ。胸の中で思う。「深い害を与えたのなら、これ以上はありえぬほど残酷にするだろうに――だが余は、ただ親切にしようとしただけだ。それでこの仕打ちか!」


第十八章 浮浪者どもの中の王子

夜明け早く、浮浪者の一隊は起き出して行軍に出た。空はどんより垂れこめ、足元はぬかるみ、空気には冬の冷たさがある。陽気さは一切消えていた。陰気に黙る者もいれば、苛立って不機嫌な者もいる。誰一人として機嫌が良い者はいない。皆、喉が渇いている。

ラフラーは、簡単な指示とともに「ジャック」をヒューゴーに預け、ジョン・キャンティに対しては近づくな、放っておけと命じた。さらにヒューゴーにも、少年に乱暴をしすぎるなと警告した。 しばらくすると天気は和らぎ、雲も少し持ち上がった。一隊は震えるのをやめ、気分も上向き始めた。だんだん陽気になり、ついには互いをからかい、街道を行く旅人に悪口を浴びせるようになった。これは、再び人生とその楽しみを味わう心が戻ったしるしだった。連中の種族がどれほど恐れられているかは明らかだった。誰もが道を譲り、下卑た無礼を浴びても、言い返す勇気はない。生け垣に干してある洗濯物を、持ち主の目の前で平気で引ったくることもある。持ち主は抗議せず、生け垣まで奪っていかれなかっただけでありがたい、と言わんばかりだった。 やがて一隊は小さな農家へ押し入り、我が物顔で居座った。震え上がる農夫と家人は食料庫を空にする勢いで朝食を整えさせられる。連中は食べ物を手渡されながら、女房や娘たちの顎を指でくいっと持ち上げ、下品な冗談を飛ばし、侮辱の呼び名を添えて馬鹿笑いした。農夫と息子たちには骨や野菜を投げつけ、当たらぬように逃げ回らせ、見事に命中すると大喝采した。最後には、馴れ馴れしさに腹を立てた娘の一人の頭にバターを塗りたくって終わった。立ち去るとき、もし自分たちの所業が当局の耳に入ったら戻ってきて家族ごと家を焼き払うぞ、と脅していった。

正午ごろ、長く疲れきった徒歩行軍の末、一味はかなり大きな村の外れ、垣根の陰で足を止めた。一時間の休息が許されると、連中はそれぞれの稼業にありつくため、村のあちこちの入口へ散っていった――「ジャック」はヒューゴーと組まされて送り出された。

二人はしばらく、あちらへふらふら、こちらへふらふらと歩き回った。ヒューゴーは商売の機会をうかがうが、めぼしい獲物は見当たらない。とうとう、こう言った――

「盗むものが何もねえ。みみっちい場所だ。だから施しをせびるぞ。」

俺たち、だと? おまえは好きにやれ。おまえにはお似合いだ。だがは乞食はせん。」

「施しをせびらねえだと!」ヒューゴーは驚いた顔で王をねめつけた。「いつから改心したんだ?」

「何の話だ?」

「何の話? おまえ、ロンドンの路地で一生乞食してきたじゃねえか。」

「俺が? この愚図が!」

「お世辞はよせ――節約すりゃ長持ちする。おまえの親父は『こいつは生まれてこのかた乞食だ』って言ってた。ひょっとすると嘘だったかもな。いや、もっと大胆に、親父が嘘をついたって言うつもりか?」ヒューゴーはあざけった。

「おまえが、あれを俺の父だと呼ぶのか? そうだ、あいつは嘘をついた。」

「おいおい、狂人ごっこもほどほどにしろよ、相棒。遊びにしとけ、身を滅ぼすな。俺があいつにそれを告げ口したら、あいつはおまえを存分に焼いてくれるぜ。」

「余計なお世話だ。俺が言う。」

「その心意気は嫌いじゃねえ、実際な。だが判断力は褒められねえ。骨を砕かれたり、鞭打たれたりは、この世にいくらでもある。わざわざ招きにいくこたぁねえ。……だがまあ、その話はやめだ。俺はおまえの親父を信じる。あいつが嘘をつけるのは疑わねえ。必要があれば嘘もつくだろうさ、誰だってそうだ。だがここにその必要はねえ。賢い奴は、嘘っていう上等な品を、タダで無駄遣いしねえんだ。で、だ。乞食をやめる気なら、何をする? 台所荒らしでもするか?」

王は苛立って言った。

「もうよせ、その馬鹿話は。耳が疲れる!」

ヒューゴーはむっとして返した。

「よく聞け、相棒。おまえは乞食しねえ、盗みもしねえ。結構。だが、ならおまえがやることを教えてやる。おまえは囮だ。俺が施しをせびる間な。拒んでみろ――できるもんならな!」

王が侮蔑の言葉を返しかけたとき、ヒューゴーが遮った。

「黙れ! ほら、顔のよさそうなのが来る。よし、今から俺は発作を起こして倒れる。よそ者が俺に駆け寄ったら、おまえは泣き声をあげて膝をつけ。泣いてるふりだ。それから腹の中に惨めったらしい悪魔が詰まってるみたいに喚き散らせ――『ああ旦那さま、これは哀れな病の弟で、わたしたちは身寄りもありません。どうか、慈悲深い目で、病に見捨てられた、この最もみじめな者に、情けをひと目だけ――お金持ちの旦那さま、神に打たれ今にも死にそうな者に、ほんの一ペニーを恵んでください!』ってな。いいか、泣き声はやめるな。あいつのペニーをせしめるまで弱めるな。さもないと後悔させるぞ。」

そう言うや、ヒューゴーはすぐさま呻き、唸り、白目をむき、よろよろとふらつき始めた。通りがかりの男がすぐ近くまで来たところで、ヒューゴーは悲鳴をあげて男の前に手足を投げ出し、苦しみもだえながら土の上をのたうち回った――いかにも激痛に襲われているように。 「ああ、まあ、まあ!」慈悲深い通行人が叫んだ。「かわいそうに、かわいそうに、なんという苦しみ方だ! さあ――起こしてあげよう。」

「お慈悲深い旦那さま、どうかお触れにならないでください。殿下のような御仁――神があなたさまをお守りくださいますように。しかし、こういう発作のときに触られると、わたしは痛みでのたうってしまうのです。そこにいる弟が、発作のときの苦しみようをお話しします。どうか一ペニー、旦那さま、一ペニーを。少し食べ物を買えれば、それでいいのです。あとは苦しみに任せておいてください。」

「一ペニーだと? 三つやろう、この不幸な者め」男は神経質なほど急いで懐を探り、銭を取り出した。「ほら、坊や、受け取れ、遠慮はいらん。さあ、そっちの少年もこちらへ来て、この痛ましい兄弟をあの家まで運ぶのを手伝って――」

「俺はあいつの弟ではない」王が口を挟んだ。

「なんだと! 弟ではない?」

「ああ、聞いてくだせえ!」ヒューゴーは呻き、内心では歯ぎしりした。「自分の弟を否定する――しかも片足は墓の中っていうのに!」

「少年よ、もし本当に兄弟なら、おまえは心が冷たすぎる。恥を知れ! この者は手も足も動かせぬほどだというのに。弟でないなら、では誰なのだ?」 「乞食で泥棒だ! あんたの金を奪い、ついでに懐も抜いた。治癒の奇跡を起こしたいなら、杖でやつの肩をしこたま叩いて、あとは天の摂理に任せるがいい。」

だがヒューゴーは奇跡の成就を待ちはしなかった。一瞬で飛び起き、風のように逃げ出した。男は追いすがり、大声で「泥棒だ!」と触れ回りながら走っていく。

王は――天が自分を救ってくれたことに深い感謝を捧げながら――反対方向へ逃げた。危険が及ばぬ距離まで走り抜くまで、足をゆるめようとしない。最初に目についた道へ飛び込み、村をあっという間に後ろへ置き去りにした。

数時間のあいだ、できるだけ速く歩き続け、追っ手がいないかと神経質に肩越しに見張った。だがやがて恐れは薄れ、代わりに、ありがたいほどの安堵が胸に満ちた。そこでようやく、空腹と疲労をはっきり自覚する。

彼はある農家の前で足を止めた。しかし話しかけようとした途端、言葉を遮られ、無遠慮に追い払われた。服装が災いしたのだ。

傷つき、憤りながら、王はふらふらと歩き続けた。もう二度と、同じ屈辱を受けに行くものかと固く決めた。だが空腹は誇りの主人である。夕暮れが迫るころ、別の農家にもう一度当たってみたが、今度は前よりひどかった。罵声を浴びせられ、「すぐ立ち去らぬなら浮浪者として捕えるぞ」と脅されたのだ。

夜が来た。冷たく、雲に覆われた夜だった。それでも足の裏を痛めた君主は、なおも重い歩みで進み続けた。動き続けねばならなかった。座って休むたび、冷えが骨にまでしみ込んできたからだ。

厳粛な闇と、夜の空虚な広がりの中を進むあいだに感じたこと、経験したことは、すべてが新しく、奇妙だった。ときおり声が近づき、通り過ぎ、そして沈黙に消える。しかし彼が見たのは、声の主の身体ではなく、輪郭も定かでない漂うぼやけた影だけだ。そこには幽霊じみた不気味さがあり、彼は身震いせずにいられなかった。

時折、遠くに灯りがきらめく――いつも、別世界のように遠い。羊の鈴の音が聞こえても、ぼんやりと、遠く、かすかだ。牛の群れのくぐもった鳴き声は、夜風に乗って消え入りながら届き、物悲しい。ときおり、見えない野や森の向こうから、犬の愚痴るような遠吠えが届く。すべての音が遠い。小さな王には、命も営みも自分から遠ざかってしまい、自分だけが、果てしない孤独の真ん中に、ただ一人で立っているように思われた。 この新しい体験のぞっとする魅力に引きずられるように、彼はよろめきながら進んだ。頭上の枯れ葉がかさりと鳴るたび、人の囁きに似ていてぎょっとする。やがて、突然、近くにブリキのランタンの斑な光が見えた。王は影へ退き、様子をうかがった。

ランタンは納屋の開いた戸口の脇に置かれている。しばらく待っても物音ひとつなく、人影もない。立ち止まっているうちに身体が冷え切り、しかも、あの納屋があまりにも魅力的に見えたので、ついに彼は万事を賭けて入る決心をした。

素早く、忍び足で動き出し、敷居をまたぐその瞬間、背後から声が聞こえた。王は納屋の中の樽の陰へ飛び込み、身をかがめた。二人の農夫がランタンを持って入ってきて、話しながら仕事に取りかかった。

二人が光を動かすたび、王は目を凝らし、納屋の奥にある、かなり広そうな仕切り(家畜小屋の一画)を見定めた。二人が去ったあと、そこへ手探りでたどり着くつもりだ。また、途中に馬の毛布の山があることにも気づいた。今夜一晩、イングランド王冠のために徴発するつもりである。

やがて二人は仕事を終えて去り、戸を閉め、ランタンも持っていった。震える王は暗闇の許す限り急いで毛布へ向かい、かき集めると、安全に手探りで仕切りへたどり着いた。毛布二枚を敷いて床を作り、残り二枚を掛けた。

毛布は古く薄く、暖かさも十分ではない。しかも鼻を刺す馬臭さが、むせかえるほど強烈だった。それでも王はいまや、心から満ち足りた君主であった。

空腹と寒さはあったが、それ以上に疲れと眠気が勝っていた。まもなく彼は半ば意識のあるうとうとへ落ちていった。そして、完全に意識が沈みきる直前――はっきりと何かが自分に触れたのを感じた! 

たちまち目が覚め、息を呑んだ。暗闇の中のあの謎の接触がもたらした冷たい恐怖は、心臓を止めかねないほどだった。彼は身じろぎもせずに耳を澄ました。だが何も動かず、音もしない。

長い時間に思えるほど待っても、やはり何も動かず、音もしない。そこでまた、うとうとに落ちかけた、そのとき――再び、あの謎の接触! 

音もなく見えもしないものが、ふっと触れてくる。ぞっとするほど不気味で、少年は幽霊じみた恐怖に吐き気を覚えた。

どうすればいい? それが問題だが、答えは出ない。比較的居心地のよいこの場所を捨て、正体不明の恐怖から逃げるべきか? だがどこへ? 納屋の外へは出られない。四つの壁の牢獄の中を、暗闇で闇雲に走り回り、幽霊がすっと滑るように追ってきて、曲がるたびに頬や肩へあの柔らかく忌まわしい触れ方をする――想像するだけで耐えがたい。

ではここに留まり、一晩中この生き地獄に耐えるのか。そちらのほうがましなのか? 違う。なら残る道は――ああ、ただ一つ。手を伸ばして、それを探し当てるしかない! 

考えるのは簡単だ。だが実行するには勇気が要った。三度、恐る恐る手を少しだけ闇へ差し出しては、息を呑んで引っ込めた――何かに触れたからではない。触れてしまいそうだという確信が、恐ろしすぎたからだ。

だが四度目、彼はもう少し先まで手探りし、指先が柔らかく温かいものをかすめた。恐怖で体が石になりかけた。心の状態が心の状態だけに、それが「つい今しがた死んだばかりで、まだ温かい死体」以外の何物でもないと思えた。

もう二度と触りたくない。触るくらいなら死んだほうがましだ。そう思ったのは、人間の好奇心がもつ不滅の強さを知らなかったからだ。ほどなく、彼の手はまた震えながら探り始めていた――理性に反して、本人の同意すらないのに、それでも執拗に。

手は長い髪の束に触れた。彼は身震いしたが、その髪をたどると、温かな縄のようなものに行き当たる。縄をたどり――そして見つけたのは、罪のない子牛だった! 縄ではない。子牛の尻尾だったのだ。 眠っている子牛程度のことで、あれほど怯え苦しんだ自分が、王は心底恥ずかしかった。だが、本当は子牛が怖かったわけではない。子牛が“代わりに立っていた”――実体のない、恐ろしい何かが怖かったのだ。迷信深い昔なら、どんな少年でも同じように振る舞い、同じように苦しんだに違いない。 その生き物が子牛にすぎないと分かったこと自体が嬉しかったが、子牛が“そばにいる”こともまた嬉しかった。あまりに孤独で、頼るものがなかったから、こんなつつましい動物であっても、仲間としてありがたかったのである。

それに、自分と同じ人間から散々ぶたれ、無礼に扱われてきた。だからこそ、少なくとも柔らかな心と穏やかな気性を持つ同類のそばにいられるのは、何よりの慰めだった――たとえ他の高尚な資質が欠けていようとも。そこで王は、身分をひとまず脇に置き、子牛と友だちになることに決めた。

つるつるした温かな背を撫でているうちに――子牛はすぐ手の届くところにいた――この子牛は一石二鳥どころか、もっと役に立つのではないかと思いついた。王は寝床を組み替え、子牛のすぐそばに敷き直した。それから子牛の背に身を寄せ、毛布を自分と友だちの上に引き上げた。すると一、二分もしないうちに、ウェストミンスター宮殿の羽毛の寝台にいたとき以上に、暖かく、快適になった。

たちまち愉しい思いが湧き、人生が明るく見え始めた。奴隷と犯罪の鎖から自由。卑劣で残忍な無法者たちの連れ合いから自由。暖かい。雨風をしのげる。ひと言で言えば、幸せだった。

夜風が強まり、納屋を震わせ、がたがた鳴らす突風が吹きつけたかと思うと、ふっと力が落ち、角や出っ張りを回って呻き、泣き声のような音を立てていく。だが今の王には、それがすべて音楽だった。吹け、荒れろ、叩きつけろ、呻け、泣け――どうでもいい。ただ愉しいだけだ。

王はぬくぬくとした満ち足りた贅沢の中で、友だちへさらに身を寄せ、幸福に意識を手放した。深く、夢もない眠り。静けさと平和に満ちた眠り。

遠くで犬が吠え、牛が物悲しく鳴き、風は荒れ続け、激しい雨が屋根を叩きつけた。だがイングランドの陛下は乱されることなく眠り続け、子牛も同じように眠り続けた――単純な生き物であり、嵐にもあまり悩まされず、王と寝ることに気後れもしないのだから。


第十九章 農民たちと王子

明け方早く、王が目を覚ますと、夜のあいだに濡れたが気の利いたネズミが忍び込み、彼の胸元に居心地のよい寝床を作っていた。目覚めに気づくと、ネズミはさっと逃げた。少年は笑って言った。

「哀れな愚か者よ、なぜそんなに怖がる。俺もおまえと同じで、頼るものがない。自分がこれほど無力なのに、無力な者を傷つけるなど、俺にできるわけがない。おまけに、おまえには礼を言わねばならぬ。吉兆を運んでくれたからだ。王がここまで落ちて、ネズミに寝床にされるほどなら、運勢は転じるに決まっている。これ以上落ちようがないのだから。」

彼は起き上がって仕切りを出た。ちょうどそのとき、子どもの声が聞こえた。納屋の扉が開き、幼い少女が二人入ってくる。少年の姿を見ると、しゃべり声も笑い声も止まり、二人は強い好奇心に目を見張ったまま立ち尽くした。やがてひそひそと囁き合い、近づいてはまた止まり、見つめては囁いた。

そのうち勇気が出たのか、今度は声に出して品定めを始めた。一人が言う――

「顔立ちはきれいね。」

もう一人が付け足す――

「髪もきれい。」

「でも服はひどい。」

「ひもじそう。」

さらに近づき、恥ずかしそうに横歩きでぐるりと回り、あらゆる角度から丹念に調べる。まるで見たこともない珍しい動物を観察するように。しかし用心もしていて、半分は「ときどき噛みつく動物かもしれない」と疑っているようだった。

ついに二人は彼の前で止まり、手を握り合って身を守りながら、無邪気な目で満足するまでじっと見つめた。それから片方が意を決し、正直そのままに尋ねた。

「あなた、誰?」

「俺は王である」重々しく答えが返った。 子どもたちは小さく身を震わせ、目を丸くしたまま、言葉のない半分の一分を過ごした。やがて好奇心が沈黙を破る。

? 何の王さま?」

「イングランド王である。」

子どもたちは互いを見て、彼を見て、また互いを見た。不思議そうに、腑に落ちない顔で。それから一人が言った。

「聞いた、マージェリー? この子、自分は王さまだって。そんなこと、本当にあるのかな?」

「本当じゃなかったら、プリシー、どうなるの? 嘘になるじゃない。ほらね、プリシー、真実じゃないことはみんな嘘だもの。そうに決まってる。考えてみて。真実でないものは嘘――それ以外に何があるの?」

隙のない、見事に締まった理屈だった。プリシーの半端な疑いは、立つ足場を失った。しばらく考えた末、プリシーは単純な言葉で、王に名誉を賭けさせた。

「本当に王さまなら、信じる。」

「俺は本当に王である。」

これで決着した。陛下の王権は、それ以上の詮議も議論もなく受け入れられ、二人の少女はすぐさま、どうしてここにいるのか、どうして王らしくない服なのか、どこへ行くのか、何もかもを尋ね始めた。

王にとって、嘲られも疑われもしない場所で苦難を吐き出せるのは、ひどい救いだった。彼は空腹すら一時忘れて、胸に迫るままに物語った。それは優しい少女たちに、深い同情といたわりをもって受け止められた。

しかし彼の最近の体験に話が及び、どれほど長く食べていないかを知ると、少女たちは話を遮り、朝食を探してやろうと彼を農家へ急がせた。

王は今や陽気で幸せだった。そして心の中でこう言った。

「俺が本来の身に戻ったなら、子どもたちを常に敬おう。苦難の時に、信じ、頼ってくれたのはこの者たちだった。年長で、自分は賢いと思い込んでいる者たちは、俺を嘲り、嘘つき呼ばわりしたのに。」 少女たちの母親は王を親切に迎え、哀れみで胸を満たした。みすぼらしい有様と、どう見ても正気とは思えぬ言動が、女の心を打ったのだ。彼女は未亡人で、暮らしも豊かではない。だからこそ不幸を知り、不幸な者に共感できた。

彼女は、この気のふれた少年が友人か監督者のもとから迷い出たのだろうと思い、出所を突き止めて返してやろうとした。しかし近隣の町や村の名を挙げても、何を尋ねても、手応えがない。少年の顔つきも答えも、彼女の言う土地が馴染みのないものであることを示していた。

少年は宮廷のことになると、真剣に、素朴に語った。「先王である父」のことを口にするたび、何度も言葉に詰まり、崩れそうになった。しかし話が卑近な話題へ移ると、関心を失って黙り込んだ。

女は大いに困惑したが、諦めない。料理をしながら、少年の正体を不意に漏らさせる仕掛けを工夫した。牛の話――反応なし。羊の話――同じ。羊飼いの子だという推測は外れ。粉挽きの話、織り手の話、鋳掛屋、鍛冶屋、あらゆる職と職人の話、ベドラム[訳注:ロンドンの精神病院「ベスレム病院」の通称で、当時は狂人収容所として知られた]や牢屋、慈善施設の話――だがどこでも行き詰まる。

それでも彼女は、絞り込めたと考えた。家庭奉公だ。そうに違いない。彼女は確信し、そこへ誘導した。だが結果は芳しくない。掃き掃除の話は彼を退屈させた。火起こしは動かない。雑巾がけも磨き上げも、熱が入らない。

彼女はほとんど望みを失いながら、形式ばったように料理の話題に触れた。すると驚いたことに、王の顔がぱっと輝いた! ついに追い詰めた、と彼女は思った。しかも自分の回り道の機転と勘の良さに、誇らしささえ覚えた。

彼女の疲れた舌は、これで休む番になった。王の舌が、空腹と、鍋釜から立つ香りに焚きつけられ、解き放たれたからだ。彼は食欲をそそる料理について、見事な弁舌で論じ始めた。三分もたたぬうちに彼女は思った――「やはり。ほんとうに台所仕事を手伝っていたのだわ!」

さらに王は献立を広げ、味わい深く、活き活きと語り尽くす。すると女はまた思った。

「まあ! こんなにたくさん、しかもこんな上等な料理をどうして知っているの。こんなのは金持ちや偉い人の食卓にしか出ない。……そうか! このみすぼらしい外れ者は、理性が狂う前、宮殿で奉公していたに違いない。そう、王その人の台所で! 試してみよう。」

彼女は自分の慧眼を証明したくてたまらず、王に「少しの間、料理を見ていて」と頼んだ――望むなら一、二品加えてもいい、と含みを持たせて。それから部屋を出て、子どもたちにも合図してついて来させた。

王は独り言を言った。

「昔、別のイングランド王も、同じような任務を受けたことがある――我が尊厳に反する仕事ではない。偉大なるアルフレッド[訳注:アルフレッド大王。伝承では身分を隠して農家で奉公し、焼き菓子を焦がした逸話がある]が身を屈して担った役目なのだから。だが俺は、あの王より忠実に務めよう。あの王は菓子を焦がした。」

志は立派だったが、出来は伴わなかった。この王もまた、重大な国事に思いを沈め、そして同じ災難を招いた――料理が焦げたのである。女は戻ってきて、朝食が完全に台無しになる前に救い出した。そしてきびきびと、気持ちよいほどの叱責を浴びせた。だが王が任務を裏切ったことをどれほど気に病んでいるかを見ると、女はすぐに態度を和らげ、親切と優しさに戻った。 少年は腹いっぱい食べ、心身ともにすっかり立ち直り、朗らかになった。この食事には奇妙な特色があった。双方が「身分」というものを取り払ったのに、当人たちは、取り払ったことに気づいていないのである。

女は、本来ならこの若い浮浪者を、犬のように隅で残飯でも食べさせるつもりだった。だが叱りつけたことを後悔し、償いとして家族の食卓に座らせ、「上等な者たち」と同席させた――表向きは対等な条件で。

一方の王は、これほど親切にされたのに信頼を裏切ったことを悔い、女と子どもを立たせて給仕させ、己だけがふさわしい孤独な様で卓を占める、という生まれと尊厳に見合う作法を要求せず、自分を家族の水準にまで下げて償おうとした。

ときに肩の力を抜くのは、誰にとっても良いことだ。この善良な女は、一日じゅう、自分自身から得られる賞賛――「浮浪者に寛大に振る舞った私」の拍手喝采――で幸せだった。王も同じように、「卑しい農婦に親切にへりくだった我が慈悲深さ」に、自己満足していた。

朝食が終わると、女主人は王に皿洗いを命じた。この命令には一瞬ひるみ、反抗しかけた。だが彼は自分に言い聞かせた。

「アルフレッド大王は菓子を見張った。なら皿も洗ったに違いない――ゆえに、俺も試してみよう。」

仕事ぶりはお世辞にもよくなかった。木の匙や食器を洗うなど簡単だと思っていたのに、意外だった。面倒で骨の折れる仕事だったが、とうとう終えた。

王は旅立ちたくてたまらなくなっていた。だがこの倹約家の女主人は、そう簡単に彼を解放しない。細々した用事をいくつも与え、王はそれをまずまずこなし、多少の手柄も立てた。次に女は彼と少女たちに、冬りんごの皮むきを命じた。しかし彼があまりに不器用なので外され、今度は肉屋の包丁を研げと言われた。 その後は羊毛梳き(カード掛け)をさせられ、王は「見栄えのする下働き英雄譚」でアルフレッド大王を十分に霞ませた――と半ば思い、そろそろ辞任しようかという気持ちになった。

そして正午過ぎの昼食の直後、女主人が「子猫の入った籠を溺れさせてきて」と彼に渡したとき、王は辞任した。少なくとも辞任しかけた。線引きはどこかで必要であり、「子猫を溺れさせるところで線を引く」のが正しい、と彼には思えたのだ――そのとき、邪魔が入った。

邪魔者は、背に行商の荷を負ったジョン・キャンティとヒューゴーだった。

王は二人が門へ近づくのを、向こうが自分に気づく前に見つけた。だから「線引き」のことは口にせず、子猫の籠を持ち上げると、黙って裏口から出ていった。子猫たちは小屋に置き、背後の細い小道へ急いだ。


第二十章 王子と隠者

高い生け垣が家から彼を隠した。そこで王は、致命的な恐怖に突き動かされ、遠くの森へ向かって全力で駆け出した。森の庇護にほとんど届こうというところまで、彼は一度も振り返らなかった。そこで振り返ると、遠くに二つの人影が見えた。それで十分だった。よく確かめる余裕などなく、彼は急ぎ、森の薄闇の奥深くへ入るまで速度を落とさなかった。

やがて立ち止まり、今はまず安全だろうと思った。耳を澄ますと、静寂は深く、厳粛で――怖ろしくさえあり、気持ちを沈ませた。耳を張りつめて、間遠に音を捉えることはあったが、あまりに遠く、空洞めいて、謎めいているので、それは現実の音ではなく、死者の呻きや嘆きの幽霊のように思えた。だからその音は、破られた沈黙よりもなお陰鬱だった。

当初はその場で日暮れまでじっとしているつもりだったが、汗ばんだ身体へ冷えが忍び込み、暖を取るために動き続けるほかなくなった。王は森を一直線に突っ切り、いずれ道に出られることを期待した。だが当ては外れた。進めど進めど、森はむしろ濃くなるようだった。

やがて闇が厚みを増し、王は夜が迫っていると悟った。こんな不気味な場所で夜を過ごすと思うと身震いした。急ごうとしたが、かえって遅くなった。足元が見えず、慎重に歩けない。根につまずき、蔓や茨に絡め取られるばかりだった。 そしてついに、灯りのかすかなきらめきを捉えたとき、彼がどれほど嬉しかったか! 王は用心深く近づき、たびたび立ち止まってはあたりを見回し、耳を澄ました。灯りは、ガラスのない小窓のあいた、みすぼらしい小屋から漏れていた。

やがて声が聞こえ、王は走って隠れたい衝動に駆られた。だがすぐに思い直した。祈りの声だったからだ。

王は小屋の唯一の窓へ滑るように寄り、つま先立ちして中を盗み見た。部屋は狭い。床は自然の土で、踏み固められている。隅には藁の寝床、ぼろぼろの毛布が一、二枚。近くに桶、杯、盆、鍋や釜が二、三。短いベンチと三本脚の腰掛け。炉には柴火の燃え残りがくすぶり、祭壇の前には、一本のロウソクの灯りに照らされて、老人が跪いていた。脇の古い木箱の上には、開いた本と人間の髑髏が置かれている。

老人は大柄で骨ばっていた。髪も髭も非常に長く、雪のように白い。羊皮の衣を、首から踵まで垂らしている。 「聖なる隠者だ!」王は心の中で言った。「これはまことに幸運である。」

隠者が跪きから立ち上がった。王は戸を叩く。低い声が応じた。

「入れ! ――だが罪は外へ置いて来い。おまえが立つ地は聖なる地である!」

王が入って立ち止まると、隠者は落ち着きなく光る目で彼を射抜き、言った。

「何者だ?」

「俺は王である」穏やかに、あっさりと答えた。

「ようこそ、王よ!」隠者は熱狂的に叫んだ。そうして落ち着きなく忙しそうに動き回り、「ようこそ、ようこそ」と繰り返しながらベンチを整え、王を炉のそばに座らせ、火に柴をくべ、最後には神経質な足取りで部屋を行き来し始めた。

「ようこそ! ここへ聖域を求めて来た者は多いが、相応しくなく、追い返した。だが冠を捨て、職務の虚飾を軽んじ、ぼろをまとって聖性に身を捧げ、肉体を苦しめて生涯を送る王――その者は相応しい。歓迎する! ここに留まり、死が来るまで一生を過ごすがよい。」

王はあわてて遮り、事情を説明しようとした。だが隠者は耳も貸さない。聞いてすらいないようで、声を張り上げ、勢いを増してしゃべり続けた。

「ここでは平安が得られる。誰もおまえの隠れ家を突き止め、あの空虚で愚かな生活へ戻れと願い出て、おまえを悩ませはせぬ。おまえはここで祈る。聖書を読む。現世の愚かさと迷妄を思い、来るべき世界の崇高さを思う。堅パンと草を食み、魂の浄化のため、毎日鞭で肉を打つ。肌には毛衣を着る。水しか飲まぬ。そうして平安――完全な平安を得る。おまえを探しに来る者は、みな空しく帰る。見つけられぬ。煩わせはせぬ。」

老人はなお床を歩き回り、声を落としてぶつぶつ言い始めた。王はこれを好機とし、胸の不安と恐れに駆られた雄弁で、事情を訴えた。だが隠者はぶつぶつ言い続け、注意を払わない。そしてぶつぶつ言いながら王に近づき、印象深げに言った。

「しっ……秘密を教えてやろう!」

隠者は身をかがめて囁こうとしたが、ふと動きを止め、聞き耳を立てる姿勢を取った。しばらくするとつま先で窓へ行き、頭を突き出して薄暗がりを見回し、またつま先で戻ってきた。そして顔を王の間近へ寄せ、囁いた。

「わしは大天使である!」 王は激しく身を震わせ、心の中で叫んだ。「神よ、無法者どものところへ戻りたい。見よ、俺はいま狂人の囚われの身だ!」

不安は増し、それが顔に露骨に出た。隠者は低く興奮した声で続ける。

「わしの気配を感じたな! その顔に畏れがある! この天の気配の中にいて、そうならぬ者はおらぬ。わしは瞬きひとつで天へ行き、戻る。五年前、このまさにこの場所で、天から遣わされた天使たちが、あの恐るべき尊厳を授け、わしを大天使にした。天使たちの臨在で、この小屋は耐えがたい光に満たされた。そして天使たちはわしに跪いたのだ、王よ! そう、跪いたのだ! わしは彼らより偉大だったからだ。わしは天の宮廷を歩き、族長たちと語った。手に触れよ――恐れるな――触れよ。ほら――いまおまえは、アブラハムとイサクとヤコブに握られた手に触れたのだ! 黄金の宮廷を歩いた手。神を、まのあたりに見たのだ!」

隠者は効果を待つように一息置いた。だが次の瞬間、顔つきが一変し、怒りに燃えて立ち上がる。

「そうだ、わしは大天使だ。ただの大天使!――わしは教皇になれたのだぞ! 本当だ。二十年前、天が夢で告げた。ああ、わしは教皇になるはずだった! 天がそう言ったのだから、わしは教皇になるべきだった――だが王が修道院を解散した。わしは、無名で身寄りのない哀れな修道士として、家を失い、世界へ放り出された。偉大なる運命を奪われたのだ!」

ここから隠者はまたぶつぶつ言い、拳で額を打ち続け、無益な怒りに震えた。ときおり毒々しい呪いの言葉がこぼれ、ときおり哀れな嘆きが漏れる――「なぜわしはただの大天使なのだ……教皇になれたはずなのに!」

そうして一時間、哀れな小さな王は座り、耐えた。だが突然、老人の狂乱が消え、驚くほど穏やかになった。声は柔らかくなり、雲の上から降りて、人間らしく素朴なおしゃべりを始めた。それがあまりに自然で親しみやすいので、王の心はたちまち奪われた。

老いた信心者は少年を火のそばへ寄せ、楽にしてやり、擦り傷や打ち身を手際よく優しく手当てした。それから夕食の支度と料理に取りかかった――ずっと愉快にしゃべり続け、時折、頬を撫でたり頭を軽く叩いたりする。その仕草があまりにも柔らかく愛撫するようだったので、ほどなく“大天使”への恐れと嫌悪は、男への敬意と愛情へ変わっていった。 この幸福な気分は、二人が夕食をとるあいだ続いた。食後、祭壇の前で祈りを捧げると、隠者は少年を隣室の小さな寝床へ連れていき、母親がするように、ぬくぬくと丁寧に寝かせ、別れの愛撫をして去った。隠者は炉のそばに座り、ぼんやりと、目的もなく燃えさしをつつき始めた。

やがて手を止め、逃げた考えを呼び戻すように、指で額を何度か叩いた。うまくいかなかったらしい。突然、素早く立ち上がり、客の部屋へ入り、言った。

「おまえは王か?」

「そうだ」眠たげな返事。

「何の王だ?」

「イングランドの。」

「イングランド? ではヘンリーは死んだのだな!」

「残念ながら、そうだ。俺はその子である。」

隠者の顔に黒い険相が落ち、骨ばった手が復讐心のこもった力で握り締められた。しばらく荒く息をし、何度も唾を飲み込み、それからかすれた声で言った。

「知っているか。わしらを家なし身なしにして世に放り出したのは、あやつだ。」

返事はない。老人は身をかがめ、少年の安らかな寝顔を覗き込み、静かな呼吸を聞いた。

「眠っている――ぐっすりと。」

すると険相は消え、邪悪な満足の表情が浮かんだ。眠る少年の顔に微笑が走る。隠者は呟いた。

「ほう――心が幸せなのだな。」

そして背を向けた。隠者は小屋の中を忍び足で動き回り、あちこちを探し始めた。ときおり立ち止まっては耳を澄ませ、ときおり寝床へ鋭い視線を投げる。ぶつぶつ、もごもごと独り言を途切れさせない。やがて探していたものが見つかったらしい――錆びた古い肉屋の包丁と、砥石。

隠者は炉のそばへ忍び戻り、座り、包丁を砥石にそっと当てて研ぎ始めた。相変わらず呟き、もごもごと意味の切れ端を吐き、短い叫びを漏らす。風は孤独な小屋のまわりで嘆き、夜の謎めいた声が遠方から漂ってくる。大胆なネズミやドブネズミの光る目が、割れ目や隠れ場所から老人を覗いたが、老人は仕事に没頭し、何も気づかなかった。

長い間隔をおいて、隠者は親指で刃をなぞり、満足げに頷いた。

「鋭くなる……そう、鋭くなる。」

時間の流れなど意に介さず、静かに研ぎ続けた。思考に楽しみ、思考はときおり言葉になる。

「父がわしらに悪をなした。わしらを滅ぼした――そして永遠の炎へ落ちた! そう、永遠の炎へ! わしらの手から逃れたが、それは神の御心だ。嘆くまい。だが炎からは逃れられぬ! 情け容赦なき、燃え尽くす炎から! そしてそれは永遠だ!」

そうして研ぎ、研ぎ続けた――ときに低く、ざらついた笑いを漏らし、ときにまた言葉を吐く。

「あれの父がすべての元凶。わしはただの大天使。だがあやつのせいで、わしは教皇になれなかった!」 王が身じろぎした。隠者は音もなく寝床へ跳び、膝をつき、包丁を掲げたままうつ伏せの身体へ覆いかぶさった。少年が再び身じろぎし、目が一瞬開いた。だがそこに思考はなく、何も見ていない。次の瞬間、穏やかな呼吸が戻り、また深い眠りに沈んだ。

隠者はしばらく、動かずに見守り、ほとんど息もしなかった。やがてゆっくりと腕を下ろし、忍び去りながら言った。

「もう真夜中を過ぎた。叫ばれてはならぬ。たまたま誰かが通りかかっておるやもしれぬ。」 隠者は小屋の中を滑るように動き、布切れをここで拾い、革紐をあそこで拾い、また別の紐を向こうで拾った。そして戻ると、目覚めさせぬよう慎重に、優しく扱いながら、王の足首を縛り合わせた。

次は手首だ。何度も両腕を交差させようとしたが、少年は紐を当てようとするたび、片手を引っ込めてしまう。だがついに、大天使がほとんど絶望しかけたとき、少年は自分から手を交差させた。そして次の瞬間、両手は縛られた。

さらに口封じの布が、眠る顎の下へ通され、頭の上へ回され、きつく結ばれた――だがその結び目は、あまりにも柔らかく、徐々に、巧みに締められたので、少年は終始、身じろぎひとつせず、安らかに眠り続けた。


第二十一章 ヘンドン、救援に赴く

老人は身をかがめ、忍び足で、猫のように音もなく去り、低いベンチを運んできた。薄暗く揺れる灯りの中に半身をさらし、もう半身は影に沈めて腰かける。そして飢えたような目で眠る少年を見据え、時間の漂いなど意に介さず、辛抱強い見張りを続けた。包丁を静かに研ぎ、ぶつぶつ言い、時折くすくすと笑う。

その姿、その構えは、まるで――巨大で毛むくじゃらの怪物蜘蛛が、網に絡め取られ、縛られて無力な虫を前に、舌なめずりしているかのようだった。

長い時が過ぎた。なお見つめてはいるが、心は夢のような茫然自失に沈み、「見ていない」その老人が、ふと気づいた。少年の目が開いている! 見開かれ、凍りついた恐怖で――包丁を見上げている! 

老人の顔に、満足した悪魔の笑みが這い寄った。姿勢も手つきも変えぬまま、言った。

「ヘンリー八世の子よ、祈ったか?」

少年は縄に縛られたまま必死にもがき、同時に閉ざされた顎の奥から、押し殺した音を絞り出した。隠者はそれを肯定の返答と勝手に解釈した。

「なら、もう一度祈れ。死にゆく者の祈りを唱えよ!」

少年の身体が震え、顔色が抜けた。彼は再び、どうにかして自由になろうともがいた――こちらへねじり、あちらへひねり、狂ったように引っ張り、激しく、必死に、縄を断ち切ろうとする。だが無駄だ。その間ずっと、老いた鬼は微笑み、頷き、泰然と包丁を研ぎ続ける。ときおり呟く。

「刻は尊い。少なく、尊い――死にゆく者の祈りを唱えよ!」

少年は絶望のうめき声を漏らし、もがくのをやめて荒く息をした。涙が湧き、ぽろぽろと頬を伝った。だが、その哀れな光景も、野蛮な老人の心を少しも和らげなかった。

夜明けが近づいていた。隠者はそれに気づき、声にわずかな焦りを混ぜて鋭く言った。

「この恍惚に、これ以上耽ってはならぬ! 夜はもう去った。ほんの一瞬だった――一瞬。ああ、一年続けばよかったのに! 教会の破壊者の種よ、滅びゆく目を閉じよ。見たくもないのだろうが――」

あとは意味をなさぬ呟きに吸い込まれた。老人は膝をつき、包丁を握ったまま、呻く少年へ身をかがめた。 ――そのとき! 小屋の近くで声がした。包丁が隠者の手から落ちた。老人は羊皮を少年にかぶせ、震えながら立ち上がった。音は増し、やがて声は荒く怒りに満ち、続いて殴打の音、助けを呼ぶ叫び、そして慌ただしい足音が遠ざかっていった。

すぐに、小屋の扉を叩く雷鳴のような音が続き、そのあとに――

「おーい! 開けろ! さもなくば悪魔ども皆の名にかけて――さっさとしろ!」

ああ、王の耳にこれほど祝福に満ちて響いた音楽が、かつてあっただろうか。マイルズ・ヘンドンの声だったのだ! 

隠者は無力な怒りに歯を軋ませ、素早く寝室を出て扉を閉めた。直後、王の耳に「礼拝堂」からの会話が聞こえた――

「謹んでご挨拶申し上げる、尊きお方! あの少年――わしの少年はどこだ?」

「どの少年のことだ、友よ?」

「どこの小僧だ! 嘘はよせ、神父め。こっちをたぶらかす真似もするな! ――そんな気分じゃない。ここからそう遠くないところで、あいつを俺から盗んだに違いないと思った悪党どもを捕まえて、白状させた。奴らは『また逃げ出した』と言い、追跡したらおまえの戸口まで来たとも言った。あいつの足跡まで見せやがった。さあ、もう駆け引きは終いだ。いいか、聖なるお方よ、もし小僧を出さないなら――小僧はどこだ?」

「おお、旦那さま。もしかすると、昨夜ここに泊まっていった、あの衣のぼろい“王さま気取りの放浪児”のことですかな。旦那さまのようなお方が、あのような者にご関心をお持ちとは意外ですが――承知しました。あの子なら使いにやりました。すぐ戻りましょう。」

「どれほどで? どれほどだ? おい、時間を無駄にするな――追いつけるのか? いつ戻る?」

「動かずともよい。すぐ戻る。」

「よし。なら待ってやろう。だが待て! ――おまえが使いにやった? ――おまえが? とんでもない、嘘だ。あいつが行くものか。そんな無礼を言ったら、おまえの老いぼれ髭を引きちぎっていたはずだ。嘘をついたな、相棒。間違いなく嘘だ! あいつはおまえのためになど行かぬ。誰のためにも行かぬ。」

「誰のためにも、のためには――たしかに行くまい。だが、わしは男ではない。」

何だと! では神の名にかけて、おまえは何者だ?」

「秘密だ。決して漏らすでない。わしは――大天使だ!」

マイルズ・ヘンドンが凄まじい叫び声を上げた。決して敬虔とは言いがたい叫びである。続けて――

「なるほど、あの子が従順だったわけがこれで合点がいく! 俺もよく知っている。人間の下働きなど、手も足も動かすものかと思っていたが――おお、命令を下すのが大天使となれば、王であろうと従わねばならん! よし、俺が――シッ! 今の音は何だ?」

その間じゅう、小さな王は向こうで、恐怖に震えたり希望に震えたりしながら横たわっていた。苦痛に満ちたうめき声の限りを尽くし、ヘンドンの耳に届くはずだと繰り返し期待したが、いつも裏切られる――届かないか、届いても何の効き目もない。その苦い実感ばかりが積もった。だからこそ、召使いのこの最後の言葉は、死にかけた者に草原の新しい風が吹き込むように、王を生き返らせた。王はもう一度、力を振り絞った。隠者がこう言いかけた、まさにその瞬間に――

「音? わしには風しか聞こえぬが。」

「たぶん風だ。そうだ、きっとそれだ。ずっとかすかに聞こえていた――いや、まただ! 風ではない! 妙な音だな。よし、突き止めよう!」

王の歓喜は、ほとんど耐え難いほどだった。疲れ切った肺が、希望とともに限界まで働いた――だが、固く閉じられた顎と、口元を塞ぐ羊皮が、哀れな努力を台無しにする。すると隠者が言った言葉を聞いて、王の心は沈み込んだ。

「おお、外からだ――あの林のほうからだと思う。来い、わしが先に立つ。」

二人が話しながら出ていくのが聞こえた。足音はすぐに遠ざかって消えた――そして王は、予感を孕んだ、重苦しく、恐ろしい沈黙に一人きりで取り残された。

どれほど経ったか――再び足音と声が近づくまで、永遠のように長く感じられた。しかも今度は別の音が混じる――どうやら蹄の踏み鳴らしだ。続いてヘンドンの声がした。

「もう待てん。俺はもう待てん。あの濃い森で道に迷ったのだ。どっちへ行った? 早く――方角を示せ。」

「彼は――いや、待て。わしも一緒に行こう。」

「よし、よし! 見た目よりよほどいい奴だな。誓って言うが、おまえほど心根の正しい大天使は他におるまい。乗るか? 俺の“坊や”用のちっこいロバに乗るか、それとも俺が自分用に用意した、この機嫌の悪い奴隷みたいなラバに聖なる御脚をまたがせるか? ――もっとも、こんなラバでも、もし値が“職を失った鋳掛屋に貸した真鍮の四分の一ペニー硬貨のひと月分の利子”程度でもしていたら、俺は買う時に騙されていたに違いないがな。」

「いや、おまえはラバに乗れ。ロバは引け。わしは自分の足のほうが確かだ。歩く。」 「なら頼む、その小さな獣を見ていてくれ。俺は命を懸けて、でかいほうに何とかよじ登ってみる。」

続いて、蹴り、殴打、踏み鳴らし、跳ね上がりが入り乱れる大混乱となり、雷鳴のような罵声が雨あられと飛び交った。最後には、ラバへ向けた苦々しい罵倒が投げつけられた。それが効いたのか、そこから先は急に敵対行為が止んだ。

縛められた小さな王は、声と足音が薄れて消えていくのを、言葉にできぬ惨めさで聞いた。今この瞬間、希望はすっかり離れ、鈍い絶望が心にのしかかる。「唯一の友は騙され、追い払われた」と王は言った。「隠者が戻ってきて――」そこで息が詰まり、次の瞬間には再び狂ったように縄と格闘しはじめ、口元の羊皮を振りほどいた。

そして――扉が開く音! それは骨髄まで凍らせた。もう喉元に刃が当たる感触がするようだった。恐怖が王の目を閉じさせ、恐怖がまた目を開かせた――その目の前に立っていたのは、ジョン・キャンティとヒューゴーだった!  顎さえ自由なら、「神よ、ありがとう!」と言っていただろう。

その一、二瞬後には手足が解かれ、捕らえ手たちは左右の腕をそれぞれ掴み、全速力で森の中を引きずっていった。


第二十二章 裏切りの犠牲者

「フーフー一世王」はまたしても、浮浪者と無法者の一団に交じって放浪していた。下品な冗談と鈍重な嘲りの的にされ、ときにはラフラーの目が届かぬところで、キャンティとヒューゴーに小さな意地悪をされもした。心底で王を嫌っていたのは、実のところキャンティとヒューゴーだけだった。他の者の中には王を気に入る者もおり、全員がその度胸と気骨には感心していた。

二、三日のあいだ、王の監視と世話役になっているヒューゴーは、こっそりできる限り王を不快にしてやろうとした。夜になっていつもの酒宴が始まると、ヒューゴーは“うっかり”を装って王に小さな屈辱を与え、仲間を笑わせた。二度、王の足のつま先を踏んだ――もちろん“偶然”ということになっている。だが王は王らしく、あからさまにそれを軽蔑し、踏まれたことなど意識すらしないふりで平然としていた。ところが三度目、同じ遊びをやったとき、王は棍棒でヒューゴーを殴り倒した。一味は大喝采である。

怒りと恥に煮えくり返ったヒューゴーは跳ね起き、棍棒を掴んで、小さな敵に猛然と襲いかかった。たちまち、剣闘士たちの周りに輪ができ、賭け声と歓声が飛び始めた。 だが、哀れなヒューゴーに勝ち目など微塵もない。狂乱じみた不器用な見習い仕事は、ヨーロッパ随一の師たちから、短棒術、長棒術、そして剣術のあらゆる技と駆け引きを叩き込まれた腕の前では、まるで商品価値がなかった。小さな王は、油断なく構えつつも、優雅に余裕を保って立ち、雨のように降り注ぐ打撃を、驚くほどの容易さと正確さで受け流し、弾き返した。そのたびに見物のならず者たちは、感嘆で狂ったように騒いだ。そして王の鍛えられた目が隙を見抜くたび、稲妻のように速い一撃がヒューゴーの頭へ飛び、嵐のような喝采と爆笑が場をさらった。その音ときたら、実に凄まじい。

十五分の終わりには、打ちのめされ、痣だらけになり、無慈悲な嘲笑の砲撃を浴びたヒューゴーが、すごすごと場を離れた。無傷の英雄は、喜びに沸く群衆に肩へ担ぎ上げられてラフラーの隣の栄誉の席へ運ばれ、盛大な儀式のもと「闘鶏王」に戴冠された。同時に、以前の卑しいあだ名は厳粛に抹消・破棄され、今後それを口にする者は一味から追放する、という布告まで宣言された。

王を一味の役に立つ存在にしようという試みは、すべて失敗した。王は頑固に“働く”ことを拒み、なおかつ常に逃げ出そうとしていた。

戻ってきた初日、見張りのない台所に押し込まれたときは、何一つ持ち出さなかったばかりか、家の者を起こして騒ぎを起こそうとまでした。鋳掛屋の仕事を手伝えと外へ出されたときも、働かない。それどころか、鋳掛屋に向かって自分の半田ごてを振り上げて脅し、最後にはヒューゴーも鋳掛屋も、王を逃がさないだけで手一杯になった。

王は自由を妨げる者、奉仕を強いる者の頭上に、王権の雷鳴を容赦なく落とした。だらしない女と病んだ赤子を連れ、ヒューゴーの監視で物乞いに出されたこともあるが、結果は芳しくない。王は乞食どものために哀願することを拒み、どんな形であれ仲間になる気はない、と突っぱねた。

こうして数日が過ぎた。歩き回る暮らしの惨めさと疲労、薄汚さと卑小さと下劣さと野卑さが、少しずつ、しかし確実に、囚われた王には耐えがたいものになっていった。やがて王は、隠者の刃から救われたことも、せいぜい死からの一時しのぎにすぎなかったのだ、と感じ始めた。結局は死――というわけだ。

だが夜、夢の中ではそれらが忘れられ、王は玉座にあり、再びすべての主だった。もちろん、そのことが目覚めの苦しみをいっそう増した。こうして、再び束縛に戻ってからヒューゴーとの決闘までの、わずかな朝の屈辱は、日ごとに苦く、日ごとに耐え難くなっていった。

決闘の翌朝、ヒューゴーは王への復讐心で胸をいっぱいにして起きた。特に二つの企みがあった。一つは、誇り高い気性と“思い込みの王権”にとって、格別に屈辱的な仕打ちを少年に与えること。もしそれが叶わなければ、もう一つの企み――何かしらの罪を王になすりつけ、冷酷な法の手に売り渡すこと。

第一の企みとして、ヒューゴーは王の脚に「クライム」を作ろうとした。それが王を極限まで辱めると見抜いていたからだ。クライムが効きはじめたら、キャンティの助けも借りて、王に脚を街道でさらさせ、施しを乞わせる――力づくで、である。
「クライム」とは、痛みを誘う作り物の傷を指す隠語だった。[訳注:「clime」は当時の盗賊仲間の隠語で、人工的に作った潰瘍状の傷のこと]
クライムを作るには、消石灰(未消化石灰)、石鹸、古鉄の錆を練って糊状(湿布)にし、それを革片に塗って脚に当て、きつく縛る。するとじきに皮膚が擦り剥け、肉が生々しく赤く怒ったような見てくれになる。そこへ血を塗り込み、乾かして黒ずんだ嫌悪感のある色合いにする。最後に汚れたぼろ布の包帯を、いかにも無造作を装って巧みに巻き、醜い潰瘍が見えるようにして通行人の哀れみを誘うのだ。

ヒューゴーは、半田ごてで王にねじ伏せられたあの鋳掛屋を味方につけた。二人は王を鋳掛けの放浪仕事に連れ出し、野営地が見えなくなるや、王を地面へ投げ倒した。鋳掛屋が押さえつけるあいだに、ヒューゴーが湿布を脚へきつく固く縛りつけた。 王は激怒して怒鳴り散らし、再び王笏を手にしたその瞬間に二人を絞首刑にしてやると誓った。だが二人はしっかり押さえつけ、無力なもがきを面白がり、脅しをあざ笑った。それが続いたのは、湿布が噛みつくように効きはじめるまでだった。邪魔が入らなければ、ほどなく仕事は完了していたはずである。だが邪魔は入った――ちょうどその頃、かつてイングランドの法を糾弾する演説をした“奴隷”が現れ、この企てを止め、湿布と包帯を剥ぎ取ったのだ。

王は救い主の棍棒を借りて、その場で二匹の悪党を叩きのめしてやりたかったが、男は「駄目だ、揉め事になる。夜まで待て。全員が揃っていれば、外の世界は口出しできまい」と言った。そして一行を野営地へ連れ戻し、出来事をラフラーに報告した。ラフラーは聞き、考え、やがて「王に乞食はもうさせぬ」と決めた。どう見ても王は、もっと上等な役にふさわしい――だからその場で、王を物乞いの階級から昇進させ、「盗み」を任命したのである。

ヒューゴーは大喜びした。王に盗みをやらせようとして失敗したことはすでにあったが、今度は話が違う。司令部――すなわち頭目からの明確な命令を、王が逆らうなど夢にも思わないはず、と読んだのだ。

そこでヒューゴーは、その日の午後すぐに襲撃を計画した。狙いは、仕事の最中に王を法の手へ落とし込むこと。しかも巧妙な策略で、事故のように、故意ではないように見せかけることだった。「闘鶏王」はいまや人気者である。そんな者を、共通の敵――法――へ売り渡すような重大な裏切りをした不人気者に対して、一味が優しくはしてくれないかもしれない。

よろしい。時が来ると、ヒューゴーは獲物を連れて近くの村へぶらりと出かけた。二人は通りから通りへ、ゆっくりと行ったり来たりした。一人は悪だくみの確実な機会を鋭く探し、もう一人は同じほど鋭く、卑しい監禁から永遠に自由になるための脱走の好機を探していた。

二人とも、そこそこ見込みのありそうな機会をいくつか捨てた。互いに胸の内では、「今回は絶対に仕留める」と決めていたからだ。熱に浮かされた欲望に惑わされ、不確実な賭けに飛びつく気は、どちらにもなかった。

先に訪れたのは、ヒューゴーの好機だった。ついに、籠に何かずっしりした包みを入れた女が近づいてきたのである。ヒューゴーは罪深い歓喜に目を輝かせ、心の中で言った――「俺の命の息吹よ、これをあいつに押しつけられさえすりゃ、『ごきげんよう、闘鶏王。神の御加護を』ってもんだ!」

女が通り過ぎ、時が熟すまで、ヒューゴーは外面は平静を装いながら、内心は興奮で身を焦がして待った。やがて小声で言う。 「ここで待て。すぐ戻る。」

そして獲物の後を、忍ぶように追った。

王の心は喜びで満ちた。ヒューゴーが十分遠くへ行きさえすれば、今こそ逃げられる。

だが幸運は来ない。ヒューゴーは女の背後へ忍び寄り、包みをひったくると、腕に掛けていた古い毛布で包みながら走って戻ってきた。女は盗みそのものを見ていなかったが、手荷物が軽くなった瞬間に気づき、即座に「泥棒!」と叫んだ。ヒューゴーは立ち止まらず、包みを王の手へ押しつけて言った。

「いいか、俺の後を追って、他の連中と一緒に『泥棒を捕まえろ!』と叫べ。だが連中を違うほうへ誘導しろよ!」

次の瞬間、ヒューゴーは角を曲がり、曲がりくねった路地へ飛び込んだ。さらに一、二瞬後には、何食わぬ顔でふたたび姿を見せ、無関心そうにぶらつきながら柱の陰へ位置取りし、成り行きを見守った。

侮辱された王は包みを地面へ叩きつけた。女が群衆を引き連れて到着したまさにそのとき、毛布が外れ、中身が露わになった。女は片手で王の手首を掴み、もう片手で包みを拾い上げると、王が逃れようともがくのをよそに、少年へ罵詈雑言を浴びせはじめた。

ヒューゴーは十分見た――敵は捕らえられ、あとは法がさらっていく。そう確信すると、ヒューゴーはくすくす笑いながら抜け出し、得意満面で野営地へ帰っていった。歩きながら、ラフラー一味に報告するための、都合の良い筋書きまで頭の中で整えていた。

王は女の強い握力の中でなおももがき、ときおり苛立ちの声を上げた。

「放せ、この愚か者め。卑しい品を奪ったのは余ではない。」

群衆は王を取り囲み、脅し、罵った。肘まで袖をまくり、革の前掛けをした屈強な鍛冶屋が「教育してやる」と手を伸ばした――だがその瞬間、長剣が空中で閃き、刃の平が説得力たっぷりに男の腕へ落ちた。奇妙に芝居がかったその剣の持ち主は、にこやかに言う。

「まあまあ、皆の衆、乱暴はよそう。悪意と罵り言葉は慈悲に反する。これは法が裁くべきことで、私人が勝手に扱う筋ではない。おっ母さん、その子から手を放せ。」 鍛冶屋は屈強な兵士を一瞥し、腕をさすりながらぶつぶつ言って引き下がった。女は不承不承、少年の手首を放した。群衆はよそ者を憎々しげに睨んだが、利口にも口はつぐんだ。

王は頬を紅潮させ、目を輝かせて救い主の側へ跳び寄り、叫んだ。

「遅参が甚だしいぞ。だが今はちょうどよい、サー・マイルズ。あの下郎どもを切り刻んで雑巾にしてくれ!」


第二十三章 囚われの王子

ヘンドンは笑いそうになるのをこらえ、身をかがめて王の耳へ囁いた。

「お静かに、我が王子。舌は慎め――いや、舌など動かすな。私を信じよ。終わりよければすべてよしだ。」

それからヘンドンは独りごちた。
「“サー”マイルズだと! しまった、俺は騎士だったのをすっかり忘れていた! まったく、記憶というやつは、あいつの奇妙で狂った幻想をどれほどがっちり掴んでいることか……。俺の称号など空虚で愚かだ。それでも、 заслужけて得たものだと思えば、少しは意味がある。あいつの“夢と影の王国”で亡霊騎士と見なされるほうが、この現実の王国のいくつかで伯爵扱いされるより、よほど名誉かもしれん。」

群衆が割れ、警吏が入ってきた。警吏は近づき、王の肩へ手を置こうとしたが、ヘンドンが言った。

「穏やかに、友よ。手は出すな――この子はおとなしく行く。私が責任を持つ。さあ先に行け、我々はついていく。」 警吏が先導し、女は包みを抱えて続いた。マイルズと王がその後を行き、群衆がぞろぞろとついていった。王は反抗したくてたまらなかったが、ヘンドンが低い声で言った。

「陛下、よくお考えを。陛下の法は、陛下の王権そのものが吐く健やかな息だ。その源が法に抗って、枝葉に敬えと言えるだろうか。どうやら法が破られたらしい。王が玉座へ戻ったとき、かつて一私人に見えた時分に、王は市民として忠実に王を胸に沈め、法の権威へ服した――その記憶は、陛下にとって悲しみになろうか?」

「そなたの言うとおりだ。もうよい。イングランド王が法の下で臣下に受けよと命じることは、王自身も臣下の位にあるあいだは受ける、と示してみせよう。」

女が治安判事の前で証言を求められると、女は「被告席の小さな囚人が盗んだ」と宣誓して言い張った。それに反証できる者はいない。こうして王は有罪とされた。

包みが解かれ、中身が「丸々と太った、下ごしらえ済みの子豚」だと分かると、判事は困った顔になり、ヘンドンは青ざめ、電撃のような戦慄が全身を走った。だが王は、無知に守られて微動だにしなかった。

不吉な沈黙のあいだ、判事は熟考し、女へ向き直って尋ねた。

「この品は、いくらほどの価値と見る?」

女はお辞儀して答えた。

「三シリングと八ペンスでございます、閣下。一ペニーも負けられませぬ、正直に申してその値で。」

治安判事は群衆へ不安げに視線を巡らせ、それから警吏へうなずいて言った。

「法廷を空にし、扉を閉めよ。」

命令は実行された。残ったのは役人二人、被告、告発人、そしてマイルズ・ヘンドンだけである。ヘンドンは硬直し、血の気が失せていた。額には冷たい汗の大粒が浮かび、弾け、繋がり、頬を伝って流れ落ちた。

判事はふたたび女へ向き、哀れみのこもった声で言った。

「無学な哀れな子だ。腹を空かせて追い詰められていたのかもしれぬ――不幸な者にはつらい時代だからな。顔つきも悪くはない。しかし飢えに駆られれば――おっ母さん、知っておるか。十三ペンス半(13ペンスと半ペニー)を超える価値のものを盗めば、法は絞首刑と定めておる。」

小さな王は目を見開いて愕然としたが、自制して黙っていた。だが女は違った。女は震えながら跳ね起き、叫んだ。 「ああ、まあ、私が何をしてしまったんだ! 神さま、どうか! この子を吊るだなんて、世界じゅうをもらっても嫌だよ! 閣下、お願いです、助けてください――どうすればいい、どうすればできるんです!」

判事は判事らしい沈着を崩さず、ただ言った。

「記録に書き込む前なら、評価は改めても差し支えなかろう。」

「なら神の名にかけて、八ペンスだと言ってください。こんな恐ろしい罪悪感から解き放たれた今日という日に、天の祝福がありますように!」

ヘンドンは喜びのあまり礼儀を忘れ、王を驚かせ、その尊厳を傷つけるほどに、両腕で抱きしめてしまった。女は礼を述べ、子豚を持って出ていった。警吏が扉を開けると、警吏は女の後を追って狭い廊下へ出た。

判事は記録帳に書きつけ始めた。常に目端の利くヘンドンは、なぜ警吏が女について出たのか知りたくなり、薄暗い廊下へそっと出て聞き耳を立てた。会話はこうだった。

「太った豚だ、さぞ旨い。俺が買う。八ペンスをやる。」

「八ペンス? 冗談じゃないよ。三シリング八ペンスで買ったんだ、前の王の治世の正真正銘の硬貨でね。死んだばかりのあの古狸ヘンリーは、手もつけちゃいない。八ペンスなんてくれてやるもんか!」

「そう来るか? おまえは宣誓して、価値は八ペンスだと偽証したな。さあ、その罪で閣下の前へ戻れ! ――そうすりゃ、その小僧は吊られる。」

「まあまあ、ねえ、お願い、言わないで。もういいよ。八ペンスでいい。黙っておくれよ。」

女は泣きながら立ち去った。警吏は戦利品をどこかへ隠してから、法廷へ戻った。判事はさらにしばらく書き、王へ賢明で親切な説教を施し、短期の拘禁刑――一般の牢に入れ、その後に公開鞭打ち――を言い渡した。

仰天した王は口を開いた。おそらく、その場で善良な判事の首を刎ねよと命じるつもりだったのだろう。だがヘンドンの警告の合図を見て、口から何かが飛び出す前にどうにか口を閉じた。

ヘンドンは王の手を取り、判事へ敬礼し、二人は警吏の後に続いて牢へ向かった。通りへ出た瞬間、燃え上がる君主は足を止め、手を振りほどいて叫んだ。

「愚か者め、余が庶民の牢へ生きて入ると思うか?」

ヘンドンは身をかがめ、やや鋭く言った。

私を信じるか? 黙れ。危険な口をきいて事を悪くするな。神が望むことは起きる。急がせることも、変えることもできぬ。ならば待て、耐えろ。起きるべきことが起きてから、罵るも喜ぶも遅くはない。」


第二十四章 脱出

短い冬の日が終わりに近づいていた。通りは閑散としている。たまにいる人影も、用事を一刻も早く済ませ、強まる風と迫る夕闇から逃れるように家へ潜り込みたい――そんな目的のまなざしで足早に通り過ぎるばかりだった。右も左も見ず、こちらの一行に注意も払わず、見えてすらいないようだった。

エドワード六世は、「牢へ向かう王」という見世物が、これほど見事に無関心で迎えられた例が、かつてあっただろうかと不思議に思った。

やがて警吏は人気のない市場広場へ着き、横切り始めた。広場の中央まで来たとき、ヘンドンが警吏の腕へ手を置き、低い声で言った。

「少し待て、友よ。聞いている者はおらぬ。ひと言、言いたい。」

「職務が許さん、旦那。夜になる、邪魔するな。」

「それでも待て。おまえ自身に深く関わることだ。少し背を向け、見ぬふりをせよ――この可哀そうな子を逃がしてやれ。」

「この俺に向かって! 貴様を逮捕――」

「早まるな。注意せよ、愚かな過ちを犯すな」――そこで声を落とし、耳元へ囁いた――「八ペンスで買ったその豚が、おまえの首を飛ばす値になるかもしれんぞ。」

不意を突かれた警吏はしばらく言葉を失い、やがて威勢よく怒鳴り散らし脅した。だがヘンドンは泰然として、相手の息が切れるまで辛抱強く待ち、言った。

「私はおまえが気に入った、友よ。望んでおまえに災いが降りかかるのは見たくない。聞け。私は全部聞いた――一言残らず。証拠も立てられる。」

そう言うと、ヘンドンは廊下での会話を一語一句違えずに繰り返し、最後にこう結んだ。

「――どうだ、正しく再現できているか? 必要があれば、判事の前でも正しく述べられると思わぬか?」

男は恐怖と苦悶でしばし呆然としたが、やがて持ち直し、無理に軽く言った。

「冗談を大ごとにしすぎだ。女をからかって楽しんだだけだ。」

「楽しみで女の豚を預かったのか?」

男はきつく答えた。

「それ以外に何がある。冗談だと言ったろう。」

「少しは信じてやりたくなった」とヘンドンは言った。その声音には、嘲りと半信半疑が入り混じり、相手を惑わせる。「だが少し待て。私は閣下に走って伺ってくる――なにしろ閣下は法にも冗談にも――」 ヘンドンはなお喋りつつ動き出した。警吏はためらい、そわそわし、悪態を二つ三つ吐いたあと、叫んだ。

「待て、待て旦那――頼む、待ってくれ――判事だと! あの人はな、死体ほどにも冗談に同情しない! よし、もっと話そう。ちくしょう! 俺はまずいことになった――無邪気で軽率な冗談のせいで。俺には家族がいる。女房と小さな子どもが――頼む、理屈で考えてくれ、旦那。俺に何を望む?」

「百千と数えるあいだ――ゆっくり数えるのだ――その間だけ、おまえは盲目で、口が利けず、麻痺していればいい」とヘンドンは言った。まるで、当然の、ほんの些細な頼み事でもするような顔つきで。

「それでは俺は破滅だ!」と警吏は絶望して言った。
「頼む、旦那。いろんな面から見てくれ、どれほど些細な冗談か――冗談であることがどれほど明白か。たとえ冗談でなかったとしても、こんな小さな過ちで、一番厳しい罰でも判事が叱って注意するくらいのものだ。」

ヘンドンは、空気が冷え切るほど厳粛な声音で答えた。

「おまえの“冗談”には、法の名がある――知っておるか?」

「知らなかった! 俺は軽率だったのかもしれない。名があるなんて夢にも思わなかった――ああ、天よ、独創的だと思ったのに!」

「名はある。法ではこの罪を、Non compos mentis lex talionis sic transit gloria mundi と呼ぶ。」

「神よ!」

「そして刑罰は死だ!」

「神よ、この罪深い私を憐れんでくれ!」

「過ちを犯して窮地にあり、おまえの慈悲にすがる者につけ込み、十三ペンス半を超える価値の品を、はした金で奪い取った。法の目には、これは建設的な barratry(背任的な不正)であり、misprision of treason(反逆罪の不申告)であり、malfeasance in office(職務上の不正)であり、ad hominem expurgatis in statu quo――」[訳注:ここで並べられるラテン語もどきや法用語は、意味の整わない“もっともらしいデタラメ”として、相手を脅すために使われている]「――そして刑罰は、身代金も減刑も聖職者特権もなく、縄で吊る死だ。」

「支えてくれ、支えてくれ、旦那! 脚が崩れる! 慈悲を――その運命だけは許してくれ、背を向けて何も見なかったことにする!」 「よし。やっと賢く、道理が分かったな。豚も返すか?」

「返す、返すとも――二度と豚には触れない、たとえ天が送って大天使が運んできてもだ。行け――おまえのために俺は盲になる。何も見えぬ。『貴様が押し入って囚人を力ずくで奪った』とでも言っておく。扉は古くてガタガタだ――真夜中から朝のあいだに、俺が自分で叩き壊しておく。」

「そうしろ、善良な友よ。害はない。判事はあの可哀そうな子に情け深い。逃げたからといって泣いたり看守の骨を折ったりはせぬ。」


第二十五章 ヘンドン・ホール

ヘンドンと王が警吏の視界から消えると、陛下は「町外れのある場所まで急いで行き、そこで待て」と指示された。ヘンドンは宿へ行って勘定を済ませるという。三十分後、二人の友はヘンドンの情けない乗り物にまたがり、陽気に東へと進んでいた。

王は今や暖かく心地よかった。ロンドン橋でヘンドンが買ったお下がりの服に着替え、ぼろを捨てていたからである。 ヘンドンは少年を過度に疲れさせぬよう気を配った。過酷な旅、不規則な食事、乏しい睡眠は、少年の乱れた心に悪いと判断した。一方で、休息と規則正しさ、適度な運動があれば、回復はきっと早まるはずだとも思った。苦しむ小さな頭から病んだ幻を追い払い、傷ついた知性を元に戻してやりたかった。だから、せっかちな衝動のまま昼夜を問わず急ぐのではなく、長く追放されていた故郷へ向け、ゆっくりと段階を踏んで進むことにした。

二人が旅を約十マイル(約16.1キロメートル)ほど進んだところで、そこそこ大きな村に着き、良い宿に泊まった。以前の関係が復活する。ヘンドンは王の椅子の背に控えて給仕し、寝る支度ができると衣服を脱がせ、自分は床を寝場所として毛布にくるまり、扉を横切るように寝て守った。

翌日も、その翌日も、二人はのんびり馬を進め、別れてからの冒険を語り合っては、互いの話を大いに楽しんだ。ヘンドンは王を探してどれほどさまよったかを語り、大天使が森じゅうを引き回して愚かな徒労をさせ、最後には追い払えぬと悟って小屋へ連れ戻したことを話した。そして――ヘンドンの話では――老人は寝間へ入り、打ちひしがれた顔でよろめき戻り、「少年が戻って休んでいるはずだと思ったが、そうではなかった」と言ったという。ヘンドンは小屋で一日じゅう待った。だが王が戻る望みはそこで尽き、再び探しに出た。

「おお、あの古い Sanctum Sanctorum(サンクタム・サンクトールム)[訳注:ラテン語で「至聖所」。ここではヘンドンが隠者を皮肉って呼ぶあだ名]は、殿下が戻らなかったことを本当に残念がっていた」とヘンドンは言った。「顔に出ていた。」

「それは疑わぬ!」と王は言い、自分の身の上を語った。話を聞いたヘンドンは、大天使を始末しておけばよかったと悔やんだ。

旅の最後の日、ヘンドンは上機嫌が頂点に達していた。舌が休まらない。老いた父と兄のアーサーのことを語り、二人の気高く寛大な性格を示す出来事をいくつも話した。愛するイーディスのことで恍惚となり、嬉しさのあまり、ヒューについてさえ穏やかな兄弟らしい言葉を口にできた。ヘンドン・ホールでの再会についても、しきりに思い巡らした。皆にとってどれほど驚きか、どれほど感謝と歓喜が爆発するか。

土地は美しく、小屋と果樹園が点在し、道は広い牧草地を抜けた。緩やかな隆起と窪みが連なる遠景は、海のうねりが盛り上がっては沈むように見えた。午後になると、ヘンドンは道をしょっちゅう外れ、小さな丘へ登っては故郷が見えぬかと遠目を凝らした。ついにそれが叶い、興奮して叫んだ。 「あれが村だ、我が王子、そしてすぐそばがホールだ! ここから塔が見えるだろう。あの森――あれは父上の園地だ。ああ、これが身分と壮麗というものだ! 七十の部屋がある屋敷――考えてみろ! 召使い

たちまちサー・ヒューは壁へ押しつけられ、鉄のような握力で喉を締め上げられた。
「おお、この臆病狐めの奴隷め、すべて見えたぞ! 偽りの手紙を書いたのは貴様自身だ。奪われた花嫁も財産も、その果実というわけだな。……ほら、今すぐ失せろ。こんな哀れな小人を斬り捨てて、立派な軍人としての名誉を汚したくはない!」

顔を真っ赤にし、窒息しかけたヒューはよろめきながらいちばん近い椅子にたどり着くと、召使いたちに命じて、この人殺しの見知らぬ男を取り押さえ縛れ、と怒鳴った。だが召使いたちはためらい、そのうちの一人が言った――

「サー・ヒュー、あの者は武装しております。わたしどもは丸腰です。」

「武装? それが何だ、貴様らこれだけ人数がいながら? かかれと言っている!」

しかしマイルズは、手を出すならよく考えろ、と彼らに釘を刺し、さらに言い添えた――

「昔から俺を知ってるだろう――俺は変わっちゃいない。来いよ、来たけりゃな。」

この言葉は召使いたちの腰をさらに引かせただけだった。相変わらず後ずさりしている。

「ならば行け、この腰抜けどもめ。武器を取ってきて戸口を固めろ。その間に見張りを呼びにやる!」とヒューは言った。敷居のところで振り返り、マイルズに言う。
「無駄な逃走など企てて、得になると思うなよ。」

「逃走? 心配するな。貴様が気にしているのはそれだけだ。だがマイルズ・ヘンドンはヘンドン・ホールと、そのすべての持ち物の主人だ。ここに残る――疑うな。」


第二十六章 勘当

国王はしばらく物思いに沈み、それから顔を上げて言った――

「妙だ――実に妙だ。どうにも腑に落ちぬ。」

「いいえ、妙ではございません、陛下。あの男のことなら存じております。あの振る舞いはごく自然。生まれつきのならず者ですから。」

「いや、余が言っているのは、あれのことではない、マイルズ卿。」

「彼のことではない? では何が? 何が妙なのです。」

「国王がいなくなったことが、騒ぎになっておらぬ。」

「……どういうことで? どちらの? 恐れながら、意味を取りかねます。」

「本当に分からぬか? 国中に使者が走り回り、布告が打たれ、余の姿形が触れ回られ、余を捜す騒ぎで満ちていない――それが、ひどく妙だと思わぬか? 国家の元首が消えたのだぞ。余は姿をくらまし、行方知れずになったというのに。」

「まことに。陛下、失念しておりました。」

それからヘンドンはため息をつき、独り言のように呟いた。
「哀れな壊れた心よ……まだみじめな夢に取りつかれている。」

「だが、我ら二人とも正す策がある。余が三つの言葉で文を書こう――ラテン語、ギリシア語、英語でだ。明朝それを持ってロンドンへ急げ。渡す相手は余の叔父、ハートフォード卿ただ一人。あれが見れば、余の筆だと分かる。そうすれば叔父が余を迎えに寄こす。」

「殿下、まずはここに留まり、わたしの身の証を立て、領地の権利を確かなものにしてからでは――そうすればその後は、より力をもって――」 国王は尊大にさえぎった――

「黙れ! お前のちっぽけな領地や、くだらぬ利害など、国の安寧と王座の正統に比べれば塵も同然だ。」

そして、厳しすぎたのを悔いるように声音を柔らげた。
「従え。恐れるな。余がお前を正してやる。元どおりにしてやる――いや、それ以上にしてやる。余は忘れぬ。必ず報いる。」

そう言うと、国王はペンを取り、書き始めた。ヘンドンはしばらく愛おしげにその姿を眺め、それから胸中で呟いた――

「暗がりなら、本当に王が喋っていると思うだろう。気分が乗ると雷鳴みたいに轟いて、稲妻みたいに閃く――まぎれもなく“本物の王様”だ。あの癖はどこで覚えた? 見ろ、意味もない鉤形の落書きを、ラテン語だギリシア語だと思い込んで満足げに書き散らしてる……。こっちの機転でうまい手を考えて、あいつをこの目的から逸らせない限り、明日はこの狂った使い走りを“行ったふり”する羽目になる。」

次の瞬間、サー・マイルズの思考は、さきほどの一件へ戻っていた。あまりに考え込んでいたので、国王が書き上げた紙を差し出したときも、受け取って懐へ入れたことにさえ気づかなかった。
「彼女のあの振る舞い……実に奇妙だ」ヘンドンは呟く。
「彼女は私を知っていた――それでも、知らなかった。相反する考えだが、そうとしか思えぬ。どちらも論で打ち消せないし、片方に重みをつけることもできない。要するにこうだ。彼女が私の顔も背丈も声も知らぬはずがない。だが彼女は“知らぬ”と言った――そしてそれは完全な証拠だ。彼女は嘘をつけぬ女だから。……待て、見えてきた。おそらくあいつが彼女に影響し、命じ、嘘を強いたのだ。それだ。謎は解けた。彼女は恐怖で死人のようだった――そうだ、強制されていたのだ。探そう。見つけよう。今はあいつがいない、彼女は本心を言う。幼いころ、私たちが遊び仲間だった日々を思い出せば、心も和らぐはずだ。もう私を裏切りはしない。名乗りを認め、告白してくれる。彼女に裏切りの血などない――いつだって正直で真っ直ぐだった。かつて彼女は私を愛した――それが私の拠り所だ。いったん愛した相手を、人は裏切れぬ。」

ヘンドンは意気込んで扉へ歩み寄った。ちょうどそのとき扉が開き、レディ・イーディスが入ってきた。ひどく青白い。しかし歩みはしっかりし、立ち居振る舞いには優美で柔らかな威厳があった。顔の悲しみは前と変わらない。

マイルズは幸福な確信に満ちて飛び出して迎えようとしたが、彼女はほとんど見えないほどの仕草でそれを制し、マイルズはその場で止まった。彼女は腰を下ろし、彼にも座るよう促した。これほど簡単に、彼女は「古い仲間意識」を彼から奪い、マイルズを「見知らぬ客」へ変えてしまった。その意外さ、その面食らうほどの唐突さに、マイルズは一瞬、自分が本当に“自称している人物”なのか疑いそうになった。レディ・イーディスは言った――

「サー、警告に参りました。狂人を妄想から説き伏せるのは難しいかもしれません。しかし危険を避けさせることはできるでしょう。あなたのその夢は、あなたには誠実な真実に見えている。その意味で罪ではない――けれど、その夢のままここに留まってはなりません。ここでは危険です。」

彼女はしばらくマイルズの顔を見つめ、念を押すように付け加えた。
「危険はさらに増しています。あなたが――もし生きていたなら成長していたはずの、わたしたちの“失われた若旦那”によく似ているから。」

「奥方、私はその本人です!」

「あなた自身がそう信じている――それは本当だと思います。誠実さを疑っているのではありません。ただ警告したいのです。夫はこの土地の支配者。力に限りがない。民は夫の意のままに潤い、夫の意のままに飢えます。あなたが名乗る人物に似ていなければ、夫も放っておいたでしょう。だが私は夫をよく知っています。夫が何をするか分かる。夫は皆に向かって、あなたは気の触れた詐欺師だと言い立てるでしょう。すると皆、たちまち夫に同調します。」

彼女は再びあのまっすぐな視線を向け、こう続けた。
「仮にあなたがマイルズ・ヘンドンで、夫もこの土地の者もそれを知っていたとしても――よく考えてください――あなたが置かれる危険は同じです。罰も確実です。夫はあなたを否定し、告発し、誰もあなたに味方する勇気は持てません。」

「まったくそのとおりだ」マイルズは苦く言った。
「一生の友に、別の友を裏切り勘当しろと命じ、それが通る力があるなら、パンと命が懸かり、忠義や名誉など蜘蛛の糸ほどにも関係ない場所で、従わせるのは容易いだろう。」 レディの頬にかすかな紅が一瞬さし、視線は床へ落ちた。だが声には感情が滲まないまま、彼女は続ける――

「警告しました――それでも、もう一度言わなければ。ここを去ってください。さもなくば、その男はあなたを滅ぼします。あの男は情けを知らぬ暴君。鎖で繋がれた奴隷の私が、それを知っています。哀れなマイルズも、アーサーも、私の大切な後見人サー・リチャードも、あの男から解き放たれて安らかです。あなたも彼らのもとにいるほうがよい。こんな悪党の鉤爪の中で生き延びるより、ずっと。あなたの主張は、あの男の地位と所有への脅威です。あなたは家の中で夫に手を上げた。ここに留まれば破滅します。行って――ためらわないで。金がなければ、この財布を持ってください。頼みます。召使いに賄賂を渡し、通してもらいなさい。お願いです、哀れな方。逃げられるうちに逃げて。」

マイルズは身振りで財布を退け、立ち上がって彼女の前に立った。

「ひとつだけ願いを聞いてくれ。」
「私の目を見てくれ。揺らいでいないか確かめたい。……よし。答えろ。私はマイルズ・ヘンドンか?」

「いいえ。存じません。」

「誓え!」

返事は低いが、はっきりしていた――

「誓います。」

「そんなことが……信じられるものか!」

「逃げて。なぜ貴重な時間を浪費するのです。逃げて、命を守って。」

その瞬間、役人たちが部屋へなだれ込み、激しい揉み合いになった。だがヘンドンはすぐ制圧され、引きずられていった。国王も連行され、二人は縛られたまま牢へ送られた。


第二十七章 牢獄にて

牢はどこも満杯だった。そこで二人は、軽罪の被疑者を押し込む大部屋に鎖で繋がれることになった。仲間もいた。手枷足枷をつけられた囚人が二十人ほど、男女さまざま、年齢もさまざま――下品で騒々しい一団だ。

国王は、王としてこれほどの屈辱を受けたことに激しく苛立った。だがヘンドンは陰鬱で口数がない。ほとほと途方に暮れていたのだ。意気揚々と帰郷した放蕩息子として、皆が狂喜乱舞して迎えると思っていた。ところが待っていたのは冷たい肩と牢屋だった。期待と現実の落差があまりに大きく、頭を殴られたようだった。悲劇なのか滑稽なのか、判断すらできない。まるで、虹を見に陽気に踊り出たら雷に打たれた男のような気分だった。

だが次第に、混乱し苦しめる思考はある程度の秩序を取り戻し、心はイーディスに集中していった。彼女の振る舞いをあらゆる角度から検討したが、納得のいく結論は出ない。彼女は自分を知っていたのか、知らなかったのか。途方もなく厄介な謎で、長い時間を費やした。だが最終的にヘンドンは、「知っていたのに、利害ゆえに突き放した」という確信に落ち着いた。いまは彼女の名に呪いを浴びせたかった。だが、その名はあまりに長く自分の中で神聖であり続けたため、穢す言葉が舌に乗らなかった。 汚れてぼろぼろの牢の毛布にくるまり、ヘンドンと国王は不安な一夜を過ごした。看守は賄賂で酒を囚人の一部に流し、結果は当然のように下卑た歌、喧嘩、叫び声、どんちゃん騒ぎとなった。ついには深夜過ぎ、男が女に襲いかかり、看守が止めに入るまで、手枷で頭を殴りつけて殺しかけた。看守は男の頭と肩へ容赦ない棍棒を食らわせて鎮めた――すると宴は止んだ。その後は、二人の負傷者のうめき声さえ我慢できる者なら、眠る機会が与えられた。

続く一週間、昼も夜も出来事は単調に同じだった。昼には、ヘンドンが何となく見覚えのある顔が次々現れ、“詐欺師”を眺め、否定し、侮辱する。夜になれば例の騒ぎと乱闘が、律儀なまでに規則正しく繰り返される。だがようやく変化が起きた。看守が老人を連れてきて言った――

「悪党はこの部屋にいる。老いぼれの目で見回して、どれがそいつか言ってみろ。」

ヘンドンは顔を上げ、牢に入って以来初めて愉快な感覚を味わった。胸中で言う。
「ブレイク・アンドルーズだ。父の家で生涯仕えた召使い。善良で正直、胸にまっすぐな心を持った男……昔はな。今では誰もが不実、皆が嘘つき。この男も私を見分けるだろう――そしてやはり、ほかと同じく否定するのだ。」

老人は部屋を見回し、順に顔を眺め、ついに言った――

「ここにいるのはケチな悪党ばかり、路地のゴミだ。どれがそいつだ?」

看守が笑った。

「こいつだ」看守は言い、続けた。「このでかい獣をよく見て、どう思うか言え。」 老人は近づき、ヘンドンを長いこと真剣に見つめ、首を振って言った――

「いやはや、これはヘンドンではない――そもそも一度たりともな!」

「そのとおり! まだ老眼は冴えてるな。俺がサー・ヒューなら、このみすぼらしい浮浪者を――」

看守は続きの言葉を、想像上の縄で首を吊る真似をしながら言い終えた。喉で窒息を示すごろごろという音まで立てる。老人は怨みがましく言った――

「神に感謝して、これ以上ひどい目に遭わぬだけでもありがたいと思え。もしわしがあの悪党を扱えるなら、焼き殺してやる――それができぬなら男じゃない!」

看守は愉快そうにハイエナのような笑い声を上げた。

「言ってやれ、じいさん。みんなやるんだ。いい気晴らしになるぞ。」

そう言うと、控室へぶらついて消えた。すると老人は膝をつき、囁いた――

「神に感謝を。お戻りになった、旦那さま! この七年、死んだものと思っておりましたのに――ほら、こうして生きておられる! 見た瞬間に分かりましたとも。ここにいるのは二銭三銭の悪党と道端のクズだけだ、という顔をして石のように平然とするのは、骨が折れました。わしは年寄りで貧乏ですが、ひと言くだされば、首を絞められようと真実を触れ回ってまいります。」

「いや」ヘンドンは言った。「それはするな。お前が破滅するだけで、私の助けにはほとんどならぬ。だが礼を言う。お前は、人間への信頼を少しばかり取り戻させてくれた。」

この老僕は、ヘンドンと国王にとってたいへん価値ある存在になった。日に何度も“罵りに”顔を出し、そのたびにうまい物を少しずつ密かに持ち込んで、牢の食事の足しにしてくれた。さらに時事の情報も運んできた。ヘンドンはごちそうを国王に回した。国王は看守の用意する粗末でひどい食事を食べられず、これがなければ生き延びられなかったかもしれない。アンドルーズは疑いを避けるため、訪問は短くせざるを得なかったが、そのたびにかなりの情報を低い声でヘンドンへ伝えた。そして同時に、周囲の囚人や看守の耳向けに、大きな声で罵倒語を織り交ぜた。 こうして少しずつ、家族の事情が明らかになった。アーサーは六年前に死んでいた。その喪失と、ヘンドンからの便りが絶えたことが父の健康を損ねた。父は自分の死期が近いと信じ、死ぬ前にヒューとイーディスの暮らしを落ち着かせたがった。だがイーディスはマイルズの帰還を望み、必死に延期を願った。ところが、マイルズの死を知らせる手紙が届く。衝撃でサー・リチャードは倒れ、いよいよ最期が近いと思い、ヒューとともに結婚を押し通した。イーディスは一か月の猶予を乞い得て、さらにもう一か月、そして三か月目まで引き延ばしたが、ついにサー・リチャードの枕元で婚礼が行われた。

その結婚は幸福なものではなかった。婚礼の直後、花嫁が夫の書類の中から、あの致命的な手紙の乱暴で未完成な下書きをいくつも見つけ、結婚を急がせた――さらにはサー・リチャードの死さえも早めた――悪質な偽造だと夫を責めた、という噂が国中に流れた。レディ・イーディスや召使いたちへの残虐な仕打ちの話は至るところで聞かれた。そして父の死後、サー・ヒューは一切の柔らかな仮面を脱ぎ捨て、領地で自分に依存して食べている者すべてに、無慈悲な主人として振る舞うようになった。

アンドルーズの噂話の中に、国王が強い関心を示したものがあった――

「王は気が触れておる、という噂でしてな。だがどうか慈悲で、わしが言うたとは言わんでくだせえ。これを口にしたら死罪だそうで。」

陛下は老人を睨みつけて言った――

「王は狂ってなどいない、よいか。お前も身のために、こんな反逆めいた戯言ではなく、もっと自分に関わることに励め。」

「この坊や、何を言うとるんだ?」アンドルーズは、思いもよらぬ方向からの手厳しさに驚いた。ヘンドンが合図をすると、老人は追及をやめ、噂の続きへ移った――

「先王は、二、三日のうちにウィンザーで葬られるそうで――今月の十六日。そして新しい王は、二十日にウェストミンスターで戴冠式です。」

「まず本人を見つけねばならぬだろう」陛下は呟き、すぐに自信ありげに続けた。「だが探すはずだ――余もまた、そうする。」

「いったい――」

老人はそれ以上言えなかった。ヘンドンの警告の合図が、言葉を飲み込ませたのだ。老人はまた噂に戻る――

「サー・ヒューは戴冠式に参ります――大きな望みを抱いて。摂政卿のお気に入りですから、貴族に叙せられて戻る気でおります。」

「摂政卿とは誰だ?」陛下が尋ねた。

「サマセット公です。」

「サマセット公とは誰だ?」

「そりゃ一人きりです――シーモア、ハートフォード伯。」

陛下は鋭く問うた――

「いつからあれが公爵で、摂政卿なのだ?」

「一月の末日からでして。」

「では誰がそうした?」

「本人と大評議会が――王の助けを借りて。」

陛下は激しく身を震わせた。
だと!」叫ぶ。
何という王だ、そなた!」 「何という王って! (ありがたや、この坊やはどうした?)王は一人だけです、答えは簡単――神聖なる陛下、エドワード六世でございます。神の御加護を! それに、あの方は愛らしく慈悲深い小さな若君でもあります。狂っていようがいまいが――日々よくなっているとも聞きますし――称賛は誰の口にもあります。皆が祝福し、イングランドに長く君臨なさるよう祈っております。なんといっても、最初に古いノーフォーク公の命を救われた。今は民を苦しめる最も残酷な法を、廃することに心を砕いておられる。」

この知らせは陛下を驚愕で黙らせ、あまりに深く暗い沈思へ沈めたため、老人の噂話はそれ以上耳に入らなかった。“愛らしい小さな若君”とは、宮殿で自分の衣装を着せて置き去りにした、あの物乞いの少年のことなのだろうか。だが、そんなはずがあるだろうか。ウェールズ公を装えば、作法や言葉遣いで正体が露見し、追い出され、本物の王子が探されるに違いない。では宮廷が、代わりにどこか貴族の小僧を立てたのか? いや、それもない。叔父が許すはずがない――叔父は全能で、そんな動きは握り潰せるし、必ず潰すはずだ。少年の思案は何の益もなかった。謎を解こうとすればするほど混乱し、頭は痛み、眠りは浅くなる。ロンドンへ行きたい焦りは刻々と募り、囚われの身はほとんど耐え難くなった。

ヘンドンはあらゆる工夫で国王を宥めようとしたが、だめだった。だが近くに鎖で繋がれていた二人の女は、もっと上手くやった。彼女たちの優しい世話によって国王は安らぎを得、ある程度の忍耐を学んだ。深く感謝し、二人を慕うようになり、そのそばにある甘く鎮める影響を喜ぶようになった。国王は彼女たちに、なぜ牢にいるのか尋ねた。彼女たちが「バプテストだ」と答えると、国王は微笑み、尋ねた――

「それは牢に入れられるほどの罪なのか? それなら悲しい。すぐ出してもらえるのだから、余はお前たちを失ってしまう。そんな些細なことで長く繋いではおかぬだろう。」

二人は答えなかった。その顔つきに国王は不安になり、慌てて言った――

「言わぬのか。頼む、教えてくれ――ほかの罰はないのだな? お願いだ、恐れることはないと言ってくれ。」

二人は話題を変えようとした。だが国王の恐れは目覚めてしまい、食い下がった――

「鞭打つのか? まさか、そんな残酷はしない! しないと言ってくれ。頼む、しないのだな?」

女たちは混乱し、胸を痛めているのが見て取れた。だが答えを避けられない。一人が、感情に喉を詰まらせながら言った――

「ああ、お優しい方……そんなことを言われたら胸が張り裂けます。神は、わたしたちが――」

「告白だ!」国王は割って入った。
「では、鞭打つのだな、石の心の悪鬼どもめ! だが……泣くな。余には耐えられぬ。勇気を保て――余は必ず本来の場所へ戻り、その前にお前たちを救う。必ずだ!」

朝、国王が目覚めると、二人の女はいなくなっていた。

「助かったのだ!」国王は喜び、すぐに落胆して続けた。「だが、ああ……余の慰め手がいなくなった。」

二人はそれぞれ、服に小さなリボンの切れ端を留めていった。思い出のしるしである。国王は、これを生涯持ち続けると言った。そしてほどなく、この親切な友を探し出し、保護下に置くのだとも。

ちょうどそのとき看守が部下を連れて入ってきて、囚人たちを獄舎の中庭へ連れ出せ、と命じた。国王は大喜びだった。青空を見て、新鮮な空気を吸う――なんという祝福だろう。役人たちの手際の遅さに苛立ったが、やがて順番が来て、鎖を外され、ヘンドンとともに他の囚人の後に続けと命じられた。

中庭――石畳の四角い空間は天井がなく、空へ開けている。囚人たちは頑丈な石の大アーチをくぐって入り、壁に背をつけて一列に並ばされた。前方には一本のロープが張られ、役人たちが見張る。寒々しく陰鬱な朝だった。夜の間に薄雪が降り、広い空き地を白くし、見た目の惨めさをいっそう増していた。時おり冬の風がひゅうと吹き抜け、雪を渦巻かせてあちこちへ散らした。 中庭の中央に、二人の女が杭に鎖で繋がれて立っていた。ひと目で、国王にはそれが自分の友だと分かった。身震いし、心中で言う。
「なんと……自由になったのではなかったのか。こんな方々が鞭を知るなど――イングランドで! 恥だ。異教の地ではなく、キリスト教国イングランドで! 鞭打ちではないにせよ、何かされるのだ。そして余は、慰めてくれた彼女たちへの不正を、ただ見ているしかない。余はこの広い国の力の源なのに、守れぬとは。だが、この悪党どもは覚えておけ。いつか必ず、この仕業の重い勘定を払わせる日が来る。今の一打に、あのとき百倍で返す。」

大門が開き、市民の群衆が雪崩れ込んできた。群衆は二人の女の周りに集まり、国王の視界から隠してしまった。聖職者が入って群衆を抜けたが、やはり見えない。国王は、問答が交わされるような声を聞いたが、内容は分からなかった。次に慌ただしい準備と動きがあり、女たちの向こう側で役人たちが行き来し、その間に群衆は次第に深い沈黙へ沈んでいった。

やがて命令が下り、人垣が左右に割れた。国王は骨髄が凍る光景を見る。二人の女の周りに柴が積まれ、ひざまずく男が火をつけている! 

女たちは頭を垂れ、手で顔を覆った。黄色い炎が、ぱちぱち爆ぜる柴の間を這い上がり、青い煙が風に流れていく。聖職者は手を上げ祈りを始めた――その瞬間、二人の若い娘が大門から飛び込んできて、甲高い悲鳴を上げながら杭の女たちにすがりついた。即座に役人に引き剥がされ、一人は固く押さえつけられた。だがもう一人は逃れ、「母と一緒に死ぬ」と叫んで止める間もなく再び母の首に腕を回した。彼女はまた引き剥がされた――今度は衣が燃え上がったまま。二、三人の男が押さえ、燃えている部分が引き裂かれ、炎を上げて投げ捨てられる。娘はもがき続け、もう自分はこの世でひとりぼっちになる、だから母と一緒に死なせてくれ、と泣き叫び続けた。二人の娘は絶え間なく叫び、自由を求めて暴れた。だが突然、その騒ぎを押し流すように、胸を引き裂く死の絶叫が連なって響いた――国王は狂乱する娘たちから杭へ目を走らせ、それから顔を背け、灰のように青ざめた頬を壁に押し当て、もう見なかった。国王は言った。
「たった一瞬に見たあれは、決して記憶から消えぬ。死ぬまで昼も見、夜も夢に見るだろう。ああ、神よ……盲目であったなら!」 ヘンドンは国王を見守っていた。満足げに胸中で言う。
「症状がよくなっている。変わった。優しくなっている。いつもの彼なら、あのならず者どもに怒鳴りつけ、自分は王だと言って女たちを無傷で放てと命じたはずだ。まもなく妄想は消え、忘れ去られ、哀れな心は元に戻るだろう。神よ、その日を早めたまえ。」

その同じ日、夜越しで牢に入れられる囚人が何人か連れてこられた。国内各地へ護送され、罪の罰を受ける者たちである。国王は彼らと話した――国王は最初から、囚人に質問する機会があるたび、王としての務めの学びにしようとしていたのだ――そして彼らの不幸は国王の心を絞り上げた。

その中に、機転の利かぬ貧しい女がいた。機屋から布を一、二ヤード(約0.9~1.8メートル)盗んだだけで、絞首刑になるという。
別の男は馬泥棒の容疑をかけられたが、証拠不十分で、もう縄から逃れたと思った。ところが違った。解放されるや否や、王の猟苑で鹿を殺した罪で訴追された。こちらは立証され、男は今、絞首台へ向かう途中だった。
さらに国王をとりわけ苦しめたのは、商人の徒弟の話だった。ある夕方、主人から逃げた鷹を拾い、自分のものになると思って家へ連れ帰った。だが裁判所はそれを盗みと認定し、死刑を言い渡した。 国王はこれらの非道に激怒し、牢を破ってヘンドンとともにウェストミンスターへ飛べ、と迫った。王座に戻り、不幸な人々の上に慈悲の笏を差し伸べて命を救うのだ、と。
「かわいそうに」ヘンドンはため息をついた。「この悲惨な話を聞いて、また病がぶり返した。ああ、こんな不運がなければ、ほどなく治っていたものを。」

囚人の中に老いた法律家がいた。強い顔つき、怯まぬ態度の男である。三年前、この男は大法官を不正だと糾弾する小冊子を書き、その罰として晒し台で耳を削がれ、法廷弁護士の身分を剥奪された。さらに三千ポンドの罰金と終身刑。最近また同じ罪を繰り返したため、今度は「残っている耳の残り」を切り取られ、五千ポンドの罰金、両頬への烙印、そして終身刑という判決だった。

「これは名誉の傷だ」男はそう言い、灰色の髪をかき上げ、かつて耳だったものの切り株を見せた。

国王の目は怒りに燃えた。言う――

「誰も余を信じぬ――お前も信じぬだろう。だが構わぬ。一か月のうちにお前は自由になる。いや、それだけではない。お前を辱め、イングランドの名を汚した法律は、法典から一掃される。この世は誤って作られている。王は時に、自分の法律から学ばねばならぬ――そうして慈悲を学ぶのだ。」


第二十八章 犠牲

その一方で、マイルズは幽閉と無為にすっかり疲れ始めていた。だが今、裁判が始まり――それは大いに嬉しかった。さらなる収監さえ含まれなければ、どんな刑でも歓迎できると思ったのだ。だがそれは誤りだった。

「屈強な浮浪者」として扱われ、ヘンドン・ホールの主人に手を上げたことも加味され、さらし台に二時間座れ――そう言い渡されたと知ったとき、ヘンドンは激怒した。訴追者と兄弟であり、ヘンドン家の称号と領地の正当な相続人だという主張は、調べる価値すらないとばかりに、嘲笑のうちに無視された。

処罰へ連行される道中、ヘンドンは怒鳴り散らし脅したが無駄だった。役人は乱暴に引きずり、無礼な態度への“おまけ”として、時折どつきも食らわせた。

国王は後ろに群がる野次馬をかき分けられず、友であり召使いであるヘンドンから遠く離れた最後尾を行くほかなかった。国王自身も「そんな悪い仲間と一緒にいた」罪で、ほとんどさらし台に送られかけたが、若さを酌量され、説教と警告で済まされた。やがて群衆が止まると、国王は外縁を焦りながら走り回り、突破口を探した。長い苦労と遅れの末、ついに中へ入り込めた。

そこには、さらし台に座らされた哀れな従者がいた。汚い群衆に嘲られ、玩具にされ、的にされている――イングランド王の身辺付きが、である! エドワードは判決を聞いていたが、その意味の半分も理解していなかった。新たな屈辱の実感が胸に落ちたとき、怒りが湧き上がった。だが次の瞬間、卵が宙を飛んでヘンドンの頬で砕け、群衆が大笑いするのを見たとたん、その怒りは真夏の熱へ跳ね上がった。国王は輪の中を駆け抜け、担当役人の前に立ちはだかって叫んだ―― 「恥を知れ! これは余の従者だ、放せ! 余は――」

「黙れ!」ヘンドンは青ざめて叫んだ。「自分を滅ぼす気か。役人殿、この子は気が触れている。相手にするな。」

「相手にする気などさらさらない。だが、しつけてやる気は十分ある。」

役人は部下に言った。「この小さな愚か者に、鞭を一、二発くれて、作法を直してやれ。」

「六発がよろしいでしょう」サー・ヒューが提案した。たった今、馬で乗りつけて、成り行きを一瞥したところだった。

国王は取り押さえられた。もがきもしない。神聖な身体に加えられようとしている途方もない暴挙を思っただけで、麻痺していたのだ。歴史はすでに、鞭で打たれたイングランド王の記録によって汚されている――自分がその恥辱の頁をもう一枚増やさねばならないなど、耐え難い。逃れられない。罰を受けるか、赦免を乞うか。苛酷な二択だ。鞭は受けよう――王はそれくらい耐えられる。だが王は乞えない。

しかしその間に、マイルズ・ヘンドンが難題を解いてみせた。
「その子を放せ」ヘンドンは言った。「情け知らずの犬どもめ、見れば分かるだろう、なんと幼く弱いか。放せ――鞭は私が受ける。」

「いやはや、良い考えだ――礼を言おう」サー・ヒューは皮肉な満足に顔を輝かせた。
「小乞食は放してやれ。代わりにこいつへ十二発だ。きっちり十二発、たっぷりとな。」

国王が激しい抗議を叫ぼうとしたそのとき、サー・ヒューは強烈な一言で黙らせた。
「さあ、好きなだけ喋れ。胸が晴れるだろう――だが覚えておけ。ひと言しゃべるたび、こいつに六発ずつ上乗せだ。」 ヘンドンはさらし台から外され、背中の衣を剥がれた。鞭が振るわれている間、幼い国王は顔を背け、王らしからぬ涙を頬に流し放題にした。
「勇敢で善い心よ……」国王は胸中で言った。「この忠義の行いは決して忘れぬ。余は忘れぬ――そして彼らも忘れぬ!」最後は激情を帯びた。
考えを巡らせるほど、ヘンドンの寛大さは国王の心の中で膨らみ、感謝もまた際限なく増していった。やがて国王は思う。
「王子を傷や死の危険から救う者――彼は余のためにそうした――それは大功だ。だが、それは小さい、無に等しい。いや、無よりも小さい。王子をから救う行いに比べれば!」

ヘンドンは鞭の下で叫び声を上げなかった。兵士らしい不屈で重い打撃に耐えた。そのうえ、少年の代わりに鞭を受けたことで、そこに集まった落ちぶれた群衆でさえ敬意を抱かざるを得なかった。罵声や嘲笑は消え、残ったのは鞭の音だけ。ほどなくヘンドンが再びさらし台に入れられたとき、その場を覆った静けさは、少し前の侮辱の喧騒と鮮烈な対照をなしていた。国王はそっとヘンドンのそばへ寄り、耳元に囁いた――

「王がそなたを貴くすることはできぬ。王より高き御方が、すでにそうなさった。だが王は、その貴さを人に確かめさせることができる。」

国王は地面から鞭を拾い、血に濡れたヘンドンの肩に軽く触れ、囁いた。
「イングランドのエドワードが、そなたを伯爵に叙する!」

ヘンドンは胸を打たれた。涙が目に湧いた。だが同時に、この状況の凄まじい滑稽さが真面目さを崩し、内なる笑いが外へ漏れないよう抑えるのに苦労した。裸で血だらけのまま、さらし台からいきなり伯爵位のアルプス級の高みと輝きへ吊り上げられる――そんなことがあり得るだろうか。ヘンドンは胸中で言った。
「まったく、これ以上ない飾りだ! 夢と影の王国の幽霊騎士が、今度は幽霊伯爵とは――若い羽には目眩の飛躍だ。これが続いたら、そのうちメイポールみたいに、奇妙な飾りと作り物の栄誉をわんさか吊るされるぞ。だが、そのどれもが無価値であろうと、授けてくれる愛ゆえに私は大切にする。求めもしないのに清らかな手と正しい心から与えられるこの貧しい偽の栄誉のほうが、渋々の権力から卑屈に買う本物より、よほど価値がある。」 恐るべきサー・ヒューは馬の向きを変え、拍車を当てて去っていった。生きた壁のように立つ群衆は黙って割れ、黙って閉じた。誰一人、囚人を擁護する言葉も、称賛する言葉も口にしなかった。だがそれでよい――罵声がないこと自体が、十分な敬意だった。

事情を知らず遅れてきた者が、“詐欺師”に嘲笑を投げ、死んだ猫を投げつけようとした。すると即座に殴り倒され、言葉もなく蹴り出された。深い静けさが再び支配した。


第二十九章 ロンドンへ

ヘンドンのさらし台の時間が終わると、解放され、この地方から立ち去り二度と戻るな、と命じられた。剣も返され、ラバとロバも返された。ヘンドンは乗って去り、国王が後に続いた。群衆は静かな敬意をもって道を開け、二人が通り過ぎると散っていった。 ヘンドンはすぐ思索に沈んだ。重大な問いがある。自分は何をすべきか。どこへ行くべきか。どこかで強力な助けを得ねば、相続を諦めるしかない。そのうえ“詐欺師”の汚名まで背負って生きることになる。では、その強力な助けはどこにある? どこに望みがある? ――いや、ない。難題だ。

しばらくして、ひとつの考えが浮かんだ。可能性は、ほとんどゼロに等しいほど細い――だが他に何の望みもない以上、検討する価値はある。老アンドルーズが語った、若い国王の善良さ、虐げられた者や不幸な者を守ろうとする寛大な姿勢。それを頼りに、国王に会い、正義を願い出るのはどうだ? そうだ、だが――こんなみすぼらしい貧乏人が、君主の尊厳ある御前へ入れるものか? いや、気にするな。その問題は、その時が来てから考えればいい。橋は渡る時に見ればよいのだ。ヘンドンは戦場帰りの古兵で、その場しのぎや工夫には慣れている。きっと何とか道を見つけられるだろう。

そうだ、都へ向かおう。父の古い友人、サー・ハンフリー・マーロウが助けてくれるかもしれない――「善良なサー・ハンフリー、先王の台所の副官だか、厩舎だか、何かの長」――ヘンドンにはどれだったか思い出せない。だが今、力を注ぐ対象ができ、目標が明確になったことで、屈辱と憂鬱の霧が心から上がり、吹き払われた。ヘンドンは頭を上げ、周囲を見回した。ずいぶん遠くまで来ているのに驚いた。村ははるか後方だった。

国王はうなだれてヘンドンの後をぽくぽく進んでいる。国王もまた、計画と考え事の渦中にあったのだ。ヘンドンの生まれたばかりの上機嫌には、悲しい不安が影を落とした。少年は、短い一生の間ずっと虐待と貧困しか知らなかったあの都へ、また行く気になるだろうか? だが聞かねばならない。避けられない。ヘンドンは手綱を引き、呼びかけた――

「行き先を聞くのを忘れていた。我らはどこへ向かう? ご命令を、陛下!」

「ロンドンへ!」

ヘンドンは動き出した。その答えに、これ以上なく満足した――同時に、驚きもした。 旅の間、大きな事件はなかった。だが終わりに一つ起きた。

二月十九日の夜十時ごろ、二人はロンドン橋へ足を踏み入れた。そこは、うねり、もみ合い、押し合う、人の詰まりに詰まった渦で、群衆は吠えるように叫び、万歳を上げ、ビールで陽気になった顔が無数の松明の光にくっきり浮かんでいた。その瞬間、どこかの元公爵だか大貴族だかの、腐りかけた首が二人の間へ転げ落ち、ヘンドンの肘にぶつかってから、急ぎ足の混乱する足元へ跳ねて消えた。この世の人の営みとは、なんと儚く頼りないことか! ――善良な先王が死んでまだ三週間、墓に入って三日しか経たぬのに、王が著名人から選び抜いて橋を飾った首は、もう落ち始めているのだ。

一人の市民がその首につまずき、前の誰かの背に自分の頭を打ちつけた。振り向いた相手が、近くにいた別の者を殴り倒し、殴られた者はその友人に即座に叩きのめされた。明日の祝祭――戴冠式の日――はすでに始まっていた。誰もが酒と愛国心に酔い、喧嘩にはうってつけの熟れ具合。五分もしないうちに乱闘は広がり、十分か十二分で一エーカー(約4047平方メートル)ほどを覆い、暴動になった。

この時点で、ヘンドンと国王は完全に引き離され、轟く人の波の突進と混乱の中で互いを見失った。――こうして、二人はひとまず物語の外へ消える。


第三十章 トムの出世道

真の国王が、粗末な身なりで、ろくに食べられず、あるときは浮浪者に殴られ嘲られ、あるときは牢で盗賊や殺人者と群れ、誰からも公平に「白痴」「詐欺師」と呼ばれてさまよい歩く一方、偽の国王トム・キャンティはまったく別の経験を味わっていた。

前に見たとき、王権にはようやく明るい面が見え始めていた。その明るさは日ごとに増していき、間もなく、ほとんど陽光と歓喜ばかりになった。恐れは消え、ためらいも薄れ、ぎこちなさは去り、代わりに落ち着いた自信のある振る舞いが身についた。鞭打ち役の少年という鉱脈を、彼はますます上手に掘り当てて利益を増やしていった。

遊びたいとき、話したいときには、レディ・エリザベスとレディ・ジェーン・グレイを呼び出し、用が済めば追い払った。まるでそういうことに慣れきった者の顔つきで。高貴な二人が別れ際に手へ口づけしても、もう彼を混乱させはしない。 夜は盛儀のうちに寝所へ導かれ、朝は複雑で厳粛な作法のもとに着替えさせられる――それさえ楽しくなっていった。食事へ向かう行進には、燦然ときらめく国家の役人と近衛の列が随行する。それが誇らしい快楽になり、ついには近衛兵を倍にし、百人にした。長い回廊を伝って鳴り響くラッパの音が好きだった。遠くから応じる声――「王に道を!」

評議会で玉座に座り、摂政卿の代弁者以上の何者かであるかのように見せかけるのさえ、楽しめるようになった。大使と、その絢爛たる供回りを迎えるのも好きだった。自分を兄弟と呼ぶ名だたる君主たちからの親愛の言葉を聞くのも。――幸福なトム・キャンティよ、ついこの前までオファル・コートの子だった者よ! 

豪奢な衣装がすっかり気に入り、さらに新調を命じた。四百人の召使いでは威厳に釣り合わぬと感じ、数を三倍にした。平伏して礼を尽くす廷臣たちのへつらいは、耳に甘い音楽となっていった。
親切で温和な人柄は変わらず、虐げられた者すべての頼もしく断固たる擁護者でもあり続け、不正な法には飽くことなく戦いを挑んだ。だが、ひとたび気分を害すれば、伯爵だろうが、時には公爵にさえ向き直り、震え上がらせるような眼差しをくれてやることもできた。
あるとき、王の「姉」にあたる、陰鬱なほどに敬虔なレディ・メアリーが、牢に入れられるはずだった者、絞首刑にされるはずだった者、火刑にされるはずだった者――そういう者たちをあまりに大勢赦すのは賢明ではない、と理詰めで説き伏せようとした。彼女はさらに、畏敬すべき先王たる父の牢獄には同時に六万人もの囚人が収容されていたこともあったのだと引き合いに出し、賞賛すべきその治世の間に、死刑執行人の手に引き渡して処刑した盗賊の数は七万二千人にも及ぶのだ、と言い聞かせた。
それを聞いた少年は、気前のよい憤りに胸を満たし、彼女に命じた――自室の祈りの間へ行って、胸に埋め込まれた石を取り除き、人の心を授けてくださいと神に願うがいい、と。 トム・キャンティは、あれほど親切にしてくれた、あのかわいそうな本物の小さな王子のことを、いちども気に病まなかったのか。宮殿の門で無礼な衛兵がトムを侮辱したとき、烈火のごとく飛び出して復讐してくれた、あの王子のことを。――いや、気に病んだ。
王として過ごす最初の日々と夜々には、行方知れずの王子を思う痛ましい考えが幾度も胸に散りばめられ、帰還を切に望み、当然の権利と栄光に幸福に復帰してほしいと真心から願った。だが時がたち、王子が戻らぬまま日が重なるにつれ、トムの心は新しく魅惑的な体験に占められていき、少しずつ、消えた君主はほとんど記憶の外へと薄れていった。やがて、たまに思い出すことがあっても、それは歓迎されざる亡霊となった。亡霊は、トムに罪悪感と恥を味わわせるからだ。

トムの哀れな母と姉妹たちも、同じ道筋で心の外へ追いやられていった。最初のうちは、会いたくてたまらず、彼女たちのことを思い焦がれ、悲しみ、恋い慕った。だがやがて、いつか彼女たちがぼろをまとい泥にまみれて現れ、口づけで正体を露わにし、高い座から引きずり落とし、貧困と屈辱とスラムへ引き戻すのではないか――そう思うと身震いした。
ついには、ほとんど完全に彼女たちは思考を悩ませなくなった。そしてトムは安堵し、むしろ嬉しくさえ思った。というのも、いま彼女たちの悲しげで責め立てる顔がふと脳裏に浮かぶと、地を這う虫けらよりも自分が卑しい気がしてならなかったからだ。

二月十九日の真夜中、トム・キャンティは宮殿の豪奢な寝台で眠りに落ちようとしていた。忠実な臣下たちに守られ、王権の華やぎに囲まれ、幸福な少年として。明日は、イングランド王として厳粛な戴冠を受ける日――その日がついに来るのだ。
同じ時刻、本物の王であるエドワードは、飢えと渇きに苛まれ、汚れ、雨露にうちしおれ、旅に疲れ果て、暴動の余波として与えられたぼろ切れ同然の衣をまとい、ウェストミンスター寺院に出入りする職人たちの忙しない一団を、群衆の隙間に押し込まれるようにして眺めていた。蟻のように働く彼らは、王の戴冠のための最後の準備に追われていたのである。


第三十一章 認証行列

翌朝、トム・キャンティが目覚めると、空気は雷鳴のようなうなりで重く満ちていた。遠近あらゆる場所がその響きに帯電しているかのようだった。
トムにはそれが音楽だった。イングランド中が総出で、この偉大な日を忠誠の力で迎えに来ている――その合図に他ならなかったからだ。

やがてトムは、再びテムズ川の上の、夢のように流れる大行列の主役となっていた。古い慣習により、ロンドンをめぐる「認証行列」はロンドン塔から出発せねばならず、トムはそこへ向かわねばならなかったのである。

ロンドン塔に到着すると、古びた要塞の壁がたちまち千々に裂けたかのように見え、裂け目という裂け目から赤い炎の舌が跳ね、白い煙が噴き上がった。続いて耳をつんざく爆発が轟き、群衆のどよめきをかき消し、大地を震わせた。炎、煙、爆発は目もくらむ速さで次々と繰り返され、ほどなく古い塔は自らの煙がつくる濃霧の中に姿を消した――ただし、ホワイト・タワーと呼ばれる高い主塔の頂だけを残して。旗を掲げたその頂は、密な蒸気の堤の上に、雲の海から顔を出す山頂のようにくっきりと浮かび上がっていた。

トム・キャンティは燦然と着飾り、足踏みして昂ぶる軍馬にまたがった。馬具の豪奢な飾り布はほとんど地面に届くほどである。背後には「叔父」にあたる摂政サマセット卿(ロード・プロテクター)が同じく騎乗して位置についた。左右には王の親衛隊が一列に並び、磨き上げられた鎧で身を固める。摂政の後には、家臣を従えたきらびやかな貴族たちが、果てしなく続くかに見える行列をなして従った。さらにその後には、深紅のビロードの法衣をまとい胸に黄金の鎖をかけたロンドン市長と市参事会の面々が続き、そのまた後ろには、豪華な衣装をまとい各組合の目立つ旗を掲げたロンドンのギルドの役員と組合員たちが続いた。
加えて、都市を通る特別な儀仗として、古代名誉砲兵隊も行列に加わっていた。これは当時すでに三百年の歴史をもち、イングランドで唯一、国会の命令から独立して行動できる特権(そして現代においても保持している)を持つ軍事組織であった。
見事な光景であり、ぎっしり詰まった市民の群衆の間を堂々と進むその姿は、沿道のあちこちから歓呼で迎えられた。年代記作者はこう記している。
「王が都へ入られるや、人々は祈りと歓迎と叫びとやさしい言葉、そして臣民が君主に抱く真心の愛を示すすべての印をもって王を迎えた。王もまた、遠くに立つ者へは喜びの面差しを掲げ、近くに立つ者へはきわめて柔らかな言葉をかけ、臣民が好意を差し出すのと同じほどに、その好意を受けることをありがたく思われた。よき願いを述べる者すべてに、王は謝意を示された。『神よ、陛下をお守りください』と叫ぶ者には、『神よ、諸君すべてをお守りくだされ』とお答えになり、『心の底から感謝する』と付け加えられた。」

「民は、王の愛情あふれる返答と身振りに、驚くほど心を奪われた。」 フェンチャーチ通りでは、「高価な衣装をまとった見目麗しい子ども」が舞台の上に立ち、国王陛下を都へ迎える言葉を捧げた。その挨拶の最後の詩句は次のとおりである――

「ようこそ、王よ――心が思い描ける限り、歓迎いたします。
ようこそ――舌が語りうる限り、また重ねて歓迎いたします。
喜びの言葉へ、そして怯まず忠誠を抱く心へ――ようこそ。
神があなたをお守りくださいますように、と祈り、末永い幸いを願います。」

人々は、子どもの言葉を一斉に繰り返しながら、嬉々としてどっと歓声を上げた。トム・キャンティは、波打つ期待の顔の海を見渡し、胸を勝ち誇るように膨らませた。この世で生きるに値する唯一のものは、王となり、国民の偶像となることだ――そう感じたのである。
やがて遠くに、オファル・コートのぼろをまとった仲間二人が目に入った。片方は、以前の見せかけの宮廷で「海軍大提督」を演じた少年、もう片方は同じ虚構の中で「寝室侍従長」を名乗った少年だ。トムの誇りはさらに膨れ上がった。
ああ、いま自分だと気づいてくれたなら! あの路地裏とスラムの嘲られた「まがい王」が、本物の王になったのだと知ったなら――名だたる公爵や王子が卑しい召使いとして控え、イングランドの全てが足下にひれ伏す王に――それを思えば言葉にならぬ栄光ではないか。
しかしトムは自制し、喉元までせり上がる欲望を押し殺さねばならなかった。そんな「気づき」は、得るものより失うものの方が大きくつくかもしれない。だからトムは顔を背け、汚れた二人の少年をそのままにした。二人は、自分たちが誰に向かって歓呼と称賛を浴びせているのかも知らず、叫び続けた。 ときおり、「施しを! 施しを!」という声が湧き上がり、トムはそのたびに、ぴかぴかの新しい硬貨をひとつかみ、群衆へ撒いた。人々は奪い合って地面を転げ回る。

年代記作者はこう記している。
「グレースチャーチ通りの上手、イーグル亭の看板の前にて、市は壮麗なるアーチを建て、その下に舞台を設けた。舞台は通りの片側から片側まで渡されていた。これは史的な見世物で、王の直系の祖先を表していた。そこにヨーク公妃エリザベスが巨大な白薔薇の中央に座し、その花弁は凝った襞飾りとなって彼女の周りに広がっていた。傍らにはヘンリー七世が巨大な赤薔薇から姿を現し、同じ趣向で配置されていた。王と王妃の手は固く結ばれ、結婚指輪は誇示するように掲げられていた。赤薔薇と白薔薇からは茎が伸び、第二の舞台へ達していた。そこにはヘンリー八世が赤白の薔薇から現れ、傍らには新王の母、ジェーン・シーモアの像が置かれていた。その二人から分かれた枝が第三の舞台へ伸び、そこにはエドワード六世自身の像が王の威厳をもって玉座に座していた。全体は赤白の薔薇の花輪で縁取られていた。」

この古風でけばけばしい見世物は、歓喜する民衆の心をあまりにも揺さぶったため、それを賛美の韻文で解説する役目の子どもの小さな声は、歓呼に完全にかき消されてしまった。だがトム・キャンティは気にしなかった。どんな詩であれ、出来がどうであれ、この忠誠の喧噪の方が、彼にはよほど甘美な音楽だったからだ。
トムが幸せそうな幼い顔をどちらへ向けても、人々は、行列の飾り物に使われた王の肖像――肉と血の写しとしてのそれ――が、本人に驚くほど似ていることを認め、さらに新しい拍手の旋風を巻き起こした。

壮麗な行列は進み続け、また進み続け、凱旋門、凱旋門、また凱旋門の下をくぐり、目も眩むほど続く象徴的で絢爛たる見せ場の連なりの前を通り過ぎた。それぞれが、小さな王の何らかの徳、才、功を象徴し、称え立てるのである。
「チープサイドの全域では、軒下という軒下、窓という窓から、旗や吹き流しが垂れ下がり、最上の絨毯、布地、金襴が街路を飾った――店内に蓄えられた富の見本として。大通りの豪華さは他の通りでも同等で、ある通りではそれを上回った。」

「そして、この驚異も、この奇観も、すべてはこの私を迎えるため――この私を!」トム・キャンティはつぶやいた。

まがい王の頬は興奮に紅潮し、目はきらめき、快楽の眩暈に感覚が溶けた。ちょうどこのとき、トムがまたたっぷりの施しを投げようと手を上げた瞬間、群衆の二列目から、青白く驚愕した顔が身を乗り出しているのが見えた。燃えるような目が、釘付けになってこちらを見つめている。
吐き気を催すような戦慄がトムを貫いた。――母だ! 母親である!  そしてトムの手は、思わず掌を外へ向け、目の前へ跳ね上がった。忘れられた出来事から生まれ、癖として残った、あの無意識の仕草である。
次の瞬間、母は群衆の押し合いを裂き、衛兵の脇をすり抜け、トムの側へ辿り着いた。母はトムの脚にすがりつき、口づけを浴びせ、「ああ、わが子、愛しい子!」と叫んだ。歓喜と愛で変貌した顔を見上げて。
その同じ瞬間、王の親衛隊の士官が罵声とともに母を引き剥がし、強い腕の一押しで、母をよろめかせながら元いた場所へ突き返した。
「知らぬ女だ!」という言葉が、トム・キャンティの唇から零れ落ちそうになったのは、まさにそのときだった。だが母があのように扱われるのを見て胸を撃たれ、群衆が母を吞み込み視界から奪っていく中、最後にこちらを振り返った母の姿があまりに傷つき、あまりに打ちひしがれて見えたので、恥が彼を襲い、誇りを灰に変え、盗んだ王位を枯らしてしまった。
威光は一挙に価値を失い、腐ったぼろ布のように身体から落ちていく気がした。 行列は進み続け、ますます増す豪奢の中を、ますます荒れ狂う歓迎の嵐の中を進んだ。だがトム・キャンティにとっては、まるで存在しないも同然だった。見えない。聞こえない。
王であることは甘やかさと優美さを失い、その華やぎは非難に変わった。悔恨が心を食い尽くす。
トムは言った。「ああ、願わくはこの囚われから解き放たれたい!」

それは、強制されて担わされた偉大さの、最初の日々の言い回しへと、無意識に戻ってしまった言葉だった。

輝く行列は、古い都の曲がりくねった路地を、光り輝く果てしない蛇のようにうねりながら、万歳の群れの中を進んでいく。だが王は、うなだれたまま、虚ろな目で、母の顔と、その傷ついた眼差しだけを見続けていた。

「施しを! 施しを!」

その叫びは、心ここにあらぬ耳に落ちた。

「イングランドのエドワード万歳!」

大地が揺れるほどの爆発にも思えたが、王は応えない。遠くの波の轟きを、風がはるか彼方から耳へ運んでくるようにしか聞こえなかった。もっと近い音が、胸の内にあったからだ――責め立てる良心の声が、ただひたすらあの恥ずべき言葉を繰り返していた。「知らぬ女だ!」

その言葉は、葬送の鐘が、生き残った友の魂を打つ打撃のように、王の魂を打った――死者が生前、密かな裏切りをその友から受けていたことを思い出させる、あの残酷な鐘のように。

曲がり角ごとに新たな栄光が 펼け、驚異が、奇観が、次々と現れた。待機していた砲列は轟音を放ち、群衆は新しい歓喜を喉から溢れさせた。だが王は何ひとつ示さず、慰めのない胸をうめきながら通り抜ける責めの声だけが、彼の耳を満たした。

やがて民衆の顔から喜びが少し薄れ、どこか気遣い、あるいは不安のようなものが混じり始めた。拍手喝采の量も減っているのが見て取れた。摂政はそれにすぐ気づき、原因もまたすぐ見抜いた。
摂政は王の側へ馬を寄せ、鞍の上で深く身をかがめ、脱帽して言った。

「陛下、夢想に耽っておられる時ではございませぬ。民は陛下のうなだれた御首、曇った御貌を見て、凶兆と受け取っております。どうかお考えください。王威という太陽をお示しになり、これらの不吉な霧を照らして散らし給え。御顔を上げ、民に微笑みを。」 そう言いながら、公爵は左右へ硬貨をひとつかみ撒き、元の位置へ退いた。まがい王は機械的に命じられたとおりにした。笑みには心がこもらなかったが、それを見抜けるほど近く、あるいは鋭い目を持つ者は少なかった。羽飾りのついた頭をうなずかせて臣民に挨拶する様子は優雅で、施しも王らしく気前がよかった。人々の不安は消え、歓声は先ほどにも劣らぬ大音量で再び爆発した。

それでもなお、行程が終わる少し前、摂政は再び前へ出て諫めねばならなかった。摂政は囁いた。

「恐るべき君主よ、この致命的な憂鬱を振り払われよ。世界の目が陛下に注がれております。」

そして苛立ちを鋭く混ぜて付け足した。
「地獄へ落ちろ、あの狂った乞食め! 陛下を乱したのは、あの女に違いありませぬ。」 華麗な姿の王は、艶のない目を公爵へ向け、死んだような声で言った。

「母だったのだ!」

「神よ……」摂政は馬の手綱を引いて後退しながら呻いた。「凶兆は予言を孕んでおった。……また正気を失われた!」


第三十二章 戴冠式の日

少し時をさかのぼり、この記念すべき戴冠式の日、午前四時のウェストミンスター寺院へ入ることにしよう。ひとりではない。まだ夜だというのに、松明に照らされた回廊はすでに人で埋まりつつある。七時間、八時間じっと座って待たされることなど人々は厭わない。人生に二度は望めない光景――王の戴冠――それを見るためならば。
そう、ロンドンもウェストミンスターも、午前三時に鳴り響いた警告の大砲以来、ずっと浮き足立っている。すでに、爵位をもたぬ富裕層――金で回廊の座席を探す権利を買った者たち――が、彼ら用に設けられた入口へ群れを成して押し寄せている。

時はじりじりと、退屈なほどに過ぎていく。しばらく前から動きは止んでいる。どの回廊もとうに満員なのだ。いまは座って、ゆっくり眺め、考えることができる。
薄暗い大聖堂の黄昏の中、あちらこちらで回廊やバルコニーの一部が垣間見える。そこもまた人でぎゅうぎゅうだ。だが柱や建築の出っ張りが視界を遮り、残りの部分は見えない。
北側の大翼廊は全体が見渡せる。いまは空で、イングランドの特権階級のために待ち受けている。さらに、豪奢な布で敷き詰められた広い壇――その中央に玉座が据えられている場所――も見える。玉座は壇の中央にあり、四段の階の上に設けられている。玉座の座の内側には、粗い平たい岩が収められている――スクーンの石。幾世代ものスコットランド王がその上に座して戴冠したため、時を経てイングランド王にも同じ用途に耐えるほど神聖視されるようになった石である。玉座も足台も金襴で覆われている。

静寂が支配し、松明は鈍く瞬く。時間は重く引きずられる。だがついに、のろのろとした夜明けが主張しはじめ、松明は消され、柔らかな光が大空間に満ちる。荘厳な建物のあらゆる輪郭がいまやはっきり見えるが、太陽は薄雲に覆われているため、やわらかく夢のようでもある。

七時、眠気を誘う単調さを破る最初の変化が起きる。ちょうどその時刻に最初の女貴族が大翼廊に入場する。栄華においてソロモンに等しいほどの装いだ。彼女は、絹とビロードをまとった役人に先導されて定位置へ案内される。役人の分身のような者が、婦人の長い裳裾を持ち上げて後ろにつき、婦人が座ると、その裳裾を膝の上に整える。それから望みに応じて足台を置き、最後に、貴族たちが同時に冠をいただく時刻に手を伸ばしやすい位置へ、婦人の小冠(コロネット)を置く。 この頃には女貴族たちがきらめく流れとなって続々と入り、絹をまとった役人たちがあちこちを飛び回り、席へ導き、快適に整えていく。場はにわかに活気づく。動きと生命と、移ろう色彩が至るところにある。
やがて再び静けさが訪れる。女貴族たちは全員到着し、席についたからだ。およそ一エーカーほどもあろうかという、人の花畑が、さまざまな色で咲き誇り、天の川のようにダイヤモンドで霜をふったかのように輝いている。
年齢もさまざまだ。褐色で皺だらけ、白髪の未亡人たち――時の流れをさかのぼり、リチャード三世の戴冠や、その忘れられた時代の騒乱の日々さえ回想できる者たち。壮年の美しい婦人たち。可憐で気品ある若い母たち。輝く目と瑞々しい肌をもつ若い娘たち――大切な瞬間に宝石の小冠を不器用に載せてしまうかもしれない。初めてのことなのだから、興奮が邪魔をするだろう。もっとも、それは起きないかもしれない。合図と同時に素早く確実に冠が収まるよう、髪はすべて特別に整えられているのだから。

この密集した女貴族たちの陣がダイヤモンドで厚く蒔かれていることはすでに見た。そしてそれが驚くべき光景であることもわかる――だが、これから真に驚嘆させられる。九時頃、雲が突然切れ、陽光の一筋が柔らかな空気を裂いて差し込み、ゆっくりと婦人たちの列を横切っていく。光が触れた列ごとに、色とりどりの炎が眩いほどに燃え上がり、その意外性と美しさに、指先まで電気のような震えが走る。
やがて、オリエントの遠い一角から来た特使が、外国大使の一団とともにこの日だまりを横切る。宝石が頭のてっぺんから踵まで甲冑のようにびっしりと貼りつき、わずかな動きですら周囲に踊る光を降らせる。その圧倒的な輝きに、思わず息を呑む。 便宜のため時制を変えよう。
時は流れていった――一時間、二時間、二時間半。すると、重々しい砲声が轟き、王と壮大な行列がついに到着したことを告げた。待ちわびていた群衆は喜びに沸く。
しかし、さらに遅れがあることは誰もが承知していた。王は儀式に備えて身支度を整え、礼服をまとわねばならない。その待ち時間は、王国の貴族たちが威厳ある装束で席につく光景で楽しく埋められるだろう。貴族たちは儀礼的に席へ導かれ、小冠は手の届くところに置かれた。回廊の群衆は興味で沸き立つ。彼らの多くにとって、五百年の歴史を背負った公爵、伯爵、男爵を目にするのは初めてなのだ。
全員が座につくと、回廊と見晴らしのよい場所から見える光景は完成した。眺めるにも、記憶するにも、まさに豪奢の極みである。

ついで、法衣をまとい司教冠をいただいた教会の大人物と随員が壇へ列をなして入り、定位置についた。その後に摂政やその他の高官が続き、さらにその後ろに鋼の鎧をまとった親衛隊の一隊が続いた。

しばしの静かな待機。そして合図とともに勝ち誇るような音楽が鳴り響き、金襴の長衣をまとったトム・キャンティが扉に現れ、壇上へ歩み出た。会衆は一斉に立ち上がり、「認証」の儀が始まった。

やがて荘厳な賛歌が豊かな音の波となって寺院を満たす。その歓迎に押し出されるように、トム・キャンティは玉座へ導かれた。古来の儀式は、畏敬を誘う厳粛さで進められ、見守る観衆の目の前で、終わりへと近づくほどに、トム・キャンティは青ざめ、さらに青ざめ、深く、しかも刻々と深まる悲嘆と意気消沈が、悔恨にまみれた心へ重く沈み込んでいった。

ついに最後の所作が迫った。カンタベリー大司教が、クッションからイングランドの王冠を持ち上げ、震えるまがい王の頭上へ差し出した。
その瞬間、広い大翼廊を虹色の光が走った。貴族の大群衆にいる一人残らずが、ひとつの衝動でそれぞれの小冠を持ち上げ、自分の頭上に掲げ――その姿勢で静止したからだ。

寺院は深い沈黙に包まれた。
その印象的な刹那、場に不意に異様な影が割り込んだ――没入していた群衆の誰もが気づかぬうちに、中央通路を進んでくる姿が、突然目に入ったのである。
それは少年だった。帽子もかぶらず、靴も粗末で、粗野な平民の衣はぼろぼろに崩れかけている。汚れ、みすぼらしい外見には不釣り合いなほどの厳粛さで手を上げ、警告の言葉を放った。

「イングランドの王冠を、あの没収された頭に載せるな。余が王である!」

たちまち憤慨した手が幾つも少年に伸びた。だが同じ瞬間、王の装束をまとったトム・キャンティが素早く一歩踏み出し、響き渡る声で叫んだ。

「放せ、手出し無用! この者こそ王だ!」

驚愕の恐慌のようなものが集会を駆け抜け、貴族たちは半ば立ち上がり、互いの顔と、場の中心人物たちを呆然と見比べた。自分は正気で目覚めているのか、それとも眠って夢を見ているのか――そんなふうに。
摂政も他と同じく驚いたが、すぐに立ち直り、権威ある声で叫んだ。

「陛下のお言葉に構うな、また御病が出たのだ――ならず者を捕えよ!」

命令は実行されるはずだった。しかし、まがい王は足を踏み鳴らして叫んだ。

「命が惜しくばやめよ! この者に触れるな、王である!」

手は止まった。会衆は麻痺したように固まり、誰も動かず、誰も言葉を発せない。この異様で驚くべき緊急事態に、どう振る舞うべきか、何を言うべきか、誰にもわからなかったのである。
皆の心が立て直そうともがく間も、少年は高い品位と自信に満ちた態度で、一定の歩みで前進を続けた。最初から一度も立ち止まっていない。
混乱した思考がなおも泥沼でもがくうちに、少年は壇に上がった。すると、まがい王は喜びに輝く顔で駆け寄り、少年の前に膝をついて言った。

「ああ、我が君、王よ。哀れなトム・キャンティに、まず最初に忠誠を誓わせてください。『王冠を戴き、御身のものへお帰りください!』と!」 摂政の目は険しく新来者の顔を射抜いた。だがすぐに険しさは消え、驚き混じりの不思議な表情に変わった。これは他の高官たちにも同様に起きた。彼らは互いを見交わし、共通の無意識の衝動で一歩退いた。各人の頭に浮かんだのは同じことだった――「なんという酷似だ!」

摂政は当惑してしばし考え、それから重々しく礼を尽くして言った。

「失礼ながら、お尋ねしたいことが幾つか――」

「答えよう、摂政。」

公爵は宮廷、先王、王子、王女たちについて多くの質問を浴びせた。少年はためらいもなく正しく答えた。宮殿の謁見室、先王の居室、ウェールズ公の部屋までも描写してみせた。[訳注:Prince of Wales=ウェールズ公。王太子の称号。]

奇妙だ。驚くべきだ。確かに。だが説明がつかない――聞いた者は皆そう言った。潮目は変わり始め、トム・キャンティの望みも高まった、そのとき摂政は首を振って言った。

「確かに実に驚くべきことだ。――だが、わが主たる陛下もまた同じことができる。」

この言葉、この「陛下」をなおも王と呼ぶ言い方は、トム・キャンティの胸を暗くし、せっかくの希望が足元から崩れる思いがした。
「これらは“証拠”ではない」と摂政は付け加えた。

潮は今や非常な勢いで――しかも誤った方向へ――変わりつつあった。かわいそうなトム・キャンティを玉座に取り残し、もう一方を沖へ押し流していく流れである。摂政は内心で思案し、首を振り、そして考えが胸へ迫った――「このような致命的な謎を認めるのは国家にとっても我らにとっても危険だ。国を割り、王座を揺るがしかねぬ。」

摂政は振り向いて言った。

「サー・トマス、この者を捕え――いや、待て!」

顔が明るくなり、ぼろをまとった候補者に向かってこう問うた。

「国璽はどこにある? 真実を答えよ。答えられるのはウェールズ公であった者だけだ! この些末な一点に、王座と王統が懸かっている!」

幸運な着想、見事な一手であった。高官たちがそう考えたことは、互いの目に走る黙した拍手――明るい承認の視線――ではっきりわかる。そうだ、消えた国璽という頑固な謎を解けるのは真の王子だけ。哀れな偽者がどれほどよく教え込まれていようと、ここでは必ず行き詰まる。教えた本人ですら答えられない問いなのだから。ああ、実に良い。これで厄介で危険な件は手早く片がつく――彼らは内心で頷き、満足げに笑い、愚かな少年が罪の混乱で硬直するのを見ようとした。
ところがどうだ。少年は平然としている。驚くべきことに、ためらいなく即座に、落ち着き払った確信の声でこう答えた。 「この謎に難しきことはない。」

そう言うなり、誰の許しも求めずに、慣れた者の気楽さで命じた。
「セント・ジョン卿、宮殿の余の私室の戸棚へ行け――場所を最もよく知るのはそなたであろう。前室から開く扉より最も遠い左隅、床ぎりぎりのところに、壁から突き出た真鍮の釘頭がある。それを押せ。そなたすら知らぬ小さな宝石戸棚が開く。いや、世界中で余と、余のためにこれを仕掛けた忠実な職人以外、誰も知らぬ。目に入る最初のものが国璽である――ここへ持て。」

一同はその言葉に驚き、さらに、みすぼらしい少年がためらいも恐れも見せず、この貴族を選び出し、名を呼び、まるで生涯知っていたかのように落ち着き払っているのを見て、いっそう驚いた。セント・ジョン卿は危うく従いかけた。実際、行こうとする動きさえ見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、赤面して自分の早計を悟った。
トム・キャンティは鋭く彼に向き直り、言った。

「なぜためらう? 王の命を聞かぬのか。行け!」

セント・ジョン卿は深々と礼をした――それが意味深いほど慎重で、どちらの王に向けたとも言えぬ礼であったことは目撃されている。二人の中間、半ば中立の空間へ向けて礼をし、退出したのである。

ここから、きらびやかな高官たちの集団に、ゆっくりと、ほとんど気づかれぬほど微細だが、確実で執拗な動きが始まった。万華鏡をゆっくり回したとき、ひとつの美しい塊を構成していた粒子がほどけ、別の塊へ吸い寄せられていく――あの動きである。今回の動きも同じで、トム・キャンティを取り囲んでいた輝く群れが少しずつ解け、新来者の周りへと再び群がりはじめた。トム・キャンティはほとんど独りになった。
短い、しかし深い緊張と待機の時が訪れた。その間、トムの近くに残っていたわずかな弱気な者たちも、少しずつ勇気をかき集め、ひとり、またひとりと多数派の方へ滑るように移っていった。
ついにトム・キャンティは、王の礼服と宝飾をまとったまま、世界から完全に孤立し、ぽつりと一人、雄弁な空白を占める目立つ像となって立っていた。

やがてセント・ジョン卿が戻ってくるのが見えた。中央通路を進むにつれ、興味は極点に達し、寺院に満ちていた低いざわめきは消え、息を呑むような沈黙が落ちた。その中で彼の足音だけが、鈍く遠い鼓動のように響いた。誰もが目を逸らさず見つめた。
セント・ジョン卿は壇に到着すると一瞬止まり、トム・キャンティの方へ進み、深く礼をして言った。

「陛下、国璽はそこにはございませぬ!」 疫病患者の前から群衆が溶けるように退く、と言うが、それ以上の速さで、青ざめ恐怖に凍った廷臣たちの一団は、王冠の汚れた小さな請求者の前から散った。瞬く間に少年は一人きりになり、味方も支えもなく、嘲りと怒りの視線の集中砲火を浴びる的となった。
摂政は激しく叫んだ。

「乞食を通りへ放り出せ、鞭打って町を引き回せ! あの卑しい悪党に情けなど不要!」

親衛隊の士官たちが飛び出して命令を実行しようとしたが、トム・キャンティは手を振って制し、言った。

「下がれ! この者に手を触れた者は命がない!」

摂政はこの上なく困惑した。セント・ジョン卿に言った。

「よく探したか? ――いや、問うまでもない。あまりにも奇妙だ。小さなこと、些事は見落とすものだし、驚くほどではない。だが、国璽ほど大きなものが――黄金の重い円盤が――消え、誰も追跡できぬとは……」

トム・キャンティは目を輝かせて跳ね出し、叫んだ。

「待て、それで十分だ! 丸いのか――厚いのか――文字や紋が彫られているのか――そうか? ああ、いまわかった。これが皆が大騒ぎしていた国璽というものなのだ。最初から説明してくれていれば、三週間前に渡せていた。どこにあるかはよく知っている――だが、そこに置いたのは私ではない、最初は。」

「では誰が、陛下?」摂政が尋ねた。

「そこに立つ者だ――イングランドの正当な王である。そして王自ら、どこにあるかを告げるはずだ――王自身の知識で知っていたと、そなたらも信じるだろう。思い出せ、我が王よ――記憶を駆り立てるのだ。あの日、宮殿から飛び出す前、私のぼろを着て、私を辱めた兵を罰しに行く直前、最後の、まさに最後にしたことだ。」 沈黙が続いた。動く者も囁く者もいない。すべての目が新来者に注がれた。少年は頭を垂れ、額に皺を刻み、押し寄せる無価値な記憶の群れの中を手探りしながら、たったひとつの小さな逃げ水のような事実を探していた。それが見つかれば玉座に座れる。見つからなければ、このまま――永久に――乞食で、追放者だ。
瞬間が過ぎ、また過ぎ、それが分となって積み重なっていく。それでも少年は黙して闘い続け、何の兆しも見せなかった。
だがついに、少年はため息をつき、ゆっくり首を振り、唇を震わせ、意気消沈した声で言った。

「場面はすべて戻る。だが国璽はそこに無い。」

少年は間を置き、顔を上げ、穏やかな威厳で言った。
「諸卿ならびに紳士諸君、この証拠を示せぬことを理由に、正当な君主から王位を奪うというなら、余には止める力はない。無力であるゆえ。だが――」

「愚か! 狂気だ、我が王よ!」トム・キャンティが恐慌して叫んだ。「待て! 考えろ! 諦めるな! まだ終わりではない、終わらせもしない! よく聞け――一言一句に従え。あの朝を、起きたとおりに、出来事をすべて呼び戻してみせる。
我々は話した――私は姉妹のナンとベットのことを話した――そうだ、覚えているな。それに、年老いた祖母のこと――オファル・コートの子どもたちの荒っぽい遊び――これも覚えているはずだ。いい、まだついて来い、すべてを思い出す。
あなたは私に食べ物と飲み物を与え、王子の礼儀で召使いを下がらせた――私の卑しい育ちが彼らの前で恥にならぬように――そうだ、これも覚えているな。」

トムが詳細を数え上げるたび、もう一人の少年がうなずいて「それを覚えている」と示すので、広い会衆と高官たちは困惑した驚きに目を見開いた。話は真実の歴史のように響く――だが王子と乞食の少年がこんなふうに結びつくなど、どうして起こりうるのか。これほど困惑し、これほど興味をそそられ、これほど呆然とした集団が、かつてあっただろうか。

「冗談で、我が王子よ、我々は服を取り替えた。鏡の前に立った。そしてあまりに似ていて、二人とも『変わったように見えぬ』と言った――そうだ、覚えているな。
それからあなたは、兵が私の手を傷つけたことに気づいた――見よ! これだ。指がこわばり、まだ字も書けぬ。
すると陛下は跳ね起き、あの兵に復讐すると誓い、戸口へ走った――あなたは机のそばを通った――あなたが国璽と呼ぶものがその机にあった――あなたはそれを掴み上げ、隠し場所を探すようにきょろきょろした――そしてあなたの目が――」

「そこまででよい! 神に感謝を!」と、ぼろをまとった請求者は大興奮で叫んだ。「行け、セント・ジョン――壁に掛かっているミラノ甲冑の腕当ての中に国璽がある!」[訳注:Milanese armour=ミラノ甲冑。当時名高いイタリア・ミラノ製の高品質な甲冑。]

「そうだ、我が王! そうだ!」トム・キャンティは叫んだ。「これでイングランドの笏はあなたのものだ。異議を唱える者は、口が利けぬまま生まれる方がましだったと思うだろう! 行け、セント・ジョン卿、足に翼を!」

会衆は総立ちになり、不安と恐れと、燃え尽きるほどの興奮で半ば正気を失った。床にも壇にも、狂乱の会話の蜂の巣のような音が爆発し、しばらくは誰も何もわからず、何も聞こえず、隣人が耳元で叫ぶこと、あるいは自分が隣人の耳へ叫び返すこと以外には何の関心もなかった。
時が――どれほど過ぎたか誰にもわからぬ時が――気づかれぬまま流れた。
やがて突然、寺院に沈黙が落ちた。その同時にセント・ジョンが壇に現れ、国璽を高く掲げていた。すると歓声が天を突いた。

「真の王万歳!」 五分間、空気は叫びと楽器の轟きで震え、白いハンカチの嵐が舞った。その中で、ぼろをまとった一人の少年――いまやイングランドで最も目立つ人物――が、顔を紅潮させ、幸福と誇りに満ちて、広い壇の中央に立っていた。王国の大貴族たちがその周りにひざまずいている。

やがて皆が立ち上がり、トム・キャンティは叫んだ。

「さあ、我が王よ、この王の衣をお戻しください。そして哀れな僕トムには、またこのぼろ切れと端布をください。」

摂政が口を挟んだ。

「小僧を裸にしてロンドン塔へ投げ込め。」

だが新しい王、本物の王は言った。

「そうはせぬ。彼がおらねば王冠は戻らなかった。誰も彼に危害を加えるな。
それと、我が良き叔父、摂政殿。そなたのこの振る舞いは、この哀れな少年に対して恩知らずである。聞けば、この少年はそなたを公爵にしてやったそうだ」摂政は赤面した。「だが彼は王ではなかった。ゆえに、その立派な称号はいま何の価値がある? 明日、そなたは――彼を通じて――余にその確認を願い出よ。さもなくば、公爵ではなく、ただの伯爵のままである。」

この叱責を受け、サマセット公はひとまず前方から少し退いた。
王はトムに向き直り、優しく言った。
「かわいそうな少年よ。余が国璽を隠した場所を、余自身が思い出せぬのに、なぜお前は覚えていた?」

「陛下、それは容易いことでした。私は何日もそれを使っていましたから。」

「使った――のに、どこにあるか説明できぬのか?」

「それが“それ”だとは思いませんでした、陛下。皆は形を説明しなかったのです。」

「では、どう使った?」

赤い血がトムの頬へじわじわと上がり、トムは目を伏せて黙り込んだ。

「さあ言うがよい、良い子だ。何も恐れるな」と王は言った。「イングランドの国璽を、どう使った?」

トムは哀れな混乱の中でしばらく口ごもり、ついに絞り出した。

「……胡桃を割るのに。」 かわいそうな子どもよ。その返答に浴びせられた雪崩のような笑いは、彼を吹き飛ばしかねないほどだった。だが、トム・キャンティがイングランド王ではなく、王権の神々しい付属品に不案内だという疑いが、まだ誰かの心に残っていたとしても、この答えが完全にそれを消し去った。

その間に、絢爛たる国王の礼服はトムの肩から外され、王の肩にかけられた。王のぼろはその下にすっかり隠れた。こうして戴冠の儀式は再開され、本物の王は聖油を注がれ、王冠が頭に置かれた。大砲はその知らせを都へ轟かせ、ロンドン全体が喝采で揺れるかのようだった。


第三十三章 王としてのエドワード

マイルズ・ヘンドンは、ロンドン橋の暴動に巻き込まれる前から絵になる男だった――巻き込まれた後は、なおさらだった。巻き込まれる前はわずかな金を持っていたが、抜け出したときには一文も残っていなかった。すりが最後の一ファージングまで剥ぎ取ってしまったのだ。[訳注:farthing=ファージング。旧イングランドの最小硬貨の一つ。]

だが構わない。少年を見つけさえすればいい。兵士であるヘンドンは、行き当たりばったりには動かず、まず作戦を組み立てることから取りかかった。

少年は自然にどうするだろう? どこへ行くだろう?  ――ヘンドンは考えた。少年は自然に以前のたまり場へ戻るに違いない。家もなく見捨てられたとき、心が壊れた者にも、健全な者にも、そういう本能がある。以前のたまり場はどのあたりか。ぼろ衣と、少年を知っている様子で、父親だとまで名乗った下劣な男からして、家はロンドンでも最も貧しく卑しい地区のどこかにある。探すのは難しいか、長引くか。――いや、簡単で短いはずだ。少年を探すのではない、群衆を探せばよい。大きな群衆でも小さな群衆でも、その中心にいずれ少年がいる。きっといる。汚らしい連中は、いつものように少年が「自分は王だ」と触れ回るのをからかい、苛立たせて楽しんでいるに違いない。そうしたらヘンドンは何人かを叩きのめし、少年を抱えて連れ去り、やさしい言葉で慰め励まし、二人はもう二度と離れない――。

こうしてヘンドンは探索を始めた。時間ごとに、裏路地や不潔な通りを歩き回り、集団や群衆を探し、いくらでも見つけた。だが少年の影だけがない。これは大いに意外だったが、ヘンドンは落胆しなかった。彼の考えでは作戦に欠陥はない。誤算があるとすれば、短期で終わるはずが長期戦になりつつある、という一点だけだ。

夜が明ける頃には、ヘンドンは何マイルも歩き、数えきれぬ群衆を当たったが、成果といえば、かなり疲れ、少し空腹で、ひどく眠いということだけだった。朝食がほしかったが、手段がない。乞うという発想は浮かばなかった。剣を質に入れるくらいなら名誉を手放す方がましだ。衣服をいくらか手放すことならできるが――そんな衣服の買い手を見つけるのは、病気の買い手を探すのと同じくらい難しい。

正午になっても歩き続けていた。今度は、王の行列の後をついて回る群衆の中をだ。あの小さな狂人は、この王者の見せ場に強く引き寄せられるに違いない、と考えたのである。ヘンドンは行列の曲がりくねった道のりをあますところなく追い、ウェストミンスターと寺院までついて行った。
周辺にうず高く集まる群衆の中をあちこち漂い、長いこと途方に暮れ、当惑し、ついにはふらりと離れていった。作戦を改善する方法を考え、工夫しようとしたのだ。
やがて思索から我に返ると、町ははるか後方で、日も暮れかけていた。川の近くで、田園地帯に出ていた。立派な田舎屋敷が点在する地域――彼の服装を歓迎するような土地柄ではない。 寒くはまったくなかった。そこでヘンドンは生垣の風下に身を横たえ、休み、考えることにした。ほどなく眠気が感覚に沈み、遠くかすかな大砲の轟きが耳に運ばれた。ヘンドンは「新しい王が戴冠したな」と独りごち、すぐに眠りに落ちた。
彼はそれまで三十時間以上、眠りも休みも取っていなかった。次に目を覚ましたのは、翌朝のほぼ真昼近くだった。

彼は立ち上がった。足はびっこで、体はこわばり、半分飢え死にしかけている。川で身を洗い、水を一パイントか二パイント(約0.47〜0.95リットル)飲んで胃をなだめると、ウェストミンスターへ向かってとぼとぼ歩き出した。こんなに時間を無駄にした自分に腹を立て、ぶつぶつ言いながら。
だが空腹が、いま彼に新しい策を授けた。老いたサー・ハンフリー・マーロウに取り次いでもらい、数マルク借りるのだ――そして……いや、当座の策はそれで十分。まずその第一段階が片づいてから、次を考えればいい。

十一時ごろ、彼は宮殿に近づいた。派手な身なりの人々が大勢、彼の周りを同じ方向へ流れていく。だが彼は埋もれなかった――衣装がそれを許さない。彼は一人ひとりの顔を念入りに見た。慈悲深そうな顔の持ち主を探し、その人に頼んで、老副官へ自分の名を届けてもらおうというのだ。――自分で宮殿に入る? そんなのは、そもそも話にならない。

やがて、あの「むち打ち役の少年」が彼の横を通り過ぎた。が、くるりと踵を返して、こちらの姿をじっと見定め、ひとりごちた。
「もしこいつが、陛下があんなに気を揉んでおられる、あの流れ者そのものでねえなら、俺はロバだ――いや、たぶん前からロバだったがな。描写にぴたりと合う。こんな奴を二人もお造りになるなんて、神様が奇跡を安売りして繰り返すようなもんだ。どうにか口をきく口実が作れりゃいいのに。」

だがマイルズ・ヘンドンがその手間を省いた。というのも、誰かに背後から強く見つめられると、たいていの人間がそうするように、彼は振り返ったのだ。そして少年の目に強い関心が宿っているのを見て、近寄り、言った――

「お前、いま宮殿から出てきたな。ここに勤めているのか?」

「はい、旦那さま。」

「サー・ハンフリー・マーロウを知っているか?」

少年ははっとし、心の中で叫んだ。
「なんてこった! おれの死んだ父ちゃんじゃねえか!」

そして声に出して答えた。
「よく存じております、旦那さま。」

「よし――中にいるか?」

「おります」と少年は言い、心の中で付け足した。
「墓の中にな。」

「頼みがある。わしの名を伝え、耳打ちでひと言申し上げたい、と言ってくれぬか?」

「喜んで取り次ぎますとも、旦那さま。」

「では――サー・リチャードの息子、マイルズ・ヘンドンが外に来ている、と。頼むぞ、いい子だ。」

少年はがっかりした顔をした。
「王さまは、あいつをそんな名では呼んでなかったのに」と心で言う。「ま、いいや。こいつは双子の兄弟だ。陛下に、もう一人の“寄せ集めサー”のことを知らせてやれるに決まってる。」

そこでマイルズに言った。
「ちょっとそこへ入って、待っててください、旦那さま。すぐお返事を持ってきます。」

ヘンドンは示された場所へ退いた。宮殿の壁が窪んだ小さな退避所で、石の腰掛けが据えてある。悪天候のとき、歩哨が身を寄せるための避難場所だ。座ったか座らぬかのうちに、士官に率いられた槍斧兵が通りかかった。士官は彼を見つけると隊を止め、ヘンドンに出て来いと命じた。従うと、宮殿の構内をうろつく不審者として、即座に取り押さえられた。雲行きが急に険悪になる。哀れなマイルズが事情を説明しようとしたが、士官は乱暴にそれを封じ、武器を取り上げて身体検査をせよと命じた。 「神よ、どうか何か見つけてくれ」とマイルズは祈った。「俺はずいぶん探したが駄目だった。だが、必要なのは俺の方がよほど大きい。」

見つかったのは、文書が一通だけだった。士官がそれを引き裂いて開く。ヘンドンは、ヘンドン・ホールでのあの黒い日に、失われた小さな友が書きつけた、あの「釣り針みたいな」字[訳注:英語で“pot-hooks”は、下手な筆記の曲がりくねった字を指す言い回し]だと気づいて、思わず笑った。士官の顔は、英語の段落を読むにつれて暗く沈み、マイルズは聞いているうちに血の気が引いた。

「また王位請求者だと!」士官が叫んだ。「まったく今日は、うさぎみたいに増えおる。こいつを押さえろ、貴様ら。わしがこの大事な紙切れを中へ運び、国王陛下へ届けるまで、しっかり縛っておけ。」

士官は駆け去り、囚人は槍斧兵にがっちり掴まれたまま残された。

「これで俺の不運も、ついに終わりだ」とヘンドンはつぶやいた。「あの書き物のせいで、間違いなく縄の先でぶら下がる。……そして、あの可哀そうな子はどうなる! ああ、それは善き神のみがご存じだ。」

しばらくして、士官が大慌てで戻ってくるのが見えた。ヘンドンは腹を括った。男らしく災厄を迎えるつもりで。士官は部下に命じて囚人を解き、剣を返させると、恭しく一礼して言った――

「恐れ入ります、旦那さま。お供願います。」

ヘンドンは従いながら、心の中で毒づいた。
「もし俺が死と審判へ旅している最中でなく、罪を節約しなきゃならん身でなけりゃ、この野郎の喉を締め上げてやるのに。あの慇懃無礼め。」

二人は人で溢れる中庭を横切り、宮殿の大入口に着いた。士官はまた一礼し、絢爛たる高官にヘンドンを引き渡した。高官は深々と敬意を示して彼を迎え、大広間へ導いた。両側には豪奢な従僕がずらりと並ぶ。二人が通り過ぎるあいだ、彼らは恭しく頭を下げたが、わが威儀堂々たる「案山子」の背中が向いた途端、笑いを殺すのに必死の、無言の痙攣に変わった。さらに幅広い階段を上り、上等な人々の群れを縫い、ついに巨大な広間へ通される。高官はイングランド貴族の集まりを割って通路を作り、最後に一礼すると「帽子をお取りください」と念を押し、去っていった。
ヘンドンは部屋の真ん中に取り残された。全員の視線の的。憤りの眉。嘲笑と冷笑も、たっぷり。

マイルズ・ヘンドンは完全に混乱していた。五段の階段の先、若き国王が玉座の天蓋の下に座っている。頭を傾け、何やら人間の極彩色の鳥――公爵か何か――と話している。ヘンドンは思った。壮年の盛りで死刑を宣告されるだけでも十分つらいのに、こんな衆目の辱めまで加える必要があるのか、と。王にはさっさと済ませてほしかった。近くのきらびやかな連中が、だんだん鼻につき始めていた。

そのとき国王がわずかに顔を上げ、ヘンドンははっきりその顔を見た。息が止まりそうになる! 彼は釘づけになったように、その美しい若い顔を見つめ、やがて叫んだ――

「見よ、夢と影の王国の主が、玉座におわす!」

彼は途切れ途切れの言葉を呟き、なおも見つめ、驚嘆し、それから周囲へ目を巡らせた。絢爛な群衆と豪奢な広間を見回し、囁く。
「だが、これは本物だ――まことに、本物だ。夢じゃあるまい。」

彼はまた国王を見つめ、思った。
「これは……夢なのか。それとも、あれは本当にイングランドの君主で、俺が“ベドラムの哀れなトム[訳注:ベドラムはロンドンの精神病院。転じて狂人・精神錯乱者を指す言い回し]”だと思い込んでいた、身寄りのない子ではないのか――この謎を解けるのは誰だ?」

ふと、目に閃きが走った。彼は壁際へ大股で行き、椅子をつかむと持ち帰り、床に据え――そのまま腰を下ろした!  怒りのざわめきが起こり、荒っぽい手が彼に触れ、声が叫んだ。
「立て、この無作法者! 国王陛下の御前で座ろうというのか!」

騒ぎは陛下の耳に届いた。陛下は手を差し伸べ、叫んだ――

「手を出すな。それは彼の権利だ!」

群衆は呆然として後ずさった。王は続けた――

「諸君、淑女、諸卿、紳士たちよ、よく聞け。この者は余の忠実にして愛すべき従者、マイルズ・ヘンドンである。身を挺して剣を差し入れ、王子を肉体の危難、ひいては死の恐れから救った――その功により、王の言葉をもって騎士に叙する。
また、さらに高き奉仕――すなわち、主君が受けるべき鞭と恥辱を身代わりに引き受け、余を救った――その功により、彼をイングランドの貴族に列し、ケント州伯[訳注:原文はEarl of Kent(伯爵)]とする。威厳にふさわしき黄金と領地を与える。
加えて――いま彼が行使した特権は、王の勅許によるものだ。余は定めた。彼の家筋の首位に立つ者は、今後代々、王冠の続くかぎり、イングランド王の御前に座する権利を持ち、これを保持する。ゆえに、彼に触れるな。」

その場に、今朝ようやく田舎から到着し、入室してまだ五分と経っていない二人がいた。王の言葉を聞き、王を見、案山子を見、また王を見て、鈍い茫然の中に立ち尽くしている。サー・ヒュー・ヘンドンとレディ・イーディスである。だが新しい伯爵は二人に気づかなかった。彼はまだ、うつろに君主を見つめ、呟いていた――

「うわあ、なんてこった! これが俺の貧民だと? 俺の狂人だと? これが、俺が七十部屋の屋敷と二十七人の召使いで“豪華さ”を教えてやると言ってた相手だと?  これが、着るものはぼろ、慰めは蹴り、食い物は内臓くず[訳注:offalは屠殺後の内臓など。転じて残飯・くず肉の類]しか知らなかった奴だと?  これが、俺が引き取って“まとも”にしてやるはずだった子だと? ああ、頭を隠す袋がほしい!」

すると突然、礼儀作法が戻ってきた。彼はひざまずき、両手を王の手の間に差し入れ、忠誠を誓い、領地と爵位に対する臣従の礼を取った。立ち上がって、恭しく脇へ退く。なおも視線の的――そして、羨望の的でもあった。

ここで国王はサー・ヒューを見つけ、怒りに燃える眼差しで言い放った――

「この盗人から、偽りの外見と盗んだ領地を剥ぎ取れ。余が必要とするまで牢に入れておけ。」

元サー・ヒューは連れ去られた。 今度は部屋の反対側がざわめいた。集まりが割れ、風変わりだが豪奢に着飾ったトム・キャンティが、案内役に先導され、生きた壁の間を進み出た。彼は国王の前にひざまずく。王は言った――

「余は、この数週間の顛末を知った。よく務めたな。お前は王国を、まことに王らしい優しさと慈悲で治めた。母と姉妹には再会できたか? よい。母と姉妹には相応の手当を与える――そして父は、お前が望み、法が許すなら、絞首刑にしてもよい。
余の声を聞く者すべてよ、知れ。今日より、クライスト・ホスピタル[訳注:ロンドンの慈善施設兼学校。ブルーコート校として知られる]の庇護にあり、王の施しを受ける者は、腹だけでなく、心と知も養われる。
この少年はそこに住み、生涯にわたって、その名誉ある理事団の首座を占める。
また、一度王であった者には、凡庸な礼では足りぬ。ゆえに、この者の礼装を刻みつけよ。これによって彼は識別され、誰もこれを真似てはならぬ。彼がどこへ行こうとも、それは人々に思い出させる――彼もまた、かつて王であったのだと。そして誰も、彼に払うべき敬意を拒まず、挨拶を怠ってはならぬ。
彼には王座の保護がある。王冠の後ろ盾がある。彼は“国王の被後見人”[訳注:King’s Ward。王の保護下にある者としての名誉称号]という立派な称号で呼ばれ、知られるであろう。」 誇らしく、幸福に満ちたトム・キャンティは立ち上がり、王の手に口づけし、退出を促された。彼は一刻も無駄にせず、母のもとへ飛んでいった。ナンとベットにも全部話し、三人でこの大ニュースを味わい尽くすために。


結び 正義と報い

すべての謎が解けると、ヒュー・ヘンドンの自白により、次のことが明らかになった。――ヘンドン・ホールでのあの日、妻がマイルズを否認したのは、夫の命令だった。その命令には「もしマイルズ・ヘンドンだと認めて言い張るなら命はない」という、いかにも確実な脅しが添えられていた。そこで妻は言った。「取ればいい!」――命など惜しくもない、だからマイルズを否認しない、と。すると夫は「命は助けてやる、だがマイルズは暗殺させる」と言った。これは話が違う。そこで彼女は誓って否認し、その誓いを守ったのだった。

ヒューは、兄の領地と爵位を盗んだことも、脅迫も、起訴されなかった。妻も兄も、彼に不利な証言をする気がなかったからである――そして妻の方は、たとえ望んだとしても、証言を許されなかっただろう。ヒューは妻を捨て、大陸へ渡って、ほどなく死んだ。やがてケント伯は、残された未亡人と結婚した。二人が初めてホールへ里帰りしたとき、ヘンドン村は盛大な祝宴と歓喜に沸いた。

トム・キャンティの父は、二度と消息が知れなかった。

国王は、焼印を押され奴隷として売られた農夫を探し出し、ならず者団(ラフラーの一味)の悪い生活から引き戻して、安楽な生業への道を与えた。

また、あの老弁護士を牢から出し、罰金を免除した。火刑にされた二人のバプテスト派の女たちの娘には良い住まいを与え、マイルズ・ヘンドンの背に不当な鞭を加えた役人は容赦なく罰した。

迷い鷹を捕まえた少年を絞首台から救い、織工から布切れを盗んだ女も救った。だが王の森で鹿を殺した罪で有罪となった男を救うには、間に合わなかった。

豚を盗んだと疑われたとき、自分に同情してくれた判事には恩恵を与えた。そしてその判事が世評を高め、偉大で尊敬される人物へと成長していくのを見るのは、王にとって大きな喜びだった。

国王は生きている間じゅう、自分の冒険談を語るのが好きだった。宮殿の門で歩哨に殴り飛ばされた瞬間から、真夜中、急ぎ足の職人の一団に巧みに紛れ込み、寺院へ滑り込み、告解王の墓に登って隠れ、翌日ぐっすり眠り込みすぎて、戴冠式に間に合わないところだった――その最後の際どい瞬間まで、すべてを。
その貴重な教訓を繰り返し語ることで、自分の決意が揺るがず、その教えが民に利益をもたらすよう努め続けられるのだ、と彼は言った。だから命あるかぎり、彼は語り続けるつもりだった。悲しい光景を記憶に鮮やかに保ち、憐れみの泉を心の中で枯らさぬために。

マイルズ・ヘンドンとトム・キャンティは、短い治世の間ずっと国王のお気に入りであり、国王が死んだときには心からの弔い手となった。善良なケント伯は、その特異な特権を乱用するほど愚かではなかったが、それでもこの世を去るまでに二度だけ行使した――我々が見たあの例のほかに。ひとつは女王メアリーの即位のとき、もうひとつは女王エリザベスの即位のときである。子孫の一人が、ジェームズ一世の即位のときにもそれを行使した。
その者の息子が特権を用いようとした頃には、ほぼ四半世紀が過ぎていて、「ケント家の特権」は多くの人々の記憶から薄れていた。だから、その時代のケント伯がチャールズ一世と宮廷の前に現れ、君主の御前で座り、家の権利を主張し存続させようとしたとき、大騒ぎになったのだ。だが事情はすぐ説明され、権利は確認された。最後のケント伯は、国王のために戦って共和政の戦争で戦死し、その奇妙な特権は彼とともに途絶えた。

トム・キャンティはたいへんな長寿を保ち、白髪の美丈夫、重々しくも慈愛に満ちた面差しの老人になった。生きている間じゅう彼は敬われ、同時に崇められもした。というのも、目を引く独特の衣装が、人々に「彼はかつて王であった」ことを思い出させ続けたからである。だから彼が現れると、群衆は左右に割れ、道を開け、ささやき合った。
「帽子を取れ――“国王の被後見人”だぞ!」
そうして人々は敬礼し、彼の温かな微笑みを返してもらった――それを誇りに思った。彼の歩みには、立派な来歴が伴っていたのだ。

そうだ、エドワード六世は、哀れにも数年しか生きられなかった。しかし、その年月を立派に生きた。幾度となく、偉い地位の者――王冠に金箔を貼りつけて生きる家臣――が彼の寛大さに反対し、彼が改めようとする法について「目的には十分に穏当で、誰も大して気にするほどの苦痛や圧政など生まない」と論じ立てると、若き国王は深い憐れみに満ちた大きな目でその男を見つめ、こう答えた――

「苦しみと圧政を、お前が何を知る。余と、余の民は知っている。だが、お前は知らぬ。」

エドワード六世の治世は、あの苛烈な時代としては異様なほど慈悲深いものだった。いま彼に別れを告げるにあたり、我々はこれを――彼の名誉として――心に留めておこう。

脚注

注1 第四章 クライスト・ホスピタルの衣装

この服装は、当時のロンドン市民の衣装を写したものと考えるのが最も妥当である。徒弟や奉公人には長い青い上着が一般的で、黄色い靴下が広く履かれていた。上着は胴にぴったりするが袖はゆったりしており、その下には袖なしの黄色い下衣を着る。腰には赤い革の帯。首には聖職者の襟飾り。小さな平たい黒帽子が仕上げで、皿ほどの大きさである。――ティムズ『ロンドン珍聞集。』

注2 第四章

クライスト・ホスピタルは、もともと学校として設立されたわけではない。目的は、路上の子どもを救い上げ、収容し、食べさせ、着せることだった。――ティムズ『ロンドン珍聞集。』

注3 第五章 ノーフォーク公の断罪命令

国王は死期が迫っていた。ノーフォークが取り逃がされるのを恐れ、庶民院に使者を送り、法案を急ぐよう求めた。口実は、ノーフォークが軍務伯の地位にあるため、王子ウェールズ公の叙任式に備えて代わりを任命せねばならない、というものだった。――ヒューム『イングランド史』第3巻307頁

注4 第七章

この治世(ヘンリー八世)の終わりまで、イングランドではサラダ菜、にんじん、かぶ、その他の食用根菜は生産されていなかった。わずかに用いられた分も、以前はオランダやフランドルから輸入されていた。キャサリン王妃はサラダが欲しいとき、わざわざ使者をそこへ送らねばならなかった。――ヒューム『イングランド史』第3巻314頁

注5 第八章 ノーフォークに対する私権剥奪

貴族院は囚人を調べもせず、裁判も証拠もなく、私権剥奪法案を可決して庶民院に送った……従順な庶民院は国王の意向に従った。国王は委員を通じて法案に裁可を与えると、翌朝(1月29日)にノーフォークを処刑せよとの命令を出した。――ヒューム『イングランド史』第3巻306頁

注6 第十章 ラヴィング・カップ

ラヴィング・カップと、それで酒を飲む際の特有の儀式は、イングランド史より古い。いずれもデンマーク由来と考えられている。知られている限り、ラヴィング・カップは常にイングランドの宴で飲まれてきた。伝承では儀式の由来をこう説明する。荒々しい古代には、杯を差し出す者と受ける者の双方の両手が塞がるようにしておくのが賢明だと考えられた。そうしておけば、差し出す者が愛と忠誠を誓っている隙に、受ける者が短剣を突き立てることができないからだ! 

注7 第十一章 ノーフォーク公、危ういところで命拾い

もしヘンリー八世が数時間長く生きていたなら、公の処刑命令は実行されていただろう。「だが国王がその夜に崩御したという報せが塔へ届くと、副官は令状の執行を延期した。そして評議会は、新しい治世を、王国最大の貴族の死で始めるのは得策ではないと考えた。その貴族は、あまりにも不正で暴虐な判決で断罪されていたのだから。」――ヒューム『イングランド史』第3巻307頁

注8 第十四章 むち打ち役

ジェームズ一世とチャールズ二世には、幼い頃、むち打ち役がいた。勉強ができないとき、本人の代わりに罰を受ける少年である。そこで私は、自分の目的のため、この小さな王子にもその役を用意した。

第十五章への注
ハートフォードの人物像

若き国王は、叔父に対して極めて強い愛着を示した。叔父は概して節度と廉直さの人であった。――ヒューム『イングランド史』第3巻324頁

だが(護国卿が)度を越して威厳ぶったことで反感を買ったとしても、この会期に成立した法律の功績は大いに称えられるべきである。それらは従来の法の苛烈さを大きく緩和し、憲政の自由に一定の保障を与えた。エドワード三世二十五年法を越えて大逆罪の範囲を拡大した法律はすべて廃止。前治世に制定され、重罪の範囲を拡大した法律もすべて廃止。ロラード派や異端に対する従前の法律、および六箇条法も廃止。言葉による告発は、発言から一か月以内に限られた。これらの廃止により、イングランドで成立した中でも最も苛酷な法律群の一部が無効となり、市民的自由と宗教的自由の曙光が人々に見え始めた。さらに、国王の布告が制定法と同等の効力を持つとした――あらゆる法を破壊するような――法律も廃止された。――同書第3巻339頁

「煮殺し」の刑

ヘンリー八世の治世、毒殺犯は議会制定法により、煮殺しの刑に処された。この法律は次の治世で廃止された。

ドイツでは、十七世紀に至っても、この恐ろしい刑が貨幣鋳造犯や偽造犯に科された。水の詩人テイラーは、1616年にハンブルクで目撃した処刑を描写している。偽金作りに下った判決は、「油で煮殺すこと。いきなり鍋に放り込むのではなく、滑車か縄で脇の下に吊り、徐々に油へ下ろす。まず足、次に脚、という具合に、生きたまま肉を骨から煮剥がす」。――J・ハモンド・トランブル博士『ブルー・ロー 真実と虚構』13頁

有名な靴下事件

女と、その娘(九歳)が、悪魔に魂を売り、靴下を脱いで嵐を起こしたとして、ハンティンドンで絞首刑にされた。――同書20頁

注10 第十七章 奴隷化

若い国王と無学な百姓なら、誤りも犯すだろう。これはその一例である。この百姓は、この法律を先取りして苦しんでいた。国王が怒りをぶつけたのは、まだ存在していない法だった。というのも、この忌まわしい法は、この小さな国王の自らの治世に生まれることになるからである。だが彼の人道的な性格を知っていれば、それが彼から提案されるはずがないことも分かる。

第二十三章への注 些細な窃盗への死刑

コネティカットとニューヘイブンが最初の法典を編んでいた頃、十二ペンスを超える窃盗はイングランドでは死罪だった――ヘンリー一世の時代以来。――トランブル博士『ブルー・ロー 真実と虚構』17頁

奇書『イングリッシュ・ローグ』では限度を十三ペンス半とし、「十三ペンス半を超える価値のもの」を盗めば死、という。

第二十七章への注

多くの窃盗について、法は明確に聖職者特権[訳注:聖職者としての扱いを主張し、世俗裁判の厳罰を免れる制度]の適用を取り上げた。馬、またはを盗むこと、織工から毛織物を盗むことは絞首刑に値した。王の森の鹿を殺すこと、王国から羊を輸出することも同様である。――トランブル博士『ブルー・ロー 真実と虚構』13頁

学識ある法廷弁護士ウィリアム・プリンは(エドワード六世の時代よりずっと後に)さらし台で両耳を切り落とされ、弁護士資格を剥奪され、三千ポンドの罰金を科され、終身刑となった。三年後、ラウドを怒らせる小冊子を出版して再び訴追され、今度は「残っている耳」も切り落とされ、五千ポンドの罰金、両頬にS・L(扇動的中傷者)[訳注:Seditious Libeller]の烙印、そして終身投獄を宣告された。この判決の苛烈さは、その執行の野蛮な厳格さと釣り合っていた。――同書12頁

第三十三章への注

クライスト・ホスピタル、すなわちブルーコート校――「世界で最も気高い施設。」

グレイ・フライヤーズ修道院の土地は、ヘンリー八世がロンドン市法人に与えた(市法人はそこに貧しい少年少女のための施設を設けた)。のちにエドワード六世が修道院を適切に修復させ、その中にブルーコート校、またの名をクライスト・ホスピタルを創設した。そこは孤児と貧困者の子のための教育と扶養の施設である……エドワードは(リドリー司教に)手紙を書かせ、書き終えるまで帰さず、その手紙を自ら市長に届け、遅滞なく必要事項を提案し手続を進めるよう、特別の要請と命令を伝えるよう求めた。事業は熱心に進められ、リドリー自身も関わった。その結果、貧しい子どもの教育のためのクライスト・ホスピタルが設立された(国王は同時に他の慈善事業にも寄付した)。「主なる神よ」と彼は言った。「御名の栄光のため、この仕事を完成させるに足るほどの命を私に与え給うたことを、心より感謝します!」

その無垢で模範的な生涯は急速に終わりへ向かい、数日後、彼は「王国を教皇主義から守り給え」と祈りつつ、創造主に霊を返した。――J・ヘニエイジ・ジェシー『ロンドン――名士と名所。』

大広間には、玉座に座すエドワード六世の大きな絵が掛かっている。緋色と白テンの衣をまとい、左手に王笏を持ち、もう一方の手で、ひざまずく市長に勅許状を差し出している。脇に大法官が立ち、印章を持ち、その隣に他の国家高官。リドリー司教が手を上げてひざまずき、出来事への祝福を願うように見える。市長や市参事会員らが両側にひざまずき、中景を占める。前景には、片側に少年の列、もう片側に少女の列が二重に並び、校長と舎監から始まり、各列から一人ずつ進み出て、王の前に手を上げてひざまずく少年少女に至る。――ティムズ『ロンドン珍聞集』98頁

クライスト・ホスピタルは古い慣習により、君主がシティに入ってロンドン市法人の歓待を受ける際、君主に挨拶する特権を有する。――同書

食堂は玄関ロビーとオルガン回廊を含めて一階全体を占め、長さ187フィート(約57.0メートル)、幅51フィート(約15.5メートル)、高さ47フィート(約14.3メートル)。南側にステンドグラスの大窓が九つあり、ウェストミンスター・ホールに次ぐ、首都で最も壮麗な部屋である。ここで少年たち(現在およそ800人)が食事をし、また「公開夕食会」が催される。来訪者は会計係と理事が発行する券で入場できる。テーブルには木鉢のチーズ、革製の水差しから木のひしゃくでビールが注がれ、パンは大籠で運ばれる。役人たちが入場し、市長(または議長)が、塔近くのセント・キャサリン教会の樫で作られた儀礼椅子に座る。讃美歌がオルガン伴奏で歌われ、「グリーシアン(首席生徒)」が説教壇から祈りを読み、木槌を三度落として沈黙が命じられる。祈りのあと夕食が始まり、来訪者はテーブルの間を歩く。終わりには「トレード・ボーイズ(下級生ら)」が籠や木鉢、水差し、ひしゃく、燭台を持ち上げ、行列して退出する。理事に対するお辞儀は奇妙なほど形式的である。この光景は1845年、ヴィクトリア女王とアルバート王配も目撃した。

著名なブルーコート出身者として、アナクレオンとエウリピデスの編者ジョシュア・バーンズ、ギリシア文学を中心とする大批評家ジェレマイア・マークランド、古物研究家カムデン、スティリングフリート主教、小説家サミュエル・リチャードソン、アリストパネス翻訳のトマス・ミッチェル、『ロンドン・タイムズ』編集長を長年務めたトマス・バーンズ、コールリッジ、チャールズ・ラム、リー・ハントがいる。

入学は七歳未満不可、九歳を超えると不可。十五歳を超えて在学できない(「キングズ・ボーイ(奨学生)」たちと「グリーシアン」を除く)。現在の理事は約500人で、国王とウェールズ公が筆頭。理事の資格は500ポンドの支払いである。――同書

総注

「コネティカットの忌まわしいブルー・ロー」という言い方はよく耳にし、名が出るたび、敬虔に身震いするものだ。だがアメリカには――そしてイングランドにさえ! ――それが悪意と無慈悲と非人道の記念碑だと信じている者がいる。実際には、それは「文明」世界が見た、ほとんど最初の司法の残虐からの大転換だったのである。二百四十年前のこの人道的で親切なブルー・ロー法典は、血まみれの法の長い時代を背にし、さらにこちら側にも百七十五年にわたる血塗られたイングランド法の時代を控えながら、ただ一つ孤立して立っている。

コネティカットで死刑に処せられる犯罪が、ブルー・ロー下であれ他の法の下であれ、十四を超えたことは一度もない。だがイングランドでは、いまなお壮健な人々の記憶の中で、二百二十三の犯罪が死刑に処せられていた! この事実は知るに値し、考えるに値する。

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