王子と乞食
The Prince and the Pauper
- 出版年
- 1881年
- 作者
- マーク・トウェイン
- 翻訳
- 開原 藍誠
- 概要
- 瓜二つの王子と乞食の少年が衣服を交換し、身分が入れ替わる物語である。対極の環境で社会の不条理を体験した二人は、過酷な運命に翻弄されながらも、真の人間性と正義について学んでいく。
これから書きとめるのは、ある人から聞いた物語である。その人は父親から聞き、その父親もまたその父親から、さらにその父親も同じように父親から聞いたという。そうして三百年以上も昔へとさかのぼり、父から子へ語り継がれてきた物語なのだ。歴史上の事実かもしれないし、ただの伝説、言い伝えにすぎないかもしれない。実際に起こったことかもしれず、起こらなかったことかもしれない。だが、起こりえたことではある。昔は賢人や学者も信じていたのかもしれないし、学問のない素朴な人々だけが愛し、信じていたのかもしれない。
第一章 王子と乞食の誕生
十六世紀の第二四半世紀、ある秋の日、古都ロンドンのキャンティという貧しい一家に、男の子が生まれた。一家はその子を望んではいなかった。同じ日、同じイングランドのテューダーという裕福な一家にも、男の子が生まれた。こちらは望まれて生まれた子だった。イングランド中が望んでいた子でもあった。人々は長いあいだその誕生を待ち焦がれ、望みをかけ、神に祈っていたので、いよいよ本当に生まれたとなると、喜びのあまり正気を失いかけた。顔見知りというだけの者同士が抱き合い、口づけを交わし、涙を流した。誰もが仕事を休み、身分の高い者も低い者も、金持ちも貧乏人も、ごちそうを食べ、踊り、歌い、すっかりいい気分になった。それが何日も何晩も続いた。昼のロンドンは見ものだった。どの露台にも屋根にも華やかな旗がひるがえり、壮麗な祝賀行列が通りを練り歩いた。夜もまた見ものだった。街角ごとに大きなかがり火が燃え、そのまわりで大勢が浮かれ騒いでいた。イングランド中の話題は、生まれたばかりの赤ん坊、ウェールズ公エドワード・テューダー一色だった。当の赤ん坊は絹やサテンにくるまれ、この大騒ぎを何も知らず、大貴族や貴婦人たちに世話をされ、見守られていることにも気づかず――もちろん、気にもかけずに寝ていた。一方、みすぼらしいぼろにくるまれたもう一人の赤ん坊、トム・キャンティのことは、その誕生によってまた厄介事を抱え込んだ貧しい一家のほか、誰も話題にしなかった。

第二章 トムの幼いころ
ここで何年か飛ばすことにしよう。
ロンドンは千五百年の歴史を持つ、当時としては大きな都市だった。人口は十万人――その倍はいたという説もある。道はひどく狭く、曲がりくねり、汚れていた。とりわけ、ロンドン橋からさほど遠くない、トム・キャンティの住むあたりはそうだった。家々は木造で、二階は一階より張り出し、三階はさらに二階よりも肘を突き出していた。高くなるほど幅が広くなる家だった。丈夫な梁を縦横に組んで骨組みとし、その隙間を堅い材料で埋めて、漆喰で塗り固めてあった。梁は持ち主の好みによって赤や青や黒に塗られ、そのため家々はじつに絵のような趣があった。窓は小さく、菱形の小さなガラスがはめ込まれ、蝶番がついていて、扉のように外へ開いた。
トムの父親が住んでいた家は、プディング・レーンから入り込んだ、オーファル・コートという汚い小さな袋小路にあった。小さく、朽ちかけ、がたがたの家だったが、惨めなほど貧しい家族がぎっしり詰まっていた。キャンティ一家は三階の一室を占めていた。父と母には隅に寝台らしいものがあったが、トムと祖母、二人の姉のベットとナンには、そういう窮屈な決まりはなかった。床全部が自分たちのもので、好きなところに寝られたのだ。毛布の残骸が一、二枚と、古びて汚れた藁の束がいくつかあったが、これを寝床と呼ぶのは無理だった。きちんと整えられていたわけではなく、朝になると蹴飛ばしてひと山にし、夜になるとその山から適当に選んで使うのだった。

ベットとナンは十五歳の双子だった。心根の優しい娘たちだったが、体は汚れ、着物はぼろで、何ひとつ学問を知らなかった。母親も同じだった。だが父親と祖母は、二人そろって鬼のようだった。酒が手に入りさえすれば酔っぱらい、互いにつかみ合うか、行き合わせた誰かにけんかをふっかけた。酔っていようがいまいが、口から出るのは悪態と罵りばかり。ジョン・キャンティは泥棒で、その母親は物乞いだった。子供たちにも物乞いをさせたが、泥棒に仕立てることはできなかった。この家に住むひどい連中に交じりながら、けっしてその仲間には染まらない、善良な老神父が一人いた。王に住まいを追われ、わずか数ファージング[訳注:一ファージングは一ペニーの四分の一]の年金で暮らしていたこの神父は、よく子供たちを人目のないところへ呼び、ひそかに正しい生き方を教えた。アンドリュー神父はトムに少しばかりのラテン語と読み書きも教えた。姉たちにも教えてやりたかったが、二人は友達にからかわれるのを恐れた。そんな変わった芸当を身につければ、仲間は黙っていなかっただろう。
オーファル・コートはどこもかしこも、キャンティの家と同じような人間の巣だった。毎晩、それもほとんど夜通し、酔っぱらいの乱痴気騒ぎとけんかが絶えなかった。頭をかち割られるのは、腹をすかせるのと同じくらいありふれたことだった。それでも幼いトムは不幸ではなかった。つらい暮らしだったが、本人はそうとは知らなかった。オーファル・コートの男の子はみな同じ暮らしをしていたから、これが当たり前で、気楽なものなのだと思っていた。夜、手ぶらで帰れば、まず父親が罵って殴り、父親がすむと、恐ろしい祖母が同じことを、もっと念入りに繰り返す。それは承知していた。そして夜も更けると、飢えた母親がそっと忍び寄り、自分が食べるのを我慢して取っておいた、ほんの小さな食べ残しやパンの耳をくれることも知っていた。母親はそういう裏切りをたびたび夫に見つかり、ひどく殴られていたのだが。

そう、トムの暮らしはまずまずだった。とくに夏はそうだった。物乞いを禁ずる法律は厳しく、罰も重かったので、トムは自分の身を守れるだけの物乞いしかしなかった。そのぶん、優しいアンドリュー神父の語る、巨人や妖精、小人や魔神、魔法の城、きらびやかな王や王子の、面白い昔話や伝説を聞いて過ごす時間がたっぷりあった。頭の中は、そうした不思議なものでいっぱいになった。疲れ、飢え、殴られた傷がうずく夜、暗闇の中で、わずかな臭い藁に横たわると、トムは幾度となく想像の翼を広げた。宮殿で大切に育てられる王子の夢のような暮らしを、うっとりと思い描くうちに、痛みも苦しみも忘れてしまうのだった。やがて、昼も夜も心から離れぬ願いが一つ生まれた。本物の王子を、この目で見たい。オーファル・コートの仲間に一度そのことを話したが、あまりにも容赦なくからかわれ、あざ笑われたので、それからは夢を胸にしまっておくことにした。

トムは神父の古い本をよく読み、意味を説明してもらったり、詳しい話を聞かせてもらったりした。夢と読書は、しだいにトムを変えていった。夢に出てくる人々があまりに立派なので、自分のぼろ服と汚れた体が悲しくなり、清潔にして、もっとましな服を着たいと思うようになった。相変わらず泥の中で遊び、それを楽しんではいたが、テムズ川で水をはね散らすのも、ただ面白いだけではなくなった。体を洗い、きれいにできるという、もう一つのよさを見いだしたのだ。
チープサイドの五月柱[訳注:五月祭で飾りつけ、その周囲で踊る柱]のまわりや縁日へ行けば、いつでも何か面白いことがあった。時には、名のある不運な人物が陸路や船でロンドン塔へ送られるのを、ほかのロンドン市民と一緒に見物し、兵隊の行列を眺める機会もあった。ある夏の日には、気の毒なアン・アスキューと三人の男がスミスフィールドで火あぶりにされるのを見た。元司教が彼らに説教をするのも聞いたが、トムには面白くなかった。そう、全体として、トムの暮らしは変化に富み、なかなか愉快なものだった。

そのうち、王子の暮らしについて読んだり夢見たりすることが、トムにあまりに強く働きかけたので、知らず知らず王子のように振る舞うようになった。言葉遣いも物腰も、不思議なほど儀礼正しく宮廷風になり、親しい仲間を大いに感心させ、面白がらせた。だが、子供たちのあいだでのトムの力は日ごとに増していった。やがて仲間は、トムを自分たちより優れた存在として、不思議な畏敬の念をもって仰ぐようになった。なんと物知りなのだろう。なんとすごいことを言い、すごいことができるのだろう。それに、なんと考えが深く、賢いのだろう。少年たちはトムの言葉や振る舞いを大人たちに話し、大人たちもやがてトム・キャンティを話題にし、並外れた才能を持つ、ただ者ではない子だと思うようになった。立派な大人が難しい問題を持ち込み、解決を頼むようになり、その判断の機知と賢さに驚かされることも多かった。じつのところ、トムは知り合いの誰からも英雄扱いされていた。ただし自分の家族だけは別で、この者たちだけは、トムに何の取り柄も認めていなかった。

やがてトムは、ひそかに宮廷を組織した。自分が王子となり、とくに親しい仲間は、近衛兵、侍従、侍従武官、貴族、女官、王族を務めた。毎日、このまねごとの王子は、トムが物語の本から借りてきた大げさな儀式で迎えられた。毎日、まねごとの王国の重大事が御前会議で話し合われ、毎日、まねごとの殿下は、空想の陸軍や海軍、各地の総督府へ命令を発した。
それがすむと、ぼろ服のまま出かけて数ファージングを恵んでもらい、粗末なパンの耳を食べ、いつものように殴られ、罵られ、それから汚れたひとつかみの藁に身を伸ばし、夢の中で空しい栄華の続きを楽しむのだった。
それでも、たった一度でいい、生身の本物の王子を見たいという願いは、日ごと、週ごとに強まり、ついにはほかの願いをすべて呑み込んで、生きるうえでただ一つの情熱となった。

一月のある日、いつもの物乞いに出たトムは、ミンシング・レーンとリトル・イースト・チープのあたりを、何時間もとぼとぼ行ったり来たりしていた。裸足で寒さに震えながら、料理屋の窓をのぞき、並べてあるひどい豚肉のパイや、ほかの命取りになりそうな料理を、食べたくてたまらなかった。トムには、どれも天使にふさわしいごちそうに思えたのだ。もっとも、匂いから判断しての話である。一つ買って食べるなどという幸運には、まだ一度も巡り合ったことがなかった。冷たい霧雨が降り、空気はどんより濁っていた。陰気な一日だった。夜、トムはびしょ濡れで、疲れきり、腹をすかせて家に帰りついた。その惨めな姿を見て、父親と祖母も心を動かさずにはいられなかった――むろん、二人なりの動かし方で。そこで二人はさっそく威勢よく殴りつけ、寝かせてやった。痛みと空腹、家中で続く罵り声とけんかのために、トムは長いこと眠れなかったが、やがて心は遠い夢物語の国へ漂っていった。宝石と黄金で飾り、大きな宮殿に住み、召使いに深々とお辞儀をさせたり、命令ひとつで走り回らせたりする王子たちに囲まれて、眠りに落ちた。そしていつものように、自分も王子になった夢を見た。
一晩中、王子の身分の栄光がトムを照らした。まばゆい光の中、貴族や貴婦人に交じって歩き、芳香を吸い込み、妙なる音楽に聞きほれた。きらびやかな人々が左右に分かれて道をあけ、うやうやしく頭を下げると、こちらには笑顔を、あちらには王子らしいうなずきを返した。
朝、目が覚め、まわりの惨めなありさまを見ると、夢はいつもの効き目を現した。身のまわりの汚らしさが、千倍にもひどく感じられたのだ。すると、苦しみが、悲しみが、涙がやってきた。


第三章 トム、王子に会う
トムは空腹のまま起き上がり、空腹のままぶらぶら出かけたが、頭の中は夜の夢の、はかない輝きでいっぱいだった。町をあちこち歩き回りながら、どこへ向かっているのか、まわりで何が起きているのか、ほとんど気づかなかった。人々に押しのけられ、乱暴な言葉を浴びせられたりしたが、夢想にふける少年の耳には入らなかった。やがて気づくとテンプル・バーにいた。こちらの方角へ、家からこれほど遠く来たことはなかった。立ち止まって少し考え、それからまた空想に沈み、ロンドンの市壁の外へ歩いていった。そのころストランドは、もはや田舎道ではなく、自分では街路のつもりだったが、そう呼ぶには少々無理があった。片側にはかなりぎっしりと家が並んでいたものの、反対側には大きな建物がいくつか散らばっているだけだったからだ。それらは裕福な貴族の館で、川まで広々とした美しい庭園が続いていた。いまやその庭園も、陰気な煉瓦と石の建物で、隙間なく埋め尽くされている。
ほどなくチャリング村に行き着き、昔、妃を亡くした王が建てた美しい十字架のそばでひと休みした。それから静かで美しい道をのんびり下り、偉大な枢機卿の堂々たる館を過ぎ、その向こうにある、はるかに壮大で威厳に満ちた宮殿――ウェストミンスターへと向かった。トムは喜びと驚きに満ちた目で、巨大な石造りの建物を見つめた。左右に長く伸びる棟、いかめしい堡塁と小塔、金ぴかの格子を備えた大きな石の門。その門には花崗岩の巨大な獅子が見事に並び、そのほかにもイングランド王家を示すしるしや紋章があった。胸の奥の願いは、とうとうかなうのだろうか。まさしく王の宮殿がここにある。いまなら王子に会えるかもしれない――天のお許しさえあれば、生身の王子に。
金ぴかの門の両側には、生きた彫像が一体ずつ立っていた。つまり、頭の先から足の先まで輝く鋼鉄の鎧をまとい、背筋を伸ばし、堂々と身じろぎもしない兵士だった。少し離れたところには、田舎から来た人や町の人が大勢いて、王族をひと目でも見られる機会を待っていた。王宮の敷地を囲む塀には、ほかにも立派な門がいくつかあり、豪華な人々を乗せ、外には豪華な召使いを従えた豪華な馬車が、出たり入ったりしていた。
ぼろをまとった哀れなトムは近寄っていき、胸をどきどきさせ、期待をふくらませながら、おずおずと番兵の前を通りかかった。そのとき突然、金の格子の向こうに、思わず歓声を上げそうになる光景が見えた。中に、美しい少年がいた。丈夫そうで、屋外の遊びや運動に励んでいるらしく、顔は褐色に日焼けしていた。身につけているものはみな美しい絹やサテンで、宝石がきらめいていた。腰には宝石をちりばめた小さな剣と短剣、足には赤いかかとの優美な半長靴。頭には粋な深紅の帽子をかぶり、大きく輝く宝石で留めた羽根飾りが垂れていた。そばには華やかな服装の紳士が何人か立っていた。間違いなく召使いだ。ああ、王子だ。王子だ、生きている王子、本物の王子だ。疑う余地はかけらもなかった。貧しい少年の心からの祈りが、ついに聞き届けられたのだ。
トムは興奮のあまり息がせわしくなり、驚きと喜びで目を大きく見開いた。たちまち、ほかの思いはすべて消え、たった一つの願いだけになった。王子のそばへ行き、心ゆくまで、むさぼるように見つめたい。自分でも気づかぬうちに、顔を門の格子へ押しつけていた。次の瞬間、兵士の一人が乱暴に引きはがし、ぽかんと見物していた田舎者やロンドンの暇人の群れへ、くるくる回るほどの勢いで突き飛ばした。兵士は言った――
「行儀をわきまえろ、この乞食小僧!」
群衆ははやし立て、笑った。だが幼い王子は、顔を赤らめ、怒りに目を光らせて門へ駆け寄り、叫んだ――
「よくも、かわいそうな子にそんな仕打ちができるな! 父上である王の臣民なら、どれほど身分の低い者でも、そんな扱いは許さぬ! 門を開けて、その子を入れよ!」

そのとたん、この移り気な群衆が一斉に帽子を脱いださまを、お見せしたかった。歓声を上げ、「ウェールズ公殿下万歳!」と叫ぶ声を、お聞かせしたかった。
兵士たちは槍斧を捧げて敬礼し、門を開いた。そして、小さな貧乏国の王子がぼろをひらひらさせて中へ入り、限りない富の国の王子と手を取り合うと、もう一度敬礼した。
エドワード・テューダーは言った――
「疲れて、腹をすかせているようだな。ひどい目に遭ったのだね。わたしとおいで。」
六人ばかりの従者が飛び出してきた。何をしようとしたのかは知らない。きっと邪魔をするつもりだったのだろう。だが王者そのものの手振りで退けられ、その場に彫像のように立ちすくんだ。エドワードはトムを、自分の書斎と呼んでいる宮殿の豪華な一室へ連れていった。命令ひとつで、トムが本の中でしか見たことのない食事が運ばれてきた。王子は王子らしい細やかな心遣いと育ちのよさから、召使いたちを下がらせた。彼らの品定めするような視線で、身分の低い客が気兼ねしないようにしたのだ。それから近くに腰を下ろし、トムが食べるあいだ、いろいろ尋ねた。
「名前は何という?」
「トム・キャンティと申します、殿下。」
「変わった名だな。どこに住んでいる?」
「町の中でございます。プディング・レーンの奥の、オーファル・コートです。」
「オーファル・コート! それもまた変わった名だ。親はいるのか?」
「はい、父と母がおります。それに祖母もおりますが、あまりありがたい祖母ではございません。こんなことを申すのが罪でしたら、神様にお許しを願います。それから、ナンとベットという双子の姉がおります。」
「すると、祖母はあまり優しくないのだな?」
「誰に対しても優しくはございません。意地が悪くて、朝から晩までひどいことばかりいたします。」
「おまえにも、ひどいことをするのか?」
「手を休めることもございます。眠っているときや、酔いつぶれているときなどは。ですが、頭がはっきりすると、そのぶんまでたっぷり殴られます。」
幼い王子の目が激しく光り、声を上げた――
「何だと! 殴るのか?」
「ええ、殿下。それはもう。」
「殴るだと! ――こんなに弱くて小さいのに。よく聞け。今夜までには、その祖母をロンドン塔へ入れてやる。父上に――」
「ですが殿下、祖母の身分の低さをお忘れです。ロンドン塔へ入るのは、偉い方だけでございます。」
「なるほど、そうだった。そこまでは考えなかった。罰は改めて考えよう。父親は優しいか?」
「キャンティばあさんと変わりません、殿下。」
「父親というものは、みな似ているのかもしれない。わたしの父上も、人形のようにおとなしくはない。手厳しい方だが、わたしには手を上げない。ただ、口ではいつも容赦してくださるわけではないがね。母親はどうだ?」
「優しい母です。悲しい思いも、痛い思いも、けっしてさせません。ナンもベットも、その点は母に似ております。」
「姉たちはいくつだ?」

「十五でございます、殿下。」
「姉のレディ・エリザベスは十四で、いとこのレディ・ジェーン・グレイはわたしと同い年だ。美しくて優しい。それにひきかえ、姉のレディ・メアリーときたら、いつも陰気な顔で――そうだ、おまえの姉たちも、笑うと罪で魂が滅びるからといって、召使いたちに笑うことを禁じているのか?」
「姉たちがですか? 殿下、姉たちに召使いがいるとお思いなのですか?」
幼い王子は幼い乞食をしばらく真顔で見つめ、それから言った――
「どうして、いてはいけない? 夜、服を脱がせるのは誰だ? 起きたとき、着せてやるのは誰だ?」
「誰もおりません。服を脱いで、裸で眠れとおっしゃるのですか――獣みたいに?」
「服を! 一着しかないのか?」
「ですが殿下、もっとあって何に使うのでしょう。体は二つもございませんのに。」
「それは変わった、面白い考え方だな! 許してくれ、笑うつもりではなかった。だが、優しいナンとベットには、服も召使いもたっぷり持たせてやろう。すぐにだ。わたしの会計係に世話をさせる。いや、礼には及ばない。何でもないことだ。おまえは話し方がうまいな。無理のない品がある。学問はあるのか?」
「あるのかないのか、自分ではわかりません。アンドリュー神父というお優しい神父様が、ご親切にも、本を使って教えてくださいました。」
「ラテン語はできるか?」
「ほんの少ししかできません、殿下。」
「勉強するといい。難しいのは初めだけだ。ギリシャ語のほうが難しい。だが、レディ・エリザベスといとこには、そのどちらも、ほかのどんな言葉も、難しくはないらしい。二人が話すのを聞かせたいものだ。それより、おまえのオーファル・コートの話をしてくれ。そこでは楽しく暮らしているのか?」
「はい、殿下。腹がすいているとき以外は、楽しいものです。パンチとジュディの人形芝居がありますし、猿もおります――それはおかしな生き物で、見事な衣装を着ているのです。それからお芝居もあります。役者が大声を上げて戦い、みんな死んでしまうまで続けるのですが、見ていて本当に面白くて、たった一ファージングで見られます。もっとも、その一ファージングを手に入れるのが、たいそう難しいのですが。」
「もっと聞かせてくれ。」
「オーファル・コートの子供たちは、ときどき、徒弟たちのまねをして、棒で打ち合いをいたします。」
王子の目が輝いた。そして言った――
「なるほど、それはわたしも嫌いではなさそうだ。もっと聞かせてくれ。」
「かけっこもいたします。誰がいちばん速いか競うのです。」
「それもやってみたいな。続けてくれ。」
「夏には、殿下、運河や川に入って泳ぎます。隣の子を水に沈めたり、水をかけたり、潜ったり、叫んだり、ひっくり返ったり、それから――」
「一度でもそれを楽しめるなら、父上の王国にも値する! 頼む、続きを。」
「チープサイドの五月柱のまわりで踊ったり歌ったり、砂遊びをして、互いを砂に埋めたりいたします。ときには泥でお菓子を作ります――ああ、あのすばらしい泥! あれほど楽しいものは世界中にありません。恐れながら申し上げますと、泥の中をころげ回るのです、殿下。」
「ああ、もう言わないでくれ。なんてすばらしいんだ! おまえのような服を着て、裸足になって、誰にも叱られず、止められず、一度だけ、たった一度だけ泥の中で思いきり遊べるなら、王冠を捨ててもいいと思う!」
「わたしも、殿下のお召し物のような服を一度着られたなら――たった一度でも――」
「おや、着てみたいのか? では、そうしよう。そのぼろを脱いで、この立派な服を着るがいい。ほんのしばらくの楽しみだが、だからといって喜びが減るわけではない。いまのうちに楽しんで、誰かが邪魔しに来る前に、また取り替えよう。」

数分後、幼いウェールズ公は、トムのひらひらするぼろの切れ端で身を飾り、幼い乞食国の王子は、王家のきらびやかな羽根をまとっていた。二人は大きな鏡の前へ行き、並んで立った。すると、なんという不思議だろう。何ひとつ変わっていないように見えたのだ。互いを見つめ、鏡を見つめ、もう一度互いを見つめた。やがて、困惑した王子が言った――
「これはどういうことだと思う?」
「ああ、殿下、お答えをお求めにならないでください。わたしのような身分の者が、口にしてよいことではございません。」
「では、わたしが言おう。おまえは髪も、目も、声も、物腰も、体つきも背丈も、顔も表情も、わたしとそっくりだ。二人とも裸で出ていったら、どちらがおまえで、どちらがウェールズ公か、誰にもわかるまい。それに、おまえの着ていた服を着たいま、あの乱暴な兵士に――そうだ、おまえの気持ちが前よりわかる気がする。おい、その手にあるのは、あざではないか?」
「はい。ですが、大したことではございません。それに殿下、あの気の毒な兵士は――」
「黙れ! 恥ずべき、むごい仕打ちだ!」幼い王子は裸足で床を踏み鳴らした。「父上が知ったら――わたしが戻るまで一歩も動くな! 命令だ!」
王子はたちまち、卓上にあった国家にとって重要な品をつかんでしまい込み、扉を飛び出した。そして顔を紅潮させ、目を燃やし、ぼろを旗のようにはためかせて、宮殿の庭を駆け抜けた。大門に着くなり格子をつかみ、揺さぶろうとして叫んだ――
「開けよ! 門を開けよ!」
トムを手荒く扱った兵士は、すぐに従った。王子が王者の怒りに息も詰まらせんばかりに門から飛び出すと、兵士は耳のあたりを大きな音を立てて張り飛ばし、道へ転がして言った――
「これでも食らえ、乞食のせがれ! おまえのせいで殿下に叱られたお返しだ!」
群衆はどっと笑った。王子は泥の中から身を起こし、猛然と番兵へ向かって叫んだ――
「わたしはウェールズ公だ! わたしの身は侵してはならぬ! 手を上げたからには、おまえを絞首刑にしてやる!」
兵士は槍斧を捧げ、からかうように言った――
「これはこれは、殿下に敬礼いたします。」
それから怒鳴った――「失せろ、この気違いのくずめ!」

すると、はやし立てる群衆が哀れな幼い王子を取り囲み、道のずっと先まで押しやった。嘲り、声を上げながら――
「殿下のお通りだ! ウェールズ公殿下のお通りだ!」

第四章 王子の苦難が始まる
何時間もしつこく追い回され、いたぶられた末、幼い王子はようやく群衆に見捨てられ、一人になった。群衆に怒りをぶつけ、王者らしく脅しつけ、王者らしく命令を下しているうちは、それが格好の笑いの種となり、たいそう面白がられた。だが、ついに疲れきって口が利けなくなると、いじめる側にも用がなくなり、別の楽しみを探しに行ってしまった。王子はあたりを見回したが、どこなのかわからなかった。ロンドンの町の中にいる――わかるのはそれだけだった。あてもなく歩き出すと、ほどなく家並みはまばらになり、通行人も少なくなった。いまのファリンドン・ストリートがあるところには、当時、小川が流れていた。王子はそこへ血のにじむ足を浸し、少し休んでから、また歩き続けた。やがて、家が数軒散らばり、巨大な教会の建つ広い場所に出た。その教会には見覚えがあった。大がかりな修理の最中で、いたるところに足場が組まれ、職人たちが群がっていた。王子はたちまち元気づいた。これで苦難も終わると思ったのだ。独り言を言った。「あれは昔からあるグレイ・フライアーズ教会だ。父上が修道士から取り上げ、貧しい、見捨てられた子供たちの永遠の住まいとしてお与えになり、クライスト・チャーチと改めて名づけられたのだ。あれほど慈悲深いことをしてくださった方の息子なら、きっと喜んで助けてくれるだろう。しかも、その息子自身が、今日ここで守られている子供や、これから守られるどの子にも劣らず、貧しく、頼る者のない身なのだから。」
まもなく王子は、大勢の少年たちの中に入っていった。少年たちは走ったり跳んだり、球遊びや馬跳びをしたり、さまざまに、それもたいそう騒々しく遊んでいた。全員が同じ服装で、それは当時、下男や徒弟のあいだで普通のものだった。つまり、頭のてっぺんには受け皿ほどの平たい黒帽子。小さすぎて頭を覆う役にも立たず、飾りにもなっていなかった。その下から、分け目のない髪が額の半ばまで垂れ、ぐるりと一直線に切りそろえられていた。首には聖職者風の襟飾り。体にぴったりした青い長衣は膝か、それより下まであり、袖はふくらみ、幅広い赤帯を締めていた。鮮やかな黄色の靴下を膝の上で留め、足には大きな金属の留め金のついた短靴を履いていた。十分すぎるほど醜い服装だった。
少年たちは遊びをやめて王子のまわりに集まった。王子は生まれつきの威厳をもって言った――
「諸君、そなたたちの先生に伝えてくれ。ウェールズ公エドワードが話をしたいと申している、と。」
これを聞くと大歓声が上がり、無作法な一人が言った――
「へえ、乞食、おまえは殿下のお使いか?」
王子の顔は怒りに赤らみ、手がとっさに腰へ飛んだ。だが、そこには何もなかった。どっと笑いが起こり、一人の少年が言った――
「見たか? 剣を持ってるつもりだぞ。きっと王子様ご本人なんだ!」
この冗談で、笑いはいっそう大きくなった。哀れなエドワードは誇り高く背筋を伸ばして言った――
「わたしは王子だ。父上である王の恵みで食べている者が、わたしをそのように扱うのは恥ずべきことだ。」
これはたいそう受けた。笑い声が何よりの証拠だった。初めに口を開いた少年が仲間へ叫んだ――
「おい、豚ども、奴隷ども、殿下のご立派な父上に食わせてもらってる連中、礼儀はどうした? みんな膝をつけ! あの王者の威風と、王家のぼろに頭を下げろ!」
少年たちは大騒ぎで笑いながら、一斉にひざまずき、獲物にふざけた拝礼をした。王子はいちばん近くの少年を足で蹴りのけ、激しく言った――
「まずはこれを受けておけ! 明日になれば、おまえのために絞首台を立ててやる!」
ああ、これはもう冗談ではなかった。遊びの一線を越えていた。笑いはぴたりとやみ、怒りに変わった。十人ばかりが叫んだ――
「引きずり出せ! 馬池へ放り込め、馬池へ! 犬はどこだ? おい、ライオン! ファングズ!」
そして、イングランドがそれまで一度も見たことのない光景が続いた。王位継承者の神聖な体が、庶民の手で乱暴に打たれ、犬に襲われ、噛み裂かれたのだ。

その日の暮れ方、王子は家々の密集する町の奥深くにいた。体じゅうあざだらけで、手は血に染まり、ぼろ服は泥まみれだった。歩いても歩いても迷うばかりで、疲れと衰弱のあまり、足を一歩ずつ引きずるのもやっとだった。もう人に道を尋ねることはしなかった。尋ねても教えてもらえず、侮辱されるだけだったからだ。王子は繰り返しつぶやいた。「オーファル・コート――そういう名だった。力を使い果たして倒れる前に、そこさえ見つかれば助かる。あの子の家族が宮殿へ連れていき、わたしが家族の者ではなく、本当の王子だと証明してくれる。そうすれば、わたしのものはすべて戻ってくる。」
ときどき、クライスト・ホスピタルの乱暴な少年たちの仕打ちが頭によみがえり、こう言った。「王になったら、あの子たちには食べ物と住まいだけでなく、本で学ぶ機会も与えよう。腹が満ちても、頭と心が飢えていては、何にもならない。今日の教訓を無駄にして、民を苦しませないよう、しっかり覚えておこう。学問は心を和らげ、優しさと慈悲を育てるのだから。」
明かりがちらほらとともり、雨が降り出し、風が強まった。冷たく突風の吹く夜がやってきた。屋根もなく、帰る家もないイングランド王位の継承者は、なお歩き続け、貧困と悲惨の人間の巣がぎっしり集まる、汚い路地の迷路へ、ますます深くさまよい込んでいった。
突然、大柄な酔っぱらいの悪党が襟首をつかんで言った――

「またこんな夜更けまでうろつきやがって、一ファージングも持って帰らねえんだろう! そうなら、そのやせっぽちの骨を一本残らずへし折ってやる。できなきゃ、おれはジョン・キャンティじゃねえ!」
王子は体をひねって逃れ、汚された肩を無意識に払いながら、勢い込んで言った――
「ああ、本当にあの子の父親なのか? どうか、そうでありますように! それなら、あの子を連れ戻して、わたしを元どおりにしてくれるな!」
「あの子の父親だと? 何を言ってるんだかわからねえが、おれがおまえの父親だってことだけは確かだ。すぐに思い知らせて――」
「ふざけないでくれ、ごまかさないでくれ、ぐずぐずしないでくれ! 疲れ果て、傷ついて、もう耐えられないのだ。父上である王のところへ連れていってくれ。想像もつかぬほどの金持ちにしてくださる。信じてくれ、お願いだ、信じてくれ! 嘘ではない、本当のことなのだ! 手を差し伸べて、助けてくれ。わたしは本当にウェールズ公なのだ!」
男はあっけに取られて少年を見下ろし、それから首を振ってつぶやいた――
「まるでベドラムの狂人[訳注:ベドラムはロンドンの精神病院の通称]だ。すっかりいかれちまった!」そして、もう一度襟首をつかむと、下品に笑い、悪態をついて言った。「だが、気が違っていようがいまいが、おれとキャンティばあさんで、その骨のやわらけえところをすぐに探し当ててやる。できなきゃ男じゃねえ!」
そう言って、必死に暴れ、もがく王子を引きずっていき、喜び騒ぐ人間の害虫の群れを従えて、表の中庭へ消えた。


第五章 貴族になったトム
王子の書斎に一人残されたトム・キャンティは、この機会を存分に利用した。大きな鏡の前であちらを向き、こちらを向き、立派な衣装に見とれた。それから王子の育ちのよい身のこなしをまねて歩き、やはり鏡で出来栄えを確かめた。次に美しい剣を抜き、刃に口づけし、胸に横たえてお辞儀をした。五、六週間前、ノーフォークとサリーの大貴族をロンドン塔へ引き渡した高貴な騎士が、塔の副長官にそうして挨拶するのを見たのだ。トムは腰の宝石入りの短剣をもてあそび、部屋にある高価で精巧な飾り物を調べ、豪華な椅子に一つずつ腰掛けてみた。オーファル・コートの連中がここをのぞいて、この立派な姿を見てくれたら、どんなに誇らしいだろうと思った。家に帰ってこのすばらしい話をしたら、みんなは信じるだろうか。それとも首を振り、空想のしすぎでとうとう頭がおかしくなったと言うだろうか。
半時間もたつと、王子の帰りがずいぶん遅いことに、ふと気づいた。すると急に寂しくなった。じきに耳を澄ませ、帰りを待ち焦がれるようになり、まわりの美しい品をいじるのもやめた。不安になり、落ち着かなくなり、やがて胸が苦しくなった。もし誰かが来て、王子の服を着た自分を見つけたら、どうなるだろう。説明してくれる王子はいない。すぐに首をつられ、事情を調べるのはあと回しになるのではないか。偉い人は小さなことほど手早く片づける、と聞いていた。恐怖はますます募り、トムは震えながら控えの間の扉をそっと開けた。ここから飛び出し、王子を探して、守ってもらい、自由にしてもらおうと決心したのだ。すると、華やかな衣装の紳士従者が六人と、蝶のような服を着た身分の高い若い小姓が二人、さっと立ち上がり、深々と頭を下げた。トムはあわてて後ずさりし、扉を閉めた。そして言った――

「ああ、みんな、ぼくをからかってるんだ! きっと言いつけに行く。ああ、どうして命を捨てるようなところへ来てしまったんだろう!」
トムは得体の知れない恐怖に取りつかれ、部屋を行ったり来たりした。耳を澄ませ、ほんの小さな音にもびくりとした。やがて扉が開き、絹を着た小姓が告げた――
「レディ・ジェーン・グレイでございます。」
扉が閉まり、豪華な衣装の愛らしい少女が、弾むように近づいてきた。だが突然足を止め、心配そうに言った――
「まあ、殿下、どうなさいましたの?」
トムは息も絶えそうだったが、どうにかどもりながら言った――
「ああ、どうかお慈悲を! 本当は殿下なんかではありません。町のオーファル・コートに住む、貧しいトム・キャンティです。どうか王子様に会わせてください。王子様ならお情けでぼろを返してくださって、傷つけずに帰してくださいます。ああ、どうかお慈悲を、助けてください!」
そのときには、トムはひざまずき、言葉だけでなく、目でも、差し上げた両手でも懇願していた。少女は恐怖に打たれたようだった。そして叫んだ――

「まあ、殿下、ひざまずいて――わたしに!」
それから、おびえて逃げていった。トムは絶望に打ちのめされ、くずおれながらつぶやいた――
「もう助からない。望みはない。いまに迎えが来て、連れていかれるんだ。」
トムが恐怖でしびれたように横たわっているあいだ、恐ろしい知らせが宮殿を駆け巡っていた。ささやきは――必ずささやき声で語られたのだが――召使いから召使いへ、貴族から貴婦人へ、長い廊下を伝い、階から階へ、広間から広間へと飛んだ。「王子様がご乱心、王子様がご乱心!」
まもなく、どの広間にも、大理石のどの大広間にも、きらびやかな貴族や貴婦人が集まり、それより身分の低い、やはりまばゆい衣装の人々も群れを作った。みな真剣な顔でひそひそ話し、どの顔にも狼狽があった。やがて豪華な装いの役人が、それらの群れの前を歩きながら、厳かに布告した――
「国王陛下の御名において告ぐ!
この偽りにして愚かなる噂に耳を貸し、これを論じ、また外へ伝えることを禁ずる。背く者は死罪とする。国王陛下の御名において!」
ささやきは、話していた者たちが突然口を利けなくなったかのように、ぴたりとやんだ。
ほどなく廊下のあちこちにざわめきが走った。「殿下だ! ご覧、殿下がおいでになる!」
哀れなトムは、深々と頭を下げる人々の前をゆっくり歩いた。こちらもお辞儀を返そうとしながら、当惑した痛々しい目で、見慣れぬあたりをおとなしく見回した。両脇には大貴族がつき、トムをもたれかからせて足取りを支えた。後ろには宮廷医師と数人の召使いが続いた。

やがてトムは宮殿の立派な一室に入り、背後で扉が閉まる音を聞いた。付き添ってきた者たちがまわりに立った。少し離れた正面には、たいそう大柄で、たいそう太った男が横たわっていた。顔は幅広く、肉がたるみ、表情は厳しかった。大きな頭はほとんど白髪で、額縁のように顔のまわりだけに生やしたひげも白かった。衣服は上等な生地だったが古く、ところどころ少しほつれていた。腫れた片脚は包帯で巻かれ、枕に載せられていた。静まり返った室内で、この男を除くすべての者が、うやうやしく頭を垂れていた。この厳しい顔の病人こそ、人々に恐れられるヘンリー八世だった。王は口を開き、話し始めると顔つきが優しくなった――
「どうした、エドワード、わが王子よ。そなたを愛し、慈しんでいるこの父王を、つまらぬ冗談でからかうつもりか?」
哀れなトムは、ぼんやりした頭でできるかぎり話の初めを聞いていたが、「この父王」という言葉が耳に入ると、顔が真っ青になり、撃たれでもしたように、その場へひざまずいた。両手を差し上げ、叫んだ――
「あなた様が王様? では、もう本当におしまいです!」
この言葉に、王は打ちのめされたようだった。視線があてもなく人々の顔をさまよい、やがて、目の前の少年を困惑して見つめた。そして深く落胆した声で言った――
「ああ、噂は大げさなものと思っていたが、どうやら、そうではなかったらしい。」
王は大きくため息をつき、優しく言った。「父のところへおいで、わが子よ。そなたは病んでいるのだ。」
トムは助け起こされ、身を縮め、震えながら、イングランドの王のそばへ進んだ。王はそのおびえた顔を両手で包み、しばらく、愛情をこめて熱心に見つめた。正気の戻る喜ばしい兆しを探すかのように。それから巻き毛の頭を胸へ抱き寄せ、優しくなでた。やがて言った――
「父がわからぬのか、わが子よ。この老いた心を砕いてくれるな。わかると言ってくれ。わかるのだろう、そうだろう?」
「はい。あなた様は恐れ多くも、わが王様でいらっしゃいます。どうか神のお守りがございますように!」
「そうだ、そうだ。それでよい。安心せよ、そう震えるな。ここにそなたを傷つける者はおらぬ。そなたを愛さぬ者もおらぬ。もう少しよくなったな。悪い夢は消えかけておるのだろう? さきほど名乗ったという、間違った名を、もう二度と口にはせぬな?」
「どうかお情けで信じてください、恐れ多い王様。わたしは本当のことを申しただけです。わたしはお国の民の中でもいちばん卑しい、乞食に生まれた者です。何ひとつ悪いことはしていないのに、ひどい手違いと偶然で、ここにおります。死ぬには、まだ幼すぎます。陛下なら、たったひと言でお救いくだされます。どうか、そのひと言を!」
「死ぬだと? そのようなことを言うな、いとしい王子よ。心を鎮めよ、鎮めよ。そなたを死なせはせぬ!」
トムは喜びの声を上げ、ひざまずいた――
「王様、神様がそのお慈悲に報いてくださいますように。末永くこの国に幸いをもたらすため、陛下をお守りくださいますように!」
それから跳ね起き、控えていた二人の貴族へ喜びに輝く顔を向けて叫んだ。「お聞きになりましたね! わたしは死ななくてよいのです。王様がそうおっしゃいました!」
みなが厳粛に頭を下げたほかは、誰も動かなかった。口を開く者もいなかった。トムは少しまごついてためらい、それからおずおずと王へ向き直った。「もう帰ってもよろしいでしょうか?」

「帰る? むろん、望むならよい。だが、もう少しここにおらぬか。どこへ行きたいのだ?」
トムは目を伏せ、へりくだって答えた――
「思い違いだったのかもしれません。ですが、もう自由になれたと思い、生まれ育って惨めに暮らしてきた、あの犬小屋のような家へ帰りたくなったのです。それでも母と姉たちが住んでおりますから、わたしには家なのです。こちらの華やかさや豪華さには、慣れておりません。ああ、どうか、帰らせてください!」
王はしばらく黙って考え込んだ。顔には、ますます深まる苦悩と不安が現れていた。やがて、いくらか希望をこめた声で言った――
「あるいは、ただこの一点でのみ正気を失い、ほかのことには知恵が損なわれておらぬのかもしれぬ。神よ、そうでありますように! 試してみよう。」
そしてトムにラテン語で質問し、トムも同じ言葉で、たどたどしく答えた。貴族や医師たちも喜びをあらわにした。王は言った――
「学んだことや本来の力には及ばぬが、心が病んでいるだけで、取り返しのつかぬ傷ではないとわかる。そなたはどう思う?」
問いかけられた医師は深く頭を下げ、答えた――
「陛下のお見立ては正しく、私の確信するところとも一致いたします。」

これほど権威ある者から励まされ、王はうれしそうな顔になった。そして気を取り直して続けた――
「では、みな見ておれ。さらに試してみよう。」
王はフランス語でトムに質問した。多くの目が集まるのに当惑し、トムはしばらく黙って立っていたが、やがて遠慮がちに言った――
「恐れながら陛下、その言葉は存じません。」
王は寝椅子へ倒れ込んだ。侍従たちは飛んで助けに向かったが、王はそれを退けて言った――
「騒ぐな。ただ、忌々しいめまいがしただけだ。起こせ。そう、それでよい。こちらへおいで、わが子よ。そうだ、その苦しむ頭を父の胸に預け、安らぐがよい。じきによくなる。一時の迷いにすぎぬ。恐れるな。じきによくなる。」
それから一同に顔を向けると、優しい態度は一変し、その目に凶暴な稲妻がひらめき始めた。王は言った――
「みな、よく聞け! このわが子は正気を失っておる。だが、永遠ではない。学問のさせすぎと、少々部屋に閉じ込めすぎたせいだ。本も教師も遠ざけよ! 必ずそうせよ。遊びで楽しませ、健全な気晴らしをさせ、健康を取り戻させるのだ。」
王はさらに身を起こし、力強く続けた。「正気は失っておる。だが、わが子であり、イングランドの世継ぎだ。狂っていようといまいと、王にはなる! さらに聞け、そして布告せよ。この病について口にする者は、王国の平和と秩序を乱す者として、絞首台へ送る! ……飲み物をくれ。身が焼ける。この悲しみで力が尽きる。……よし、杯を下げよ。……支えてくれ。そう、それでよい。狂っておるだと? 千倍狂っておろうとも、ウェールズ公には変わりはない。この王たるわしが、それを確かなものにする。明日こそ、古来の正しい儀式にのっとり、王子の位に正式に就かせるのだ。ただちに手配せよ、ハートフォード卿。」

貴族の一人が王の寝椅子のそばにひざまずき、言った――
「陛下もご承知のとおり、イングランドの世襲軍務伯は、大逆罪でロンドン塔に囚われております。そのような罪を負う者が――」
「黙れ! 憎いあやつの名で、わしの耳を汚すな。あの男は永遠に生き続けるつもりか? わしは望みを阻まれねばならぬのか? 反逆の汚名のない軍務伯が国におらず、栄誉を授けられぬからといって、王子はいつまでも正式な叙任を待たねばならぬのか? 断じてならぬ、神の栄光にかけて! 議会に告げよ。再び日が昇るまでに、ノーフォークの処刑を決するのだ。さもなくば、重い責任を取らせるぞ!」
ハートフォード卿は言った――
「陛下のご意志こそ法でございます」そして立ち上がり、元の場所へ戻った。

老王の顔から、しだいに怒りが消えていった。王は言った――
「口づけしておくれ、わが王子よ。そうだ……何を恐れておる? わしはそなたを愛する父ではないか?」
「力強く、お慈悲深い陛下、あなた様は、値打ちもないわたしにお優しくしてくださいます。それは本当にわかっております。ですが……ですが……死なねばならない、あの方のことを思うと、悲しくて――」
「ああ、そなたらしい、そなたらしい! 心が病んでも、優しい気持ちは少しも変わっておらぬのだな。そなたはいつも情け深い子だった。だが、あの公爵は、そなたが栄誉を受ける妨げとなっておる。あの者の代わりに、高い役職を汚すことのない者を据えよう。安心せよ、わが王子。このことでもう頭を悩ませるな。」
「ですが陛下、あの方の死を早めているのは、わたしではございませんか。わたしさえいなければ、どれほど長く生きられたことでしょう。」
「あの男のことは考えるな、わが王子。その値打ちはない。もう一度口づけして、遊びや楽しみに戻るがよい。病がつらくなってきた。疲れたので休みたい。伯父のハートフォードと供の者について行き、わしが元気を取り戻したら、また来ておくれ。」
トムは重い心で御前から連れ出された。最後の言葉で、今度こそ自由になれるという望みが、息の根を止められたのだ。再び低い声のざわめきが聞こえた。「殿下、殿下がおいでになる!」
頭を下げるきらびやかな廷臣たちの列のあいだを進むにつれ、トムの気持ちはますます沈んでいった。自分が本当に囚われの身になったとわかったからだ。神が慈悲を垂れ、憐れんで解き放ってくださらないかぎり、この金ぴかの籠に、頼る者も友もない王子として、永遠に閉じ込められるかもしれなかった。
そして、どちらを向いても、見覚えのある偉大なノーフォーク公爵の切られた首が宙に浮かび、責めるような目で自分を見つめている気がした。
あれほど楽しかった昔の夢。それなのに、現実はなんと暗いのだろう!


第六章 トム、心得を授かる
トムは立派な続き部屋の主室へ案内され、椅子に座らされた。だが、まわりに年配の人や身分の高い人がいるので、気が進まなかった。皆にも座ってくれるよう頼んだが、相手は礼を示して頭を下げるか、小声で謝意を述べるだけで、立ったままだった。さらに勧めようとすると、「伯父」のハートフォード伯爵が耳元でささやいた――
「どうか、それ以上お勧めになりませんよう、殿下。この者たちが御前で座るのは、礼にかないません。」
セント・ジョン卿の到着が告げられた。卿はトムに拝礼してから言った――
「陛下のお使いとして参りました。人払いを要する件でございます。ハートフォード伯爵以外の者を、すべてお下がらせくださいますか。」
トムがどうすればよいかわからない様子なのを見て、ハートフォードは、手で合図をすればよい、話したくなければ何も言わずともよい、とささやいた。控えていた紳士たちが下がると、セント・ジョン卿は言った――
「陛下のご命令を申し上げます。国政上の正当かつ重大な理由により、殿下には、ご病気が癒え、元のお姿に戻られるまで、力の及ぶかぎり、そのご不調をお隠しいただきます。すなわち、ご自分がまことの王子にして、偉大なるイングランドの継承者であることを、誰に対してもお否定なさらぬこと。王子としての威厳を保ち、古来の慣習と正当な権利によって捧げられる敬意や奉仕を、言葉でも身振りでも拒まず、お受けになること。疲れ果てた想像力が生み出す不健全な空想から、ご病気によって思い描かれた、卑しい生まれや暮らしについては、誰にもお話しにならぬこと。かつて見知っておられた顔を、懸命に思い出すよう努められ、思い出せぬときは黙して、驚きの表情その他のしるしにより、忘れたことをお示しにならぬこと。公式の場で、何をなさり、何をおっしゃればよいか迷われた際には、好奇の目を向ける者たちに動揺をお見せにならず、ハートフォード卿か、不肖この私にご相談なさること。私どもは、この命が解かれるまで、そばに控えてお呼びに応じるよう、陛下より申しつかっております。以上、国王陛下のお言葉でございます。陛下より殿下にお見舞いを申し上げ、神のお慈悲によって一日も早く癒やされ、いまも、いつまでも、その聖なるお守りがありますようにとのお祈りをお伝えいたします。」
セント・ジョン卿は拝礼して脇へ退いた。トムはあきらめて答えた――

「王のお言葉だ。王の命令をもてあそび、不都合だからと巧みな言い逃れで自分に都合よく変えることは、誰にも許されぬ。仰せのとおりにいたそう。」
ハートフォード卿は言った――
「書物その他の難しい事柄に関する陛下のお言いつけもございますので、殿下には、気軽なお楽しみで時をお過ごしいただいてはいかがでしょう。お疲れのまま宴へおいでになり、お体に障ってはなりません。」
トムの顔に、何のことかと驚きが浮かんだ。セント・ジョン卿が悲しげに見つめているのに気づくと、顔を赤らめた。卿は言った――
「まだ記憶がお戻りにならず、驚きをお見せになりましたな。ですが、お気になさいますな。長く続くことではなく、ご病気が癒えるにつれ消えるものでございます。ハートフォード卿が申すのは、およそ二か月前、陛下が殿下のご出席をお約束なさった、市主催の宴のことでございます。思い出されましたか?」
「面目ないが、すっかり忘れていた」とトムはためらいがちに言い、また顔を赤らめた。
そのとき、レディ・エリザベスとレディ・ジェーン・グレイの来訪が告げられた。二人の卿は意味ありげに目を交わし、ハートフォードはすばやく扉へ進んだ。少女たちがそばを通ると、低い声で言った――
「どうか、おかしなご様子にも気づかぬふりをなさり、記憶が途切れても、お驚きになりませんよう。ささいなことのたびにお困りになるお姿には、胸が痛みましょうが。」

そのあいだ、セント・ジョン卿はトムの耳元で言っていた――
「殿下、陛下のお望みを、どうかお忘れになりませんよう。思い出せることはすべて思い出し、それ以外は、思い出したふりをなさってください。お二人に、いつもとひどく違うとは悟らせませんよう。昔からのお遊び相手が、殿下をどれほど深く慕っておられ、どれほど悲しまれるかは、ご存じのはずです。私もここに残ってよろしゅうございますか。伯父上もご一緒に。」
トムは身振りと小さな声で同意した。すでに学び始めていたし、純真な心の中で、王の命令どおり、できるかぎり立派に務めようと決めていたからだ。
あらゆる用心にもかかわらず、子供たちの会話は、ときどき気まずいものになった。実際、トムは何度もくじけそうになり、この大役はとても務まらないと白状しかけた。だがエリザベス王女の機転に救われたり、油断なく見守る二人の卿のどちらかが、何気ないふうに差し挟むひと言で、うまく切り抜けたりした。一度、幼いレディ・ジェーンがトムを振り向き、こう尋ねて肝を冷やした――
「殿下、今日はもう王妃陛下にご挨拶なさいましたの?」
トムはためらい、困った顔をして、でまかせをどもり出そうとした。そのときセント・ジョン卿が口を挟み、繊細な難題にも慣れ、備えのある廷臣らしい自然な優雅さで、代わりに答えた――
「はい、お済ませでございます。王妃陛下は、国王陛下のご病状について、殿下を大いに力づけてくださいました。そうでございましたな、殿下?」
トムは同意らしいことをもごもご言ったが、危ないところへ踏み込んでいる気がした。しばらくして、トムは当分勉強をしないことになったと話が出ると、幼いジェーンは声を上げた――
「まあ、残念ですこと。本当に残念! あんなにお進みでしたのに。でも、しばらくの辛抱ですわ。長いことではありません。きっとお父上のように学問を身につけて、お父上と同じくらい、たくさんの国の言葉をお話しになるようになりますわ、殿下。」
「ぼくの父親が!」トムは一瞬、用心を忘れて叫んだ。「あの人の言うことは、自分の国の言葉だって、豚小屋にいる豚でもなければ、わかりはしません。まして、学問なんて――」
顔を上げると、セント・ジョン卿の目に厳しい警告があった。
トムは口をつぐみ、赤くなり、それから低く悲しげに続けた。「ああ、また病気に悩まされ、心が迷ってしまいました。国王陛下に無礼を申し上げるつもりはありませんでした。」
「わかっておりますわ、殿下」とエリザベス王女は言い、「弟」の手を両手で包んだ。敬意を保ちながらも、優しくなでるように。「そのことはお心におかけにならないで。悪いのは殿下ではなく、ご病気ですもの。」
「なんと優しく慰めてくださるのでしょう」とトムは感謝して言った。「お許しいただけるなら、心からのお礼を申し上げたいと思います。」
一度、はしゃいだ幼いレディ・ジェーンが、簡単なギリシャ語の文句をトムへ放った。エリザベス王女は、その標的が穏やかながらも何もわからぬ顔をしているのを、すばやい目で見て取り、矢が頭上を通り越したことを察した。そこで落ち着き払って、トムに代わって朗々たるギリシャ語の一斉射撃を返し、すぐに話題を変えた。
時は楽しく、全体としては滑らかに流れていった。暗礁や砂州に乗り上げることもだんだん少なくなった。みんなが愛情をこめて助け、間違いを見逃そうとしてくれるので、トムもますます気が楽になった。少女たちも今夜のロンドン市長の宴に同行するとわかると、胸は安堵と喜びに躍った。これでもう、大勢の見知らぬ人々の中で、一人ぼっちにはならずにすむ。一時間前なら、二人が一緒に行くというだけで、耐えがたいほど恐ろしかっただろうに。
トムの守護天使である二人の卿は、ほかの者ほど、この会見を気楽に楽しめなかった。危険な水道で大船を操っているような気分だった。絶えず気を張っていなければならず、とても子供の遊びではなかった。だから、少女たちの訪問も終わりに近づき、ギルフォード・ダドリー卿の来訪が告げられたとき、二人は、預かった王子にはもう十分負担がかかったと思ったばかりでなく、自分たちも船を引き返させ、あの不安な航海をもう一度始めるほど元気ではないと思った。そこで丁重に、面会を断るようトムに勧めた。トムは大喜びで従った。ただし、あの華やかな若者が通してもらえないと聞いたレディ・ジェーンの顔には、かすかな失望の影が見えたかもしれない。

そこで話が途切れた。何かを待っているような沈黙だったが、トムにはわからなかった。ハートフォード卿を見ると、合図をしてくれたが、それもわからなかった。気の利くエリザベスが、いつもの自然な優雅さで助け舟を出した。丁寧にお辞儀をして言った――
「弟殿下、そろそろおいとましてもよろしゅうございますか?」
トムは言った――
「お二人のお望みなら、何でも差し上げます。ですが、お二人がおいでになる光と幸いを、ここから取り去るお許しよりは、この乏しい力でできる、ほかのどんなものでも差し上げたいくらいです。どうか、よい一日を。神のお守りがありますように!」
それから心の中でにっこりした。「本の中で王子たちばかりと暮らし、あの飾り豊かな優しい物言いを、少しばかり舌に覚えさせたのも、無駄ではなかった!」
高貴な少女たちが去ると、トムは疲れた顔を番人たちへ向けて言った――
「どこか隅へ行って、休ませていただけませんか?」
ハートフォード卿は言った――
「恐れながら殿下、命じるのは殿下、従うのは私どもでございます。まもなく市内へお出かけにならねばなりませんから、お休みはまことに必要でございます。」
卿が鈴を鳴らすと小姓が現れ、サー・ウィリアム・ハーバートを呼ぶよう命じられた。この紳士はすぐに来て、トムを奥の部屋へ案内した。トムがそこで最初にしたことは、水の入った杯へ手を伸ばすことだった。だが、絹とビロードを着た召使いが杯を取り、片膝をつき、金の盆に載せて差し出した。

次に、疲れた囚人は腰を下ろし、目でおずおずと許しを求めながら半長靴を脱ごうとした。すると、また別の絹とビロードの厄介者がひざまずき、その仕事を取り上げた。その後も二、三度、自分で用を足そうとしたが、そのたびにすばやく先を越されたので、とうとうあきらめのため息をつき、つぶやいた。「まったく、息まで代わりにしてやると言い出さないのが不思議だ!」
上履きを履かされ、豪華な部屋着に包まれて、トムはようやく横になった。休みはしたが、眠れはしなかった。頭の中には考えが多すぎ、部屋の中には人が多すぎた。前者は追い払えないので居残り、後者を下がらせるだけの知恵はまだなかったので、こちらも居残った。トムにはたいそう残念なことだったし――彼らにも同じだった。
トムが去ったあと、二人の高貴な守り役だけが残った。しばらく首を振り、床を歩き回りながら考え込んでいたが、やがてセント・ジョン卿が言った――

「率直に、どうお考えですかな?」
「率直に言えば、こうだ。王の最期は近い。わが甥は正気を失っている。狂ったまま王位に就き、狂ったままであり続けるだろう。神よ、イングランドを守りたまえ。まさしく神の助けが必要になる!」
「まことに、そのように思われます。ですが……不審にはお思いになりませんか、その……その……」
卿はためらい、とうとう口をつぐんだ。危うい話題に踏み込んだと感じているのは明らかだった。ハートフォード卿はその前に立ち止まり、まっすぐ澄んだ目で顔を見て言った――
「続けたまえ。聞く者は私しかおらぬ。何が不審なのだ?」
「あの方と血の近い卿を前に、心にあることを口にするのは、まことに気が進みません。ご不快であれば、お許しを願いますが、狂気だけで物腰や態度があれほど変わるとは、不思議ではありませんか。いや、いまも振る舞いや言葉遣いは王子らしくはあります。ですが、些細な点で、あちこち以前のご様子と違うのです。狂気によって父君のお顔さえ忘れ、周囲から当然受けるはずの慣習や礼儀も忘れ、ラテン語だけは残しながら、ギリシャ語とフランス語を失うとは、不思議ではありませんか。どうか腹をお立てにならず、私の不安を取り除いてください。そうしていただければ、心から感謝いたします。自分は王子ではないという、あのお言葉が頭から離れず、それで――」
「黙りたまえ、卿。いまの言葉は反逆だ! 王の命令を忘れたか? 聞くだけでも、私はそなたの共犯になるのだぞ。」

セント・ジョン卿は青ざめ、あわてて言った――
「私が間違っておりました。認めます。どうか告げ口はなさらず、ご寛容をもって、この願いをお聞き届けください。二度とこのことは考えも、口にもしません。どうか厳しく扱わないでください。さもなければ、私は破滅です。」
「よかろう。ここでも、ほかの者の耳にも、二度とこの過ちを犯さぬなら、何も言わなかったことにしよう。だが、不審に思う必要などない。あの子は私の姉の息子だ。その声も顔も体つきも、ゆりかごのころから見知っているではないか。狂気は、そなたが見たような奇妙で矛盾したことも、それ以上のことも起こす。老マーリー男爵を覚えておらぬか。狂気のために、六十年間も見慣れてきた自分の顔を忘れ、他人の顔だと思い込んだ。それどころか、自分はマグダラのマリアの息子で、頭はスペインのガラスでできていると言い張った。実際、うっかりした者の手で割られてはならぬと、誰にも触れさせなかったのだ。安心したまえ、卿。あの子こそ本物の王子だ。私にはよくわかる。そして、まもなくそなたの王となる。ほかのことより、そのことを心に留め、よく考えるほうが、そなたのためだろう。」
その後も少し話が続いた。セント・ジョン卿は、いまや確信は揺るぎなく、二度と疑いに乱されることはないと繰り返して、できるかぎり過ちを取り繕った。やがてハートフォード卿は同僚の守り役を帰し、一人で見張りを務めるため腰を下ろした。たちまち深い物思いに沈み、考えれば考えるほど、いっそう困惑していくようだった。やがて立ち上がって歩き回り、つぶやき始めた。

「ばかな、王子に決まっている! 血も生まれも違う二人が、これほど見事に瓜二つになれるなどと、この国の誰が言い張れる? たとえそんなことがあっても、偶然に一人がもう一人の場所へ入り込むなど、なおさら奇跡ではないか。いや、ばかげている、ばかげている、ばかげている!」
しばらくして、また言った――
「もし偽者が王子を名乗るなら、それなら自然だ。筋も通る。だが、王に王子と呼ばれ、宮廷にも王子と呼ばれ、誰からも王子と呼ばれながら、その身分を否定し、高い地位へ上げないでくれと頼む偽者が、これまで一人でもいたか? いない! 聖スウィジンの魂にかけて、いない! あれは本物の王子が、正気を失ったのだ!」


第七章 トム、初めての王侯の食事
午後一時を少し過ぎたころ、トムはあきらめ顔で、食事のために着替えさせられる試練を受けた。相変わらず見事な衣装だったが、ひだ襟から靴下まで、何もかも違うものに取り替えられた。やがて、たいそう仰々しく、広く華麗な部屋へ案内された。そこには一人分の食卓がすでに整えられていた。食器はすべて厚い金でできており、値段などつけようもないほど美しい意匠が施されていた。ベンヴェヌート[訳注:イタリアの彫刻家・金工家、ベンヴェヌート・チェッリーニ]の手になる品だったからだ。部屋の半分は高貴な給仕たちで埋まっていた。礼拝付きの司祭が食前の祈りを唱え、トムはさっそく食べ始めようとした。空腹はとうの昔から体質になっていたのだ。だが、バークリー伯爵が首にナプキンを結んだので、いったん止められた。ウェールズ公のナプキン係という高い役職は、この貴族の家に代々伝わるものだった。酌取り役も控えていて、トムが自分で葡萄酒を取ろうとするたび先回りした。ウェールズ公殿下付きの毒見役もいて、求められれば怪しい料理を味見し、毒に当たる危険を引き受ける用意をしていた。この時代には単なる飾りで、役目を果たす機会もめったになかったが、ほんの数代前までは、毒見役は危険を伴い、羨むべき栄誉ではなかった。なぜ犬か配管工を使わなかったのか不思議だが、王家のやり方はどれも不思議である。筆頭寝室付き侍従のダーシー卿もいた。何をするためかは神のみぞ知るが、とにかくそこにいた。それで十分としておこう。執事長もいて、トムの椅子の後ろに立ち、近くに控える大家令と料理長の指揮のもと、儀礼の進行を監督していた。トムにはこのほか三百八十四人の召使いがいた。もちろん、全員がその部屋にいたわけではなく、四分の一もいなかった。それにトムは、その者たちの存在をまだ知らなかった。
そこにいる者はみな、この一時間のうちに、王子は一時的に正気を失っており、奇妙な振る舞いにも驚きを見せぬよう、十分言い含められていた。その「奇妙な振る舞い」は、すぐに目の前で始まった。だが、それは笑いではなく、哀れみと悲しみを誘うばかりだった。敬愛する王子がこれほど病に冒されているのを見るのは、胸の痛むことだった。
哀れなトムは、たいてい指で食べた。だが誰も笑わず、気づいたそぶりさえ見せなかった。トムはナプキンを、珍しそうに、たいそう興味深く調べた。とても繊細で美しい織物だったからだ。それから無邪気に言った――
「どうか、これを下げてくれ。うっかり汚してはいけないから。」
世襲のナプキン係は、うやうやしく、ひと言も抗議せず、それを下げた。

トムは蕪とレタスを興味深そうに眺め、それは何か、食べるものなのか、と尋ねた。イングランドでこれらを栽培するようになったのは、ほんの最近で、それまではぜいたく品としてオランダから輸入していたのだ。問いには厳粛な敬意をもって答えが返され、驚きを示す者はいなかった。デザートを食べ終わると、トムはポケットに木の実を詰め込んだ。だが誰も気づかぬふりをし、困った顔もしなかった。ところが次の瞬間、トム自身がうろたえ始めた。食事のあいだ、自分の手ですることを許されたのは、これだけだった。きっと、とんでもなく無作法で、王子にあるまじきことをしたのだと思った。そのとき、鼻の筋肉がぴくぴく動き始め、鼻先が持ち上がり、しわが寄った。それが続き、トムはますます苦しそうになった。まわりの貴族を一人ずつ、すがるように見つめ、目に涙を浮かべた。みな驚いた顔で進み出て、何事かと尋ねた。トムは心底つらそうに言った――
「許してほしい。鼻がひどくかゆいのだ。こういうときは、どんな作法やしきたりがあるのだろう。どうか急いでくれ。もう長くは我慢できない。」
誰も笑わなかった。だが一同ひどく当惑し、途方に暮れて互いに顔を見合わせ、知恵を求めた。ところが、これは行き止まりの壁だった。イングランドの歴史のどこを探しても、乗り越え方は書いてなかった。儀典長はその場にいなかった。この地図のない海へ乗り出し、この厳粛な難題を解こうとする勇気のある者はいなかった。ああ、世襲の鼻かき係はいなかったのだ。そのあいだにも、涙は堤を越え、トムの頬を伝い始めた。ひくつく鼻は、ますます切実に救いを求めた。とうとう自然の欲求が礼儀の壁を破った。トムは、悪いことをしているのならお許しくださいと心で祈り、自分で鼻をかいて、宮廷の重苦しい胸を解き放った。
食事が終わると、一人の貴族が、香りのよい薔薇水を入れた、幅広く浅い金の器を持ってきた。口と指を洗うためだった。世襲のナプキン係も、そのためのナプキンを持って控えた。トムはしばらく不思議そうに器を見つめ、それから唇へ運び、まじめな顔でひと口飲んだ。そして待っていた貴族へ返し、言った――
「いや、これは好みに合わぬ。よい香りだが、こくが足りない。」

壊れた心から生じた、王子のこの新たな奇行は、周囲の者の胸を残らず痛ませた。だが、その悲しい光景を見て笑う者はいなかった。
次にトムが知らずに犯した失敗は、司祭がちょうど椅子の後ろへ立ち、両手を上げ、閉じた目を天へ向け、食後の祈りを始めようとした、その瞬間に席を立って食卓を離れたことだった。それでも誰一人、王子がいつもと違うことをしたとは気づかぬ様子だった。

この小さな友人は、自分の希望で書斎へ案内され、そこに一人、自由にしておかれた。樫の腰板の鉤には、輝く鋼鉄の鎧の各部分が掛けられていた。全面を覆う美しい模様は、精巧な金の象眼でできていた。この武具一式は本当の王子の持ち物で、最近、パー王妃から贈られたものだった。トムは脛当て、籠手、羽根飾りの兜、その他、一人で着けられるものを身につけた。しばらくは誰かを呼んで、全部着込むのを手伝ってもらおうかと思ったが、食卓から持ってきた木の実のことを思い出した。大勢に見つめられず、偉い世襲役人に余計な世話を焼かれずに食べられるのは、さぞ楽しいだろう。そこで、美しい品々を元の場所に戻し、さっそく木の実を割り始めた。罪の罰として神に王子にされて以来、初めて、ごく自然に近い幸せを感じた。木の実がなくなると、戸棚の中に面白そうな本を何冊か見つけた。その中にはイングランド宮廷の礼儀作法についての本もあった。これは掘り出し物だった。豪華な長椅子に横たわり、熱心に学び始めた。ひとまず、そこでそっとしておくことにしよう。

第八章 国璽の問題
五時ごろ、ヘンリー八世は、休んだ気のしない昼寝から目を覚まし、つぶやいた。「不吉な夢だ、不吉な夢だ! 最期が近づいておる。あれはその前触れだ。この弱る脈も、それを裏づけておる。」
やがて目に邪悪な光が燃え上がり、つぶやいた。「だが、あやつが先に逝くまでは、わしも死なぬ。」
目が覚めたことに気づいた侍従の一人が、外で待っている大法官をどうするか伺った。
「通せ、通せ!」王はせき込んで叫んだ。
大法官は入り、王の寝椅子のそばにひざまずいて言った――
「お命じになったとおり、手配をいたしました。王国の貴族たちは礼服をまとい、いま議場の柵前に並んでおります。ノーフォーク公爵への死刑を承認し、この件について陛下の次なるご意向を、謹んでお待ちしております。」
王の顔が、凶暴な喜びで輝いた。そして言った――
「起こせ! わし自ら議会へ赴き、わが手で処刑状に印を押して、あやつを――」
声が途切れた。頬の赤みが引き、灰のように青ざめた。侍従たちはそっと枕へ戻し、あわてて気つけ薬を使った。やがて王は悲しげに言った――
「ああ、この甘美な時を、どれほど待ち焦がれたことか! それが、ようやく訪れたというのに遅すぎた。望みに望んだ機会を奪われた。だが急げ、急ぐのだ! わしにかなわぬなら、ほかの者にこの喜ばしい役目をさせよ。国璽[訳注:国家の正式な文書に押す、国王の大印章]を扱う権限は委員会に委ねる。その任に当たる貴族はそなたが選び、仕事に取りかかれ。急げ! 再び日が昇って沈むまでに、あやつの首を持ってこい。この目で見たい。」
「陛下の仰せのとおりにいたします。つきましては、その仕事に取りかかれますよう、国璽を私にお返しくださるよう、お命じいただけますか?」

「国璽だと? そなた以外の誰が預かっておる?」
「恐れながら陛下、二日前にお取り上げになりました。ご自身のお手でノーフォーク公爵の処刑状にお使いになるまで、二度と用いてはならぬと仰せでした。」
「おお、確かにそうだった。思い出した。……どこへやったのだ? ……ひどく弱ってしまった。……このごろは、記憶がしばしばわしを裏切る。……妙だ、妙だ――」
王は言葉にならぬつぶやきを漏らし、ときおり白髪の頭を弱々しく振って、国璽をどうしたか、手探りするように思い出そうとした。ついにハートフォード卿が、思い切ってひざまずき、申し出た――
「陛下、差し出がましいことながら、私のほかにも、ここにいる数名が覚えております。陛下は国璽をウェールズ公殿下へお預けになり、その日まで保管するよう――」
「そうだ、そのとおりだ!」王は遮った。「取ってこい! 行け、時が過ぎる!」
ハートフォード卿はトムのもとへ飛んでいったが、ほどなく困った顔で、手ぶらで王のもとへ戻った。そして、おおよそ次のように申し上げた――
「陛下、このように重く、うれしくない知らせをお伝えするのは、まことに心苦しゅうございます。ですが神のご意志により、殿下のご病気はなお続いており、国璽をお受け取りになったことを思い出せません。そこで、ただちにご報告に戻りました。殿下のお使いになる数多くの部屋や広間を捜し回っても、貴重な時を費やすばかりで、さほど役には――」
王のうめきが、そこで卿の言葉を遮った。しばらくして、陛下は深い悲しみをこめて言った――
「もう、あの哀れな子を煩わせるな。神の御手が重くのしかかっておる。愛おしさと憐れみで胸がいっぱいだ。苦しみを重ねたこの老いた肩に、あの子の重荷を引き受け、安らぎを与えてやれぬことが悲しい。」
王は目を閉じ、つぶやき始め、やがて黙った。しばらくしてまた目を開き、うつろにあたりを見回していたが、その視線が、ひざまずく大法官に止まった。たちまち顔が怒りで赤らんだ――
「何だ、まだここにおったか! 神の栄光にかけて、さっさとあの逆賊の始末に取りかからねば、明日はそなたの司教冠も暇を持て余すぞ。飾る頭がなくなるのだからな!」
震え上がった大法官は答えた――
「陛下、どうかお許しを! ただ国璽をお待ちしておりました。」
「何と、正気を失ったか? 以前、外へ持ち歩いていた小さな印章が、宝物庫にあるではないか。国璽が飛んでいってしまったなら、それで十分ではないか? 正気を失ったか? 立ち去れ! よいか、あやつの首を持たずに、二度と戻るな。」
哀れな大法官は、ぐずぐずせずに危険な場所から退散した。委員会もまた時間を無駄にせず、従順な議会の決定に王の裁可を与え、イングランド第一の貴族、不運なノーフォーク公爵の斬首を、翌日と定めた。

第九章 川の祝賀行列
夜九時、宮殿の広大な川辺一帯は、燃え立つような明かりに包まれていた。川面は町の方へ見渡すかぎり、船頭の小舟や遊覧船でぎっしり埋まり、そのすべてを彩色の灯籠が縁取っていた。波に優しく揺れるその姿は、夏風にそよぐ、果てしなく輝く花園のようだった。水辺へ下りる壮大な石段は、ドイツの小公国の軍隊をそっくり並べられるほど広かった。そこに磨き上げた鎧の王家の槍斧兵が列をなし、鮮やかな衣装の召使いたちが、支度に追われて上下左右に飛び回っているさまは、じつに見事な眺めだった。
やがて命令が下ると、たちまち石段から生き物の姿が一つ残らず消えた。期待と緊張をはらむ静けさが、重くあたりを満たした。見渡すかぎりの舟の上で、無数の人々が立ち上がり、灯籠や松明のまぶしさを手で遮って、宮殿を見つめた。
四、五十艘の儀礼船が列をなして石段へ寄せた。船体はふんだんに金箔で飾られ、高い船首と船尾には精巧な彫刻が施されていた。旗や吹き流しで飾った船もあれば、金襴や紋章を刺繍した壁掛けを掛けた船もあった。絹の旗に無数の小さな銀鈴をつけた船では、風が旗を揺らすたび、楽しげな音楽が細かな雨のように降り注いだ。さらに格上の、王子にじかに仕える貴族の船では、鮮やかな紋章を描いた盾を舷側に並べ、美しく囲っていた。どの儀礼船も、引き船に曳かれていた。その引き船には漕ぎ手のほか、光る兜と胸甲をつけた兵士が何人かと、楽隊が乗っていた。

いま、待ち望まれた行列の先頭、槍斧兵の一隊が大門に現れた。「黒と黄褐色の縞の脚衣を着け、側面に銀の薔薇を飾ったビロードの帽子をかぶり、暗紅色と青の布の胴着をまとっていた。その胸と背には、王子の紋章である三本の羽根が金糸で刺繍されていた。槍斧の柄は深紅のビロードで包み、金めっきの鋲で留め、金の房で飾ってあった。兵士たちは左右に分かれ、宮殿の門から水際まで二本の長い列を作った。そこへ、金色と深紅の王子の仕着せを着た従者たちが、厚い縞模様の布、すなわち絨毯を広げ、二列のあいだに敷いた。それがすむと、中から高らかなラッパの音が響いた。水上の楽隊が軽快な前奏を奏で、白い杖を持つ二人の儀典係が、ゆっくり荘重な足取りで門から出てきた。その後には、市の権杖を捧げる役人、続いて市の儀仗剣を捧げる役人が進み、次に完全装備で袖に徽章をつけた市警備隊の下士官たち、紋章上衣を着たガーター主席紋章官、袖に白い紐飾りをつけたバス騎士団の騎士たち、その従者たち、緋色の法服と頭巾を着けた裁判官たち、前の開いた緋色の法服を白い毛皮で縁取ったイングランド大法官、緋色の外套をまとった参事会員の代表団、そして礼服姿の各同業組合の長が続いた。次に十二人のフランス紳士が現れ、石段を下った。金の横縞を配した白いダマスク織の胴着、紫の薄絹を裏に張った深紅のビロードの短い外套、淡紅色の膝上丈のズボンという華やかな装いだった。彼らはフランス大使の随員で、その後にはスペイン大使の随員である十二人の騎士が続いた。こちらは一切の飾りをつけぬ黒いビロード姿だった。その後から、従者を連れたイングランドの大貴族が何人も続いた。」
中からラッパが鳴り響き、王子の伯父、のちの偉大なサマセット公爵が門から現れた。「黒い金襴の胴着に、金の花模様を織り出し、銀の網飾りを帯状にあしらった深紅のサテンの外套」をまとっていた。伯父は振り返り、羽根飾りの帽子を脱ぎ、体を深く折って礼をすると、一歩ごとに頭を下げながら後ずさりを始めた。長く続くラッパの響きがそれに続き、声が告げた。「高貴にして威力あるウェールズ公、エドワード殿下のお通り!」
宮殿の高い壁の上で、雷鳴のような轟音とともに、赤い炎の舌が長く一列に噴き出した。川にひしめく人々が、天を揺るがす歓声を上げた。そして、このすべての中心であり主役であるトム・キャンティが姿を現し、王子らしく軽く頭を下げた。

トムは「白いサテンの胴着を壮麗に着こなし、その前身頃には、ダイヤモンドを散らし、白貂で縁取った紫の金銀糸織りが用いられていた。その上には、三本羽根の紋を打ち出し、青いサテンを裏に張り、真珠と宝石をちりばめ、ダイヤモンドの留め金で留めた、白い金襴の外套をまとっていた。首にはガーター勲章と、王族にふさわしい外国の勲章がいくつも掛かっていた」。光が当たるたびに、宝石は目もくらむ輝きを返した。ああ、トム・キャンティ、あばら家に生まれ、ロンドンのどぶで育ち、ぼろと汚れと惨めさに慣れ親しんだ子よ。なんという光景だろう!

第十章 罠に落ちた王子
さて、ジョン・キャンティが、歓喜して騒ぐ群衆を従え、本物の王子をオーファル・コートへ引きずり込むところまで話した。この群衆の中で、囚われの少年をかばって口を開く者は、たった一人しかいなかった。しかも、その言葉は聞き入れられなかった。騒ぎがあまりに大きく、ほとんど耳にさえ届かなかった。王子はなおも逃れようともがき、受けている仕打ちに怒りをぶつけた。とうとうジョン・キャンティは、わずかに残った辛抱もなくし、かっとなって樫の棍棒を王子の頭上へ振り上げた。少年をかばっていたただ一人の男が、腕を止めようと飛びついた。棍棒はその手首に振り下ろされた。キャンティは怒鳴った――
「邪魔しようってのか? なら、褒美をくれてやる!」

棍棒が、邪魔者の頭に激しく打ち下ろされた。うめき声がし、ぼんやりした人影が群衆の足のあいだへくずれ落ちた。次の瞬間、その体は暗闇に一人取り残されていた。この一件で楽しみを少しも損なわれることなく、群衆は先へ進んだ。
ほどなく王子はジョン・キャンティの住まいに入り、外の者を締め出して扉が閉じられた。瓶に差した獣脂ろうそくの薄明かりで、忌まわしい巣穴の様子と、そこにいる人々がおぼろげにわかった。薄汚れた二人の少女と中年の女が、一隅の壁際で身を縮めていた。ひどい扱いに慣れきり、いままたそれを予期しておびえる動物のようだった。別の隅からは、白髪を乱し、悪意のこもった目をした、しなびた老婆が忍び出てきた。ジョン・キャンティは老婆に言った――
「待て! 面白え芝居があるんだ。見て楽しむまでは、ぶち壊すな。そのあとは、好きなだけ殴りゃいい。前へ出ろ、小僧。さっきのたわごとを、忘れてなけりゃもう一度言ってみろ。名前を名乗れ。おまえは誰だ?」
侮辱に、幼い王子の頬がまた赤くなった。怒りをこめた揺るがぬ目を男の顔へ向け、言った――
「そなたのような者が、わたしに話せと命じるとは無礼だ。先ほども申したとおり、いまも申そう。わたしはウェールズ公エドワード、それ以外の何者でもない。」

この返事に老婆は仰天し、足を床に釘づけにされ、息も止まりそうになった。ぽかんとして王子を見つめる様子が、ならず者の息子にはひどくおかしく、どっと大声で笑い出した。だがトム・キャンティの母と姉たちの反応は違った。殴られる恐怖は、たちまち別の悲しみに取って代わられた。三人は嘆きと驚きの顔で駆け寄り、叫んだ――
「ああ、かわいそうなトム、かわいそうに!」
母親は王子の前にひざまずき、両肩に手を置いて、込み上げる涙越しに、その顔を切々と見つめた。それから言った――
「ああ、かわいそうな子! あんなくだらない本ばかり読んでいたから、とうとうこんなひどいことに。正気をなくしてしまったんだね。あんなにやめるように言ったのに、どうして読み続けたの? 母さんは胸が張り裂けそうだよ。」
王子はその顔を見て、優しく言った――
「あなたの息子は無事だ。気も違ってはいない。安心してほしい。あの子のいる宮殿へ、わたしを行かせてくれれば、父上である王が、すぐに返してくださる。」
「王様がお父上だなんて! ああ、おまえ、その言葉は取り消しておくれ。おまえには死を、そばにいる者には破滅を招く言葉だよ。その恐ろしい夢から覚めておくれ。迷った記憶を呼び戻して。わたしをご覧。おまえを産んで、おまえを愛している母さんじゃないか?」
王子は首を振り、つらそうに言った――
「神もご存じのとおり、あなたを悲しませたくはない。だが本当に、あなたの顔を見るのは初めてなのだ。」
女はその場に座り込み、両手で目を覆って、悲痛な泣き声を上げた。
「芝居を続けろ!」とキャンティが叫んだ。「おい、ナン! おい、ベット! 行儀の悪い小娘どもめ、王子様の前で突っ立ってるつもりか? ひざまずけ、この乞食のくずども、頭を下げろ!」
そして、また下品に大笑いした。娘たちはおずおずと弟をかばい始め、ナンが言った――
「父さん、寝かせてやってよ。休んで眠れば、気も治るから。お願いだよ。」
「そうしてやって、父さん」とベットも言った。「いつもより、ずっと疲れてるんだよ。明日になれば元に戻って、一生懸命物乞いをして、もう手ぶらでは帰ってこないよ。」
この言葉で父親の浮かれ気分は冷め、現実の用事を思い出した。王子に怒った顔を向けて言った――
「明日は、この穴ぐらの持ち主に二ペニー払わなきゃならねえ。二ペニーだぞ。半年分の家賃に、こんな大金だ。払わなきゃ追い出される。なまけた物乞いで、いくら集めたか見せろ。」
王子は言った――
「そなたの卑しい用事で、わたしを煩わせるな。繰り返すが、わたしは王の子だ。」
キャンティの大きな手のひらが、王子の肩を音高く打った。よろめいた王子はキャンティ夫人の腕の中へ倒れ込み、夫人は胸に抱きしめ、自分の体を盾にして、雨あられと降る拳や平手から守った。おびえた娘たちは隅へ退いたが、祖母は息子を助けようと、張り切って進み出た。王子はキャンティ夫人から飛び離れ、叫んだ――

「あなたが、わたしのために苦しんではならぬ。この豚どもには、わたし一人を好きにさせておけ。」
この言葉で豚どもは激怒し、間を置かず仕事に取りかかった。二人がかりで少年を存分に殴り、それから被害者に同情した罰として、娘たちと母親にも殴打を加えた。
「さあ」とキャンティは言った。「みんな寝ろ。余興で疲れちまった。」
明かりが消され、一家は横になった。主人とその母親がいびきをかき始め、眠ったとわかると、少女たちは王子の寝ているところへ忍び寄り、寒くないように、藁とぼろを優しく掛けた。母親もそっと近づき、髪をなで、涙を落としながら、とぎれとぎれの慰めやいたわりの言葉を耳元でささやいた。食べさせようと、ひと口分の食べ物も取っておいてくれた。だが王子は痛みで食欲をなくしていた。少なくとも、黒くて味のないパンの耳を食べる気にはなれなかった。王子は、身を犠牲にして勇敢にかばってくれたことと、その憐れみに心を打たれた。そして、たいそう高貴な、王子らしい言葉で礼を述べ、寝床へ戻って眠り、悲しみを忘れるよう頼んだ。さらに、父上である王は、この忠実な親切と献身を、けっして報いずにはおかない、と付け加えた。その「狂気」への逆戻りに、母親はまた胸を引き裂かれた。少年を何度も何度も抱きしめ、それから涙にくれながら寝床へ戻った。
横になって考え、嘆いているうちに、母親の心に一つの思いが忍び込んできた。この少年には、正気であろうと狂っていようと、トム・キャンティにはない、何ともいえぬ何かがある。それが何なのか、言葉にはできず、正確にはわからなかったが、鋭い母親の本能が、それを感じ取り、見抜いているようだった。もし、この子が本当に自分の息子ではなかったら? ああ、ばかな! 悲しみと苦しみの中にいても、その考えには思わず笑いそうになった。だが、それでも、その思いは追い払えず、しつこくつきまとった。追いかけ、悩ませ、まとわりつき、押しのけることも、無視することもできなかった。ついに母親は、この子が息子かどうか、疑う余地なく明らかに証明する試し方を考え、この消耗する疑念を追い払わないかぎり、心は休まらないと悟った。そうだ、それこそ、この難題から抜け出す道だ。さっそく、その方法を考え始めた。だが、言うほど簡単ではなかった。よさそうな試し方を次々と思い浮かべては、すべて捨てねばならなかった。どれも絶対に確実ではなく、完全ではなかった。不完全なものでは満足できない。どうやら、いくら頭を絞っても無駄らしい。あきらめるしかなさそうだった。そんな気の重くなる考えが頭をよぎったとき、少年の規則正しい寝息が聞こえ、眠りについたとわかった。耳を澄ませていると、その一定の息遣いに、かすかな驚きの声が交じった。悪い夢を見た者が漏らすような声だった。この偶然が、苦労して考えた試し方を全部合わせても及ばない案を、たちまち授けた。母親はすぐに、熱に浮かされたように、しかし音を立てず、ろうそくに火をつけ直しながら、つぶやいた。「いま、あの子を見ていればわかったのに! 小さいころ、顔の前で火薬がはじけた、あの日からずっと、夢の中でも考え事の最中でも、不意に驚かされると、必ずあの日と同じように、目の前へ手を上げるんだ。ほかの人のように手のひらを内側へ向けず、いつも外側へ向ける。百ぺんも見てきたけれど、変わったことも、しなかったこともない。そうだ、もうすぐわかる!」
そのときには、母親は火を覆ったろうそくを手に、眠る少年のそばへ忍び寄っていた。興奮を抑えて息もほとんどせず、用心深く身をかがめると、突然、顔へ明かりをぱっと当て、耳のそばの床を指の関節で叩いた。眠っていた少年は目を大きく開き、驚いてあたりを見回した。だが、手には何の特別な動きもなかった。

哀れな女は、驚きと悲しみで、ほとんど身動きできなくなった。それでもどうにか感情を隠し、少年をなだめて再び眠らせた。それから離れたところへ忍び戻り、試みの惨めな結果について、苦しく自問した。トムの狂気が、あの癖を消してしまったのだと思おうとしたが、できなかった。「いいえ」と母親は言った。「あの子の手まで狂ったわけじゃない。こんなに短いあいだに、あれほど長い癖を忘れるはずがない。ああ、なんてつらい日なんだろう!」
だが、さっきまで疑いが頑固だったように、いまは希望が頑固だった。試しの結果を受け入れる気にはなれなかった。もう一度やってみなければ。失敗は、ただの偶然だったに違いない。そこで間を置き、二度目、三度目と、眠っている少年を驚かせた。結果は最初と同じだった。やがて母親は身を引きずって寝床へ戻り、悲しみながら眠りについた。「でも、あの子を手放せない。ああ、だめ、できない、できない。わたしの子に違いないんだもの!」

哀れな母親が眠りを妨げなくなり、痛みもしだいに気にならなくなると、極度の疲れがついに王子のまぶたを閉じ、深い安らかな眠りへ導いた。何時間も過ぎたが、死んだように眠り続けた。そうして四、五時間がたった。やがて深い眠りが薄れ始めた。半ば眠り、半ば目覚めながら、王子はつぶやいた――
「サー・ウィリアム!」
少しして――
「おい、サー・ウィリアム・ハーバート! 早く来てくれ。なんとも不思議な夢を見たのだ……サー・ウィリアム! 聞こえぬか? なんと、わたしが乞食になって……おい! 衛兵! サー・ウィリアム! 何だ、寝室付きの侍従は一人も控えておらぬのか? ああ、厳しく罰して――」
「どうしたの?」そばでささやき声がした。「誰を呼んでるの?」
「サー・ウィリアム・ハーバートだ。そなたは誰だ?」
「わたし? ナン姉さんに決まってるじゃない。ああ、トム、忘れていたわ! まだ気が変なのね。かわいそうに、まだ治ってないのね。またこんな思いをするくらいなら、目が覚めなければよかった! でも、お願い、静かにして。みんな殴り殺されてしまうよ!」
はっとした王子は半ば跳ね起きたが、こわばった打ち傷の鋭い痛みで、我に返った。汚れた藁の中へ再び沈み込み、うめいて叫んだ――
「ああ、やはり夢ではなかったのか!」
たちまち、眠りによって追い払われていた重い悲しみと惨めさが、すべて戻ってきた。自分はもう、国じゅうの敬愛のまなざしを浴び、宮殿で大切にされる王子ではない。ぼろをまとった乞食で、見捨てられた者で、獣にしか似合わぬ巣穴の囚人で、物乞いや泥棒の仲間なのだと悟った。
悲しみに沈むうちに、ほんの一、二街区先らしいところから、楽しげな騒ぎ声や叫びが聞こえてくるのに気づいた。次の瞬間、扉を鋭く叩く音が何度かした。ジョン・キャンティはいびきをやめて言った――
「誰だ? 何の用だ?」
声が答えた――
「おまえ、棍棒で殴った相手が誰か知ってるか?」
「いや。知らねえし、知ったことか。」
「すぐに言い方が変わるかもしれんぞ。首を守りたけりゃ、逃げるしかねえ。あの男はいま、息を引き取ろうとしてる。神父だ、アンドリュー神父だ!」
「神様、お助けを!」とキャンティは叫んだ。一家を起こし、かすれた声で命じた。「みんな起きて逃げろ! ここに残れば、お陀仏だ!」
五分とたたぬうちに、キャンティ一家は通りへ出て、命からがら逃げていた。ジョン・キャンティは王子の手首をつかみ、暗い道を急がせながら、低い声で言い聞かせた――
「口に気をつけろ、この気違いめ。おれたちの名前を言うな。すぐ別の名を名乗って、役人どもの鼻をくらましてやる。口に気をつけろと言ってるんだ!」

ほかの家族には、うなるように言った――
「はぐれたら、みんなロンドン橋へ行け。橋のいちばん端の麻布屋まで着いた者は、そこでほかの者を待て。それから一緒にサザークへ逃げるんだ。」
そのとき一家は、突然、暗闇から明かりの中へ飛び出した。それも、ただ明るいだけではなかった。川岸にひしめき、歌い、踊り、叫ぶ大群衆の真っただ中だった。テムズ川の上流にも下流にも、見渡すかぎりかがり火が並び、ロンドン橋も、サザーク橋も、明かりで飾られていた。川じゅうが色とりどりの光のきらめきで輝き、絶え間なく炸裂する花火が、複雑に交差する光の筋と、まばゆい火の粉の豪雨で空を満たし、夜をほとんど昼に変えていた。いたるところに浮かれ騒ぐ人の群れがあり、ロンドンじゅうが外へ繰り出したかのようだった。
ジョン・キャンティは激しく悪態をつき、引き返すよう命じたが、遅すぎた。一家はうごめく人間の巣に呑み込まれ、たちまち、どうにもならぬほど離ればなれになった。ただし、王子をその一家の一員に数えてはいけない。キャンティはなおもしっかりつかんでいた。王子の胸は、いまや逃げられるかもしれないという希望で高鳴っていた。人混みをかき分けようとするキャンティに、屈強な船頭が乱暴に突きのけられた。かなり酒が回っていた船頭は、大きな手をキャンティの肩に置いて言った――
「おい、そんなに急いでどこへ行く? 忠義な善人がみんな祝ってるときに、卑しい商売で心を腐らせるのか?」
「おれの用事は、おれのものだ。おまえには関係ねえ」とキャンティは乱暴に答えた。「その手をどけて、通せ。」
「そんな了見なら、ウェールズ公殿下に乾杯するまで、通さねえぞ」と船頭は、きっぱり道をふさいだ。
「じゃあ杯をよこせ。急げ、急げ!」
そのころには、ほかの酔客も興味を引かれていた。口々に叫んだ――
「親愛の杯だ、親愛の杯! そのむっつりした悪党に、親愛の杯を飲ませろ! でなきゃ魚の餌にしちまえ!」
そこで、大きな親愛の杯[訳注:親睦を示すために回し飲みする、両側に取っ手のついた儀礼用の杯]が運ばれてきた。船頭は片方の取っ手をつかみ、もう一方の手で、あるつもりのナプキンの端を持ち上げ、古来の正しい作法でキャンティへ差し出した。キャンティは昔からのしきたりに従い、片手で反対の取っ手をつかみ、もう片手で蓋を取らねばならなかった。当然、その一瞬、王子の手は自由になった。王子は時を無駄にせず、まわりの足の林へ飛び込み、姿を消した。次の瞬間には、そのうねる人間の海の下で王子を見つけるのは、大西洋に落とした六ペンス銀貨を探すのと変わらぬほど難しくなっていた。

王子はすぐにそれを悟り、ジョン・キャンティのことはもう考えず、自分の問題に取りかかった。そして、もう一つのことにもすぐ気づいた。偽のウェールズ公が、自分の代わりに市の宴でもてなされているのだ。乞食の少年トム・キャンティが、信じがたい好機を故意に利用し、地位を奪ったのだと、たやすく結論づけた。
ならば、進む道は一つしかない。ギルドホールへ行き、正体を明かし、偽者を告発するのだ。また、トムには魂の準備をするための適当な時間を与え、その後、当時の大逆罪に対する法律と慣習に従って、絞首・内臓抉り・四つ裂きの刑に処することに決めた。

第十一章 ギルドホールにて
王家の船は、華麗な船団を従え、明かりをともした無数の舟のあいだを縫って、堂々とテムズ川を下った。空気は音楽に満ち、両岸には喜びの炎がひだ飾りのように連なっていた。遠くの町は、目に見えぬ無数のかがり火によって、柔らかな光に包まれていた。その上には細い尖塔がいくつも空へ伸び、きらめく明かりをちりばめていたので、遠目には、宝石を飾って高く突き上げた槍のように見えた。船団が進むにつれ、岸からは、絶え間ないしわがれた歓声の轟きと、やむことのない砲火の閃光と轟音が迎えた。
絹のクッションに半ば埋もれたトム・キャンティにとって、その音も眺めも、言葉にできぬほど壮大で驚くべきものだった。そばに座る幼い友人、エリザベス王女とレディ・ジェーン・グレイにとっては、何でもなかった。
ダウゲートに着くと、船団は澄んだウォルブルックを曳かれて上り、バックラーズベリーへ向かった。この川筋は、いまや二百年も前から、広大な建物群の下に埋もれて見えなくなっている。楽しむ人々でいっぱいになり、明るく照らされた家々の前を過ぎ、橋の下をくぐり、ついに古都ロンドンの中心、現在のバージ・ヤードにあたる船溜まりで止まった。トムは上陸し、華やかな行列とともにチープサイドを横切り、オールド・ジュリーとベージングホール・ストリートを少し進んで、ギルドホールへ着いた。
トムと幼い貴婦人たちは、金の鎖飾りと緋色の礼服をまとったロンドン市長と市の長老たちから、正式な礼をもって迎えられた。先触れを告げる紋章官、権杖、市の儀仗剣を先頭に、大広間の上座にある豪華な天蓋のもとへ案内された。トムと二人の幼い友人に仕える貴族や貴婦人は、椅子の後ろに位置を占めた。

一段低い卓には宮廷の大貴族や、ほかの高貴な客たちが、市の有力者とともに座り、平民たちは広間の平床に数多く並べられた食卓についた。古来この町を守る巨人ゴグとマゴグ[訳注:ロンドン市の守護者とされ、ギルドホールに像が置かれた伝説上の巨人]は、高い見晴らしのよい場所から、忘れられた幾世代にもわたって見慣れた目で、眼下の光景を眺めていた。ラッパが鳴り、口上が告げられると、左側の壁の高い張り出しに、太った執事が姿を現した。続く給仕たちは、王侯にふさわしい巨大な牛の腰肉のローストを、もったいぶった厳粛さで運んできた。湯気を立て、あとは切り分けるばかりだった。
祈りがすむと、トムは教えられたとおりに立ち上がり、広間の全員もそれに従った。そして大きな金の親愛の杯から、エリザベス王女と飲み交わした。杯は王女からレディ・ジェーンへ渡り、それから一同のあいだを巡った。こうして宴は始まった。
真夜中には、祝宴は最高潮に達した。そこで、あの古い時代に大いに好まれた、絵のような見世物が始まった。それを見た年代記作者の、古風な言葉による記述が、いまも残っている。
「場所があけられると、ほどなく男爵と伯爵が一人ずつ、トルコ風の装いで入ってきた。金を散らした錦の長衣をまとい、深紅のビロードの帽子には金の太い巻き飾りをつけ、腰にはシミターと呼ばれる二本の曲刀を、幅広い金の剣帯でつるしていた。次に別の男爵と伯爵が、黄色いサテンの長衣を着て現れた。白いサテンの帯が斜めに走り、その白い帯の中には深紅のサテンの帯が通っていた。ロシア風の装いで、頭には灰色の毛皮帽をかぶり、それぞれ手に斧を持ち、靴には尖った先端」――長さ一フィートの爪先――「が反り上がっていた。その後には騎士が一人、次に海軍卿が五人の貴族とともに続いた。深紅のビロードの胴着は、背が低く開き、前は鎖骨まで開いて、胸を銀の鎖で結んでいた。その上に深紅のサテンの短い外套をまとい、頭には舞踏者風の帽子をかぶって雉の羽根を挿していた。これはプロイセン風の装いだった。百人ほどの松明持ちは、深紅と緑のサテンを着て、ムーア人に似せ、顔を黒くしていた。続いて仮装の一団が入り、それから変装した楽師たちが踊った。貴族や貴婦人も激しく踊り、まことに楽しい眺めだった。」
トムが高い席から、この「激しい」踊りを眺め、眼下で渦巻く華やかな姿が、万華鏡のようにまばゆい色を混ぜ合わせるさまに、うっとり見とれていた、そのとき。ぼろを着た、本物の幼いウェールズ公は、ギルドホールの門で、自分の権利と受けた不正を訴え、偽者を告発し、中へ入れろと声を張り上げていた。群衆はこの一幕を大いに楽しみ、小さな騒動の主を見ようと、前へ押し寄せ、首を伸ばした。やがて、わざとからかい、あざけり始めた。もっと怒らせて、さらに面白くしようというのだ。屈辱の涙が目ににじんだが、王子は踏みとどまり、まさしく王者らしく群衆に立ち向かった。さらに罵声が飛び、新たな嘲りに刺されると、王子は叫んだ――
「もう一度言うぞ、この無作法な犬ども! わたしはウェールズ公だ! どれほど惨めで、友もなく、優しいひと言をかける者も、窮地を救う者もいなかろうと、ここから追い払われはしない。踏みとどまってみせる!」
「王子だろうが、なかろうが、そんなことはどうでもいい。おまえは勇敢な子だ。それに、友がいないわけでもないぞ! その証拠に、おれがこうしてそばに立っている。よく覚えておけ、マイルズ・ヘンドンより頼りにならん友なら、歩き疲れるほど探さなくても見つかるってことだ。小さな顎を休ませな、坊や。こんなどぶねずみどもの言葉なら、おれは生まれつきのように話せる。」
話した男は、服装も容貌も物腰も、ドン・セザール・ド・バザン[訳注:芝居に登場する、落ちぶれても気骨を失わぬ貴族剣士]のようだった。背が高く、引き締まり、筋肉質だった。胴着とふくらんだ短ズボンは上等な生地だったが、色あせ、擦り切れ、金の縁飾りはひどくくすんでいた。ひだ襟はしわくちゃで傷み、つばの垂れた帽子の羽根は折れ、濡れそぼったようにみすぼらしかった。腰には、錆びた鉄の鞘に長い細身の剣を差していた。威張った身のこなしから、陣営渡りの荒くれ者だと、ひと目でわかった。この風変わりな男の言葉は、爆発するような嘲笑で迎えられた。あちこちから声が上がった。「またお忍びの王子だ!」「口には気をつけろよ、危ない奴かもしれねえ!」「なるほど、そんな面だ。あの目を見ろ!」「ガキを引きはがせ! あの小僧を馬池へ放り込め!」
この愉快な思いつきに動かされ、たちまち一人が王子へ手をかけた。その瞬間、よそ者の長剣が抜かれ、手を出した男は、剣の平で音高く打たれて地面へ倒れた。次の瞬間には、二十もの声が叫んだ。「犬を殺せ! 殺せ! 殺せ!」群衆は武人へ押し寄せた。男は壁を背に退き、長い剣を狂ったように振り回した。打たれた者はあちらこちらへ倒れたが、群衆の波はその体を越えて押し寄せ、少しも衰えぬ怒りで、守り手へぶつかった。

男の命もあとわずか、滅びは避けられぬかと思われたとき、突然ラッパが鳴り、「王の使者のお通り!」と声が響いた。騎兵の一隊が群衆へ突進し、人々は危険を避けようと、足の続くかぎり逃げ散った。勇敢なよそ者は王子を抱き上げ、まもなく危険と群衆から遠く離れていた。
ギルドホールの中へ戻ろう。突然、歓喜に満ちた祝宴の轟きと騒音を突き抜けて、澄んだラッパの音が響いた。たちまち静寂が訪れた。深い、息をひそめた静けさだった。やがて、たった一つの声が上がった。宮殿からの使者の声だった。高く響く声で布告を読み始め、一同は立って聞き入った。
最後の言葉は、厳粛に告げられた――
「国王陛下、崩御!」
大群衆は一斉に胸へ頭を垂れた。深い沈黙のまま、しばらくそうしていた。それから全員がいっせいにひざまずき、トムへ両手を差し伸べ、建物を揺るがすような大歓声を上げた――
「国王陛下万歳!」

哀れなトムの呆然とした目は、この途方もない光景をさまよい、やがて、そばにひざまずく姫たちの上に夢見るようにしばらく止まり、それからハートフォード伯爵へ向いた。突然、その顔に決意が浮かんだ。トムはハートフォード卿の耳元で、低く言った――
「信義と名誉にかけて、正直に答えてほしい。いまここで、王だけに許される権利と特権によって、わたしが命令を下したなら、その命令は守られ、誰も立って否とは言わぬのか?」
「この王国に、そのような者は一人もおりません、陛下。陛下のお身に、イングランドの威厳は宿っております。陛下こそ王であり、そのお言葉こそ法でございます。」
トムは強く真剣な声で、力をこめて答えた――
「ならば今日より、王の法は慈悲の法とし、二度と血の法とはせぬ! 立て、そして行け! ロンドン塔へ行き、王の命を伝えよ。ノーフォーク公爵を死なせてはならぬ!」
その言葉は熱を帯びて口から口へ伝わり、広間の隅々まで広がった。ハートフォードが急いで御前を退くと、またも凄まじい歓声が沸き起こった――
「血の治世は終わった! イングランド王エドワード陛下万歳!」

第十二章 王子と救い主
マイルズ・ヘンドンと幼い王子は群衆を抜け出すと、裏通りや路地を縫って川へ向かった。ロンドン橋の近くまでは邪魔も入らなかったが、そこからはまた人波をかき分けて進まねばならず、ヘンドンは王子の――いや、国王の――手首をしっかりと握っていた。重大な知らせはすでに広まっており、少年は一度に無数の声からそれを聞かされた――「国王陛下が亡くなられた!」
その知らせは、あわれな幼いさすらい人の胸を凍らせ、全身を震わせた。どれほど大きなものを失ったかがわかり、痛ましい悲しみが胸に満ちた。ほかの人々には恐れられていたあの厳しい暴君も、この子にはいつも優しかったのだ。涙が湧き、見るものすべてがかすんだ。一瞬、自分こそ神の造りたもうた生き物の中で、もっとも孤独で、世から追われ、見捨てられた者だと思った。そのとき、別の叫びが遠くまで雷鳴のようにとどろき、夜を震わせた。「エドワード六世陛下、万歳!」少年の目は輝き、指の先まで誇らしさが駆け抜けた。「ああ」と思った。「なんとすばらしく、不思議なことだろう――余が王なのだ!。」

二人は橋の上の人混みを、ゆっくりと縫って進んだ。この橋は六百年のあいだ立ち続け、その間ずっと人の往来と騒音の絶えない通りであったが、まことに奇妙な造りをしていた。上階を住まいにした商店が両側にびっしりと並び、川の一方の岸からもう一方の岸まで続いていたのだ。橋そのものが一つの町といってよく、宿屋もあれば、ビール酒場、パン屋、小間物屋、食料市場、製造業の工房、さらには教会まであった。橋が結んでいる二つの隣町――ロンドンとサザーク――についても、郊外としてならまずまずだが、それ以外にさしたる重要さはない、といった顔をしていた。いわば、内輪だけで固まった社会である。五分の一マイルの通り一本からなる細長い町で、人口は村ほどしかなく、住民同士は誰もが隅々まで知り合っていた。それぞれの父母の代からの知り合いで、家々のこまかな内情まですっかり承知していた。もちろん、名門もあった。肉屋、パン屋、そのほかさまざまな商売の由緒ある家柄で、五百年も六百年も同じ古い場所に居座り、橋の偉大な歴史を初めから終わりまで、奇妙な伝説に至るまで知り尽くしていた。いつも橋仕込みの話し方でしゃべり、橋仕込みの考え方でものを考え、嘘をつくにも、長々と、よどみなく、まっすぐに、どっしりとした橋仕込みの嘘をついた。狭量で無知でうぬぼれの強い住民が育つには、まさにうってつけだった。子供たちは橋で生まれ、橋で育ち、年を取り、ロンドン橋以外の世界には一歩も足を踏み入れずに死んでいった。そんな人々にしてみれば、昼も夜も通りを流れる壮大で果てしない行列こそ、世界でただ一つの大事業であり、自分たちはどうやらその所有者なのだと思うのも当然だった。叫びや呼び声、馬のいななき、牛や羊の鳴き声が入り乱れ、足音はくぐもった雷のように響く。実際、ある意味では彼らが所有者だった。少なくとも窓からそれを見せることができたし、帰還する王や英雄が行列につかの間の華やかさを添える折には、ちゃんと料金を取って見せてもいた。行進する隊列を、遮るものなく、まっすぐ遠くまで見通せる場所として、ここに勝るところはなかったからだ。
橋で生まれ育った者は、ほかの土地では暮らしが退屈で空虚で、とうてい耐えられなかった。七十一歳になって橋を離れ、田舎に隠居した男のことが歴史に残っている。ところが男は、寝床でもだえ、寝返りを打つばかりで、一向に眠れなかった。深い静けさがあまりにも苦痛で、恐ろしく、息苦しかったのだ。ついにそれですっかり疲れ果て、痩せ衰えた亡霊のようになって昔の家へ逃げ帰った。そして、打ち寄せる水の音と、ロンドン橋の轟音、激しい物音、雷鳴にも似た響きを子守歌に、安らかに眠り、楽しい夢を見たのである。
われわれが物語っている時代には、この橋は子供たちにイングランド史の「実物教材」まで提供していた。すなわち、橋門の上の鉄の串に刺された、名高い人々の青ざめ腐りゆく首である。だが、話がそれた。

ヘンドンの宿は、橋の上の小さな宿屋だった。幼い友と入口に近づいたとき、荒々しい声がした――
「やっと来やがったな! 今度こそ逃がさねえぞ。骨をどろどろになるまでぶちのめしてやりゃ、少しは身に染みて、二度とおれたちを待たせなくなるだろうよ」――ジョン・キャンティが少年を捕まえようと手を伸ばした。
マイルズ・ヘンドンは間に立ちはだかって言った――
「まあ待て、ご同輩。むやみに手荒だな。この子とはどういう間柄だ?」
「人のことに口を突っ込まなきゃ気がすまねえなら教えてやる。おれの息子だ。」
「嘘だ!」幼い王は激しく叫んだ。
「よく言った。頭がまともだろうが、少々ひびが入っていようが、おれはおまえを信じるぞ。しかし、この薄汚い悪党が父親だろうとなかろうと、同じことだ。おまえがおれと一緒にいたいなら、この男には渡さん。今言ったように殴ったり、ひどい目に遭わせたりはさせん。」
「一緒にいたい、いたいとも。この男など知らぬ。虫唾が走る。ついて行くくらいなら死んだほうがよい。」
「では決まりだ。これ以上、話すことはない。」
「そいつはどうかな!」ジョン・キャンティは怒鳴り、少年に手を伸ばそうとヘンドンの脇を大股で通り抜けた。「嫌でもこいつを――」
「指一本でも触れてみろ、この歩く生ごみめ。鵞鳥のように串刺しにしてやる!」ヘンドンは行く手をふさぎ、剣の柄に手をかけた。キャンティは後ずさった。「よく聞け」とヘンドンは続けた。「おまえのような連中が寄ってたかって、この子を痛めつけ、ことによれば殺そうとしていたところを、おれが引き受けて守ったのだ。それを今さら、もっと悪い目に遭わせるために見捨てると思うか? 父親だろうがなかろうが――正直なところ、嘘だと思うが――おまえのような獣の手で生き地獄を味わうくらいなら、さっさと一思いに死んだほうが、この子にはまだましだ。だから行け。とっとと行け。おれは言い争いが嫌いでな。もともと、そう気の長いほうでもない。」

ジョン・キャンティは脅しと悪態をぶつぶつ吐きながら立ち去り、人混みに吞まれて見えなくなった。ヘンドンは食事を部屋へ運ぶよう頼んでから、預かった少年を連れて階段を三階分上がった。粗末な部屋で、くたびれた寝台と古家具が雑然と置かれ、弱々しい二本のろうそくがぼんやりと照らしていた。幼い王は寝台まで足を引きずって行き、その上に横たわった。空腹と疲れで、ほとんど力尽きていた。すでに朝の二時か三時になっており、昼から夜にかけて大半を歩き通したうえ、その間何も食べていなかったのだ。眠そうにこうつぶやいた――
「食事の支度ができたら起こしてくれ」そして、たちまち深い眠りに落ちた。
ヘンドンの目に笑みが浮かび、独り言を言った――
「いやはや、この小さな物乞いときたら、まるで自分のもののように、人の部屋へすっと入り、人の寝台を乗っ取る。ご免くださいも、よろしいですかも、何一つない。おかしなうわごとではウェールズ公[訳注:英国王位継承者の称号]だと言っていたが、見事にその役を通しているわけだ。かわいそうな、身寄りのない子鼠め。ひどい扱いを受けて、心が病んでしまったのだろう。よし、おれが友になってやる。助けてやったせいで、ひどく情が移った。威勢のいいこのちびっ子が、もうかわいくてならん。あの汚れた群衆を相手に、なんと兵士らしく向かい合い、誇らしげに啖呵を切ったことか! それに、眠りが苦労や悲しみを消してしまうと、なんときれいで、愛らしく、優しい顔なのだろう。おれが教えてやる。病も治してやる。そうとも、兄になって世話をし、守ってやろう。この子を辱めたり傷つけたりしようとする奴は、死装束を注文しておくがいい。おれが火あぶりになろうとも、そいつには必ず必要になるのだから!」

ヘンドンは少年の上に身をかがめ、いたわりと哀れみを込めて見つめた。幼い頬を優しくたたき、大きな褐色の手で、もつれた巻き毛をなでつけた。少年の体がかすかに震えた。ヘンドンはつぶやいた――
「見ろ、これだから男は気が利かん。何も掛けずに寝かせて、命取りの風邪を引かせるところだ。さて、どうする? 抱き上げて寝具の中へ入れれば目を覚ましてしまう。今は何より眠りが必要なのに。」
何か掛けるものはないかと見回したが、見つからなかったので、自分の胴着を脱いで少年をくるみ、「おれは薄着で冷たい風に当たるのには慣れている。寒さなど何ほどでもないさ」と言った。それから血の巡りを保とうと部屋を行き来し、また独り言を続けた。
「病んだ頭では、自分がウェールズ公だと信じているのだな。本当の公はもう公ではなく王になったというのに、こちらにはまだウェールズ公がいるとは妙な話だ。このかわいそうな頭は一つの思い込みにとらわれていて、これからは王子をやめて王と名乗るべきだとまでは、考えが回るまい……異国の牢に閉じ込められ、故郷の便りを一つも聞かなかった七年のあいだ、父上がまだご存命なら、おれのためにこの子を歓迎して、惜しまず住まわせてくださるだろう。心の優しい兄のアーサーもそうだ。弟のヒューは――あの狐のようにずるい、性根の腐った獣め、あいつが邪魔をしたら頭を割ってやる! よし、故郷へ向かおう。しかも、すぐにだ。」
給仕が湯気の立つ食事を運び込んで、モミ材の小さな食卓に並べ、椅子を置くと、安宿の客は自分で給仕すればよいとばかりに出て行った。扉がばたんと閉まり、その音で少年は目を覚まし、勢いよく起き上がって喜びに輝く目であたりを見た。だが、すぐに顔に悲しみが浮かび、深いため息とともにつぶやいた。「ああ、夢だったのか。なんとつらいことだろう!」
それから、マイルズ・ヘンドンの胴着に気づき、胴着とヘンドンを見比べ、自分のためにしてくれたことを悟ると、優しく言った――
「そなたは余に親切だな。本当に親切だ。これは着るがよい。余にはもう要らぬ。」
少年は立ち上がると、隅の洗面台へ歩いて行き、そこで待った。ヘンドンは陽気に言った――
「さあ、たっぷり飲んで、たっぷり食べよう。どれもいい匂いで、熱々だ。ひと眠りもしたことだし、食べればすぐ元気になる。心配するな!」
少年は答えず、剣を帯びた背の高い騎士に、深い驚きといくらかの苛立ちを含んだ目をじっと向けた。ヘンドンはわけがわからず、尋ねた――
「どうした?」
「顔を洗いたいのだ。」
「ああ、それだけか? 何をするにもマイルズ・ヘンドンの許しなど要らん。ここでは何でも自由に使ってくれ。おれのものは好きにしていい。」
それでも少年は立ったまま動かず、そのうえ、小さな足で苛立たしげに一、二度床を踏んだ。ヘンドンはますますわからなくなって言った――
「いったい、どうしたというんだ?」
「水を注いでくれ。そうあれこれ言わずに!」

ヘンドンは大笑いしそうになるのをこらえ、「まったく、これは見事なものだ!」と胸の中で言いながら、さっと進み出て、この小さな横柄者の言いつけどおりにした。そのあとは、あっけに取られたようにそばに立っていたが、「さあ、手拭いを!」という命令で、はっと我に返った。少年の鼻先にある手拭いを取り、何も言わずに渡した。次に自分の顔を洗い始めると、その間に養い子は食卓につき、食べ始めようとしていた。ヘンドンは急いで洗顔を済ませ、もう一脚の椅子を引いて腰を下ろそうとした。そのとき少年が憤然と言った――
「控えよ! 王の御前で座るつもりか?」
この一撃には、ヘンドンも根底から揺さぶられた。心の中でつぶやいた。「なんと、このかわいそうな子の狂気は時勢に遅れておらん! 国の大変化に合わせて変わり、今や自分が王だと思っている! やれやれ、この思い込みにも付き合うほかないか。さもなければ、ロンドン塔へ送られてしまうぞ!」
その冗談がおかしくて、ヘンドンは椅子を食卓から離し、王の背後に立つと、自分にできるかぎり宮廷らしい作法で給仕を始めた。
食べているうちに、王の厳めしい威厳も少しほぐれ、満ち足りるにつれて話がしたくなった。「聞き違いでなければ、そなたはマイルズ・ヘンドンと申したな?」
「さようでございます、陛下」とマイルズは答え、それから胸の中で言った。「この気の毒な子の狂気に付き合うのなら、陛下とも申し上げねばならんし、お上とも申し上げねばならん。中途半端はいかん。役に必要なことは何でもやり通さねば、演じ損ねて、せっかくの親切も慈善も台無しになる。」
二杯目の葡萄酒で心まで温まった王は言った。「そなたのことを知りたい。身の上を話してくれ。そなたには勇ましさと気高さがある。生まれも高貴なのか?」
「貴族の末席を汚す家柄でございます、陛下。父は准男爵――騎士としての軍役を務める小領主の一人で、ケントのモンクス・ホルム近く、ヘンドン・ホールのサー・リチャード・ヘンドンと申します。」
「その名は覚えておらぬ。続けよ。身の上を聞かせてくれ。」

「たいした話ではございません、陛下。ですが、ほかにお慰みがなければ、半時ほどの暇つぶしにはなりましょう。父リチャードは大層な資産家で、心の広い人です。母は私がまだ子供のころに亡くなりました。兄弟は二人おります。兄のアーサーは父によく似た心の持ち主。弟のヒューは卑しく、欲深く、裏切り者で、悪辣で、陰険な――毒蛇のような男です。生まれつきそうであり、最後に会った十年前もそうでした。そのころ私は二十、アーサーは二十二、ヒューは十九にして、すでに一人前の悪党でした。ほかに家族といえば、いとこのレディ・イーディスだけです。当時十六歳で、美しく、優しく、心の清らかな娘でした。伯爵の娘で、一族最後の生き残りとして、莫大な財産と、継承の絶えた爵位を受け継ぐ立場にあり、父が後見人をしておりました。私は彼女を愛し、彼女も私を愛していました。ところが生まれたときからアーサーの許嫁と決められていて、父はその約束を破ることを許しませんでした。アーサーは別の娘を愛しており、私たちを励まして、時と運が味方すれば、いつかそれぞれの望みがかなうのだから、希望を捨てるなと言ってくれました。ヒューが愛していたのはレディ・イーディスの財産です。もっとも、口では彼女自身を愛していると言っていましたが、いつも本心とは違うことを言う男でした。しかし、彼女に小細工は通じませんでした。父はだませても、ほかの者はだませなかったのです。父は私たちの中でヒューをもっともかわいがり、信用し、言うことを信じていました。末っ子で、ほかの者から嫌われていたからです。この二つがそろえば、いつの世も親の愛を一身に集めるには十分なのでしょう。そのうえ口当たりよく人を説き伏せる舌を持ち、嘘の才能も抜群でした。そういうものは、盲目の愛情が自らを欺くには大いに役立つものです。私は向こう見ずでした。正直に言えば、たいへん向こう見ずだったとも申せましょう。しかし、たわいのない向こう見ずで、損をするのは自分だけ、誰にも恥や損失をもたらさず、罪や卑劣さの汚れもなく、家柄を辱めるようなものではありませんでした。
「ところが弟のヒューは、この欠点をうまく利用しました。兄アーサーの健康がすぐれぬのを見て、私さえ道から取り除けば、万一の際に得ができると望みをかけたのです。それで――ですが、長くなるばかりで、お聞かせするほどの話でもございません、陛下。手短に申しますと、弟は私の欠点を巧みに誇張して犯罪に仕立て上げ、最後には私の部屋から絹の縄梯子を発見して、その卑劣な企みを完成させました。もちろん、自分で忍ばせたものです。その梯子と、買収した召使いや嘘つきどもの証言によって、私が父の意向に真っ向から逆らい、イーディスを連れ去って結婚するつもりなのだと、父に信じ込ませたのです。
「父は、家とイングランドから三年間追放すれば、私も軍人として、一人前の男として鍛えられ、少しは分別がつくだろうと言いました。私は長い試練の年月を大陸の戦争で過ごし、手痛い打撃も、窮乏も、冒険も、たっぷりと味わいました。ところが最後の戦いで捕虜となり、それから七年もの歳月を異国の地下牢で暮らしたのです。ようやく知恵と勇気で自由の空気を取り戻し、まっすぐこちらへ逃げ帰って、たった今着いたばかりでございます。財布も着るものも貧しく、なお乏しいのは、あの陰鬱な七年間にヘンドン・ホールとそこに住む者たち、その暮らしがどう変わったかという消息です。陛下、これで私のつまらぬ身の上話は終わりでございます。」
「なんと恥知らずな仕打ちを受けたことか!」幼い王は目をきらめかせて言った。「だが余が、そなたの無念を晴らしてやる。十字架にかけて、必ずだ! 王の約束である。」

そして、マイルズの受けた不当な仕打ちに心を燃やした王は、堰を切ったように、自分がこのところ遭遇した災難を、驚く聞き手の耳へ注ぎ込んだ。話が終わると、マイルズは心の中で言った――
「なんという想像力だ! まことに並の頭ではない。そうでなければ、正気だろうと狂気だろうと、こんな奇妙な物語を、何もないところから、これほど筋の通った華やかな話に織り上げられるものか。あわれな、傷ついた小さな頭よ。おれが生きているかぎり、友にも住まいにも不自由はさせん。決してそばから離すまい。かわいい子として、小さな相棒として暮らそう。そして治してやる! そうだ、すっかり元の健やかな頭に戻してやる。その暁には、きっと名を上げるだろう。そうしたら、おれは胸を張って言うのだ。『そう、あれはおれの子だ。家もないぼろ着の子を引き取ったが、おれには素質が見えた。いつか名を知られるようになると言ったんだ。見てみろ、よく見てみろ――おれの言ったとおりだろう?』。」
王は思慮深く、一言ずつ言葉を選んで語りかけた――
「そなたは余を、危害と恥辱から救った。ことによれば命を、したがって王冠をも救った。そのような働きには、十分な褒美がなくてはならぬ。望みを申せ。余の王権の及ぶかぎり、そなたのものとしよう。」
この夢のような申し出に、ヘンドンは物思いから引き戻された。礼を述べ、自分の務めを果たしただけで褒美はいらないと言って済ませようとしたが、もっとよい考えが浮かんだ。そこで、このありがたい申し出について、しばし黙って考えるお許しを願った。王はおごそかにうなずき、これほど大切なことは、あまり急がずに決めるのがよいと言った。
マイルズは少し考えてから、心の中で言った。「そうだ、それがよい。ほかの手段では、どうにも手に入りそうにない。たしかに、この一時間で思い知ったが、このまま続けるのはひどく骨が折れるし、不便でもある。よし、申し出よう。この機会を捨てずにすんだのは、ありがたい偶然だった。」
そして片膝をつき、こう言った――

「私のささやかな働きは、臣下として当然の務めを超えるものではなく、何ら手柄と呼べるものではございません。それでも陛下が褒美に値するとお考えくださるなら、お言葉に甘え、次の願いを申し上げます。陛下もご存じのとおり、四百年近く前、イングランド王ジョンとフランス王のあいだに争いが起こり、双方の代表が試合場で戦い、いわゆる神の裁きによって決着をつけることとなりました。両国の王とスペイン王が、戦いを見届け裁定を下すために集まり、フランスの代表が姿を現しました。しかし、その者があまりに恐るべき戦士だったため、わがイングランドの騎士たちは誰も剣を交えようとしませんでした。そのため、この重大な争いは、不戦敗によってイングランド王に不利な結末となりかけていました。折しもロンドン塔には、イングランド一の剛勇を誇るド・クーシー卿が、名誉も財産も奪われ、長い幽閉に衰えておりました。助力を請われると承知し、戦装束を整えて現れましたが、フランス人はその巨体を一目見、名高い名を聞くや逃げ去り、フランス王の敗北となったのです。ジョン王はド・クーシーに爵位と領地を戻し、『望みを申せ。国の半分を費やしてでも与えよう』と言いました。そこでド・クーシーは、今の私のようにひざまずき、こう答えました。『それでは陛下、私とわが後継者に、今後この王座の続くかぎり、イングランド王の御前でも帽子を脱がずにいられる特権をお与えください』。陛下もご存じのとおり、願いは許されました。そしてこの四百年、その家系では一度も世継ぎが絶えず、今日に至るまで、あの古い家柄の当主は王の御前でも帽子や兜をかぶり、誰にもとがめられません。ほかの者には許されぬことです。この先例にすがって、私もただ一つの恩恵、ただ一つの特権を陛下にお願い申し上げます。それだけで身に余る褒美、ほかには何も望みません。すなわち、私とわが子孫が永遠に、イングランド王の御前で座ることをお許しください!」
「立て、騎士サー・マイルズ・ヘンドン」と王はおごそかに言い、ヘンドンの剣で肩に触れて騎士に叙した。「立って、座るがよい。願いは聞き届けた。イングランドが存続し、王冠が続くかぎり、その特権は失われぬ。」

陛下は物思いにふけりながら離れて歩き、ヘンドンは食卓の椅子にどさりと腰を下ろして、胸の中で言った。「うまい考えだった。とんでもない苦行から救われたぞ。脚がひどく疲れていた。思いつかなかったら、このかわいそうな子の頭が治るまで、何週間でも立っていなければならなかった。」
しばらくして、また考えた。「というわけで、おれは夢と影の王国の騎士になったか! おれのように現実一筋の人間には、なんとも妙で珍しい身分だ。笑うまい。いや、決して笑ってはいかん。おれには実体のないことでも、この子には本当なのだ。それに、おれにとっても、ある意味では嘘ではない。この子の優しく気前のよい心を、まことにそのまま映しているのだから。」
少し間を置いて――「ああ、もし人前で、このご大層な称号で呼ばれたらどうする? おれの栄誉とこの身なりでは、とんだ取り合わせだ! だが構うものか。気に入るなら、何とでも呼べばいい。おれもそれで満足だ。」


第十三章 王子の失踪
やがて二人の仲間に、重い眠気が襲ってきた。王は言った――
「このぼろを脱がせてくれ」――自分の着物のことである。
ヘンドンは異議も言葉も挟まず少年の服を脱がせ、寝台に寝かせて寝具を掛けると、部屋を見回し、情けない声でつぶやいた。「またおれの寝台を取ってしまった。さて、おれはどうする?」
幼い王はその困惑に気づき、一言で解決してやった。眠そうに言った――
「そなたは戸口を横切るように寝て、番をするがよい。」
それからほどなく、王は深い眠りに落ち、あらゆる悩みから解き放たれた。
「まったく、王に生まれるべき子だったな!」ヘンドンは感心してつぶやいた。「見事ななりきりぶりだ。」
そして扉の前の床に体を横たえ、満足そうに言った――
「七年間はこれよりひどい寝床だった。ここに不平を言っては、天のお方に罰が当たる。」
夜明けとともに眠りに落ちた。昼近くに起きると、まだ眠る預かり子の寝具を少しずつめくり、紐で体の寸法を取った。仕事がちょうど終わったとき、王が目を覚まし、寒いとこぼして、何をしているのかと尋ねた。
「もう済みました、陛下」とヘンドンは言った。「少し外に用事がございますが、すぐ戻ります。もう一度お眠りください。お休みが必要です。さあ、お頭もおくるみしましょう。そのほうが早く温まります。」
この言葉が終わらないうちに、王はまた夢の国へ帰っていた。マイルズはそっと出て行き、三、四十分ほどで、同じようにそっと戻ってきた。少年用の古着一式を抱えていた。安物で着古した跡もあったが、きちんとしていて、季節にも合っていた。腰を下ろして買った品を点検しながら、ぶつぶつ独り言を言い始めた――
「財布がもっと厚ければ、もっといいものが買えたが、厚い財布がないのだから、薄い財布で買えるものに満足せねばな――
「『おれたちの町に女がいたよ、
おれたちの町に住んでたよ――』

「動いたかな。もう少し雷みたいでない声で歌わねば。これから旅に出るのに、眠りを邪魔しちゃいかん。あんなに疲れている、かわいそうな子だ……この服は――まずまずだな。こことそこを一針ずつ縫えばよい。こちらはもっといい。もっとも、これも一、二針縫っておいて損はあるまい……
この靴はなかなか丈夫でいい。小さな足を温かくして、
濡らさずにすむ――あの子には、きっと珍しいことだろう。冬も夏も裸足で歩き慣れているに違いない……糸がパンだったらいいのにな。ファージング一枚[訳注:一ペニーの四分の一に当たる銅貨]で一年分は買えるし、こんな立派な大針まで、親切にもただでつけてくれるのだから。さて、こいつに糸を通すのが一苦労だぞ!」
実際、そのとおりだった。昔から男たちがやってきたこと、おそらく世の終わりまでやり続けることを、ヘンドンもやった。針をじっと持ち、穴へ糸を突っ込もうとしたのである。女のやり方とは正反対だ。糸は何度も的を外し、針のあちら側へ行ったり、こちら側へ行ったり、針の軸にぶつかって折れ曲がったりした。それでも辛抱強かった。軍隊にいたころにも経験していたからだ。ようやく成功すると、その間膝の上で待っていた服を取り、縫い始めた。
「宿代は払った。これから来る朝食も込みだ。まだ驢馬を二頭買って、ヘンドン・ホールの豊かな暮らしに帰り着くまでの二、三日の旅費を賄うだけは残っている――
「『女は夫を愛し――』
「痛えっ! 爪の下へ針を刺した! ……なに、たいしたことはない。初めてでもない。ありがたいことでもないが……故郷では楽しく暮らせるぞ、ちびすけ。間違いない。苦労も消えるし、その気の毒な病も治る――
「『女は夫をいとしく愛した、
けれど別の男が――』
「立派な大きい縫い目だ!」服を掲げて、ほれぼれと眺めながら言った。「なんと壮大で威厳がある。仕立屋のけちけちした小さな縫い目が、ひどくみすぼらしく、下賤に見えるぞ――
「『女は夫をいとしく愛した、
けれど別の男が女を愛した――』
「よし、できた。見事な仕事だ。しかも手早い。さあ、起こして、服を着せ、水を注ぎ、食べさせて、それからサザークのタバード・インのそばの市場へ急ごう。それから――陛下、お目覚めください! ――返事がないな――もし、陛下! ――お声ではお目覚めにならんのなら、尊いお体に手を触れる無礼をせねばならん。何だと!」
寝具をはねのけた――少年はいなかった!
しばし、言葉もなく驚きに打たれて周囲を見回した。そのとき初めて、預かり子のぼろ服もなくなっていると気づき、怒り狂って宿の主人を呼び始めた。ちょうどそこへ給仕が朝食を運んできた。
「説明しろ、この悪魔の手先め! さもなくば命はないぞ!」軍人は怒鳴り、あまりに凶暴な勢いで給仕に飛びかかったので、相手は恐れと驚きに、すぐには口も利けなかった。「少年はどこだ?」

給仕は震える声で、とぎれとぎれに求められた事情を話した。
「旦那さまがお出になって間もなく、若者が駆けてきまして、旦那さまがあの子に、サザーク側の橋のたもとへすぐ来るようおっしゃっていると申しました。そこでここへ案内いたしました。若者があの子を起こして言づてを伝えると、『こんなに早く』起こすとは、と少し文句を言いましたが、すぐにぼろ着を着込んで、一緒に行きました。ただ、知らぬ者をよこさず、旦那さまご自身が迎えに来るのが礼儀だろうに、と申しただけで。それで――」
「それで、おまえは馬鹿だ! 馬鹿で、ころりとだまされる間抜けだ! 一族そろって首でも吊れ! だが、まだ害はないかもしれん。あの子をどうこうするつもりでもなかろう。迎えに行ってくる。食卓を整えておけ。待て! 寝具が、まるで人が寝ているように整えてあったが、あれは偶然か?」
「存じません、旦那さま。若者がいじっているのは見ました。あの子を迎えに来た若者です。」
「ちくしょう! おれをだますためだ。時間を稼ぐためなのは明らかだ。おい、よく聞け! その若者は一人だったか?」
「たった一人でした、旦那さま。」
「確かか?」
「確かです、旦那さま。」
「散らかった頭をまとめろ。よく思い出せ。慌てなくていい。」
少し考えてから、給仕は言った――
「来たときには、誰も連れておりませんでした。でも今思い出しました。二人が橋の人混みに入っていくと、近くから人相の悪い男が飛び出して、ちょうど二人と合流しかけたところで――」
「どうした? 早く言え!」じれたヘンドンが雷のような声で遮った。
「ちょうどそのとき群衆に吞み込まれてしまい、それきり見えませんでした。主人に呼ばれたもので。代書人さまから頼まれた肉料理を忘れたと言って、ひどく怒っておりまして。ですが、聖人方に誓って申しますが、その手違いを私のせいにするのは、まだ生まれてもいない赤子を、犯してもいない罪で裁くような――」
「失せろ、馬鹿者! おまえのおしゃべりには気が狂いそうだ! 待て! どこへ飛んでいく? 少しもじっとしておれんのか? 連中はサザークへ向かったのだな?」
「さようでございます、旦那さま。ですから、先ほども申したあの忌々しい肉料理のことでございますが、生まれる前の赤子だって、私ほど潔白では――」

「まだいたのか! しかも、まだしゃべっている! 消えろ、首を絞められたくなければ!」
給仕は消えた。ヘンドンはあとに続き、追い越して、階段を二段ずつ駆け下りながらつぶやいた。「自分の息子だと言い張っていた、あの薄汚い悪党だな。見失ってしまった、かわいそうな、小さな狂えるご主人さま。なんとつらいことだ。あんなにかわいくなっていたのに! いや! 聖なる書と鐘にかけて、失ってなどいない! 見つけ出すまで国じゅうをしらみつぶしに探すのだ。かわいそうに、朝食があそこに残っている。おれの分もだが、もう食欲などない。鼠にでもくれてやれ。急げ、急げ! 今はそれだけだ!」
橋の上の騒がしい人波をすり抜けながら、ヘンドンは何度も、よほど心慰められる考えらしく、その思いにしがみついてつぶやいた。「文句は言ったが、行ったのだ。そう、マイルズ・ヘンドンに頼まれたと思ったから行った。かわいい子だ。ほかの誰のためにも、あんなことはしなかっただろう。よくわかる。」

第十四章 「王は死せり――王、万歳。」
同じ朝、夜明け近くに、トム・キャンティは深い眠りから身じろぎし、暗闇の中で目を開けた。しばらく黙って横たわり、入り乱れた考えや印象を整理して、どうにか意味をつかもうとしていたが、突然、歓喜に満ちながらも抑えた声で叫んだ――
「わかった、すっかりわかったぞ! 神さま、ありがとうございます。やっと本当に目が覚めたんだ! 喜びよ、来い! 悲しみよ、消えろ! おい、ナン! ベット! 藁を蹴飛ばして、こっちへ来てくれ。聞いても信じられないだろうけど、夜の精が人を驚かそうと作った夢の中でも、これほどとんでもない夢はないっていう話を聞かせるよ! ……おい、ナンったら! ベット!」
ぼんやりした人影がそばに現れ、声がした――
「何なりとお申しつけくださいませ。」

「申しつける? ……ああ、つらい! その声は知っている! 教えてくれ――僕は誰だ?」
「陛下でございますか。昨夜まではウェールズ公殿下、今日はわが慈悲深き君主、イングランド王エドワード陛下におわします。」
トムは枕に顔を埋め、悲しげにつぶやいた――
「ああ、夢ではなかったのか! そなたは休むがよい。親切な人よ、悲しむ余を一人にしてくれ。」
トムはまた眠り、しばらくして楽しい夢を見た。季節は夏で、グッドマンズ・フィールズという美しい草原に、たった一人で遊んでいた。すると、背は一フィートほど、長い赤ひげを生やし、背中の曲がった小人が突然現れて言った。「あの切り株のそばを掘ってごらん。」
言われたとおりにすると、ぴかぴかの新しいペニー貨が十二枚出てきた。なんという大金だろう! だが、よいことはそれだけではなかった。小人は言った――
「おまえのことは知っている。よい子だし、褒美をもらう値打ちがある。もう苦しみは終わりだ。報われる日が来たのだから。七日ごとにここを掘りなさい。いつも同じ宝、ぴかぴかの新しいペニー貨十二枚が見つかる。誰にも言ってはいけない。秘密にするんだよ。」
そう言って小人は消え、トムは宝を持ってオーファル・コートへ飛ぶように駆けながら、考えた。「毎晩、父さんに一ペニーあげよう。物乞いで稼いだと思って喜んでくれる。もう殴られなくてすむんだ。僕に教えてくれる優しい神父さまには、毎週一ペニー。残りの四ペニーは、母さんとナンとベットに。これでもう、飢えもぼろ着も、怖いことも心配も、ひどい仕打ちもおしまいだ。」
夢の中で、トムは息を切らして汚い我が家へたどり着いた。目は感謝と喜びに躍っていた。母の膝に四枚の銅貨を投げ入れ、叫んだ――
「母さんにあげる! 全部だよ、一枚残らず! 母さんとナンとベットの分だよ。ちゃんと手に入れたんだ。もらっても、盗んでもいない!」
母は驚き、喜び、トムを胸に強く抱きしめて叫んだ――
「もう遅い時刻でございます。陛下、どうぞお起きくださいませ。」
ああ、それは待っていた返事ではなかった。夢はぷつりと切れ、目が覚めた。
目を開けると、華麗な装いの寝室筆頭侍従が寝台のそばにひざまずいていた。偽りの夢の喜びは消え、あわれな少年は、自分がまだ囚われの身であり、王なのだと悟った。部屋には喪の色である紫の外套をまとった廷臣たちと、王に仕える高貴な者たちが満ちていた。トムは寝台の上に起き上がり、厚い絹の垂れ幕の間から、この立派な人々を眺めた。
着替えという重大な仕事が始まった。その間も廷臣が一人ずつひざまずき、恭しく挨拶し、幼い王の大きな喪失にお悔やみを述べた。まず当番侍従武官長が肌着を取り、鹿猟犬管理長へ渡す。鹿猟犬管理長は寝室第二侍従へ、寝室第二侍従はウィンザー森林管理長へ、ウィンザー森林管理長は礼服第三侍従へ、礼服第三侍従はランカスター公領大法官へ、ランカスター公領大法官は衣装長へ、衣装長はノロイ紋章官長へ、ノロイ紋章官長はロンドン塔長官へ、ロンドン塔長官は王室家政長へ、王室家政長は世襲大手拭い役へ、世襲大手拭い役はイングランド海軍卿へ、海軍卿はカンタベリー大司教へ、大司教は寝室筆頭侍従へ渡す。寝室筆頭侍従が、そうしてようやく手元に残った肌着をトムに着せた。かわいそうな少年は目を丸くしながら、火事のときの手桶の受け渡しを思い出した。

どの衣類も、順にこの遅々としたおごそかな過程を経なければならなかったので、トムはひどく退屈した。ようやく絹の長靴下が列を旅し始め、終わりが近いとわかったときには、ありがたさが胸からあふれそうになったほどだ。だが、喜ぶのは早すぎた。寝室筆頭侍従は靴下を受け取り、トムの脚にはかせようとして、突然顔を赤らめた。驚愕の目で、慌ててカンタベリー大司教の手へ押し戻し、靴下の一か所を指して、「これを、ご覧ください!」とささやいた。大司教は青ざめ、次に赤くなり、「これを、ご覧ください!」とささやいて海軍卿へ渡した。
海軍卿は世襲大手拭い役へ靴下を渡したが、「これを、ご覧ください!」と言うのがやっとの息遣いだった。
靴下は列を逆に流れ、王室家政長へ、ロンドン塔長官へ、ノロイ紋章官長へ、衣装長へ、ランカスター公領大法官へ、礼服第三侍従へ、ウィンザー森林管理長へ、寝室第二侍従へ、鹿猟犬管理長へと戻っていった。そのたびに、驚きと恐れに満ちた「これを! これを!」が伴った。ついに当番侍従武官長の手に戻ると、武官長は青ざめた顔で、この騒ぎの原因をしばし見つめ、かすれ声でささやいた。「なんたることだ、留め紐の先金が一つない! 王室靴下保管長をロンドン塔へ送れ!」それから、失った力を取り戻そうと鹿猟犬管理長の肩にもたれ、その間に紐に一つも損傷のない新しい靴下が運ばれてきた。
だが、何事にも終わりはある。やがてトム・キャンティも寝台から出られる身になった。所定の役人が水を注ぎ、所定の役人が洗顔を取り仕切り、所定の役人が手拭いを持って控えた。かくしてトムは無事に清めの段階を通過し、王室理髪師の手に委ねられることとなった。その名人の手からようやく解放されたときには、紫の繻子の外套と半ズボン、紫の羽根のついた帽子を身につけ、優美で、少女のように愛らしい姿になっていた。それから集まった廷臣たちの間を、威儀を正して朝食の部屋へ向かった。トムが通ると、人々は後ろへ下がって道を空け、膝をついた。
朝食後、トムは高官たちと、金色の戦斧を持つ五十人の近衛士に付き添われ、王にふさわしい儀礼のもとに玉座の間へ案内され、国事を執り始めた。「伯父」のハートフォード卿が玉座のそばに立ち、賢明な助言で王の思考を助けた。
先王に遺言執行人として指名された名士たちが現れ、自分たちの決定したいくつかの事項に、トムの承認を求めた。ほぼ形式にすぎなかったが、まだ護国卿がいなかったので、まったくの形式でもなかった。カンタベリー大司教は、亡き偉大な陛下の葬儀に関する遺言執行評議会の決定を報告し、最後に執行人の署名を読み上げた。すなわち、カンタベリー大司教、イングランド大法官、ウィリアム・セント・ジョン卿、ジョン・ラッセル卿、ハートフォード伯エドワード、ライル子爵ジョン、ダラム司教カスバート――
トムは聞いていなかった。文書の前のほうの一節が、どうにも腑に落ちなかったのだ。ここでハートフォード卿のほうを向き、ささやいた――
「葬式はいつと申した?」
「来月十六日でございます、陛下。」
「妙な馬鹿げた話だ。そこまでもつのか?」
かわいそうに、まだ王家の習慣に慣れていなかった。オーファル・コートのあわれな死者たちが、まるで違う速さで大急ぎで片づけられるのを見慣れていたのだ。とはいえ、ハートフォード卿は一言二言で安心させてやった。
国務秘書官が、外国使節の謁見を翌日の十一時と定める評議会の命令を提出し、王の裁可を求めた。

トムが問いかけるような目をハートフォードへ向けると、伯爵はささやいた――
「ご承認をお示しください。陛下とイングランド王国を襲った大いなる災厄に、各国の君主が寄せる哀悼の意を伝えに参るのです。」
トムは言われたとおりにした。別の秘書官が、先王の王室経費に関する前文を読み始めた。過去六か月の支出は二万八千ポンドに上るという。その途方もない金額に、トム・キャンティは息を吞んだ。そのうち二万ポンドがまだ未払いだと知って、もう一度息を吞んだ。そして王の金庫がほとんど空で、千二百人の召使いたちが、払われるはずの賃金を受け取れず困窮していると聞くと、さらに息を吞んだ。トムはひどく心配して声を上げた――
「このままでは破産だ。小さい家へ移り、召使いたちに暇を出すのがよいし、そうせねばならぬ。どうせ何もかも遅くして、心を疲れさせ、恥ずかしくなるような世話を焼くばかりで、何の役にも立たぬのだから。そんなことは、自分で考える頭も、用を足す手もない人形にしか似合わぬ。ビリングズゲートの魚市場の向かいに、小さな家があったのを覚えておるが――」
腕を強く押され、トムは軽率な言葉を飲み込み、顔を赤くした。だが、その場の誰の顔にも、この奇妙な発言に気づいたり、気にかけたりした様子は現れなかった。
秘書官が報告した。先王は遺言で、ハートフォード伯に公爵位を、その弟サー・トマス・シーモアに貴族の位を、またハートフォードの息子に伯爵位を与えること、ほかの王室の重臣にも同様の昇叙を行うことを定めている。それに従い、評議会は二月十六日に会議を開き、これらの栄典を授与し、確認することを決めた。ただし先王は、それぞれの身分を維持するに足る領地を文書で賜与していなかったので、評議会はその点について生前のご意向を承知していることから、現陛下のご承認を条件に、シーモアには「年収五百ポンドの領地」、ハートフォードの息子には「年収八百ポンドの領地と、次に空席となる司教領から年収三百ポンド分」を与えるのが適切と考えた、というのである。
トムは、そんな大金をばらまく前に、先王の借金を払うほうが先ではないか、と口走りかけた。だが気の利くハートフォードが、ちょうどよいときに腕へ触れたので、その軽率さを免れ、何も言わずに裁可を与えた。ただし胸の内は、たいへん落ち着かなかった。こうもたやすく、奇妙で華々しい奇跡を起こしていることをしばし考えていると、愉快な思いつきがひらめいた。母さんをオーファル・コート公爵夫人にして、領地を与えてはどうだろう? だが、悲しい考えがたちまちそれを吹き消した。自分は名ばかりの王で、主人はこの厳めしい老練な人々と大貴族たちなのだ。彼らにとって母は、病んだ頭が作り出した幻にすぎない。この計画を話しても信じはせず、医者を呼ぶだけだろう。
退屈な仕事が、だらだらと続いた。請願書、布告、特許状、国務に関するあらゆる種類の、くどくて同じことを繰り返す、うんざりする書類が読み上げられた。ついにトムは痛ましいため息をつき、独り言を漏らした。「僕が何をしたというんだろう。優しい神さまは、どうして野原と自由な空気と日の光から僕を取り上げ、ここへ閉じ込め、王なんかにして、こんなに苦しめるんだろう?」
やがて、かわいそうな混乱した頭がこっくりこっくりし始め、ついには肩へ垂れた。すると、裁可を下す尊い権能が使えなくなり、王国の政務も停止した。眠る子供を囲んで静寂が訪れ、国の賢者たちは審議をやめた。
午前中、トムは監督役のハートフォードとセント・ジョンの許しを得て、レディ・エリザベスと幼いレディ・ジェーン・グレイと、楽しい一時間を過ごした。ただし二人とも、王家を襲った大きな不幸のため、いくらか沈んでいた。二人の訪問が終わると、「姉」――のちに歴史上「血まみれのメアリー」と呼ばれることになる女性――との厳粛な対面があり、トムはすっかり冷え込んだ気分になった。その対面のよいところは、トムにとっては短いことだけだった。少しの間一人で過ごしたあと、十二歳ほどのほっそりした少年が通された。真っ白な襞襟と手首のレースのほかは、胴着も靴下もすべて黒ずくめだった。喪を表すものは、肩の紫の結びリボンだけだった。少年は帽子を取った頭を垂れ、おずおずと進んで、トムの前に片膝をついた。トムは座ったまま、しばらくまじめな顔で眺め、それから言った――
「立つがよい。そなたは誰だ。何の用か?」
少年は立ち上がり、優雅で自然な姿勢になったが、顔には心配が浮かんでいた。こう言った――

「きっと私を覚えておいででございましょう、陛下。私は陛下の鞭打たれ役でございます。」
「余の鞭打たれ役?」
「さようでございます。ハンフリーです。ハンフリー・マーロウでございます。」
トムは、監督役の二人が、この少年のことも教えておくべきだったのだと思った。微妙な立場だった。どうすればよい? 知っているふりをして、そのくせ一言しゃべるたびに、聞いたこともないとばれてしまうのか? いや、それはいけない。そこへ助けとなる考えが浮かんだ。ハートフォードとセント・ジョンは遺言執行評議会の一員で、これからは急な政務でそばを離れることも多いだろう。こういう事故もたびたび起こりそうだ。ならば、そんな急場をしのぐため、自分でやり方を考えておくのがよさそうだった。そう、それが賢い。この少年で試して、どれほどうまくいくか見てみよう。そこで、困ったようにしばし額をなでてから言った――
「今、少し思い出しかけた。だが苦しみのため、頭が曇って、うまく働かぬのだ――」
「ああ、おいたわしい陛下!」鞭打たれ役は心を込めて叫び、胸の中で続けた。「本当に皆の言うとおりだ。お心が乱れておられる。ああ、お気の毒に! だが、いけない、何を忘れているんだ! どこかおかしいと気づいた様子を見せてはならぬと言われたのに。」
「このごろは記憶が気まぐれでな、妙なことだ」とトムは言った。「だが気にせずともよい。どんどん治っておる。ちょっとした手掛かりで、忘れた出来事や名前も思い出せるのだ。(いや、それだけではないぞ。聞いたこともないことまでだ。それはこの子が見せてくれるだろう。)用件を申せ。」
「たいしたことではございませんが、お許しくださるなら申し上げます。一昨日、午前のご学問で、陛下がギリシア語を三度お間違いになったことを――覚えておいででしょうか?」
「う、うむ――覚えておると思う。(たいした嘘でもない。ギリシア語などやったら、三度どころか四十度は間違えたはずだ。)そう、今思い出した。続けよ。」
「先生は、それほどぞんざいで愚かな出来にお怒りになり、そのために私をたっぷり鞭打つとおっしゃいました。それで――」
「そなたを鞭打つ?」トムは驚きのあまり、用心も忘れた。「余の間違いで、どうしてそなたが鞭打たれるのだ?」
「ああ、陛下はまたお忘れです。ご学問でお間違いになると、いつも私が鞭打たれるのでございます。」
「そうだ、そうだ。忘れておった。そなたが余にこっそり教えているから、余が間違えると、そなたの教え方が悪かったということになり――」
「陛下、なんというお言葉でしょう。もっとも卑しい召使いにすぎぬ私が、差し出がましくも陛下にお教えするなどと?」
「ならば、そなたに何の落ち度がある? 何という謎だ。余が本当におかしくなったのか、それともそなたか? 説明せよ。はっきり申せ。」
「ですが陛下、何も難しいことではございません。ウェールズ公殿下の尊いお体を打つことは、誰にも許されません。ですから、お間違いのときには私が代わりに打たれるのです。それでよいのでございます。それが私の役目であり、暮らしの糧なのですから。」

トムは平然としている少年を見つめ、胸の中で思った。「これは驚いた。なんとも奇妙で、不思議な商売だ。なぜ髪をとかされたり、着替えをさせられたりするのを代わる子も雇わないのだろう。ぜひそうしてほしい! そうしてくれるなら、鞭打ちは自分で受ける。その交換を神さまに感謝しながらね。」
それから声に出して言った――
「それで、かわいそうに、そなたは言われたとおり打たれたのか?」
「いいえ、陛下。罰は今日の予定でした。今は喪に服する時節ですから、ふさわしくないとして取りやめになるかもしれません。でもわかりませんので、厚かましくも伺い、私のために口添えするとお約束くださったことを、お思い出しいただこうと――」
「先生にか? 鞭打ちを免れさせるために?」
「ああ、覚えておいでなのですね!」
「見てのとおり、記憶はよくなっておる。安心せよ。そなたの背に傷はつけさせぬ。余が取り計らう。」
「ありがとうございます、ありがたい陛下!」少年は叫び、また片膝をついた。「もう十分、出過ぎた願いをしたのかもしれません。ですが、まだ――」
ハンフリーがためらうのを見て、トムは「今日は願いをかなえてやりたい気分なのだ」と、先を促した。
「では申し上げます。心に重くかかっておりますので。陛下はもはやウェールズ公ではなく国王でいらっしゃいますから、何事も思うままにお決めになり、誰にも反対されません。ですから、これからも退屈な学問でお苦しみになるとは思えません。本は燃やして、もっと楽しいことにお心を向けられるでしょう。そうなれば私は破滅です。親を亡くした妹たちも、私と一緒に!」
「破滅? どういうことだ?」
「私の背中が、私の食い扶持でございます、陛下! これが働かなくなれば飢えてしまいます。ご学問をおやめになれば、私の役目もなくなります。鞭打たれ役はお入り用でなくなるのです。どうか、お暇をお出しにならないでください!」
トムは、その痛ましい困窮に胸を打たれた。王にもふさわしい気前のよさが湧き上がり、こう言った――
「もう心配するでない。その役目は、そなたと子孫に永遠に与えよう。」
そして剣の平で少年の肩を軽く打ち、叫んだ。「立て、ハンフリー・マーロウ、イングランド王家世襲大鞭打たれ役! 悲しみは捨てよ。余はまた本を開き、盛大に間違えてやろう。そなたの仕事があまりに増えるゆえ、給金を三倍にせねば不公平になるほどにな。」
感謝に満ちたハンフリーは、熱を込めて答えた――
「ありがとうございます、この上なく気高い陛下。その王者の惜しみないお恵みは、私が思い描いた、どんな途方もない幸運の夢にもまさります。これで私は生涯幸せです。私のあとのマーロウ家の者もみな幸せになります。」
トムには、この少年が役に立ちそうだと見抜くだけの知恵があった。話をするよう促すと、ハンフリーも喜んで応じた。トムの「治療」の手助けをしていると思えて、うれしかったのだ。王室の勉強部屋や宮殿のあちこちで、陛下が経験した出来事を一つずつ病んだ頭に呼び戻してあげると、そのたびにトムが、はっきり「思い出せる」ようになるのに気づいたからだった。一時間後には、トムは宮廷の人々や事情について、たいへん貴重な情報をたっぷり仕入れていた。そこで、この情報源から毎日教わろうと決めた。そのために、イングランド王がほかの者に会っているとき以外は、ハンフリーがいつ来ても王の私室に通すよう命じるつもりになった。ハンフリーが退出するかしないかのうちに、ハートフォード卿が、トムに新たな厄介事を持って現れた。
伯爵の話では、評議会の諸卿は、王のご病状について誇張された話が漏れ、世間に広まったのではないかと心配しており、一、二日後から陛下が人々の前で食事をなさるのが、もっとも賢明で適切だと考えているという。健康な顔色と力強い足取りに、注意深く保たれた落ち着き、自然で優雅な振る舞いが伴えば、万一悪い噂が流れていたとしても、どんな方法より確実に世間の不安を鎮めることができるだろう、というのだった。
続いて伯爵は、すでにご存じのことを「思い出していただく」という見え透いた口実のもと、その晴れがましい場にふさわしい作法を、たいへん慎重に教え始めた。ところが、うれしいことに、その方面ではトムはほとんど助けを必要としなかった。ハンフリーから、そのことも教わっていたのだ。宮廷を飛び交う噂を聞きつけたハンフリーが、数日以内に人前での食事が始まると話してくれていたのである。もっとも、トムはそれを自分の胸にしまっておいた。
王の記憶がこれほどよくなったのを見て、伯爵はどの程度まで回復したのか探ろうと、さりげない様子でいくつか試してみた。ところどころ、よい結果が得られた。ハンフリーの足跡の残っているところである。全体として伯爵は大いに満足し、希望を抱いた。あまりに希望が湧いたので、ついに明るい声でこう言った――

「これならば、陛下がもう少しお記憶をたどってくだされば、国璽[訳注:国王の公文書に押す大印章]の謎も解けると存じます。昨日までは重大な紛失でしたが、今ではさほどでもございません。先王のお命とともに、その役目も終わりましたので。どうか、お試しいただけませんでしょうか?」
トムは途方に暮れた。国璽など、まるで知らなかった。少しためらってから、無邪気に顔を上げて尋ねた――
「どんな形のものだったのだ、卿よ?」
伯爵は、ほとんどわからぬほどかすかに身を震わせ、胸の中でつぶやいた。「ああ、またお心が飛んでしまった! 無理にお考えいただこうとしたのは愚かだった」――そして巧みに話をそらし、不運な印章をトムの頭から追い払おうとした。それはたやすく成功した。

第十五章 王となったトム
翌日、外国の使節たちが華麗な供回りを連れて訪れ、トムはおごそかな威容に包まれて玉座に座り、彼らを迎えた。初めは、その光景の豪華さに目を楽しませ、想像力を燃やしたが、謁見は長く退屈で、挨拶の大半も同じだった。そのため、喜びで始まったものが、やがて疲れと望郷の念に変わっていった。トムはハートフォードが折々に教えてくれる言葉を口にし、立派に務めようと懸命だった。だが、こうしたことには不慣れすぎ、落ち着かなさすぎて、どうにか及第点を取るのが精いっぱいだった。見かけは十分に王らしかったが、王らしい気持ちになることは、ほとんどできなかった。儀式が終わると、心の底からほっとした。
その日の大半は、王としての職務に「無駄に費やされた」――トムは胸の中でそう呼んだ。王族らしい遊びや気晴らしに充てられた二時間でさえ、制約や儀礼に縛られていて、楽しみというより重荷だった。ただし、鞭打たれ役と二人きりで過ごした一時間だけは、まるまる得をしたと思った。楽しくもあり、必要な情報も得られたからだ。
トム・キャンティの王としての三日目も、それまでと同じように訪れ、過ぎ去った。しかし一つだけ、暗雲が薄れた点があった。初めほど居心地が悪くなくなったのだ。立場や周囲の環境にも少しずつ慣れてきた。鎖はまだ身に食い込んだが、四六時中ではなくなった。高貴な人々がそばにいて敬意を払うことも、時がたつにつれ、以前ほど苦しくも気恥ずかしくもなくなっていった。
たった一つの恐れさえなければ、四日目もそれほどつらい気持ちを抱かずに迎えられただろう。それは、人前での食事だった。その日から始まることになっていたのだ。予定には、もっと重大なことがあった。広い地球のあちこちに散らばる諸外国に対して、どのような政策を取るべきか、王の意見と命令を求める評議会を主宰しなければならなかった。またその日、ハートフォードは正式に護国卿という大任に選ばれるはずだった。ほかにも重要なことがいくつも予定されていた。しかしトムにとっては、好奇心に満ちた無数の目に見つめられ、無数の口に振る舞いを――運悪く失敗すれば、その失敗をも――ひそひそ評されながら、たった一人で食べるという試練に比べれば、どれも取るに足りなかった。
それでも四日目の到来を止めることはできず、その日は来た。かわいそうなトムは気が沈み、うわの空で、その気分はいつまでも抜けなかった。いつもの朝の務めもなかなか片づかず、くたくたになった。またしても、囚われの身という思いが重くのしかかった。
午前も遅くなり、トムは広い謁見の間でハートフォード伯と話しながら、多くの高官や廷臣たちが儀礼の訪問に来る時刻を、気の進まぬまま待っていた。

やがて窓辺へ歩いて行ったトムは、宮殿の門の外の大通りの活気と往来に目を引かれた。ただ眺めていたのではない。心の底から、あの賑わいと自由の中へ自分も加わりたかったのだ。すると、通りの向こうから、もっとも貧しく身分の低い男女や子供たちが、無秩序な群れをなし、やじり、叫びながら近づいてくる先頭が見えた。
「何の騒ぎか知りたいものだ!」こういう出来事には目のない、少年らしい好奇心をいっぱいにして叫んだ。
「陛下は国王であらせられます!」伯爵はおごそかに答え、一礼した。「手配をしてもよろしゅうございますか?」
「うむ、ぜひ! 喜んで!」トムは興奮して叫び、満足を覚えながら胸の中で付け加えた。「王でいるのも、退屈ばかりじゃないんだな。よいことも、便利なこともある。」
伯爵は小姓を呼び、衛兵隊長のもとへ、この命令を持たせた――
「群衆を止め、何のために動いているのか調べよ。国王陛下のご命令である!」
数秒後、きらめく鋼の鎧に身を包んだ王室衛兵の長い列が門から出て、群衆の前に道を横切って並んだ。使いが戻り、国の安寧と威信を害する罪を犯した男一人、女一人、少女一人が処刑場へ引かれており、群衆はそのあとを追っていると報告した。
死ぬ――しかも刑死するというのか、あの哀れな者たちが! その思いにトムの胸は締めつけられた。憐れみがほかの一切を押しのけて心を支配した。破られた法律のことも、三人の罪人が被害者に与えた悲しみや損失も、考えなかった。ただ処刑台と、死刑囚たちの頭上に迫る恐ろしい運命しか思い浮かばなかった。その心配に、自分は本物の王ではなく偽りの影にすぎないことさえ、一瞬忘れた。気づけば、命令を口走っていた――
「ここへ連れて参れ!」
それから真っ赤になり、言い訳めいた言葉が口に出かかった。だが、伯爵も控えている小姓も、その命令に何の驚きも見せないので、言いかけた言葉を飲み込んだ。小姓はまったく当然のこととして深々と礼をし、命令を伝えに、後ずさりで部屋を出て行った。トムは誇らしさに胸が熱くなり、王という役目の埋め合わせとなる利点を、また実感した。「本当に、あの年取った神父さまの物語を読んで、自分が王子になったつもりでいたときと同じ気持ちだ」と思った。「みんなに掟を与え、命令して、『これをせよ、あれをせよ』と言えば、誰も逆らうことも邪魔することもできないのだ。」
やがて扉が開き、仰々しい称号が次々に告げられ、その称号を持つ人々が続いて入り、部屋はたちまち高貴な人々と華麗な装いで半ば埋まった。だがトムは、もっと気になる別のことに心を奪われ、興奮していたので、彼らの存在にはほとんど気づかなかった。ぼんやりと王座に腰を下ろし、待ちきれぬ様子で扉に目を向けた。それを見て、一同は煩わせるのを控え、政務と宮廷の噂話を取り交ぜて、互いに語り始めた。
ほどなく、軍人たちの規則正しい足音が近づき、罪人たちが副執行官に引かれ、王の衛兵の一隊に護衛されて御前へ入ってきた。役人はトムの前にひざまずき、それから脇へ退いた。死を宣告された三人もひざまずき、そのままでいた。衛兵はトムの椅子の後ろに位置を取った。トムは興味深く囚人たちを見た。男の服装か姿のどこかが、ぼんやりした記憶を呼び起こした。「この男は前に見たことがあるようだ……だが、いつ、どこだったか思い出せぬ」そう考えていると、男はさっと顔を上げ、王者の恐ろしい威容に耐えきれず、すぐにまた伏せた。だが、顔を一目はっきり見ただけで、トムには十分だった。胸の中で言った。「わかった。あの男だ。寒くて風の強かった元日に、ジャイルズ・ウィットをテムズ川から引き上げて、命を救った見知らぬ男だ。勇敢で立派な行いだった。なのに悪いことをして、こんな目に遭うとは惜しい……あの日も、時刻も忘れはしない。その一時間あと、十一時の鐘と同時に、キャンティばあさんから、見事としか言いようのないほどひどく殴られたのだから。それまでのも、それからあとのも、あれに比べれば、撫でたり、かわいがったりするようなものだった。」

トムは女と少女をしばらく下がらせるよう命じ、それから副執行官に向かって言った――
「この男は何の罪を犯したのだ?」
役人はひざまずき、答えた――
「陛下、一人の臣民を毒殺いたしました。」
囚人への憐れみも、溺れる少年を救った勇敢さへの感嘆も、トムの心の中で大きく揺らいだ。
「それは証明されたのか?」と尋ねた。
「まことに明白に、陛下。」
トムはため息をついて言った――
「連れて行け。死に値することをしたのだ。惜しいことだ。勇敢な心の持ち主だったのに――いや、いや、そう見えると言うのだ!」
囚人は突然、強く両手を組み、絶望にねじり合わせながら、恐れに途切れる言葉で「王」にすがりついた――
「ああ、国王陛下、破滅する者を憐れんでくださるなら、どうか私にお情けを! 私は無実です。かけられた罪も、ろくに証明されておりません。ですが、そのことは申しません。判決は下され、もう変えられないのです。ただ、この土壇場で一つだけお願いがございます。言い渡された運命には、とても耐えられません。どうかお慈悲を、お慈悲を、国王陛下! 王のご慈悲をもって願いをお聞き届けください。私を絞首刑にするようお命じください!」
トムは驚いた。予想していた願いとは違った。
「なんと、妙な願いだ! もともとそうなるのではないのか?」
「ああ、慈悲深い陛下、違います! 私は生きたまま煮殺されることになっております!」
その言葉の恐ろしさに、トムは椅子から飛び上がりそうになった。気を取り直すなり、叫んだ――
「望みどおりにしてやろう、気の毒な者よ! 百人を毒殺したとしても、それほどむごい死に方はさせぬ。」
囚人は地面に顔を伏せ、激しく感謝の言葉をほとばしらせ、最後にこう言った――
「もしも陛下にご不幸が訪れることがございましたら――神よ、そのようなことをお許しになりませぬよう! ――今日私におかけくださったお情けが、思い起こされ、報われますように!」
トムはハートフォード伯へ向き直り、言った――
「卿よ、この男のむごい刑に、正当な根拠があるなどということが信じられるか?」
「毒殺者には、そのような法がございます、陛下。ドイツでは偽金造りを油で煮殺します。一度に投げ込むのではなく、縄で少しずつ、ゆっくり油へ下ろすのです。まず足先、次に脚、それから――」
「ああ、もうよい、卿よ、耐えられぬ!」トムはその光景を遮ろうと両手で目を覆って叫んだ。「頼む、この法律を改める手配をしてくれ。もう、あわれな者たちをこんな苦痛に遭わせぬように!」
伯爵の顔には、深い喜びが表れた。彼は慈悲深く寛大な心の持ち主だった。この苛烈な時代、その階級にはあまり見られぬことだった。伯爵は言った――
「ただ今の気高いお言葉で、その法律の命運は定まりました。歴史は王家の名誉として、このことを記憶いたしましょう。」
副執行官が囚人を連れ去ろうとしたので、トムは待てと合図し、それから言った――
「もう少し、この件を調べたい。この男は、罪が十分には証明されておらぬと言った。知っていることを申せ。」
「陛下、裁判で明らかになりましたところでは、この男はイズリントンの村の一軒の家へ入りました。そこには病人が一人おりまして、時刻は三人の証人が朝十時、二人がそれより数分あとと申しております。病人はそのとき一人きりで眠っていました。やがてこの男は出てきて、立ち去りました。その一時間以内に、病人は痙攣と嘔吐に苦しみ、死んだのでございます。」
「毒を飲ませるところを誰か見たのか? 毒は見つかったのか?」
「いいえ、陛下。」
「では、そもそも毒を飲ませたと、どうしてわかる?」
「陛下、医師たちが、あの症状で死ぬのは毒による場合だけだと証言いたしました。」
素朴な時代には、これは重い証拠だった。トムも、その重さを認めて言った――
「医者は自分の仕事を心得ておろう。おそらく正しいのだ。この気の毒な男には、形勢が悪いな。」
「ですが、それだけではございません、陛下。さらに悪い事情がございます。今では村を去り、行方も知れぬ魔女が、あの病人は毒で死ぬと予言し、耳元でひそかに告げたという者が大勢おります。しかも、毒を与えるのは見知らぬ男で、髪は茶色、着古した粗末な服を着ていると申したそうです。この囚人は、その人相書きにまことによく当てはまります。どうぞ陛下、この事情にふさわしい重みをお与えください。何しろ、予言されていたのでございますから。」
迷信の深いその時代には、これは圧倒的な力を持つ論拠だった。トムは、もう決着がついたと感じた。証拠というものに少しでも意味があるなら、この男の罪は証明されたのだ。それでも囚人に機会を与え、言った――
「弁明すべきことがあるなら申せ。」
「役に立つことは何もございません、陛下。私は無実ですが、それを示せません。友が一人でもいれば、その日イズリントンにはいなかったと証明できるのですが。また、その時刻には一リーグ以上も離れた、ワッピング・オールド・ステアーズにいたことも示せるのですが。それどころか陛下、人の命を奪っていたと言われるそのとき、命を救っていたことも証明できるのです。溺れていた少年を――」
「黙れ! 執行官、その事件のあった日を申せ!」
「元日の朝十時、もしくはそれより数分後でございます、いと尊き――」
「囚人を釈放せよ! 王の命令だ!」

王らしからぬ勢いで叫んだあと、トムはまた顔を赤らめ、できるだけ体裁を整えようと付け加えた――
「こんなくだらぬ、ばかばかしい証拠で人を吊るすとは、腹立たしい!」
感嘆の低いざわめきが一同の間を渡った。それはトムの下した決定への感嘆ではなかった。有罪と決まった毒殺者を赦すことが正しい、あるいは得策だと認め、称賛できる者は、そこにはほとんどいなかったからだ。そうではなく、トムの示した知性と気迫への感嘆だった。ひそやかな声の中には、このようなものがあった――
「狂った王などではない。お心は健全だ。」
「なんと筋の通ったお尋ねだったことか。あの唐突で威厳ある裁きは、以前の陛下そのものではないか!」
「神に感謝しよう。ご病気は去ったのだ! これは弱々しいお方ではない、王だ。まさしく父君のように振る舞われた。」
あたりに称賛が満ちていたので、トムの耳にも少しは入らずにはいなかった。そのおかげで、大いに気が楽になり、心身にたいへん愉快な感覚が満ちた。
しかし、少年らしい好奇心が、まもなくそうした楽しい思いを上回った。女と少女が、いったいどんな死に値する悪事を働いたのか知りたくなったのだ。そこで命令により、恐れに震え、すすり泣く二人が御前へ連れてこられた。
「この者たちは何をしたのだ?」トムは執行官に尋ねた。

「陛下、恐ろしい罪を犯し、それが明白に証明されましたので、裁判官たちは法に従って絞首刑を言い渡しました。悪魔に身を売ったのでございます。それが二人の罪です。」
トムは身震いした。そのような悪事を働く者を憎むよう教えられていた。それでも、好奇心を満たす楽しみまで捨てるつもりはなく、尋ねた――
「どこで行われた? いつだ?」
「十二月のある真夜中、廃墟となった教会でございます、陛下。」
トムはまた身震いした。
「誰が居合わせた?」
「この二人だけでございます、陛下。それから、あの者が。」
「二人は認めたのか?」
「いいえ、陛下。否認しております。」
「では、どうしてわかった?」
「そこへ向かうのを見た証人がおります、陛下。それで疑いが生じ、その後の恐ろしい出来事によって、疑いが正しかったと確かめられました。とりわけ、そうして手に入れた邪悪な力で嵐を呼び起こし、近隣一帯を荒廃させたという証拠がございます。四十人以上の証人が嵐を証明しております。実際には千人でも集められたでしょう。誰もが被害を受け、誰もが忘れられぬ嵐でしたから。」
「なるほど、重大なことだ。」
トムはこの陰惨な悪事をしばらく考え、それから尋ねた――
「その女も、嵐で被害を受けたのか?」

一同の中の何人かの年配者が、この質問の賢明さを認めてうなずいた。しかし執行官は、問いに大した意味を見いださず、ありのままに答えた――
「さようでございます、陛下。しかも当然の報いだと、皆が申しております。住まいは吹き流され、母子ともに宿なしとなりました。」
「自分にそれほどひどい目を遭わせる力にしては、高すぎる代価を払ったようだな。たった一ファージングでも、だまされたと言えよう。それに自分と子供の魂まで払ったのなら、狂っておる証拠だ。狂っているなら、自分のすることもわからぬ。ゆえに罪はない。」
年配者たちは、またトムの知恵を認めてうなずいた。ある者はつぶやいた。「噂どおり王ご自身が狂っておられるとしても、あれなら、私の知っている何人かにうつれば、かえって正気が増すだろう。神のお恵みで、ぜひそうなってもらいたいものだ。」
「子供はいくつだ?」トムは尋ねた。
「九歳でございます、陛下。」
「イングランドの法では、子供が契約を結び、自分の身を売ることは許されるのか?」トムは学識ある裁判官へ向き直って尋ねた。
「陛下、法は子供が重大な事柄を行ったり、それにかかわったりすることを許しておりません。未熟な知恵では、大人の熟した知恵や悪巧みに対抗できぬと考えるからです。
悪魔なら、買おうと思い、子供が同意すれば買えますが、
イングランド人にはできません。後者の場合、契約は無効となります。」
「イングランドの法が、イングランド人には特権を与えず、悪魔には気前よくくれてやるとは、乱暴で、キリスト教徒らしからぬ、不出来な仕組みではないか!」トムは心から憤って叫んだ。
この新しい見方に、多くの者が微笑んだ。そしてトムの独創性と心の回復ぶりを示す証拠として宮廷で語り伝えようと、多くの頭にしまい込まれた。
年長の罪人はもう泣きやみ、激しい関心と次第に増す希望をもって、トムの一言一言に耳を傾けていた。トムはそれに気づき、危うい境遇にあり、味方もいない女に、ますます同情を寄せた。やがて尋ねた――
「どうやって嵐を起こしたのだ?」
「靴下を脱いででございます、陛下。」
トムは驚き、好奇心は熱に浮かされたほど高まった。身を乗り出して言った――
「すごいことだ! いつでもそんな恐ろしいことが起こるのか?」
「いつでもでございます、陛下。少なくとも女がそれを望み、必要な言葉を、胸の中ででも声に出してでも唱えれば。」
トムは女へ向き直り、熱心に勢い込んで言った――
「その力を使ってみよ。嵐を見たい!」
迷信深い一同の頬から、さっと血の気が引いた。口には出さなかったものの、誰もがここから逃げ出したくなった。だがトムは、これから起こる天変地異以外には何も目に入らず、その様子にも気づかなかった。女が困惑と驚きの顔をしているのを見ると、興奮して付け加えた――
「恐れるな。そなたをとがめはせぬ。それどころか、自由にしてやる。誰にも手出しはさせぬ。その力を使え。」
「ああ、国王陛下、私にはそんな力はございません。無実の罪を着せられたのでございます。」
「恐ろしいのであろう。勇気を出せ。何もひどい目には遭わせぬ。嵐を起こすのだ。どれほど小さくてもよい。大きいものも、害のあるものも望まぬ。むしろ、その反対がよい。そうすれば命を助けてやる。子供とともに自由に出て行ける。王の赦しを受け、国じゅうの誰からも危害や悪意を加えられずにすむ。」
女は平伏し、涙ながらに、そんな奇跡を起こす力はないと訴えた。もし力があれば、子供の命だけでも救えるなら喜んで従い、自分の命は失ってもよい。王命に従うことで、それほど尊い恵みが得られるのなら、そうする、と言った。
トムは促したが、女は同じことを言い続けた。ついにトムは言った――
「女は本当のことを言っていると思う。もし余の母が同じ立場にいて、悪魔の力を持っていたなら、余の命が助かるとあれば、一瞬もためらわず嵐を呼び、国じゅうを廃墟にしただろう! ほかの母親も同じ心を持つと考えるのが道理だ。そなたは自由だ。子供も一緒に。余はそなたが無実だと思う。もう恐れることはない。赦されたのだ。靴下を脱げ! 嵐を起こしてくれたら、金持ちにしてやろう!」
救われた女は大声で感謝し、言いつけに従い始めた。トムは少し不安を交えながらも、熱心な期待の目で見守った。廷臣たちは、はっきりと居心地悪げで、落ち着かなかった。女は自分の足と娘の足を裸にし、王の寛大さに地震で報いようと、どうやら懸命に努めた。だが、すべて失敗で、期待外れに終わった。トムはため息をついて言った――
「もうよい、これ以上苦労せずともよい。力はそなたから去ったのだ。安らかに立ち去るがよい。もし、いつか戻ってきたら、余を忘れず、嵐を持ってきてくれ。」

第十六章 公式の食事
食事の時刻が近づいていた。ところが不思議なことに、トムはそれを考えても、わずかに気が重いだけで、恐ろしさはほとんど感じなかった。午前の経験が、驚くほど自信を育てていたのだ。あわれな灰まみれの子猫は、四日暮らしただけで、この奇妙な屋根裏部屋に、大人がまる一か月かけても及ばぬほど慣れかけていた。子供が環境に順応する巧みさを、これほど鮮やかに示す例はない。
トムがこの威風堂々たる催しに備えて支度をしている間に、特別に出入りを許されたわれわれは、大宴会場へ急ぎ、中の様子をのぞいてみよう。広々とした部屋で、柱も付け柱も金色に輝き、壁や天井には絵が描かれている。入口には、華やかで絵になる衣装を着た背の高い衛兵たちが、斧槍を持ち、彫像のように微動だにせず立っている。部屋をぐるりと囲む高い回廊には楽団がいて、きらびやかに着飾った男女の市民がぎっしり詰まっている。部屋の中央、一段高い台の上に、トムの食卓がある。ここからは、昔の年代記作者に語ってもらおう。

「一人の紳士が杖を持って入室し、もう一人が食卓布を持ってこれに伴う。二人とも、この上ない恭しさで三度ひざまずいたのち、布を食卓に広げ、再びひざまずいて退く。次に二人が来る。一人はやはり杖を、もう一人は塩入れ、皿、パンを持つ。先の二人と同じようにひざまずき、持参の品を食卓に置くと、同じ儀礼を行って退出する。最後に、豪華に着飾った二人の貴族が、一人は毒見用の小刀を携えて現れ、もっとも優雅な所作で三度平伏したのちに近づき、まるで王がその場におられるかのように畏まりつつ、パンと塩で食卓をこする。」
これで、おごそかな準備は終わる。すると、響き渡る廊下のはるか向こうから、ラッパの音と、かすかな叫びが聞こえてくる。「国王陛下のお成り! いと尊き国王陛下に道を開けよ!」
その音は刻々と繰り返され、だんだん近づいてきた。そして、ほとんど目の前で軍隊のラッパが高らかに鳴り、「国王陛下に道を開けよ!」という声が響いた。
その瞬間、輝かしい行列が姿を現し、歩調をそろえて入口から入ってきた。もう一度、年代記作者に語ってもらおう――
「まず紳士、男爵、伯爵、ガーター勲章の騎士たちが、みな豪華な衣服をまとい、帽子を脱いで進む。次に大法官が二人の者に挟まれて来る。一人は王笏を、もう一人は赤い鞘に金の百合の紋章をちりばめた国家の剣を、切っ先を上にして携える。そのあとに王ご自身が続く。お姿が現れると、十二本のラッパと多数の太鼓が一斉に鳴ってお迎えし、回廊の人々は総立ちとなり、『神よ、国王を守りたまえ!』と叫ぶ。王の後ろには側近の貴族たちが続き、左右には金色の戦斧を持つ五十人の近衛士が儀仗隊として歩む。」

何もかも、すばらしく愉快だった。トムの鼓動は高まり、目には喜びの光が宿っていた。振る舞いもまことに優雅だった。自分がどう振る舞っているかなど考えず、周囲の明るい光景と音に心を奪われていたので、なおさらだった。そのうえ、ぴったり合う美しい服に少し慣れてしまえば、誰でもそう不格好には見えないものだ。とりわけ、その瞬間に服を意識していなければなおさらである。トムは教えられたことを思い出し、羽根飾りのついた頭を少し傾け、丁重に「礼を申す、善き民たちよ」と挨拶に応えた。

帽子を取らずに食卓へ着いたが、少しも気恥ずかしくなかった。帽子をかぶったまま食べることだけは、王たちとキャンティ家が共通して持つ、ただ一つの王室の習慣だったからだ。その長年の馴染み深さでは、どちらも引けを取らなかった。行列は解け、人々は絵になるような集まりを作り、帽子を脱いだまま控えた。
陽気な音楽に合わせて、近衛兵たちが入ってきた。「その点を重んじて選び抜かれた、イングランドでもっとも背が高く、力強い男たち」である。だが、これも年代記作者に任せよう――
「近衛兵たちは帽子を脱ぎ、背に金の薔薇をつけた深紅の衣服をまとって入室した。彼らは往復し、そのたびに銀器に盛られた一組の料理を運んだ。料理は、運ばれた順に一人の紳士が受け取り、食卓に並べた。その間、毒見役は、毒の恐れがないよう、各兵士に自分の運んできた料理を一口ずつ食べさせた。」
トムはおいしく食事をした。何百もの目が、一口ごとに食べ物が口へ運ばれるのを追い、食べる様子を熱心に見つめていることには気づいていた。その熱心さといったら、もし食べ物が恐ろしい爆薬で、トムを吹き飛ばし、そこらじゅうにばらまくはずだとしても、それ以上にはならなかっただろう。それでもトムは、急いで食べないように気をつけた。同じように、何事も自分ではせず、所定の役人がひざまずいてしてくれるのを待つよう心がけた。一つの失敗もなく終えた。欠けるところのない、貴重な勝利だった。

ようやく食事が済み、華麗な行列に囲まれて退出するとき、耳にはラッパの高鳴り、太鼓の連打、雷のような歓声が心地よく響いていた。トムは、もし人前での食事の一番つらいところがこれだけなら、一日に何度でも喜んで耐えられると思った。それで王の務めのうち、もっと恐ろしいものをいくつか免れられるのなら、なおさらだった。

第十七章 フーフー一世
マイルズ・ヘンドンは、探す者たちを鋭く見張りながら、橋のサザーク側へ急いだ。すぐに追いつけると期待し、そう願っていた。だが、その望みは外れた。人に尋ねながら、サザークの途中までは足取りを追えたが、そこで跡が途絶え、どう進めばよいか途方に暮れた。それでも、その日じゅうできるかぎり探し続けた。日暮れには足がくたくたになり、腹も半ば飢えきっていたが、目的は少しも達せられていなかった。そこでタバード・インで夕食を取り、翌朝早く出て町じゅうを徹底的に探そうと決め、床に就いた。横になって考え、計画を立てるうち、やがてこう思い至った。少年はできることなら、父親を名乗るあの悪党から逃げ出すだろう。そのときロンドンへ戻り、昔の居場所へ行くだろうか? いや、そうはしない。また捕まるのを避けるだろう。では、どうする? マイルズ・ヘンドンに会うまで、この世に友も守ってくれる者もなかったのだ。ロンドンと危険のほうへ向かわずにすむなら、当然、その友をまた探そうとするはずだ。ヘンドン・ホールへ向かうに違いない。ヘンドンが故郷へ帰ることは知っており、そこなら会えると思うはずだ。そうだ、筋は明らかだった。サザークでこれ以上時間を無駄にせず、ただちにケントを通ってモンクス・ホルムへ向かい、道々、森を探し、人に尋ねていくべきなのだ。さて、ここで姿を消した幼い王のところへ戻ろう。

橋の宿屋の給仕が、若者と王に「合流しかけた」と見た悪党は、実際には二人に加わらず、すぐ後ろについて歩いていた。一言もしゃべらなかった。左腕を吊り、左目には大きな緑の眼帯をつけ、少し足を引きずり、樫の杖を支えにしていた。若者は王を連れてサザークを曲がりくねって進み、やがて町外れの街道へ出た。王はもう腹を立てていて、ここで待つと言った。ヘンドンがこちらへ来るべきなのであって、自分がヘンドンのもとへ行くのではない。このような無礼は我慢できぬ。ここにとどまる、と。若者は言った――
「向こうの森で友達が傷を負って倒れているのに、ここで待つんですか? それなら、そうなさればいい。」
王の態度はたちまち変わった。叫んだ――
「傷を負った? 誰がそんなことをした? いや、それはあとだ。案内せよ、早く! もっと急げ! 鉛の靴でもはいておるのか? 傷を負ったと? やった者が公爵の息子であろうと、必ず後悔させてやる!」
森まではかなりあったが、二人はたちまち進んだ。若者はあたりを見回し、小さなぼろ切れを結んだ枝が地面に刺さっているのを見つけると、森へ入った。同じような枝に気をつけながら進み、ところどころでそれを見つけた。目指す場所への道しるべらしかった。やがて開けた場所へ出た。焼け落ちた農家の跡があり、その近くに崩れかけた納屋が立っていた。どこにも人の気配はなく、完全な静寂が広がっていた。若者が納屋へ入ると、王も待ちきれず、すぐあとに続いた。誰もいない! 王は驚きと疑いの目を若者に向け、尋ねた――
「あの者はどこだ?」
答えは、あざける笑いだった。王はたちまち激怒し、薪を一つつかんで若者に飛びかかろうとした。そのとき、別のあざ笑いが耳に入った。少し離れてあとをつけていた、足の悪い悪党だった。王は振り向き、怒って言った――

「何者だ? ここで何をしておる?」
「ふざけるのはよせ」と男は言った。「おとなしくしろ。父親だとわからねえふりができるほど、見事な変装じゃあるまい。」
「そなたは余の父ではない。知らぬ者だ。余は王である。余の家来を隠したのなら、見つけて連れてこい。さもなくば、その行いを悔やむことになるぞ。」
ジョン・キャンティは、厳しく、一言ずつ区切って答えた――
「おまえが狂っているのはわかった。だから、できれば殴りたくはねえ。だが、おれを怒らせるなら仕方がない。ここなら、そのたわごとを気にする耳もねえから、何をほざこうが害はない。だが、居場所が変わっても災いを招かねえよう、舌には慎みを覚えさせておけ。おれは人を殺した。だから家にはいられねえ。おまえもだ。おまえには働いてもらわにゃならん。わけあって名前を変えた。ホッブズだ。ジョン・ホッブズ。おまえはジャックだ。しっかり覚えとけ。さあ、言え。母親はどこだ? 姉たちはどこだ? 約束の場所へ来なかった。どこへ行ったか知ってるか?」
王は不機嫌に答えた――
「そんな謎で余を煩わせるな。母は死んだ。姉たちは宮殿におる。」
そばの若者が、馬鹿にした笑い声を上げた。王は飛びかかろうとしたが、キャンティ――今では自らホッブズと名乗っていた――が止めて言った――
「黙れ、ヒューゴ。からかうな。頭がおかしいんだ。おまえが余計いらつかせる。座れ、ジャック。おとなしくしろ。じき何か食わせてやる。」
ホッブズとヒューゴは低い声で話し始め、王はこの不愉快な二人から、できるかぎり遠ざかった。納屋の奥の薄暗がりへ下がると、土間には一フィートほどの深さに藁が敷かれていた。そこに横たわり、毛布の代わりに藁をかぶると、まもなく考えに沈んだ。悲しみはいくつもあったが、小さなものは、もっとも大きい悲しみ――父を失ったこと――に押し流され、ほとんど忘れられていた。世の人々にとって、ヘンリー八世という名は身震いを誘い、鼻から破滅を吹き出し、手で鞭と死を振りまく鬼を思わせた。だがこの少年には、ただうれしい気持ちを呼び起こす名だった。思い浮かぶ姿は、優しさと愛情に満ちた顔をしていた。父と交わした数々の愛情深いひとときを次々に思い出し、懐かしく心に抱いた。とめどなく流れる涙が、胸を満たす悲しみの深さと真実を物語っていた。午後が過ぎていくにつれ、苦しみに疲れた少年は、しだいに静かな、心を癒す眠りへ沈んでいった。

どれほどたったかはわからないが、かなりの時間ののち、意識が半ば戻りかけた。目を閉じたまま、自分はどこにいて、何があったのだろうとぼんやり考えていると、ざわめくような音がした。雨が屋根を鈍くたたいているのだった。ぬくぬくとした安らぎが忍び寄ったが、次の瞬間、甲高い笑い声と下品な大笑いの合唱が、それを乱暴に破った。不快な驚きに、頭の藁をどけ、邪魔の出どころを見た。目に映ったのは、不気味で醜い光景だった。納屋の向こう端の床の真ん中で明るい火が燃え、その赤い光に異様に照らされて、男女入り交じった、ぼろ姿のごろつきや悪党たちが、周囲にだらりと座り込み、寝そべっていた。読んだことも、夢に見たこともないほど、雑多な連中だった。風雨にさらされて褐色になった、長髪の大男たちが、奇妙なぼろをまとっている。同じような服装の、険悪な顔をした中背の若者たちもいる。目に当て布や包帯をした盲目の物乞い、木の脚や松葉杖を使う足の不自由な者、粗末な包み布から膿の出る傷をのぞかせる病人もいた。荷を背負った悪人面の行商人、道具を持った刃物研ぎ、鋳掛屋[訳注:鍋や釜などを修理する職人]、床屋外科医もいた。女たちは、まだ大人になりきらぬ娘もいれば、女盛りも、しわくちゃの老婆もいたが、みな声が大きく、ずうずうしく、口汚く、汚れてだらしなかった。顔にただれのある赤ん坊が三人いた。盲人を導く役目の、首に紐をつけた痩せ犬も二匹いた。

夜になっていた。一味は食事を終えたばかりで、酒盛りが始まっていた。酒の容器が口から口へ回っていた。一斉に声が上がった――
「歌だ! コウモリとディックと、ひょこひょこ一本脚の歌だ!」
盲人の一人が立ち上がり、よく見える目を覆っていた当て布と、自分の不幸の原因を書いた哀れっぽい札を外して、支度をした。ひょこひょこ一本脚は木の義足を外し、丈夫で健全な両脚で仲間の悪党の隣へ立った。そして陽気な歌を大声で歌い始めた。一節ごとに全員が勢いよく声を合わせた。最後の節に達するころには、半ば酔った熱狂が頂点に上り、全員が初めから終わりまで加わったので、すさまじい悪声が梁を震わせた。人を奮い立たせるその歌詞は、次のとおりだった――
『上物の夜だ、酒に女に宿がある[訳注:原文の歌は盗賊の隠語で書かれている]、気のいい兄貴は出かけていくぞ、お偉い方のお達しで、絞首台にぶら下がり、長い暮らしもこれでおしまい。いい女ども、出てこい、見ろよ、見ろよ、
大きな町から出てきて見ろよ、おまえの着物をかっぱらった男が、絞首台でぶらりと揺れる。』
(『イングランドの悪党』より。ロンドン、一六六五年)

それから会話になった。歌のような盗賊言葉は使わなかった。それは、よそ者の耳が聞いていそうなときにだけ使うものだった。話の途中で、「ジョン・ホッブズ」はまったくの新入りではなく、以前この一味に加わっていたことがわかった。その後の身の上を聞かれ、「うっかり」人を一人殺したと言うと、かなりの満足が示された。それが神父だったと付け加えると、大喝采となり、全員と一杯ずつ飲まねばならなくなった。古い知り合いは喜んで迎え、新しい者は握手できることを誇らしがった。なぜ「何か月も帰ってこなかった」のかと尋ねられ、こう答えた――
「このところは田舎よりロンドンのほうが暮らしやすいし、安全だ。法律は厳しいし、取り締まりもうるせえ。あの一件さえなけりゃ、ずっといたさ。居ついて、もう二度と田舎へ出るまいと決めていたが、あの一件でおしまいだ。」
今、一味に何人いるのかと尋ねると、「ラフラー」、つまり頭領が答えた――
「女房や情婦やほかの女も数に入れて、押し込み、追い剝ぎ、すり、いかさま物乞い、乞食どもが、元気なのを二十五人だ。大半はここにいる。残りは冬場の縄張りを、東へ流している。おれたちも夜明けにあとを追う。」
「ここにいるまっとうな連中の中に、瘤の奴が見えねえな。どこにいる?」
「かわいそうに、今じゃ硫黄を食ってるよ。繊細な舌には少々熱すぎるだろうな。真夏ごろ、喧嘩で殺された。」
「そいつは気の毒だ。瘤は腕が立ったし、勇気もあった。」
「まったくだ。女の黒ベスは、まだ仲間にいる。今は東へ流していて留守だが。いい娘だ。行儀もよくて、きちんとしてる。一週間のうち四日を超えて酔っていたところは、誰も見たことがねえ。」
「あの娘はいつも自分に厳しかった。よく覚えてる。立派な娘だ。いくら褒めても褒め足りねえ。母親のほうは、もっと気ままで、細かいことは言わなかった。厄介で気難しいばあさんだったが、並の頭じゃなかったな。」
「その頭のよさで失ったんだ。手相やら、いろんな占いの腕前が、しまいにゃ魔女だという評判を立てちまった。お上が弱火でじりじり焼き殺したよ。運命に立ち向かう、あの見事な姿には、おれも少しばかりしんみりした。炎が顔へ這い上がり、薄い髪に燃え移り、白髪頭のまわりでぱちぱち鳴っているというのに、周りで口を開けて見物している連中を、ののしり、悪態をつき続けたんだ。あの悪態といったら! 千年生きても、あれほど見事なのは聞けまいよ。ああ、あの芸は本人と一緒に死んじまった。下手で弱々しいまねごとは残ってるが、本物の罵詈雑言はもうねえ。」

頭領はため息をついた。聞き手たちも同情してため息をついた。一味の上に、一瞬、沈んだ気分が広がった。こんな筋金入りのはみ出し者でも、情緒にまったく無縁というわけではない。ごくまれに、ことさら都合のよい状況では、つかの間の喪失感や悲しみを感じることがある。たとえば、今のように天才と教養が後継者を残さず去った場合などが、まさにそれである。だが、全員がたっぷり酒を飲むと、悲しむ者たちの元気はすぐに戻った。
「ほかにもひどい目に遭った仲間はいるか?」ホッブズが尋ねた。
「何人かはな。ことに新入りだ。畑を羊の放牧地に変えるために取り上げられて、食う手もなく、飢えて世間へ放り出された小百姓なんかだよ。物乞いをすると、上半身を裸にされ、荷車の後ろで血が流れるまで鞭打たれる。それから足枷にかけられて、物を投げつけられる。また物乞いをすると、また鞭打たれ、片耳を取られる。三度目に物乞いをすれば――哀れな奴ら、ほかに何ができる? ――焼けた鉄で頬に烙印を押され、奴隷に売られる。逃げると追い詰められて、吊るされる。短い話だ。すぐ済む。もっと軽く済んだ仲間もいる。出てこい、ヨーケル、バーンズ、ホッジ。お飾りを見せてやれ!」

三人は立ち、ぼろ着を少し脱いだ。むき出しになった背には、鞭の残した縄のような古いみみず腫れが縦横に走っていた。一人は髪を上げ、かつて左耳があった場所を見せた。もう一人は肩のVの烙印と、切り取られた耳を示した。三人目は言った――
「おれはヨーケルだ。昔は農夫で、暮らしもよかった。優しい女房と子供もいた。今じゃ境遇も商売も少しばかり変わった。女房も子供もいなくなった。天国にいるかもしれねえし、あの――もう一つのところにいるかもしれねえ。だが、ありがたい神さまのおかげで、少なくとも、もうイングランドにはいねえ! 善良で罪のない年老いた母は、病人の看病でパンを稼ごうとした。その一人が死んで、医者にも原因がわからなかったので、母は魔女として焼かれた。おれの幼い子らが見ながら泣き叫んでいたよ。イングランドの法律! さあ、みんな杯を上げろ! 一緒に、景気よく! 母をイングランドの地獄から救ってくれた、慈悲深いイングランドの法律に乾杯だ! ありがとうよ、仲間たち、一人残らず。おれは家から家へ物乞いに歩いた。女房と二人で、腹をすかせた子供を連れて。だがイングランドじゃ、腹をすかせるのが罪だった。だから裸にされ、三つの町を鞭打たれながら引き回された。また飲んでくれ、慈悲深いイングランドの法律に! その鞭はおれのメアリーの血をたっぷり吸い、ありがたい救いはすぐに来た。女房は共同墓地に眠っている。もう何にも傷つけられねえ。子供たちは――そうさ、おれが町から町へ法の鞭で追われているうちに、飢え死にした。飲んでくれ、みんな。一滴でいい。誰にも悪いことをしなかった、あわれな子供らに一滴。おれはまた物乞いをした。パンの耳を一つくれと頼んで、足枷をはめられ、耳を一つ失った。見ろ、この切り株だ。また物乞いをした。こっちの切り株が、そのことを忘れさせねえ。それでもまた物乞いをして、奴隷に売られた。この頬の汚れの下を洗えば、焼きごての残した赤いSが見えるはずだ! 奴隷だぞ! その言葉がわかるか? イングランドの奴隷! それがおまえらの前に立っているおれだ。主人から逃げてきた。見つかったら――それを命じるこの国の法律に、天の重い呪いが下れ! ――おれは吊るされる!」
よどんだ空気を、澄んだ声が貫いた――
「吊るされはせぬ! 今日を限りに、その法律は終わりだ!」

全員が振り向き、奇妙ないでたちの幼い王が急ぎ近づいてくるのを見た。その姿が火の明かりに浮かび、はっきり見えると、一斉に問いが弾けた――
「誰だ? 何だ、ありゃ? おまえは誰だ、ちびすけ?」
少年は、驚きと問いに満ちた視線の真ん中で少しも取り乱さず、王者の威厳をもって答えた――
「余はエドワード、イングランド王である。」
大爆笑が起こった。半ばは嘲笑、半ばは冗談の見事さへの喜びだった。王は傷つけられ、鋭く言った――
「礼儀知らずの浮浪者ども、余の約束した王の恩恵に、それが応える態度か?」
王は怒りの声と激しい身振りでさらに何か言ったが、笑いとあざけりの嵐にかき消された。「ジョン・ホッブズ」は何度も騒ぎの上から声を届かせようとし、ようやく成功して言った――
「みんな、こいつはおれの息子だ。夢見がちな馬鹿で、すっかり気が違ってる。気にするな。自分が王そのものだと思ってるんだ。」
「余は王そのものだ」とエドワードは振り向いて言った。「いずれ思い知ることになるぞ。そなたは人殺しを認めた。その罪で吊るされるのだ。」
「おまえがおれを売るのか? おまえが? この手で捕まえてやりゃ――」

「まあまあ!」大柄な頭領が間に入り、間一髪で王を救った。そして、その親切を念押しするように、拳でホッブズを殴り倒した。「王にも頭領にも敬意がねえのか? もう一度おれの前でそんな無礼をしたら、おれが吊るしてやる。」
それから陛下へ向かって言った。「仲間を脅しちゃいかんぞ、坊主。よそで仲間の悪口を言うのも慎め。おかしな頭がそうしたいなら、王さまになっていてもいいが、害をなすのはよせ。今名乗った称号は捨てろ。あれは反逆罪だ。おれたちは、ちょっとしたことでは悪党かもしれんが、王を裏切るほど卑しい奴は一人もいねえ。その点では忠義一筋、愛国の心だ。嘘じゃねえ証拠を見せてやろう。さあ、みんな一緒に、『イングランド王エドワード陛下、万歳!』。」
「イングランド王エドワード陛下、万歳!」
雑多な一味から雷雨のような大声が返り、がたつく建物が震えた。幼い王の顔に一瞬喜びが灯り、頭をわずかに傾け、飾らぬ厳粛さで言った――
「礼を申す、善き民たちよ。」
この思いがけない反応に、一同は腹をよじって笑った。やがてどうにか静かになると、頭領は断固とした、しかし好意のある声で言った――
「やめておけ、坊主。賢くもなけりゃ、よくもねえ。どうしても空想を楽しみたいなら、別の称号を選べ。」
鋳掛屋が甲高い声で提案した――
「間抜けどもの王、フーフー一世!」
その称号は、たちまち受けた。すべての喉が応じ、轟く叫びが上がった――
「間抜けどもの王、フーフー一世、万歳!」それに続いて、やじ、猫の鳴きまね、大笑いが響いた。
「連れてこい、王冠をかぶせろ!」
「王衣を着せろ!」
「王笏を持たせろ!」
「玉座に座らせろ!」
そんな声が、ほかの二十もの叫びとともに一斉に上がった。あわれな小さな犠牲者が一息つく間もなく、頭にはブリキの洗面器が載せられ、体にはぼろ毛布が巻かれ、樽の上へ座らされ、鋳掛屋の半田ごてを王笏として握らされた。それから全員が周りにひざまずき、汚れたぼろ袖や前掛けで目をぬぐいながら、皮肉な嘆きや、からかいの嘆願を合唱した――

「お慈悲をおかけください、優しい王さま!」
「すがる虫けらをお踏みつぶしになりませぬよう、高貴な陛下!」
「奴隷をお憐れみくださり、王の蹴りでお慰めを!」
「王権の燃える太陽よ、ありがたい光でわれらを励まし、温めたまえ!」
「おみ足で地を清めたまえ。その土を食べて、われらも高貴になれますように!」
「どうぞ唾をお吐きかけください、陛下! 子々孫々まで、殿下のかたじけないお情けを語り伝え、永遠に誇りと幸せを味わえますように!」
だが、その夜の大当たりをさらい、栄誉を独り占めしたのは、ひょうきんな鋳掛屋だった。ひざまずき、王の足に口づけしようとするふりをすると、王は憤って蹴りのけた。すると鋳掛屋は、足が触れた顔の場所に貼るぼろ切れを求めて歩き回り、卑しい空気に触れぬよう守らねばならぬと言った。そして、街道へ出て一見につき百シリングで見せれば、大金持ちになれると宣言した。そのおかしさは腹がよじれるほどで、薄汚い連中はみな、羨望と感嘆の目を向けた。
幼い君主の目には、恥と怒りの涙が浮かんでいた。胸の中ではこう考えていた。「余がこの者たちに大きな害をなしたとしても、これ以上むごくはできまい。それなのに、余はただ親切にしてやろうとしただけなのだ。その報いが、この仕打ちとは!」

第十八章 浮浪者たちの中の王子
浮浪者の一団は夜明け早く起き出し、歩き始めた。頭上には重い雲が垂れ、足元はぬかるみ、空気には冬の冷たさがあった。一同から陽気さは消えていた。むっつり黙り込む者もいれば、苛立って怒りっぽい者もいた。機嫌のよい者は一人もおらず、誰もが喉を渇かせていた。
頭領は簡単な指示を与え、「ジャック」をヒューゴに預けた。そしてジョン・キャンティには、近寄らず、手出しするなと命じた。ヒューゴにも、少年をあまり手荒に扱うなと釘を刺した。

しばらくすると寒さが緩み、雲も少し持ち上がった。一団は震えなくなり、気分も上向き始めた。だんだん陽気になり、ついには互いにからかい合い、街道の旅人を罵り始めた。生きることと、その喜びを、またありがたく感じるようになった証拠だった。誰もが道を譲り、下品な侮辱にもおとなしく耐え、言い返そうとしないことから、この種の連中がどれほど恐れられているかがわかった。彼らは生垣に干された布を奪い、時には持ち主の目の前でさえ盗んだ。持ち主は抗議せず、生垣まで持っていかれなかったことに感謝しているように見えた。

やがて一味は小さな農家へ押し入り、我が家のようにくつろいだ。その間、震える農夫と家族は食料棚を空にして、朝食を用意した。連中は主婦や娘たちの手から食べ物を受け取りながら、顎の下をちょいとつつき、下品な冗談を浴びせ、侮辱的な呼び名をつけ、大声で笑った。農夫と息子たちには骨や野菜を投げ、絶えずよけさせ、うまく当たると騒々しく喝采した。しまいには、なれなれしい仕打ちに腹を立てた娘の一人の頭へ、バターを塗りつけた。立ち去るときには、自分たちのしたことを役人の耳へ入れたら、戻ってきて、家族もろとも家を焼いてやると脅した。
昼ごろ、長く疲れる行進ののち、一味はかなり大きな村の外れの生垣の陰で足を止めた。一時間の休みが許されたあと、それぞれの商売をしに、別々の入口から村へ入るべく散っていった。「ジャック」はヒューゴと組まされた。しばらくあちこちを歩き、ヒューゴはひと仕事する機会を狙ったが、何も見つからなかった。そこで、ついに言った――
「盗むものが何もねえ。しけたところだ。だから物乞いをしよう。」
「しようだと? そなたの商売をするがよい。似合いの仕事だ。だが余は物乞いなどせぬ。」
「物乞いをしねえ?」ヒューゴは驚いて王を見た。「おい、いつから足を洗ったんだ?」
「何のことだ?」
「何だと? 生まれてこのかた、ロンドンの通りで物乞いしてきたんだろうが?」
「余が? このたわけ者!」
「褒め言葉は惜しんで使え。そのほうが長持ちするぞ。おまえの親父は、ずっと物乞いをしてきたと言ってる。嘘かもしれねえがな。ひょっとすると、おまえはあいつを嘘つきだと言うほど勇敢なのかね」とヒューゴはせせら笑った。
「そなたが余の父と呼ぶ男のことか? そうだ、嘘だ。」
「おい、気違いごっこもほどほどにしろよ、相棒。楽しむために使え。自分を痛い目に遭わせるためじゃねえ。おれが言いつけたら、たっぷり焼きを入れられるぞ。」
「その手間は省いてやる。余が自分で言う。」
「その度胸は好きだ。本当にな。だが、その分別は買えねえ。生きてりゃ骨をきしませる目にも、殴られる目にも十分遭う。わざわざ自分から呼び込むことはねえ。まあ、その話はやめだ。おれはおまえの親父を信じる。嘘をつけることは疑わねえし、時にはつくことも疑わねえ。おれたちのうち一番立派な奴でもそうする。だが、ここではつく理由がない。利口な者は、嘘みたいな上等な品を、ただでは無駄遣いしねえもんだ。さて、物乞いをやめる気なら、何をやる? 台所荒らしか?」
王は苛立って言った――
「そんな馬鹿げた話はやめよ。うんざりする!」
ヒューゴも腹を立てて答えた――
「よく聞け、相棒。物乞いも嫌、盗みも嫌。それならそれでいい。だが、これだけはやってもらう。
おれが物乞いをする間、おまえはおとり役だ。断れるもんなら断ってみろ!」
王が軽蔑した返事をしようとすると、ヒューゴが遮った――
「黙れ! 人のよさそうな顔の奴が来る。今からおれは発作で倒れる。そいつがおれに駆け寄ったら、おまえは泣き声を上げ、膝をついて、泣くふりをしろ。それから腹の中に不幸の悪魔が全部詰まってるみたいに叫ぶんだ。『ああ、旦那さま、これは病気の兄で、私たちには誰も頼る人がありません。神さまの名にかけて、病に苦しみ、見捨てられた、哀れこの上ない者へ、どうかお慈悲の目を一目お向けください。神に打たれ、今にも死にそうな者へ、お金持ちの旦那さまから、ほんの一ペニーをお恵みください!』とな。いいか、ずっと泣き続けろ。一ペニー巻き上げるまでやめるな。さもないと後悔するぞ。」
すぐさまヒューゴは呻き、唸り、目をむき、よろめき、ふらつき始めた。そして通行人がすぐ近くまで来ると、悲鳴を上げて目の前に倒れ、苦しそうに身をよじり、泥の中を転げ回った。

「ああ、なんということだ!」親切な通行人は叫んだ。「かわいそうに、かわいそうに、ひどい苦しみだ! さあ、起こしてあげよう。」
「ああ、ご親切な旦那さま、どうか触らないでください。立派なお方に神のお恵みを。ですが、こうなっているときは、触られるとひどく痛むのです。あそこにいる弟が、発作のとき私がどんなに苦しむか、お話しいたします。一ペニー、旦那さま、ほんの一ペニー、何か食べ物を買うために。それをいただければ、あとは一人で苦しんでおります。」
「一ペニーだって? 三ペニーあげよう、かわいそうな子」――男は慌ててポケットを探り、取り出した。「さあ、受け取りなさい。遠慮はいらない。おい、そこの子、こちらへ来て、病気のお兄さんをあの家まで運ぶのを手伝いなさい。そこで――」
「余は、この者の弟ではない」と王は遮った。
「何だって? 弟ではない?」
「ああ、お聞きください!」ヒューゴは呻き、ひそかに歯を食いしばった。「兄を兄とも認めない。片足を墓に突っ込んでいる兄を!」
「坊や、もしこの子が兄さんなら、おまえは本当に薄情だぞ。恥ずかしくないのか。手も足も、ろくに動かせないのに。兄さんでないなら、いったい誰なんだ?」

「物乞いで、泥棒だ! そなたの金をせしめ、そのうえポケットからも盗んでおる。癒しの奇跡を起こしたいなら、その杖で背中を打ち、あとは神の摂理に任せるがよい。」
だがヒューゴは、その奇跡を待たなかった。たちまち跳ね起き、風のように逃げた。紳士はあとを追い、泥棒だと盛んに叫びながら走った。王は解放されたことを天に深く感謝し、反対の方角へ逃げ、危険が及ばなくなるまで足を緩めなかった。最初に見つかった道へ入り、まもなく村を後にした。何時間もの間、追っ手がいないかと神経質に肩越しに見ながら、できるかぎり急いだ。やがて恐れが去り、ありがたい安心感に変わった。そのとき初めて、腹がすき、ひどく疲れていると気づいた。そこで一軒の農家に立ち寄ったが、口を開きかけた途端、遮られ、乱暴に追い払われた。服装が仇になったのだ。
傷つき、腹を立てながら歩き続け、もう二度と同じ仕打ちを受けに行くまいと決めた。しかし空腹は誇りの主人である。夕方が近づくと、別の農家で試してみた。ところが、ここではさらにひどかった。ひどい名で罵られ、すぐに立ち去らなければ浮浪者として捕まえると言われた。
雲に覆われた冷たい夜が訪れた。それでも足の痛む君主は、のろのろと歩き続けた。休もうと座るたびに、すぐ骨の髄まで寒さが染みたので、動いていなければならなかったのだ。おごそかな闇と、何もない夜の広がりの中を進むあいだ、感じることも経験することも、すべて初めてで奇妙だった。時折、人声が近づき、通り過ぎ、静けさに消えた。だがその声の主は、形のない、流れていくぼやけた影にしか見えず、どことなく幽霊じみて不気味で、身震いさせた。ときには灯がちらりと見えた。いつも遠く、ほとんど別世界のようだった。羊の鈴が聞こえても、かすかで、遠く、はっきりしなかった。牛の群れのくぐもった鳴き声が夜風に乗って届き、消え入るような調べを残した。悲しい音だった。折々、姿の見えぬ野や森の広がりを越えて、犬の嘆くような遠吠えが響いた。どの音も遠かった。そのため幼い王には、命も営みもすべて自分から遠く離れ、自分だけが計り知れぬ孤独の真ん中に、ひとり、仲間もなく立っているように感じられた。

この初めての経験の、不気味な魔力に包まれながら、王はつまずきつつ進んだ。頭上で乾いた葉がかさかさと鳴ると、人のささやきのようで、はっとした。やがて突然、すぐ近くにブリキの提灯の斑点めいた明かりが見えた。王は影へ退き、待った。提灯は納屋の開いた戸口に置かれていた。しばらく待ったが、物音もなく、誰も動かなかった。じっとしているとひどく寒く、納屋があまりに温かく迎えてくれそうに見えたので、ついに危険を承知で入ることにした。素早く、ひそかに進み、敷居をまたいだちょうどそのとき、背後で声がした。王は納屋の中の大樽の後ろへ飛び込み、しゃがんだ。二人の農場働きが提灯を持って入り、話しながら仕事を始めた。二人が明かりとともに動き回る間、王は目を働かせ、奥にあるかなり広そうな家畜の囲いの位置を確かめた。一人になったら、そこまで手探りで行くつもりだった。また、途中に積まれた馬用毛布の位置も覚えた。一晩だけ、イングランド王のために徴用しようと考えたのだ。
やがて二人は仕事を終え、提灯を持ち、扉を閉めて留め金をかけ、去っていった。震える王は、暗闇の許すかぎり急いで毛布へ向かい、抱え上げ、それから無事に囲いまで手探りでたどり着いた。二枚を敷いて寝床にし、残り二枚を体に掛けた。今や、王はうれしかった。毛布は古く薄く、十分に温かいとはいえず、そのうえ、息が詰まりそうなほど強い馬の臭いを放っていたけれども。
王は空腹で寒かったが、それ以上に疲れ、眠かった。やがて後の二つが前の二つに勝ち、半ば意識を失ってうとうとし始めた。すると、完全に眠りに落ちようとする、まさにそのとき、何かが体に触れたとはっきり感じた! 一瞬で目が覚め、息を吞んだ。暗闇の中の謎めいた接触は、心臓が止まりそうな冷たい恐怖をもたらした。王はじっと横たわり、ほとんど息もせず耳を澄ませた。だが、何も動かず、何の音もしなかった。長い長い時間に思えるあいだ、耳を澄ませ、待ち続けたが、やはり何も動かず、何の音もしなかった。そこで、ついにまた眠りかけた。すると突然、またあの謎めいたものが触れた! 音も姿もないものが、そっと触れる。それはぞっとする感触で、少年は幽霊の恐ろしさに気が遠くなりそうだった。どうすればよい? それが問題だったが、答えはわからなかった。このまあまあ快適な寝床を捨て、正体不明の恐怖から逃げるべきか? だが、どこへ? 納屋からは出られない。四方の壁に閉じ込められたまま、暗闇をやみくもに駆け回り、そのあとを幻が滑るようについてきて、曲がるたびに頬や肩へ、あの柔らかな恐ろしいものを触れさせる――そんなことは耐えられなかった。では、ここにとどまり、一晩じゅう生きながらの死を味わうほうがよいのか? いや。ならば、何が残されている? ああ、ただ一つ。よくわかっていた。手を伸ばし、そのものを探り当てなければならない!
そう考えるのはたやすかったが、実際にやる勇気を奮い起こすのは難しかった。三度、そろそろと暗闇へ手を少し伸ばし、はっと息を吞んで引っ込めた。何かに触れたからではない。まさに触れそうだと、確信したからだった。だが四度目には、もう少し遠くへ探り、手が柔らかく温かいものを軽くかすめた。恐怖で、ほとんど石になりかけた。そのときの頭では、それは死んだばかりでまだ温かい死体以外の何ものとも思えなかった。もう一度触れるくらいなら死んだほうがよいと思った。だが、そう誤って考えたのは、人間の好奇心の不死身の強さを知らなかったからだ。ほどなく手は、理性に逆らい、本人の承諾も得ず、また震えながら探り始めた。それでも、しつこく探り続けた。長い毛の束に触れた。身震いしたが、毛をたどると、温かい縄のようなものがあった。その縄をたどると、罪のない子牛がいた! 縄は縄ではなく、子牛の尻尾だったのだ。

王は、眠っている子牛という取るに足らぬものから、あれほどの恐怖と苦痛を作り出した自分を、心から恥じた。だが、そんな必要はなかった。怖かったのは子牛ではなく、子牛が姿を借していた、実在しない恐ろしい何かだったからだ。迷信の深い昔の時代には、ほかの少年でも、同じように振る舞い、同じように苦しんだことだろう。

王は、それがただの子牛だとわかって喜んだだけでなく、子牛がそばにいてくれることもうれしかった。あまりに孤独で、友もいないと感じていたので、このつつましい動物でさえ、仲間として歓迎したのだ。同じ人間からあれほど打ちのめされ、手荒に扱われてきたので、もっと高尚な長所は欠けていようとも、少なくとも柔らかな心と優しい気性を持つ生き物のそばへ、ようやく来られたと思うと、本当に慰められた。そこで王は、身分の差を棚に上げ、子牛と友になることにした。
子牛はすぐ手の届くところに寝ていたので、その滑らかで温かい背をなでているうちに、この子牛は一つならず役に立つかもしれないと思いついた。そこで寝床を作り直し、子牛のすぐそばへ毛布を敷いた。それから子牛の背中にぴったり身を寄せ、自分と友の上へ毛布を引き上げた。一、二分もすると、ウェストミンスターの王宮の羽毛の寝床にも劣らぬほど、温かく心地よくなった。
たちまち楽しい考えが浮かび、暮らしは明るく見え始めた。隷属と犯罪の鎖から自由になり、卑しく残忍な無法者どもの仲間からも離れた。温かかった。雨露をしのぐ場所もあった。要するに、幸せだった。夜風が強まってきた。突風が断続的に吹きつけ、古い納屋を揺らし、がたがた鳴らしたかと思うと、ときどき勢いを弱め、角や突き出たところを巡って呻き、嘆いた。だが今、ぬくぬくと心地よい王には、それもすべて音楽だった。吹くがよい、荒れるがよい。たたきつけ、ぶつかるがよい。呻き、嘆くがよい。少しも気にならず、ただ楽しんだ。王は、温かな満足をたっぷり味わいながら、ますます友に寄り添い、幸福のうちに意識を手放して、静けさと安らぎに満ちた、夢もない深い眠りへ漂っていった。遠くの犬が吠え、牛たちが悲しげに鳴き、風はなお荒れ狂い、激しい雨が幕となって屋根をたたきつけた。だがイングランド王陛下は、乱されることなく眠り続けた。子牛も同じだった。単純な生き物なので、嵐にもそう煩わされず、王と一緒に眠ることにも気後れしなかったのである。

第十九章 王子と農民たち
早朝、王が目を覚ますと、夜のうちに、濡れねずみが一匹、気を利かせて忍びこみ、王の懐を居心地のよい寝床にしていた。起こされたねずみは、さっと逃げ去った。少年はほほえんで言った。「かわいそうなやつ、なぜそう怖がる? 私もおまえと同じく、頼るものもない身だ。これほど無力な私が、無力なものを傷つけるのは恥ではないか。それに、よい兆しを運んでくれた礼も言わねばならぬ。王がねずみの寝床になるほど落ちぶれたなら、運はきっと上向くということだ。これより下には落ちようがないのだから。」
起き上がって家畜の囲いから出ると、ちょうど子どもたちの声が聞こえた。納屋の戸が開き、小さな女の子が二人入ってきた。少年を見るなり、おしゃべりも笑い声もやみ、二人は立ち止まって、強い好奇心をあらわに見つめた。やがてひそひそ話を始め、少し近づいてはまた立ち止まり、見つめてささやき合った。そのうち度胸がついてきて、大きな声で品定めを始めた。一人が言った――
「きれいな顔の子ね。」
もう一人が付け加えた――
「髪もきれい。」
「でも、ずいぶんひどい服だわ。」
「それに、おなかがぺこぺこみたい。」
二人はなおも近づき、はにかみながら少年の周りをそろそろ回って、見たこともない珍しい動物でもあるかのように、あらゆる角度から念入りに眺めた。ただし油断なく用心し、ひょっとすると噛みつくたぐいの動物かもしれないと、半ば恐れている様子だった。とうとう互いの手を握って身の守りとし、少年の前に立ち止まると、無邪気な目で心ゆくまでじっと見つめた。それから一人がありったけの勇気を振りしぼり、率直に尋ねた――
「あんた、だあれ?」
「私は王だ」と、厳かな答えが返った。

子どもたちは少しびくっとし、目をまん丸に見開いたまま、三十秒ほど言葉もなかった。やがて好奇心が沈黙を破った――
「王さま? どこの王さま?」
「イングランドの王だ。」
子どもたちは顔を見合わせ、少年を見、それからまた、不思議そうに、困ったように顔を見合わせた。やがて一人が言った――
「聞いた、マージェリー? 王さまだって。ほんとかしら?」
「ほんとに決まってるじゃない、プリシー。この子がうそをつくわけないもの。だって、プリシー、ほんとじゃなかったら、うそになるのよ。絶対そうでしょう。考えてごらんなさい。ほんとじゃないことは、みんなうそなんだから。それ以外にはなりっこないわ。」
どこにも隙間のない、見事に水も漏らさぬ論法だった。プリシーのかすかな疑いには、もはや立つ瀬もなかった。少し考えてから、王の名誉を信じることにして、素直にこう言った――
「ほんとうに王さまなら、信じるわ。」
「ほんとうに王なのだ。」
これで話は決まった。陛下が王であることは、それ以上の問いも議論もなく認められ、二人はさっそく、どうしてここにいるのか、どうしてそんな王さまらしくない服を着ているのか、どこへ行くつもりなのかと、身の上のことを根掘り葉掘り尋ね始めた。苦労を打ち明けても、笑われも疑われもしないのは、王にとって大きな慰めだった。そこで一時は空腹さえ忘れ、心をこめていきさつを話した。優しい少女たちは、深く温かな同情を寄せて聞いてくれた。だが話が最近の出来事に及び、どれほど長く何も食べていないかを知ると、話を途中で遮り、朝食を食べさせようと、急いで母屋へ連れていった。
王はもう晴れやかな、幸せな気分になり、心の中で言った。「元の地位に戻ったら、小さな子どもたちをいつでも大切にしよう。この子たちが、苦境にあった私を信頼し、信じてくれたことを忘れまい。年上で、知恵も上だと思いこんでいる者たちは、私をあざけり、うそつき扱いしたというのに。」

子どもたちの母親は、王を親切に迎え、心から気の毒がった。そのみじめな境遇と、どうやら正気を失っているらしい様子に、女心を動かされたのだった。夫を亡くし、あまり裕福でもなかったので、不幸な者に同情できるだけの苦労は自分もしていた。この気のふれた少年は、身内か世話をする人のもとから迷い出てきたのだろうと思い、送り返す手立てを講じようと、どこから来たのか探りを入れた。だが、近隣の町や村を挙げてみても、それに類する質問をいくらしても、何の役にも立たなかった。少年の顔にも返事にも、そうした事柄はまるで知らないと出ていた。宮廷のことは真剣に、気取らず話し、亡くなった王を「父上」と呼んで語るときには、何度も涙で声を詰まらせた。ところが話が下々のことに移ると、興味を失って黙りこんでしまった。
母親はすっかり困惑したが、あきらめなかった。料理をしながら、少年がうっかり本当の身の上を漏らすような手をあれこれ考えた。牛の話をしても、無関心。羊の話でも、同じだった。だから羊飼いの少年だろうという見当は外れた。粉ひき場、織工、鋳掛け屋、鍛冶屋、ありとあらゆる商売と職人、ベドラム精神病院や牢獄、慈善の収容所の話までしてみたが、どれもこれも当てが外れた。いや、まるきり無駄でもなかった。これで屋敷勤めにまで絞れた、と考えたのだ。そうだ、今度こそ間違いない。きっとどこかの屋敷の召使だったに違いない。そこでそちらへ話を向けた。だが結果は思わしくなかった。掃き掃除の話には退屈そうな顔をし、火をおこす話にも心が動かず、こすり洗いや磨きものにも熱が入らない。母親はもう希望も消えかけ、ほとんど義理のように料理の話を持ち出した。すると驚いたことに、そして何よりうれしいことに、王の顔がたちまち輝いた! ああ、とうとう正体を突き止めた、と母親は思った。そして、巧みに遠回りをしてそこへ行き着いた自分の知恵と手際を、たいそう誇らしく感じた。
疲れた母親の舌には、ようやく休む暇ができた。王の舌が、差しこむ空腹と、じゅうじゅういう鍋や平鍋から漂うよい香りに刺激され、いっせいに動き出したのだ。いくつかのおいしい料理について、あまりに雄弁に論じたので、三分もたたぬうちに母親は心の中で言った。「やっぱり思ったとおり。この子、台所の手伝いをしていたんだわ!」
さらに王の献立は広がり、料理への思いを生き生きと語り続けたので、母親は胸の内で言った。「おやまあ、どうしてこんなにたくさん、それも上等な料理ばかり知ってるんだろう? こんなの、お金持ちやお偉い方の食卓にしか上らないもの。ああ、わかった! 今はぼろをまとった宿なしでも、頭がおかしくなる前は宮殿に奉公していたんだ。そうとも、王さまご自身の台所で手伝いをしていたに違いない。試してみよう。」
自分の勘のよさを確かめたくてたまらず、母親は王に、少しの間料理を見ていておくれと言い、気が向いたら一品か二品、作って添えてもいいとほのめかした。それから部屋を出て、子どもたちにもついてくるよう合図した。王はつぶやいた――
「昔、同じような役目を命じられたイングランドの王がいた。偉大なアルフレッド王さえ身を低くして引き受けた仕事なら、私がやっても威厳は傷つくまい。だが、あの王よりはうまく務めを果たそう。あの王はパンを焦がしてしまったのだから。」
志はよかったが、仕事ぶりはそれに伴わなかった。この王もかの王と同じく、ほどなく国の大事に深く思いを沈め、同じ災難を招いたからだ。料理が焦げてしまったのである。戻ってきた母親は、朝食がすっかり駄目になる前にどうにか救い出すと、さっそく王に、威勢のよい遠慮のない小言を浴びせ、夢想から引き戻した。だが任された仕事をしくじったことをあまりに気に病んでいるので、すぐに気を和らげ、もとの親切で優しい母親に戻った。

少年はたっぷり食べて満腹になり、すっかり元気を取り戻して、うれしくなった。この食事には、双方が身分の隔てを取り払っていながら、その好意を受けたどちらも、それに気づいていないという、奇妙な特色があった。母親は、この若い浮浪者にも、ほかの浮浪者や犬と同じように、部屋の隅で残りものを食べさせるつもりだった。だが叱りつけたことがひどく悔やまれ、せめてもの償いに、家族の食卓につかせ、身分が上の者たちと、表向きは対等に食事をすることを許した。一方、王は、一家にこれほど親切にしてもらいながら、託された仕事をしくじったのをひどく悔やんでいた。そこで生まれと身分にふさわしく、一人で威儀を正して食卓を占め、母親と子どもたちを立たせて給仕させる代わりに、あえて自分を一家の身分まで引き下げ、償いとしたのだった。たまには肩の力を抜くのも、誰にとってもよいことである。この善良な母親は、浮浪者を相手に寛大にも身を低くしてやったと、自分で自分をほめ、一日中幸せだった。王もまた、卑しい農婦に慈悲深くへりくだってやったと、同じように満足していた。
朝食が済むと、母親は王に皿を洗うよう命じた。王は一瞬たじろぎ、危うく逆らいかけた。だが、こう胸に言い聞かせた。「アルフレッド大王はパンの番をした。きっと皿を洗えと言われても洗っただろう。ならば私もやってみよう。」
仕事の出来は、かなりひどかった。それも王には意外だった。木のさじや木皿を洗うなど、たやすいことに思えたからだ。退屈で面倒な仕事だったが、ようやく終わった。そろそろ旅に出たくてたまらなくなっていたが、この働き者の母親から、そう簡単には離れられなかった。こまごまとした用事をいくつか言いつけられ、まずまずの出来で、どうにかこなした。次には少女たちと一緒に冬用の貯蔵リンゴの皮をむくよう命じられた。ところがあまりに不器用だったので、その仕事は取り上げられ、代わりに肉切り包丁を研がされた。

そのあとは羊毛をすく仕事をさせられ、ついに王は、物語や歴史の本で絵になるような、見栄えのする下働きの英雄的行為については、ひとまず善王アルフレッドも十分にかすませたはずだと思い始め、そろそろ辞退しようかと考えた。そして昼食のすぐあと、母親から籠いっぱいの子猫を渡され、溺れさせてくるよう言われたとき、ついに辞退した。いや、まさに辞退しようとしたところだった。どこかで一線を引かねばならず、子猫を溺れさせるところで引くのが、まず妥当に思えたのである。そのとき邪魔が入った。行商人の荷を背負ったジョン・キャンティと、ヒューゴだった。
悪党どもが表の木戸へ近づいてくるのを、王は向こうに見つかる前に発見した。そこで一線を引く話はやめ、子猫の籠を持ち上げると、ひと言も発さず、そっと裏口から出ていった。子猫たちは物置小屋に残し、そのまま急いで裏手の細い小道へ入った。

第二十章 王子と隠者
高い生け垣が、もう王の姿を家から隠してくれていた。そこで死ぬほどの恐怖に駆られるまま、全力を振りしぼり、遠くの森を目指して駆け出した。もう少しで森に隠れられるというところまで、一度も振り返らなかった。そのとき後ろを向くと、遠方に二つの人影が見えた。それで十分だった。誰かをよく確かめようともせず、また急いで進み、薄暗い森の奥深くへ入りこむまで、歩調を緩めなかった。もうまず安全だと確信して、ようやく足を止めた。じっと耳を澄ましたが、辺りは深く、厳かに静まり返り、恐ろしくさえあって、気が沈んだ。長い間を置いて、研ぎ澄ました耳に音が届くこともあった。だがあまりに遠く、うつろで、得体が知れず、現実の音ではなく、消え去った音の亡霊がうめき、嘆いているだけのようだった。だからその音は、それが破る静寂よりも、なおわびしかった。
初めは、日が暮れるまでそこにとどまるつもりだった。だがじきに、汗ばんだ体に寒さが忍び入り、ついには暖まるため、また歩き出さずにいられなくなった。すぐ道に出られるだろうと期待して、森をまっすぐ突っ切ったが、当ては外れた。どこまでも歩き続けた。しかし先へ進むほど、森は深くなるようだった。やがて薄闇が濃くなり始め、王は夜が近づいていることに気づいた。こんな不気味な場所で夜を明かすのかと思うと、身震いがした。もっと急ごうとしたが、かえって足は遅くなった。もう足場をうまく選べるほど見えず、木の根につまずき、つるや茨にからまってばかりいたからだ。

とうとうちらちらと明かりが見えたとき、どれほどうれしかったことか! 何度も立ち止まって辺りを見回し、耳を澄ませながら、慎重に近づいていった。光は粗末な小屋の、ガラスのない窓から漏れていた。今度は声が聞こえ、走って隠れたくなったが、すぐに思い直した。どうやら祈りの声だったからだ。王は小屋に一つしかない窓へそっと近づき、つま先立ちになって、中を盗み見た。狭い部屋で、床は踏み固められた土のまま。一隅には藺草の寝床と、ぼろぼろの毛布が一、二枚。その近くに桶と杯、洗面鉢、鍋釜が二つ三つあった。短い腰掛けと三本脚の丸椅子があり、炉では燃え残った粗朶がくすぶっていた。一本のろうそくに照らされた祭壇の前には老人がひざまずき、その傍らの古い木箱には、開いた本と人間の頭蓋骨が載っていた。老人は骨太の大柄な男で、髪もひげもひどく長く、雪のように白かった。首からかかとまで届く羊皮の衣を着ていた。

「聖なる隠者だ!」と王は胸の内で言った。「今度こそ運が向いてきたぞ。」
隠者が立ち上がった。王は戸をたたいた。低く深い声が応じた――
「入るがよい! ただし罪は外に置いてこい。そなたの立つ地は、聖なる地であるぞ!」
王は中へ入り、立ち止まった。隠者は落ち着きなく光る両目を向けて、言った――
「そなたは何者じゃ?」
「私は王だ」と、穏やかで素直な答えが返った。
「ようこそ、王よ!」と隠者は熱をこめて叫んだ。そして「ようこそ、ようこそ」と繰り返しながら、熱に浮かされたようにせわしく動き回り、腰掛けを据え、炉のそばに王を座らせ、粗朶をいくらか火に投じると、最後には神経質な足取りで床を往復し始めた。
「ようこそ! ここに庇護を求める者は多かったが、みなその資格なく、追い返された。だが王冠を捨て、王たる身のむなしい栄華をさげすみ、ぼろを身にまとって、生涯を聖なる暮らしと肉の苦行にささげる王なら――その資格がある。歓迎しよう! 死が訪れるまで、ここで生涯を過ごすがよい。」
王は急いで遮り、事情を説明しようとした。しかし隠者は少しも取り合わず、聞こえてさえいないらしく、声を高め、ますます勢いこんで話し続けた。「ここでは心安らかに暮らせよう。神のお導きで捨てた、あのむなしく愚かな暮らしへ戻れと、誰かがこの隠れ家を探り当てて懇願し、そなたを煩わせることもない。ここで祈れ。聖書を学べ。現世の愚かさと迷い、来世の崇高さについて思いをめぐらせよ。パンの皮と草を食らい、魂を清めるため、日ごとに鞭で肉体を打つのじゃ。素肌には毛の荒い苦行衣をまとい、水だけを飲む。そうすれば安らぎが得られる。そう、完全な安らぎじゃ。そなたを捜しに来る者も、みなむなしく帰ってゆく。そなたを見つけることも、煩わせることもできぬ。」
老人はなお行きつ戻りつしながら、声高に語るのをやめ、ぶつぶつつぶやき始めた。王はその機会をとらえ、身の上を説明した。不安と恐れに駆られて、言葉も雄弁になった。だが隠者はぶつぶつ言い続け、耳を貸さなかった。そしてつぶやきながら王に近づくと、意味ありげに言った――
「しっ! 秘密を教えてやろう!」
打ち明けようとかがみこんだが、思いとどまり、耳を澄ました。しばらくして窓まで忍び足で行き、頭を突き出して薄暮の中を見回すと、またつま先立ちで戻り、王の顔へ顔を近づけて、ささやいた――
「わしは大天使なのじゃ!」

王は激しく身を震わせ、心の中で言った。「ああ神よ、あの無法者たちのところへ戻れたなら! 今度は狂人に捕らわれてしまった!」
不安はますます募り、それが顔にはっきりと表れた。隠者は興奮を帯びた低い声で続けた――
「わしを包む気を感じておるな! 顔に畏れが浮かんでおるぞ。この気の中にいて、心を動かされぬ者はいない。天国そのものの気なのだから。わしはまばたき一つの間に、天国へ行って帰ってこられる。五年前、この場所で大天使に任じられた。天から遣わされた天使たちが、その恐るべき位を授けに来たのじゃ。天使たちが現れると、この部屋は目もくらむ光で満たされた。そしてわしにひざまずいたのじゃ、王よ! そう、このわしにひざまずいた! わしのほうが位が高かったからな。わしは天国の宮廷を歩き、聖祖たちと言葉を交わした。手に触れてみよ。恐れるな、触れてみるがよい。そうじゃ――そなたは今、アブラハム、イサク、ヤコブに握られた手に触れたのだぞ! わしは黄金の宮廷を歩き、神のお顔をじかに仰いだのじゃ!」
隠者は言葉の効果を待って、しばらく黙った。すると突然顔つきが変わり、また勢いよく立ち上がって、怒りをこめて言った。「そうじゃ、わしは大天使じゃ。
ただの大天使にすぎぬ! 教皇になれたはずの、このわしが! これは
まことのことじゃ。二十年前、夢の中で天から告げられた。そうとも、わしは教皇になるはずだった! 天がそう言ったのだから、なっていたはずなのじゃ。ところが王が修道院を解散し、哀れで名もなく、味方もない修道士のわしは、住む家もなく世に放り出され、偉大なる運命を奪われた!」
ここでまたぶつぶつ言い始め、むなしい怒りに駆られて、拳で額をたたいた。ときどき毒々しい呪いを口にし、ときどき哀れな声で、「それゆえわしは、ただの大天使。教皇になるはずだった、このわしが!」と嘆いた。
そんな調子が一時間も続き、その間、哀れな幼い王は座ったまま苦しんだ。すると不意に老人の狂乱が収まり、すっかり優しくなった。声も和らぎ、雲の上から地上へ降りて、素朴で人間らしいおしゃべりを始めたので、たちまち王の心をすっかりとらえてしまった。年老いた信心家は少年を火のそばへ寄せ、楽にさせた。小さな打ち傷や擦り傷を、手慣れた優しい手つきで治療し、それから夕食の支度に取りかかった。その間ずっと楽しく話しかけ、ときどき頬をなで、頭をぽんぽんとたたいた。その慈しみ深さに、ほどなく、大天使に抱いていた恐怖と嫌悪は消え、一人の人間に対する敬愛の情へと変わった。

二人が夕食を取る間も、この幸せな時間は続いた。そのあと祭壇の前で祈ると、隠者は隣の小部屋で少年を寝かせ、母親のように優しく、隙間なく寝具を掛けてやった。そして最後にひとなでして部屋を出ると、炉辺に腰を下ろし、ぼんやりと、あてもなく燃えさしをかき回し始めた。やがて手を止め、何か忘れたことを思い出そうとするように、指で額を何度もたたいた。どうやら思い出せなかったらしい。突然さっと立ち上がり、客の部屋へ入って言った――
「そなたは王か?」
「そうだ」と、眠そうな答えが返った。
「どこの王じゃ?」
「イングランドの。」
「イングランド? ではヘンリーは死んだのか!」
「悲しいことに、そうなのだ。私はその息子だ。」
隠者の顔に険悪なしかめ面が浮かび、骨ばった両手を、復讐の念をこめて固く握りしめた。しばらく立ったまま息を荒らげ、何度も唾を飲みこみ、それからかすれた声で言った――
「わしらを住む家もなく世に放り出したのが、あやつだと知っておるか?」
返事はなかった。老人は身をかがめ、少年の安らかな顔をのぞきこみ、穏やかな寝息に耳を澄ました。「眠っておる――ぐっすり眠っておるわい」。しかめ面は消え、邪悪な満足の色に変わった。夢見る少年の顔に、ほほえみがよぎった。隠者は「そうか、心は幸せなのじゃな」とつぶやいて、背を向けた。ひそひそと部屋を歩き回り、あちこち何かを捜した。ときどき立ち止まって耳を澄ませ、急に首をねじって寝床へちらりと目をやり、絶えずぶつぶつ独り言を言っていた。とうとう目当てのものが見つかったらしい。古びて錆びた肉切り包丁と、砥石だった。それから炉辺の定位置へ忍び戻り、腰を下ろして、そっと包丁を研ぎ始めた。その間も、つぶやき、ぶつぶつ言い、折々に声を漏らした。人里離れた小屋の周りでは風がため息をつき、遠くから夜の不思議な声が流れてきた。大胆な大小のねずみたちが、裂け目や隠れ場から光る目で老人をのぞいた。だが老人は仕事に心を奪われ、没頭し、そんなものには一切気づかなかった。
長い間を置いては包丁の刃に親指を滑らせ、満足そうにうなずいた。「鋭くなってきた」と言った。「そうじゃ、鋭くなってきたぞ。」
時の過ぎるのも気づかず、心の思いを楽しみながら、落ち着いて仕事を続けた。その思いは、ときどき言葉になってほとばしった――
「あやつの父親は、わしらに悪をなし、わしらを滅ぼした。そして永遠の業火へ落ちた! そうじゃ、永遠の業火へ落ちたのじゃ! わしらの手は逃れた――だが神の御心じゃ、そうとも神の御心じゃ、不平を言ってはならぬ。だが火からは逃れられなんだ! そうじゃ、火からは逃れられなんだ。焼き尽くす、情け容赦のない火からは。そして
その火は永遠に燃え続ける!」
こうして手を動かし、なおも動かし続けた。ぶつぶつつぶやき、ときどき低くざらついた忍び笑いをし、またときどき言葉を漏らした――
「すべてはあやつの父親のせいじゃ。わしはただの大天使。あやつさえいなければ、教皇だったものを!」

王が身じろぎした。隠者は音もなく寝床へ飛び寄り、ひざをついて、包丁を振り上げたまま、横たわる体へ身をかがめた。少年がまた動いた。一瞬目が開いたが、そこには何の意識もなく、何も見えてはいなかった。次の瞬間には静かな寝息が戻り、また深い眠りに落ちたことがわかった。
隠者はその姿勢のまま、ほとんど息もせず、しばらく目と耳を凝らしていた。それからゆっくり腕を下ろし、やがてそっと離れながら言った――
「夜半はとうに過ぎた。叫ばれてはまずい。たまたま誰かが通りかかるとも限らぬ。」

小屋の中を滑るように動き回り、ここでぼろ布を、あちらで革ひもを、向こうでももう一本拾い集めた。それから戻ってきて、慎重に優しく手を動かし、王を起こさずに両足首を縛り合わせた。次には手首を縛ろうとした。幾度も両手を交差させようとしたが、ひもを掛けようとするたび、少年はどちらかの手を引いてしまった。だが大天使がほとんど絶望しかけたとき、少年が自分から両手を重ね、次の瞬間には縛られていた。今度は眠る少年の顎の下から布を回し、頭の上へ引き上げて、しっかり結んだ。その結び目を締め固める手つきは、あまりに優しく、徐々に、巧みに進められたので、少年は身じろぎもせず、ずっと安らかに眠っていた。

第二十一章 救援に来たヘンドン
老人は腰をかがめ、猫のようにひそやかに忍び去って、低い腰掛けを持ってきた。そこに座ると、体の半分は薄く揺れる明かりの中に、もう半分は陰に入った。そして、飢えた目を眠る少年に注ぎ、時の流れにもかまわず、辛抱強く見張りながら、静かに包丁を研ぎ、ぶつぶつ言っては忍び笑いをした。その姿と身構えは、網に縛られ、なすすべもなく横たわる哀れな虫を眺めてほくそえむ、毛むくじゃらの巨大な蜘蛛にそっくりだった。
長い時が過ぎた。老人は相変わらず見つめてはいたものの、心が夢うつつの物思いに沈み、何も見ていなかった。だが不意に、少年の目が開いていることに気づいた! 大きく開いて、じっと見つめている! 凍りつく恐怖のうちに、包丁を見上げているのだ。満足した悪魔のような笑みが老人の顔に広がり、姿勢も手の動きも変えずに言った――
「ヘンリー八世の子よ、祈りは済ませたか?」
少年は縛めの中でもがいたが、どうにもならなかった。同時に、閉じられた顎の間から、くぐもった声を無理に押し出した。隠者はそれを、自分の問いにうなずく返事と、勝手に解した。
「では、もう一度祈れ。死にゆく者の祈りを唱えるのじゃ!」
少年の体を震えが走り、顔から血の気が失せた。それからまた自由になろうともがいた。あちらへこちらへ身をよじり、振りねじり、狂おしく、激しく、必死に縛めを引きちぎろうとしたが、無駄だった。その間ずっと、老いた人食い鬼は少年を見下ろして笑い、うなずきながら、平然と包丁を研いでいた。ときどき「時は貴重じゃ、残り少ない、貴重な時じゃ――死にゆく者の祈りを唱えよ!」とつぶやいた。
少年は絶望のうめきを漏らし、あえぎながら抵抗をやめた。すると涙があふれ、一粒また一粒と頬を伝った。だが、その痛ましい姿も、残忍な老人の心を和らげはしなかった。
夜が明け始めていた。隠者はそれに気づき、声に少し焦りと不安をにじませ、鋭く言った――
「これ以上、この歓びに浸ってはおれぬ! 夜はもう終わりじゃ。ほんの一瞬にしか思えぬ。たった一瞬――一年続いてくれたらよかったものを! 教会を荒らした者の裔よ、今にも消えるその目を閉じるがよい。見るのが恐ろしいならば――」
あとは言葉にならぬつぶやきに消えた。老人は包丁を握ったままひざまずき、うめく少年の上へ身をかがめた。

聞け! 小屋の近くで人の声がした。隠者の手から包丁が落ちた。少年に羊の皮をかぶせ、震えながら立ち上がった。物音は大きくなり、やがて声は荒々しく、怒りを帯びた。それから殴る音、助けを求める叫びが聞こえ、続いて足音がせわしく遠ざかった。すぐに、小屋の戸を雷のように激しくたたく音が続き、そのあと声がした――
「おーい! 開けろ! 悪魔にかけて、とっとと開けんか!」
ああ、王の耳にこれほど美しい響きとなって届いた、ありがたい声はなかった。マイルズ・ヘンドンの声だったのだ!
隠者はむなしい怒りに歯ぎしりし、すばやく寝室を出て、後ろ手に戸を閉めた。するとたちまち「礼拝堂」から、こんなやり取りが王の耳に届いた――
「ご挨拶申し上げる、聖なるお方! 少年はどこだ――私の少年は?」
「どの少年ですかな、ご仁?」
「どの少年だと! うそをつくな、坊さん。ごまかしはなしだ! そんなものにつき合う気分ではない。この近くで、あの子をさらったと思われる悪党どもを捕まえ、白状させた。あの子はまた逃げ出し、その足跡をこの戸口まで追ってきたと言った。足跡そのものも見せてもらった。もう言い逃れはよせ。よいか、聖なるお方、あの子を出さぬなら――少年はどこだ?」
「ああ、ご仁。昨夜ここに泊まった、ぼろをまとった王さまの浮浪児のことでしょうか。あなたのようなお方が、あのような子をお気にかけるのなら申し上げるが、使いに出しました。じきに戻りましょう。」
「いつだ? いつ戻る? さあ、ぐずぐずせずに――追いかければ間に合うか? どれくらいで戻る?」
「動かれるには及ばぬ。すぐに帰ってまいります。」
「ならばよかろう。待つとしよう。いや、待て! おぬしがあの子を使いに出しただと? おぬしが! まったくのうそだ。あの子が行くものか。そんな無礼を働けば、その年寄りのひげを引き抜かれるぞ。うそをついたな、うそに決まっている! おぬしのためであろうと、誰のためであろうと、使いなどせぬ。」
「どんな人間のためにも――そうじゃな、せぬかもしれぬ。だが、わしは人間ではない。」
「何だと! では神にかけて、いったい何者だ?」
「秘密じゃ。決して漏らすでないぞ。わしは大天使なのじゃ!」
マイルズ・ヘンドンが、とてつもない叫び声を上げた。必ずしもお行儀のよい言葉ではなかった。それからこう続いた――
「なるほど、それならあの子が言うことを聞いたのも、実にもっともだ! 人間相手の下働きには、手一本足一本動かさぬことは、よく承知していた。だが、大天使に命じられたとあっては、王とて従わねばなるまい! では――しっ! 今の音は何だ?」
その間ずっと、小さな王は向こうの部屋で、恐怖におののいては希望に震えていた。そして力の限り、苦しい声を絞り出してうめき続け、今度こそヘンドンの耳に届くと期待しては、届かない、少なくとも気に留めてもらえないことを、つらく思い知らされていた。だから従者の最後の言葉は、死にかけた者に緑の野から吹き寄せる、生気を取り戻す風のようだった。王はもう一度、全力を振りしぼった。ちょうど隠者がこう言っているところだった――
「音ですと? 風しか聞こえませなんだが。」
「そうだったかもしれぬ。うむ、きっとそうだ。さっきからかすかに聞こえて――ほら、まただ! 風ではない! 妙な音だな。さあ、出どころを探そう!」
王の喜びは、もう耐えがたいほどだった。疲れた肺が、希望をもって力の限り働いた。だが締めつけられた顎と、音を吸いこむ羊皮に、努力はむなしくそがれた。そして隠者の次の言葉を聞くと、かわいそうに、王の胸は沈んだ――
「ああ、外ですな。向こうの雑木林かららしい。さあ、案内しましょう。」
二人が話しながら出ていくのが聞こえた。足音もすぐに遠ざかって消えた。あとは不吉な、重苦しい、恐ろしい静寂の中に、ただ一人残された。
途方もなく長い時が過ぎたように思えてから、また足音と声が近づいてきた。今度は別の音も加わっていた。どうやらひづめの音だった。それからヘンドンが言うのを聞いた――
「もう待たぬ。これ以上は待てぬ。この深い森で道に迷ったのだ。どちらへ行った? 早く、方向を教えてくれ。」
「あの子は――いや待ちなされ。一緒に参ろう。」
「ありがたい、ありがたい! いや、まったく見かけよりよい人だ。これほど心のまっすぐな大天使は、ほかにおるまい。乗っていくか? あの子用の小さなロバにするか、それとも私が自分用に買った、この根性曲がりのラバに、その聖なる脚をまたがせるか? こいつときたら、失業中の鋳掛け屋に貸した真鍮の四分の一ペニー、その一か月分の利息ほどのはした金で買ったとしても、まだだまされた買い物だ。」
「いや、あなたはラバに乗り、ロバを引いてゆくがよい。わしは自分の足のほうが確かじゃ。歩いてゆこう。」

「では、どうか小さいほうを見ていてくれ。私は命を懸けて、でかいほうにどうにか乗れるか試してみる。」
それから、蹴ったり殴ったり、踏み鳴らしたり跳ねたりする大騒ぎになり、そこへ罵り言葉が雷鳴のように次々と重なった。最後にはラバを相手に痛烈な悪態が浴びせられた。それでさすがのラバも気力をくじかれたのだろう、その瞬間から争いはやんだらしかった。
縛られた小さな王は、声と足音が薄れ、消えていくのを、言いようもない苦しみのうちに聞いた。一時、あらゆる希望が失せ、鈍い絶望が心に沈みこんだ。「ただ一人の友も、だまされて追い払われてしまった」と胸の内で言った。「隠者が戻ってきたら――」。息をのんで言葉を切り、すぐまた狂ったように縛めと格闘した。その激しさに、息苦しい羊皮が振り落とされた。
すると今、戸が開く音がした! 骨の髄まで凍る音だった。もう喉に包丁が当たる気がした。恐怖に目を閉じ、恐怖にまた目を開けると――目の前に立っていたのは、ジョン・キャンティとヒューゴだった!

顎が自由だったなら、「神よ、感謝します!」と言っただろう。
ほどなく手足は自由になり、二人の捕らえ手に片腕ずつつかまれて、森の中を全速力で連れ去られていた。

第二十二章 裏切りの犠牲
「フーフー王一世」は、またも浮浪者や無法者とともにさすらい、下品な冗談や頭の悪いからかいの的になった。ときには頭目の目の届かぬところで、キャンティやヒューゴから、こそこそと意地悪を受けた。本気で王を嫌っていたのは、キャンティとヒューゴだけだった。ほかには好意を抱く者もおり、その度胸と気概には、誰もが感心していた。王の監視と世話を任されたヒューゴは、二、三日の間、できる限りひそかに少年を苦しめた。夜、いつものどんちゃん騒ぎでは、ちょっとした侮辱を加えて一同を笑わせた。いつでも偶然を装っていた。二度、王の足を――偶然に――踏んだ。王は王者らしく、軽蔑をこめて、気づかぬふり、何とも思わぬふりをした。だが三度目にヒューゴが同じ遊びをすると、王は棍棒で地面へ打ち倒した。一味は大喜びだった。怒りと恥辱に燃えたヒューゴは跳ね起き、棍棒をつかんで、小さな敵に猛然と襲いかかった。たちまち二人を囲む輪ができ、賭けと声援が始まった。

だが哀れなヒューゴには、まるで勝ち目がなかった。やみくもで不器用な素人芸など、ヨーロッパ随一の師範たちから、短棒、長棒、剣術のあらゆる技と駆け引きを仕込まれた腕を相手にしては、ほとんど通用しなかった。小さな王は、油断なく、しかも優雅な余裕をもって立ち、雨あられと降る打撃を、たやすく正確に受け流した。その見事さに、雑多な見物人たちは熱狂した。そしてときおり、鍛えた目が隙を見つけ、稲妻のような一撃がヒューゴの頭に落ちると、その場を吹き抜ける喝采と笑いの嵐は、すさまじいものだった。十五分後、打ちのめされ、あざだらけになり、容赦ない嘲笑の集中砲火を浴びたヒューゴは、すごすごと戦場を去った。一方、無傷の英雄は、喜ぶ群衆の肩へ担ぎ上げられ、頭目の隣の上座へ運ばれた。そこで大仰な儀式とともに「闘鶏王」の冠を授けられ、それまでのみすぼらしい称号は、同時に厳粛に取り消され、廃止された。以後その名を口にする者は、一味から追放するとの布告もなされた。
王を一味の役に立たせようとする試みは、ことごとく失敗していた。頑として働くことを拒み、そのうえ絶えず逃亡を企てていた。一味へ戻った初日には、人のいない台所に押しこまれたが、何も持たずに出てきたばかりか、家人に知らせようとした。鋳掛け屋の手伝いに送り出されても、働かなかった。それどころか、鋳掛け屋自身のはんだごてで脅し、しまいにはヒューゴも鋳掛け屋も、逃がさぬようにするだけで手いっぱいになった。自由を妨げたり、仕事を無理強いしたりする者には、誰彼なく王者の雷を落とした。だらしない女と病気の赤ん坊と一緒に、ヒューゴの監視付きで物乞いに出されたこともあったが、結果は芳しくなかった。物乞いたちの代わりに頼みこむことも、どんな形であれ手を貸すことも拒んだのである。
こうして数日が過ぎた。この放浪生活の苦しさ、疲れ、汚らしさ、卑しさ、俗悪さは、捕らわれの王にとって、次第に、確実に、耐えがたいものになっていった。ついには、隠者の包丁から救われたのも、せいぜい死が一時先延ばしになっただけではないかと思い始めた。
だが夜、夢の中ではすべてを忘れ、玉座について、再び支配者となった。当然それは、目覚めたときの苦痛を深めた。だから再び捕らわれてからヒューゴと戦うまでの、わずかな朝を迎えるたび、屈辱はいよいよ苦く、いよいよ耐えがたくなっていった。
あの勝負の翌朝、ヒューゴは王への復讐を胸いっぱいにたぎらせて起きた。とりわけ二つの計画があった。一つは、少年の誇り高い心と「空想上の」王位に、ことさら耐えがたい屈辱を与えること。それが失敗したら、何かの犯罪を王に着せ、情け容赦のない法の手に売り渡すのが、もう一つの計画だった。
最初の計画を実行するため、王の脚に「クライム」をこしらえるつもりだった。それこそ王にこれ以上ない屈辱を与えるはずだという読みは正しかった。クライムの効果が出たら、キャンティの助けを借り、街道でその脚をさらして施しを乞うよう、王を無理強いするつもりだった。「クライム」とは、人為的に作る傷の隠語である。生石灰と石けん、古鉄の錆を混ぜて練り薬にし、それを革切れに塗って脚へきつく縛りつける。するとじきに皮膚がただれ落ち、肉がむき出しになって、痛々しく腫れ上がる。そこへ血を塗りつけ、十分に乾かすと、黒ずんだ気味の悪い色になる。あとは汚れたぼろ布を、さりげなさを巧みに装って巻き、ひどい潰瘍がのぞくようにして、通行人の哀れを誘うのだった。
ヒューゴは、王にはんだごてで脅された鋳掛け屋に手を借りた。鋳掛けの行商に少年を連れ出し、野営地が見えなくなるとすぐ地面に押し倒した。鋳掛け屋が押さえつけている間に、ヒューゴは脚へ練り薬をきつく、しっかり縛りつけた。

王は怒り狂い、再び王笏を手にしたら即座に二人を縛り首にしてやると宣言した。だが二人はがっちり押さえつけ、無力な抵抗を楽しみ、脅しをあざ笑った。やがて練り薬がひりひりと効き始めた。邪魔が入らなければ、まもなく役目を果たし終えていただろう。だが邪魔が入った。ちょうどそのころ、イングランドの法律を糾弾する演説をした、あの「奴隷」が現れ、企てをやめさせ、練り薬と包帯をはぎ取ったのだ。
王は救い主の棍棒を借り、その場で悪党二人の背中を熱くしてやりたがった。だが男は、面倒になるから駄目だ、夜まで待てと言った。一味が全員そろっていれば、よその者もあえて口出しや邪魔はするまいというのだ。男は一行を野営地へ連れ戻し、頭目に事の次第を報告した。頭目は聞き、考え、そして王はもっと上等な仕事にふさわしいのが明らかだから、もう物乞いには出さぬと決めた。そこでただちに物乞いの身分から昇進させ、盗み役に任命した!
ヒューゴは大喜びした。すでに王に盗みをさせようとして失敗していたが、今度はそんな面倒はあるまい。指令部から直接下された明確な命令に逆らうなど、さすがの王も考えないはずだった。そこでその日の午後にひと仕事企て、その最中に王を法の手へ渡すつもりになった。しかも偶然で、故意ではないように見える、巧妙な策略でやり遂げねばならなかった。今や闘鶏王は人気者だった。人気のない一員が、共通の敵である法律に王を引き渡すような大それた裏切りを働けば、一味も穏やかな扱いはしてくれまい。
さて、頃合いを見て、ヒューゴは獲物を連れて近くの村へぶらりと出かけた。二人は通りから通りへ、ゆっくり行ったり来たりした。一人は悪事を確実に成し遂げる機会を鋭くうかがい、もう一人も同じ鋭さで、駆け出して忌まわしい囚われの身から永久に逃れる機会をうかがっていた。
どちらも、まずまずと思われる好機をいくつか見送った。胸の内では互いに、今度こそ絶対にしくじらぬと決めていたからだ。どちらも、はやる思いに誘われて、かなりの不確かさが残る賭けに出るつもりはなかった。
ヒューゴの機会が先に来た。とうとう、何やらふくらんだ包みを籠に入れた女が近づいてきたのだ。ヒューゴの目が邪悪な喜びに輝き、胸の内で言った。「よし、あれをやつに押しつけられたら、お達者で、さようならだ、闘鶏王!」
外目には辛抱強く、内心では興奮に焼かれながら、女が通り過ぎ、機が熟すまで待ち構えた。それから低い声で言った――

「戻るまでここにいろよ」。そう言って、獲物のあとへひそかに飛び出した。
王の胸は喜びで満ちた。ヒューゴが獲物を追って十分遠くまで行きさえすれば、今こそ逃げられる。
だが、そんな幸運は訪れなかった。ヒューゴは女の後ろへ忍び寄り、包みをひったくると、腕に掛けていた古い毛布の切れ端で包みながら駆け戻ってきた。女は盗まれたところこそ見なかったが、荷が軽くなったので気づき、たちまち泥棒だと叫び立てた。ヒューゴは足を止めず、王の手に包みを押しつけて言った――
「さあ、ほかの連中と一緒に追ってこい。『泥棒を捕まえろ!』って叫ぶんだぞ。だが、うまく違うほうへ連れてけよ!」
次の瞬間、ヒューゴは角を曲がって、曲がりくねった路地へ飛びこんだ。そしてすぐまた、何食わぬ顔でのんびり姿を現し、柱の陰に陣取って成り行きを見守った。
侮辱された王は、包みを地面へ投げ捨てた。ちょうど毛布がほどけたところへ、ますます膨らむ群衆を引き連れて女が追いついた。女は片手で王の手首をつかみ、もう一方で包みを拾い上げると、罵り言葉を雨のように浴びせ始めた。王はその手を振りほどこうともがいたが、かなわなかった。
ヒューゴにはもう十分だった。敵は捕まり、あとは法の手がつかまえてくれる。そこでうれしさに忍び笑いをしながら姿を消し、野営地へ向かった。歩きながら、頭目の一味に話すため、都合よく筋書きを整えていった。
王は女の強い手の中でもがき続け、ときどき苛立って叫んだ――
「手を放せ、愚か者! おまえのくだらぬ品を奪ったのは私ではない。」
群衆は取り囲み、王を脅し、悪口を浴びせた。革の前掛けを着け、肘まで袖をまくった屈強な鍛冶屋が、教訓になるようたっぷり殴ってやろうと言いながら、手を伸ばした。だがその瞬間、長剣が空中できらめき、剣の腹で、否応なく納得させる力をこめて、その腕を打った。同時に、剣を持つ奇妙ないでたちの男が、にこやかに言った――
「まあまあ、皆さん、穏やかに進めようではないか。いがみ合いや無慈悲な言葉はよそう。これは法に判断を任せるべきことで、私人が勝手に扱うものではない。奥さん、少年から手を放しなさい。」

鍛冶屋はたくましい兵士を一目で値踏みすると、腕をさすり、ぶつぶつ言いながら立ち去った。女はしぶしぶ少年の手首を放した。群衆はよそ者に険悪な目を向けたが、賢明にも口を閉ざした。王は救い主のそばへ飛び寄り、頬を紅潮させ、目を輝かせて叫んだ――
「ずいぶん遅かったが、今度はよい折に来たぞ、サー・マイルズ。この雑輩どもを切り刻め!」

第二十三章 捕らわれた王子
ヘンドンは笑いをこらえ、身をかがめて王の耳にささやいた――
「お静かに、お静かに、殿下。お言葉にはお気をつけください。いえ、何もおっしゃらぬよう。私をお信じください。最後には、すべてうまくまいります。」
それから胸の内で付け加えた。「サー・マイルズか! おやまあ、自分が騎士だということを、すっかり忘れていた! いやはや、この子の記憶が、奇妙で正気ならぬ空想をしっかりつかんで離さぬのは、驚くほかない。……私のは空しくばかげた称号だが、それに値すると認められたのは、意味のあることだ。この夢と影の王国で、幻の騎士にふさわしいとされるほうが、この世の現実の王国のいくつかで、伯爵にするに足る卑劣漢と見なされるよりも、名誉なことに思える。」
群衆が割れて、治安吏が通った。近づいて王の肩に手を置こうとしたとき、ヘンドンが言った――
「穏やかに願おう、ご同役。手は出さぬよう。この子はおとなしくついてゆく。私が責任を持つ。先に立ってくれ、あとへ続こう。」

役人は、包みを持った女とともに先へ立った。マイルズと王が続き、そのあとを群衆が追った。王は逆らいたかったが、ヘンドンは低い声で言った――
「お考えください、陛下。陛下の法律は、その王権を健全に生かす息吹です。その源である方が法に逆らいながら、枝葉の臣民には尊べと求めてよろしいのでしょうか? 見たところ、その法律の一つが破られたようなのです。再び玉座につかれた折、外見は一私人であったとき、忠実に王の立場を市民の立場へ譲り、法の権威に従ったと振り返って、お心を痛めることがありましょうか?」
「そなたの言うとおりだ。もうよい。見ているがよい。イングランドの王が法のもとで臣民に忍べと求めることならば、自ら臣民の立場にある間は、王自身も忍んでみせよう。」
女は治安判事の前で証言を求められると、被告席の小さな囚人こそ、盗みを働いた本人だと誓った。反証できる者は一人もなく、王の有罪が決まった。そこで包みが開かれ、中身がまるまるとした小さな豚の枝肉だとわかると、判事は困った顔になった。ヘンドンは青ざめ、電撃を受けたように恐怖の震えが全身を走った。だが王は、事情を知らぬことに守られ、動じなかった。不吉な沈黙の中で判事は考え、それから女のほうを向いて尋ねた――
「この品はいくらの値打ちがあると思うか?」
女は膝を折って礼をし、答えた――
「三シリング八ペンスでございます、判事さま。正直な値を申し上げるなら、一ペニーたりとも減らせません。」
判事は気まずそうに群衆を見回し、それから治安吏にうなずいて言った――
「傍聴人を出して、戸を閉めなさい。」
そのとおりになった。残ったのは二人の役人、被告、告訴人、それにマイルズ・ヘンドンだけだった。ヘンドンはこわばり、血の気を失っていた。額には大粒の冷や汗が浮かび、はじけては一つになり、顔を伝った。判事はまた女へ向き直り、思いやりのある声で言った――
「哀れな、ものを知らぬ子どもだ。飢えに追い詰められたのかもしれぬ。不運な者には、つらい世の中だからな。見なさい、悪い顔はしていない。だが飢えに駆られれば――奥さん、知っているかね。十三ペンス半を超える値打ちの品を盗んだ者は、法では縛り首になるのだぞ?」
小さな王はぎくりとし、驚愕に目を見開いたが、自制して黙っていた。女はそうはいかなかった。恐怖に震えて立ち上がり、叫んだ――

「ああ、とんでもないことを! 私は何をしてしまったんでしょう! 神さま、お許しください。何をもらっても、こんなかわいそうな子を縛り首にしたくはありません! ああ、どうかお助けください、判事さま。どうすればいいんです、私に何ができるんでしょう?」
判事は裁き手としての平静を保ち、ただこう言った――
「まだ記録には書き入れていないのだから、値を改めることは、差し支えなかろう。」
「では神さまにかけて、その豚は八ペンスということにしてください。こんな恐ろしい罪から私の心を救ってくださる、この日に祝福がありますように!」
マイルズ・ヘンドンはうれしさのあまり、礼儀作法をすべて忘れ、王の体に両腕を回して抱きしめた。王は驚き、威厳を傷つけられた。女は礼を述べて別れを告げ、豚を抱えて立ち去ろうとした。治安吏は戸を開けてやると、そのあとについて狭い廊下へ出た。判事は記録簿に書きつけ始めた。いつも油断しないヘンドンは、役人が女のあとを追ったわけが気になり、薄暗い廊下へそっと出て、耳を澄ました。こんな会話が聞こえた――
「肥えた豚だな、うまそうだ。私が買ってやろう。ほら、八ペンスだ。」
「八ペンスですって! そんな値じゃ売りませんよ。三シリング八ペンスかかったんです。先王の御代のまっとうなお金で、死んだばかりのヘンリー爺さんだって、削りも混ぜものもしてないお金ですからね。八ペンスなんて、お断りです!」
「ほう、そういう風向きか。おまえは宣誓していたのだぞ。では八ペンスしか値打ちがないと言ったのは、偽証だな。すぐ判事さまの前へ戻り、その罪を申し開きしてもらおう! そうなれば、あの子は縛り首だ。」
「まあまあ、後生ですから、もうやめてください。それで結構です。八ペンスをくださいな。この話は、どうか内緒に。」
女は泣きながら去った。ヘンドンはそっと法廷へ戻り、治安吏も戦利品を適当な場所へ隠してから、ほどなく戻ってきた。判事はしばらく書き続け、それから王に分別ある親切な説教を聞かせ、一般の牢に短期間拘禁し、そのあと公開の鞭打ちに処すと申し渡した。仰天した王は口を開けた。おそらく、この親切な判事の首を即刻はねよと命じようとしたのだろう。だがヘンドンの警告の合図に気づき、言葉がこぼれ落ちる前に、どうにかまた口を閉じた。今度はヘンドンが王の手を取り、判事へ礼をして、二人は治安吏のあとについて牢へ向かった。通りへ出た瞬間、怒りに燃える君主は立ち止まり、手を振りほどいて叫んだ――
「愚か者! 私が生きたまま下々の牢へ入ると思うか!」
ヘンドンは身をかがめ、やや厳しい口調で言った――
「私を信じてくださるのですか? お静かに! 危険なお言葉で、私どもの見込みを悪くなさらぬよう。神の望まれることは起こります。早めることも、変えることもできません。ですから待って、辛抱なさいませ。嘆くも喜ぶも、起こるべきことが起きてからで、十分間に合います。」

第二十四章 脱出
短い冬の日は、もう暮れようとしていた。通りには、ぽつりぽつりと人影があるほか、誰もいなかった。その人々も、できるだけ早く用事を済ませ、強まりつつある風と深まる夕闇を避けて、ぬくぬくと家へこもることしか頭にない様子で、ひたすら先を急いでいた。右も左も見ず、こちらの一行には目もくれず、姿さえ見えていないようだった。エドワード六世は、牢へ向かう王の姿が、これほど見事な無関心で迎えられたことが、かつてあっただろうかと思った。やがて治安吏は人気のない市場の広場に着き、そこを横切り始めた。その真ん中まで来たとき、ヘンドンは役人の腕に手を置き、低い声で言った――
「少し待ってくれ、ご同役。誰にも聞こえぬから、ひと言話したい。」
「職務上、それはできませぬ。どうか邪魔をなさらぬよう。夜になります。」
「それでも待ってくれ。おぬしに深く関わることなのだ。ちょっと背を向け、見なかったふりをしてくれ。この哀れな少年を逃がしてやってくれ。」
「この私に、そのようなことを! そなたを逮捕する――」
「いや、早まるな。よく気をつけて、愚かな間違いを犯すなよ」。それから声をささやきに落とし、役人の耳に言った。「八ペンスで買ったあの豚が、おぬしの首代になるかもしれぬぞ!」
不意を突かれた哀れな治安吏は、初め言葉もなかったが、やがて舌が動くと、怒鳴り、脅し始めた。ヘンドンは落ち着き払い、相手の息が切れるまで辛抱強く待ってから言った――
「私はおぬしが気に入っている。災いに遭うのを、進んで見たいとは思わぬ。よいか、全部聞いたのだ。一語残らず。証拠を見せてやろう。」
そこで役人と女が廊下で交わした会話を、一語一句たがえず繰り返し、最後に言った――
「どうだ、正確だったろう? 必要とあれば、判事の前でも正確に話せるとは思わぬか?」
男は一瞬、恐怖と苦悩に口が利けなかったが、やがて気を取り直し、無理に軽い調子を作って言った――
「いやはや、ただの冗談を、ずいぶん大げさに扱われるものだ。ちょっと面白半分に、あの女をからかっただけです。」
「豚を取り上げたのも、面白半分か?」
男は鋭く答えた――
「それだけですとも。申し上げたとおり、ほんの冗談です。」
「だんだん信じる気になってきたぞ」とヘンドンは、からかっているのか、半ば納得しているのか、判じかねる口調で言った。「だが少しここで待ってくれ。判事さまに走って聞いてこよう。なんといっても、法律にも、冗談にも、そのほかにも通じた方だから――」

そう言いながら歩き去ろうとした。治安吏はためらい、そわそわし、二言三言悪態を吐いてから、叫んだ――
「待って、待ってください。どうか少しお待ちを――判事さまですって! あの方は、冗談には死骸ほどの理解もないお方ですよ! さあ、もう少し話しましょう。ちくしょう、どうやら面倒なことになったらしい。罪もない、うかつな戯れがもとで。私には家族がいます。妻と幼い子どもたちが――どうか話を聞いてください、旦那さま。私に何をなされたいのです?」
「ただ、十万数える間、目も見えず、口も利けず、体も動かぬようになってくれればよい。ゆっくり数えてな」とヘンドンは、道理にかなった、それもごくささやかな頼みをする者の顔で言った。
「それでは身の破滅です!」と治安吏は絶望して言った。「ああ、どうか無理をおっしゃらず、この話をあらゆる角度から見てください。どれほどただの冗談か、どれほど明白で、わかりきった冗談か、おわかりになるはずです。仮に冗談でないとしても、こんな小さな落ち度なら、どれほど厳しい罰でも、判事さまのお叱りと戒めくらいのものです。」
ヘンドンは、周りの空気が凍るほど厳かに答えた――
「おぬしの冗談には、法律上の名がある。何というか知っているか?」
「知りませんでした! 軽率だったのかもしれません。名があるなど夢にも――ああ、神さま、自分が初めて思いついたものとばかり。」
「そう、名がある。法ではこの犯罪を、『ノン・コンポス・メンティス、レクス・タリオニス、シク・トランシト・グロリア・ムンディ』というのだ[訳注:「心神喪失」「同害報復の法」「かくして世の栄光は過ぎ去る」という、無関係なラテン語句を並べたでたらめ]。」
「ああ、神よ!」
「そして刑罰は死刑だ!」
「罪深い私に、神の御慈悲を!」
「過ちを犯し、深い危機に陥り、おぬしの意のままになる者につけこみ、十三ペンス半を超える品を、わずかな代金で奪った。これは法の目には、擬制的濫訴、反逆罪隠匿、職権濫用、アド・ホミネム・エクスプルガティス・イン・スタトゥ・クオに当たる。その刑は絞首刑。身代金も、減刑も、聖職者特権による免除もない。」
「支えて、支えてください、旦那さま。脚が立ちません! どうかお慈悲を――この運命からお救いください。そうすれば背を向けて、何が起きても何も見ません。」

「よし! やっと賢く、物わかりがよくなったな。豚も返すか?」
「返します、必ず返します。二度と豚には触りません。天から授かり、大天使が届けてくれたとしてもです。お行きください――あなたのために、私は目が見えません。何も見えません。あなたが押し入り、力ずくで囚人を奪ったと言います。どうせがたがたの古い戸です。真夜中から朝までの間に、自分でたたき壊しておきます。」
「そうしてくれ、ご親切な人。悪いことにはならぬ。判事さまはこの哀れな少年に、情け深い心をお持ちだ。逃げたからといって涙も流すまいし、牢番の骨を折りもしまい。」

第二十五章 ヘンドン・ホール
ヘンドンと王の姿が治安吏から見えなくなると、陛下は町外れのある場所へ急いで行き、そこで待っているよう言われた。その間にヘンドンは宿へ戻り、勘定を済ませることになった。三十分後、二人の友は、ヘンドンのみすぼらしい乗り物に揺られ、陽気に東へ進んでいた。王はもう暖かく、心地よかった。ぼろを脱ぎ捨て、ヘンドンがロンドン橋で買った古着の一揃いに着替えていたからだ。

ヘンドンは少年を疲れさせすぎぬよう気をつけたかった。きつい旅、不規則な食事、足りない睡眠は、病んだ心によくないだろうと考えた。一方、休息と規則正しい暮らし、ほどよい運動は、きっと回復を早めるはずだった。傷ついた知性が再び健やかになり、苦しむ小さな頭から病的な幻が追い払われることを、切に願っていた。そこで、長く追放されていた故郷へは、はやる気持ちに任せて昼夜兼行で急ぐのでなく、短い行程を重ねて進むことにした。
二人は十マイルほど旅して、かなり大きな村へ着き、立派な宿でその夜を過ごすことにした。以前の関係が再び始まった。王の食事中、ヘンドンは椅子の後ろに立って給仕し、寝る支度のときには服を脱がせた。そして自分は床を寝場所とし、毛布にくるまって、戸口を横切るように寝た。
翌日も、その翌日も、二人はのんびりと進み、離れ離れになってからの冒険を語り合って、互いの話を大いに楽しんだ。ヘンドンは王を捜して各地を歩いたことを詳しく話し、大天使に森じゅうをさんざん引き回され、どうしても追い払えぬとわかると、ついに小屋へ連れ戻された次第を語った。それから――ヘンドンの話によれば――老人は寝室へ入り、悲嘆に打ちひしがれた様子でよろめき戻ってきて、少年は帰ってきて、そこに横になって休んでいると思ったのに、そうではなかったと言った。ヘンドンはその日いっぱい小屋で待ったが、王が戻る望みは消え、再び捜索へ出たのだった。
「あの至聖所のご老体も、殿下がお戻りにならず、本当に残念がっておりました」とヘンドンは言った。「顔に出ておりましたから。」
「うむ、それは少しも疑わぬ!」と王は言った。そして自分の身に起きたことを語った。それを聞いたヘンドンは、大天使を殺しておかなかったことを悔やんだ。
旅の最後の日、ヘンドンの気分は天にも昇るようだった。舌は休みなく動いた。老父や兄アーサーについて語り、その気高く寛大な人柄を示す数々の話をした。愛するイーディスのことになると、愛情のあまり我を忘れた。あまりにうれしかったので、ヒューについてさえ、兄らしい優しい言葉をいくつか口にできた。ヘンドン・ホールでの再会を、飽かずに思い描いた。みんながどれほど驚き、どれほど感謝と喜びを爆発させることだろう、と。
美しい地方だった。農家や果樹園が点在し、道は広い牧草地を抜けていた。なだらかな起伏を描いて遠くへ広がる草地は、海の波がうねり、また沈むさまを思わせた。午後になると、帰郷する放蕩息子はたびたび道をそれ、小高い丘に上がっては、遠くを見通して我が家を一目見られないかと試した。とうとうそれがかなうと、興奮して叫んだ――

「あれが村です、殿下。そしてすぐそばが屋敷です! ここから塔が見えるでしょう。あの森――あれが父の庭園です。ああ、これからこそ、威厳と豪華さというものをお目にかけますぞ! 七十の部屋がある家です――お考えください! 召使は二十七人! 私どもには上等の宿ではありませんか? さあ、急ぎましょう。もう待ちきれません。」
できる限り急いだが、それでも村に着いたのは三時を過ぎていた。二人は村を駆け抜け、その間ずっとヘンドンの舌は動いていた。「ほら、教会です。昔と同じ蔦に覆われている。減っても増えてもいませんな」「あそこが宿屋、昔のレッド・ライオンです。そしてあそこが市場」「ここが五月柱[訳注:五月祭に飾りをつけ、周囲で踊る柱]、ここが井戸のポンプ。何も変わっていない。少なくとも、人以外は。十年もたてば人は変わります。見覚えのある顔もいるが、私に気づく者はいません。」
そんなふうに、おしゃべりは続いた。じきに村外れへ着き、二人は高い生け垣に挟まれた、曲がりくねった細道へ入った。そこを勢いよく半マイル進むと、巨大な石柱に紋章の彫刻を掲げた堂々たる門をくぐり、広大な花園へ入った。目の前に、立派な大邸宅が現れた。
「ヘンドン・ホールへようこそ、我が王よ!」とマイルズは叫んだ。「ああ、なんという日でしょう! 父も兄もレディ・イーディスも、喜びで我を忘れ、再会の最初の興奮のうちは、私ばかり見て、私にばかり話しかけるでしょう。それで陛下へのお迎えは冷たく思われるかもしれませんが、お気になさらず。すぐに変わります。あなたは私が守るべき方で、どれほど深くお慕いしているかを話せば、みなマイルズ・ヘンドンのために、あなたを胸に迎えるでしょう。そしてこの家も心も、いつまでもあなたの住まいとなるのです!」
次の瞬間、ヘンドンは大きな玄関の前で地面へ飛び降り、王を下ろしてから、その手を取り、家の中へ駆けこんだ。数歩で広い部屋へ着いた。中へ入り、儀礼よりも急ぐ気持ちを先にして王を座らせると、盛んな薪の火を前に、書き物机についていた若い男へ走り寄った。

「抱きしめてくれ、ヒュー!」と叫んだ。「帰ってきてうれしいと言ってくれ! 父上を呼んでくれ。あの手に触れ、顔を見て、声をもう一度聞くまでは、帰った気がせぬ!」
だがヒューは一瞬驚きを見せただけで、身を引き、侵入者をじっと厳しく見据えた。初めは少し面目を傷つけられたようなまなざしだったが、やがて内心の何かの思いや狙いに応じて、驚きに満ちた好奇心と、本物とも装いともつかぬ同情の混じる表情へ変わった。しばらくして、穏やかな声で言った――
「お気の毒に、ご仁、正気を失っておられるようだ。きっと世間でひどい困窮や苦難を味わわれたのでしょう。そのお姿と服が物語っている。私を誰だと思っておいでです?」
「誰だと? おまえ以外の誰だというのだ。ヒュー・ヘンドンだと思っているぞ」とマイルズは鋭く言った。
相手は、同じ柔らかな調子で続けた――
「では、ご自分を誰だと思いこんでおられる?」
「思いこみなどではない! 兄のマイルズ・ヘンドンがわからぬふりをするつもりか?」
ヒューの顔を、うれしい驚きの表情がよぎり、叫んだ――
「何ですと! 冗談ではないのか? 死者が生き返ることがあるのか? そうならば神に感謝を! 長いむごい年月の果て、失った哀れな兄が、ついに我らの腕へ戻ったというのか! ああ、信じるにはうれしすぎる。あまりにもうれしすぎる。どうかお願いだ、情けをかけて、私をもてあそばないでくれ! 早く、明るいところへ。よく見せてくれ!」
マイルズの腕をつかみ、窓際へ引いてゆくと、頭から足先まで、むさぼるように見つめ始めた。あちらへこちらへ向きを変えさせ、周りをすばやく歩き回り、あらゆる角度から確かめた。その間、帰郷した放蕩息子は、喜びに輝き、ほほえみ、笑い、うなずき続けながら言った――
「さあ、よく見ろ、弟よ。遠慮はいらぬ。手足も顔立ちも、確かめられて困るところはない。気の済むまで調べてくれ、懐かしいヒュー。私は本当におまえのマイルズだ。昔のままのマイルズだ。行方知れずの兄ではないか? ああ、素晴らしい日だ。素晴らしい日になると、言ったとおりだ! 手を貸せ、頬を寄せろ。ああ、うれしくて死にそうだ!」
弟に抱きつこうとしたが、ヒューは手を上げて制した。それから悲しげに顎を胸へ落とし、感情をこめて言った――

「ああ、慈悲深い神よ、この痛ましい失望に耐える力をお授けください!」
マイルズは驚き、しばらく声も出なかったが、やがて言葉を取り戻して叫んだ――
「何の失望だ? 私はおまえの兄ではないか?」
ヒューは悲しげに首を振って言った――
「そうであってほしいと天に祈っている。私には見えぬ似たところが、ほかの目には見えるかもしれない。だが残念ながら、あの手紙は、あまりにも真実を語っていたのではないか。」
「何の手紙だ?」
「六、七年前、海の向こうから届いたものだ。兄は戦死したと書いてあった。」
「うそだ! 父上を呼べ。父上なら私がわかる。」
「死者を呼ぶことはできぬ。」
「死んだ?」
マイルズの声は低く沈み、唇が震えた。「父上が亡くなられた! ああ、なんと重い知らせだ。せっかく芽生えた喜びも、半分はしおれてしまった。どうかアーサー兄さんに会わせてくれ。兄さんならわかる。私だとわかって、慰めてくれる。」
「兄もまた、亡くなった。」
「打ちひしがれた私に、神の御慈悲を! 逝ってしまったのか、二人とも。立派な者が奪われ、私のような値打ちのない者が残るとは! ああ、頼む――レディ・イーディスまでとは言わないでくれ――」
「死んだと? いや、生きている。」
「では神に感謝を! 喜びはすっかり戻った。急いでくれ、弟よ。ここへ来てもらってくれ! あの人まで、私が私でないと言うなら――いや、言うものか。そうとも、あの人ならわかる。疑うほうが愚かだ。連れてきてくれ。昔の召使たちも呼んでくれ。あの者たちにもわかる。」
「五人を残して、みな去った。ピーター、ホールジー、デイヴィッド、バーナード、マーガレットだけだ。」
そう言ってヒューは部屋を出た。マイルズはしばらく立って考え、それから歩き始め、つぶやいた――
「二十二人の忠実で正直な者がいなくなり、大悪党の五人が残ったとは、妙な話だ。」
行きつ戻りつ、独り言を言い続けた。王のことはすっかり忘れていた。しばらくして陛下は、言葉そのものは皮肉とも取れたが、真の同情を少しにじませ、厳かに言った――
「不運を気に病むな、よき人よ。この世にはほかにも、本人であることを否定され、言い分をあざ笑われる者がいる。そなた一人ではない。」
「ああ、我が王よ」とヘンドンは少し赤くなって叫んだ。「私をお責めにならぬよう。お待ちください、じきにおわかりになります。私は偽者ではありません。あの人がそう言ってくれます。イングランドで最も優しい唇から、お聞きになるでしょう。私が偽者ですと? この古い広間も、先祖の肖像も、周りの品々も、子どもが自分の子ども部屋を知っているように、よく知っているのです。ここで生まれ育ったのです、陛下。本当のことを申しております。あなたをだましたりはいたしません。たとえ誰も信じてくれなくても、どうか
あなたはお疑いにならないでください。それだけは耐えられません。」
「そなたを疑ってはおらぬ」と王は、子どもらしい素直さと信頼をこめて言った。
「心から感謝いたします!」とヘンドンは叫んだ。その熱い口調に、心を打たれたことが表れていた。王は同じ優しい素直さで付け加えた――
「そなたは私を疑っているか?」
ヘンドンは後ろめたさにうろたえたが、その瞬間、戸が開いてヒューが入り、答えずに済んだので、ありがたく思った。

豪華な衣をまとった美しい婦人がヒューに続き、そのあとに、お仕着せ姿の召使が数人入ってきた。婦人は頭を垂れ、床に目を落として、ゆっくり歩いてきた。その顔は、言いようもなく悲しげだった。マイルズ・ヘンドンは前へ飛び出し、叫んだ――
「ああ、イーディス、愛しい人――」
だがヒューは重々しく手で制し、婦人に言った――
「見てごらん。この男を知っているか?」
マイルズの声を聞いたとき、婦人はわずかに身を震わせ、頬を赤らめていた。今は震えていた。重苦しい数瞬の間、じっと立ち尽くしてから、ゆっくり顔を上げ、石のようにこわばった、怯えたまなざしで、ヘンドンの目を見た。顔から一滴ずつ血が引いてゆき、ついには死者のような灰色の青白さだけが残った。そして顔と同じく生気のない声で、「存じません」と言った。うめき、すすり泣きを押し殺して身を翻すと、よろめきながら部屋を出ていった。
マイルズ・ヘンドンは椅子に崩れ落ち、両手で顔を覆った。しばらくして、弟が召使たちに言った――
「おまえたちも見たな。この男を知っているか?」
召使たちは首を振った。それから主人が言った――
「召使たちも、ご存じないそうだ。何かの間違いではありませんか。妻もあなたを知らなかったのは、ご覧のとおりだ。」

「おまえの妻!」
次の瞬間、ヒューは鉄のような手で喉をつかまれ、壁へ押しつけられていた。「ああ、狐の心を持つ下郎め、すべてわかったぞ! あのうその手紙は、おまえ自身が書いたのだな。奪った花嫁と財産が、その成果というわけだ。さあ、失せろ。こんなちっぽけな虫けらを殺して、名誉ある軍人の誇りを汚す前にな!」
顔を真っ赤にし、ほとんど息を詰まらせたヒューは、近くの椅子へよろめき、召使たちに、この人殺しのよそ者を捕らえて縛れと命じた。召使たちはためらい、一人が言った――
「サー・ヒュー、あの男は武器を持っております。私どもには何もございません。」
「武器があると! それがどうした、これだけ人数がいて? かかれと言っているのだ!」
だがマイルズは、うかつな真似をするなと警告し、付け加えた――
「昔から私を知っているはずだ。私は変わっておらぬ。来たければ来い。」
このひと言で、召使たちの勇気はさほど奮い立たなかった。なおも尻込みしていた。
「では行け、腰抜けども。武器を取り、戸口を守れ。その間に人をやって、警吏を呼ばせる!」とヒューは言った。敷居のところで振り返り、マイルズに言った。「無益な逃亡を企てて罪を重ねぬほうが、身のためだぞ。」
「逃亡? 気がかりがそれだけなら、心配は無用だ。マイルズ・ヘンドンこそ、ヘンドン・ホールと、そのすべての領有物の主人なのだからな。ここにとどまるとも。疑うな。」

第二十六章 身内に拒まれて
王はしばらく考えこんで座っていたが、やがて顔を上げて言った――
「妙だ。まことに妙だ。わけがわからぬ。」
「いえ、妙ではございません、陛下。あの男を知っております。こうするのも当然です。生まれたときから悪党でした。」
「ああ、あの男のことを言ったのではない、サー・マイルズ。」
「あの男のことではない? では何のことです? 何が妙なのでしょう?」
「王がいなくなっても、誰も捜さぬことだ。」
「何ですって? 誰のことです? どうもわかりかねます。」
「そうか? 国じゅうが、私の人相姿形を知らせて捜し求める使者や布告であふれておらぬのを、ひどく妙だと思わぬか? 国のかしらがいなくなり、私が姿を消して行方知れずになったというのに、大騒ぎも心配もせぬのか?」
「まことに、おっしゃるとおりです、我が王よ。忘れておりました。」
それからヘンドンはため息をつき、独り言をつぶやいた。「哀れな、壊れた心だ。まだあの痛ましい夢にかかりきりなのだな。」
「だが、私たち二人の立場を正す策がある。三つの言葉――ラテン語、ギリシア語、英語で書状を書く。そなたは明朝それを持ち、急いでロンドンへ行くがよい。伯父のハートフォード卿以外には渡すな。伯父は見れば私が書いたとわかり、そう言うはずだ。そうすれば迎えをよこす。」
「殿下、まずここで私の身元を証明し、領地への権利を確かにしてからのほうが、よろしいのではありませんか? そうすれば、ずっとよく――」

王は有無を言わせぬ調子で遮った――
「黙れ! 一国の安寧と王座の保全に関わる事柄に比べ、そなたのちっぽけな領地や、ささいな利害が何だというのだ!」
それから、その厳しさを悔やんだかのように、優しい声で付け加えた。「従え。恐れることはない。そなたの立場は私が正す。すべて取り戻してやる――いや、それ以上のものを。忘れはせぬ。必ず報いよう。」
そう言って筆を取り、書き始めた。ヘンドンはしばらく愛情をこめて見つめ、それから胸の内で言った――
「暗がりなら、本物の王が話していると思ったろう。否定はできぬ。気が乗ると、本当の王のように雷を鳴らし、稲妻を走らせる。どこであんな芸を覚えたのだ? 見ろ、無意味な曲がりくねった線を、ラテン語やギリシア語だと思いこみ、満足そうにせっせと書いている。うまく気をそらす手を思いつかぬかぎり、明日はこの子が考えたとんでもない使いに、急いで出かけるふりをせねばならぬな。」
次の瞬間には、サー・マイルズの思いは、先ほどの出来事へ戻っていた。あまりに深く考えこんでいたので、やがて王が書き終えた紙を渡したときも、無意識に受け取り、懐へしまった。「あの人の振る舞いは、何とも不思議だった」とつぶやいた。「私だとわかったようにも思えるし、わからなかったようにも思える。この二つが食い違うのは、はっきりわかる。だが両立させることも、理屈でどちらかを捨て去ることも、一方に重きを置くことさえできぬ。要するにこうだ。顔も、姿も、声も、わかったはずなのだ。そうでないわけがない。それなのに、知らぬと言った。あの人はうそをつけないのだから、それは完全な証拠だ。いや待て、見えてきたぞ。ひょっとすると、あいつがあの人を操り、命じ、うそをつくよう強いたのではないか。それが答えだ。謎は解けた。あの人は恐怖で死んだように見えた。そうだ、あいつに強いられていたのだ。会いにゆこう。捜し出そう。あいつがいない今なら、本心を話すだろう。子どものころ一緒に遊んだ昔を思い出せば、心も和らぐ。もう私を裏切らず、認めてくれるだろう。あの人に裏切りの血などない。そうとも、いつも正直で誠実だった。昔は私を愛してくれた。それが頼みだ。一度愛した相手を、人は裏切れるものではない。」
彼は勢いこんで戸口へ向かった。そのとき戸が開き、レディ・イーディスが入ってきた。ひどく青ざめていたが、足取りは確かで、身のこなしには気品と穏やかな威厳があった。顔は先ほどと変わらず悲しげだった。
マイルズは喜びと確信をもって迎えに飛び出したが、彼女はかすかな身ぶりで制し、彼はその場に止まった。彼女は腰を下ろし、彼にも座るよう求めた。それだけで、昔なじみの親しさは彼から取り去られ、よそ者の客へと変えられた。その驚き、あまりに思いがけぬ仕打ちに、彼は一瞬、自分は本当に、名乗っているその人物なのだろうかとまで疑い始めた。レディ・イーディスは言った――
「ご忠告に参りました。正気を失った方の思いこみは、説いても消せないのかもしれません。でも危険を避けるよう、おわかりいただくことはできるはずです。あなたにはその夢が、まことの真実に思われているのでしょう。ですから罪ではありません。けれど、その夢を抱いてここにとどまってはなりません。ここでは危険なのです。」
しばらくマイルズの顔をじっと見つめてから、重々しく付け加えた。「失ったあの方が生きていれば、成長しておなりだったであろう姿に、あなたがたいそうよく似ていらっしゃるだけに、なおさら危険なのです。」
「なんということだ、奥方。私はその本人なのです!」
「あなたがそう信じておられるのは、本当だと思います。その誠実さを疑っているのではありません。ただご忠告しているのです。夫はこの地方の主人です。その力には、ほとんど限りがありません。人々が栄えるも飢えるも、夫の意のままです。名乗っておられる方に似ていなければ、夫も、お好きな夢を見ておれと、放っておいたかもしれません。でも信じてください、私はあの人をよく知っています。何をするかもわかっています。あなたは気のふれた偽者にすぎないと皆に言い、するとたちまち、皆が同じことを言うでしょう。」
また同じ、揺るがぬまなざしをマイルズへ向け、付け加えた。「たとえあなたがマイルズ・ヘンドンその人で、夫も、この地方の誰もがそれを知っていたとしても――私の言うことをお考えになり、よく心に留めてください――危険は同じです。罰を逃れることは、やはりできません。夫は認めず、あなたを糾弾し、誰も勇気をもって味方しようとはしないでしょう。」
「まったく、そのとおりでしょうな」とマイルズは苦々しく言った。「生涯の友に、もう一人の友を裏切り、知らぬと言えと命じ、それを従わせる力ならば、食い扶持と命が懸かり、忠義や名誉という蜘蛛の糸ほどの絆も関わらぬ者たちには、いっそう従わせられると見てよかろう。」

婦人の頬に一瞬、かすかな赤みがさし、目は床へ落ちた。だが続きを語る声には、感情は表れなかった――
「申し上げましたが、なお申し上げねばなりません。ここからお立ち去りください。さもなければ、あの人に滅ぼされます。情けを知らぬ暴君です。鎖につながれた奴隷である私には、わかっています。哀れなマイルズも、アーサーも、大切な後見人のサー・リチャードも、あの人から解き放たれ、安らかに眠っています。この悪人の手中にとどまるより、あの方々と一緒になるほうがましです。あなたの主張は、あの人の称号と財産を脅かします。そのうえ、自分の家で襲われたのです。ここにいれば、破滅します。お行きください。ためらわずに。お金がないなら、この財布をお取りください。お願いです。召使に金を握らせ、通してもらってください。ああ、どうかお聞きになって、お気の毒な方、逃げられるうちにお逃げください。」
マイルズは身ぶりで財布を断り、立ち上がって彼女の前に立った。
「一つだけ願いを聞いてください」と言った。「私の目を見ていただきたい。揺らがぬかどうか見たいのです。そう、そのままお答えください。私はマイルズ・ヘンドンですか?」
「いいえ。あなたを存じません。」
「誓ってください!」
答えは低かったが、明瞭だった――
「誓います。」
「ああ、信じられぬ!」
「お逃げください! なぜ貴重な時を無駄になさるのです? 逃げて、お命をお守りください。」
その瞬間、役人たちが部屋へなだれこみ、激しいもみ合いになった。だがヘンドンはほどなく押さえこまれ、引きずり出された。王も捕まり、二人とも縛られて、牢へ連れていかれた。

第二十七章 牢獄で
牢房はどこも満員だった。そこで二人の友は、ふだん軽い罪で訴えられた者を入れる大部屋に、鎖でつながれた。仲間はいた。男女さまざまな年齢の囚人が二十人ほど、手かせ足かせをはめられていた。下品で騒々しい連中だった。王は、その王者の身に加えられた途方もない侮辱に、激しくいらだっていたが、ヘンドンはふさぎこみ、口数も少なかった。すっかり困惑しきっていたのである。歓喜する放蕩息子として帰郷し、誰もがその帰還に狂喜すると思っていたのに、迎えられたのは冷たい肩と牢獄だった。期待と実際があまりに違い、茫然となっていた。これはとびきりの悲劇なのか、それともとびきりの滑稽事なのか、決めかねた。虹を楽しもうと陽気に踊り出て、雷に打たれた人のような気持ちだった。
だが混乱し、苦しみをもたらす思いも、次第に多少の秩序を取り戻し、やがて心はイーディスに集中した。その振る舞いを何度も思い返し、あらゆる角度から検討したが、納得のいく答えは出なかった。自分だとわかったのか、それともわからなかったのか? 困惑させる謎だった。長い間考え続け、ついには、わかっていながら、利害のために認めなかったのだと確信した。今こそその名に呪いを浴びせたかった。だが、その名はあまりにも長く神聖なものだったので、舌を動かして汚すことができなかった。

汚れ、ぼろぼろになった牢の毛布にくるまり、ヘンドンと王は落ち着かぬ夜を過ごした。牢番が賄賂を受け取り、一部の囚人に酒を与えていたので、当然ながら、卑猥な歌、喧嘩、怒鳴り声、酒盛りが始まった。とうとう夜半をしばらく過ぎたころ、一人の男が女を襲い、牢番が助けに来るまでに、手かせで頭を殴って、危うく殺すところだった。牢番は男の頭と肩を棍棒でたっぷり打ち据え、平穏を取り戻した。それで酒盛りは終わった。そのあとは、負傷した二人のうめき声や苦痛の声を気にしない者なら、誰でも眠ることができた。
続く一週間、昼も夜も、出来事は単調に同じことを繰り返した。昼には、ヘンドンに多かれ少なかれ見覚えのある男たちがやってきて、「偽者」を見物し、身元を否定し、侮辱した。夜には判で押したように、酒盛りと喧嘩が続いた。だが、ついに変化が訪れた。牢番が老人を一人連れてきて、言った――
「悪党はこの部屋にいる。その年寄りの目で見回して、どれだかわかるか試してみろ。」
ヘンドンは顔を上げ、牢に入って以来、初めてうれしい気持ちになった。胸の内で言った。「ブレイク・アンドルーズだ。生涯、父の家に仕えた召使。善良で正直な、まっすぐな心の持ち主だ。少なくとも昔はそうだった。だが今は、誰も誠実ではない。みんなうそつきだ。この男も私だとわかりながら、ほかの者と同じく否定するのだろう。」
老人は部屋を見回し、一人ずつ顔を眺めてから、ようやく言った――
「ここにいるのは、しがない悪党や、通りのくずばかりですな。どいつです?」
牢番は笑った。
「こいつだ」と言った。「このでかい獣をよく見て、意見を聞かせてくれ。」

老人は近づき、長い間、真剣にヘンドンを見定めた。それから首を振って言った――
「いや、こいつはヘンドン家の者ではない。昔も今もな!」
「そのとおり! 年寄りの目も、まだ確かだな。俺がサー・ヒューなら、この薄汚い野郎を捕まえて――」
牢番は、見えない首つり縄に引かれるようにつま先立ちになり、喉を鳴らして息の詰まる音をまね、言葉を締めくくった。老人は憎々しげに言った――
「それだけで済むなら、神に感謝するがいい。わしがこの悪党を始末するなら、火あぶりにしてやる。それができぬなら男ではない!」
牢番は、ハイエナのような楽しげな笑い声を上げて言った――
「思う存分、言ってやれ、爺さん。みんなそうしている。いい暇つぶしになるぞ。」
それから控えの間へぶらぶら歩き、姿を消した。老人はひざまずいて、ささやいた――
「神に感謝を。お帰りになったのですね、若旦那! この七年、亡くなられたと思っておりましたのに、こうして生きておいでとは! 一目でわかりました。知らぬ顔をして、ここには二束三文の悪党や、通りのくずしかいないふりをするのは、たいそう骨が折れました。私は年寄りで貧乏ですが、サー・マイルズ、ひと言お命じください。首を絞められようとも、外へ出て真実を言い広めてまいります。」
「いや」とヘンドンは言った。「それはするな。おまえを破滅させるだけで、私のためにはさほど役立たぬ。だが感謝する。失った人への信頼を、おまえは少し取り戻してくれた。」
老僕は、ヘンドンと王にとって、まことにありがたい存在となった。日に何度もヘンドンを「罵り」に訪れ、そのたび牢の献立を補うおいしいものを、少しずつ忍ばせてきた。世間の噂も届けてくれた。ヘンドンはおいしいものを王のために取っておいた。それがなければ、陛下は生き延びられなかったかもしれない。牢番の出す粗末でひどい食べ物を、食べられなかったからだ。アンドルーズは疑いを避けるため、訪問を短くせねばならなかったが、それでも毎回かなりの情報を伝えた。ヘンドンのためには低い声で知らせ、その合間に、ほかの者の耳のために、大声の罵りを挟みこんだ。

こうして少しずつ、一家の物語が明らかになった。アーサーが死んだのは六年前だった。その喪失と、ヘンドンから便りがないことが、父の健康を損なった。父は自分の死を予感し、その前にヒューとイーディスの身を落ち着かせたいと望んだ。だがイーディスはマイルズの帰りを待ち、強く延期を願った。そこへマイルズの死を知らせる手紙が届いた。その衝撃でサー・リチャードは倒れ、いよいよ最期が近いと信じた。父とヒューは結婚を迫った。イーディスは懇願して一か月の猶予を得、さらにもう一か月、最後に三度目の一か月を得た。それからサー・リチャードの死の床の傍らで、結婚式が行われた。幸福な結婚にはならなかった。婚礼のほどなくあと、花嫁は夫の書類の中に、あの致命的な手紙の、粗く未完成な下書きを何通か見つけ、邪悪な偽造によって結婚を早め、サー・リチャードの死まで早めたと、夫を責めたという噂が地方に広まっていた。レディ・イーディスや召使への残虐な仕打ちの話は、どこでも聞かれた。父の死後、サー・ヒューは優しげな仮面をすべて脱ぎ捨て、何らかの形で彼やその領地に食い扶持を頼る者すべてに、情け容赦のない主人となっていた。
アンドルーズの噂話の一つを、王は強い関心をもって聞いた――
「王さまは気がおかしいという噂でございます。ただ、どうか、私が申したとはおっしゃらぬよう。口にすると死罪だそうですから。」
陛下は老人をにらみつけて言った――
「王は気などふれておらぬ、よき人よ。そのような不敬な無駄話より、自分に関わる事柄に精を出すほうが、そなたの身のためだ。」
「この子は何を言っておるのです?」とアンドルーズは、思いがけない方角からの激しい攻撃に驚いて言った。ヘンドンが合図したので、それ以上は尋ねず、噂の続きを話した――
「先王の埋葬は、あと一、二日、今月十六日にウィンザーで行われます。新しい王さまの戴冠は、二十日にウェストミンスターでございます。」
「まず王を見つけねばなるまいに」と陛下はつぶやき、それから自信をもって付け加えた。「だが、向こうも手を打つだろう。私もそうする。」
「いったい何の――」
だが老人はそれ以上言わなかった。ヘンドンの警告の合図に止められたのである。噂話の糸を再びつないだ――
「サー・ヒューも戴冠式へ行かれます。大きな期待をお持ちで。戻るときには貴族になっていると、すっかり信じておいでです。護国卿のたいそうなお気に入りですから。」
「何という護国卿だ?」と陛下が尋ねた。
「サマセット公爵閣下でございます。」
「何というサマセット公爵だ?」
「それは、お一人しかおりません。ハートフォード伯シーモアでございます。」
王は鋭く尋ねた――
「あの者はいつから公爵で、護国卿になった?」
「一月の末日からです。」
「では、誰がそうしたのだ?」
「ご自分と大評議会で。王さまの助けもおありで。」
陛下は激しく身を震わせた。「王だと!」と叫んだ。「どの王だ、ご老人?」

「どの王とは、また! (神さま、この子はどうしたのでしょう?) 王さまはお一人なのですから、答えは難しくありません。至高にして神聖なる国王エドワード六世陛下――神の御加護がありますように! しかも、かわいらしく、お優しい小さなお方です。正気かどうかはともかく――日に日におよくなるそうですが――誰もがほめたたえております。みな祝福し、末永くイングランドを治めてくださるよう祈っております。初めに情け深くも老ノーフォーク公爵の命をお救いになり、今は民を苦しめ、虐げる法律のうち、最もむごいものを取り除こうとなさっているのですから。」
この知らせに陛下は驚きのあまり言葉を失い、深く暗い物思いに沈んだので、老人の話はもう耳に入らなかった。その「小さなお方」とは、宮殿で自分の服を着せて残してきた、あの物乞いの少年だろうかと思った。だが、それはありそうになかった。ウェールズ公のふりをしても、物腰や話し方で必ず正体が露見し、追い出され、本当の王子を捜すことになるはずだ。宮廷が貴族の若者を一人、身代わりに据えたのだろうか? いや、伯父が許すまい。絶大な力があるのだから、そんな動きは当然、つぶせるし、つぶすはずだ。考えても何の役にも立たなかった。謎を解こうとすればするほど混乱し、頭は痛み、眠りはいよいよ悪くなった。ロンドンへ行きたい気持ちは刻々と募り、囚われの身でいることは、ほとんど耐えがたくなった。
ヘンドンの手立ては、どれも王に効かなかった。慰めようがなかった。だが近くに鎖でつながれていた二人の女は、もっとよい結果を収めた。優しく世話をされ、王は心の安らぎを得、いくらか辛抱することも覚えた。深く感謝し、二人を心から慕うようになって、そばにいてくれる甘く穏やかな慰めを喜んだ。なぜ牢にいるのか尋ねると、バプテスト派[訳注:本人の信仰告白に基づく洗礼を重んじるキリスト教の一派]だからだという。王はほほえんで尋ねた――
「それが牢へ入れられるような罪なのか? ああ、悲しいな。そなたたちと別れねばならぬ。そんな小さなことで、長く閉じこめてはおくまい。」
二人は答えなかった。その顔にある何かが、王を不安にした。急きこんで言った――
「何も言わぬのだな。優しく教えてくれ。ほかの罰はないだろう? どうか、そんな心配はないと言ってくれ。」
二人は話を変えようとしたが、王の恐れは目を覚ましており、なおも尋ねた――
「鞭で打たれるのか? いや、いや、そんな残酷なことはするまい! しないと言ってくれ。なあ、しないだろう?」
女たちは当惑と苦悩を見せたが、返事を避けることはできなかった。一人が、感情に声を詰まらせながら言った――
「ああ、優しい子、そんなことを言われると、胸が張り裂けそうだよ! 神さまが、私たちに耐える力をくださるから――」
「白状したのだな!」と王は遮った。「やはり鞭で打つのだな、石の心を持つ悪党どもめ! だが、ああ、泣かないでくれ。私には耐えられぬ。勇気を持て。私が元の地位へ戻れば、間に合うようにこの苦しみから救ってやる。必ずそうする!」
朝、王が目を覚ますと、女たちはいなかった。
「助かったのだ!」と喜んで言った。それから気落ちして付け加えた。「だが、ああ、悲しい。私を慰めてくれた人たちだったのに。」
二人はそれぞれ、思い出のしるしとして、リボンの切れ端を王の服にピンで留めて残していた。王は、それをいつまでも持っていようと言った。そして、じきにこの大切な優しい友を捜し出し、自分の庇護のもとに置こうと心に決めた。
ちょうどそのとき、牢番が部下を何人か連れて入り、囚人を牢の庭へ連れ出すよう命じた。王は大喜びした。もう一度青空を見て、新鮮な空気を吸えるとは、なんとありがたいことだろう。役人たちののろさに焦り、いらだっていたが、とうとう順番が来た。鎖を留めた金具から解かれ、ヘンドンとともに、ほかの囚人についていくよう命じられた。
四角い中庭は石敷きで、空に開けていた。囚人たちは、どっしりした石造りのアーチをくぐって入り、壁を背に一列に立たされた。前には縄が張られ、役人たちも見張りについた。寒々とした曇り空の朝だった。夜のうちに降った薄い雪が、広い空間を白くし、ただでさえ陰鬱な眺めを、いっそうわびしくしていた。ときどき冬の風が震えるように吹き抜け、雪をあちこちへ渦巻かせた。

中庭の中央に、二人の女が柱へ鎖でつながれて立っていた。一目で、あの優しい友人たちだとわかった。王は身震いし、心の中で言った。「ああ、思ったように自由になったのではなかった。あんな人たちが鞭を受けるとは――このイングランドで! そうだ、それが恥なのだ。異教の国ではなく、キリスト教のイングランドで! 二人は鞭打たれる。慰めてもらい、親切にしてもらった私は、この大きな不正が行われるのを、見ていなければならない。奇妙だ、なんと奇妙なのだ。この広い王国の力の源である私が、二人を守ることもできぬとは。だが悪党どもよ、覚えておくがよい。この仕業の重い償いを求める日が、必ず来る。今一打するごとに、そのときには百打を味わわせてやる。」
大きな門が開き、市民の群れが流れこんだ。二人の周りに集まり、王の目から姿を隠した。聖職者が一人入ってきて、群衆を抜け、やはり見えなくなった。やがて問いと答えらしい声のやり取りが聞こえたが、何を言っているのかはわからなかった。続いて支度のざわめきが起こり、女たちの向こう側にいる群衆の中を、役人たちが盛んに行き来した。その間に、人々の上へ深い静けさが、徐々に降りていった。
号令がかかり、人の波が左右に割れた。王の目に、骨の髄まで凍る光景が映った。二人の女の周りには粗朶が積まれ、ひざまずいた男が火をつけていた!
女たちは頭を垂れ、両手で顔を覆った。ぱちぱちとはぜる粗朶の間を黄色い炎が上り始め、青い煙が輪を巻いて風に流れた。聖職者は両手を上げ、祈りを唱え始めた。そのとき、二人の少女が甲高い悲鳴を上げて大門から飛びこみ、柱につながれた女たちへすがりついた。すぐに役人が引き離し、一人はしっかり押さえられたが、もう一人は母と一緒に死ぬと言って振りほどき、止める間もなく、再び母の首に両腕を回した。また引きはがされたときには、服に火がついていた。男二、三人が押さえつけ、燃えている部分を引きちぎって、炎ごと脇へ投げ捨てた。その間ずっと少女は逃れようともがき、もうこの世で一人ぼっちになるのだから、母と一緒に死なせてほしいと懇願した。少女たちは二人とも叫び続け、自由になろうと暴れた。だが突然、その騒ぎをかき消して、死の苦痛に胸を裂く絶叫が幾重にも響いた。王は狂乱する少女たちから火刑柱へ目を移し、それから顔を背けた。灰のようになった顔を壁へ押しつけ、二度と見なかった。王は言った。「あのわずかな一瞬に見たものは、決して記憶から消えぬ。そこにとどまり、死ぬ日まで、昼ごとに目に浮かび、夜ごとに夢に現れるだろう。ああ、目が見えなかったなら!」

ヘンドンは王を見守っていた。満足して胸の内で言った。「病がよくなってきた。変わってきた、穏やかになってきた。いつもなら、あの下役どもを怒鳴りつけ、自分は王だと言って、女たちを傷つけず解き放てと命じただろう。じきに思いこみも消え、忘れ去られ、哀れな心は再び健やかになる。神よ、その日を早めたまえ!」
その日、数人の囚人が、一晩泊まるために連れてこられた。罪の罰を受けるべく、護送されて王国の各地へ向かう途中だった。王は彼らと話した。初めから、機会があるたび囚人に尋ね、王の務めのための学びにしようと心がけていたのである。その苦しみの物語は、王の胸を絞った。一人は知的な障害のある哀れな女で、織工から一、二ヤードの布を盗み、そのために縛り首になるのだった。別の一人は、馬を盗んだと訴えられた男だった。証拠が立たなかったので、首つり縄を逃れたと思ったという。ところがそうではなかった。自由になるかならぬうちに、王の猟園で鹿を殺した罪で訴えられた。これは立証され、今は絞首台へ向かう途中だった。とりわけ王の心を痛めたのは、商人の徒弟の話だった。ある晩、持ち主から逃げた鷹を見つけ、自分のものにしてよいと思って家へ持ち帰ったという。だが裁判所は盗みと認め、死刑を言い渡したのだった。

王はこうした非人道的な仕打ちに激怒し、ヘンドンに、牢を破って一緒にウェストミンスターへ逃げようと求めた。玉座につき、この不幸な人々の上へ慈悲の王笏を差し伸べ、命を救いたかったのだ。「かわいそうな子だ」とヘンドンはため息をついた。「この悲しい話で、病がぶり返してしまった。ああ、こんな不運がなければ、もう少しでよくなっただろうに。」
囚人の中には、年老いた法律家がいた。意志の強い顔で、恐れを知らぬ態度の男だった。三年前、大法官の不正を告発する小冊子を書き、その罰として、さらし台で耳を切り落とされ、法曹資格を剥奪され、そのうえ三千ポンドの罰金と終身禁固を言い渡された。最近、また同じ罪を犯した。そのため今度は、残っている耳を切り落とし、五千ポンドの罰金を払い、両頬に焼き印を押され、終身牢にとどまる刑を宣告されていた。
「これは名誉の傷だ」と男は言い、白髪をかき上げて、かつて耳だったものの、切り残された付け根を見せた。
王の目が怒りに燃えた。こう言った――
「誰も私を信じぬ。そなたも信じまい。だが構わぬ。一か月のうちに、そなたは自由になる。そればかりか、そなたを辱め、イングランドの名を汚した法律は、法典から一掃してやる。世の仕組みが間違っているのだ。王もときには、自分の法律を師として学び、慈悲を知るべきなのだ。」

第二十八章 身代わり
そのころマイルズは、監禁され、何もできずにいることに、すっかりうんざりしていた。だがようやく裁判が始まり、大いに喜んだ。これ以上の投獄さえ含まれなければ、どんな判決でも歓迎できると思った。だが、それは間違いだった。「壮健な浮浪者」と呼ばれ、その身分と、ヘンドン・ホールの主人を襲った罪により、二時間、足かせ台に座らされると知ると、すさまじく腹を立てた。訴えた相手の兄であり、ヘンドン家の称号と領地の正当な相続人だという主張は、調べる価値もないとして、侮蔑とともに無視された。
刑を受ける場所へ向かう途中、彼は怒り、脅したが、何の役にも立たなかった。役人たちは乱暴に引き立て、不敬な態度だと、ときどき殴りつけもした。
王は、あとに群がる見物人をかき分けられず、よき友であり従者である男から遠く離れ、最後尾を行くしかなかった。王自身も、こんな悪い連れがいるため、危うく足かせ台に処されるところだったが、幼さを考慮され、説教と警告だけで放免されていた。ようやく群衆が止まると、王はその外縁を焦りながらあちこち走り、通り抜ける隙間を探した。長い手間と苦労の末、ついに入りこめた。そこには、哀れな側近が辱めの足かせ台に座り、汚らしい群衆の遊び道具、嘲笑の的になっていた。イングランド王の身辺に仕える、その男が! エドワードは判決を聞いていたが、それが何を意味するか、半分もわかっていなかった。自分に加えられたこの新たな侮辱の意味が胸に落ちるにつれ、怒りがこみ上げた。次の瞬間、その怒りは真夏の熱へ跳ね上がった。卵が宙を飛んでヘンドンの頬にぶつかり、砕けるのが見え、群衆が大笑いするのが聞こえたからだ。王は輪の中の空地へ飛び出し、責任者の役人の前に立って叫んだ――

「恥を知れ! これは私の従者だ。解き放せ! 私は――」
「ああ、お黙りください!」とヘンドンはうろたえて叫んだ。「身を滅ぼしますぞ。お役人、この子には取り合わぬよう。気がおかしいのです。」
「取り合うかどうかは、お気遣いなく。取り合う気など、ほとんどない。だが少し教えてやることには、たいそう気が向いている。」
役人は部下へ向き直り、「この小ばか者に一つ二つ鞭を味わわせ、行儀を直してやれ」と言った。
「六つほどのほうが、よく効くだろう」とサー・ヒューが口を出した。ほんの少し前、成り行きを一目見るため、馬で乗りつけたところだった。
王は捕らえられた。抵抗さえしなかった。自分の神聖な体に加えられようとしている、とてつもない暴虐を思うだけで、身がすくんだからだ。歴史はすでに、イングランドの王が鞭打たれた記録で汚れている。その恥ずべき一頁を、もう一枚自分が加えねばならぬとは、耐えがたい思いだった。網にかかり、助けはなかった。この罰を受けるか、免除を乞うかしかない。厳しい二択だった。王は鞭を受けよう。王がそうすることはできる。だが王が物乞いすることはできぬ。
だがその間に、マイルズ・ヘンドンが難題を解いていた。「子どもを放せ」と言った。「この心ない犬ども、こんなに幼く、か弱いのが見えぬのか? 放してやれ。その鞭は私が受けよう。」
「なるほど、よい考えだ。礼を言おう」とサー・ヒューは、意地悪な満足に顔を輝かせて言った。「小さな物乞いは放せ。代わりにこの男を十二回打て。手加減せず、しっかり十二回だ。」
王は激しく抗議しようとしたが、サー・ヒューは効き目のある言葉で黙らせた。「そうだ、言うがいい。存分に胸の内を吐き出せ。ただし覚えておけ。おまえが一語口にするごとに、こいつへの鞭を六つ増やす。」

ヘンドンは足かせ台から外され、背中をむき出しにされた。鞭が振り下ろされる間、哀れな小さな王は顔を背け、王らしからぬ涙が頬に筋を引くままにした。「ああ、勇敢で優しい心よ」と胸の内で言った。「この忠義の行いは、決して記憶から消えぬ。私は忘れぬ。やつらにも忘れさせぬ!」と、激情をこめて付け加えた。思いをめぐらせるうち、ヘンドンの寛大な行為への評価は、心の中でますます大きくなり、感謝もまた深まった。やがて胸の内で言った。「君主を傷や死の危険から救う者は――この者は私にそれをしてくれた――大きな功を立てる。だがそれも小さい。何でもない。いや、無にも劣る! 君主を恥から救う行為に比べれば!」
ヘンドンは鞭の下で声を上げず、軍人らしい不屈の心で重い打撃に耐えた。その姿と、少年の鞭を引き受けて救った行為は、そこに集まる落ちぶれた卑しい群衆にさえ、敬意を強いた。冷やかしもやじも消え、振り下ろされる鞭の音だけが残った。ヘンドンが再び足かせ台につけられたとき、辺りを満たす静けさは、つい先ほどまでの侮辱に満ちた騒ぎと、鮮やかな対照をなしていた。王はそっとヘンドンのそばへ来て、耳にささやいた――
「善き偉大な魂よ、王がそなたを高貴にすることはできぬ。王より高きお方が、すでにそうなさったからだ。だが、そなたの高貴さを人々の前に確かめることは、王にもできる。」
王は地面から鞭を拾い、ヘンドンの血に濡れた両肩へ軽く触れさせて、ささやいた。「イングランドのエドワードは、そなたを伯爵に叙する!」
ヘンドンは心を打たれた。目に涙があふれたが、同時に、この境遇と状況のぞっとするようなおかしさが、厳粛な気分を揺るがし、内心の笑いを外へ漏らさぬようにするだけで精いっぱいだった。裸で血まみれのまま、下々の足かせ台から、アルプスにも似た伯爵位の高みと栄光へ、突然つり上げられるとは、滑稽の極みと思えた。胸の内で言った。「いやはや、すっかり金ぴかになったぞ! 夢と影の王国の幻の騎士が、幻の伯爵になった。まだ羽もそろわぬ翼には、目のくらむ飛躍だ! この調子では、じきに五月柱さながら、奇妙な飾りや見せかけの栄誉でいっぱいになるだろう。だが、どれほど値打ちがなくとも、授けてくれる愛情のために、すべて大切にしよう。清らかな手と正しい心から、求めずして贈られるこの哀れなまがいの栄誉のほうが、出し惜しみし、私欲にまみれた権力から、卑屈な奉仕で買う本物の栄誉よりも、ずっとよい。」

恐れられるサー・ヒューは馬の向きを変え、拍車をかけて去った。人の壁は無言で割れて通し、また無言で閉じた。そのままだった。囚人の味方をしたり、ほめたりする言葉を、あえて口にする者は一人もいなかった。だがそれでよかった。罵りがないことだけで、十分な敬意の表れだった。事情を知らずに遅れて来た男が、「偽者」を冷やかし、そのうえ死んだ猫を投げようとすると、たちまち無言で殴り倒され、蹴り出された。そして深い静けさが、再び辺りを支配した。

第二十九章 ロンドンへ
ヘンドンの足かせ台の刑期が終わると、解放され、この地方を去り、二度と戻るなと命じられた。剣も返され、ラバとロバも戻った。ヘンドンは乗って出発し、王が続いた。群衆は静かな敬意をもって道を開け、二人が去ると散っていった。

ヘンドンはほどなく思索に沈んだ。答えを出さねばならぬ重大な問題があった。どうするべきか? どこへ行くべきか? どこかで有力な助けを見つけねば、相続財産を諦め、そのうえ偽者の汚名まで着続けねばならない。そんな力ある助けを、どこで得られるだろう? まったく、どこに! 難しい問題だった。やがて、一つの可能性を指し示す考えが浮かんだ。確かに、これ以上ないほど細い望みではあった。だが、ほかに少しでも見込みのある案がない以上、考えてみる値打ちはあった。若い王の善良さと、不正に苦しむ者や不幸な者を寛大に守る心について、アンドルーズ老人が言っていたことを思い出したのだ。会いに行き、話す機会を求め、正義を請うてはどうか? ああ、よい。だが、こんな奇妙ないでたちの貧乏人が、尊い君主の御前へ通してもらえるだろうか? まあよい、そのことはそのとき考えよう。橋に着く前から、渡り方を案ずるには及ばぬ。自分は古参の軍人で、工夫や方便をひねり出すことには慣れている。きっと何か道は見つかる。そうだ、都へ向かおう。父の旧友、サー・ハンフリー・マーロウが助けてくれるかもしれない。「あの人のよい老サー・ハンフリー、先王の台所か、厩か、何かの副長官だった方」――マイルズは、どれだったか正確には思い出せなかった。力を注ぐべき事柄、はっきりした目標ができると、心に立ちこめていた屈辱と落胆の霧は晴れ、吹き払われた。彼は顔を上げ、辺りを見回した。ずいぶん遠くまで来たのに驚いた。村ははるか後ろだった。王は頭を垂れ、そのあとを揺られながら進んでいた。こちらも深く策と思いに沈んでいたのである。ヘンドンに生まれたばかりの明るさを、悲しい懸念が曇らせた。この少年は、その短い生涯を通じ、虐待と厳しい貧窮しか知らなかった町へ、また行きたいと思うだろうか? だが聞かねばならない。避けては通れない。そこで手綱を引き、呼びかけた――
「行き先を伺うのを忘れておりました。ご命令を、陛下!」
「ロンドンへ!」
ヘンドンはその答えに大いに満足し、同時に驚嘆しながら、再び進み出した。

旅の間、たいした冒険はなかった。だが旅の終わりに、それが待っていた。二月十九日の夜十時ごろ、二人はロンドン橋に足を踏み入れた。そこでは人々が身をよじり、押し合い、怒鳴り、歓声を上げてひしめいていた。ビールで陽気になった顔が、無数の松明の光に、くっきり浮かび上がっていた。その瞬間、かつて公爵か、ほかの高位の人物だった者の腐りかけた首が、二人の間へ落ちてきた。ヘンドンの肘に当たり、せわしく入り乱れる足の間へ跳ねていった。この世の人の業は、かくもはかなく、頼りない! 亡き善王が死んでわずか三週間、墓へ入って三日しかたたぬのに、名高い者たちの中から、立派な橋のために苦心して選んだ飾りが、もう落ち始めている。一人の市民がその首につまずき、前にいた誰かの背中へ、自分の頭を突っこんだ。相手は振り返り、手近の者を殴り倒したが、すぐにその友人に倒された。乱闘には、まさに機が熟していた。明日の戴冠式の祝いはすでに始まっており、誰もが強い酒と愛国心でいっぱいだった。五分もすると乱闘はかなりの場所へ広がり、十か十二分後には一エーカーほどを覆い、暴動になっていた。そのころにはヘンドンと王は、わめき立てる人の波の突進と混乱の中で、どうしようもなく引き離され、互いを見失っていた。ここでひとまず、二人を置いておこう。

第三十章 トムの成長
本物の王が、粗末な服を着て、ろくな食事も取れず国じゅうをさまよい、あるときは浮浪者に殴られ、あざけられ、またあるときは盗人や人殺しと牢に押しこめられ、誰からも分け隔てなく、ばかだ、偽者だと呼ばれていた間、偽りの王トム・キャンティは、まるで違う体験を楽しんでいた。
前に彼を見たとき、王であることには、ようやく明るい面が見え始めていた。その明るさは日ごとに増し、ほどなく、ほとんどすべてが日差しと喜びになった。恐れは消え、不安は薄れてなくなり、気後れは去って、落ち着いた自信ある物腰に変わった。身代わりに鞭打たれる少年という鉱山からも、ますます多くの利益を掘り出した。
遊びたいときや話したいときには、レディ・エリザベスやレディ・ジェーン・グレイを御前へ呼びつけ、用が済むと、そうした振る舞いにすっかり慣れた様子で下がらせた。身分の高い二人が別れ際に手へ口づけしても、もうまごつかなかった。

夜、威儀を整えて寝床へ案内されることも、朝、複雑で厳粛な儀礼とともに着付けられることも、楽しむようになった。きらびやかな高官や近衛兵の行列を従え、食事へ向かうのは、誇らしい喜びになった。あまりに気に入ったので、近衛兵を倍にして、百人に増やした。長い廊下にらっぱが響き、遠くの声が「王のお通りだ!」と応じるのを聞くのも好きだった。
評議会で王者の威儀をもって座り、護国卿の代弁者以上の何者かであるように見せることさえ、楽しめるようになった。大使たちと、その豪華な随員を迎え、自分を兄弟と呼ぶ名高い君主たちからの、親愛に満ちた言葉を聞くのが好きだった。ああ、幸せなトム・キャンティ、つい先ごろまでオーファル・コートにいた少年よ!
豪華な衣装を楽しみ、さらに注文した。威容を整えるには四百人の召使では足りないと気づき、三倍にした。深々と頭を下げる廷臣たちの追従は、耳に甘い音楽となった。親切で優しい心は変わらず、虐げられる者すべてを、強く断固として守り、不正な法律とは疲れ知らずに戦った。だが腹を立てた折には、伯爵にも、ときには公爵にさえ向き直り、震え上がらせるような視線を投げることができた。あるとき王の「姉君」で、いかめしいほど信心深いレディ・メアリーが、多くの者を赦す方針は賢明でないと説き始めた。赦さなければ、その者たちは投獄、絞首刑、火刑に処されるはずだった。彼女は、尊い亡き父の牢獄には、一度に六万人もの罪人がいたこともあり、その見事な治世の間に、七万二千人の盗人や強盗を処刑人の手へ渡したと念を押した。少年は気高い憤りに満たされ、自室へ行き、胸の中の石を取り除いて、人間の心を授けてくださるよう神に願えと命じた。

トム・キャンティは、自分にあれほど親切にしてくれ、宮殿の門で無礼を働いた歩哨を懲らしめようと、熱心に飛び出していった、あの哀れな小さな正統の王子のことを、気に病まなかったのだろうか? いや、そうではない。王となって初めの日々と夜々には、行方知れずの王子を思って胸を痛め、その帰還と、生まれながらの権利と栄光への幸せな復帰を、心から願う思いが、かなり入り混じっていた。だが時が過ぎても王子は戻らず、トムの心は、新しく魅力に満ちた体験に、ますます占められていった。消えた君主は、少しずつ、ほとんど思い出されなくなった。そしてついには、ときおり思いに入りこんできても、歓迎されぬ亡霊となっていた。トムに罪悪感と恥を抱かせるからだった。
貧しい母や姉たちも、同じ道をたどって心から去っていった。初めは恋しく思い、身を案じ、会いたくてたまらなかった。だが後には、いつかぼろと垢にまみれて現れ、口づけで正体を暴き、この高い地位から引きずり下ろし、貧窮と卑しさと貧民街へ連れ戻すのではないかと思うと、震えがきた。とうとう、ほとんど思いを煩わされなくなった。それに満足し、うれしくさえ思った。今では、悲しげに責める顔が目の前へ浮かぶたび、地を這う虫よりも、自分が卑しく思えたからだ。
二月十九日の真夜中、トム・キャンティは宮殿の豪華な寝床で、忠実な臣下に守られ、王者の壮麗さに囲まれ、幸せな少年として眠りに落ちかけていた。明日は、イングランドの王として厳粛に戴冠する日だった。同じ時刻、本物の王エドワードは、飢え、渇き、汚れ、みすぼらしく、旅に疲れ、あの暴動で自分に割り当てられた結果である、ぼろぼろの服をまとっていた。そして、ウェストミンスター寺院へ、蟻のように忙しく出入りする職人の群れを、興味深く見守る人々の中に、身動きもできず押しこまれていた。職人たちは、王の戴冠式の最後の準備をしていたのである。


第三十一章 国王お披露目の行列
翌朝、トム・キャンティが目を覚ますと、空気は雷鳴にも似たざわめきに満ちていた。遠くの遠くまで、その響きが行き渡っている。トムにはそれが音楽のように聞こえた。イングランドの人々がこぞって街に繰り出し、この晴れの日を忠誠の心で迎えようとしている証しだったからだ。
やがてトムは、またしてもテムズ川に浮かぶ絢爛たる船列の主役となった。古くからの習わしで、ロンドンを巡る「国王お披露目の行列」はロンドン塔から出発することになっており、そこへ向かっていたのである。
到着すると、由緒ある要塞の壁がたちまち千か所も裂けたかと思われ、その裂け目という裂け目から、赤い炎の舌と白い煙の噴流が飛び出した。続いて耳をつんざく轟音が群衆の叫びをかき消し、大地を震わせた。炎、煙、爆音は驚くほどの速さで次々と繰り返され、たちまち古いロンドン塔は、自ら吐き出した広大な煙の霧に姿を隠してしまった。ただホワイト・タワーと呼ばれる高い建物の頂だけが、旗をひるがえしながら濃い煙の層から突き出し、雲海にそびえる山の峰のように見えた。
華麗な衣装をまとったトム・キャンティは、足踏みする軍馬にまたがった。馬の豪華な飾り布は地面すれすれまで垂れている。「叔父」の護国卿サマセット公も同じように馬に乗り、その後ろについた。両側には、磨き上げた甲冑姿の近衛兵が一列ずつ並んだ。護国卿の後には、家臣を従えたきらびやかな貴族たちが、果てしもなく続くかに見えた。その後には深紅のビロードの長衣を着て、胸に金鎖を掛けたロンドン市長と市参事会員が続き、さらにその後には、豪華な衣装に身を包み、それぞれの組合の華やかな旗を掲げた、ロンドンの全同業組合の役員と組合員が続いた。また、市内を進む間の特別儀仗隊として、古式名誉砲兵中隊も行列に加わっていた。この組織は当時すでに三百年の歴史を持ち、議会の命令に従わなくてもよいという特権を有する、イングランド唯一の軍事団体であった。その特権は今日もなお存続している。まことに壮麗な光景であり、ぎっしり詰めかけた市民の間を行列が堂々と進むにつれ、沿道のいたるところから歓呼の声が上がった。年代記の筆者はこう記している。「国王が市内に入られると、人々は祈りと歓迎の言葉、叫びと心のこもった呼びかけ、その他臣民が君主に寄せる熱い愛情を示すすべてをもってお迎えした。国王もまた、遠くに立つ者には晴れやかなお顔を上げてお見せになり、近くにいる者にはこの上なく優しいお言葉を賜った。民が好意を捧げる喜びに劣らぬ感謝をもって、それをお受け取りになったのである。ご多幸を祈る者には、すべて礼を述べられた。『神よ、陛下をお守りください』と呼ぶ者には、『神がそなたら皆を守られるように!』と答え、『心から礼を申す』と付け加えられた。
国王の情愛に満ちたお返事とお振る舞いに、人々は言い知れぬ喜びに包まれた。」

フェンチャーチ・ストリートでは、「高価な衣装をまとった美しい子供」が舞台に立ち、国王の入市を歓迎した。歓迎の詩の最後の一節は、次のようなものだった――
「ようこそ、わが王よ、心に思いうる限りの歓迎を。 重ねてようこそ、言葉に尽くしうる限りの歓迎を―― 喜びの声と、揺るがぬ心をもって、お迎えいたします。 神のご加護を祈り、いついつまでもご多幸を願います。」
人々は喜びの叫びを上げ、子供の言葉を声をそろえて繰り返した。トム・キャンティは、熱気に満ちた顔が波打つ海を見渡し、胸を得意な思いで膨らませた。この世で生きるに値することはただ一つ、王となり、一国の民から崇められることだと思えた。やがて遠くに、ぼろを着たオーファル・コートの仲間が二人いるのを見つけた。一人は、つい先ごろまでの王様ごっこの宮廷で海軍大臣を務め、もう一人は、同じもったいぶったお芝居で寝室侍従長を務めていた少年だった。トムの誇らしさはいやが上にも高まった。ああ、今の自分が誰だか、あの二人にわかってもらえたら! 貧民街や裏路地で笑いものになっていた偽の王が、本物の国王になったのだ。名高い公爵や王侯たちを下僕のようにかしずかせ、イングランドの民を足もとに従えている。それを知ってもらえたら、どれほど輝かしいことだろう! だが、この願いはこらえ、押し殺さねばならなかった。正体を知られれば、得るものより失うもののほうが大きいかもしれない。そこでトムは顔を背け、薄汚れた二人の少年は、自分たちが誰に歓声と賛辞を浴びせているとも知らぬまま、喜んで叫び続けた。

ときおり、「お恵みを! お恵みを!」という声が上がった。そのたびにトムは、ぴかぴかの新しい硬貨をひとつかみばらまき、群衆はそれを奪い合った。
年代記の筆者は記している。「グレースチャーチ・ストリートの北端、鷲の看板の前には、市が壮麗なアーチを建て、その下に通りの端から端まで届く舞台を設けていた。これは国王の近い祖先を表す歴史絵巻であった。巨大な白薔薇の中央にはエリザベス・オブ・ヨークが座り、その周囲を、手の込んだひだ飾りのような花びらが取り囲んでいた。隣には、同じ趣向の大きな赤薔薇から身を現したヘンリー七世がいた。王と王妃は手を取り合い、結婚指輪がことさらに見えるようにされていた。赤と白の薔薇から一本の茎が伸びて二段目の舞台へ達し、そこには紅白の薔薇から姿を現すヘンリー八世と、新国王の母ジェーン・シーモアの姿が並んでいた。この二人から一本の枝が伸びて三段目の舞台に至り、そこにはエドワード六世その人をかたどった姿が、王者の威厳をもって玉座に座っていた。この見世物全体は、紅白の薔薇の花輪で縁取られていた。」
この風変わりで華やかな見世物は、喜びに沸く人々の心を強く揺さぶった。歓声があまりに大きく、韻を踏んだ賛辞で趣向を説明する役の子供の細い声は、すっかりかき消された。だがトム・キャンティは残念に思わなかった。忠誠に満ちたこのどよめきは、どんなに優れた詩よりも甘美な音楽だったのである。トムが幸福そうな若い顔をどちらへ向けても、人々は、舞台上の似姿が生身の王にそっくりなのを認め、そのたびに新たな喝采の嵐が巻き起こった。
大行列はなおも進み、次々と凱旋門をくぐり、目もくらむほど続く華やかな象徴劇の前を通り過ぎた。その一つ一つが、幼い王の美徳や才能、優れた資質のどれかを表し、たたえるものだった。「チープサイドの全域で、あらゆる庇や窓から旗や吹き流しが垂れ、最上の絨毯や織物、金襴が通りを彩った。それらは、店内に蓄えられた莫大な富の見本であった。この大通りの華麗さは、ほかの通りでも変わらず、中にはこれをしのぐところさえあった。」
「このすごいものも、見事なものも、みんな僕を迎えるためなんだ――この僕を!」と、トム・キャンティはつぶやいた。
偽の国王は興奮に頬を赤くし、目を輝かせ、うれしさに酔っていた。そのとき、また気前よく金をまこうと手を上げかけたちょうどその瞬間、群衆の二列目から必死に身を乗り出す、青ざめた驚愕の顔が目に入った。食い入るような目が、じっと自分を見据えている。胸の底まで凍るような恐怖が貫いた。母親だった! とたんに、手のひらを外へ向けた手が、目の前へさっと跳ね上がった。忘れ去った出来事から生まれ、癖として残った、あの無意識の仕草である。次の瞬間、母は人波をかき分け、近衛兵をすり抜けて、すぐそばへ来ていた。トムの脚を抱き締め、幾度も口づけし、「ああ、私の子、私の大事な子!」と叫んだ。見上げる顔は、喜びと愛に輝いて別人のようだった。と、その瞬間、近衛隊の士官が悪態をつきながら母を引き剥がし、たくましい腕で力いっぱい突き飛ばして、来た方へよろめき戻らせた。この哀れな出来事が起こったとき、トム・キャンティの唇からは、「女よ、そなたなど知らぬ!」という言葉がこぼれていた。だが、母がそんな扱いを受けるのを見ると、胸を刺された。群衆にのみ込まれ、見えなくなる間際、母はもう一度だけ息子を見ようと振り返った。その顔はあまりに傷つき、あまりに悲しみに打ちひしがれていた。トムを襲った恥辱は、誇りを焼き尽くして灰とし、盗んだ王の威光をしおれさせた。栄華は一切の価値を失い、腐ったぼろ布のように身から剥がれ落ちる気がした。

行列はなおも、ますます華やぐ街を、ますます激しくなる歓迎の嵐の中を進んだ。だがトム・キャンティには、それらは存在しないも同然だった。何も見えず、何も聞こえない。王であることは魅力も甘美さも失い、その華麗さは自分を責めるものとなった。後悔が心を食い荒らしていた。「ああ、どうか、この囚われの身から解き放たれたい!」
知らぬ間にトムは、無理やり偉い身分に据えられた最初の日々の言葉遣いに戻っていた。
輝く行列はなおも、光りきらめく果てしない蛇のように、古風な都の曲がりくねった小路を縫い、歓呼する大群衆の間を進んでいた。だが王は、うなだれ、うつろな目で馬上に揺られていた。その目に見えるのは、傷ついた表情を浮かべた母の顔だけだった。
「お恵みを、お恵みを!」
その叫びも、耳に届くばかりで心には入らなかった。
「イングランドのエドワード万歳!」
爆発するような声に、大地まで震えるかと思われた。だが王は応えなかった。その声は、はるか遠くから風に運ばれてくる波の轟きのようにしか聞こえなかった。もっと近く、自分の胸の中から、責めさいなむ良心から響く別の声が、それをかき消していたからだ。その声は、あの恥ずべき言葉を繰り返していた。「女よ、そなたなど知らぬ!」
その言葉は王の魂を打った。死者をひそかに裏切ったことのある友が、葬いの鐘を聞くたびに自らの裏切りを思い知らされるように。
角を曲がるたびに新たな華やかさが展開し、新たな驚異、新たな壮観が目の前に現れた。待ち構えていた砲列は、抑えていた轟音を放ち、待ち受けていた群衆の喉からは新たな歓喜がほとばしった。だが王は何の反応も示さなかった。慰めのない胸の内をうめきながら巡る、あの責める声しか聞こえなかったのである。
やがて、人々の顔の喜びが少し変わり、気遣いとも不安ともつかぬものを帯び始めた。喝采の声も、いくらか弱まってきた。護国卿はすぐにその変化に気づき、原因もたちまち見抜いた。馬に拍車を当てて王のそばへ進み、鞍の上で深く身をかがめ、帽子を取って言った――
「陛下、今は物思いにふける折ではございません。民は、うなだれたお姿と曇ったお顔をご覧になり、不吉な兆しと受け取っております。どうかお聞き入れを。王威の太陽を雲間から輝かせ、この不安の霧を照らして払いのけてください。お顔を上げ、民におほほえみくださいませ。」

そう言って公爵は、左右にひとつかみの硬貨をまき、自分の位置へ戻った。偽の国王は言われるまま、機械的に振る舞った。笑みに心はこもっていなかったが、それを見抜けるほど近くにいた者も、目ざとい者もほとんどいなかった。羽根飾りのついた頭を傾けて臣民に挨拶する姿には、優雅さと慈しみがあふれ、手からまかれる金は王者らしく惜しみなかった。そこで人々の不安も消え、再び先ほどに劣らぬ大音量の歓声が沸き起こった。
しかし行進が終わる少し前、公爵はもう一度前へ馬を進め、いさめなければならなかった。小声でささやいた――
「ああ、畏れ多き陛下! どうか、その災いを招く憂いをお振り払いください。世の目が陛下に注がれております。」
そして、いらだちをあらわにして付け加えた。「あの気のふれた女乞食め、地獄に落ちるがよい! 陛下のお心を乱したのは、あの女でございます。」

華麗な装いの少年は、光を失った目を公爵に向け、生気のない声で言った――
「あれは、僕の母さんだったのだ。」
「何ということだ!」護国卿は手綱を引いて自分の位置へ戻りながら、うめいた。「あの兆しは、やはり先触れだった。陛下はまた正気を失われた!」

第三十二章 戴冠の日
時を数時間戻して、この記念すべき戴冠の日の午前四時、ウェストミンスター寺院へ身を置いてみよう。ここには、われわれ以外にも人がいる。まだ夜だというのに、松明に照らされた桟敷席は、早くも埋まりかけている。人々は、七時間でも八時間でもおとなしく座って待つのを苦にしない。一生に二度は見られそうもないもの――国王の戴冠式を見る時が、やがて来るのだから。そう、ロンドンとウェストミンスターは、午前三時に合図の大砲が鳴り響いて以来、ずっと起きている。爵位こそないが金持ちの人々は、桟敷席に座る場所を探す権利を金で買い、すでに専用の入口へ大勢で押し寄せている。
時は退屈なほどゆっくり過ぎていく。どの桟敷もとうに満員になり、人の動きはしばらく前から途絶えている。今なら、腰を落ち着け、ゆっくり眺めたり考えたりできる。薄暗い堂内のあちらこちらに、人がぎっしり詰まった桟敷や張り出し席の一部が見える。そのほかの部分は、間に立つ柱や建物の張り出しに遮られている。広い北袖廊[訳注:十字形の教会堂で、左右に張り出した部分]は全体が見渡せる。そこはまだ空で、イングランドの特権階級を待ち受けている。玉座が据えられた、豪華な敷物に覆われた広い壇も見える。玉座は壇の中央、さらに四段高くなったところにある。その座の下には、粗い平たい岩――スクーンの石が納められている。代々のスコットランド王がこの石に腰かけて戴冠し、やがてイングランドの君主が同じ目的に用いるにもふさわしいほど、神聖なものとなった。玉座も足台も金襴に覆われている。
静寂が支配し、松明は鈍くまたたき、時間は重々しく歩みを引きずる。だが、ようやく遅い夜明けの光が力を増し、松明が消されると、広い堂内は柔らかな輝きに満たされる。壮麗な建物の隅々まではっきり見えるようになるが、太陽に薄雲が掛かっているため、輪郭は優しく、夢のようだ。
七時になると、眠気を誘う単調さが初めて破られる。時を告げる鐘とともに、ソロモン王さながらの華麗な装いをした最初の貴婦人が袖廊に入り、繻子とビロードを着た係官に、指定の席へ案内される。まったく同じ姿のもう一人が、長い裳裾を持ち上げて後に続き、婦人が座ると、その膝の上へ裳裾を整えて置く。それから婦人の望む位置に足台を据え、貴族一同がそろって冠をかぶる時に取りやすいよう、小冠を手もとへ置く。

このころには貴婦人たちがきらめく流れとなって入ってきており、繻子姿の係官がいたるところで光をきらつかせながら行き来して、席へ案内し、居心地よく整えている。今や光景は十分に活気づいている。どこもかしこも人が動き、生気にあふれ、色彩が移ろう。しばらくすると、また静けさが戻る。貴婦人たちは全員到着し、席に着いたのだ。一エーカーほどもあろうか、人の花が隙間なく咲きそろい、さまざまな色に輝き、天の川のようにダイヤモンドの光をちりばめている。あらゆる年齢の婦人がいる。褐色のしわ深い顔と白髪をした老未亡人たちは、時の流れを遠く、なお遠くまでさかのぼり、リチャード三世の戴冠や、今では忘れ去られたあの時代の騒乱を思い出すことができる。美しい中年の婦人もいれば、麗しく気品のある若妻もいる。輝く目とみずみずしい肌を持つ、優しく美しい少女たちもいる。この娘たちは、大切な瞬間が来たら、宝石で飾られた小冠をかぶるのに手間取るかもしれない。初めてのことだし、興奮も大きな妨げになるだろう。しかし、そうはならないかもしれない。どの婦人の髪も、合図があれば冠を素早くきちんと載せられるよう、とりわけ念入りに結い上げてあるのだから。
この貴婦人の大集団に、ダイヤモンドがびっしりちりばめられているのは、すでに見たとおりであり、それが驚くべき眺めなのもわかっている。だが、本当の驚きはこれからだ。九時ごろ、にわかに雲が切れ、一条の陽光が柔らかな薄明かりを裂いて、婦人たちの列の上をゆっくり移っていく。光に触れた列は次々に、まばゆい色とりどりの炎となって燃え上がる。その意外さと美しさから走る電撃のような感動に、指先までしびれる! やがて外国使節の一団とともに進む、はるかな東方の一角から来た特使が、この陽光の帯を横切る。われわれは息をのむ。その身を包み、流れ、閃き、脈打つ光が、あまりに圧倒的なのだ。頭のてっぺんから足先まで宝石で覆われ、ほんのわずか身じろぎするだけで、踊る光を周囲に降り注ぐのである。

話を進めやすくするため、ここで時制を変えよう。時は流れた――一時間、二時間、二時間半。すると、大砲の重い轟きが、国王と壮麗な行列の到着を告げ、待ちわびていた群衆は喜んだ。王は厳粛な式に備えて支度をし、着替えなければならないので、まだしばらく待つ必要があることは、誰もが知っていた。だが、その待ち時間も、威厳ある礼服姿の王国貴族が集まるのを見ていれば、楽しく過ごせる。貴族たちは儀礼を尽くして席へ案内され、小冠を手近に置いてもらった。その間、桟敷席の人々は興味に目を輝かせていた。五百年来、歴史に名を刻んできた公爵や伯爵、男爵たちの姿を、大半の者は初めて目にしたのである。ついに全員が席に着くと、桟敷や見晴らしのよい場所から眺める光景は完成した。見るにも、いつまでも心にとどめるにもふさわしい、壮麗な眺めだった。
続いて、祭服と司教冠を着けた教会の高位聖職者たちが、従者を従えて壇上へ列をなし、所定の位置に着いた。その後には護国卿とほかの高官たちが、さらにその後には鋼の甲冑に身を固めた近衛隊の一隊が続いた。
しばし待つ間があった。やがて合図とともに、勝利をたたえる音楽が高らかに鳴り響き、金襴の長衣をまとったトム・キャンティが戸口に現れ、壇上へ進んだ。会衆は総立ちになり、国王を承認する儀式が行われた。
それから荘厳な聖歌が、豊かな音の波となって寺院を満たした。その歌に迎えられ、トム・キャンティは玉座へ導かれた。人々が見守る中、古来の儀式が心を打つ厳粛さで進められた。だが、終わりが近づけば近づくほど、トム・キャンティの顔は青ざめていき、後悔に満ちた心には、深い悲しみと絶望が、いよいよ重くのしかかった。
ついに最後の式次第が来た。カンタベリー大主教は、クッションの上からイングランドの王冠を取り上げ、震える偽の王の頭上へ差し伸べた。その瞬間、広い袖廊に虹色の光が走った。大勢の貴族が一斉に小冠を取り上げ、それぞれ頭の上に構え、その姿勢のまま待ったのである。
深い静寂が寺院を包んだ。この厳粛な瞬間、思いがけない人影が場内へ入り込んだ。儀式に心を奪われていた会衆は、その姿が大きな中央通路を進んでくるまで、誰一人気づかなかった。少年だった。帽子もかぶらず、粗末な靴を履き、ぼろぼろになりかけた庶民の服を着ていた。薄汚れたみすぼらしい姿には似つかわしくない威厳をもって片手を上げ、こう警告した――
「その、王冠を戴く資格のない者の頭に、イングランドの王冠を置くことを禁ずる。王は私だ!」
たちまち怒りに燃えた何本もの手が少年をつかんだ。だが同時に、王の礼服をまとったトム・キャンティがさっと一歩前に出て、響き渡る声で叫んだ――
「放せ、手出しをするな! その方こそ王なのだ!」
驚愕が恐慌のように会衆を駆け抜けた。人々は腰を浮かし、互いの顔と、目の前の出来事の中心にいる者たちを、当惑しきって見つめた。自分は目覚めて正気でいるのか、それとも眠って夢を見ているのかと疑っているかのようだった。護国卿もほかの者に劣らず驚いたが、すぐ我に返り、威圧的な声で命じた――
「陛下のお言葉は気にするな。またご病気が出られたのだ。その浮浪児を捕らえよ!」
命令は実行されるところだったが、偽の王が足を踏み鳴らして叫んだ――
「命が惜しければよせ! その方に触れるな、王なのだ!」
手は引っ込められ、堂内は金縛りにあったようになった。誰も動かず、誰も口をきかない。実際、これほど奇妙で思いがけない事態に、どう振る舞い、何を言うべきか、誰にもわからなかった。人々が懸命に頭の整理をつけようとしている間も、少年は胸を張り、自信に満ちた顔で着実に前へ進んだ。初めから一度も立ち止まっていなかったのである。人々の混乱した思考がなおも途方に暮れているうちに、少年は壇へ上がった。偽の王は喜びに顔を輝かせて駆け寄り、その前にひざまずいて言った――
「ああ、わが国王陛下、どうか哀れなトム・キャンティに、真っ先に忠誠をお誓いさせてください。そして申し上げます。『王冠をお戴きになり、陛下ご自身のものをお取り戻しください!』。」

護国卿は新参者の顔を厳しく見据えた。だが、その厳しさはたちまち消え、驚きと不思議さに満ちた表情へ変わった。ほかの高官たちも同様だった。互いに目を見合わせ、誰からともなく、一歩後ずさった。どの心にも同じ考えが浮かんでいた。「何という不思議な似ようだ!」
護国卿は困惑してしばらく考え込み、それから重々しく、礼を失わぬ態度で言った――
「お許しいただけるなら、いくつかお尋ねしたいことが――」
「答えよう、卿よ。」
公爵は、宮廷、先王、王子、王女たちについて、多くの質問をした。少年はためらいもせず、正確に答えた。宮殿の公式の広間、先王の居室、ウェールズ公の居室の様子を詳しく述べた。
奇妙だった。驚くべきことだった。いや、説明のつかないことだった。聞いた者は皆そう思った。形勢が変わり始め、トム・キャンティの期待も高まりかけたとき、護国卿が首を振って言った――
「まことに驚くべきことではある。だが、わが国王陛下も、同じようにお答えになれる。」
この言葉と、依然として自分が国王だとされていることに、トム・キャンティは悲しくなり、足もとから希望が崩れ落ちる気がした。「これでは証拠にならぬ」と護国卿は付け加えた。
潮の流れは今や、恐ろしいほどの速さで変わっていた。ただし、逆の方向へ。哀れなトム・キャンティを玉座に取り残し、もう一人を沖へ押し流そうとしていた。護国卿は心の中で考え、首を振った。こんな思いが否応なく迫ってきた。「このような重大な謎にかかわるのは、国家にも、われわれ一同にも危険だ。国を二つに割り、王座を揺るがしかねぬ。」
振り向いて言った――
「サー・トマス、この者を捕らえ――いや、待て!」
顔がぱっと明るくなり、ぼろ姿の王位請求者に向き直って尋ねた――
「国璽[訳注:国家の重要文書に押す国王の印章]はどこにある? これに正しく答えれば、謎は解ける。ウェールズ公であった方以外には、答えられるはずがない! 王座と王朝の命運が、こんな小さなものに懸かっているとは!」
幸運な思いつき、見事な思いつきだった。高官たちもそう感じたことは、輪になった彼らの目から目へ、明るい賛意のまなざしが無言の喝采となって走ったのでわかった。そう、本物の王子以外に、消えた国璽の厄介な謎を解ける者はいない。このみすぼらしい小さな詐欺師は、よく仕込まれてはいるが、ここで教わった知恵も尽きるはずだ。仕込んだ者自身、この問いには答えられないのだから。ああ、よいぞ、まことによい。これで、この面倒で危険な一件も、すぐに片がつく! そう考え、誰にもわからぬほど小さくうなずき、内心満足して笑いながら、愚かな少年が罪を暴かれ、狼狽して震え上がるのを待った。ところが、そんなことがまるで起こらないのを見て、彼らはどれほど驚いたことだろう。少年が少しも動じず、自信に満ちた声ですぐさま答えるのを聞いて、どれほど目を見張ったことだろう――

「その謎なら、少しも難しくない。」
そして誰の許しも求めずに向きを変え、日ごろから命令に慣れている者の自然な口調で、こう命じた。「セント・ジョン卿、宮殿の私の私室へ行ってくれ。あの場所を、そなたほどよく知る者はいない。控えの間から入る扉から最も遠い左の隅、その床近くの壁に、真鍮の鋲の頭がある。それを押せば、小さな宝石入れの隠し戸棚が開く。そなたさえ知らぬものだ。いや、私と、それを造った信頼できる職人以外、この世の誰も知らぬ。開けて真っ先に目に入るのが国璽だ。ここへ持ってきてくれ。」
居合わせた者は皆、この言葉に驚いた。まして、この幼い物乞いが、ためらいもせず、取り違える不安も見せずにその貴族を見分け、生まれてからずっと知っていたとしか思えぬ落ち着いた態度で名を呼んだことには、いっそう驚いた。卿は、思わず従いかけたほどだった。実際、出かけるような身動きまでしたが、すぐに平静な姿勢へ戻り、顔を赤らめて自分の失態を認めた。トム・キャンティは卿に向き直り、鋭く言った――
「なぜためらう? 王のご命令が聞こえなかったのか? 行け!」
セント・ジョン卿は深々と一礼して、退出した。その礼が、どちらの王へでもなく、二人のほぼ中間の何もない場所へ向けられた、いかにも用心深く立場を明かさぬものであったことは、人々の目を逃れなかった。
そのとき、きらびやかな高官の集団を形作る一粒一粒に、ゆっくりと、ほとんど気づかれぬほどながら、着実で絶え間のない動きが始まった。万華鏡をゆっくり回すと、一つの華麗な模様をなしていた粒が離れ、別の模様に加わっていく。それと同じ動きだった。ここでは、トム・キャンティの周囲にいた光り輝く集団が少しずつほどけ、新参者の近くへ集まり直していった。トム・キャンティは、ほとんど一人になった。続いて、深い不安の中で待つ短い時間が流れた。その間にも、まだトムのそばに残っていたわずかな臆病者たちは、どうにか勇気をかき集め、一人ずつ多数派へ滑り込んだ。こうしてついに、王衣と宝石をまとったトム・キャンティは、世のすべてから隔てられ、たった一人になった。何より雄弁な空白の中央に、その姿だけが際立っていた。
やがて、セント・ジョン卿が戻ってくるのが見えた。中央通路を進む姿へ関心が集中し、大会衆の低い話し声は消えて、深い沈黙に変わった。誰もが息を詰める静寂の中、足音だけが、遠く鈍く脈打つように響いた。あらゆる目が、その歩みを追っていた。卿は壇に上がると、一瞬立ち止まり、それからトム・キャンティの方へ進んで深々と礼をし、言った――
「陛下、国璽はございませんでした!」

青ざめ、恐れおののく廷臣たちは、みすぼらしい小さな王位請求者のそばから、さっと離れた。疫病患者を前にした群衆でも、これ以上の速さでは逃げ散るまい。たちまち少年は、友も味方もなく、ただ一人取り残された。軽蔑と怒りのまなざしが、激しい砲火のように一身へ集中した。護国卿が猛然と叫んだ――
「この乞食を通りへ放り出し、鞭打ちながら市中を引き回せ。この卑しい悪党には、それ以上の配慮など無用だ!」
近衛隊の士官たちが命令に従おうと飛び出したが、トム・キャンティは手を振って制し、言った――
「下がれ! その方に触れた者は、命を失うぞ!」
護国卿は困り果てた。セント・ジョン卿に言った――
「よく探したのか? ――いや、それを尋ねても仕方あるまい。それにしても、まことに奇妙だ。小さな品、つまらぬ物なら、見失っても不思議とは思わぬ。しかしイングランドの国璽ほどかさばるものが、どうして消え失せ、誰にも行方がつかめぬのだ。あの、ずっしりとした金の円盤が――」
トム・キャンティは目を輝かせ、前へ飛び出して叫んだ――
「待って、それでもう十分だ! 丸いのか? ――厚みがあって? ――文字や模様が彫ってある? ――そうなのか? ああ、あれほど大騒ぎをしていた国璽というのが何なのか、今やっとわかった。どんな物か言ってくれていたら、三週間前に渡せたのに。どこにあるか、よく知っている。ただ、そこへ入れたのは僕じゃない――最初は。」
「では、どなたが、陛下?」と護国卿が尋ねた。
「そこに立っておられる方――正統なイングランド国王だ。そして、ご自身で場所をおっしゃってくださる。そうすれば、自分でご存じだったと信じるだろう。どうか思い出してください、陛下。記憶を呼び起こしてください。あの日、僕を侮辱した兵士を罰しようと、僕のぼろを着て宮殿を飛び出す直前になさったことです。最後の、本当に最後のことなのです。」

沈黙が訪れた。身動き一つ、ささやき一つ、それを乱すものはなかった。すべての目が、新参の少年へ向けられた。少年は頭を垂れ、眉を寄せ、押し寄せる無用な思い出の群れの中から、たった一つの小さな、つかみどころのない事実を探っていた。見つかれば王座に就ける。見つからなければ、今のまま、永遠に乞食であり、世の捨て子なのだ。一瞬一瞬が過ぎ、その一瞬が積もって幾分にもなった。少年はなおも黙って懸命に思いを巡らしたが、何の兆しもなかった。ついにため息をつき、ゆっくり首を振ると、唇を震わせ、落胆した声で言った――
「あの場面は思い出せる。何もかも。だが、そこに国璽が出てこない。」
いったん口をつぐみ、それから顔を上げ、穏やかな威厳をもって言った。「諸卿ならびに諸君、正統な王が差し出せぬこの証拠のために、王自身のものを奪おうというのなら、力のない私は止められぬ。だが――」
「ああ、そんな、いけません、陛下!」トム・キャンティはうろたえて叫んだ。「待ってください! ――お考えください! お諦めになってはいけません! ――まだ負けてはいません! 負けさせもしません! 僕の言うことをお聞きください。一言も漏らさずたどってください。あの朝のことを、一つ残らず、起きたとおりに呼び戻してみせます。僕たちは話をしました。姉のナンとベットのことをお話ししました。ああ、ええ、それは覚えておいでですね。それから、うちのばあさんのことや、オーファル・コートの子たちの乱暴な遊びのことも。そう、それも覚えておいでです。よろしいですか、このままついてきてください。すべて思い出されます。陛下は食べ物と飲み物をくださり、王子らしいお優しさで召使いたちを下がらせてくださいました。僕が育ちの悪さを人前で恥じずに済むように。ああ、ええ、それも覚えておいでですね。」
トムが一つずつ細部を挙げ、もう一人の少年が思い出してうなずくにつれ、大勢の会衆と高官たちは、当惑と驚きの入り混じった目で見つめた。話は本当にあったことのように聞こえる。だが、王子と乞食の少年との、こんなありえない出会いが、どうして起きたのだろう? これほど困惑し、興味をかき立てられ、呆然となった人々の集まりは、かつてなかった。
「王子様、僕たちは面白半分に服を取り替えました。それから鏡の前に立ちました。あまりによく似ていたので、二人とも、まるで何も変わっていないようだと言いました。ええ、それも覚えておいでですね。それから、兵士が僕の手に怪我をさせたことに気づかれました。ほら、この手です。指がこわばって、今でも字さえ書けません。それをご覧になると、殿下は跳び上がり、兵士を懲らしめてやるとおっしゃって、扉へ向かって走られました。途中に卓がありました。国璽と呼んでいらっしゃる物が、その上にありました。殿下はそれをつかみ上げ、隠す場所を探すように、せわしなく辺りを見回されました。そして目に入ったのが――」
「そこまででよい! ――慈悲深い神に感謝を!」ぼろを着た王位請求者は、激しく興奮して叫んだ。「行け、わがセント・ジョンよ! 壁に掛けてあるミラノ製の甲冑、その腕の部分に国璽がある!」
「そのとおりです、陛下! そのとおりです!」トム・キャンティは叫んだ。「これでイングランドの王権は、陛下ご自身のものです。これに異を唱える者は、口が利けぬまま生まれたほうがましでしょう! 行ってください、セント・ジョン卿。足に翼をお付けになって!」
会衆は今や全員立ち上がり、不安と恐れ、焼けつくような興奮に、ほとんど正気を失っていた。堂内でも壇上でも、熱狂した話し声が耳を聾するほど沸き上がった。しばらくの間、誰もが、隣の者に耳もとで怒鳴られていることか、自分が隣の者の耳へ怒鳴っていること以外、何もわからず、何も聞こえず、何にも関心を持たなかった。どれほどの時間だったのか、誰も知らぬまま、時は気づかれもせず流れた。やがて突然、堂内が静まり返った。その瞬間、セント・ジョン卿が壇上に現れ、国璽を高々と掲げていた。すると、すさまじい歓声が上がった――
「まことの国王、万歳!」

五分もの間、叫びと楽器の轟きに空気が震え、振りかざすハンカチの嵐で、辺りは白くなった。そのただ中、広い壇の中央には、一人のぼろを着た少年が、頬を紅潮させ、幸せと誇りに満ちて立っていた。イングランドで最も人目を引くその少年の周りに、王国の重臣たちがひざまずいていた。
やがて皆が立ち上がると、トム・キャンティが声を上げた――
「さあ、陛下、この王のお召し物をお取り戻しください。そして、しもべの哀れなトムに、元のぼろ切れをお返しください。」
護国卿が口を挟んだ――
「その小僧の衣を剥ぎ、ロンドン塔へ放り込め。」
だが、新しい王、本物の王は言った――
「そうはさせぬ。この子がいなければ、私は王冠を取り戻せなかった。誰一人、この子に危害を加えてはならぬ。それから、わが叔父、護国卿よ。そなたの振る舞いは、この哀れな少年に対して恩知らずではないか。この子はそなたを公爵にしてやったそうだな」――護国卿は顔を赤らめた――「だが、この子は王ではなかった。となると、その立派な称号に今、何の値打ちがある? 明日、この子を通して、その称号の承認を私に願い出るがよい。さもなくば公爵ではなく、ただの伯爵のままだ。」
この叱責を受け、サマセット公爵閣下はひとまず少し後方へ引き下がった。王はトムに向き直り、優しく言った。「かわいそうに。だが、私自身さえ思い出せなかった国璽の隠し場所を、おまえはどうして覚えていたのだ?」
「陛下、それは簡単でした。何日も使っていましたから。」
「使っていたのに、どこにあるか説明できなかったのか?」
「皆さんが欲しがっているのがあれだとは知らなかったのです。どんな物か、教えてくださらなかったので、陛下。」
「では、何に使ったのだ?」
トムの頬へ赤い血が差し始め、目を伏せて黙り込んだ。
「言ってごらん。何も怖がることはない」と王は言った。「イングランドの国璽を、何に使ったのだ?」
トムは哀れなほどまごつき、しばらく口ごもった末、ようやく言った――
「木の実を割るのにです!」

かわいそうに、その言葉を迎えた雪崩のような笑いに、トムは押し倒されそうになった。だが、トム・キャンティはイングランド王ではなく、王の威厳ある道具に通じてもいないという点に、なお疑いを抱く者がいたとすれば、この答えがそれをきれいに消し去った。
その間に、豪華な王衣はトムの肩から王の肩へ移され、その下にぼろ服はすっかり隠れた。それから戴冠の儀式が再開された。まことの王は聖油を注がれ、頭に王冠を戴いた。大砲がその知らせを市内へとどろかせ、ロンドン全体が喝采に揺れ動くかのようだった。

第三十三章 国王エドワード
マイルズ・ヘンドンは、ロンドン橋の騒ぎに巻き込まれる前から、なかなか絵になる風体だった。抜け出したときは、いっそうそうなっていた。入るときには金がわずかしかなかったが、出るときには一文もなかった。すりたちに最後の一ファージングまで奪われたのである。
だが、そんなことはかまわない。あの少年さえ見つかればよい。軍人であるマイルズは、むやみに捜し始めることはせず、まず作戦を立てることにした。
少年なら、普通は何をするだろう? どこへ行くだろう? そうだ、とマイルズは考えた。昔なじみの場所へ行くに違いない。住む家を失い、見捨てられた者は、正気であろうとなかろうと、本能的にそうするものだ。では、その昔なじみの場所はどこか? 少年のぼろ服と、少年を知っているらしく、その父親だとさえ名乗ったあの下劣な悪党から考えれば、住まいはロンドンでも指折りの貧しく卑しい地区のどこかにあったのだろう。捜すのは難しいだろうか、時間がかかるだろうか? いや、おそらく簡単で、すぐに済む。少年を捜すのではなく、人だかりを捜すのだ。大きくても小さくても、人だかりの真ん中に、遅かれ早かれ、あの哀れな小さな友は必ずいる。薄汚い連中が、いつもどおり自分は王だと主張する少年を、からかい、怒らせて楽しんでいるだろう。そこでマイルズ・ヘンドンが何人かに痛い目を見せ、保護すべき小さな少年を連れ出す。優しい言葉で慰め、元気づけ、二人はもう二度と離れまい。
こうしてマイルズは捜索に出た。何時間も裏路地や不潔な通りを歩き回り、人の集まりを探した。そんなものはいくらでもあったが、少年の姿は影も形もなかった。大いに意外ではあったが、気落ちはしなかった。自分の作戦に間違いはないと思っていた。唯一の誤算は、短いはずの作戦が長引いていることだった。
ようやく夜が明けたときには、何マイルも歩き、いくつもの人だかりを調べていた。だが得られたものといえば、かなりの疲れと、そこそこの空腹、そして強烈な眠気だけだった。朝食を取りたかったが、手に入れる手立てがない。物乞いをするなど思いつきもしなかった。剣を質に入れるくらいなら、名誉を手放すほうがまだ考えられた。服を少し売ることならできる。だが、あんな服の買い手を見つけるくらいなら、病気の買い手だって見つかるだろう。
正午になっても、まだ歩いていた。今度は王の行列の後を追う雑踏に交じっていた。この王者の晴れ姿なら、あの気のふれた小さな子は強く引きつけられるはずだと考えたのである。ロンドンの曲がりくねった道を巡る行列の後を、ウェストミンスターの寺院までずっと追った。付近に詰めかけた群衆の中を、長いこと疲れ果てるまであちこち歩き回ったが、手がかりはなく、途方に暮れた。ついにはそこを離れ、どうしたら作戦を改善できるかと、考えを巡らしながらさまよった。やがて物思いから我に返ると、町ははるか後方となり、日は傾きかけていた。川に近い田園地帯へ来ていたのだ。立派な別荘が並ぶ地域で、彼のような服装が歓迎される場所ではなかった。

寒くは少しもなかったので、生垣の風下の地面に横たわり、休みながら考えることにした。やがて眠気が感覚を覆い始めた。遠くかすかな大砲の音が耳に届き、「新しい王が戴冠したのだな」と思ったとたん、眠りに落ちた。それまで三十時間以上、眠りも休みもしていなかったのである。次に目を覚ましたのは、翌朝もかなり過ぎてからだった。
脚は痛み、体はこわばり、半ば飢えきっていた。起き上がって川で体を洗い、一、二パイントの水で腹をなだめると、時間を無駄にしすぎた自分にぶつぶつ文句を言いながら、ウェストミンスターへ歩き出した。空腹のおかげで、今度は新しい策が浮かんだ。老サー・ハンフリー・マーロウに会い、数マーク借りよう。そして――いや、当面はそれで十分だ。その先のことは、この第一段階を果たしてから考えても遅くない。
十一時ごろ、宮殿へ近づいた。周囲には同じ方向へ向かう華やかな人々が大勢いたが、彼も目立たずにはいられなかった。着ているものが、それを許さなかったのである。人々の顔を注意深く見つめ、あの老副官へ自分の名を取り次いでくれそうな、親切な人物を探した。自分で宮殿へ入ろうなどというのは、まったく問題外だった。
やがて例の身代わり鞭打ち役の少年が通り過ぎ、振り返ってマイルズの姿をじっくり見た。「この人が、陛下のひどく気にかけておいでの浮浪者でなければ、僕はろば並みの馬鹿だ。もっとも、前からそうだったかもしれないけれど。ぼろの一枚に至るまで、お話どおりだ。神様がこんな人を二人もお造りになったら、奇跡を無駄に繰り返して値打ちを下げることになる。何か話しかける口実はないかな。」
マイルズ・ヘンドンは、その手間を省いてやった。背後からじっと見つめられ、魔法でもかけられたように、人はよく振り返るものだが、彼もそうしたのである。そして少年の目に強い関心を認めると、歩み寄って言った――
「今、宮殿から出てきたところだな。ここに仕えているのか?」
「はい、旦那様。」
「サー・ハンフリー・マーロウを知っているか?」
少年ははっとした。「何だって! 亡くなった父さんのことだ!」
それから声に出して答えた。「よく存じております、旦那様。」
「よかった。中におられるか?」
「はい」と少年は言い、心の中で付け加えた。「お墓の中に。」
「私の名を取り次いで、ひと言お耳を拝借したいと伝えてもらえぬだろうか?」
「喜んでお取り次ぎいたします、旦那様。」
「では、サー・リチャードの息子、マイルズ・ヘンドンが外に来ていると伝えてくれ。恩に着るぞ、よい子だ。」
少年はがっかりした顔をした。「陛下がおっしゃった名ではない」と思った。「でも、かまわない。この人はその双子の兄弟で、もう一人の『ぼろ寄せ集め卿』の消息を、きっと陛下に知らせてくれるだろう。」
そこでマイルズに言った。「旦那様、しばらくあちらへお入りになり、お返事を持ってくるまでお待ちください。」
ヘンドンは示された場所へ入った。宮殿の壁に設けられたくぼみで、石の腰掛けがあり、悪天候の際に歩哨が避難する場所だった。腰を下ろすか下ろさぬうちに、士官に率いられた数人の鉾槍兵が通りかかった。士官は彼を見ると、部下を止め、出てくるよう命じた。従うとすぐ、宮殿の敷地をうろつく不審者として逮捕された。風向きが怪しくなってきた。哀れなマイルズは説明しようとしたが、士官は乱暴に黙らせ、武器を取り上げて身体を調べるよう部下に命じた。

「神のお慈悲で、何か見つかるとよいが」と哀れなマイルズは言った。「私も散々探して何も見つからなかった。必要としているのは、そちらより私のほうなのだが。」
見つかったのは、一通の書付だけだった。士官がそれを開くと、ヘンドンはほほえんだ。ヘンドン・ホールでのあの暗い日に、行方不明の小さな友が書いた「鉤針みたいな文字」だとわかったからだ。士官は英語の一節を読むにつれ顔を険しくし、それを聞くマイルズは逆に血の気を失っていった。
「また王位を名乗る者が出たか!」と士官は叫んだ。「まったく、今日は兎のように殖えるわ。この悪党を押さえておけ。このありがたい書付を中へ運び、陛下にお届けする間、しっかり見張っていろ。」
士官は足早に立ち去り、捕虜は鉾槍兵たちにつかまれたまま残された。
「これで、ついに悪運も尽きた」とヘンドンはつぶやいた。「あの紙切れのせいで、間違いなく縄の先にぶら下がることになる。ああ、あの哀れな少年はどうなるのだろう。慈悲深い神だけがご存じだ。」
しばらくすると、士官が大急ぎで戻ってくるのが見えた。そこで勇気を奮い起こし、男らしく災難に向き合おうと覚悟を決めた。士官は部下に、捕虜を放し、剣を返すよう命じた。それから恭しく一礼して言った――
「どうか、私についておいでください。」
ヘンドンは後に続きながら思った。「死と最後の審判に向かうところでなければ、罪を増やさぬよう慎む必要もない。このふざけた丁寧さの報いに、あの悪党の喉を絞めてやるものを。」
二人は人の多い中庭を横切り、宮殿の大玄関へ着いた。士官はもう一度礼をして、ヘンドンを華麗な姿の役人に引き渡した。役人は深い敬意をもって迎え、左右に豪華な従僕が列をなす大広間へ案内した。従僕たちは二人が通ると恭しく頭を下げたが、この威風堂々たる案山子が背を向けたとたん、声を殺した笑いに身をよじった。役人は、着飾った人々の群れの間を抜けて広い階段を上り、最後に大きな部屋へ導いた。そこに集まったイングランド貴族の間へ道を開き、一礼して帽子を取るよう促すと、ヘンドンを部屋の中央に残して去った。彼はあらゆる目の的となり、怒りのしかめ面をたっぷり浴び、面白がる笑いや嘲笑も十分に受けた。
マイルズ・ヘンドンは、何が何だかわからなかった。五歩先には、王者の天蓋の下に若い王が座り、頭を少し下へ横に傾け、人間の極楽鳥のような人物――公爵かもしれない――と話していた。人生の盛りに死刑を言い渡されるだけでもつらいのに、こんな大勢の前で特別の辱めまで受けるとは、とヘンドンは思った。王には早く済ませてもらいたかった。近くにいるけばけばしい連中の中には、かなり不愉快な態度を見せ始めた者もいた。そのとき王が少し顔を上げ、ヘンドンはその顔をはっきり見た。息が止まりそうになった! 射すくめられたように、若い美しい顔を見つめて立ち尽くした。やがて、思わず声を漏らした――
「見ろ、夢と影の王国の主が、玉座におられる!」
なおも見つめ、驚きながら、とぎれとぎれの言葉をつぶやいた。それから目をあちらこちらへ向け、華麗な人々と壮麗な広間を見渡して、つぶやいた。「だが、これは本物だ。確かに本物だ。夢のはずはない。」
再び王を見つめ、考えた。「これは夢なのか……それとも、この子は本当にイングランドの君主で、私が思っていたような、身寄りもない哀れな『ベドラムのトム』[訳注:当時の狂人、とりわけ物乞いをする狂人の通称]ではなかったのか。この謎を誰が解いてくれる?」
突然、思いつきが目にひらめいた。大股で壁際へ歩み寄り、椅子を一脚持ち上げて戻ると、床にどんと据え、そこへ腰を下ろした!

憤慨のざわめきが起こり、乱暴な手が彼をつかみ、声が叫んだ――
「立て、無作法者! 国王の御前で座るとは何事だ!」
騒ぎに気づいた国王は、手を差し伸べて叫んだ――
「手を触れるな。それは、この者の権利だ!」
人々は呆然として後ずさった。王は続けた――
「婦人、諸卿、ならびに諸君、皆に知らせておく。この者は、私の信頼する、深く愛する臣下、マイルズ・ヘンドンである。剣をもって身を挺し、わが身を傷害から、あるいは死から救ってくれた。その功により、王の言葉をもって騎士とした。また、さらに大きな功により、すなわち君主に代わって鞭と恥辱を受け、君主を救ったことにより、この者をイングランドの貴族、ケント伯爵とする。その地位にふさわしい金と領地も与える。さらに、今行使した特権は、王から授けられたものだ。この者の家の当主は、今より代々、王冠の続く限り、イングランド国王の御前で着座する権利を有し、保持すべしと定めた。この者に手出しをするな。」
途中で手間取ったため、ようやく今朝になって田舎から到着し、この部屋にもまだ五分ほどしかいない二人の人物が、立ったままこの言葉を聞いていた。王を見、次に案山子を見、また王を見て、放心したように戸惑っていた。サー・ヒューとレディ・イーディスだった。だが、新しい伯爵は二人に気づかなかった。相変わらずぼうっと君主を見つめ、つぶやいていた――
「ああ、何ということだ! この方が、あの乞食の子! あの気のふれた子! 七十の部屋と二十七人の召使いのいる屋敷へ連れていき、豪勢な暮らしとはどんなものか、私が見せてやろうとしていた相手が、この方だったとは! 着るものといえばぼろ、慰めといえば蹴飛ばされること、食べ物といえば残飯しか知らない子だと思っていたのに! 私が引き取り、まっとうな人間にしてやろうとしていたのが、この方とは! ああ、頭を隠す袋が欲しい!」
そのとき突然、礼儀を思い出してひざまずき、両手を王の両手の間に置き、忠誠を誓い、領地と称号を賜った臣従の礼を捧げた。それから立ち上がり、恭しく脇へ控えた。依然として、すべての視線と、多くの羨望の的だった。
ここで王はサー・ヒューを見つけ、目を燃え立たせ、怒りの声を上げた――
「この盗人から、偽りの威光も奪った領地も剥ぎ取り、私が用を申しつけるまで牢に閉じ込めておけ。」
たった今サーでなくなったヒューは、連れ去られた。

そのとき、部屋の反対側で人々が動いた。集まりが左右へ分かれ、風変わりながら豪華な衣装を着たトム・キャンティが、案内役を先に立て、生きた壁の間を進んできた。王の前にひざまずくと、王は言った――
「この数週間の出来事は聞いた。そなたの働きを大いに喜んでいる。そなたは、まことに王者らしい優しさと慈悲をもって国を治めた。母や姉たちには、もう会えたか? よかった。あの者たちの暮らしは保障しよう。父は、そなたが望み、法が許すなら絞首刑にしてやる。私の声を聞く者は皆、知るがよい。今日より、クライスト・ホスピタルの庇護のもとで王の施しを受ける者たちは、肉体だけでなく、知性と心にも糧を与えられるものとする。この少年はそこに住み、生涯にわたり、栄誉ある理事会の首席を務める。また、一度は王であったゆえ、普通とは異なる敬意を受けるのがふさわしい。そこで、この礼服をよく覚えておくがよい。これをもってこの者のしるしとし、誰にもまねを許さぬ。どこへ行こうとも、この服が、かつて王であったことを人々に思い出させるだろう。何人も、当然払うべき敬意を惜しんだり、挨拶を怠ったりしてはならぬ。この者は王座の保護を受け、王権の支えを持つ。今後は『国王の被後見人』という名誉ある称号で知られ、呼ばれるものとする。」

誇らしさと幸福に満ちたトム・キャンティは立ち上がり、王の手に口づけし、案内されて御前を退いた。少しもぐずぐずせず、母のもとへ飛んでいった。母とナンとベットに何もかも話し、このすばらしい知らせを一緒に喜んでもらうためだった。

終章 正義と報い
すべての謎が解けたとき、ヒュー・ヘンドンの告白によって、あの日ヘンドン・ホールで妻がマイルズを知らぬと言ったのは、夫の命令によるものだったとわかった。その命令には、あの男がマイルズ・ヘンドンであることを否定し、最後まで言い張らなければ殺すという、まったく疑いようのない約束が添えられていた。すると妻は、「どうぞお殺しになって!」と言った。自分の命など惜しくはなかった。そしてマイルズを知らぬとは言わなかった。そこで夫は、妻の命は助けるが、マイルズを暗殺させると言った。これでは話が違う。妻は約束し、それを守ったのである。
ヒューは、脅迫についても、兄の領地と称号を盗んだことについても、訴追されなかった。妻も兄も、不利な証言を拒んだからだ。そもそも妻は、望んだとしても夫に不利な証言を許されなかった。ヒューは妻を捨て、大陸へ渡り、まもなくそこで死んだ。やがてケント伯爵は、その未亡人と結婚した。二人が初めて屋敷へ帰ったとき、ヘンドン村は盛大な祝いと喜びに沸いた。
トム・キャンティの父親については、その後二度と消息が聞かれなかった。
王は、焼き印を押されて奴隷に売られたあの農夫を捜し出し、ラフラーの一味での悪い暮らしから救い、安楽に生計を立てられるようにしてやった。
また、あの老法律家を牢から出し、罰金を免除した。目の前で火あぶりにされた二人のバプテスト派の婦人の娘たちには、よい家庭を見つけてやり、マイルズ・ヘンドンの背に不当な鞭を加えた役人には、厳罰を科した。
逃げた隼を捕まえた少年と、織物職人から布の切れ端を盗んだ女を絞首台から救った。だが、王の森で鹿を殺した罪に問われた男を救うには、間に合わなかった。
豚を盗んだと疑われたとき、自分に同情してくれた治安判事には恩恵を与えた。その判事が世間の尊敬を集め、偉大で誉れ高い人物となるのを見て、王は喜んだ。
王は生きている間ずっと、自分の冒険の一部始終を語るのが好きだった。歩哨に殴られて宮殿の門前から追い払われたときから、最後の真夜中、急ぐ職人たちの一団へ巧みに紛れ込んで寺院へ忍び入り、証聖王[訳注:聖人に列せられた十一世紀のイングランド王、エドワード]の墓によじ登って隠れ、翌日あまりに長く眠ったため、危うく戴冠式をすっかり逃すところだった話まで。王は、あの貴い教訓を繰り返し語ることで、その教えを民のために役立てようという決意を強められるのだと言った。だから命のある限り語り続け、悲惨な光景を記憶に鮮やかにとどめ、胸の内の慈悲の泉を満たしておくつもりだと。
マイルズ・ヘンドンとトム・キャンティは、王の短い治世を通じて寵愛を受け、その死を心から悼んだ。善良なケント伯爵には、特異な特権を乱用しないだけの分別があった。だが、われわれが見たあの一度のほかに、この世を去るまで二度、それを行使した。一度はメアリー女王の即位のとき、もう一度はエリザベス女王の即位のときである。その子孫の一人が、ジェームズ一世の即位の際にこれを行使した。その息子が特権を使おうとしたときには、ほぼ四半世紀が経ち、「ケント家の特権」はたいていの人の記憶から薄れていた。そのため、当時のケント伯爵がチャールズ一世と宮廷の前に現れ、一門の権利を主張して後世に伝えるため、国王の御前で腰を下ろしたときには、まことに大騒ぎとなった! しかし事情はすぐに説明され、権利は確認された。この家系最後の伯爵は、共和国時代の戦争で国王のために戦って倒れ、奇妙な特権も彼とともに終わった。
トム・キャンティはたいそう長生きし、威厳と慈愛に満ちた、美しい白髪の老人となった。生涯にわたって大切にされ、また敬われた。目立つ独特の衣装が、「かつて王であった」ことを人々に思い出させ続けたからである。どこへ姿を現しても、群衆は左右へ分かれて道を空け、互いにささやいた。「帽子を取れ、国王の被後見人だ!」そうして挨拶すると、優しいほほえみが返ってきた。人々はそのほほえみをありがたく受け取った。彼の歩んだ道は、敬うに足るものだったからだ。
そう、哀れなエドワード六世は、その後わずか数年しか生きなかった。だが、その年月を立派に生きた。きらびやかな王臣たる高官が、王の寛大さに異議を唱え、王が改めようと心に決めた法律について、その目的には十分穏やかなものであり、誰もさほど気に病むほどの苦しみや圧迫は生まないと主張することがあった。そのたび、若い王は、深い慈悲をたたえた大きな目を、悲しみを雄弁に語るまなざしで相手へ向け、幾度となくこう答えた――
「苦しみや圧迫について、そなたに何がわかる? 私と民は知っている。だが、そなたは知らぬ。」
エドワード六世の治世は、あの苛酷な時代にあって、ひときわ慈悲深いものだった。今、彼に別れを告げるにあたり、このことを彼の誉れとして心にとどめておこう。

トウェインの注
注1、第四章 クライスト・ホスピタルの制服
この服装は、当時のロンドン市民の衣服を模したものと考えるのが、最も妥当である。そのころ、徒弟や召使いは一般に青い長上着を着、黄色い長靴下が広く用いられていた。上着は胴にぴったり合うが袖はゆったりし、その下には袖のない黄色い下衣を着る。腰には赤い革帯、首には聖職者風の白い襟布を着け、受け皿ほどの小さく平たい黒帽子をかぶって、一式が整う。――ティムズ『ロンドン珍聞集。』
注2、第四章
クライスト・ホスピタルは、もともと学校として設立されたわけではないらしい。その目的は、子供たちを街路から救い出し、住まいと食物と衣服を与えることにあった。――ティムズ『ロンドン珍聞集。』
注3、第五章 ノーフォーク公爵への有罪宣告を命ずる
国王には、今や急速に最期が迫っていた。ノーフォークを取り逃がすことを恐れ、庶民院へ使者を送り、法案の処理を急ぐよう求めた。その口実は、ノーフォークが軍務伯の地位にあるため、息子をウェールズ公に叙する今度の式典を執り行う別の人物を任命する必要がある、というものだった。――ヒューム『イングランド史』第三巻、307ページ
注4、第七章
イングランドでサラダ用の葉菜、にんじん、かぶ、その他の食用根菜が栽培されるようになったのは、この治世(ヘンリー八世)の末期になってからである。それ以前は、わずかに用いられるこうした野菜は、オランダとフランドルから輸入されていた。キャサリン王妃は、サラダが欲しくなると、そのためだけにわざわざ使者を派遣しなければならなかった。――ヒューム『イングランド史』第三巻、314ページ
注5、第八章 ノーフォークの権利剥奪
貴族院は、囚人を尋問することも、裁判を行うことも、証拠を調べることもなく、彼に対する権利剥奪法案を可決し、庶民院へ送付した……追従的な庶民院は、国王の指示に従った。国王は委任官を通じて法案に裁可を与えると、一月二十九日、すなわち翌日の朝に、ノーフォークを処刑するよう命じた。――ヒューム『イングランド史』第三巻、306ページ
注6、第十章 親愛の杯
親愛の杯と、それを飲み交わす際の独特な作法は、イングランドの歴史よりも古い。どちらもデーン人から伝わったものと考えられている。記録の及ぶ限り、イングランドの宴席では常に親愛の杯が飲み交わされてきた。その作法について、伝承はこう説明する。荒々しい古代には、飲み交わす双方の両手をふさいでおくのが、賢明な用心とされた。一方が相手への愛と忠誠を誓っている間に、相手がその隙をついて短剣を突き刺さぬようにするためだ!
注7、第十一章 ノーフォーク公爵の危機一髪
ヘンリー八世があと数時間長く生きていたなら、公爵処刑の命令は実行されていただろう。「しかし、国王自身がその夜崩御したとの知らせがロンドン塔に届いたため、副長官は令状の執行を延期した。評議会も、これほど不当で専制的な判決を受けた王国最高の貴族の死をもって、新しい治世を始めることは得策でないと考えた」――ヒューム『イングランド史』第三巻、307ページ
注8、第十四章 身代わり鞭打ち役
ジェームズ一世とチャールズ二世には、子供のころ、勉強の出来が悪いと代わりに罰を受ける、身代わり鞭打ち役の少年がいた。そこで私も、物語の都合から、あえて小さな王子に一人付けることにした。
第十五章への注
ハートフォードの人柄
若い国王は、叔父にきわめて深い愛着を示した。叔父は、概して節度と誠実さを備えた人物だった。――ヒューム『イングランド史』第三巻、324ページ
しかし、護国卿があまりに尊大な威儀を構えて反感を買ったとしても、この会期に成立した法律については、大いに称賛されるべきである。それらによって従来の法令の苛酷さが大幅に和らげられ、国制上の自由にある程度の保障が与えられた。エドワード三世治世二十五年の法令を越えて反逆罪の範囲を拡大したすべての法律、先王の治世に制定され重罪の範囲を拡大したすべての法律、ロラード派または異端を取り締まる従来のすべての法律、ならびに六箇条法が廃止された。発言を理由とする訴追は、その発言から一か月以内に限られることになった。これらの廃止によって、イングランドでかつて成立した最も苛酷な法律のいくつかが無効となり、市民的自由と宗教的自由の曙光が、民衆に見え始めた。また、国王の布告を制定法と同等の効力を持つものとし、あらゆる法律を台無しにしていた法律も廃止された。――同書、第三巻、339ページ
煮殺しの刑
ヘンリー八世の治世には、議会の法律によって、毒殺犯は煮殺しの刑に処された。この法律は次の治世に廃止された。
ドイツでは、十七世紀になっても、貨幣偽造犯にこの恐ろしい刑罰が科された。「水の詩人」テイラーは、一六一六年にハンブルクで目撃した処刑を記している。偽貨幣を造った男に下された判決は、「油で煮殺すべし。ただし、一度に釜へ投げ込まず、滑車または縄を用いて脇の下で吊り、少しずつ油の中へ下ろす。まず足先、次いで脚というようにして、生きたまま肉が骨から離れるまで煮るべし」というものだった。――J・ハモンド・トランブル博士『ブルー・ローの真実と虚偽』、13ページ
有名な長靴下事件
ある女とその九歳の娘は、悪魔に魂を売り、長靴下を脱いで嵐を起こしたとして、ハンティンドンで絞首刑になった! ――J・ハモンド・トランブル博士『ブルー・ローの真実と虚偽』、20ページ
注10、第十七章 奴隷化
これほど幼い王と、これほど無学な農民なら、間違いを犯しても不思議はない。これは、その一例である。この農民は、時代を先取りしてこの法律に苦しめられていた。王は、まだ存在しない法律に怒りをぶつけていたのである。この忌まわしい法令が生まれるのは、この幼い王のほかならぬ自らの治世だったからだ。とはいえ、その慈悲深い性格からして、王自身の発案によるものでないことは確かである。
第二十三章への注 ささいな窃盗にも死刑
コネティカットとニュー・ヘイヴンが最初の法典を編んでいたころ、イングランドでは、十二ペンスを超える物を盗むと死刑になった。これはヘンリー一世の時代以来のことだった。――J・ハモンド・トランブル博士『ブルー・ローの真実と虚偽』、17ページ
『イングランドの悪党』という珍しい古書では、その境界を十三ペンス半としており、「十三ペンス半を超える価値の」物を盗めば、誰であれ死を免れなかったという。
第二十七章への注
法律は、多くの種類の窃盗について、聖職者特権[訳注:一定の者が通常の刑罰、とりわけ死刑を免れる制度]の適用を明示的に排除していた。馬、鷹、あるいは織物職人の毛織物を盗めば絞首刑だった。王の森の鹿を殺すことも、国外へ羊を輸出することも同様だった。――J・ハモンド・トランブル博士『ブルー・ローの真実と虚偽』、13ページ
学識ある法廷弁護士ウィリアム・プリンは、エドワード六世の時代からずっと後のことだが、さらし台で両耳を切り落とされ、弁護士資格を剥奪され、三千ポンドの罰金と終身刑を科された。その三年後、教会の位階制度を批判するパンフレットを発行し、再びロードの怒りを買った。もう一度訴追され、耳の残っている部分を切り落とし、五千ポンドの罰金を払い、S・L(扇動的中傷者の意)の文字を両頬に焼き印され、生涯投獄されるという判決を受けた。この判決の厳しさは、その執行の野蛮な苛酷さと釣り合っていた。――同書、12ページ
第三十三章への注
クライスト・ホスピタル、別名ブルーコート・スクール――「世界で最も高貴な施設。」
ヘンリー八世は、グレイ・フライアーズ修道院のあった土地をロンドン市法人に下賜した。市はそこに、貧しい少年少女のための収容施設を設けた。その後、エドワード六世は古い修道院を十分に修復させ、その中に、孤児と貧困者の子供たちの教育と養育のため、ブルーコート・スクール、またはクライスト・ホスピタルと呼ばれる立派な施設を創設した……エドワードは、ロンドン市長への手紙を書き終えるまでリドリー司教を帰さず、それから、自らこれを届け、適切な方策を遅滞なく提案し、進捗を国王へ報告せよとの特別の願いと命令を伝えるよう、申しつけた。事業は熱心に進められ、リドリー自身もそれに携わった。その結果、貧しい子供たちを教育するクライスト・ホスピタルが創設された。(国王は同時に、ほかにもいくつかの慈善施設へ基金を与えた。)王は言った。「主なる神よ、御名の栄光のため、この仕事を成し遂げるまで命をお授けくださったことを、心より感謝いたします!」
その無垢で、まことに模範的な生涯は、急速に終わりへ近づいていた。数日後、王は、教皇派から王国を守ってくださるよう神に祈りつつ、創造主のもとへ魂を返した。――J・ヘニッジ・ジェシー『ロンドン――名高い人物と場所。』
大広間には、エドワード六世が緋色の、白貂の毛皮で縁取られた長衣をまとって玉座に座る、大きな絵が掛かっている。左手に王笏を持ち、右手で、ひざまずくロンドン市長へ設立勅許状を授けている。その傍らには印章を持った大法官が立ち、さらにほかの国務高官が並ぶ。リドリー司教は王の前にひざまずき、この出来事への祝福を祈るかのように両手を上げている。市参事会員らは市長とともに左右にひざまずき、画面の中景を占めている。そして前景では、片側に少年、もう片側に少女が、それぞれ二列に並ぶ。教師と寮母から始まり、それぞれの列から一歩進み出て、王の前にひざまずき、両手を上げる少年と少女までが描かれている。――ティムズ『ロンドン珍聞集』、98ページ
クライスト・ホスピタルは古来の慣習により、君主がロンドン市法人の歓待を受けるため市内へ来訪した際、奉迎の辞を述べる特権を有する。――同書
食堂は、ロビーとオルガン席を含めて一つの階全体を占め、長さ百八十七フィート、幅五十一フィート、高さ四十七フィートある。南側のステンドグラスをはめた九つの大窓から光が入り、ウェストミンスター・ホールに次ぐ、首都で最も立派な広間である。現在およそ八百人いる少年たちは、ここで食事をする。また、ここでは「公開夕食会」が開かれ、クライスト・ホスピタルの会計責任者と理事が発行する券で、見学者が入場できる。食卓には木鉢のチーズ、革製の大ジョッキから木製の小桶形容器へ注いだビール、大籠で運ばれたパンが並ぶ。公式の来賓が入場し、市長または総裁が、ロンドン塔のそばにある聖キャサリン教会のオーク材で作られた儀礼用の椅子に着く。オルガンの伴奏で賛美歌が歌われ、「グリーシャン」[訳注:古典語を学ぶ最上級生]、すなわち首席の少年が説教壇から祈祷文を読む。木槌を三度打ち、静粛にさせる。祈りが終わると夕食が始まり、見学者は食卓の間を歩く。食事が済むと、配膳係の少年たちが籠、鉢、革製ジョッキ、木製容器、燭台を取り上げて列をなして進み、理事たちへ、珍しいほど形式ばったお辞儀をする。この光景は、一八四五年、ヴィクトリア女王とアルバート公の観覧に供された。
ブルーコートの卒業生で、とりわけ著名な者には、アナクレオンとエウリピデスの校訂者ジョシュア・バーンズ、特にギリシア文学で名高い批評家ジェレマイア・マークランド、古物研究家カムデン、スティリングフリート司教、小説家サミュエル・リチャードソン、アリストパネスの翻訳者トマス・ミッチェル、長年ロンドンの『タイムズ』紙編集長を務めたトマス・バーンズ、コールリッジ、チャールズ・ラム、リー・ハントらがいる。
入学できるのは七歳から九歳までの少年に限られ、十五歳を過ぎて在学できるのは、キングズ・ボーイズ[訳注:国王設立の数学課程で航海術などを学ぶ生徒]と「グリーシャン」だけである。理事は約五百人おり、その上位に君主とウェールズ公が立つ。理事の資格は、五百ポンドの納付である。――同書
総注
「コネティカットの忌まわしいブルー・ロー」[訳注:清教徒的な道徳や宗教的規律を強制する法律の通称]についてはよく耳にし、その名が出ると、人は敬虔そうに身震いするのが常である。アメリカにも、何とイングランドにさえ、それらを悪意と冷酷さと非人道性の記念碑のように考える人々がいる。だが実際には、それらこそ「文明」世界が目にした、ほぼ最初の司法の残虐さからの全面的な脱却だったのである。二百四十年前の、この人道的で慈悲深いブルー・ロー法典は、ひとり孤高に立っている。その向こうには幾世代もの血なまぐさい法律があり、そのこちら側にも、なお百七十五年に及ぶ、血なまぐさいイングランドの法律があるのだ。
ブルー・ローのもとであれ、ほかの法律のもとであれ、コネティカットで死刑に相当する犯罪が十四を超えた時代は、一度もない。ところがイングランドでは、今なお心身ともに健やかな人々の記憶にある時代に、二百二十三もの犯罪が死刑に相当した! これらの事実は、知っておく価値がある。そして、考えてみる価値もある。