L・フランク・ボーム 著
『オズの魔法使い』『オズの国』『オズのオズマ姫』ほかの著者
ジョン・R・ニール 挿絵

ハリエット・A・B・ニールに捧ぐ。
読者のみなさんへ
だめだ。どうしてもだめなのだ。子どもたちが、オズの国のお話をやめさせてくれない。ほかにもたくさん物語を知っているし、いつかはそれも語りたいと思っている。けれど今のところ、愛すべき小さな暴君たちが許してくれない。「オズ――オズ! ボームさん、もっとオズのお話を!」とせがまれては、言いつけに従うほかに何ができるだろう?
これは「私たちの本」――私と子どもたちの本である。なにしろ子どもたちは、この物語について何千もの案を寄せてくれた。そこで私は、そのうち一つの物語に収められるものを、できるだけ多く取り入れようと心から努めた。
『オズのオズマ姫』が驚くほどの成功を収めた今、ドロシーはオズ物語に欠かせない存在になったようだ。小さな読者たちはみなドロシーが大好きで、ある幼い友人など、実にうまいことを言っている。「ドロシーが出てこなければ、本当のオズのお話じゃないよ。」
そこで、ドロシーがまた登場する。いつもと変わらず優しく、おだやかで無邪気な少女として――そう願っているのだが――新たな奇妙な冒険の主人公を務める。
幼い文通相手たちからは、「魔法使いのお話をもっと」という声もたくさん寄せられた。
最初のオズの本で、あの陽気な老人は、自分が「いかさま師」だとあっさり認めたにもかかわらず、大勢の友だちを得たらしい。
子どもたちは、魔法使いが気球に乗って空へ昇っていったことを知っており、いつかまた降りてくるのを待ち望んでいた。ならば私も、「その後、魔法使いに何が起きたのか」を語らないわけにはいかない。この本の中で、みなさんは以前と少しも変わらない、いかさま師の魔法使いに会えるだろう。
ただ一つ、子どもたちにせがまれながら、今回の本ではどうしてもできなかったことがある。ドロシーの小さな黒犬で、読者の間にも友だちが大勢いるトトを登場させてほしいと言われたのだ。だが物語を読みはじめればわかるとおり、ドロシーがカリフォルニアにいる間、トトはカンザスにいた。そのためドロシーは、トトを連れずに冒険へ出発しなければならなかった。今回は犬の代わりに子猫を連れていくことになったが、もし次のオズの本を書くことを許されるなら、トトのその後についてたっぷり語るつもりである。
私が読者のみなさんと同じくらい愛しているオズマ姫も、この物語にふたたび登場する。オズで出会った懐かしい友人たちも何人か姿を見せる。さらに、辻馬車馬のジム、九匹の小さな子豚、子猫のユリーカとも知り合うことになる。子猫がもう少し行儀よく振る舞ってくれなかったことは残念だが、きちんと育てられなかったのかもしれない。何しろドロシーが拾った子猫で、親が誰なのかはだれも知らないのだから。
親愛なるみなさん、私は自分こそ、これまで生きたどんな人よりも誇らしい物語作家だと思っている。幼い読者からほとんど毎便のように届く、優しく愛情に満ちた、胸に訴えかける手紙を読みながら、誇りと喜びで幾度となく目に涙を浮かべたものだ。私の物語がみなさんを楽しませ、興味を引き、友情を――そしておそらくは愛情までも――勝ち得たのだとすれば、それは私にとって、アメリカ合衆国大統領になるのと同じほど偉大な功績である。いや、こうしてみなさんに喜んでもらえるなら、大統領になるより、みなさんの物語作家でいるほうがずっといい。みなさんは、私が生涯抱いてきた大望をかなえてくれた。親愛なるみなさんに対する感謝は、言葉ではとても言い尽くせない。
私は、幼い文通相手から届いたすべての手紙に返事を書こうと努めている。だが時には、手紙があまりに多く、返事が届くまで少し時間がかかることもある。それでも友人のみなさん、どうか気長に待っていてほしい。返事は必ず届く。それに、みなさんが手紙を書いてくれることは、私がこうした本を作る楽しい仕事に費やした労力を、あり余るほど報いてくれている。さらに私は、この本の一部はみなさんのものでもあると、誇りをもって認めたい。みなさんの提案はしばしば物語を語る道しるべとなり、その賢く思いやりに満ちた助けがなければ、物語の面白さは半分にも届かなかったに違いないのだから。
L・フランク・ボーム
コロナド、1908年。
第一章

地震

サンフランシスコ発の列車は、ひどく遅れていた。本来なら真夜中にハグソン分岐点へ着くはずだったが、時計はもう五時を回り、東の空には灰色の夜明けが広がりはじめていた。そのころになってようやく、小さな列車は、駅舎代わりの吹きさらしの小屋へ、ゆっくりごとごとと入ってきた。列車が止まると、車掌が大声で告げた。
「ハグソン分岐点!」
すぐに一人の少女が席を立って客車の扉へ向かった。片手には籐の旅行鞄、もう片方には新聞紙で覆った丸い鳥籠を持ち、脇には日傘を挟んでいる。車掌が少女を降ろすと、機関士はふたたび列車を走らせた。列車は蒸気を吐いてうなりながら、線路の先へゆっくり遠ざかっていった。これほど遅れたのは、夜通し何度も、固いはずの大地が列車の下で揺れ、震えたからだった。いつレールが左右に開き、乗客を巻き込む事故が起きるかもしれないと恐れた機関士は、用心深く、ゆっくり列車を進めてきたのである。
少女はその場に立ち、列車が曲がり角の向こうへ消えるまで見送った。それから振り返り、自分がどこにいるのか確かめた。
ハグソン分岐点の小屋には、古びた木の長椅子が一脚あるだけで、あまり居心地のよさそうな場所ではなかった。柔らかな灰色の光の中へ目を凝らしても、駅の近くには一軒の家も見えず、人影もない。だがしばらくすると、少し離れた木立のそばに、一頭の馬と一台の軽馬車が止まっているのを見つけた。近づいてみると、馬は木につながれ、頭を地面すれすれまで垂らしたまま、ぴくりともせず立っていた。背が高く骨張った大馬で、脚は長く、膝も蹄も大きい。胴の皮膚から浮き出たあばら骨は簡単に数えられた。頭は細長く、体に合っていないのではと思うほど大きい。尻尾は短くぼさぼさで、あちこち切れた馬具が、紐や針金の切れ端でつなぎ直されていた。反対に軽馬車は、光沢のある幌と横幕がついており、ほとんど新品に見えた。少女が中をのぞけるよう前へ回り込むと、座席の上で少年が体を丸め、ぐっすり眠っていた。
少女は鳥籠を置き、日傘の先で少年をつついた。やがて少年は目を覚まし、起き上がって座ると、勢いよく目をこすった。
「やあ!」少女を見るなり少年は言った。「きみがドロシー・ゲイル?」
「そうよ」ドロシーは、少年のぼさぼさの髪と、しきりに瞬く灰色の目を真顔で見つめた。「ハグソン牧場まで迎えにきてくれたの?」
「もちろん。列車、着いたの?」
「着いてなかったら、私がここにいるはずないでしょう。」
少年は声を上げて笑った。陽気で裏表のない笑い声だった。軽馬車から飛び降りると、ドロシーの旅行鞄を座席の下へ入れ、鳥籠を前の床に置いた。
「カナリア?」
「ううん、子猫のユリーカよ。この籠で運ぶのがいちばんだと思ったの。」
少年はうなずいた。
「ユリーカなんて、猫には変わった名前だな。」
「この子を見つけたから、そう名づけたの。ヘンリーおじさんが、『ユリーカ』は『見つけたぞ』っていう意味だって教えてくれたわ。」
「なるほど。じゃあ乗って。」
ドロシーが軽馬車に乗り込むと、少年もあとに続いた。それから手綱を取り、ひと振りして声をかけた。
「ほら、進め!」
馬は動かなかった。垂れ下がった耳の片方が、ほんの少しぴくりとしたようにドロシーには見えたが、それだけだった。
「進め!」少年がもう一度呼びかけた。
馬は立ったままだった。
「もしかすると」とドロシーは言った。「綱をほどけば進むんじゃない?」
少年は明るく笑って飛び降りた。
「まだ半分寝ぼけてるみたいだ」馬を木からほどきながら言った。「でもジムはちゃんと自分の仕事をわかってるよな、ジム?」そう言って、馬の長い鼻を軽くたたいた。
少年がふたたび軽馬車へ乗って手綱を取ると、馬はすぐに木から後ずさりし、ゆっくり向きを変えた。そして薄明かりの中にかすかに見える砂道を、軽快に走りはじめた。
「あの列車、永遠に来ないんじゃないかと思ったよ」と少年は言った。「あの駅で五時間も待ったんだ。」
「地震が何度もあったの。地面が揺れるのを感じなかった?」
「感じたよ。でもカリフォルニアじゃ、そういうことには慣れてるからね。あまり怖くないんだ。」
ドロシーは日傘で少年をつついた。
「車掌さんは、今まででいちばんひどい地震だって言ってたわ。」
「そうなの? じゃあ、ぼくが眠ってる間に起きたんだろうな」少年は考え込むように言った。
しばらく二人は黙り、馬だけが長く規則正しい足取りで走りつづけた。やがてドロシーが尋ねた。
「ヘンリーおじさんは元気?」
「かなり元気だよ。ハグソンおじさんと、楽しく過ごしてる。」
「ハグソンさんは、あなたのおじさんなの?」
「そう。ビル・ハグソンおじさんは、きみのヘンリーおじさんの奥さんの妹と結婚したんだ。だからぼくらは、またいとこってことになるのかな」少年は面白そうに言った。「ぼくはビルおじさんの牧場で働いていて、月に六ドルと食事をもらってる。」
「それって、ずいぶん多いんじゃない?」ドロシーは半信半疑で尋ねた。
「そりゃ、ハグソンおじさんにとっては大金だけど、ぼくにとってはそうでもないよ。ぼくはすごくよく働くんだ。眠るのと同じくらい、働くのも得意だからね」少年は笑いながら付け加えた。
「名前は何ていうの?」少年の態度と明るい声が気に入ったドロシーは尋ねた。
「あまり格好いい名前じゃないよ」少し恥ずかしそうに答えた。「本当の名前はゼベダイア。でもみんな、ただ『ゼブ』って呼ぶ。きみ、オーストラリアへ行ってたんだろ?」
「ええ、ヘンリーおじさんと一緒にね。一週間前にサンフランシスコへ着いて、ヘンリーおじさんはすぐハグソン牧場へ遊びに行ったの。私は、旅の途中で知り合った友だちと何日か町に残ってたのよ。」
「ここにはどのくらいいるの?」
「一日だけ。明日、ヘンリーおじさんとカンザスへ帰らなきゃ。ずいぶん長く家を空けてたから、早く帰りたいの。」
少年は鞭で、大きく骨張った馬を軽く打ち、考え込んだ顔をした。それから隣の少女に何か言いかけたが、口を開くより早く、軽馬車が危険なほど左右に揺れはじめ、目の前の大地が盛り上がったように見えた。次の瞬間、ごうっという音と鋭い衝撃音が響き、ドロシーのすぐそばで地面が大きく裂け、また閉じた。
「まあ!」座席の鉄の手すりを握りしめ、ドロシーは叫んだ。「今のは何?」
「ものすごく大きな地震だ」真っ青な顔でゼブが答えた。「今のは危うく飲み込まれるところだったよ、ドロシー。」
馬は急停止し、岩のようにどっしり立っていた。ゼブは手綱を振り、進めと促したが、ジムは頑として動かなかった。そこで少年が鞭を鳴らし、馬の脇腹に触れると、ジムは不満げに低くうめきながら、道をゆっくり進みはじめた。
それから数分間、少年も少女も口をきかなかった。空気そのものに危険の気配が漂い、数分おきに大地が激しく揺れた。ジムは両耳をぴんと立て、大きな体の筋肉を一つ残らず緊張させながら、家を目指して走った。それほど速くはなかったが、脇腹には泡の粒が浮かびはじめ、時折、木の葉のように体を震わせた。
空はふたたび暗くなり、谷を吹き抜ける風が、すすり泣くような奇妙な音を立てた。
突然、引き裂くようなすさまじい音が響き、馬の立っていた真下で、大地がまたも大きく割れた。恐怖に狂ったいななきを上げ、馬は軽馬車も乗っていた二人もろとも、穴の中へ落ちていった。
ドロシーは馬車の幌にしがみつき、少年も同じようにつかまった。突然、何もない空間へ放り出されたため、二人は混乱し、何も考えられなかった。
四方から暗闇に包み込まれ、二人は息を詰めたまま、落下が終わるのを待った。その先には、ぎざぎざの岩にたたきつけられる運命か、ふたたび大地が閉じ、恐ろしい深みへ永遠に埋められる運命が待っているように思えた。
落ちていくおぞましい感覚、暗闇、そして恐ろしい音――それはドロシーが耐えられる限界を超えていた。少女はしばらく気を失った。ゼブは少年だったので気絶こそしなかったが、ひどくおびえ、これが人生最後の瞬間になるのではと覚悟しながら、軽馬車の座席へ必死にしがみついていた。

第二章

ガラスの都

ドロシーが意識を取り戻したとき、一行はまだ落ちつづけていた。ただし、さっきほど速くはなかった。軽馬車の幌が、まるで落下傘か、風をはらんだ傘のように空気を受けて速度を抑えていたため、耐えられないほど不快ではない、穏やかな動きでふわふわと降りていた。何より恐ろしいのは、この大きな地割れの底へたどり着くことと、いつ何時、突然の死が襲ってくるかもしれないという当然の不安だった。はるか頭上では、裂けた大地が閉じるたび、次から次へと激しい衝突音が響き、石や粘土の塊が四方をがらがらと落ちていった。その姿は見えなかったが、軽馬車の幌を次々と打つ感触は伝わってきた。追いついてきた石が骨張った体に当たるたび、ジムは人間さながらの悲鳴を上げた。しかし哀れな馬は、実際にはさほど傷ついていなかった。何もかもが一緒に落ちているうえ、石やがれきのほうが、空気に押し止められた馬や軽馬車より速く落ちてきただけなのだ。つまり、おびえきった馬は、傷ついた以上に怖がっていたのである。
こんな状態がどれほど続いたのか、ひどく混乱していたドロシーには見当もつかなかった。だがやがて、胸をどきどきさせながら目の前の暗い裂け目を見つめていると、馬のジムの姿がぼんやり見えはじめた。頭を宙へ突き出し、耳をぴんと立て、長い脚を四方へ広げたまま、空間を転げ落ちている。振り返ると、隣にいる少年の姿も見えた。ゼブは今まで、ドロシーと同じように身じろぎもせず、黙り込んでいた。
ドロシーはため息をつき、少し楽に息をしはじめた。どうやら死ぬ運命ではなく、ただ新たな冒険へ乗り出しただけらしい。そしてその冒険は、これまで経験してきたものと同じくらい、奇妙で風変わりなものになりそうだった。
そう考えると勇気が湧き、ドロシーは軽馬車の横から頭を突き出して、不思議な光がどこから来るのか探した。はるか下方に、空中へ浮かぶ六つの巨大な光る球が見えた。真ん中にある最も大きな球は白く、太陽を思わせた。その周囲には、星の五つの頂点を描くように、ほかの五つの輝く球が並んでいる。一つは薔薇色、一つは紫、一つは黄色、一つは青、そして一つは橙色だった。この華麗な色彩の太陽たちは、あらゆる方向へ光線を放っていた。ドロシーとゼブを乗せた馬車が着実に沈み、光へ近づくにつれ、その光線は虹のような繊細な色合いを帯びはじめた。刻一刻と鮮やかさを増し、やがてあたり一面がまばゆく照らし出された。
ドロシーはまだ茫然としていて、あまり口をきけなかった。だがジムの大きな耳の一方が紫、もう一方が薔薇色になるのを眺め、尻尾が黄色に、胴体がシマウマの縞のような青と橙になったのを不思議に思った。それからゼブを見ると、顔は青く、髪は桃色だったので、少し緊張をにじませた笑い声を漏らした。
「おかしいわね?」
少年はぎょっとし、目を大きく見開いた。ドロシーの顔の真ん中には、青と黄色の光が交わるところに緑色の筋が走っており、その姿がゼブの恐怖をいっそう募らせたらしい。
「ぼ、ぼくには、な、何もおかしくなんか見えないよ!」
馬も、軽馬車も、何もかもゆっくり落ちていった。
そのとき軽馬車が、ゆっくり横へ傾いた。馬の体も同じように傾いた。それでも全員まとまったまま落ちつづけていたので、少年と少女は先ほどと変わらず、苦もなく座席に座っていられた。やがて上下が逆さまになり、またゆっくり回転して元の向きへ戻った。その間、ジムは空中で四本の脚を振り回し、必死にもがいていた。だが元の姿勢へ戻ったとわかると、ほっとした声で馬が言った。
「やれやれ、こっちのほうがましだ!」
ドロシーとゼブは驚き、お互いの顔を見合わせた。
「あなたの馬、しゃべれるの?」ドロシーが尋ねた。
「今までしゃべるなんて知らなかった」少年が答えた。
「今のが、生まれて初めて口にした言葉だよ」二人の会話を聞いていた馬が叫んだ。「どうして急にしゃべれたのかは、私にも説明できない。まったく、とんでもない災難に巻き込んでくれたもんだな?」
「それを言うなら、私たちだって同じ災難に巻き込まれてるのよ」ドロシーは明るく答えた。「でも気にしないで。もうすぐ何かが起きるわ。」
「もちろん起きるさ」馬は不機嫌そうにうなった。「そして起きたあとで、起きなければよかったと後悔するんだ。」
ゼブは身震いした。何もかもが恐ろしく、現実離れしすぎていて、まるで理解できなかった。怖がるのも無理はない。
一行は、燃え立つ色とりどりの太陽へぐんぐん近づき、そのすぐそばを通り過ぎた。光は目がくらむほどまぶしく、失明しないよう全員が手で顔を覆った。ただし色彩の太陽には熱がなかった。その下まで通り過ぎると、軽馬車の幌が刺すような光線の多くを遮ったので、少年と少女はふたたび目を開けることができた。
「いつかは底へ着くはずだ」ゼブは深いため息とともに言った。「いつまでも落ちつづけるわけにはいかないからね。」
「もちろんよ」とドロシー。「私たちは今、地球の真ん中あたりにいるんだわ。もうすぐ反対側へ出るかもしれない。でも、大きな空洞ね?」
「ものすごく大きいよ!」少年が答えた。
「今度こそ、何かに近づいてるぞ」馬が知らせた。
二人はそろって軽馬車の横から頭を出し、下を見た。確かに地面がある。それも、それほど遠くはない。ただ、一行はあまりにもゆっくり――もはや落下とは呼べないほどゆっくり――漂っていたので、子どもたちは気を取り直し、周囲を眺める時間がたっぷりあった。
眼下には、山や平原、湖や川のある景色が広がっており、地上の風景とよく似ていた。ただし、あらゆるものが六つの太陽の多彩な光を受け、見事な色に染まっていた。ところどころに家々が集まっており、きらきら輝いているため、透明なガラスでできているように見えた。
「危険はないと思うわ」ドロシーは真剣な声で言った。「とてもゆっくり落ちているから、着地しても粉々にはならないし、今から降りる国も、なかなかきれいみたい。」
「でも、もう二度と家へ帰れない!」ゼブはうめいた。
「そうとは限らないわ」と少女は答えた。「でもゼブ、そんなことを心配するのはやめましょう。今はどうしようもないんだもの。起きてもいない災難を心配するのは愚かなことだって、いつも言われてきたわ。」
あまりにもっともな言葉だったので、少年は返す言葉もなく黙った。やがて二人とも、眼下に広がる奇妙な光景に夢中になった。どうやら一行は、高い建物がいくつも立ち並ぶ大きな都の真ん中へ、まっすぐ落ちているらしい。建物にはガラスの丸屋根と、先の鋭い尖塔があった。その尖塔は巨大な槍の穂先のようで、もしその一本に落ちれば、ひどい怪我をしかねない。
馬のジムも尖塔に気づき、恐怖で耳をぴんと立てた。ドロシーとゼブも、固唾をのんで見守った。しかし心配は無用だった。一行は広く平らな屋根へふわりと降り、ついに止まった。
足の下に固いものを感じると、哀れなジムの脚はひどく震え、立っているのもやっとだった。一方、ゼブはすぐに軽馬車から屋根へ飛び降りたが、あまりに慌てて不器用に動いたため、ドロシーの鳥籠を蹴倒してしまった。籠は屋根の上を転がり、底が外れた。するとひっくり返った籠から桃色の子猫がはい出し、ガラスの屋根に座り込んで、あくびをしながら丸い目をぱちぱちさせた。
「あら」とドロシー。「ユリーカだわ。」
「桃色の猫なんて初めて見た」とゼブ。
「ユリーカは桃色じゃなくて白よ。この変な光のせいで、そう見えるだけ。」
「私のミルクはどこ?」子猫はドロシーの顔を見上げて尋ねた。「もうお腹がすいて死にそうよ。」
「まあ、ユリーカ! あなた、しゃべれるの?」
「しゃべる? 私、しゃべってる? まあ大変、本当にしゃべってるわ。おかしくない?」子猫が尋ねた。
「これは間違ってる」ゼブは真剣な顔で言った。「動物はしゃべるべきじゃないよ。でも、事故に遭ってからは、年寄りのジムまでいろいろしゃべってる。」
「どこが間違っているのかわからないね」ジムがしわがれ声で言った。「少なくとも、ほかのいくつかの出来事ほど間違ってはいない。これから私たちはどうなるんだ?」
「わからないよ」少年は珍しそうに周囲を見回しながら答えた。
都の家はすべてガラスでできており、あまりに澄みきっていたため、窓越しと同じくらい簡単に壁の向こうが見えた。ドロシーが立つ屋根の下には、休憩室に使われている部屋がいくつかあった。その隅に、何体もの奇妙な姿が固まっているようにも見えた。
隣の屋根には大きな穴が開き、ガラスの破片が四方に散らばっていた。近くの尖塔も途中で折れ、そのかけらが脇に山積みになっている。ほかにも、ひびの入った建物や、角が欠けた建物があった。こうした事故で完全な姿を損なう前は、さぞ美しかったことだろう。色彩の太陽が放つ虹色の光は、ガラスの都へ柔らかく降り注ぎ、建物を絶えず移ろう繊細な色合いで染め上げていた。それは実に美しい眺めだった。
しかし、見知らぬ一行が到着してからというもの、自分たちの声を除けば、静寂を破る音は何一つなかった。この壮麗な地底の都には、住民が一人もいないのだろうかと、みなは不思議に思いはじめた。
突然、隣の屋根の穴から一人の男が現れ、全身をはっきり見せた。さほど大柄ではないが、均整の取れた体つきで、美しい顔をしていた。立派な肖像画に描かれた顔のように、静かで穏やかだ。服は体にぴったりと合い、鮮やかな緑の濃淡で華やかに彩られていた。その色合いは太陽光を受けるたびに変化したが、光線にすっかり左右されているわけではなかった。
男はガラスの屋根を一、二歩進んでから、見知らぬ一行の存在に気づき、急に立ち止まった。穏やかな顔には、恐怖も驚きも表れていなかった。だが実際には、その両方を感じていたに違いない。馬の不格好な姿をしばらく見つめたあと、奇妙な動物から目を離せず肩越しに振り返ったまま、屋根のいちばん遠い端へ足早に歩いていったからだ。
「危ない!」美しい男が前を見ずに歩いているのに気づき、ドロシーは叫んだ。「気をつけて、落ちるわよ!」
しかし男は警告に耳を貸さなかった。高い屋根の端へ着くと、片足を空中へ踏み出し、まるで固い地面の上にいるかのように、平然と宙を歩いていった。
ひどく驚いた少女は屋根の端へ駆け寄り、身を乗り出した。男は地面へ向かい、空中を足早に歩いていた。やがて通りへ着くと、ガラスの扉を抜け、ガラスの建物の一つへ消えていった。
「なんて不思議なの!」ドロシーは深く息をついた。
「そうね。でも、不思議だからこそ、すごく楽しいわ」子猫の小さな声が言った。ドロシーが振り返ると、ユリーカは屋根の端から一フィート(約三十センチ)ほど離れた空中を歩いていた。
「戻ってきて、ユリーカ!」ドロシーはうろたえて叫んだ。「絶対に死んじゃうわ!」
「私には九つの命があるの」子猫はのどを優しく鳴らし、空中を一周してから屋根へ戻ってきた。「でも、この国じゃ落ちて命を一つ失うことさえできないわ。落ちたくても、どうしても落ちられないんだもの。」
「空気があなたの体重を支えてるの?」少女が尋ねた。
「もちろんよ。見ればわかるでしょう?」子猫はまた空中へ歩み出し、屋根の端へ戻ってきた。
「すごいわ!」とドロシー。
「ユリーカに通りまで降りてもらって、だれか助けを呼んできてもらったらどう?」奇妙な出来事にドロシー以上に驚いていたゼブが提案した。
「私たちだって空気の上を歩けるかもしれないわ」と少女。
ゼブは震えながら後ずさりした。
「ぼくには試す勇気がないよ。」
「もしかしたら、ジムなら行くかも」ドロシーは馬を見ながら続けた。
「行くものか!」ジムが答えた。「もう十分すぎるほど空を転げ落ちた。この屋根にいられれば満足だ。」
「でも屋根へ転げ落ちたわけじゃないでしょう」少女は言った。「ここへ着くころには、とてもゆっくり漂ってた。きっと通りまで降りても怪我はしないわ。ユリーカはちゃんと空中を歩けてるもの。」
「ユリーカの体重は、たった半ポンド(約二百三十グラム)ほどだ」馬は軽蔑するような口調で答えた。「だが私は半トン(約四百五十キログラム)ほどもある。」
「ジムは本来あるべき体重より軽いわ」少女は馬を眺め、首を振った。「ひどく痩せてるもの。」
「まあ、年寄りだからね」馬はがっくり頭を垂れた。「それにお嬢ちゃん、私はこれまで、さんざん苦労してきた。何年もの間、シカゴで辻馬車を引いていたんだ。そんな仕事をしていれば、だれだって痩せるさ。」
「太るには十分なくらい食べてると思うけどね」少年は真面目な顔で言った。
「そうか? 今日、私が朝食を食べた記憶があるか?」ゼブの言葉に腹を立てたように、ジムはうなった。
「朝食を食べたのは一人もいないよ」と少年。「こんな危険なときに、食べ物の話をするなんて馬鹿げてる。」
「食べ物がないことほど危険なものはない」若い主人の叱責に、馬は鼻を鳴らした。「それに今のところ、この奇妙な国にカラス麦があるかどうかさえ、だれにもわからない。あったとしても、ガラスのカラス麦かもしれないぞ!」
「来いよ、ジム! 大丈夫だ!」
「そんなことないわ!」ドロシーは叫んだ。「この都の外れに、きれいな庭や畑がたくさん見えるもの。でも、地面へ降りる方法が見つかればいいんだけど。」
「歩いて降りればいいじゃない」ユリーカが言った。「私も馬と同じくらいお腹がすいたし、ミルクが欲しいわ。」
「試してみる、ゼブ?」少女は連れの少年へ振り返って尋ねた。
ゼブはためらった。この恐ろしい冒険ですっかり動揺し、不安にさいなまれていたため、まだ青ざめ、おびえていた。だが少女に臆病者だと思われたくはなかったので、屋根の端へゆっくり近づいた。
ドロシーが手を差し出すと、ゼブはその手を握り、片足を屋根の端から少し先の空中へ出して、その上に置いた。どうやら歩けるほどしっかりしている。勇気を得たゼブは、もう片方の足も踏み出した。ドロシーは手を握ったままあとに続き、ほどなく二人は空中を歩きはじめた。子猫も二人のそばで跳ね回った。
「来いよ、ジム!」少年が呼びかけた。「大丈夫だ!」
ジムは屋根の端までにじり寄り、下をのぞいていた。分別があり、経験も豊富な馬なので、ほかのみんなが進めた場所なら、自分も行けるだろうと判断した。そこで鼻を鳴らし、いななき、短い尻尾をひと振りすると、屋根から空中へ小走りに踏み出し、すぐに通りへ向かって漂い降りはじめた。体重が重いため、歩いている子どもたちより速く落ち、途中で二人を追い越した。だがガラスの舗道へ着くと、衝撃すら感じないほど柔らかく降り立った。
「まあ、まあ!」ドロシーは深く息をついた。「なんて不思議な国なのかしら。」
新しくやってきた一行を見ようと、人々がガラスの扉から出てきた。ほどなく、かなりの人だかりができた。男も女もいたが、子どもは一人もいない。だれもが均整の取れた美しい姿をし、魅力的な服をまとい、驚くほど整った顔立ちだった。群衆の中には醜い者が一人もいなかった。それでもドロシーは、あまり好感を抱かなかった。彼らの顔には、人形の顔と同じように何の表情もなかったからだ。笑いも、眉をひそめもせず、恐れも、驚きも、好奇心も、親しみも見せない。ただ一行をじっと見つめ、とりわけジムとユリーカへ目を注いでいた。彼らは馬も猫も一度も見たことがなかったが、子どもたちは外見上、自分たちに似ていたのである。
やがて、額のすぐ上の黒髪に、きらめく星をつけた男が一団へ加わった。権威ある人物らしく、ほかの者たちは道を空けるため後ろへ下がった。男は静かな目を、まず動物たちへ、次に子どもたちへ向けた。それから、ドロシーより少し背の高いゼブに言った。
「答えよ、侵入者。石の雨を降らせたのはおまえか?」
少年には、その質問が何を意味するのか、しばらくわからなかった。だが自分たちと一緒に落ちてきて、この場所へ着くよりずっと前に追い越していった石のことを思い出し、答えた。
「いいえ。ぼくらは何も起こしてません。地震のせいです。」
星をつけた男はしばらく黙り、その答えについて考えた。それから尋ねた。
「地震とは何だ?」
「わかりません」まだ混乱していたゼブが答えた。だが少年が困っているのを見て、ドロシーが代わりに答えた。
「大地が揺れることよ。今回の地震で大きな裂け目が開いて、私たちは馬も軽馬車も何もかも一緒に落ちたの。石も外れて、一緒に降ってきたのよ。」
星をつけた男は、穏やかで無表情な目をドロシーへ向けた。
「石の雨は我らの都へ大きな被害を与えた」と男は言った。「潔白を証明できないかぎり、おまえたちに責任を取らせる。」
「どうやって証明するの?」少女が尋ねた。
「それについて答える用意はない。おまえたちの問題であって、私の問題ではない。魔法使いの家へ行け。魔法使いなら、たちまち真実を見抜くだろう。」
「魔法使いの家はどこ?」少女が尋ねた。
「案内しよう。来い!」
男は向きを変え、通りを歩いていった。ドロシーは少しためらってから、ユリーカを抱き上げて軽馬車へ乗り込んだ。少年も隣に座り、「進め、ジム」と声をかけた。
馬が軽馬車を引いてゆっくり進むと、ガラスの都の住民たちは道を空け、その後ろへ列を作った。一行はゆっくりと、ある通りを下り、別の通りを上り、右へ左へと曲がっていった。やがて開けた広場へ着いた。その中央には大きなガラスの宮殿が立ち、真ん中には丸屋根、四隅には高い尖塔が一本ずつそびえていた。

第三章

魔法使いの到着

ガラスの宮殿の入り口は、馬と軽馬車が入るのに十分な大きさだった。そこでゼブは、そのまままっすぐ中へ乗り入れた。子どもたちがたどり着いたのは、高い天井を持つ、とても美しい大広間だった。住民たちもすぐあとに続き、広々とした部屋の壁際を囲むように輪を作った。広間の中央には、馬と軽馬車、そして星をつけた男だけが残された。
「我らのもとへ来たれ、おお、グウィグよ!」男が大声で呼びかけた。
たちまち煙の雲が現れ、床の上を流れた。煙はゆっくり広がりながら丸屋根へ昇っていき、ジムの鼻先に置かれたガラスの玉座に座る、奇妙な人物を露わにした。その者も、この国のほかの住民と同じ体つきをしており、服も鮮やかな黄色であること以外は変わらなかった。ただし髪は一本もなく、禿げた頭にも顔にも、両手の甲にも、薔薇の枝に生えるような鋭い棘がびっしり生えていた。鼻先にまで一本の棘があり、その姿があまりに滑稽だったので、ドロシーは見た途端に笑ってしまった。
笑い声を聞いた魔法使いは、冷酷な目を少女へ向けた。その視線を受け、ドロシーの顔から笑みが一瞬で消えた。
「なぜ貴様らは、この世から隔絶されたマンガブーの国へ、招かれもしない身で侵入することを敢えてした?」魔法使いは厳しく尋ねた。
「だって、どうしようもなかったんだもの」とドロシー。
「なぜ邪悪にも、悪意をもって石の雨を降らせ、我らの家々にひびを入れ、打ち壊した?」魔法使いは続けた。
「私たちじゃないわ」と少女は言い切った。
「証明しろ!」魔法使いが叫んだ。
「証明なんてしなくていいはずよ」ドロシーは憤然と答えた。「少しでも頭が働くなら、地震のせいだってわかるでしょう。」
「我らが知るのは、昨日、石の雨が降り、多大な被害をもたらし、民の一部を傷つけたということだけだ。そして今日も石の雨が降り、その直後におまえたちが現れた。」
「ところで」星をつけた男は、魔法使いをじっと見据えて言った。「おまえは昨日、二度目の石の雨は降らないと言ったな。ところが今、最初よりさらにひどい石の雨が降った。真実を告げられぬ魔法など、何の役に立つ?」
「私の魔法は真実を告げる!」棘だらけの男は言い張った。「石の雨は一度しか降らぬと言ったのだ。二度目のあれは、人と馬と軽馬車の雨だった。石もいくらか一緒に降ってきただけだ。」
「これ以上、雨は降るか?」星をつけた男が尋ねた。
「いいえ、プリンス。」
「石も、人もか?」
「何も降りません、プリンス。」
「確かか?」
「まったく確かです、プリンス。私の魔法がそう告げています。」
そのとき一人の男が広間へ駆け込み、深く一礼してからプリンスへ声をかけた。
「閣下、空にさらなる異変が起きております。」
プリンスとすべての民は、何が起きようとしているのか確かめるため、ただちに広間を出て通りへ押し寄せた。ドロシーとゼブも軽馬車から飛び降り、あとを追った。しかし魔法使いだけは、平然と玉座へ残った。
はるか上空に、気球のような物体が見えた。それは六つの色彩の太陽が作る輝く星ほど高いところにはなく、ゆっくり空中を降りていた――あまりに遅く、最初はほとんど動いていないように見えた。
群衆はじっと立って待った。それ以外に、できることはなかった。あの奇妙な光景を残して立ち去ることなどできず、落下を速めるすべもなかった。地上から来た子どもたちは、マンガブーの平均的な背丈と大差なかったため、だれにも注目されなかった。馬は魔法使いの家に残っており、ユリーカは軽馬車の座席で丸くなって眠っていた。
気球は少しずつ大きくなっていった。それは、マンガブーの国へ降りてきている証拠だった。住民たちがこれほど辛抱強いことに、ドロシーは驚いた。少女の小さな心臓は、興奮で激しく高鳴っていたからだ。気球が現れたということは、地上からまただれかがやってきたに違いない。その人物が、自分とゼブを苦境から救ってくれる人であってほしいと願った。
一時間後、気球は下に吊り下げられた籠が見えるほど近づいた。二時間後には、籠の縁からのぞく頭が見えた。そして三時間後、大きな気球は一同の立つ広場へゆっくり降り、ガラスの舗道へ着地した。
すると籠から小柄な男が飛び出し、山高帽を脱ぐと、周囲を取り囲むマンガブーの群衆へ実に優雅なお辞儀をした。かなり年を取った小男で、頭は長く、すっかり禿げ上がっていた。
「まあ!」ドロシーは驚いて叫んだ。「オズだわ!」
小男はドロシーのほうを向き、少女と同じくらい驚いた様子だった。それでも笑顔でお辞儀をし、答えた。
「そのとおり、お嬢さん。私は偉大にして恐るべきオズ。おや? きみはカンザスの小さなドロシーだね。よく覚えているとも。」
「だれだって言ったの?」ゼブが少女へささやいた。
「すばらしいオズの魔法使いよ。聞いたことないの?」
そのとき星をつけた男が進み出て、魔法使いの前へ立った。
「そなたは」と男は言った。「なぜマンガブーの国にいる?」
「ここが何という国か知らなかったのだよ、きみ」小男は愛想よく笑って答えた。「正直に言えば、出発したときには、きみたちを訪ねるつもりなどなかった。私は地上に住んでいるのです、閣下。地球の中で暮らすより、はるかにいい場所でね。だが昨日、気球で空へ昇ったあと、降りてきたところ、地震でできた大きな地割れへ落ちてしまった。気球からガスを抜きすぎて、もう一度上昇することもできず、数分後には頭上で大地が閉じてしまった。そこでこの場所へ着くまで降りつづけてきたというわけです。ここから出る道を教えてくだされば、喜んで立ち去りましょう。お騒がせして申し訳ないが、どうしようもなかったのです。」
プリンスは注意深く耳を傾けていた。そして言った。
「この子どもは、そなたと同じく地表から来た者だが、そなたを『魔法使い』と呼んだ。魔法使いとは、妖術使いのようなものではないのか?」
「魔法使いのほうが上です」とオズは即座に答えた。「魔法使い一人には、妖術使い三人分の価値がある。」
「ならば証明してもらおう」とプリンス。「我らマンガブーには現在、これまで灌木から摘み取られた中でも屈指の、すばらしい妖術使いがいる。ただし、ときおり間違いを犯す。そなたは間違うことがあるか?」
「一度もありません!」魔法使いは堂々と言い放った。
「まあ、オズ!」ドロシーが言った。「すばらしいオズの国にいたとき、たくさん間違えたじゃない。」
「でたらめを言うな!」小男は顔を赤らめて言った――もっとも、そのとき丸い顔には紫色の太陽光が差していた。
「私についてこい」とプリンスは言った。「我らの妖術使いに会わせよう。」
魔法使いはその誘いを気に入らなかったが、断るわけにもいかなかった。そこでプリンスのあとに続いて、丸屋根を持つ大広間へ入った。ドロシーとゼブも続き、群衆もぞろぞろ中へ入ってきた。
棘だらけの妖術使いは、威厳ある椅子に座っていた。魔法使いはその姿を見ると、おかしそうにくすくす笑いはじめた。
「なんとも滑稽な生き物だ!」オズは叫んだ。
「滑稽に見えるかもしれぬ」プリンスは静かな声で言った。「だが優れた妖術使いだ。私が見出した唯一の欠点は、あまりに頻繁に間違うことだ。」
「私は決して間違わぬ」と妖術使いが答えた。
「ほんの少し前、そなたは、石の雨も人の雨も、もう降らぬと私に言った」とプリンス。
「それがどうした?」
「また一人、空から降りてきた者がいる。そなたが間違っていた証拠だ。」
「一人だけなら『人々』とは呼べぬ」と妖術使い。「二人が空から来たなら、私が間違ったと言ってもよかろう。しかし、この者のほかに現れないかぎり、私は正しかったと主張する。」
「実に巧みだ」魔法使いは満足そうにうなずいた。「地上と同じように、地球の中にもいかさま師がいると知って、うれしいよ。ところで兄弟、サーカスにいたことは?」
「ない」と妖術使い。
「なら入るべきだ」小男は真剣に言った。「私はベイラム&バーニー大合同ショーに所属している――一つのテントに三つのリング、それに動物園もついている。実にすばらしい一座だと請け合うよ。」
「何をするのだ?」妖術使いが尋ねた。
「たいていは気球で空へ昇り、サーカスへ客を呼ぶのだ。だが今回は運悪く、空から降りたと思ったら、固い大地を通り越し、予定よりずいぶん下へ着いてしまった。まあ、それは気にしないでおこう。ガバズーの国を見る機会など、だれにでもあるわけではないからね。」
「マンガブーだ」妖術使いが訂正した。「魔法使いなら、人々を正しい名で呼べるはずだ。」
「ああ、私は魔法使いだ。それは間違いない。きみが妖術使いとして優れているのと同じくらい、優れた魔法使いだとも。」
「それは、これから明らかになる」と相手は言った。
「もし、そなたのほうが優れていると証明できれば」プリンスが小男へ言った。「この領地の大魔法使いに任命しよう。さもなければ――」
「さもなければ、どうなるのです?」魔法使いが尋ねた。
「そなたの命を止め、植えられることも禁じる」とプリンスは答えた。
「あまり愉快な話ではありませんな」小男は星をつけた者を不安そうに見た。「だが構わない。この棘じいさんには、きっと勝てる。」
「私の名はグウィグだ」妖術使いは、情け容赦のない残酷な目を競争相手へ向けた。「これから見せる妖術と同じことができるか、試してみろ。」
グウィグが棘だらけの手を振ると、たちまち鈴が鳴り、甘美な音楽を奏ではじめた。ところがドロシーがガラスの大広間をどれだけ見回しても、鈴は一つも見つからなかった。
マンガブーの人々は耳を傾けたものの、たいして興味を示さなかった。グウィグが自分は妖術使いだと証明するため、いつもやっている芸の一つだったのだ。
今度は魔法使いの番だった。そこでオズは一同へ笑いかけ、尋ねた。
「どなたか、帽子を一つ貸していただけませんかな?」
だれも貸さなかった。マンガブーは帽子をかぶらず、ゼブも空を落ちてくる途中で、どういうわけか帽子を失っていたからだ。
「えへん!」魔法使いは言った。「では、どなたかハンカチを貸していただけませんかな?」
だが、ハンカチを持つ者もいなかった。
「よろしい」と魔法使い。「それでは失礼して、自分の帽子を使うとしよう。さて、みなさん、よくご覧ください。袖の中には何もなく、体のどこにも隠している物はありません。そして帽子の中も、すっかり空です。」
帽子を脱いで逆さにし、勢いよく振ってみせた。
「見せろ」と妖術使い。
グウィグは帽子を受け取って注意深く調べ、それから魔法使いへ返した。
「では」小男は言った。「無から何かを生み出してご覧に入れよう。」
ガラスの床に帽子を置き、手をひと振りしてから帽子を取り上げると、その下にはネズミほどの大きさしかない白い子豚がいた。子豚はあちらこちらを駆け回り、小さく甲高い声で、ぶうぶう、きいきい鳴きはじめた。
人々は熱心に見つめた。大きな豚も小さな豚も、今まで見たことがなかったからだ。魔法使いは手を伸ばして小さな生き物を捕まえると、一方の手の親指と人差し指で頭を、もう一方の手の親指と人差し指で尻尾をつまんで、二つに引き離した。すると二つに分かれた部分が、一瞬でそれぞれ完全な子豚になった。
一匹を床へ置いて走らせ、もう一匹を引き離して、全部で三匹にした。それから、そのうち一匹を引き離し、四匹にした。魔法使いはこの驚くべき芸を続け、ついには九匹の小さな子豚が足元を走り回った。そろって、ひどく滑稽にきいきい、ぶうぶう鳴いている。
「さて」とオズの魔法使い。「無から有を作り出したところで、今度は有をふたたび無に戻してご覧に入れよう。」
二匹の子豚をつかみ上げ、押し合わせると、二匹は一匹になった。さらに別の子豚をつかみ、最初の子豚へ押し込むと、姿が消えた。そうして九匹の小さな子豚は一匹ずつ押し合わされ、ついには一匹だけが残った。魔法使いは最後の一匹を帽子の下へ置き、その上で神秘的な印を切った。帽子をどけると、最後の子豚もすっかり消えていた。
小男は黙って見ていた群衆へ一礼した。するとプリンスが、冷たく穏やかな声で言った。
「そなたは確かに驚くべき魔法使いだ。その力は、我が妖術使いよりも優れている。」
「驚くべき魔法使いでいられるのも長くはない」グウィグが言った。
「なぜだ?」魔法使いが尋ねた。
「そなたの息を止めるからだ」と答えた。「どうやら、そなたは奇妙な造りをしており、呼吸ができなければ生きていられぬらしい。」
小男は困った顔をした。
「私の息を止めるには、どれくらいかかる?」と尋ねた。
「五分ほどだ。今から始める。よく見ていろ。」
グウィグは魔法使いへ向けて、奇妙な印を切り、手を振りはじめた。だが小男は、長く見てはいなかった。代わりにポケットから革のケースを出し、中から鋭い刃を何本も取り出した。それを一本ずつつないで、長い剣を作った。柄を取りつけるころには、妖術使いのまじないが効きはじめ、呼吸がひどく苦しくなっていた。
そこで魔法使いは一刻も無駄にせず、前へ飛び出した。鋭い剣を振り上げ、頭上で一度、二度と回すと、力いっぱい振り下ろし、妖術使いの体を真っ二つに切り裂いた。
ドロシーは悲鳴を上げ、恐ろしい光景を覚悟した。しかし床に倒れた妖術使いの二つの半身を見ると、中には骨も血もまったくなかった。切り口は、薄切りにしたカブかジャガイモによく似ていた。
「なんと、こいつは野菜だ!」魔法使いは驚いて叫んだ。
「当然だ」とプリンス。「この国では、我らはみな野菜だ。そなたも野菜ではないのか?」
「違う」と魔法使いは答えた。「地上の人間は、みな肉でできている。おまえたちの妖術使いは死ぬのか?」
「もちろんだ。もう完全に死んでおり、すぐにしなびる。ゆえにただちに植え、あの者の灌木から新たな妖術使いたちが育つようにしなければならぬ」プリンスは続けた。
「それはどういう意味だ?」小さな魔法使いは、ひどく困惑して尋ねた。
「我らの公共庭園まで同行するなら」プリンスが答えた。「この野菜王国の神秘について、ここで話すよりずっとわかりやすく説明しよう。」
魔法使いは妖術使いを真っ二つに切り裂いた。
第四章

野菜王国

魔法使いが剣の湿り気を拭き取り、分解して革のケースへ戻すと、星をつけた男は、民の何人かに妖術使いの二つの半身を公共庭園へ運ぶよう命じた。
庭園へ行くと聞き、ジムは耳をぴんと立てた。何かまともな食べ物が見つかるかもしれないと思い、自分も一行に加わりたがった。そこでゼブは軽馬車の幌を畳み、魔法使いに一緒に乗るよう勧めた。座席には小男と子ども二人が座っても十分な広さがあった。ジムが広間を出発すると、子猫は馬の背へ飛び乗り、いかにも満足そうにそこへ座った。
こうして行列は通りを進んだ。先頭は妖術使いを運ぶ者たち、次にプリンス、そのあとに見知らぬ者たちを乗せた軽馬車を引くジム、最後に、心を持たず、笑うことも顔をしかめることもできない野菜人間の群衆が続いた。
ガラスの都には大勢の住民が暮らしているため、立派な通りがいくつもあった。行列がそこを抜けると、庭園に覆われた広い平原へ出た。平原には、いくつもの美しい小川が流れ、庭園を潤していた。庭園の間には小道が通り、いくつかの小川には装飾の施されたガラスの橋が架かっていた。
ドロシーとゼブは軽馬車を降り、花や植物をよく眺め、調べられるよう、プリンスのそばを歩いた。
「このすてきな橋はだれが造ったの?」少女が尋ねた。
「だれも造ってはいない」星をつけた男が答えた。「育ったのだ。」
「変なの」ドロシーは言った。「都のガラスの家も育ったの?」
「もちろんだ」と男。「ただし、今のように大きく立派に育つまで、長い年月がかかった。だからこそ、石の雨が降って塔を壊し、屋根にひびを入れると、我らはあれほど腹を立てるのだ。」
「直せないの?」ドロシーが尋ねた。
「直せない。だが時がたてば、またひとりでにつながる。それまでは待つしかない。」
一行はまず、都にいちばん近い、美しい花々の庭園をいくつも通り過ぎた。しかしドロシーには、何の花なのかほとんど見分けられなかった。六つの太陽が放つ、絶えず移り変わる光を受けて、色が次々と変わっていたからだ。ある瞬間には桃色だった花が、次の瞬間には白くなり、それから青や黄色になった。地面近くに育つ、幅広い葉を持つ植物も同じだった。
草原を通ると、ジムはすぐさま頭を下げ、草をかじりはじめた。
「まったく、すてきな国だな」ジムはぶつぶつ言った。「立派な馬が、桃色の草を食べなきゃならないとは!」
「紫色だよ」軽馬車に乗った魔法使いが言った。
「今度は青だ」馬は文句を言った。「実を言えば、私が食べているのは虹色の草だ。」
「味はどうだ?」魔法使いが尋ねた。
「悪くない」とジム。「たっぷり食べさせてくれるなら、色については文句を言わないことにしよう。」
そのころ一行は、耕されたばかりの畑へ着いた。プリンスがドロシーへ言った。
「ここが我らの植えつけ場だ。」
マンガブーが何人かガラスの鋤を持って進み出て、地面に穴を掘った。そこへ妖術使いの二つの半身を入れ、土をかぶせた。そのあと、別の者たちが小川から水を運び、土へ振りかけた。
「じきに芽を出す」とプリンス。「やがて大きな灌木となり、時が来れば、そこから優秀な妖術使いを何人も摘み取れるだろう。」
「ここの人たちは、みんな灌木に実るの?」少年が尋ねた。
「当然だ」と答えた。「おまえたちが来た地表では、人々はみな灌木に実るのではないのか?」
「そんな話は聞いたことがないよ。」
「なんと奇妙な! だが民の庭園まで来れば、マンガブーの国で我らがどのように育つか見せてやろう。」
この奇妙な人々は、たやすく空中を歩けるものの、普段は一般的な方法で地上を移動するようだった。階段は必要ないので家の中にはなかったが、平らなところでは、たいてい私たちと同じように歩いていた。
見知らぬ小さな一行は、さらにいくつかのガラスの橋を渡り、何本もの小道を通って、背の高い生垣に囲まれた庭園へ着いた。ジムは、せっせと草を食べている草原から離れようとしなかった。そこで魔法使いは軽馬車を降り、ゼブとドロシーに加わった。子猫もお行儀よく、その後ろをついていった。
生垣の内側には、立派な大きな植物が何列も並んでいた。幅広い葉が優雅に曲がり、その先は地面へ届きそうなほど垂れている。それぞれの植物の中央には、美しい服を着たマンガブーが一人ずつ実っていた。彼らの衣服は体と一緒に育ち、その身にくっついているのである。
育っているマンガブーの大きさは、花から変わったばかりの小さな赤ん坊から、すっかり成長して、ほとんど熟した男女まで、さまざまだった。灌木によっては、蕾、花、赤ん坊、成長途中の者、熟した者が一緒に実っていた。しかし摘み取れるほど熟した者さえ、命がないかのように動かず、黙っていた。その光景を見て、ドロシーはマンガブーの中に子どもが一人もいなかった理由を理解した。今までずっと不思議に思っていたことだった。
「我らの民は、灌木から離れるまで、本当の命を得ることはない」とプリンス。「見ればわかるように、みな足の裏で植物につながっている。十分に熟せば茎から簡単に離れ、その瞬間、動く力と話す力を得る。つまり、育っている間は本当の意味で生きているとは言えず、善良な市民になるには、まず摘み取られなければならない。」
「摘み取られてから、どのくらい生きるの?」ドロシーが尋ねた。
「それは自分の体をどれだけ大切にするかによる」とプリンス。「涼しく湿った状態を保ち、事故に遭わなければ、五年生きることも多い。私は摘み取られてから六年以上たつが、我が一族は特に長命なことで知られている。」
「食事はするの?」少年が尋ねた。
「食事だと! とんでもない。体の中はすっかり詰まっており、ジャガイモと同じように食べる必要などない。」
「でも、ジャガイモも時々芽を出すよ」とゼブ。
「我らも時には芽を出す」とプリンスは答えた。「だが、それは大きな不幸とされている。そうなれば、ただちに植えられなければならぬからだ。」
「きみはどこで育ったんだ?」魔法使いが尋ねた。
「見せてやろう」と答えた。「こちらへ来い。」
プリンスは一行を、もう一つの、前より小さな生垣の輪の中へ案内した。そこには一本の大きく美しい灌木が育っていた。
「これこそ、マンガブーのロイヤル・ブッシュだ」とプリンス。「太古の昔から、我らのプリンスと統治者はみな、この一本の灌木に実ってきた。」
一同は黙り、感嘆のまなざしで灌木を見つめた。中央の茎には一人の少女が立っていた。姿も色合いも、このうえなく美しい。繊細な顔立ちに浮かぶ表情も愛らしく、ドロシーは、これほどかわいらしく、心を奪われる者を生まれて一度も見たことがないと思った。乙女のドレスはサテンのようになめらかで、豊かなひだを作って体を包んでいた。胴着と袖には、精巧なレースに似た模様が飾られている。肌は磨き上げた象牙のようにきめ細かく、なめらかで、その立ち姿は威厳と優雅さをともに表していた。
「この人はだれ?」魔法使いは興味深そうに尋ねた。
プリンスは灌木の少女を食い入るように見つめていた。そして今、冷たい声にかすかな不安をにじませて答えた。
「私の後継者となる運命にある統治者だ。王族のプリンセスだからな。完全に熟せば、私はマンガブーの統治権を譲らなければならぬ。」
「もう熟してるんじゃない?」ドロシーが尋ねた。
プリンスはためらった。
「まだ完全ではない」やがて言った。「摘み取らねばならなくなるまで、まだ数日はかかる。少なくとも、私はそう判断している。役目を退き、植えられることを急ぐつもりはない。それはわかるだろう。」
「たぶんね」魔法使いはうなずいた。
「これが我ら野菜の命にまつわる、最も不愉快な事柄の一つだ」プリンスはため息をついて続けた。「いちばん盛んな時期に別の者へ道を譲り、土をかぶせられて芽を出し、育ち、新たな民を生み出さねばならぬ。」
「プリンセスは、もう摘み取れると思うわ」美しい灌木の少女をじっと見ながら、ドロシーは言い張った。「これ以上ないくらい完璧だもの。」
「気にするな」プリンスは慌てて答えた。「あと数日はこのままでも問題ない。それに、招かれもせず我が国へ来て、ただちに対処しなければならないそなたたちを始末するまでは、私が統治するのがいちばんだ。」
「ぼくらをどうするつもり?」ゼブが尋ねた。
「まだ完全には決めていない」と答えた。「この魔法使いは、次の妖術使いが摘み取れるまで置いておこうと思う。かなりの腕前があり、役に立つかもしれぬ。だが残りの者は、何らかの方法で滅ぼさなければならない。植えるわけにもいかぬ。この国じゅうに馬や猫や肉人間が生えるのは望まぬからな。」
「心配しなくていいわ」ドロシーは言った。「私たちは地面に埋められても、育ったりしないと思う。」
「だが、なぜ私の友人たちを滅ぼす?」小さな魔法使いが尋ねた。「なぜ生かしておかない?」
「この者たちは、ここに属さぬ」とプリンスは答えた。「地球の中にいる権利など、まったくない。」
「ぼくらはここへ来たいと頼んだんじゃない。落ちたんだ」とドロシー。
「言い訳にはならぬ」とプリンスは冷たく言い放った。
子どもたちは困惑し、顔を見合わせた。魔法使いはため息をついた。ユリーカは前足で顔をこすり、のどを鳴らすような柔らかい声で言った。
「私を滅ぼす必要はないわ。すぐに何か食べないと餓死するから、手間を省いてあげられるもの。」
「きみを植えれば、ネコジャラシが育つかもしれない」魔法使いが言った。
「あっ、ユリーカ! 食べられるトウワタが見つかるかもしれないよ」少年が言った。
「ふん!」子猫はうなった。「そんなまずいもの、触りたくもないわ!」
「もうミルクは必要ないでしょう、ユリーカ」ドロシーが言った。「何でも食べられるくらい大きくなったもの。」
「手に入ればね」とユリーカ。
「ぼくもお腹がすいた」とゼブ。「でも庭の一つにはイチゴが、別の場所にはメロンが実ってた。この人たちはそういうものを食べないから、帰り道で取らせてもらえるかもしれない。」
「空腹など気にするな」プリンスが割り込んだ。「あと数分でおまえたちを滅ぼすよう命じる。ゆえに、美しいメロンの蔓やベリーの灌木を荒らす必要もなくなる。さあ、ついてこい。運命の最期を迎えるのだ。」
第五章

ドロシー、プリンセスを摘み取る

冷たく湿った野菜のプリンスが口にした言葉は、少しも心を慰めてくれなかった。プリンスは言い終えると背を向け、囲いの外へ出ていった。悲しく沈んだ気持ちの子どもたちも、あとを追おうとした。すると魔法使いが、ドロシーの肩へそっと触れた。
「待て!」とささやいた。
「何のために?」少女が尋ねた。
「ロイヤル・プリンセスを摘み取ってはどうだ?」魔法使いは言った。「もう十分に熟しているはずだ。命を得れば、その瞬間から統治者になる。あの無情なプリンスより、私たちに親切にしてくれるかもしれない。」
「いいわ!」ドロシーは勢い込んで叫んだ。「星をつけた男が戻ってくる前に、今のうちに摘み取りましょう。」
二人は一緒に大きな灌木へ身を乗り出し、美しいプリンセスの手を片方ずつつかんだ。
「引いて!」ドロシーが叫んだ。二人が引くと王族の女性は前へ傾き、茎がぽきりと折れて両足から離れた。体は少しも重くなかったので、魔法使いとドロシーは、そっと地面へ降ろすことができた。
美しい女性は一瞬、両手で目をぬぐい、乱れていた髪の一房を整えた。それから庭園を見回し、その場にいる者たちへ優雅に一礼すると、甘く、それでいて平静な声で言った。
「心より感謝します。」
「王女殿下に敬礼いたします!」魔法使いは叫び、ひざまずいてその手へ口づけた。
そのとき、急ぐよう命じるプリンスの声が聞こえた。間もなく、プリンスは大勢の民を従えて囲いへ戻ってきた。
プリンセスはすぐさま振り返り、プリンスと向かい合った。摘み取られた姿を見て、プリンスは立ち止まり、震えはじめた。
「そなたは」王族の女性は威厳に満ちて言った。「私に大きな不正を働きました。見知らぬ方々が助けに来てくださらなければ、さらにひどい仕打ちをしていたでしょう。私は先週からずっと、摘み取られる用意ができていました。それなのに、そなたは身勝手にも不当な統治を続けようと望み、私を灌木の上に立たせ、沈黙させたままにしたのです。」
「熟しているとは知りませんでした」プリンスは小声で答えた。
「王権の星を渡しなさい!」プリンセスは命じた。
プリンスはゆっくりと、自分の額から輝く星を外し、プリンセスの額へつけた。するとすべての民が彼女へ深々と頭を下げた。プリンスは背を向け、一人きりで歩き去った。その後どうなったのか、友人たちはついに知ることがなかった。
マンガブーの民は列を作り、新たな統治者を宮殿まで送り届け、この機会にふさわしい儀式を執り行うため、ガラスの都へ向かって行進した。ただし行列の民が地上を歩く一方、プリンセスは民より優れ、身分も高い存在であることを示すため、彼らの頭上すれすれの空中を歩いた。
今や、見知らぬ一行に注意を払う者はいないようだった。そこでドロシーとゼブと魔法使いは、行列を先へ行かせ、自分たちだけで野菜の庭園を歩き回った。小川へ架かる橋をわざわざ渡ることはせず、流れへ突き当たると、高く足を上げて空中を歩き、反対側へ渡った。三人にとって実に面白い体験だった。ドロシーが言った。
「どうしてこんなに簡単に空中を歩けるのかしら。」
「おそらく」魔法使いが答えた。「ここが地球の中心に近く、重力がとても弱いからだろう。ただし私は、妖精の国では奇妙なことがいくつも起こると知っている。」
「ここは妖精の国なの?」少年が尋ねた。
「もちろんよ」とドロシーは即座に答えた。「野菜の人がいるなんて、妖精の国だけだもの。それにユリーカやジムが私たちみたいにしゃべれるのも、妖精の国だけよ。」
「確かにそうだね」ゼブは考え深げに言った。
野菜の庭園で、一行はイチゴとメロンのほか、見たことはなくてもおいしい果物をいくつも見つけ、腹いっぱい食べた。しかし子猫は、ミルクか肉が欲しいと絶えずせがんで皆を困らせた。さらに魔法使いが魔法でミルクの皿を出せないからと、悪口まで言った。
一同が草の上に座り、まだせっせと食べているジムを眺めていると、ユリーカが言った。
「あなたが魔法使いだなんて、信じられないわ!」
「ああ」小男は答えた。「まったくそのとおりだ。厳密に言えば、私は魔法使いではなく、ただのいかさま師だよ。」
「オズの魔法使いは、昔からずっといかさま師なの」ドロシーも同意した。「長い付き合いだから知ってるわ。」
「もしそうなら」少年が言った。「九匹の小さな子豚を使った、あのすごい魔法はどうやったの?」
「わからない」とドロシー。「でも、きっといかさまよ。」
「そのとおり」魔法使いはドロシーへうなずいた。「あの醜い妖術使いとプリンス、それに愚かな民をだます必要があった。だが、友人であるきみたちには、あれがただの手品だったと打ち明けても構わない。」
「でも、ぼくはこの目で子豚を見たよ!」ゼブが叫んだ。
「私も見たわ」子猫がのどを鳴らした。
「もちろんだ」と魔法使い。「きみたちが子豚を見たのは、本当にそこにいたからだ。今は私の内ポケットに入っている。ただ、引き離したり、押し合わせたりしたのは、手先を使った手品にすぎない。」
「子豚を見せて」ユリーカは乗り気になって言った。
小男は慎重にポケットを探り、小さな子豚を取り出した。一匹ずつ草の上へ置くと、子豚たちは走り回り、柔らかな草の葉をかじりはじめた。
「この子たちも腹が減っているんだ」と魔法使い。
「まあ、なんてかわいいの!」ドロシーは一匹を抱き上げ、優しく撫でた。
「気をつけて!」子豚は甲高い声で言った。「つぶれちゃうよ!」
「これは驚いた!」魔法使いは、かわいがっている子豚たちを仰天して見つめた。「本当にしゃべれるのか!」
「一匹食べてもいい?」子猫はすがるような声で尋ねた。「ものすごくお腹がすいてるの。」
「まあ、ユリーカ」ドロシーはとがめるように言った。「なんて残酷なことを聞くの! こんなかわいい子たちを食べるなんて、ひどいわ。」
「まったくだ!」別の子豚が鼻を鳴らした。子猫を不安そうに見ている。「猫は残酷な生き物だ。」
「残酷じゃないわ」子猫はあくびをしながら答えた。「ただお腹がすいてるだけ。」
「たとえ餓死しかけていても、私の子豚を食べてはいけない」小男は厳しい声で言い渡した。「私が魔法使いだと証明できる物は、この子たちしかないのだ。」
「どうしてこんなに小さいの?」ドロシーが尋ねた。「こんなに小さな豚、今まで見たことないわ。」
「ティンティ=ウィント島の出身なのだ」と魔法使い。「小さな島なので、そこにある物は何もかも小さい。ある船乗りがロサンゼルスへ連れてきたので、この子たちと引き換えに、サーカスの切符を九枚やった。」
「でも私は何を食べればいいの?」子猫は嘆き、ドロシーの前へ座って、すがるように顔を見つめた。「ここにはミルクを出す牛もいなければ、ネズミも、バッタさえいない。子豚も食べちゃいけないなら、いっそ今すぐ私を植えて、ケチャップ[訳注:英語の“catsup”と“cat”をかけた言葉遊び]でも育てればいいわ。」
「この小川には魚がいるような気がする」と魔法使い。「魚は好きか?」
「魚!」子猫は叫んだ。「魚が好きかですって? 子豚よりおいしいわ――ミルクよりおいしいくらいよ!」
「では、何匹か捕まえてみよう」と魔法使い。
「でも、ここにあるほかの物みたいに、魚も野菜なんじゃないの?」子猫が尋ねた。
「そうは思わない。魚は動物ではないし、野菜と同じように冷たく湿っている。この奇妙な国の水中に魚がいてはならない理由は、私には思いつかない。」
魔法使いは一本のピンを曲げて釣り針にし、ポケットから長い糸を出して釣り糸にした。餌にできそうなのは、花から取った鮮やかな赤い花びらしかなかった。だが魚は、目を引く物さえあれば簡単にだませると知っていたので、その花びらを試すことにした。近くの小川へ釣り糸の先を投げ込むと、ほどなく鋭い引きを感じた。魚が食いつき、曲げたピンにかかった合図だ。そこで小男が糸を引き上げると、確かに魚が一緒についてきて、無事に岸へ上がった。魚は興奮し、激しく跳ね回った。
マンガブーの庭園で。
魚は丸々と太り、鱗は、細かく刻まれた美しい宝石を隙間なく並べたように輝いていた。しかし、じっくり調べる暇はなかった。ユリーカが跳びかかり、爪の間に魚をつかむと、ほんの数分で跡形もなく消えてしまったからだ。
「まあ、ユリーカ!」ドロシーは叫んだ。「骨まで食べたの?」
「骨があったなら食べたわ」子猫は落ち着き払って答え、食後の顔を洗った。「でも、あの魚に骨はなかったと思う。のどを引っかく感じがしなかったもの。」
「ずいぶん食いしん坊ね」と少女。
「すごくお腹がすいてたの」と子猫。
小さな豚たちはひとかたまりになって身を寄せ、怖がる目でその光景を見ていた。
「猫って恐ろしい生き物だ!」一匹が言った。
「ぼくら、魚じゃなくてよかった!」別の一匹が言った。
「心配しないで」ドロシーは優しくなだめた。「子猫には、あなたたちを傷つけさせないから。」
そのときドロシーは、列車で食べた昼食の残りのクラッカーが、一、二枚、旅行鞄の隅に入っていることを思い出した。軽馬車へ行き、それを持ってきた。ユリーカはそんな食べ物を見て鼻を上げたが、小さな子豚たちはクラッカーを見て喜びの声を上げ、あっという間に平らげた。
「では、都へ戻ろう」魔法使いが提案した。「ジムが桃色の草を十分に食べたのならね。」
近くで草をはんでいた辻馬車馬は、ため息をついて頭を上げた。
「食べられるうちに、たくさん食べようと頑張ったよ」ジムは言った。「この奇妙な国では、次の食事まで長くかかりそうだからね。でも、もう出発する用意はできた。いつでも好きなときに行けるぞ。」
魔法使いは子豚たちを内ポケットへ戻した。子豚たちはそこで身を寄せ合い、眠り込んだ。三人は軽馬車へ乗り、ジムは町へ戻りはじめた。
「どこに泊まる?」少女が尋ねた。
「魔法使いの家を使わせてもらおうと思う」と魔法使いは答えた。「プリンスは民の前で、次の妖術使いを摘み取るまで、私を置いておくと言った。新しいプリンセスは、私たちがそこに住んでいるものだと思うだろう。」
一同はその案に同意した。大広場へ着くと、ジムは丸屋根の大広間にある大きな扉から、軽馬車を引いて中へ入った。
「あまり家らしくないわね」ドロシーは、がらんとした部屋を見回して言った。「でも、とにかく泊まれる場所だわ。」
「あそこにある穴は何だろう?」少年は丸屋根の上部近くに並ぶ開口部を指さした。
「戸口みたい」ドロシーは言った。「でも、あそこまで行く階段がないわ。」
「階段は必要ないのを忘れたのかい?」魔法使いが言った。「歩いて上り、扉の先に何があるのか見てみよう。」
魔法使いは高い開口部へ向かって空中を歩きはじめ、ドロシーとゼブもあとに続いた。丘を歩いて上るのと同じような登り方で、開口部の列へ着いたころには、三人とも息を切らしていた。それは家の上部にある廊下へ通じる戸口だった。廊下を進むと、そこからいくつもの小部屋に入れることがわかった。その一部には、ガラスの長椅子やテーブル、椅子が置かれていた。しかしベッドは一つもなかった。
「ここの人たちは眠らないのかしら」少女が言った。
「だって、この国には夜がないみたいだよ」とゼブ。「色彩の太陽は、ぼくらが来たときとまったく同じ場所にある。日が沈まないなら、夜も来ないんだ。」
「そのとおりだ」魔法使いもうなずいた。「だが私はずいぶん長い間、眠っていないので疲れた。あの硬いガラスの長椅子に横になり、ひと眠りしようと思う。」
「私も」ドロシーはそう言って、廊下の端にある小部屋を選んだ。
ゼブは下へ戻り、ジムの馬具を外した。自由になった馬は何度か寝転がって体をこすり、それから眠る姿勢になった。ユリーカも大きく骨張った体のそばへ、心地よさそうに寄り添った。少年は上の部屋の一つへ戻り、ガラスの長椅子の硬さにもかかわらず、ほどなく深い眠りへ落ちていった。

第六章

牙をむくマンガブー

魔法使いが目覚めると、六つの色彩の太陽は、オズが到着してからずっとそうしてきたように、マンガブーの国を照らしていた。ぐっすり眠った小男は疲れが取れ、すっかり元気になっていた。部屋を隔てるガラス越しに見ると、ゼブが長椅子の上で起き上がり、あくびをしていた。そこで魔法使いは少年のもとへ行った。
「ゼブ」と魔法使い。「この奇妙な国では、私の気球はもう役に立たない。落ちた広場へ置いていくしかないだろう。だが籠には、手元に置いておきたい物がいくつかある。鞄と、二つのランタン、それから座席の下にある灯油缶を取ってきてくれないか。それ以外に必要な物はない。」
少年は快く引き受けた。ゼブが戻るころには、ドロシーも目を覚ましていた。そこで三人は、これからどうするべきか話し合ったが、今の状況を好転させる方法は何一つ思いつかなかった。
「あの野菜の人たちは好きじゃないわ」少女は言った。「見た目はきれいだけど、キャベツみたいに冷たくて、ふにゃふにゃしてる。」
「同感だ。温かい血が流れていないからだろう」と魔法使い。
「心もない。だからだれかを愛することもできないんだ――自分自身さえね」と少年。
「プリンセスは見た目こそきれいだけど」ドロシーは考えながら続けた。「やっぱり、あまり好きになれないわ。ほかに行ける場所があるなら、そこへ行きたい。」
「だが、ほかに行ける場所はあるのか?」魔法使いが尋ねた。
「わからないわ」とドロシー。
ちょうどそのとき、辻馬車馬のジムが大声で自分たちを呼ぶのが聞こえた。丸屋根へ通じる戸口まで行くと、プリンセスが大勢の民を引き連れ、魔法使いの家へ入ってきていた。
三人が下へ降り、美しい野菜の女性を迎えると、プリンセスは言った。
「そなたたち肉人間について、助言者たちと話し合いました。その結果、そなたたちはマンガブーの国に属さず、ここにとどまるべきではないとの結論に達しました。」
「どうすれば出ていけるの?」ドロシーが尋ねた。
「もちろん、出ていくことはできません。ゆえに滅ぼされなければなりません」と答えた。
「どのような方法で?」魔法使いが尋ねた。
「三人の人間は、からみつく蔦の庭へ投げ込みます」とプリンセス。「蔦はすぐにそなたたちを締めつぶし、体を食らって、自らをさらに大きく育てるでしょう。一緒にいる動物たちは山へ追いやり、黒い穴へ入れます。そうすれば、この国から招かれざる者はすべていなくなります。」
「だが、きみたちには妖術使いが必要だろう」と魔法使い。「育っている者たちは、まだ一人も摘み取れるほど熟していない。私は、きみたちの庭園で育ったどんな棘だらけの妖術使いより偉大だ。それでも私を滅ぼすのか?」
「我らに妖術使いが必要なのは事実です」プリンセスは認めた。「ですが、そなたが真っ二つにし、植えどきを早めてしまったグウィグの代わりとして、我らの妖術使いの一人が、あと数日で摘み取れると聞いています。そなたの技と、行使できる魔法を見せなさい。そのうえで、ほかの者と一緒に滅ぼすかどうか決めましょう。」
魔法使いは一同へ一礼すると、九匹の小さな子豚を出し、また消す手品を繰り返した。実に巧みにやってみせたので、プリンセスは、野菜人間にできるかぎりの驚きを見せて、奇妙な子豚たちを眺めた。だが、そのあとで言った。
「この驚くべき魔法については聞いています。しかし、価値あることは何も成し遂げていません。ほかには何ができますか?」
魔法使いは考えようとした。それから剣の刃をつなぎ合わせ、鼻先へ実に巧みに載せて釣り合いを取った。しかし、それでもプリンセスは満足しなかった。
そのときオズの目に、気球の籠からゼブが持ってきたランタンと灯油缶が入った。そして、ありふれた品々から、うまい考えが浮かんだ。
「殿下」と魔法使い。「これより魔法の力を証明するため、あなた方が今まで見たことのない二つの太陽を作り出してご覧に入れましょう。それから、からみつく蔦よりはるかに恐ろしい『破壊者』もお見せします。」
魔法使いはドロシーを自分の片側へ、少年をもう片側へ立たせ、それぞれの頭へランタンを一つずつ載せた。
「笑ってはいけない」二人へ小声で言った。「さもないと、魔法の効果が台無しになる。」
「さあ、プリンセス」と魔法使いは叫んだ。
それから魔法使いは、しわの寄った顔に威厳と、このうえなく偉そうな表情を浮かべ、マッチ箱を取り出して二つのランタンへ火をつけた。六つの巨大な色彩の太陽が放つ輝きに比べれば、ランタンの光はとても小さかった。それでも、はっきりと安定して光った。マンガブーたちは、太陽から直接届くもの以外の光を、今まで一度も見たことがなかったので、ひどく感心した。
次に魔法使いは、缶からガラスの床へ灯油を注ぎ、大きな油だまりを作った。それはかなり広い範囲を覆った。オズが油へ火をつけると、百もの炎の舌が一斉に立ち上がり、実に堂々たる光景となった。
「さあ、プリンセス」魔法使いは叫んだ。「私たちを、からみつく蔦の庭へ投げ込むよう進言した助言者たちに、この光の輪へ入ってもらいましょう。その助言が正しく、道理にかなっていたなら、少しも傷つきません。ですが誤った助言をした者がいれば、光によってしなびるでしょう。」
プリンセスの助言者たちは、この試練を気に入らなかった。だがプリンセスが炎の中へ入るよう命じたため、一人ずつ足を踏み入れた。そしてひどく焦げ、間もなく焼いたジャガイモのような匂いがあたりに立ちこめた。何人かは倒れ、火の中から引きずり出さなければならなかった。全員がひどくしなびたため、ただちに植える必要があった。
「そなたは」プリンセスは魔法使いへ言った。「我らが知るどの妖術使いよりも偉大です。民が誤った助言をしたのは明らかなので、そなたたち三人を恐ろしい、からみつく蔦の庭へ投げ込むことはしません。しかし、動物たちは山の黒い穴へ追いやらなければなりません。あの者たちが近くにいることに、我が民は耐えられないのです。」
魔法使いは二人の子どもと自分自身を救えたことがうれしく、この決定に異議を唱えなかった。しかしプリンセスが去ると、ジムもユリーカも、黒い穴へ行きたくないと抗議した。ドロシーは、そんな運命から二匹を救うため、できることは何でもすると約束した。
このあと二、三日の間――夜がなく、一日を分けることができないため、眠りと眠りの間を一日と呼ぶならば――友人たちは何者にも邪魔されなかった。魔法使いの家を、まるで自分たちの家のように平穏に使うことさえ許され、食べ物を探して庭園を歩き回ることもできた。
一度、からみつく蔦の庭を囲う生垣へ近づいた。一行は空高くまで歩いて上り、興味津々で庭を見下ろした。そこには丈夫な緑の蔦が密集し、巨大な蛇の巣のように身をくねらせ、ねじれながら絡み合っていた。蔦は触れたものを何でも押しつぶした。冒険者たちは、その中へ投げ込まれずに済んだことを、心からありがたく思った。
魔法使いは眠るたび、九匹の小さな子豚をポケットから出し、楽しみながら運動できるよう、部屋の床で走り回らせていた。あるとき子豚たちは、ガラスの扉が少し開いているのを見つけ、廊下へ迷い出た。それから丸屋根の大広間の下部へ入り、ユリーカと同じくらい簡単に空中を歩いた。子豚たちは、もう子猫と顔なじみだったので、ジムのそばで寝そべるユリーカのもとへ走り寄り、一緒に跳ねたり遊んだりしはじめた。
一度に長くは眠らない辻馬車馬は、後ろ脚を折って座り、小さな子豚と子猫が遊ぶ姿を、満足そうに眺めた。
「乱暴にするな!」ユリーカが前足で丸々と太った子豚の一匹を倒すと、ジムはそう声をかけた。しかし子豚たちはまったく気にせず、遊びを大いに楽しんでいた。
突然、みなが顔を上げると、部屋は無言で厳しい目をしたマンガブーたちに埋め尽くされていた。野菜人間はそれぞれ鋭い棘に覆われた枝を持ち、馬と子猫と子豚へ敵意もあらわに突きつけていた。
「おい――馬鹿なまねはやめろ!」
ジムは怒ってどなった。だが一、二度棘で刺されると、四本の脚で立ち上がり、棘の届かない場所へ逃げた。
マンガブーたちは隙間なく一行を取り囲んだが、大広間の戸口へ向かう道だけは空けていた。そのため動物たちはゆっくり後退し、部屋から追い出されて通りへ出た。そこにも棘を持った野菜人間が待ち構えており、無言のまま、すっかりおびえた動物たちを通りの先へ追い立てた。小さな子豚たちはジムの足元を、ぶうぶう、きいきい鳴きながら駆け回った。ジムは踏まないよう注意しなければならなかった。ユリーカはうなり、自分へ突き出される棘へ噛みつきながら、かわいい小さな子豚たちを怪我から守ろうとした。無情なマンガブーたちは、ゆっくりながら着実に一行を追い立て、都と庭園を抜け、ついには山へ続く広い平原へ出た。
「いったい、これはどういうことなんだ?」馬は棘を避けて飛び上がり、尋ねた。
「黒い穴へ追いやろうとしているのよ。私たちを投げ込むと脅していたでしょう」子猫が答えた。「私があなたくらい大きかったら、こんなみじめなカブの根っこども、やっつけてやるのに!」
「何をするんだ?」ジムが尋ねた。
「その長い脚と、鉄の蹄で蹴飛ばすのよ。」
「よし」馬は言った。「やってやろう。」
次の瞬間、ジムはマンガブーの群衆へ突然尻を向け、力いっぱい後ろ脚で蹴りつけた。十人あまりがぶつかり合い、つぶれて地面へ転がった。成功したのを見たジムは、何度も何度も蹴りつづけた。野菜の群衆へ突進しては、四方へ弾き飛ばし、ほかの者たちも鉄の蹄から逃げようと散り散りになった。ユリーカも敵の顔へ飛びかかり、猛烈に引っかき、噛みついて加勢した。子猫のせいで大勢の野菜の顔が台無しになったため、マンガブーは馬と同じくらいユリーカを恐れた。
しかし敵は多すぎて、いつまでも退けてはいられなかった。ジムとユリーカは疲れ果てた。戦場がつぶれて動けなくなったマンガブーで埋め尽くされても、動物の友人たちはついに諦め、山へ追い立てられるしかなかった。

第七章

黒い穴へ、そしてふたたび外へ

一行が山へ着くと、それは濃緑色のガラスでできた、ごつごつと高くそびえる巨大な塊だった。どこまでも陰気で、近寄りがたい姿をしていた。険しい斜面を半分ほど上ったところに、大きな洞窟が口を開けていた。色彩の太陽が放つ虹色の光も奥までは届かず、その先は夜のように真っ暗だった。
マンガブーたちは馬と子猫と子豚を、この暗い穴へ追い込んだ。それから軽馬車も押し込んだ――どうやら何人かが、丸屋根の大広間からここまで、ずっと引きずってきたらしい。そのあと入り口へ大きなガラスの岩を積みはじめ、囚われた動物たちが二度と外へ出られないようにした。
「ひどい話だ!」ジムはうめいた。「これで私たちの冒険も終わりだろうな。」
「魔法使いがここにいれば」子豚の一匹が激しくすすり泣きながら言った。「ぼくらが苦しむのを放っておかないのに。」
「最初に襲われたとき、魔法使いとドロシーを呼ぶべきだったわ」とユリーカ。「でも気にしないで。勇気を出して、お友だち。私がご主人たちに居場所を知らせて、助けに来てもらうから。」
穴の入り口はほとんど塞がれていた。だが子猫は、残った隙間から飛び出すと、すぐに空中を駆け上がった。マンガブーたちはユリーカが逃げるのを目にし、何人かが棘をつかんで追跡した。空中へ昇り、あとを追いかける。しかしユリーカはマンガブーより軽かった。マンガブーが地上から百フィート(約三十メートル)ほどしか昇れない一方、子猫は二百フィート(約六十一メートル)近くまで昇れた。そこで追っ手の頭上を走り、はるか下方へ置き去りにすると、都と魔法使いの家へ戻った。丸屋根にあるドロシーの部屋の窓から中へ入り、眠っていた少女を起こした。
事情を知ったドロシーは、すぐに魔法使いとゼブを起こした。三人はただちに、ジムと子豚たちを救う準備を整えた。魔法使いはかなり重い鞄を持ち、ゼブは二つのランタンと灯油缶を持った。ドロシーの籐の旅行鞄は、まだ軽馬車の座席の下にあった。さらに幸運なことに、少年はジムを横になって休ませるため馬具を外したとき、それも軽馬車へ入れていた。そのため少女が運ぶ物は子猫だけだった。小さな心臓はまだ激しく鼓動していたので、ドロシーは胸にしっかり抱き、慰めようとした。
三人が魔法使いの家を出ると、すぐに何人かのマンガブーに見つかった。しかし山へ向かって歩き出すと、野菜人間たちは邪魔をせず、先へ進ませた。ただし大勢で後ろをついてきて、引き返せないようにした。
ほどなく一行は黒い穴へ近づいた。そこでは、プリンセスを先頭とする大勢のマンガブーが、入り口へガラスの岩を積み上げる作業に励んでいた。
「やめろ、命令だ!」魔法使いは怒った声で叫び、ジムと子豚たちを解放するため、すぐに岩を取り除きはじめた。マンガブーたちは邪魔せず、黙って後ろへ下がっていた。しかし障壁に十分な大きさの穴が開くと、プリンセスの命令を受け、一斉に飛びかかって鋭い棘を突き出した。
黒い穴を抜けて。
ドロシーは刺されまいと、開口部の中へ飛び込んだ。ゼブと魔法使いも棘で何度か刺されたあと、喜んで少女に続いた。マンガブーたちはすぐに、またガラスの岩を積みはじめた。自分たち全員が山の中へ生き埋めにされようとしていると悟り、小男は子どもたちに言った。
「さて、どうしたものかな? 外へ飛び出して戦うか?」
「何になるの?」ドロシーは答えた。「あんな残酷で無情な人たちの中で生きつづけるくらいなら、ここで死んでも同じだわ。」
「ぼくもそう思う」ゼブは傷をさすりながら言った。「マンガブーはもうたくさんだ。」
「わかった」と魔法使い。「きみたちの決めたことなら、私も従おう。ただ、この洞窟の中では長く生きられない。それだけは確かだ。」
光が薄暗くなってきたことに気づき、魔法使いは九匹の子豚を拾い上げた。一匹ずつ、丸々とした小さな頭を愛おしげに撫で、内ポケットへ慎重に入れた。
ゼブはマッチを擦り、ランタンの一つへ火をつけた。色彩の太陽が放つ光は、今や永遠に遮られてしまった。牢獄とマンガブーの国を隔てる壁の、最後に残った隙間まで塞がれたからだ。
「この穴はどのくらい広いの?」ドロシーが尋ねた。
「探検して確かめてみるよ」と少年が答えた。
ゼブはランタンを持って、かなり奥まで進んだ。ドロシーと魔法使いも両脇についていった。予想に反し、洞窟は行き止まりにはならなかった。大きなガラスの山の中を斜め上へ伸び、マンガブーの国とは反対側の斜面へ続きそうな方角へ延びていた。
「悪くない道だ」魔法使いは言った。「このまま進めば、今いる真っ暗な袋小路より、居心地のいい場所へ行けるかもしれない。野菜人間たちは暗闇を恐れ、いつもこの洞窟へ入るのを避けてきたのだろう。だが私たちには道を照らすランタンがある。このまま出発し、山の中のトンネルがどこへ続くのか確かめてはどうだろう。」
ほかのみんなは、このもっともな提案へ喜んで同意した。少年はすぐにジムへ馬具をつけはじめた。準備が整うと、三人は軽馬車の座席へ乗った。ジムは用心深く道を進みはじめた。ゼブが手綱を取り、魔法使いとドロシーがそれぞれ火のついたランタンを持って、進む先を馬に見せた。
トンネルは時おり、軽馬車の車輪が両側へこするほど狭くなったかと思えば、通りと同じくらい広がることもあった。だが床はたいてい滑らかで、一行は長い間、事故もなく進みつづけた。かなり険しい登り坂で疲れるため、ジムは時々立ち止まって休んだ。
「今ごろは、六つの色彩の太陽と同じくらい高いところにいるはずよ」ドロシーが言った。「この山がこんなに高いなんて知らなかったわ。」
「マンガブーの国からも、かなり離れたはずだよ」とゼブ。「出発してから、ずっとあの国とは反対の方向へ斜めに進んできたからね。」
それでも一行は着実に進みつづけた。ジムが長旅ですっかり疲れ果てたころ、道が突然明るくなり、ゼブは油を節約するためランタンの火を消した。
一同を迎えたのが白い光だとわかり、みなは喜んだ。絶えず色合いを変える虹色の光は、しばらく浴びつづけると目が痛くなるため、全員うんざりしていたのだ。目の前に延びるトンネルの両側は、長い望遠鏡の内側のように見え、床も平らになった。暗い通路からすぐに解放されるとわかり、ジムは重くなっていた足取りを速めた。さらに数分後、一行は山から外へ出て、新しく魅力に満ちた国と向かい合っていた。

第八章

声の谷

ガラスの山を抜けた一行は、巨大な杯のくぼみのような形をした、心なごむ谷へとたどり着いた。谷の向こう側にはごつごつした山がそびえ、両端にはなだらかな美しい緑の丘が連なっている。辺り一面には見事な芝生と庭園が広がり、そのあいだを小石敷きの小道が縫い、優美で堂々とした木々の林が風景のそこここを彩っていた。果樹園もあり、そこには地上の世界では見たこともない、みずみずしい果実が実っている。花に覆われた岸のあいだを、澄みきった小川がきらめきながら流れ、谷じゅうには旅人たちがこれまで目にしたなかでも、とりわけ風変わりで絵のように美しい小屋が何十軒も点在していた。村や町のように集まって建っているものは一つもなく、どの家にも広々とした敷地があり、果樹園や庭に囲まれていた。
このすばらしい眺めを前に、新たにやって来た一行は、その美しさと柔らかな空気に漂う芳香にすっかり心を奪われた。息苦しいトンネルを抜けたあとだけに、誰もがありがたく胸いっぱいに空気を吸い込んだ。数分間、声もなく見とれてから、ようやく彼らは、この谷に二つのひどく奇妙な点があることに気づいた。一つは、どこからともなく光が差していることだった。青く弧を描く空には太陽も月も見当たらないのに、あらゆるものが澄んだ明るい光に満たされている。もう一つ、さらに不思議なのは、この見事な土地に住人が一人も見当たらないことだった。高い場所にいる一行には谷全体が見渡せたが、動くものはただの一つもない。すべてが謎めいた静けさのなかに打ち捨てられているようだった。
こちら側の山はガラスではなく、花崗岩に似た石でできていた。ジムは苦労しながら、危険なほど不安定な岩の上を馬車を引いて下り、やがて小道や果樹園や庭園の始まる、ふもとの緑の芝生へたどり着いた。最寄りの小屋までは、まだ少し距離があった。
「なんてすてきなの!」ドロシーはうれしそうに叫ぶと、馬車から飛び降り、ユリーカをビロードのような草の上で思う存分はしゃがせた。
「本当にな!」とゼブも答えた。「あの恐ろしい野菜人間どもから逃げられて、運がよかったよ。」
「もしここでずっと暮らさなければならなくなっても、そう悪くはないな」と、辺りを見回しながらオズの魔法使いが言った。「これ以上きれいな場所など、きっと見つからないだろう。」
魔法使いはポケットから子ブタたちを取り出して草の上を走らせた。ジムも緑の草をひと口味見し、新しい環境には大いに満足だと言った。
「でも、ここじゃ空中を歩けないわ」試して失敗したユリーカが声を上げた。だがほかのみんなは地面を歩ければ満足だった。魔法使いは、マンガブーの国にいたときより地上に近づいているに違いない、何もかもがずっと親しみやすく自然に見える、と言った。
「でも、人はどこにいるの?」とドロシーが尋ねた。
小男は禿げた頭を振った。
「見当もつかないよ。」
突然、鳥のさえずりが聞こえたが、どこを探しても姿は見えなかった。一行はゆっくりと小道を歩き、最寄りの小屋へ向かった。子ブタたちはそのそばを駆け回って戯れ、ジムは一歩進むごとに立ち止まって草をもうひと口食べた。
やがて彼らは、横に大きく広がる葉をつけた背の低い草に出会った。その中央には、モモほどの大きさの実が一つだけなっている。実はなんとも上品な色をして、かぐわしい香りを放ち、いかにもおいしそうだったので、ドロシーは足を止めて声を上げた。
「これ、何だと思う?」
子ブタたちはすぐに果実の匂いを嗅ぎつけた。ドロシーが手を伸ばして摘み取るより早く、九匹の小さな子ブタがいっせいに飛びかかり、夢中になって食べ始めた。
「とにかく、うまいんだろうな」とゼブが言った。「でなきゃ、あのちびっこ悪党どもが、あんなにがつがつ食うものか。」
「みんなどこ?」ドロシーが驚いて尋ねた。
全員で辺りを見回したが、子ブタたちは消えていた。
「おやまあ!」魔法使いが叫んだ。「逃げてしまったのか。だが、走っていくところは見なかったぞ。君たちは?」
「見てない!」少年と少女は同時に答えた。
「おいで、ブタちゃん、ブタちゃん、ブタちゃん!」飼い主は心配そうに呼びかけた。
するとたちまち、足元から何匹もの鳴き声とうなり声が聞こえた。だが魔法使いには、子ブタの姿が一匹も見つけられなかった。
「どこにいるんだ?」
「すぐそばだよ」と、小さな声が答えた。「ぼくたちが見えないの?」
「本当にこの部屋に人がいるのか?」
「見えない」と小男は困惑して答えた。
「ぼくたちには、あなたが見えるよ」と別の子ブタが言った。
魔法使いがかがんで手を伸ばすと、すぐにペットの一匹の、小さく丸々した体に触れた。抱き上げてみたものの、自分が何を持っているのか目には見えない。
「実に奇妙だ」と、魔法使いは真顔で言った。「どういうわけか、子ブタたちは透明になってしまったらしい。」
「あのモモを食べたせいに決まってるわ!」と子ネコが叫んだ。
「あれはモモじゃないわ、ユリーカ」とドロシーは言った。「毒じゃなければいいけど。」
「すごくおいしかったよ、ドロシー」と子ブタの一匹が声を上げた。
「見つけたら、いくらでも食べるよ」と別の一匹も言った。
「だが、われわれは食べてはいけない」と魔法使いは子供たちに警告した。「われわれまで透明になれば、互いを見失ってしまうかもしれない。あの奇妙な果実をまた見つけても、近寄らないようにしよう。」
魔法使いは子ブタたちを呼び寄せ、一匹ずつ拾い上げてポケットへしまった。姿は見えなくても触れることはできたし、上着のボタンを留めれば、ひとまず安全だとわかった。
旅人たちは再び小屋へ向かって歩き始め、ほどなくそこへ着いた。広い玄関ポーチを蔦がびっしりと覆う、かわいらしい家だった。扉は開いており、正面の部屋には食卓が用意され、四脚の椅子が並べられていた。食卓には皿、ナイフとフォーク、そしてパンや肉や果物を盛った器が並んでいる。肉からは熱い湯気が立ち、ナイフとフォークは、ひどく不可解なことに、奇妙な身振りをしたり、あちらこちらへ跳ね回ったりしていた。だが部屋には、人の姿が一つも見えなかった。
「まあ、おかしい!」戸口にゼブや魔法使いと並んで立ったドロシーが声を上げた。
楽しげな笑い声が返ってきて、ナイフとフォークががちゃがちゃと音を立てて皿の上へ落ちた。椅子の一つが食卓から後ろへ動いた。その光景はあまりにも驚くべき謎めいたものだったので、ドロシーは恐怖のあまり、もう少しで逃げ出すところだった。
「ママ、お客さんよ!」見えない誰かが、甲高い子供の声で叫んだ。
「ええ、見えているわ」と、優しい女の声が答えた。
「何の用だ?」今度は厳しい、がらがら声が尋ねた。
「これは驚いた!」と魔法使いが言った。「本当にこの部屋に人がいるのか?」
「もちろんだ」と男の声が答えた。
「それでは――ばかな質問で申し訳ないが――皆さんは透明なのか?」
「そうですよ」女が答え、低く鈴を転がすような笑い声をまた響かせた。「ヴォーの人々が見えないことに驚いたのですか?」
「ええ、まあ」と魔法使いは口ごもった。「これまで会った人はみな、実にはっきり見えたものだから。」
「では、どこから来たのです?」女が興味深そうに尋ねた。
「われわれは地上の者だ」と魔法使いは説明した。「だが少し前、地震の最中に地割れへ落ち、マンガブーの国へたどり着いたのだ。」
「恐ろしい生き物たち!」女の声が叫んだ。「話には聞いています。」
「やつらはわれわれを山の中へ閉じ込めた」と魔法使いは続けた。「だが、こちら側へ通じるトンネルを見つけ、ここまで来たのだ。美しいところだな。何という場所なのだ?」
「ヴォーの谷です。」
「ありがとう。ここへ来てから誰にも会わなかったので、道を尋ねようとこの家へ来たのだ。」
「お腹は空いていますか?」と女の声が尋ねた。
「何か食べられるわ」とドロシー。
「ぼくも」とゼブが加えた。
「だが、決してお邪魔をするつもりはない」と魔法使いは慌てて言った。
「構わんよ」と男の声が、先ほどより親しげに答えた。「あるものなら、何でも好きに食べてくれ。」
そう話すうち、声がゼブのすぐ近くまで来たので、少年は驚いて後ろへ飛びのいた。二人の子供の声がその様子を愉快そうに笑った。たとえ姿が見えなくても、これほど陽気な人々のそばなら危険はないだろう、とドロシーは確信した。
「わしの庭の草を食べている、あの妙な動物は何だ?」男の声が尋ねた。
「あれはジムよ」と少女は答えた。「馬なの。」
「何の役に立つ?」
「つながれている馬車を引くの。わたしたちは歩かずに、その馬車に乗るのよ。」
「戦えるのか?」と男の声。
「いいえ! 後ろ脚でかなり強く蹴れるし、少しなら噛めるけど、ジムはちゃんと戦えるわけじゃないわ。」
「なら、クマにやられるよ」と子供の一人が言った。
「クマですって!」ドロシーは叫んだ。「ここにはクマがいるの?」
「それが、この国にある唯一の災いだ」と透明な男が答えた。「ヴォーの谷には大きく獰猛なクマが何頭も徘徊していて、わしらを捕まえれば食べてしまう。だがクマにはわしらが見えないから、捕まることはめったにない。」
「クマも透明なの?」少女が尋ねた。
「そうだ。クマも、わしらと同じようにダマの実を食べるからな。その実を食べると、人間にも動物にも、誰の目にも見えなくなる。」
「ダマの実は背の低い草に生えて、少しモモに似ているのか?」魔法使いが尋ねた。
「そうだ。」
「透明になるなら、なぜ食べるの?」
ドロシーが尋ねた。
「理由は二つあるのよ」と女の声が答えた。「ダマの実は、この世に育つもののなかでいちばんおいしいから。それに、透明になればクマに見つかって食べられることもありません。さあ、旅人の皆さん。昼食は食卓に出ています。どうぞ座って、好きなだけ召し上がって。」

第九章

透明なクマとの戦い

旅人たちは喜んで食卓に着いた。みな腹を空かせていたし、大皿にはおいしそうな食べ物が山ほど盛られていたからだ。一人一人の前には、あの美味なダマの実を載せた皿が置かれている。そこから立ちのぼる香りはあまりにも甘く魅惑的で、食べて透明になりたいという誘惑に激しく駆られた。
だがドロシーは別の料理で空腹を満たし、仲間たちも同じように誘惑へ耐えた。
「なぜダマを食べないの?」女の声が尋ねた。
「透明になりたくないの」と少女は答えた。
「でも、見えるままでいたら、クマに見つかって食べられちゃうわ」と、子供の一人らしい少女の声が言った。「ここに住むわたしたちは、透明なほうがずっと好き。姿が見えなくても抱き合ったり、キスしたりできるし、クマからも安全だもの。」
「服装にあれこれ気を遣わずに済むしな」と男が言った。
「それに、顔が汚れていてもママにはわからない!」もう一人の子供がうれしそうに付け加えた。
「でも、思い出すたびに洗わせていますよ」と母親が言った。「見える見えないにかかわらず、イアヌ、あなたの顔が汚れているのは理屈からいって間違いありませんからね。」
ドロシーは笑って両手を伸ばした。
「こっちへ来て。イアヌも、お姉さんも。触らせてくれる?」と頼んだ。
二人は喜んで近寄ってきた。ドロシーはその顔や体を手で触り、一人は自分と同じくらいの年頃の少女、もう一人は少し小さな少年だとわかった。少女の髪は柔らかくふわふわで、肌はサテンのようになめらかだった。ドロシーが鼻や耳や唇にそっと触れると、どれも繊細に整っているようだった。
「姿が見えたら、きっときれいな子だと思うわ」とドロシーは言った。
少女が笑い、母親が言った。
「ヴォーの谷には、うぬぼれた人はいません。美しさを見せびらかせませんからね。ここでは善い行いと感じのよい振る舞いが、仲間の目に人を美しく映すのです。それでも自然の美しさ、かわいらしい花や木々、緑の野原や澄んだ青空は、ちゃんと見て楽しめます。」
「鳥や獣や魚は?」とゼブが尋ねた。
「鳥は見えません。わたしたちと同じくらいダマが大好きですから。でも美しいさえずりは聞こえるので、それを楽しみます。残忍なクマも見えません。やはり実を食べるからです。でも小川を泳ぐ魚は見えますし、よく捕まえて食べますよ。」
「透明でも、幸せになるものはたくさんあるようだ」と魔法使いは言った。「それでも、われわれはこの谷にいるあいだ、見える姿のままでいたい。」
ちょうどそのとき、ユリーカが入ってきた。それまでジムと外を歩き回っていたのだ。食べ物の並んだ食卓を見るなり、子ネコは叫んだ。
「ドロシー、わたしにも食べさせて。もうお腹がぺこぺこよ。」
子供たちは、クマを思わせる小動物の姿に怯えた。だがドロシーは、ユリーカはペットだから、たとえその気になっても害を与えられないと説明し、安心させた。そのころにはほかのみんなは食卓を離れていたので、子ネコは椅子へ飛び乗り、前脚をテーブルクロスにかけて食べ物をのぞき込んだ。すると驚いたことに、見えない手がユリーカをつかみ、そのまま空中へ吊り上げた。ユリーカは恐怖で逆上し、引っかいたり噛みついたりしようとしたので、次の瞬間には床へ落とされた。
「見た、ドロシー?」ユリーカは息を切らして尋ねた。
「ええ」と飼い主は答えた。「この家には人が住んでいるの。ただ、わたしたちには見えないだけ。それから、もっとお行儀よくしなさい、ユリーカ。さもないと、今度はもっとひどい目に遭うわよ。」
ドロシーが食べ物を載せた皿を床へ置くと、子ネコはがつがつと食べた。
「食卓にあった、いい匂いの実をちょうだい」皿をきれいにしたあと、ユリーカがせがんだ。
「あれはダマよ」とドロシーは言った。「絶対に味見さえしちゃだめ。透明になって、わたしたちからまったく見えなくなってしまうわ。」
子ネコは禁断の果実を物欲しそうに見つめた。
「透明になると痛いの?」
「わからないわ」とドロシー。「でも、あなたを見失ったら、わたしはひどくつらいわ。」
「わかった。触らないことにする」と子ネコは決めた。「でも、わたしから遠ざけておいてね。匂いがとってもおいしそうだから。」
「もしもし、そちらのご主人か奥方」と魔法使いは、透明な人々がどこに立っているのかわからず、空中へ向かって呼びかけた。「この美しい谷を出て、再び地上へ戻る道があるか、教えてもらえないだろうか。」
「谷を出るだけなら簡単だ」と男の声が答えた。「だが、そのためには、ここよりはるかに不愉快な国へ入らなければならん。地上へ出られるかどうかは、聞いたこともない。仮に出られたとしても、たぶん地球から転げ落ちてしまうだろう。」
「そんなことないわ」とドロシー。「わたしたちは地上にいたんだもの。ちゃんと知ってるわ。」
「ヴォーの谷が魅力的な場所なのは間違いない」と魔法使いは続けた。「だが、長いあいだ故郷以外の国で満足して暮らすことはできない。途中でどれほど不愉快な土地を通るとしても、地上へ出るには、そこを目指して進み続けるしかないのだ。」
「それなら」と男は言った。「谷を横切って、ピラミッド山の中にある螺旋階段を上るのがよい。山頂は雲の中に隠れている。そこへ着けば、ガーゴイルの住む恐ろしいノートの国だ。」
「ガーゴイルって何?」とゼブが尋ねた。
「わからんよ、若者。わしらで最強の勇者だったオーバーマン・アヌが、かつて螺旋階段を上り、ガーゴイルと九日間戦った末、ようやく逃げ帰ったことがある。だが、あの恐ろしい生き物については、何を聞いても決して話そうとしなかった。そして、そのすぐあとでクマに捕まり、食べられてしまった。」
旅人たちは、この陰気な話にすっかり気落ちした。だがドロシーはため息をついて言った。
「家へ帰る道がガーゴイルに会うしかないなら、会うしかないわ。悪い魔女やノーム王よりひどいはずないもの。」
「だが、あの敵を倒せたのは、かかしとブリキの木こりが助けてくれたからだと忘れてはいけない」と魔法使いが指摘した。「今の一行には、戦士が一人もいない。」
「でも、どうしても必要ならゼブだって戦えると思うわ。そうでしょう、ゼブ?」少女が尋ねた。
「たぶんね。どうしても必要なら」と、ゼブは自信なさそうに答えた。
「それに、あなたには野菜の魔法使いを真っ二つにした、継ぎ目のある剣があるわ」と少女は小男に言った。
「確かに」と魔法使い。「それに鞄には、戦いに役立つものがほかにもある。」
「ガーゴイルが最も恐れるのは音だ」と男の声が言った。「勇者の話では、雄叫びを上げると、やつらは震え上がって後ずさりし、戦いを続けるのをためらったそうだ。だが数があまりにも多かったし、勇者は戦うために息を残さねばならず、そう何度も叫べなかった。」
「結構」と魔法使い。「われわれは戦うより叫ぶほうが得意だ。ならば、ガーゴイルを倒せるだろう。」
「でも教えて」とドロシー。「そんなに勇敢な人が、どうしてクマに食べられたの? 勇者も透明で、クマも透明なら、本当に食べられたって誰にわかるの?」
「勇者は生涯で十一頭のクマを殺した」と見えない男が答えた。「それが本当だとわかるのは、どんな生き物も死ねばダマの実の魔力が消え、誰の目にもはっきり見えるようになるからだ。勇者がクマを殺せば、誰にでもその死体が見えた。そしてクマが勇者を殺したとき、ばらばらになった体の一部があちこちに散らばるのを、わしらはみな目にした。もちろん、それをクマが食べると、また見えなくなったがね。」
一行は親切な、けれど姿の見えない家族に別れを告げた。男は谷の向こう側にある高いピラミッド形の山を示し、そこへ至る道を教えた。こうして一行は再び旅へ出た。
広い川に沿って進み、さらにいくつもの美しい小屋を通り過ぎた。だがもちろん、誰の姿も見えず、話しかけてくる者もいなかった。辺りには果物や花が豊かに育ち、ヴォーの人々が大好きだという、おいしいダマも数多く実っていた。
正午ごろ、一行は美しい果樹園の木陰でジムを休ませるため、足を止めた。そこに実るサクランボやプラムを摘んで食べていると、突然、優しい声が語りかけてきた。
「近くにクマがいます。気をつけて。」
魔法使いはすぐに剣を抜き、ゼブは馬用の鞭をつかんだ。ジムは馬車から外され、少し離れたところで草を食べていたが、ドロシーは馬車へ乗り込んだ。
姿なき声の主は軽やかに笑って言った。
「そんなことをしても、クマからは逃げられませんよ。」
「どうすれば逃げられるの?」ドロシーは不安そうに尋ねた。目に見えない危険ほど、立ち向かうのが難しいものはない。
「川へ逃げなさい」と返事があった。「クマは水の上へは出てきません。」
「でも、溺れちゃうわ!」と少女は叫んだ。
「その心配はありません」穏やかな声からすると、話しているのは若い娘らしかった。「あなたたちはヴォーの谷に不慣れで、ここのやり方を知らないようです。わたしが助けてあげましょう。」
次の瞬間、幅広い葉をつけた草が地面から引き抜かれ、魔法使いの前の空中へ持ち上げられた。
透明なクマからの脱出。
「この葉を、全員の足の裏へ擦りつけてください。そうすれば、水に沈まず、その上を歩けるようになります。これはクマの知らない秘密です。わたしたちヴォーの民は、旅をするとき、いつも水の上を歩いて敵から逃れるのです。」
「ありがとう!」魔法使いはうれしそうに叫び、すぐに葉をドロシーの靴底へ擦りつけ、次に自分の靴底にも擦りつけた。少女も葉を取って子ネコの足へ擦りつけた。残りの草はゼブへ渡され、ゼブは自分の足に塗ったあと、ジムの四つの蹄すべてに丹念に擦り込み、さらに馬車の車輪の外縁にも塗った。最後の作業をほとんど終えたそのとき、突然、低いうなり声が聞こえ、馬は跳ね回って後ろ脚で激しく蹴り始めた。
「早く! 水へ逃げなければ命はありません!」姿の見えない友が叫んだ。魔法使いはためらわず、馬車を岸から広い川の上へ引き出した。中にはまだドロシーが座り、ユリーカを抱いていた。あの不思議な草の力で、馬車は少しも沈まなかった。馬車が川の中央へ着くと、魔法使いはゼブとジムを助けるため岸へ戻った。
馬は狂ったように暴れ、その脇腹には深い傷が二、三本現れて、血が勢いよく流れていた。
「川へ走れ!」魔法使いが叫んだ。ジムは見えない敵を激しく何度か蹴りつけて振り払い、すぐに従った。川面へ駆け出すと追ってくるものはなくなり、すでにゼブも水の上を走ってドロシーのもとへ向かっていた。
小さな魔法使いが仲間を追おうと振り返ると、頬に熱い息がかかり、低く獰猛なうなり声が聞こえた。すぐに剣で宙を何度も突いた。刃を引き戻すと血が滴っていたので、何かに当たったとわかった。三度目に剣を突き出したとき、大きな咆哮と、何かが倒れる音がした。そして突然、足元に巨大な赤いクマの姿が現れた。馬と変わらぬほど大きく、馬よりはるかに強く、獰猛なクマだった。剣に何度も刺され、すでに息絶えている。恐ろしい爪と鋭い牙をひと目見た小男は、恐怖に駆られて水の上へ飛び出した。別のクマが近くにいることを、いくつもの物騒なうなり声が告げていたからだ。
だが川の上なら、冒険者たちは完全に安全らしかった。ドロシーを乗せた馬車は流れに乗ってゆっくり下流へ流されており、ほかのみんなは急いで追いついた。魔法使いは鞄を開けて絆創膏を取り出し、クマの爪で負ったジムの傷を手当てした。
「これからは川を進んだほうがよさそうね」とドロシーが言った。「知らないお友達が警告して、どうすればいいか教えてくれなかったら、今ごろみんな死んでいたわ。」
「そのとおりだ」と魔法使いも同意した。「川はピラミッド山の方角へ流れているようだし、これがいちばん楽な旅路になるだろう。」
ゼブは再びジムを馬車につないだ。馬は小走りになり、滑らかな水面をすばやく馬車を引いていった。子ネコは初め、水に濡れるのをひどく怖がっていた。だがドロシーが下ろしてやると、すぐにユリーカは少しも怖がらず、馬車の横を跳ね回るようになった。一度、小魚が水面近くを泳いできたので、子ネコは口で捕らえ、たちまち食べてしまった。だがドロシーから、魔法に満ちたこの谷では食べるものに注意しなさいと言われた。それ以後、手の届くところを泳ぐほど不注意な魚はいなかった。
数時間進むと、川が大きく曲がる場所に来た。ピラミッド山へ着くには、一マイル(約一・六キロメートル)ほど谷を横切らなければならない。この辺りには家も果樹園も花も少なかった。そのため一行は、心底恐れるようになったあの獰猛なクマに、また出くわすのではないかと心配した。
「一気に駆け抜けるしかないぞ、ジム」と魔法使い。「出せるかぎりの速さで走るんだ。」
「わかった」と馬は答えた。「精いっぱいやるさ。でも、おれは年寄りだってことを忘れるなよ。威勢よく突っ走っていた時代は、もうとっくに終わったんだ。」
三人は馬車へ乗り込み、ゼブが手綱を取った。もっとも、ジムに指図はまったく必要なかった。見えないクマの鋭い爪で負った傷がまだひりひりしていたうえ、あの恐ろしい生き物が近くにいるかもしれないと思うと、それが拍車となった。陸へ上がって山へ向いたとたん、ジムはドロシーが息をのむほどの勢いで駆けだした。
そこでゼブは、いたずら心からクマそっくりのうなり声を上げた。ジムは耳をぴんと立て、文字どおり空を飛ぶように走った。骨ばった脚は速すぎて、ほとんど見えないほどだった。魔法使いは座席へ必死にしがみつき、声のかぎり「止まれ!」と叫んだ。
「に、逃げだしちゃったんじゃ――ないかしら!」ドロシーが息を切らして言った。
「間違いなく暴走してる」とゼブ。「でも、この速さならクマにも捕まらないよ――馬具か馬車が壊れなければね。」
ジムは一分で一マイル(時速約九十七キロメートル)も走ったわけではない。それでも、ほとんど気づかぬうちに山のふもとへ着き、あまりにも突然止まったため、魔法使いとゼブはそろって前板を飛び越え、柔らかな草の上へ落ちた。二人は何度も転がってから、ようやく止まった。ドロシーも危うく飛び出すところだったが、座席の鉄の手すりへしっかりつかまっていたので助かった。もっとも子ネコを強く抱き締めすぎて、悲鳴を上げさせてしまった。それから老いた辻馬がいくつか妙な音を立てたので、ドロシーは、ジムがみんなを笑っているのではないかと思った。

第十章

ピラミッド山の三つ編み男

目の前の山は円錐形で、先端が雲に隠れるほど高かった。ジムが止まった場所の真正面には、幅広い階段へ通じるアーチ形の入口があった。階段は山の内側の岩を削って造られ、コルク栓抜きのようにぐるぐる回っていたため、幅が広く、傾斜もさほど急ではなかった。階段が始まるアーチ形の入口では、その円もかなり大きかった。階段のふもとには、こう書かれた看板が立っていた。
警告。
この階段の先は
ガーゴイルの国。
危険! 立ち入り禁止。
「ジムは、こんなにたくさんの階段をどうやって馬車を引いて上るのかしら」とドロシーは真剣に言った。
「なんてことないさ」と馬は鼻で笑うようにいなないた。「ただし、客まで引っ張る気はないぞ。全員歩いてくれ。」
「階段がもっと急になったら?」ゼブが不安そうに尋ねた。
「そのときは、馬車の車輪を後ろから押せばいい」とジム。
「ともかく、やってみよう」と魔法使い。「ヴォーの谷を出る道は、これしかない。」
こうして一行は階段を上り始めた。先頭はドロシーと魔法使い、次に馬車を引くジム、その後ろには馬具に異常が起きないよう見張るゼブが続いた。
辺りは薄暗く、やがて完全な闇へ入ったため、魔法使いは道を照らすランタンを取り出さなければならなかった。そのおかげで着実に進み、やがて山肌の裂け目から光と空気の入る踊り場へ着いた。裂け目をのぞくと、はるか下にヴォーの谷が広がっており、そこから見える小屋は玩具の家のようだった。
しばらく休んでから、一行は再び上り始めた。階段は依然として広く、段差も低かったので、ジムは楽に馬車を引いていけた。それでも老馬は少し息を切らし、呼吸を整えるため何度も立ち止まらなければならなかった。そんなときには、全員が喜んで待った。階段を絶え間なく上り続ければ、誰だって脚が痛くなる。
一行はぐるぐる回りながら、しばらく上り続けた。ランタンの光がぼんやりと道を照らしていたが、陰気な旅だった。そのため前方に太い光の帯が現れ、二つ目の踊り場へ近づいたとわかると、みな喜んだ。
そこでは山の片側に洞窟の口のような大穴が開いており、階段はいったん手前の床の端で途切れ、反対側の端から再び上へ続いていた。
山の開口部はヴォーの谷とは反対側にあり、一行はそこから奇妙な光景を目にした。眼下には果てしない空間が広がり、その底には大波のうねる黒い海があった。波のあいだからは、絶えず小さな炎の舌が飛び出している。すぐ上方、ほとんど足場と同じ高さには、渦巻く雲の群れがあり、絶えず場所を移し、色を変えていた。青や灰色の雲はとても美しく、ドロシーはその上に、美しい者たちの綿毛のように淡い姿が腰かけたり、横たわったりしているのに気づいた。雲の妖精たちに違いなかった。地上に立って空を見上げる人間には、こうした姿はめったに見分けられない。だが今の一行は雲のすぐ近くにいたため、可憐な妖精たちをはっきり見ることができた。
「あれ、本物なの?」ゼブが畏れに満ちた声で尋ねた。
「もちろんよ」とドロシーは小声で答えた。「雲の妖精よ。」
「透かし細工みたいだ」と少年は目を凝らした。「ぎゅっと握ったら、何も残らなさそうだな。」
雲と、はるか下で泡立つ黒い海とのあいだに広がる空間では、ときおり奇妙な鳥がすばやく翼を広げて飛んでいた。鳥は途方もなく巨大で、ゼブは『アラビアン・ナイト』で読んだロック鳥[訳注:中東の伝説に登場する巨大な怪鳥]を思い出した。獰猛な目、鋭い鉤爪とくちばしを持ち、子供たちは、どうか一羽も洞窟へ入ってきませんようにと願った。
「これは驚いた!」小さな魔法使いが突然叫んだ。「いったい何だ、これは?」
全員が振り返ると、洞窟の中央の床に男が立っていた。注目を集めたと気づくと、とても丁寧にお辞儀をした。ほとんど二つ折りになるほど腰の曲がった老人だった。だが何より奇妙なのは、その白い髪と髭だった。どちらも足元に届くほど長く、髪も髭もいくつもの三つ編みに丹念に編まれ、それぞれの先端が色とりどりのリボンで結ばれていた。
「どこから来たの?」ドロシーが不思議そうに尋ねた。
「どこからも来ていない」と三つ編みの男は答えた。「少なくとも最近はな。昔は地上に住んでいたが、長年ここ――ピラミッド山の中腹に工場を構えている。」
「まだ半分しか上ってないの?」少年ががっかりして尋ねた。
「そうだと思うよ、坊や」と三つ編み男は答えた。「だが、ここへ来てから上にも下にも行ったことがないので、正確に中腹かどうかは断言できん。」
「こんなところに工場があるのか?」奇妙な人物をじっくり観察していた魔法使いが尋ねた。
「もちろん」と男は言った。「わしは偉大な発明家で、この寂しい場所で製品を作っている。」
「どんな製品だ?」魔法使いが尋ねた。
「そうだな、旗や旗布に使う各種の『はためき』と、婦人用絹のドレスに使う上等な『衣擦れ』を作っている。」
「やはりな」と魔法使いはため息をついた。「その品物を見せてもらえるか?」
雲の妖精たち。
三つ編み男。
「もちろん。どうぞ店へ」三つ編み男は向きを変え、明らかに住居としている小さな洞窟へ案内した。中の広い棚には、大きさの異なる厚紙の箱がいくつも並び、どれも木綿の紐で結ばれていた。
「これは」と男は箱を一つ取り上げ、そっと扱いながら言った。「十二ダースの衣擦れが入っている――どんな婦人でも一年は使える量だ。お嬢ちゃん、買わないか?」とドロシーに尋ねた。
「わたしの服は絹じゃないわ」と少女は笑った。
「構わん。箱を開ければ、絹のドレスを着ていようがいまいが、衣擦れは逃げ出すからな」と男は真剣に言った。それから別の箱を拾い上げた。「こちらには各種のはためきがたくさん入っている。風のない静かな日でも旗をはためかせる、実に貴重な品だ。そちらの方」と魔法使いのほうを向き、「この詰め合わせを持つべきだ。一度わしの商品を試せば、二度と手放せなくなるだろう。」
「金を持っていないのだ」と魔法使いは遠回しに断った。
「金はいらん」と三つ編み男。「もらっても、この人気のない場所では使えんからな。だが青い髪用リボンなら、ぜひ欲しい。見てのとおり、わしの三つ編みには黄色、桃色、茶色、赤、緑、白、黒のリボンが結ばれている。だが青だけがない。」
「わたしがあげる!」気の毒な男をかわいそうに思ったドロシーは叫んだ。そして馬車へ駆け戻り、旅行鞄からきれいな青いリボンを取り出した。この宝物を受け取ったとき、三つ編み男の目が輝くのを見て、ドロシーもうれしくなった。
「お嬢ちゃん、わしを本当に、本当に幸せにしてくれた!」男は叫び、どうしてもと言って、魔法使いには「はためき」の箱を、少女には「衣擦れ」の箱を受け取らせた。
「いつか必要になるかもしれん。それに、誰にも使ってもらえないなら、こんなものを作る意味がまったくないからな。」
「なぜ地上を離れたのだ?」と魔法使いが尋ねた。
「どうしようもなかった。悲しい話だが、涙をこらえてくれるなら聞かせよう。地上にいたころ、わしはアメリカ製スイスチーズ用の『輸入穴』を作る職人だった。上等な品を供給していたことは認めよう。たいへんな人気だった。それに多孔性膏薬用の孔や、ドーナツとボタン用の高級な穴も作っていた。ついには、新しい『調整可能な柱穴』を発明した。これで大金持ちになれると思った。大量の柱穴を製造したものの、保管場所がなかったので、全部を端から端へつなげ、いちばん上の穴を地面へ置いた。想像できるだろうが、それで途方もなく長い穴ができ、地中深くまで伸びた。底を見ようと身を乗り出したところ、釣り合いを失って落ちてしまったのだ。運の悪いことに、その穴はこの山の外に見える広大な空間へ直接通じていた。だが、この洞窟から突き出した岩角へ何とかつかまり、真下の黒い波へ真っ逆さまに落ちずに済んだ。あそこでは、飛び出す炎の舌に確実に焼き尽くされていただろう。それで、ここを住まいにした。寂しい場所ではあるが、衣擦れやはためきを作って自分を楽しませ、なかなか快適に暮らしている。」
三つ編み男がこの奇妙な話を終えると、あまりにもばかげていたので、ドロシーはもう少しで笑うところだった。だが魔法使いが意味ありげに額を軽く叩き、気の毒な男は頭がおかしいのだと示した。一行は丁寧に別れの挨拶をし、旅を再開するため外側の洞窟へ戻った。

第十一章

木のガーゴイルとの遭遇

息も絶え絶えになるほど上り続け、冒険者たちは山の裂け目がある三つ目の踊り場へ着いた。外をのぞいても、渦巻く雲の群れしか見えず、厚い雲がほかのすべてを覆い隠していた。
だが旅人たちは休まずにはいられなかった。岩の床に腰を下ろしているあいだ、魔法使いはポケットを探り、九匹の小さな子ブタを取り出した。うれしいことに、今では姿がはっきり見えた。ヴォーの谷の魔力が及ぶ範囲を抜けた証拠だった。
「ああ、またお互いが見える!」一匹が喜んで叫んだ。
「そうね」とユリーカはため息をついた。「わたしにもまた見えるわ。見ていたら、ものすごくお腹が空いてきた。ねえ、魔法使いさん、丸々太った子ブタを一匹だけ食べてもいい? 一匹くらいいなくなっても、きっと気づかないわ!」
「なんて恐ろしくて野蛮なけだものだ!」一匹の子ブタが叫んだ。「ぼくたち、あんなに仲よくして、一緒に遊んであげたのに!」
「お腹が空いていないときは、みんなと遊ぶのが大好きよ」と子ネコはおとなしく言った。「でも、お腹が空っぽになると、丸々した子ブタほど、うまく満たしてくれそうなものはないの。」
「ぼくたち、あんなに信じていたのに!」九匹のうちの一匹が責めるように言った。
「ちゃんとした子だと思っていたのに!」別の一匹も言った。
「どうやら間違いだったようだ」と三匹目が、怯えながら子ネコを見て言った。「そんな殺意を抱く者は、一行の仲間にふさわしくないよ。絶対に。」
「ほら、ユリーカ」とドロシーはたしなめた。「みんなに嫌われてしまうわよ。子ネコが食べていいものは決まっているの。どんな場合だって、子ネコがブタを食べたなんて聞いたことないわ。」
「こんなに小さなブタを見たことがある?」子ネコが尋ねた。「ネズミほどの大きさしかないじゃない。ネズミなら、わたしが食べてもいいはずよ。」
「大きさじゃなくて、種類の問題よ」と少女。「この子たちは魔法使いさんのペット。あなたがわたしのペットなのと同じよ。あなたが子ブタを食べるのは、ジムがあなたを食べるのと同じくらい、いけないことなの。」
「その小さな豚肉の塊を放っておかないなら、本当にそうしてやる」とジムは大きな丸い目で子ネコをにらんだ。「一匹でも傷つけたら、その場で噛み砕いてやるぞ。」
子ネコは、馬が本気なのか見極めようとするように、思案深く見つめた。
「それなら」とユリーカは言った。「放っておくわ。ジムにはもう歯があまり残っていないけれど、残った歯は、わたしを震え上がらせるには十分鋭いもの。これからは、少なくともわたしに関するかぎり、子ブタたちは完全に安全よ。」
「それでいい、ユリーカ」と魔法使いは真剣に言った。「みんな仲のよい家族として、互いを愛そうではないか。」
ユリーカはあくびをし、体を伸ばした。
「わたしはずっと子ブタたちが好きだったわ」と言った。「でも、向こうはわたしを好きじゃないの。」
「怖い相手を好きにはなれないわ」とドロシーは断言した。「行儀よくして、子ブタたちを怖がらせなければ、きっと大好きになってくれるわよ。」
魔法使いは九匹の小さな子ブタを再びポケットへ入れ、旅を再開した。
「もう頂上にかなり近いはずだ」と、暗く曲がりくねった階段を疲れ切って上りながら少年は言った。
「ガーゴイルの国も、地上からそう遠くないはずよ」とドロシー。「ここの地下はあまり好きじゃないわ。早く家へ帰りたい。」
誰も返事をしなかった。階段を上るには、息をすべて使わなければならなかったからだ。階段はだんだん狭くなり、ゼブと魔法使いは、ジムが馬車を一段ずつ引き上げるのを何度も手伝った。岩壁へ挟まらないよう押さえなければならないこともあった。
だがとうとう、前方にぼんやりした光が見えた。進むにつれ、光は次第にはっきりと強くなっていった。
「ありがたい、もうすぐだ!」小さな魔法使いは息を切らした。
先頭にいたジムは、目の前に最後の一段があるのを見て、階段を囲む岩壁の上へ頭を出した。だがその場で止まり、さっと頭を引っ込めて後ずさりを始めたため、危うく馬車ごと後ろのみんなの上へ落ちそうになった。
「もう一度、下へ戻ろう!」ジムはしゃがれた声で言った。
「ばかなことを言うな!」疲れ切った魔法使いが怒鳴った。「いったいどうした、年寄り?」
「何もかもだ」と馬は不平を言った。「ちょっとこの国を見てみたが、本物の生き物が行くような場所じゃない。上にあるものは、すべて死んでいる。肉も血も、育つものも、どこにもない。」
「気にしないで。引き返すことはできないわ」とドロシー。「どっちみち、そこに留まるつもりもないもの。」
「危険だぞ」とジムは頑固な口調でうなった。
「いいか、わが立派な駿馬よ」と魔法使いが口を挟んだ。「小さなドロシーも私は、旅の途中で数多くの奇妙な国へ行ったが、いつも無事に逃げ出してきた。驚異のオズの国へさえ行ったことがある――そうだろう、ドロシー? だからガーゴイルの国がどんなところだろうと、たいして気にはしない。進め、ジム。何が起きようと、できるかぎりのことをしよう。」
「わかった」と馬は答えた。「これはあんたたちの旅で、おれの旅じゃない。面倒に巻き込まれても、おれを責めるなよ。」
そう言うと、ジムは前へ体を傾け、残りの階段を馬車ごと上った。ほかのみんなも続き、やがて全員が広い台地に立って、これまで目にしたなかでも最も奇妙で衝撃的な光景を見つめた。
「ガーゴイルの国は、全部木でできてる!」ゼブが叫んだ。まさにそのとおりだった。地面はおがくずで、周囲に散らばる小石は、長い歳月に磨かれて滑らかになった、木の硬い節だった。風変わりな木造の家が並び、前庭には木を彫った花が咲いている。木の幹は粗い木材でできていたが、葉は削りくずだった。草むらは木のささくれで、草もおがくずもない場所には、分厚い木の床が広がっていた。木の鳥が木々のあいだを飛び回り、木の牛が木の草を食べている。だが何より驚くべきものは、ガーゴイルと呼ばれる木の人々だった。
この国には非常に多くのガーゴイルが住んでいた。長い螺旋階段から姿を現したよそ者たちを鋭く見つめながら、奇妙な住民の大集団が近くに群がっていた。
ガーゴイルはとても小柄で、身長は三フィート(約九十一センチメートル)にも満たなかった。胴体は丸く、脚は短く太く、腕は異様なほど長く頑丈だった。頭は体に比べて大きすぎ、顔は明らかに醜かった。長く曲がった鼻と顎、小さな目、大きく開いたにやにや笑いの口を持つ者もいる。平たい鼻、飛び出した目、象のような形の耳を持つ者もいた。実にさまざまな姿で、ほとんど同じ顔は二つとなかったが、どれも同じくらい不愉快な容貌だった。頭頂部には髪がなく、代わりに奇想天外な形が彫られていた。尖った突起や球が一列に並ぶ者、花や野菜に似た模様を持つ者、格子状に切られたワッフルのような四角い模様を頭に載せた者もいた。全員が短い木の翼を身につけ、木ねじを使った木の蝶番で木の体へ固定していた。その翼で、あちらこちらへすばやく音もなく飛んでいたため、脚はほとんど役に立っていなかった。
この音のない動きこそ、ガーゴイルの最も奇妙な点の一つだった。飛ぶときも、話そうとするときも、まったく音を立てない。おもに木の指や唇をすばやく動かして合図を送り、会話していた。木の国のどこからも、いかなる音も聞こえなかった。鳥は歌わず、牛も鳴かない。それでも、辺りでは普通以上に活発な営みが続いていた。
階段のそばに群がっていた奇妙な生き物たちは、初めのうちは身動きもせず、自分たちの国へ突如現れた侵入者を邪悪な目でにらんでいた。一方、魔法使いと子供たち、馬と子ネコも、同じように黙ってガーゴイルを観察した。
「きっと面倒が起こるぞ」と馬が言った。「ゼブ、引き革を外して馬車から自由にしてくれ。動きやすいように戦いたい。」
「ジムの言うとおりだ」魔法使いはため息をついた。「面倒が起こる。私の剣では、あの木の体を切り裂けない――拳銃を取り出さなければ。」
魔法使いは馬車から鞄を取り、中を開けて、恐ろしげな拳銃を二丁取り出した。見ただけで子供たちは怯えて後ずさった。
「ガーゴイルに何ができるの?」ドロシーが尋ねた。「わたしたちを傷つける武器なんて持ってないわ。」
「やつらの腕は一本一本が木の棍棒だ」と小男。「あの目つきを見れば、悪事を企んでいるのは間違いない。拳銃でも木の体を何体か傷つけるだけで終わるだろう。そのあとは、われわれはやつらのなすがままだ。」
「なら、どうして戦うの?」少女が尋ねた。
「良心に恥じずに死ぬためだ」と魔法使いは厳粛に答えた。「できるかぎりのことをするのが、すべての人間の務めだからな。私はそうする。」
「斧があればなあ」と、馬を外し終えたゼブが言った。
「ここへ来るとわかっていれば、役立つものをほかにもいくつか持ってきたのだが」と魔法使い。「この冒険には、実に突然落ち込んだからな。」
話し声が聞こえると、ガーゴイルたちは少し後ろへ下がった。一行は低い声で話していたのだが、辺りがあまりにも静かなため、その言葉は大きく響いたのだ。だが会話が途切れるや、にやにや笑う醜い生き物たちは群れとなって舞い上がり、長い腕を帆船の船首材のように前へ突き出して、よそ者たちへすばやく飛んできた。とりわけ馬が注目を集めた。ガーゴイルがこれまで見たなかで、最も大きく奇妙な生き物だったからだ。そのため最初の攻撃はジムへ集中した。
だがジムは待ち構えていた。飛んでくるのを見ると、後ろ脚を向け、力のかぎり蹴り始めた。ばきっ! がしゃん! どかん! 鉄の蹄がガーゴイルの木の体を打ち、猛烈な勢いで右へ左へはじき飛ばした。ガーゴイルは風に舞う藁のように散らばった。だが、ジムの蹄と同じくらい恐ろしかったのは、その騒音だったらしい。まだ飛べる者は全員、すばやく向きを変え、はるか遠くへ逃げていった。地面へ落ちた者も一体ずつ起き上がり、すぐ仲間のもとへ戻った。一瞬、馬は楽々と勝ったと思った。
だが魔法使いは、それほど楽観していなかった。
「あの木の生き物を傷つけるのは不可能だ」と言った。「ジムが与えた傷といえば、鼻や耳から木片を少し飛ばしただけ。どうせこれ以上醜くなりようもないし、すぐにまた攻撃してくるだろう。」
「なぜ逃げたの?」とドロシー。
「もちろん、音のせいだ。勇者が雄叫びを上げて逃れた話を覚えていないのか?」
「ぼくたちも階段から逃げようよ」と少年が提案した。「今なら間に合う。あの木の悪鬼より、透明なクマを相手にするほうがましだ。」
「いいえ」とドロシーは毅然として答えた。「戻ったら、二度と家へ帰れないわ。最後まで戦いましょう。」
「私もそれがよいと思う」と魔法使い。「まだ負けてはいない。それにジム一頭で、一軍に匹敵する。」
だがガーゴイルは賢く、次は馬を攻撃しなかった。同族がさらに大勢加わった巨大な群れとなって進み、ジムの頭上をまっすぐ飛び越えて、ほかのみんなが立っている場所へ向かった。
魔法使いは拳銃の一丁を構え、敵の群れへ向かって発砲した。銃声は、静かな国に雷鳴のように響き渡った。
木の生き物の何体かは地面へ真っ平らに落ち、手足を震わせた。だが大半は何とか向きを変え、また遠くへ逃れた。
ゼブは駆け寄り、最も近くに倒れていたガーゴイルを拾い上げた。頭頂部は王冠の形に彫られ、魔法使いの弾丸は硬い木の節でできた左目に見事命中していた。弾丸の半分は木に食い込み、半分は外へ突き出している。その生き物を倒したのは、実際の傷よりも、衝撃と突然の音だったのだ。この王冠を載せたガーゴイルが立ち直る前に、ゼブは革帯をその体へ何重にも巻きつけ、翼と腕を縛って動けなくした。そして木の生き物をしっかり縛り終えると、留め金を締め、捕虜を馬車へ放り込んだ。そのころには、ほかのガーゴイルはすべて退却していた。

第十二章

驚くべき脱出

しばらくのあいだ、敵は攻撃を再開するのをためらっていた。やがて数体が前へ出たが、魔法使いがもう一発撃つと退却した。
「すごいや」とゼブ。「今度こそ本当に追い払ったぞ。」
「だが、しばらくのあいだだけだ」と魔法使いは暗い顔で首を振った。「この拳銃は一丁につき六発撃てる。だが、それを使い切れば、われわれは無力だ。」
ガーゴイルもそれに気づいたらしく、仲間を少数ずつ何度も送り出して攻撃させ、小男の拳銃を撃たせた。こうすれば恐ろしい銃声に二度打ちのめされる者はいない。主力部隊は遠くに留まり、戦うたびに新たな一団が送られたからだ。魔法使いが十二発すべてを撃ち尽くしたとき、敵へ与えた損害といえば、銃声で数体を気絶させたことだけだった。勝利には戦いの初めから一歩も近づいていなかった。
「今度はどうするの?」ドロシーが心配そうに尋ねた。
「みんな一緒に叫ぼう」とゼブ。
魔法使いは群れへ発砲した。
「同時に戦うのだ」と魔法使いが付け加えた。「ジムが助けられるよう、その近くへ集まろう。全員が何か武器を持ち、できるだけのことをする。私は剣を使う。この戦いではたいして役立たないがな。ドロシーは日傘を持ち、木の連中が襲ってきたら急に開くんだ。ゼブ、お前に渡せるものは何もない。」
「ぼくは王様を使う」と少年は言い、捕虜を馬車から引っ張り出した。縛られたガーゴイルの腕は頭よりはるか前まで伸びていたので、両手首をつかむと、実に具合のよい棍棒になった。ゼブは幼いころから農場で働いてきたため、年齢のわりに力が強かった。敵にとっては、魔法使いより危険な相手になるだろう。
次のガーゴイル部隊が進んでくると、冒険者たちは気が狂ったかのように叫び始めた。子ネコまで恐ろしく甲高い悲鳴を上げ、それと同時に辻馬のジムも大声でいなないた。敵はしばらく怯んだものの、防御する側はすぐ息切れした。ガーゴイルはそれに気づき、さらに拳銃からもう恐ろしい「どかん」が出ないと悟ると、蜂のように密集した群れで押し寄せた。空が埋め尽くされるほどだった。
ドロシーは地面へしゃがみ込み、日傘を広げた。体がほとんど隠れたため、よい盾になった。魔法使いの剣は、木の人々を最初に打っただけで十数片に砕けた。ゼブは棍棒代わりのガーゴイルを振り回し、何十体もの敵を打ち落とした。だがとうとう、あまりに密集して取り囲まれ、腕を振るう場所がなくなった。馬も見事な蹴りを何度も繰り出し、ユリーカさえ、ガーゴイルへ飛びかかってヤマネコのように引っかき、噛みついて戦った。
だが、これほどの勇敢さもまったく役に立たなかった。木の生き物たちは長い腕をゼブと魔法使いへ巻きつけ、しっかり捕らえた。ドロシーも同じように捕まり、何体ものガーゴイルがジムの脚へしがみついた。重みに耐えられず、かわいそうな馬は身動きできなくなった。ユリーカは決死の勢いで逃げだし、稲妻のように地面を駆けた。だが、にやにや笑うガーゴイルが追いかけ、さほど遠くへ行かないうちに捕まえた。
全員が、すぐに殺されるものと覚悟した。ところが驚いたことに、木の生き物たちは一行を抱えたまま空へ飛び上がり、何マイル(数キロメートル)もの木の国を越えて運び、木の町へ連れていった。町の家々には角が多く、四角形や六角形、八角形をしていた。塔のような形で、立派なものでも古びて風雨にさらされているようだったが、どれも頑丈でしっかりしていた。
捕虜たちが連れてこられたのは、扉も窓もなく、屋根のすぐ下の高い位置に大きな開口部が一つだけある家だった。ガーゴイルは一行を乱暴に開口部の内側の足場へ押し込み、そのまま飛び去った。翼のないよそ者たちは飛んで逃げられず、この高さから飛び降りれば確実に死ぬ。木の生き物には、それくらい考える知恵があった。ただ一つの間違いは、地上の人々には、こんなありふれた困難を克服できないと思い込んだことだった。
ジムもほかのみんなと一緒に運ばれた。大きな馬を空中へ持ち上げ、高い足場へ下ろすには、かなり多くのガーゴイルが必要だった。馬車も一行の持ち物だったので、あとから押し込まれた。木の者たちには、それが何に使われるのか、生きているのかどうかさえ、見当がつかなかった。ユリーカを捕まえた者が子ネコを仲間のあとへ放り込むと、最後のガーゴイルも音もなく姿を消した。一行はようやく、ほっと息をついた。
「恐ろしい戦いだったわ!」ドロシーは短く息をつきながら言った。
「そうかしら」とユリーカは喉を鳴らし、乱れた毛を前脚で整えた。「わたしたちは誰も傷つけられなかったし、向こうもわたしたちを傷つけられなかったわ。」
「捕虜になっても、また全員一緒でよかった」少女はため息をついた。
「なぜ、その場で殺さなかったんだろう」と、乱戦のなかで王様を失ったゼブが言った。
「おそらく、何かの儀式のために生かしてあるのだろう」と魔法使いは考え深げに答えた。「だが、じきに可能なかぎり完全に殺すつもりなのは間違いない。」
「可能なかぎり完全に死ぬって、相当死んでるってこと?」とドロシーが尋ねた。
「そうだよ。だが今は、そんなことで悩む必要はない。牢獄を調べて、どうなっているか見てみよう。」
一行の立つ屋根の下の空間からは、高い建物の四方を見渡せた。みな興味深そうに、眼下に広がる町を眺めた。目に入るものはすべて木でできており、風景は硬直し、ひどく不自然に見えた。
足場からは階段が家の中へ下りていた。子供たちと魔法使いはランタンを灯し、道を照らしながら探検した。何階にもわたって空っぽの部屋が続いていたが、それ以外には何もなかった。しばらくして、三人はまた足場へ戻った。下の部屋に扉か窓があれば、あるいは家の板がこれほど厚く頑丈でなければ、簡単に逃げられただろう。だが下に留まるのは地下室か船倉にいるようで、暗さも湿った臭いも気に入らなかった。
これまで訪れた地底の国々と同じく、この国にも夜はなかった。未知の源から、絶えず強い光が差していた。外を見ると、近くの家々には開いた窓がたくさんあり、住居の中で動き回る木のガーゴイルの姿を見分けることができた。
「どうやら、今は休息の時間らしい」と魔法使いは言った。「木でできていても、すべての民には休息が必要だ。ここには夜がないから、一日のうち決まった時間を選んで眠ったり、うとうとしたりするのだろう。」
「ぼくも眠くなってきた」ゼブがあくびをした。
「あら、ユリーカはどこ?」ドロシーが突然叫んだ。
全員で辺りを見回したが、子ネコはどこにもいなかった。
「散歩に出かけたぞ」とジムがぶっきらぼうに言った。
「どこへ? 屋根の上?」と少女。
「違う。木へ爪を立て、この家の側面を伝って地面へ下りていった。」
「下へは“登れ”ないわ、ジム」とドロシー。「登るって、上へ行くことだもの。」
「誰が決めた?」馬が尋ねた。
「学校の先生よ。先生はたくさんのことを知ってるわ、ジム。」
「“下へ登る”というのも、比喩的な言い回しとしては使われる」と魔法使いが言った。
「まあ、今回はネコの姿だったがな」とジム。「登ったにしろ、這ったにしろ、とにかく下へ行ったんだ。」
「まあ! ユリーカったら、なんて不注意なの」少女はひどく心配して叫んだ。「ガーゴイルに捕まっちゃうわ!」
「はっ、はっ!」老いた辻馬が笑った。「今度はちゃんと言えたな、お嬢ちゃん。ガーゴイルだ。」
「名前なんてどうでもいいわ。ユリーカが捕まっちゃう。」
「捕まらないわよ」子ネコの声がした。そしてユリーカ本人が足場の縁を這い上がり、床へ静かに座った。
「いったいどこへ行っていたの、ユリーカ?」ドロシーが厳しく尋ねた。
「木の人たちを見ていたの。おかしくってたまらないわ、ドロシー。今ちょうど、みんな寝ようとしているんだけど――何をすると思う? ――翼の蝶番を外して、目を覚ますまで部屋の隅へ置いておくの。」
「何を? 蝶番を?」
「違うわ。翼よ。」
「なるほど」とゼブ。「だから、この家を牢獄に使っているんだ。悪いことをして牢へ入れられるガーゴイルは、ここへ連れてこられ、よい子になると約束するまで翼を外して持っていかれるんだ。」
魔法使いはユリーカの話を熱心に聞いていた。
「その外された翼が、いくつかあればいいのだが」と言った。
「それをつけたら飛べるの?」ドロシーが尋ねた。
「おそらくな。ガーゴイルが翼を外せるのなら、飛ぶ力は木の体ではなく、翼そのものに宿っているはずだ。ならば翼さえあれば、われわれも同じように飛べるだろう――少なくとも、この国にいて、その魔法の力が働くあいだは。」
「でも、飛べたら何の役に立つの?」少女が尋ねた。
「こちらへ来なさい」と小男は言い、建物の角の一つへ連れていった。「向こうの丘の斜面に立つ大きな岩が見えるか?」と指を差した。
「ええ。かなり遠いけど、見えるわ。」
「あの雲の中まで伸びる岩の内側に、ヴォーの谷から螺旋階段を上ったときの入口によく似たアーチがある。望遠鏡を取ってくるから、もっとはっきり見えるだろう。」
魔法使いは鞄に入っていた、小さいが高性能の望遠鏡を持ってきた。それを使うと、少女にも開口部がはっきり見えた。
「あれはどこへ続いてるの?」と尋ねた。
「それはわからない」と魔法使い。「だが、もう地上からそれほど深くはないはずだ。あの入口は、われわれが本来いるべき地上へ戻る、別の階段へ通じているかもしれない。翼を手に入れてガーゴイルから逃げられれば、あの岩まで飛んで助かるだろう。」
「ぼくが翼を取ってくる」と、一部始終を考えながら聞いていたゼブが言った。「子ネコが場所を教えてくれるならね。」
「でも、どうやって下りるの?」少女が驚いて尋ねた。
答える代わりに、ゼブはジムの馬具を一本ずつ外し、革帯を互いにつないで、地面まで届く長い革紐を作り始めた。
ガーゴイルとの戦い。
「これを使えば、ちゃんと下りられる」とゼブ。
「いや、“登って下りる”ことはできないぞ」と、ジムは丸い目をきらりと光らせた。「下へ行くことはできるが、登れるのは上だけだ。」
「じゃあ、帰ってきたら登るよ」と少年は笑った。「さあ、ユリーカ。翼の場所へ案内してくれ。」
「とても静かにしてね」と子ネコは警告した。「ほんの少しでも音を立てたら、ガーゴイルが目を覚ますわ。針一本が落ちる音だって聞こえるんだから。」
「針を落とすつもりはないよ」とゼブ。
革帯の片端を馬車の車輪へ固定すると、少年は紐を家の側面から垂らした。
「気をつけてね」とドロシーが真剣に言った。
「そうする」ゼブは答え、縁から体を滑らせた。
少女と魔法使いは身を乗り出し、ゼブが片手ずつ慎重に革帯を伝って下り、地上へ立つまで見守った。ユリーカは家の木の壁へ爪をかけ、簡単に下りた。それから二人は一緒に忍び足で離れ、隣の家の低い戸口へ入っていった。
見張る者たちは固唾をのんで待った。やがて少年が再び姿を現し、その両腕には木の翼がいっぱいに抱えられていた。
垂れ下がった革帯のところまで戻ると、ゼブは翼をひとまとめにして紐の端へ結びつけ、魔法使いが引き上げた。次にゼブが上るため、革帯がもう一度下ろされた。ユリーカもすぐあとへ続き、ほどなく全員が足場へ集まった。そばには貴重な木の翼が八枚置かれていた。
少年の眠気はすっかり消え、活力と興奮に満ちていた。馬具を組み直し、ジムを再び馬車へつないだ。それから魔法使いの助けを借り、何枚かの翼を老いた辻馬へ取りつけようとした。
それは簡単な仕事ではなかった。翼の蝶番は、どれも片側が欠けていたからだ。残り半分は、それを使っていたガーゴイルの体についたままだった。それでも魔法使いは、驚くほど多種多様ながらくたの入った鞄をまた探り、丈夫な針金を一巻き取り出した。それを使い、どうにか四枚の翼をジムの馬具へ固定した。頭の近くに二枚、尻尾の近くに二枚である。少しぐらぐらしたが、馬具さえ壊れなければ十分しっかりしていた。
残り四枚の翼は、馬車の左右へ二枚ずつ取りつけた。馬車は空を飛ぶあいだ、子供たちと魔法使いの重みを支えなければならないからだ。
ジムは空中で羽ばたき、もがきながら飛んだ。
準備にはそれほど時間がかからなかったが、眠っていたガーゴイルたちは目を覚まし、動き始めていた。やがて何体かは、なくなった翼を探し始めるだろう。そのため捕虜たちは、すぐに牢獄を出ることにした。
みな馬車へ乗り込み、ドロシーは膝の上へユリーカをしっかり抱いた。少女が座席の中央に座り、両脇にゼブと魔法使いが座った。すべての用意が整うと、少年は手綱を振って言った。
「飛べ、ジム!」
「どの翼から動かせばいい?」辻馬は迷いながら尋ねた。
「全部一緒に動かせばよい」と魔法使いが提案した。
「曲がっているのもあるぞ」と馬は文句を言った。
「気にするな。馬車の翼で舵を取る」とゼブ。「とにかく飛び出して、あの岩へ向かえ、ジム。ぐずぐずするなよ。」
そこで馬はうめき声を上げ、四枚の翼をいっせいに羽ばたかせ、足場から飛び出した。ドロシーは、この飛行が成功するか少し心配だった。ジムが長い首を反らし、骨ばった脚を広げ、空中で羽ばたきながらもがく姿は、誰をも不安にさせるに十分だった。ジム自身も怖がっているかのようにうめいた。魔法使いが油を差し忘れたため、翼も恐ろしい音を立てて軋んだ。それでも馬の翼と馬車の翼は、かなり調子を合わせて羽ばたき、初めから順調に進んだ。正当に不満を言えることがあるとすれば、空ほど滑らかな道を進んでいるのに、岩だらけの道を走るように、上へ下へとぐらついたことくらいだった。
だが肝心なのは、一行が飛んでいることだった。多少不安定ではあっても、目指す岩へ向かい、すばやく飛んでいた。
やがてガーゴイルの何体かが一行に気づき、逃げる捕虜を追う一団をたちまち集めた。ドロシーがたまたま後ろを振り返ると、空が暗くなるほど大きな群れとなって、ガーゴイルが追ってくるのが見えた。

第十三章

ドラゴネットの巣

一行には十分な先行距離があり、その差を保つことができた。八枚の翼があれば、ガーゴイルと同じ速さで飛べたからだ。木の者たちは大岩までずっと追い続け、ジムがようやく洞窟の入口へ着地したときも、追っ手はまだ少し離れたところにいた。
「でも、まだ捕まりそうで怖いわ」ひどく興奮したドロシーが言った。
「いや、食い止めなければ」と魔法使い。「早く、ゼブ。この木の翼を外すのを手伝ってくれ!」
もう必要のない翼を引きちぎり、魔法使いは洞窟の入口のすぐ外へ積み上げた。それから油差しに残っていた灯油をすべてかけ、マッチに火をつけて山へ投げ込んだ。
炎はたちまち燃え上がり、たき火は煙を噴き、唸り、ぱちぱちと音を立て始めた。ちょうどそこへ、木のガーゴイルの大軍が到着した。生き物たちはすぐに後ずさりし、恐怖と戦慄に襲われた。木の国の長い歴史のなかで、火などという恐ろしいものを見たことがなかったのだ。
アーチの内側にはいくつもの扉があり、山中に造られた別々の部屋へ通じていた。ゼブと魔法使いは木の扉を蝶番から外し、すべて炎の上へ放り込んだ。
「これで、しばらくは障壁になるだろう」と小男は言った。作戦の成功に、皺だらけの顔いっぱいへ満足そうな笑みを浮かべている。「ひょっとすると、あの惨めな木の国全体へ燃え広がるかもしれない。そうなっても損失などわずかだし、ガーゴイルがいなくなっても誰も惜しまないだろう。だが、さあ子供たちよ。山を探検し、この洞窟から逃げるにはどちらへ進めばよいか見つけよう。ここは焼き窯のように暑くなりかけている。」
残念なことに、この山には地上へ上るためのきちんとした階段がなかった。緩やかに上るトンネルのような道がしばらく続いたが、その床は荒く、傾斜も急だった。さらに急に曲がると、馬車の通れない狭い回廊へ出た。そのためしばらく足止めされ、苦労することになった。一行は馬車を置き去りにしたくなかったのだ。荷物を運んでくれるうえ、よい道では乗ることもできる。これほど長い旅路をともにしてきたからには、守るのが自分たちの務めだとも感じていた。そこでゼブと魔法使いは作業に取りかかり、車輪と屋根を外した。それから馬車を横倒しにして、できるだけ場所を取らないようにした。その姿勢で、我慢強い辻馬の助けを借り、狭い通路へ何とか車体を引きずっていった。幸い、狭い区間はそれほど長くなかった。道が広がると馬車を再び組み立て、より快適に進んだ。だが道は、山の中に走る裂け目や亀裂が連なっただけのものだった。あらゆる方向へジグザグに進み、上へ傾いたかと思えば下へ傾いた。何時間も前に出発したときより地上へ近づいているのかどうかさえ、わからなくなった。
「でも」とドロシー。「あの恐ろしいガーゴイルからは逃げられたわ。それだけは安心ね!」
「まあ、ドラゴンだ!」
「おそらく、まだ火を消そうと忙しくしているだろう」と魔法使い。「仮に消せたとしても、こんな岩のあいだを飛ぶのは難しい。もう恐れる必要はないだろう。」
ときおり床に深い亀裂が現れ、道はかなり危険になった。それでもランタンには道を照らすだけの油が残っており、亀裂も飛び越えられないほど広くはなかった。崩れた岩の山を越えなければならないこともあり、そんな場所ではジムも馬車をろくに引けなかった。そのたびにドロシーとゼブと魔法使いが後ろから押し、最も険しい場所では車輪を持ち上げた。懸命に働くことで、何とか前へ進み続けた。だが旅人たちは疲れ果て、すっかり意気消沈していた。やがて鋭い角を曲がると、頭上高くまで弧を描き、滑らかで平らな床を持つ、巨大な洞窟へ出た。
洞窟は円形だった。その周囲の地面近くには、くすんだ黄色の光がいくつも集まっていた。必ず二つ一組で並んでいる。初めは動かなかったが、やがてより明るく瞬き始め、左右へ、続いて上下へ、ゆっくり揺れ始めた。
「ここは何なんだ?」少年は暗闇に目を凝らしながら尋ねた。
「私にも見当がつかない」と魔法使いも辺りを見回した。
「ウウーッ!」ユリーカはうなり、毛が逆立つほど背中を丸めた。「ワニかクロコダイルか、何か恐ろしい生き物の巣よ! あの怖い目が見えないの?」
「ユリーカは、わたしたちより暗闇でよく見えるの」とドロシーがささやいた。「ねえ、どんな姿をしているの?」とペットへ尋ねた。
「とても説明できないわ」子ネコは震えながら答えた。「目はパイ皿みたいで、口は石炭入れみたい。でも、体はそんなに大きくなさそう。」
「どこにいるの?」少女が尋ねた。
「洞窟の周囲にある、小さなくぼみの中よ。ああ、ドロシー――どれほど恐ろしいか、想像もできないわ! ガーゴイルより醜いの。」
「こらこら! 近所の者を批評するときは気をつけたまえ」近くから、がらがらした声が響いた。「実のところ、君たちだってかなり醜い生き物だ。それに母上からは、われわれこそ世界でいちばん愛らしく、美しいと何度も聞かされている。」
その言葉を聞き、一行は声の方向を向いた。魔法使いがランタンを掲げ、小さな岩のくぼみの一つへ光を当てた。
「なんと、ドラゴンだ!」魔法使いが叫んだ。
「違う」大きな黄色い目を瞬かせ、じっと一行を見つめる声の主が答えた。「それは間違いだ。いつかドラゴンになるつもりだが、今はまだドラゴネット[訳注:幼いドラゴン]にすぎない。」
「それは何?」ドロシーは、大きな鱗の頭、ぽっかり開いた口、巨大な目を恐る恐る見つめた。
「もちろん、子供のドラゴンだ。だが完全に成長するまでは、本物のドラゴンを名乗ることを許されていない」と返事があった。「大きなドラゴンはたいへん誇り高く、子供などたいした存在ではないと思っている。だが母上は、いつかわれわれ全員が、とても強く、重要な存在になるとおっしゃっている。」
「母親はどこだ?」魔法使いが不安そうに辺りを見回した。
「夕食を狩りに地上へ行っている。運がよければ、ゾウを一頭か、サイを二頭、あるいは空腹をなだめるために人間を数十人ほど持ち帰るだろう。」
「まあ、お腹が空いてるの?」ドロシーは後ずさった。
「とても」とドラゴネットは顎をぱちんと鳴らした。
「そ、それで――人間を食べるの?」
「もちろん、手に入ればな。だがここ数年はひどく少なくて、たいていはゾウやバッファローで我慢しなければならない」と生き物は残念そうに答えた。
「何歳?」黄色い目に魅了されたように見つめながら、ゼブが尋ねた。
「悲しいことに、まだとても若い。ここに見える兄弟姉妹も、実質的には全員同い年だ。確か、おとといで六十六歳になった。」
「それは若くないわ!」ドロシーは驚いて叫んだ。
「そうか?」ドラゴネットは間延びした声で言った。「わたしには、ひどく赤ん坊じみた年齢に思えるが。」
「お母さんはいくつ?」少女が尋ねた。
「母上は二千歳くらいだ。だが数世紀前、うっかり年齢を数え忘れて、何百年か飛ばしてしまった。少し気難しいところがあってな。未亡人で、まだ女盛りだから、年を取るのを恐れているのだ。」
「無理もないわね」とドロシーは同意した。少し考えてから尋ねた。「わたしたちは友達、それとも敵? つまり、親切にしてくれるの? それとも食べるつもり?」
「その点なら、われわれドラゴネットは喜んで君を食べたい、お嬢ちゃん。だが残念ながら、母上がそれぞれの洞穴の奥にある岩へ、われわれの尻尾を巻きつけて縛っている。そのため這い出して君を捕まえられない。近くへ来てくれるなら、瞬く間にひと口で食べよう。だが、そうしないかぎりは安全だ。」
生き物の声には残念そうな響きがあり、その言葉を聞いたほかのドラゴネットも、みな陰気にため息をついた。
ドロシーはほっとした。やがて尋ねた。
「なぜお母さんは尻尾を縛ったの?」
「狩りへ出ると、何週間も帰らないことがある。縛られていなければ、われわれは山じゅうを這い回り、互いに喧嘩して、たくさんのいたずらをするからだ。母上はたいてい何をすべきか知っているが、今回は間違えた。君たちは近づかないかぎり、確実に逃げてしまうだろう。そして、たぶん近づいてはくれまい。」
「もちろんよ!」少女は言った。「こんな恐ろしいけだものに食べられたくないもの。」
「ひと言よろしいかな」とドラゴネットは答えた。「こちらが侮辱へ仕返しできないと知りながら、悪口を言うとは、ずいぶん失礼だ。われわれは容姿端麗だと思っている。母上がそうおっしゃったのだから間違いない。それに、われわれは高貴な家柄で、血統は二万年ほど前、人間がまだ創造されていなかった時代に生きた、かの有名なアトランティスの緑のドラゴンにまでさかのぼる。どんな人間にも負けない血統だ。お嬢ちゃん、これに匹敵できるかな?」
「そうね」とドロシー。「わたしはカンザスの農場で生まれたの。岩に尻尾を縛られて洞穴で暮らすのと同じくらい、立派で高貴だと思うわ。違うとしても、受け入れるしかないわね。」
「好みは人それぞれだ」とドラゴネットはつぶやき、黄色い目の上へ鱗のまぶたをゆっくり下ろした。目は半月のようになった。
生き物たちが岩のくぼみから這い出せないとわかって安心した子供たちと魔法使いは、じっくり観察した。ドラゴネットの頭は樽ほどの大きさで、ランタンの光を鮮やかに反射する、硬い緑がかった鱗に覆われていた。頭のすぐ後ろから生えた前脚も頑丈で大きかったが、胴体は頭より細く、後ろへ行くほどどんどん細くなり、尻尾の先は靴紐ほどだった。ドロシーは、六十六年かけてこの大きさにしか育たなかったのなら、ドラゴンを名乗れるようになるまで、たっぷり百年はかかるだろうと思った。大人になるまで待つには、ずいぶん長い時間だった。
「思うに」と魔法使い。「母親ドラゴンが戻る前に、ここを出るべきだ。」
「急がないでくれ」とドラゴネットの一匹が呼びかけた。「母上も、きっと喜んで君たちに会うだろう。」
「そうかもしれない」と魔法使い。「だが、われわれは見知らぬ者との付き合いには少し慎重なのだ。君たちの母親が地上へ出るとき、どちらへ行ったか教えてもらえるかな?」
「われわれに尋ねるには、公平でない質問だ」と別のドラゴネットが断言した。「正直に答えれば、君たちは完全に逃げてしまうかもしれない。嘘をつけば、われわれは悪い子になり、罰を受けるに値する。」
「それなら」とドロシー。「自分たちで最善の道を探すしかないわね。」
一行は瞬く黄色い目から十分な距離を取り、洞窟をぐるりと一周した。やがて、入ってきた場所と反対側の壁に、二本の道があるのを発見した。運を天に任せて一方を選び、出せるかぎりの速さで急いだ。母親ドラゴンがいつ戻るかわからず、どうしてもお近づきになりたくなかったからだ。

第十四章

オズマ姫、魔法のベルトを使う

かなり長い距離にわたり、道は緩やかな上り坂をまっすぐ続いていた。旅人たちは順調に進み、いつ日光が見えてもおかしくないと考え、希望と期待を膨らませた。だがついに、通路を塞ぐ巨大な岩へ不意に出くわし、一歩も先へ進めなくなった。
その岩は山のほかの部分から独立しており、軸に載ったようにゆっくり回転していた。最初に近づいたときは、目の前に分厚い壁があった。だがやがて回転すると、その上を通って反対側へ渡れる、広く滑らかな道が現れた。あまりにも突然だったため、一行は初め、その機会を生かす用意ができていなかった。渡ると決心する前に、岩の壁は再び回ってしまった。だが脱出する手段があるとわかったので、二度目に道が現れるまで辛抱強く待った。
子供たちと魔法使いは動く岩の上を駆け抜け、向こう側の通路へ飛び込んだ。少し息を切らしたが、安全に着地した。辻馬のジムが最後に続き、危うく岩壁へ挟まれるところだった。向こう側の通路の床へ跳び移った瞬間、壁が回ってきたのだ。そのとき馬車の車輪がぶつけた石が、岩の回る細い隙間へ落ち、そこに挟まった。
ごりごりと砕ける音、続いて大きく折れる音が聞こえた。回転台は、来た道を最も広い面で塞いだまま停止した。
「気にするな」とゼブ。「どっちみち戻りたくないんだから。」
「そうとも言い切れないわ」とドロシー。「母親ドラゴンが下りてきて、ここでわたしたちを捕まえるかもしれない。」
「その可能性はある」と魔法使いも認めた。「ここが普段使っている道ならな。だが、このトンネルを調べても、あれほど大きなけだものが通った跡は見当たらない。」
「なら大丈夫ね」と少女。「ドラゴンが別の道へ行ったなら、もう絶対にここへは来られないわ。」
「もちろんだ。だが、もう一つ考えるべきことがある。母親ドラゴンは、おそらく地上への道を知っている。別の道へ行ったなら、われわれは道を間違えたことになる」と魔法使いは考え込みながら言った。
「まあ!」ドロシーが叫んだ。「それはついてないわね。」
「まったくだ。この通路も地上へ続いていれば別だが」とゼブ。「ぼくとしては、ここから出られるなら、ドラゴンの通る道じゃないほうがうれしいよ。」
「わたしも」とドロシー。「あの生意気なドラゴネットたちに血統を自慢されただけで十分よ。母親が何をするかなんて、誰にもわからないもの。」
一行は再び進み、別の急な坂をゆっくり上っていった。ランタンの光が弱まり始めたため、魔法使いは一方に残った油をもう一方へ移し、一つの明かりを長持ちさせた。だが旅はほとんど終わっていた。ほどなく小さな洞窟へ着き、その先には出口がなかったのだ。
初めは不運に気づかなかった。はるか頭上にある洞窟の天井の小さな亀裂から、一筋の日光が差していたため、みなの心は喜びに満たされた。それは、自分たちの世界――本当の世界――がそう遠くないことを意味していた。危険な冒険を次々とくぐり抜け、ようやく故郷を意味する地上へ近づいたのだ。だが冒険者たちが周囲を詳しく調べると、脱出する望みのない、堅固な牢獄に閉じ込められたとわかった。
「でも、もうほとんど地上よ!」ドロシーは叫んだ。「ほら、太陽が見える――世界でいちばんきれいな太陽よ!」遠い天井の亀裂を、熱心に指差した。
「ほとんど地上でも、地上にいるわけじゃない」と子ネコは不満そうに言った。「わたしにだって、あの亀裂までは上れないし、着いたとしても通り抜けられないわ。」
「道はここで終わりらしい」と魔法使いは暗い声で告げた。
「しかも戻る道もない」とゼブは困惑し、低く口笛を吹いた。
「結局こうなると思っていた」と老いた辻馬は言った。「地球の真ん中へ落ちてから、また戻って冒険を語る者などいない――現実の世界ではな。それに、そもそも何もかも不自然だった。このネコもおれも、人間の言葉を話せるし、あんたたちの言葉も理解できるんだから。」
「九匹の小さな子ブタもね」とユリーカが付け加えた。「忘れないで。結局、食べなきゃならないかもしれないもの。」
「動物が話すのなら、前にも聞いたことがあるわ」とドロシー。「それで何か悪いことが起きたわけでもないもの。」
「これまでに地中深くの洞窟へ、逃げ道もなく閉じ込められたことはあるか?」馬が真剣に尋ねた。
「ないわ」とドロシー。「でも、希望をなくさないで、ジム。これが物語の終わりじゃないって、わたしにはわかるもの。」
子ブタの話を聞き、魔法使いは、ペットたちが最近あまり運動しておらず、ポケットの牢獄にも飽きているはずだと思い出した。そこで洞窟の床へ腰を下ろし、一匹ずつ取り出して、好きなだけ走り回らせた。
「お前たち」と魔法使いは言った。「どうやら、大変な災難へ巻き込んでしまったらしい。二度とこの陰気な洞窟から出られないかもしれない。」
「何があったの?」一匹の子ブタが尋ねた。「ずいぶん長く暗闇にいたんだから、何が起きたのか説明してくれてもいいだろう。」
魔法使いは、旅人たちを襲った不幸について話した。
「でも」と別の子ブタ。「あなたは魔法使いでしょう?」
「そうだ」と小男。
「それなら魔法を何度か使って、この穴から出してよ」と小さな一匹は自信たっぷりに言った。
「私が本物の魔法使いなら、そうできただろう」と主人は悲しそうに答えた。「だが違うのだ、子ブタちゃんたち。私はいんちき魔法使いなのだよ。」
「そんなばかな!」何匹もの子ブタが同時に叫んだ。
「ドロシーに聞けばよい」と小男は傷ついたように言った。
「本当よ」と少女は真剣に答えた。「お友達のオズは、ただのいんちき魔法使いなの。昔、わたしにそう証明したわ。やり方さえ知っていれば、とてもすごいことをいくつかできるけど、道具と機械がなければ、一つも魔法を使えないの。」
「お嬢ちゃん、公正に説明してくれてありがとう」と魔法使いは感謝した。「本物ではない私を本物の魔法使いだと非難するなど、黙って耐えられない中傷だからな。だが私は、これまで生きたなかで最も偉大ないんちき魔法使いの一人だ。それは、みんなで飢え死にし、骨がこの寂しい洞窟の床へ散らばったときにわかるだろう。」
「そうなったら、もう何もわからないと思うわ」と、深く考え込んでいたドロシーが言った。「でも、わたしはまだ骨を散らかすつもりはないの。まだ必要だし、あなたたちも自分の骨が必要でしょう。」
「脱出する手段はない」と魔法使いはため息をついた。
「わたしたちにはないかもしれない」とドロシーは微笑んだ。「でも、わたしたちよりすごいことのできる人がいるわ。元気を出して。きっとオズマが助けてくれる。」
「オズマ!」魔法使いが叫んだ。「オズマとは誰だ?」
「驚異のオズの国を治める女の子よ」とドロシー。「わたしの友達なの。少し前にエヴの国で出会って、一緒にオズへ行ったわ。」
「二度目に?」魔法使いが大いに興味を示した。
「そう。初めてオズへ行ったときは、あなたがエメラルドの都を治めていたわ。あなたが気球で飛び立って、わたしたちのもとから逃げたあと、わたしは魔法の銀の靴を使ってカンザスへ帰ったの。」
「あの靴は覚えている」と小男はうなずいた。「昔、悪い魔女が持っていた。今ここにあるのか?」
「いいえ。空のどこかでなくしたの」と子供は説明した。「でも二度目にオズの国へ行ったときは、銀の靴よりはるかに強力な、ノーム王の魔法のベルトを持っていたわ。」
「その魔法のベルトはどこにある?」魔法使いは深い興味を示して尋ねた。
「オズマが持ってる。アメリカ合衆国みたいな、ごく普通の国では力が働かないの。オズの国みたいな妖精の国なら、誰でもそれを使って何でもできる。だから、お友達のオズマ姫に預けたの。オズマはそれを使って、わたしがヘンリーおじさんのいるオーストラリアへ行けるよう願ってくれたわ。」
「本当に行けたの?」ゼブは話を聞いて驚いた。
「もちろん。ほんの一瞬でね。それにオズマの部屋には魔法の絵が掛かっていて、いつでも好きなときに、どんな友達がどこにいるか、その場面を正確に映し出すの。“誰それは何をしているかしら”と言うだけで、すぐに絵が、その友達のいる場所と、していることを見せてくれる。これこそ本物の魔法でしょう、魔法使いさん? それでオズマは、毎日四時にその絵でわたしを見ると約束してくれたの。助けが必要なら決めておいた合図をする。そうしたらオズマはノーム王の魔法のベルトをつけ、わたしがオズにいるよう願ってくれるの。」
「オズマ姫は魔法の絵でこの洞窟を見て、ここにいるわれわれ全員と、何をしているかを見るというのか?」ゼブが問いただした。
「もちろんよ。四時になればね」ドロシーは、驚愕するゼブの顔を見て笑った。
「それで合図をすれば、オズの国へ連れていってくれる?」少年は続けた。
「そのとおり。魔法のベルトを使ってね。」
「ならば」と魔法使い。「小さなドロシー、お前は助かるのだな。それは本当にうれしい。お前がわれわれの悲しい運命から逃れられたとわかれば、残った者たちも、もっと明るい気持ちで死ねるだろう。」
「わたしは明るい気持ちで死んだりしない!」子ネコが抗議した。「死ぬことに、楽しいところなんて一つもないわ。ネコには九つの命があって、九回死ななきゃならないとはいうけれど。」
「もう死んだことはある?」少年が尋ねた。
「ないわ。始めたいとも思わない」とユリーカ。
「心配しないで」とドロシーは叫んだ。「腕に抱いて、一緒に連れていってあげる。」
「ぼくたちも!」九匹の小さな子ブタが一斉に叫んだ。
「できるかもしれないわ」とドロシー。「やってみる。」
「おれも腕に抱けないか?」辻馬が尋ねた。
ドロシーは笑った。
「もっといいことをしてあげる」と約束した。「わたしさえオズの国へ行けば、みんなを簡単に助けられるわ。」
「どうやって?」みんなが尋ねた。
「魔法のベルトを使うの。みんながわたしのそばにいるよう願うだけで、すぐそこに現れるわ――王宮の中へ安全にね!」
「すごい!」ゼブが叫んだ。
「あの宮殿も、エメラルドの都も、私が造ったのだ」と魔法使いは物思いに沈んだ声で言った。「もう一度見てみたいものだ。マンチキンやウィンキーやクアドリングやギリキンと暮らしていたころは、とても幸せだった。」
「それは誰?」少年が尋ねた。
「オズの国に住む四つの民だ」と魔法使い。「私が再び行ったら、親切にしてくれるだろうか。」
「もちろんよ!」ドロシーは断言した。「みんな今でも昔の魔法使いを誇りに思い、よくあなたのことを懐かしそうに話しているわ。」
「ブリキの木こりとかかしがどうなったか、知っているか?」魔法使いが尋ねた。
「今もオズに住んでいるわ」と少女。「とても偉い人たちなの。」
「臆病なライオンは?」
「もちろんいるわ。お友達のお腹をすかせたトラと一緒にね。それにビリーナもいるわ。カンザスよりオズが気に入って、わたしとオーストラリアへ行きたがらなかったから。」
「お腹をすかせたトラとビリーナは、知らないようだ」と魔法使いは首を振った。「ビリーナは女の子か?」
「違うわ。黄色いめんどりで、わたしの大親友。会えばきっと好きになるわ。」
「君の友達は、動物園みたいだな」とゼブは不安そうに言った。「オズより安全な場所へ、ぼくを願い出してくれない?」
「心配しないで」と少女。「知り合えば、オズのみんなを絶対に好きになるわ。今何時、魔法使いさん?」
小男はチョッキのポケットに入れた、大きな銀の懐中時計を見た。
「三時半だ。」
「それなら、あと三十分待たなきゃ。でもそのあとは、みんなをエメラルドの都へ運ぶのに、ほとんど時間はかからないわ。」
一行はしばらく黙り、考え込んだ。やがてジムが突然尋ねた。
「オズには馬がいるか?」
「一頭だけ」とドロシー。「ノコギリ馬よ。」
「何だって?」
「ノコギリ馬。オズマ姫が男の子だったころ、魔女の粉で命を与えたの。」
「オズマは昔、男の子だったの?」ゼブは驚いて尋ねた。
「そう。悪い魔女が、王国を治められないよう魔法をかけたの。でも今は女の子で、世界でいちばん優しくて、きれいな女の子よ。」
「ノコギリ馬ってのは、板を載せて切る台だろう」とジムは鼻を鳴らした。
「生きていなければね」と少女は認めた。「でも、そのノコギリ馬はジムと同じくらい速く走れるし、とても賢いのよ。」
「ふん! あんな惨めな木のロバなら、いつだって競走してやる!」辻馬が叫んだ。
ドロシーは何も答えなかった。いずれジムも、ノコギリ馬についてもっとよく知るだろうと思ったからだ。
待ち望む者たちにとって、時間はうんざりするほど遅く流れた。だがついに魔法使いが四時になったと告げ、ドロシーは子ネコを抱き上げ、遠く離れた見えないオズマと決めておいた合図を始めた。
「何も起こらないみたいだ」とゼブが疑わしそうに言った。
「オズマが魔法のベルトをつけるまで、待たなきゃ」と少女。
そう言い終えるやいなや、ドロシーは洞窟から突然姿を消した。子ネコも一緒だった。何の音も、前触れもなかった。ある瞬間までドロシーは子ネコを膝へ載せ、仲間のそばに座っていた。だが次の瞬間、地底の牢獄に残っていたのは馬と子ブタたち、魔法使いと少年だけだった。
ドロシーは合図を送った。
「われわれも、すぐにあとを追うだろう」と魔法使いは、心底ほっとした声で告げた。「オズの国と呼ばれる妖精の国の魔法なら、少し知っている。いつ呼び寄せられてもよいよう、準備しておこう。」
魔法使いは子ブタたちを再び安全にポケットへしまい、それからゼブと一緒に馬車へ乗り込み、期待に胸を膨らませて座席へ座った。
「痛くない?」少年が少し震える声で尋ねた。
「まったく」と魔法使い。「すべて一瞬で起こる。」
そして、本当にそのとおりになった。
辻馬は驚いてびくりと体を震わせ、ゼブは眠っているのではないと確かめるため、何度も目をこすった。そこは美しいエメラルド色の町の通りだった。目にとても心地よい緑の光に満たされ、豪華な緑と金の服をまとった、にこやかな人々が周囲を取り巻いている。その衣装は、どれもひどく風変わりな意匠を凝らしていた。
目の前には、宝石をちりばめた壮麗な宮殿の門があった。今、その門が中庭へ招き入れるようにゆっくり開いた。中庭には見事な花が咲き、美しい噴水が銀色の飛沫を空高く噴き上げていた。
人々が集まり始め、見知らぬ者たちを見つめていた。そこでゼブは、驚きのあまり呆然としている辻馬を目覚めさせるため、手綱を振った。
「進め!」少年が叫んだ。その声に従い、ジムはゆっくり中庭へ小走りで入り、宝石を敷き詰めた車道を進んで、王宮の大玄関まで馬車を引いていった。

第十五章

旧友たちとの再会

見事な制服に身を包んだ大勢の召使いたちが、新たな客人を迎えようと待ち構えていた。魔法使いが馬車から降りると、緑のドレスを着た愛らしい娘が驚きの声を上げた。
「まあ、オズだわ! 偉大なる魔法使いが、また帰ってきたのね!」
小男は娘の顔をじっと見つめ、それから両手を取って、親しげにぶんぶん振った。
「いやはや、驚いた!」と彼は叫んだ。「小さなジェリア・ジャムじゃないか――相変わらずおしゃまで、かわいらしい!」
「そうでなくて、どうしますの、魔法使いさま?」ジェリアは深々とお辞儀をして答えた。「でも、昔のようにエメラルドの都を治めることはできないと思いますわ。今は、みんなが心から愛している美しい姫さまがいらっしゃいますから。」
「国民も、姫さまを手放す気はありません」と、大元帥の制服を着た背の高い兵士が付け加えた。
魔法使いは振り向いて、その男を見た。
「きみは昔、緑色の頬ひげを生やしていなかったかね?」
「はい」と兵士は答えた。「ですが、ずっと前に剃り落としました。それ以来、一兵卒から昇進を重ね、今では王国軍の最高司令官です。」
「それは結構」と小男は言った。「だが、みなさん、どうか安心してほしい。私はエメラルドの都を治めるつもりなどないのだ。」
「それなら、大歓迎です!」召使いたちはいっせいに叫んだ。王家の従者たちが敬意を込めて自分に頭を下げるのを見て、魔法使いは満足した。オズの国で彼の名声は、決して忘れ去られてはいなかったのだ。
「ドロシーはどこ?」馬車を降り、小さな魔法使いの隣に立ったゼブが、心配そうに尋ねた。
「オズマ姫と一緒に、宮殿の奥のお部屋にいます」とジェリア・ジャムが答えた。「ですが、みなさんを歓迎し、お部屋までご案内するよう、わたしにお申しつけになりました。」
ゼブは目を丸くして周囲を見回した。この宮殿にあふれる豪華さと富は、これまで夢に見たことさえないほどだった。目の前できらびやかに輝くものが本物で、安物の飾りではないなど、ほとんど信じられなかった。
「ぼくはどうなるんだ?」馬のジムが不安そうに尋ねた。若いころには都会暮らしもずいぶん経験していたので、こんな王宮が自分のいる場所でないことくらいはわかっていた。
この動物をどう扱えばよいのか、さすがのジェリア・ジャムもしばらく途方に暮れた。緑の娘は、これほど珍しい生き物を見て大いに驚いた。この国には馬というものが存在しなかったからだ。しかし、エメラルドの都に住む者たちは、奇妙なものを見て驚くことには慣れている。そこで娘は馬車馬をひととおり眺め、大きな目に浮かぶおとなしい光を見て、怖がる必要はないと判断した。
「ここには厩舎がないんだ」と魔法使いが言った。「私が去ってから新しく建てられていなければ、だが。」
「これまで必要ありませんでしたから」とジェリアは答えた。「ノコギリ馬なら宮殿の一室で暮らしています。あなたがたの連れてきたこの大きな獣より、ずっと小さくて、見た目も自然ですもの。」
「ぼくが化け物だと言いたいのか?」ジムが腹を立てて尋ねた。
「まあ、いいえ!」ジェリアは慌てて言った。「あなたの来たところには、あなたのような方が大勢いるのでしょう。でもオズでは、ノコギリ馬以外の馬は珍しいのです。」
それを聞いて、ジムの機嫌も少し直った。しばらく考えた末、緑の娘は馬車馬にも宮殿の一室を与えることにした。これほど大きな建物なのだから、めったに使われない部屋がいくつもあったのだ。
そこでゼブがジムの馬具を外すと、数人の召使いが宮殿の裏手へ連れていき、馬一頭で気兼ねなく使える、広くて立派な部屋を選んでくれた。
それからジェリアは魔法使いに言った。
「玉座の間の奥にあった、あなたさまのお部屋は、お出かけになってからずっと空いたままです。もう一度、あのお部屋をお使いになりますか?」
「もちろんとも!」小男は答えた。「あの部屋には何年も何年も住んでいたから、またわが家へ帰ったような気分になるだろうな。」
部屋までの道は知っていたので、鞄を持った召使いだけを従えて歩いていった。ゼブも一室へ案内されたが、あまりにも壮麗で美しい部屋だったため、椅子に腰掛けたりベッドに横たわったりすれば、その輝きを曇らせてしまうのではないかと、怖くなるほどだった。戸棚には、上等なビロードや錦織で仕立てた華やかな衣装が何着も入っていた。召使いの一人は、好きな服に着替え、一時間後に姫とドロシーとの晩餐へ出られるよう支度しておくよう告げた。
寝室の隣には、香水を入れた湯をたたえる大理石の浴槽を備えた、立派な浴室があった。ゼブは珍しいものばかりの環境にまだぼうっとしながらも、ゆっくり湯につかり、それから汚れて擦り切れた自分の服を脱いで、銀のボタンがついた栗色のビロードの衣装を選んだ。その服には絹の靴下と、ダイヤモンドの留め金がついた柔らかな革靴まで揃っていた。すっかり着替えたゼブは、生まれてこのかた一度もなかったほど、堂々として立派に見えた。
やがて姫のもとへ案内する従者がやってきたとき、ゼブの支度はすっかり整っていた。恥ずかしそうにそのあとについていくと、豪華というより、優美で心を惹きつける部屋へ通された。そこではドロシーが、一人の若い娘の隣に座っていた。その娘があまりにも驚異的な美しさだったので、ゼブは感嘆の息をのみ、思わず足を止めた。
だがドロシーは勢いよく立ち上がると、駆け寄って友だちの手をつかみ、そのまま愛らしい姫の前へ引っ張っていった。姫は客人に、とても優雅な微笑みを向けた。そこへ魔法使いが入ってきたので、ゼブの気まずさもいくらか和らいだ。小男は黒いビロードの服をまとい、胸元にはきらめくエメラルドの飾りをいくつもつけていた。しかし禿げた頭と皺だらけの顔のせいで、威厳があるというより、どこかおかしみのある姿だった。
オズマは、エメラルドの都を築き、マンチキン、ギリキン、クアドリング、ウィンキーを一つの民にまとめた有名な男に会いたくて、ずっと興味津々だった。そこで四人が晩餐のテーブルにつくと、姫は尋ねた。
「魔法使いさま、どうか教えてください。この偉大な国の名を取って、ご自分をオズと名乗ったのですか? それとも、わたしの国があなたにちなんでオズと呼ばれているとお考えですか? わたしは前々から、このことをお尋ねしたいと思っていました。あなたはわたしたちとは異なる種族ですし、わたし自身の名もオズマです。この謎を解き明かすのに、あなた以上にふさわしい方はいないでしょう。」
「そのとおり」と小さな魔法使いは答えた。「では喜んで、私とこの国との関わりを説明しよう。まず言っておかねばならないが、私はオマハで生まれた。政治家だった父は、私をオスカー・ゾロアスター・ファドリッグ・アイザック・ノーマン・ヘンクル・エマニュエル・アンブロワーズ・ディッグズと名づけた。ディッグズが最後なのは、その前につける名前を父がもう思いつけなかったからだ。全部合わせると、何の罪もない哀れな子どもに背負わせるには、恐ろしく長い名前だった。自分の名を覚えることは、私が学んだなかでも、とりわけ難しい課題の一つだったよ。大人になってからは、単にO・Zと名乗るようになった。残りの頭文字を並べるとP・I・N・H・E・A・D、つまり“pinhead”[訳注:「間抜け」の意]となり、私の知性を侮辱する言葉になってしまうからね。」
「名前を短くしたからといって、誰もあなたを責められませんわ」オズマは同情して言った。「でも、少し短くしすぎたのではありませんか?」
「そうかもしれない」と魔法使いは答えた。「若いころ、私は家出をしてサーカスに入った。自分を魔法使いと称し、腹話術を使った芸をしていたものだ。」
「腹話術とは何です?」姫が尋ねた。
「好きな物に声を飛ばし、私ではなく、その物がしゃべっているように見せかける術だ。それから気球にも乗るようになった。気球にも、サーカスで使うほかの道具にも、私の持ち物だとわかるよう、“O・Z”という二つの頭文字を描いておいた。
「ある日、気球が私を乗せたまま飛び去り、砂漠を越えて、この美しい国まで運んできた。人々は私が空から降りてきたのを見て、当然ながら自分たちより優れた存在だと思い、ひれ伏した。そこで私は魔法使いだと名乗り、人々を驚かせる簡単な手品をいくつか見せた。そして気球に描かれた頭文字を見た人々は、私をオズと呼ぶようになったのだ。」
「ようやくわかってきました」姫は微笑んだ。
「当時、この国には四つの国が別々に存在し、それぞれ一人の魔女に治められていた」と魔法使いは、せわしなくスープを口へ運びながら話を続けた。「だが人々は、私の力が魔女たちよりも強いと思った。ひょっとすると、魔女たち自身もそう思っていたのかもしれない。彼女たちは一度も、あえて私に逆らおうとはしなかったからね。私は四つの国が接する場所にエメラルドの都を建てるよう命じ、完成すると、マンチキン、ギリキン、ウィンキー、クアドリングの四国すべてを含むオズの国の支配者を名乗った。そして何年ものあいだ、この国を平和に治めたが、やがて年老い、もう一度故郷の町を見たいと思うようになった。そこでドロシーが初めて竜巻に飛ばされてここへ来たとき、気球で一緒に旅立つ手はずを整えた。ところが気球が早く飛び立ちすぎ、私だけを乗せて戻ってしまった。いくつもの冒険の末にオマハへたどり着いたものの、昔の友人はみな死んでいるか、どこかへ引っ越していた。それで、ほかにすることもなく、またサーカスに入り、あの地震に巻き込まれるまで気球乗りを続けていたというわけだ。」
「たいへんな来歴ですね」とオズマは言った。「けれど、オズの国の歴史には、あなたがまだご存じないことが少しあります――おそらく、誰も教えてくれなかったからでしょう。あなたがここへ来る何年も前、この国は今と同じように、一人の支配者のもとに統一されていました。そして支配者の名は、いつも『オズ』でした。わたしたちの言葉で『偉大にして善良』という意味です。支配者が女性なら、その名は必ず『オズマ』でした。ところが昔、四人の魔女が手を組み、王を退けて、王国の四地域を自分たちで治めようと企みました。そこで、わたしの祖父である支配者がある日狩りに出たとき、モンビという悪い魔女が祖父をさらい、連れ去って、厳重に監禁したのです。それから魔女たちは王国を分割し、あなたがここへ来るまで、その四地域を治めました。だから国民は、あなたが現れたことをあれほど喜び、気球の頭文字を見て、正統な支配者だと思ったのです。」
「だが、あのころこの国を治めていたのは、二人の良い魔女と二人の悪い魔女だったはずだが」と魔法使いは考え込みながら言った。
「ええ」とオズマは答えた。「北では良い魔女がモンビを打ち破り、南では善き魔女グリンダが悪い魔女を倒していたからです。けれどモンビはその後も祖父の牢番を務め、やがて父の牢番にもなりました。わたしが生まれると、モンビはわたしを男の子の姿に変えました。誰にも正体を見破られず、わたしがオズの国の正統な姫だと知られないようにするためです。でも、わたしはモンビのもとから逃げ出し、今では民を治めています。」
「それを聞いて、たいへんうれしく思う」と魔法使いは言った。「そして、どうか私を、あなたの最も忠実で献身的な臣下の一人に加えていただきたい。」
「わたしたちは、偉大なる魔法使いに多くを負っています」と姫は続けた。「この壮麗なエメラルドの都を築いたのは、あなたですから。」
「築いたのは、あなたの民だよ」と彼は答えた。「私はただ、オマハで言うところの現場監督をしただけだ。」
「それでも、あなたは長年にわたり、賢明に、立派に都を治めました」とオズマは言った。「そして国民は、あなたの魔法を誇りに思うようになりました。もう、外国をさすらい、サーカスで働くにはお年を召しすぎています。ですから、命あるかぎり、ここをあなたの家として差し上げます。あなたには、わが王国の公式魔法使いとなっていただき、あらゆる敬意と心遣いをもって遇することにします。」
「ありがたくお申し出をお受けいたします、慈悲深き姫君」小男は静かな声で言った。その鋭い老眼に涙が浮かんでいるのが、皆にも見えた。こんな家を得られることは、彼にとって何より大きな意味があったのだ。
「でも、ただのいんちき魔法使いよね」ドロシーが彼に笑いかけた。
「そのほうが、魔法使いとしては一番安全です」オズマはすぐさま答えた。
「いんちきだろうとなかろうと、オズはうまい手品をいくつも使えるよ」と、すっかりくつろいだゼブが言った。
「では明日、その手品でわたしたちを楽しませてもらいましょう」と姫は言った。「ドロシーの昔のお友だちをみな呼び寄せ、再会を祝い、歓迎するよう、使者を出してあります。もう間もなく着くはずです。」
実際、晩餐が終わるや否や、かかしが飛び込んできた。詰め物の入った両腕でドロシーを抱きしめ、また会えてどれほどうれしいかを語った。オズの国で重要な人物となっていた藁の男は、魔法使いのことも心から歓迎した。
「脳みその具合はどうだい?」小さないんちき魔法使いは、旧友の柔らかな綿詰めの手を握りながら尋ねた。
「よく働いているよ」とかかしは答えた。「オズ、きみがくれたのは、間違いなく世界一の脳みそだ。ほかの脳みそがぐっすり眠っているあいだも、ぼくのは昼も夜も考え続けられるからね。」
ドロシーとオズマ。
「私がここを去ったあと、どれくらいエメラルドの都を治めていたんだい?」魔法使いは次に尋ねた。
「かなり長いあいだだよ。ジンジャー将軍という女の子に征服されるまでね。でも、すぐにオズマが善き魔女グリンダの助けを借りて彼女を打ち破った。それからぼくは、ブリキの木こりのニック・チョッパーと暮らすようになったんだ。」
ちょうどそのとき、外からけたたましい鳴き声が聞こえた。召使いが深々と頭を下げて扉を開けると、一羽の黄色い雌鶏が胸を張って入ってきた。ドロシーは駆け寄って、ふわふわした鳥を腕に抱き、喜びの声を上げた。
「ああ、ビリーナ! ずいぶん丸々として、羽もつやつやになったのね。」
「そうならない理由がある?」雌鶏は甲高く、よく通る声で尋ねた。「この国で最高のごちそうを食べて暮らしているんだもの。そうでしょう、オズマ?」
「欲しいものは何でも手に入るでしょう」と姫は言った。
ビリーナの首には美しい真珠の首飾りがかかり、脚にはエメラルドの腕輪ならぬ脚輪がはめられていた。ビリーナがドロシーの膝の上で心地よさそうに丸くなると、子猫は嫉妬に怒って唸り、鋭い爪をむき出しにして飛びかかり、ビリーナを引っかこうとした。だがドロシーが怒った子猫をぴしゃりと強く叩いたので、ユリーカは爪を立てる勇気もなく、また床へ飛び降りた。
「なんてひどいことをするの、ユリーカ!」ドロシーは叫んだ。「わたしのお友だちに、そんなふうにするなんて!」
「ずいぶん変わった友だちだと思うけど」子猫は不機嫌に答えた。
「こっちも同じことを思っているよ」とビリーナは軽蔑して言った。「その性悪な猫も友だちの一人だっていうならね。」
「二人とも、よく聞いて!」ドロシーは厳しく言った。「オズの国で喧嘩なんて、絶対に許さないからね! ここでは誰もが平和に暮らし、みんながお互いを愛しているの。だからビリーナとユリーカ、二人が仲直りして友だちにならないなら、魔法のベルトを使って、二人ともただちに元いた場所へ帰してやるから。わかった!」
二人ともその脅しにはすっかり怯え、素直にいい子にすると約束した。だからといって、その後、二人がとても仲良くなった様子は一度も見られなかったが。
そこへブリキの木こりが到着した。その体は美しくニッケルめっきされ、部屋のまばゆい光を受けて、見事に輝いていた。ブリキの木こりはドロシーを心から愛しており、小さな年老いた魔法使いの帰還も喜んで迎えた。
「魔法使いどの」と彼は言った。「かつてわたしにくださった、すばらしい心臓への感謝は、どれほど言葉を尽くしても足りません。この心臓のおかげで、たくさんの友だちができました。そして今でも、昔と変わらず優しく、愛情深く鼓動しているのです。」
「それはよかった」と魔法使いは言った。「きみのブリキの体のなかで、かびてしまうのではないかと心配していたよ。」
「とんでもありません」とニック・チョッパーは答えた。「密閉された胸のなかで保存されていますから、今でも申し分ない状態です。」
ゼブは、こうした奇妙な者たちに初めて紹介されたときには少し気後れしていた。だが、みなあまりにも親切で誠実だったので、やがてすっかり感心し、黄色い雌鶏にさえ、いくつか長所を見いだすようになった。しかし次の客が紹介されると、また緊張してしまった。
「こちらは、わたしの友人、H・M・ワグル・バグ教授、T・Eです」とオズマ姫が言った。「以前、わたしがひどく困っていたときに助けてくださり、今では王立アスレチック科学大学の学長を務めています。」
「ほう」と魔法使いは言った。「これほど高名なお方にお会いできて光栄です。」
「H・Mとは」とワグル・バグはもったいぶって言った。「Highly Magnified、すなわち『高度に拡大された』という意味。そしてT・EとはThoroughly Educated、すなわち『徹底的に教育された』という意味である。実際、わたしはたいへん大きな虫であり、この広大な領土で最も知性に優れた存在であることは、疑いようがない。」
「ずいぶんうまく隠しておられる」と魔法使いは言った。「だが、あなたのお言葉を疑うつもりは毛頭ありません。」
「誰一人として疑いませんとも」とワグル・バグは答えた。そしてポケットから本を取り出すと、一同に背を向け、部屋の隅に腰を下ろして読み始めた。
これほど徹底的な教育を受けていない者がすれば、もっと無礼に見えたかもしれないが、誰も気に留めなかった。一同はすぐにワグル・バグのことを忘れ、楽しいおしゃべりに加わって、寝る時間まで愉快に過ごした。

第十六章

馬車馬ジム

馬車馬ジムにあてがわれたのは、緑の大理石の床と、彫刻を施した大理石の腰壁を備えた大部屋だった。その堂々たる造りには、ほかの者なら誰でも圧倒されたに違いない。だがジムは、そんなものはどうでもいいとばかりに受け入れ、命じられた従者たちは毛並みを念入りにこすり、たてがみと尻尾をとかし、ひづめと球節を洗った。それから、すぐに夕食を運ぶと告げると、ジムは早ければ早いほどありがたいと答えた。まず運ばれてきたのは、湯気を立てるスープの鉢だった。馬はぎょっとして、それを眺めた。
「そんなもの、下げろ!」ジムは命じた。「ぼくをサラマンダー[訳注:火の中に棲むとされた伝説上の精霊]だと思っているのか?」
従者たちはすぐさま従い、次に立派な大ヒラメを銀の大皿に載せ、溶かしたバターのソースをかけて出した。
「魚だって!」ジムは鼻を鳴らした。「ぼくを雄猫だと思っているのか? 持っていけ!」
召使いたちは少し気落ちしたが、ほどなくして、きれいに焼いたウズラ二十四羽をトーストに載せた大盆を運んできた。
「まったく、もう!」今やすっかり腹を立てた馬は言った。「ぼくをイタチだと思っているのか? オズの国の連中は、なんて愚かで物知らずなんだ。それに、なんておぞましいものを食べているんだろう! この宮殿には、まともに食べられるものが何もないのか?」
震え上がった召使いたちは王室執事長を呼びにやった。執事長は急いで駆けつけ、尋ねた。
「殿下は、夕食に何をお望みでございましょう?」
「殿下だって?」そんな呼び名に慣れていないジムは繰り返した。
「殿下の背丈は少なくとも六フィート(約一・八メートル)ございます。この国のどの動物よりもお高いのでございます」と執事長は言った。
「それなら、この殿下はカラスムギを所望する」馬は宣言した。
「カラスムギでございますか? 粒のままのものはございません」と執事長は、たいへんうやうやしく答えた。「ですが、オートミールならいくらでもございます。朝食に、よく煮てお出ししております。オートミールは朝食用の料理でございますが」執事長は恐縮して付け加えた。
「ぼくが夕食用にしてやる」とジムは言った。「持ってこい。ただし、命が惜しければ煮るんじゃないぞ。」
ご覧のとおり、くたびれた老馬車馬は、あまりに丁重に扱われたため、少しばかり横柄になっていた。オズの国へ到着するまで、生まれた日からずっと召使いとしてしか扱われたことがなかったので、自分が客であることを忘れてしまったのだ。だが王宮の従者たちは、馬の不機嫌を気に留めなかった。すぐに、たらいいっぱいのオートミールを少量の水で混ぜてくれ、ジムはそれをたいそううまそうに食べた。
それから召使いたちは床に敷物を何枚も重ねた。老馬は、生まれて初めて味わうほど柔らかな寝床で眠った。
翌朝、夜が明けるとすぐ、ジムは散歩に出て、朝食に食べる草を探そうと決めた。そこで見事なアーチ形の戸口をのんびりと抜け、誰もが眠っているらしい宮殿の角を曲がったところで、ノコギリ馬とばったり出くわした。
ジムは驚きのあまり、ぴたりと足を止めた。ノコギリ馬も同時に立ち止まり、奇妙に飛び出した目で相手をじっと見た。その目は、胴体となっている丸太の節にすぎなかった。ノコギリ馬の脚は、丸太に開けた穴へ差し込まれた四本の棒だった。尻尾は偶然切り落とされずに残った小枝で、口は頭代わりに少し突き出した丸太の端に、斧で刻み目を入れただけのものだった。木の脚の先には純金の板が取りつけられ、不格好な胴体には、きらめくダイヤモンドをちりばめた赤革製のオズマ姫の鞍がくくりつけられていた。
「いったい全体、きみは何者なんだ?」
ジムの目もノコギリ馬に負けないほど飛び出した。耳をぴんと立て、長い頭が弓なりになった首に触れるほど後ろへ引き、相手を凝視した。
滑稽な姿勢のまま、二頭はしばらく、ゆっくり互いの周囲を回った。どちらも、生まれて初めて目にした奇妙なものが何なのか、理解できずにいたのだ。やがてジムが叫んだ。
「いったい全体、きみは何者なんだ?」
「ぼくはノコギリ馬だ」と相手は答えた。
「ああ、きみの話は聞いたことがあるような気がする」と馬車馬は言った。「でも、想像していたのとはまるで違うな。」
「そうだろうとも」とノコギリ馬は誇らしげに言った。「ぼくはたいそう珍しいものだと思われているからね。」
「確かに珍しい。だが、きみのようながたがたの木細工が生きているなんて、間違っているぞ。」
「ぼくのせいじゃないよ」相手は少ししょげて答えた。「オズマが魔法の粉を振りかけたものだから、生きるほかなかったんだ。大したものじゃないことはわかっている。でも、オズの国で馬はぼく一頭だけだから、みんなは大きな敬意を払ってくれる。」
「きみが馬だって!」
「もちろん、本物じゃないよ。ここには本物の馬なんて一頭もいない。でも、ぼくは見事な馬の模造品なんだ。」
ジムは憤慨していなないた。
「ぼくを見ろ!」と叫んだ。「これこそ、本物の馬だ!」
木の動物はびくりとし、それから相手を食い入るように調べた。
「まさか、きみは本物の馬なのか?」ノコギリ馬はつぶやいた。
「まさかどころか、本当だ」ジムは答えた。相手を感心させたことに気をよくしていた。「ぼくの見事な特徴を見れば、すぐわかる。たとえば、この尻尾の長い毛を見ろ。これでハエを追い払えるんだ。」
「ぼくはハエに悩まされたことがない」とノコギリ馬は言った。
「それに、この大きくて丈夫な歯を見ろ。これで草をかじるんだ。」
「ぼくは食べる必要がない」とノコギリ馬は言った。
「それから、この幅広い胸をよく見ろ。おかげで、深くたっぷりと息が吸えるんだ」ジムは誇らしげに言った。
「ぼくには息をする必要がない」と相手は答えた。
「そうか。なら、きみは多くの喜びを味わえないんだな」馬車馬は哀れむように言った。「噛みついたハエを払い落とす爽快さも、おいしい食べ物を口にする喜びも、新鮮で澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む満足感も知らない。きみは馬の模造品かもしれないが、ひどく出来の悪い模造品だ。」
「きみのようになれるとは思っていないよ」ノコギリ馬はため息をついた。「でも、ついに本物の馬に会えてうれしい。きみは間違いなく、ぼくが今まで見たなかで一番美しい生き物だ。」
その褒め言葉に、ジムはすっかり参ってしまった。美しいと言われたのは、生まれて初めてだった。そこでジムは言った。
「友よ、きみの最大の欠点は、木でできていることだ。まあ、それはきみのせいじゃないだろうけどね。ぼくのような本物の馬は、肉と血と骨でできている。」
「骨ならよく見える」とノコギリ馬は答えた。「立派だし、くっきり浮き出ている。肉も見えるよ。でも血は、たぶん中にしまってあるんだろうね。」
「そのとおり」とジムは言った。
「何の役に立つの?」ノコギリ馬は尋ねた。
ジムにもわからなかったが、それをノコギリ馬に打ち明ける気はなかった。
「どこかを切れば」とジムは答えた。「血が流れ出して、どこが切れたか教えてくれる。かわいそうなきみときたら、傷つけられても血を流すことさえできない。」
「でも、ぼくは傷つかないよ」とノコギリ馬は言った。「たまに少し壊れることはあるけれど、簡単に直して、また元どおりにしてもらえる。それに折れても、ささくれができても、痛みなんてちっとも感じない。」
ジムは、痛みを感じずにすむ木の馬を、危うくうらやましく思いかけた。だが、あまりにも不自然で馬鹿げた生き物なので、どんなことがあろうと入れ替わりたくはない、と考え直した。
「どうして金の蹄鉄を履いているんだ?」ジムは尋ねた。
「オズマ姫がつけてくれたんだ」とノコギリ馬は答えた。「おかげで脚がすり減らずにすむ。オズマとぼくは、一緒にずいぶんたくさんの冒険をしてきた。姫はぼくを気に入っているんだ。」
馬車馬が返事をしようとしたとき、不意に体をびくりと震わせ、恐怖のいななきを上げて、木の葉のように震え始めた。二頭の巨大で獰猛な獣が角を曲がって現れ、あまりに足音が静かだったため、ジムがその存在に気づいたときには、もうすぐそばまで来ていたのだ。ジムは逃げようと道を駆け出しかけたが、ノコギリ馬が叫んだ。
「待って、兄弟! 待つんだ、本物の馬! 二人は友だちだ。きみに危害なんて加えないよ。」
ジムはためらい、怯えた目で獣たちを見た。一頭は澄んだ知性ある目をした巨大なライオンで、黄褐色のたてがみはふさふさとして手入れが行き届き、体は黄色いビロードのようだった。もう一頭は巨大なトラで、しなやかな胴には紫色の縞が走り、四肢はたくましく、半ば閉じたまぶたの奥では炭火のような目が燃えていた。森と密林の王者たる二頭の巨体は、どれほど勇敢な者の心にも恐怖を呼び起こすに十分だった。ジムが向き合うのを怖がったとしても、無理はない。
だがノコギリ馬は落ち着いた声で、見知らぬ馬を紹介した。
「気高き馬よ、こちらはぼくの友人、臆病なライオン。森の勇敢な王であると同時に、オズマ姫の忠実な臣下だ。そしてこちらはお腹をすかせたトラ。密林の恐怖と呼ばれ、太った赤ん坊を食べたくてたまらないが、良心に止められて食べられない。この気高い二頭は、どちらも小さなドロシーの親友で、今朝、彼女を妖精の国へ迎えるためエメラルドの都へやってきたんだ。」
その言葉を聞き、ジムは恐怖を克服しようと決意した。できるかぎり威厳を込めて、獰猛そうな二頭へ頭を下げると、二頭も親しげにうなずき返した。
「本物の馬は、美しい動物だと思わないかい?」ノコギリ馬が感嘆して尋ねた。
「それはおそらく、好みの問題だろう」とライオンは答えた。「森では不格好だと思われるはずだ。顔が前に長く伸び、首も無駄に長い。関節は腫れてごつごつしているし、肉づきは悪く、年も取っている。」
「それに、ひどく肉が硬そうだ」お腹をすかせたトラが、悲しげな声で付け加えた。「本物の馬のように硬い肉を食べることなど、ぼくの良心は決して許さないだろう。」
「それを聞いて安心した」とジムは言った。「ぼくにも良心があってね。この強力なひづめの一撃で、きみの頭蓋骨を叩き潰してはいけないと告げている。」
そんな言葉で縞模様の獣を脅せると思ったのなら、大間違いだった。トラは笑ったように見え、片目をゆっくりつぶった。
「友なる馬よ、きみは立派な良心を持っている」とトラは言った。「その教えに従えば、危険から身を守るのに大いに役立つだろう。いつか、ぼくの頭蓋骨を叩き潰させてあげよう。そのあとなら、今よりトラについて詳しくなっているはずだ。」
「ドロシーの友だちなら」と臆病なライオンが言った。「ぼくたちの友だちでもある。だから頭蓋骨を潰す話はやめて、もっと楽しいことを話そう。馬どの、朝食は済んだかね?」
「まだだ」とジムは答えた。「だが、ここには上等なクローバーがたくさんある。失礼して、今から食べさせてもらおう。」
「菜食主義者なんだな」馬がクローバーを食べ始めると、トラが言った。「ぼくも草を食べられれば、良心など必要ないのに。そうすれば、赤ん坊や子羊を食べたいという誘惑に駆られることもない。」
ちょうどそのとき、早起きして動物たちの声を聞きつけたドロシーが、旧友たちを迎えに駆け出してきた。喜びに満ちてライオンとトラの両方を抱きしめたが、付き合いの長い百獣の王のほうを、お腹をすかせた友人よりも少しだけ深く愛しているようだった。
みんなでたっぷり話し、ドロシーが恐ろしい地震や最近の冒険をすべて語り終えるころ、宮殿から朝食の鐘が鳴った。少女は人間の仲間たちと合流するため、中へ入った。大広間へ足を踏み入れると、少し耳障りな声が呼びかけた。
「なんだ! おまえ、また来たのか?」
「ええ、来たわ」ドロシーは答え、声の主を探して辺りを見回した。
「何をしに戻ってきた?」次の質問が聞こえた。ドロシーが目を向けると、暖炉の真上の壁に、枝角の生えた頭が掛けられていた。しかも、ちょうどその唇が動いているところだった。
「まあ、びっくり!」ドロシーは叫んだ。「剝製だと思っていたわ。」
「剝製だとも」と頭は答えた。「だが昔、わしはガンプの一部で、オズマに命の粉を振りかけられたのだ。その後しばらくは、史上最高の空飛ぶ機械の頭となり、いくつものすばらしいことを成し遂げた。のちにガンプは解体され、わしはこの壁へ戻された。だが気が向けば、今でもしゃべれる。めったに気は向かんがな。」
「とっても不思議ね」と少女は言った。「最初に生きていたころは、何だったの?」
「忘れてしまった」とガンプの頭は答えた。「大して重要なこととも思えん。それより、オズマが来た。黙ったほうがよさそうだ。ティップからオズマへ名を変えて以来、姫はわしのおしゃべりを嫌うのでな。」
ちょうどそのとき、少女の姿をしたオズの支配者が扉を開け、朝の口づけでドロシーに挨拶した。小さな姫は生き生きとして頬もばら色で、たいへん機嫌がよさそうだった。
「朝食の支度ができましたよ」とオズマは言った。「わたしもお腹がすきました。一分だって待たせず、すぐ行きましょう。」

ジムは木の葉のように震えていた。
第十七章

九匹の小さな子ブタ

朝食のあと、オズマは客人たちを祝うため、エメラルドの都全体を休日にすると発表した。人々は、昔の魔法使いが戻ってきたことを知り、誰もがもう一度会いたがっていた。魔法使いは昔から、ひときわ人気のある人物だったのだ。そこでまず、街路を練り歩く盛大な行進を行い、そのあと小さな老人には、宮殿の大広間である玉座の間で魔法の芸を披露してもらうことになった。午後には、競技や競走も予定された。
行進は、まことに堂々たるものだった。先頭を行くのは、オズ帝国コルネット・バンド。エメラルド色のビロードに、豆のような明るい緑色のサテンで切れ込み飾りを入れ、巨大なカット・エメラルドのボタンをつけた制服を着ていた。バンドは「オズの星条旗」と呼ばれる国歌を演奏し、その後ろには国旗を掲げた旗手たちが続いた。国旗は四つに分かれ、一つは空色、もう一つは桃色、三つ目は薄紫、四つ目は白だった。中央には大きなエメラルドグリーンの星があり、四つの区画全体に、日差しを受けて美しくきらめくスパンコールが縫いつけられていた。四つの色はオズの四地域を、緑の星はエメラルドの都を表していた。
王家の旗手たちのすぐ後ろには、王用の戦車に乗ったオズマ姫が続いた。戦車は黄金製で、精巧な模様を描くようにエメラルドとダイヤモンドがちりばめられていた。この日、戦車を引いたのは臆病なライオンとお腹をすかせたトラで、それぞれ巨大な桃色と青色のリボンで飾られていた。戦車にはオズマとドロシーが乗っていた。オズマは豪華な衣装をまとい、王冠を戴いていた。一方、カンザスの少女は、かつてノーム王から奪った魔法のベルトを腰に巻いていた。
戦車のあとには、ノコギリ馬にまたがったかかしが続き、人々は愛する支配者に負けないほど大きな歓声を上げた。その後ろを、有名な機械人間チックトックが、規則正しくぎくしゃくした足取りで進んだ。この日のため、ドロシーがぜんまいを巻いておいたのだ。チックトックは時計仕掛けで動き、全身が磨き上げられた銅でできていた。本来はカンザスの少女の持ち物で、ドロシーは、きちんとぜんまいを巻かれて動き出したときの彼の考えを大いに尊重していた。しかし、銅の男は妖精の国以外では役に立たないため、オズマに預け、きちんと世話をしてもらっていた。
そのあとには、王宮バンドと呼ばれる別の楽団が続いた。団員がみな宮殿で暮らしているため、その名がついたのだ。彼らは本物のダイヤモンドのボタンがついた白い制服を着て、「オズマなくしてオズに何があろう」を、とても美しく演奏した。
続いてワグル・バグ教授が、王立科学アスレチック大学の学生たちを引き連れて進んだ。学生たちは髪を長く伸ばし、縞模様のセーターを着て、一歩おきに大学の掛け声を叫んだ。それを聞いた人々は、若者たちの肺が健康であることがわかって、大いに満足した。
次に、まばゆいほど磨き上げられたブリキの木こりが、オズ王国軍を率いて行進した。軍は将軍から大尉まで、二十八名の将校で構成されていた。兵卒は一人もいなかった。全員があまりに勇敢で有能だったため、一人ずつ昇進を重ね、とうとう兵卒がいなくなってしまったのだ。続いてジムと馬車が進み、老馬車馬の手綱をゼブが握った。魔法使いは座席の上に立ち、禿げ頭を左右に下げながら、周囲にひしめく人々の歓声に応えた。
総じて、行進は大成功だった。宮殿へ戻ると、市民たちは魔法使いの芸を見るため、大きな玉座の間へ押し寄せた。
小さないんちき魔法使いが最初にしたのは、帽子の下から白い小さな子ブタを一匹取り出し、それを二つに引き裂くふりをして二匹に増やすことだった。その動作を繰り返し、ついには九匹の小さな子ブタがすべて姿を現した。子ブタたちはポケットから出られたのがうれしくて、たいそう元気に走り回った。このかわいらしい小動物は、どこへ行っても珍しがられただろう。そのため、人々は魔法使いが望んだ以上に、その姿に驚き、大喜びした。子ブタをすべて再び消してしまうと、オズマは残念だと言った。一匹をかわいがり、一緒に遊びたかったのだ。そこで魔法使いは、姫の髪の中から子ブタを一匹取り出すふりをした――本当は内ポケットからこっそり取り出したのだが。子ブタが腕の中にすっぽり収まると、オズマはうれしそうに微笑み、その太い首にエメラルドの首輪を作らせ、いつでも楽しませてもらえるよう、ずっと手元に置くと約束した。
その後、魔法使いが有名な芸を披露するときは、いつも子ブタが八匹になった。だが九匹いたころと同じくらい、人々は喜んでくれたようだった。
魔法使いは、玉座の間の奥にある自分の小部屋で、気球に乗って旅立った際に置き去りにした品々をたくさん見つけた。彼がいないあいだ、誰もその部屋を使っていなかったのだ。そこには、サーカスの手品師たちから教わった新しい芸をいくつか準備するのに十分な材料があり、魔法使いは夜の一部を使って仕込みを済ませていた。そこで九匹の子ブタの芸に続き、観客を大いに喜ばせる驚異的な妙技をいくつも披露した。小男が観客を楽しませてくれるかぎり、いんちき魔法使いであろうとなかろうと、人々は少しも気にしていないようだった。どの芸にも拍手喝采を送り、演目が終わると、もう二度と自分たちを置いて行かないでほしいと、心から懇願した。
「それならば」と小男は重々しく言った。「ヨーロッパとアメリカの戴冠した君主たちとの約束をすべて取り消し、オズの民に身を捧げることにしよう。私はきみたち全員を心から愛しているので、何一つ願いを拒めないのだ。」
その約束に満足して人々が退出したあと、仲間たちは宮殿で催された豪華な昼食会に参加し、オズマ姫と食卓を囲んだ。トラとライオンにも豪勢な食事が振る舞われ、馬車馬ジムは、縁にルビー、サファイア、ダイヤモンドが七列にわたってちりばめられた黄金の鉢から、オートミールを食べた。
午後になると、一同は競技が催される城門の外の大広場へ向かった。オズマと客人たちがその下に座り、人々の徒競走や跳躍、相撲を見物できるよう、美しい天蓋が設けられていた。これほど高名な一行に見守られているのだから、オズの人々が全力を尽くしたことは言うまでもない。やがてゼブは、優勝者らしい小柄なマンチキンに相撲を挑んだ。見た目はゼブの二倍ほどの年齢だった。先の尖った長い頬ひげを生やし、つばの周りに小さな鈴がいくつもついた尖り帽子をかぶっていた。その鈴は、男が動くたび陽気に鳴った。マンチキンの身長はゼブの肩に届かないほどだったが、あまりにも強く、技にも優れていたため、いとも簡単にゼブを三度も仰向けに投げ倒した。
ゼブは敗北に大いに驚いた。しかも美しい姫まで国民と一緒になって笑ったため、今度はマンチキンに拳闘を申し込んだ。小さなオズの住人は喜んで承知した。だがゼブが初めて、相手の耳をぴしゃりと殴ることに成功すると、マンチキンは地面に座り込み、痛かったといって、涙が頬ひげを伝うほど泣き出した。今度はゼブが笑う番だった。オズマが、泣いている臣下のことも自分のときと同じくらい楽しげに笑うのを見て、少年は慰められた。
ちょうどそのとき、かかしがノコギリ馬と馬車馬の競走を提案した。ほかの者たちはみな、その提案を喜んだが、ノコギリ馬は尻込みして言った。
「そんな競走は公平じゃないよ。」
「もちろん公平じゃない」とジムが少し軽蔑を込めて付け加えた。「きみの短い木の脚は、ぼくの半分の長さもないんだからな。」
「そういう意味じゃないんだ」ノコギリ馬は控えめに言った。「ぼくは疲れないけれど、きみは疲れる。」
「ふん!」ジムは相手をひどく見下しながら叫んだ。「きみみたいな、みすぼらしい馬の模造品が、ぼくより速く走れると一瞬でも思っているのか?」
「さあ、わからないよ」とノコギリ馬は答えた。
「だから、それを確かめるんじゃないか」とかかしが言った。「競走の目的は、誰が勝つかを確かめること――少なくとも、ぼくの優秀な脳みそはそう考えている。」
「ぼくは若いころ」とジムは言った。「競走馬で、挑んできた相手をことごとく打ち負かしたものだ。ぼくはケンタッキー生まれだからね。最高に優秀で、最も由緒ある馬は、みんなケンタッキーから出るんだ。」
「でも今は年寄りだよ、ジム」ゼブが指摘した。
「年寄りだって! 今日のぼくは子馬のような気分だ」とジムは答えた。「ここに競走できる本物の馬がいてくれればよかったのに。そうすれば、見事なものをみんなに見せてやれるんだが。」
「なら、どうしてノコギリ馬と競走しないんだい?」かかしが尋ねた。
「怖いんだろう」とジムは言った。
「いや、違う」とノコギリ馬は答えた。「公平じゃないと言っただけだ。でも友なる本物の馬が競走を引き受けるというなら、ぼくはいつでもいいよ。」
そこでジムの馬具を外し、ノコギリ馬から鞍を下ろすと、なんとも奇妙な組み合わせの二頭を、出発線に並べた。
「ぼくが『走れ!』と言ったら」とゼブは二頭に呼びかけた。「全速力で駆け出して、向こうに見える三本の木まで競走するんだ。それから木の周りを回って、ここまで戻ってくる。姫が座っている場所を最初に通り過ぎたほうが勝者だ。いいかい?」
「この木偶には、かなり先に出させてやるべきだろうな」ジムは唸った。
「そんなことは気にしなくていい」とノコギリ馬は言った。「ぼくもできるだけ頑張るよ。」
「走れ!」ゼブが叫んだ。その声とともに二頭は飛び出し、競走が始まった。
魔法使いはオズマの髪から子ブタを取り出した。
ジムの大きなひづめは猛烈な勢いで地面を打った。走る姿はあまり優美ではなかったが、ケンタッキー育ちに恥じない走りぶりだった。だが、ノコギリ馬は風よりも速かった。木の脚は目にも留まらぬ速さで動き、きらめきさえほとんど見えなかった。馬車馬よりはるかに小さいにもかかわらず、ずっと速く地面を駆け抜けた。木々に着く前にノコギリ馬は大きく差をつけ、ジムが息を切らして姫と仲間たちの座る天蓋へたどり着くころには、木の動物はとっくに出発地点へ戻り、オズの人々から盛大な喝采を浴びていた。
お腹をすかせたトラ、ジムに教訓を与える。
残念ながら、ジムは敗北を恥じただけでなく、一瞬、癇癪を抑えられなくなった。ノコギリ馬の滑稽な顔を見るうち、相手が自分を笑っているような気がしたのだ。理不尽な怒りに駆られたジムは、くるりと後ろを向いて猛烈に蹴りつけた。蹴られた相手は地面を頭から何度も転がり、脚を一本と左耳を折られた。
次の瞬間、トラが身を伏せ、砲弾のような速さと勢いで巨体を宙へ放った。獣はジムの肩をまともに打ち、驚いた馬車馬を何度も転がした。ジムの非道な行いに恐れおののいていた見物人たちは、喜びの声を上げた。
ジムが我に返って後ろ脚で座ると、片側には臆病なライオンが、反対側にはお腹をすかせたトラが身を伏せていた。その目は火の玉のように燃えていた。
「どうか許してほしい」ジムはおとなしく言った。「ノコギリ馬を蹴ったのは、ぼくが悪かった。あいつに腹を立てて、申し訳なく思っている。競走はあいつの勝ちだし、正々堂々と勝った。でも、肉でできた馬が、疲れを知らない木の獣にどうやって勝てるというんだ?」
その謝罪を聞くと、トラとライオンは尻尾を激しく振るのをやめ、威厳ある足取りで姫のそばへ戻った。
「ぼくたちの目の前で、仲間を傷つけることは許さない」ライオンは唸った。ゼブはジムのもとへ駆け寄ると、今後、癇癪を抑えなければ、おそらく八つ裂きにされるぞと耳打ちした。
それからブリキの木こりが、輝く斧で真っすぐな丈夫な枝を木から切り落とし、ノコギリ馬のために新しい脚と耳を作った。それらをしっかり取りつけると、オズマ姫は自らの頭から王冠を外し、競走の勝者の頭に載せた。そして言った。
「わが友よ、その速さをたたえ、あなたを、木であれ肉であれ、あらゆる馬のプリンスと宣言します。今後――少なくともオズの国では――ほかの馬はすべて模造品であり、あなたこそが馬族の真の王者と見なされるでしょう。」
再び大きな拍手が起こった。それからオズマは、ノコギリ馬に宝石をちりばめた鞍を戻させ、自ら勝者にまたがり、盛大な行進の先頭に立って都へ帰った。
「ぼくも妖精になるべきだったんだ」ゆっくり馬車を引いて帰りながら、ジムは不平を言った。「妖精の国で普通の馬でしかないなんて、何の値打ちもない。ここはぼくらの居場所じゃないよ、ゼブ。」
「でも、ここへ来られたのは幸運だったよ」と少年は言った。ジムも暗い洞窟を思い出し、同意した。


第十八章
子猫ユリーカの裁判

その後、数日間にわたって祝宴と愉快な催しが続いた。これほどの旧友が顔を合わせる機会はめったになく、互いに語り、話し合いたいことがたくさんあり、この楽しい国で味わえる遊びも数多くあったからだ。
オズマは、ドロシーがそばにいてくれることを喜んでいた。姫が付き合うにふさわしい同年代の少女はごく少なく、若きオズの支配者は、話し相手がいないため、しばしば寂しい思いをしていたのだ。
それはドロシーが到着してから三日目の朝だった。ドロシーはオズマや仲間たちと応接室に座り、昔のことを語り合っていた。そのとき姫は侍女に言った。
「ジェリア、わたしの私室へ行って、化粧台に置いてきた白い子ブタを連れてきてください。一緒に遊びたいのです。」
ジェリアはすぐに用を果たしに出ていった。だが、あまりにも長く戻らなかったので、みなが頼み事をほとんど忘れかけたころ、緑の衣を着た娘は困惑した顔で帰ってきた。
「子ブタがおりません、姫さま」とジェリアは言った。
「いないですって!」オズマは叫んだ。「確かなのですか?」
「お部屋の隅々まで捜しました」と侍女は答えた。
「扉は閉まっていなかったのですか?」姫が尋ねた。
「はい、姫さま。間違いなく閉まっておりました。扉を開けたとき、ドロシーの白い子猫が這い出してきて、階段を駆け上がっていきましたから。」
それを聞き、ドロシーと魔法使いは、はっとして顔を見合わせた。ユリーカが何度も子ブタを食べたがっていたことを思い出したのだ。少女はすぐに飛び上がった。
「行きましょう、オズマ」ドロシーは不安げに言った。「自分たちで子ブタを捜しましょう。」
そこで二人は姫の化粧部屋へ行き、隅々まで、さらに美しい私室に置かれた花瓶や籠や装飾品の間まで、注意深く捜した。だが小さな生き物の痕跡は、どこにも見つからなかった。
そのころには、ドロシーは今にも泣きそうになり、オズマは怒りと憤りに燃えていた。ほかの者たちのもとへ戻ると、姫は言った。
「わたしのかわいい子ブタが、あの恐ろしい子猫に食べられたことは、ほぼ間違いありません。それが本当なら、罪を犯した者は罰せられなければなりません。」
「ユリーカがそんな恐ろしいことをするなんて、信じないわ!」ひどく取り乱したドロシーは叫んだ。「ジェリア、お願いだから、わたしの子猫を連れてきて。本人の言い分を聞きましょう。」
緑の娘は急いで出ていったが、ほどなく戻ってきて言った。
「子猫は来ようとしません。触ったら目を引っかいてやると脅されました。」
「どこにいるの?」ドロシーが尋ねた。
「あなたのお部屋のベッドの下です」とジェリアは答えた。
そこでドロシーは自室へ走り、ベッドの下にいる子猫を見つけた。
「こっちへ来なさい、ユリーカ!」ドロシーは言った。
「いやよ」子猫は不機嫌に答えた。
「ああ、ユリーカ! どうしてそんな悪い子になったの?」
子猫は答えなかった。
「今すぐこっちへ来ないなら」腹を立てたドロシーは続けた。「魔法のベルトを使って、あなたをガーグルの国へ飛ばしてやるから。」
「どうしてあたしを呼ぶの?」その脅しに動揺したユリーカが尋ねた。
「オズマ姫のところへ行かなきゃいけないの。姫があなたとお話ししたがっているわ。」
「わかったわよ」子猫は這い出しながら答えた。「オズマなんて怖くないし――ほかの誰だって怖くないわ。」
ドロシーはユリーカを腕に抱き、悲しげに黙り込んで考えている一同のもとへ連れ戻した。
「教えてください、ユリーカ」姫は優しく言った。「わたしのかわいい子ブタを食べたのですか?」
「そんな馬鹿げた質問には答えないわ」ユリーカは唸った。
「いいえ、答えなきゃだめよ」ドロシーは言い切った。「子ブタはいなくなったし、ジェリアが扉を開けたとき、あなたは部屋から逃げ出した。だから無実なら、どうして姫のお部屋にいたのか、子ブタがどうなったのか、オズマに話さなきゃ。」
「あたしを訴えているのは誰?」子猫は反抗的に尋ねた。
「誰でもありません」とオズマは答えた。「あなた自身の行動が、あなたを訴えているのです。わたしは小さなペットを化粧部屋に残し、テーブルの上で眠らせていました。あなたはわたしの知らないうちに忍び込んだのでしょう。次に扉が開くと、あなたは逃げ出して身を隠した――そして子ブタは消えていました。」
「あたしの知ったことじゃないわ」子猫は唸った。
「生意気を言わないの、ユリーカ」ドロシーはたしなめた。
「生意気なのはそっちよ」とユリーカは言った。「憶測以外には何の証拠もないくせに、そんな罪であたしを責めるんだから。」
子猫の態度に、オズマはすっかり腹を立てた。大元帥を呼び、ひょろりとした長身の将校が現れると、こう命じた。
「この猫を牢へ連れていきなさい。そして殺人の罪で法の裁きを受けるまで、厳重に監禁しておくのです。」
そこで大元帥は、泣き出したドロシーの腕からユリーカを取り上げ、子猫が唸って引っかくのもかまわず、牢へ連れていった。
「これから、どうするんだい?」かかしはため息をついて尋ねた。これほどの犯罪のせいで、一同は暗い気分に包まれていた。
「三時に玉座の間で法廷を開くよう命じます」とオズマは答えた。「わたし自身が裁判官となり、子猫には公平な裁判を受けさせます。」
「有罪になったら、どうなるの?」ドロシーが尋ねた。
「死ななければなりません」と姫は答えた。
「九回?」かかしが尋ねた。
「必要なだけ何度でも」とオズマは答えた。「ブリキの木こりに、被告の弁護を頼みましょう。あれほど優しい心臓を持っているのですから、きっと救うために全力を尽くすはずです。それから、公の告発者はワグル・バグに任せます。たいへんな博識ですから、誰にも欺けないでしょう。」
「陪審員は誰にします?」ブリキの木こりが尋ねた。

オズの魔法使いの肖像。
「陪審員には、動物を何頭か入れるべきでしょう」とオズマは言った。「わたしたち人間より、動物同士のほうが互いをよく理解できますから。そこで陪審員は、臆病なライオン、お腹をすかせたトラ、馬車馬ジム、黄色い雌鶏、かかし、魔法使い、機械人間チックトック、ノコギリ馬、そしてハグソン牧場のゼブとします。これで法律が定める九名となります。わが民は誰でも、証言を聞くため入廷してよいことにしましょう。」
一同は悲しい儀式の支度をするため、それぞれ別れた。法に訴えれば、ほとんど必ず悲しみがついてくる――オズのような妖精の国でさえも。もっとも、この国の人々はたいてい非常に行儀がよかったため、弁護士は一人もおらず、支配者が法を犯した者に判決を下してから、すでに何年もたっていた。殺人はあらゆる犯罪のなかで最も恐ろしいものだったので、ユリーカの逮捕と裁判の知らせが広まると、エメラルドの都は大変な騒ぎになった。
自室へ戻った魔法使いは、ひどく考え込んだ。ユリーカが子ブタを食べたことに疑いはなかった。だが、子猫は本来、小動物や鳥さえ食料として殺す性質を持つため、いつでも正しく振る舞うとは限らないこともわかっていた。今日、家庭で飼われているおとなしい猫は、密林の山猫――実に獰猛な生き物――の子孫なのだ。魔法使いは、ドロシーのペットが有罪とされ、死刑を言い渡されれば、少女がひどく悲しむと知っていた。そこで、ほかの誰にも劣らず子ブタの悲しい運命を嘆きながらも、ユリーカの命を救おうと決意した。
魔法使いはブリキの木こりを呼び寄せ、部屋の隅へ連れていって、ささやいた。
「友よ、白い子猫を弁護し、救おうと努めるのがきみの役目だ。だが失敗するのではないかと心配している。私の知るかぎり、ユリーカはずっと子ブタを食べたがっていたからね。誘惑に抗えなかったのだと、私は思う。だがユリーカが不名誉な死を遂げても、子ブタは戻ってこない。ドロシーが悲しむだけだ。そこで、手品を使って子猫の無実を証明しようと思う。」
魔法使いは内ポケットから、残っていた八匹の小さな子ブタのうち一匹を取り出し、続けた。
「この子ブタを安全な場所へ隠しておくんだ。陪審員がユリーカを有罪と判断したら、これを取り出して、行方不明だった子ブタだと言えばいい。子ブタはみな、まったく同じ姿をしているから、誰もきみの言葉を疑えない。このごまかしでユリーカの命は救われ、またみんなで幸せに暮らせる。」
「友人を欺くのは好みません」とブリキの木こりは答えた。「しかし、わたしの優しい心臓は、ユリーカの命を救えと訴えています。たいていの場合、心臓が正しいことをさせてくれると信じてよいでしょう。ですから、魔法使いどののおっしゃるとおりにします。」
少し考えてから、小さなブタを漏斗形の帽子の中に入れ、その帽子を頭にかぶった。そして陪審員に向けた弁論を考えるため、自室へ戻った。

第十九章

魔法使い、もう一つの手品を披露する

三時になると、玉座の間は市民でいっぱいになった。男も女も子どもも、この大裁判を目撃しようと詰めかけていた。
最も豪華な正装をまとったオズマ姫は、壮麗なエメラルドの玉座に座り、手には宝石をちりばめた王笏を持ち、美しい額にはきらめく王冠を戴いていた。玉座の後ろには王国軍の二十八名の将校と、多くの王宮の役人たちが立っていた。右手には、奇妙な顔ぶれの陪審員――動物、命を吹き込まれた人形、人間――が座り、誰もがこれから語られることに真剣に耳を傾ける構えだった。子猫は玉座のすぐ前に置かれた大きな檻に入れられ、後ろ脚で座っていた。周囲の群衆を鉄格子越しに、何でもないような顔で見つめていた。
オズマが合図すると、ワグル・バグが立ち上がり、陪審員に語りかけた。声はもったいぶっており、威厳を見せようと馬鹿げた様子で行ったり来たりした。
「王家の姫殿下、ならびに市民諸君」と彼は切り出した。「諸君の前で囚われの身となっている小さな猫には、敬愛する支配者の太った子ブタを、まず殺し、その後で食べた――あるいは、まず食べ、その後で殺した――罪がかけられている。いずれにせよ、重い罰に値する、重大な罪が犯されたのである。」
「わたしの子猫を、お墓に入れなきゃならないってこと?」ドロシーが尋ねた。
「邪魔をしてはいけない、小さなお嬢さん」とワグル・バグは言った。「わたしは自分の考えをきちんと整理しているとき、それを乱されたり、混乱させられたりするのが嫌いなのだ。」
「まともな考えなら、混乱したりしないよ」とかかしは真剣に言った。「ぼくの考えは、いつだって――」
「これは考えを裁く裁判なのか、それとも子猫を裁く裁判なのか?」ワグル・バグは問い詰めた。
「子猫一匹の裁判だよ」とかかしは答えた。「でも、きみの話し方は、ぼくたち全員への試練だね。」
「公の告発者に続けさせなさい」とオズマは玉座から命じた。「どうか、話を遮らないでください。」
「今、法廷の前に座って前脚を舐めている犯罪者は」とワグル・バグは再開した。「ネズミほどの大きさしかない太った子ブタを、違法に食べようと、かねてから望んでいた。そしてついに、堕落した豚肉への食欲を満たすため、邪悪な計画を立てたのである。わたしの心の目には、その姿が見える――」
「何だって?」かかしが尋ねた。
「わたしの心の目には見える、と言ったのだ――」
「心には目なんてない」とかかしは断言した。「目が見えないんだ。」
「姫殿下!」ワグル・バグはオズマに訴えた。「わたしに心の目はあるのでしょうか、それともないのでしょうか?」
「あったとしても、目には見えません」と姫は言った。
「まったくおっしゃるとおり」ワグル・バグはお辞儀をして答えた。「さて、わたしの心の目には、この犯罪者が誰にも見られぬよう、こっそりとわれらがオズマのお部屋へ忍び込み、姫が去って扉が閉ざされるまで、身を隠している姿が見える。やがて殺人者は、無力な犠牲者である太った子ブタと二人きりになった。すると無垢な生き物に飛びかかり、平らげてしまう姿が見える――」
「今も心の目で見ているのかい?」かかしが尋ねた。
「もちろんだ。ほかにどうやって見られる? そして、その出来事が真実であることは明らかだ。その対面のあと、子ブタはどこを捜しても見つからないのだから。」
法廷のユリーカ。
「もし子ブタではなく猫が消えていたら、きみの心の目には、子ブタが猫を食べる姿が見えたんだろうね」とかかしが言った。
「おそらくな」とワグル・バグは認めた。「さて、市民諸君、そして陪審員たる生き物諸君。この恐るべき罪には死をもって報いるべきである。そして諸君の前にいる獰猛な犯罪者――ただいま顔を洗っている者――には、九回にわたって死刑を執行すべきである。」
弁士が腰を下ろすと、大きな拍手が起こった。続いて姫が厳しい声で尋ねた。
「被告人、自分のために何か言うことはありますか? 有罪ですか、無罪ですか?」
「それを調べるのは、そっちの仕事でしょう」とユリーカは答えた。「有罪だと証明できるなら、九回死んでもかまわない。でも心の目は証拠にならないわ。ワグル・バグには、見るための心なんてないんだもの。」
「気にしないのよ」ドロシーは言った。
するとブリキの木こりが立ち上がって言った。
「尊敬すべき陪審員のみなさん、そして心から敬愛するオズマ。どうか、この猫族の被告を、心ないやり方で裁かないでください。わたしは、この無垢な子猫が有罪だとは思いません。それに、昼食を殺人者として訴えるのは、たしかに酷なことです。ユリーカは、わたしたち全員が敬愛する愛らしい少女の、かわいいペットです。そして優しさと無邪気さこそ、彼女の最大の美徳です。子猫の知性あふれる目をご覧ください」(ここでユリーカは眠そうに目を閉じた)「微笑む顔をご覧ください!」(ここでユリーカは唸り、牙をむいた)「柔らかな肉球のついた小さな手の、優しい構えにご注目ください!」(ここでユリーカは鋭い爪をむき出しにして、檻の鉄格子を引っかいた)「これほど優しい動物が、同じ生き物を食べる罪を犯すでしょうか? いいえ。千回でも、いいえ!」
「ああ、短くしてよ」とユリーカが言った。「もう十分しゃべったでしょう。」
「きみを弁護しようとしているんだ」ブリキの木こりは抗議した。
「なら、少しは筋の通ったことを言ってよ」と子猫は言い返した。「子ブタなんか食べれば大騒ぎになるとわかるくらいの知恵はあるから、食べるなんて馬鹿なことをするはずがない、と言ってちょうだい。でも、見つからずに食べられるとしても、太った子ブタを食べないほど無邪気だなんて言わないで。きっと、とびきりおいしいと思うわ。」
「食べる者にとっては、そうなのかもしれない」とブリキの木こりは言った。「わたし自身は食べるように作られていないので、そうした事柄について個人的な経験はありません。しかし、わが国の偉大な詩人が、かつてこう述べたことを覚えています。
「『腹の虫 うまい肉をと せがむなら 食べる甘美を 味わおう。』
「陪審員のみなさん、この点をご考慮ください。そうすれば、子猫は不当に訴えられており、釈放すべきだと、すぐに判断できるでしょう。」
ブリキの木こりが腰を下ろしても、誰一人として拍手しなかった。弁論にはあまり説得力がなく、ユリーカの無実を証明したと信じる者はほとんどいなかったのだ。陪審員たちは数分間、互いにささやき合った末、お腹をすかせたトラを代表に選んだ。巨大な獣はゆっくり立ち上がって言った。
「子猫には良心がない。だから好きなものを何でも食べる。陪審員一同は、ユリーカと呼ばれる白い子猫が、オズマ姫の子ブタを食べた罪について有罪であると認定し、罰として死刑に処すよう勧告する。」
陪審員の評決は、大きな拍手で迎えられた。だがドロシーは、ペットの運命を思って、ひどくすすり泣いていた。姫がブリキの木こりの斧でユリーカの首を切り落とすよう、まさに命じようとしたとき、その輝かしい人物が再び立ち上がり、姫に語りかけた。
「姫殿下」とブリキの木こりは言った。「陪審員がどれほど簡単に間違えるか、ご覧ください。子猫が姫の子ブタを食べられるはずはありません――子ブタはここにいるのですから!」
木こりは漏斗形の帽子を脱ぎ、その下から小さな白い子ブタを取り出すと、全員によく見えるよう高く掲げた。
オズマは大喜びして、夢中で叫んだ。
「わたしのペットを渡してください、ニック・チョッパー!」
人々は皆、歓声を上げ、手を叩いた。被告が死を免れ、無実が証明されたことを喜んだのだ。
白い子ブタを腕に抱き、その柔らかな毛を撫でながら、姫は言った。「ユリーカを檻から出してあげなさい。もう囚人ではなく、わたしたちのよき友人です。行方不明だったペットをどこで見つけたのですか、ニック・チョッパー?」
「宮殿の一室です」と木こりは答えた。
「正義というものは」とかかしがため息交じりに言った。「下手に手を出すと危険だね。たまたま子ブタが見つからなければ、ユリーカは間違いなく処刑されていた。」
「でも最後には正義が勝ちました」とオズマは言った。「ペットはここにいて、ユリーカも再び自由になったのですから。」
「あたしは自由になるのを拒否するわ!」子猫は鋭い声で叫んだ。「魔法使いが八匹の子ブタで手品をできないかぎりね。七匹しか出せないなら、これは行方不明になった子じゃなく、別の子ブタよ。」
「黙るんだ、ユリーカ!」魔法使いが警告した。
「馬鹿なことはやめなさい」とブリキの木こりも忠告した。「さもないと、後悔することになる。」
「姫の子ブタは、エメラルドの首輪をしていたわ」ユリーカは、全員に聞こえる大声で言った。
「そうでした!」オズマは叫んだ。「これは魔法使いがくれた子ではありません。」
「もちろん違うわ。魔法使いは全部で九匹持っていたもの」とユリーカは断言した。「ほんの数匹くらい、あたしに食べさせてくれてもよかったのに、ずいぶんけちだったと言わなきゃね。でも、この馬鹿げた裁判も終わったことだし、姫の子ブタが本当はどうなったのか、教えてあげる。」
その言葉を聞くと、玉座の間にいた全員がいっせいに静まり返った。子猫は、落ち着いた、からかうような声で続けた。
「朝ごはんに子ブタを食べるつもりだったことは認めるわ。だから姫が着替えているあいだに、子ブタのいる部屋へ忍び込み、椅子の下に隠れたの。オズマは出ていくときに扉を閉め、ペットをテーブルの上に残していった。あたしはすぐに飛び上がって、半秒もすればお腹の中に入るんだから、騒ぐなと子ブタに言ったわ。でも、ああいう生き物に物分かりよくしろと言っても無理なのよ。あたしが気持ちよく食べられるよう、おとなしくしていればいいのに、怖くてあんまり震えたものだから、テーブルから落ちて、床に置いてあった大きな花瓶の中へ入っちゃった。花瓶の首はすごく細くて、上のほうは鉢みたいに広がっていた。最初、子ブタは花瓶の首につかえたから、やっぱり捕まえられると思った。でも、もぞもぞ動いて中を通り抜け、深い底の部分まで落ちてしまったの――たぶん、今もそこにいるわ。」
その告白に全員が驚いた。オズマはただちに将校を自室へ遣わし、その花瓶を取ってこさせた。将校が戻ると、姫は大きな飾り花瓶の細い口から中をのぞき込み、ユリーカの言葉どおり、行方不明だった子ブタを見つけた。
花瓶を割らずに子ブタを出す方法はなかったので、ブリキの木こりが斧で叩き割り、小さな囚人を自由にした。
群衆は盛大な歓声を上げた。ドロシーは子猫を腕に抱きしめ、無実だとわかって、どれほどうれしいかを伝えた。
「でも、どうして最初に話してくれなかったの?」ドロシーは尋ねた。
「そんなことをしたら、面白くなくなるでしょう」子猫はあくびをしながら答えた。
オズマは、行方不明の子の代役としてニック・チョッパーに親切にも貸してくれた子ブタを、魔法使いへ返した。それから自分の子ブタを抱き、宮殿の居住区へ戻った。こうして裁判が終わると、エメラルドの都の善良な市民たちは、その日の見世物にすっかり満足し、それぞれの家へ帰っていった。
第二十章

ゼブ、牧場へ帰る

ユリーカは、自分が嫌われ者になったことにたいそう驚いた。子ブタを食べなかったにもかかわらず、本当に嫌われてしまったのだ。オズの人々は、子猫が罪を犯そうとしたことも、単なる偶然によって阻まれただけだということも知っていた。そのため、お腹をすかせたトラでさえ、ユリーカと付き合いたがらなかった。ユリーカは宮殿内を歩き回ることを禁じられ、ドロシーの部屋に閉じ込められた。そこで、もっと楽しく過ごせる別の場所へ送ってほしいと、飼い主にせがみ始めた。
ドロシー自身も家へ帰りたがっていたので、もう長くオズの国にいるつもりはないとユリーカに約束した。
裁判の翌日の夕方、少女は魔法の絵を見せてほしいとオズマに頼んだ。姫は快く承知した。ドロシーを自室へ連れていくと、こう言った。「願い事を言ってごらんなさい。見たいと思う景色を、絵が映し出してくれます。」
するとドロシーは、魔法の絵の力を借り、ヘンリーおじさんがカンザスの農場へ戻ったことを知った。おじさんもエムおばさんも喪服を着ていた。小さな姪が地震で死んだと思っていたからだ。
「本当に」と少女は心配そうに言った。「できるだけ早く、家族のところへ帰らなきゃ。」
ゼブも自分の家を見たがった。自分のために喪に服している人は誰もいなかったが、絵の中にハグソン牧場が見えると、たまらなく帰りたくなった。
「ここはすばらしい国だし、住んでいる人たちもみんな好きだよ」ゼブはドロシーに言った。「でも本当のところ、ジムとぼくは妖精の国に向いていないみたいだ。競走に負けて以来、あの老馬はずっと、家へ帰ろうとせがんでいる。だから帰る方法を何とかしてくれるなら、本当にありがたいよ。」
「オズマなら簡単にできるわ」とドロシーは答えた。「明日の朝、わたしはカンザスへ帰る。あなたはカリフォルニアへ帰ればいいわ。」
「いろいろ親切にしてくれて、本当にありがとう。」
最後の晩はあまりにも楽しく、ゼブは生きているかぎり、決して忘れないだろう。一同はみな――ユリーカを除いて――姫の美しい部屋に集まった。魔法使いは新しい手品を披露し、かかしは物語を聞かせ、ブリキの木こりは朗々と響く金属の声で恋歌を歌った。誰もが笑い、楽しいひとときを過ごした。それからドロシーがチックトックのぜんまいを巻くと、彼は一同を楽しませるため、ジグを踊った。その後、黄色い雌鶏が、エヴの国のノーム王と繰り広げた冒険のいくつかを語った。
姫は、食事をする習慣のある者たちに、おいしい軽食を振る舞った。ドロシーの寝る時間になると、みなで親しみのこもった言葉を交わしてから別れた。
翌朝、全員が最後の別れのために集まった。多くの役人や廷臣も、心を打つその儀式を見届けにやってきた。
ドロシーはユリーカを腕に抱き、友人たちへ心を込めて別れを告げた。
「いつか、また来るんだよ」と小さな魔法使いは言った。ドロシーは、できることなら必ず来ると約束した。
「でも、ヘンリーおじさんとエムおばさんには、わたしの手助けが必要なの」とドロシーは付け加えた。「だからカンザスの農場を、あまり長く留守にはできないわ。」
オズマは魔法のベルトを身につけていた。ドロシーに別れの口づけをし、願いを唱えると、少女と子猫は一瞬にして姿を消した。
「どこへ行ったの?」あまりに突然だったので、ゼブは少し面食らって尋ねた。
「今ごろはカンザスで、おじさまとおばさまに挨拶しているでしょう」オズマは微笑んで答えた。
続いてゼブが、馬車の支度をすっかり整えたジムを連れてきて、御者台に腰を下ろした。
「いろいろ親切にしてくれて、本当にありがとう」と少年は言った。「ぼくの命を救い、楽しい時間をたっぷり過ごさせてくれたあと、また家へ帰してくれることにも、心から感謝しているよ。ここは世界で一番すてきな国だと思う。でもジムもぼくも妖精じゃないから、自分たちのいるべき場所へ戻ったほうがいい――それは牧場だ。みんな、さようなら!」
次の瞬間、ゼブはびくりとして目をこすった。ジムは耳を揺らし、満足そうに尻尾を振りながら、よく知っている道を軽快に進んでいた。すぐ前にはハグソン牧場の門があった。ビル・ハグソンおじさんが出てきて、両腕を上げ、口をあんぐり開けたまま、驚いて見つめた。
「なんてこった! ゼブじゃないか――ジムも一緒だ!」おじさんは叫んだ。「いったい、この世界のどこへ行っていたんだ?」
「そりゃ、この世界の中だよ、おじさん」ゼブは笑って答えた。


公開日: 2026-07-15