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プリンス・オットー

Prince Otto, a Romance

出版年
1885年
翻訳
開原かいばら 藍誠あいせい
概要
架空の小国を舞台に、政治を顧みず芸術を愛するオットー公の葛藤を描いた物語である。宮廷の陰謀や革命の予兆に翻弄されるなか、彼は自らのあり方を見つめ直していく。

ロマンス

著

ロバート・ルイス・スティーヴンソン

新版

ロンドン
チャトー&ウィンダス
1905年

ネリー・ヴァン・デ・グリフトへ(モンテレイのアドゥルフォ・サンチェス夫人)

長い年月を経て、ようやくあなたに『オットー公』をふたたび紹介できることを、うれしく思う。覚えておいでだろう、あのころの彼はほんの小さな子供で、実のところ、親切なあなたが私のために書き留めてくださった数枚の覚え書きほどの大きさしかなかった。その名を見れば、あなたの心は、つる草に包まれたあの古い木造の家へ帰ってゆくだろう。貫禄のある古び方もずいぶん進んで、立っている緑の庭と切り離せそうもない家だったが、それでも若いころには海を旅したことがあり、船の腹の中にばらばらになって収まり、ホーン岬を回ってやって来た。船乗りたちの足踏みや叫び声、甲板長の笛の音を聞いたこともあったかもしれない。その名はまた、今では遠く散り散りになった、あの得体の知れない住人たちを思い出させるだろう。二頭の馬、一匹の犬、四匹の猫――そのうちの何匹かは、あなたがこれを読んでいる今も、その顔を見上げているかもしれない。あいにく作家などと結婚してしまった気の毒な婦人。中国人の若者――今ごろは花咲く故国の川辺で、釣り針に餌をつけているだろうか。そして何より、当時は死の床にあるかと思われたあのスコットランド人を。あなたはあれほど心を尽くして、その男を励まし、行儀よくさせてくださった。

覚えておいでかもしれない、彼は大望と計画で胸をいっぱいにしていた。すっかり健康を取り戻しさえすれば、どれほどの財産を稼ぎ、どんな旅に出かけ、どれほどの喜びを味わい、人にも与えるつもりだったか。そして――数ある計画の中でも――『オットー公』をどんな傑作に仕立てるつもりだったかを! 

まあ、これで決定的に負けたとは認めまい。あのころ私たちは、ブラドックの話を一緒に読んだ。敗戦の場から瀕死の身を運び去られながら、次にはもっとうまくやろうと心に誓ったという話だ。勇気ある心をいつまでも打つ物語であり、もっと幸運な将軍にふさわしい臨終の言葉である。私もブラドックの心でありたいと思う。今でも健康を取り戻すつもりでいる。どんな手を使ってでも、この本か次の本で、傑作を世に送り出すつもりでいる。そして今でも、どうにかして、いつの日か、あなたの顔を見て、その手を握るつもりでいる。

それまでは、この小さな紙の旅人が私に代わって出発し、大海を渡り、長い平原と暗い山々を越え、心のこもった挨拶を携えて、ついにモンテレイのあなたの戸口へたどり着く。どうか中へ入れてやってほしい。彼が出て来た家には、あなたのお宅と同じように、オークランドで一緒だった仲間のうち、流れ着いた何人かが集まっている。奇妙なゲール語の名を持ち、遠く離れた場所にあるとはいえ、そこはあなたを心から慕う家なのだ。

R・L・S

スケリーヴォア
   ボーンマス

第一部――さすらいの公

第一章――公、冒険の旅に出る

ヨーロッパの地図を探しても、今はなきグリューネヴァルトの国は見つからない。独立した公国であり、ドイツ帝国の一員とはいえ限りなく小さなこの国は、数世紀にわたってヨーロッパの不協和音に自らの音を加えていたが、やがて時が熟し、幾人かの禿頭の外交官に祓われて、朝の幽霊のように消え失せた。ポーランドほどの幸運にも恵まれず、その消滅を惜しむ声一つ残さなかった。国境がどこを通っていたかという記憶さえ、すでに薄れている。

鬱蒼とした森に覆われた、小さな丘陵の国だった。グリューネヴァルトの谷あいには幾筋もの川が源を発し、住民の水車を回していた。町はミットヴァルデンが一つだけ。ほかには茶色い木造の集落が数多く、険しい谷底に沿って屋根の上へ屋根を重ねるようにせり上がり、大きな急流には屋根つきの橋を架けて、互いに行き来していた。水車場の唸り、流れのしぶき、松のおが屑のすがすがしい匂い、山の松の数知れぬ軍勢を渡る快い風の音と香り、狩人の散発する銃声、木を伐る斧の鈍い響き、ひどい道、宿屋の清潔で飾りけのない部屋で夕食に出る新鮮な鱒、鳥の歌と村の鐘の調べ――グリューネヴァルトを訪れた旅人の記憶に残るのは、そうしたものだった。

北と東では、グリューネヴァルトの山裾はさまざまな起伏を描きながら、広大な平野へ沈んでいた。こちら側で公国と境を接する小国は多く、今は消えたゲロールシュタイン大公国もその一つだった。南では、比較的勢力のある沿海ボヘミア王国に接していた。花と山の熊で名高く、ひときわ素朴で心優しい人々の住む国だった。数世紀の間に幾度かの婚姻がグリューネヴァルトと沿海ボヘミアの王侯の家を結び、これからその物語を語ろうとする最後のグリューネヴァルト公も、ボヘミアのフローリゼル1世王の一人娘、パーディタを通じてその血を引いていた。こうした婚姻によって、初期のグリューネヴァルト家の荒々しく男らしい気質が多少とも和らげられたというのは、公国内で広く信じられていた見方である。グリューネヴァルトの群れなす松の間で働く炭焼き、山の挽き手、大斧を振るう木こりたちは、ごつごつした自分の手を誇り、無学ながら抜け目がなく、ほとんど野生そのものの知恵を誇って、君主の一族の柔弱な性質や物腰を、あからさまに軽蔑していた。

この物語が始まるのが西暦何年であるかは、読者の推測に委ねよう。ただし季節のほうは――こうした物語では、こちらのほうが大切なのだが――春もすでに深まっていた。公国の北西の一角で終日角笛が響くのを聞くと、山の人々は、オットー公とその狩猟隊が、秋の訪れまで最後となる狩りに出たのだと考えた。

このあたりではグリューネヴァルトの国境地帯はかなり急に下り、ところどころに断崖が口を開けている。草木の茂る、道らしい道もないこの土地は、眼下に広がる耕された平野と鮮やかな対照をなしていた。当時ここを横切る道は、わずか二本しかなかった。一つはゲロールシュタインのブランデナウへ通じる帝国街道で、できるだけ勾配を避け、斜めに山腹を下っていた。もう一つは、丘陵の額を飾る帯のように横切り、荒々しい峡谷へ落ち込み、小さな滝のしぶきを浴びていた。その途中には、恐ろしい崖の縁に切り立つように築かれた、塔とも城ともつかぬ建物があった。そこからはグリューネヴァルトの山裾と、活気に満ちたゲロールシュタインの平野を広く見渡せた。フェルゼンブルク城――その塔はそう呼ばれていた――は、あるときは牢獄に、あるときは狩猟の館に使われた。肉眼にはいかにも孤絶して見えたが、よい望遠鏡さえあれば、ブランデナウの市民は、夜に散歩する菩提樹のテラスから、その窓を数えることができた。

二本の道に挟まれた楔形の森の斜面では、角笛が終日騒ぎをまき散らしていた。やがて太陽が平野の地平線へ近づきはじめると、胸の躍る勝利の吹奏が獲物の死を告げた。筆頭猟師と次席の猟師は少し脇へ離れ、小高い丘の頂から、なだらかに落ちる山の肩と、その向こうに広がる平野を眺めていた。太陽が正面にあるので、二人は手をかざしていた。日没の輝きはいくぶん淡かった。何千本もの葉のないポプラの入り組んだ枝、数々の家の煙、畑から立ち昇る夕靄を透かして、ゆるやかな高みにある風車の羽根が、驢馬の耳のようにひときわ目立って動いていた。そしてそのすぐそばには、開いた傷口さながらに、往来の大動脈である帝国街道が、太陽へ向かってまっすぐに伸びていた。

自然の霊妙な小唄の中に、まだ人の言葉にも音楽にも移されていないものが一つある。「旅路への誘い」という歌だ。ジプシーたちの耳には絶えず鳴り響き、遊牧の祖先たちはその調べに促されて、生涯旅を続けた。その時刻、その季節、その景色が、みな繊細な調和を奏でていた。空には渡り鳥が満ち、西へ北へとグリューネヴァルトの上を進んでいた。見上げる目には、点々の大軍だった。そして下では、歩きやすい大きな街道が同じ方角へ向かっていた。

だが丘の上の二人の騎手には、この霊妙な歌は聞こえていなかった。実際、二人は少なからず気をもみ、眼下の森の襞という襞を探り、苛立った身振りに怒りと狼狽をにじませていた。

「見えんな、クーノ」と筆頭猟師が言った。「どこにもいない。影も形も、あの牝馬の尾の毛一本も見えん! いや、逃げたんだ。茂みを抜けて、まんまと逃げた。まったく、こうなれば犬をけしかけて追ってやりたいくらいだ!」

「お帰りになったのかもしれん」とクーノが言ったが、自信はなかった。

「帰っただと!」もう一人は鼻で笑った。「帰り着くまで十二日はかかるさ。いや、また始まったんだ。三年前の、結婚前と同じだ。恥さらしめ! 世襲の公爵、世襲の大馬鹿! 政府が葦毛の牝馬に乗って、国境の外へ逃げてゆくぞ。あれは何だ? いや、何でもない。いいか、断言するが、俺なら出来のいい騸馬かイングランド犬のほうを大事にするね。お前のオットー公なんぞ、けっ!」

「俺のオットー公じゃない」とクーノが唸った。

「じゃあ、誰のものだか知るもんか」と相手が言い返した。

「明日にでも、あの方のためなら火の中に手を突っ込むくせに」とクーノは向き直った。

「俺がか!」猟師は叫んだ。「縛り首になるのを見物してやるさ! 俺はグリューネヴァルトの愛国派だぞ。名簿にも載っているし、メダルだって持っている。その俺が君主を助けるだと! 俺は自由とゴンドレマークの味方だ。」

「まあ、どうでもいい」とクーノは言った。「ほかの誰かが今のお前と同じことを言えば、血を見るまで放っておかんだろう。自分でもわかっているはずだ。」

「お前の頭はあの方でいっぱいだな」と相棒は言い返した。「あそこだ!」次の瞬間、そう叫んだ。

果たして、一マイルほど下の山腹で、白い馬に乗った人影が、ヒースの生えた空き地をさっと横切り、向こう側の木々の間へ消えていった。

「十分もすれば国境を越えて、ゲロールシュタインだ」とクーノは言った。「もうどうにもならん。」

「まあ、あの牝馬を乗り潰しでもしたら、絶対に許さんぞ」ともう一人は手綱を引き寄せながら付け加えた。

仲間のもとへ戻ろうと二人が丘を下りはじめたとき、太陽は沈んで姿を消し、森はたちまち宵の灰色と静けさに包まれた。

第二章――公、ハールーン・アッラシードを気取る

森の下手の谷で、草むした小道をたどっているうちに、公の上に夜が降りた。頭上には星が現れ、糸杉のように整然と黒く並ぶ、松のピラミッドの果てしない列を浮かび上がらせたが、こうした寂しい道を行く旅人には、その光もほとんど役に立たず、それからは当てずっぽうに馬を進めた。自然の厳しい面差し、行き着く先の知れぬ旅路、開けた空と自由な大気が、酒のように彼の心を酔わせた。左手では川が、しゃがれた音を立てて流れ、その響きも耳に心地よかった。

ようやく苦労が報われ、森を抜けて堅い白い街道に出たときには、夜の八時を過ぎていた。道は目の前を下り、東へ大きく曲がって、茂みの間にほの白く続いていた。オットーは馬を止めて見つめた。道は幾リーグも幾リーグも走り、ほかの道とつながりながら、ヨーロッパの果てまで続いている。あるところでは砕ける波に沿い、あるところでは都市の灯に輝く。その上を、数知れぬ放浪者や旅人の大軍が、共通の衝動に動かされるようにあらゆる国で進み、今はどこでも宿の戸口と一夜の安らぎへ近づいているのだ。さまざまな情景が頭に群がっては消えた。牝馬に拍車を入れ、未知の世界へ永遠に進み続けたいという誘惑が波のように押し寄せ、全身の血が高鳴った。だが、それもやがて去った。空腹と疲労、そして私たちが常識と呼ぶ、ほどほどの行動の習慣が支配を取り戻した。そのように気分が変わったところで、左手の道と川の間に、明るい二つの窓が目に入った。

脇道へ折れると、ものの数分で大きな農家の戸を鞭で叩いていた。農場の庭からは、犬の群れが怒った声をそろえて答えた。呼び声に応じて、ひどく背の高い白髪の老人が、手で蝋燭の火を覆いながら出て来た。かつては大変な力持ちで、顔立ちも立派だったに違いない。だが今は痩せ衰え、歯はすっかり抜け、話す声はひび割れた裏声になっていた。

「突然お邪魔して申し訳ない」とオットーは言った。「旅の者だが、すっかり道に迷ってしまった。」

「旦那様」と老人は、震えながらもたいそう威儀正しく言った。「ここはリバー・ファーム、私はキリアン・ゴッテスハイムと申します。何なりとお申しつけください。ここはグリューネヴァルトのミットヴァルデンと、ゲロールシュタインのブランデナウから、ほぼ同じ距離にございます。どちらへも六リーグ、道は申し分ございませんが、その間には酒屋の杉玉一つ、荷馬車引き相手の居酒屋一軒ございません。今夜はぜひ私どもの客になっていただかねば。粗末なおもてなししかできませぬが、心から歓迎いたします。何しろ」と一礼を添えた。「客をお遣わしになるのは神様ですから。」

「アーメン。心から礼を申し上げる」とオットーも頭を下げた。

「フリッツ」と老人は家の中へ向き直った。「こちらの旦那様の馬を裏へお連れしろ。さあ旦那様、どうぞお入りください。」

オットーは、一階の大部分を占める部屋へ入った。昔は間仕切りがあったのだろう。奥の半分が横に長い一段で高くなっており、燃え盛る炉と白い夕食の卓は、壇の上に置かれているようだった。周囲には真鍮金具をつけた黒ずんだ戸棚や食器棚が並び、暗い棚には古い田舎の陶器が載り、壁には銃や鹿の角、一枚刷りの俗謡が掛かっていた。文字盤に薔薇を描いた背の高い古時計もあり、低い一隅には、心強い楽しみを約束する酒樽まで据えられていた。家庭的で、品がよく、古風な趣のある部屋だった。

逞しい若者が葦毛の牝馬の世話に飛び出していった。キリアン・ゴッテスハイム氏から娘のオティリアを紹介されると、オットーも、公爵としてはともかく、よい乗馬家にふさわしく、厩舎へ後を追った。戻って来ると、湯気の立つオムレツと自家製ハムの薄切りが待っていた。続いて煮込み料理とチーズが出た。キリアン・ゴッテスハイムの手厚い礼儀が公に質問することを許したのは、客の空腹がすっかり満たされ、一同が酒の壺を囲んで炉辺に集まってからだった。

「ずいぶん遠くからおいでなのではございませんか」と老人は尋ねた。

「お察しのとおり、遠くから来た」とオットーは答えた。「それに、ご覧になったとおり、お嬢さんの料理をたっぷりいただく用意もできていた。」

「もしや、ブランデナウの方角からでございますか」とキリアンは続けた。

「そのとおり。道を外れなければ、今夜はミットヴァルデンで泊まるはずだった」と公は答えた。嘘つきの常として、真実をひとかけら織り交ぜたのだ。

「ミットヴァルデンへは、お仕事で?」

「ただの物見遊山だ」とオットーは言った。「グリューネヴァルト公国には、まだ行ったことがなくてね。」

「よい国でございますよ」と老人は細い声で言い、うなずいた。「まことによい国で、松も人も立派なものです。このあたりは国境に近いので、私どもも半分はグリューネヴァルト人のつもりでおります。あの川の水も、一滴残らず、よいグリューネヴァルトの水でございます。ええ、立派な国です。ゲロールシュタインの男なら持ち上げるにも苦労する斧を、グリューネヴァルトの男は頭の上でぶんと振り回します。松ときたら、いやはや、あんな小さな国に、この広い世界の人間よりも多く生えているのではありますまいか。国境のあたりを越えてから、もう二十年になります。年を取ると出不精になりましてな。それでも昨日のことのように覚えております。ここからミットヴァルデンまで、道は上ったり下ったりしながらまっすぐ続いていて、途中にあるのは、大小の青々とした見事な松ばかり、それに水の力です! 一歩ごとに水車を回す力がある。以前、あの上の街道脇の森を少し売ったことがございます。そのとき手にした硬貨の山を見てからというもの、グリューネヴァルト中の松なら、いくらになるのかと、ずっと勘定しております。」

「公爵を見かけることはないのかな」とオットーは尋ねた。

「ないね」と若者が初めて口を開いた。「見たいとも思わない。」

「なぜだい。それほど嫌われているのか」とオットーは尋ねた。

「嫌われているというのではありません」と老人が答えた。「軽蔑されているのです。」

「なるほど」と公は、いくらか弱々しく言った。

「ええ、軽蔑されております」とキリアンは、長い煙管に煙草を詰めながらうなずいた。「私に言わせれば、軽蔑されても当然です。あれほどの働きの場を持つ男が、それをどう使っているのか。狩りをして、きれいに着飾って――男にとって恥ずべきことですが――芝居をする。それ以外に何かしているとしても、ここまでは聞こえてまいりません。」

「だが、どれも罪のないことだ」とオットーは言った。「何をしろと言うのだね。戦争でも?」

「いいえ」と老人は答えた。「ただ、こういうことです。私はこのリバー・ファームで五十年、一日も欠かさず働いてきました。耕し、種をまき、刈り入れ、朝は早く起き、夜は遅くまで起きていた。その結果どうなったか。この長い年月、農場は私と家族を養い、妻を別にすれば、私にとってこの上ない友でありました。そして今、私の時が来ても、初めて来たときよりよい農場にして残してゆけます。つまり、自然の理に従って心を込めて働けば、パンを得、慰めを受け、手を触れるものはみな実るのです。ですから僭越ながら、あの公爵も、私が農場で働いてきたように玉座で励むなら、繁栄にも祝福にも恵まれるのではないかと思うのです。」

「その考えには同感だ」とオットーは言った。「ただ、その二つはぴったりとは重ならない。農夫の暮らしは自然で単純だが、君主の暮らしは人為的で複雑だ。一方では正しいことをするのが容易で、他方では間違いをしないことがひどく難しい。作物が枯れたなら、帽子を取って『神の御心のままに』と言える。だが君主が失敗すれば、手を出した自分を責めなければならないかもしれない。ヨーロッパ中の王が罪のない娯楽だけに専念したほうが、臣民は幸せに暮らせるかもしれないよ。」

「そうだ」と若者フリッツが言った。「そこはあんたの言うとおりだ。まったくいいことを言った。あんたも俺と同じ、立派な愛国派で、王侯の敵なんだな。」

オットーはその推論にいくらか面食らい、急いで話の足場を変えた。「だが」と言った。「オットー公についての話には驚いた。正直に言うと、私はもう少し好意的な評判を聞いていた。根はいい男で、自分以外には誰の敵でもないと。」

「そのとおりですわ」と娘が言った。「とてもきれいで感じのいい公様です。あの方のためなら血を流すという人も、知っています。」

「ああ、クーノか!」とフリッツが言った。「あの無学者め!」

「そう、確かにクーノだ」と老農夫は震える声で言った。「さて、こちらの旦那様はこの土地には不案内で、公爵にもご興味がおありのようですから、あの話ならお楽しみいただけるかもしれません。このクーノというのは、狩猟の従者の一人で、ひどく無学で酒飲みな男です。ゲロールシュタインで言う、根っからのグリューネヴァルト人でしてな。この家でもよく知っております。迷った猟犬を追って、ここまで来たことがあるのです。私は身分や国にかかわらず、誰でも歓迎しますから。それに、ゲロールシュタインとグリューネヴァルトの平和はあまりに長く続いたので、道はこの家の戸口のように開けっ放しで、国境を越えるにも、人は鳥ほどの気にも留めません。」

「そうだね」とオットーは言った。「長い平和だ。何世紀にもわたる平和だ。」

「おっしゃるとおり、何世紀もです」とキリアンは答えた。「それだけに、永遠には続かぬと思うと残念です。さて、そのクーノがある日何かへまをしたところ、短気なオットーが鞭を振り上げて、ひどく打ちのめしたそうです。クーノはできるだけ辛抱しましたが、とうとう堪忍袋の緒が切れ、公爵に、鞭を捨てて男らしく取っ組み合えと挑んだ。私どもの地方では皆、組み討ちが得意で、たいていの争いはそれで決着をつけるのです。さて、公爵はそのとおりにしましたが、もともとひ弱なお方なので、立場が逆になりました。ついさっきまで黒人奴隷のように鞭打っていた男に、後ろから組みつかれて持ち上げられ、頭越しに投げ飛ばされたのです。」

「手綱を持つ腕を折ったんだ」とフリッツが叫んだ。「鼻も折ったという話だ。ざまあみろだね! 男と男なら、どっちが上かってことさ!」

「それで?」とオットーは尋ねた。

「あとはクーノが家まで運んで帰り、その日から二人は大の仲よしになりました。別に、恥ずべき話だとは申しません」とゴッテスハイム氏は続けた。「ただ、おかしいことは確かです。人を打つ前には考えねばなりません。甥の言うとおり、昔は男と男、対等に値踏みしたものですから。」

「もし私に聞くなら」とオットーは言った。「少し意外な答えになるかもしれない。勝ったのは公爵のほうだと思う。」

「ええ、それは正しいでしょう」とキリアンは真顔で答えた。「神の目には、間違いなくそうでございましょう。ただ、人間はそうしたことを別の目で見て、笑うのです。」

「歌にまでなった」とフリッツが言った。「どういう節だったかな。タタタ、タララ……」

「まあ」とオットーは遮った。歌を聞きたい気持ちはまるでなかった。「公爵はまだ若い。これから改まるかもしれない。」

「失礼だが、そう若くもない」とフリッツが叫んだ。「四十男だ。」

「三十六だ」とゴッテスハイム氏が訂正した。

「まあ」とオティリアは、あからさまに幻滅した声を上げた。「中年なのね! 若いころはとてもきれいだったっていうのに!」

「おまけに禿げている」とフリッツが付け加えた。

オットーは髪に手をやった。その瞬間、彼はおよそ幸福とは程遠く、ミットヴァルデン宮殿の退屈な夜でさえ、比べれば魅力的に思われはじめた。

「いや、三十六だぞ!」と抗議した。「三十六ではまだ年寄りではない。私だってその年だ。」

「もっとお年だと思っておりました」と老農夫は甲高い声で言った。「しかしそうなら、人がオットー坊ちゃんと呼ぶあのお方と同い年で、その間になさった世のための働きは、あちらより多いに違いない。一クラウン賭けてもよろしい。私のような年寄りに比べれば若いようでも、それだけ生きれば、人生のかなり先まで来ております。ただの馬鹿や遊び人も、くたびれはじめ、老け顔になりだすころです。ええ、三十六にもなれば、神の掟に従う男なら、住まう家と、世に恥じぬよい名を築いているはずです。妻をめとり、結婚に祝福を受けているはずです。そして聖書の言葉どおり、その行いが後についてきはじめるはずなのです。」

「おや、公爵だって結婚はしているさ」とフリッツは下卑た笑いを爆発させた。

「それが君には面白いらしいね」とオットーは言った。

「ああ」と田舎の若者は言った。「知らなかったのか? ヨーロッパ中で知られていると思っていたが!」そして、どんな鈍い者にも言い分が伝わるような身振りを添えた。

「ああ、旦那様」とゴッテスハイム氏は言った。「このあたりの方でないのは、まことに明らかですな! 実のところ、公爵一家も宮廷も、みな放蕩者にろくでなしで、誰一人ましな者はおりません。怠惰に暮らし、その当然の成り行きとして、腐り果てております。公妃には情夫がいる。東プロイセンから来た、自称男爵です。公爵はあまりに男らしさがないので、その二人のために灯りを持ってやるのです。しかも、それだけではありません。その外国人と情婦が国事を仕切るのを許し、自分は俸給を受け取って、すべてが破滅するに任せている。いずれは目にも明らかな裁きが下るでしょう。年寄りの私でも、生きてそれを見るかもしれません。」

「親父さん、ゴンドレマークのことは間違っている」とフリッツは、急に活気づいて言った。「だがほかは全部、立派な愛国派らしく、神にかけて真実を言っている。公爵のほうは、女房の首を絞めてしまうなら、まだ許してやってもいい。」

「いや、フリッツ」と老人は言った。「それでは悪に罪を重ねるだけだ。おわかりでしょう」と、また不幸な公に向き直った。「この騒ぎはみな、オットー自身のせいなのです。若い妻と公国を持ち、どちらをも慈しむと誓ったのですから。」

「祭壇の前で誓ったんだ!」とフリッツは相槌を打った。「それでも王侯を信じろっていうのか!」

「ところが、その両方を東プロイセンの山師に預けてしまう」と農夫は続けた。「娘がたぶらかされ、堕ちる一方なのを放っておき、まだ二十歳にもならぬのに、その名は居酒屋の笑い草です。国のほうも、重税にあえぎ、軍備で脅かされ、まんまと戦争へ引きずり込まれるままにして――」

「戦争!」オットーは叫んだ。

「そういう話でございます。あの連中の動きを見ている者は、戦争になると言います」とキリアンは請け合った。「ええ、悲しいことです。あの哀れで罪深い娘が、人々の呪いを浴びながら地獄へ落ちてゆくのは悲しいことです。こぢんまりした幸せな国が、悪政に苦しむのも悲しいことです。しかし誰に文句を言う権利があろうと、このオットーにはないと、私はひそかに思います。自分で招いたものを手に入れたのです。どうか神がその魂を憐れんでくださるように。大きな、愚かな罪人の魂を!」

「誓いを破った。ならば偽誓者だ。金を取りながら仕事をしない。ならば明らかに泥棒だ。寝取られ亭主なのは前からだし、馬鹿なのは生まれつきだ。これ以上の奴がいるか!」とフリッツは叫び、指を鳴らした。

「これでいくらかおわかりでしょう」と農夫は続けた。「私どもがオットー公をろくな人間ではないと思うわけが。私生活で信心深く正直であるという徳もあれば、公の徳というものもございます。そのどちらもない男となれば、主の光が差すのを祈るばかりです。このフリッツが大層買っているゴンドレマークにしても――」

「そうとも」とフリッツは遮った。「俺はゴンドレマークに惚れている。ゲロールシュタインにも、ああいう男がいればなあ。」

「悪い男だ」と老農夫は首を振った。「神の戒めを破るところから、よいことが始まったためしはない。ただ、ここまではお前と同じ考えだ。あの男は、自分が得るもののために働く。」

「あの男こそグリューネヴァルトの希望なんだ」とフリッツは叫んだ。「あんたの古臭くて融通の利かない考えには合わないだろうが、まさに今の時代の人間だ。新しい知識と時代の進歩を担う男なんだ。間違ったこともするさ。誰だってする。だが、国民の利益を心のいちばん近くに置いている。いいか、よく覚えておいてくれ。あんただ、自由派で、あの政府という政府の敵であるあんた、俺の言葉を覚えておいてくれ。いつかグリューネヴァルトでは、あの金髪の逃げ腰の公爵と、生白い顔のメッサリーナみたいな公妃[訳注:メッサリーナは放埒で知られた古代ローマ皇帝クラウディウスの妃]を引っ張り出し、尻を先にして国境の外へ追いやって、ゴンドレマーク男爵を初代大統領と宣言する日が来る。演説で聞いたんだ。ブランデナウの集会に一度行ったことがあるが、ミットヴァルデンの代表は一万五千人を代表して話していた。一万五千人だぞ、みな組織されて、一人残らず首に団結の目印のメダルを掛けている。それが全部ゴンドレマークの仕事だ。」

「お聞きのとおりです」と老人は言った。「こういうところへ行き着く。今日は無茶な言葉、明日はさらに無茶な行いです。確かなことが一つあります。このゴンドレマークは、片足を宮廷の裏階段に、もう片足をフリーメイソンのロッジに置いている。今どきの言い方では愛国者とやらを名乗っております。東プロイセンから来た男が!」

「名乗っているだと!」とフリッツは叫んだ。「本物だ! 共和制が宣言されたら、すぐ爵位を捨てるんだ。演説で聞いた。」

「男爵を捨てて、大統領を取るのか?」とキリアンは言い返した。「丸太の王様の次は、鸛の王様だ[訳注:イソップ寓話。無害な丸太の王に不満を抱いた蛙たちは、代わりに来た鸛に食われる]。まあ、お前は私より長く生きる。どんな実がなるか、その目で見るだろう。」

「お父さん」とオティリアが、話し手の上着を引いてささやいた。「旦那様、ご気分が悪いんじゃないかしら。」

「これは失礼いたしました」と農夫は、もてなしの心を取り戻して叫んだ。「何かお持ちしましょうか。」

「ありがとう。ひどく疲れているのだ」とオットーは答えた。「体力を過信したらしい。寝床へ案内していただければ、ありがたい。」

「オティリア、蝋燭を!」と老人は言った。「たしかに、お顔が青い。気つけの水を少し? いりませんか。では、どうぞこちらへ。客用の寝床へご案内いたします。うちの屋根の下でよくお休みになった方は、これまでも大勢おられます」と、客に先立って階段を上りながら続けた。「よい食事、まっとうな酒、感謝に満ちた良心、そして寝る前のちょっとした楽しい語らいは、滋養飲料や薬屋の薬より効くものです。さあ」と扉を開け、白く塗った小さな寝室へオットーを通した。「ここが今夜の港です。狭いですが風はよく通り、シーツは清潔で、ラヴェンダーを入れてしまっておきました。窓の下には川が見えます。小川ほどよい音楽はございません。同じ曲を――それがまたいちばんよい曲なのですが――何度も何度も奏で、人間の楽士のように飽きることがない。心を戸外へ連れ出してくれます。よい家には感謝すべきですが、結局、神のお造りになった戸外にまさる家はありませんから。そして何より、祈りを唱えるように心を鎮めてくれるのです。それでは、また明日まで、ここでご挨拶申し上げます。どうか公爵様のようにぐっすりお眠りになれますよう、心からお祈りいたします。」

そうして老人は、二十度目にもなる丁重なお辞儀をして、客を一人残して去った。

第三章――公、老いと美を慰め、恋の慎みについて講義する

公は朝早く外へ出た。鳥が最初の合唱を始め、空気は澄んで静まり、日の光が斜めに射して、影が一マイルも伸びる時刻だった。惨めな夜を過ごした者にとって、その時刻の清新さは身を養い、生気を呼び戻した。まだ眠っている人々に一足先んじ、新しい一日のアダムになることが、心を落ち着かせ、力づけた。公は深く息を吸い、折々立ち止まりながら、自分の影を連れて濡れた野を歩き、喜びを覚えた。

つる棚の小道が小川の谷へ下っており、公はそちらへ折れた。流れは、スコットランド高地の川のように、危うい勢いで煮え立っていた。農家のすぐそばで小さな崖を飛び降り、幾筋もの糸をより合わせた葦毛の牝馬の尾のような滝となり、その先の淵にたまって、うねり、泡立っていた。震える淵の中央へ岩が張り出し、傾いて小さな岬を作っていた。オットーはそこへよじ登り、腰を下ろして物思いに沈んだ。

やがて、滝の上に吊られた東屋のような、枝と薄い若葉の幕を日が射し抜いた。金色の光と漂う影が、煮えたぎる鍋のような水面に落ちて大理石の模様を描いた。光の矢が渦巻く水の深みへ差し込み、揺れる渦に、ダイヤモンドのように明るい一点がきらめいた。オットーのいる場所も暖かくなりはじめ、やがて酔いを誘うほどになった。光は泳ぎ、揺れる淵を横切って迷路を織り、張り出した岩の上では反射が蝶のように舞った。滝は揺れるカーテンさながらに、あたりの空気を扇いでいた。

寝返りばかりの夜に疲れ、後悔と嫉妬の恐ろしい幻に悩まされていたオットーは、この日影のまだらな、水音の響く一隅に、たちまち心を奪われた。両足を抱え、まどろみに似た夢心地で見つめながら、驚き、感嘆し、思いにふけり、定まらない考えの中に迷い込んだ。川が障害にぶつかって争うときの、流れの法則にひそかに従う無意識のせわしなさほど、自由意志の外見を巧みにまねるものはない。それはまさに人間と運命の戯れに見えた。オットーは繰り返される変化を見つめるにつれ、眠気と深遠さを同じ歩調で増していった。渦も公も、等しくその行く手を邪魔され、等しく目に見えぬ力によって、世界の一隅につなぎ留められている。渦も公も、人間の宇宙観からすれば、等しく無用、まったくの無用である。渦と公――公と渦。

どれほどか眠っていたのだろう、声が彼を忘却から呼び戻した。「旦那様」と言っていた。振り返ると、キリアン氏の娘が、自分の大胆さにおびえながら、岸から恥ずかしそうに合図していた。地味で正直な娘で、健康で、幸せで、善良であり、その健康と幸福から生まれる種類の美しさを備えていた。だが、その戸惑いは一時、さらに魅力を添えていた。

「おはよう」とオットーは立ち上がり、娘のほうへ進んだ。「早起きして、夢を見ていた。」

「ああ、旦那様!」娘は叫んだ。「父をお許しいただきたくて。殿下がどなたか知っていたら、あんなことを言うくらいなら舌を噛み切っていたでしょう。フリッツだって、あんなにまくし立てて! でも、私はなんとなく気づいていたんです。今朝まっすぐ厩舎へ行ったら、鐙に殿下の冠の紋がありました! でも、お許しくださると信じていました。二人とも、子羊と同じで、何も知らなかったんですもの。」

「お嬢さん」とオットーは、面白くもあり、うれしくもあって言った。「君はわかっていない。悪いのは私なのだ。名を隠して、あの方々に自分の話をさせるべきではなかった。だから、お願いするのは私のほうだ。どうか秘密を守って、私が礼を失したことを明かさないでほしい。それに、私を恐れる必要はない。お父さんたちはゲロールシュタインにいるかぎり安全だ。私の領内でさえ、私には何の力もないことを、君もよく知っているだろう。」

「まあ、殿下」と娘は膝を折った。「そんなことはありません。猟師の方々は、殿下のためならみな命を捨てます。」

「幸せな公爵だ!」とオットーは言った。「だが君は礼儀正しいから、知っているとは認めないけれど、私が見せかけだけの存在だと知る機会はいくらでもあったはずだ。昨夜だけでも、ずいぶんはっきり説明してもらった。この堅い岩の上を動く影が見えるかい。残念ながらオットー公は、あの動く影にすぎない。そして岩の名はゴンドレマークという。ああ、もしお父さんたちがゴンドレマークを罵っていたら! だが幸い、若いほうはあの男の崇拝者だ。ご老人のお父さんのほうは、賢い人で、話も実にうまい。それに正直だということなら、大金を賭けてもいい。」

「正直ということなら、殿下、本当にそうです!」娘は叫んだ。「フリッツも負けないくらい正直です。それに、二人が言ったことなんて、ただのおしゃべり、でたらめです。田舎の人がおしゃべりを始めると、面白半分に、いくらでも言うんです。自分の言っていることなんて、考えてもいません。隣の農場へいらしたら、父のことも、同じくらい悪く言われていると思います。」

「いやいや」とオットーは言った。「それは言いすぎだ。オットー公への悪口は、みな――」

「ひどい言い草でした!」と娘が叫んだ。

「ひどいのではない。本当なのだ」とオットーは答えた。「そう、本当だ。私はあの人たちの言ったとおりの男だ。それどころか、もっと悪い。」

「まあ、あきれた!」とオティリアは叫んだ。「そんなふうになさるの? それじゃ兵隊さんにはなれませんね。私なら、誰かに責められたら立ち上がって言い返します。ちゃんと自分を守ります。自分の欠点が額に書いてあったって、人から言われて黙ってなんかいません。世の中を生き抜くなら、そうなさらなくちゃ。でも本当に、こんな馬鹿な話は聞いたことがありません。恥ずかしくならないんですか! じゃあ、禿げてもいらっしゃるんでしょうね?」

「いや、それは違う」とオットーはすっかり笑い出した。「そこだけは無罪だ。禿げてはいない!」

「でしょう? それに、いい方でしょう?」と娘は続けた。「さあ、ご自分がいい方だと、わかっていらっしゃるはずです。そう言っていただきますから……殿下、どうかお許しください。失礼をするつもりはないんです。でも、やっぱり、ご存じでしょう。」

「さて、どう答えたものかな」とオットーは言った。「君は料理をする。しかも実に上手だ。この機会に、あの煮込みのお礼を言っておこう。ところで、よい材料が下手な料理で台なしになって、できあがったものを誰も食べたがらないことがあるだろう。私がそれなのだ、お嬢さん。よい材料はたっぷりあるのに、料理は役に立たない。一言で言えば――サラダに入った砂糖だ。」

「でも、かまいません。いい方です」とオティリアは繰り返した。意味がつかめず、少し顔を赤らめていた。

「一つだけ言おう」とオットーは答えた。「君こそ、いい娘だ!」

「あら、皆さんが言っていたのはそれなんですね」と娘は悟ったように言った。「口がお上手で、人を丸め込んでしまうって。なんてお世辞がお上手!」

「おや、忘れたのかい。私は中年男だよ」と公はくすくす笑った。

「でも、お話ししていると男の子みたい。公様でもそうでなくても、私が料理しているところへ来て邪魔をなさったら、上着の裾にナプキンを留めてしまいます……ああ、どうしましょう、殿下、お許しください」と娘は付け加えた。「どうしても忘れてしまうんです。」

「私もだ!」とオットーは叫んだ。「みんなが文句を言うのも、まさにそこなのだ!」

二人は恋人同士のように見えた。ただ、馬の尾のような滝が激しく流れ落ちるので、声は恋人同士のものより高く張らねばならなかった。だが上から見ている嫉妬深い者には、その笑い声と近さは、十分に腹立たしく映っただろう。木苺の茂みから、荒い声がオティリアの名を呼びはじめた。娘の顔色が変わった。「フリッツです」と言った。「行かなくちゃ。」

「お行き、お嬢さん。心配なく行きなさいとは言わなくてもいいね。そばで見れば、私が怖くないとわかっただろうから」と公は言い、優雅な身振りで送り出した。

オティリアは岸を軽やかに駆け上がり、茂みへ消えた。途中で一度だけ立ち止まり、赤くなってちょこんと膝を折った。赤くなったのは、その間にまた客の身分を忘れ、そして思い出したからだった。

オットーは岩の岬へ戻ったが、その間に気分は変わっていた。日はさきほどより明るく淵を照らし、茶色く湧き上がる水面では、空の青と春の若葉の金緑色が、束の間の唐草模様を描いて踊っていた。渦は笑い、色そのものの精で輝いていた。そして谷の美しさが、公の心を刺しはじめた。自分の国境にこれほど近いのに、外にあるのだ。自分のものになっている千も一つもの美しい珍しい品々に、所有する喜びをさほど覚えたことはなかった。それなのに今は、他人のものへの羨望を意識していた。むろんそれは、微笑ましい、物好きの羨望ではあった。だが、あることには変わりがない。アハブの葡萄畑への執念[訳注:旧約聖書の王アハブは、隣人の葡萄畑を欲し、妻がその所有者を謀殺して奪った]を小さくしたものだった。そこへキリアン氏が現れたので、公はほっとした。

「粗末な家ですが、よくお休みになれましたでしょうか」と老農夫は言った。

「あなたが住む幸運に恵まれた、この美しい場所に見とれていた」とオットーは、問いをかわして答えた。

「田舎でございます」とゴッテスハイム氏は、満足そうにあたりを見回した。「まことに田舎の一隅です。西のほうにはたいそう肥えた土地もあります。見事に深い土でしてな。十エーカーの畑の小麦をご覧いただきたいものです。グリューネヴァルトには、このリバー・ファームにかなう農場はありません。ゲロールシュタインにだって、そう多くはない。あるものは六十倍――種をまくたびに考えるのですが――あるものは六十倍、あるものは七十倍、あるものは百倍。そしてうちは百二十倍です! もっとも、それには耕し方もあずかっておりますが。」

「川には魚もいるのかね」とオットーは尋ねた。

「生簀のようなものでございます」と農夫は言った。「ええ、よいところです。暇さえあれば、ここにいるのもよいものです。黒い淵で川が太鼓を鳴らし、岩には緑が垂れ下がって、いや、小石一つ見るだけでも! みな金や宝石に変わっております! ただ失礼ながら、旦那様もそろそろリウマチが出はじめるお年でございます。三十から四十は、いわばその種まき時です。この一隅は、朝早く空き腹でいるには、湿って冷えます。僭越ながら、少し歩かれたほうがよろしいかと。」

「ぜひそうしよう」とオットーは真面目に答えた。「では、あなたはずっとここで暮らしてきたのかね」と、歩き出しながら付け加えた。

「ここで生まれました」と農夫は答えた。「ここで死ねると申せればよいのですが。けれど運命は、旦那様、運命は車輪を回します。目が見えぬと言われますが、少し先を見ているだけだと思いたいものです。祖父も父も私も、この畑を耕してきました。二人の畝を、私の畝が追っているのです。庭の腰掛けには、三人の名が刻んであります。キリアンが二人と、ヨハンが一人。ええ、よい人たちが、あの古い庭で大きな旅立ちの支度をしました。父のことはよく覚えております。毛糸の夜帽をかぶって、よい人でしたが、見納めをしようと、何度も庭を歩き回っていました。『キリアン』と言うのです。『この煙草の煙が見えるか。あれが人の一生だ』と。あれが最後の一服でした。父もわかっていたのだと思います。自分の植えた木、自分のもうけた息子、それどころか、若くて恋人のもとへ通っていたころから使っていた、トルコ人の頭の形をした古い煙管まで、置いてゆかねばならないとは、さぞ不思議な思いだったでしょう。しかしこの世には、永遠にとどまる都はありません。永遠の世については、自分の功徳だけが頼りではないと思えば、心も慰みます。それでも、よその寝床で死ぬということが、これほど私の胸に逆らうとは、ご想像もつきますまい。」

「そうしなければならないのか。なぜ?」とオットーは尋ねた。

「なぜかと申しますと、この土地が売りに出るのです。三千クラウンで」とゴッテスハイム氏は答えた。「その三分の一でしたら、自慢ではありませんが、信用と貯えとで、何とか用意できたでしょう。けれど三千となれば、よほど運よく、新しい持ち主が引き続き私に任せてくださらないかぎり、立ち退くほかありません。」

それを聞いて、オットーのこの場所への愛着は倍になり、別の気持ちも加わった。聞いたことがすべて本当なら、グリューネヴァルトは君主にとって、かなり居心地の悪い場所になりつつある。避難所を持っておくのもよいだろう。それなら、これ以上に心地よい隠れ家が考えられるだろうか。それに、ゴッテスハイム氏は彼の同情を誘った。どんな男も、心の奥では芝居の神様役を演じたがるものだ。話の中であれほど手厳しく自分を扱った老農夫を助けに降りてゆくことは、「美しい仕返し」の理想そのものだった。その見通しにオットーの思いは明るくなり、自分への敬意が戻りはじめた。

「買い手なら見つけられると思う」と言った。「引き続きあなたの腕を頼りにする買い手をね。」

「本当でございますか」と老人は言った。「それは心からありがたいことです。あきらめというものは、一生薬のように飲み続けていても、しまいまで好きにはなれないものだと、このごろわかってまいりまして。」

「書類を用意してくだされば、あなたの権利を売買の条件に入れてもよい」とオットーは言った。「終身保証としよう。」

「そのご友人は」とキリアンは遠回しに言った。「権利を継がせることにも、お差し支えはございませんでしょうか。フリッツはよい若者です。」

「フリッツは若い」と公はそっけなく言った。「配慮は受け継ぐものでなく、自ら勝ち得るものだ。」

「長いこと、この農場で働いております」とゴッテスハイム氏は食い下がった。「私はこの刈り入れには七十八になりますから、これほどの年寄りの後釜を探すのは、持ち主にとっても厄介な心配でしょう。フリッツを確保しておけば、心配が一つ減ります。永続する話なら、あれもその気になると思います。」

「若者の考えは落ち着かない」とオットーは答えた。

「買い手の方なら、あるいは――」とキリアンは言いかけた。

オットーの頬に、怒りの赤みが小さく燃えた。「買い手は私だ」と言った。

「察するべきでございました」と農夫は、年寄りらしい卑下した威厳を保って頭を下げた。「老人を大変幸せにしてくださいました。知らずに天使をもてなしていたとは、まさにこのことです。旦那様、この世の偉い方々――身分の高い方という意味ですが――みなあなたのような心を持ってくだされば、どれほど多くの炉に火がともり、貧しい者が歌うことでしょう!」

「あまり厳しくお裁きにならないほうがよい」とオットーは言った。「誰にでも弱みはある。」

「まことにそのとおりです」とゴッテスハイム氏は、しみじみ答えた。「それで、この気前のよい地主様を、何とお呼びすればよろしいでしょうか。」

一週間前に宮廷へ迎えたイングランドの旅行者と、若いころ知っていたトランサムというイングランドの老悪党。その二つの記憶が、折よく公を助けた。「トランサムという名だ」と答えた。「イングランドの旅行者だ。今日は火曜だね。木曜の正午までには、金を用意しよう。差し支えなければ、ミットヴァルデンの『モーニング・スター』で会おう。」

「法にかなうことであれば、何なりと仰せのままに」と農夫は答えた。「イングランドの方ですか! 旅の盛んなお国柄ですな。土地をお持ちになったご経験はございますか。」

「以前にも、多少そうしたことにかかわりはあった」と公は答えた。「もっとも、ゲロールシュタインではない。だが、おっしゃるとおり運命は車輪を回す。その回転に先手を打っておきたいのだ。」

「まったく、賢明なことでございます」とキリアン氏は言った。

二人はゆっくり歩いていたが、今や農家に近づき、つる棚の道を牧草地の高さへ上っていた。少し前方では、先ほどから人声が聞こえており、近づく一歩ごとに大きく、はっきりしてきた。やがて土手の上へ出ると、少し離れたところにフリッツとオティリアが見えた。若者は顔を黒ずませ、目を血走らせ、拳を掌に打ちつけて、かすれた言葉に力を込めていた。娘は少し離れて立ち、顔を赤くして取り乱し、しきりに言い返していた。

「これはこれは」とゴッテスハイム氏は言い、脇へそれようとした。

だがオットーは、二人の争いには自分にも責任があると思い、恋人たちへまっすぐ向かった。実際フリッツは、公の姿を見るなり悲劇の役者のように構え、その接近を待ち受け、挑むようだった。

「ああ、来たな!」楽に声の届くところまで来ると叫んだ。「あんたは少なくとも男だ、答えてもらうぞ。何をたくらんでいた? なぜ二人で茂みに隠れていた? 畜生!」と、またオティリアへ向き直った。「こんな女に、俺は心を無駄遣いしていたのか!」

「失礼」とオットーが割って入った。「話しかけたのは私だったね。どういう資格で、この娘さんの行動について説明を求めるのか。父親か。兄弟か。夫か。」

「あんたもよく知っているだろう」と若い農夫は答えた。「俺とこの娘は付き合っているんだ。俺はこの娘を愛しているし、向こうも俺を愛していることになっている。だが、隠し事はさせないぞ。俺にだって、立派な誇りがある。」

「どうやら、愛とは何かを教えなければならないようだ」とオットーは言った。「愛は優しさで測るものだ。君に誇りがあるのは結構だが、彼女にだって自尊心はあるだろう。私自身のことは言わない。君の行動も同じように根掘り葉掘り調べられたら、答えに困るかもしれないよ。」

「そんなのは話のすり替えだ」と若者は言った。「男は男、女はただの女だ。あんたも知っているだろう。これはどこへ行ったって通る話だ。俺は質問した。もう一度聞く。ここから引く気はない」地面に印をつけ、その上につま先を置いた。

「自由の教えをもう少し深く学んだら、口ぶりも変わるかもしれないね」と公は言った。「君の秤と物差しは不正確だ、若い友よ。女を量る秤と、男を量る秤が違う。君主と農夫でも違う。妻を顧みない君主には、この上なく厳しい。だが恋人を侮辱する男はどうなのだ。君は愛という言葉を使う。この娘さんなら、そんな愛から解放してほしいと願っても、少しも不当ではあるまい。もし他人の私が、君の十分の一でも乱暴で無礼なことをしたら、君は私の頭を殴っただろうし、それはまったく正しい。恋人としての役目は、彼女をそうした侮辱から守ることだ。ならばまず、君自身から彼女を守りたまえ。」

「そうです」と、高い老いた背の後ろに手を組んで見守っていたゴッテスハイム氏が言った。「まさに聖書の教えどおりです。」

フリッツはたじろいだ。公の揺るがぬ優越した態度のためばかりでなく、自分が悪いのだという意識が、かすかに芽生えたためでもあった。それに、自由の教えを持ち出されたことで、気勢をそがれていた。

「まあ」と言った。「無礼だったのなら認めよう。悪気はなかったし、正当な権利の外へ出たつもりもない。だが俺だって、古臭い下品な考えに縛られているわけじゃない。きつく言ったのなら、謝る。」

「許すわ、フリッツ」とオティリアは言った。

「だが、それじゃ俺の問いに答えていない」とフリッツは叫んだ。「二人で何を話していたんだ。この娘は、言わないと約束したと言う。なら、なおさら知りたい。礼儀は礼儀だが、誰にも馬鹿にはされないぞ。付き合っているからには、俺だって当然の扱いを受ける権利がある!」

「ゴッテスハイム氏に聞けば」とオットーは答えた。「私が暇つぶしをしていたのでないとわかる。今朝起きてから、この農場を買う約束をしたのだ。感心しない好奇心だが、ここまでなら満足させてあげよう。」

「ああ、商売の話なら別だ」とフリッツは答えた。「なぜ言えなかったのか、さっぱりわからないが。まあ、旦那が農場を買うというのなら、当然これで話は終わりだろう。」

「もちろんだ」とゴッテスハイム氏は、強く確信を込めて言った。

だがオティリアは、ずっと勇敢だった。「ほら、ごらんなさい!」と勝ち誇って叫んだ。「言ったでしょう? あなたのために頑張っていたって。これでわかったでしょう! 疑い深い性分を恥ずかしく思いなさいよ! こちらの旦那様にも私にも、膝をついて謝るべきだわ。」

第四章――公、道すがら世評を集める

正午少し前、オットーは巧みな立ち回りを重ねて、ようやく脱出に成功した。こうしてキリアン氏の重々しい感謝と、哀れなオティリアの内緒めいた感謝からは逃れたが、フリッツからはそう簡単に離れられなかった。この若い政治家は、意味ありげな視線を絶えず送りながら、街道まで道案内を申し出た。オットーは、まだ嫉妬が残っているのかもしれないと恐れ、娘のためにも断る勇気がなかった。だが不安げに同行者をうかがい、この一件が早く終わることを切に願った。しばらくフリッツは黙って牝馬の脇を歩いていた。約束の道のりを半分以上過ぎてから、ようやく少し顔を赤らめて見上げ、口火を切った。

「あんたは」と尋ねた。「いわゆる社会主義者じゃないのか?」

「いや、違う」とオットーは答えた。「少なくとも、そう呼ばれるものとは少し違う。なぜ聞くのだ。」

「わけを話そう」と若者は言った。「最初から、あんたが赤い進歩派だとは見抜いていた。ただ、キリアン爺さんに遠慮して控えていたんだろう。それは正解だ。年寄りはみんな臆病だからな。だが今は、派閥がいくつもある。一番見込みのありそうな人間でも、どこまで行くつもりか、わからないんだ。あんたが女と自由恋愛の話をほのめかすまでは、本当に徹底した思想家なのか、確信が持てなかった。」

「いや」とオットーは叫んだ。「そんなことは一言も言っていない。」

「あんたは言わないさ!」とフリッツは叫んだ。「尻尾をつかませるような言葉は一つもな! 種をまいていたのさ。うちの会長は撒き餌と呼ぶ。だが俺の目はごまかせない。煽動家も、その手口も、学説も、みんな知っている。それに、ここだけの話だが」と声を低めた。「俺自身、仲間に入っている。そう、秘密結社の一員なんだ。これがメダルだ」首に掛けていた緑のリボンを引っ張り出し、オットーに見せようと、鳳凰とリベルタス[訳注:ラテン語で「自由」]の文字を刻んだ白鑞のメダルを掲げた。「これで信用してもらえるだろう」とフリッツは付け加えた。「居酒屋でしゃべるだけの連中とは違う。信念を持った革命家だ」そして、うっとりとオットーを見上げた。

「なるほど」と公は答えた。「それは頼もしい。さて、国のためにいちばん大切なのは、まずよい人間になることだ。すべてはそこから始まる。私についていえば、政治にかかわっているという君の見立ては正しいが、頭の出来も気質も、指導する役には向いていない。どうやら部下になるように生まれついたらしい。だがフリッツ君、誰にでも指揮すべきものはある。自分の気性だけであってもね。結婚を控えた男は、自分をよく見つめねばならない。夫の立場も君主の立場も、ひどく人為的なものだ。そして、どちらにいても優しくあることは難しい。わかるかね。」

「ああ、わかる」と若者は答えた。引き出した話の内容にすっかり落胆していたが、やがて顔を明るくして、思い切って尋ねた。「もしかして、農場を買ったのは、武器庫にするためなのか?」

「それはまた考えよう」と公は笑って答えた。「あまり熱心になりすぎないことだ。それから当面、私ならこの話は誰にもしないね。」

「そこは任せてくれ」とフリッツは、一クラウンを懐へしまいながら叫んだ。「あんたが何か漏らしたわけじゃない。俺は初めから疑っていたんだ。知っていたと言ってもいい。それに覚えておいてくれ、道案内が要るときには」と付け加えた。「森の小道は全部知っている。」

オットーはくすくす笑いながら馬を進めた。フリッツとの会話は大いに楽しめたし、農場での自分の振る舞いにも、まったく不満というわけではなかった。もっと小さな挑発で、もっとひどい振る舞いをした男はいくらでもいる、と自分に言ってやれた。そしてすべてに調和するように、道も四月の空気も、心にこの上なく快かった。

上り下り、右へ左へと曲がりながら、白い広い街道は、森に覆われた山裾をしだいに上り、グリューネヴァルトの奥へ続いていた。両側には松が涼しげに根を据え、その節くれだった根張りの間には緑の苔が繁り、泉が湧いていた。太く逞しい木もあれば、尖塔のように細い木もあったが、どれも同じ姿勢、同じ表情でしっかりと立ち、捧げ銃をする無言の軍隊のようだった。

道は始終、町や村を左右に残して、その外を通っていた。なるほど所々、緑の谷底に寄り集まった屋根や、頭上の山の肩に木こりの一軒小屋が見えることはあった。だが街道は国際的な事業であり、遠い都市へ顔を向け、グリューネヴァルトの小さな暮らしなど歯牙にも掛けなかった。そのため、ひどく寂しかった。国境近くで、オットーは熱い土埃の中を行進する自国の兵の一隊に出会った。兵たちは公と気づき、通り過ぎる際に、いくらか気のない歓声を上げた。だがそれからは長い間、大森林と二人きりだった。

しだいに楽しさの魔法が薄れた。自分の考えが刺す虫の群れのように戻り、前夜の会話が、雨あられの平手打ちとなって記憶に降りかかった。何か慰めになるものはないかと、右に左に目をやった。やがて、急な山道が横から下ってくるのが見え、騎馬の男が用心深く降りてきた。今は人の声、人の姿だけでも、砂漠の泉のようにありがたかった。オットーは手綱を引いて、見知らぬ男を待った。男はひどく赤い顔に厚い唇の田舎者で、膨らんだ鞍袋を二つ掛け、腰には陶製の瓶を下げていた。公が声を掛けると、いくらか舌はもつれていたが、陽気に返事をした。同時に、鞍の上で酔いどれらしくぐらりと傾いた。瓶がもう満杯でないことは明らかだった。

「ミットヴァルデンへ行くのかね」と公は尋ねた。

「タンネンブルンへの分かれ道までだ」と男は答えた。「一緒に行くかい。」

「喜んで。もしやと思って、待っていたくらいだ」とオットーは答えた。

このころには二人はぴたりと並んでいた。男は田舎者の本能で、まず同行者の馬へ、濁った目を向けた。「こいつは!」と叫んだ。「いい牝馬に乗ってるじゃないか!」そうして大事なものへの好奇心を満たしてから、二の次にすぎない同行者の顔へ注意を移した。はっとした。「公爵様!」と叫び、敬礼したが、またぐらりと揺れ、もう少しで落馬するところだった。「殿下、すぐに気づかず、失礼いたしました。」

公は苛立ち、平静を失った。「私を知っているのなら」と言った。「一緒に行く必要はない。失礼して、先へ行かせてもらおう」葦毛に拍車を入れようとしたとき、半酔いの男が身を乗り出し、手綱に手を掛けた。

「おい」と男は言った。「公爵だろうが何だろうが、人が人にする態度じゃないぞ。何だと! お忍びなら一緒に行って、俺にしゃべらせる。だが俺が正体を知っていれば、失礼して先へ行きましゅ、か! 密偵め!」酒と傷ついた虚栄心で真っ赤になった男は、ほとんど公の顔へ吐きつけるように最後の言葉を放った。

オットーは恐ろしいほど狼狽した。身分を笠に着て、ひどく無礼に振る舞ったことに気づいたのだ。後悔には、身の危険を感じた小さな震えも混じっていたかもしれない。男はたいそう頑強で、正気も半分ほどしか保っていなかった。「手綱から手を放したまえ」と、十分な威厳を装って言った。意外にも男が従うと、言葉を続けた。「わかってほしい。分別のある人間同士として一緒に行き、君の本当の意見を聞くのは喜ばしい。だが、公爵に向ける空疎なお世辞を聞いても、少しも面白くないのだ。」

「俺が嘘をつくっていうのか?」と瓶を下げた男は叫び、さらに顔を紫にした。

「つくとわかっている」と、すっかり落ち着きを取り戻したオットーは答えた。「首に掛けているメダルさえ、見せようとはしないだろう」男の襟元に緑のリボンがちらりと見えていたのだ。

変化は瞬時だった。赤い顔に黄色い斑が浮かび、太い指の震える手が、秘密を明かすリボンをつかんだ。「メダル!」と男は叫んだ。驚くほど酔いがさめていた。「メダルなんぞ、持っていない。」

「失礼」と公は言った。「何が刻まれているかまで言ってあげよう。燃える鳳凰と、リベルタスの文字だ」メダルの持ち主が口もきけずにいるので、オットーは微笑んで続けた。「自分が殺そうと企んでいる男に、無礼だと文句をつけるとは、なかなかの人物だね。」

「殺す!」と男は抗議した。「いや、それだけは違う。犯罪には手を出さない!」

「妙な思い違いをしている」とオットーは言った。「陰謀そのものが犯罪で、死刑になる。そう、死刑だ。間違いないと保証しよう。もっとも、そんな情けない顔をする必要はない。私は取締役人ではないからね。だが政治にかかわる者は、メダルの両面を見るべきだ。」

「殿下……」と瓶の騎士は言いかけた。

「馬鹿な!」とオットーは叫んだ。「君は共和派だろう。殿下などに何の用がある。さあ、先へ進もう。君がそれほど望むのなら、道連れを断るのも忍びない。それに、私からも一つ聞きたいことがある。君たちはあれほど大勢いるのに――大勢なのは確かだ。一万五千と聞いたが、控えめな数字だろう。違うかね?」

男は喉を鳴らした。

「それなら、それほど大きな勢力なのに」とオットーは続けた。「なぜ堂々と私の前へ来て、望みを述べないのだ。いや、望みどころか、命令すればいい。私は熱烈に玉座へ執着しているという評判かね。そうは思えない。来たまえ、過半数を示してくれれば、すぐに退位する。仲間にもそう伝えたまえ。私は従順だと請け合ってくれ。私の欠点をどう考えているにせよ、統治者に向いていないという点では、私自身以上には考えられまいとね。私はヨーロッパでも最悪の君主の一人だ。それ以上のことが言えるかな。」

「私は決して……」と男は言いかけた。

「ほら、私の政治を弁護しかねないじゃないか!」とオットーは叫んだ。「私なら陰謀から手を引くね。君が陰謀家に向かないのは、私が王に向かないのと同じだ。」

「一つだけは、はっきり言おう」と男は言った。「不満があるのは、あんたよりも奥方なんだ。」

「一言も言うな」と公は言った。それから一呼吸置き、怒りと軽蔑の混じる声で付け加えた。「もう一度忠告する。政治には手を出さないことだ。そして次に会うときは、しらふでいてくれ。朝から酔っている男など、どれほど悪い君主であれ、裁く資格はない。」

「一杯やったが、飲んだくれていたわけじゃない」と男は、筋の通った区別を得意げに言った。「それに、そうだったらどうなんだ。俺にぶら下がっている奴はいない。だが俺の水車場は止まっていて、それはあんたの女房のせいだと思っている。俺だけか? そこらで聞いてみるがいい。水車場はどこへ行った? 働くはずの若者はどこへ行った? 金はどこにある? 何もかも麻痺している。いや、対等じゃない。あんたの過ちで俺が苦しみ、その代金を、畜生、貧乏人の懐から払っているんだ。それなのに、俺の過ちがあんたに何の関係がある? 酔っていようが、しらふだろうが、国が地獄へ落ちてゆくのは見える。誰のせいかも見える。さあ、言いたいことは言った。臭い牢屋へ引きずっていくがいい、知ったことか。真実を言ったんだ。俺はここで手綱を引く。殿下のお供に、これ以上は割り込まん。」

粉屋は馬を止め、ぎこちなく敬礼した。

「私が君の名を尋ねなかったことは、覚えておいてくれ」とオットーは言った。「道中、無事に」そして勢いよく馬を進めた。だがどれほど馬を走らせても、この粉屋との一件は、喉に詰まる渋い梨のように、どうしても呑み込めなかった。まず作法を叱られ、最後には理屈で負かされた。それも、自分が軽蔑する男からだった。昔からの考えがみな、新たな毒を帯びて戻ってきた。午後三時ごろ、ベックシュタインへの分かれ道に着くと、オットーはそちらへそれて、ゆっくり食事をすることにした。少なくとも、今のまま進むより悪くはなるまい。

ベックシュタインの宿へ入るなり、オットーは、前に本を置いて食事をしている、聡明そうな若い紳士に気づいた。その読書家のそばに自分の席をしつらえさせ、しかるべく断ってから、何を読んでいるのかと話しかけた。

「このグリューネヴァルトの公爵の従兄で、蔵書係でもあるホーエンシュトックヴィッツ博士の近著を読んでおります」と若い紳士は答えた。「たいそう博識で、時には機知もひらめく方です。」

「博士とは知り合いだ」とオットーは言った。「ただ、その著作はまだ読んでいない。」

「どちらもうらやましいことです」と若者は丁寧に答えた。「一つはすでに手にした栄誉、もう一つはこれからの楽しみですから。」

「博士は、学識でずいぶん尊敬されているようだね」と公は尋ねた。

「知性の力を示す、顕著な実例です」と読書家は答えた。「わが国の若者で、その従弟のことを何か知っている者がいるでしょうか。現に君臨する公爵だというのに。一方、ゴットホルト博士の名を聞いたことのない者がいるでしょうか。あらゆる優越の中で、知的な功績だけが自然に根ざしているのです。」

「学問をなさる方とお話しする光栄に浴しているようだ。もしや著述も?」とオットーは尋ねた。

若者は少し頬を染めた。「ご推察のとおり、どちらの資格も多少はございます。名刺をどうぞ。レーデラー学士と申します。政治の理論と実際について、幾つか著作があります。」

「大いに興味をそそられる」と公は言った。「このグリューネヴァルトは革命の瀬戸際にあるようなので、なおさらだ。専門に研究しておられるなら、ぜひ聞かせてほしい。そうした運動には、希望が持てるとお考えかな。」

「どうやら」と若い著者は、少し酸っぱい顔をして言った。「私の小著はお読みでないようですね。私は確信を持つ権威主義者です。生半可な実際家が自分の目をくらませ、無知な者を煽る、あの幻想的なユートピアの夢など、少しも信じておりません。ああした思想の時代は終わりました。少なくとも、終わりつつあるのです。」

「周囲を見渡すと――」とオットーは言いかけた。

「周囲を見渡せば」と学士は遮った。「目に入るのは無知な人々です。しかし思想の実験室では、勉学の灯のそばで、すでにそうした虚構を捨てはじめています。自然の秩序へ戻りはじめているのです。治療学の言葉を借りるなら、弊害に対する待機療法とでも申しましょうか。誤解なさらないでいただきたい」と続けた。「グリューネヴァルトのような状態の国、あなた方のオットー公のような君主は、はっきり非難しなければなりません。時代に遅れているのです。ただ、その救済は乱暴な激変に求めるのではなく、より有能な君主が自然に現れることに求めたい。私の考える君主像をご説明したら」と学士は微笑んだ。「おそらく面白がっていただけるでしょう。書斎で学んできたわれわれは、この時代、もはや実務に自ら名乗りを上げたりしません。二つの道は両立しないと悟ったのです。学者を玉座に据えようとは思いませんが、助言者としてそばには置きたい。君主として推したいのは、適度によい頭を持ち、深遠というより機敏な男です。宮廷人らしい物腰を備え、人を引きつける術と命じる術の両方を心得、理解が早く、柔軟で、人好きのする男です。あなたが入っていらしてから、ずっと拝見していました。もし私がグリューネヴァルトの臣民なら、まさにあなたのような方を政権の座に据えてくださるよう、天に祈るでしょう。」

「何と、私のような男を!」公は叫んだ。

レーデラー学士は心から笑った。「驚かれると思いました」と言った。「大衆の考えとは違いますからね。」

「違うことは、私が保証する」とオットーは言った。

「正確には」と学士は区別した。「今日の大衆とは、です。いずれこの考えが優勢になる日が来ます。」

「そこは疑わせていただこう」とオットーは言った。

「謙遜はいつも立派なものです」と理論家はくすくす笑った。「ですが断言しましょう。あなたのような方が、たとえばゴットホルト博士のような人を傍らに置けば、実際のあらゆる面で、私の理想の統治者となります。」

こうしてオットーには、時が楽しく過ぎた。だが残念ながら、学士はその夜、ベックシュタインに泊まることになっていた。乗馬にはひ弱で、半行程ずつ旅をするたちだったのだ。そこでミットヴァルデンまでの道連れを見つけ、自分の考えと二人きりになる苦痛を和らげるため、公は、部屋の遠い隅でかなり賑やかに飲んでいた、帝国各地から来た材木商の一行と親しくならねばならなかった。

馬に乗るころには、すでに夜になっていた。商人たちはたいそう騒がしく陽気で、顔はみな北西の月のように照り、互いの馬にいたずらを仕掛け、歌と合唱を取り混ぜ、同行者のことを思い出したり忘れたりした。こうしてオットーは、人付き合いと孤独を一度に味わい、ときには彼らの無意味なおしゃべりに、ときには周囲の森の声に耳を傾けた。星明かりの闇、ほのかな森の風、蹄鉄の断続的な音楽が調和して、彼の心を整えた。一行がミットヴァルデンを見下ろす長い坂の頂に達したときも、公はまだ、まことに穏やかな気分でいた。

森の鉢の底に、整然とした小さな町の灯が、通りと通りの交差する模様を描いてきらめいていた。右手にはぽつんと離れて、宮殿が工場のように明るく輝いていた。

材木商の一人は、オットーの顔は知らなかったが、この国の生まれだった。「あそこだ」と鞭で宮殿を指して言った。「あれがイゼベルの宿だ」[訳注:イゼベルは旧約聖書の王妃で、邪悪な女の代名詞とされる。]

「何だ、そんな名で呼ぶのか」と別の男が笑って叫んだ。

「ああ、そう呼ばれている」とグリューネヴァルト人は答え、歌いだした。ほかの者も、詞も節もよく知っているらしく、たちまち合唱に加わった。その俗謡の女主人公はグリューネヴァルト公妃アマリア・セラフィナ殿下、男主人公はゴンドレマークだった。恥辱がオットーの耳に、しゅうと音を立てた。公は急に手綱を引き、鞍の上で呆然とした。歌い手たちは彼を残して、坂を下り続けた。

荒々しく、威勢のよい流行り歌だった。言葉が聞き取れなくなってからも長いこと、上がり下がりする調べの揺れが、公の頭の中に侮辱を響かせた。公はその音から逃れた。すぐ右手から宮殿へ向かう道が分かれており、その道をたどって、庭園の濃い影と枝分かれする並木道を進んだ。晴れた夏の午後なら、宮廷の人々と市民が出会って挨拶を交わす賑やかな場所だったが、早春の夜のこの時刻には、ねぐらの鳥だけに明け渡されていた。茂みで野兎がかさかさ鳴り、所々に彫像が永遠の身振りをしてほの白く立ち、模造の神殿の反響が、ときおり牝馬の蹄に幽霊のような音を返した。十分ほどで、自分の私庭の上端に着いた。そこでは小さな厩舎が、橋を隔てて庭園に面していた。庭の時計が十時を打っていた。宮殿の鐘楼の大鐘も、さらに遠い町の鐘楼も同じ時を告げた。厩舎の周囲では、つながれた馬の足踏みと、無口の金具の音のほかは、すべて静かだった。オットーは馬を降りた。そのとき、ふと記憶がよみがえった。不正直な馬丁と、盗まれる飼料の噂。かつて耳にし、長く忘れていた話が、ちょうどよい機会に戻ってきたのだ。橋を渡って窓へ近づき、決まった拍子で六、七度強く叩いた。そして叩きながら微笑んだ。やがて門のくぐり戸が開き、薄い星明かりの中に男の頭が現れた。

「今夜は何もない」と声がした。

「提灯を持って来い」と公は言った。

「お慈悲を!」と馬丁は叫んだ。「誰だ?」

「私だ、公爵だ」とオットーは答えた。「提灯を持って来て、牝馬を入れ、私を庭へ通せ。」

男はしばらく黙ったまま、くぐり戸から頭を突き出していた。

「殿下!」と、ようやく言った。「どうして、あんな変わった叩き方を?」

「ミットヴァルデンには迷信があるのだ」とオットーは答えた。「ああ叩くと飼料が安くなるという。」

馬丁はすすり泣くような声を立てて逃げた。戻って来たときには、提灯の明かりでもわかるほど真っ青で、留め金を外して牝馬を受け取る手も震えていた。

「殿下」と、ようやく口を開いた。「どうか神に免じて……」そして罪の意識に押し潰され、言葉が途切れた。

「神に免じて、何だ?」とオットーは明るく尋ねた。「神に免じて、飼料をもっと安くしてもらおう、というのが私の願いだ。おやすみ!」そして庭へ大股に歩き去り、馬丁をまた石のように立ち尽くさせた。

庭は石の段々庭となって、魚池の高さまで下っていた。向こう岸からは地面がふたたび上がり、その頂を宮殿の入り組んだ屋根と破風が飾っていた。柱の並ぶ新式の正面、舞踏室、大図書室、公の居室――大きな建物の、忙しく明るい区画は、すべて町に向いていた。庭側はずっと古く、ほとんど暗かった。高さの違う幾つかの窓だけが静かに明かりをともしていた。大きな四角い塔は、望遠鏡のように段ごとに細くなってそびえ、そのてっぺんでは旗が動かず垂れていた。

星明かりの薄闇とほのかな輝きに横たわる庭は、四月の菫の香りを息づかせていた。洞窟のような夜のアーチの下で、灌木がぼんやりとうごめいていた。区画の整った段々庭を抜け、大理石の階段を下り、公は不快な考えに追われて急いだ。だが悲しいかな、それから逃げ込める避難の町はない。坂の半ばほどまで来ると、宮廷の人々が踊る舞踏室から、遠い音楽が耳へ届きはじめた。かすかで途切れがちだったが、記憶の鍵盤に触れた。その音を通し、その音の上に、オットーは材木商たちのがなり立てる歌を聞いた。真っ暗なものが心を捉えた。自分は今、家へ帰って来た。妻は踊り、夫は下男に悪戯をしていた。その間にも、周囲の臣民にとって、二人は笑い草なのだ。このオットーは、何という君主、何という夫、何という男になったことか! 公はさらに歩を速めた。

少し下で思いがけず歩哨に出会い、さらに進むと二人目に誰何された。魚池の橋を渡るときには、見回りの士官にまた呼び止められた。警戒はいつもより大げさだったが、オットーの心では好奇心も死んでおり、邪魔されることに苛立つだけだった。裏の小門の門番が中へ入れ、公の乱れた姿に驚いた。そこから私用の階段と廊下を急ぎ、ついに誰にも見られず自室へ着くと、服をむしり脱ぎ、暗闇の寝台へ身を投げた。舞踏室の音楽は、なおもたいそう陽気な拍子で続いていた。そしてその背後には、商人たちの合唱が、蹄を鳴らして坂を下るのを、まだ心の耳で聞いていた。

第二部――愛と政治について

第一章――図書室で起こったこと

翌朝六時十五分前には、ゴットホルト博士はすでに図書室の机に向かっていた。肘のそばに小さなブラックコーヒーのカップを置き、ときおり胸像や色とりどりの書物の長い列へ目をやりながら、前日の仕事を静かに読み返していた。四十歳ほどの男で、亜麻色の髪をし、少しくたびれた端正な顔立ちに、いくらか光の薄れた明るい目を持っていた。早寝早起きで、暮らしを二つのものに捧げていた。学問とライン産の葡萄酒である。オットーとの間には、古い友情が潜んでいた。めったに会わなかったが、会えばすぐに、中断されていた親しさの糸を拾うことができた。学問に仕える独身の司祭ゴットホルトは、従弟が結婚したとき、半日だけうらやんだことがある。玉座をうらやんだことは、一度もなかった。

グリューネヴァルトの宮廷では、読書は流行りの娯楽ではなかった。そのため、この書物と彫像を並べた、日当たりのよい広々とした気持ちのよい回廊は、実際にはゴットホルトの私室だった。だがこの水曜の朝に限っては、原稿に向かって間もなく、扉が開き、公が入って来た。博士は近づく姿を見守った。張り出し窓を一つずつ通るたびに、朝日がぱっと公を照らした。オットーはあまりに晴れやかで、足取りも軽く、服装も髪もあまりに行き届き、巻き毛も整い、隅々まで非の打ちどころがなく、君主そのものの優美さにあふれていたので、隠者である従兄の心は、むしろ反感へ傾いた。

「おはよう、ゴットホルト」とオットーは椅子に身を落として言った。

「おはよう、オットー」と蔵書係は答えた。「早起きだね。たまたまか、それとも改心の始まりかい。」

「そろそろ、その時だろうと思ってね」と公は答えた。

「私には何とも言えない」と博士は言った。「倫理の助言者になるには、私は懐疑的すぎる。よい決心というものも、若いころは信じたよ。あれは希望の虹の色だ。」

「考えてみれば」とオットーは言った。「私は人気のある君主ではない」そして眼差しで、その断言を問いに変えた。

「人気か。そこは区別したいね」とゴットホルトは背にもたれ、指先を合わせた。「人気にもいろいろある。書物の世界の人気は、まったく非人格的で、悪夢ほどに実体がない。政治家の人気は混合型だ。そして君の人気は、何よりも個人的なものだ。女は君を好く。従僕は君を崇拝する。君を好きになるのは、犬を撫でるのと同じくらい自然だ。君が製材業者なら、グリューネヴァルトで一番人気のある市民になるだろう。君主としては――まあ、商売違いだ。君自身がそれを認めているのは、哲学的といえるかもしれない。」

「哲学的かもしれない?」とオットーは繰り返した。

「そう、かもしれない。断定はしないよ」とゴットホルトは答えた。

「哲学的かもしれないが、徳のあることでは決してない」とオットーは続けた。

「ローマ人の徳ではないね」と隠者はくすくす笑った。

オットーは椅子を机へ寄せ、肘をついて、従兄の顔をまっすぐ見た。「要するに」と尋ねた。「男らしくない?」

「まあ」とゴットホルトはためらった。「そう言いたければ、男らしくないね」それから笑って付け加えた。「君が男らしさを売り物にしているとは知らなかった。それは君の中で、私が好きになりかけていた点の一つだ。いや、感心しかけていたと言ってもいい。徳の名前には、たいていの人を魅する力がある。どれほど両立しなくても、みな自分のものだと主張せずにはいられない。誰もが大胆であり、慎重でもあらねばならない。誇りを自慢し、謙遜のためなら火刑台にも立つ。だが君は違った。妥協せず、自分自身でいた。見ていて気持ちがよかった。私はいつも言っていたよ。オットーほど気取りのない男はいないと。」

「気取りもなければ、努力もない!」とオットーは叫んだ。「運河に浮かぶ犬の死骸のほうが、まだ生きている。ゴットホルト、私が向き合わねばならない問題はこうだ。努力と克己によって、何とか我慢のなる君主になれないだろうか。」

「絶対になれない」とゴットホルトは答えた。「そんな考えは捨てたまえ。それに、君はやってみようともしないよ。」

「いや、ゴットホルト、あしらわれるつもりはない」とオットーは言った。「生まれつき君主に向かないなら、私は何のためにこの金、この宮殿、この衛兵を持っているのだ。泥棒の私が、他人には法を執行するのか?」

「厄介な問題なのは認める」とゴットホルトは言った。

「では、試してはいけないのか」とオットーは続けた。「試す義務があるのではないか。君のような人間の助言と力添えがあれば――」

「私だって!」蔵書係は叫んだ。「神よ、ご勘弁を!」

オットーは笑える気分ではなかったが、それでも笑わずにはいられなかった。「だが昨夜、言われたのだ」と笑った。「私のような男が表に立ち、君のような男が仕掛けを動かせば、かなり立派な政府ができるとね。」

「いったい、どんな病んだ想像力の中で」とゴットホルトは言った。「そんな途方もない怪物が生まれたのだろう。」

「君と同業の著述家だ。レーデラーとかいう」とオットーは言った。

「レーデラー! あの無知な青二才か!」と蔵書係は叫んだ。

「恩知らずだね」とオットーは言った。「君の崇拝者を公言しているのに。」

「そうなのか?」とゴットホルトは叫んだ。明らかに心を動かされていた。「それはあの若者にとって、よい話だ。もう一度、あの男の書いたものを読まねばならん。私たちの考えは正反対だから、なおさら褒めていい。東と西ほど違うのだ。私が改宗させたのか? いや、そんなことはあるまい。おとぎの国の出来事だ。」

「すると君は」と公は尋ねた。「権威主義者ではないのか。」

「私が? とんでもない!」とゴットホルトは言った。「私は赤だよ、君。」

「ならば自然な流れで、次の問題へ移れる」と公は言った。「私がこれほど明らかに職に不向きなら、友人もそれを認め、臣民が私の失脚を叫び、この瞬間にも革命の準備が進んでいるなら、避けられぬものを自ら迎えに出るべきではないか。恐ろしいことを未然に防ぎ、この馬鹿げた仕組みに終止符を打つべきではないか。つまり、退位すべきではないか。ああ、その言葉のおかしさ、大げささは、私にもよくわかる」と、顔をしかめて付け加えた。「だが私のような小君主でさえ、ただ辞めることはできない。大見得を切り、悲劇役者の厚底靴を履いて出て来て、『退位』しなければならないのだ。」

「そうだ」とゴットホルトは言った。「でなければ、そのままでいるかだ。今日は何に刺されたんだい。君が素人の手で触れようとしているのは、哲学の最も神聖な奥の奥で、そこには狂気が住むと知らないのか。そう、オットー、狂気だ。賢者たちの静かな神殿でも、私たちが念入りに鍵を掛ける一番奥の祠には、蜘蛛の巣がいっぱいなのだ。人間はみな、根本的に無用だ。自然は人間を容認するが、必要とはせず、利用もしない。実のならぬ花だ! みなそうだ。愚か者が例外として指さす、牛小屋で汗水垂らす男に至るまで、みな無用だ。砂で縄をなうか、窓へ息を吹きかけた子供のように、無意味な言葉を書いては消し、書いては消す。もう話すな。その先にあるのは狂気だと言っているのだ」話し手は椅子から立ち、また腰を下ろした。小さく笑い、それから調子を変えて続けた。「そうだ、君、私たちは巨人と戦うためにここにいるのではない。できることなら花のように幸せでいるためにいる。君にはそれができたから、私はひそかに、ずっと感心していた。その商売から離れないことだ。それが正しい道だと信じたまえ。幸せで、暇で、軽やかにいろ。道徳の理屈など地獄へやってしまえ! 国はこれまでどおり、ゴンドレマークに任せておけ。まずまずうまくやっているそうだし、あの男の虚栄心も、その立場を楽しんでいる。」

「ゴットホルト」とオットーは叫んだ。「それが私に何の役に立つ。無用かどうかが問題ではない。私は無用では済まされない。有用か、有害か、そのどちらかにならざるを得ないのだ。君主も公国も、何もかも馬鹿げたもの、風刺の一筆にすぎないとは認めよう。銀行家や宿屋の主人のほうが、もっと重大な務めを持つことも。だが私は三年間、手を洗って離れ、労苦も責任も、栄誉や楽しみがあるならそれも、すべてゴンドレマークと――セラフィナに任せてきた――」名を口にするとき、彼はためらった。ゴットホルトは横を向いた。「それで」と公は続けた。「何が起こった? 税金、軍隊、大砲。まるで鉛の兵隊の箱だ! 国民はその愚かさにうんざりし、不公正に怒りを燃やしている。戦争まで。戦争になると聞いた。この茶壺の中で戦争だ! 何という愚劣と恥辱の絡み合いだ。そして避けられぬ結末、革命が来たとき、神の目に責任を問われ、世論の絞首台に吊されるのは誰だ。私だ! 操り人形の公爵だ!」

「世論など軽蔑していたのではなかったか」とゴットホルトは言った。

「していた」とオットーは陰鬱に答えた。「だが今は違う。年を取ってきたのだ。それに、ゴットホルト、セラフィナがいる。私が連れて来て、彼女に壊させたこの国で、彼女は憎まれている。そうだ、私は玩具として国を与え、彼女はそれを壊した。立派な公爵、見事な公妃だ! 命でさえ――聞かせてくれ、ゴットホルト、彼女の命は安全なのか?」

「今日は十分安全だ」と蔵書係は答えた。「だが真剣に聞くのなら、明日の保証はできない。悪い助言に従っている。」

「誰の助言だ? 君が私に国を任せろと勧める、このゴンドレマークではないか」と公は叫んだ。「たいした助言だ! 何年もその道をたどって、ついにここへ来たのだ。ああ、悪い助言か。それだけなら! 男二人の間で、回りくどく話しても仕方がない。彼女の噂を、君も知っているだろう?」

ゴットホルトは唇をすぼめ、黙ってうなずいた。

「さあ、君主としての私の振る舞いについては、君の言うことは少しも明るくない。では、夫としての務めだけでも、私は果たしたのか」とオットーは尋ねた。

「いやいや」とゴットホルトは真剣に、急いで言った。「それは別の章だ。私は年を取った独身者、老いた修道士だ。結婚については助言できない。」

「助言など求めていない」とオットーは立ち上がった。「すべて終わらせねばならない」そして背中で手を組み、行ったり来たりしはじめた。

「オットー、神が君を導いてくださるように」と、かなりの沈黙のあとでゴットホルトは言った。「私にはできない。」

「すべては何から始まったのだろう」と公は足を止めた。「何と呼べばいい。自信のなさか。笑われる恐れか。裏返しの虚栄心か。ここまで来てしまったなら、名前など何でもいい。私は昔から、つまらぬことに大騒ぎするのが耐えられなかった。この玩具の王国が、最初から恥ずかしかった。これほど明らかに馬鹿げたものを、自分が信じていると思われるのが我慢ならなかった。微笑んでできないことは、何一つしたくなかった。私にはユーモアの感覚があるというわけだ! 造り主より、自分のほうが物を知っていなければ気が済まなかった。結婚でも同じだった」と、声をさらにかすれさせて付け加えた。「この娘が私を愛するとは信じられなかった。押しつけがましくしてはならない。気取った無関心を保たねばならない。何という無力な姿だ!」

「ああ、私たちは同じ血を引いている」とゴットホルトは感慨深げに言った。「君は、生まれながらの懐疑家を、細やかな筆で描いている。」

「懐疑家? 臆病者だ!」とオットーは叫んだ。「臆病者、それが正しい言葉だ。張りもなく、心は練り物のようにぐにゃぐにゃで、縮こまった臆病者だ!」

公がいつになく激しい声で言葉を叩きつけたちょうどそのとき、ゴットホルトの後ろの扉を開けた、小柄で太った老紳士が、それをまともに顔へ浴びた。鸚鵡のくちばしのような鼻、すぼめた口、小さくぎょろつく目をした、儀礼そのもののような人物だった。ふだんは太鼓のような腹を先に立てて気取って歩き、凍りついたような威厳と知恵の印象を人に与えた。だが、少しでも思いどおりにならないと、震える手とちぐはぐな身振りが、根にある弱さを暴いた。そして今、いつもは静けさの住処であるミットヴァルデン宮殿の図書室で、これほど意外な出迎えを受けると、撃たれたように両手を上げ、老婆のような悲鳴を上げた。

「ああ!」と息を詰まらせ、気を取り直した。「殿下! 幾重にもお詫び申し上げます。しかし、このような時刻に殿下が図書室へ! 殿下のご臨席という、これほど異例の事態は、予測いたしかねるものでございまして。」

「何も差し障りはない、首相殿」とオットーは言った。

「ほんの一用でまいりました。昨夜、博士にお預けした書類がございまして」とグリューネヴァルトの首相は言った。「博士、お渡しいただければ、これ以上お邪魔はいたしません。」

ゴットホルトは引き出しの鍵を開け、原稿の束を老紳士へ渡した。老人はふさわしい挨拶をして、立ち去ろうとした。

「グライゼンゲサング殿、せっかく会ったのだ」とオットーは言った。「話をしよう。」

「殿下のご下命、光栄に存じます」と首相は答えた。

「私が留守の間は、変わりなかったか」と公は、また椅子に座りながら尋ねた。

「通常の政務でございます、殿下」とグライゼンゲサングは答えた。「定時に片づける些事でして。放置すれば確かに重大になりますが、済ませれば些事にございます。殿下には、一同この上なく熱心に服従しております。」

「服従だと、首相殿?」と公は返した。「私がいつ命令を出したのかね。代わりを務めている、と言おうではないか。では、その些事について、二、三例を挙げてくれ。」

「殿下が賢明にもご余暇から切り離しておられる、日常の政務でございまして……」とグライゼンゲサングは言いはじめた。

「私の余暇はよろしい」とオットーは言った。「事実へ進みたまえ。」

「日常の政務が進められました」と役人は答えた。今や目に見えておろおろしていた。

「グライゼンゲサング殿、そう執拗に私の問いを避けるとは、まことに奇妙だ」と公は言った。「その鈍さには意図があるのではないかと思いたくなる。変わりなかったかと聞いたのだ。答えてもらいたい。」

「まったく――ええ、まったく平穏でございました」と古い人形はぴくぴくしながら答え、嘘の徴をことごとく示した。

「その言葉は覚えておこう」と公は重々しく言った。「私が出発した日以来、報告すべきことは何も起こらなかったと、主君たる私に保証するのだな。」

「殿下、博士、お二方に証人になっていただきたい」とグライゼンゲサングは叫んだ。「私はそのような言い方はいたしておりません。」

「やめよ」と公は言い、しばらく置いて付け加えた。「グライゼンゲサング殿、あなたは老人で、私の前には父に仕えてくれた。言い訳を並べ、あやまって虚言に踏み込むようなことは、あなたの威厳にも私の威厳にもふさわしくない。考えをまとめたまえ。それから、隠せと命じられていることを、一つずつすべて知らせてもらおう。」

ゴットホルトは机へ深くかがみ、仕事へ戻ったように見えたが、肩は地下に潜んだ笑いに揺れていた。公は静かに指の間へハンカチを通しながら待った。

「殿下、このような非公式の場で」と老人はようやく言った。「しかも、やむを得ず文書を欠いておりますので、起こりました多少重大な出来事を、十全にお伝えすることは困難で、いえ、不可能でございます。」

「あなたの態度を批評するつもりはない」と公は答えた。「私たちの間では、すべて穏やかに運びたい。古い友よ、あなたが最初から私に親切で、長年忠実に仕えてくれたことは忘れていない。だから、ただちに調べられるのを避けたいという件は、ひとまず置こう。だが今、その手に書類を持っているではないか。さあ、グライゼンゲサング殿、少なくとも一件は、裏づけがある。その件を説明したまえ。」

「この件ですか?」と老人は叫んだ。「ああ、これは些事です。警察上の問題でして、殿下、純然たる行政上の細目にすぎません。イングランドの旅行者から押収した書類の、一部でございます。」

「押収?」とオットーは繰り返した。「どういう意味だ。説明したまえ。」

「サー・ジョン・クラブツリーは」とゴットホルトが顔を上げて口を挟んだ。「昨日の夕方、逮捕されたのだ。」

「本当か、首相殿」とオットーは厳しく問いただした。

「適切と判断されたのでございます、殿下」とグライゼンゲサングは弁じた。「命令書は正規の形式で、代理によって殿下の権威を付与されておりました。私は一介の執行者にすぎず、その処置を阻止する権限はございませんでした。」

「私の客が逮捕された」と公は言った。「何の根拠で。どんな口実で。」

首相は口ごもった。

「理由はこの文書にあるかもしれない」とゴットホルトは、ペンの軸で指し示した。

オットーは目で従兄に礼を言った。「渡したまえ」と首相へ命じた。

だが老人は、明らかに従うのをためらった。「ゴンドレマーク男爵が」と言った。「この件を直接お取り扱いになっております。私はこの場合、単なる使いであり、その立場では、携行する文書をお見せする権限を与えられておりません。博士、きっとお認めいただけるものと存じます。」

「馬鹿げた話はずいぶん聞いてきたし、大半はあなたの口からだった」とゴットホルトは言った。「だが今のは、すべてにまさる。」

「さあ、書類を」とオットーは立ち上がった。「命令だ。」

グライゼンゲサング殿は、たちまち折れた。

「殿下のお許しを得まして」と言った。「最も恭順なお詫びを御前に捧げ、私は役所へ急ぎ戻り、次なるご下命をお待ちいたします。」

「首相殿、この椅子が見えるか」とオットーは言った。「次の命令は、ここで待つのだ。いや、もうよい!」老人が口を開くと、手で制して叫んだ。「雇い主への忠勤は十分に示した。私も、つけ込まれる寛容には飽きてきた。」

首相は指定された椅子へ移り、黙って座った。

「さて」とオットーは巻かれた原稿を開きながら言った。「これは何だ。本の原稿に見えるが。」

「そのとおり」とゴットホルトは言った。「旅行記の原稿だ。」

「読んだのか、ホーエンシュトックヴィッツ博士」と公は尋ねた。

「いや、表題紙を見ただけだ」とゴットホルトは答えた。「ただ、封はされずに渡されたし、秘密だとも一言も聞かなかった。」

オットーは首相へ怒りの目を向けた。

「なるほど」と続けた。「世界の歴史がここまで来た時代に、グリューネヴァルトのように小さく無知な国で、著者の原稿を押収するとは。まことに恥ずべき愚行だ。首相殿」と首相に向けた。「あなたがこれほど卑しい仕事に携わるとは驚いた。君主への態度は問わない。だが密偵にまで身を落とすとは! ほかに何と呼べるのだ。この紳士の書類、よその国の人の私的な書類、ひょっとすれば一生の労作を押収して、開いて読む。われわれに書物が何の関係がある。博士に意見を求めることはあろうが、グリューネヴァルトに禁書目録はない。それまであったら、この見かけ倒しの地球で、これ以上ない茶番と戯画になるところだ。」

だがオットーは話しながらも、原稿を開く手を止めなかった。そして全部が広がった今、赤インクで入念に書かれた表題紙に目が留まった。こうあった。

訪問記
各地の
ヨーロッパ諸宮廷
著
准男爵サー・ジョン・クラブツリー

その下には章の一覧があり、それぞれヨーロッパの宮廷の名を掲げていた。その第十九章、一覧の最後の章が、グリューネヴァルトに充てられていた。

「ああ、グリューネヴァルトの宮廷か」とオットーは言った。「面白い読み物だろうな」好奇心がむずむずした。

「几帳面な男だ、このイングランドの准男爵は」とゴットホルトは言った。「各章をその場で書き上げている。出版されたら探してみよう。」

「ちょっと目を通すだけでも、面白そうだ」とオットーは迷いながら言った。

ゴットホルトは眉を曇らせ、窓の外を見た。

公はその無言の叱責を理解したが、弱さが勝った。「そうしよう」と、落ち着かない笑いを漏らした。「少しだけ、目を通すことにしよう。」

そう言って椅子へ戻り、旅行者の原稿を机に広げた。

第二章――「グリューネヴァルトの宮廷について」――旅行者の原稿の一節

同じように小さく、儀礼的で、退屈で、腐敗した国々がほかにも多くあるのに、なぜ私がグリューネヴァルトを選んだのかと、問われても不思議はない(イングランドの旅行者は、このように第十九章を書き起こしていた)。実際、決めたのは偶然であって私ではない。だが訪問を後悔する理由は見当たらない。この小さな社会が自らの弊害に漬かってふやける光景は、教訓には乏しかったかもしれないが、私にはこの上なく愉快だった。

現君主オットー・ヨハン・フリードリヒ公は、教育は不完全、勇気は疑わしく、能力は一片もない若者で、世間の軽蔑をすっかり買っている。会見の機会を得るのは難しかった。公はしばしば宮廷を留守にするからである。そこでは、その存在は気にも留められず、役目といえば妻の情事の隠れ蓑になることだけだ。だがついに、三度目に宮殿を訪れた際、一方に妻、もう一方に情夫を置き、この君主が不名誉な職務を遂行しているところに出会えた。容貌は悪くない。赤みを帯びた金髪は自然に巻き、目は暗い色をしている。私はこの組み合わせをいつも、肉体か精神に何らかの先天的欠陥がある徴と見ている。顔立ちは不揃いだが愛嬌があり、鼻はいくぶん短く、口は少し女めいている。物腰は申し分なく、話す言葉にも切れがある。だがこの外見の下へ踏み込めば、確かな資質は何一つなく、道徳的本性は溶け崩れ、目的は軽薄で一貫しない。退廃の時代が生んだ、ほぼ完熟の果実の徴である。多くの事柄を役にも立たぬ程度にかじり、何一つ会得していない。「何をやっても、すぐ飽きるのです」と、私に笑って言った。その無能力と、精神的勇気の欠如を、ほとんど誇っているようにさえ見える。物好きの手すさびの成果は、あらゆる分野に見られる。剣術は下手で、乗馬も踊りも射撃も二流。歌も歌う――私は聞いた――が、子供のような歌い方だ。怪しげどころではないフランス語で、耐えがたい詩を書く。芝居はありふれた素人芸。要するに、手を出しては下手にやる事柄の数には、きりがない。唯一男らしい趣味は狩りである。総じていえば、弱点の寄せ集めにすぎない。舞台で歌う小間使いに男装をさせ、サーカスの馬へ乗せたようなものだ。この哀れな君主の幻が、一人で、あるいは数人の猟師と馬に乗って出かけ、誰からも顧みられないのを私は見た。そして、これほど空しく悲しい存在を背負う者を、気の毒にさえ思った。メロヴィング朝末期の王たちも、こうした姿ではなかったか。

アマリア・セラフィナ公妃は、トッゲンブルク=タンホイザー大公家の娘である。野心家の手中で刃物の役を果たしていなければ、公と同じく取るに足らぬ存在だろう。公よりずっと若い二十二歳の娘で、虚栄心を病み、表面だけは賢く、根本は愚かである。赤褐色の目は落ち着きなく動き、顔には大きすぎ、その中に軽薄さと凶暴さの火花が光る。額は高く狭く、体は痩せて少し前かがみだ。物腰も、フランス語を散らす会話も、趣味や野心さえも、すべて借り物であり、それが不格好なほど見え透いている。クレオパトラを演じる跳ねっ返りだ。真実を語ることのできぬ女と、私は判断する。私人ならば、こうした娘は家庭の平和を乱し、しかめ面の求婚者の群れを引き連れて歩き、少なくとも一度は離婚法廷を通る。よくある型で、冷笑家でなければ面白くもない。だが玉座にあって、ゴンドレマークのような男の手中にあれば、公の災厄を大きく生み出す者にもなり得る。

この不幸な国の真の支配者ゴンドレマークは、さらに複雑な研究対象である。外国人である彼のグリューネヴァルトでの立場は、きわめて不自然だ。それを現に保っているのは、厚顔と手腕の奇跡というほかない。言葉も顔も政策も、すべて二重で、表と裏がある。相反する二つの極端のどちらが真の目的か、決めつけられる者は大胆な男だろう。それでも私はあえて推測する。彼は試みに両方を追い、運命が賢者に惜しみなく与える、進むべき道の手がかりを待っているのだ。

一方では、無能なオットーの宮宰[訳注:原語はフランス語のメートル・デュ・パレ。メロヴィング朝では宮宰が実権を握った]として、恋にのぼせた公妃を道具と代弁者に使い、専制と領土拡張の政策を進めている。国内の兵役可能な男をすべて召集し、大砲を買い、外国軍の有望な将校を引き抜き、今では国際関係においても、ならず者のような威張った態度と、漠然とした威嚇の言葉を使いはじめている。グリューネヴァルトを拡張する考えは馬鹿げて見えるかもしれないが、この小国は地理的に有利で、近隣国はみな無防備だ。大国の宮廷の相互嫉妬がある瞬間に互いを打ち消せば、積極策によって、公国の人口も領土も倍にできるかもしれない。少なくともミットヴァルデンの宮廷で、この計画が温められていることは確かである。私自身も、まったく見込みがないとは思わない。ブランデンブルク辺境伯領も、同じほど小さな始まりから恐るべき大国へ成長した。冒険的な政策を試すには時代が遅く、戦争の時代は終わったように見えるとはいえ、運命はいまも人と国のために、盲目のまま車輪を回していることを忘れてはならない。こうした戦争準備と並行し、その資金を賄うために、押し潰すような税が課され、新聞は弾圧された。三年前には豊かで幸福だった国は、今や強いられた無活動の中に停滞し、金貨は珍品となり、山の渓流に沿う水車は止まっている。

他方、民衆の護民官という第二の顔において、ゴンドレマークは自由なロッジの化身であり、国家に対する組織的な陰謀の中心に座している。こうした運動には、私は早くから共感してきた。革命を妨げたり遅らせたりする言葉は、進んで漏らしたくない。だが、単なる噂の受け売りではなく、知識に基づいて述べている証として、私自身、共和制憲法の細目が綿密に議論され、定められた集会に出席したことを記しておこう。さらに、そこでは発言者たちが終始ゴンドレマークを、行動の指揮者、争いの裁定者として語っていたことも付け加えられる。彼は、自分が欺いている者たち――私はそう見ざるを得ない――に、公妃に抵抗できる力には限りがあると思い込ませ、権力が新たに拡張されるたび、もっともらしい理屈で蜂起の時を延期させている。たとえば、その巧妙な外交術の一例を挙げると、兵役を強制する布告についても、武器を扱う訓練を十分に受けることは、反乱に必要な準備ですらあると言いくるめ、なだめてしまった。また先日、望まぬ隣国ゲロールシュタインの大公に戦争を押しつけようとしているという噂が広まりはじめたとき、私はこれこそ即座の蜂起の合図になると確信した。ところが、これまでもが周到に準備され、受け入れられることになっていると知り、驚きのあまり言葉を失った。自由派の陣営で次々に人を訪ねたが、誰も同じ話をし、誰もが仕込まれ、教え込まれ、空疎な論拠を持たされていた。「若者には本物の戦闘を経験させたほうがいい」と彼らは言った。「それに、ゲロールシュタインを奪っておくのもよい。われわれが自由をつかむその日に、隣人にもその恩恵を広げられる。ヨーロッパの王たちが共和国を潰そうと手を結んでも、それだけ強く抵抗できるのだから」大衆の単純さと、山師の大胆さと、どちらにより感心すべきか、私にはわからない。だが、こうした詭弁、こうしたこじつけによって、彼は国民の目をくらませ、引き回しているのである。これほど曲がりくねった道を、いつまで無事に歩けるのか、私には見当もつかない。長くはないと思うのが自然だろう。だが、この特異な男は五年も迷路を歩き続け、宮廷の寵愛もロッジの人気も、いまだ損なわれずに保っている。

私は彼を多少知る機会に恵まれた。体は重々しく、いくらか不器用にできていて、骨組みは巨大で、ばらばらに間延びしている。それでも身を引き締めれば、客間や舞踏室で、感嘆を受けぬでもない姿を見せられる。顔色にも気質にも胆汁質がたっぷり現れ、目は陰鬱で、剃った頬は暗い青をしている。根本的には人間嫌いの一人、同胞を確信をもって軽蔑する男に数えられる。だが自分自身の野心は平凡で、喝采に飢えている。会話では、情報への渇望、自ら語るより聞くことを好む点、堅実でよく考えた見解、そして、普通の政治家の極端な近視眼ぶりに照らせば、驚くほど先の出来事を見通す点が目立つ。ただしそのすべては、優雅さも愛嬌も魅力もなく、鈍い顔つきで重々しく語られる。幾度も話した際、彼は常に敬意をもって耳を傾けたが、私は終始、重苦しい駆け引きのようなものを感じ、耐えがたかった。紳士らしい印象はまるで与えない。愛想ばかりでなく、相手への気遣いも、心を通わせる温かな態度も欠いている。そのうえ紳士ならば、公妃との情事をこれほど見せびらかすことはあるまい。まして、公の長い忍耐に対し、意図的な傲慢さで報い、「軽薄公」などという侮辱的な渾名を作って口から口へ広め、国中を笑わせることなどないはずだ。こうしてゴンドレマークは、成り上がり者に見られる不器用な特徴を幾つか持つと同時に、知性と血筋について、度外れで、ほとんど盲目的な誇りを抱いている。重く、陰気で、利己的で、飾りけのない彼は、この宮廷と国の上に、悪夢の魔物のようにのしかかっている。

だが、もっと柔らかな才は、必要なときのために取ってあるのだろう。実際、私には少しも見せなかったものの、この冷たく鈍重な政治家が、人に取り入る術を高度に心得、相手に応じていかようにも振る舞えることは確かである。私生活では下品にはしゃぐ好色漢だという、根も葉もない伝説も、おそらくそこから生じたのだろう。少なくとも、公妃との関係のあり方ほど驚くべきものはない。夫より年上で、確実に醜く、女性にありがちな弱々しい好みからすれば、どの点でも劣る男なのに、彼は彼女の思考と行動を完全に支配したばかりか、公の場で屈辱的な役まで押しつけている。ここでいうのは、評判の最後の一片までも犠牲にしたことではない。多くの女にとって、そうした極端さはそれ自体魅力なのだから。だが宮廷には、ローゼン伯爵夫人という、身持ちの評判の乱れた女がいる。正体のはっきりしない伯爵の妻か未亡人で、もはや二度目の青春も過ぎ、魅力もいくらか失っているが、明らかに男爵の愛人の位置を占めている。私は当初、もっと重要な罪人のために雇われた共犯者、単なる目くらましや緩衝役かと思った。だがローゼン夫人と数時間つきあうと、その思い込みは永久に消えた。醜聞を防ぐより、起こすほうの女であり、その役目に箔をつける金も名誉も役職も、少しも重んじない。実際、あけすけに悪い女として、彼女はこのグリューネヴァルトの宮廷で、ひとかけらの自然のように、私の気に入った。

したがって、この男の公妃に対する力は、際限がない。彼女は彼への崇拝のために、結婚の誓いと、世間体の最後の切れ端ばかりか、女性には内なる名誉や外からの敬意よりもはるかに大切な、嫉妬という悪徳まで犠牲にしている。それどころか、たいして魅力的ではないにせよ若い女であり、生まれからも現実にも公妃である身で、年齢なら母親でもおかしくなく、身分は明らかに下の女が、恋敵として勝ち誇るのを受け入れている。これも人の心の謎の一つだ。だが禁じられた恋の激情は、ひとたび満たされると、食らうほどに育つらしい。この不幸な若い女性の性格と気質なら、ほとんどどれほど深い堕落も、不可能ではない。

第三章――公とイングランドの旅行者

ここまで読み進めるにつれて、オットーの憤りは募り、ついに怒りがあふれた。原稿を机へ投げ出し、立ち上がった。「この男は」と言った。「悪魔だ。汚れた想像力、悪意をむさぼる耳、考えと言葉の重々しい邪悪さ。読んでいると私まで似てくる! 首相、この男はどこへ入れてある?」

「旗の塔へ収容いたしました」とグライゼンゲサングは答えた。「ガミアニの間でございます。」

「案内せよ」と公は言った。それから思いついて尋ねた。「庭にあれほど歩哨がいたのは、そのためか?」

「殿下、存じません」とグライゼンゲサングは、方針を守って答えた。「衛兵の配置は、私の職掌とは別の事柄でございます。」

オットーは激しく老人へ向き直ったが、口を開く前にゴットホルトが腕へ触れた。公は大きな努力で怒りを呑み込んだ。「よろしい」と原稿を取って言った。「旗の塔までついて来い。」

首相は身支度を整え、二人は歩きだした。それは長く複雑な道のりだった。図書室は新館の翼棟にあり、旗の塔は庭に面した古い城館の中にあったからだ。さまざまな階段と廊下をたどり、ようやく砂利敷きの中庭の一角へ出た。高い格子の向こうには、庭の緑がぱっとのぞいていた。四方には古い破風の高い建物が立ち、旗の塔は段を重ねて青空へ昇っていた。すべてを見下ろす高みでは、巣づくりをする小鴉の間に、黄色い旗が風に揺れていた。塔の階段の下で歩哨が捧げ銃をし、最初の踊り場では別の歩哨が歩き、その上では三人目が臨時の牢の扉の前に立っていた。

「この泥袋を、宝石のように守っているのか」とオットーは嘲った。

ガミアニの間という名は、昔の公爵をだましたイタリア人医師に由来していた。部屋は広く、風通しもよく、快適で、庭を見下ろしていた。だが塔が古いため壁はひどく厚く、窓には頑丈な鉄格子がはまっていた。公は、小走りで追いすがる首相を従え、小さな書斎と長い客間をさっと通り抜けると、奥の寝室へ雷のように飛び込んだ。サー・ジョンは身支度を終えかけていた。五十歳ほどで、厳しく、妥協を許さず、有能な男で、目と歯に肉体的な勇気が表れていた。突然の闖入にも動じず、いくらか嘲るような余裕をもって頭を下げた。

「このご訪問の栄誉は、何ゆえと心得ればよろしいでしょうか」と尋ねた。

「あなたは私のパンを食べた」とオットーは答えた。「私の手を取り、私の屋根の下へ迎えられた。私がいつ礼を欠いた? 尊敬すべき客として、求められたものを拒んだことがあったか? それなのに、これが」と原稿を激しく叩いた。「これが、その返礼か。」

「殿下は私の原稿をお読みになったのですか」と准男爵は言った。「それはまことに光栄です。ただ、あの素描はまだ不完全です。これから加えることが大分できました。怠惰だと書いた公爵は、警察の仕事には熱心で、最も不快な任務を自ら引き受ける、と言えます。私の逮捕という喜劇的事件と、今こうして栄誉を賜っている奇妙な会見も記せます。なお、ウィーンのわが国の大使にはすでに連絡しました。私を殺すおつもりでなければ、お気に召そうと召すまいと、一週間以内には自由になるでしょう。将来のグリューネヴァルト帝国も、まだイングランドと戦争するほど熟してはいまいと思いますので。これで貸し借りは、こちらが少し勝っていると思います。私に説明の義務はありません。非はあなたにあります。私の文章を理解して読まれたなら、むしろ大いに感謝していただくべきです。そして最後に、私はまだ身支度を終えておりませんので、看守が囚人に示す程度の礼儀があれば、お引き取りいただけるかと存じます。」

机には紙があった。オットーは腰を下ろし、サー・ジョン・クラブツリーの名で通行証を書いた。

「印章を押せ、首相殿」と、立ち上がりながら、最も君主らしい態度で命じた。

グライゼンゲサングは赤い書類入れを取り出し、詩情のかけらもない糊つきの印紙で認証した。取り乱した不器用な動きは、この仕草の滑稽さを少しも減らさなかった。サー・ジョンは意地の悪い楽しみをもって眺め、オットーは苛立った。命令にも身振りにも、余計に王侯ぶったことを、遅まきながら悔いた。だがようやく首相は手品を終え、命令を待たずに通行証へ副署した。こうして正式なものにすると、一礼してオットーに返した。

「これから」と公は言った。「私の馬車を一台用意させ、サー・ジョンの荷物が積まれるのを自分の目で確かめ、一時間以内にフェザント・ハウスの裏へ待たせよ。サー・ジョンは今朝、ウィーンへ発つ。」

首相は手の込んだ挨拶をして退いた。

「これが通行証だ」とオットーは准男爵へ向き直った。「客にあるまじき扱いを受けたことは、心から残念に思う。」

「では、イングランドとの戦争はありませんな」とサー・ジョンは返した。

「いや、あなたも私には礼を尽くすべきだろう」とオットーは言った。「事情は変わった。私たちはふたたび二人の紳士として向かい合っている。逮捕を命じたのは私ではない。昨夜遅く狩りから戻ったのだ。投獄を私のせいにはできない以上、釈放には礼を言ってもよいはずだ。」

「それでも私の原稿を読みましたな」と旅行者は抜け目なく言った。

「その点は、私が悪かった」とオットーは答えた。「そのことは謝罪する。弱点の寄せ集めにすぎぬ者の謝罪を、ご自分の品位のためにも拒めまい。それに、悪かったのは私だけではない。原稿に罪がなければ、せいぜい軽率な行為で済んだ。私の過ちを刺すものにしているのは、あなた自身の罪だ。」

サー・ジョンは、認めるような光を目に浮かべてオットーを見た。それから頭を下げたが、まだ黙っていた。

「さて、今はすっかり自由の身なのだから、寛大なお計らいを一つお願いしたい」と公は続けた。「ご都合がつき次第、私と二人だけで庭へ歩いていただきたい。」

「自由の身となった以上」とサー・ジョンは答えた。今度は完全な礼儀を備えていた。「私はまったく殿下の仰せのままです。少々簡略な身支度をお許しいただけるなら、このままでもお供します。」

「感謝する」とオットーは言った。

それ以上待たず、公を先頭に、二人は響き渡る塔の階段を下り、格子門を抜け、朝の広い空気と日光の中へ、庭の段々と花壇の間へ出た。鯉が蜂の群れほど盛んに跳ねる魚池を渡り、鳥たちの大楽団に足を合わせ、四月の花を雪のように浴びながら、幾つもの階段を順に上った。オットーが立ち止まったのは、庭の最上段へ着いてからだった。ここには庭園へ通じる門があり、そのすぐそば、月桂樹の茂みの下に、大理石の腰掛けがあった。そこからは、烏たちの忙しく働く楡の緑の梢をいくつも見下ろし、その向こうに宮殿の屋根と、青空にはためく黄色い旗が見えた。「どうぞお掛けいただきたい」とオットーは言った。

サー・ジョンは無言で従った。オットーは数秒、その前を行き来し、怒りの思いに沈んだ。鳥たちはみな、賭けでもしたかのように歌っていた。

「あなたは」と、ついに公はイングランド人へ向き直って言った。「社交上の付き合いを別にすれば、私にはまったくの他人だ。人柄も望みも知らない。わざと不快にさせたことは、一度もない。身分の違いはあるが、それは脇へ置きたい。まだそれだけの配慮に値すると思ってくださるなら、ただ一人の紳士として扱ってほしい。さて、ここで返すこの原稿に目を通したのは、私が悪かった。好奇心に品位がないことは認める。だが虚偽は、卑怯で残酷だ。私は原稿を開いた。そして何を見つけた。妻について、何を見つけた。嘘だ!」と激しく言い放った。「嘘なのだ! 神に誓って、あなたの耐えがたい誹謗の中には、四語分の真実もない! あなたは男だ。年を重ね、あの娘の父親でもおかしくない。紳士であり、学者であり、洗練を身につけた人間だ。それがこんな下品な醜聞をかき集め、公刊する本に載せようというのか! それがあなたの騎士道か! だがありがたいことに、彼女にはまだ夫がいる。あなたはその手の原稿で、私が剣術に劣ると書いた。ひとつ手ほどきを願いたい。庭園はすぐ後ろだ。あそこにフェザント・ハウスがあり、馬車が待っている。もし私が倒れたら――私の動静など、ほとんど気に留められないことは、ご存じだ。ご自分で書いている。私はよく姿を消す。これもまた、その一度になる。誰かが気づくよりはるか前に、あなたは無事に国境を越えられる。」

「それは不可能なご要求だと、おわかりでしょう」とサー・ジョンは言った。

「では、私が殴ったら?」と公は、突然威嚇の光を走らせた。

「卑怯な一撃になります」と准男爵は動じずに答えた。「何も変わりませんから。君臨する主権者に剣を抜くことはできません。」

「償いを申し出る勇気もない相手を、あなたは選んで侮辱したのか!」とオットーは叫んだ。

「失礼ながら、不公平です」と旅行者は言った。「決闘できないのは、あなたが君臨する主権者だからです。そして同じ理由で、私にはあなたの行動と奥方を批評する権利があります。あなたは何もかも公の存在です。身も骨も、民衆に属している。あなたの側には法律があり、軍隊の銃があり、密偵の目がある。われわれの側にある武器は、真実だけです。」

「真実!」と公は、手を動かして繰り返した。

ふたたび沈黙があった。

「殿下」とサー・ジョンはようやく言った。「薊から葡萄を望んではなりません。私は年寄りで、冷笑家です。誰一人、私を気にかけてはおりません。そして、この会見を経た今、あなた以上に好ましく思う人を、ほとんど知りません。ご覧のとおり、私は考えを変えました。そして、その変化を認めるという珍しい徳を持っています。この原稿は、あなたの目の前、この庭で破り捨てましょう。あなたに謝罪し、公妃にも謝罪します。そして紳士として、老人として、名誉にかけてお約束します。私の旅行記が出版されるとき、グリューネヴァルトの名さえ載せません。それにしても、味のある章でした! ほかの宮廷の章もお読みになればよかったのですが! 私は腐肉をあさる烏です。だが世界がこれほど胸の悪くなる犬小屋なのは、結局、私のせいではありません。」

「目が黄疸にかかっているのではないか」とオットーは言った。

「ええ、たぶんそうでしょう」と旅行者は叫んだ。「私は嗅ぎ回る人間で、詩人ではありません。世界のよりよい未来を信じています。少なくとも、現在は徹底して信じておりません。私の歌の繰り返しは『腐った卵』です。ですが殿下、何か長所に出会ったとき、それを認めるのが遅いとは思いません。今日はこれからも感謝をもって思い出す日になるでしょう。男らしい徳をいくらか備えた君主に出会ったのですから。そしてこの老いた宮廷通、老いた急進派も、今度ばかりは心の底から、まったく誠実に、殿下の手に口づけする栄誉を願えます。」

「いや、こちらへ」とオットーは言った。「胸に来てくれ!」

不意を突かれたイングランド人は、一瞬、公の両腕に抱きしめられた。

「さて」とオットーは付け加えた。「あれがフェザント・ハウスだ。すぐ裏に私の馬車がある。どうか使ってほしい。ウィーンまで、神のご加護を!」

「若さの勢いで」とサー・ジョンは答えた。「殿下は一つ、お忘れになっています。私はまだ何も食べておりません。」

「それは失礼」とオットーは微笑んだ。「あなたは自由の身だ。行っても、とどまってもよい。ただ忠告しておくが、友人の力は、敵に及ばぬかもしれない。公爵は確かに、全面的にあなたの味方だ。助けたい気持ちは十分にある。だが誰に向かって話しているのだろう。あなたのほうが私よりよく知っている。グリューネヴァルトにいるのは、公爵一人ではない。」

「立場というものには、大きな力があります」と旅行者は重々しくうなずいた。「ゴンドレマークは時を稼ぐのを好みます。政策は地下で進め、表立った行動を恐れる。あなたがこれほど気概をもって振る舞うのを見た以上、私は喜んで、ご庇護に身を賭けましょう。どうなるかわかりません。最後にはあなたのほうが、上を行くかもしれない。」

「本当にそう思うか?」と公は叫んだ。「心に生気を吹き込んでくれる!」

「人物評を書くのはやめましょう」と准男爵は言った。「私は目の見えぬ梟です。あなたをひどく読み違えていた。だが、これだけは覚えておいてください。短距離を駆けるのと、一日じゅう走るのとは別です。私はまだ、あなたの体質を疑っています。短い鼻、髪と目の異なる色――いや、あれは診断の徴です。どうやら、始めたところへ戻って終わらねばならないようです。」

「私はやはり、歌う小間使いか」とオットーは言った。

「いや、殿下、私の書いたことは、どうかお忘れください」とサー・ジョンは言った。「私はピラトとは違います[訳注:新約聖書でピラトは『私が書いたことは、書いたままにしておけ』と述べた]。あの章は、もうありません。私を好いてくださるなら、葬ってください。」

第四章――公が控えの間にいるあいだに……

午前中の首尾に大いに気をよくした公は、さらに難しい仕事に取りかかろうと、公妃の控えの間へ向かった。目の前で帷幕が上がり、取次役がその名を告げる。公は、いつもの気取った軽やかな威厳をひときわ強めて、部屋へ入った。二十人ほどが待っており、大半は女性だった。ここはグリューネヴァルトでも数少ない、オットーが自分の人気を確信できる集まりだった。侍女の一人が脇の扉から公妃に来訪を知らせに行くあいだ、公は愛想よく優雅に、敬意を受けては賛辞を返し、室内を巡った。これが務めのすべてであったなら、申し分のない君主だったろう。どの貴婦人にも分け隔てなく、声をかけてゆく。

「奥方、これはどういうことだろう。お目にかかるたびに、ますますお美しくなる。」

「殿下は、お目にかかるたびに日焼けなさいますわ」とその婦人は答えた。「初めは互角でしたのに。ええ、そこは思いきって申します。二人とも、肌の美しさでは引けを取りませんでした。でも、わたくしが肌の手入れに励むあいだ、殿下は日に焼いておしまいになる。」

「まるで黒人だね、奥方。だが、美の奴隷にはこれほど似つかわしい姿もないだろう?」とオットーは言った。「さて、グラフィンスキー夫人、次の芝居はいつかな。今しがた、私は大根役者だと言われたところでね。」

「まあ、なんということ!」とグラフィンスキー夫人は叫んだ。「そんな大胆なことを言うのは誰ですの。なんて野蛮な!」

「実に立派な人物だよ。それは保証する」とオットーは答えた。

「まあ、まさか! そんなことがあって?」と夫人は笛のような声を出した。「殿下のお芝居は天使のようですのに。」

「奥方のおっしゃるとおりだろう。そんな愛らしいお顔で嘘が言えるはずもない」と公は言った。「だが、その御仁は、私に役者らしい芝居をしてもらいたかったらしい。」

ささやかな冗談に、女たちの高く甘い、鳩のささやきめいた笑い声が湧いた。オットーは孔雀のように胸を膨らませた。女たちと世辞と他愛ないおしゃべりの、この温かな空気が、骨の髄まで心地よかった。

「アイゼンタール夫人、その髪の結い方は実にすてきだ」と公は言った。

「皆さまもそうおっしゃっていましたのよ」と一人が添えた。

「麗しの王子様のお気に召しましたなら、それで十分ですわ」そう言ってアイゼンタール夫人は、悩殺するような崇拝のまなざしを投げ、深々と膝を折った。

「新しい型かな? ウィーン風だね。」

「殿下のお帰りに合わせた、できたての新型ですわ」と夫人は答えた。「今朝はなんだか若返った気がしましたの。虫の知らせでしたわね。でも、公様、どうしていつも、わたくしたちを置いていらっしゃるの?」

「帰ってくる喜びのためだよ」とオットーは言った。「私は犬と同じでね。いったん骨を埋めておいて、あとで戻ってきて、ありがたがるのだ。」

「まあ、骨だなんて! あんまりな喩えですこと。森のお行儀を持ち帰られましたのね」と夫人は答えた。

「奥方、犬にはそれがいちばん大切なのだよ」と公は言った。「おや、ローゼン夫人がいらっしゃる。」

そうしてオットーは、陽気にさえずりかけていた一団を離れ、一人の婦人が立つ窓のくぼみへと歩み寄った。

ローゼン伯爵夫人はそれまで口をきかず、いささか沈んでいたが、オットーが近づくと、ぱっと顔を明るくした。背が高く、妖精のようにほっそりとして、身のこなしはひどく軽やかだった。静かなときにも美しいその顔は、活気がさすと明るく変わり、笑みがきらめき、美しい血色に輝いた。歌の巧みな人で、話す声にも幅広い変化があった。低い音にはテノールめいた豊かさがあり、高い音は、今にも笑いだしそうな響きを帯びて音楽になった。幾つもの面を持ち、炎の色をさまざまに変える宝石。美しさの大半をひそめておいては、甘く触れる一瞬に、武器のように相手の眼前へきらめかせる女。あるときは、投げやりな気性のうかがえる、浅黒い美貌の長身の女にすぎなかったものが、たちまち花のように開いて、生気と色彩、陽気さと優しさに満ちる。ローゼン夫人は、自信のない崇拝者にとどめを刺す短剣を、いつも隠し持っていた。オットーを迎えたのも、優しい陽気さの一矢だった。

「やっとわたくしのところへいらしたのね、つれない公様」と夫人は言った。「浮気な蝶々さん! それで、お手に口づけをさせてはいただけませんの?」と言い添えた。

「奥方、手に口づけをさせていただくのは私のほうだ」オットーは身をかがめ、その手に口づけした。

「何一つ、わたくしの好きにはさせてくださらないのね」と夫人は微笑んだ。

「さて、宮廷では何か変わったことが?」と公は尋ねた。「新聞を読ませてもらおうと、あなたのところへ来たのだ。」

「溝の水みたいに、よどみきっていますわ!」と夫人は答えた。「世の中じゅうが眠りこけ、眠ったまま白髪になってしまったよう。誰かが目を覚まして動いたのなんて、もう永遠の昔から覚えがありませんわ。事件らしい事件といえば、家庭教師が最後にわたくしの頬を打つことを許されたときぐらい。でも、これではわたくし自身にも、魔法で眠らされた殿下の哀れな宮殿にも、少々不公平ですわね。つい最近の話をいたしましょう――ええ、ほんとうですのよ!」夫人は扇の陰から話しはじめ、意味ありげなまなざしや、語り手の巧みな仕掛けを随所に交えた。ほかの人々は遠ざかっていた。ローゼン夫人が公のお気に入りであることは、誰もが承知していたからだ。それでも伯爵夫人は、ときには囁き声と紙一重まで声を落とした。二人は身を寄せ合って、その物語に没頭した。

「わかるかね」とオットーは笑いながら言った。「この世で話をしていて楽しい女は、あなただけだ!」

「まあ、そこまでおわかりになったの」と夫人は叫んだ。

「ええ、奥方。年とともに、私も賢くなるのだ」と公は答えた。

「年ですって」と夫人は繰り返した。「そんな裏切り者の名をお口に? わたくしは年なんて信じませんわ。暦など、まやかしです。」

「まったく、そのとおりだろうね」と公は答えた。「親しくおつき合いしてきたこの六年、あなたは若くなる一方だった。」

「お上手!」と夫人は叫んだが、ふと調子を変えて言い添えた。「でも、どうしてそう言うのかしら。正直に申せば、わたくしも同じことを思っていますのに。一週間前、わたくしの霊的指導者である鏡に相談しましたの。すると鏡は、『まだ大丈夫!』と答えました。

毎月一度、こうして顔の告解をいたしますのよ。ああ、それは厳粛なひとときですわ。鏡が『もうおしまい!』と答えたら、わたくしがどうするか、おわかりになって?」

「見当もつかないね」と公は言った。

「わたくしにもわかりませんわ」と伯爵夫人は答えた。「選ぶ道が多すぎて! 自殺、賭博、修道院、回想録の出版、それとも政治――たぶん最後のものになるでしょうね。」

「退屈な商売だよ」とオットーは言った。

「あら、わたくしはかなり好きですわ」と夫人は答えた。「結局は噂話の従兄弟のようなものですもの。噂話の面白さは、誰にも否定できませんでしょう。たとえば、公妃様と男爵が毎日一緒に遠乗りをして、大砲の視察にお出かけになると申しますわね。言い方一つで、これは政治にも醜聞にもなりますの。その変成を起こす錬金術師が、わたくしというわけ。殿下がお留守のあいだ、お二人はどこへ行くにもご一緒でしたわ」オットーの顔が曇るのを見て、夫人はいっそう生き生きと続けた。「これだけなら、さもしい悪口の切れ端。でも、行く先々で歓呼に迎えられた――こう付け加えれば、すべて政治情報になりますのよ。」

「話題を変えよう」とオットーは言った。

「ちょうど、そう申し上げようと思っていましたの」と夫人は答えた。「というより、政治の話を続けようと。ご存じ? 今度の戦争は人気がありますの――セラフィナ公妃に歓声が上がるほどの人気ですわ。」

「奥方、世の中にありえぬことはない」と公は言った。「わが国が戦争を始めるというのも、その一つだろう。だが名誉にかけて言うが、誰と戦うのか、私は知らないのだ。」

「それで我慢なさるの?」と夫人は叫んだ。「わたくし、道徳家を気取るつもりはありませんわ。白状すれば、子羊は昔から大嫌いで、狼にはどこか憧れていましたの。どうか、子羊らしくするのはおやめになって! この国には公がいるところを見せてくださいまし。女の差配には、もう飽き飽きですわ。」

「奥方、あなたはあちらの党派だと思っていたが」とオットーは言った。

「殿下に党派があれば、わが公様、わたくしはそちらにつきますわ」と夫人は切り返した。「ほんとうに野心をお持ちでないの? 昔、イングランドには王を作る男と呼ばれた人がいたそうですわね。わたくしも」と言い添えた。「公をお一人、作れそうな気がしますの。」

「いつか、奥方、農夫を一人作る手伝いをお願いするかもしれない」とオットーは言った。

「それは謎かけですの?」と伯爵夫人は尋ねた。

「そうだ。しかも、なかなかいい謎だよ」と公は答えた。

「では、お返しにもう一つ」と夫人は言った。「ゴンドレマークはどこにいるでしょう?」

「宰相のことかね? むろん、執務の場にいるだろう」とオットーは答えた。

「そのとおり」と伯爵夫人は言って、扇で公妃の居間の扉を指した。「そして殿下とわたくしは、わが公様、控えの間におりますの。意地悪だとお思いでしょう」と言い添えた。「でも、試してごらんなさいませ。何か仕事をお言いつけになるか、お尋ねになるか。あなたに喜んでいただくためなら、どんな大それたことでもしてみせますし、どんな秘密でもお教えいたしますわ。」

「いや、奥方、友人への敬意がそれを許さない」と公は答え、その手に口づけした。「何も知らずにいるほうがいい。私たちは前哨で交歓する敵味方の兵士のようなものだ。だが、お互い、自軍への忠義は守ろう。」

「ああ」と夫人は叫んだ。「男が皆、あなたのように寛大なら、女に生まれた甲斐もありますのに!」だが、その表情から察するに、公の寛大さには、むしろ失望したらしかった。何か打つ手を探している様子で、それが見つかると、また顔を輝かせた。「さて」と夫人は言った。「わが君にお引き取りをお願いしてもよろしいかしら。これは謀反、絞首刑ものですわね。でも、どういたしましょう? わたくしの熊が妬きますの!」

「奥方、それで十分!」とオットーは叫んだ。「アハシュエロス王はあなたに王笏を差し伸べる[訳注:旧約聖書『エステル記』で、王が王妃に王笏を差し伸べ、無断の謁見を赦した故事]。それどころか、仰せのままに従おう。口笛一つで呼ばれて来るとは、私は犬に生まれるべきだったね。」

こうして公は立ち去り、グラフィンスキー夫人やアイゼンタール夫人の周囲をひらひらと舞いはじめた。だが、伯爵夫人は武器の使い方を心得ていた。公の胸には、心地よい矢が一本残されていた。ゴンドレマークが妬いている――なんと愉快な仕返しだろう! そして、その嫉妬の種であるローゼン夫人も、公の目には新たな光を帯びて映った。

第五章――……ゴンドレマークは奥方の居間にいる

ローゼン伯爵夫人の言ったことは本当だった。グリューネヴァルトの大宰相は、すでにセラフィナと二人きりで話し込んでいた。身支度は済み、趣味よく装った公妃は、背の高い鏡に向かって座っていた。サー・ジョンの描写は意地悪なほど正確だった。細部は正しく、全体は中傷――女嫌いの傑作だった。額はおそらく高すぎたが、それが似合っていた。姿勢にはいくらか前かがみの癖があったが、身体の細部はどこも宝石のように整い、磨き上げられていた。手も、足も、耳も、端正な頭の据わりも、すべてが繊細に調和していた。絶世の美女でなくとも、生き生きと変化に富み、色彩にあふれ、千通りもの愛らしさで人を惹きつけた。目は、なるほど意識して動かしすぎるのかもしれなかったが、それだけの効果を上げていた。その目こそいちばん魅力的なところだった。だが、それはつねに、心の内について雄弁な偽証を続けていた。未熟で、まだ柔らかくほぐれていない心の奥では、男のような野心と権力欲にすっかり身を委ねているのに、目は大胆に、誘うように、燃えるように、とろけるように、そして狡猾こうかつに変わり、貪欲な魔女さながらだった。ある意味で、実際に狡猾ではあった。男でないため行動によって名を上げられないことをもどかしく思い、それに匹敵する支配力を、女として発揮しようと考えたのだ。人を従わせるのは別の目的のためであり、自分は恋に縛られず、周囲に影響力だけを降り注ごうとした。男を愛してはいなかったが、男が自分に従うのを見るのは好きだった。娘にはありがちな野心だ。恋人を獅子の群れに送り込んだ、あの手袋の貴婦人[訳注:獅子の囲いへ落とした手袋を恋人に拾わせ、愛を試した女性の故事]も、おそらくこういう女だったのだろう。だが罠は男女の別なく仕掛けられており、世の中というものは実に巧妙にできている。

そばの低い椅子では、ゴンドレマークが肩を高くし、背を丸め、猫のように身を低くして、従順そうな姿勢を作っていた。その恐ろしげな青い顎と、くすんだ不機嫌な目のおかげで、機嫌を取ろうとするあからさまな心遣いが、かえっていっそうありがたく見えたのかもしれない。顔には才幹と激情、それに大胆な海賊まがいの不正直さが刻まれていた。それを欺瞞と呼んでは、かえって中傷になろう。公妃に微笑みかける物腰は、凝りすぎていて、優雅とは言いがたかった。

「そろそろ、おいとますべきでしょう」と男爵は言った。「わが君を控えの間にお待たせしてはなりません。さっそく結論を出しましょう。」

「延ばせないのね、どうしても?」と公妃は尋ねた。

「不可能です」とゴンドレマークは答えた。「殿下にもおわかりでしょう。初めの段階なら、蛇にならうこともできました。しかし最後通牒となれば、獅子のように大胆に出るしかありません。公がそのままお留守でいてくだされば、いっそう好都合でした。とはいえ、もう引き延ばせる段階は過ぎています。」

「どうして帰ってきたのかしら!」と公妃は叫んだ。「よりによって今日!」

「ぶち壊し屋には、生まれつきの嗅覚があるものです、殿下」とゴンドレマークは答えた。「しかし、危険を大きく見すぎておいでです。どれほどの障害を越え、ここまで成功してきたか、お考えください。あんな軽薄者一人に――いや、まさか!」男爵は笑い、指先にふっと息を吹きかけた。

「軽薄者でも、グリューネヴァルト公には違いないわ」と公妃は答えた。

「殿下がお許しになっているからこそ、そして寛大であろうとなさるあいだだけのことです」と男爵は言った。「天賦の権利というものがございます。力ある者に権力を。それが掟です。もし公が殿下の運命の前に立ちはだかるおつもりなら――青銅の壺と土の壺の話は、ご存じでしょう。」

「わたくしを壺と呼ぶの? 無作法ね、男爵」と公妃は笑った。

「殿下の栄光を完成させるまでには、さまざまな呼び名でお呼びすることになりましょう」と男爵は答えた。

若い公妃は喜びに頬を染めた。「でも、フレデリックはまだ公なのよ、お世辞屋さん」と言った。「革命を起こすつもりではないでしょうね――こともあろうに、あなたが?」

「いとしい殿下、革命なら、もう済んでおります!」と男爵は叫んだ。「暦の上では、たしかに公が君臨しておいでだ。しかし、君臨し、統治なさるのは、わが公妃です」男爵は愛情のこもった賛嘆の目で見つめた。セラフィナの胸は高鳴った。巨大な奴隷を見下ろしながら、権力の酔わせる喜びを飲み干した。そのあいだにも男爵は、大柄な身体にはひどく不似合いな茶目っ気を見せて続けた。「ただ一つ、欠点がおありです。私が思い描く輝かしい御生涯に、危険はただ一つ。申し上げてもよろしいでしょうか。そのような不敬が許されますなら。それは殿下御自身にございます――お心が優しすぎるのです。」

「勇気が足りないのよ、男爵」と公妃は言った。「判断を誤っていたら? 敗れたら、どうするの?」

「敗れる、ですと?」と男爵は、わずかに苛立って答えた。「犬が兎に敗れますか? わが軍はすべて国境沿いに駐屯しております。五時間もあれば、五千挺の銃剣を揃えた先鋒が、ブランデナウの城門を叩くでしょう。対するゲロールシュタインには、まともに動かせる兵が千五百もいない。足し算ほど簡単な話です。抵抗など、ありえません。」

「大した手柄ではないわね」と公妃は言った。「それが栄光というもの? 子供を殴るようなものだわ。」

「殿下、必要なのは外交上の勇気です」と男爵は答えた。「重大な一歩を踏み出すのです。初めてヨーロッパの目をグリューネヴァルトに集める。その後三か月の交渉こそが、よろしいですか、成否を決めるのです。その場でこそ、殿下のお知恵におすがりせねばなりません」と、ほとんど沈痛な顔で付け加えた。「殿下のお働きをこの目で見ず、そのお心の豊かさを知らなかったなら、私も結果を恐れて震えたことでしょう。しかしこの分野では、男は自分の無力を認めるほかない。偉大な交渉者は、女でなければ、必ず傍らに女がいたものです。ポンパドゥール夫人は臣下に恵まれませんでした。御自分のゴンドレマークを見つけられなかった。しかし、なんという大政治家だったことか! カトリーヌ・ド・メディシスも、なんと正確な眼識、なんと臨機応変な手腕、敗北に屈しないしなやかさを持っていたことか! ただ惜しいことに、殿下、あの方の軽薄者どもは実の子だった。そして、ただ一つの俗なところ、良妻賢母めいた性質から、家族の絆や愛情に御自分の自由を縛らせてしまったのです。」

こうした奇妙な歴史観は、もっぱらセラフィナ専用に仕立てられたものだったが、いつものように公妃をなだめる魔法にはならなかった。自分の決意そのものが、一時的に嫌になっているのは明らかだった。半ば閉じた目で助言者を眺め、唇に薄い嘲りを浮かべて、なおも異を唱えた。「男って、なんて子供なのかしら。大げさな言葉が好きなのね。勇気ですって! 鍋磨きをしなければならなくなったら、ゴンドレマーク殿、あなたはそれを『家事の勇気』とでもお呼びになるのでしょう?」

「はい、殿下」と男爵は堂々と答えた。「上手に磨けるなら、そう呼びます。美徳にはよい名をつけてやるべきです。どれほど飾っても、飾りすぎにはなりません。美徳そのものは、それほど魅力的ではないのですから。」

「では、よく考えさせて」と公妃は言った。「あなたのいう勇気が、どういうものか知りたいの。わたくしたちは子供のように、許しを求めたのではなくて? ベルリンのお祖母様も、ウィーンの叔父様も、一族そろって頭をなで、行っておいでと送り出してくれた。勇気ですって? よくもそう言えるものだわ!」

「わが公妃らしくもないお言葉です」と男爵は答えた。「危険がどこにあるか、お忘れです。たしかに、どこからも励ましはいただきました。しかし、それがどれほど守れぬ条件つきであったか、殿下はよくご存じです。しかも議会の公の場では、こうした内々の相談など忘れ去られ、なかったことにされるのです。危険はまぎれもなく現実にある」――消そうとしていた火種を自ら吹き起こさねばならないことに、男爵は内心で怒り狂った――「軍事上の危険でないからといって、小さくなるわけではありません。ただ、それだけ立ち向かいやすい。もし頼みが軍隊だけなら、私もアルヴェナウの働きには殿下同様の期待を寄せてはおりますが、総司令官としてはまだ試されていないことを、忘れるわけにはまいりません。しかし交渉なら、指揮はわれわれの手にある。殿下のお助けがあれば、危険など笑い飛ばしてみせます。」

「そうかもしれないわ」とセラフィナはため息をついた。「わたくしが危険を感じるのは別のことよ。民衆、あの忌々しい民衆――すぐにも反乱を起こしたら? 自分の玉座が崩れかけているのに他国を侵略したなんて、ヨーロッパにどんな顔をすればいいの?」

「いや、殿下」とゴンドレマークは微笑んだ。「それこそ殿下らしくもございません。民衆の不満を育てているものは何です? 税金以外にありますか? ゲロールシュタインを手に入れれば、税は免除され、息子たちは名声に包まれて帰り、家々は戦利品で飾られる。誰もが武勲のおこぼれにあずかり、たちまち、われわれはまた幸福な一家です! 連中は互いの長い耳に向かって言うでしょう。『いや、公妃様はちゃんとおわかりだったのだ。あのお方が正しかった。さすがおつむがお出来になる。ほら、われわれも前より豊かになったじゃないか』と。

しかし、なぜ私がこんなことを申し上げるのでしょう。すべて公妃殿下御自身が教えてくださったことです。そのお言葉に説き伏せられて、私もこの事業に賛成したのですから。」

「ゴンドレマーク殿」とセラフィナはいささか刺々しく言った。「あなたはよく、ご自分の知恵を公妃のものにしてしまうようね。」

鋭い一撃に、ゴンドレマークは一瞬たじろいだ。だが次の瞬間には、すっかり立ち直っていた。「そうでございますか?」と言った。「それは、あるかもしれません。殿下にも同じ傾向がおありだと、私も気づいておりました。」

あまりに率直で、しかもいかにも公平な言い方だったので、セラフィナはようやく息をついた。虚栄心に危険を感じていたのだ。その安堵が大きかっただけ、気分もよくなった。「まあ」と公妃は言った。「こんなことを話していても仕方がないわ。フレデリックを外で待たせたまま、まだ戦いの方針も決まっていない。さあ、共同提督、相談しましょう。……まず、どんな顔で迎えればいいの? それから、評議会に出てきたら、どうする?」

「まず、でございますか」と男爵は答えた。「当面は、わが公妃にお任せいたしましょう! そのお手並みは存じております。芝居のほうへ追い返しておやりください。ただし、ごく穏やかに」と付け加えた。「たとえば、頭痛を装われてはいかがでしょう。わが君のお気には召しませんか?」

「いやよ!」と公妃は言った。「人を操れる女は、戦える男と同じで、決して対決を避けてはならないわ。騎士は自分の武器の名を汚してはならないもの。」

「では、わがつれなき美女にお願いを」と男爵は答えた。「ただ一つ、お持ちでない美徳をお装いください。あの気の毒な若者を哀れんでおやりください。狩りに興味があるふりをし、政治には疲れたとおっしゃり、おそばにいると、無味乾燥な思案から解放され、ほっと休めるといった御様子をお見せになる。この作戦を、わが公妃は御承認くださいますか?」

「それは造作もないことよ」とセラフィナは答えた。「評議会――問題はそちらだわ。」

「評議会ですか!」とゴンドレマークは叫んだ。「では、失礼して」立ち上がると、声も身振りも巧みにオットーを真似て、部屋の中をひらひらと歩き回った。「今日は何があるのかな、ゴンドレマーク殿? おや、首相、新しい鬘だね! 私の目はごまかせんよ。グリューネヴァルトの鬘なら、どれも知っている。君主の目だからね。この書類は何の話だ? ああ、なるほど。ああ、もちろん。むろん、むろん。誰もあの鬘には気づかなかっただろう。結構だよ。それは何も知らないな。へえ、そんなにたくさんあるのかい? では、あなたが署名しておいてくれ。代理権はあるのだから。どうだい、首相、鬘を見抜いただろう。こうして」とゴンドレマークは本来の声に戻って締めくくった。「特別な神の恩寵を受けたわが君は、枢密顧問官たちを啓発し、お支えくださるのです。」

だが喝采を期待してセラフィナを振り向くと、公妃の表情は凍りついていた。「おふざけがお好きなのね、ゴンドレマーク殿」と公妃は言った。「どこにいるか、お忘れになったのかしら。でも、そんな稽古は当てにならないこともありますわ。あなたの主君、グリューネヴァルト公は、もっと厳しい注文をお出しになることもあるのですから。」

ゴンドレマークは胸の中で公妃を呪った。傷つけられた虚栄心のうちでも、道化を叱られた者のそれほど凶暴なものはない。しかも重大な問題がかかっているときには、こんな小さな刺し傷が耐えがたいものになる。だがゴンドレマークは鉄の男だった。何一つ顔に出さなかった。ありふれた策士のように、出すぎたからといって引き下がりもせず、堂々と主張を貫いた。「殿下」と言った。「お言葉どおり、公が厳しい態度に出られるなら、こちらも正面から立ち向かわねばなりません。」

「そのときは、そのときね」と公妃は言い、立ち上がろうとする人のように裾を整えた。怒り、軽蔑、嫌悪、そうした刺々しい感情はどれも、宝石のように公妃を引き立てた。いま、その美しさはひときわ際立っていた。

「頼むから喧嘩になってくれ」とゴンドレマークは思った。「喧嘩をしてくれなければ、この忌々しい小娘はまだ当てにならん。そろそろ奴を入れるとしよう。そら、犬ども、噛み合え!」そう考えた末、男爵はぎこちなく片膝を折り、騎士らしく公妃の手に口づけした。「わが公妃には、そろそろ召使に暇をお与え願います。評議会の時刻までに、整えねばならぬことが多くございます。」

「行きなさい」と公妃は言って立ち上がった。

ゴンドレマークが私用の扉から足早に出てゆくと、公妃は呼び鈴に触れ、公を通すよう命じた。

第六章――公、結婚について講義し、離婚を実演する

オットーは、どれほど立派な決意を胸いっぱいに抱いて、妻の居間へ入ったことだろう! どれほど父親らしく、どれほど優しく! 用意してきた言葉は、どれほど道徳的な感動に満ちていたことか! セラフィナのほうも、険悪な気分ではなかった。いつもなら大計画の邪魔者としてオットーを恐れるところだが、今は計画そのものへの一時的な疑いに、その恐れが呑み込まれていた。加えて、ゴンドレマークに怒りと嫌悪を感じていた。心の底では、男爵が好きではなかった。厚かましいほどの卑屈さの奥に、無神経な繊細さをもって絶えず押しつけてくる献身の奥に、その本性の粗野さを見抜いていた。熊を飼い馴らしたことを誇る者でも、獣の臭いには吐き気を催すことがある。それにもまして、あの男は偽り者で、騙しているのはこちらだけではないのではないかと、嫉妬まじりの疑いが胸をかすめていた。自分が相手の恋を偽ってもてあそんでいるのは確かだ。しかし男爵も、ただこちらの虚栄心をもてあそんでいるだけかもしれない。先ほどの物真似の傲慢さ、それを座って見ていた自分の立場の醜さも、良心に重くのしかかっていた。オットーを迎えると、ほとんど罪悪感に近いものを覚えながらも、醜いものから救い出してくれる人として、来訪を喜んだ。

だが会見という車の車輪は、幾千もの轍に左右される。オットーが入った途端、早くも最初の揺れが来た。ゴンドレマークはいなかった。しかし、相談のために近くへ寄せられた椅子がある。この男が通されていたことだけでなく、いかにも秘密めかして立ち去ったことも、公の胸を刺した。その痛みを抑えようとして、案内してきた従者を、やや刺々しい口調で下がらせた。

「わたくしの部屋で、ずいぶん我が物顔ですこと」と公妃は言った。命令口調も、椅子に投げた視線も、少しばかり癇に障ったのだ。

「奥方」とオットーは答えた。「めったに来ないので、客としての権利ぐらいはありそうだ。」

「誰とつき合うかは、あなたが決めているのでしょう、フレデリック」と公妃は言った。

「その話をしに来たのだ」と公は答えた。「私たちが結婚して、もう四年になる。この四年は、セラフィナ、あなたにも私にも、おそらく幸福な年月ではなかった。あなたの夫には向かなかったことは、よくわかっている。私は若くもなく、野心もなく、ただの遊び人だった。あなたは私を軽蔑した。それを不当だとは、あえて言うまい。だが、お互い公平であるために、私がどう振る舞ってきたかも考えてほしい。この小さな舞台で公妃の役を演じるのが楽しいとわかるや、私はすぐに玩具箱を――このグリューネヴァルトを――あなたに譲らなかったか? 夫として疎ましいとわかってからは、これ以上差し出がましくない夫が、ほかにいただろうか? 感情も好みもなく、ただ風に流されているのだから、褒めるには当たらない、すべて性分にすぎないと、あなたは言うかもしれない。なるほど、何もせずにいるのは容易だ。容易すぎるほどだ。その点は確かに本当だ。しかしセラフィナ、それがいつも賢いことではないと、私にもわかりかけてきた。夫としては年を取りすぎ、気質も合わなかったにせよ、あなたが客として、子供としてやって来た国の公であることは、忘れるべきでなかった。その立場にも務めがあった。そして、その務めを私は果たしてこなかった。」

年長者の優位を持ち出せば、必ず相手の機嫌を損ねる。「務めですって!」とセラフィナは笑った。「あなたのお口から、その言葉が出るの、フレデリック! おかしくてたまらないわ。どういう思いつき? 侍女たちと戯れて、見かけどおりのドレスデン磁器のお殿様でいらっしゃいな。坊や、好きにお楽しみになって。務めと国のことは、わたくしたちにお任せなさい。」

その複数形が、公の神経を逆なでした。「私は楽しみすぎてきた」と公は言った。「楽しむという言葉がふさわしいのならね。しかし、それだけではないことも、ずいぶんある。あなたは私が、よほど狩り好きだと思っているに違いない。だが、礼儀上は私の政治と呼ばれていたものに、大きな興味を持った日々もあったのだ。それに、物のよしあしを見分ける目には、以前から少し自負があった。生きた幸福と、味気ない日課の違いはわかる。狩りと、オーストリアの玉座と、あなたとともに暮らすこと。その三つを選べたなら、私の選択は一度も揺らがなかっただろう。選択が私に任されていたならば。私に嫁いできたあなたは、まだ少女だった。蕾だった――」

「まあ!」と公妃は叫んだ。「これから恋の場面が始まりますの?」

「私は決して滑稽にはならない」と公は言った。「それだけが取り柄だ。これは間違いなく、当世風の結婚の一幕になるから、安心してほしい。だが、初めのころを思えば、悲しみをこめて話すのが、せめてもの礼儀だ。公平に見てほしい、奥方。あの日々を思い出しながら、惜しむ素振りさえ見せなければ、ずいぶん無作法な男だと思うだろう。もう少し公平になって、ただ調子を合わせるためでもいい、あなたもあの過去を惜しんでいると認めてほしい。」

「惜しむことなど、何もありませんわ」と公妃は言った。「驚きました。あんなに幸福でいらしたと思っていたのに。」

「幸福、幸福といっても、何百通りもある」とオットーは言った。「反逆して幸福な男もいれば、眠って幸福な男もいる。酒や変化や旅も、人を幸福にする。美徳もそうだという――私は試していないがね。そして、長年連れ添い、穏やかな習慣になった結婚にも、また別の幸福があるそうだ。幸福、そう、そう言いたければ、私は幸福だ。だが率直に言おう。あなたを家へ迎えたときのほうが、幸福だった。」

「まあ」と公妃は、いささかぎこちなく言った。「お気持ちが変わったのでしょうね。」

「私は違う」とオットーは答えた。「私は変わらなかった。覚えているかい、セラフィナ。帰り道で、あなたが小道の薔薇を見つけ、私が馬車を降りて摘んできたことを。大きな木々に挟まれた狭い道だった。道の向こうの夕映えは一面の黄金色で、頭上にはミヤマガラスが飛んでいた。九輪、赤い薔薇が九輪あった。一輪につき一度、あなたは口づけをくれた。私は心に決めたのだ。一輪の薔薇と一つの口づけを、一年の愛にしようと。だが、十八か月で終わってしまった。それでも、セラフィナ、私の心まで変わったと思うのか?」

「そんなこと、わたくしにはわかりませんわ」と公妃は人形のように言った。

「変わっていない」と公は続けた。「たとえ夫が口にしても、報われぬことを認め、もう何も求めない愛は、滑稽ではない。私は砂の上に家を建てた。許してほしい、責めるつもりは毛頭ない――おそらく、自分自身の弱さの上に建てたのだろう。だが、その建物には心をこめた。そして心は、今も廃墟の中にある。」

「ずいぶん詩的ですこと!」と公妃は、喉につかえるような小さな笑いを漏らした。覚えのない憐れみ、なじみのない優しさが、胸の中で動いていた。「何をおっしゃりたいの?」と、声を硬くして付け加えた。

「言いたいのは、こういうことだ」と公は答えた。「口にするのはつらい。こういうことだ――セラフィナ、なんといっても私はあなたの夫であり、あなたを愛する哀れな愚か者だ。よくわかってほしい」と、ほとんど激しく叫んだ。「夫の権利を乞い願うつもりはない。愛が拒むものを、憐れみで与えてもらうなど願い下げだ。求めもしないし、受け取りもしない。嫉妬についても、私にどんな根拠がある? 自分では使いもしない飼い葉を見張る犬のような嫉妬など、犬にも笑われる。だが少なくとも世間の目には、私はまだあなたの夫だ。そこで聞きたい。あなたの私への扱いは、公平だろうか? 私は自分の領分を守り、あなたを自由にし、何事も思いどおりにさせてきた。その返礼に、あなたは何をする? セラフィナ、あなたは少し考えが足りなかったようだ。だが、私たちのような、これほど人目につく身分の者同士には、格別の配慮と格別の礼儀が必要だ。醜聞を避けるのは容易ではないのかもしれない。しかし、耐えるのもつらい。」

「醜聞!」と公妃は大きく息を吸って叫んだ。「醜聞ですって! 結局、それが言いたかったのね!」

「自分の気持ちを伝えようとしたのだ」と公は答えた。「愛していると言った。むなしく愛していると――夫には苦いことだ。あなたを傷つけずに話せるように、自分の胸をさらしたのだ。そして、話し始めた以上は、最後まで言おう。」

「ぜひ、そうしていただきますわ」と公妃は言った。「何の話ですの?」

オットーは真っ赤になった。「言いたくないことを言わねばならない」と答えた。「ゴンドレマークと会うのを、少し控えてほしい。」

「ゴンドレマークと? なぜ?」

「二人の親密さが、噂の種になっているのだ、奥方」とオットーはかなり毅然と言った。「私には苦痛であり、御両親がお知りになれば打ちのめされるような醜聞の種に。」

「そんな話を聞かせてくださったのは、あなたが初めてですわ」と公妃は言った。「お礼を申し上げます。」

「礼を言う理由はあるかもしれない」と公は答えた。「あなたの友人の中で、私だけが――」

「ああ、わたくしの友人には触れないで」と公妃は遮った。「友人たちは、あなたとは違う人たちです。ここへ来て、感傷を大げさに並べ立てて。最後にお会いしたのは、いつでしたかしら? そのあいだ、わたくしはあなたに代わって国を治めていました。何のお助けもなく。やっと、わたくしが男の仕事に疲れ、あなたがおもちゃに飽きると、お帰りになって夫婦喧嘩を始める――まるで食料品屋の夫婦ね! 立場が逆さますぎますわ。国を治めるというあなたのお仕事をしながら、同時に小娘のように振る舞うことなどできない。それぐらいはおわかりになるべきです。わたくしたち君侯にとって、醜聞は日々吸う空気ですわ。君主なら知っているはずでしょう。なんていやな役回りをなさるの。あなたは、その噂を信じていらっしゃるの?」

「奥方、信じていたら、ここへ来ると思うか?」とオットーは言った。

「それが聞きたいのよ!」と公妃は叫んだ。軽蔑の嵐がますます激しくなった。「もし信じていたら――仮に信じていたとしたら、と言っているの!」

「信じないように努めただろう」と公は答えた。

「そうだと思いました。ああ、あなたという方は、卑しさでできているのね!」と公妃は言った。

「奥方」と公は、ついに怒りを爆発させた。「もうたくさんだ。あなたは故意に私の立場を曲解し、忍耐を使い果たさせる。御両親の名において、私自身の名において、もっと慎重な振る舞いを求める。」

「それはお願いですの、わたくしの夫殿?」と公妃は問いただした。

「奥方、私がその気になれば、命令もできる」とオットーは言った。

「ええ、現行の法律では、わたくしを囚人になさることもできますわ」とセラフィナは答えた。「それ以下のことでは、何も得られません。」

「これまでどおり続けるのか?」と公は尋ねた。

「まったく、これまでどおりに」と公妃は言った。「この茶番が終わりしだい、ゴンドレマーク男爵にお越し願います。おわかり?」立ち上がりながら付け加えた。「わたくしの話は、これで終わりです。」

「では、奥方、お手を拝借願いたい」とオットーは言った。全身の脈が怒りに打っていた。「このささやかな家の、別の一画まで御同行願おう。安心していただきたい――長くはかからない。これが、あなたに何かをお願いする最後の機会になるだろう。」

「最後?」と公妃は叫んだ。「それなら、喜んで!」

公妃は手を差し出し、公はそれを取った。どちらも念入りに気取り、内心では白熱していた。公はゴンドレマークの去った私用の扉から妻を連れ出した。中庭に面した、人通りの少ない廊下を幾つか抜け、やがて公の居室に着いた。最初の部屋は武器室で、各国の武器が壁一面に掛けられ、正面のテラスを見下ろしていた。

「ここへ連れてきて、わたくしを殺すおつもり?」と公妃は尋ねた。

「奥方、ここは通り道にすぎない」とオットーは答えた。

次に書斎へ入った。老侍従が半ば居眠りをしていたが、公夫妻を見て立ち上がり、一礼して用を尋ねた。

「ここで待っていてくれ」とオットーは言った。

次は絵画の回廊だった。結婚して最初の数か月に、オットーが注文したセラフィナの肖像が、ひときわ目立つ場所に掛かっていた。狩装束で、髪には赤い薔薇を挿していた。公は黙ってそれを指し、公妃は黙って眉を上げた。二人はさらに進み、敷物を敷いた廊下に出た。扉が四つあり、一つはオットーの寝室、一つはセラフィナの寝室へ通じる私用の扉だった。ここで初めて、オットーは妻の手を離した。前へ進み、閂をかけた。

「奥方」と公は言った。「向こう側から閂がかけられて、もう久しい。」

「片側だけで、十分でしたのに」と公妃は答えた。「これで全部?」

「お送りしようか?」と公は頭を下げて尋ねた。

「わたくしは」と公妃は響きわたる声で言った。「ゴンドレマーク男爵にお送りいただきたいわ。」

オットーは侍従を呼んだ。「ゴンドレマーク男爵が宮殿にいたら、公妃がお待ちだから、ここへ来るよう伝えてくれ」役人が去ると、公は尋ねた。「ほかに何か、御用はあるかな、奥方?」

「いいえ、ありがとう。たいへん楽しませていただきました」と公妃は答えた。

「これで」とオットーは続けた。「あなたに、完全な自由を与えた。あなたにとって、これは不幸な結婚だった。」

「不幸でしたとも!」と公妃は言った。

「できるだけ軽い重荷にしてきた。これからは、もっと軽くしよう」と公は続けた。「だが一つだけ、奥方、なおも背負ってもらわねばならぬものがある。私の父の名だ。今はあなたの名でもある。それをあなたの手に託そう。私の忠告はいらないというのだから、せめてその分、ご自分でいっそう心を配り、その名に恥じぬようにしてほしい。」

「ゴンドレマーク殿は、なかなかいらっしゃらないわね」と公妃は言った。

「ああ、セラフィナ、セラフィナ!」と公は叫んだ。そして、それで会見は終わった。

公妃は軽い足取りで窓へ行き、外を眺めた。少しして侍従がゴンドレマーク男爵の来訪を告げた。いつにない呼び出しに戸惑い、男爵は目を少しうろつかせ、顔色を変えて入ってきた。公妃は窓から振り向き、真珠のように輝く笑みを浮かべた。頬の赤みが増しているほかは、動揺の跡もなかった。

オットーは青ざめていたが、それ以外は平静を取り戻していた。

「ゴンドレマーク殿」と公は言った。「一つお願いしたい。公妃を居間までお送りしてくれ。」

男爵はまだ何が何やらわからぬまま手を差し出した。公妃は微笑んでその手を取り、二人は絵画の回廊を、悠然と出ていった。

二人が去り、失敗の大きさが隅々まで見え、自分が意図したことのすべてを裏返しにしてしまったと悟ると、オットーは呆然と立ち尽くした。ここまで徹底した大失敗は、自分でさえ笑うほかなかった。怒りにかられて、声を上げて笑った。その気分のあとには、激しい悔恨が襲った。だが受けた挑発を思い出すと、また怒りが湧いた。こうして心は揺さぶられ、あるときは自分の支離滅裂さと短気を嘆き、あるときは白熱する憤激と、気高い自己憐憫に燃え上がった。

公は豹のように部屋を歩き回った。オットーには、一瞬だけ危険なところがあった。拳銃のように、ある瞬間には人を殺せるが、次の瞬間には蹴飛ばされてしまう。だが今、長い部屋を行きつ戻りつし、相反する気分に駆られてハンカチを両手で引き裂いているあいだ、その神経は一本残らず、限界まで張りつめていた。いわば拳銃には弾がこめられていた。ときおり嫉妬が、心のいちばん柔らかなところを鞭打ち、燃えるような幻の数々を心の目の前にひらめかせると、顔のひきつりには危険なものさえあった。嫉妬の作り話は退けたが、それでも刺さった。これほど怒りに燃えながらも、セラフィナの潔白への信頼は失わなかった。それでも妻が過ちを犯すかもしれないという思いは、悲しみの杯の中で、いちばん苦い一滴だった。

扉が叩かれ、侍従が短い手紙を持ってきた。公は受け取ると手の中で揉みつぶし、歩き続け、まとまらぬ思いを巡らせ続けた。数分たって、ようやく手紙のことがはっきり意識に上った。立ち止まって開いた。ゴットホルトが鉛筆で走り書きしたもので、こうあった。

「評議会、ただちに秘密裏に招集。

G・v・H。」

予定を早め、しかも秘密裏に招集するのなら、こちらの介入を恐れているのは明らかだ。恐れている――なんと甘美な考えだろう。ゴットホルトまで――いつも自分を田舎の小僧としか見ず、そのように扱ってきたゴットホルトまでが、わざわざ知らせを寄越した。自分の働きを期待しているのだ。よし、誰も失望させはしない。妻に恋い焦がれる男の陰に、あまりにも長く隠れていた公が、今こそ戻り、光を放つのだ。従僕を呼び、乱れた身なりを念入りに整えた。そして髪を巻き、香水をつけ、美しく着飾り、どこから見ても麗しの王子様そのものながら、小鼻だけはひくつかせて、供も連れずに評議会へ向かった。

第七章――公、評議会を解散する

事態はゴットホルトの書いたとおりだった。サー・ジョンの釈放、グライゼンゲサングの不安げな報告、そして最後にセラフィナと公との一幕が、共謀者たちに、大胆な臆病策を決意させた。しばし慌ただしい動きが続き、仕着せ姿の使者が書付を持ってあちこちを駆け回った。そして午前十時半、いつもより一時間ほど早く、グリューネヴァルトの評議員たちは卓を囲んだ。

大きな集まりではなかった。ゴンドレマークの意向で厳しい粛清が行われ、今では手先ばかりになっていた。脇卓には三人の書記が座った。セラフィナが上座に着き、右に男爵、左にグライゼンゲサング。その下に財務官グラフィンスキー、アイゼンタール伯爵、日和見の二人、そして一同を驚かせたことに、ゴットホルトがいた。彼は俸給を受けられるようにというだけの理由で、オットーから枢密顧問官に任じられていた。一度も会議に出たためしがなかったので、誰も任命を取り消そうとは思わなかった。この時機の出席は、それだけに不吉だった。ゴンドレマークが睨みつけると、その険しい視線に気づいた右隣の日和見男は、あからさまに寵を失っている相手から、そっと身を遠ざけた。

「時が迫っております、殿下」と男爵は言った。「議事を始めてもよろしいでしょうか?」

「すぐに」とセラフィナは答えた。

「お許しください、殿下」とゴットホルトは言った。「しかし、オットー公がお帰りになったことを、まだ御存じないのではありませんか。」

「公は評議会には出席なさいません」とセラフィナは、一瞬頬を染めて答えた。「首相、外交文書を。ゲロールシュタイン宛てのものがあるのでしょう?」

書記が一通の書類を運んできた。

「こちらでございます、殿下」とグライゼンゲサングは言った。「読み上げましょうか?」

「内容は皆、承知しております」とゴンドレマークは答えた。「殿下、御承認いただけますか?」

「ためらいなく」とセラフィナは言った。

「では、朗読済みとして扱いましょう」と男爵は結んだ。「御署名を。」

公妃は署名し、ゴンドレマーク、アイゼンタール、そして日和見男の一人が続いた。書類は卓の向こう側の図書室長へ渡された。ゴットホルトはゆっくりと読みはじめた。

「暇はないのだ、博士!」と男爵は乱暴に叫んだ。「主君のお墨つきを信じて署名できぬのなら、次へ回せ。席を立ってもらってもよいのだぞ」と、抑えていた怒りを噴き出させて付け加えた。

「そのお勧めは辞退しよう、ゴンドレマーク殿。なお残念ながら、私の主君は依然として、この卓にはおられない」と博士は静かに答えた。そして再び書類に目を落とした。一同はいらだち、目配せし合った。「公妃殿下、諸君」と、やがて博士は言った。「いま私が手にしているものは、まさしく宣戦布告です。」

「まさしく」とセラフィナは、挑むような目を光らせた。

「この国の主君は、われわれと同じ屋根の下におられる」とゴットホルトは続けた。「お呼びするよう要求します。理由を並べるまでもない。諸君は皆、心の底では、この背信の企てを恥じているはずだ。」

評議会は海のように波立った。さまざまな叫びが上がった。

「公妃殿下への侮辱だ!」とゴンドレマークが雷鳴のように怒鳴った。

「異議は撤回しない」とゴットホルトは答えた。

混乱が頂点に達したとき、扉が開け放たれ、取次役が「皆様、公殿下のお出ましです!」と告げた。オットーは、この上なく見事な身のこなしで入ってきた。荒れる水面に油を注いだように、皆たちまち席に落ち着いた。グライゼンゲサングは、体裁を繕おうと、書類の整理に没頭した。だが誰もが平静を装うことに気を取られ、立ち上がるのを忘れていた。

「諸君」と公は言い、立ち止まった。

一同はたちまち立ち上がった。この叱責に、気の弱い面々はいっそう気力を失った。

公はゆっくりと卓の下手へ進み、また立ち止まった。グライゼンゲサングを見据え、「首相」と尋ねた。「時刻の変更が私に知らされなかったのは、どういうわけだ?」

「殿下」と首相は答えた。「公妃殿下が……」そこで言葉が途切れた。

「出席なさるおつもりはないと、承知しておりました」とセラフィナが引き取った。

二人の目が一瞬合い、セラフィナが伏せた。だが、そのひそかな屈辱で、怒りはいっそう激しく燃えた。

「さて、諸君」とオットーは椅子に着いて言った。「どうか座ってほしい。私は留守にしていたから、滞っていることもあろう。だが議事に入る前に、グラフィンスキー殿、四千クラウンを、ただちに私のところへ届けるよう手配してくれ。書き留めておいてもらおう」と、財務官がまだ驚いて見つめているので、付け加えた。

「四千クラウン?」とセラフィナは尋ねた。「何にお使いになるの?」

「奥方」とオットーは微笑んだ。「私自身の用にだ。」

ゴンドレマークは卓の下でグラフィンスキーを小突いた。

「殿下、お使い道をお示しいただければ……」と操り人形は言いかけた。

「あなたは公を尋問するために、ここにいるのではない」とオットーは言った。

グラフィンスキーは指揮官に救いを求めて目を向けた。ゴンドレマークが、穏やかで落ち着いた声で助け舟を出した。

「殿下が驚かれるのも無理はございません」と言った。「グラフィンスキー殿にも、無礼な意図は毛頭なかったと確信しておりますが、まず事情を御説明すべきだったでしょう。現在、国の財源はすべて使い尽くされております。あるいは、いずれお示しできると願っておりますが、賢明に投資されているのです。一か月後であれば、殿下のいかなる御用命にも応じられると確信しております。しかし今この時点では、これほど小さな御要望についてさえ、御期待に沿えぬものとお覚悟いただかねばなりません。力は及ばずとも、忠誠に変わりはございません。」

「グラフィンスキー殿、国庫にはいくらあるのだ?」とオットーは尋ねた。

「殿下」と財務官は抗弁した。「一クラウンたりとも、ただちに必要なのでございます。」

「答えを避けているようだな」と公は鋭く言った。それから脇卓を振り向いた。「書記、国庫の帳簿を持ってきてくれ。」

グラフィンスキーは死人のように青ざめた。首相は次が自分の番だと覚悟して、おそらく祈っていた。ゴンドレマークは巨大な猫のように見守っていた。一方、ゴットホルトは従弟を驚いて眺めていた。確かに気概は見せている。だがこの重大な時に、金の話とはどういうことだ? なぜ私事で力を浪費するのか? 

「これによれば」とオットーは帳簿を指で押さえて言った。「金庫には二万クラウンある。」

「そのとおりでございます、殿下」と男爵は答えた。「しかし負債は――幸い、すべてが即時払いではありませんが――それをはるかに上回ります。現時点で、一フローリンでもほかへ回すことは、道義上不可能です。実質的に、金庫は空なのです。すでに軍需品の多額の請求書が来ております。」

「軍需品?」とオットーは、実に巧みに驚きを装った。「記憶違いでなければ、その勘定は一月に済ませたはずだが。」

「追加の注文がございました」と男爵は説明した。「新たな砲兵装備一式が完成し、銃器五百組、輜重用のラバ七百頭――詳細は別の覚書にございます。ホルツ秘書、覚書を。」

「諸君、まるで戦争にでも行くようではないか」とオットーは言った。

「行くのです」とセラフィナは言った。

「戦争!」と公は叫んだ。「しかも諸君、相手は誰だ? グリューネヴァルトの平和は何世紀も続いてきた。どんな侵略、どんな侮辱を受けたというのだ?」

「殿下、こちらが最後通牒です」とゴットホルトは言った。「まさに署名の最中に、殿下が時宜を得てお越しくださいました。」

オットーは書類を前に置いた。読みながら、指で卓を小刻みに叩いた。「これを」と公は尋ねた。「私の意向を確かめずに送るつもりだったのか?」

日和見男の一人が、早くも風向きを読んで、進んで答えた。「ホーエンシュトックヴィッツ博士が、ただいま異議を申し立てられたところでございます」と付け加えた。

「この件に関するほかの往復文書も、すべて見せてくれ」と公は言った。渡された書類を、初めから終わりまで根気よく読んだ。そのあいだ、評議員たちは、なんとも間の抜けた顔で目の前の卓を見つめていた。

後ろの書記たちは、喜びの目配せを交わしていた。評議会の騒動は、彼らにとって、めったにない歓迎すべき余興だった。

「諸君」と、読み終えたオットーは言った。「読んでいて胸が痛んだ。オーバーミュンスターロールに対するこの要求は、明白に不当だ。正義のかけらも、見せかけすらない。これだけ全部集めても、食後の雑談の種になる程度の根拠さえないのに、無理に開戦の口実にしようというのか。」

「まったくそのとおりです、殿下」とゴンドレマークは答えた。弁護の余地のないものを弁護するほど愚かではなかった。「オーバーミュンスターロールの請求は、単なる口実でございます。」

「よかろう」と公は言った。「首相、ペンを取ってくれ。『評議会は』」と口述を始めた。「私の介入については一切触れない」と、ここで主に妻へ向けて挟んだ。「この件が、妙な隠し立てで私の知らぬうちに運ばれたことも、何も言うまい。間に合っただけで満足だ。『評議会は』」と再び続けた。「『事実をさらに検討し、ゲロールシュタインよりの最新の公文書に付された説明によって理解を深めた結果、事実認識、意向の両面において、ゲロールシュタイン大公宮廷と完全に見解を一にする旨、喜んでお知らせする。』

書けたかね? この趣旨で、公文書を作成してくれ。」

「お許しいただけますなら、殿下」と男爵は言った。「殿下は、この往復文書の内部事情を十分に御存じではありません。いかなる介入も、害になるばかりです。いま御提案になった文書は、グリューネヴァルトのこれまでの政策すべてを、愚行と認めることになります。」

「グリューネヴァルトの政策!」と公は叫んだ。「冗談もわからぬのかと思うぞ! コーヒー茶碗で魚釣りをするつもりか?」

「恐れながら、殿下」と男爵は答えた。「コーヒー茶碗にも毒は入りえます。この戦争の目的は、単に領土を広げることではありません。まして武勲のためではない。殿下のおっしゃるとおり、グリューネヴァルトは、野心を抱くには小さすぎる国です。しかし国家という身体は、深刻な病に侵されています。共和主義、社会主義、さまざまな解体思想が広まり、輪の上に輪を重ね、まことに恐るべき組織が、殿下の玉座の周囲に育っております。」

「そのことは聞いている、ゴンドレマーク殿」と公が口を挟んだ。「もっとも、あなたの情報のほうが確かだと、思い当たる理由もある。」

「わが公の御信頼、光栄に存じます」とゴンドレマークは、少しもひるまず答えた。「したがって現在の外交政策は、この混乱だけを念頭に置いて組み立てられたものです。世間の注意をそらし、職のない者に仕事を与え、殿下の統治の人気を高め、できるなら税を一挙に大幅に引き下げる。そのための何かが必要でした。提案した遠征は――戦争と呼ぶのは大げさですから――必要な条件をすべて備えると、評議会は判断したのです。準備だけでも、すでに民意は目に見えて好転しております。成功が続けば、最も大胆な期待をさえ超える効果が上がると、疑いません。」

「実に巧みだ、ゴンドレマーク殿」とオットーは言った。「感服した。これまで、あなたの才能を正しく評価していなかった。」

オットーが屈したと思い、セラフィナは喜んで顔を上げた。だがゴンドレマークは、隙なく身構えたまま待った。弱い性格の者がひとたび反抗すると、いかに頑固になるかを知っていたからだ。

「では、私が説得されて同意した国民軍の構想も、ひそかに同じ目的を目指していたのか?」と公は尋ねた。

「効果はよかったと、今も信じております」と男爵は答えた。「軍規と衛兵勤務は、すぐれた鎮静剤です。ただ、殿下に申し上げますと、あの布告の時点では、革命運動の規模を把握しておりませんでした。また、あのような国民軍が共和派の構想にも含まれているとは、われわれの誰も考えなかったと思います。」

「そうだったのか?」とオットーは尋ねた。「妙なことだ! どんな理屈をつけて?」

「まことに空想的な理屈でした」と男爵は答えた。「指導者たちは、民衆から集められ、民衆の中へ戻ってゆく国民軍なら、民衆の蜂起の際には、王座への忠誠が鈍るか、裏切るだろうと考えたのです。」

「なるほど」と公は言った。「わかりかけてきた。」

「殿下には、わかりかけておいでですか?」とゴンドレマークは、この上なく丁寧に繰り返した。「何が、とお言葉をお続け願えませんでしょうか?」

「革命の来歴がだ」とオットーは素っ気なく答えた。「それで」と付け加えた。「結論は何だ?」

「殿下、私の結論は、一つの簡単な考察です」と男爵は言った。その一刺しにも、ぴくりともしなかった。「戦争は人気がある。明日にでもその噂を打ち消せば、多くの階層で相当の失望が生まれるでしょう。そして今の張りつめた世情では、わずかな不満でも事態を急転させかねない。危険はそこにあります。革命は目前に迫っている。われわれは、この評議会の卓で、ダモクレスの剣[訳注:一本の毛で頭上に吊られた剣。権力に伴う危険の象徴]の下に座っているのです。」

「それなら、知恵を出し合おう」と公は言った。「名誉を失わずに安全を得る道を考えるのだ。」

図書室長が最初の異議を唱えてから、このときまで、セラフィナが口にしたのは二十語ほどにすぎなかった。頬を少し赤らめ、たいていは目を伏せ、ときおり神経質に足で床を叩きながら、考えを胸に収め、英雄のように怒りを抑えていた。だが戦いがここまで来ると、ついに焦れったさを抑えきれなくなった。

「道ですって!」と叫んだ。「そんなもの、必要だとあなたがお気づきになる前に、見つけて準備してありますわ。公文書に署名して、もうこの引き延ばしはおやめなさい。」

「奥方、私は『名誉を失わずに』と言った」とオットーは頭を下げて答えた。「私の目にも、ゴンドレマーク殿の説明からしても、この戦争は許されぬ方便だ。ここグリューネヴァルトでわれわれが政治を誤ったからといって、ゲロールシュタインの民が血を流し、その代価を払わねばならぬのか? 断じて否だ、奥方。私の生きているかぎりは。しかし、今日初めて耳にしたことは、どれも重大だと考えている――なぜ今日まで聞けなかったかは、いま問うまい――だからこそ、自分の名に恥じずに実行できる策を、ぜひとも見つけたいのだ。」

「見つからなかったら?」と公妃は尋ねた。

「見つからなければ、自分から打撃を迎えよう」と公は答えた。「最初に公然たる不満が起きたら、身分制議会を招集し、議会が求めるなら、退位する。」

セラフィナは怒りの笑いを上げた。「わたくしたちが尽くしてきたのは、この男のためだったのね!」と叫んだ。「変革の話をすれば、手段を考えるという。その手段が退位ですって? 丸一日、炎天の労苦に耐えてきた者たちの中へ、土壇場になって現れて、恥ずかしくはありませんの? ご自分で呆れませんこと? わたくしは、この席にいて、たった一人であなたの威厳を守ろうとしていたのです。あなたが食べたり狩りをしたりしているあいだ、見つかるかぎりの賢い人に相談していました。先を見通して計画を立て、ようやく実行のときを迎えたのに、そこで――」言葉が詰まった。「そこで帰ってくる――たった一午前のために――何もかも壊しに! 明日には、また遊びに戻るのでしょう。わたくしたちに、またあなたのために考え、働くお許しをくださるのでしょう。そしてまた帰ってきて、ご自分には考えつくだけの勤勉さも知識もないものを、また邪魔する。ああ、耐えられないわ! 少しは慎みなさい。ふさわしく支えることもできない地位を、笠に着るのはおやめなさい。わたくしなら、そんなに得意げに命令はしません。従ってもらえるのは、あなた自身の功績ではないのですから。あなたは何者なの? この真剣な評議会に、何の用があるの? お行きなさい」と叫んだ。「身の丈に合う仲間のところへ! 町の人々にまで、公として笑いものにされているくせに。」

思いもよらぬ激発に、評議員たちは一同、呆然とした。

「殿下」と男爵は、警戒も忘れるほど驚いて言った。「お気をお鎮めください。」

「話は私に向かってするのだ!」と公は叫んだ。「こそこそ囁くことは許さん!」

セラフィナは泣きだした。

「殿下」と男爵は立ち上がって叫んだ。「この御方は――」

「ゴンドレマーク殿」と公は言った。「もう一言でも口を出せば、逮捕する。」

「殿下が主君でございます」とゴンドレマークは一礼した。

「もっと常に、それを念頭に置くがよい」とオットーは言った。「首相、書類をすべて私の執務室へ。諸君、評議会は解散する。」

公は一礼して部屋を出た。グライゼンゲサングと書記たちが後に続いた。ちょうどそのとき、急ぎ呼び集められた公妃の侍女たちが別の扉から入り、公妃を支えて連れ出そうとした。

第八章――主戦派、行動を起こす

半時間後、ゴンドレマークは再びセラフィナと二人きりでいた。

「今、あの人はどこに?」と、男爵が来るなり公妃は尋ねた。

「殿下、首相と一緒です」と男爵は答えた。「驚くなかれ、仕事をしております!」

「ああ」と公妃は言った。「わたくしを苦しめるために生まれてきたのだわ! なんという転落、なんという屈辱! あれほどの計画が、あんなつまらぬ男一人で頓挫するなんて! でも、もう何もかもおしまいね。」

「殿下」とゴンドレマークは言った。「何一つ失われてはおりません。むしろ、得たものがございます。殿下は御自分の明晰さを取り戻された。公のありのままを御覧になった。お優しすぎるお心が絡まないときには、いつも万事を御覧になる、その公平な目、政治家の目で。公に介入する権利があるかぎり、未来の帝国はまだ遠いものでした。私は危険をはっきり予見せずに、この道へ踏み出したのではありません。この事態にも備えはありました。しかし殿下、私には二つ、わかっていたことがございます。殿下は命じるために、私は仕えるために生まれたということ。まれな巡り合わせによって、手が道具を見つけたということ。だから初めから、そして今日もなお確信しております。この結びつきを、生まれがよいだけの遊び人などに砕く力はありません。」

「わたくしが、命じるために生まれたですって?」と公妃は言った。「涙を流したのを忘れたの?」

「殿下、あれはアレクサンドロスの涙です」と男爵は叫んだ。「胸を打ち、心を震わせました。私も一瞬、我を忘れました――この私が! しかし、それまでの御態度を見ていなかったとお思いですか。あの見事な自制に、感服しなかったとでも? ええ、あれこそ君主の姿でした!」男爵は言葉を切った。「見ものでございました。私は勇気を飲み込みました。殿下の平静に倣おうとしました。そして、それは正しかった。心の底から、正しかったと思います。理屈の通じる相手なら、誰でも説得できたはずです! しかし、そうはならなかった。とはいえ殿下、私は失敗を悔やんではおりません。率直に申しましょう。胸の内を明かさせてください。私は二つのものを、恥じることなく愛してきました。グリューネヴァルトと、わが君です!」ここで公妃の手に口づけした。「私は大臣の職を辞し、第二の祖国と、自ら仕えると選んだ女王のもとを去らねばならない――さもなければ――」また言葉を切った。

「ああ、ゴンドレマーク殿、『さもなければ』など、ありはしないわ」とセラフィナは言った。

「いいえ、殿下、もう少しお聞きください」と男爵は答えた。「初めてお目にかかったとき、殿下はまだお若かった。誰もがそのお力に気づいたわけではないでしょう。しかし私は、二度目のお話を賜るまでには、わが女主人を見いだしておりました。殿下、私にも多少の才はあると存じます。そして野心は大いにあります。けれど、その才は仕えるためのものです。野心の進む道を開くには、統べるために生まれた人を見つけねばなりませんでした。これが私たちの結びつきの基礎であり、本質です。互いに相手を必要とし、主と従、梃子と支点として、互いの天分を補い合うものを認めたのです。結婚は天で定められると申します。まして、帝国を築くために生まれた、この清らかで勤勉な知性の結びつきは、なおさらではありませんか! それだけではありません。出会ったとき、互いの中には、熟した大きな思想が満ちていました。それが言葉を交わすたびに形を取り、明晰になった。私たちは共に育った――そうです、殿下、心において双子のように育ったのです。出会うまでの私の生涯は、つまらぬ手探りにすぎませんでした。殿下も――ここは遠慮なく、うぬぼれさせていただきましょう――同じだったのではありませんか! あのとき初めて、鷲のような広い眺望、希望に満ちて大きく羽ばたく直観を得られたのです! こうして私たちは自らを形づくり、用意を整えたのでした。」

「本当だわ」と公妃は叫んだ。「よくわかる。才能があるのはあなたよ。寛大さに眼識が曇っているのね。わたくしに差し出せたのは地位だけ、この玉座を支点にすることだけだった。でも、惜しまず差し出した。少なくとも、あなたの考えには心から加わった。あなたはわたくしを信頼できた――わたくしの支えを、公平な扱いを、疑わずにいられた。言って、もう一度言ってちょうだい。わたくしは、あなたの役に立ったのね。」

「いいえ、殿下」と男爵は言った。「私を作ってくださったのです。何事も、殿下が霊感の源でした。一歩一歩を吟味し、政策を練るあいだ、どれほどその明察、男にも劣らぬ勤勉と忍耐に感服したことか! 世辞でないことは、おわかりのはずです。御自身の良心も、同じことを告げているでしょう。一日でも惜しまれましたか。何か楽しみに耽られましたか。若く、美しくありながら、高度な知的努力と、煩わしい細部に耐える知的忍耐の日々を送ってこられた。さあ、その報いが来るのです。ブランデナウが落ちれば、殿下の帝国の玉座は築かれます。」

「何を考えているの?」と公妃は尋ねた。「すべて駄目になったのではないの?」

「いいえ、わが公妃。私たちの胸には、同じ考えがあるのです」と男爵は言った。

「ゴンドレマーク殿」と公妃は答えた。「神聖なすべてのものにかけて、わたくしには何の考えもないわ。何も考えられない。打ちのめされているの。」

「豊かな御本性の、感情の側を御覧になっているのです。誤解され、いましがた侮辱された側を」と男爵は言った。「御知性の中を御覧になって、お答えください。」

「何もないわ。混乱しかない」と公妃は答えた。

「一つの言葉が焼きついております、殿下」と男爵は答えた。「『退位』です!」

「ああ!」と公妃は叫んだ。「あの臆病者! すべてをわたくしに背負わせ、試練のときに背後から刺すのね。あの人には何もない。敬意も、愛も、勇気も――妻も、威厳も、玉座も、父の名誉も、みんな忘れてしまう!」

「そうです」と男爵は続けた。「退位という言葉。そこに、かすかな光が見えます。」

「あなたの考えはわかったわ」と公妃は答えた。「狂気の沙汰よ。真夏の狂気だわ。男爵、わたくしはあの人より人気がない。知っているでしょう。民衆はあの人の弱さを許し、愛することさえできる。でも、わたくしは憎むのよ。」

「民衆の感謝とは、そんなものです」と男爵は言った。「しかし、脇道にそれました。殿下、私の考えを率直に申し上げます。危機のさなかに退位を口にする男は、私には毒のある獣です。事が重大ゆえ、遠慮なく申します。言葉を飾るときではございません。権力の座にある臆病者は、火より危険です。われわれは火山の上に住んでいる。この男の思うままにさせれば、一週間もたたぬうちに、グリューネヴァルトは罪なき者の血で水浸しになります。私の言葉が真実であることは、殿下も御存じです。いつ起きてもおかしくないこの惨事を、私たちは目をそらさずに見つめてきました。ところが公には、どうでもよい。退位するのですから! 退位とは、ああ神よ! その手に託された不幸な国は、男たちの命は、女たちの名誉は……」声が詰まったようだった。だがすぐ感情を抑え、続けた。「しかし殿下は、御自身の責任をもっと尊くお考えです。私も同じ思いです。そして、迫りくる惨禍を前に申し上げます。殿下のお心も同じ言葉を繰り返しておられるはずです――もう、立ち止まるには進みすぎました。名誉も、義務も、そして私たち自身の命を守ることも、前進せよと命じています。」

公妃は考え込むように眉を寄せ、男爵を見ていた。「そう感じるわ」と言った。「でも、どうすれば? 権力はあの人にあるのよ。」

「権力ですと、殿下? 権力は軍にあります」と男爵は答えた。そして公妃が口を挟む前に、急いで続けた。「われわれは自分を救わねばなりません。私はわが公妃を救い、公妃は御自分の大臣を救わねばならない。そして二人で、この分別を失った若者を、その狂気から救わねばなりません。騒乱が起これば、最初の犠牲者になるのは公です。目に見えるようです」と叫んだ。「八つ裂きにされる公が! そしてグリューネヴァルト、哀れなグリューネヴァルトが! いいえ、殿下、お力をお持ちの殿下が、それをお使いにならねばなりません。良心が、それを厳しく命じております。」

「方法を教えて!」と公妃は叫んだ。「あの人を何かの形で拘束したら、その場で革命が起きるわ。」

男爵は降参したふりをした。「そのとおりです」と言った。「殿下のほうが、よく見通しておいでです。それでも、何か道があるはずです。なくてはならない」そう言って、機を待った。

「ないわ」と公妃は言った。「初めから言ったでしょう。手の打ちようがないの。望みは失われたのよ。たった一人の、みじめな遊び人のせいで。無知で、気難しく、気まぐれで――明日にはもう姿を消しているかもしれない。どうせ、あの野蛮な遊びに戻って!」

ゴンドレマークには、どんな取っかかりでもよかった。「それです!」と、額を打って叫んだ。「思いつかなかったとは、愚かなことだ! 殿下、お気づきではないかもしれませんが、いま、問題を解いてくださいました。」

「どういうこと? 言ってちょうだい!」

男爵は考えをまとめるような様子を見せ、それから微笑んだ。「公には、もう一度、狩りに行っていただくのです。」

「ええ、行ってくれさえすれば!」と公妃は叫んだ。「そして、ずっとそこにいてくれれば!」

「ずっとそこにいていただく」と男爵は繰り返した。あまりに意味ありげな言い方だったので、公妃の顔色が変わった。策士は、その不吉な曖昧さを恐れて、急いで説明した。「今度は馬車で狩りに行っていただきます。外国人槍騎兵を、しっかり護衛につけて。行き先はフェルゼンブルク城。空気はよく、岩山は高く、窓は小さく、鉄格子つきです。まるで、このために建てられたようなものです。指揮はスコットランド人のゴードンに任せましょう。あの男なら、ためらいはしません。誰が君主の留守を気にします? 狩りに出たのです。火曜に帰り、木曜にまた出た。いつものことではありませんか。そのあいだに戦争は進み、公はすぐに孤独に飽きるでしょう。われわれが勝利するころ、あるいはよほど頑固なら、もう少し後に、しかるべき了解のもとでお出しする。あとは、また芝居の演出にいそしまれる姿が、目に浮かびます。」

セラフィナは暗い顔で座り、考え込んでいた。「そうだわ」と突然言った。「あの公文書は? 今、書いているところよ。」

「金曜日までは、評議会を通りません」とゴンドレマークは答えた。「私信を送ろうにも、使者はすべて私の指図下にあります。選り抜きの者たちです、殿下。私は用心深い人間ですので。」

「そのようね」と公妃は言った。男爵への、ときおり起きる嫌悪が、一瞬ひらめいた。それから間を置き、「ゴンドレマーク殿」と付け加えた。「そこまでのことをするのは、ためらわれるわ。」

「そのお気持ちは私も同じです」と男爵は答えた。「しかし、ほかにどうなさいます? これをせねば、無防備です。」

「わかるわ。でも、あまりに急なことよ。国に対する罪ではないの」と公妃は言い、恐怖に似たものを浮かべて、男爵へ小さくうなずいた。

「もう少し深く御覧ください」と男爵は答えた。「罪は、誰にあるのでしょう?」

「あの人よ!」と公妃は叫んだ。「神にかけて、あの人に! 責めを負うのはあの人だわ。でも、それでも――」

「危害を加えるわけではございません」とゴンドレマークは控えめに言った。

「わかっているわ」と公妃は答えた。だが、まだ心は定まっていなかった。

すると、勇者には、世界の歴史ほど古い慣習によって、運命の味方と積極的な助力を求める権利があるだけに、時を違えぬ女神が舞台仕掛けから降りてきた。公妃の侍女の一人が、入室を願った。男が一人、ゴンドレマーク男爵宛ての書付を持ってきたという。それは鉛筆書きの短い手紙だった。狡猾なグライゼンゲサングが、オットーの目と鼻の先で、なんとか書き、送り出したものだった。この大胆な行為こそ、当人の恐怖の証だった。グライゼンゲサングを本当に動かすものは、恐怖ただ一つだったからだ。手紙にはこうあった。「次回評議会にて、署名代理権を撤回の予定。――コルン・グライス。」

三年間行使してきた署名権を、セラフィナは剥奪されるのだ。侮辱以上のものだった。公然たる屈辱だった。どうしてそのような結果を招いたのか考える暇もなく、傷ついた虎が跳ねるように、公妃の心はその攻撃に跳ね上がった。

「もう十分」と言った。「命令書に署名するわ。いつ連れてゆくの?」

「兵を集めるのに十二時間かかります。実行は夜がよろしいでしょう。明日の真夜中ではいかがですか?」と男爵は答えた。

「結構よ」と公妃は言った。「男爵、あなたにはいつでも会います。命令書ができしだい、署名させに持ってきて。」

「殿下」と男爵は言った。「この企てで首を賭けていないのは、われわれのうちで殿下お一人です。そのためにも、また一切のためらいをなくすためにも、命令書は全文を御自筆でと、あえてお願い申し上げます。」

「そのとおりね」と公妃は答えた。

男爵は文案を前に置いた。公妃は明瞭な筆跡で命令書を書き、読み返した。ふいに、残酷な笑みが顔に浮かんだ。「あの人の操り人形を忘れていたわ」と言った。「二人で慰め合えばいい」そして行間にゴットホルト博士の処分を書き加え、略署を添えた。

「殿下は、召使より記憶がおよろしい」と男爵は言った。それから今度は自分で、運命を決めるその紙を念入りに読んだ。「結構です」と言った。

「男爵、今夜の集まりにはいらっしゃる?」と公妃は尋ねた。

「人前で侮辱されるおそれは、避けたほうがよいかと存じます」と男爵は言った。「私の信用が揺らぐようなことがあれば、当面の計画に差し障りますので。」

「そうね」と公妃は言い、旧友か対等の者に対するように、手を差し出した。

第九章――リバー・ファームの代価、虚栄は転落に先立つ

拳銃は、事実上、撃ち尽くされていた。ふだんなら、評議会の一幕で、オットーの気力も怒りも、すっかり底をついたはずだった。自分の行動を省みて責め、セラフィナの猛攻のうち正しかった点だけを思い出し、不当な点をすべて忘れ、半時間後には、カトリック信徒なら告解室へ、酒飲みなら酒瓶へ逃げ込むような心持ちに陥っただろう。だが、二つの細かな事情が、公の元気を保った。第一に、処理すべき仕事が山ほど残っていた。オットーのように怠りと先延ばしを習いとする者には、仕事を片づけることが、良心の痛みを鎮める何よりの薬になる。午後じゅう、首相とともに、文書を読み、口述し、署名し、発送する仕事に精を出した。それが自己満足の熱を絶やさなかった。第二に、虚栄心はなお脅かされていた。金が手に入らなかった。明日の正午前には、老キリアンを失望させねばならない。自分を軽く見ていたあの一家に、勇ましい救い手を演じようとしたのに、かえって以前より低く見られることになる。オットーの気質には、それは死にも等しかった。受け入れることはできなかった。嫌いな公国政治の細部に向き合い、賢明に、見事に仕事を進めながらも、ひそかに形勢を変える計画を練っていた。一人の男としては楽しく、公としては不名誉な計画だった。その中で軽薄な本性が、午後の重苦しさと負担に、仕返しの道を見いだした。思いつくたび、公はくすくす笑った。グライゼンゲサングは驚いて耳を傾け、その陽気さを午前中の小戦のせいだと考えた。

そう思った年古い廷臣は、思いきって主君の振る舞いを褒めた。先代の公を思わせた、と言った。

「何のことだ?」と、思いが遠くへ飛んでいた公は尋ねた。

「評議会でお示しになった御威厳でございます」と、おべっか使いは説明した。

「ああ、あれか! ああ、そうだね」とオットーは答えた。何気ない口ぶりだったが、虚栄心は優しくくすぐられた。考えは戻り、勝利の細部を満足げに反芻した。「皆を押さえつけてやった」と思った。

急を要する用件が片づいたときには、すでに遅くなっていた。オットーは首相を夕食に引き留め、昔話と新しい世辞をひとしきり聞かせてもらった。首相の出世は、出発点から、ひたすら従属することに支えられていた。這い回って栄誉と官職を手にし、心まで売り渡していた。その生き物としての本能は、オットーを相手に存分に働いた。まず、女の知性を嘲る言葉を一つ二つ落とした。そこからもっと近くへ踏み込み、三皿目が出る前には、うなずく夫の前で、巧みにセラフィナの性格を解剖していた。もちろん名前は出さなかった。また、公妃といつも対比される抽象的、理想的な男性が誰であるかも、もちろん公然の秘密のままだった。それにしても、この堅苦しい老紳士には、悪事のすばらしい本能があった。そうして人の心の城塞へ忍び込み、聞き手の美徳を何時間も唱えながら、自尊心を一度も警戒させないのだから。世辞とトカイ酒と、満足した良心とで、オットーは内も外も薔薇色になっていた。自分が、この上なく魅力的に見えた。グライゼンゲサングでさえ、セラフィナの性格のほころびを見つけ、敵陣へ不忠実に漏らすのなら、自分――捨てられた夫、権利を奪われた公――の態度が、厳しすぎたはずはない。

この申し分ない気分で、ひどく耳に心地よい声の老人に別れを告げ、公は夜の集まりへ向かった。階段ですでに、少し良心が痛んだ。だが大回廊へ入り、妻の姿を見ると、首相の抽象的な世辞は雨のように剥がれ落ち、生の詩的な現実に目覚めた。妻はかなり離れたところ、輝くシャンデリアの下に、背を向けて立っていた。その腰の曲線に、身体から力が抜けた。腕の中に抱き、大切にすると誓った若い妻だった。あそこにいるのは、成功よりも大切な人だった。

その衝撃から公を引き戻したのは、セラフィナ自身だった。すべるように近づき、侮辱的なほど作りものの甘さで、夫に微笑んだ。「フレデリック」と、甘ったるく言った。「遅かったのね」不幸な結婚につきものの、洗練された喜劇の一場面だった。その平然たる身のこなしに、公は嫌気がさした。

こうした小さな夜会には、儀礼はなかった。人々は気ままに出入りした。窓のくぼみは幸福な二人連れの止まり木となり、大暖炉のそばには、噂をたっぷり仕込んだ話し好きが集まり、遠い端では賭博好きが勝負に熱中していた。オットーはその方へ、これ見よがしではなく、しかし静かに目的を持って進み、途中でも愛想を振りまいた。カード卓の横まで来ると、ローゼン夫人の向かいに立った。目が合うや、窓のくぼみへ退いた。夫人はすぐにやってきた。

「呼んでくださって助かりましたわ」と、少し荒んだ声で言った。「このカードで、わたくしは破滅します。」

「おやめなさい」とオットーは言った。

「わたくしが!」と夫人は叫んで笑った。「これが運命ですもの。助かる道は、肺病で死ぬことぐらいでしたわ。今となっては、屋根裏で死ぬしかありません。」

「今夜は辛辣だね」とオットーは言った。

「負け続けていますの」と夫人は答えた。「欲というものを、殿下は御存じないのよ。」

「では、悪いときに来てしまったな」と公は言った。

「あら、お願い事がおありなのね!」と夫人は叫び、美しく顔を輝かせた。

「奥方」と公は言った。「いよいよ自分の党を作ろうと思う。仲間を一人、勧誘に来たのだ。」

「承知しました」と伯爵夫人は言った。「また男に戻れますわ。」

「間違っているかもしれないが」とオットーは続けた。「あなたは私に悪意を抱いていないと、心から信じている。」

「お幸せを願いすぎて」と夫人は言った。「とても口にはできませんわ。」

「では、願いを言っても?」と公は尋ねた。

「どうぞ、わが公様」と夫人は答えた。「どんなことでも、承知しております。」

「今夜じゅうに」と公は答えた。「例の話の農夫を、作ってほしいのだ。」

「何のことか、神様にしかわかりませんわ!」と夫人は叫んだ。「わたくしにはわかりませんし、どうでもよいの。あなたに喜んでいただきたい気持ちには、限りがありませんもの。もうできたとお思いなさいませ。」

「別の言い方をしよう」とオットーは答えた。「盗みを働いたことはあるかね?」

「何度も!」と伯爵夫人は叫んだ。「十戒は、すべて破りましたわ。明日また増えたとしても、それを全部破るまでは眠りません。」

「今度は押し込みだ。実を言うと、あなたなら面白がるだろうと思った」と公は言った。

「実地の経験はありませんけれど」と夫人は答えた。「ああ、やる気なら十分ですわ! 裁縫箱をこじ開けたことはありますし、人の心を壊したことも幾度か。自分の心も含めてね。でも家は、まだ一度も! たいして難しくはないでしょう。罪って、夢もないほど簡単ですもの。何に押し入るの?」

「奥方、国庫に押し入るのだ」とオットーは言った。そして農場を訪れたこと、買うと約束したこと、今朝の評議会で金を求めて断られたことを、手短に、機知をこめ、ときには哀感を交えながら語った。最後に、国庫の窓や、計画を助けるもの、妨げるものについて、実際的な説明を少し添えた。

「お金を断られたのですって」と、話が終わると夫人は言った。「それをお受け入れになったの? まあ!」

「向こうにも理由があった」とオットーは顔を赤らめて答えた。「反論できるような理由ではなかったのだ。それで、自国の金を盗んで浪費するところまで追い込まれた。威厳ある行いではないが、愉快ではある。」

「愉快、ええ」と夫人は言った。それから、しばらく黙って考え込んだ。「おいくら必要なの?」と、やがて尋ねた。

「三千クラウンあればいい」と公は答えた。「自分の金が、まだ少しあるのでね。」

「結構ですわ」と夫人は、陽気さを取り戻して言った。「忠実な共犯者になりましょう。それで、どこで落ち合いますの?」

「庭園の飛翔するメルクリウス像は知っているね?」と公は答えた。「三本の小道が交わるところだ。腰掛けがあり、像が立っている。場所も便利だし、神様もわれわれ向きだ[訳注:メルクリウスは盗賊の守護神でもある]。」

「お子様ね」と夫人は言い、扇で公を軽く叩いた。「でも、公様、あなたはわがままですわ。その便利な待ち合わせ場所は、わたくしには何マイルも先なのよ。十分な時間をくださいな。どう考えても、二時より前には行けません。でも鐘が二時を打てば、お助け役は現れます。歓迎してくださるといいのですけれど。お待ちになって――誰かお連れになる?」と付け加えた。「ああ、付き添いがほしいからではありませんわ。お堅い女ではありませんもの!」

「うちの馬丁を一人連れてゆく」とオットーは言った。「穀物を盗んでいたのを捕まえた男だ。」

「名前は?」

「いや、知らないのだ。穀物泥棒とは、まだそれほど親しくなくてね」と公は答えた。「専門家としての資格で――」

「わたくしと同じね! お上手ですこと!」と夫人は叫んだ。「でも、一つだけ言うことを聞いて。あの腰掛けで待っていてくださいな。ええ、あなたがわたくしを待つのです。今度の遠征では、公と伯爵夫人ではなく、貴婦人と従者なのですから。そして、泥棒のお友達は、噴水より近くへ寄こさないで。お約束?」

「奥方、何事もあなたの御命令どおり。あなたが船長、私はただの荷役係だ」とオットーは答えた。

「では、天の御加護で、無事に港へ着きますように!」と夫人は言った。「金曜日でもありませんしね!」

夫人の様子には、公を惑わせ、あるいは疑いさえ抱かせるものがあった。

「妙ではないかね」と公は言った。「敵陣から共犯者を選ぶとは。」

「お馬鹿さん!」と夫人は言った。「でも、友達を見分けることだけは、あなたの賢いところですわ」そして突然、深い窓の陰を利用して公の手を取り、一種の激しさをもって口づけした。「さあ、お行きなさい」と付け加えた。「今すぐに。」

公は少々うろたえて立ち去り、大胆に過ぎたのではないかと心中で疑った。その瞬間、夫人は宝石のようにきらめいて見えた。先立つ愛という堅い鎧をまとっていながら、なお衝撃を感じたのだ。だが次の瞬間には、その恐れを払いのけた。

オットーも伯爵夫人も、夜会を早く辞した。公は念入りに別の用があるふりをしてから従僕を下がらせ、私用の通路と裏の小門を通って、馬丁を捜しに出た。

またも厩は暗闇に包まれ、またもオットーは魔法のような合図で戸を叩き、またも馬丁が現れて、恐怖に青ざめた。

「こんばんは、友よ」とオットーは愛想よく言った。「穀物袋を一つ持ってきてほしい。今度は空のをね。それから、私についてきてくれ。一晩じゅう出かける。」

「殿下」と男は呻いた。「私は小厩を任されております。ここには私一人しかおりません。」

「おいおい」と公は言った。「そこまで厳格に務めを守る男でもあるまい」それから、相手が頭から足まで震えているのを見て、肩に手を置いた。「危害を加えるつもりなら」と言った。「私がここへ来ると思うか?」

男はたちまち安心した。袋を取り出すと、オットーは道すがら愛想よく話しながら、幾つもの小道や並木道を通って連れていった。やがて、ぎょろ目のトリトンが、とぎれとぎれに水を吐き、受け鉢に波紋を立てている噴水のそばで待たせた。そこから公は一人で、円い空き地へ向かった。ジャンボローニャのメルクリウス像の模作が、星明かりの薄闇の中、爪先で立っていた。夜は暖かく、風がなかった。細い削り屑のような新月が少し前に昇っていたが、まだ小さく、空の低いところにあり、無数の小さな光の軍勢にはかなわなかった。起伏のある地面は、星明かりに浸されていた。遠ざかるにつれて幅が広がる並木道の一つからは、灯のともるテラスの一部が見え、歩哨が黙々と往復していた。その向こうには、街灯の交錯する町の一角があった。だが周囲の若木は、ほのかな光の中に神秘的にぼやけて立ち、微動だにしない静寂の中で、跳び上がる神の像だけが、生きているように見えた。

夜のこの薄闇と静けさの中で、オットーの良心は、町の時計の文字盤のように、突然、くっきりと光りだした。心の目をそむけても、針は素早く進み、息を呑むほど多くの悪事を次々に指した。こんな場所で、何をしているのだ? 金は不当に浪費された。しかし、その大きな原因は、自分の怠慢だった。そして今、怠けて治めなかった国の財政を、さらに困らせようとしている。今また金を浪費しようとしている。しかも今度は、寛大な目的ではあっても、私事のために。そして、穀物を盗んだと叱った男に、今度は国庫を盗ませようとしている。さらにローゼン夫人のことがあった。公は貞節な男が不完全な女に向ける、あの醜い軽蔑を、いくらか夫人にも抱いていた。良心の咎めなど感じぬほど堕ちた女と思っていたからこそ、さらに堕とす相手として選び、この不名誉な行為への加担によって、夫人の不規則な生活の基盤をすべて危険にさらさせようとした。それは誘惑より醜かった。

オットーは勢いよく歩き、せわしなく口笛を吹くほかなかった。やがて、いちばん狭く暗い並木道に足音を聞くと、どっと安堵が湧き、伯爵夫人を迎えようと飛び出した。たった一人で自分の善い天使と格闘するのは、なんとつらいことか! そして、ちょうどよいときに、自分より徳が低いに違いない仲間が現れるとは、なんとありがたいことか! 

やって来たのは若い男だった。小柄で、独特の歩き方をし、幅広のつばが揺れる帽子をかぶり、重い袋を、ひどく疲れた様子で運んでいた。オットーは後ずさった。だが若者は合図に手を上げ、最後の力を振り絞るように、息を切らして駆け寄ると、袋を地面へ置き、腰掛けに身を投げ出した。現れた顔は、ローゼン夫人だった。

「あなたか、伯爵夫人!」と公は叫んだ。

「違います、違います」と夫人は喘いだ。「ローゼン伯爵――わたくしの弟です。実にいい男ですの。息をつかせてやって。」

「ああ、奥方……」と公は言った。

「伯爵とお呼びなさい」と夫人は答えた。「お忍びの身を尊重して。」

「では、伯爵」と公は答えた。「その勇敢な紳士に、ただちに仕事へ取りかかっていただきたいのだが。」

「ここへお座りなさい」と夫人は、腰掛けの向こうの隅を叩いた。「すぐについていきますわ。ああ、疲れた――心臓がどんなに跳ねるか、触ってごらんなさい。泥棒さんはどこ?」

「持ち場にいる」とオットーは答えた。「紹介しようか? なかなかよい仲間になりそうだ。」

「いいえ」と夫人は言った。「まだ急かさないで。お話がありますの。泥棒さんが嫌いなのではなくてよ。わたくし、悪いことをする気概のある人は、誰でも大好きですもの。わが公様に恋するまでは、美徳なんて気にも留めませんでしたわ」音楽のように笑った。「それに今だって、あなたの美徳に恋したのではありませんけれど」と付け加えた。

オットーは当惑した。「さて」と尋ねた。「少しは休めたかな?」

「もう少し、もう少し。息をつかせて」と夫人は言い、先ほどより少し激しく喘いだ。

「何でそんなに疲れたのだ?」と公は尋ねた。「この袋か? それに、いったい何を思って袋など? 空袋なら、私の用意に任せてくれればよかったのに。しかも、これはとても空には見えない。伯爵殿、どんながらくたを背負ってきたのだね? まあ、自分で見るのが早い」そう言って手を伸ばした。

夫人はすぐに止めた。「オットー」と言った。「だめ――そういう形では。話します。すっかり白状するわ。もう済んでいるの。わたくし一人で国庫を盗みました。三千二百クラウンあるわ。ああ、どうか足りますように!」

あまりに明らかな狼狽ぶりに、公は考え込み、夫人の顔を見つめた。手はなお差し伸べたまま、夫人はその手首をつかんでいた。「あなたが!」と、やがて言った。「どうやって?」それから身を起こした。「ああ、奥方」と叫んだ。「わかった。よほど公を見くびっておいでなのだな。」

「ええ、では、嘘でした!」と夫人は叫んだ。「このお金はわたくしのもの。正真正銘、わたくしのもの――今はあなたのものよ。あなたがしようとしたことは、ふさわしくない行いだった。でも、わたくしはあなたの名誉を大切に思っています。嫌だとおっしゃっても、守り抜こうと誓ったの。どうか、守らせてください」ふいに声が美しく変わった。「オットー、お願い、守らせて。あなたを愛する哀れな友達から、こんなつまらない金など、受け取って!」

「奥方、奥方」とオットーは、苦しさのあまり口ごもった。「できない――もう行かねば。」

立ち上がりかけると、夫人はたちまち目の前の地面に膝をつき、その両膝を抱きしめた。「だめ」と喘いだ。「行かせません。そこまでわたくしをお蔑みになるの? こんなの、ただの金よ。大嫌いなの。賭け事で浪費して、何も残らないだけだわ。これは投資なの。わたくしを破滅から救うためなのよ。オットー」と、公がまた弱々しく引き離そうとすると叫んだ。「こんな恥をかかせたまま、一人で置いていったら、ここで死んでしまうわ!」公は声を上げて呻いた。「ああ」と夫人は言った。「わたくしの苦しみを考えて! あなたが気兼ねで苦しむなら、わたくしがこの恥にどれほど苦しむか、考えて! たかが金まで受け取ってもらえないなんて! わたくしから受け取るより盗むほうがましなのね。それほど卑しい女と思っているのね! わたくしの心を踏み砕くほうがよいのね! ああ、つれない方! ああ、わが公様! オットー! どうか憐れんで!」夫人はなお抱きつき、それから公の手を探り当て、口づけで覆った。公は目眩がした。「ああ」と夫人はまた叫んだ。「わかったわ! なんて恐ろしい! わたくしが年を取ったから、もう美しくないからなのね」そして激しく泣き崩れた。

これがとどめの一撃だった。オットーはなんとか慰め、落ち着かせねばならなくなった。幾言も交わさぬうちに、金は受け取られた。女と弱い男のあいだでは、避けられぬ結末だった。ローゼン夫人はたちまち泣きやんだ。震える声で礼を言い、オットーから離れた腰掛けの端へ戻った。「これでおわかりでしょう」と言った。「泥棒さんを遠くに置いてと頼んだわけも、一人で来たわけも。宝物のために、どれほどひやひやしたことか!」

「奥方」とオットーは、涙まじりの弱々しい声で言った。「もう許してほしい! あなたは善良すぎる、気高すぎる!」

「驚きますわ」と夫人は答えた。「大きな愚行を避けられたのです。あの善良なお年寄りとの約束も果たせます。友達のお金には、すばらしい投資先を見つけてくださいました。空しい遠慮より、本当の親切を選んだのに、それを恥じていらっしゃる! 友達を幸福にしておいて、今度は鳩のように嘆くなんて! さあ、元気をお出しなさい。まったく正しいことをしてしまうと、気が沈むのはわかりますけれど、習慣にしなければよいのですわ。今度の美徳は、ご自分でお許しなさいな。さあ、わたくしの顔を見て、笑って!」

公は顔を見た。女に抱きしめられた男の目には、その女が魔法を帯びて映る。そのようなとき、惑わす星のほの明かりの中では、女は驚くほど美しく見えるものだ。髪には光が触れ、目は星座になり、顔は影で描かれる――情熱が描いた素描、とでもいうべきものになる。オットーは敗北を慰められ、興味を覚えはじめた。「いや」と言った。「恩知らずではないつもりだ。」

「面白いことをさせてくださると、お約束でしたわね」と夫人は笑った。「同じくらい面白いことを、お返ししましたわ。嵐のような一幕でしたこと。」

公も笑った。どちらの笑い声も、あまり安心できる響きではなかった。

「さあ」と夫人は続けた。「あの見事な台詞回しに、何をくださるの?」

「お望みのものを」と公は言った。

「何でも? 名誉にかけて? 王冠をくださいと言ったら?」夫人は勝利の美しさに輝き、公を見つめた。

「名誉にかけて」と公は答えた。

「王冠をいただこうかしら」と夫人は続けた。「いいえ、そんなもの、どうしましょう? グリューネヴァルトは小さな国。わたくしの野心は、もっと大きいの。お願いするのは――考えてみると、欲しいものはありませんわ」と結んだ。「代わりに、わたくしから差し上げます。口づけしてよろしいわ――一度だけ。」

オットーは近づき、夫人は顔を上げた。二人とも微笑み、今にも笑いだしそうだった。何もかも無邪気な遊びだった。だが唇が触れると、公は突然、全身を揺さぶる衝撃に呆然とした。二人はすぐに離れ、しばらく言葉を失って座っていた。オットーは沈黙に危険が潜むのを漠然と感じたが、何も言えなかった。ふいに伯爵夫人が目覚めたように、「奥様のことですけれど――」と、明瞭で落ち着いた声で切り出した。

その言葉に、オットーは身を震わせ、夢から引き戻された。「妻の悪口は聞かない!」と激しく叫んだ。それから我に返り、もっと優しい口調で付け加えた。「私のたった一つの秘密を話そう。私は妻を愛しているのだ。」

「最後まで言わせてくださればよかったのに」と夫人は微笑んだ。「わざと奥様の話をしたとはお思いにならないの? あなた、我を忘れていたでしょう。わたくしもです。さあ、言葉ぐらいで恥ずかしがらないで」と、少しきつく付け加えた。「わたくし、それだけは軽蔑します。お馬鹿でなければ、あなたの美徳のまわりに砦を築いていることが、おわかりでしょう。とにかく、あなたへの恋に死ぬほど苦しんでいるのではないと、わかっていただきたいの。これは笑って済むお話。わたくしに悲劇はいりません! さて、奥様について言いたかったのは、こういうことです。奥様はゴンドレマークの愛人ではありませんし、これまでもそうだったことはありません。もしそうなら、あの男が自慢しないはずはありませんもの。おやすみなさい!」

そう言うと、たちまち夫人は並木道の奥へ消えた。オットーは、金の袋と飛翔する神とともに、一人残された。

第十章――ゴットホルト、見解を改める――そして転落は完了する

伯爵夫人は、哀れなオットーに愛撫と平手打ちを同時に与えて去った。妻についての嬉しい言葉も、貞節を守って終わった会見も、むろん公を喜ばせるはずだった。だがそれでも、金の袋を肩に担ぎ、馬丁のもとへ戻りはじめたとき、心のあちこちが痛んだ。道を誤り、その誤りを正されることは、男の虚栄心には二重の試練にしかならない。自分の弱さと、不実になりかねぬ性質を見いだしたことが、心の芯まで揺さぶった。同じ時に、妻を愛してもいない女から妻の貞節を聞かされたことは、その驚きの苦さを増した。

噴水と飛翔するメルクリウス像のちょうど中ほどまで来て、ようやく考えがはっきりしはじめた。そして、その考えが恨みがましいのに驚いた。腹立たしげに立ち止まり、小さな灌木を手で叩いた。たちまち眠りを破られた雀が群れをなして飛び立ち、たちまち散って、茂みに消えた。公はぼんやりとそれを見送り、消えたあとも星を見つめ続けた。「私は怒っている。何の権利があって? 何の権利もない!」と思った。だが、まだ怒っていた。ローゼン夫人を罵り、すぐに悔いた。肩の金は重かった。

噴水に着くと、公は不機嫌と見栄から、許しがたいことをした。不正直な馬丁に、金を丸ごと渡したのだ。「明日、取りに来るまで預かっておいてくれ」と言った。「大金だ。それで、私がお前を見限ったわけではないとわかるだろう」そして、何か寛大なことをしたかのように、肩をそびやかして大股に立ち去った。銃剣を突きつけて自尊心を奪い返そうという、やけっぱちの一撃だった。そして、そういう試みがみなそうであるように、結局は実を結ばなかった。床には悪魔と一緒に入ったらしく、足を蹴り、寝返りを打ち、夜が白むまで眠れなかった。それから間の悪いことに、鉛のような眠りに落ち、目覚めると十時だった。結局、老キリアンとの約束を逃すなど、あまりに悲惨な失策だ。公は大急ぎで支度し、馬丁が――驚いたことに――忠実に預かりものを守っていたのを確かめ、正午の数分前、モーニング・スターの客間に着いた。キリアンは晴れ着を着て、ひどく痩せ、こわばって見えた。ブランデナウから来た法律家が、広げた書類を見張っていた。馬丁と宿の主人が証人として呼ばれた。あの大人物たる宿屋の主人が、露骨にへりくだる様子に、老農夫は明らかに驚いていた。だがオットーがペンを取り、署名するまでは、真相をすっかり悟るには至らなかった。わかった途端、老人はすっかり我を忘れた。

「公殿下!」と叫んだ。「公殿下!」事実を十分に呑み込めるまで、そう繰り返した。それから証人たちに向き直った。「皆さん」と言った。「あなたがたは、神様にたいそう恵まれた国に住んでおいでだ。良心にかけて申しますが、気前のよい御仁は数あれど、このお方こそ王様だ。わしは年寄りで、よいことも悪いことも、大飢饉の年も見てきた。だが、これほど立派な御仁は、いや、一度もお目にかかったことがない。」

「それは承知しております」と宿の主人が叫んだ。「グリューネヴァルトでは、皆よく存じておりますとも。もっと殿下のお姿を拝めれば、なおありがたいのですが。」

「ほんとうにお優しい公様で」と馬丁は言いかけ、急に嗚咽を呑み込んで口を閉じた。皆、その感激を見ようと振り向いた。オットーも遅れを取らなかった。これほど感謝している男を見て、胸に悔いが刺さった。

次は法律家が賛辞を述べる番だった。「摂理が何を用意しているかは、わかりません」と言った。「しかし今日は、殿下の御治世の記録に、輝く一日となるでしょう。軍勢の歓声とて、この誠実な顔々に浮かぶ感動ほど、雄弁ではありますまい」ブランデナウの法律家は、好機を見つけてつかんだ男の顔で、一礼し、軽く身を弾ませ、一歩退いて嗅ぎ煙草を吸った。

「さて、お若い旦那様」とキリアンは言った。「旦那様などと無遠慮にお呼びするのを、お許しくださるなら、これまでにもよいお仕事を数々なさったでしょう。だが、これよりよい仕事、これほど祝福される仕事は、なかったはずです。あなたが召された高いお立場で、どれほどのお幸せと勝利をお得になろうと、年寄り一人の祈りが加わって、悪くなることはありますまい!」

場はほとんど、喝采を浴びる式典のようになった。そこを抜け出したとき、公の思いは一つだった。確実に褒めてもらえるところへ行こう。評議会での行動は、なかなか立派な一章だったと思い当たった。それでゴットホルトを思い出した。ゴットホルトのところへ行こう。

ゴットホルトはいつものように図書室にいた。オットーが入ると、少々腹立たしげにペンを置いた。「さて」と言った。「来たか。」

「さて」とオットーも返した。「われわれは革命を起こしたらしいね。」

「私も、それを恐れている」と博士は答えた。

「どういうことだ?」とオットーは言った。「恐れる? 恐れるのは、火傷をした子供だ。私は自分の強さと、ほかの連中の弱さを知った。これからは統治するつもりだ。」

ゴットホルトは何も言わず、目を落として顎を撫でた。

「不賛成なのか?」とオットーは叫んだ。「君は風見鶏だ。」

「逆だ」と博士は答えた。「観察して、恐れていたことが確かになった。駄目だよ、オットー。駄目なのだ。」

「何が駄目なのだ?」と公は問いただした。吐き気のするような痛みが、胸を刺した。

「すべてだ」とゴットホルトは答えた。「君は行動する生活に向いていない。持久力も、習慣も、自制も、忍耐も足りない。奥方のほうが、ずっとましだ。はるかにましだ。悪い手にかかってはいるが、まるで違う適性を示している。あの方は実務の人だ。君は――君、君は君自身なのだ。楽しみに戻りなさい。私はにこやかな校長として、君に一生の休暇を与える。そうだ」と続けた。「誰にも、自分の哲学をひっくり返す日が来る。私は何もかも、公平に信じなくなっていた。諸学問の地図帳で、とりわけ信じなかった二枚を挙げるなら、政治と道徳だった。君の悪徳には、ひそかな好意さえあった。それが消極的なものだったから、私の哲学に都合がよかった。ほとんど美徳とまで呼んだ。だが、オットー、私が間違っていた。懐疑の哲学は捨てた。そして君の欠点は、許しがたいとわかった。君は公にも、夫にも向いていない。はっきり言おう。善をしようとうろたえる男より、悪をてきぱき行う男を見るほうが、私にはましだ。」

オットーは、ひどく腹を立てたまま、なお黙っていた。

やがて博士は続けた。「小さいほうの問題から取り上げよう。奥方への振る舞いだ。会いに行って、話し合いをしたそうだね。それがよかったか悪かったかは、知らない。ともかく、あの方の気を荒立てた。評議会で侮辱されると、君は侮辱を返した。男が女に、夫が妻に、人前で! そのすぐあとで、署名権を取り上げると言いだす――話は野火のように広まっているぞ。あの方に、それを許せると思うか? 女だぞ。若く、野心があり、自分の才能が君より上だと知っている女だぞ。決して許さない、オットー。おまけに、結婚生活のこんな危機に、あの流し目のローゼン夫人と窓の隅へ入り込む。悪いことがあったとは、夢にも思わん。だが妻に対する、無用な無礼だったとは言う。そもそも、あの女はまともではない。」

「ゴットホルト」とオットーは言った。「伯爵夫人の悪口は聞かない。」

「よい話なら、なおさら聞けまい」とゴットホルトは答えた。「妻に非の打ちどころのない慎みを求めるなら、宮廷から評判の怪しい者を追い払うことだ。」

「世間の決まり文句による、ありふれた不公平だ」とオットーは叫んだ。「男と女で扱いを変えている。彼女の評判が怪しいなら、ゴンドレマークはどうなのだ? 彼女が男なら――」

「同じことだ」とゴットホルトは荒々しく言い返した。「分別のつく年になって、意味深なことばかり言い、自分の悪徳を自慢する男を見たら、私は顔をそむけて唾を吐く。『君、君は紳士ですらない』と言ってやる。

そう、あの女は淑女ですらない。」

「私にとって、いちばんの友人だ。敬意を払ってもらいたい」とオットーは言った。

「君の友人なら、なお悪い」と博士は答えた。「それだけでは済むまい。」

「ああ!」とオットーは叫んだ。「それが美徳の慈悲か! 染みのついた果物は、すべて腐っているというわけだ。だが君、ローゼン夫人に対して、途方もなく不当なことを言っているぞ。」

「君に、そう言えるのか?」と博士は鋭く言った。「試したのか? 境界を見回ってきたのか?」

オットーの顔に血が上った。

「ああ!」とゴットホルトは叫んだ。「奥方を見て、恥じたまえ! あれほどの妻を娶っておきながら、失うとは! カーネーションのような人だ、オットー。魂が目に宿っている。」

「セラフィナへの調子が変わったようだね」とオットーは言った。

「変わっただと!」と博士は赤くなって叫んだ。「いつ違ったことがある? ただ、評議会では感嘆したことは認める。黙って座り、足をとんとんさせていたとき、私は暴風雨を眺めるように見とれた。もし私が結婚に乗り出す人間なら、あの人こそ、心をそそる獲物だったろう! メキシコがコルテスを誘ったように、あの人は誘う。征服は難しく、住民は敵意を抱いている――残酷でもあると思う――だが都には黄金が敷きつめられ、風は楽園から吹いてくる。そうだ、あの征服者にはなってみたい。しかしローゼン夫人と浮かれ遊ぶなど、決して御免だ! 官能? そんなものは捨てる。何だ、それは――むず痒さにすぎん! 好奇心? それなら解剖学の本を持ってきてくれ!」

「誰に向かって話しているのだ?」とオットーは叫んだ。「ほかならぬ君は、私が妻を愛していると知っているはずだ!」

「ああ、愛!」とゴットホルトは叫んだ。「愛は立派な言葉だ。どの辞書にも載っている。君が愛していたなら、あの人も報いただろう。何を求めていると思う? ほんの少しの熱意だ!」

「二人分を愛するのは難しい」と公は答えた。

「難しい? そこが試金石なのだ! ああ、詩人ならよく読んでいるぞ」と博士は叫んだ。「われわれは塵と火にすぎず、それでも人生の灼熱に耐えねばならない。愛は、大きな岩の陰のように、避け場所と涼しさを与えるべきものだ。愛する男だけでなく、その女にも、二人に授けられた子供にも。その安らぎの縁には、友人たちまで憩いを求めるはずだ。家庭を築けない愛など、愛ではない。恨み、言い争い、あら探しをすることが愛なのか? 面と向かって邪魔をし、侮辱を投げ合うことが愛なのか? 愛だと!」

「ゴットホルト、それは不公平だ。あのときは国のために戦っていた」と公は言った。

「そう、そこがいちばん悪い」と博士は答えた。「君は自分が間違っていることすら見えなかった。あそこまで来た以上、退却は破滅だったのだ。」

「だが、君は私を支持したではないか!」とオットーは叫んだ。

「支持した。君と同じ愚か者だった」とゴットホルトは答えた。「だが今は目が覚めた。君がこのまま進み、あのゴンドレマークを失脚させ、夫婦の不和を世間にさらせば、グリューネヴァルトに、この上なく忌まわしいことが起きる。革命だ、君。革命だよ。」

「赤の人間にしては、妙なことを言う」とオットーは言った。

「赤い共和主義者ではあるが、革命家ではない」と博士は答えた。「グリューネヴァルト人が酔うと、見苦しいものだぞ! この瀬戸際から国を救える男は、ただ一人だ。二枚舌のゴンドレマークだ。頼むから、和解してくれ。救うのは君ではない。君であるはずがない。奥方が言ったとおり、地位を利用するほか何もできない君には。何時間も金をねだっていた君には! それに、いったい何のためだ? なぜ金なのだ? どんな途方もない愚行が隠れていた?」

「悪い目的ではなかった。農場を買うためだ」とオットーは不機嫌に答えた。

「農場を買うため!」とゴットホルトは叫んだ。「農場を買うだと!」

「それがどうした?」とオットーは答えた。「言っておくが、もう買ったのだ。」

ゴットホルトは椅子の上で跳び上がった。「どうやってだ?」と叫んだ。

「どうやって?」とオットーは、ぎくりとして繰り返した。

「そう、どうやってだ!」と博士は答えた。「金は、どうして手に入れた?」

公の顔が曇った。「それは私のことだ」と言った。

「ほら、恥じているではないか」とゴットホルトは言い返した。「国の危機に農場を買ったわけだ。むろん、退位への備えだろう。そして資金は盗んだと、私は見る。金を得る道は三つない。二つだけだ。稼ぐか、盗むかだ。そしてカール五世と盗っ人トムを一人で兼ねたあげく、虚栄心を補強してもらおうと、私のところへ来たのか! だが、この件については、はっきり言っておく。その取引の是非がわかるまで、私は握手を断る。どれほど情けない公であろうと、紳士としては潔白でなければならん。」

公は紙のように青ざめ、立ち上がっていた。「ゴットホルト」と言った。「君は私を限度の外へ追い込む。気をつけたまえ、君、気をつけたまえ!」

「私を脅すのか、友なるオットー?」と博士は厳しく尋ねた。「それでは、奇妙な結末になるぞ。」

「私が私怨のために権力を使ったことが、いつある?」とオットーは叫んだ。「ただの私人に言えば、君の言葉は許しがたい侮辱だ。だが私には、何の危険もなく矢を放てる。そして私は身をかわしながら、その率直さを褒めねばならない。赦すだけでは足りず、賞賛せねばならない。この――この恐るべき君主に、ダビデ王の前のナタン[訳注:王の罪を厳しく諫めた旧約聖書の預言者]のように立ち向かったのだから。君は、長年の友情を、容赦なく根こそぎにした。私には、ほとんど何も残さなかった。最後の絆が切れた。天を証人として、正しいことをしようとしたのに、報いはこれだ。一人きりになることだ。私を紳士ではないと言う。だが、嘲っていたのは君のほうだ。君の同情がどこへ向いているか、よくわかってはいるが、そのことで当てこするのは控えよう。」

「オットー、気は確かか?」とゴットホルトは跳ね起きて叫んだ。「金をどうして手に入れたかと聞いただけで、君が答えないから――」

「ホーエンシュトックヴィッツ殿、私事について、あなたの助力を求めるのはやめた」とオットーは言った。「聞きたいことはすべて聞いた。あなたは私の虚栄心を、十分に踏みにじった。私は統治できぬのかもしれない。愛せぬのかもしれない。あなたは、いかにも誠実にそう言う。だが神は、一つだけ美徳をお与えくださった。私はまだ、赦すことができる。あなたを赦そう。この激情のさなかにも、自分の欠点と、あなたの言い分は見える。今後、あなたとの会話を免れたいと願うとしても、それは恨みからではない――恨みではない――断じて、地上の誰にも、これほど罵られることには耐えられないからだ。主君の涙を見て、満足だろう。幸福を幾度となく皮肉ってきた相手が、孤独と不幸のどん底に落ちたのだから。いや――何も聞かない。公として、最後の言葉は私のものとする。そして、その最後の言葉は――赦しだ。」

そう言うとオットーは部屋を出ていった。ゴットホルト博士は、悲しみと悔恨とおかしさの、ひどく入り混じった気分で一人残された。机の前を行きつ戻りつし、両手を上げて、この不幸な仲たがいは、二人のどちらにより責めがあるのかと自問した。やがて戸棚からライン葡萄酒の瓶と、深いルビー色のボヘミア・グラスを取り出した。一杯目は胸を少し温め、慰めた。二杯目で、日当たりのよい山から、これらの苦悩を見下ろす気分になった。さらにしばらくして、偽りの慰めに満たされ、黄金色の媒介を通して人生を眺めながら、顔を赤らめ、微笑み、半ば心地よい吐息をついて、従弟への物言いは少し率直すぎたと認めた。「あいつの言ったことも本当だ」と、悔いる図書室長は付け加えた。「私も、修道士めいた仕方ではあるが、公妃を崇拝しているのだから」それから、広い回廊に一人きりでいるというのに、ますます顔を赤くし、どこか忍ぶような様子で、セラフィナに杯を上げ、底まで飲み干した。

第十一章――救いの神ローゼン、第一幕――男爵をたぶらかす

かなり遅い時刻、正確には午後三時に、ローゼン夫人は世間へ姿を現した。黒いマンティーリャ[訳注:頭と肩を覆うスペイン風の薄い肩掛け]を頭にかけ、黒いビロードのドレスの長い裾を容赦なく土に引きずりながら、階段を下り、庭を横切った。

その長い庭の向こう端、伯爵夫人の別邸と背中合わせに、宰相が仕事と享楽にいそしむ大邸宅があった。ミットヴァルデンの気楽な基準では、この程度の隔たりがあれば、世間体は十分保てた。伯爵夫人はそこを足早に渡り、鍵で小さな扉を開け、階段を上り、断りもなくゴンドレマークの書斎へ入った。広く、天井の非常に高い部屋だった。壁という壁に本があり、卓にも床にも書類が散らばっていた。ところどころに、衣のいささか足りぬ絵が掛かっていた。青いタイルの炉では大きな火が赤々と燃え、頭上の丸屋根から昼の光が流れ込んでいた。その真ん中に、偉大なるゴンドレマーク男爵が上着を脱いで座っていた。その日の仕事はほぼ終わり、くつろぎの時間が来ていた。表情も、本性そのものさえ、根本から変わったようだった。自宅のゴンドレマークは、公務中のゴンドレマークの正反対に見えた。堂々たる陽気さが、よく似合っていた。顔には粗野さと愛嬌が浮かび、作法とともに、狡猾で陰険な表情も脱ぎ捨てていた。大きな身体を火にあて、ゆったりとくつろぐその姿は、みごとな動物だった。

「おお!」と叫んだ。「やっと来たか!」

伯爵夫人は無言で部屋へ入り、椅子に身を投げ出し、脚を組んだ。レースとビロードをまとい、滑らかな黒い靴下と真っ白なペチコートをかなり見せ、上品な横顔と、細身ながら丸みのある身体を備えた姿は、炉の前の、黒く大きな知性あるサテュロス[訳注:好色な半人半獣の森の精]と、際立った対照をなした。

「何度呼びつければ気が済むの?」と夫人は叫んだ。「人聞きが悪いわ。」

ゴンドレマークは笑った。「人聞きといえば」と言った。「いったい何をしていたのだ? 朝まで帰らなかったそうだな。」

「施しをしていたのよ」と夫人は言った。

男爵はまた、大声で長々と笑った。上着を脱いでいるときは、実に陽気な生き物だった。「私が嫉妬深くなくて、よかったな」と言った。「だが、私の流儀は知っているだろう。快楽と自由は手を取り合ってゆく。信じるものは信じる。多くはないが、信じるのだ。さて、用の話だ。手紙を読まなかったのか?」

「ええ」と夫人は言った。「頭が痛かったの。」

「そうか! では、ほんとうの大ニュースだ!」とゴンドレマークは叫んだ。「昨夜も今朝も、お前に会いたくてたまらなかった。昨日の午後、長い仕事に決着をつけたのだ。船が帰港した。もう一押しすれば、ラタフィア姫のお使い役はおしまいだ[訳注:ラタフィアは甘い果実酒。ここではセラフィナをもじった渾名]。そう、終わったのだ。命令書は全部、ラタフィアの自筆だ。胸にしまってある。今夜十二時、軽薄公を寝床で捕まえ、赤ん坊よろしく馬車に放り込む。明日の朝には、フェルゼンブルク城の主塔から、この上なく風雅な景色を御覧になるだろう。さらば、軽薄公! 戦争は進み、娘は私の手中にある。以前から欠かせぬ男ではあったが、これからは唯一の男になる。長いこと」と、得意げに付け加えた。「長いこと、この陰謀を肩に担いできた。ガザの門を担いだサムソンのようにな[訳注:旧約聖書の怪力の英雄が、敵の町の門を引き抜いて運んだ故事]。今こそ、その荷を下ろすのだ。」

夫人は少し青ざめ、立ち上がっていた。「本当なの?」と叫んだ。

「事実を話している」と男爵は断言した。「仕掛けは済んだ。」

「絶対に信じないわ」と夫人は言った。「自筆の命令書ですって? 絶対に信じない、ハインリヒ。」

「誓って言う」と男爵は言った。

「ああ、誓いなんて、あなたが気にするものですか。わたくしもだけれど。何にかけて誓うの? 酒と女と歌? そんなの、何の効き目もないわ」と夫人は言った。すっかり近くへ寄り、腕に手を置いた。「命令書だなんて――いいえ、ハインリヒ、ありえない! 絶対に信じない。死んでも信じないわ。何か隠した狙いがあるのよ。何かは見当もつかないけれど、今の話は一言も本当ではないわ。」

「見せてやろうか?」と男爵は尋ねた。

「見せられないわ」と夫人は答えた。「そんなものは、ないのだから。」

「救いようのないサドカイ派め!」と男爵は叫んだ[訳注:古代ユダヤ教の一派。霊や復活を否定したことから、ここでは疑い深い者の意]。「よし、改宗させてやる。命令書を見せよう」上着を投げてあった椅子へ行き、紙を一枚取り出して差し出した。「読め」と言った。

夫人は貪るように受け取り、読み進む目が光った。

「どうだ!」と男爵は叫んだ。「王朝が倒れる。倒したのは私だ。そして私とお前が相続するのだ!」身体まで大きくなったようだった。次の瞬間、笑いながら手を伸ばした。「短剣を返してくれ」と言った。

だが夫人は素早く紙を背後へ回し、険しい顔で向き合った。「いいえ、だめよ」と言った。「あなたとわたくしには、先に片づけることが一つあるわ。わたくしの目は節穴だとお思い? あの人がこの紙を渡せる相手は一人だけ。恋人だけよ。ここに立っているあなたは、あの人の恋人、共犯者、主人――ええ、信じるわ。あなたの力は知っているもの。では、わたくしは何?」と叫んだ。「あなたに騙されている、わたくしは!」

「嫉妬か!」とゴンドレマークは叫んだ。「アンナ、お前がそんなものを! だが、信じられるものすべてにかけて言う。私はあの女の恋人ではない。なろうと思えば、なれるだろう。だが、まだ打ち明ける危険は冒していない。あの小娘は、まるで実体がない。気取った人形だ。ああすると言ったかと思えば、しないと言う。神にかけて、当てにならん! それに、これまでは恋人にならずとも思いどおりだったから、切り札に取ってあるのだ。いいか、アンナ」と、厳しく付け加えた。「その新しい発作は直しておけ、かわいいお前。揉め事は御免だ。私はあの生き物に、崇拝していると思い込ませている。私とお前のことを少しでも嗅ぎつければ、馬鹿で、堅物で、独り占めしたがる女だから、何もかも台無しにしかねん。」

「立派なお話だこと」と夫人は答えた。「昼間は誰と過ごしているの? わたくしは言葉と行動の、どちらを信じればいいの?」

「アンナ、まったく、お前の目は見えているのか!」とゴンドレマークは叫んだ。「私を知っているだろう。あんなお高くとまった女を、私が好きになると思うか? これほど長く一緒にいて、まだ私を吟遊詩人だと思っているとは、情けない。私が何より軽蔑し、毛嫌いするのは、ああいう毛糸刺繡の人形だ。生身の女がいい。私と同じ、血の通った女が。お前は私の相方だ。私のために作られた。芝居のように私を楽しませる。それに、お前に嘘をついて、何を得る? 愛していないなら、お前が私に何の役に立つ? 何の役にも立たん。昼の日のように明らかだ。」

「愛しているの、ハインリヒ?」と夫人は、甘えるように尋ねた。「本当に?」

「言っているだろう」と男爵は叫んだ。「自分の次に愛している。お前を失ったら、途方に暮れる。」

「それなら」と夫人は言い、紙を畳んで、落ち着いてポケットへしまった。「信じるわ。計画にも加わります。頼りにして。真夜中と言ったわね? 実行を任せたのはゴードンなのね。結構だわ。あの男なら何でもする――」

ゴンドレマークは疑わしげに見ていた。「なぜ紙をしまう?」と問いただした。「こちらへ渡せ。」

「いやよ」と夫人は答えた。「持っているつもり。決行の準備は、わたくしがしなくては。わたくしなしでは、あなたには無理よ。最善を尽くすには、紙を持っていなくてはならないわ。ゴードンはどこ? 自分の部屋?」どこか熱に浮かされたような、作った落ち着きで話した。

「アンナ」と男爵は厳しく言った。家にいるときの開けた顔つきに代わり、宮廷での役柄の、黒く不機嫌な顔が戻っていた。「その紙を渡せと言っている。一度、二度、三度だ。」

「ハインリヒ」と夫人は正面から見つめて答えた。「気をつけて。命令は受けません。」

二人とも危険な顔だった。はっきり長さの感じられる沈黙が続いた。やがて夫人は、先に口を開こうと急いだ。澄んだ、いかにも正直そうな笑い声を立て、「子供にならないで」と言った。「呆れるわ。あなたの言葉が本当なら、わたくしを疑う理由も、わたくしが裏切る理由もないでしょう。難しいのは、騒ぎを起こさず公を宮殿から連れ出すことよ。従僕たちは忠実だし、侍従は奴隷同然。でも、一声叫ばれたら、何もかも終わりなの。」

「押さえつければよい」と男爵は言い、夫人の持ち出した新しい論点に移った。「公と一緒に消えてもらうのだ。」

「あなたの計画も一緒に消えるわ!」と夫人は叫んだ。「狩りに行くとき、あの人は従者を連れていかないもの。子供にだって真相がわかるわ。だめよ、だめ。その計画は馬鹿げている。きっとラタフィアの案ね。でも、聞いて。公がわたくしに夢中なのは知っているでしょう?」

「知っている」と男爵は言った。「哀れな軽薄公、私はあいつの運命をことごとく邪魔するな!」

「では」と夫人は続けた。「わたくしが宮殿から一人で連れ出し、庭園の静かな片隅へお連れしたら? たとえば、飛翔するメルクリウス像のところ。ゴードンは茂みに隠れ、馬車は神殿の裏で待つ。叫び声も、揉み合いも、足音もなし。ただ、公が消えるの! どう? 役に立つ味方でしょう? この美しい目も、お役に立つかしら? ああ、ハインリヒ、アンナを失ってはだめよ。この女には力があるのだから!」

男爵は暖炉を平手で叩いた。「魔女め!」と言った。「悪知恵では、ヨーロッパにお前の相手はいない。役に立つかだと! これなら、すべて滑らかに運ぶ。」

「では、口づけして、行かせて。軽薄公を逃してはいけないわ」と夫人は言った。

「待て、待て」と男爵は言った。「そう急ぐな。まったく、お前を信じられたらどんなによいか。だが、お前は内も外も、気まぐれな悪魔だからな。とても無理だ。いまいましいが、アンナ、駄目だ。できん!」

「わたくしを疑うの、ハインリヒ?」と夫人は叫んだ。

「疑うとは違う」と男爵は言った。「知っているのだ。その紙をポケットに入れて、いったん私の目を離れたら、何に使うかわかったものではない。少なくとも、お前自身にもわからん。私にもな。つまり」と、伯爵夫人に父親めいて首を振った。「お前は猿ほど始末が悪いのだ。」

「誓うわ」と夫人は叫んだ。「魂の救いにかけて……」

「お前の誓いを聞きたいとは思わん」と男爵は言った。

「わたくしには信仰がないと思うのね? 名誉もないと思っているのね。いいわ」と夫人は言った。「よく聞いて。議論はしないけれど、これだけははっきり言っておく。この命令書を預けてくれれば、公は逮捕されます。取り上げるなら、わたくしがここで話しているのと同じくらい確実に、計画をひっくり返してみせる。信じるか、恐れるか。好きなほうを選んで」そう言って紙を差し出した。

男爵は激しい葛藤の中、決めかねて立ち、二つの危険を秤にかけた。一度、手が伸びたが、また下がった。「よし」と言った。「お前がそれを信頼と呼ぶのなら……」

「もうおしまい」と夫人は遮った。「せっかくの御態度を台無しにしないで。さて、わけもわからぬまま、よい人らしく振る舞ってくれたのだから、特別に理由を教えてあげる。わたくしは宮殿へ行って、ゴードンと打ち合わせるの。でも、どうすればゴードンがわたくしに従う? それに、時刻なんて、どうして前もってわかるの? 真夜中かもしれないし、日暮れかもしれない。すべて成り行きよ。行動するには、自由でなくてはならないし、計画の糸を握っていなくてはならないの。さあ」と叫んだ。「あなたのヴィヴィアンが出陣します[訳注:アーサー王伝説で、魔術師マーリンを魅了し、その力を封じた女性]。わたくしを騎士に任じて!」両腕を差し伸べ、輝く笑みを向けた。

「まあ」と、口づけを済ませた男爵は言った。「男には誰しも、弱みが一つはある。私のがこれで済んでいることを、神に感謝しよう。さあ、行け! 子供に爆竹を渡してしまったな。」

第十二章――摂理の女神ローゼン:第二幕 公に事の次第を知らせる

ローゼン伯爵夫人がまず思い立ったのは、自分の別邸へ戻り、身なりを整えることだった。この冒険がほかに何をもたらそうと、公妃を訪ねるという決意に変わりはない。あの気に食わない女の前に出るからには、いささかも見劣りはしたくなかった。ものの数分で支度は済んだ。身づくろいにかけては、夫人には将帥の眼識があった。きらびやかな衣装に囲まれながら、なすすべもなく逡巡し、何時間もかけたあげく野暮な姿で世間へ出てくる、そんな女ではない。一目で見定め、巻き毛を一筋ほどき、計算し尽くした魅惑的な乱れを髪に添える。レースを少し、色味をひと刷毛、胸には黄色い薔薇。それで一幅の絵が、たちまち出来上がった。

「これでいいわ」と夫人は言った。「馬車はあとから宮殿へ回してちょうだい。三十分後には、あちらで待たせておいて。」

伯爵夫人がこの大仕事へと出発したころ、オットーの都には夜が降り始め、街路樹の影に覆われた通りでは店々に明かりがともりだしていた。心は浮き立っていた。楽しみと好奇心が美貌に翼を与えていることを、自分でも知っていた。光り輝く宝石店の前で足を止め、婦人服店の飾り窓にある衣装に目をとめては褒める。そして菩提樹の並木道に着くと、頭上高く枝葉が薄暗いアーチをなし、ほの暗い小道を人々が行き交う中、ベンチに腰を下ろして、このひとときの快楽をもてあそび始めた。寒かったが、内なる熱に温められて寒さは感じない。その暗がりで、思いは宝石店の金やルビーのように輝き、無数の足音が擦れ合う響きも、耳には音楽となって聞こえた。

さて、どうしたものだろう。すべてを左右する書面は、この手にある。オットーもゴンドレマークもラタフィアも、国家そのものさえ、夫人の天秤の上では塵ほどに軽かった。どちらかの皿へ小指一本置けば、何もかもが跳ね上がる。自分の圧倒的な優位を胸に抱きしめ、やがて、その力をどれほど気まぐれに使えるかと思うと、声を上げて笑った。全能という目まい、歴代の皇帝を冒した病が、理性を揺さぶった。「ああ、なんておかしな世の中!」そう思って、勝ち誇るように笑った。

少し離れたところで、指を口にくわえた子供が立ち止まり、何やらぼんやりした興味をもって、この笑う女を見つめていた。夫人はそばへ呼んだが、子供は尻込みした。たちまち伯爵夫人は、その人見知りを打ち破ることに心を傾けた。同じ目的のためなら、世界中のどんな女にも、思いもよらぬ折に現れるあの不思議な情熱である。案の定、ほどなく子供は膝の上に座り、夫人の時計を指でいじりながら、しかめ面で見入っていた。

「粘土の熊と瀬戸物のお猿があったら」とローゼン夫人は尋ねた。「どっちを壊してみたい?」

「どっちも持ってないよ」と子供は答えた。

「そうね」と夫人は言った。「ここにぴかぴかの一フローリンがあるわ。これなら両方買えるでしょう。質問に答えてくれたら、すぐにあげる。粘土の熊と瀬戸物のお猿――さあ、どっち?」

だが、まだ半ズボンもはかぬ占い師は、ただ大きな目で金貨を見つめるばかり。いくら促しても神託は下らなかった。伯爵夫人は軽く接吻し、金貨を与え、小道へ下ろしてやると、しなやかに弾む足取りで再び歩きだした。

「どちらを壊そうかしら」と夫人は考え、丹念に乱した髪へ、楽しげに手を差し入れた。「どちらを?」輝く目を空へ向け、天に問いかける。「二人とも好きなの、それともどちらも好きじゃないの? 少しだけ――夢中で――まるで好きじゃない? 二人とも、それともどちらも? たぶん二人ともね。でも、少なくともラタフィアは、めちゃめちゃにしてあげる。」

鉄門をくぐり、車道の坂を上って、広い石敷きのテラスへ足を踏み入れたころには、すっかり夜になっていた。宮殿の正面には明るい窓がびっしり並び、欄干では二十本おきの柱に据えた灯火が、くっきりと輝いていた。西の空には、琥珀色と蛍の緑を帯びた、夕映えの枯れた名残がわずかに漂っていた。夫人はまた足を止め、その消えてゆくさまを眺めた。

「考えてもごらんなさい」と夫人は言った。「ここにいる私は運命の化身、ノルン[訳注:北欧神話で人の運命を定める女神]、運命の女神、摂理そのものだというのに、どちらへ味方するか、まだ自分でもわからない! ほかの女なら、この立場で私情に流されずにいられるかしら。もう引き返せないと思い込まずにいられるかしら。でも、ありがたいことに、私は生まれつき公正なのよ!」ほかの窓に交じってオットーの部屋にも明かりがともっており、それを見上げる胸には優しさが湧いてきた。「見捨てられるって、どんな気持ちかしら。かわいそうな、愛しいお馬鹿さん。あの娘には、この命令書を夫に見られるくらいの報いがあって当然だわ。」

もうためらわず宮殿へ入り、オットー公への謁見を求めた。公は私室にいて、一人でいたいと仰せだという。夫人は名を取り次がせた。やがて使いの男が戻り、公はお詫び申し上げるが、誰にも会えないとの返事を伝えた。「では、手紙を書くわ」と夫人は言い、生死にかかわる急用だと数行走り書きした。「お助けください、殿下。あなた以外に、私を助けられる方はありません」とも書き添えた。今度は使いもいっそう早く戻り、ついて来るよう伯爵夫人に乞うた。公はローゼン伯爵夫人をお迎えになるとのことだった。

オットーは広い武具の間で暖炉のそばに座っていた。揺らめく光を受け、周囲の武器がかすかにきらめいている。泣いた跡で顔はやつれ、苦々しく悲しげな様子だった。客を迎えて立とうともせず、会釈だけして、召使には下がるよう命じた。この悲嘆と弱さを目にして、伯爵夫人の心と良心の両方を代行している、あの誰にでも向けられる優しさが、鋭く胸を刺した。夫人はたちまち自分の役柄に入り込み、二人きりになるや一歩進み出て、大仰な身ぶりとともに叫んだ。「お立ちになって!」

「ローゼン夫人」とオットーは力なく答えた。「ずいぶん強い言葉をお使いだった。生死にかかわると。どうか教えてほしい、誰が危険にさらされているのか。いったい誰が」と苦々しく付け加えた。「このグリューネヴァルトのオットーにさえ救えるほど、落ちぶれてしまったのか。」

「まず、陰謀を企てている者の名をお聞きなさい。公妃とゴンドレマーク男爵です。あとはおわかりになりませんか?」それでも公が黙っているので、夫人は指を突きつけて叫んだ。「あなたです! 狙われているのはあなたなの! あなたの悪党と私の悪党が額を寄せ合って、あなたに判決を下した。でも、あちらはあなたと私を計算に入れなかったわ。恋でも政治でも、私たちは四人一組の遊び仲間なのよ、殿下。向こうはエースを出したけれど、こちらは切り札で取ってやる。さあ、相棒、私の札を出しましょうか?」

「夫人」と公は言った。「説明してほしい。本当に、何のことかわからない。」

「では、これをご覧になって」と夫人は言い、命令書を渡した。

公は受け取り、目を落としてはっとした。そして何も言わず、手で顔を覆った。夫人は言葉を待ったが、ついに何も返ってこなかった。

「まあ!」と夫人は叫んだ。「そんなに落胆なさるの? あの娘の心に愛を求めるなんて、乳搾りの桶に葡萄酒を探すようなものよ! もうおよしなさい、しっかりなさって。獅子どもの同盟の次は、鼠の陰謀といきましょう。あの仕掛けを引き倒してやるのです。昨夜はずいぶんお元気だったじゃない。何も懸かっていない、ただのお遊びだったのに。今度はもっと面白いわ。今度こそ、ほんとうの人生よ。」

公はいくらか勢いよく立ち上がった。少し赤みを帯びた顔には、決意が現れていた。

「ローゼン夫人」と公は言った。「あなたのお心遣いはわかっているし、感謝もしている。これも変わらぬ友情の証しだ。だが、どうやら期待を裏切ることになる。私に何らかの抵抗をお望みらしいが、なぜ抵抗する必要がある? 得るものはさほどない。この紙を読み、愚かな幸福の幻想が最後のかけらまで砕け散った今、グリューネヴァルトのオットーに失うものがあると言っては、大げさに過ぎる。私には党派も政策もない。誇りもなければ、誇るべきものもない。この世のどんな利益や信条のために、私に争えというのか。それとも、罠にかかったイタチのように噛みつき、引っかけというのか? いや、夫人。あなたを寄越した人々に、いつでも行くと伝えてほしい。せめて醜聞だけは避けたい。」

「行くですって? ――ご自分から、行くとおっしゃるの?」夫人は叫んだ。

「そこまでは言えないかもしれない」と公は答えた。「だが、進んで行くつもりだ。前から気分を変えたいと思っていた。そこへ、この申し出だ。断る理由があるだろうか。幸い、こんな茶番を悲劇に仕立てるほど、ユーモアをなくしてはいない」公は命令書を卓上へはじくように置いた。「いつでも出発できると伝えてほしい」と、堂々と言い添えた。

「ああ」と夫人は言った。「認めたくないだけで、本当はお怒りなのね。」

「私が、夫人? 怒っている?」公は叫んだ。「馬鹿なことを! 怒る理由などない。私はあらゆる形で、自分の弱さ、移り気、この世に向かぬ性質を思い知らされた。弱点を束ねたような人間であり、無能な君主、紳士としてさえ怪しい男だ。寛大なあなたも、私の軽薄さを二度もたしなめた。それで私が怒れるだろうか? 仕打ちの冷たさは感じるにせよ、この政変に理由があると認めるだけの正直さは持っている。」

「いったい誰に、そんな考えを吹き込まれたの?」夫人は驚いて叫んだ。「ご自分の振る舞いが悪かったとお考えなの? 殿下、もしお若くも美男でもなかったら、そのご立派さが憎らしくなるところよ。徳もそこまで押し通すと、凡庸になってしまう。それに、この恩知らずな仕打ちは――」

「わかってほしい、ローゼン夫人」と公は、さらに少し顔を赤くして答えた。「ここでは感謝も誇りも問題ではない。どのような事情かは知らないが、あなたはきっとご親切から、私の家庭だけにかかわる問題へ入り込んでおられる。私の妻、あなたの君主が、どれほど苦しんだかはおわかりではないはずだ。あなたが――いや、私でさえ――裁くことではない。非は私にあると認める。たとえそうでなくても、愛を口にしながら小さな屈辱にひるむ男など、口先だけのほら吹きにすぎない。愛する女を喜ばせるためなら死ぬべきだと、手本帳にだって書いてある。それなら牢へ行くくらい、できなくてどうする?」

「愛ですって? 牢へ送られることと、愛に何の関係があるの!」伯爵夫人は壁と天井へ訴えるように叫んだ。「私だって誰にも負けないほど愛を大事にしているわ。神さまもご存じだし、私の人生を見ればわかること。でも、少なくとも男への愛なら、同じだけ返してもらえないものは愛とは認めない。それ以外は、ただのたわごとよ。」

「私は愛をもっと絶対的なものと考える、夫人。もっとも、これほどご親切にしてくださるあなたより、愛情が深いなどと言うつもりはない」と公は答えた。「だが、こんな議論は無益だ。ここで吟遊詩人の恋愛法廷を開くわけでもない。」

「それでも」と夫人は答えた。「一つ、お忘れのことがあるわ。あの方がゴンドレマークと手を組んであなたの自由を奪うなら、あなたの名誉も同じように奪うかもしれない。」

「私の名誉?」公は繰り返した。「女性の口からそんな言葉が出るとは、驚きだ。妻の愛を得られず、夫としての役目も果たせなかったなら、私にどんな権利が残る? こんな敗北の場に、どんな名誉が残る? 少なくとも、私の認める名誉はない。私はもう他人になったのだ。妻がもう私を愛していないなら、望みどおり牢へ行こう。ほかの男を愛しているなら、なおさら牢よりふさわしい居場所があるだろうか。そして、それは私のほかに誰の責任だ? ローゼン夫人、あなたも実に多くの女性と同じく、男の言葉で話している。仮に私が誘惑に負けたなら――神もご存じのとおり、ありうることだ――震えながらも、なお望みを抱いて妻の許しを乞うただろう。しかも、その場合の私の裏切りは、愛されていながらの裏切りだ。だが、夫人、これだけは言っておく」と公は、いらだちを増しながら続けた。「夫の無為、だらしなさ、場違いな気まぐれで妻の忍耐を使い果たしたのなら、男であれ女であれ、妻を不当に裁くことは許さない。妻は自由だ。夫が、その資格を失ったのだから。」

「あなたを愛していないというだけで?」伯爵夫人は叫んだ。「あの人にそんな感情がないのは、ご存じでしょう。」

「むしろ、私がそれを呼び起こせぬ男に生まれついたのだ」とオットーは言った。

ローゼン夫人はいきなり笑いだした。「お馬鹿さん!」と叫んだ。「この私が、あなたに恋をしているのよ!」

「ああ、夫人、あなたはどこまでも思いやりの深い方だ」と公は微笑んで返した。「だが、これは無駄な議論だ。決心はついている。あなたと同じ率直さで言うなら、自分に好都合だとも承知し、それを歓迎しているのだろう。私にも冒険心くらいはある。私は不相応な立場にいる――世間も満場一致でそう認めている。それなのに、出口を得た私をお責めになるのか?」

「もうお決めになったのなら、どうして止める必要があるかしら」と伯爵夫人は言った。「恥も外聞もなく認めるけれど、得をするのは私なのよ。お行きなさい。私の心も連れて――少なくとも、私が望むよりずっと大きな部分を。あなたのおつらさを思えば、夜も眠れないでしょうね。でも、ご心配なく。あなたを駄目にはしないわ。これほどのお馬鹿さんで、英雄なのだもの。」

「ああ、夫人!」公は叫んだ。「あの、お気の毒なお金のことが! 受け取るべきではなかった。だが、あなたはなんと説得のお上手な方だろう。ありがたいことに、まだ見合うだけのものは差し上げられる」公は暖炉の上から書類を取った。「これが権利証書だ、夫人。私の行く先では、まず役には立つまい。今となっては、あなたのご親切に報いる手立てはほかにない。あなたは優しい心のままに、何の手続きもせず貸してくださった。今は少し立場が変わった。このグリューネヴァルト公の太陽は、まさに沈もうとしている。あなたがどんな方か、私は知っている。きっともう一度形式を捨て、この男に与えられる最善のものを受け取ってくださるだろう。これから先、何か楽しみがあるとすれば、あの農民の暮らしが安泰で、私の最も寛大な友も損をせずに済んだと思い返すことだ。」

「私の立場が、どれほど嫌なものか、おわかりにならないの?」伯爵夫人は叫んだ。「大切な殿下、あなたの失脚を踏み台にして、私は財産を築くことになるのよ。」

「それなのに抵抗を勧めてくださったのは、いかにもあなたらしい」とオットーは答えた。「だが、それで私たちの関係が変わることはない。最後にもう一度だけ、公としてあなたに命じよう」そして最高の威厳をこめて、無理に証書を受け取らせた。

「触るのさえ嫌だわ」と夫人は叫んだ。

しばし沈黙が続いた。「何時に」とオットーが口を開いた。「ご存じなら教えてほしいのだが、私は逮捕されるのだろう?」

「殿下のお好きなときに!」伯爵夫人は叫んだ。「その紙を破ってしまうお気になれば、いつまでたっても逮捕などされません!」

「早く済ませるほうがいい」と公は言った。「公妃に手紙を残す、その時間だけもらおう。」

「よろしいわ」と伯爵夫人は言った。「私は抵抗を勧めたのよ。でも、毛を刈る者の前で黙っているおつもりなら、こちらも逮捕の手配をしなくてはね。私が申し出たのです――」夫人は口ごもった。「私に任せて、と。あなたのお役に立とうと思って――ほんとうに、心からそう思って、引き受けたのよ。私の好意をお使いにならないなら、今度は私の役に立ってちょうだい。ご用意ができたらすぐ、昨夜お会いした飛翔するメルクリウス像のところへいらして。あなたにとって不都合にはならないし、はっきり言えば、残る私たちには、そのほうが都合がいいの。」

「もちろんだ、夫人」とオットーは言った。「一番つらいことを受け入れたのだから、細かな点で争いはしない。では、心から感謝する。別れの言葉を数行書いたら、すぐ約束の場所へ急ごう。今夜は、昨夜ほど危険な騎士には出会うまい」と、微笑みながら優雅に付け加えた。

ローゼン夫人が去るや、オットーは精いっぱい自制心を奮い起こした。これから迎える惨めな局面を、できることなら威厳を失わずに乗り切りたかった。大筋の決意は、少しも揺らがなかった。ゴットホルトとの会話から戻ったとき、心はあまりにも痛み、屈辱はあまりにも深かったので、投獄という考えには、むしろ安堵に近いものを感じていた。少なくとも、これなら間違いのない一歩だと思えた。苦境から抜け出す道でもあった。セラフィナへの手紙を書こうと座ったとたん、怒りが燃え上がった。これまで耐え忍んできたことが、途方もないものに思えた。それを強い、しかもこのように報いた妻の冷淡さ、利己心、残酷さは、なおさら途方もなかった。手に取ったペンが震えた。さっきまでの諦念が消え失せたことに驚いたが、もう呼び戻すことはできなかった。白熱する数行の言葉で別れを告げ、絶望を愛と名づけ、怒りを許しと呼んだ。それから、長く自分のものであり、もはや自分のものではなくなる場所を、別れにただ一度見回し、急いで出ていった――愛の囚人として。あるいは、誇りの囚人として。

もっと気楽な折に幾度となく通った、あの私用の通路を選んだ。門番が外へ出してくれた。敷居を越えると、冷たく豊かな夜気と、星々の澄んだ輝きが迎えた。オットーはあたりを見回し、大地の素朴な香りを深く吸い込んだ。天の壮大な星の列を見上げると、心が静まった。大げさに膨れ上がった小さな人生が、本来の大きさへ縮んでゆく。炎の心を持つ偉大な殉教者たる自分が、冷ややかな夜の丸天井の下では一点の塵にすぎぬと見えた。そうして、うかつな心に負った傷は早くも和らいだ。戸外の生きた空気と世界の静けさが、声なき音楽ででもあるように、その感情を鎮め、あるべき小ささへ戻していった。

「いいだろう、妻を許す」と公は言った。「少しでも妻のためになるなら、許そう。」

そして足早に庭を横切り、苑地へ出て、飛翔するメルクリウス像のところへ来た。台座の陰から黒い人影が進み出た。

「失礼をお許しください」と声がした。「公殿下でいらっしゃるとお見受けしますが、こちらでお会いすることは、ご承知と伺っております。」

「ゴードン殿ですか?」とオットーは言った。

「ゴードン大佐です」と将校は答えた。「いや、まことに厄介なお役目ですので、すべて穏便に運ぶとわかり、たいへん安堵いたしました。馬車はすぐそこです。お供してよろしゅうございますか?」

「大佐」と公は言った。「私は今、命令を受けるばかりで、下す必要のない、人生の幸福な時期にたどり着いたのだ。」

「まことに哲学的なお言葉です」と大佐は答えた。「いや、実に的を射ております! プルタルコスの言葉かと思うほどです。私は殿下とも、そもそもこの公国の誰とも、血のつながりは一滴たりともありません。そうでなければ、この命令は気が進まぬところですが。幸いこちらには不人情も不作法もなく、殿下も穏やかに受け止めてくださる。となれば、ご一緒に実に愉快な時を過ごせそうですな、殿下――実に愉快な時を。牢番も、つまりは囚人の仲間ですから。」

「尋ねてもよいだろうか、ゴードン殿」とオットーは言った。「何ゆえ、こんな危険な、そしてできれば実りのないものであってほしい役目を、お引き受けになったのか?」

「ごもっともなご質問です」と傭兵将校は答えた。「この役目の間、給金が倍になるのです。」

「なるほど。とやかく申すつもりはない」と公は答えた。「馬車も見えてきた。」

まさしく、苑地の二本の道が交差するところに、灯火を目立たせながら四頭立ての馬車が待っていた。少し離れた木陰には、二十人ほどの槍騎兵が整列していた。

第十三章――摂理の女神ローゼン:第三幕 セラフィナの目を開かせる

ローゼン夫人は公のもとを辞すと、まっすぐゴードン大佐のところへ急いだ。手配を指図するだけでは飽き足らず、傭兵将校に付き添って、自ら飛翔するメルクリウス像まで出向いた。大佐が腕を貸し、この共謀者二人の会話は陽気に弾んだ。実際、伯爵夫人は喜びと興奮の渦中にいた。話す舌には笑いが絡み、目は輝き、ふだんは乏しい血色が顔にさして、その美しさを完成させていた。あと一押しで、ゴードンを足元にひざまずかせることもできただろう――少なくとも本人はそう信じ、同時にそんな考えを取るに足らぬものとしていた。

ライラックの茂みに隠れ、夫人は逮捕の実に折り目正しい成り行きを楽しみ、二人の男の会話が小道の向こうへ消えてゆくのを聞いた。まもなく、馬車の車輪と蹄の音が静かな夜気に響き、急速に遠ざかり、かすれて、静寂の中へ消えた。公は去った。

ローゼン夫人は時計を見た。今夜いちばんのお楽しみには、まだ十分間に合うと思った。ゴンドレマークが来はしまいかと、その心配を翼にして宮殿へ急ぎ、セラフィナ公妃に名を取り次がせ、ぜひ会ってほしいと申し入れた。ただのローゼン伯爵夫人としてなら、断られるに決まっていた。だが、男爵の使者と名乗ることにしたので、すぐに通された。

公妃は一人食卓につき、夕食を取るふりをしていた。頬にはまだらに赤みが浮き、目は重たげだった。眠りもせず、食べもせず、身なりにさえ気を配っていない。要するに、体調も容色も気力も衰え、良心という悪夢に取り憑かれていた。伯爵夫人はすばやく自分と引き比べ、その美しさをいっそう輝かせた。

「男爵閣下のお使いでいらしたのね」と公妃は気だるく言った。「お掛けなさい。何のご用?」

「ご用?」とローゼン夫人は繰り返した。「ええ、申し上げることは山ほど! 言いたくないのに言わねばならないことも、言いたいのに黙っていなければならないことも。私、聖パウロと同じですの、殿下。してはならないことほど、したくなる。さて、端的に――こういう言い方でよかったかしら――私は殿下のご命令を公にお届けしました。ご自分の目も耳も信じられないご様子でしたわ。『ああ、親切なローゼン夫人』とおっしゃって。『まさか、そんなはずはない。あなたの口から聞かせてほしい。妻は人に惑わされたかわいそうな娘だ。ただ分別がないだけで、残酷な女ではない』『殿下』と私は申し上げました。『娘だからこそ、残酷なのです。若い者は平気で蠅を殺すものです』――のみこむのに、どれほど苦しまれたことか!」

「ローゼン夫人」と公妃は、顔に怒りの薔薇を咲かせながらも、きわめて揺るぎない口調で言った。「誰に、何のために遣わされたのです。用件をおっしゃい。」

「あら、殿下、おわかりになっていると思いますけれど」とローゼン夫人は答えた。「私には殿下のような達観はありませんの。心を袖にさらして生きております。はしたなくて申し訳ありません! もっとも、ほんの小さな心ですわ」と笑った。「それに、袖はしょっちゅう取り替えますし!」

「公は逮捕されたと、そう受け取ってよいのですね?」公妃は立ち上がって尋ねた。

「あなたが、そこでお食事を召し上がっている間に!」伯爵夫人は、相変わらず平然と座ったまま叫んだ。

「用件は済みましたね。もう引き止めません。」

「いいえ、殿下」と伯爵夫人は言った。「お許しいただけるなら、まだ済んではおりません。今夜は殿下のために、ずいぶん耐えました。苦しみましたの。殿下のお役に立つために、苦しめられたのです」そう言いながら扇を開いた。脈は速く打っていても、扇はけだるげに揺れた。感情を漏らしているのは、目と顔の輝き、そして公妃を見下ろす、ほとんど無礼といってよい勝ち誇った眼差しだけだった。二人の間には、一つならぬ方面で、積年の対抗意識があった。少なくともローゼン夫人はそう感じていた。そして今、そのすべてで勝利を味わう時が来たのだ。

「ローゼン夫人、あなたは私の召使ではありません」とセラフィナは言った。

「ええ、殿下、そのとおり」と伯爵夫人は答えた。「でも、私たちは同じ方にお仕えしています。ご存じでしょう――ご存じなければ、こうしてお知らせできて何よりですわ。殿下のなさりようが、あまりに軽くて――ほんとうに軽くて」と繰り返すうち、扇は蝶のように高く揺れた。「本当のところがおわかりでないのかもしれませんわね」伯爵夫人は扇を畳んで膝に置き、少し居住まいを正した。「実際、どんな若い女の方でも、殿下のようなお立場にいらしたら、お気の毒に思いますわ。何もかもに恵まれてお始めになったのに。家柄も、ふさわしい結婚も――お顔だって、なかなかおきれいで――それが今は、このありさま! かわいそうなお嬢さん、考えてもごらんなさい! でもね」と伯爵夫人は、いかにも上品に言った。「浮ついた心ほど害になるものはありませんの」そしてまた扇を開き、満足げにあおいだ。

「これ以上、身の程を忘れることは許しません!」セラフィナは叫んだ。「気でも違ったのですか。」

「違ってなどいませんわ」とローゼン夫人は答えた。「今夜のあなたには私と仲違いする勇気がないと知り、それを利用できるくらいには、正気です。私は、あのかわいそうな、美しい王子さまを置いてきたのよ。木の人形のために、目を泣き腫らしている王子さまを。私は情にもろいし、あの王子さまが大好きなの。あなたには一生わからないでしょうけれど、お人形を返してあげたいの。涙を拭いて、幸せにして送り出してあげたいのよ。ああ、未熟な愚か者!」伯爵夫人は立ち上がり、手の中で震え始めた閉じた扇を公妃に突きつけた。「木の人形め!」と叫んだ。「あなたには心というものがあるの? 少しでも血が通っているの? あの方はね、お嬢ちゃん、一人の男なのよ――あなたを愛している男なの。こんなことは二度とないわ! ありふれたことじゃない。美しく賢い女たちが、いくら探しても見つけられないものなのに。あなたは、この情けない小娘は、その宝石を足で踏みにじっている! 虚栄心で頭が鈍っているのよ! 国を治めようという前に、まず家でまともに振る舞えるようになりなさい。家庭こそ女の王国なのだから」夫人は口を止め、少し笑った。その笑いは、聞くにも見るにも異様だった。「黙っておこうと思っていたことを、一つ教えてあげる」と言った。「このローゼンは、あなたよりましな女よ、公妃さま。もっとも、あなたがそれを理解して苦しむことはないでしょうけれど。あなたの命令書を届けて、公のお顔を見たとき、私の心は溶けてしまった――ええ、はっきり言うわ――この腕の中でお休みなさいと、申し上げたの!」そう言って両腕を広げ、堂々と一歩進み出たので、セラフィナは身を引いた。「ご心配なく!」伯爵夫人は叫んだ。「あなたにその隠れ家を差し出しているのではないわ。世界中で、それをあなたに差し出したい人はたった一人、その人をあなたは追い払ったのよ! 『殉教の冠をかぶることで妻が喜ぶなら』と、あの方はおっしゃった。『私はその茨を抱こう』と。

白状するわ――私は何も隠さない――命令書を公のお手に渡し、抵抗してほしいと頼んだの。夫を裏切ったあなたなら、私を裏切ってゴンドレマークに告げ口するかもしれない。でも、私の王子さまは誰も裏切らない。はっきりおわかりなさい」と夫人は叫んだ。「あなたがそこに座っていられるのは、ひとえにあの方が耐えてくださったからよ。立場を逆にする力があった――私がその力を渡したのに――公はお断りになって、あなたの代わりに牢へお行きになったの。」

公妃は、いくらか苦しげに口を開いた。「その激しいお言葉には驚き、傷つきもしました。でも、思い違いはあるにせよ、あなたの心の優しさを示すものに、怒ることはできません。これは私も知っておくべきことでした。特にお話ししましょう。この処置を取らざるをえなかったことを、私は深く遺憾に思っています。公には、敬服している点がいくつもあります――お人柄の優しさも認めています。私たちがこれほど不釣り合いだったのは、大きな不幸でしたし、多少は私にも責任があるのかもしれません。それでも、あの方の美点には、敬意を、心からの敬意を抱いています。一個人としてなら、私もあなたと同じ考えです。国政上の事情を斟酌しにくいのは、わかっています。私はただ、深いためらいの末、より高い義務の命に従ったのです。国の安全が許ししだい、公を釈放するとお約束します。私の立場なら、あなたの無遠慮なお言葉に憤る者も多いでしょう。私は――」ここでしばし、どこか哀れな眼差しを伯爵夫人へ向けた。「私は、あなたがお思いになるほど、まったく非人間的な者ではありません。」

「その国の問題を」と伯爵夫人は叫んだ。「一人の男の愛と、天秤に掛けられるの?」

「ローゼン夫人、その問題には、多くの人々の生死が懸かっているのです。公も、あるいはあなたご自身さえ、その中に含まれます」と公妃は威厳をもって答えた。「私はまだ若いとはいえ、厳しい経験の中で学びました。自分の感情は、何事においても最後にしなければならないのです。」

「ああ、なんて青臭い無邪気さ!」相手は叫んだ。「自分がどんな陰謀の中にいるのか、ご存じないの? 疑いもしないの? かわいそうに思えてきたわ! 結局、私たちは二人とも女なのね――かわいそうな娘、かわいそうな娘! ――女に生まれるのは、愚か者に生まれることなのだわ。私は女がみんな嫌いだけれど――まあ、お互い愚かということで、あなたを許してあげる。殿下」夫人は芝居じみた深いお辞儀をし、また扇を手にした。「これから私は、あなたを侮辱し、私の恋人と呼ばれている男を裏切り、今から何もかもお任せするその力をあなたがお使いになれば、この大切な自分自身を破滅させます。まあ、まるでフランス喜劇だわ! あなたが裏切り、私が裏切り、みんなが裏切る。さあ、私の出番です。手紙、そう、手紙よ。これをご覧なさい、殿下。今朝、寝台のそばにあったときのまま、封も切っていないわ。機嫌が悪かったし、こういうご厚意は、たくさん、あり余るほどいただくものですから。ご自分のために、私の王子さまのために、そしてあなたの良心にあれほど重くのしかかる、この偉大な公国のために、開けてお読みなさい!」

「伺いますが」と公妃は尋ねた。「この手紙は、何らかの形で私にかかわるものなのですか?」

「ご覧のとおり、開けていませんから」とローゼン夫人は答えた。「でも、私の手紙です。どうぞ試してみて。」

「あなたがお読みになるまでは、拝見できません」とセラフィナは、ひどく真面目に答えた。「私に見せるつもりのないことが、書いてあるかもしれません。私信ですから。」

伯爵夫人は封を破り、ざっと目を通して、投げ返した。公妃は紙を取り上げ、ゴンドレマークの筆跡と認めると、吐き気のするような衝撃を受けながら、次の文面を読んだ。――

「愛しいアンナ、すぐ来てくれ。ラタフィアがやってのけた。亭主は牢へ送り込まれる。これで、あの小娘は完全に俺の手の内だ。仕掛けは上々。今度こそおとなしく手綱に従わせる。逆らうなら、ただでは済まさぬ。来てくれ。

ハインリヒ。」

「お気を確かに、殿下」と伯爵夫人は、セラフィナの真っ白な顔にいくらか不安を覚えながら言った。「ゴンドレマークと争っても無駄よ。あの人には宮廷の寵愛以外にも手があって、ひと言で明日にでもあなたを倒せる。それでなければ、私もあの人を裏切らなかったわ。でも、ハインリヒはひとかどの男で、あなた方をみんな操り人形のように扱っているの。これで少なくとも、何のために私の王子さまを犠牲にしたか、おわかりでしょう。殿下、葡萄酒を召し上がる? 私は残酷なことをしました。」

「残酷なのではありません、夫人――必要なことでした」とセラフィナは、影のような微笑を浮かべて言った。「いいえ、ありがとう。お世話はいりません。最初の驚きに動転しただけです。少し時間をくださいますか。考えなくては。」

両手で頭を抱え、しばらくの間、嵐のように混乱する思いを見つめた。

「この知らせは」と公妃は言った。「必要なときに届きました。私なら、あなたと同じことはしないでしょう。でも、感謝します。ゴンドレマーク男爵には、ずいぶん欺かれていました。」

「ああ、殿下、ゴンドレマークのことはおよしになって、公のことをお考えなさい!」ローゼン夫人は叫んだ。

「あなたはまた、一個人として話しておられる」と公妃は言った。「それを責めはしません。でも、私の思いはもっと多くのことに引き裂かれています。ただ、あなたがほんとうに、私の――あの――」と言いよどんでから、「あなたはオットーの友人だと信じますから、今ここで釈放命令書をお渡ししましょう。インクを取って。さあ!」そして急いで書いた。葦のように震えていたので、腕を卓上に押しつけて支えながら。「忘れないでください、夫人」と命令書を渡して続けた。「今のところ、これは使っても、口にしてもいけません。男爵に会うまでは、性急な行動は――考えがまとまりません。あまりに突然で、動揺しているのです。」

「お許しがあるまで使わないと、お約束するわ」と伯爵夫人は言った。「でも、公にはお知らせして、あのかわいそうなお心を慰めて差し上げたいけれど。ああ、忘れていました。お手紙を残していらっしゃるの。よろしければ、お持ちします。こちらの扉でしたわね?」そう言って開けようとした。

「閂かんぬきが掛かっています」とセラフィナは顔を赤らめて言った。

「まあ! まあ!」と伯爵夫人は叫んだ。

二人の間に沈黙が落ちた。

「自分で取ってきます」とセラフィナは言った。「その間に、どうかお引き取りください。感謝しています、ほんとうに。でも、一人にしていただけるとありがたいのです。」

伯爵夫人は深々とお辞儀をし、退出した。

第十四章――革命の原因と勃発を語る

勇敢であり、しかも知性に支えられた勇気の持ち主だった公妃も、一人になった最初の瞬間には、卓にすがって体を支えた。自分の宇宙を支える四隅が、ことごとく崩れ落ちていた。ゴンドレマークを完全に好きになったことも、信じ切ったこともなかった。友情を裏切るかもしれないという可能性は、いつも認めていた。だが、そう思うことと、敬意の根拠としてきた公人の美徳をことごとく欠き、自分を私欲のために使う、ありふれた策謀家にすぎないと知ることとの間には、大きな隔たりがあり、転落には目まいがした。頭の中で光と闇が入れ替わった。信じられるかと思えば、また信じられなくなる。向き直り、手探りであの手紙を探した。しかし、公から命令書を取り戻すのを忘れなかったローゼン夫人は、公妃から自分の手紙を回収することも忘れていなかった。夫人は老練な戦士であり、最も激しい感情も、その理性の力を曇らせるどころか、かえって目覚めさせたのだ。

そのことでセラフィナは、もう一通の手紙――オットーの手紙を思い出した。立ち上がり、頭がまだぐるぐるするまま足早に進んで、公の武具の間へ飛び込んだ。年老いた侍従が控えていた。その顔が自分の苦悩を詮索しているように見え――少なくとも本人にはそう感じられ――セラフィナは子供じみた怒りに駆られた。

「お下がり!」と叫んだ。だが老人が扉まで半ば進んだところで、「待ちなさい!」と言い添えた。「ゴンドレマーク男爵が着いたら、すぐここへ来るように。」

「そのように申し伝えます」と侍従は答えた。

「手紙があったはず……」と言いかけ、公妃は口を止めた。

「お手紙は卓の上にございます」と侍従は言った。「仰せがございましたら、公妃殿下にこのようなお手数をお掛けすることもなかったのですが。」

「いいえ、いいえ、いいのです」と公妃は叫んだ。「ありがとう。一人にしてちょうだい。」

そして老人が去ると、手紙へ飛びついた。心はまだ曇っていた。雲と風の夜の月のように、理性は光っては隠れ、その途切れ途切れの光で文字を読んだ。

「セラフィナ」と公は書いていた。「責める言葉は一文字も書くまい。君の命令書を見た。私は行く。ほかに何が残されている? 私は愛を使い果たし、もう何もない。君を許すと言う必要もあるまい。少なくとも、これで私たちは永遠に別れる。君自身の行為によって、私を、自ら望んだ束縛から解き放ってくれた。私は自由の身で牢へ行く。愛であれ怒りであれ、私から何かを聞くのはこれが最後だ。私は君の人生から去った。もう安心して息がつけるだろう。君は今、自分を見捨てることを許した夫、自分の権利を譲った君主、そして妻のいないところで妻を守ることを誇りとしていた、結婚後も恋人であり続けた男を、厄介払いしたのだ。その男にどう報いたかは、私の言葉より君自身の心のほうが、大きな声で告げているはずだ。いつか、むなしい夢が雲のように流れ去り、君は自分が一人きりだと知る日が来る。そのとき、君は思い出すだろう。

オットーを。」

セラフィナは恐怖に心を満たされて読んだ。公が書いたその日は、もう来ていた。一人きりだった。不実だった。残酷だった。悔恨が押し寄せた。そして、さらに鋭い調べを奏でて、虚栄心が意識の舞台へ跳び上がった。この自分が、だまされた! この自分が、無力だ! 夫を裏切ろうとして、自分を裏切ってしまった! 何年もの間、お世辞を糧に生き、いかさま師に取り巻かれた田舎者のように、その丸薬を丸のみしてきた! この自分が――セラフィナが! 鋭い頭は、その結果を一息にのみこんだ。迫る失脚と、公衆の前での恥辱が見えた。自分の物語にまつわる憎悪、汚名、愚行が、ヨーロッパじゅうにさらされるのが見えた。あれほど女王らしく敢然と立ち向かった醜聞を思い出した。ああ、今はそれに向かう勇気がない。あの男の愛人と思われること――それも、ひょっとすると、あのために……。苦痛に満ちた光景へ目を閉じた。思うより早く、壁に輝く武器の中から、きらめく短剣をつかんでいた。そうだ、逃げよう。うなずき合う頭と、ひそひそざわめく口に満ちた、世界という大劇場。その中で、自分は誰にも憐れまれず辱められていたが、一つだけ扉が開いている。どんな代償を払おうと、どんな苦痛をくぐろうと、あの脂ぎった笑い声だけは封じなければならない。目を閉じ、声にならぬ祈りを吐き、胸へ刃を押し当てた。

刺す痛みの思いがけぬ鋭さに、叫び声を上げ、自分には過ぎた救いを得たような心地で我に返った。あの大いなる絶望の行為が生んだものは、ルビーのような小さな血の点だけだった。だが、その痛みは強壮剤のように心を引き締め、自殺の決意は跡形もなく消えていた。

ちょうどその瞬間、規則正しい足音が回廊を近づいてきた。大柄な男爵の歩みとわかった。幾度となく喜んで迎えた音が、今は戦いの呼び声のように気力を呼び集めた。公妃はスカートの襞に短剣を隠し、背筋を伸ばした。しっかりと足を踏み据え、怒りに輝きながら、敵を待った。

男爵の名が告げられ、当人が入ってきた。男爵にとって、セラフィナはうんざりする課題だった。ウェルギリウスを読まされる学童のように、その美しさを味わう気も暇もなかった。だが今、激情に照らされて立つ姿を見ると、新しい感情がひらめいた。率直な賛美と、一瞬の欲望の火花だった。男爵は喜んでその二つを認めた。どちらも使える。「恋人を演じねばならぬなら」と考えた。常に気にかけていたのは、そのことだった。「これなら魂を込められそうだ」その一方で、いつもの重々しい優雅さを示し、女主人の前に身をかがめた。

「提案します」と公妃は言った。自分でもこれまで聞いたことのない、異様な声だった。「公を釈放し、戦争は取りやめましょう。」

「ああ、殿下」と男爵は答えた。「やはり、思っていたとおりです! この不愉快ながら、絶対に必要な措置に至れば、殿下のお心が痛むことは承知しておりました。どうかお信じください。私も殿下の盟友たるに値しない男ではありません。私にはない美点を殿下がお持ちなのは、よく存じています。それこそ、われわれの同盟が備える最良の武器と考えているのです。女王の内なる少女――憐れみ、愛、優しさ、笑い、そして褒美となる微笑。私には命じることしかできない。私は眉をひそめる役です。しかし殿下は! しかも、その愛らしい弱さを御し、理性の命に従って踏み伏せる強さまで、お持ちなのです。幾度、私はそれに感嘆し、殿下ご自身にも申し上げたことでしょう。ええ、殿下ご自身にも」と優しく付け加え、もっと内密な賛美のひとときを思い返すように言葉を引き延ばした。「ですが今は、殿下――」

「ですが今は、ゴンドレマーク殿、そんな言い立てをする時は過ぎました」と公妃は叫んだ。「私に忠実なのですか、それとも不実なのですか? 胸に手を当てて答えなさい。私が知りたいのは、あなたの心です。」

「ついに来た」とゴンドレマークは思った。「殿下が!」と叫び、身を引いた。恐れのためかと思わせながら、そこにはおずおずした喜びもあった。「殿下ご自身が、私の心を見つめよと、お命じになるのですか?」

「私が恐れると思うのですか?」公妃は叫んだ。その顔色はひときわ鮮やかで、目は輝き、微笑にはあまりにも不可解な意味があったので、男爵は最後の疑いを捨てた。

「ああ、殿下!」男爵は叫び、どすりと両膝をついた。「セラフィナ! お許しくださるのですか? 私の秘密を見抜かれたのですか? そのとおりです――喜んで命をお手に委ねましょう――あなたを愛しています。激しく愛しています。対等の者として、女主人として、戦友として、そして崇め、求め、心優しい一人の女として。ああ、花嫁よ!」熱狂的な詩句を吐くように叫んだ。「私の理性と感覚の花嫁よ、この愛を憐れんでください、憐れんでください!」

公妃は驚き、怒り、やがて軽蔑をもって聞いた。その言葉には吐き気がするほど侮辱され、巨体を床に這わせる姿には、悪夢の中で漏らすような笑いがこみ上げた。

「恥を知りなさい!」と叫んだ。「ばかばかしくて、汚らわしい! 伯爵夫人が何と言うでしょうね?」

偉大なるゴンドレマーク男爵、あの優れた政治家は、しばらく膝をついたまま動かなかった。その心境には、多少の憐れみを許されてもよかろう。鉄の胸の中で、虚栄心が血を流してのたうっていた。すべてを消せたなら。せめて一部でも取り消せたなら。花嫁とさえ呼ばなかったなら――耳の奥を轟かせながら、男爵はそう後悔して告白を振り返った。よろめきながら立ち上がった。そして、声なき苦悶が初めて言葉の出口を得、舌が人間の最も奥深い、最も醜い部分をさらすその瞬間、男爵は一つの応酬を口にしてしまった。これから六週間、たっぷりと悔やむことになる言葉だった。

「ああ」と男爵は言った。「伯爵夫人ですか。なるほど、公妃殿下がお取り乱しなのは、そのためでしたか。」

下僕じみたその言葉の無礼は、いっそう無礼な態度で胸に突き刺さった。すでに何度か理性を暗く覆った、あの嵐雲の一つがセラフィナに降りかかった。自分の叫び声が聞こえた。雲が晴れたとき、公妃は血に染まった短剣を床へ投げ捨て、ゴンドレマークが口を開け、傷へ手を当てて後ずさるのを見た。次の瞬間、聞いたこともない罵声を上げ、男爵は荒々しい怒りに駆られて飛びかかってきた。退く公妃をつかんだが、そのとたんにつまずき、崩れた。殺意に満ちた襲撃を恐れる暇もなく、男爵は足元へ倒れた。

男爵は片肘で身を起こした。公妃は恐怖に真っ白になり、なおも見つめていた。

「アンナ!」と男爵は叫んだ。「アンナ! 助けてくれ!」

それから声が途絶え、仰向けに倒れた。どう見ても死んだようだった。

セラフィナは部屋の中を行き来し、手を揉み、声を上げた。内心は恐怖の叫び一つになり、はっきりした望みといえば、ただ目覚めたいということしかなかった。

扉を叩く音がした。公妃は飛びつき、獣のように息を切らし、狂気の力を腕にみなぎらせて扉を押さえ、ようやく閂を差した。うまくいくと、理性に幾分かの静けさが戻った。叩く音が大きくなる中、戻って犠牲者を見下ろした。そう、死んでいる。自分が殺したのだ。最後の息で呼んだのは、ローゼン夫人だった。ああ、誰がセラフィナを呼んでくれるだろう? 自分が殺したのだ。自分の胸には、血を一滴出すほど刺すこともできなかったためらいがちな手が、この巨像を一撃で倒す力を得たのだ。

その間にも、扉を叩く音はますます騒々しくなり、このような宮殿の落ち着いた日常にはますます似つかわしくなくなった。醜聞が戸口に立っている。その後ろに、どれほど恐ろしいものが続くのか、考えるのも怖かった。同時に、名を呼び始めた声々の中に、首相の声を聞き分けた。首相であれ誰であれ、誰かを最初に入れねばならない。

「グライゼンゲサング殿が、外にいるのですか?」と呼びかけた。

「殿下、はい!」と老人が答えた。「叫び声と、何か倒れる音がいたしました。何事かございましたか?」

「何でもありません」とセラフィナは答えた。「あなたと話がしたいのです。ほかの者を下がらせなさい」言葉の間ごとに息が切れたが、頭は澄んでいた。閂を抜く前に、左右で束ねてあったカーテンを下ろした。こうして外から不意に中を見られる心配をなくすと、恭しい首相を通し、再び扉を閉ざした。

グライゼンゲサングがカーテンの両翼の間でもたつきながら向きを変えたので、公妃も同時にその向こうへ出た。

「何ということだ!」老人は叫んだ。「男爵が!」

「私が殺しました」と公妃は言った。「ああ、殺してしまった!」

「これは、どうも」と老人は言った。「まったく前代未聞です。恋人同士のいさかいは」と、悲しげに付け加えた。「愛の再生――」そこで口を止めた。「しかし、殿下」とまた言いだした。「何より現実の問題として、いったいどういたしましょう? これは実に重大です。道義上も、殿下、恐るべきことです。失礼ながら、ほんのひととき、殿下を娘として、敬愛する娘として申し上げます。これは道義上、はなはだ疑問のあることだと、率直に申さずにはいられません。それに、ああ困った、死体があるのですから!」

公妃はじっと老人を見ていた。望みは軽蔑へと落ちた。その弱々しさから裾を引くように身を退くと、その動作とともに自分の力が戻ってきた。

「死んでいるか、確かめなさい」と言った。説明も弁明もひと言もなかった。このような取るに足らぬ者の前で自分を正当化することを、侮蔑したのである。「死んでいるか、確かめなさい」。それだけだった。

首相はひどくおびえながら近づいた。すると、傷ついた男爵の目が動いた。

「生きております!」老廷臣は叫び、興奮してセラフィナを振り返った。「殿下、まだ生きております!」

「では、助けなさい」と公妃は、立ったまま動かずに答えた。「傷を縛るのです。」

「殿下、道具がございません」と首相は抗議した。

「ハンカチでも、襟巻でも、何でもあるでしょう!」公妃は叫び、同時に薄いモスリンのドレスから裾飾りを引き裂いて、床へ投げた。「それを使いなさい」と言い、初めてグライゼンゲサングに正面から向き合った。

だが首相は両手を上げ、苦悶して顔をそむけた。倒れる男爵の手が、繊細な胴着の布を引き裂き、ずり下げていたのだ。「ああ、殿下!」グライゼンゲサングは仰天して叫んだ。「お召し物が、なんというお乱れよう!」

「その裾飾りを拾いなさい」と公妃は言った。「その人が死んでしまいます。」

グライゼンゲサングは慌てて男爵へ向き直り、害もなければ役にも立たぬ、不器用な手当てを試みた。「まだ息をしております」と繰り返した。「まだすべてが終わったわけではありません。まだ逝かれてはおりません。」

「さて」と公妃は言った。「それしかできないのなら、行って担ぎ手を連れてきなさい。すぐに自宅へ運ばなくては。」

「殿下」と首相は叫んだ。「この痛ましい姿を町で見られでもしたら――ああ、国が倒れますぞ!」最後は甲高い声になった。

「宮殿に輿があります」と公妃は答えた。「無事に送り届けるのは、あなたの役目です。命じます。あなたの命にかかわることですよ。」

「わかっております、殿下」と老人は途切れ途切れに言った。「よくわかっております。ですが、どうすれば? 誰を? 公の召使たち――そうです。殿下に個人的な愛着がありました。忠実な者がいるとすれば、あの者たちです。」

「ああ、あの者たちは駄目です!」公妃は叫んだ。「私の召使、サブラを使いなさい。」

「サブラ! あのフリーメイソンの大幹部を?」首相は愕然として答えた。「これを見ただけで警鐘を鳴らし、われわれは皆殺しになりますぞ。」

公妃は、自分がどこまで落ちたのかを、目をそらさずに測った。「必要な者を使いなさい」と言った。「そして輿をここへ。」

一人になると、男爵へ駆け寄り、胸のむかつきをこらえながら出血を止めようとした。この大いかさま師の肌に触れると、つま先まで嫌悪が走った。知識のない目には傷は致命的に見えた。それでも身震いと闘い、少なくとも首相よりは巧みに、湧き出る血を押さえた。憎しみに曇っていない目なら、失神した男爵を見事だと思ったことだろう。大きく、均整が取れ、いかにも強力な機械が動きを止めて横たわっていた。その顔立ちも、気性と偽りの表情がひととき消えると、まったく端正な造形を見せた。しかしセラフィナにはそうは見えなかった。手足を投げ出し、わずかに痙攣し、大きな胸をあらわにした犠牲者の醜さに、目を縛られていた。そして、ふと心はオットーへ飛んだ。

宮殿のあちこちから、走る足音や高まる声が聞こえ始めた。大きなアーチを持つ階段の反響が、何やら騒ぎを物語っていた。やがて、重く速い足音が回廊を震わせた。首相が、オットーの従僕四人と輿を連れて戻ってきたのだった。中へ通された召使たちは、取り乱した公妃と傷ついた男を見つめた。口に出すことは許されなかったが、頭の中は悪態だらけだった。ゴンドレマークは輿へ押し込まれ、垂れ幕が下ろされた。担ぎ手が運び出し、首相が青白い顔であとに続いた。

セラフィナは窓へ駆け寄った。ガラスに顔を押しつけると、灯火が光を競うテラス、その先に宮殿と町を結ぶ灯の並木道、頭上にはうつろな夜と大きな星々が見えた。やがて小さな行列が宮殿から現れ、前庭を横切り、輝く並木道へ入っていった。四人の担ぎ手に揺られる輿、その後ろで思案を重ねる首相。小さくなってゆく一行を、公妃は不思議な思いで見送った。目はその光景に据えたまま、心は崩れた人生と希望のあちこちをさまよった。もう誰にも打ち明けられない。親しく手を差し出す者も、最低限の忠誠さえ当てにできる者もいない。ゴンドレマークの失墜とともに、自分の党派も、つかの間の人気も崩れ落ちた。そうして窓辺の腰掛けにうずくまり、冷たいガラスへ額をつけた。裂けた衣服は、かろうじて身を覆っていた。心には苦い思いが巡っていた。

その間にも、事態は急速に進んでいた。見せかけの夜の静けさの中で、破局と血なまぐさい反乱が醸されていた。輿は鉄門を抜け、町の通りへ出た。どんな恐怖が飛んでいったのか、どんな空気の震えが伝えたのか、誰にわかろう。だが、宮殿の一時の騒ぎは、すでに市民の暮らす界隈へ届き、こだましていた。噂は声高なささやきとなって町を走った。男たちは理由もわからず家を出た。大通りに人の塊ができ、まばらな灯火と大きな菩提樹の下で、群衆の黒さが増していった。

その待ち構える人々の真ん中を、見慣れぬ、垂れ幕を閉ざした輿が近づいてきた。後ろでは、大官グライゼンゲサング首相が小走りについていた。人々は黙って通り過ぎるのを見つめ、通り過ぎるや、ささやきが煮立つ鍋のようにあふれた。人の塊はほぐれ、次第に、一人、また一人と、群衆全体が列をなし、幕を下ろした輿について歩き始めた。ほどなく、仲間より少し大胆な代弁者たちが、首相へ質問を浴びせだした。長年それを使って豊かな暮らしをしてきた、あの偉大な嘘の技術が、これほど必要だったことはない。ところが今は、その技がもつれた。何にも勝る感情、恐怖に裏切られたのである。追い詰められ、しどろもどろになった。すると揺れる輿の中から、うめき声がした。たちまち起こった騒ぎと、自然の合図に応じるように押し寄せる群衆の中で、震えながらも事態を見抜いていた首相には、破滅の時を打つ寸前の時計の歯止めの音が聞こえた。そして十秒間、自分の身を忘れた。このことだけで、多くの罪は償われるだろう。担ぎ手の袖をつかみ、「公妃に逃げるよう伝えろ。すべて終わりだ」とささやいた。次の瞬間には、群衆の中で命惜しさにしゃべり散らしていた。

五分後、血走った目の召使が武具の間へ飛び込んだ。「何もかも終わりでございます!」と叫んだ。「首相から、お逃げになるようにとのお言葉です」同時に、窓の外を見たセラフィナは、黒い奔流となった民衆が、灯のともる並木道へなだれ込み始めるのを見た。

「ありがとう、ゲオルク」と公妃は言った。「感謝します。行きなさい」それでも男が立ち去らないので、「行くよう命じます」と言い添えた。「自分の身を守りなさい。」

私用の通路を下り、およそ二時間の遅れで、最後の公妃アマリア・セラフィナは、グリューネヴァルト最後の君主オットー・ヨハン・フリードリヒのあとを追った。

第三部――幸いなる不幸

第一章――シンデレラ公妃

高まる騒ぎに引かれ、門番は裏門から姿を消していた。扉は夜の闇へ開いたままだった。セラフィナが段丘を駆け上がる間にも、叫びと重い足音が、滅びを待つ宮殿へ近づいた。その奔流は騎兵の突撃のようだった。砕ける灯具の音が鋭く響き、そのすべてを圧して、叫ぶ者たちの間に自分の名が飛び交うのが聞こえた。衛兵詰所の入口で喇叭が鳴り、一発の銃声がした。それから数百の喉がとどろくとともに、ミットヴァルデン宮殿は一気に呑み込まれた。

その恐ろしい物音と声に追い立てられ、公妃は長い庭を駆け上がり、星明かりの階段を鳥のように飛び越えた。そのあたりでは幅の狭い苑地を横切り、向こう側の森という粗末な避難所へ飛び込んだ。こうして一跳びに、宮殿の夜の慎み深さと朗らかな明かりを後にした。もはや君主たる貴婦人ではまったくなく、文明の高みから一息に転がり落ち、ぼろをまとったシンデレラとなって森へ走った。

低木と白樺がまばらに生えた、開けた森をまっすぐ進んだ。そこでは星明かりが道を教えた。だがその先では、長い枝を頭上で屋根のように組み合わせた松林、その柱の間の暗闇を縫わねばならなかった。この時刻、そこには息づかい一つなかった。夜の恐怖が、何か生き物のように森の牢獄に居座っていた。公妃は手探りで進み、幹にぶつかった。ときおり耳を痛いほど澄ましたが、何も聞こえなかった。

けれど地面は上り坂で、それが励みになった。やがて、森の海から頭を出す岩山へ出た。周囲には大小さまざまな丘の頂、その間には黒い森の谷、頭上には開けた天と無数の星の輝き、西の空にはかすかな山々の姿があった。大いなる夜の栄光が心をとらえた。目には星が輝いた。泉に手首を浸すように、空の冷たさと明るさへ眼差しを浸した。その天上の感触に打たれ、心臓は落ち着いた拍子を取り戻し始めた。昼の青い野を黄金に耕し、人の大群へ合図を送りながら頭上を航行する太陽は、一人の人間にだけ向ける言葉を持たない。月も、ヴァイオリンのように、私たち個々の運命を讃え、嘆くだけだ。星だけが、楽しげなささやき手として、一人ひとりと友のように静かに語り合う。寛容さに富む賢い老人のように、微笑んで悲しみに耳を貸す。そして、目には小さく、想像には広大という二重の尺度によって、人間の本性と運命の二面を、いつも心の前に示してくれる。

公妃はそこに座り、美しい姿で美を見つめ、この喜ばしい助言者たちと語り合った。絵のように鮮やかに、耳元の声のようにはっきりと、記憶は今夜の騒動を再演した。伯爵夫人と踊る扇、膝をついた巨漢の男爵、磨かれた床の血、扉を叩く音、灯の並木道を揺れてゆく輿、使者、突進する群衆の叫び。それでも、すべては遠く幻のようであり、夜の平和と輝きが、なおも心を癒やしていた。ミットヴァルデンのほうを見た。町はすでに丘の頂に隠れていたが、その上で脈打つ赤い光が火事を知らせていた。そのほうがいい。燃え上がる宮殿に照らされ、悲劇の偉大さをまとって倒れるほうがいい。ゴンドレマークへの憐れみも、グリューネヴァルトへの気遣いも、かけらほどもなかった。人生のあの一章は永遠に閉じられ、傷ついた虚栄心の痛みだけが残っていた。はっきりした考えは一つ、逃げること。もう一つは曖昧で、半ば退けながらも、なお従っている考え――フェルゼンブルク城の方角へ逃げることだった。果たすべき義務がある。オットーを自由にしなければならない。頭は冷たくそう言った。だが心は、その義務を熱烈にさえ抱きしめ、両手は優しい手に握られることを求め始めた。

はっと思い出したように立ち上がり、斜面を下って木立へ飛び込んだ。森は迎え入れ、そのまわりを閉ざした。再び、励ますものも導くものもない暗黒の中を、さまよい、急いだ。ところどころ、枝葉の屋根の裂け目から漏れる光が目を引いた。ところどころ、輪郭の強さで周囲から浮かび上がる木があった。葉擦れ、ひときわ濃い黒み、淡いきらめきが、夜と静寂の重い圧迫をいったん和らげては、かえって際立たせた。合間には、目鼻のない暗闇がいっそう深まり、夜という巨大な耳全体が、自分の足音を貪っているように思えた。立ち止まると、静寂は増し、増し続け、呼吸にのしかかった。するとまた走りだし、つまずき、転び、なおさら急いだ。やがて森全体が揺れ、一緒に走り始めた。静寂を破る自分の狂った足音が広がり、こだまし、夜を恐怖で満たした。恐慌が追い立てた。木々から恐慌が、つかもうとする枝を伸ばした。暗闇は異様な光を帯び、見知らぬ姿や顔で満ちた。息を詰まらせ、恐怖から逃げた。それでも最後の砦である理性は、恐怖の突風にあおられながら、乱れた光を保っていた。わかってはいた。しかし、わかっているとおりには動けなかった。止まらねばならないと知りながら、なお走り続けた。

ほとんど狂気に近づいたころ、突然、細い開け地へ飛び出した。同時に轟音が増し、ぼんやりした形や白い広がりが目に入った。とたんに地面が抜けた。落ち、再び足がついたとき、信じがたいほどの衝撃が感覚を襲い、意識は呑み込まれた。

気がつくと、小川の氷のように冷たい渦の中で、脛の半ばまで水に浸かって立ち、水が落ちる岩に片手をついていた。しぶきが髪を濡らしていた。白い滝、揺れる淵にまたたく星、流れる泡、そして両側高く、静かに星明かりを飲む松が見えた。突然静まった心で、滝が淵へ確かに落ち込む音を、喜んで聞いた。びしょ濡れで岸へ這い上がった。自分の弱さがこれほど明らかになった以上、もう一度木立の黒い恐怖へ挑むことは、命か正気を自ら絶つに等しかった。しかしここなら、小川沿いの道で、親切な星々を頭上にいただき、やがて月も泳ぎ出てくるのを見ながら、恐れずに夜明けを待てる。

松の間のこの道は、森の中を曲がりながら急な斜面を下っていた。だが小川に必要な幅よりずっと広く、ところどころに小さく窪んだ草地や、星明かりの眠る森の入り江があった。公妃はそんな草地の一つを歩き、勇気をもって忍耐した。丘を見上げれば、小川が段々の滝となって流れ下ってくる。岸へ近寄れば、葦の間を静かに湧き流れている。また、いつまでも尽きぬ驚きをもって、天の大いなる一団を眺めた。夕方は冷えたが、夜は今や穏やかだった。森の奥からは、深く安らかな呼吸のように、柔らかい風が届いた。草にも、固く閉じた雛菊にも、露が重かった。むき出しの空の下で過ごすのは、この娘には初めての夜だった。恐怖の過ぎ去った今、その穏やかな優しさと平和が、魂にまで触れた。天の星々は、さまよう公妃を親しくまたたき見下ろし、誠実な小川は、励ましの言葉だけを語っていた。

やがて、公妃は驚くべき変革に気づき始めた。それに比べれば、ミットヴァルデン宮殿の火災など、雷管の一発の音と閃光にすぎなかった。松々がこちらを見る表情が、いつしか変わり始めた。短い草も、小川の流れがつくる曲がりくねった階段全体も、厳かな新鮮さをまとい始めた。このゆっくりした変容は、心にまで届いて働きかけ、深い震えで貫いた。あたりを見回した。自然の顔という顔が、意味に満ち、唇に指を当てながら、喜ばしい秘密を漏らして見返した。見上げると、空からはほとんど星が消えていた。残る星も輝きが変わり、弱まり、それぞれの場所で薄れ始めていた。そして、空そのものの色が何より不思議だった。夜の濃い青は溶け、柔らぎ、明るくなって、その代わりに、名もなく、朝の先触れとしてしか見られぬ色が現れていた。「ああ!」と公妃は叫んだ。喜びが声をとらえた。「ああ、夜明けだわ!」

息をつく間に小川を渡り、スカートをたくし上げ、薄暗い木々の間を、今度は思い切り走った。走る耳に、音楽より美しい、たくさんのさえずりが届いた。巨木の腕の分かれ目にある小皿のような家で、夜じゅう恋人同士寄り添い、温め合っていた、明るい目と大きな心を持つ歌い手たちが、目を覚まし始めたのだ。公妃の心は溶け、優しさとなって小鳥たちへ流れ出した。鳥たちは森の大聖堂の高窓にある、小さな高い止まり場から、苔と草の房の絨毯を飛ぶように過ぎる、ぼろをまとった公妃を、横目で見下ろした。

ほどなく、ある丘の頂へ苦労してたどり着き、遠い前方に、静かに満ちてくる朝を見た。東から湧き、白み、闇は震えながら光へ変わった。星々は、人の町の街灯のように消された。白は輝いて銀となり、銀は温まって金となり、金は燃えて純粋な、生きた火となった。東の空には根源の緋色が縞をなした。昼が、長く、確かな、冷たい最初の息を吸い込んだ。何リーグにもわたって森がため息をつき、身震いした。そして一跳びに、太陽が浮かび上がった。驚いた目は、昼の最初の矢を受け、その一撃にたじろいだ。四方で影が潜伏先から飛び出し、地に伏した。昼が来た。あからさまで、まばゆい昼だった。競う者たちに勝った太陽は、東の険しく孤独な空を、ゆっくりと王者のように昇り続けた。

セラフィナはしばらく、松に寄りかかってうなだれた。森の甲高い喜びが、自分をあざ笑うようだった。夜の庇護も、夜明けの胸躍る楽しい変化も、終わっていた。昼の熱い眼差しの下で、落ち着かずに身を返し、ため息をついてあたりを見回した。少し離れた低い森から、煙の柱が立ち上り、金と青の中へ溶けていた。そこには確かに人がいる。炉を囲む人々がいる。人の指が小枝を積み、人の息が幼い炎を目覚めさせ、育てた。今、火がつくにつれ、その炎は生みの親の顔を赤く照らしているだろう。そう思うと、この広大な戸外で、自分が寒く、小さく、迷子になったように感じた。若い陽光の電撃のような刺激も、森の人ならぬ美しさも、しだいに重荷となり、気をくじいた。家という隠れ場、部屋の節度ある内密さ、掃き清められ、整えられた炉火、人の家庭生活を示し、あるいは美しくするすべてのものが、縄で引くように心を引いた。煙の柱が、上空の風の流れに届き、旗のように横へなびき始めた。その変化が呼び声ででもあったかのように、セラフィナは再び森の迷路へ飛び込んだ。

明るい昼は高地に残してきた。低い木立には、まだ青い朝の薄明と、身にしみる露の冷たさが漂っていた。だが、影の広がりの上では、ところどころ、枝を大きく張った松の梢がすでに昼の光に輝き、丘の切れ目からは、陽光が堂々と明るく入り込んでいた。その中を、セラフィナは森の小道に沿って急いだ。道しるべの煙は別の方向へ流れて見えなくなり、広い荒野では太陽の方角を頼りにした。だがほどなく、新しいしるしが人の近いことを告げた。倒した幹、斧の白い削り屑、青い枝の束、積み上げた薪。それらに導かれ、ついに煙の立つ開け地へ出た。小さな落差を幾つもつくる小川のすぐそば、澄んだ日陰に小屋があった。その入口に、日焼けした厳しい顔立ちの木こりが、両手を後ろに組み、空を見上げて立っていた。

公妃はまっすぐその男へ歩み寄った。美しく、目を輝かせ、やつれた幻。華麗な衣装は痛ましく裂け、耳にはまだダイヤモンドの耳飾りがきらめいていた。歩むにつれ、破れたレースの覆いから、小さな乳房の片方が見え隠れした。まだ何もかもが曖昧なその時刻、大いなる森の沈黙から現れた公妃に、男は妖精めいたものを見るように身を引いた。

「寒くて」と公妃は言った。「疲れたのです。火のそばで休ませてください。」

木こりは見るからに動揺したが、何も答えなかった。

「お金は払います」と言ってから、その言葉を悔いた。おびえた男の目から、恐怖の火花を受け取ったのかもしれない。だがいつものように、妨げられるとかえって勇気が強く燃えた。男を戸口から押しのけて中へ入った。男は迷信じみた驚きを抱いてあとに続いた。

小屋の中は粗末で暗かった。だが炉代わりの石の上で、小枝と数本の乾いた枝が、快活な音を立て、火の持つ変幻自在の美しさを示して燃えていた。それを見るだけで心が静まった。土間の火のすぐそばにうずくまり、赤い光の中で震えながら、薪を食べる炎を感嘆して見た。木こりはなおも客を見つめていた。豪華な衣装の残骸、むき出しの腕、泥に汚れたレース、宝石。一言も口に出せなかった。

「食べ物をください」と公妃は言った。「ここへ、火のそばへ。」

男は粗い葡萄酒の入った水差しと、パン、チーズ一切れ、生の玉葱をひとつかみ置いた。パンは固く酸っぱく、チーズは革のようだった。玉葱も、大地の実りの中ではトリュフやネクタリンと並ぶ最高の名誉を占めるものではあるが、生のままでは公妃向けの一皿とは言いがたい。それでも公妃は、食欲でとは言わぬまでも、勇気をもって食べた。食べ終わると、水差しもためらわず口にした。それまでの生涯で、粗末な食べ物を口にしたことも、人の使った器からじかに飲んだこともなかった。だが勇敢な女は、最も勇敢な男よりも、はるかにたやすく境遇の変化を受け入れる。その間じゅう、木こりは盗み見るように観察を続け、その目の中では、卑しい恐れと欲が幾つも争っていた。公妃にはそれがはっきり読めた。去らねばならないとわかった。

やがて立ち上がり、一フローリンを差し出した。

「これで足りますか?」と尋ねた。

ここでようやく男の舌が動いた。「もっといただかなくては」と言った。

「差し上げられるのは、それだけです」と公妃は答え、平然とそばを通り抜けた。

だが心は震えていた。引き止めるように手が伸び、落ち着かぬ目が斧へさまようのが見えたからだ。踏み固められた道が開け地から西へ続いており、そこを急いだ。振り返らなかった。だが道がわずかに曲がり、木こりの目から隠れるや、木々の間へ滑り込み、安全と思えるまで走った。

そのころには、強い陽光が森の松葺きの屋根を無数の場所で貫き、赤い幹を燃え立たせ、涼しい影の回廊を照らし、草の上で宝石となって輝いていた。木々の樹脂は、アラビアの香料よりも五感に甘美だった。松の一本一本が、勢いある朝日の中で、自らの木の香を焚いていた。ときおり風が立ち、根を張った香炉を揺さぶり、影と陽光の宝石を、燕のように速く、蜜蜂のように群れなして飛ばし、さらさらと騒ぐ音を起こしては、つぶやきとともに運び去った。

公妃は進み、上り、下り、日向と日陰を行った。あるときは岩と白樺の間の、むき出しの尾根の上で、蜥蜴や蛇とともに。あるときは深い木立の、日を知らぬ柱の間で。谷々の迷路の中では曲がりくねった森の道をたどり、丘の頂からは遠い山々や、空を旋回する大きな鳥を眺めた。遠くに小さな村が寄り添っているのを見ると、回り道して避けた。下方には、山の急流の泡の道筋を追った。近くには、か細い泉が静かに湧いたり、緑の苔からにじんだりしていた。さらに恵まれた窪地では、幼い川の一族が合流し、石の間でちりちり鳴り、淀んで雀の水浴び場となり、あるいは切り立つ岩から水晶の棒となって落ちた。明るい空気の中を進みながら、公妃はそのすべてを、驚きに陶酔し、喜びに心をふるわせて見た。何もかもが新しく、奇妙なほど身近に感じられた。色も香りもあり、青い天の丸天井に取り囲まれ、覆われていた。

ついに、すっかり疲れたころ、広く浅い池に出会った。石が島のように立ち、岸には蒲が縁をなし、底には松葉が敷き詰められていた。根で岬をつくる松々は、自分の緑の姿を静かに見下ろしていた。公妃は岸へ這い寄り、驚いて自分を見た。宮殿の衣装の残骸をまとい、やつれた顔で目だけ明るい幻だった。風がその姿を揺らし、また水面の虫がそれを乱した。それを見ると微笑んだ。薄れる波紋の中から、もう一人の自分も微笑み返し、その顔は優しかった。長いこと暖かい日差しの中に座り、転倒で痣と傷だらけになったむき出しの腕を憐れみ、自分が汚れていることを不思議に思った。こんな異様な姿で、これほど長く歩いてきたとは、どうしても信じられなかった。

やがてため息をつき、森の鏡の前で身づくろいに取りかかった。冒険の汚れをすべて洗い落とし、宝石を外してハンカチに包み、裂けたドレスを整え、まとめていた髪をほどいた。髪を振って顔のまわりへ広げると、水面もその覆われた姿を映した。髪が菫のように香ると、オットーが言ったのを思い出した。そこで自分でも嗅いでみたが、それから首を振り、独り、少し悲しげに笑った。

その笑いに、子供らしいこだまが返ってきた。

顔を上げると、まあ、二人の子供が見ていた。小さな女の子と、もっと小さな男の子が、池のそばの枝を張った松の下に、おもちゃのように立っていた。セラフィナは子供好きではなかったし、今は心底驚いた。

「誰なの?」と、かすれた声で叫んだ。

小さな二人は身を寄せ合い、後ずさった。セラフィナの心は自分を責めた。こんなに風変わりで小さく、それでも感覚を持って生きているものを、怖がらせてしまったのだ。鳥たちを思い出し、もう一度二人の訪問者を見た。鳥よりほんの少し大きいだけなのに、はるかに無垢だった。澄んだ顔には、水面のように恐怖が映っていた。優しくしようと立ち上がった。

「おいで」と言った。「怖がらないで」そして一歩近づいた。

だが、ああ、その最初の瞬間に、森のかわいそうな二人の幼子は踵を返し、ばらばらに公妃から逃げていった。

この上なく寂しい痛みが、娘の心を貫いた。二十二歳、もうすぐ二十三歳。それなのに、自分を愛する生き物は一つもいない。オットーだけだ。だが、その人さえ許してくれるだろうか。この森で一人泣き始めたら、死か狂気に行きつく。燃える紙を踏み消すように、急いでその思いを踏み消した。髪を急いでまとめ、恐怖に追われ、胸いっぱいの悲しみに気分を悪くしながら、また歩き始めた。

午前十時を過ぎたころ、大きな街道に出た。そこでは道が、二つの堂々たる木立の間を、日光の川となって上っていた。死ぬほど疲れ、あとのことを考える気もなく、また人と文明に通じる街道の近さにいくらか励まされ、公妃は木陰の緑の道端へ横になった。眠りが襲った。初めは気を失うような恐怖があったが、抵抗をやめると、優しく抱きしめられた。そうしてしばし、苦労も悲しみも離れ、天なる父の腕へ帰った。その間、体はぼろぼろの晴れ着をまとい、街道の脇にさらされていた。両側の森からは鳥たちが飛び交い、仲間を呼び、この不思議な姿について、自分たちの言葉で議論した。

太陽は旅を続けた。影は足元を離れ、しだいに上へ縮み、まもなく体全体を置き去りにしようとしていた。そのとき、馬車の轟きが、鳥たちによってあちらこちらへ伝えられた。そのあたりの道はひどく急で、車輪の音はたいそうゆっくり近づいた。十分ほどして、一人の紳士が現れた。年配らしい落ち着いた足取りで、街道の草の縁を歩きながら、楽しげにあたりを眺めていた。ときどき立ち止まり、手帳を出して鉛筆で書き込んだ。そばに見張る者がいれば、詩人が詩句を試すように、何かつぶやくのを聞いただろう。車輪の音はまだ遠く、この旅人が馬車をはるかに引き離していたのは明らかだった。

公妃の眠る場所へかなり近づくまで、紳士は気づかなかった。だが目に入ると、はっとして手帳をしまい、歩み寄った。すぐそばに里程標があり、それに腰を下ろして、冷静に眺めた。公妃は横向きに、小さく丸まり、沈み込むように寝ていた。額は裸の片腕に乗せ、もう片方の腕は力なく伸ばされ、くぼみを見せていた。若い体は投げ捨てられたもののようで、生のしるしをほとんど示さなかった。呼吸さえ体を動かしていなかった。眠る肉体のあらゆる言葉が、極度の疲労を告白していた。旅人は皮肉に笑った。彫像を見るかのように、しぶしぶその魅力を一つずつ数えた。忘我の自由を感動的なほどにまとった姿は意外であり、眠りの赤みは花のようによく似合っていた。

「まったく」と考えた。「この娘が、こんなにきれいだとは思わなかった。それなのに」と付け加えた。「このことを一言も使えぬとは!」杖を伸ばして触れた。公妃は目を覚まし、叫んで起き上がり、荒々しく見つめた。

「よくお休みになれましたかな、殿下」と紳士はうなずいて言った。

だが公妃には、言葉にならぬ声しか出なかった。

「落ち着かれよ」と紳士は言った。その物腰そのものが、見事な手本だった。「私の馬車はすぐそこです。君主たる公妃をさらうという、珍しい楽しみを味わえそうですな。」

「サー・ジョン!」と、公妃はようやく言った。

「ご用命のままに」と彼は答えた。

公妃は跳ね起きた。「ああ!」と叫んだ。「ミットヴァルデンからいらしたのですか?」

「今朝、出てきました」と答えた。「もし殿下よりも、あそこへ戻りそうにない者がいるとすれば、この私です。」

「男爵は――」と言いかけ、公妃は口をつぐんだ。

「ご立派なご意図でした。まさしくユディト[訳注:敵将を討って民を救った、旧約聖書外典の女性]でしたな」と彼は答えた。「しかし、あれからこれだけ時間がたった今では、容体はまずまずと聞けば、安堵なさるでしょう。出発前、今朝の様子を聞いてきました。経過はまずまず、ただし激痛に苦しんでいるそうです。ええ、激痛です。隣室までうめきが聞こえるとのことでした。」

「公は」と公妃は尋ねた。「何かわかっていますか?」

「世間の話では」とサー・ジョンは、同じく楽しげにゆっくり答えた。「その点について最も確かなのは、公妃殿下だそうです。」

「サー・ジョン」と公妃は熱心に言った。「先ほどはご親切に、馬車のお話をしてくださいました。お願いです、どうかフェルゼンブルク城へ連れていっていただけませんか。どうしても済ませなければならない、大事な用があるのです。」

「何もお断りするつもりはありません」と老紳士は、十分に厳粛で真剣な調子で答えた。「私にできることなら何なりと、喜んでいたしましょう。馬車が追いつきしだい、お望みの場所へお連れします。ただ」と、もとの口調に戻って言い添えた。「宮殿のことは、何もお尋ねになりませんな。」

「どうでもよいのです」と公妃は言った。「燃えているように見えました。」

「これは驚いた!」と准男爵は言った。「見えた、ですって? 四十着もの衣装を失って、平然としていられるとは! いや、殿下、その剛毅さには感服します。国のこともですか? 私が発ったときには、政府が会議中でした――新政府が。そのうち少なくとも二人は、名をご存じのはずです。サブラ。たしか殿下にお仕えして、薫陶を受けた者でしたな――従僕でしたか? ――それから、旧友の首相殿。もっとも、いくらか下の立場でしたが。こうした動乱では、あとの者が先になり、先の者があとになるものです。」

「サー・ジョン」と公妃は、まったく率直な様子で言った。「ご親切からおっしゃってくださるのはわかります。でも、そうしたことには何の関心もありません。」

准男爵はすっかり調子を崩され、馬車の姿が見えると救いのように迎え、何か言わねばと、戻って迎えに行こうと提案した。二人はそうした。彼は丁重に乗車を助け、隣へ乗り込み、あちこちの収納場所から――馬車は実に行き届いた造りだった――果物、トリュフ入りの肝の料理、美しい白パン、繊細な葡萄酒を一本取り出した。そして父親のように世話をし、なだめたり褒めたりして、さらに食べるよう勧めた。その間、客をもてなす掟に口を封じられたかのように、皮肉の影さえ見せなかった。実際、その親切はあまりに真心らしく見え、セラフィナは感謝の念を覚えた。

「サー・ジョン」と言った。「心の中では私がお嫌いなのに、なぜこんなに親切にしてくださるのですか?」

「ああ、奥方」と彼は言った。非難を否定はしなかった。「私は光栄にも、ご主人の親しい友でして、いくらかは敬服もしておりますので。」

「あなたが!」と公妃は叫んだ。「私たち二人について、ひどいことを書かれたと聞きました。」

「まさにその奇妙な道筋で、知り合いになったのです」とサー・ジョンは言った。「私は殿下、とりわけ麗しいあなたについて、残酷に――その言葉を使うならですが――書いておりました。ご主人は私を釈放し、旅券を与え、馬車を手配してから、少年のような意気込みで決闘を申し込んできたのです。どんな結婚生活か存じていたので、その気概と忠実さを、実に痛快に思いました。『ご心配なく』とおっしゃった。『私が死んでも、惜しむ者はいません。』

その後、あなたも同じことをお考えになったようですな。いや、余談でした。私は決闘などできぬと説明したのです。『私が殴っても?』とおっしゃった。実に愉快で、本に入れたかったくらいです。ともあれ、私は負けました。あの青年を大いに気に入り、その場で醜聞の原稿を破りました。それも、あなたがご主人に受けている、小さな恩の一つです。」

セラフィナはしばらく黙って座っていた。軽蔑する者に誤解されても、痛みなく耐えられた。オットーのように人に認められたいとは願わず、頭を高く上げ、自分の道をまっすぐ進む性質だった。だが、今の話を聞き、また夫の友人でもあるサー・ジョンには、頭を下げる用意があった。

「私をどうお思いですか?」と唐突に尋ねた。

「もう申し上げました」とサー・ジョンは言った。「この上等な葡萄酒を、もう一杯召し上がるべきだと思います。」

「まあ」と公妃は言った。「あなたらしくありません。ふだんは恐れたりなさらないのに。夫を尊敬しているとおっしゃったでしょう。夫の名にかけて、正直に答えてください。」

「勇気には感服します」と准男爵は言った。「それ以外は、お察しのとおり、またご自身がおっしゃったとおり、私たちは性が合いません。」

「醜聞とおっしゃいましたね」とセラフィナは続けた。「ひどい噂だったのですか?」

「相当なものでした」とサー・ジョンは答えた。

「それを信じていらしたのですか?」

「ああ、殿下、なんというご質問を!」

「そのお答えには感謝します!」セラフィナは叫んだ。「では、ここで申し上げます。名誉にかけて、魂にかけて。この世のどんな噂にもかかわらず、私は、誰にも劣らぬ貞淑な妻です。」

「その言葉の定義には、おそらく意見が合わぬでしょうな」とサー・ジョンは言った。

「ああ!」公妃は叫んだ。「夫にはひどい仕打ちをしました。わかっています。そういう意味ではないのです。でも、夫を尊敬しておられるなら、これだけはわかっていただかなければなりません。私は恥じることなく、夫の顔を見ることができます。」

「そうでしょうとも、殿下」とサー・ジョンは言った。「その逆を考えようとしたこともありません。」

「信じてくださらないのですか?」と公妃は叫んだ。「罪のある妻だとお思いなの? あの男が私の恋人だったと?」

「殿下」と准男爵は答えた。「原稿を破ったとき、あの立派なご主人に、もうあなた方のことには口を挟まぬと約束したのです。これを最後に申し上げますが、あなたを裁くつもりはありません。」

「でも、無実とは認めてくださらない! ああ」と公妃は叫んだ。「あの人なら認めてくれる――私をもっとよく知っているのだから!」

サー・ジョンは微笑んだ。

「私の苦しみをお笑いになるのですか?」セラフィナは尋ねた。

「女性ならではの、あっけらかんとしたところをです」とサー・ジョンは言った。「男には、その言葉を叫ぶ勇気はまずないでしょう。もっとも、まったく自然な言葉ですし、疑いなく事実でもありましょう。ですが、殿下――真剣にご相談くださるのなら申し上げますが――あなたが苦しみと呼ぶものに、私は同情しません。あなたはまったく利己的に振る舞い、今その結果を刈り取っている。一度でも、ご自分のことだけでなく、ご主人のことを考えていたなら、今こうして一人で逃げ、手に血をつけ、気難しいイングランドの老人から、醜聞より苦い真実を聞くことはなかったでしょう。」

「ありがとうございます」と公妃は震えながら言った。「まったくそのとおりです。馬車を止めていただけますか?」

「いいえ、お嬢さん」とサー・ジョンは言った。「落ち着かれるまでは。」

長い沈黙の間、馬車は岩と森のそばを進んだ。

「これなら」と公妃は、完全に落ち着いた声で再び言った。「落ち着いたと認めてくださいますか。紳士として、私を降ろしてください。」

「賢明ではないと思います」と彼は答えた。「よろしければ、このままお乗りなさい。」

「サー・ジョン」と公妃は言った。「あの石の山に死神が座っていても、私は降ります! 責めているのではありません。感謝しています。人からどう見えるのか、今わかりました。でも、私をそのように思う方の隣で息をするくらいなら、私は――ああ!」と叫んで、黙った。

サー・ジョンは紐を引いて合図し、馬車を降り、手を差し出した。だが公妃は助けを断った。

道は今、曲がりくねってきた谷々を抜け、グリューネヴァルトの急な北斜面、その額に沿って軒蛇腹のように走る区間へ出ていた。降りた場所は張り出した角で、頭上には大きな岩と、風にねじられた松がせり出していた。はるか下では青い平野が広がり、空へ溶けていた。前方の道は、大きく折れ返す幾つものジグザグで上ってゆき、その先では高い崖の塔が視界を閉じていた。

「あれです」と准男爵は塔を指した。「目的地のフェルゼンブルク城です。道中のご無事を祈ります。これ以上お力になれず、残念です。」

彼は席へ戻って合図をし、馬車は走り去った。

セラフィナは道端に立ち、何も見えぬ目で前方を見つめた。サー・ジョンは、もう心から追い出していた。嫌いだ、それで十分だった。セラフィナが憎んだり軽蔑したりするものは、たちまち小人の国ほどの小ささに縮み、その後は一貫して思考から無視された。そして今、ほんとうに考えるべきことがあった。まだ夫を許していなかった、あのオットーとの会見が、まるで違う光の中に現れ始めた。夫は侮辱を受けたばかりで、まだ胸を震わせ、妻のために戦った息も整わぬまま、会いに来たのだ。それを知れば、あの言葉の重みはどれほど変わることだろう! そうだ、愛していたに違いない。これは勇敢な感情で、単なる意志の弱さではなかった。では自分は、愛することのできぬ女なのか。そうなのだろう。涙をのみ込み、オットーに会いたいと願った。すべてを説明し、膝をついて過ちへの憐れみを乞い、もしほかのすべてがもう取り返しのつかぬところまで来ているのなら、せめて奪った自由だけでも返したかった。

公妃は街道を急いだ。道が山肌の突端や谷筋を出入りして曲がるたび、前方高く、山の空気に紫を帯びた高い塔が、見えては隠れた。

第二章――キリスト教の一つの徳について

走る牢獄へ乗り込んだとき、オットーは前側の座席の隅に、もう一人いるのを見つけた。だが、その人物は頭を垂れ、馬車の灯火は外へ光を投げていたので、男だということしかわからなかった。大佐が囚人に続いて乗り、扉をばたんと閉めた。すると四頭の馬は、すぐに調子のよい速歩に移った。

「お二方」と、しばらくして大佐は言った。「黙って旅をするのなら、家にいるのと変わりませんな。むろん私は憎まれ役ですが、趣味のある人間でして、本も好きなら、ためになる話も好きです。それなのに、あいにく生涯、衛兵詰所に閉じ込められている。これは私の好機です。どうか台なしになさらぬよう。麗しい女性を別にすれば、宮廷随一のお二人がここにおられる。博士という大著述家と――」

「ゴットホルト!」オットーは叫んだ。

「どうやら」と博士は苦々しく言った。「一緒に行かねばならぬらしいな。殿下も、そこまでは計算していなかっただろう。」

「何を言いたい?」オットーは叫んだ。「私が君を逮捕させたとでも?」

「推論は簡単だ」と博士は言った。

「ゴードン大佐」と公は言った。「どうか、ホーエンシュトックヴィッツ殿の誤解を解いてほしい。」

「お二方」と大佐は言った。「お二人は同じ令状で逮捕されました。摂政代行セラフィナ公妃の名において、宰相ゴンドレマーク男爵の副署を伴い、日付は一昨日、十二日です。獄中の秘密を明かしてしまいましたな」と付け加えた。

「オットー」とゴットホルトは言った。「疑ったことを許してくれ。」

「ゴットホルト」と公は言った。「許せるかどうか、わからない。」

「殿下は、ためらわれるには寛大すぎるお方と存じます」と大佐は言った。「ですが、ひとつお許しを。故郷の私の宗派では、恩寵の手段ということを申します。今、それをご提供しようと思いまして」そう言って、大佐は明るいランプに火をともし、馬車の片側へ掛け、前の座席の下から、瓶の長い首が何本も突き出た立派な籠を取り出した。「汝、希望を呼び戻す――この先はどうでしたかな、博士?」と陽気に尋ねた。「ある意味、私はお二方の主人役です。お二方とも、私の厄介な立場を思いやってくださり、顔を立てるのを拒みはなさるまい。では、公殿下に乾杯!」

「大佐」とオットーは言った。「陽気なもてなし役を得たものだ。ゴードン大佐に乾杯。」

こうして三人は、たいそう気持ちよく葡萄酒を飲んだ。その間に馬車は大きく揺れて街道へ曲がり入り、速度を上げ始めた。

車内は明るかった。葡萄酒がゴットホルトの頬を染めた。小さくなり、尖って伸びる森の木々の影、幅を広げたり狭めたりする星空の帯が、窓の外を駆け過ぎた。一つ開けてあった窓からは、夜ならではの爽やかさを帯びた森の空気が入ってきた。車輪の転がる音と、速歩の馬の調べが、耳に楽しげに響いた。乾杯に乾杯が続き、三人は幾度も杯越しに会釈しては飲み干した。やがて、心地よい魔法が降りかかった。その力の下で、長い物思いの沈黙を破るものは、静かで親密な笑い声くらいしかなくなった。

「オットー」と、そんな静けさのあとでゴットホルトは言った。「許せとは言わない。立場が逆なら、私には君を許せまい。」

「まあ」とオットーは言った。「よく使う言葉ではある。私は君を許す。だが、君の言葉も疑いも、胸に刺さっている。君のことだけではない。ゴードン大佐、あなたが執行している命令を思えば、家庭の不和を隠しても仕方がない。ここまで来れば、もう世間のものだ。さて、お二方、私は妻を許せるだろうか? もちろん許せるし、許している。だが、どんな意味でだ? 決して復讐などという卑しいことはしない。それと同じくらい確かに、妻はもう、見違えるほど変わった人間としか思えないだろう。」

「失礼ながら」と大佐は答えた。「お二方はキリスト教徒でいらっしゃる、と考えてよろしいですかな? われわれは皆、惨めな罪人だと自覚しているはずですが。」

「その自覚はない」とゴットホルトは言った。「この結構な液体で温まったところで、あなたの命題を否定しよう。」

「なんですと? 一度も悪事をなさらなかった?」大佐は叫んだ。「ついさっき、許しを乞うておられたのを聞きましたぞ。神にではない、同じ地べたの虫けらに!」

「参った。議論の達人ですな、大佐」と博士は言った。

「いや、そう言っていただけるとは光栄です」と大佐は言った。「アバディーンで、しっかり基礎を仕込まれましたからな。さて、この許しの問題ですが、これは曖昧な信条と――それより危険なくらいの――規則正しい暮らしから生じるものです。堅固な信仰と、だらしない素行、これが知恵の根っこです。お二方は、許すには善良すぎる。」

「いささか無理な逆説だ」とゴットホルトは言った。

「失礼だが、大佐」と公は言った。「悪意がないのはよくわかる。それでも、その言葉は皮肉のように身にしみる。今の私が、善人と呼ばれたいとお思いか? 長年の不始末の罰を受けている今、しかもあなたと同じく、それを当然と認めようとしている今に?」

「いや、失礼しました!」大佐は叫んだ。「ですが殿下は、神学校を追い出されたことも、官位を剥奪されたこともないでしょう。私はありました。軍務怠慢で免官です。正直に申せば、殿下、酔っていたのです。今では決してしませんが」と付け加え、杯を取り出した。「ところが、自分の性質の欠陥をほんとうに味わい、自分を、人生の中をぶつかりながら回る盲目の独楽のようなものだと思うようになると、許しについて、まるで違う見方を覚え始めます。人を許せぬと言うのは、自分を許せるようになってからです。それ以前には言いません。そして、その日はずいぶん先になりそうです。父、アレキサンダー・ゴードン牧師は善人でしたが、他人にはえらく厳しかった。私はいわゆる悪人で、その違いです。どんな人間の過ちでも許せぬ者は、人生の青二才です。」

「しかし、あなたは決闘の名手だと聞いているが、大佐」とゴットホルトは言った。

「それは別です」と軍人は答えた。「職業上の作法です。非キリスト教的な感情は持たぬよう、心がけております。」

ほどなく大佐は深い眠りに落ち、二人の連れは顔を見合わせて微笑んだ。

「変わった男だ」とゴットホルトは言った。

「不思議な監守でもある」と公は言った。「だが、言ったことは正しい。」

「よく考えれば」とゴットホルトは思案した。「友人を許せないとき、許せないのは自分自身なのだな。どんな争いにも、自分の過ちの糸が幾筋か絡んでいる。」

「許す者の名誉を損なう罪もあるのではないか?」オットーは尋ねた。「自尊心の限界というものはないのか?」

「オットー」とゴットホルトは言った。「自分を尊敬している者などいるだろうか。この哀れな流れ者の傭兵には、私たちは立派な紳士に見えるのかもしれない。だが自分自身にとっては、張りぼての玄関口の内側に、致命的な弱さがどろどろに溶けているだけではないか?」

「私なら、そうだ」とオットーは言った。「だが君は、ゴットホルト。あの尽きぬ勤勉さ、鋭い頭脳、著書――人類に仕え、快楽も誘惑も軽蔑する君が! どれほど羨ましく思うか、君にはわかるまい。」

「オットー」と博士は言った。「ひと言で言おう。口にするのは苦いが、私は隠れた大酒飲みだ。そう、飲みすぎる。その癖のせいで、君が私の献身を褒める、ほかならぬあの本からも、あるべき価値が失われた。気性も悪くなった。先日、君に話したとき、あの激しさのどれほどが徳のためだったのか。どれほどが前夜の酒の熱だったのか。そうだ、あそこで眠る哀れな酒仲間が言い、私が虚栄心から否定したとおり、私たちは皆、惨めな罪人なのだ。ひとときここに置かれ、善を知りながら悪を選び、神の目の前に裸で恥じて立っている。」

「そうなのか?」オットーは言った。「では、私たちは何なのだ? 最も優れた者まで――」

「人間に、最も優れた者などいない」とゴットホルトは言った。「私は君や、あの哀れな眠り手より善くはないし、おそらく悪くもない。偽物だったのだ。そして今、君は私を知った。それだけだ。」

「それでも、君への愛情は変わらない」とオットーは静かに答えた。「過ちは、私たちを別人にはしない。ゴットホルト、杯を満たそう。この悪い成り行きの中の善いものに乾杯しよう。昔からの友情に。そして飲み終えたら、私に腹を立てる、そのもっともな理由を許してくれ。私と一緒に妻に乾杯してほしい。私がひどく扱い、私をひどく扱った妻に。危険の中へ置いてきたのではないかと、私は恐れている。ひどく恐れている。まだ人に愛され、まだ人を愛せるなら、どれほど悪い人間かなど、何だというのだ?」

「そのとおり!」博士は答えた。「実にいい言葉だ。悲観論者への真の答えであり、人類に絶えず起こる奇跡だ。では、まだ私を愛してくれるのか? 妻も許せるのか? それなら良心など、影に吠えつくしつけの悪い子犬と同じで、『伏せろ、犬め』と言ってやればいい。」

二人は沈黙に入り、博士は空の杯を指で叩いた。

馬車は谷々から抜け出し、グリューネヴァルトの正面を走り、ゲロールシュタインを見下ろす、開けたバルコニーのような街道へ出た。はるか下、森の裾が落ちるところでは、白い滝が星に向かって輝き、その向こうには、平野の上に裸の夜が立っていた。反対側では、灯火が断崖の面をなめ、背の低い松が無数の針葉をきらめかせては、また後ろの闇へ消えた。花崗岩の道は車輪と蹄の下で轟いた。絶えず曲がる道のため、ときには谷を隔てた向こう側に、夜の中を隊列正しく進む護衛隊が見えた。やがて、少し上の山の大胆な張り出しに、フェルゼンブルク城がはっきり姿を現し、星空へその巨体を据えた。

「見ろ、ゴットホルト」と公は言った。「目的地だ。」

ゴットホルトは夢想から覚めたようだった。

「考えていたのだが」と言った。「危険があるのなら、なぜ抵抗しなかった? 自分から来たと聞いた。しかし、そばにいて妻を助けるべきではなかったか?」

公の頬から、血の気が引いた。

第三章――摂理の女神ローゼン:最終幕 馬を飛ばして立ち去る

忙しく立ち働く伯爵夫人がセラフィナとの会見を終えて出てきたとき、ひどく恐れ始めていたと言っても言いすぎではない。廊下に立ち止まり、ゴンドレマークを念頭に、自分のしたことを数え上げた。たちまち扇の出番になったが、その不安は扇で払い去れるものではなかった。「あの娘は逆上している」と思った。それから暗然と、「私はやりすぎた」。即座に退避を決めた。さて、ローゼン夫人にとっての聖山[訳注:古代ローマの平民が政治的抗議のため退去した場所]は、森の中のとある田舎の別邸だった。詩興に襲われた本人はタンネン・ツァウバーと呼んでいたが、ほかの誰もが、ただクラインブルンと呼んでいた。

思いつくや、夫人はそこへ猛烈な勢いで馬車を走らせた。宮殿の並木道の入口でゴンドレマークと行き会ったが、気づかぬふりをした。クラインブルンはたっぷり七マイル離れた狭い谷底にあったので、騒動の噂は届かぬまま夜を過ごし、火災の輝きも間の丘々に隠された。ローゼン夫人はよく眠れなかった。あの愉快な夜の結果が本気で気になり、ゴンドレマークのもとへ戻る勇気を得るまで、かなり長くこの荒野に滞在し、延々と弁明の手紙を書かねばならぬ姿が見えた。一方、気晴らしにオットーから受け取った証書を調べたが、そこにも失望の種があった。こんな不穏な時代に土地など持ちたくないし、それに、オットーは農場の値打ち以上の金を払ったに違いないと思った。最後に、公の釈放命令書が、お節介な指を文字どおり焼くようだった。

そうした事情をすべて考え合わせた結果、翌日、乗馬服をまとい、帽子のつばをはためかせた優美で美しい婦人が、フェルゼンブルク城の門前で手綱を引いた。はっきりした目的があったとは限らないが、人生は試してみるものという、いつもの考え方には従っていた。門へ呼ばれたゴードン城代は、万能の伯爵夫人を、この上なく優雅に迎えた。もっとも、朝の光で見ると、驚くほど老けていた。

「あら、城代殿」と夫人は言った。「驚くことを持ってきたのよ」と、意味ありげにうなずいた。

「いや、奥方、囚人たちは私に残しておいてください」と彼は言った。「あなたも仲間入りしてくだされば、いや、私は一生幸せです。」

「私を甘やかしてくださるのね?」と夫人は尋ねた。

「努力しますとも、努力しますとも」と城代は答え、腕を差し出した。

夫人は腕を取り、裾をつまみ上げ、相手を近くへ引き寄せた。「公に会いに来たの」と言った。「あら、疑い深い方! 用事ですわ。あの馬鹿なゴンドレマークの使いで。私を飛脚みたいに走り回らせるのよ。私が飛脚に見えて、ゴードン殿?」そして目をじっと据えた。

「天使に見えます、奥方」と城代は、洗練された騎士道そのものの顔で答えた。

伯爵夫人は笑った。「馬に乗った天使ね!」と言った。「ずいぶん早業だこと。」

「来たり、見たり、勝ちたり、ですな」とゴードンは大仰に言い、自分の機知と優雅さに大いに満足した。「馬車の中で、あなたに乾杯しましたよ、奥方。実に上等な葡萄酒で、深々と飲み干しました。グリューネヴァルトで最も美しい女性、いや、最も美しい目を持つ女性に、と。あれほどの目は、故郷で一度しか見たことがありません。大学にいた若い馬鹿のころです。トマシナ・ヘイグという名でした。名誉にかけて申しますが、瓜二つでしたな。」

「では、馬車の中は楽しかったのね?」伯爵夫人は、あくびを優雅に隠して尋ねた。

「ええ、実に愉快な話をしました。ただ、あの立派な公殿下には、いつもより一杯余計だったかもしれません」と城代は言った。「今朝は少し元気がないようです。寝るまでには、またいい気分にして差し上げましょう。こちらのお部屋です。」

「そう」と夫人はささやいた。「息を整えさせて。いいえ、まだ、待って。すぐ開けられるようにしておいて」そして伯爵夫人は霊感を受けた者のように立ち、美しい声を響かせて『涙の流れるままに』を歌った。ほどよいところへ達し、自由を求めるため息を旋律にのせて歌い上げると、合図とともに扉が大きく開いた。夫人は滑るように公の視界へ入り、目を輝かせ、歌ったために頬もいくらか鮮やかだった。見事な芝居の登場であり、中の少々陰気な囚人には、その姿は陽光だった。

「ああ、夫人!」公は駆け寄って叫んだ。「あなたが、ここへ!」

夫人はゴードンへ意味ありげな目を向け、扉が閉まるや、オットーの首へすがりついた。「あなたが、こんなところに!」と嘆き、しがみついた。

だが公は、その羨ましい立場にありながら、いくらか体をこわばらせていた。伯爵夫人はたちまち激情から立ち直った。

「かわいそうに」と言った。「ほんとうにかわいそう。ここへ、私の隣へ座って、何もかも話してちょうだい。見ているだけで胸が痛むわ。時間はどんなふうに過ぎるの?」

「夫人」と公は隣に座り、優雅さを取り戻して答えた。「これからは、あなたがお帰りになるまで、あまりにも早く過ぎるだろう。だが、様子を聞かせてほしい。昨夜、何もしなかった自分を、ひどく責めている。あなたの忠告は賢明だった。抵抗すべきだったのだ。賢明で、しかも高潔な忠告だった。あとで考えて、驚嘆した。あなたは気高い心をお持ちだ。」

「オットー」と夫人は言った。「そんなことを言わないで。正しかったのかしら、とさえ思うのよ。私にも義務があるの、かわいそうなあなた。でも、お顔を見ると、みんな溶けてしまう。立派な決心など、何もかも飛んでいくの。」

「私の決心は、いつも遅すぎる」と公はため息をついた。「ああ、抵抗できたのなら、何だって差し出すものを! 自由のためなら、何だって!」

「では、何をくださる?」夫人は尋ねた。赤い扇が開き、目だけが城壁の上からのぞくように、明るく公を見つめた。

「私が? どういう意味だ? 夫人、何か知らせをお持ちなのだね」と公は叫んだ。

「さあ、どうかしら」と夫人は曖昧に言った。

公は足元にひざまずいた。「望みをもてあそばないでほしい」と懇願した。「教えてほしい、親愛なるローゼン夫人、どうか! あなたに残酷なことはできない。そんな性質ではない。差し出すもの? 何もない。何一つ持っていない。ただ慈悲を乞うしかない。」

「およしなさい」と夫人は言った。「不公平よ。オットー、私の弱みをご存じでしょう。勘弁して。寛大でいてちょうだい。」

「ああ、夫人」と公は言った。「寛大であってほしいのは、あなたのほうだ。どうか憐れんでほしい」手を取って握り、愛撫と懇願を重ねた。伯爵夫人は、この模擬攻城戦を存分に楽しみ、ついに折れた。跳ね起き、ドレスの胸元を引き開け、胸の温もりを残す命令書を床へ投げた。

「ほら!」と叫んだ。「あの人から無理に取ってきたの。お使いになれば、私は破滅よ!」そして、激しい感情を隠すかのように顔をそむけた。

オットーは紙へ飛びつき、読んで、声を上げた。「ああ、神よ、妻をお恵みください!」と言った。「妻をお恵みください!」そして筆跡に接吻した。

ローゼン夫人は、まれに見るほど気立てのよい女だったが、もう役を演じきれなかった。「恩知らず!」と叫んだ。「私があの人からもぎ取ったのよ。信頼を裏切ってまで手に入れたのに、感謝するのはあの人なの!」

「責められるだろうか?」公は言った。「妻を愛しているのだ。」

「よくわかったわ」と夫人は言った。「では、私は?」

「あなた、ローゼン夫人? 最も親しく、最も優しく、最も寛大な友だ」と公は歩み寄って言った。「それほど美しくなければ、完璧な友でいらっしゃる。あなたはユーモアに富み、ご自分の魅力をご存じないはずもない。ときどき私の弱さをもてあそんで楽しまれるし、私もときには、その喜劇を楽しめる。だが今日は違う。今日は真実の、真剣な、男らしい友でいてほしい。あなたが美しく、私が弱いことを、忘れさせてほしい。さあ、親愛なる伯爵夫人、今日だけは、心からあなたに頼らせてください。」

微笑んで手を差し出すと、夫人は率直に取った。「ほんとうに、あなたに魔法をかけられたわ」と言った。それから笑い、「魔法の杖は折ってしまう!」と付け加えた。「最高の褒め言葉を差し上げなくてはね。難しいことを、うまくおっしゃった。殿下、あなたは実に巧みだわ。私が――魅力的なのと同じくらい」その言葉とともに深くお辞儀をして、そのとおりだと証明した。

「そんなに美しくなさっては、約束が守られているとは言いがたい、夫人」と公は一礼した。

「最後の矢でしたの」と夫人は答えた。「もう武器はありません。空砲よ、ああ、殿下! さて、申し上げます。この牢を出るとお決めなら、出られます。そして私は破滅します。お選びなさい!」

「ローゼン夫人」とオットーは答えた。「決めた。出ていこう。義務が道を示している。この軽薄者が、いつも怠ってきた義務だ。だが、損をする心配はいらない。むしろ、鎖につないだ熊のように、私をゴンドレマーク男爵のところへ連れていってほしい。もう私は、なりふり構わない。妻を救うためなら、何でもする。男爵が求め、思いつくことなら、何でも。存分に満足させよう。レビヤタン[訳注:聖書に登場する巨大な怪物]ほど巨大で、墓場ほど貪欲でも、満足させる。そして、この芝居の妖精であるあなたの手柄にしてほしい。」

「決まり!」と夫人は叫んだ。「すばらしい! もう魅惑の王子さまではないわ。魔法使いの王子さま、ソロン[訳注:古代アテナイの立法者、七賢人の一人]のような王子さま! 今すぐ行きましょう。待って」と足を止めた。「お願い、殿下、この証書をお返しさせて。農場を気に入ったのはあなたでしょう。私は見たこともないのだし。農民を助けたかったのも、あなた。それに」と、おかしなほど口調を変えて付け加えた。「私は現金のほうがありがたいわ。」

二人とも笑った。「また農場主に戻ったか」とオットーは書類を受け取った。「もっとも、借金まみれだが。」

伯爵夫人が呼び鈴を鳴らすと、城代が現れた。

「城代殿」と夫人は言った。「殿下と駆け落ちします。話し合いの結果、すっかり理解し合えたので、政変は終わりです。これが命令書。」

ゴードン大佐は銀縁眼鏡を鼻に掛け直した。「なるほど」と言った。「公妃のお署名、確かです。しかし、奥方、逮捕令状には副署がありましたが。」

「ハインリヒのね!」とローゼン夫人は言った。「そして、その代理がここにいるでしょう。」

「では、殿下」と傭兵将校は言った。「私には損失ですが、お祝い申し上げます。美に奪われ、私は嘆くばかりです。博士はまだ残ってくださる。高潔、博識、洒脱、快活――書物の人ですな。」

「そう、気の毒なゴットホルトのことは何も書いてない」と公は言った。

「城代殿のお慰めでしょう? 何もかも取り上げるおつもり?」とローゼン夫人は尋ねた。

「それから、殿下」とゴードンは続けた。「この一時の不遇の間、私がしかるべき敬意と、申し添えるなら気配りをもって職務を果たしたと、お認めいただけましょうか。わざと陽気に振る舞いました。笑いと、上等な葡萄酒こそ、ふさわしい慰めと思いまして。」

「大佐」とオットーは手を差し出した。「あなたとご一緒できただけで、十分だった。愉快な気分をくださったことだけでなく、必要としていた哲学を教えていただいたことにも感謝する。これがお別れの最後とは思いたくない。ひとまず、この不思議な出会いの記念に、今しがた書いていた詩を差し上げたい。私は詩人とは程遠く、牢の格子もよい霊感をくれなかったので、少なくとも珍品とは言えるだろう。」

大佐は紙を受け取ると顔を輝かせ、急いで銀縁眼鏡を掛け直した。「ほう!」と言った。「アレクサンドラン[訳注:フランス古典悲劇などに用いる十二音節詩行]、悲劇の韻律ですな。殿下、聖遺物のように大切にいたします。自分で申すのも何ですが、これほどふさわしい贈り物はありません。『広大なる平野と果てしなき森の神々よ。』

実にいい」と言った。「実に結構です! 『獄守その人からさえ教えを受け。』

いや、なんともご厚意のあふれた!」

「さあ、城代殿」と伯爵夫人は叫んだ。「詩は私たちが帰ってからお読みになって。出し惜しみの門をお開けなさい。」

「失礼いたしました」と大佐は言った。「私のような性質と趣味の人間には、この詩と、親切なお言葉が、実に胸にしみまして。護衛をおつけしましょうか?」

「いいえ、いいえ」と伯爵夫人は答えた。「来たときと同じく、お忍びで行きます。二人で馬に乗ります。公には召使の馬を。急ぐことと、内密にすること。それだけをお願いします、大佐」そう言って、待ちきれぬように先へ立ち始めた。

だがオットーには、まだゴットホルト博士への別れが残っていた。城代も、片手に眼鏡、片手に紙を持ってついてきて、原稿を読み解くたび、大切な詩句を少しずつ、出会う者すべてに聞かせねば気が済まなかった。熱意はなおも高まった。「まったく」とついに叫んだ。ようやく謎を解いた者の顔だった。「ロビー・バーンズを思わせますな!」

しかし何事にも終わりはある。ついにオットーは、山の壁に沿ってローゼン夫人の隣を歩いていた。召使が二頭の馬を引いて続いた。周囲には陽光、そよ風、飛ぶ鳥、広大な空の領域、果てしない眺めがあった。すぐそばには野生の森、そびえる尖峰、山の急流の音と声。そしてはるか下の平野では、緑がサファイア色へ溶けていた。

初めは黙って歩いた。オットーの心は、自由と自然の喜びで満ち、合間にはゴンドレマークとの会見を考えていた。だが、最初の荒々しい岩の突端を回り、その大きな塊にフェルゼンブルク城が隠れると、夫人は立ち止まった。

「ここで」と言った。「かわいそうなカールを馬から降ろして、あなたと私は拍車を利かせましょう。よいお相手と馬を飛ばすのが、私は大好きなの。」

そのとき、道の一つ下の角を回って、馬車が姿を見せた。重々しく軋みながら近づき、少し前を、手帳を持った旅人が落ち着いて歩いていた。

「サー・ジョンだ!」オットーは叫び、呼びかけた。

准男爵は手帳をしまい、片眼鏡で見つめ、それから杖を振った。彼の側も、伯爵夫人と公の側も、いくらか足を速めた。細い流れが丸岩にしぶきを上げ、灌木の間へ雨となって散る、道の内側の角で出会った。准男爵は公にはたいそう礼儀正しく挨拶した。だが伯爵夫人には、どこか嘲るような驚きをもって頭を下げた。

「まさか、奥方、まだ知らせをご存じないのですか?」と尋ねた。

「何の知らせ?」夫人は叫んだ。

「第一級の知らせです」とサー・ジョンは答えた。「国家に革命、共和国の宣言、宮殿は全焼、公妃は逃亡、ゴンドレマークは負傷――」

「ハインリヒが怪我を?」夫人は悲鳴を上げた。

「負傷し、激痛に苦しんでいます」とサー・ジョンは言った。「うめき声が――」

夫人の唇から、凄まじい罵りが飛び出した。平穏なときなら、聞く者を飛び上がらせたことだろう。馬へ駆け寄り、鞍によじ登ると、まだ半ば腰掛けたまま、全速力で坂道を駆け下りた。馬丁は一瞬ぽかんとしてから、あとを追った。激しく駆け抜けた勢いに、馬車の馬たちは驚き、急斜面の縁から落ちかけた。なおも蹄を鳴らして遠ざかり、岩々が疾走にこだました。馬丁はむなしく鞭をくれて追い続けた。四つ目の角で、ゆっくり上ってきた女が悲鳴を上げて飛び退き、わずか手の幅ほどの差で死を逃れた。だが伯爵夫人は、それに目も心も向けなかった。山肌の突端を出たり入ったり、手綱を緩めて飛ばし、馬丁はなおも追うのに苦労していた。

「まことに衝動的なご婦人だ!」とサー・ジョンは言った。「あの男を大事にしているとは、誰が思ったでしょう」言い終える前に、公につかまれ、もがいていた。

「妻は! 公妃は? 妻はどうした!」

「道の下です」と息を詰まらせながら答えた。「二十分前に、そこで別れました。」

次の瞬間、喉を締められた著述家は一人残され、公は伯爵夫人のあとを追い、徒歩で坂を駆け下っていた。

第四章――森の幼子たち

公の足は速く走り続けたが、初めは足をはるかに追い越していた心は、やがて遅れ、ためらい始めた。セラフィナの不幸を憐れまなくなったのでも、会いたくなくなったのでもない。だが、妻の頑なな冷たさの記憶がよみがえり、それがいつもの自信のなさを呼び覚ました。サー・ジョンにすべてを話す時間があれば、せめて妻がフェルゼンブルク城へ急いでいると知っていれば、熱烈に駆け寄っただろう。そうではなかったので、またしても自分が押しかけ、ひょっとすると妻の不幸につけ込み、栄華の時に自分を拒んだ妻へ、落ちぶれた今になって、望まれぬ愛撫を差し出そうとしているように思えた。虚栄心の傷が燃え始めた。再び怒りは、敵意を秘めた寛大さの姿を取った。もちろん、すべて許そう。愛してくれぬ妻を助け、救い、慰めよう。だが距離を置き、自分を抑え、心には沈黙を命じよう。子供の無垢を尊ぶように、セラフィナの愛のなさを尊ぼう。こうして、ついに角を曲がって公妃を見たとき、まず思ったのは、純粋な敬意しかないと安心させることだった。すぐに走るのをやめ、立ち止まった。一方の妻は、小さく叫んで駆け寄り始めた。だが夫が止まるのを見ると、悔恨に打たれて自分も止まり、やがて、この上なく罪深いおずおずした足取りで、ほとんどそばまで歩み寄った。

「オットー」と言った。「何もかも、私が壊してしまった!」

「セラフィナ!」公はすすり泣くように叫んだ。だが動かなかった。半ばは決意に押しとどめられ、半ばは妻の疲れと乱れた姿に、呆然としたからだった。妻が黙って立っていれば、すぐにも抱き合っただろう。だが妻もまた、会見に備えていた。そして言い立てによって、この黄金の瞬間を台なしにせねばならなかった。

「何もかも!」と続けた。「何もかも壊してしまった! でも、オットー、どうか親切に聞いて。弁解ではないの。自分の過ちを認めたいの。あまりにも残酷な思いをして学んだの。考える時間もたっぷりあって、世界がまるで違って見える。私は盲目だった、まったく何も見えていなかった。ほんとうによいものをみんな見逃し、影を頼りに生きていた。でも、この夢が崩れ、あなたを裏切り、人を殺したと思ったとき――」公妃は止まった。「ゴンドレマークを殺したと思ったの」と、深く顔を赤らめて言った。「そして、あなたの言ったとおり、一人きりになったの。」

ゴンドレマークの名は、公の寛大さを拍車のように刺した。「では」と公は叫んだ。「私のほかに、誰の責任だというのだ? 愛されていてもいなくても、君のそばにいるのが義務だった。だが私は根っからの逃げ腰で、反対するより見捨てるほうを選んだ。愛のために戦うという、愛のよりよい務めを、とうとう学べなかった。それでも、愛はあった。そして今、このおもちゃの国は、まず私の不徳、次に君の未熟さのせいで倒れ、私たちはここに二人きりだ。ヨブのように貧しく[訳注:聖書のヨブは財産も家族も失う試練を受けた]、ただの男と女になった。だから頼む、弱さを許し、愛に身を任せてほしい。誤解しないでくれ!」妻が口を開こうとするのを見て、手を上げて制した。「私の愛は変わった。夫としての要求は、すべて取り去られている。見返りの愛を求めず、期待もせず、望みもしない。君があれほど不快に思った役柄は、永遠に忘れてよい。気兼ねなく、兄の情愛として受け入れてほしい。」

「寛大すぎるわ、オットー」と妻は言った。「あなたの愛を受ける資格を失ったのは、わかっている。その犠牲は受けられない。私を置いていくほうが、ずっといい。ああ、行って、私を運命に任せて!」

「いや、いけない」とオットーは言った。「まずは、私が君を連れ込んだ、この蜂の巣から逃げなくては。私の名誉にかかわる。さっきはヨブのように貧しいと言ったが、何と、ここからそう遠くないところに、自分の家がある。そこへ連れていこう。君主オットーが倒れたのなら、狩人オットーにどんな運が残っているか試さなくては。さあ、セラフィナ。私を許してくれたことを示して、できるだけ明るく逃亡の仕事に取りかかろう。君はよく言ったね。夫と君主でさえなければ、私は愉快な男だと。今はどちらでもない。だから、後ろめたく思わず、私との道連れを楽しんでいい。さあ行こう。捕まってはつまらない。まだ歩けるか? では、出発だ」と言い、先に立ち始めた。

二人のいた場所から少し下では、かなり大きな小川が道の下を流れ、道は一つのアーチでそれを越えていた。そのおしゃべりな水の片岸に、小道が緑の谷を下っていた。あるところは岩と石が多く、谷の急な崖面を通り、あるところは茨に塞がれ、またあるところでは、妖精の住むような川辺の草地を、数歩だけ平らに走った。斜面は海綿のように泉の水をにじませていた。小川は勢いも水量も増し続け、落差を越えるたび、いっそう重く落ち、淵にはいっそう大きな渦を巻いた。この流れの働きは大きく、生み出した変化も大きく、しかも快かった。頑固な岩の堤を切り抜き、今はその穴から、潮を吹くイルカのように噴き出していた。つつましい岸々では、森の立派な木々の根を洗い、筏のように流してきた。そして今、その粗い開け地に桜草の園をつくって世話し、柳の林を植え、銀色の白樺をひいきにしていた。こうした親しい景色の中を、小川の人間的な侍者である小道が、二人のさすらい人を下へ導いた。オットーが先に立ち、難しいところでは立ち止まって手を貸し、公妃が続いた。助けようと振り返ると、ときおり妻の顔が夫に向かって明るくなり、その目が半ば必死に愛を求めた。公には見えていたが、その意味を受け取る勇気がなかった。「妻は私を愛していない」と寛大に自分へ言い聞かせた。「これは悔恨か感謝だ。この痛ましい譲歩につけ込むなら、紳士でも、いや、男ですらない。」

谷をしばらく下ると、すでにかなりの水量になった川に、粗い堰が渡され、三分の一ほどが木の樋へ引き込まれていた。空気のいとこである澄んだ水は、粗末な水路を楽しげに流れ、その底と側面を草の緑に変えていた。小道はぴったり寄り添い、茨と野薔薇の荒れ地を縫った。やがて少し前方、谷の狭まったところに、水車場の茶色い屋根と、ダイヤモンドを飛ばす大きな水車が現れた。同時に、鋸のいびきのような音楽が静寂を破った。

足音を聞いた水車屋の主人が戸口へ出て、男もオットーも、はっとした。

「おはよう、水車屋さん」と公は言った。「どうやら君が正しく、私が間違っていた。知らせを届けよう。ミットヴァルデンへ行くといい。私の王座は倒れた――まことに大きな倒れ方だった! ――そして君の親しいフェニックスの仲間が支配している。」

赤ら顔の主人は、これ以上ないほど驚いた顔になった。「では、殿下は?」と息をのんだ。

「殿下は逃げているところだ」とオットーは答えた。「国境へ、まっすぐに。」

「グリューネヴァルトを出るんですか?」男は叫んだ。「あのお父上のご子息が? そんなこと、あっちゃなりません!」

「われわれを捕まえるのかい、友よ?」オットーは微笑んで尋ねた。

「捕まえる? この私が?」男は叫んだ。「何だと思っておいでです? 殿下、グリューネヴァルトに、あなたへ手を出す者など一人もいませんよ。」

「いや、大勢いる」と公は言った。「だが、私が偉かったころにも遠慮せず話してくれた君なら、困った今こそ、助けてもらえると思う。」

水車屋は赤かぶのように赤くなった。「おっしゃるとおりです」と言った。「まずは奥方と、家へお入りください。」

「その時間はない」と公は答えた。「だが、ここで葡萄酒を一杯いただければ、楽しみも助けも、一度に与えてくれることになる。」

水車屋はまた首筋まで赤くなった。急いで水差しの葡萄酒と、輝く水晶のコップを三つ持ち出した。「殿下、私がいつも飲んでいるとは思わないでください」と、注ぎながら言った。「あいにくお会いしたあのときは、少し酔いが回っていたのは認めます。でも、ふだんの私ほど酒を慎む者は、どこを探せばいるでしょう。この、殿下と――奥方に――差し上げる一杯だって、めったにない楽しみなんです。」

田舎らしい礼儀を交わして葡萄酒を飲み、さらにもてなそうとするのを辞して、オットーとセラフィナは再び谷を下った。谷は広がり始め、いっそう高い木々が入り込んできた。

「あの男には埋め合わせをする義務があった」と公は言った。「出会ったとき、悪いのは私で、ひどく侮辱してしまった。自分を基準にしているのかもしれないが、恥をかかされてよくなる人間はいないと思い始めたのだ。」

「でも、そうして教えられなくてはならない者もいるわ」と妻は答えた。

「まあ、まあ」と公は、痛いほど当惑して言った。「それは、それとして。安全を考えよう。あの水車屋は善い男だが、すべてを信用するわけにはいかない。この川を下れば、幾度も曲がりはするが、私の家へ着く。だが、この木立の間を上れば近道がある。人けのなさでは世界の果てだ。鹿さえめったに来ない。疲れすぎているかな。それとも、そちらを行けるだろうか?」

「道を選んで、オットー。私はあなたについていく」と妻は言った。

「いや」と公は、奇妙なほど間の抜けた顔と口調で答えた。「ただ、道が険しいと言いたかったのだ。ずっと林間と谷間を通るし、その谷が深くて、茨も多い。」

「案内して」と妻は言った。「あなたは狩人オットーでしょう?」

二人は下草の幕を抜け、森の中の草地へ出ていた。とても緑が濃く、無垢で、木々に厳かに囲まれていた。オットーは縁に立ち止まり、喜んであたりを見回した。それから眼差しはセラフィナへ戻った。妻は森の美しさを額縁として立ち、読み解けぬ目で夫を見ていた。眠りの始まりのように、心身の力が抜けた。動きを支える糸が緩み、目は妻に吸い寄せられた。「休もう」と言い、妻を座らせ、自分も小さな土の盛り上がりの斜面に、隣り合って腰を下ろした。

妻は目を伏せ、ほっそりした手で草を弄んでいた。愛の呼び声を待つ乙女のようだった。森の風音は高まり、低まり、走る奔流のように近づき、また遠くへ、遠くへ消えて、かすかなささやきになった。近くでは、深い茂みから鳥が、途切れがちな不安の声を上げた。そのすべてが、言葉へ至る、ためらいがちな前奏のようだった。オットーには、自然の全体が、自分の言葉を待っているように思えた。それでも誇りが口を閉ざした。草を摘む、その細く白い手を見つめるほど、誇りと、その優しい敵との戦いは、いっそう激しく苦しくなった。

「セラフィナ」と、ついに言った。「一つ、知っておいてほしいことがある。私は一度も……」疑わなかった、と言おうとした。だが、本当だろうか。本当だとしても、口にするのは寛大だろうか。沈黙が続いた。

「お願い、聞かせて」と妻は言った。「どうか、かわいそうだと思って、聞かせて。」

「ただ、こういう意味だ」と公は再び言った。「私はすべてわかっているし、君を責めていない。勇敢な女が弱い男を見下すのは、わかる。君にも間違っていたところはあると思う。だが理解しようと努めたし、理解できた。忘れる必要も、許す必要もない、セラフィナ。理解したのだから。」

「自分が何をしたかは、わかっている」と妻は言った。「優しい言葉にだまされるほど、弱くはない。自分がどんな人間だったか、見えている。あなたの怒りにさえ値しないのに、まして許しなど! この失脚と苦しみの中で、見えるのは私とあなただけ。いつもどおりのあなた、そして、ああだった私――何よりも、私! そう、自分が見えるの。どう思えばいいというの?」

「では、立場を逆にしよう」とオットーは言った。「人を許さぬとき、許せないのは自分自身だ。昨夜、友がそう言った。その言葉どおりなら、セラフィナ、私がどれほど寛大に自分を許したか、わかるだろう。だが、私も許してもらえないのか? さあ、自分を許してくれ――そして私を。」

妻は言葉では答えず、すばやく手を差し伸べた。公はそれを取った。なめらかな指がその手に落ち着き、寄り添うと、愛が優しく、二人を変える流れとなって、行き来した。

「セラフィナ」と公は叫んだ。「ああ、過去は忘れよう! 君に仕え、助けさせてほしい。君の召使にしてほしい。仕えて、そばにいられれば、それで十分だ。そばにいさせてくれ、愛しい人――追い払わないでくれ」おびえた子供のように、懇願を急いだ。「愛でなくていい」と続けた。「愛してくれとは言わない。私の愛だけで十分だ……」

「オットー!」妻は苦しむように言った。

公はその顔を見上げた。優しさと苦悩の、まさに極みによって、その顔は歪んでいた。顔立ちに、とりわけ変わり果てた目に、まぎれもない愛の光が輝いていた。

「セラフィナ?」公は、突然調子を失った声で叫んだ。「セラフィナ?」

「この草地を見回して」と妻は叫んだ。「若い木に葉が出て、花が咲き始めているところを。ここで私たちは出会うの。初めて出会うのよ。忘れて、生まれ直すほうが、ずっといい。ああ、罪を投げ込める、なんて深い淵があるのでしょう――神の慈悲と、人の忘却!」

「セラフィナ」と公は言った。「ほんとうに、そうしよう。これまでのすべては、夢のいたずらにすぎなかったことにしよう。初めて会う者として、やり直させてくれ。私は長い夢の中で、冷酷で美しい娘を崇めていた。何もかも私に勝り、しかも氷のように冷たい娘を。そしてまた夢を見て、その娘が変わり、溶け、熱を帯び、私に向き直ると思った。私には、卑屈で、背を伸ばすこともできぬ愛しか、取り柄はなかった。それでも、ぴったり寄り添い、目覚めるのが怖くて、身じろぎもできなかった。」

「寄り添っていて」と妻は、声を深く震わせて言った。

春の森で、二人はこう語った。そのころミットヴァルデンの市庁舎では、共和国が宣言されていた。

物語を締めくくる書誌的後記

近代史に通じた読者なら、共和国の運命を詳しく述べる必要はあるまい。最良の記録は、すでに少し顔を合わせた学位保持者レーデラーによる、グライゼンゲサング氏の回想録(全七巻、ライプツィヒ)にある。レーデラー氏は著者の自由をいささか濫用し、主人公を大人物に仕立て、実際、あらゆることの中心人物、雲を集める神のごとく描いている。だが、その偏りをしかるべく割り引けば、力量のある、行き届いた著作である。

サー・ジョンの力強く、心身を引き締める文章(全二巻、ロンドン、ロングマン、ハースト、リーズ、オーム・アンド・ブラウン)については、読者もむろんご存じだろう。この歴史物語の管弦楽では、櫛を鳴らすほどの役しか持たぬサー・ジョンも、自著では大きなファゴットを吹き鳴らす。人柄もそこでは存分に描かれ、ランドーの共感が、世間の称賛にお墨付きを与えている。ただし、一点は説明が必要だ。グリューネヴァルトについての章は、宮殿の庭で著者自身の手によって破られた。では、どうしてそれが、私のもっとつつましい頁の中に全文姿を現し、この一座の呼び物となっているのか。あの卓越した文人は、几帳面な男だった。かつて罰当たりにも「複式簿記のユウェナリス」と呼ばれたことがある。問題の紙を破ったときも、のちに本人が説明したとおり、実際に文章を抹消するつもりというより、誠意を劇的に証明しようとしたのだった。その当時、実は、書き込みだらけの草稿が二つ、清書が二部あった。しかし、読者もご承知のとおり、名高い『ヨーロッパ諸宮廷訪問記』から、その章は約束どおり削られた。それを世に出す役は、私に回ってきたのである。

書誌はなお、登場人物たちのその後を垣間見せてくれる。今、私の前には『フレデリックとアメリーによる詩集』という小冊子がある(私家版、印刷者名なし、刊年不詳)。手元のものは、ヘイマーケットのベイン氏が入手してくれた献呈本で、見返しには最初の所有者の名が、オットー公自身の筆跡で記されている。「韻は豊かならず」という控えめな題辞も、同じ共著者の手になると考えて、まず間違いあるまい。この言葉は驚くほど的確で、私はこの本をたいそう退屈に感じた。公妃の手らしいと見受けられる作品は、とりわけ退屈で、生真面目である。とはいえ、この小冊子は、想定された読者の間では、まずまずの成功を収めた。また私は、今では手に入らないが、同じ試みの第二作があった証拠にもいくつか出会った。ともあれ、ここでオットーとセラフィナ――いや、何を言う、フレデリックとアメリー――に別れを告げよう。妻の父の宮廷で穏やかに老いながら、フランス語の韻をちりんちりんと鳴らし、二人の校正刷りを直している姿に。

なおも書目をたどると、スウィンバーン氏がゴンドレマークの追悼に、胸躍る抒情詩と、いくつかの力強いソネットを捧げているのがわかる。その名は、ヴィクトル・ユゴーが愛国者を喇叭のように列挙する詩にも、少なくとも二度現れる。そして、もう仕事は終わったと思っていた最近になって、失脚した政治家と伯爵夫人の消息に行き当たった。『J・ホッグ・コテリル日記』という、あの実に興味深い本の中である。ナポリ滞在中のコテリル氏は、五月二十七日、「ゴンドレマーク男爵夫妻」に紹介される。「夫はかつて世を騒がせた人物、妻はいまだ美しく、ともに機知に富む。私のフランス語を大いに褒める。イングランド人とはまるで思わなかったとのこと。ドイツで伯父サー・ジョンを知っていた由。私の中にも家柄のしるしとして、伯父の堂々たる風格と、行き届いた礼儀を認めるという。訪問を請われる」。さらに五月三十日には、「ゴンドレマーク男爵夫人を訪問。大いに満足。きわめて洗練され、聡明な婦人。まさしく今は、ああ悲しいかな、絶えた古き世代の人。私の『シチリア考』を読んでいた。伯父を思わせるが、もっと優美だという。力強さが足りぬとの意味かと危ぶんだが、断じて違うとのこと。提示の仕方が柔らかく、文雅に富むが、事情を確かにつかむ力と思想の力強さは同じ。要するに、バトンホールの意見とそっくりだ。大いに励まされる。この貴婦人を心から尊敬する」とある。交際はしばらく続いた。やがてコテリル氏がプロトコル卿の随員として、しかも本人が念入りに記すとおり、ヤードアーム提督の旗艦で出発するとき、最も名残惜しんだことの一つは、「あの上なく機知に富み、心の通う婦人、すでに私を弟のように思ってくださる方」と別れることだった。