二都物語
フランス革命の物語
チャールズ・ディケンズ著
第一部 生き返った人
第一章 時代
それは最良の時代であり、最悪の時代であった。それは知恵の時代であり、愚かさの時代であった。それは信仰の時代であり、不信の時代であった。それは光の季節であり、闇の季節であった。それは希望の春であり、絶望の冬であった。私たちの前にはすべてが広がり、同時に何もなかった。私たちは皆、まっすぐ天国に向かっていたが、同時に、まっすぐその逆の道へも向かっていた。要するに、この時代は現代と酷似しており、最も賑やかな権威者たちが、善かれ悪しかれ、この時代を形容詞の最上級で受け止めるべきだと主張していたほどだった。
イングランドの玉座には、顎の大きな王と、地味な顔の王妃がいた。フランスの玉座にも、顎の大きな王と、愛らしい顔立ちの王妃がいた。両国とも、パンと魚の国家の備蓄を管理する有力者たちには、すべてが永遠に安泰であることが水晶よりも明らかだった。
時は主の年一七七五年。霊的な啓示は、当時も今と同様にイングランドに与えられていた。ミセス・サウスコットはつい最近、二十五歳の祝福された誕生日を迎えており、生命衛兵隊の中には、この崇高な出現を予言し、ロンドンとウェストミンスターが飲み込まれる手はずが整ったと告げる者までいた。コック・レーンの幽霊も、ちょうど十二年前に、あの年の霊たちがメッセージを叩き出したように(ただし霊感の独創性には欠けていたが)、その役目を終えて葬られたところだった。地上の事件の秩序に従った単なるメッセージも、アメリカのイギリス臣民による会議から、イングランド王室と国民に届けられていたが、驚くべきことに、それらはコック・レーンのどの鶏を通じた通信よりも人類にとって重要なものとなった。
フランスは、盾と三叉の姉妹国イングランドほど霊的に恵まれてはいなかったが、非常に滑らかに坂を転げ落ち、紙幣を刷り、それを使いまくっていた。キリスト教牧師たちの導きのもと、若者に両手を切り落とし、舌をペンチで引きちぎり、生きたまま火あぶりにするという、人道的な功業でも自らを楽しませていた。というのも、その若者は、五十ヤードか六十ヤードほど離れたところを通り過ぎる、汚れた修道士たちの行列に雨の中でひざまずいて敬意を表さなかったからである。その苦しむ者が処刑されたとき、フランスやノルウェーの森に根付く木々には、運命という名の木こりに目をつけられ、やがて板に挽かれ、歴史に恐るべき名を残す、袋と刃物つきの可動式枠組み――すなわちギロチン――となる運命の木が、すでに育っていたかもしれない。また、その日パリ近郊の重い土地を耕す農家の粗末な納屋にも、豚が匂いを嗅ぎ、鶏がとまる、泥まみれの荷車が雨風をしのいで置かれており、それがやがて「死」という名の農夫によって革命の荷馬車として使われることが、すでに決まっていたかもしれない。しかし、その木こりも農夫も、絶えず働きながらも静かに働いていたので、彼らの足音を聞く者はいなかった。なぜなら、彼らが目覚めていると疑うのは、無神論者であり、反逆者とみなされたからである。
イングランドでは、秩序と治安が誇れるほど確かであったわけではない。首都では毎夜、武装強盗による押し込みや街道強盗が発生し、住民たちは、町を離れる際には家具を安全のため家具屋の倉庫に預けるよう公然と警告されていた。暗闇では街道強盗、昼間は商人という者もおり、自分が襲った相手が知り合いだと、そのまま銃で頭を撃ちぬいて逃走したりもした。郵便馬車は七人の強盗に襲われ、護衛は三人を射殺したが、残る四人に弾切れで撃たれ死んだ。こうして郵便馬車は平穏に略奪される結果となった。また、ロンドン市長という高貴な人物でさえ、ターナム・グリーンでただ一人の強盗に「立て、渡せ」と命じられ、随行員の目前で身ぐるみ剥がされた。ロンドンの牢獄では囚人が看守と格闘し、法律の威厳が散弾と弾丸を込めた火縄銃で乱射される騒ぎもあった。宮廷の集いでは、貴族の首からダイヤの十字架を盗むもの、セント・ジャイルズで密輸品を捜索する銃兵に暴徒が発砲し、銃兵も応戦するなど、これらの出来事は誰の目にも珍しいものではなかった。その最中にも、役立たずで常に忙しい死刑執行人は引っ張りだこで、あらゆる犯罪者を次々と吊るし、火曜日に捕まった空き巣を土曜日に処刑したり、ニューゲートで人の手に焼印を押したり、ウェストミンスター・ホールの前でパンフレットを焼いたりと、大忙しだった。今日は凶悪な殺人犯の命を奪い、明日は農夫の少年から六ペンスを盗んだ哀れな小盗人を処刑する。
これらすべて、同じような出来事の数々が、一七七五年という愛しい古き年の前後に起きていた。その中で、木こりと農夫が誰にも気づかれずに働く間、顎の大きな二人と、地味な顔と美しい顔の二人は、威勢よく歩みを進め、「神から与えられし権利」を高らかに掲げていた。こうして一七七五年は、彼らの偉大さと、この年代記に登場する無数の小さき生き物たちを、彼らの前に広がる道へと導いていったのである。
第二章 郵便馬車
十一月のある金曜の深夜、歴史の登場人物の一人が進む先に広がっていたのは、ドーヴァー街道だった。彼にとってドーヴァー街道は、シューティング・ヒルを轟きながら登るドーヴァー郵便馬車のさらに先に続いていた。彼は他の乗客同様、馬車の横でぬかるみを上り歩いていたが、それは運動を楽しんでいたからではなく、坂道も馬具も泥も馬車もあまりに重く、馬たちはすでに三度も立ち止まり、うち一度は馬車を反抗的に道路を横切らせ、ブラックヒースに引き返そうとさえしていたからだ。しかし、手綱と鞭、御者と護衛が力を合わせて、理性を持つ動物もいるのではと議論したくなるほどの馬たちの反抗心を軍規によって鎮めさせ、馬たちはようやく職務に復帰したのだった。
馬たちはうなだれ、尾を震わせながら、厚い泥を踏みしめて進み、ときおりよろめき、崩れ落ちそうなほどだった。御者が「ウォーッ! ソーッ! さて、それじゃ!」と声をかけて休ませるたび、先頭馬は激しく首を振り、まるでこの馬車を坂の上まで引き上げることなどできるものかと否定しているようだった。そのたびに乗客は、神経質な者がするようにびくっとし、気を揉んだ。
谷間には霧が立ちこめ、その孤独さのままに丘を登り、安らぎを求めては見つけられぬ悪霊のようだった。生温かく、しんしんと冷たいその霧は、波のように空気を押し流し、目に見えて重なり合っていった。霧は濃く、馬車のランプの明かりを自らの動きと数ヤード先の道以外はすべて遮り、汗をかく馬たちの息がまるで霧そのものを生み出したかのように立ち上っていた。
馬車の横を歩く乗客は、彼を含めて三人。三人とも頬骨まで覆い耳まで包み、長靴を履いていた。誰一人、隣人の素顔を見分けることもできず、心の窓さえも重ね着のごとく覆い隠していた。当時、旅人は気安く心を開くことを極度に警戒していた。なぜなら、道行く誰もが強盗か、その仲間かもしれなかったからだ。実際、どの宿屋や酒場にも「隊長」の手先がいたものだった。だからこそ、その夜シューティング・ヒルを登るドーヴァー郵便馬車の護衛も、銃を詰め込んだ鉄箱の上に立ち、馬上で両足を踏み鳴らしながら、警戒を怠らなかった。
ドーヴァー郵便馬車では、護衛は乗客を疑い、乗客は互いと護衛を疑い、全員が他の誰かを疑い、御者だけが馬のことしか信じていなかった。馬についてだけは、新約旧約二冊の聖書にかけて誓えるほど、旅に適していないと断言できた。
「ウォーッ!」御者が声を掛ける。「さあもう一息だ、さっさと登り切ってくれ! ジョー!」
「おう!」と護衛が応える。
「今何時だ、ジョー?」
「十一時を十分過ぎた。」
「くそっ!」と苛立った御者。「まだシューティング・ヒルのてっぺんじゃないとは! チッ! やれやれ、さっさと行け!」
強調馬は鞭に否定され、猛烈に坂を駆け上がる。ほかの三頭も続き、再び郵便馬車は、長靴の乗客たちに付き添われて進み始めた。もし三人のうち誰かが、先行して霧と闇の中を歩こうと提案したなら、即座に強盗と見なされ撃たれていただろう。
最後のひと踏ん張りで馬車は丘の頂上に到達した。馬たちは息を整え、護衛は車輪を固定し、乗客を馬車に乗せるためドアを開けた。
「チッ! ジョー!」御者が警告の声で呼びかける。
「どうした、トム?」
二人は耳を澄ませた。
「馬が駆けて来るぞ、ジョー。」
「俺は駆け足じゃなくて全速力だと思うぞ、トム。」護衛はドアから手を離し、敏捷に自分の持ち場へ戻った。「みなさん! 王の名において、その場から動かないで!」
そう言うなり、護衛は火縄銃の引き金を引き上げ、臨戦態勢に入った。
この物語が記す乗客は馬車のステップに足をかけていた。他の二人も続こうとしていた。三人とも御者と護衛へ目を向け、耳を澄ませた。御者も護衛も、そして先頭馬までが耳を立て、後ろを気にしていた。
馬車の轟音が止み、夜の静寂が一層深まった。馬の荒い息づかいが馬車を震わせ、乗客の鼓動も聞こえるほどだった。息を潜め、期待に脈打つ静かな時間だった。
全速力で駆け上がる馬の音が近づいてきた。
「ストップ!」護衛が大声で叫ぶ。「止まれ! 撃つぞ!」
馬の動きが急に止まり、泥を跳ね上げて男の声が霧の中から響いた。「ドーヴァー郵便馬車か?」
「何者だ!」護衛が返す。
「その馬車かと聞いている!」
「何の用だ?」
「乗客に用がある。」
「どの乗客だ?」
「ローリー氏。」
我らが乗客は自分の名に反応した。護衛も御者も他の乗客も彼を疑いの目で見た。
「動くな!」護衛が叫ぶ。「万一間違えたら命はないぞ。ローリーという名の紳士、返事を。」
「何事です?」と乗客が震える声で尋ねた。「誰が私を? ジェリーか?」
(「もしやジェリーなら、あの声は気に入らないな」と護衛は独りごちた。「ガラガラ声すぎる。」)
「はい、ローリー氏。」
「何があった?」
「向こうから追ってきた伝令です。T&カンパニーから。」
「この使いを知っている」とローリー氏は馬車から降りた。後ろから二人の乗客が素早く、だが丁寧とは言いがたい手つきで彼を手伝い、すぐさま馬車に飛び乗ってドアと窓を閉めた。「彼なら大丈夫です。」
「そう願いたいもんだが、絶対安心とも言い切れん」と護衛は唸った。「おい!」
「おう! 何だい!」ジェリーがさらにしわがれ声で返した。
「ゆっくり近づけ! 鞍に拳銃があるなら、手を近づけるな。俺は早撃ちだぞ、間違えば鉛玉を食らうと思え。さて、見せてみろ。」
霧の渦の中から馬と騎手の姿がゆっくりと現れ、乗客の元に近づく。騎手は身をかがめ、護衛を見上げながら、乗客に小さく折った紙を手渡した。使いの馬は息が上がり、馬も男も頭から爪先まで泥まみれだった。
「護衛!」と乗客が静かなビジネス口調で言った。
護衛は火縄銃を構えたまま、短く返事した。「はい。」
「心配は無用です。私はテルソン銀行の者です。ロンドンのテルソン銀行をご存知でしょう。パリへ仕事で行くのです。酒代に。この手紙を読んでも?」
「手短になさるなら。」
彼はランプの明かりのもとで手紙を開き、まず黙読し、次に声に出して読んだ。「『ドーヴァーでマドモワゼルを待て』短いでしょう? ジェリー、私の返事は『生き返った』だと伝えてくれ。」
ジェリーは馬上で驚いた。「こいつは妙な返事だ」と、彼はしわがれ声で言った。
「そのメッセージを持ち帰れば、私が受け取ったことはすぐ分かる。急いで向かいなさい。おやすみ。」
そう言って乗客は馬車のドアを開けて乗り込んだ。仲間の乗客たちはすばやく懐中時計や財布を長靴に隠し、眠ったふりをしていた。
馬車は再び轟音を立てて進みはじめ、より濃い霧が巻き付いた。護衛はすぐに火縄銃を元の箱に戻し、他の武器や腰に差した拳銃も確認した。座席下の小箱には大工道具、松明、火打石が入っていた。もしランプが吹き消されても、護衛は馬車内にこもり、火種を藁に飛ばさぬよう注意しつつ、五分もあれば再び明かりを灯せる備えがあった。
「トム!」と馬車の屋根越しにささやく声。
「おう、ジョー。」
「伝言、聞いたか?」
「聞いたよ、ジョー。」
「どう思う?」
「さっぱり分からん。」
「俺もだ」と護衛は呟いた。「奇遇だな。」
ジェリーは霧と闇の中に取り残され、馬から降りて馬を休ませつつ、自分の顔の泥を拭い、帽子の縁の水を払った。馬の手綱を腕に掛け、馬車の車輪の音が消え夜が静まり返るのを待って、ゆっくり丘を下りはじめた。
「テンプル・バーからここまで駆けてきて、もう前足は信用できんな」と彼は牝馬に声をかけた。「『生き返った』……妙な伝言だ。そんなことが流行ったら、ジェリー、お前は大変なことになるぞ! ジェリー!」
第三章 夜の影
考えてみれば、人間というものは誰もが他人にとって深い秘密と謎である、というのは実に不思議な事実である。夜の大都市に入るたび、密集した暗い家々の一軒一軒にそれぞれの秘密があり、部屋ごとに秘密があり、何十万もの心臓が、それぞれ隣の心とさえ秘密を抱えている。死というものの畏ろしさの一端も、そこに由来しているのだろう。私は愛したこの本のページをめくることも、いずれ読み終えられると望むのも、もう叶わない。水面下の宝物や埋もれたものを一瞬見た気がしても、その水の深みを覗くこともできない。本はたった一ページを読んだだけで、ぱちんと永遠に閉じられていたのだ。水は氷結し、私は岸辺で無知のまま佇んでいた。友は死に、隣人は死に、魂の最愛の人も死んだ。その個性に常にあった秘密が、不可逆に堅固となり、私はそれを生涯自分のうちに持ち続ける。墓場の眠り人の誰かが、この街の生者よりも不可解か? いや、互いに本質的には同じほどに謎なのだ。
この生まれながらの、そして決して切り離せない宿命については、馬上の伝令も王も首相もロンドン一の大商人も、同じく有していた。そして、狭い馬車に閉じ込められた三人の乗客同士も、まるでそれぞれが自分だけの馬車と馬六頭、あるいは六十頭で広大な郡を隔てて旅しているかのように、完全に謎だった。
伝令は馬をゆっくりと駆りつつ、途中酒場で飲み、しかし自分の思うことは口にせず、帽子を目深にかぶっていた。その目は浅黒く、奥行きも形も乏しく、互いに近すぎて、何か後ろ暗いことが見破られるのを恐れているかのようだった。かぶった古びた三角帽子の下、顎と喉までを大きなマフラーで覆い、酒を飲むときだけ左手でずらし、飲み終わるとすぐまた包み込んだ。
「ダメだジェリー、お前には向かない」と彼は呟いた。「ジェリー、お前は正直な商人だが、そんなのはお前の商売柄じゃない! 生き返る、だと? まったく酔っぱらってるとしか思えん!」
その伝言は彼の頭を混乱させ、しばしば帽子を脱いでは頭をかいた。頭頂部以外は剛毛の黒髪が突き出し、まるで柵のように尖っていた。
彼が伝言を届けるべくテンプル・バーのテルソン銀行の夜警の詰所へ戻る間、夜の影は伝言の内容に呼応し、彼自身にも馬にも不安の影を落とした。馬もその心配ごとに敏感で、道の影ごとに驚いていた。
その頃、郵便馬車はごつごつ揺られ、三人の謎めいた乗客はうとうとしながら、自分たちの心の中に夜の影を見た。
テルソン銀行は馬車で運ばれているようなものだった。銀行員の乗客は、革ベルトに腕を通して体を支えつつ、半眼でまどろむと、馬車の窓もランプの淡い光も向かいの乗客の塊も、すべて銀行そのものとなり、膨大な取引が交わされていた。馬具の音は金貨の響きになり、わずか五分でテルソン銀行の実際の三倍もの決済がなされた。地下室の金庫も、彼の知る限りの財宝や秘密も、彼の前に現れ、すべて安全で健全だった。
だが、銀行が常に彼の意識にあったとしても、もう一つの印象の流れが夜通し絶えず流れていた。彼は誰かを墓から掘り出そうとしていた。
そこに現れる顔――埋葬された人物の本当の顔がどれなのか、夜の影は教えてくれなかった。ただし、みな四十五歳ほどの男性の顔で、表情とやつれ具合が違うだけだった。誇り、軽蔑、反抗、頑固さ、服従、嘆き――次々と変化し、やせ細り、髪はことごとく白かった。うとうとしながら乗客はその幽霊に何度も問いかけた。
「埋められてどれほど経つ?」
「ほぼ十八年。」
「掘り起こされる希望は捨てていたか?」
「ずっと前に。」
「お前は生き返ったと知らされているか?」
「そう言われている。」
「生きたいと思うか?」
「分からない。」
「彼女に会わせようか? 会いに行こうか?」
答えは様々だった。「待ってくれ、早すぎると死んでしまう」「彼女に会わせてくれ」と涙にくれたり、「知らない、分からない」と呆然としたり。
こうした空想の対話ののち、乗客は夢想の中で掘り、掘り、掘る――鍬で、金庫の大きな鍵で、あるいは素手で。その惨めな男を掘り出すと、顔や髪に土をつけながら、ふっと塵となって消える。そのたびに乗客ははっとして窓を下ろし、現実の霧と雨の感触を頬に受けるのだった。
それでも目を開いても、窓の外の夜の影が、内なる夜の影に連なっていた。テンプル・バーの本物の銀行、昨日の現実の仕事、金庫室、伝書、返事――すべてが揃い、その真ん中から幽霊の顔が現れる。そしてまた語りかける。
「埋められてどれほど経つ?」
「ほぼ十八年。」
「生きたいと思うか?」
「分からない。」
掘る、掘る、掘る……。やがて隣の乗客の身じろぎで我に返り、窓を元に戻し、革ベルトに腕を通し直して二人の寝顔を眺めていると、また意識は銀行と墓へと戻っていった。
「埋められてどれほど経つ?」
「ほぼ十八年。」
「掘り起こされる希望は捨てていたか?」
「ずっと前に。」
その言葉が耳にこだまする中、疲れた乗客は夜明けの光に我に返り、夜の影が消え去ったことに気づいた。
彼は窓を下ろして朝日を見た。耕された畑が広がり、昨夜馬が外されたままの犂があり、その向こうには赤と黄色に燃える葉を残す林が静かにあった。地面は冷たく濡れていたが、空は澄み、太陽は明るく穏やかに昇っていた。
「十八年!」と彼は太陽を見つめてつぶやいた。「おお、創造主よ! 十八年も生き埋めにされるとは!」
第四章 準備
午前中、馬車は無事ドーヴァーに到着し、ロイヤル・ジョージ・ホテルのチーフ・ウェイターが慣れた手つきで馬車のドアを開けた。冬のロンドンからの郵便馬車の旅は、冒険家を称賛すべき偉業だった。
その時点で称賛されるべき冒険家はただ一人、ローリー氏のみ。あとの二人は道中で降りていた。馬車の中は湿った汚れた藁と不快な臭い、薄暗さが犬小屋のようだった。乗客のローリー氏は、藁まみれのコート、もじゃもじゃのマフラー、乱れた帽子、泥だらけの脚で、大きな犬のような風情だった。
「明日、カレー行きの船は出ますか?」
「はい、天気次第ですが、風がほどよく吹けば、午後二時ごろには潮もよろしいかと。お部屋のご用意は?」
「今夜は寝ませんが、寝室と理髪師を。」
「朝食は? はい、こちらへどうぞ。コンコードへお通しします。お荷物とお湯をコンコードへ。紳士の長靴を脱がせて差し上げて。海石炭の良い暖炉がございます。理髪師をコンコードへ。さあ、手際よく!」
コンコードの寝室は常に郵便馬車の乗客用で、彼らは頭から足まで重装備なので、入ってくるのは一種類の男だが、出てくるときには様々な人に変身するのが、ホテルのスタッフには面白かった。そのため、もう一人の給仕やポーター、女中たちや女主人までが、コンコードとコーヒールームの間のあちこちにさりげなく待ち構えていた。
コーヒールームにはローリー氏一人だけ。朝食のテーブルは暖炉の前に置かれ、彼はまるで肖像画のモデルのように静かに座っていた。
非常に几帳面で秩序正しく、両膝に手を置き、厚手のベストの下で時を刻む大きな懐中時計の音が、陽気な暖炉の炎と真っ向勝負していた。脚には自信があり、茶色の靴下はぴったりと上質、靴やバックルも質素ながら手入れが行き届いていた。奇妙なほど艶やかで小さな亜麻色のカツラは頭にぴったりと収まり、まるで絹やガラスの糸で紡がれたようだった。リネンは靴下ほど高級ではなかったが、波頭や遠くに輝く帆のように白かった。普段は抑制された顔だったが、テルソン銀行の表情に鍛えられたその下には、明るく潤んだ目が光っていた。頬には健康的な赤みがあり、顔に深い苦悩の痕跡はほとんどなかった。だが、テルソン銀行の独身書記たちは他人の心配をしているのかもしれず、中古の悩みは中古の服のように脱ぎ着しやすいのだろう。
まるで肖像画のモデルのように、ローリー氏はうとうとした。朝食が運ばれると目を覚まし、椅子を引き寄せつつ給仕に言った。
「今日中に若い女性が来るかもしれないので部屋の用意を。ローリー氏宛か、テルソン銀行ロンドンの紳士宛か、いずれかで尋ねるはずです。知らせてください。」
「かしこまりました。テルソン銀行ロンドンですね?」
「そうです。」
「しばしばご利用いただいております。パリとロンドンを行き来なさるご紳士方。」
「ええ。当行はフランス系でもあり、イギリス系でもあります。」
「最近はあまりご自身はお出かけでは?」
「近年はね。最後にフランスから来て十五年になります。」
「そうですか。それは私のここでの勤めより前ですね。ジョージも当時は他の経営でした。」
「そうだったと思います。」
「ですが、テルソン銀行ほどの名門は、十五年どころか百五十年でも繁盛していたはずですね?」
「三倍にして百五十年でも、まだ足りないくらいですよ。」
「本当ですか!」
給仕は口と目を丸くし、ナプキンを右腕から左腕に移し、ゆったりと構えて客を眺めていた。時代を超えて変わらぬ給仕の流儀である。
朝食を終えたローリー氏は浜辺へ散歩に出た。曲がりくねったドーヴァーの町は浜から隠れるように白亜の崖に頭を突っ込んでいた。浜辺は荒れる海と石の山が広がり、海は好き勝手に町や崖に打ち寄せては破壊し続けていた。町の空気は魚臭く、具合の悪い魚が浸かるために上がってくるのではと思うほどだった。小さな漁が港で行われ、夜な夜な散歩や海への視線があった。潮が満ちる頃には特に。商売にならない商人がなぜか大金持ちになり、ランプ点灯夫を嫌う者が多いのも特徴だった。
日が傾き、空気が再び霧と靄に包まれると、ローリー氏の思いも曇っていった。夜になり、コーヒールームの暖炉の前で夕食を待ちながら、彼の心は赤い炭の中をひたすら掘り続けていた。
食後の上質なクラレットは、赤い炭を掘る者に害はないが、仕事の手を止めさせる傾向はあった。ローリー氏は長く無為に過ごし、最後の一杯を満足げに注いだとき、車輪の音が狭い通りを駆け抜け、宿の中庭に響いた。
彼はグラスを置いた。「マドモワゼルだ!」と呟いた。
間もなく給仕が現れ、ロンドンからルーシー・マネット嬢が到着し、テルソン銀行の紳士に会いたいとの伝言を伝えた。
「もう来たのか?」
マネット嬢は道中で軽食をとったため、今は何も要らず、すぐにテルソン銀行の紳士に会いたいと強く希望していた。
テルソン銀行の紳士には、もはやグラスを無表情な絶望の面持ちで飲み干し、奇妙な亜麻色の小さなかつらを耳のあたりで整え、ウェイターの後に従ってマネット嬢の部屋へ向かうほか方法はなかった。その部屋は広く、暗く、黒い馬の毛張りの家具と重厚な暗い机で葬送のように飾られていた。机は何度も何度も油が塗られ、部屋中央のテーブルに立てられた二本の大きな燭台の明かりが、どの葉にも陰鬱に映り込んでいた。まるでその光が漆黒のマホガニーの深い墓穴に葬られ、発掘されるまではほとんど何の光も期待できないかのようだった。
部屋の暗さはあまりに深く、ローリー氏は使い古されたトルコ絨毯の上を慎重に歩きながら、マネット嬢は今は隣の部屋にいるのだろうと一瞬思った。だが、二本の背の高い燭台のそばを通り過ぎると、暖炉との間のテーブルの脇で、彼を迎えようと立っている若い娘の姿が目に入った。年の頃は十七にも満たぬ、乗馬用のマントをまとい、麦わらの旅帽をリボンごと手に持っている。短く華奢で愛らしい体つき、豊かな金髪、彼の視線を問いかけるように見つめ返す青い瞳、そして年の割に滑らかで若々しい額が、不思議なほど複雑に皺を寄せたり解いたりして、困惑とも驚きとも恐れとも、あるいは単なる熱心な注意ともつかぬ表情を浮かべていた――しかもその四つすべてを内包している。ローリー氏の目がその姿に留まった時、彼の脳裏に、かつてこの海峡を渡った寒い日、激しくあられが吹きつけ、海が荒れていた時に腕に抱いた幼子の、鮮やかな面影がよぎった。その面影は、彼女の背後にある痩せた姿見の表面を風のように流れ去った。鏡の枠には、頭がなかったり身体が不自由だったりする黒人のキューピッドたちが、女神のような黒人たちに死海の果実の入った黒い籠を捧げるという、病院の行列のような意匠が施されていた。ローリー氏は改めてマネット嬢に丁重なお辞儀をした。
「どうぞ、お座りになってくださいませ」――その声はとても澄んで心地よい少女の声で、わずかに外国訛りが感じられたが、ごく僅かであった。
「お手を拝借いたします、お嬢さん」と、ローリー氏は古き良き時代の作法で再びお辞儀し、席に着いた。
「昨日、銀行から手紙を受け取りまして、父の遺産について何か情報――あるいは発見が――」
「言葉は重要ではありません、お嬢さん。どちらでも結構です」
「――私が一度も会ったことのない、長く前に亡くなった父の少ない財産に関することで――」
ローリー氏は椅子の上で身じろぎし、病院の行列のようなキューピッドたちに不安そうな視線を投げた。彼らのばかげた籠に何の助けがあるというのだ!
「――パリへ行き、目的のために派遣された銀行の紳士と面会する必要がある、と書かれていました」
「私でございます」
「そのように伺っておりました」
彼女は礼儀正しく会釈した(当時の若い女性はカーテシーをした)、彼が自分より年長で賢明であることを伝えたいらしい様子だった。ローリー氏も再びお辞儀を返した。
「私は、知るべき方々が必要と判断し、ご助言くださったのでフランスへ行くことにし、また私は孤児で同行できる友人もいませんので、もしご迷惑でなければ、その立派な紳士のご保護のもとで旅をさせていただければ大変ありがたく存じます、と銀行に返信いたしました。その紳士はロンドンを発っていましたが、伝言が送られ、ここで私をお待ちいただけるようお願いしたと聞いております」
「その任を託されて光栄でした。これから果たせるのはさらに嬉しいことです」
「本当にありがとうございます。銀行から、その紳士が詳細を説明してくださると聞いており、驚くべき内容であると覚悟しておくように、とも伝えられました。できる限り心の準備をしてきましたし、当然ながら何が語られるのか強く知りたい思いでおります」
「当然でしょう」ローリー氏は言った。「ええ、私は――」
しばらくして、彼はまた耳元の亜麻色のかつらを直しつつ続けた。「話の切り出しが実に難しいのです」
彼は話し始めず、ためらいのまま彼女の視線と交わった。少女の額はまたあの不思議な表情を見せた――だが奇妙さのほかに可愛らしさと個性もあった――そして彼女は手を上げ、無意識に過ぎゆく影を掴もうとするかのような仕草をした。
「あなたは私にとって全く見知らぬ方なのですか?」
「違うのでしょうか?」ローリー氏は両手を広げ、論じるような微笑みを浮かべた。
彼女は考え込むように席に腰を下ろし、眉間から小さな女性らしい鼻のすぐ上あたりに表情を深く刻んだ。その繊細な鼻筋は驚くほど細やかだった。彼は彼女が思索に沈むさまを見守り、やがて彼女が再び視線を上げると続けた。
「お育ちになった国でのことですが、私はあなたを若き英国のご婦人、マネット嬢とお呼びしてよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「マネット嬢、私は仕事一筋の人間です。私には果たすべき職務があります。どうかお気遣いなさらず、私をただ喋る機械とでも思ってください――実際、それ以上のものではありません。お許しいただけるなら、お嬢さんに当行の顧客の一人の物語をお話ししましょう」
「物語、ですか?」
彼は彼女が繰り返した言葉をわざと誤解したかのように、慌てて続けた。「ええ、顧客です。我々銀行業では取引相手のことを顧客と呼びます。その方はフランス紳士で、科学者であり、非常に学識のある人物――医師でした」
「ボーヴェの方ですか?」
「そうです、ボーヴェの者です。マネット氏、つまりあなたのお父上と同じ、あの方もボーヴェの人でした。そしてパリでも名声がありました。私もパリでお目にかかる栄誉がありました。我々の関係は職務上でしたが、機密を要するものでした。当時私は当行のフランス支店におり、すでに――おお、二十年ほどになります」
「その当時というのは――いつ頃のことですか?」
「およそ二十年前のことです。彼は――英国のご婦人と結婚なさり、私はその信託管理人の一人となりました。彼の財産も、ほかの多くのフランス紳士やその家族同様、すべてテルソン銀行が預かっていました。同じように、私はこれまで多くの顧客の信託管理人を務めてきました。これらはあくまで職務上の関係で、友情でも、特別な関心でも、ましてや感傷でもありません。私は業務上、顧客から顧客へと移り変わってきただけなのです。つまり、私は感情を持ちません、ただの機械です。さて――」
「でも、それは私の父の話ではありませんか。私は思い始めています」――彼女の額は興味津々に彼に向けられていた――「母が父より二年だけ長く生きて私を孤児にしたあのとき、イギリスへ連れてきてくださったのは、あなたなのではないかと。ほとんど確信しています」
ローリー氏は、彼の手を信頼して差し出した小さな手をとって、いくらか儀礼を込めて唇に当てた。そして彼女を再び椅子へと案内し、左手で椅子の背を持ち、右手で顎を撫でたり、耳のあたりのかつらを引いたり、話の要点を指し示したりしながら、座って彼を見上げる彼女を見下ろした。
「マネット嬢、それは確かに私です。今しがた私が自分について“感情はなく、全ての人間関係は職務上のものに過ぎない”と言った意味を、あなたもお分かりになるでしょう。なぜなら、あれ以来、私は一度もあなたに会っていないからです。あなたはずっとテルソン銀行の保護下にあり、私は他の業務に追われてきました。感情! 私はそれに割く時間も、機会もありません。私は一生、巨大な金銭のマングル[訳注:洗濯機の圧搾機、ここでは“金銭を捻り出す装置”の意]を回し続けているのです」
そう語り終えると、ローリー氏は両手で亜麻色のかつらをさらに平たく押しつぶした(それ以上平らになりようもなかったのだが)、そして元の姿勢に戻った。
「ここまでが、マネット嬢(あなたもお気づきの通り)、あなたの惜しまれるお父上の物語でした。ここからが違いです。もしあなたのお父上が、あのとき亡くならず――驚かせるつもりではありません、ご安心を! なんて驚きようだ!」
実際、彼女は驚いていた。そして両手で彼の手首をしっかりと握った。
「どうか」ローリー氏は、なだめるような口調で、椅子の背から左手を離し、激しく震える彼女の指に重ねて言った。「どうかご自分をお鎮めください――これはあくまで業務の話なのです。さて、先ほどの続きですが――」
彼女の表情に動揺したローリー氏は話が途切れ、言い直した。
「申し上げた通り、もしマネット氏が亡くならなかったとしたら――もし突然、音もなく姿を消し、さらわれたとしても、どんな恐ろしい場所か推測できても誰にも辿れなかったとしたら、もしその同胞に“空白の拘禁命令状に必要事項を記入する特権”――私もあちらで誰もが囁くのさえ恐れるほどの特権ですが――それを行使できる敵がいたとしたら、もし奥方が国王、王妃、宮廷、聖職者にまで必死で訴え、結局何の手掛かりも得られなかったとしたら――そうすれば、あなたのお父上の物語は、この不遇な紳士、ボーヴェの医師の物語になっていました」
「どうか続きを聞かせてください」
「もちろんです。今お話しします。――耐えられますか?」
「今この瞬間私を宙ぶらりんにしない限り、どんなことでも耐えられます」
「落ち着いて、理性的にお話しされていますね、それは良いことです!」(しかしその口調にはやや不安が混じっていた)「業務です。業務としてお考えください――やらねばならない業務。さて、この医師の妻が、非常に勇敢で気丈な方ではありましたが、彼女の子供が生まれる前からこのことでひどく苦しみ――」
「その子供は娘でしたね」
「娘です。ええ――業務です、どうかご心配なく。もし、その可哀想な奥方が、子供が自分と同じ苦痛を味わわないよう、父は亡くなったものと信じて育てようと決心したとしたら――ああ、どうか跪かないでください! お願いです、なぜ私に跪くのです!」
「真実が欲しいのです。ああ、どうか、優しく思いやり深い方、真実を!」
「業務、業務です。あなたに混乱されてしまったら業務を進めることができません。冷静になりましょう。たとえば、今ここで九ペンスを九回足すといくらか、あるいはギニー二十枚は何シリングか、といったことを答えてくだされば、ずっと安心できます」
直接この呼びかけに答えることなく、彼女は優しく抱き起こされると、そのまま静かに座り、彼の手首を握り続ける手も先ほどよりはるかに落ち着いていたので、ローリー氏にいくばくかの安心を与えた。
「その調子、その調子。勇気をお持ちなさい! 業務です! あなたにはこれから重要な役目があります。マネット嬢、あなたの母上はこの道を選ばれました。そして母君が亡くなったとき――たぶん心が張り裂けて――父君の行方を諦めずに探し続け、ついに報われぬまま、あなたを二歳で遺したのです。そしてあなたは、父君が刑務所で早く心労で亡くなったのか、何年も苦しみながら生きていたのか、そうした不安の影を知らずに、すくすくと美しく、幸せに育ったのです」
彼はそう言いながら、黄金色の髪に憐憫と賞賛の入り混じった視線を注いだ。まるで既にその髪が白くなりかけているかもしれぬ、と想像しているかのようだった。
「ご両親には大きな財産はなく、あったものはあなたと母上のために確保されていたことはご存知ですね。新たな遺産や財産の発見があったわけではありませんが――」
彼は手首をさらに強く握りしめられて言葉を止めた。例の額の表情は、もはや動かず、痛みと恐怖が深く刻まれていた。
「ですが――彼が発見されました。ご存命です。大きく変わり果てていることでしょう。ほとんど人影もないほどかもしれません。しかし、望みを持ちましょう。それでも、ご存命です。あなたのお父上はパリの古い召使いの家に引き取られました。これから我々はそこへ向かいます。私は身元確認のために、あなたは父君を生きた人間として、愛と義務と休息と安らぎをお与えするために」
彼女の身体に震えが走り、彼にも伝わった。彼女は夢うつつのような、低くはっきりとした畏怖のこもった声で言った。
「父の幽霊に会いに行くのですね! 幽霊に――父ではなく!」
ローリー氏は、彼女の手をそっとさすった。「さあ、さあ、さあ! もう最悪も最善も知ったのです。これからは、可哀想なご老人のもとへ向かい、良い船旅と陸路の末に、すぐお側へたどり着けるでしょう」
彼女は同じ調子で、ささやきに近い声で繰り返した。「私は自由で幸せでした。それでも父の幽霊が私を悩ませたことは一度もありません……」
「もう一点だけ」ローリー氏は、注意を促すため強調して言った。「ご発見されたときは、別の名を名乗っていました。元の名前はとうに忘れ去られたか、長く秘されていたのでしょう。今さらどちらかを詮索するのは無意味どころか有害です。何年も見過ごされていたのか、計画的に幽閉されていたのかも、詮索しない方が賢明です。いずれにせよ、今はどこでもこの件には触れず、彼をしばらく――少なくとも当面は――フランス国外に移すのが最善です。私自身、英国人として安全な身分であっても、テルソン銀行ほどの信用があっても、この件については一切書面にも残していません。すべては秘密任務です。私の身分証や記録、覚書は、ただ一行『甦りし者』――それが何を意味するにせよ――に集約されています。……しかし、どうしたのだ! 彼女は一言も反応しない! マネット嬢!」
彼女はまったく動かず声も上げず、椅子にもたれることすらせず、彼の手の下で完全に意識を失っていた。瞳は見開かれ、最後に浮かべた表情が額に刻まれたかのようだった。彼女の腕の力はあまりに強く、無理に振りほどくと傷つけてしまいそうで、ローリー氏はその場から動かず大声で助けを呼んだ。
その時、ローリー氏が動揺しながらも赤一色の服装と赤毛を認め、異様に体にぴったりした服と、まるで擂鉢か大きなスティルトンチーズのような奇妙なボンネットを頭に載せた野性味あふれる女が、宿屋の使用人たちより早く部屋へ駆け込んできた。そして、彼の胸にたくましい手を叩きつけて壁際へ吹っ飛ばし、彼女の腕から彼を即座に引き離した。
(「この人、本当は男なのでは?」と、壁にぶつかりながらローリー氏は息も絶え絶えに思った)
「何を突っ立って見てるのさ!」この女は宿屋の使用人たちに向かって怒鳴った。「どうして道具を取りに行かないの? じっと見てる暇があったら動きな! 私にそれほどの見どころがあるとでも? さっさと嗅ぎ塩と冷水と酢を持って来な、持って来なかったらただじゃおかないよ!」
回復のための品々を取りに、皆があわてて散っていった。女は患者をソファに横たえ、見事な手際と優しさで介抱しながら「私の宝物!」「かわいい小鳥ちゃん!」と呼び、彼女の金髪を丁寧に肩に広げて誇らしげに撫でた。
「そこの茶色いの!」と彼女は憤慨してローリー氏に向き直った。「殺すほど怖がらせなくても言うことは言えたでしょうに! こんなに可愛らしい顔が真っ青になって、手まで冷たくなって……これが銀行家のやることですか?」
あまりに答えようのない問いに、ローリー氏はただ遠くから力ない同情と謙虚さで見守るしかなかった。女は宿屋の使用人たちを「何か教えてやるよ」と脅して追い払い、決まりきった手順できちんと看護し、ついにマネット嬢の項垂れた頭を自分の肩にもたせかけさせた。
「もう大丈夫でしょうね」とローリー氏。
「あなたには感謝しませんけどね、この茶色いの。私のかわいい子!」
「ところで」ローリー氏は、しばし力なく同情しながらまた口を開いた。「あなたもマネット嬢とご一緒にフランスへ?」
「ご冗談!」と女は答えた。「もし私が海を渡る運命なら、神様は私を島国に生まれさせなかったでしょうよ!」
これもまた答えに窮する質問だったので、ジャーヴィス・ローリー氏はその場を離れて考え込むことにした。
第五章 ワインの店
大きなワイン樽が、通りで落下して壊れた。馬車から降ろす際の事故だった。樽は転がり落ちてタガが外れ、ドアのすぐ外でクルミの殻のように粉々になった。
近くの人々は皆、仕事や暇を投げ捨てて走り寄り、ワインを飲もうとした。通りのゴツゴツした不規則な石畳はどの方向にも突き出ていて、あたかも近づく生き物を傷めつけるために設計されたかのようで、ワインを小さな水たまりにせき止めていた。その周りには、水たまりの大きさに応じて人々が群がった。男たちは屈み込んで両手をすくい取り、すすったり、肩越しに女性たちが口をつけて飲むのを手伝ったりした。ほかの男女は壊れた土器のカップや、女性の頭から取ったハンカチまで使ってワインをすくい、絞って赤子の口に流し込んだ。泥で小さな堤防を作り、流れるワインをせき止める者もいれば、窓から様子を見ている人々に合図されて、逃げ出すワインの流れを追いかける者もいた。さらに、樽の破片に染み込んだワインにしゃぶりつき、より湿った部分にはむしゃぶりついて貪る者までいた。下水がなく、ワインはすべて吸い取られたが、同時に多くの泥も吸い取られたので、誰かがこの通りに清掃人がいると信じたなら、それは奇跡としか言いようがなかった。
このワイン騒ぎの間、甲高い笑い声や男女や子供たちの楽しげな声が通りに響いた。乱暴な様子はほとんどなく、むしろ遊び心が勝っていた。皆が誰かと手を組みたがる特別な連帯感があり、特に幸運な者や陽気な者同士では、抱擁や健康を祝う乾杯、握手、さらには何人もで手をつなぎ踊る者までいた。ワインが尽き、最も多く溜まっていた場所が指で格子模様になるまでかき回されると、こうした騒ぎは一斉に終わった。薪割りを中断していた男はまた鋸を動かしはじめ、階段に置いていた小さな灰の壺で自分や子供のかじかむ手足を温めていた女も戻った。地下室から光の中に出てきた裸腕で髪の毛が絡まり、やつれた顔つきの男たちも、また闇に戻っていった。そして、その場の雰囲気は、さきほどの陽光よりもはるかに自然な「陰鬱」へと戻っていった。
ワインは赤ワインで、サン・タントワーヌの下町の狭い通りを赤く染めた。多くの手や顔、裸足、木靴も赤く染まった。薪を割っていた男の手は薪に赤い跡を残し、赤子を抱く女の額も、再び巻いた古い包帯の染みで赤くなった。樽の破片に我先に手を伸ばした者は、虎のように口の周りが染まり、その中の背の高い道化者は、夜帽子から髪がはみ出したまま、泥とワインの澱を指先につけて壁にこう書き殴った――「血」と。
やがて、そのワインもまた通りにこぼれ、ここにいる多くの者たちを真っ赤に染める時が来るだろう。
一時的な光が聖なる顔を輝かせていたサン・タントワーヌにも、再び暗い雲が立ち込めた。重苦しい闇、寒さ、汚れ、病気、無知、そして貧困が、この聖なる者の傍らに控えていた――どれもが強大な力を持つ貴族だが、特に最後の「貧困」は別格である。厳しい搾取と再搾取の時代をくぐり抜けてきた民の姿が、あちこちで震えている。彼らは童話の中の「老人を若返らせる粉挽き」ではなく、「若者を老いさらばえさせる粉挽き」によってすり減らされてきた。子供たちは老けた顔と落ち着いた声を持ち、大人も老人も、その額には新たに刻まれた「飢え」のため息が刻み込まれていた。それはどこにも溢れていた。飢えは、貧相な衣服となって家々から放り出され、藁やぼろ布、木片や紙で繕われて家の中へと持ち込まれ、薪割りの一片一片に現れ、煙の出ない煙突や、何も食べるものが混じらないごみだらけの通りにも巣くっていた。パン屋の棚に並ぶわずかな悪いパンの一つ一つ、ソーセージ屋で売られる「犬肉」のようなモノ、回転ドラムの焼き栗、フライパンで炒められる皮ばかりのジャガイモの切れ端……すべてが飢えの象徴だった。
すべてが飢えにふさわしい。狭く曲がりくねった通りは悪臭と汚れに満ち、そこから分岐する通りもみな同様で、窓辺にも衣服の切れ端がひらめき、人々の表情には陰りがこもっていた。人々の中には、追い詰められた野獣が反撃を考えるような、荒々しい気配もあった。うつむきがちで怯えた様子ながら、燃えるような目、かすかな怒りをこらえた白い唇、絞首縄の輪を思わせるほど強張った額がそこかしこに見られた。店の看板はどれも「欠乏」を象徴していた。肉屋や豚肉屋は痩せこけた肉しか描かず、パン屋も粗末なパンばかり。ワイン店で酒に興じる人々の絵も、わずかな酒をすすりながら陰鬱に密談する姿だ。繁栄を象徴するのは刃物や武器だけ。鍛冶屋の斧やナイフは鋭く、銃砲店の在庫は殺伐と輝いていた。石畳は泥や水たまりだらけ、歩道はなく、扉の前で途切れていた。溝は、せめてもの補償とばかり通りの真ん中に流れていた――それも大雨の時だけ、しかも時折、家々の中にまで入り込んだ。通りの上には太い綱と滑車でぶら下げられた粗末なランプが時折吊るされていた。夜、点灯夫がそれを下ろして火をつけ、また吊り上げると、頭上には弱々しい芯火が海上で揺れるように明滅した。確かに、この街も船も荒波のただ中にあった。
この地のやつれた案山子たちが、夜ごとに点灯夫の作業を見続けて、「人間をその綱で吊り上げてみよう」と思い付く時が、やがて来る。しかしまだその時ではなかった。フランス全土を吹きぬけるどんな風も、案山子のぼろを揺らすだけで、その警告に耳を傾ける「美しき鳥たち」はひとりもいなかった。
ワインの店は角にあり、他の店よりも見栄えがよく、店主は黄色のチョッキと緑のズボン姿で、こぼれたワインを奪い合う騒ぎを外から見ていた。「俺には関係ない」と、彼は最後に肩をすくめた。「市場の連中の仕業だ。新しいのを持ってこさせろ」
彼は、壁に「冗談」を書き殴っていた背の高い道化者の姿を目に留め、通り越しに声をかけた。
「おい、ガスパール、何してる?」
その男は大げさに意味ありげに自分の悪戯を指差した――同類によくある仕草だが、それは空振りに終わった。
「どうした、気が触れたのか?」と店主は言いながら道を渡り、泥をつかんで壁の悪戯書きを塗りつぶした。「なぜ公道にそんな字を書く? 他に書く場所がないのか?」
そう言いながら、店主は(わざとか偶然かはわからぬが)道化者の胸にきれいな手を下ろした。道化者は自分の手でその手を叩き、ひょいと跳ねて、片足の靴を脱いで手に持ち、踊るような姿勢で見せつけた。腹の中で「狼」のような現実主義者に見えた。
「履け、履け」と店主は言った。「ワインはワインだ、終わりにしろ」そう忠告しながら、泥で汚れた自分の手を道化者の服で丹念に拭い、再び道を渡ってワインの店に入った。
このワイン店の主人は、三十歳くらいで太い首、軍人のような体つきをしていた。気性は激しいはずだ。寒い日なのに上着を着ず、肩にかけているだけで、袖をまくって肘まで裸のたくましい腕を見せていた。髪も短く縮れた黒髪のみ。顔立ちは全体に暗く、目がよく、両目の間が広く、陽気そうに見える一方、断固たる決意の強さと冷徹さがにじんでいた。狭い道を突進してきたら、誰も止められない男であった。
ドファルジュ夫人はカウンターの奥に座っていた。彼女は夫と同年輩のぽっちゃりした女で、普段は物を直視しない油断のない目、大きな指に何本も指輪をはめ、落ち着き払った顔つきに強い特徴を持っていた。彼女は計算にかけて自分に損をすることは滅多になさそうなタイプだった。寒がりのドファルジュ夫人は毛皮をまとい、色鮮やかなショールを頭に巻いていたが、大きなイヤリングは隠れていなかった。彼女の前には編み物があったが、今は爪楊枝で歯をつついていた。右肘を左手で支えつつ、夫が入ってきても何も言わず、ただごくわずかに咳をした。これと、眉毛をほんの少し持ち上げる仕草で、店内に新顔がいないか夫に目配せした。
店主もそれを受けて店内に目を走らせ、隅に座る初老の紳士と若い娘に視線を留めた。他にも客がいた。二人がカードをし、二人がドミノをし、三人がカウンターでワインを延々と飲んでいた。店主はカウンターの後ろを通りかかった時、初老の紳士が若い娘に「この人が我々の人だ」と目配せしたのを見た。
「何の用でそこにいる?」とドファルジュ氏は心の中でつぶやいた。「知らない顔だ」
だが、彼は二人に気付かぬふりをし、カウンターの三人と話し始めた。
「どうだ、ジャック?」三人の一人がドファルジュ氏に。「ワインは全部飲み干されたか?」
「一滴残らずだよ、ジャック」とドファルジュ氏。
こうして互いに「ジャック」と呼び合うと、ドファルジュ夫人は爪楊枝を使いながらまた咳を一つ、眉毛をもう少し上げた。
「普段はこの哀れな家畜どもがワインやパンの味を知ることはないものな、ジャック?」
「その通りだ、ジャック」とドファルジュ氏も答えた。
二度目の「ジャック」にドファルジュ夫人は、なおも爪楊枝を使いながら咳を一つ、眉毛をまた少し上げた。
三人目が飲み干した器を置きながら言った。
「ああ、まったく、その口の中の苦味! 哀れな奴らだ、ジャック。違うか?」
「まさにその通り、ジャック」とドファルジュ氏。
三度目の「ジャック」の呼応と同時に、ドファルジュ夫人は爪楊枝を片付け、眉を上げたまま、椅子で身じろぎした。
「ふむ、確かに!」夫は小声で言った。「諸君、うちの女房だ!」
三人は帽子をとって三度夫人に挨拶し、夫人は頭を下げて素早く目をやった。編み物を取り上げると、何事もないように編み続けた。
「皆さん」夫は妻の様子を観察しながら言った。「お望みの独身者向けの部屋は五階です。階段の入り口は、ここから左手すぐの小さな中庭に面しています。そうそう、ひとりはすでに見に行ったから案内できるでしょう。では、ごきげんよう!」
彼らは代金を払い、店を出た。ドファルジュ氏の視線は妻の編み物に注がれていたが、初老の紳士が進み出て一言お願いした。
「よろこんで」とドファルジュ氏は戸口に一緒に出た。
短いが決定的な会話の後、ドファルジュ氏は大きく目を見開き、深い注意を示した。1分も経たぬうちに頷き、外へ出た。老人は若い娘を手招きし、二人も出た。ドファルジュ夫人は指先を素早く動かし、眉一つ動かさず、何も見ていなかった。
ジャーヴィス・ローリー氏とマネット嬢は店を出て、ドファルジュ氏に先導されて、先ほど案内された入り口に向かった。そこは悪臭漂う黒い中庭に面し、多くの民が住む巨大な集合住宅の共同玄関だった。暗くタイル敷きの廊下と階段の入り口で、ドファルジュ氏はかつての主君の娘に片膝をつき、手に口づけした。それは優雅な所作だったが、どこか激しさが感じられ、彼の顔には数秒で驚くほどの変化が現れた。そこにはもはや陽気さも開放的な雰囲気もなく、秘密を秘め、怒りと危険さを漂わせた男に変貌していた。
「高い階です。少し大変です。ゆっくり登りましょう」ドファルジュ氏は厳しい口調でローリー氏に言い、階段を上がり始めた。
「彼はひとりですか?」ローリー氏が小声で尋ねる。
「ひとりです! 神のご加護を――誰がそばにいられるというのです!」と彼も低く返す。
「いつもひとりなのですか?」
「本人の望みというより、必要に迫られて……最初に私が引き取るよう命じられた時もそうだった、今も変わらない」
「ひどく変わり果てて?」
「変わったとも!」
ワイン店主は壁を激しく叩き、呪詛を吐いた。その方がどんな返答よりも重かった。ローリー氏の心はますます重くなり、三人はさらに高みへと昇った。
パリの古い密集区域の階段は今でも悪名高いが、当時は未経験者には到底耐え難いものだった。巨大な建物の各戸――そのすべてが階段の踊り場に面している――は、どれも自分のゴミを自分の前に山積みにし、窓からも廃棄物を投げていた。腐敗の悪臭はただでさえ耐え難い貧困と絶望の空気に加わり、二重の悪が結びついて、呼吸もできぬほどだった。三人はそんな大気の中、暗く急勾配の「毒と汚れの井戸」をゆくことになった。ローリー氏は自分も動揺し、同行の少女もますます不安をおぼえていたので、何度か途中で休憩した。そのたびに、鉄格子の嵌った陰気な開口部で立ち止まった。その格子越しに、まだ腐りきらぬ空気の残り香がかすかに逃げ、悪臭は這い込んできた。格子の向こうに見えるのは、ノートルダム大聖堂の二つの塔以外、健康や希望を感じさせるものは何一つなかった。
ついに階段の頂上にたどり着き、三度目の休憩となった。まださらに急な傾斜で幅も狭い上り階段が残っており、その先に屋根裏部屋があった。酒場の主人は常に少し先を歩き、しかもローリー氏と同じ側を歩き続けていた。まるで若いご令嬢から何か質問されるのを恐れているかのようだった。ここで彼は立ち止まり、肩にかけた上着のポケットを慎重に探り、鍵を取り出した。
「では、扉は鍵がかかっているのですか、友よ?」とローリー氏は驚きながら尋ねた。
「ああ、そうだ」とドファルジュ氏は不気味に答えた。
「その不運な紳士を、そこまで人目から遠ざけておく必要があるとお考えなのですか?」
「鍵をかけておく必要があると思う」ドファルジュ氏はそうささやき、重々しく眉をひそめた。
「なぜです?」
「なぜだと? 長い間、鍵をかけられて過ごしてきたからさ。もし扉が開いたままだったら、彼は恐怖に駆られて――錯乱し、自分を引き裂き、死ぬか、何かとんでもないことになるだろう――どうなるか私にも分からないのさ」
「そんなことがあるのですか!」ローリー氏は叫んだ。
「そんなことがあるのか、だと!」ドファルジュ氏は苦々しく繰り返した。「ああ、そうだ。そしてそんなことが本当にあり得る、そして他にも似たようなことが山ほどあり得る――いや、実際に行われているのさ、あの空の下で、毎日ね。まったく、美しい世の中さ。悪魔万歳だ。さあ、進もう」
この会話は極めて小声で交わされたので、若いご令嬢の耳には一言も届かなかった。しかしこの時、彼女は強い動揺に震え、顔には深い不安、そして何よりも恐れと怯えの色が浮かんでいた。ローリー氏は、彼女を少しでも安心させてやるべきだと感じた。
「勇気を、お嬢さん! 勇気を。お仕事です! いちばんつらいのはあとほんの一瞬――部屋の扉を通り過ぎれば、その苦しみもおしまいです。そうしたら、あなたが彼にもたらすすべての善きもの、救いも幸福も、そこで始まるんです。こちらの親切なドファルジュ氏に、そちら側であなたを支えてもらいましょう。さあ、よろしい、ドファルジュ氏。行きましょう。仕事、仕事です!」
彼らは静かに、ゆっくりと上がっていった。階段は短く、すぐに最上階に着いた。そこは折れ曲がった形の階段で、突然、三人の男たちが現れた。三人は扉の脇で頭を寄せ合い、壁の割れ目や穴から部屋の中を熱心に覗き込んでいた。足音が近づくと、三人は振り返って立ち上がったが、ワイン酒場で酒を飲んでいた、あの同じ名を持つ三人だった。
「あなた方の訪問に驚いて彼らのことを忘れていました」とドファルジュ氏は説明した。「さあ、行きなさい、お前たち。ここは我々の用事だ」
三人はすっとすり抜け、静かに下の階へ消えていった。
その階には他に扉が見当たらず、酒場の主人が皆が残された後まっすぐその扉に向かったので、ローリー氏は小声でやや憤りを込めて尋ねた。
「マネット博士を見せ物にしているのですか?」
「見せている――君が見たようなやり方で、選ばれた少数の者にだけだ」
「それは正しいことなのですか?」
「私は正しいと思っている」
「その少数とは誰です? どうやって選ぶのです?」
「私と同じ名を持つ、いわば本物の男たち――ジャックが私の名さ――彼らに見せるんだ。その光景が役に立ちそうな者に。もういい、君はイギリス人だ――それとは別だ。少しの間、そこにいてくれ」
後ろに下がるよう手で合図し、彼は身をかがめて壁の割れ目から中を覗き込んだ。しばらくして顔を上げると、ドアを二度三度叩いた――ただ音を立てるのが目的のようだった。同じ意図で、鍵を三、四度ガチャガチャと鳴らし、それから不器用に鍵を差し込んで、できるだけ重々しく回した。
扉はゆっくりと内側に開いた。彼は部屋を覗き込んで何か声をかけた。かすかな声が何か応じた。どちらも、ほとんど一語しか発しなかったようだった。
彼は肩越しに振り返って、二人を手招きした。ローリー氏はしっかり娘の腰に腕を回し、支えた。彼女が今にも崩れ落ちそうになっているのがわかったからだ。
「ああ、仕事、仕事だ!」彼は頬ににじんだ涙を隠せずに励ました。「さあ、中へ、中へ!」
「怖いのです」と彼女は震えながら答えた。
「怖い? 何が?」
「彼が――私の父が、です」
彼女の切羽詰まった様子と、案内人のせき立てで、ローリー氏は彼女の震える腕を自分の肩に回し、少し抱え上げるようにして部屋へ急いだ。扉の内側に彼女を座らせ、しっかりと抱きしめた。
ドファルジュ氏は鍵を引き抜き、扉を閉めて内側から鍵をかけ、鍵をまた手に持った。その一連の動作すべてを、あえて大きな騒音を立てながら、手順通りに行った。最後に、ゆっくりと窓の方へ歩いていき、立ち止まって振り向いた。
屋根裏部屋は元は薪置き場などのために建てられたもので、薄暗かった。窓は屋根に付いたドーマー型で、実際は通りから荷物を吊り上げるための小さなクレーン付きの扉だった。ガラスははまっておらず、真ん中で二つに分かれて閉じるフランス式の扉で、寒さを防ぐため片方はしっかり閉められ、もう片方はほんのわずかだけ開けてあった。そのため差し込む光はごくわずかで、最初は何も見えないほどだった。長年の習慣だけが、そんな薄暗がりで細かな作業をする力を人に与えたのだろう。それでも、その部屋ではまさにそんな作業が行われていた。扉に背を向け、窓に向かって――その窓のそばにワイン酒場の主人が立っていた――白髪の男が、低い腰掛けに座り、前かがみになって一心に靴作りをしていた。
第六章 靴屋
「ご機嫌よう」ドファルジュ氏が靴作りに没頭する白髪の頭を見下ろして言った。
頭は一瞬上がり、かすかな声が遠くから響くように挨拶を返した。
「ご機嫌よう」
「相変わらずお仕事熱心ですね?」
長い沈黙の後、再び頭がわずかに上がり、声が答えた。「はい――仕事をしています」今回は、憔悴した目が問いかける者を見て、またすぐ顔を落とした。
その声のかすれ具合は、哀れで恐ろしかった。それは肉体的な衰弱からだけでなく、閉じ込められた境遇と粗末な食事が一因であったにせよ、より根本的には孤独と使われないことによるものだった。それは、はるか昔に響いた音の、最後の弱々しい残響のようだった。人間の声が持つ生き生きとした響きはすっかり失われ、かつて美しかった色が薄汚れた染みになるように、感覚に訴えた。それほどまでに沈み込み、抑圧され、まるで地下から聞こえる声のようだった。絶望と喪失感がにじむその声は、荒野をさまよい疲れ果てた飢えた旅人が、死の前に家や友を思い出すに違いないような響きだった。
しばらく黙々と作業が続いた。憔悴した目は再び上がったが、興味や好奇心ではなく、ただ機械的に、目の前に唯一の訪問者がまだ立っていることを認識しただけだった。
「もう少し光を入れてもいいかと思いまして」とドファルジュ氏が靴屋から目を離さずに言った。「もう少し、堪えられますか?」
靴屋は作業を止め、虚ろな様子で体の片側の床を見つめ、同じように反対側の床を見つめ、それから話しかけられた方を見上げた。
「何とおっしゃいました?」
「もう少し光を入れても大丈夫ですか?」
「入れるなら、我慢しなくてはなりません」 (二語目にかすかな力を込めて)
開いた片側の扉がさらに少し広く開けられ、その角度で留められた。屋根裏には幅広い光が差し込み、靴職人の膝には未完成の靴が乗ったまま、手が止まっていた。足元や作業台には、ありふれた道具や革の切れ端が散乱していた。彼は白いひげを不揃いに生やしていたが、長くはなかった。顔はこけて、目だけが異様に輝いていた。やせ細った顔が、暗い眉と乱れた白髪に覆われているせいで、なおさら大きく見えたが、元々大きな目で、今はさらに不自然な大きさに見えた。黄色く変色したシャツは首元が開いており、体は枯れ果てていた。彼自身も、古いキャンバスの上着も、だぶだぶの靴下も、全てのぼろ切れが、長い間日の光と空気を避けてきたため、羊皮紙のようなくすんだ黄色に統一されて、何が何だかわからなくなっていた。
彼は光を遮るように目の前に手をかざしたが、その手の骨までもが透けて見えるようだった。そうして、虚ろなまなざしでじっと座り続けた。彼は、自分の前に立つ人物を見るときも、必ずその前に左右の床を見てからでなければ見なかった――まるで場所と音を結びつける習慣を失ってしまったかのように。彼は話す時も、まずこのようにさまよい、言葉を忘れてしまうのだった。
「今日はその靴を仕上げるつもりですか?」ドファルジュ氏が手でローリー氏に前に出るよう合図した。
「何とおっしゃいました?」
「今日、その靴を仕上げるつもりですか?」
「仕上げるつもりかどうか分かりません。たぶん、そうでしょう。分かりません」
しかし、その問いは彼に仕事を思い出させ、再び頭を下げて靴作りを始めた。
ローリー氏は黙って前に出て、娘を扉際に残したまま、ドファルジュ氏のそばに立った。靴屋はその時、顔を上げた。もう一人の人物がいるのを見ても驚くことはなかったが、片方の手の震える指が唇に触れた(唇も爪も鉛のように青白かった)、そしてその手はすぐに仕事に戻り、再び靴へと身をかがめた。ほんの一瞬の出来事だった。
「お客さんですよ」とドファルジュ氏が言った。
「何とおっしゃいました?」
「ここにお客さんがいます」
靴屋は先ほど同様、手を止めずに顔を上げた。
「さあ」ドファルジュ氏が言った。「こちらの紳士は、良い靴かどうか分かる方です。今作っている靴を見せてあげてください。どうぞ、紳士」
ローリー氏はそれを手に取った。
「どんな靴なのか、そして作り手の名を紳士に教えてあげてください」
例によって、靴屋はしばらく間をおいて答えた。
「何とおっしゃいました?」
「どんな靴か説明できませんか?」
「婦人の靴です。若いご婦人の散歩靴です。今の流行です。流行は見たことありません。手本だけは手にしました」彼は靴をちらりと見て、ほんのわずかに誇らしげな態度を見せた。
「作り手の名は?」とドファルジュ氏。
仕事が手元になくなると、彼は右手のこぶしを左手のくぼみに、次に左手のこぶしを右手のくぼみに、さらに手をひげに当てて、規則正しく繰り返し続けた。彼が何か話した後に必ず陥る虚脱状態から呼び戻すのは、気を失いかけた人を引き戻すのに似ていた。
「名前を聞かれましたか?」
「確かに聞きましたよ」
「ノース・タワー百五号」
「それだけですか?」
「ノース・タワー百五号」
ため息ともうめき声ともつかない音を立てて、また仕事に戻った。
「あなたは元々靴屋ではありませんよね?」とローリー氏がじっと見ながら言った。
憔悴した目は助けを求めるようにドファルジュ氏を見たが、そちらから返事がないので、再び質問者の方に視線を戻した。
「私は靴屋ではないのか? いや、元々靴屋ではなかった。ここで覚えたのだ。自分で習った。許可を願い出て――」
彼はまた数分間、その手の運動を繰り返しつつ沈黙した。やがて彼の目はゆっくりと再び面前の顔に戻り、そこに止まると、眠りから目覚めたばかりの人のように、昨夜の話題に戻るかのように再び話し出した。
「自分で覚える許可を求めて、やっと苦労の末に手に入れ、それからずっと靴を作ってきました」
彼が靴を受け取ろうと手を差し伸べた時、ローリー氏はなおもじっと顔を見つめながら言った。
「マネット博士、私のことを何も思い出しませんか?」
靴は床に落ち、彼はじっと質問者を見つめた。
「マネット博士」ローリー氏はドファルジュ氏の腕に手を置きながら言った。「この男のことを何も覚えていませんか? よく見てください。私のことも見てください。昔の銀行や、昔の仕事、昔の召使いや、昔のこと、何も思い出しませんか、マネット博士?」
長年囚われていた男が、ローリー氏とドファルジュ氏を見比べているうちに、額の中央にかつてはっきりと現れていた知性の表情が、黒い霧をかき分けるようにほんの少しだけ浮かび上がった。しかしすぐまた曇り、薄れ、消えた――だが確かに現れていた。そして、その表情は、壁際まで忍び寄り、今まさに壁から父親を見つめる娘の若い美しい顔にも、より強い形で繰り返されていた。初めは恐ろしさに手を上げて彼を拒むようだったが、今や彼の幽霊のような顔を胸に引き寄せ愛で蘇らせたい一心で、手を差し伸べて震えていた。まるでその表情が彼から娘へ、移ろいゆく光のように渡ったかのようだった。
そして、再び闇が彼を覆った。彼は二人を次第にぼんやりとしか見なくなり、またあの虚ろな目つきで床や周囲を見回し始めた。ついに深いため息とともに靴を拾い上げ、仕事を再開した。
「今の彼を認識できましたか?」ドファルジュ氏がささやいた。
「ええ、一瞬だけ。最初は絶望的だと思いましたが、私のよく知っていたあの顔が、ほんの一瞬だけ、間違いなく見えました。静かに。私たちはもう少し下がりましょう。静かに」
彼女は壁際から離れて、父の座るベンチのすぐ近くまで進んでいた。彼女が手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、その存在にまったく気づいていない彼の姿は、何か恐ろしいものだった。
一言も発せられず、物音もなかった。彼女はまるで精霊のように彼のそばに立ち、彼は仕事に没頭していた。
やがて、彼が手にしていた道具を靴職人用のナイフに持ち替える必要が生じた。そのナイフは、彼女の立っていない側にあった。彼はそれを取って再び作業に戻ろうとした時、彼女のドレスの裾が目に留まった。彼は顔を上げ、彼女の顔を見た。二人の見守り人は思わず動きかけたが、彼女は手で制した。彼女には、彼がナイフで自分を傷つけるとは思えなかったのだ。
彼は恐ろしげな目つきで彼女をじっと見つめ、やがて唇が何か言葉を形作り始めたが、声は出なかった。しばらくするうち、荒い息遣いの合間から、次第にこう言うのが聞こえた。
「これは……何だ?」
彼女は涙を流しながら、両手を唇に当てて彼にキスを送り、それから胸に手を重ね、彼の荒れ果てた頭をそこに抱きしめるような仕草をした。
「お前は看守の娘じゃないのか?」
彼女は「いいえ」とため息をついた。
「お前は誰だ?」
まだ声に自信がなく、彼女は彼の隣のベンチに腰を下ろした。彼は身を引いたが、彼女はそっと彼の腕に手を置いた。そのとき、奇妙な震えが彼に走り、見ている者にもはっきり分かった。彼はやさしくナイフを置き、彼女を見つめた。
彼女の長い金髪は急いでかき上げたのか、首にかかっていた。彼は少しずつ手を伸ばしてその髪を手に取り、じっと見つめた。しかし動作の途中でまた意識が遠のき、深いため息とともに再び靴作りに戻ってしまった。
だが、それも長くは続かなかった。彼女は彼の腕を放し、そっと肩に手を置いた。彼は何度か疑わしげにそれを見つめ、ようやくその存在を確かめると、作業をやめ、首に手をやって、煤けた紐とそれに付けられた小さな布切れを外した。彼はそれを膝の上で慎重に広げたが、中にはほんの一、二本の長い金髪が入っていた。かつて彼が指に巻きつけて取っておいたものだった。
彼は娘の髪を改めて手に取り、じっと見比べた。「同じだ……どうしてだ? いつのことだ? どうしてだ?」
彼の額に、集中した表情が戻ると、彼女の顔にも同じ表情が現れていることに気づいた。彼は彼女を明るい方に向け直して見つめた。
「――あの夜、私は呼び出されて……彼女は私が行くのを恐れていた、私は恐れなかったが……ノース・タワーに連れて行かれて、腕にこの髪がついているのを見つけた。『これだけは残しておいてくれ、体まではこれで逃げられないが、心の助けにはなろう』――そう言った。よく覚えている」
彼は何度も口の形だけでこの言葉を繰り返してから、ついに言葉を発した。ゆっくりではあったが、筋の通った話し方だった。
「どういうことだ――君なのか?」
再び、二人の見守り人は彼の突然の動きに驚いたが、彼女は彼の腕の中で微動だにせず、ただ小声で「お願いです、どうか近づかず、話さず、動かないでください!」と言った。
「おや!」彼は叫んだ。「今の声は誰のものだ?」
彼は叫ぶと同時に彼女を放し、両手で白髪をかきむしった。その激情も、やがて消え、彼は小さな包みを畳んで胸にしまおうとしたが、なおも彼女を見つめ、寂しげに首を振った。
「いや、だめだ。君はあまりに若く、あまりに瑞々しい。そんなはずはない。見てくれ、この囚人のありさまを。これは彼女の知っていた手じゃない、知っていた顔じゃない、聞き覚えのある声でもない。いや、あの時代は――そして彼女も、彼も――ノース・タワーの長い年月の前、はるか昔のことだ。君の名前は、私の天使よ?」
彼の柔らい口調と態度に、娘は父の胸に両手をあててひざまずいた。
「お父さま、いずれ時がくれば、私の名前も、母のことも、父のことも、私がどんなに二人の辛い過去を知らずに育ったかもすべてお話しします。でも今はまだ、ここでは話せません。今ここで言えるのは、どうか私に触れて、祝福してください。キスしてください、キスを! ああ、愛しいお父さま!」
彼の冷たく白い頭は、彼女の輝く髪と寄り添い、それはまるで自由の光が彼を照らし温めるようだった。
「もし、私の声に――それが本当にそうならと願うばかりですが――かつてあなたの耳に心地よく響いた声と似た響きを感じたなら、どうか泣いてください、泣いてください! もし、私の髪に触れたとき、若く自由だった頃あなたの胸に抱かれていた愛しい頭を思い出したなら、どうか泣いてください、泣いてください! もし、私がこれからは家であなたに誠実に仕えますとほのめかすことで、あなたが長い間寂しく荒れ果てた我が家を思い出したなら、どうか泣いてください、泣いてください!」
彼女は父の首にしっかりと腕を回し、まるで幼い子を抱くように彼を胸にあやした。
「もし私が、愛しいお父さま、もう苦しみは終わった、これからあなたを連れてイギリスへ行き、安らかに暮らせるのだと告げることで、あなたがこれまでの苦しみや祖国フランスの冷酷さを思い出したなら、どうか泣いてください、泣いてください! そして、私の名や、生きている父や亡くなった母のことを話すとき、私が父のために昼も夜も苦しみぬかなかったことを悔い、母の愛が父の苦しみを隠していたのだと知って、どうか私と母のために泣いてください、泣いてください! ああ、神様に感謝します、父の聖なる涙が私の顔に、父の嗚咽が私の胸に響いています。ご覧ください、神様、感謝します!」
彼は娘の腕の中で力尽き、顔を彼女の胸に伏せていた。それは、これまでの大きな苦しみと不正義を思えばあまりにも痛ましい光景で、見守る二人は思わず顔を覆った。
屋根裏の静けさが長く続き、彼の乱れた呼吸と震える体もやがて嵐の後の静寂のように落ち着いた時、二人は父娘をそっと床から起こしに近づいた。彼は少しずつ床に横たわり、うつろなまま眠るようになっていた。娘は彼の頭を腕に乗せ、自分もそばに身を寄せて、髪を垂らして父を包み込んでいた。
「もし父を起こさずに済むのなら」と彼女は何度も鼻をかみながらかがみこんだローリー氏に言った。「すぐにパリを離れる手配をしていただけませんか。このまま、この扉から直接父を連れ出せるように――」
「でも、考えてください。お父上は旅に耐えられるでしょうか?」とローリー氏。
「残るより、旅に出る方がまだましだと思うのです。この街は、父にとってあまりにも恐ろしいから」
「確かにそうだ」と、ドファルジュ氏もひざまずきながら言った。「それ以上だ――マネット博士は、どんな理由からも、フランスを離れるのが一番だ。馬車と御者を手配しようか?」
「それは仕事だ」とローリー氏はすぐに生真面目な態度を取り戻した。「仕事なら、私がやるのが良いでしょう」
「ではどうか」とマネット嬢は頼んだ。「私たちをここに残してください。ご覧の通り、父は落ち着いていますし、もう私と一緒にいても心配はないでしょう。なぜ心配するのでしょう? 扉に鍵をかけてくだされば、誰にも邪魔されません。戻られるころには、きっと今と同じぐらい静かにしていると思います。どちらにせよ、あなたが戻るまで父のそばにいます。そして、すぐに父を移動させます」
ローリー氏もドファルジュ氏もこの案には気乗りしなかったが、馬車や馬の手配だけでなく、旅券の準備もしなければならず、時間も迫っていたので、必要な用事を分担して急いで出ていった。
やがて暗闇が部屋を包み、娘は父の傍らの硬い床に頭を垂れて見守った。闇はいよいよ深まり、二人とも静かに横たわっていた。壁の割れ目から明かりが漏れてきたのはその時だった。
ローリー氏とドファルジュ氏は、旅の準備をすべて整えて戻ってきた。旅用のクロークや巻き物のほか、パンや肉、ワイン、熱いコーヒーも持参していた。ドファルジュ氏はそれらの食料とランプを、靴職人の作業台に置いた(屋根裏には粗末な寝床しかなかった)、そして二人は捕らわれ人を起こし、立たせた。
その顔には呆然とした驚きが浮かび、心の内は誰にも読み取れなかった。今起こったことを理解しているのか、先ほどの会話を覚えているのか、自由になったことに気づいているのか――賢者でも分からないことだった。何度か声をかけたが、あまりに混乱していて返事も遅く、彼の当惑ぶりに二人は怖くなり、それ以上刺激するのはやめようと決めた。時折、彼は頭を両手で抱えるしぐさを見せたが、これは今までになかったことだった。しかし、娘の声だけは心地よいらしく、必ずそちらを向いた。
強制されることに慣れきった者の従順な態度で、彼は出された食事や飲み物を口にし、クロークや巻き物も素直に身につけた。娘が腕を組めば素直についてきて、彼女の手もしっかり握った。
一行は下り始めた。ドファルジュ氏がランプを持って先頭に立ち、ローリー氏が最後尾についた。大階段のいくらも進まないうちに、彼は立ち止まり、天井や壁を見回した。
「ここを覚えていますか、お父さま? ここに上がってきたことを――」
「何とおっしゃいました?」
だが彼女がもう一度尋ねる前に、彼はまるで聞き直されたかのように答えをつぶやいた。
「覚えている? いや、覚えていない。あまりにも昔のことだ」
今いる家に収容されてきたこと自体、彼には全く記憶がないのは明らかだった。彼は「ノース・タワー百五号……」とつぶやき、見回す様子も、かつて自分を取り囲んでいた重厚な要塞の壁を探すようだった。中庭に出るときも、思わず跳ね橋のあるはずの足取りとなり、跳ね橋がなくて、通りに馬車が停まっているのを見ると、娘の手を放してまた頭を抱えてしまった。
扉のそばに人だかりはなく、窓にも誰の姿も見えなかった。通りにも一人の通行人もいない。奇妙な静けさと人気のなさがそこにあった。たった一人見えたのは、ドファルジュ夫人――扉の柱に寄りかかり、編み物をしながら、何も見ていないようだった。
囚人は馬車に乗り、娘もそれに続いたが、その時ローリー氏は、彼が靴作りの道具と未完の靴を欲しがっているのに気づいた。ドファルジュ夫人はすぐ夫を呼び、「すぐ取ってきます」と言って、ランプの明かりから外れ、中庭を抜けて出ていった。彼女はすぐにそれらを持って戻り、馬車に渡した――そして再び扉柱にもたれ、編み物をしながら何も見ていなかった。
ドファルジュ氏が御者台に上がり、「バリケードへ!」と号令をかけた。御者が鞭を鳴らし、馬車は薄暗い街灯の下をカタカタと走り出した。
街灯は通りによって明るくなったり暗くなったりしながら、明るい店、にぎやかな人ごみ、コーヒーハウス、劇場の前を抜け、市門の一つへ向かった。衛兵詰所にはランタンを持った兵士たちがいた。「書類を見せて、旅行者!」 「こちらです、士官殿」とドファルジュ氏が降りて、重々しく脇に連れ出して言った。「この白髪の紳士の書類です。彼と一緒に、――」そこから声を落とした。軍のランタンがざわめき、制服の腕がランタンを馬車に差し入れ、その腕の主の目が、白髪の紳士に日常とは違う鋭い視線を投げかけた。「よろしい。進め!」と制服の者。「さらば!」とドファルジュ氏。それから、次第に暗くなる街灯の並木を抜け、大きな星の天蓋の下へ――
動かず永遠に輝く光のアーチの下――その中には、この小さな地球からあまりに遠く、その光がまだここを発見していないかもしれない星々もあるという。その夜の影は濃く、黒かった。冷たく落ち着きのない夜明けまでの間、再びローリー氏の耳元に、かつて地中から掘り起こされた男を前に座り、失われた力と回復し得るものについて思いを巡らせている時、あの問いがささやかれた。
「生き返ることをお望みですか?」
そして、あの答え――
「分かりません」
第一部 終
第二部――金色の糸
第一章 五年後
テルソン銀行――テンプル・バーの脇に建つ――は、1780年当時ですら古めかしい場所だった。とても狭く、薄暗く、醜く、不便極まりない。だが銀行のパートナーたちは、その狭さも、暗さも、醜さも、不便さも誇りに思っていた。むしろその点で優れていることを自慢し、それが少しでも改善されれば、品格も落ちると確信していた。それは受け身の信念ではなく、他のより便利な銀行に対して振りかざす積極的な武器だった。テルソンには広い空間など不要、光も装飾も不要。ノークス商会やスヌーク兄弟商会には必要かもしれないが、テルソンには不要――天に感謝すべきことだ、と。
パートナーの誰かでも、もしテルソンの建て直しを主張した息子がいれば、間違いなく勘当しただろう。この点でテルソンは、古くからの法律や慣習の改善を提案した息子を勘当する国そのものとよく似ていた。
かくしてテルソンは、不便さの極みとして君臨した。馬鹿げたほど頑固な扉をこじ開けて中に入ると、二段下がった薄汚れた小部屋にたどり着く。そこには年老いた行員がいて、あなたの小切手を、まるで風に吹かれているように震わせながら、フリート街の泥に常時さらされた小窓で署名を調べる。窓は自前の鉄格子とテンプル・バーの影でさらに暗くなっている。もし「銀行の本体」に用があれば、奥の独房のような場所に押し込まれ、人生の過ちを思い返しているうちに本体がポケットに手を突っ込んで現れ、その薄暗さに目もまともに開けられなくなる。お金は虫食いだらけの木箱から出し入れされ、その破片が開閉のたびに鼻や喉に入ってくる。紙幣はカビ臭く、すでにぼろ切れになりかけていた。銀器は近所の汚水溜まりに保管され、悪しき空気で数日もせず輝きを失う。証書は台所や流しを利用した即席の金庫室に保管され、羊皮紙の油分は銀行内の空気に吸い取られてしまう。家族関係の書類は階上の「宴会だけが名目で、決して食事の出ない」バーミケードの間に保管され、さらには、1780年当時でも、かつて愛した人や幼い子どもからの最初の手紙も、テンプル・バーにさらされた生首が窓からのぞき込むという、アビシニアやアシャンティーにも劣らぬ残酷さの恐怖から、ようやく解放されたばかりだった。
だが、当時はあらゆる業種・職業で死刑が流行しており、テルソン銀行も例外ではなかった。死は自然の万能薬、ならば立法の万能薬でもあっていい。偽造者は死刑、偽札発行者は死刑、手紙の開封も死刑、四十シリング六ペンスの盗みも死刑、テルソンの前で馬を預かったついでに逃げた者も死刑、偽硬貨製造も死刑。そして犯罪のほとんどが死刑だった。防止効果があったかといえば全く逆だったが、それぞれの事件の悩みは一挙に片付き、残りは何もなかった。かくしてテルソンは、同時代の大銀行同様、多くの命を奪ってきた。その生首がテンプル・バーにずらりと並んでいたら、地上階のわずかな光さえ遮ってしまっただろう。
テルソンでは、老いた男たちが様々な薄暗い小部屋や棚で、厳かに仕事をしていた。若い従業員が入ると、どこかに隠して、彼が「テルソンの味」と青カビが出るまで、まるでチーズのように暗所で熟成させた。そうして初めて、分厚い帳簿に没頭し、ズボンやゲートルも重みを増して、ようやく人前に姿を現すことを許された。
テルソンの外には――決して中には入らず、用事の時だけ――便利屋で用心棒兼使い走りの男がいた。彼は営業時間中は必ず姿を見せており、留守の時は息子が代わりを務めていた。息子は父親そっくりの陰気な十二歳の少年だった。人々は、テルソンは格式高くも、この男を「生きた看板」として容認しているのだと理解していた。いつの時代も、テルソンにはこうした者がいたのであり、時の流れがこの人物をその役に押しやったのだ。彼の姓はクランチャー、そしてホウンズディッチの東教会で闇の業を代理で誓って放棄した際、「ジェリー」という名も与えられたのだった。
その場面は、ホワイトフライアーズのハンギング・ソード小路にあるクランチャー氏の借家である。時は、吹きすさぶ三月の朝、午前七時半、紀元一七八〇年。(ちなみにクランチャー氏自身は、この「紀元」を「アンナ・ドミノ」と発音し、有名な遊戯を発明した女性の名を冠した年からキリスト紀元が始まったとでも思い込んでいるらしかった。)
クランチャー氏の住まいは、決して衛生的な界隈ではなかったし、部屋の数も、ガラスが一枚はまった小さな物置まで数に入れても二つきりだった。しかし、部屋はきちんと手入れされていた。朝早く、三月の風の強いこの日も、彼が寝ている部屋はすでに隅々まで磨かれ、朝食用に並べられたカップやソーサーの間、重たげな木製テーブルには真っ白な清潔なクロスが広げられていた。
クランチャー氏は、道化師のようなパッチワークの布団の下で眠っていた。最初はぐっすり眠っていたが、やがて布団の中でもぞもぞとうねり始め、突き出た髪がシーツを引き裂きそうな様子で、とうとう寝床から姿を現した。その時、彼は激しい苛立ちの声で叫んだ。
「ちくしょう、またやってやがる!」
部屋の隅で規則正しく、働き者といった風情の女性が、そそくさと立ち上がった。その慌てぶりとおびえ方から、自分が言われた当人であることは明らかだった。
「おい!」とクランチャー氏は、寝床から片方のブーツを探しながら言った。「またやってるのか?」
この朝の「お目覚めの挨拶」をもう一度繰り返すと、三度目の挨拶代わりに、その女性にブーツを投げつけた。それはひどく泥だらけのブーツだったが、ここでクランチャー氏一家の家計にまつわる奇妙な出来事について触れておこう。クランチャー氏は、銀行の仕事が終わって家に帰るときはきれいなブーツなのに、翌朝起きると同じブーツが泥だらけになっていることがよくあったのだ。
「なんだってんだ、」とクランチャー氏は、ブーツが外れた後で呼びかけ方を変えて言った。「何をしてるんだ、アガラウェイター?」
「お祈りをしていただけです。」
「祈りだと! いいご身分だなあ! おれのことを祈ってやるなんて、どういうつもりだ?」
「あなたのために祈っていたのです。決して逆らうようなことは――」
「違うね。たとえそうだったとしても、おれはそんな勝手は許さねえぞ。ほら見ろ、若きジェリー、お前の母親は立派な女だよ、父親の出世の邪魔をしようと祈ってやがるんだ。感心な母親だ、お前は。信心深い母親だな、坊や。わざわざ膝をついて祈って、わが子の口からパンとバターを奪おうってんだ。」
シャツ姿の若きクランチャーはこれをすっかり気に入らず、母親に向かって、自分のメシを祈りで追い払うのはやめてくれと強く訴えた。
「で、あんたはどう思ってるんだよ、この自惚れ屋め、」とクランチャー氏は、矛盾に気付かず言った。「あんたの祈りに、どんな値打ちがあるってんだ? 自分の祈りにどれほどの値段をつける?」
「心から出たものです、ジェリー。それ以上の価値はありません。」
「それ以上の価値はない、だと。大したもんじゃねえな。だとしても、おれは祈りで邪魔されるのはごめんだぞ。運が悪くなっちまう。あんたのコソコソした祈りで、不運になんぞなりたくねえ。どうしても祈るなら、夫と子のために祈れ、逆らうんじゃねえ。もしもおれに普通の女房がいて、この子にも普通の母親がいれば、先週だってもっと金が儲かったはずだ。なのに祈りで邪魔されて、運も台無し、宗教だかなんだかで、さんざん損をしたんだ。――ちくしょう!」と、服を着ながらクランチャー氏は続けた。「信心深いだの、なんだのって、この一週間、おれはとことん運に見放されちまったぞ! 若きジェリー、服を着ろ。おれがブーツを磨いてる間、たまに母親を見張っとけ。また膝をついて祈る気配があったら、すぐ知らせろ。いいか、」ここでまた妻に言葉を向けた。「こんな風に祈られるのはもうごめんだぞ。体は御者馬車みたいにガタガタだし、阿片でも飲んだみたいに眠いし、筋は痛むし、痛みがなきゃ自分が自分かわかりゃしねえ。でも金にはならねえ。あんたが朝から晩まで、金にならないように祈りやがってるせいだとおれは思ってる。もう我慢ならねえぞ、アガラウェイター、どうだ!」
クランチャー氏はさらに、「ああ、そうさ! お前は信心深い女だよ。夫や子の利益に逆らうようなことはしないよな? まさか!」などとぶつぶつ、怒りの砥石で皮肉の火花を散らしながら、ブーツを磨き、仕事に出る支度を始めた。その間、息子は、父親同様にとげとげした頭を揺らし、目と目が寄った顔で、母親を監視していた。時折、寝床の押入れから「また祈るつもりだろ、お母さん――おい父さん!」と小声で叫び、偽の警報を発しては、いたずらっぽく笑いながら引っ込むので、可哀想な母親はひどく落ち着かなかった。
朝食時もクランチャー氏の機嫌は全くよくならなかった。クランチャー夫人が食前の祈りを唱えると、特に激しく腹を立てた。
「さて、アガラウェイター! 今度は何だ? またやってるのか?」
妻は「祝福を願っただけです」と説明した。
「やめろ!」とクランチャー氏は、妻の祈りの効き目でパンが消えやしないかとでも言いたげに、あたりを見回した。「おれは家から追い出されるほど祝福されてたまるか。メシまで祈りで消すのはごめんだ。おとなしくしてろ!」
目が真っ赤で、まるで楽しくもない宴会で徹夜でもしたかのようにむっつりとしたクランチャー氏は、朝食を食べるというより噛みつきながら飲み込み、猛獣のように唸っていた。九時頃になると表情を整え、できる限りまともで商売人らしい外見を装い、一日の仕事に出かけていった。
もっとも、彼が自分を「正直な商売人」と称しているわりに、それを「商売」と呼ぶのは難しかった。彼の持ち物といえば、背もたれの壊れた椅子を切って作った木製の腰掛けひとつ。その腰掛けを、毎朝息子の若きジェリーが父の隣で運び、テンプル・バーに最も近い銀行の窓の下まで持って行く。通りすがりの馬車からかき集めた藁を最初に手に入れて、冷たい地面から足を守るのだ。それが一日の陣地となる。この持ち場で、クランチャー氏はフリート街やテンプル界隈では、バーそのもの並みに有名な顔――そして、ほとんど同じくらい店の中を覗き込んでいた。
九時十五分前には、老舗テルソン銀行に出入りする最年長の紳士たちに三角帽子をちょいと触れて挨拶し、クランチャー氏は陣取った。若きジェリーは、父の傍らに立つか、バーを突っ切っては通りすがりの小柄な少年たちに手痛い攻撃を仕掛けるのに忙しかった。父子は驚くほどよく似ており、並んでフリート街の朝の喧騒を、ちょうど二つの目が寄り添うように無言で眺めているさまは、まるで一対のサルのようだった。しかも年長のジェリーが藁を噛んでは吐き出し、若いジェリーのきらきらした目が父親だけでなく、通りのあらゆるものを休みなく見張っていることも、猿に似ている印象を強めていた。
テ ルソン銀行の使いの一人が顔を出し、声をかけた。
「ポーター、頼む!」
「やったな、父ちゃん! 朝から仕事が舞い込んできた!」
そうして父にエールを送りつつ、若きジェリーは腰掛けに座り、父親が噛んでいた藁に後継者として手を伸ばし、考え込んだ。
「いつもサビだらけだな、父ちゃんの指はいつもサビだらけ。どこであんなに鉄サビを手に入れるんだ? ここじゃサビなんかつかないのに!」
第二章 見物
「オールド・ベイリーはご存知でしょう?」と、最古参の書記が使いのジェリーに声をかけた。
「ええ、知ってますとも」とジェリーは、ややぶっきらぼうに答えた。「ベイリーは知ってますよ。」
「そうでしょう。そしてローリー氏もご存知ですね。」
「ローリー氏の方が、ベイリーよりよく知ってますよ。正直言って、あんまりベイリーは知りたくないくらいです、正直な商売人としては。」
「では、証人が入る入口を探し、その守衛にこのメモを渡しなさい。すると中に入れてくれるでしょう。」
「法廷の中ですか?」
「そうだ。」
クランチャー氏は、目と目を寄せ合って「どう思う?」とでも言いたげな表情をした。
「中で待っていればいいんですか?」と彼は尋ねた。
「今から説明します。守衛がメモをローリー氏に渡しますから、何か合図してローリー氏に自分の居場所を知らせなさい。それから、彼が必要とするまで、そこにいればいい。」
「それだけですか?」
「それだけです。ローリー氏は、使いを近くに置いておきたいんですよ。これは、あなたがそこにいることを知らせるためです。」
老書記がゆっくりと手紙を折り、宛名を書いている間、クランチャー氏は黙って見ていたが、インクを吸い取る段階でついに言った。
「今朝は贋金犯の裁判でしょうか?」
「大逆罪だよ。」
「四つ裂きってやつですね。野蛮なもんだ。」
「それが法律だ」と老書記は驚いた顔で眼鏡越しに見た。「それが法律だよ。」
「人を殺すだけでも大変なのに、バラバラに裂くなんてひどいもんですよ。」
「そんなことはない。法律を悪く言うもんじゃない。自分の身体と声を大切にして、法律のことは法律に任せなさい。それが忠告だ。」
「自分の仕事が湿っぽいものでしてね」とジェリー。「どれだけ湿気が体に悪いか、わかりますよね。」
「まあまあ、みんな色んな方法で生計を立てている。湿ったやり方もあれば、乾いたやり方もある。この手紙を持って行きなさい。」
ジェリーは手紙を受け取り、心の中では「この爺さんもやせっぽちだな」と思いながらも、外面は丁寧に頭を下げ、息子に行き先を告げて立ち去った。
当時はタイバーンで絞首刑が行われていたので、ニューゲート前の通りは今ほど悪名高くはなかった。だが、牢獄はあらゆる放蕩や悪事の温床で、恐ろしい病も蔓延し、時には裁判官さえも病に倒れることがあった。黒い帽子をかぶった判事が、囚人だけでなく自分自身の死刑宣告をし、囚人より先に亡くなることさえあったのである。また、オールド・ベイリーは、死出の旅への出発点としても有名だった。青白い受刑者が馬車や馬車で、暴力的にあの世へ送られる――往復四キロ近い道を、良識ある市民をほとんど恥じさせることもなく。慣習というものがいかに力強く、最初は善き習慣であることがいかに重要かが分かる。また、さらし台や鞭打ち柱、血の報奨金[訳注:犯罪者逮捕の報償金]の取引でも有名だった。いずれも人道的とはほど遠い、祖先の“知恵”の名残である。要するに、当時のオールド・ベイリーは「今あるものはすべて正しい」という怠惰な格言の好例であり、もしすべてが常に正しかったなら、この世に悪はなかっただろう。
悪臭漂う雑踏を、静かに抜けて目的の扉を見つけ、ジェリーは小窓から手紙を差し出した。当時、オールド・ベイリーの裁判は金を払って見物するものであり、ベドラム[訳注:狂人院]の見世物よりはるかに高価だった。ゆえに入口は厳重に警備されていた――犯罪者が入る“社会的な扉”以外は、常に開け放たれていたが。
しばらく待たされた挙句、扉はしぶしぶわずかに開き、ジェリー・クランチャー氏はようやく中へ滑り込んだ。
「何の裁判だ?」と彼は隣の男に小声で尋ねた。
「まだ始まってない。」
「何の事件が始まるんだ?」
「大逆罪さ。」
「ああ、四つ裂きのやつだろ?」
「そうだ」と男は嬉しそうに答えた。「荷車で引き出されて、半分絞首刑。そのあと生きたまま下ろされて、目の前で体を切り裂かれ、内臓は焼かれ、首をはねられ、四つ裂きにされる。これが判決だ。」
「有罪なら、ってことだな?」とジェリーは念のために聞いた。
「もちろん有罪になるさ、心配いらねえ。」
ここでクランチャー氏の注意は、守衛がメモを持ってローリー氏のもとへ向かうのを見て、そちらに向けられた。ローリー氏は、カツラをかぶった紳士たちの中の一つのテーブルに坐っていた。そのすぐ近くには被告の弁護士が山のような書類を前に構え、向かい側にはポケットに手を突っ込んだまま天井ばかり見ているカツラの男がいた。ジェリーが手を振ると、ローリー氏は立ち上がって気づき、静かにうなずいて座った。
「あいつは何の関係があるんだ?」と隣の男が聞いた。
「さあな」とジェリー。
「じゃあ、お前はなんでここにいるんだ?」
「それも分からんね」とジェリー。
その時、判事が入場し、場内は大騒ぎから一転して静まり返った。やがて被告人席が注目の的となる。二人の看守が退出し、被告人が連れてこられた。
その場にいた者全員――天井を見ている男を除いて――が、被告に視線を注いだ。場内の人々の吐息が、波や風、あるいは火のように彼に押し寄せた。柱や隅から身を乗り出し、髪の一本も見逃すまいとする者、前の人の肩に手をかけてでも見ようとする者――みな必死で被告を少しでもよく見ようとする。その光景の一部と化して、クランチャー氏も立ち、通りがかった時に引っかけた酒の息を被告に吹きかけ、他の観客たちのビールやジン、紅茶、コーヒーなどと混ざった空気が、裁判所の大きな窓を曇らせていた。
この熱い視線と騒ぎの的は、二十五歳ほどの、健康的で見栄えのする若い男だった。日に焼けた頬と黒い瞳、身なりは地味な黒、もしくは濃いグレーで、長い黒髪は首の後ろでリボンでまとめられていた。装飾のためではなく、邪魔にならぬようにだ。どんな服を着ていても心の動揺は現れるものだが、彼の頬の褐色の下から、状況による青ざめた色が透けていた。それでも、落ち着いた様子で裁判官に一礼し、静かに立っていた。
この男への好奇心や関心は、人間性を高める類のものではなかった。もし刑罰がもう少し穏やかだったなら、彼への興味も薄れていただろう。これから無惨に引き裂かれる“肉体”こそが見世物であり、魂が切り裂かれ、八つ裂きにされる“感覚”こそが観客の目当てだった。どんなに各々が自分の興味に体裁をつけようとも、本質は人食い鬼的なものだった。
「静粛に!」――チャールズ・ダーネイは、昨日「無罪」を主張した。起訴状は延々と彼を国王陛下に対する反逆者と断罪していた。曰く、フランスのルイ王に、さまざまな手段で、カナダや北アメリカに送る軍勢の動きを知らせた、と。ジェリーは、法廷用語で頭がとげとげになりつつも、どうやらこの男、すなわちチャールズ・ダーネイが被告であり、今まさに陪審員が宣誓し、司法長官が立ち上がるところだと理解した。
被告は、自分が今まさに精神的に絞首刑にされ、斬首され、四つ裂きにされているのを自覚しながらも、場に流されることなく、芝居じみた態度もとらなかった。彼は静かに、真剣なまなざしで冒頭のやり取りを見守り、前に置かれた木の台に両手を落ち着けていた。法廷は、牢屋の空気や熱病に備え、ハーブが敷かれ、酢が撒かれてあった。
被告の頭上には鏡があり、光を反射して照らしていた。その鏡には、これまで幾多の罪人や不幸な者たちが映り込んだが、海がいつか死者を返すように、もし鏡がそれらを返したなら、なんとおぞましい場所になったことだろう。鏡の下で、何か自身の不名誉や恥辱について思いを巡らせたのかもしれない。ともあれ、位置を変えて顔に光が差したことに気づいた彼は、鏡を見上げ、顔が赤らみ、右手でハーブを払いのけた。
その動作で顔が法廷の左手側に向き、ちょうど視線の高さに、二人の人物が目に留まった。その表情の変化はあまりに大きかったため、注目していた全員の視線が、彼らに向けられた。
観客の目に映ったのは、二十歳を少し過ぎたばかりの若い女性と、明らかにその父親である紳士だった。彼の髪は雪のように白く、顔にはなんとも言えない強い印象があった。活動的というよりは、沈思黙考する人だった。その表情が現れると老人に見えたが、娘に話しかけて微笑んだ瞬間には、年齢を感じさせない立派な男になった。
娘は父の腕に手を回して寄り添い、もう片方の手でそれを包んでいた。恐ろしい法廷の場に脅え、被告への同情で父に身を寄せていた。彼女の額には、被告の危機以外見えていない恐怖と慈しみが強く表れていた。そのあまりの自然さと強さに、普段は無関心な傍聴人すら心を動かされ、「あの二人は誰だ?」というささやきが広まった。
ジェリーは自分なりの観察をしつつ、鉄サビまみれの指をしゃぶりながら、耳をそばだてた。やがてその問いはついにジェリーまで届いた。
「証人だよ。」
「どっちの側の?」
「被告側に不利な方。」
「被告側って?」
「つまり被告人に対して。」
判事が視線を戻し、椅子にもたれて、今まさに彼の命運を握る男をじっと見つめる。司法長官が立ちあがり、処刑台の縄をよじり、斧を研ぎ、釘を打ち始める。
第三章 失望
司法長官は陪審員に、目の前の被告は若いながらも、生命をもって償うべき反逆の所業は古くから続いていると伝えた。敵国と通じていたのは昨日今日のことではなく、去年でも一昨年でもない。被告はもっと前から、フランスとイギリスを秘密の用で行き来しており、正直に説明できるような仕事ではなかった――もし反逆が栄えるものなら、彼の所業は永遠に露見しなかったかもしれないが、天の摂理で勇気と非の打ちどころなき人物が、被告の陰謀を暴いて国王陛下の枢密院に告発した。この愛国者が今ここに証人として立つ。その人格と振る舞いは崇高である。彼は被告人の友人だったが、その悪事を知ったとき、もはや庇いきれず、国家の神聖な祭壇に裏切り者を捧げる決意をした。もし古代ギリシャやローマのように、英国でも功績ある市民に像が建てられるなら、この証人にも建てられただろう。だが、そうでないので建つことはない。このような高潔な証人の愛国心は、詩人も言うように伝染するものであり、彼の範を見て被告の召使いも主の机やポケットを調べ、証拠を隠したという。この召使いについては批判もあろうが、自分の兄弟姉妹よりも、父母よりも高く評価すると司法長官は力説した。この二人の証言と発見された証拠書類で、被告が陸海の英軍情報を敵国に伝えていたことは明白である。筆跡は被告本人と証明できないが、それはかえって用心深さを示す証拠となる。この証拠は五年前にさかのぼる。よって忠実で責任ある陪審員として、好むと好まざるとにかかわらず有罪評決を下し、被告の首を差し出すべきだ。さもなければ、自分も家族も二度と枕を安んじて眠ることはできないだろう――と司法長官は、言葉の限りを尽くして締めくくった。
司法長官が終わると、法廷には大きな羽音が沸き立った。やがて沈静化すると、「非の打ちどころなき愛国者」が証言台に立った。
続いて訟務長官が証人尋問を行う。名はジョン・バーサッド。魂の純潔さは、司法長官の述べた通り、いや、通り越して完璧だった。証言を終えると引っ込もうとしたが、書類の山に囲まれたカツラの紳士が、いくつか質問させて欲しいと声をかける。向かいのカツラ紳士は依然として天井を見ている。
「あなたはかつてスパイだったことがありますか?」――「ない、そんな侮辱は受けない」 「生計は?」――「自分の財産で」 「財産はどこに?」――「正確な場所は覚えていない」 「何の財産?」――「他人が知ることではない」 「相続した?」――「した」 「誰から?」――「遠い親戚」 「どの程度?」――「かなり遠い」 「投獄歴は?」――「ない」 「借金取りの牢屋は?」――「関係ないだろう」 「本当にない?」――「ある」 「何回?」――「二、三回」 「五、六回では?」――「かもしれない」 「職業は?」――「紳士」 「蹴とばされたことは?」――「あるかも」 「よく?」――「いや」 「階段から蹴落とされた?」――「違う。階段の上で蹴られて、自分で落ちた」 「その時はイカサマのせい?」――「酔っぱらいの嘘だ、違う」 「誓うか?」――「誓う」 「イカサマで食ったことは?」――「ない」 「賭博で食った?」――「他の紳士と同じ程度」 「被告人から金を借りた?」――「ある」 「返した?」――「ない」 「親しい間柄だったか?」――「無理に付き合わされた」 「間違いなくリストを見た?」――「確信している」 「それ以上は知らない?」――「知らない」 「自分で仕入れたわけでは?」――「違う」 「報酬を期待してる?」――「していない」 「政府の雇いスパイか?」――「とんでもない」 「純粋な愛国心だけ?」――「もちろん」
次にロジャー・クライが証言した。四年前、善意で被告の召使いになり、その後被告に不審を抱き監視を始めた。旅の荷物整理中、何度も同じようなリストを被告のポケットで見た。そのリストも机の引き出しから取り出した。自分が入れたのではない。実際に被告がカレーやブローニュで仏人に同じリストを見せているのを見た。銀のティーポット窃盗の疑いはかけられたことがない。マスタード入れの件は濡れ衣だった。前の証人は七、八年来の知り合いだが、それは偶然。愛国心だけが動機である。
また羽音が響き、今度はローリー氏が呼ばれる。
「ジャーヴィス・ローリー氏、あなたはテルソン銀行の書記ですか?」 「そうです」 「一七七五年十一月のある金曜の夜、業務でロンドンからドーヴァーへ郵便馬車で向かいましたか?」 「行きました」 「他に乗客は?」 「二人いました」 「その夜途中で降りましたか?」 「降りました」 「ローリー氏、被告を見てください。乗客の一人でしたか?」 「確かなことは言えません」 「似ていましたか?」 「皆厚着で、夜は暗く、お互い無口だったので、確かとも言えません」 「もう一度被告を見てください。体格や背格好で、その一人である可能性は?」 「否定はできません」 「断言はできない?」 「できません」 「可能性はあると?」 「ええ。ただ二人とも――私も含めて――強盗を恐れていたのは覚えていますが、被告はそうは見えません」 「臆病を装う人間を見たことは?」 「あります」 「もう一度被告を見て。確かに以前見たことがありますか?」 「あります」 「いつ?」 「数日後にフランスから帰るとき、カレーで被告が同じ船に乗ってきました」 「何時ごろ?」 「夜中過ぎです」 「その夜に他の乗客は?」 「たまたまいませんでした」 「たまたま、というのはやめて。夜中に一人きりだった?」 「そうです」 「一人旅でしたか?」 「二人連れでした。紳士と女性です。ここにいます」 「ここにいる。被告と会話は?」 「ほとんどありません。嵐で船酔いし、ほぼ横になっていました」
「マネット嬢!」
先ほどから注目を集めていた若い女性が立ち上がった。父親も一緒に立ち、娘の手を取っていた。
「マネット嬢、被告をご覧なさい」
被告にとって、群集の視線より、彼女の若さと美しさ、深い哀れみと向き合う方がはるかにつらかった。まるで彼女とともに自分の墓の縁に立つかのようで、息遣いを抑えようとする彼の唇は色を失い、右手は前のハーブを花壇のように分けていった。羽音がまた高まった。
「マネット嬢、被告に会ったことがありますか?」
「はい」
「どこで?」
「先ほど話に出た船で、同じときです」
「あなたがその女性?」
「はい、不幸にも私です」
彼女の哀れみの声は判事の鋭い声に遮られた。「質問にだけ答えなさい、余計な感想はいらない」
「マネット嬢、その航海で被告と話をしましたか?」
「はい」
「思い出してください」
場内が静まり返る中、彼女はかすかに語り始めた。「あの紳士が――」
「被告のことか?」と判事が眉をひそめて尋ねる。
「はい、閣下」
「ならば、『被告』と言いなさい」
「被告が乗船した時、父がとても疲れていて、健康状態も悪かったのです。私は父を風に当てないよう、キャビンの階段近くの甲板に寝床を作り、そばに座って介抱していました。その夜、乗客は私たち四人だけでした。被告は、私にどうすれば父をもっと風から守れるか、助言してくれました。私は港を出たあとの風向きを知らず、うまくできませんでした。彼はとても親切にやってくれました。父を思いやる気持ちも本物だったと思います。それがきっかけで話を始めました」
「ちょっと中断します。彼は一人で乗りましたか?」
「いいえ」
「一緒にいたのは何人ですか?」
「フランス紳士が二人いました。」
「彼らは相談していましたか?」
「最後の瞬間まで相談していました。フランス紳士たちが自分たちのボートに乗り込む必要があった時までです。」
「その間、こうしたリストのような書類がやりとりされたりしましたか?」
「何か書類が回されてはいましたが、それが何の書類かはわかりません。」
「形や大きさはこれと似ていましたか?」
「おそらくそうかもしれませんが、本当のところはわかりません。すぐ近くでひそひそ話をしていたのに、です。彼らはキャビンの階段の上に立って、そこに吊るされたランプの灯りで書類を見ていました。ランプは薄暗く、声もとても小さかったので、何を話していたのかは聞き取れず、ただ書類を見ているのがわかっただけです。」
「では、被告人の会話に移りましょう、マネット嬢。」
「被告人は、私が無力な状況にあったことから、私に非常に率直に心を開いてくれました。それは父に対して親切で善良で、とても役に立ってくれたのと同じようにです。私は、」と声を詰まらせて、「今日、彼に害を及ぼすことにならないことを願っています。」
青蝿のざわめき。
「マネット嬢、もし被告人が、あなたが義務として、避けようもなく、極めて不本意ながら証言していることをまったく理解していないとしたら、この場でそうなのは被告人ただ一人です。続けてください。」
「彼は、厄介で繊細な用事で旅をしており、それが人を困った立場に追い込むかもしれないので偽名を使っているのだと言いました。その用事はここ数日のうちに彼をフランスに行かせ、これからも長い間、時折フランスとイギリスを行き来させることになるかもしれない、と。」
「アメリカについては何か言っていましたか、マネット嬢? 細かくお願いします。」
「その争いがどうして起きたのかを説明しようとしてくれて、彼の判断ではイギリス側の誤りで愚かなものだと言っていました。それから冗談めかして、ジョージ・ワシントンもジョージ三世と同じくらい歴史に名を残すかもしれませんね、と言いました。でも、彼の言い方には悪意はなく、笑いながら、時間をつぶすために言っただけでした。」
主要な登場人物が注目を集める場面で強い表情を見せれば、観客も知らず知らずそれを真似るものだ。彼女が証言している間、額には痛々しいほどの不安と集中の色が浮かび、判事が記録を取るために彼女が止まるたび、その証言が弁護側と検察側にどう影響するかを気にして見守っていた。傍聴席の表情も法廷の隅々まで同じようなものだった。判事がワシントンについての大胆な異端発言を書き留めた後、顔を上げて睨みつけた時には、法廷の大多数の額がまるで証人の映し鏡のようだった。
ここで司法長官が判事に合図し、念のため形式的にも防備のためにも、あの若い女性の父、マネット博士を証人に呼ぶ必要があると申し出た。呼び出しに応じて博士が証言台に立った。
「マネット博士、被告人をご覧なさい。以前にこの人物に会ったことは?」
「一度だけ。ロンドンの私の下宿に彼が来た時です。三年前か、三年半ほど前でしょう。」
「あなたは、この人物が船で同乗していたこと、あるいは娘さんとの会話について証言できますか?」
「申し訳ありませんが、どちらもできません。」
「いずれもできない特別な理由がありますか?」
彼は低い声で「あります」と答えた。
「あなたは自国で、裁判も告発もなく、長期の投獄という不幸な経験をされましたか、マネット博士?」
彼はすべての心に訴えかける声で答えた。「長い投獄でした。」
「その時、あなたはちょうど釈放されたばかりだったのですか?」
「そうだと聞いています。」
「その時の記憶はまったくありませんか?」
「ありません。私の記憶は空白です。いつからかすら言えませんが、監禁中に靴作りに没頭していた時期から、こちらの娘と一緒にロンドンで暮らすようになった時まで、すべて抜け落ちています。この子が私にとって親しい存在になったのは確かですが、神が再び私に理性を戻してくださった時には、すでに親しさを感じていましたが、その過程すら覚えていません。」
司法長官は席に戻り、父と娘も席に着いた。
ここで事件に奇妙な展開が起きた。被告人が五年前の十一月某金曜の夜、覆面でドーヴァー行き郵便馬車に同乗し、途中の停車場で降りてすぐ退去し、その後十数マイルもどって軍港町へ行き、そこで情報を集めていたことを立証しようとしていた。そこで、まさにその時間に、その軍港町のホテルのコーヒールームで誰かを待っていた人物として、被告人を特定する証人が呼ばれた。被告側弁護人が証人に対し反対尋問をしても、それ以外の場面では被告人を見たことがないという事実以外、何の進展もなかった。その時、法廷の天井をずっと見上げていたカツラの紳士が、紙切れに二言三言書き、丸めて弁護人のもとへ投げた。次の休憩時にそれを開いた弁護人は、被告人を注意深く観察した。
「もう一度言いますが、本当に被告人だと確信していますか?」
証人は本当にそうだと言った。
「被告人によく似た人を見たことは?」
そこまで似ている人はいなかった(証人はそう答えた)。間違えるほどではないと。
「では、こちらの紳士――」と紙を投げた人物を指して――「彼をよく見て、それから被告人もよく見てください。どうですか? 二人はよく似ていますか?」
その紳士の身なりがだらしなく、崩れていたことを差し引いても、二人は十分に似ており、証人だけでなく、法廷の誰もが驚くほどだった。判事が彼のカツラを外すよう命じ(あまり乗り気ではなかったが承知し)、カツラを取ると、ますますよく似ていた。判事はストライバー氏(被告側弁護人)に「では次はカートン氏(その“学識ある友人”の名)を反逆罪で裁くのか」と尋ねたが、ストライバー氏は、それは違うが証人に問いただすと言い、もし先にこの比較がなされていたら自信を持てたか、今なお自信があるか、などと巧みに畳みかけた。その結果、証人の証言はガラクタ同然に粉砕されてしまった。
この時までにクランチャー氏は証言を追う中でかなり爪の錆を食べていた。次は、ストライバー氏が被告人の弁明を陪審に服のようにぴったり仕立てて見せる番だった。愛国者バーサッドは雇われのスパイで裏切り者、血を売る恥知らずで最悪の悪党――まるで呪われたユダを彷彿とさせるような顔つきだと。義なる従者クライはその友人であり相棒で、実にふさわしい。偽証と偽造の一味が、フランス系の被告人が家族の事情でやむなく英仏間を往復していただけなのに、標的に定めたこと。若い女性が苦しみながら証言した内容も、ただの無邪気な親切や礼儀であり、ジョージ・ワシントンに言及したくだりなど、到底まじめに受け取れるものではなく、ばかげた冗談に過ぎない。政府が国民の敵意や恐怖心を煽るのは愚かで、そのために司法長官は証拠を最大限利用しようとした。しかし、結局はこの種の事件によくある下劣で信用ならぬ証拠しかなく、しかも過去の国事裁判にいくらでも例がある、と。だがここで判事は、まるで嘘でないかのような厳しい顔で、そうした言及は許せないと口を挟んだ。
ストライバー氏は数人の証人を呼び、次は司法長官がストライバー氏の説いた「服」を裏返しにし、バーサッドとクライが百倍も善人で被告人が百倍も悪人であるかのようなことを示した。最後に判事自身が、その服を裏返したり表に戻したりしながらも、結局は被告人にとっての「死装束」に仕立て上げた。
そして陪審が評議に入り、青蝿がまたうごめき始めた。
カートン氏はこの騒ぎの中でも、法廷の天井を見上げて座ったまま、微動だにしなかった。ストライバー氏は書類を積み上げて隣席の人とささやき合い、ときおり不安げに陪審を見やった。観客たちはそれぞれ動き回り、席替えをしていた。判事ですら席を立ち、自身が熱っぽいのではと観衆に思わせながら、ゆっくりと壇上を歩いた。しかしこの男だけは、背もたれに寄りかかり、破れたガウンを半分脱ぎかけ、乱れたカツラを適当にかぶり、手はポケット、目は一日中天井のまま。どこか投げやりな態度は、ただ不品行な印象を与えるだけでなく、先ほど被告人との比較時に強調された「瓜二つ」の印象を大きく損ねていた。今改めて見た多くの傍聴人は、これほど似ているとは思わなかっただろうと口々に言い合った。クランチャー氏も隣にそのことを話し、「あの人は法廷仕事なんて全然回ってこなそうだな。そんな稼げる風には見えねえよな」と付け加えた。
だが、このカートン氏は、見かけによらず周囲の細部をよく見ていた。今やマネット嬢の頭が父の胸に崩れ落ちるのを、真っ先に見つけて声を上げた。「係官! あの若い女性に気を付けて。お父さんを手伝って外へ出してやれ。倒れそうなのが見えないのか!」
彼女が退廷する際には多くの同情が寄せられ、父親への共感の声もあった。長い投獄の日々を回想させられ、大いに動揺した様子だった。尋問中から続く重苦しい沈思の表情が、年齢以上に彼を老けさせていた。そのまま彼が退廷する際、陪審が一度席に戻り、しばし足を止め、代表して発言した。
「合意に至っておらず、協議のため退席したい」と。
判事は(ジョージ・ワシントンのことが頭に浮かんでいたのか)驚きを見せつつも、許可を与え、自身も退廷した。裁判は一日中続き、法廷のランプが灯されていた。陪審が長引きそうだとの噂が流れ始め、観客は飲食に出かけ、被告人も奥の控え席に下がって腰を下ろした。
ローリー氏は、若い女性と父が退廷した時に一緒に外へ出ていたが、今また現れ、ジェリーを合図で呼び寄せた。関心が薄れた今なら近づくのもたやすい。
「ジェリー、何か食べたければ行ってきていいよ。ただし、近くにいなさい。陪審が戻ってくるときは必ず聞こえるはずだ。絶対に遅れるなよ。評決を銀行まで伝えてほしいんだ。君が一番足が速いから、テンプル・バーまで私より先に着けるだろう。」
ジェリーは額にちょうど拳が当たるくらいの広さしかなかったが、その額に拳を当てて返事をし、シリング銀貨も受け取った。その時ちょうどカートン氏が現れてローリー氏の腕に触れた。
「お嬢さんの様子は?」
「ひどく動揺していますが、お父上が慰めておられ、法廷を出たことで落ち着いてきました。」
「それを被告人に伝えますよ。 立派な銀行紳士のあなたが公然と話しかけるわけにもいきませんしね。」
ローリー氏は、その問題を一度頭の中で考えたことを指摘されたように顔を赤らめ、カートン氏はバーの外へ出ていった。出口はそちら側だったので、ジェリーも後に続いた。
「ダーネイさん!」
被告人がすぐに出てきた。
「証人のマネット嬢のことが気掛かりでしょう。彼女は大丈夫です。あれが一番ひどい動揺でしたから。」
「私が原因となったことを本当に申し訳なく思っています。どうか、彼女にそのことを伝えていただけませんか。」
「はい、伝えましょう。ご要望なら。」
カートン氏は、ぞんざいでほとんど無礼とも言える態度で、半身を被告人から逸らして肘をバーに預けていた。
「お願いします。心から感謝いたします。」
「さて、」カートンは依然半身を向けたまま、「何を期待してるんです、ダーネイさん?」
「最悪を。」
「それが一番賢明で、しかも可能性が高い。だが、彼らが退席したのは君に有利だと思う。」
裁判所内での立ち話は許されなかったので、ジェリーはそれ以上は聞けず、二人が――顔立ちはよく似ていても、態度はまるで違う――並んで鏡に映る姿を残してその場を離れた。
一時間半が、下の人込みと悪党だらけの廊下で、羊肉パイとエールに助けられながらも、重く過ぎていった。しゃがれ声の使いの者は、やっと居心地の悪いベンチでうたた寝していたが、突然の騒ぎと人の波に押されて階段を上がった。
「ジェリー! ジェリー!」ローリー氏がもう呼んでいた。
「ここです、旦那! 戻るのがひと苦労でした。着きました!」
ローリー氏は人混みの中から紙を手渡した。「急いで! 受け取ったか?」
「はい、旦那。」
紙には「無罪」とだけ急いで書かれていた。
「また『生き返った』って伝言だったら、今度は意味が分かっただろうに」とジェリーはつぶやいた。
彼はオールド・ベイリー[中央刑事裁判所]を抜けるまで、それ以上何も考える間もなかった。押し寄せる人波に足を取られそうになり、青蝿の集団が敗北して他の餌場を求めるかのように、ざわめきが通りへと溢れ出した。
第四章 祝辞
法廷の薄暗い通路に、終日煮えたぎっていた人間の鍋の最後の澱が流れ去ろうとしていた。そんな中、マネット博士とその娘ルーシー、ローリー氏、弁護側の法務代理人、そしてストライバー氏が、釈放されたばかりのチャールズ・ダーネイを囲み、死の淵からの生還を祝っていた。
もっと明るい場所で見ても、知的な顔立ちと凛とした姿勢のマネット博士に、パリの屋根裏の靴職人を見出すのは難しかった。しかし、もう一度見ずにはいられない何かがあった。その低く重々しい声の悲しげな調子や、時折理由もなく彼を覆う沈鬱な様子を観察する機会がなくとも、その印象は強烈だった。外的な要因――すなわち長きにわたる苦しみの記憶――に触れれば、すぐさまその陰が彼の心の奥底から呼び起こされる。そしてそれは、本人の物語を知らぬ者には理解できない、まるでバスティーユの本体が三百マイルも離れているのに、その影だけが夏の日差しに投げかけられているかのような、不可解なものだった。
その陰鬱な気分を払拭できるのは、ただ娘だけだった。彼女こそが、過去と現在を父の苦悩からつなぎ合わせる「黄金の糸」であり、彼女の声や顔の輝き、手のぬくもりは、ほとんど常に父に善き影響を与えた。絶対とは言えず、時にその力が及ばなかったこともあったが、それはごく僅かで、彼女はすでに過ぎ去ったものと信じていた。
ダーネイ氏は、感激と感謝を込めて彼女の手に口づけをし、ストライバー氏に心から礼を述べた。ストライバー氏は三十歳そこそこながら、見かけは二十歳以上も老けて見え、がっしりと大柄で、声も大きく、血色も良く、厚かましいほどずうずうしく、繊細さとは無縁だった。彼は(精神的にも肉体的にも)どんな集まりや会話にも肩で押し入っていく癖があり、それが出世の原動力にもなっていた。
まだカツラとガウン姿のまま、彼は依頼人のダーネイ氏にぐいと向き直り、ローリー氏を無理やり輪の外に押し出しながら言った。「名誉ある形で切り抜けてよかったね、ダーネイさん。あれは実に卑劣な訴追で、極めて卑劣だったが、だからこそ成功しそうで危なかった。」
「二重の意味で一生の恩義を受けました」とダーネイ氏は手を握った。
「私は最善を尽くしただけです、ダーネイさん。他の誰にも負けないつもりですよ。」
ここで誰かが「いや、あなたが一番です」と言うのが礼儀で、ローリー氏が言った。利害がないとはいえないが、自分も輪に戻りたかったのだ。
「そう思いますか?」とストライバー氏。「君は一日中立ち会ってたから、よく知ってるはずだ。しかも商売人なんだから。」
「それゆえに」と、再び輪の中へ肩を滑り込ませながらローリー氏が言った――「私はマネット博士に、この会合をお開きにして、皆家に帰るようご指示いただきたい。ルーシー嬢の顔色も悪いし、ダーネイ氏も大変な一日だった。みんな疲れ切っています。」
「自分の分だけを代表してくれよ、ローリー氏」とストライバー。「私は今夜もまだ仕事がある。自分の分を代表してくれ。」
「自分だけでなく、ダーネイ氏やルーシー嬢の分も――ルーシー嬢、皆の気持ちも代弁していいですか?」と彼女と、そして父親に視線を送った。
その時、博士の顔はまるで凍りついたように、ダーネイを鋭く、険悪さと不信、そして恐れすら混じった視線で見つめていた。その不思議な表情のまま、彼の心はどこか遠くへさまよっていた。
「お父さま」とルーシーがそっと手を置いた。
彼はゆっくりと影を振り払い、彼女の方を向いた。
「家に帰りましょうか、お父さま?」
長い息をついて、「そうしよう」と答えた。
無罪となった被告の友人たちは、彼自身がそう仕向けた通り、今夜は釈放されないだろうという考えで帰っていた。廊下の灯りもほとんど消え、鉄の門がガチャリと閉じられ、翌朝また絞首台やさらし台、鞭打ち柱、焼き印の話題で人が集うまでは、寂れたままだった。ルーシー・マネットは父とダーネイ氏に挟まれて外へ出た。辻馬車が呼ばれ、父と娘はそれに乗り込んだ。
ストライバー氏は、衣裳部屋へ肩で押し入るため廊下で別れた。グループに加わらず、誰とも言葉を交わさず、ただ最も影の濃い壁にもたれかかっていたもう一人の人物が、他の一行の後に静かに外へ出て、馬車が去るまで見送っていた。そして今、ローリー氏とダーネイ氏が舗道に立っているところへ近づいた。
「さて、ローリーさん! 今なら商売人もダーネイさんに話しかけてもよろしいですか?」
この日の出来事でカートン氏が果たした役割を誰も意識していなかった。彼はすでに法服を脱いでいたが、見栄えは全く変わっていなかった。
「商売人の心の中で、親切心と体面との間でどれほど葛藤があるか、ご存知なら面白がるでしょう、ダーネイさん。」
ローリー氏は赤くなり、「それは前にもおっしゃいました。我々商売人は、家に仕えて自分の意志だけで動けません。家のことをまず考えなければならないのです」と熱く言った。
「ええ、わかってますとも」とカートンはぞんざいに返した。「気を悪くしないでください、ローリーさん。他の人と同じくらい立派ですよ。いや、きっとそれ以上でしょう。」
「それにしても」とローリー氏は気にせず続けた、「貴方が関わる理由が分かりません。年長者として申し上げますが、貴方の領分ではないのでは?」
「商売! ご安心を、私は何の商売もありませんよ」とカートン。
「ないのは残念ですね。」
「私もそう思います。」
「もしあれば、きっと専念なさるでしょうに。」
「とんでもない! 絶対やりませんよ」とカートン。
「さて!」とローリー氏はすっかり腹を立て、「商売は良いものですよ。そして、制約や沈黙や障害があるとしても、ダーネイさんのような寛大な若者なら大目に見てくれるはずです。ダーネイさん、今夜が幸せな人生の始まりであることを祈ります――駕籠を!」
もしかすると自分自身にもカートン氏にも腹を立てて、ローリー氏は急いで駕籠に乗り込み、テルソン銀行へと運ばれていった。カートン氏はポートワインの匂いを漂わせ、酔い気味で、笑いながらダーネイ氏に向き直った。
「奇妙な巡り合わせで君と私がこうして一緒になったな。今夜は君にとっても変な夜だろう? 道端で自分の分身と並んで立つなんて。」
「まだ自分がこの世に戻ってきた実感がありません」とダーネイ。
「無理もないさ。もう少しであの世行きだったわけだ。弱々しく聞こえるぞ。」
「実際、少しふらついている気がします。」
「だったら、なぜ食事をしない? 俺は、あの馬鹿どもが君の所属世界を審議している間に、しっかり食事を済ませたぞ――この世か、あの世か、ってな。うまい食事ができる一番近い酒場を教えてやる。」
腕を組んで連れ出し、ラドゲート・ヒルからフリート・ストリートへ、さらに小路を抜けて酒場に入った。小部屋へ案内され、ダーネイ氏は立派な質素な夕食と美酒ですぐに元気を取り戻した。カートンは向かいに座り、自分専用のポートワインを前に、ぞんざいな半分居丈高な態度だった。
「もうこの世に戻ってきた気分は?」とカートン。
「時間も場所も混乱してますが、だいぶ落ち着きました。」
「それはさぞかし満足だろう!」
カートンは皮肉たっぷりに言い、また大きなグラスを満たした。
「俺なんか一番の望みは、自分がこの世に属してるなんて忘れることさ。俺には何の益もないし――こういう酒を除けば――俺にも何もない。だから俺たちはそこが全く違う。いや、おそらく他も全部違うんだろうな、君と俺は。」
事件の動揺もあり、この粗野な“分身”との会話が夢のようで、ダーネイはうまく返せず、ついに黙ってしまった。
「さて、食事も終わったが」とカートンは言った。「乾杯くらいしたらどうだ、ダーネイさん。何か祝辞を述べないのか?」
「何に乾杯を? 何の祝辞を?」
「決まってる。言いたくて仕方ないはずだ。絶対そうだ。」
「なら、マネット嬢に!」
「マネット嬢に!」
カートンは相手の顔をしっかり見つめて乾杯し、グラスを壁に投げつけて粉々にし、もう一杯注文した。
「暗闇で馬車に乗せるのにふさわしい淑女だね、ダーネイさん!」と注ぎ直しながら言った。
ダーネイはわずかに眉をひそめて、「ええ」とだけ答えた。
「同情され、涙を流されるのにふさわしい淑女だ! どんな気分だ? 命を懸けて裁かれるだけの価値はあったか、ダーネイさん?」
ダーネイはまた黙り込んだ。
「君の伝言、彼女はとても喜んでいたよ。表に出さなかったが、きっとそうだったさ。」
この一言で、ダーネイは不愉快な相手が自分を助けてくれたことを改めて意識した。その話題に切り替え、礼を述べた。
「感謝は要らんし、値打ちもないよ」とカートンは気軽に返した。「たいしたことじゃないし、なぜやったかも分からん。ダーネイさん、一つ質問してもいいかな。」
「喜んで。せめてものお返しです。」
「私が君を好きだと思うか?」
「正直なところ、カートンさん、その問いは考えたことがありません。」
「じゃあ今考えてみて。」
「君の態度はそう見えなくもないが、そうは思えない。」
「俺もそう思わない」とカートンは言った。「君はよく分かってる。」
「でも」とダーネイは呼び鈴を押しながら、「それでこちらが勘定を払えない理由にはならないでしょうし、別れ際にわだかまりを残す必要もないでしょう。」
「全くその通りだ!」とカートン。ダーネイが「全部払います」と答えると、「じゃあこのワインをもう一杯頼んでくれ、店員、それから十時に起こしてくれ。」
支払いを終え、ダーネイは立ち上がって「おやすみなさい」と告げた。カートンも立ち上がり、どこか挑戦的な態度で「最後に一言、ダーネイさん。君は俺が酔っていると思うか?」
「飲んでいるとは思います、カートンさん。」
「“思う”じゃない、“知っている”だろ。」
「なら、知っています。」
「じゃあ理由も知っておけ。私は惨めな下働きさ。誰にも関心がないし、誰も私に関心など持たない。」
「とても残念です。才能をもっと生かせたでしょうに。」
「そうかもな、ダーネイさん。そうでないかもしれないが。だが君も偉そうな顔はするなよ。これからどうなるか分かったもんじゃない。じゃあな!」
ひとり残ると、この奇妙な男は蝋燭を手に取り、壁の鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめた。
「お前はあの男が特に好きか?」と自分の映った像に毒づいた。「自分と似てるからって、好意を持つ必要があるか? 自分の中に好かれる要素なんて何もないだろ。まったく、なんて変わり果てたもんだ! あいつと入れ替わったとして、果たしてあの青い目で見つめられ、あの動揺した顔で同情されたか? はっきり言えよ! お前はあの男が憎いんだ。」
彼は慰めを求めてワインを飲み干し、数分で全部空けると、テーブルに突っ伏して眠り込んだ。その髪は乱れ、蝋燭の長い蝋涙が腕に垂れていた。
第五章 ジャッカル
酒飲みが普通だった時代、多くの男たちは大いに酒を飲んだ。今となっては、一晩で一人の紳士が飲むワインやパンチの量を控えめに語っても、滑稽な誇張にしか思われないだろう。だが、法曹界も他のどの専門職にも劣らず酒豪揃いだったし、すでに押し上げ街道を突き進むストライバー氏も、その点で同業者に決して引けを取らなかった。
オールド・ベイリーやセッションズで人気者となったストライバー氏は、着実に自分の足場を固めていた。今やセッションズもオールド・ベイリーも、特別に彼を招くほどであり、国王法廷の主席判事の前にも、その真っ赤な丸顔がカツラの花畑から向日葵のように突き出しているのを、毎日見ることができた。
かつてバー(法廷)では、ストライバー氏は弁舌巧みで抜け目なく、行動も早く大胆だったが、膨大な証言の山から本質を抜き出す能力に欠けていると評されていた。しかし、彼は驚くべき成長を遂げた。仕事が増えれば増えるほど、核心を見抜く力も増したのだ。たとえ夜遅くまでシドニー・カートンと酒盛りしても、翌朝には要点を完璧に把握していた。
シドニー・カートンは、最も怠惰で見込みのない男だったが、ストライバー氏の大きな味方だった。二人がヒラリー期からミカエル祭期までに飲む酒の量は、船一隻を浮かべられるほどだった。ストライバー氏が担当する案件には必ずカートンがいて、法廷の天井を見上げている。同じ巡回裁判コースを回り、夜遅くまで飲み続け、昼間になっても猫のようにこっそり宿へ戻る姿が噂された。ついには、関係者の間で「カートンは決してライオンにはなれないが、実に優れたジャッカルで、ストライバー氏のために忠実に働いている」と囁かれるようになった。
「十時です、旦那」と、酒場の男が起こしに来た――「十時です。」
「何だって?」
「十時です。」
「どういう意味だ? 夜の十時か?」
「はい、旦那。おっしゃってたので。」
「ああ、思い出した。わかった、わかった。」
しばし寝直そうとしたが、男が巧みに暖炉の火をかき回し続けて妨げたので、帽子を投げて出かけた。テンプルに入り、キングズ・ベンチ・ウォークとペーパー・ビルディングを二往復し、気分を立て直してからストライバー氏の部屋に向かった。
ストライバー氏の書記はすでに帰宅し、本人が出迎えた。彼はスリッパを履き、ゆるい寝間着姿で、喉も開けていた。その目の周りには、放蕩者特有の疲れと荒れた印があり、それはジェフリーズ[訳注:悪名高いイングランドの裁判官]の肖像画以来、すべての「酒飲み時代」の肖像画に共通して見られるものだった。
「遅いじゃないか、記憶力くん」とストライバー。
「いつも通り。十五分遅いかも。」
くすんだ本と書類で埋もれた部屋へ入り、暖炉は赤々と燃え、コンロではやかんが湯気を上げていた。書類の山の真ん中のテーブルには、ワイン、ブランデー、ラム、砂糖、レモンが並んでいた。
「ボトルは済ませたようだな、シドニー。」
「今夜は二本だ。依頼人の食事に付き合ったから――いや、見ていただけでも同じだけど。」
「今日の身元確認でのあの切り返しは見事だった。どうやって思いついたんだ? いつ閃いた?」
「被告はなかなかの男前だったし、もし運が良ければ自分も同じような男になってただろうな、と思ったからだ。」
ストライバー氏は腹を揺すって大笑いした。
「お前の“運”は毎度のことだな! さあ仕事にかかれ、仕事だ。」
不機嫌そうにカートンは上着を緩め、隣室から大きな水差し、洗面器、タオル数枚を持ってきた。タオルを水に浸し、軽く絞って頭に巻きつけ、見るも無残な姿になり、「準備完了!」と座った。
「今夜はあまり煮詰めることはないぞ、記憶力くん」とストライバー氏は陽気に書類を探りながら言った。
「どれだけある?」
「二組だけだ。」
「悪い方からくれ。」
「そこにあるぞ、シドニー。始めてくれ!」
ライオンは飲み机の片側のソファに横になり、ジャッカルは反対側の書類だらけの机に座った。どちらも好きなだけ酒を飲むが、そのやり方は違った。ライオンはたいてい両手を腹に組み、火を眺めたり、軽い書類をいじったり。ジャッカルは眉をひそめ、顔をこわばらせて仕事に没頭し、手探りでグラスを探して口元へ運んでいた。時に問題が難航し、ジャッカルはタオルを新しく濡らしに立つ。そのたびに頭はますます奇抜な濡れタオル姿となり、しかも本人は至って真剣なので、なお滑稽だった。
やがて、ジャッカルはライオンのために手際よく食事を用意し、それを差し出した。ライオンは慎重にそれを受け取り、そこから好みに合わせて選び、感想を述べ、ジャッカルもその両方を手伝った。食事がすっかり片付くと、ライオンはまた腰帯に手を突っ込み、横になって思いにふけった。ジャッカルは喉を潤すために一杯飲み、頭をすっきりさせるためにもう一杯飲んでから、二度目の食事の準備にかかった。これも同じようにライオンに差し出され、終わったのは午前三時を打つ時計の音が聞こえた時だった。
「さあ、これで一段落だ、シドニー。パンチをたっぷり注いでくれ」とストライバー氏が言った。
ジャッカルは頭に巻いていたタオルを外し、再び湯気を立てていた頭を軽く振り、あくびをし、身震いをしてから、その言葉に従った。
「今日のお前は、王冠側証人の件で見事だったぞ、シドニー。どの質問も的を射ていた」
「僕はいつだって見事だろう? 違うか?」
「それは否定しないよ。だが、何が機嫌を悪くさせたんだ? パンチでも飲んで、また機嫌を直せ」
ジャッカルは軽く不満そうに唸ったが、また言われたとおりにした。
「昔のシュルーズベリー校のシドニー・カートンそのものだな」とストライバー氏は、今の彼と過去の彼を見比べるように頭を振りながら言った。「昔から浮き沈みの激しいシドニーさ。今は陽気、次の瞬間には沈み込む!」
「ああ!」ともう一人がため息混じりに応じた。「そうさ。同じシドニー、同じ運命さ。あの頃から、僕は他の生徒の課題ばかりやって、自分のはほとんどやらなかった」
「なぜだ?」
「さあな。僕の性分なんだろう」
彼は両手をポケットに突っ込み、足を伸ばしたまま、暖炉の火を見つめていた。
「カートン」と友人は、まるで暖炉が持続的努力を鍛え上げる炉であり、昔のシュルーズベリー校のシドニー・カートンのためにすべき唯一の細やかなことは、彼をその中へ押し込むことだ、とでも言いたげな、威圧的な態度で姿勢を正して言った。「お前のやり方は、今も昔も情けないやり方だ。意志もエネルギーも呼び起こせない。俺を見ろ」
「やれやれ!」とシドニーは、やや明るく気さくに笑いながら答えた。「お前まで説教くさくなるなよ!」
「俺がこれまでやってきたこと、どうやって成し遂げてきたと思う? 今だってどうやってやってる?」
「一部は僕に手伝わせてきたからだろう。でも、そんなこと詩的に語っても仕方がないさ。お前はやりたいことをやる。いつだってお前は先頭にいて、僕はいつも後ろだった」
「俺は先頭に立つ必要があったんだ。もともとそこに生まれたわけじゃないからな?」
「その場にいなかったから断言はできないけど、僕の意見じゃ、お前は生まれつき先頭だったよ」とカートンが答え、それを聞いてまた二人は笑った。
「シュルーズベリーの前も、シュルーズベリーでも、それ以降も、ずっとお前は自分の居場所に収まり、僕もまた自分の居場所に収まってきた。パリの学生街で一緒にフランス語やフランス法や、あまり役に立たない知識を拾い集めていた時でさえ、お前はいつも“どこか”にいて、僕はいつも“どこにもいなかった”」
「それは誰のせいだ?」
「本気で言うが、それはお前のせいだった気がする。お前はいつもがむしゃらで、突き進み、肩で押しのけ、追い越していった。僕には立ち止まって休む以外、どうしようもなかったんだ。でも、自分の過去の話を夜明け近くになってまで語るのは、気が滅入るよ。もう別の話題にしてくれ」
「じゃあ! あの可愛い証人に乾杯しよう」とストライバー氏はグラスを掲げた。「これで気分も晴れるか?」
どうやらそうでもなかったようで、彼はまた沈んだ顔になった。
「可愛い証人?」と彼はグラスを見つめながらつぶやいた。「もう今日一日、証人にはうんざりだ。お前の“可愛い証人”って誰のことだ?」
「あの絵になる医者の娘、ルーシー・マネット嬢さ」
「彼女が可愛い?」
「可愛くないか?」
「違うな」
「いや、法廷中があの子に見とれてたんだぞ!」
「法廷中が見とれただと? オールド・ベイリー[ロンドン中央刑事裁判所の俗称]が美の審判になったつもりか? 金髪の人形じゃないか」
「なあ、シドニー」とストライバー氏は、鋭い目つきで彼を見つめ、顔を手でなぞりながら言った。「正直な話、君はその金髪の人形に同情して、何か起きたらすぐ気がついてたように俺には思えたが?」
「気がつくも何も、人形だろうがなんだろうが、少女が男の鼻先一、二ヤードのところで気絶すれば、望遠鏡なんかなくても見えるさ。お前に乾杯はするが、美しさは否定する。それに、もう飲まないで寝るよ」
ホストはろうそくを持って階段まで見送りに出た。窓の外では、灰色の夜明けが冷ややかに差し込んでいた。家を出ると、空気は冷たく沈み、空はどんより曇り、川も暗く鈍い色で、街全体は命を失った砂漠のようだった。朝の風に、塵の渦巻きがぐるぐると舞い上がり、あたかも遠くの砂漠の砂がやってきて、その先触れが街を飲み込み始めたかのようだった。
内には疲弊した力、外には砂漠。男は静かなテラスを渡る途中でふと立ち止まり、目の前の荒野に、名誉ある野心や自己犠牲、忍耐の蜃気楼を見る。幻の都には、愛や優美が見下ろす空中回廊があり、人生の果実が熟す庭園があり、希望の水が彼の目にきらめいた。しかし、それも一瞬で消えた。四方を高い建物に囲まれた上階の部屋に上がると、彼は着の身着のまま打ち捨てられたベッドに身を投げ、枕はむなしく流された涙で濡れていた。
悲しみに包まれて、太陽が昇る。だが、その光が照らすどの光景よりも悲しいのは、善良な能力も感情も、その力を正しく使えず、自分を助けることも幸せになることもできず、自らの荒廃を自覚しながら、ただそれに身を任せて蝕まれていく男の姿だった。
第六章 何百人もの人々
マネット博士の静かな住まいは、ソーホー広場からほど近い、静かな街角にあった。ある晴れた日曜日の午後、反逆罪の裁判から四か月が過ぎて世間の記憶も興味もすっかり遠ざかったその日、ローリー氏は自宅のあるクラーケンウェルから、博士のもとへ食事に向かって陽の差す通りを歩いていた。何度か仕事に没頭する癖がぶり返したものの、ローリー氏は今や博士の友人となり、この静かな街角は、彼にとって人生の晴れやかなひとときとなっていた。
この晴れた日曜日、ローリー氏が午後早めにソーホーに向かったのには、いつもの習慣で三つの理由があった。まず、天気の良い日曜日は、博士やルーシーとよく食事前に散歩をしたこと。次に、天気が悪い日曜でも家族ぐるみで過ごし、会話や読書、窓の外を眺めたりして一日をやりすごすのが常だったこと。そして最後に、どうしても解決したい自分なりの小さな疑問があり、博士の家の習慣ではその時間帯が答えを得るのに適しているとわかっていたからだった。
博士の住む街角ほど趣のある場所はロンドンでもなかった。そこは袋小路で、博士の部屋の窓からは、静かに隠れた趣のある小通りが眺められた。当時、オックスフォード通り北側にはまだ建物が少なく、森の木々が茂り、野花が咲き、サンザシが今はなき野原で花開いていた。だからソーホーには、土地に根付ききれない浮浪者のような淀んだ空気ではなく、田園の風が自由に流れていたし、近くには日当たりの良い南向きの壁に桃の実が熟すような場所も珍しくなかった。
夏の光は日中、角の家を明るく照らしたが、通りが熱を帯び始めるとその場所は木陰になった。だが、陰の中からでも外のまぶしい光が見通せた。落ち着いていながら明るく、共鳴がよく響く場所で、荒れた通りからの避難所そのものだった。
こうした港には、静かな小舟がとまっていて然るべきであり、実際にそうだった。博士は大きくて堅苦しい家の二階を借りていた。日中は表向き様々な職業の人が出入りするが、いつも静かで、夜になると誰も寄りつかなかった。裏手には中庭を挟んで棟があり、そこではプラタナスの葉がざわめく中、教会のオルガンが作られたり、銀細工や金箔打ちの巨人(玄関の壁から黄金の腕を突き出した像――さも自分を金で打ったかのように――)が作業することになっていた。だが、これらの仕事や、上階に住むという孤独な下宿人、階下の薄暗い馬車装飾職人の姿は、ほとんど見聞きされなかった。せいぜい、仕事着を着る職人が廊下を通ったり、見知らぬ人が覗き込んだり、中庭越しにかすかな作業音や、黄金の巨人が金槌で叩く音が聞こえたりする程度だった。つまり、家の裏のプラタナスの雀たちと、表の街角のこだまだけが、日曜から土曜の夜まで自分たちの好きなように過ごしていたのだ。
マネット博士は、ここで古くからの名声と、噂でよみがえったその物語の余波によって、患者を受け入れていた。科学的知識や巧みな観察力、独自の実験手腕によって、適度な依頼があり、彼は必要なだけの収入を得ていた。
こうしたことは、晴れた日曜の午後、ローリー氏が静かな角の家の呼び鈴を鳴らした時、彼の知識や思いの中にあった。
「マネット博士はご在宅ですか?」
ご帰宅予定です。
「ルーシー嬢はいらっしゃいますか?」
ご帰宅予定です。
「ミス・プロスは?」
ご在宅かもしれませんが、ミス・プロスのご意向について召使いが入室可否をお伝えすることはできません。
「じゃあ、私自身が家にいるつもりで上がるとしよう」とローリー氏は言って、階段を上がった。
博士の娘は生まれ故郷のことを知らなかったが、まるで生まれつき、少ない手段で多くの工夫を凝らす“国民的美徳”を備えているように見えた。家具はごく質素だったが、趣味やセンスで彩られた小さな飾りが、見事な効果を生み出していた。部屋にあるすべての物の配置から色の組み合わせ、細やかな工夫による優雅な変化や対比は、それ自体が心地よく、いかにも持ち主の性格を映し出していたので、ローリー氏が部屋を見回しながら立っていると、椅子やテーブルまでもが「いかがです?」と親しみを込めて問いかけてくるように思えた。
一つの階に三部屋あり、風通しを良くするために扉は開け放たれていた。ローリー氏は、あちこちに見えるその“持ち主らしさ”に思わず微笑みながら、部屋から部屋へと歩いた。一つ目は一番の部屋で、ルーシーの鳥、小鳥籠と花と本と机と作業台、水彩絵の具箱があった。二つ目は博士の診察室で、食堂も兼ねていた。三つ目は中庭のプラタナスの葉の影が揺れる博士の寝室で、隅には、かつてパリのサン・タントワーヌ郊外の陰気な家の五階にあったままの、使われなくなった靴職人の作業台と道具箱がそのまま置かれていた。
「なぜ、あんなつらい時の名残を手元に置いているのだろう?」とローリー氏が独りごちた、その時――
「なぜそんなことに驚くのです?」と、突然の声に驚いて振り向いた。
それはミス・プロス、あの気性の荒い赤毛の女性で、ローリー氏がドーバーのロイヤル・ジョージ・ホテルで初めて会い、以来より親しくなっていた人だった。
「私はてっきり――」とローリー氏が言いかけると、
「ふん、あなたが思ったって?」とミス・プロスが言い、ローリー氏は口をつぐんだ。
「ご機嫌いかが?」と彼女は続けて尋ねた――鋭いが、悪意のない調子だった。
「まずまずです、ありがとうございます」とローリー氏は控えめに答えた。「そちらはいかがですか?」
「自慢できるようなものじゃありません」とミス・プロスは言った。
「そうですか?」
「ああ、そうですとも!」とミス・プロス。「レディバードのことで、とても気をもんでいるんです」
「そうですか?」
「お願いですから、『そうですか』ばかり言ってないで、別のことを言ってください、イライラして死にそうです」とミス・プロスは言った。彼女の性格は(体格とは別に)短気そのものだった。
「本当に?」とローリー氏が言い直すと、
「『本当に』もあまりよくありませんが、まあマシです。そう、私はとても困っているのです」
「理由をお聞きしても?」
「レディバードに見合わないたちが、何人も彼女を目当てにここへ来るのが嫌なんです」とミス・プロス。
「そんなに何人も来るんですか?」
「何百人も」とミス・プロス。
この女性の特徴は(一部は時代を超えて誰にでも当てはまるが)、自分の主張に疑義が出ると必ず誇張することであった。
「まあ!」とローリー氏は、最も無難だと思える相槌を打った。
「私は可愛い子と共に暮らしてきた――いや、可愛い子が私と暮らして、私にお金まで払ってくれたのです。もし私に余裕があれば絶対にそんなことさせなかったと誓えますが――十歳の時からずっとです。それが本当に辛いのです」とミス・プロス。
何がそんなに辛いのかよく分からず、ローリー氏は大事な頭を何でも受け入れる“魔法のマント”のように振った。
「レディバードに見合わないたちが、いろいろ現れるんです」とミス・プロス。「事の発端は――」
「私が始めたと?」
「そうですよ! 誰が彼女のお父上を蘇らせたんですか?」
「ああ、それが始まりなら――」とローリー氏。
「それが終わりじゃなかったでしょう? あなたが始めた時点で十分大変だったんです。博士を責めているわけじゃありません、ただ彼はあんな娘には釣り合わないというだけで、それは彼のせいじゃないでしょう。誰もそんな娘に釣り合うはずがないんです。だけど、彼の後にまた人だかりが現れて(博士なら許せます)、レディバードの愛情が私から奪われるのは、二重にも三重にも辛いんです」
ローリー氏はミス・プロスがとても嫉妬深いことを知っていたが、それと同時に、彼女の奇行の奥にある無償の愛と献身――失った若さや、手に入れられなかった美しさや才能、叶わなかった明るい希望に対して自ら喜んで従属する女性特有の高潔な心――を、今では理解していた。彼は、これほど純粋な心の奉仕に勝るものはないことを知っていたし、自分の心の中の“報いの秩序”では、ミス・プロスを、天使に限りなく近い存在に位置付けていた。たとえ、自然や世間の装いで遥かに“良くできた”他の婦人たちが、テルソン銀行に口座を持っていたとしても、だ。
「レディバードにふさわしい男は昔も今も一人しかいませんでした」とミス・プロスは言った。「それは私の兄、ソロモンです。人生を間違えてさえいなければ」
ここでまた:ローリー氏のミス・プロスへの個人的な調査で、彼女の兄ソロモンが、彼女の財産を根こそぎ奪って投機の資金とし、何の呵責もなく貧困の中に彼女を見捨てた冷酷な悪党であったことは判明していた。しかし(この小さな“人生の間違い”を除けば)ソロモンへの信仰心は彼女にとって重大なことであり、ローリー氏の評価にも少なからず影響を与えていた。
「今はちょうど二人きりで、しかも私たちはどちらも仕事人間ですから」と、居間に戻り親しい雰囲気で座った時、ローリー氏が言った。「伺いますが――博士はルーシーと話す時、靴職人時代のことには一度も触れませんか?」
「一度もありません」
「それなのに、あの作業台や道具は傍に置いている?」
「ええ」とミス・プロスは首を振る。「でも、心の中では触れているかもしれません」
「よく思い返していると思いますか?」
「そう思います」
「想像――」とローリー氏が言いかけたところで、ミス・プロスがさえぎった。
「想像なんてしちゃだめです。想像力は一切持っちゃだめ」
「分かりました。では、推測――たまには推測することも?」
「時々、ね」
「博士に、長年秘めてきた自分なりの理屈――あの過酷な圧迫の原因、あるいは犯人の名前まで推測しているような理屈が、残っていると思いますか?」
「私はレディバードが言うことしか考えません」
「それは?」
「博士にはそういう考えがある、と彼女は思っているそうです」
「質問ばかりして怒らないでください。私はただの仕事人間で、あなたも仕事人間だから」
「“ただの”?」とミス・プロスは穏やかに尋ねた。
その控えめな形容に少し後悔しつつ、ローリー氏は「いえいえ、決してそんなことはありません。それはさておき――博士が間違いなく無実であると私たち皆が確信しているにもかかわらず、そのことには決して触れないのは不思議ではありませんか? 私に対してはさておき、長年親しくしてきた今では、あれほど深い愛情で結ばれている娘さんにも、一言も触れないのは? 私は好奇心ではなく、純粋な関心から伺うのです」
「まあ、私の考えで言えば――大したものではありませんが――博士はその話題全体を恐れているのだと思います」
「恐れて?」
「理由は明らかでしょう。恐ろしい記憶だからです。しかも、そのことが原因で自分自身を見失ったのです。どうやって自分を失い、どうやって取り戻せたのか分からないのですから、また自分を見失わないと断言できないのです。それだけでも、楽しい話題にはならないでしょう」
ローリー氏が予想したより深い意見だった。「確かに」と彼は同意した。「考えるだけでも恐ろしいことです。ただ、私は時に、博士がその記憶をずっと心の奥底に閉じ込めておくのは、果たして良いことなのかと疑問に思うのです。実は、その疑念と時折感じる不安こそが、今回あなたに率直に相談した理由なのです」
「どうしようもありません」とミス・プロスは首を振った。「その話題に触れれば、たちまち悪化します。触れない方がいい。いや、どうであれ、触れてはいけません。時には、真夜中に起きて、私たちが上の階にいても分かるくらい、部屋の中を行ったり来たりしていることがあります。レディバードは、その時、彼の心が昔の牢獄の中を歩き回っているのだと分かっています。彼女は急いで駆けつけ、一緒に部屋の中を歩き回ります。そうしているうちに、彼は落ち着きを取り戻すのです。でも、彼はその本当の理由を決して口にしませんし、彼女もそれに触れないようにしています。二人は静かに部屋の中を行ったり来たりして、彼女の愛と添い遂げることで、博士は正気を取り戻すのです」
ミス・プロスは自分の想像力を否定していたが、「行ったり来たり」という繰り返しの中には、ひとつの悲しい思いにとりつかれている苦しみへの理解がにじんでいた。
この角はこだまの響きが素晴らしい場所だと述べたことがあったが、今やその響きは、誰かの足音が近づいてくるように鳴り響き、まるでこの疲れた往復の話題自体がこだまを呼び起こしたようだった。
「来たわよ!」とミス・プロスは立ち上がって会話を切り上げた。「これから何百人もの人たちがやって来るわよ!」
この場所は音響的にも不思議な場所で、ローリー氏が窓を開けて父娘の帰りを待っている間、彼らの足音が絶え間なくこだました。実際にはまだ姿も見えず、こだまは消えてはまた別の足音が聞こえてくる気配があったが、ついに父娘は現れ、ミス・プロスが玄関で出迎えていた。
ミス・プロスは、荒々しく、赤く、いかめしくもあったが、愛しい人の帽子を脱がせ、ハンカチの端で埃を払い、マントをきちんと畳み、豊かな髪を自分のもの以上に誇らしげに整える姿は、見ていて心地よいものだった。愛しい人もまた、抱きついて感謝し、あれこれ世話を焼かれるのを冗談めかして抗議した――もし本気で言おうものなら、ミス・プロスはひどく傷ついて部屋に引っ込んで泣いてしまっただろう――それもまた微笑ましい光景だった。博士もまた、それを見て微笑み、ルーシーを甘やかしすぎだとミス・プロスに言いながら、自身の目にも同じくらいの甘やかしが浮かんでいるという有様だった。ローリー氏も、この家庭的な光景に小さなかつらを光らせて微笑み、独り身の晩年に“家”に巡り合わせてもらった幸運を心から感謝していた。だが、“何百人もの人”は一向に現れず、ローリー氏はミス・プロスの予言が外れるのを残念に思った。
食事時になっても、何百人もの人は来ない。家の仕切りで、ミス・プロスは台所を預かり、いつも見事な手際だった。質素な料理だったが、出来上がりも並べ方も申し分なく、半分イギリス風、半分フランス風で、これ以上はないというほどだった。ミス・プロスの実利的な友情ゆえ、ソーホーと周辺地域の貧しいフランス人を探し出し、銀貨や半クラウンで料理の秘訣を教わっていたので、彼女の技は家政婦や女中たちから魔女かシンデレラの妖精のように思われていた。鶏やウサギ、庭の野菜を取り寄せて、何にでも変えてしまうことができたのだ。
日曜はミス・プロスも博士の食卓についたが、普段は階下や二階の自室(青い部屋、レディバードしか入れない)で、決まった時間に食事を取ることはなかった。この日、ミス・プロスはルーシーの愛想と心遣いに心を開き、食事はとても楽しいものになった。
蒸し暑い日で、食後にルーシーがワインをプラタナスの木の下に運び、そこで涼もうと提案した。何もかもルーシーを中心に回っていたので、みんなで木の下へ行き、彼女はローリー氏のために自らワインを注いだ。しばらく前から彼女はローリー氏専属の酌人をしており、木陰で話をしながら彼のグラスを満たしていた。周囲の建物の壁や端が彼らをのぞき見し、プラタナスの木が頭上でささやいていた。
それでも、何百人もの人は現れなかった。ダーネイだけがプラタナスの下に現れたが、彼は「一人」だった。
博士もルーシーも彼を温かく迎えた。だが、ミス・プロスは突然、頭と体がぴくぴくする発作に襲われ、家の中に引っ込んだ。この発作は時々起き、彼女は「けいれん持ち」と冗談で呼んでいた。
博士は上機嫌で、若々しく見えた。隣り合って座る父娘の姿、肩を寄せ合うその様子には、親子の強い面差しがはっきりと見て取れた。
博士は一日中、さまざまな話題を活発に語っていた。プラタナスの下で、ダーネイがふと、今話していたロンドンの古い建物の話題の流れで尋ねた。「マネット博士、ロンドン塔にはよく行かれますか?」
「ルーシーと一度行きましたが、ちょっと見ただけです。興味深い場所だとは知っていますが、それ以上は」
「僕は、覚えていらっしゃるかどうか分かりませんが、別の立場で行きました。見学する余裕がある立場ではなかったですが、そこでちょっと面白い話を聞きました」
「どんな話?」とルーシー。
「改修工事中、長年塞がれて忘れられていた古い地下牢が見つかったそうです。その内壁すべてに、囚人たちが刻んだ日付や名前、不平や祈りが彫られていました。壁の隅の石には、処刑を控えたらしき一人の囚人が、最後の仕事として三文字を彫り残していました。粗末な道具で、急いで不安定な手で彫ったものです。当初はD・I・Cと読まれていましたが、よく調べると最後の文字はGでした。そのイニシャルの囚人の記録や伝説はなく、いろんな推測が出されましたが、やがてこれはイニシャルではなく、『DIG(掘れ)』という単語では、と考えられたそうです。そこで、その文字の下の床を調べると、石かタイルか敷石の下の土の中に、紙の灰と小さな革袋の灰が見つかりました。その名もなき囚人が何を書き、何を隠したのかは、もう誰にも読めませんが、何かを記し、看守から隠したのでしょう」
「父さん、具合が悪いの?」とルーシーが叫んだ。
博士は突然、頭に手を当てて立ち上がった。その様子と表情に、皆はすっかり怯えた。
「いや、娘よ、何でもない。大粒の雨が降り出してきたので、驚いてしまったんだ。家に入りましょう」
博士はすぐ平静を取り戻した。実際に大粒の雨が降り始めており、手の甲についた雨粒を見せた。しかし、さきほどの話――発見された出来事――には一言も触れず、家に戻る途中、ローリー氏の“仕事の目”は、ダーネイに顔を向けた時のあの奇妙な表情を、裁判所の廊下で自分に向けた時と同じく感じ取ったように思った。
だが、あまりにも素早く博士が平静を取り戻したので、その“仕事の目”も本当に見抜けたのか自信を持てなかった。玄関の黄金の巨人の腕の下で、博士は「私はまだちょっとした驚きにも慣れません」と言い添えた。その落ち着きは巨人の腕にも劣らなかった。
お茶の時間、ミス・プロスがお茶を入れながら再び“けいれん”に見舞われるが、やはり何百人もの人は現れなかった。カートンがふらりと現れたが、これで二人目。
夜はとても蒸し暑く、窓も扉も開けていたが、皆は熱気に参っていた。お茶が済むと、全員が窓辺に移動し、重苦しい薄明かりを見つめた。ルーシーは父の隣に、ダーネイはその隣に、カートンは窓辺に寄りかかっていた。白く長いカーテンが、時折吹き込む雷風に天井まで舞い上がり、亡霊の翼のように揺れていた。
「まだ大粒の雨が、まばらに落ちている」と博士。「ゆっくり来るね」
「でも確実に来ますよ」とカートン。
皆、小声で語り合っていた。嵐を待つ闇の中の人たち特有の小声だった。
外の通りでは、嵐が来る前に急いで帰宅しようと人々が走っていた。あのこだまの街角は、足音のこだまに満ちていたが、実際には誰の足音でもなかった。
「人混みなのに、この静けさ!」とダーネイがしばらく聞き入った後に言った。
「不思議でしょう、ダーネイさん」とルーシー。「私、時々夕方ここに座っていると、――今夜はこんなに黒くて不気味なので、そんな愚かな空想も口にしたくないのですけど――」
「僕たちも震えてみましょう。何か分かるかもしれません」
「きっとつまらないわ。自分で思いついた時だけ心に響くものだと思うの。伝わるものじゃないわ。私は一人でここに座っているとき、こだまが、これから私たちの人生にやってくる全ての足音に思えてくることがあるのです」
「それが本当なら、僕たちの人生には大勢の人が押し寄せてくることになるね」とカートンが気難しげに口を挟んだ。
足音は絶え間なくなり、その速度もどんどん早くなっていった。街角は来る足音、去る足音、突然消える足音、止まる足音でこだました。それらは皆、遠い通りに響くもので、姿は見えなかった。
「その足音は全部、僕たち全員の元にやってくるんですか? それとも分け合うんですか?」とダーネイ。
「分かりません、ダーネイさん。愚かな空想だと言ったでしょ。でも、そうして一人でいるとき、これから私と父の人生に現れる人々の足音に思えてしまうのです」
「僕は全部自分のものとしよう!」とカートン。「何の質問も条件もいらない。あの群衆が迫っている、ルーシーさん、僕には見える――あの稲光で」最後の言葉は、稲光が彼の姿を窓辺に照らした直後に加えられた。
「僕には聞こえる!」また雷鳴のあとに続けた。「来るぞ、激しく、荒れ狂いながら!」
それは雨の轟音そのものだった。声も聞こえないほどの激しい雨が叩きつけ、雷鳴と稲妻と雨、そして月が真夜中に昇るまで、その休む間もなかった。
聖ポール大聖堂の大鐘が、晴れ渡った夜空に一時を告げるころ、ローリー氏は長靴を履いたジェリーにランタンを持たせ、クラーケンウェルへの帰途についた。ソーホーからクラーケンウェルの道中には、人通りの少ない場所もあり、用心深いローリー氏はいつもジェリーに護衛を頼んでいた――普段なら二時間は早い時間だったが。
「今夜はすごい夜だったな、ジェリー。死人も墓から這い出てきそうな夜だよ」
「自分でそんな夜を見たことも、お目にかかりたいとも思いませんがね、旦那」とジェリー。
「おやすみなさい、カートンさん」とローリー氏。「おやすみなさい、ダーネイさん。またこんな夜を一緒に過ごすことがあるでしょうか!」
あるいはあるかもしれない。その時は、あの群衆が、あの轟音とともに彼らに押し寄せてくるだろう。
第七章 パリのモンスニョール
モンスニョール――宮廷で権力を握る大貴族の一人――は、パリの壮麗な邸宅で定例の隔週レセプションを開いていた。モンスニョールは奥の間、聖域中の聖域、外の部屋にひしめく信奉者たちにとっては至高の聖別所にいた。モンスニョールはこれからショコラを楽しむところだった。モンスニョールは何事も平然と飲み込むことができ、その食欲の速さから、一部の不機嫌な者たちには「フランスそのものも飲み込もうとしている」と陰口をたたかれていたが、朝のショコラだけは、料理人に加えて四人の逞しい男の助けがなければ、喉を通らなかった。
そう、四人の男が必要だった。彼らは皆、華やかな装飾に身を包み、その長としては、モンスニョールの立派で節度ある流行に倣い、金時計を二つは持っていないと生きていけないほどだった。その四人で、ようやく幸福なショコラをモンスニョールの唇へと導くのだった。第一の召使いがショコラのポットを聖域へ運び、第二が専用の道具で泡立て、第三が特別なナプキンを差し出し、第四(例の金時計二つ持ち)がショコラを注いだ。モンスニョールがこの四人のうち一人でも欠かしてショコラを給仕されたなら、その名誉は地に落ち、天空の賞賛も得られなかっただろう。三人の給仕で済ませたとなれば、大きな汚点であり、モンスニョールはたちまち命を落としたに違いない。
モンスニョールは昨夜、小さな晩餐に出ていた。喜劇やオペラ座の名優らが華やかに集っていた。モンスニョールはほとんど毎晩、魅力的な仲間と晩餐に出ていた。かくも礼儀正しく、感受性豊かなモンスニョールは、たとえ国政の大事や国家の秘密であっても、コメディやオペラ座の影響力のほうがはるかに大きかった。これはフランスにとってなんとも幸運なことである! 同じような国では、いつもこうだ――例えばイングランドもそうだった(例を挙げれば)、享楽的なスチュアート王朝が国を売っていた惜しむべき時代も。
モンスニョールには、公共事業について本当に高貴な考えが一つあった――それは、すべてを自然の成り行きに任せておくことだった。だが、個別の公的事業については、もう一つの高貴な考えを持っていた――それは、すべて自分の思い通りに運ばせ、自らの権力と懐を潤すことだった。自分の享楽については、一般的にも個別的にも、世界は自分のためにあるというもう一つの高貴な考えを持っていた。彼の布告の文言(原文と異なるのは代名詞一つのみで、大した違いではない)はこうである。「大地とその豊かさは、モンスニョールのものである、とモンスニョールは言う。」
しかし、モンスニョールは私的、公共のいずれの事柄にも、卑俗な困難が忍び寄っていることを徐々に感じるようになっていた。そして、彼はやむなく両方の事柄について徴税請負人と手を結んでいた。公共財政については、モンスニョール自身には全く手に負えず、ゆえにそれを扱える者に任せるしかなかったからであり、私的財政については、徴税請負人は裕福で、代々の贅沢と浪費の末にモンスニョールは貧しくなりつつあったからである。それゆえ、モンスニョールは妹を修道院から引き取った。もう少しで修道女のヴェールという最も安価な衣服を着るところだった彼女を、家名は貧しいが大金持ちの徴税請負人へと嫁がせたのだった。この徴税請負人は、頂きに金の林檎のついた立派な杖を持ち、人々から大いにへりくだった態度で扱われていた――ただし、モンスニョールの血を引く上流階級の者たち、彼自身の妻も含めて、彼に対しては誇り高く軽蔑して見下していた。
徴税請負人は豪奢な人物だった。馬小屋には三十頭の馬が並び、屋敷の広間には二十四人の男性召使い、妻には六人の身の回りの女中が仕えていた。略奪や搾取だけをしていると公言してもはばからないこの徴税請負人は――その結婚が社会道徳に寄与したかどうかはさておき――その日モンスニョールの館に集った面々の中では、唯一確かな実体を持つ存在だった。
なぜなら、部屋は見た目こそ美しく、その時代の趣味と技術の粋を尽くして飾られていたが、実のところ、何一つ健全な実態はなかった。ぼろぼろの服とナイトキャップに身を包んだ案山子たち(しかもノートルダムの見張り塔からは、その両極端がほぼ等距離に見えたほど近い場所にいた)を思えば、非常に不快な現実であった――もっとも、モンスニョールの館において誰かがそれを気にかけることがあっただろうか。軍事知識のない軍人、船のことなど全く知らぬ海軍士官、政務の分からぬ官僚、欲望のまま生きる最悪の俗物の聖職者たち――皆それぞれの職にまったく不適格でありながら、その職に就いているふりをし、程度の差こそあれ、皆モンスニョール一派とつながりがあったため、利得のある公職には押し込まれていた。こうした連中が何十人何十人といた。モンスニョールや国家と直接関係のない者たちでも、本質的な何かや、まっとうな生き方とは無縁な人々もまた、同じように多かった。架空の病への美味なる薬で大金を稼ぐ医者は、モンスニョールの控えの間で上品な患者たちに微笑みかけていた。国家を蝕む小さな悪に対して、根本的な解決――つまり本気で一つの罪を根絶する――以外のあらゆる対策を発明したと称するプロジェクター[訳注:現代でいう事業家]たちは、モンスニョールのもてなしの場で誰かれ構わず混乱したおしゃべりをまき散らしていた。世界を言葉で作り直し、バベルの塔のようなトランプの塔で天を目指す無神論の哲学者たちは、金属変成を夢見る無神論の化学者たちと語らい、モンスニョールのもとに集められたこの奇妙な集団を彩った。最上のしつけを受けた粋な紳士たちは――当時そしてその後も、あらゆる人間的関心に無関心であることこそがその洗練の証しとされた――極めて模範的なまでに疲れ果てていた。彼らがパリの華やかな世界に残してきた家庭は、モンスニョールの集った上流の会衆の中に多くの密偵が混じっていても、天上界の天使たちのなかには、母であることが外見や振る舞いに現れている妻を一人として見つけるのは困難だっただろう。実際、面倒な生き物をこの世に産み落とすという単なる行為以外に、「母」と呼ばれるものは流行の中には存在しなかった。農婦たちは流行外れの赤ん坊をしっかり抱き育て、六十歳の魅力的な祖母は二十歳と変わらぬ服装で夜の宴に列席していた。
虚飾という癩病が、モンスニョールに仕えるすべての人間を醜くしていた。もっとも外側の部屋には、世の中がどうもおかしいと、数年来ほのかに感じていた例外的な人々が半ダースほどいた。世を正す有望な方法として、その半分はコンヴルショニスト[訳注:当時の宗教的熱狂的集団]の奇妙な一派に加わり、まさに今そこで泡を吹き、激高し、叫び、即座に硬直発作を起こすべきか思案していた――それがモンスニョールへの未来の示標となると考えていたのである。加えて、他の三人は「真理の中心」なるものについての難解な言葉遊びで物事を改善しようとする別の宗派に飛び込んでおり、人は真理の中心から外れてしまった(それは大して証明の要らないことだった)が、円周からは外れていない、だから断食と霊視によって円周から飛び出さず、むしろ中心に押し戻されるべきだ、と主張していた。こうした人々の間では、例によって霊との会話が盛んに行われていたが、その効果が目に見えることは決してなかった。
だが救いは、モンスニョールの館に集まった全員が完璧な装いだったことだ。もし最後の審判の日が「正装の日」と決まっていたなら、その場の誰もが永遠に正しく装っていたことだろう。髪の毛の焼き上げや白粉、立て髪の細工、人工的に保たれ修復された繊細な肌、見栄えのする剣、そして嗅覚への細やかな配慮――それがあれば何事も永遠に続くに違いない。最上の教養を身につけた紳士たちは、動くたび小さく鳴るペンダントを身につけていた。その金の鎖は小さな鈴のように音を立て、シルクやブロケード、上質なリネンの衣擦れと相まって、サン・タントワーヌ[訳注:パリの貧民街]とその飢えた人々を遥か遠くへ押しやるかのような浮き立つ空気を作っていた。
服装こそが、物事を秩序立てて保つ唯一確かな魔法でありお守りだった。全員が決して終わらない仮装舞踏会に出ているかのような装いだった。チュイルリー宮殿からモンスニョール、宮廷全体、議会、裁判所、そして社会全体(案山子たちを除いて)に至るまで、その仮装舞踏会は死刑執行人にまで及んでいた。彼らもその魅力に従い、「髪を焼き、白粉をはたき、金モール付きコートにパンプス、白絹の靴下」で務めることが求められた。絞首台や車裂き――斧での刑は稀だった――においても、地方の同業者たちと同じく、「ムッシュー・パリ」と呼ばれる死刑執行人は、この上品な装いで執り行った。主の降臨したその年、モンスニョールの館の集いの中で、髪を焼いた死刑執行人、白粉をはたき、金モールにパンプス、白絹の靴下を履いた死刑執行人に根差した体制が、星の光さえ消し去ると疑う者など、誰一人いなかった。
モンスニョールは、四人の従者の用意を解き、チョコレートを飲み終えると、最奥の聖域の扉を開けさせ、外に出てきた。すると、何という隷属、何という卑屈、何というご機嫌取り、何という屈辱! 身も心も跪くことにかけては、天に捧げるものなど何一つ残っていなかった――それが、モンスニョールを崇拝する者たちが天に関心を持たない理由の一つだったのかもしれない。
ここで一言の約束を、あちらで一つの微笑みを、幸運な奴隷にはささやきを、他の者には手の一振りを与えながら、モンスニョールは快く部屋を進み、「真理の円周」なる遥か彼方の場所へ歩んでいった。そこで一度振り返り、また元に戻り、やがてチョコレートの精たちに囲まれて聖域へと戻り、姿を消した。
見世物が終わり、空気を満たしていたざわめきは小さな嵐となり、金の小鈴たちは階段を転がり降りていった。やがて群衆の中に一人だけ残り、帽子を腕に、スナッフ箱を手に、ゆっくりと鏡の間を進んでいった。
「貴様を悪魔に捧げよう」と、この人物は最後の扉のところで立ち止まり、聖域の方へ向き直って言った。
そう言うと、彼はスナッフの粉を指先から払うと同時に、まるで足の埃を払うかのように静かに階段を降りていった。
彼は六十歳前後の男で、身なりは立派、態度は尊大、顔は見事な仮面のようだった。透き通るような蒼白さ、はっきりとした各部の輪郭、常に変わらぬ一つの表情。鼻は美しく整っているが、両方の小鼻の付け根がわずかに窪んでいた。その二つの窪みこそ、この顔が唯一変化を見せる部分だった。時にそこが色づいたり、脈打つように膨らんだり縮んだりし、そのたびに顔全体に裏切りと残忍さを加えていた。よく観察すれば、口元や目の周囲の線があまりにも水平で薄いことが、その表情を助長していると分かる。それでも、顔としては美しく、印象的だった。
その男は階段を下りて中庭に出ると、馬車に乗り込み、去っていった。レセプションの間、話しかけた者は少なく、彼は少し離れた場所に立っていたし、モンスニョールも彼に対してはそれほど温かくなかった。この状況下で、馬車の前から庶民たちが散っていくのを見て面白がっているようにも見えた。御者は敵陣に突入するかのような勢いで馬車を走らせ、主人の顔にも口元にも一切の感情の変化はなかった。その時代、歩道のない狭い通りでは、パトリシアンの猛烈な疾走が庶民を危険にさらし、しばしば残虐な形で負傷させていたという不満が、あの耳の遠い都や口の重い時代にも聞こえてくることがあった。しかし、そんなことを二度考える者は少なく、この問題も他のすべてと同じく、哀れな庶民たちは自力でどうにかするしかなかった。
凄まじい轟音とガタガタという音、そして現代には理解し難いほどの非人間的な無神経さで馬車は通りを突っ走り、角を曲がるたびに女たちは叫び声を上げ、男たちは互いに、あるいは子どもを抱き寄せて道を開けた。ついに、噴水のある角にさしかかったとき、車輪の一つが不快な衝撃を起こし、何人もの声が大きく叫び、馬たちは立ち上がり暴れた。
この最後の事故がなければ、馬車は止まらずに走り去っただろう。負傷者を置き去りにして走り去る馬車など珍しくなかったのだ――なぜ止まる必要がある? だが、怯えた従者が慌てて降り、二十本の手が馬の轡を掴んだ。
「何事だ?」とムッシューが落ち着いて窓から覗く。
ナイトキャップ姿の背の高い男が、馬の足元から束を拾い上げ、噴水の台座にそれを置き、泥と水の中で野獣のようにうなり声を上げていた。
「お許しください、侯爵様!」とボロをまとった従順な男が言った。「子どもです。」
「なぜあんなに忌々しい声を上げている? 自分の子どもなのか?」
「お許しください、侯爵様――お気の毒です――はい。」
噴水は通りから少し離れ、路地が十数ヤードほど開けた広場に面していた。背の高い男が突然地面から立ち上がり、馬車に駆け寄ってきたので、侯爵は一瞬鞘に手をかけた。
「殺された!」と男は絶望的に叫び、両腕を頭上に伸ばして見つめた。「死んだ!」
人々が集まり、侯爵を見つめた。その目に表れるのは警戒と熱意のみで、脅しや怒りは見えなかった。人々も何も言わない。最初の叫びの後は沈黙し続けた。従順な男の声も極端なまでに平坦で弱々しかった。侯爵は彼ら全員を、穴から這い出たネズミでも見るように眺め回した。
彼は財布を取り出した。
「まったく不思議だ」と彼は言った。「お前たちは自分や子どもを守ることもできんのか。誰かしらいつも道の邪魔をする。私の馬にどんな怪我をさせたかどうして分かる? ほら、これをやれ。」
彼は金貨を投げ、従者が拾う間、皆が首を伸ばしてそれが落ちていくのを見つめた。背の高い男は再びこの世のものとも思えぬ声で「死んだ!」と叫んだ。
その時、別の男がさっと駆け寄り、人々が道を譲った。それを見ると、男はその肩にすがって泣き叫び、噴水の台座で女たちが動かぬ束に屈み込み、静かに世話をしている方を指さした。女たちもまた沈黙していた。
「すべて分かっている、すべて分かっている」とその男は言った。「しっかりしろ、ガスパール! 可哀想なおもちゃは、こうやって死んだ方が幸せだ。痛みもなく一瞬で死んだのだ。一時間でもこの世で幸せに生きられたと思うか?」
「哲学者だな、お前さん」と侯爵は微笑む。「名前は?」
「ドファルジュと呼ばれている。」
「職業は?」
「侯爵様、ワイン売りです。」
「拾え、哲学者にしてワイン売りよ」と侯爵はさらに金貨を投げ、「好きに使うがよい。馬はどうだ?」
侯爵はもう一度群衆を見ることもなく、椅子にもたれ、まるでつまらぬ物を壊して金で済ませたかのように馬車を出発させようとした。その時、突然コインが馬車に飛び込んできて、床で鳴った。
「待て!」と侯爵。「馬を止めろ! 誰が投げた?」
彼は、先ほどまでドファルジュが立っていた場所を見たが、哀れな父親はその場に倒れ伏し、傍らには太めで色黒の編み物をする女が立っていた。
「この犬どもが」と侯爵は変わらぬ表情(鼻の斑点を除いて)で言った。「喜んでお前たちを轢き殺して、地上から一掃してやる。誰が投げたか分かれば、その犯罪者を車輪の下で潰してやるのに。」
彼らの境遇はあまりに卑屈で、法の内外でこの男が何をしでかすか痛いほど知っているので、声も手も、いや目さえも上げる者は一人もいなかった。男の中には誰一人いない。ただ、編み物をしていた女だけが毅然と顔を上げ、侯爵を見据えた。侯爵はそれを無視し、軽蔑の目を女にも他の「ネズミ」たちにも投げかけ、再び椅子にもたれ「進め!」と命じた。
馬車は進み、続いて他の馬車――大臣、国家事業家、徴税請負人、医師、弁護士、聖職者、グランド・オペラ、コメディー、仮装舞踏会の面々が次々と通り過ぎていった。ネズミたちは穴から這い出して見物し、何時間もそのまま見つめていた。兵士や警察が時折彼らと見世物の間を往来し、彼らはその陰に隠れ、またその隙間から覗き見た。父親はとっくに束を拾い上げて立ち去り、女たちは噴水の台座に座りながら水の流れと仮装舞踏会の車列を眺めていた――編み物をしていた一人の女は、運命のごとく手を止めず編み続けていた。噴水の水は流れ、川は速く流れ、昼は夕方へと流れ、街の多くの命は例に従って死へと流れ、時も潮も人を待たず、ネズミたちは再び暗い穴で寄り添って眠り、仮装舞踏会は晩餐の灯に照らされ、すべてが定められた道を進んでいった。
第8章 モンスニョール、田舎へ
美しい景色――しかし小麦は鮮やかながら豊かではない。小麦畑のはずが粗末なライ麦、粗末な豆やエンドウ、その他小麦の代用品となる粗野な野菜畑が点在していた。無生物の自然にも、それを耕す男や女にも、どこか不本意に生きているかのような、枯れ果て諦めきった様子が漂っていた。
侯爵は自らの馬車――もう少し軽ければいいのに――で、四頭立ての馬と二人の御者に引かれ、険しい坂道を上っていた。侯爵の顔に浮かぶ赤みは、その高貴な生まれのせいではなく、制御しがたい外的要因――すなわち夕陽のせいだった。
坂の頂上に馬車が到達したとき、夕陽があまりに鮮やかに差し込んだので、侯爵の姿は真紅に染まった。「すぐ消えるだろう」と侯爵は自分の手を眺めながら言った。
実際、太陽はそのとき沈みかけていた。重い車輪止めが取り付けられ、馬車が下り坂を滑ると、その赤い輝きはすぐに消え、太陽と侯爵がともに沈むとともに、車輪止めが外れた時には、もう輝きはなかった。
だが、そこには険しいが開けた地形、麓の小さな村、その向こうに広がる大地、教会の塔、風車、狩猟用の森、要塞として使われる岩山などがあった。夜が近づく中、侯爵はこれら暗くなりつつある景色を、まるで故郷に近づいているかのような顔つきで見渡した。
村には一つきりの貧しい通り、貧しい醸造所、貧しい皮なめし工場、貧しい居酒屋、交代馬のための貧しい馬屋、貧しい噴水、その他すべてが貧しく揃っていた。住む人々もみな貧しく、多くは家の前に座り、夕食のために玉ねぎなどを刻み、他の多くは噴水で葉っぱや草など、食べられそうなものを洗っていた。彼らが貧しい理由も明らかで、国税、教会税、領主税、地元税と、村のあちこちで厳かに掲示されているさまざまな税が課され、もはや村が飲み込まれずに残っているのが不思議なほどだった。
子どもたちはほとんど見当たらず、犬もいなかった。村人にとっては、粉ひき小屋の下の村で命をつなぐ最低限の暮らしか、崖の上の監獄での囚われと死か――そのいずれかしか選択肢はなかった。
先触れと一緒に、夕風にヘビのようにしなる鞭の音を響かせながら、侯爵の馬車がポストハウスの門前に止まった。噴水のすぐそばで、村人たちは手を止めて彼を眺めた。侯爵は彼らを眺め、彼ら自身は気づかぬうちに、やせ細った顔や体がゆっくりとすり減っていくさまを見ていた――それは、フランス人のやせこけたイメージが、百年近くもの間イギリス人の間で「迷信」として残るほどだった。
侯爵は、自分を見上げる従順な顔々を一瞥した。宮廷のモンスニョールの前で自分のような者が頭を垂れるのと同じだが、違うのは彼らは媚びるためでなく、ただ苦しむために頭を垂れていることだった。そこへ白髪交じりの道路工夫が加わった。
「その男をここへ連れてこい!」と侯爵が命じた。
男は帽子を手に連れてこられ、他の村人たちはパリの噴水での人々のように、注目して見守った。
「道でお前を追い越したな?」
「モンスニョール、それは本当です。道で追い越していただきました。」
「坂を登るときも、頂上でも両方か?」
「モンスニョール、その通りです。」
「何をそんなにじっと見ていた?」
「モンスニョール、男を見ていました。」
彼は少し身をかがめ、ぼろぼろの青い帽子で馬車の下を指さした。皆も馬車の下を覗き込んだ。
「何の男だ、豚め? なぜそこを見ていた?」
「お許しを、モンスニョール。そこの靴止め――車輪止めの鎖にぶら下がっていました。」
「誰がだ?」と旅人が問い返す。
「モンスニョール、あの男です。」
「この馬鹿どもめ! その男の名は? この辺の者なら誰でも知っているだろう。誰だ?」
「お慈悲を、モンスニョール! この辺りの者ではありません。生涯一度も見たことがありません。」
「鎖にぶら下がって? 窒息するためか?」
「ご慈悲を、それが不思議だったのです、モンスニョール。首を垂らして――こんなふうに!」
彼は馬車の横に身をひねり、顔を空に向けて頭をだらりと下げた。元に戻ると、帽子を直し、お辞儀をした。
「どんな奴だった?」
「モンスニョール、粉ひき職人よりも真っ白で、全身が埃まみれ、亡霊のように白く、背も高く――まるで亡霊でした!」
この描写は群衆に大きな衝撃を与えたが、全員の視線は黙って侯爵を見つめた。彼の良心に亡霊があるかどうかを見極めるようだった。
「確かにお前はよくやった」と侯爵は、こんな虫けらどもに動じる気はないとばかりに言った。「私の馬車に泥棒がついていたのに、口を開かなかったとはな。まあ! ガベル氏、こいつをどけろ!」
ガベル氏は郵便局長で、他の徴税官も兼ねていた。非常にへりくだってこの尋問に協力し、公式な態度で男の腕の服をつかんでいた。
「さあ、どけ!」とガベル氏。
「もし今夜この村に泊まろうとする怪しい者がいれば、必ず正直な用事かどうか確かめろ、ガベル。」
「モンスニョール、ご命令に喜んで従います。」
「逃げたのか、その男は? その呪われ者はどこだ?」
呪われ者は既に馬車の下に仲間たちといて、青帽子で鎖を指さしていた。他の仲間がすぐに彼を引き出し、息も絶え絶えに侯爵の前に連れてきた。
「馬車を止めたとき、その男は逃げたのか?」
「モンスニョール、彼は坂の斜面から、川に飛び込む人のように頭から消えました。」
「しっかり見ておけ、ガベル。進め!」
鎖を覗き込んでいた連中は、まだ車輪の近くにいて、危うく轢かれそうになったが、守るべきものがほとんどなかったから、運よく助かったともいえる。
馬車は村を抜けて再び坂を登り始めたが、上り坂の急さにすぐ速度が落ちた。徐々に馬の足取りになり、夏の夜の甘い香りの中を揺れながら進んだ。御者たちの周りにはフリア(復讐の女神)の代わりに無数の蚊が舞い、従者は馬の脇を歩き、先導の使いは遠く前方に響く蹄音を響かせていた。
坂の頂上には小さな墓地があり、十字架と大きな新しいキリスト像があった。素朴な農民が彫ったらしいその木像は、本人自身をモデルにしたのかもしれないほど、ひどくやせ細っていた。
この悲惨な苦悩の象徴の前に、女が跪いていた。馬車が近づくと、女は頭を上げ、すぐ立ち上がって馬車の扉に駆け寄った。
「モンスニョール! お願いがございます。」
侯爵は苛立ちを込めて、しかし変わらぬ表情で窓を見た。
「何だ、またか! いつも嘆願ばかり!」
「モンスニョール。大いなる神の御名において! 私の夫は、狩人でございました。」
「その夫がどうした? お前たちの願い事はいつも同じだ。何か払えないのか?」
「すべて支払いました、モンスニョール。夫は死にました。」
「そうか。静かでいいな。生き返らせてやれるとでも?」
「いいえ、モンスニョール! でも、あそこ、貧しい草の山の下に眠っています。」
「それで?」
「モンスニョール、そんな草山がいくつもあるのです。」
「またか、それで?」
彼女は年老いて見えたが若かった。激情的な悲しみをにじませ、時に血管の浮き出た手を激しく組み合わせ、時に扉に優しく手を当てた――まるで人の胸に触れるように、訴えが届くことを願って。
「モンスニョール、お聞きください! お聞き届けください! 夫は飢えで死にました。多くが飢えで死にます。これからもっと多くが飢えで死ぬでしょう。」
「それで? みなに食べさせろとでも?」
「神のみぞ知ることです、私は求めません。願いは、夫の名を刻んだ石か木切れを墓に置いてほしいのです。さもなくば、私も同じように死んだ時、別の草山に埋められ、場所が分からなくなってしまいます。モンスニョール、草山はどんどん増え、飢えは尽きません。モンスニョール! モンスニョール!」
従者が女を扉から離し、馬車は速度を上げ、御者たちも急かせ、女は遠ざかっていった。モンスニョールは再びフリアたちに付き添われ、城まで残る一里か二里を一気に縮めていった。
夏の夜の甘い香りは彼の周囲に、そしてすぐそばの噴水のそばで埃とぼろをまとい、疲れ切った人々の上にも、公平に降り注いでいた。道路工夫は青帽子の助けを借りて、幽霊のような男の話を延々と語っていたが、やがて皆が堪えきれずに一人、また一人と消え、家々の窓に灯がともった。その灯が消え、星が増えるころには、灯は消えたのではなく空に昇ったように見えた。
大きな高い屋根の家と多くの木々の影が、侯爵を包み、馬車が止まり、城の大きな扉が開かれると、松明のあかりがその影を照らした。
「イギリスから来るはずのシャルル様は、もうお着きですか?」
「モンスニョール、まだでございます。」
第9章 メデューサの首
侯爵の城は重厚な石造りで、広い中庭、両側から石の大階段が正面のテラスで合流していた。あらゆるところに、重い石の手すり、石の壺、石の花、石の男の顔、石のライオンの頭が並んでいた。まるでメデューサの首が完成時にこれを睨んだかのように。
幅広く浅い石段を、侯爵は松明に先導されて馬車から入り、暗闇を乱したことに、屋敷の奥の馬屋の屋根でフクロウが大声で文句を言った。その他は何の音もなく、松明の火はまるで室内にいるかのように静かに燃えていた。フクロウの声以外に音はなく、噴水が石の鉢に落ちる音だけだった――まるで夜が何時間も息を止め、やがて長く低いため息をつき、また息を止めるかのような夜だった。
大扉が重々しく閉まり、侯爵は古びたイノシシ狩りの槍や剣、狩猟用のナイフ、そして多くの農民が怒りを買って死を賜ったという重い鞭や杖が飾られた廊下を横切った。
大きな部屋は暗く施錠されていたので、侯爵は松明持ちを先に進ませ、階段を上がり、回廊の端の扉を開けさせて、自室三部屋へ入った。高い天井、冷たい床、冬用の暖炉、そして侯爵にふさわしい贅沢な家具。十四代ルイ王朝の趣味が色濃く、フランス史の古いページを物語る品々もあった。
三つのうちの一つ、丸い塔の一室には、二人分の晩餐が用意されていた。小さく高い部屋で、窓は開き、よろい戸は閉じて、夜の闇が水平線の黒い筋となって石色の太い筋と交互に現れていた。
「甥か」と侯爵は晩餐を見やりながら言った。「まだ着いていないと言っていたな。」
確かに、甥はまだだったが、モンスニョールと同時に到着するはずだった。
「まあ今夜は来ないだろうが、食卓はそのままにしておけ。十五分もしたら用意ができる。」
十五分後、モンスニョールは準備を整えて一人で豪華な晩餐に着いた。椅子は窓の正面、スープを取り、ボルドーワインのグラスを手に取ったとき、彼はグラスを置いた。
「何だあれは?」と彼は落ち着いて黒と石色の水平線を見つめた。
「モンスニョール? あれですか?」
「よろい戸の外だ。開けてみろ。」
命じられた通りにした。
「どうだ?」
「モンスニョール、何もありません。木と夜だけです。」
従者は戸を全開し、闇に目をこらしたが、指示を待ち立ち尽くしていた。
「よし」と不動の主は言った。「また閉めておけ。」
それも済むと、侯爵は食事に戻った。半ばまで食べ進めたとき、再びグラスを手にしたまま車輪の音を聞いた。それは勢いよく近づき、屋敷の正面に止まった。
「誰が来たか聞いてこい。」
それはモンスニョールの甥だった。彼は午後早い時間、モンスニョールより数リーグ後ろにいたが、急いで距離を詰めたものの追いつかなかった。彼はモンスニョールが先行していると各地で聞いていた。
(モンスニョールの言葉通り)すぐに食事が用意されていると伝え、招かれた。やがて彼はやってきた。イギリスでは、チャールズ・ダーネイとして知られていた。
モンスニョールは礼儀正しく出迎えたが、握手はしなかった。
「昨日パリをお発ちですか?」と甥は席につきながら尋ねた。
「昨日だ。お前は?」
「私は直行です。」
「ロンドンからか?」
「はい。」
「時間がかかったな」と侯爵は微笑んだ。
「いいえ、直行です。」
「いや、旅の時間のことではなく、旅に出る決心までが長かったと言いたいのだ。」
「様々な事情で足止めされていました」と甥は一瞬言葉を止めて答えた。
「なるほど」と洗練された叔父は言った。
従者がいる間は会話はなかった。コーヒーが出され、二人きりになると、甥は叔父を見据えて口を開いた。
「ご予想通り、私が戻ったのは、私が去った目的を追い続けているからです。その目的のために大きな、思いがけない危険に巻き込まれましたが、それは神聖な目的であり、たとえ死に至ることがあっても私は貫いたでしょう。」
「死ぬ必要はない」と叔父。「死ぬなどと言う必要はない。」
「もし私が死の淵まで追い詰められても、あなたがそこで私を助けてくれるとは思えません。」
鼻のくぼみが深まり、冷酷な顔の細い直線が伸びた。叔父は優雅な否定の身振りをしたが、それは単なる形式的な礼儀にすぎず、安心感はなかった。
「実のところ」と甥は続けた。「私の知る限り、あなたは私を取り巻く疑わしい状況を、より疑わしくするために積極的に動いたかもしれません。」
「いや、いや、いや」と叔父は愉快そうに言った。
「ですが、いずれにせよ」と甥は深い不信の目で見ながら続けた。「あなたの外交術はどんな手段でも私を止めようとし、手段を選ばないことは分かっています。」
「その通り、以前にも言っただろう」と叔父は鼻の二つのしるしに微かな動きを見せた。「昔そう言ったことを思い出してくれ。」
「思い出しました。」
「ありがとう」と侯爵は――実に甘美な調子で言った。
その声の余韻は、楽器の音色のように空気に残った。
「実のところ」と甥は続けた。「あなたの不運と私の幸運がなければ、私はフランスの牢獄に入れられていたと思います。」
「どういう意味か分からんな」と叔父はコーヒーを飲みつつ言った。「説明してくれるかね?」
「もしあなたが宮廷で失脚しておらず、長年その雲に覆われていなかったら、封印状一枚で私を無期限にどこかの要塞に送ることができたと信じています。」
「あり得ることだ」と、伯爵は極めて平然とした口調で言った。「一族の名誉のためなら、君にその程度のご不便を掛ける覚悟もできよう。どうかご容赦を!」
「おかげさまで、一昨日の歓迎もいつも通り冷ややかなものだったようですね」と、甥が言った。
「おかげさまとは言うまい、友よ」と伯爵は洗練された礼儀正しさで応じた。「それが本当に幸運だったかどうかはわからぬ。孤独という利点に囲まれ、じっくり考える良い機会は、君自身が自分の運命に及ぼす影響よりも、はるかに有益なものとなるやもしれぬ。とはいえ、この話題を議論しても無駄だ。君の言う通り、私は不利な立場にある。こうした小さな矯正の手段、家の権力と名誉を高める優しい援助、君に不便をかけるかもしれぬささやかな恩恵も、今ではコネやしつこい懇願によってようやく手に入るものとなった。求める者は多く、与えられる者は(比較すれば)極めて少ない! 昔はそんなことはなかったが、フランスはこうしたあらゆる点で改悪されてしまった。我々のそう遠くない先祖たちは、周囲の下賤な者どもに対し、生殺与奪の権利を持っていた。この部屋からも、何人もの犬どもが連れ出されて絞首刑にされたものだ;隣の部屋(私の寝室)では、我々の知る限り、ひとりの男が娘について生意気な気遣いを口にしたため、その場で短剣で刺し殺された――彼の娘だと? 我々は多くの特権を失った。新しい哲学が流行りとなり、今や自分たちの地位を主張することは(私は必ずそうなるとは言わぬが、なりかねぬ)本当の不便を招くかもしれない。まったく嘆かわしい、まったく嘆かわしいことだ!」
侯爵は優雅にスナッフをほんの少しつまみ、頭を振った。大いなる再生の手段たる自分をまだ抱えるこの国を、最大限に洗練された絶望的な様子で。
「我々は昔も今も、その地位を主張してきました」と甥は陰鬱に言った。「そのせいで、フランスで最も憎まれた名が我々の名ではないかと思います。」
「そうであればいい」と伯爵は言った。「高貴な者への憎悪は、卑しい者が無意識に捧げる敬意だ。」
「このあたり一帯に、私を見る顔で、恐怖と奴隷根性以外の敬意を持って見る顔は一つもありません」と、甥は先ほどの調子で続けた。
「それは、家の威厳への賛辞だ。我が家がその威厳を保ってきたやり方にふさわしい賛辞だ。ふむ!」そう言って侯爵は再び軽くスナッフをつまみ、脚を優雅に組み替えた。
しかし甥がテーブルに肘をつき、物思いに沈みながら手で顔を覆ったとき、あの仮面のような顔は、無関心を装うには不似合いなほど鋭く、執拗で敵意に満ちた目つきで横目に甥を見つめた。
「抑圧こそが唯一永続する哲学だ。恐怖と奴隷根性による暗い敬意――友よ」と侯爵は言った。「それが鞭に犬どもを従わせてくれる、この屋根が」天井を見上げながら「空を遮る限りは。」
それも、侯爵が思うほど長くは続かぬかもしれなかった。もしその夜、ほんの数年後のシャトーや、同じようなシャトーがどうなっているかの絵を見せられていたなら、彼は、焼け焦げ、略奪され、廃墟と化したその惨状から、自分のものを見分ける自信を失ったことだろう。彼が自慢した屋根も、その鉛が十万挺のマスケット銃から発射され、死体の目から永遠に空を遮るという新たな役割を担っているのを、目の当たりにしたかもしれない。
「ともかく」と侯爵は言った。「君がやらぬなら、私が一族の名誉と安寧を守ってみせよう。だが君も疲れただろう。今夜の話し合いはこれで終わりにするか?」
「もう少しだけ。」
「いくらでも。」
「伯爵、我々は過ちを犯し、その報いを受けているのです。」
「我々が過ちを犯した?」と侯爵は問いかけるような微笑みで、まず甥を、次いで自分を指さした。
「我が家です。我々の名誉ある家です。その名誉はあなたと私にとって、大変重要なものです――やり方は違いますが。父の代にさえ、我々は数多の過ちを重ね、我々の快楽――どのようなものであれ――の邪魔になる者は、誰であれ傷つけてきました。なぜ父の代だけを言うのでしょう、あなたの代でもあったのに。父の双子の兄であり、共同相続人であり、後継者であるあなたと彼とを、私は切り離せません。」
「それは死がやったことだ!」と侯爵。
「そして私に残されたのです」と甥。「この恐るべき体制に縛られ、その責任を負わされながらも、何の力も持たず、敬愛する母の最後の願いを果たし、その最期のまなざしに従おうと努め、救いと力を求めて苦しみながら、無為に終わっているのです。」
「私にそれを求めるのか、甥よ」と侯爵は彼の胸を指で軽く突きながら言った。彼らは暖炉の脇に立っていた。「君が私に頼る限り、君の願いは決して叶うことはないと断言しよう。」
侯爵の顔の白さに走る鋭い直線は、すべて残酷に、狡猾に、固く結ばれていた。彼はスナッフの箱を手に静かに甥を見つめていた。再び、その指で甥の胸を軽く突き、それはまるで小さな剣の切っ先で、巧みに相手の体を貫くようだった。そして言った。
「友よ、私は自分の生きてきた体制とともに死ぬつもりだ。」
そう言ってから、彼は最後のスナッフをつまみ、箱をポケットにしまった。
「理性ある人間らしく、己の宿命を受け入れるのがよい」と、彼はテーブルの小さなベルを鳴らした後で付け加えた。「だが、君はもう駄目だ、シャルル殿。」
「この財産も、フランスも、私には失われました」と甥は悲しげに言った。「私はそれらを放棄します。」
「君が放棄できるものなのか? フランスはともかく、財産もか? 取るに足らぬことだが、本当にそうなのか?」
「私がそう言ったのは、今すぐ主張するつもりがあったわけではありません。もし明日、あなたから私にそれが譲られたなら――」
「それはまずあり得ぬことと自負しているが。」
「――あるいは二十年後でも――」
「それならばうれしいね」と侯爵。「その仮定の方がいい。」
「――その時はそれを捨てて、別の場所で別の生き方をします。それを手放すことなど、たいしたことではありません。悲惨と荒廃の荒野に過ぎないのですから!」
「ふむ!」と侯爵は贅沢な部屋を見渡した。
「ここは見た目には美しいですが、全体を、空の下で、昼の光で見れば、浪費と荒廃、搾取、負債、抵当、圧政、飢え、裸、苦しみの崩れかけた塔に過ぎません。」
「ふむ!」再び侯爵は満足げに言った。
「もしもこれが私のものになったら、(もし可能であれば)ゆっくりとでも、この地を苦しめる重荷から解放できるような、よりふさわしい誰かに任せます。そうして、ここに縛られ、耐えうる限りまで搾り取られてきた哀れな人々が、次の世代には少しでも苦しまなくて済むようにしたい。しかし、それは私のためではない。ここにも、この土地全体にも呪いがかかっているのです。」
「では、君は?」と伯爵。「失礼だが、新しい哲学とやらのもとで、君はどう生きるつもりだね?」
「私は、生きるためにやらざるを得ません。貴族であっても、いずれ同じことをしなければならなくなるかもしれない――働くのです。」
「たとえばイギリスで?」
「はい。一族の名誉は、爵下、この国では私のせいで傷つくことはありません。別の国で傷つくこともありません、なぜなら私は、その国で我が名を名乗ることはありませんから。」
ベルを鳴らしたことで、隣室の寝室が明るく照らされた。今や明るい光が、仕切りの扉から差し込んできた。侯爵はそちらを見やり、従者が去る足音を聞いていた。
「イギリスは君にはずいぶん魅力的なようだね、あちらでの成功もいまひとつだったのに」と、穏やかな顔でにっこり笑い、甥に向き直って言った。
「そちらでの成功は、ひょっとすると爵下のおかげかもしれないと、すでに申し上げました。それ以外は、私にとっての避難所です。」
「自慢好きなイギリス人は、あそこが多くの人の避難所だと言う。君も、そこで避難所を見つけた同胞を知っているね? 医者だろう?」
「はい。」
「娘がいる?」
「はい。」
「なるほど」と侯爵。「君は疲れている。おやすみ!」
侯爵は最も宮廷的な所作で頭を下げつつ、その微笑の奥に隠された秘密めいた雰囲気を漂わせ、言葉に謎めいた響きを混ぜて甥の目と耳に強い印象を残した。同時に、細い直線的な目元と唇、鼻筋が、皮肉に美しくも悪魔的な曲線を描いていた。
「そうだ、医者に娘。そうだ。これが新しい哲学の始まりか! 君は疲れている。おやすみ!」
その顔に問いを投げても、シャトーの外壁にある石像の顔に問いかけるのと同じくらい無意味だった。甥は、すれ違いざまに顔を見上げたが、無駄だった。
「おやすみ!」と伯爵は言った。「また朝、お目にかかるのを楽しみにしている。良い眠りを! 甥殿を部屋まで案内してくれ――そして、よければ甥殿をベッドごと焼いてしまえ」彼は心の中でそう付け加えると、再びベルを鳴らして自室に従者を呼んだ。
従者が来て去ったあと、モンスニョール侯爵はゆったりした室内着で部屋を行き来し、熱く静かな夜に穏やかに眠る準備をしていた。柔らかなスリッパの足音も立てず、虎のように静かに部屋を歩き回った――まるで昔話に出てくる、悔悟なき邪悪な侯爵が、定期的に虎に変身するその変身の途中かのように。
彼は贅沢な寝室の隅から隅へと歩きながら、思いがけず浮かんでくる旅の断片を思い返した。夕暮れの丘を上る苦しい道のり、沈む夕日、下り坂、製粉所、岩山の上の牢獄、谷間の小さな村、泉で水を汲む農民たち、そして青い帽子の道直しが馬車の下の鎖を指し示していたこと。あの泉はパリの泉を思い起こさせ、小さな包みが石段に横たわり、女たちがそれを覗き込み、腕を上げて「死んだ!」と叫ぶ背の高い男がいた。
「もう気が済んだ」と侯爵は言った。「寝るとしよう。」
こうして、大きな暖炉に灯りを一つだけ残し、薄手のカーテンを下ろして身を包み、静寂を破る夜の長い吐息を聞きながら眠りについた。
シャトーの外壁の石像たちは、漆黒の夜を盲目に三時間も見つめていた。その間、馬小屋の馬たちは柵をがたがた鳴らし、犬たちは吠え、フクロウは詩人たちが決まって描写するさえずりとは似ても似つかぬ声を上げていた。だが、こうした生き物たちは、決められた通りの鳴き声などほとんど出さぬものだ。
三時間のあいだ、シャトーの石像たち――獅子も人間も――はじっと夜を見つめていた。あたり一面に死のように深い闇が広がり、道の埃に溶け込む静けさをさらに深めていた。墓地では、わずかな草の盛り上がりももう区別できず、十字架の像も、何も見えなければ降りてしまったかのようだった。村では、徴税人も納税者もぐっすり眠っていた。飢えた者が夢で宴を見、駆り立てられる奴隷や牛が安らぎと休息を夢見るように、やせ細った村人たちも、よく眠り、飢えも束の間満たされ、解放された。
村の泉は、誰にも見られず、誰にも聞かれずに流れていた。シャトーの泉も同じく人知れず滴り落ちていた――どちらも、時の泉からこぼれ落ちる分のように、三時間の暗闇の中に消えていった。やがて、どちらの泉の水も、夜明けの光に青白く浮かび上がった。シャトーの石像の目も開いた。
やがて空が明るくなり、太陽が静かな木々の梢を照らし、丘に光が注がれた。その輝きの中で、シャトーの泉の水はまるで血のように赤く見え、石像の顔も紅に染まった。鳥たちのさえずりが高らかに響き、シャトーの大きな窓の古びた窓枠には一羽の小鳥が、力いっぱい最も美しい歌を歌った。それに驚いたかのように、石像の顔は、口も開き、あごも落ち、畏怖に満ちて見つめ返した。
今や太陽は完全に昇り、村にも動きが生まれた。窓が開き、きしむドアが外され、人々が身震いしながら――新しい爽やかな空気にまだ体が冷えたまま――外に出てきた。そして、村人たちの、めったに軽くなることのない一日の労働が始まった。誰かは泉へ、誰かは畑へ。男も女も、こちらでは土を掘り耕し、あちらでは家畜の世話をし、骨と皮ばかりの牛を道端のわずかな草場に連れ出す。教会や十字架のもとには、ひざまずく人影もちらほら。十字架のふもとで祈る者の側で、つながれた牛が雑草を朝食にしようと首を伸ばしていた。
シャトーは、その身分にふさわしく、村より遅く目覚めたが、確実に覚醒を始めていた。まず、狩猟用の槍やナイフが昔通り赤く染まり、やがて朝日に鋭く輝き、いまや扉や窓が開かれ、馬小屋の馬たちは差し込む光と新鮮な空気に肩越しに振り向き、葉は鉄格子の窓できらめき舞い、犬たちは鎖を引き、放してくれと身を起こしていた。
これらの些細なことは、日常と朝の訪れに過ぎなかった。だが、シャトーの大きな鐘の響き、階段を上り下りする足音、テラスに急ぐ人影、あちこちで靴音と足音が響き、馬を急いで鞍付けし、誰かが駆けて出ていくその慌ただしさは、きっと違った。
その慌ただしさを、村外れの丘の上で、もう仕事を始めていた白髪の道直しが、どんな風に感じ取っただろうか。彼の昼食は(たいしたものではなかったが)包みにして石の山の上に置かれ、カラスですらついばむ価値もなかった。鳥たちが偶然、彼の頭上に種を落としたことがあったかもしれない。いずれにせよ、その道直しは、命がけの勢いで、埃を膝まで上げながら丘を駆け下り、泉に着くまで一度も止まらなかった。
村人は皆、泉のまわりに集まり、気落ちした様子で低くささやき合っていたが、興味や驚き以上の感情は見せていなかった。急いで連れてこられ、ありあわせに繋がれた牛たちは、まぬけな顔で輪の中にいたり、さして収穫もない草を反芻していた。シャトーの使用人の何人か、馬車宿の者たち、そして徴税役人は、それぞれ武装して、村の通りの向こう側に意味もなく群がっていた。すでに道直しは50人もの友人たちの輪に分け入って、青い帽子で自分の胸を叩いていた。これは何を示すのか、ガベル氏が召使いの背に馬で素早く乗せられ、二人乗りにもかかわらず馬が全速力で走り去る、あの出来事は何を意味するのか――まるでドイツのバラード『レオノーラ』の新演出のごとく。
それは、シャトーには「石の顔」が一つ多すぎた、という予兆だった。
ゴルゴン[訳注:ギリシャ神話の怪物、石に変える力を持つ]は夜のうちに再びこの建物を見回し、待ち望んでいた最後の石の顔を加えたのだった――二百年のあいだ待ち続けていた、その石の顔を。
それはモンスニョール侯爵の枕元に横たわっていた。まるで上品な仮面が突然驚き、怒り、石化したかのようだった。その石像の心臓に、ナイフが突き刺さっていた。柄には紙のひだ襟が巻かれ、そこにはこう書かれていた。
「彼を速やかに墓へ運べ。ジャックより。」
第十章 二つの約束
さらに十二か月が過ぎ、チャールズ・ダーネイ氏はイギリスで、フランス語とフランス文学に精通した高等教師として身を立てていた。この時代なら「教授」と呼ばれただろうが、当時は「家庭教師」だった。世界中で話される生きた言語の学習に、暇と興味のある若者たちに読み書きを教え、その知の宝庫と想像力の妙味を伝えた。また、優れた英語でそれらについて書くこともできたし、正確に英訳することもできた。当時、このような家庭教師は簡単には見つからなかった。かつての王子も、将来の王も、まだ「先生」ではなかったし、没落貴族がテルソン商会の帳簿から転じて料理人や大工になることもなかった。学生にとって学びの道を格段に快適で有益にした彼の資質と、辞書的知識以上のものを備えた洗練された翻訳者として、若きダーネイ氏はすぐに評判となり、励まされた。さらに、彼は自国の事情にも精通しており、そのことが日増しに関心を集めていた。こうして不屈の努力と根気強い勤勉さで、彼は成功を収めていった。
ロンドンで、彼は黄金の舗道を歩いたり、バラのベッドに寝ころぶことなど期待してはいなかった――もしそんな期待を抱いていたら、彼も成功しなかっただろう。労働を予期し、実際に働き、最善を尽くした。それが彼の成功の秘訣だった。
彼は時間の一部をケンブリッジで過ごし、そこでは学部生たちに「密輸業者」さながら、ギリシャ語やラテン語ではなく欧州諸語を教えることを黙認されていた。残りの時間はロンドンで過ごした。
さて、エデンがいつも夏だった日々から、今や堕落した緯度に冬が支配するこの時代に至っても、男の世界は常に同じ道をたどってきた――チャールズ・ダーネイの道、ひとりの女性を愛する道を。
彼は、危機のその時からルーシー・マネットを愛していた。彼女の慈愛に満ちた声ほど甘く、愛おしい響きを聞いたことはなかったし、死の縁に立たされた自分と対峙した、あの優しさに満ちた美しい顔ほど美しいものを見たことはなかった。しかし、彼はまだ彼女にその想いを一度も告げていなかった――遥か彼方、荒れ果てたシャトーでの暗殺から一年が過ぎ、その石造りのシャトーも今や夢の霞のごとくなっていたが、彼は一言たりとも、心の内を明かしたことはなかった。
彼にはそうしなかった理由があると自覚していた。最近、大学の仕事からロンドンに戻った彼は、ある夏の日、ソーホーの静かな一角に足を向け、マネット博士に心のうちを打ち明ける機会を得ようとしていた。夏の終わり近く、ルーシーがミス・プロスと出かけているのを知っていた。
博士は窓辺の肘掛け椅子で読書中だった。彼を支えてきた、苦難の中で育まれたあのエネルギーは徐々に回復し、今や非常に精力的な人物になっていた。目的の強さ、決意の堅さ、行動力に富んでいた。回復した能力と同様に、時に気まぐれで突然のところもあったが、それは次第に稀になっていった。
博士はよく学び、ほとんど眠らず、疲労にも強く、常に穏やかで朗らかだった。そこにチャールズ・ダーネイが入ってきた。博士は本を脇に置き、手を差し伸べた。
「チャールズ・ダーネイ! 会えてうれしいよ。君の帰りをここ数日ずっと待っていた。ストライバー氏もシドニー・カートンも昨日来て、君のことをだいぶ遅れていると言っていたよ。」
「ご心配いただき恐縮です」と、ダーネイはふたりに対してはやや冷たく、博士にはとても温かく答えた。「ミス・マネットは――」
「元気だよ」と博士は途中で言葉を遮った。「君の帰りを皆楽しみにしている。彼女はちょっと用事で出かけているが、すぐ帰るだろう。」
「博士、彼女が留守と知ってきました。彼女がいない今、ぜひお話ししたいことがあるのです。」
沈黙があった。
「そうかね?」博士は明らかに緊張した様子で言った。「ここに椅子を持ってきて、話しなさい。」
椅子には従ったが、話しだすのは容易ではなさそうだった。
「私はこの一年半、ここで親しくさせていただく幸運に恵まれまして……」と、ついに口を開いた。「これからお話しすることが……」
博士は手を差し出して制止した。しばらくそのままにして、手を引っ込めるとこう言った。
「ルーシーのことかね?」
「その通りです。」
「私は、いつでも彼女のことを話すのは辛い。君がその口調で話すのを聞くのも、とても辛いよ、チャールズ・ダーネイ。」
「それは、熱烈な憧れと真摯な敬意、深い愛情のこもった口調です、博士!」と、ダーネイは敬意を込めて言った。
再び沈黙が続き、やがて父が口を開いた。
「信じるよ。君を正当に評価する。信じている。」
そのぎこちなさは明らかであり、またそれがこの話題に触れたくないという消極さから来ているのも明らかだったので、チャールズ・ダーネイはためらった。
「続きを話してよろしいでしょうか?」
また沈黙。
「いいよ、続けなさい。」
「お察しの通りですが、どんなに真剣に申し上げるか、どんなに強く感じているかは、私の心の奥や長い間抱えてきた希望や恐れ、不安を知らずしてはお分かりいただけません。親愛なるマネット博士、私はあなたの娘さんを心から、深く、利害なく、献身的に愛しています。この世に愛というものがあるなら、私は彼女を愛しています。あなたもかつて愛されたでしょう、その思いが私の代弁をしてくれますように!」
博士は顔をそむけ、視線を下に落としていたが、最後の言葉に慌てて手を差し伸べ、叫んだ。
「それはやめてくれ! それには触れないでくれ! 懇願する、思い出させないでくれ!」
その叫びは、まるで本当の苦痛の叫びのようで、ダーネイの耳にいつまでも残った。博士は差し出した手で制し、ダーネイもそれに従って沈黙した。
「すまなかった」と博士はしばらくして抑えた声で言った。「君がルーシーを愛していることは疑っていない。安心してくれ。」
椅子に向き直ったが、視線は上げなかった。顎を手に乗せ、白髪が顔を覆っていた。
「ルーシーにはもう話したのかね?」
「いいえ。」
「手紙も?」
「一度もありません。」
「君の自制心が、彼女の父への配慮に基づくものであることは、知らぬふりをするのは不誠実だろう。そのことに父親として感謝している。」
博士は手を差し出したが、目は合わなかった。
「私は知っています」とダーネイは敬意を込めて言った。「どうして知らずにいられましょう、博士。私は、あなたとミス・マネットの間に、常ならぬ、感動的な、育まれた状況にふさわしい、父娘の情愛としても稀有な絆があることを、日々見てまいりました。あなたとミス・マネットの間には、成長した娘としての愛情や義務と同時に、まるで幼い日のままの信頼と愛着があることを知っています。子供時代に親を持たなかった彼女は、今はあなたに全身全霊を捧げている。もしあなたがこの世の向こう側から戻ってきたとしても、彼女の目には今以上に神聖な存在には映らなかったことでしょう。彼女があなたにすがるとき、幼子、少女、女性すべての手が、あなたの首に絡まっている。彼女は、あなたを愛することで、母を同じ年齢で愛し、あなたを私の年齢で愛し、心砕けた母、苦難と祝福の末にあなたをも愛している。私はこれを、あなたの家で知って以来、昼夜を問わず感じてきました。」
博士はうつむいたまま黙っていた。呼吸はわずかに早くなっていたが、ほかの動揺は抑えていた。
「親愛なる博士、これをずっと知り、見続けてきたので、私はできうる限り自制してきました。私の愛を――たとえ私のものであっても――あなた方の間に差し挟むことは、あなたの歴史に、それ自体に及ばぬ何かを触れさせることだと感じてきたのです。しかし私は彼女を愛しています。天に誓って、私は彼女を愛しています!」
「信じている」と博士は悲しげに答えた。「以前からそう思っていた。信じている。」
「でも、こうは思わないでください」と、ダーネイは哀切な声に打たれて言った。「もし私が幸運にも彼女を妻にできたとしても、あなたと彼女の間に何らかの隔たりを設けるつもりは、これっぽっちもありません。むしろ、それが無理だと知っていますし、卑劣なことだとも思います。もしそんな可能性を、たとえ遥か未来にでも思い描いたことがあれば――いや、もし心の奥にかすかにでもそれがあれば――今、あなたの尊い手に触れることなどできません。」
そう言って彼は自分の手を博士の手の上に重ねた。
「いいえ、親愛なる博士。あなたと同じくフランスを自ら追放され、その混乱と圧政、悲惨に追われ、あなたと同じく自分の力で生き、より幸せな未来を信じている私も、あなたの運命、生活、家庭を分かち合い、死に至るまで忠実であることだけを望んでいます。ルーシーがあなたの子であり、友であり、そばにいるという特権を奪うのではなく、それを助け、もしできるなら、より強めたいのです。」
彼の手は博士の手の上にしばらく残っていた。博士もそれに短く応えたが、冷たくはなかった。彼は椅子の肘掛けに手を置き、この会話が始まってから初めて顔を上げた。その表情には、時折現れる暗い疑念や恐れと闘う苦悩が浮かんでいた。
「チャールズ・ダーネイ、君の話し方や男らしさに心から感謝し、心を開こう――いや、ほとんど開こう。ルーシーが君を愛していると考える理由はあるかい?」
「ありません。今のところ、何も。」
「この告白の目的は、私の知るところでそれをすぐに確かめようということかい?」
「そこまでは考えていません。何週間もその勇気が持てないかもしれませんし、明日には勇気が持てるかもしれません。」
「私に何か助言を求めるのかい?」
「いいえ、博士。ただ、もし必要とあらば、何かご指示いただけるのではと思ったまでです。」
「何か約束を望むのかい?」
「はい。」
「どんな約束かな?」
「あなたなしには希望が持てないことは、よく理解しています。たとえミス・マネットが私を心に留めていたとしても――そんな僭越なことは思いませんが――あなたへの愛には到底敵いません。」
「だとすれば、逆に何が含意されるか分かるかい?」
「同じくらいよく分かっています。彼女の父の一言が、本人や世間すべてに勝る重みを持つことも。だからこそ、博士、私はたとえ命が懸かっても、その一言を求めません。」
「よく分かっている。チャールズ・ダーネイ、親密な愛からもまた秘密は生まれる。私の娘ルーシーもこの点で私には謎だ。彼女の心の内はまったく見当がつかない。」
「お尋ねしますが……」ダーネイは言い淀み、博士が続けた。
「他の求婚者がいるか、だね?」
「そのつもりでした。」
博士は少し考えてから答えた。
「君もカートン氏をここで見ただろう。ストライバー氏も時折来ている。もしあるとすれば、そのどちらかだろう。」
「あるいは両方」とダーネイ。
「両方は考えていなかったが、どちらも可能性は低いと思う。さて、君は私に約束を望んでいる。どんな内容か聞かせてくれ。」
「それは、もしミス・マネットがいつか、ご自身の意思で私のような告白をお父様にしたとき、私が申し上げたこと、そして私を信じてくださったことを証言していただきたいのです。できれば、私に不利な影響力を及ぼさないでください。それ以上は申しません。それが私の願いです。条件があるなら、すぐに従います。」
「何の条件もなく、その約束をしよう」と博士は言った。「君の目的が純粋に、誠実であることを信じている。君の意図は、私と私の最愛の存在との絆を弱めるのでなく、永続させるものだと信じている。もし彼女が君こそが完全な幸福に不可欠だと言うなら、私は彼女を君に託そう。もし――チャールズ・ダーネイ、もし……」
青年は感謝を込めて手を握った。二人の手が重なり、博士は言った。
「――たとえ彼女が本当に愛する男性について、私に何らかの疑念や理由、不安、いかなる新旧の障害があっても、それが彼の責任でない限り、娘のためにすべて消し去ろう。彼女は私にとってすべてだ。苦しみよりも、不正よりも、私には……まあ、こんな話は意味がないな。」
博士が急に黙り込み、呆然とした眼差しを浮かべたのはあまりに奇妙だったので、ダーネイは握られた手が冷たくなっていくのを感じた。
「何か私に言ったね」と博士は微笑んで言った。「何だったかな?」
ダーネイは答えに迷ったが、条件について話した記憶が蘇って安堵し、こう答えた。
「私を信じてくださったご恩には、私も全幅の信頼でお応えしたいのです。いまの私の名前は母の姓を少し変えたものにすぎません。ご記憶の通り、本当の名ではありません。本名と、なぜイギリスにいるのかをお話ししたい。」
「待ちなさい!」とボーヴェの博士が言った。
「それを申し上げることで、より一層信頼に値する者となり、隠し事を無くしたいのです。」
「待ちなさい!」
博士は一瞬、両手で耳をふさぎ、また一瞬、両手をダーネイの唇に当てた。
「私が尋ねたときに話してくれ、今ではない。もし君の願いが叶い、ルーシーが君を愛するようになったら、結婚式の朝に話してくれ。約束できるか?」
「喜んで。」
「握手しよう。彼女はすぐ帰ってくる。今夜は二人で会っているところを見られない方がいい。もう行きなさい! 神のご加護を!」
ダーネイが帰る頃にはもう暗くなっており、ルーシーが帰宅したときにはさらに夜が更けていた。彼女はミス・プロスがすぐに自室に上がったので、一人で部屋に入ると、父の椅子が空なのに驚いた。
「お父さん!」と彼女は呼んだ。「父さん!」
返事はなかったが、寝室から低い金槌の音が聞こえた。中間の部屋をそっと通り過ぎて、彼女は寝室を覗き、怖くなって走って戻り、「どうしたらいいの、どうしたらいいの!」と血の気を失いながら自問した。
その迷いは束の間だった。彼女は駆け戻って、そっと扉を叩き、優しく声をかけた。彼は声に気づいて音を止め、やがて出てくると、二人でしばらく廊下を行ったり来たりした。
その晩、彼女は父の眠りを確かめにベッドから下りてそっと部屋を覗いた。父は深く眠っており、靴作りの道具と未完成の古い仕事も、いつも通りだった。
第十一章 対の肖像
「シドニー」とその同じ夜、あるいは朝、ストライバー氏が「ジャッカル」たるカートンに言った。「もう一杯パンチを作ってくれ。話がある。」
シドニーは、今夜も、昨夜も、そのまた前の夜もずっと、秋の長い休暇を前にストライバー氏の書類を片付けるため、二重の労働をこなしていた。ついに片付き、ストライバー氏の滞留分も見事に処理され、十一月の霧(天候の霧、法律の霧)とともにまた仕事が舞い込むまで、すべて片付いた。
シドニーは、その努力の分、陽気にもならず、しらふにもならなかった。夜を乗り切るのに、ずいぶん冷たいタオルを頭に巻く必要があったし、それに比例して酒も多く飲んだので、六時間もターバンを濡らしては外しを繰り返し、今はかなりくたびれていた。
「もう一杯パンチはできたか?」と、堂々たる体格のストライバーが、腰帯に手を突っ込んでソファに仰向けになりながら言った。
「作ってるよ。」
「さて、ちょっと驚かせることを言うぞ。君がいつも思ってるほど俺は抜け目ない男じゃないかもしれない。俺は結婚するつもりだ。」
「そうなのか?」
「ああ。しかも金目当てじゃない。どうだ?」
「特に何も言う気はない。誰だ?」
「当ててみろ。」
「知ってる人か?」
「当ててみろ。」
「朝の五時に、頭が煮えたぎってる状態でクイズに答える気はない。俺に当てさせたいなら、夕飯に招待してくれ。」
「じゃあ教えてやろう」とストライバーはゆっくり体を起こしながら言った。「シドニー、君には俺のことを分かってもらうのは難しそうだ。君はまるで鈍感な奴だ。」
「そして君は」と、パンチを作りながらシドニーが返した。「なんて繊細で詩的な魂なんだ――」
「来い!」とストライバー氏は自信満々に笑いながら言った。「私はロマンチックの権化だなどと自負する気はない(それくらいの分別はあるつもりだ)が、それでも君よりは情にもろい人間だよ。」
「もしそういう意味なら、君はただ運がいいだけさ。」
「そんなことはない。私はもっと……もっと……」
「せっかくだから、“男気”と言っておいたらどうだ?」とカートンが助け舟を出した。
「いいだろう! 男気と言おう。私が言いたいのはね」とストライバー氏はパンチを作りながら胸を張り、「私は君よりも女性の前では愛想よくしようとし、気を配り、どうすれば感じよく振る舞えるかを心得ている男だ、ということさ。」
「続けてくれ」とシドニー・カートン。
「いや、続ける前に」とストライバー氏は横柄に首を振りながら、「一つ君と決着をつけておきたい。君は僕と同じくらい、いやそれ以上にマネット博士の家に通っているじゃないか。君の不機嫌な態度が恥ずかしかったよ! 君の態度は、黙りこくって陰気で、まるで罪人みたいで、まったく、僕は君のことが恥ずかしかったよ、シドニー!」
「君の弁護士業にとって、何かを恥じることがあるなんて有益なことだろうね」とシドニーが返した。「僕に感謝すべきだ。」
「そんな言い逃れは許さんぞ」とストライバー氏は言い返し、肩でカートンの反論を押し返すようにして続ける。「いや、シドニー、君のためにもはっきり言っておくが、君はああいう場では実に感じの悪い男だ。君は嫌われ者だよ。」
シドニーは自分が作ったパンチを一気に飲み干して、笑った。
「僕を見ろ!」とストライバー氏は体を大きく見せて言った。「君より経済的に自立している分、愛想よくする必要は少ないが、なぜそうすると思う?」
「君が愛想よくしているところなんて、まだ一度も見たことないが」とカートンはぼそりと言った。
「それは得策だからだ。原則としてやっている。見てみろ、僕はうまくやっているだろう。」
「君の結婚の話がちっとも進まないな」とカートンが無関心そうに返す。「その話だけにしてくれよ。僕については――君はいつになったら、僕がどうしようもない人間だと理解するんだ?」
彼はどこか軽蔑するような様子でそう問いかけた。
「君がどうしようもない人間である理由はないはずだ」と友人は穏やかではない口調で応じた。
「僕に理由なんてないよ」とシドニー・カートンは言った。「で、相手は誰だい?」
「いいかい、シドニー、名前を聞いても気にしないでくれよ」とストライバー氏は、これから明かすことに妙に親しげな態度で前置きをした。「君が言うことの半分も本気じゃないのは知っているし、もし全部本気だとしても大したことじゃない。こう前置きするのは、以前君がその若い女性のことを軽く言ったことがあったからさ。」
「僕が?」
「確かに。しかもこの部屋で。」
シドニー・カートンはパンチを見てから、満足げな友人を見た。そしてパンチを飲み、改めて友人を見た。
「君はその若い女性のことを金髪のお人形と呼んだよ。その女性とはマネット嬢だ。もし君が、そういうことに敏感で繊細な男だったなら、僕もその呼び方には腹が立ったかもしれない。でも君は違う。君にはそういう感覚がまるでないから、絵画に無関心な男に自分の絵を酷評されても、音楽がわからない男に自分の曲を酷評されても、僕は気にしないだろう。」
シドニー・カートンはパンチを次々にグラスで飲みながら、その友人を見つめていた。
「これで全部わかっただろう、シド」とストライバー氏は言った。「財産なんて気にしない。彼女は素晴らしい女性だし、僕は自分の気持ちに従うつもりだ。全体として、自分の好きにできるだけの余裕はある。彼女は裕福で、将来有望で、一定の地位のある男を手に入れることになる。それは彼女にとって幸運なことだが、彼女にはその価値がある。驚いたかい?」
カートンはパンチを飲みながら答えた。「なぜ驚く必要がある?」
「賛成してくれるか?」
カートンはまたもパンチを飲みながら答えた。「なぜ反対する必要がある?」
「ふむ!」とストライバー氏は言った。「君は思ったよりあっさり受け入れるし、僕のために損得勘定で反対する気配もない。もっとも、君も僕が相当意志が強い男だとよく知っているだろうしね。そうだ、シドニー、もうこの生活には飽きたし、変化もない。家を持つのはいいことだと思う(行きたい時に帰れるし、行きたくなければ行かなくていい)、マネット嬢ならどんな立場でも立派にやれるし、僕の名誉にもなる。そう決めたんだ。さて、今度は君の将来について一言言わせてくれ。君の今の生活は良くない、本当に良くないよ。お金の価値がわかっていないし、体も壊すし、そのうち病気か貧乏になる。看護してくれる人を考えたほうがいい。」
この繁栄者らしい後見ぶった口ぶりが、彼を実際の二倍も大きく、四倍も嫌味に見せていた。
「そこで君に勧めたい」とストライバーは続けた。「現実を見つめるんだ。僕は僕なりに見つめたから、君も君なりに見つめるといい。結婚しろ。君の面倒を見てくれる人を見つけろ。女性との付き合いが楽しめなくても、理解できなくても、気が利かなくても構わない。きちんとした女性で、少し財産のある――下宿屋か、貸間屋辺りの女性を選んで、いざという時のために結婚しておくんだ。それが君には合っている。考えてみろ、シドニー。」
「考えてみるよ」とシドニーは言った。
第十二章 繊細な男
ストライバー氏は、マネット博士の娘に対してこの寛大なる幸運の申し出を心に決めて、ロングバケーションで町を離れる前に、彼女に自分の意志を伝えようと決意した。あれこれ内心で思案した末、下準備は全て済ませてしまい、その後はミカエルマス学期の一、二週間前にするか、それともその後のクリスマス休暇にするか、ゆっくり相談すればいいと考えた。
自分の勝算については一切疑いがなかったし、判決までの道筋も明確に見えていた。この世で考慮すべき唯一の現実的な理由――つまり実利的な理由――で陪審に説けば、簡単明瞭な案件で、隙はない。原告側証人として自分自身を呼び出し、証拠に異議はなく、被告側弁護士は弁護放棄、陪審員は評議すらしない。裁判官ストライバーとしても、これ以上明快な案件はないと満足した。
こうしてストライバー氏は、ミス・マネットをヴォクソール・ガーデンズに正式に誘うことでロングバケーションを始めた。それが駄目ならラネラに、それもなぜか駄目なら、ソーホーへ出向いて自らの高潔な心を表明すべきだと考えた。
このようにして、ストライバー氏はテンプルからソーホーへと力強く進撃した。ロングバケーションが始まったばかりの頃だった。もし彼がテンプル・バーのセント・ダンスタン側にまだいるうちに、そのソーホー方面への突進ぶりを見た者がいれば、いかに彼が自信満々で盤石な気持ちだったかがわかったことだろう。
道すがらテルソンズ銀行の前を通りかかり、ストライバー氏自身もテルソンズに口座があり、ローリー氏がマネット家と親しいことも知っていたので、ストライバー氏は銀行に立ち寄って、ソーホーの未来の明るさをローリー氏に伝えようと思いついた。彼は喉を鳴らすような音を立てて扉を押し開け、二段の階段を降り、年老いた二人の出納係をすり抜けて、ローリー氏が数字のための大判帳簿に向かい、窓には縦の鉄格子がまるで計算枠のように取り付けられた、埃っぽい奥の書斎に押し入った。まるでこの世のすべてが計算で成り立っているかのような部屋だった。
「やあ!」とストライバー氏。「ご機嫌いかがですか?」
ストライバー氏の特長は、どんな場所にいても空間が狭すぎると感じさせることだった。テルソンズ銀行でも彼はあまりに存在感が大きく、遠くの隅にいる古株の行員たちも、彼に押しつぶされそうな顔で見上げていた。銀行そのものさえ、彼の頭が責任あるベストの中に突っ込まれたかのように不満げだった。
慎重なローリー氏は、状況下で推奨される声色の見本のような調子で「ご機嫌いかがですストライバーさん。ご機嫌いかがですか」と言って握手をした。その握手の仕方は、テルソンズの顧客に行員が握手する際に見られる、いかにも「テルソン商会のために」自分を抑えたやり方だった。
「何かご用でしょうか、ストライバーさん?」とローリー氏は商売口調で尋ねた。
「いや、ありがとう。今日は個人的にお邪魔したんだよ、ローリーさん。ちょっと個人的な話があってね。」
「そうですか」とローリー氏は耳を傾けつつ、目は銀行奥にさまよわせる。
「私はですね」とストライバー氏は信頼しきった様子でデスクに腕を乗せた。すると、いくら大きな二人用のデスクでも、彼には半分も足りないように見えた。「あなたの親しいお友達のマネット嬢に、結婚申し込みをしようと思っているんです、ローリーさん。」
「おやまあ!」とローリー氏は顎に手を当てて、いぶかしげに来客を見つめた。
「おやまあ、ですって?」とストライバー氏は身を引いて言った。「おやまあ、とはどういう意味ですか、ローリーさん?」
「私の意味は、もちろん友好的かつ感謝の気持ちからでして、あなたのご判断を称賛しますし――要するに、あなたのご希望通りの意味です。しかし――本当にですね、ストライバーさん――」ローリー氏は言いかけて首を振ったが、その様子はまるで「世の中にあなたほど大きすぎる人はいませんよ!」と内心で付け加えざるを得なかったようだった。
「ほう!」とストライバー氏はデスクを手で叩き、目を大きく見開き、深呼吸して言った。「あなたの言っていることが理解できたら首をくくってもいいですよ!」
ローリー氏は両耳のカツラを整え、ペンの羽根を噛みしめた。
「まったくですね!」とストライバー氏はローリー氏をじっと見た。「私は結婚相手として不適格だと?」
「いやいや、そんなことありません、ストライバーさん。あなたは十分資格があります。」
(以降もご要望があれば続きの翻訳をお届けできます)
息子は言われた通りにし、群衆が近づいてきた。彼らは、薄汚れた霊柩車と同じく薄汚れた喪車のまわりで、怒鳴り声を上げたりヤジを飛ばしたりしていた。その喪車には、地位の威厳にふさわしいとされた、くすんだ黒衣を身にまとったたった一人の弔問者が座っていた。だが、周囲の野次馬がどんどん増えて車を取り囲み、彼をあざけり、変顔をして見せ、絶え間なくうめき声や叫び声を上げて「やぁ! スパイだ! チッ! やぁは! スパイ!」などと口々に罵倒するのに、彼はまったく満足していないようだった。そのほかにも、あまりに多く、あまりに手厳しい言葉が飛び交っていたため、ここに繰り返すのははばかられるほどであった。
クランチャー氏はいつの時代も葬式に特別な興味を持っており、テルソン銀行の前を葬列が通るたびに、必ず神経をとがらせ興奮していた。当然ながら、このように異様な行列を伴った葬式となれば、彼はひときわ興奮し、最初にぶつかった男に尋ねた。
「何ごとだ、兄弟? 何が起きてるんだ?」
「さあな」と男は答えた。「スパイだ! やぁは! チッ! スパイだ!」
今度は別の男に聞いた。「誰の葬式なんだ?」
「私も知らん」とその男は言いながらも、両手を口にあて、驚くほど熱心に大声で「スパイだ! やぁは! チッ、チッ! スパーーイ!」とわめいた。
ついに、もう少し事情に通じている人物がぶつかってきて、クランチャー氏はその人物から、この葬式がロジャー・クライのものであることを知った。
「やつはスパイだったのか?」とクランチャー氏は尋ねた。
「オールド・ベイリーのスパイさ」とその人物は答えた。「やぁは! チッ! やぁ! オールド・ベイリーのスパーーイ!」
「そりゃそうだ!」とジェリーは、自分が立ち会った裁判を思い出して叫んだ。「あいつを見たことがある。死んだのか?」
「羊の死骸よりも死んでるさ」ともう一人が言った。「もっと死んでもいいくらいだ。引きずり出せ! スパイだ! 引きずり出せ!」
なんの考えもない群衆にはこの発想がすっかり気に入られ、「引きずり出せ!」「表に出せ!」と声をそろえて繰り返しながら、霊柩車と喪車のまわりにますます殺到して、ついに車を動けなくしてしまった。やがて群衆が喪車の扉を開けると、たった一人の弔問者が自ら飛び出してきて、一時は群衆の手に落ちたものの、素早い身のこなしで身軽に逃げ出し、コートや帽子、長い喪章、白いハンカチ、その他の象徴的なアイテムを脱ぎ捨てながら、脇道へと駆け去っていった。
残された品々は、群衆によってバラバラに引き裂かれ、歓声とともに四方八方にまき散らされた。商人たちはあわてて店を閉めた。というのも、当時の群衆は何をしでかすかわからぬ怪物のようなもので、誰もが恐れていたからである。すでに霊柩車を開けて棺を引きずり出そうとする者もいたが、もっと賢明な誰かが、むしろ棺を目的地まで歓声の中で護送するのがよいと提案した。実際的な提案が求められていたため、この案も喝采をもって受け入れられ、たちまち喪車の中には八人、外には十二人が乗り込み、霊柩車の屋根にも乗れるだけの人がしがみついた。その中でも最初の志願者の一人が、ジェリー・クランチャーで、テルソン銀行の目を逃れるように、喪車の奥の隅で自分のとげとげ頭を慎ましく隠した。
葬儀屋たちは儀式の変更に抗議したが、川がすぐそばにあり、「冷たい水に浸せば逆らう者も改心する」という声もあったため、彼らの抗議はか細く短いものとなった。こうして行列は出発し、煙突掃除人が霊柩車を運転し(運転手はその横で厳しく監視しつつアドバイス役に収まった)、パイ売りがその「閣僚」とともに喪車の手綱を握った。人気の大道芸人ベアリーダーも加わり、その連れている黒くてみすぼらしい熊が、行列に一層「葬儀らしさ」を添えた。
こうして、ビールを飲み、パイプをくゆらせ、歌をがなり、悲しみに満ちた顔をおどけて見せながら、この無秩序な行列は進み、歩みのたびに仲間を増やし、前を行く店々はみな店を閉じていった。目的地は、遠く野原の中にある古いセント・パンラス教会だった。やがて行列はそこへたどり着き、群衆は墓地へなだれ込んで、ついには亡きロジャー・クライの埋葬を、彼らなりの流儀で、そして満足げに終わらせた。
死者の始末がつき、群衆が次なる娯楽を求めると、また別の、あるいは同じ「天才」が通行人を「オールド・ベイリーのスパイ」と決めつけて制裁を加えることを思いついた。こうして、オールド・ベイリーに一度も近づいたことのない数十人の無実の人々が、追いかけられ、乱暴に扱われた。やがて遊びは窓ガラス割りへ、さらに居酒屋の略奪へと自然に発展した。数時間後には、いくつものあずまやが壊され、鉄柵が引き抜かれ、より好戦的な者たちの武器となった。「近衛隊がやってくる」という噂が流れると、群衆は徐々に解散した。実際に近衛隊が来たのか来なかったのかは定かでないが、これがいつもの暴徒の「一部始終」であった。
クランチャー氏は最後の騒動には加わらず、教会の墓地に残って葬儀屋たちと談笑し、慰めあっていた。この場所は彼に安らぎを与えた。彼は近くのパブからパイプを手に入れ、鉄柵越しに墓地を眺めながら、じっくりとその場所について思いを巡らせた。
「ジェリーよ」とクランチャー氏は、いつものように自分に語りかけた。「あの日、そこのクライを見たな。確かにこの目で見た、若くて体つきもよかった。」
パイプを吸い終え、しばらく思案したのち、彼はテルソン銀行の閉館前に持ち場に戻るべく身を翻した。死についての思索が彼の肝臓に響いたのか、もともと体調が優れなかったのか、それとも著名な人物に挨拶したかったのかはさておき、とにかく彼は帰り道に医者――名高い外科医――のもとに立ち寄った。
若きジェリーは、父の帰宅を律儀に見守り、留守中に仕事がなかったことを報告した。銀行が閉まり、年老いた事務員たちが出てきて、いつもの見張りが配置されると、クランチャー氏と息子は家に帰ってお茶をとった。
「さて、よく聞け!」とクランチャー氏は帰宅するなり妻に言った。「もし今夜、誠実な商売人の俺の稼ぎがうまくいかなかったら、お前がまた俺に逆らって祈ったせいだとみなして、たとえこの目で見ていなくても、ちゃんとお仕置きするからな。」
しょんぼりとしたクランチャー夫人は首を振った。
「おい、俺の目の前でまたやってるな!」とクランチャー氏は、苛立ちと警戒の表情で言った。
「何も言ってません。」
「じゃあ、考え込むのもやめろ。どうせ祈るのと同じことだ。俺に逆らうなら、どっちも同じだ。もう全部やめてくれ。」
「はい、ジェリー。」
「はい、ジェリー」とクランチャー氏はお茶に向かいながら繰り返した。「ああ、そうだ。まったくその通りだ。『はい、ジェリー』だとも。」
クランチャー氏のこの不機嫌な相づちは、特に意味があるわけではなく、世間の人がよくやるように、皮肉めいた不満を表現するためのものだった。
「まったく、お前の『はい、ジェリー』ときたら」とクランチャー氏はパンとバターをかじりながら、まるで皿から見えない大きなカキを一緒に飲み込むかのように言った。「そうだろうな。信じてるとも。」
「今夜もお出かけですか?」と、つつましい妻がもう一口のパンを彼が食べるのを見て尋ねた。
「そうだ。」
「父さん、僕も一緒に行っていい?」と息子が元気よく聞いた。
「だめだ。母さんも知ってる通り、俺は釣りだ、釣りに行くんだ。」
「父さんの釣竿、だいぶ錆びてない?」と若きジェリー。
「余計なお世話だ。」
「魚は持って帰ってくれるの、父さん?」
「持って帰らなきゃ、明日はお前の食い扶持が減るだけだ」と父は頭を振り、「それ以上質問するな。お前がぐっすり寝てから出かけるんだ。」
その晩のクランチャー氏は、クランチャー夫人がまた自分に不利益な祈りを捧げまいと、彼女を厳しい監視下に置き、むっつりと話しかけ続けた。そのために息子にも会話を仕向け、不幸な妻を責め立て、片時も彼女を自分の考えにゆだねることがないようにした。最も敬虔な信者でさえ、これほど熱心に「正直な祈り」の効力を認めることはできないだろう。まるで幽霊を信じぬと豪語する者が、幽霊話に怯えるようなものであった。
「それからな!」とクランチャー氏は言った。「明日は変なことするなよ! もし俺が誠実な商売人として肉を少しでも手に入れたら、ちゃんと食え、水ばかり飲むな。ビールを用意できたら、水だけ飲むなんて言うな。郷に入れば郷に従えだ。従わなきゃローマ(俺)が恐ろしいことになるぞ。俺が、お前のローマだ。」
さらにまたぶつぶつ続けた。
「まったく、自分で自分の飯や酒を拒むなんて! お前のやり方じゃ、この家の食い物や飲み物まで足りなくなるぞ。ほら、自分の息子を見てみろ、お前の分身だろ? ペラペラにやせてるぞ。母親なら、まず子どもにたらふく食べさせるのが第一だろ?」
この言葉は若きジェリーの胸に響き、母に対して、何はさておき母親としての第一の義務を果たすように懇願した。こうしてクランチャー家の夜は過ぎていき、若きジェリーが寝るよう命じられ、母も同様に従った。クランチャー氏は夜のはじめ、独りパイプをくゆらせて時間を過ごし、結局出かけたのはほぼ午前一時だった。その小さく怪しげな時刻になると、椅子から立ち上がり、ポケットから鍵を取り出して戸棚を開け、袋、手頃なサイズのバール、ロープと鎖、その他の「釣り道具」と称する品を取り出した。それらを手際よく身につけると、クランチャー夫人に最後の捨て台詞を投げつけ、灯りを消して出かけた。
若きジェリーは、寝るふりをしていただけで、父の後をすぐに追った。闇にまぎれて部屋を出て、階段を下り、路地を抜け、街へと父を尾行した。家に戻る心配はなかった――家には下宿人が多く、扉は一晩中開きっぱなしだったからだ。
父の「誠実な稼業」の奥義を学びたいというやましい好奇心に突き動かされ、若きジェリーは家の壁や戸口に体を寄せながら、父の後を目を凝らして追った。父は北へと進み、やがてもう一人の「アイザック・ウォルトンの弟子」と合流し、二人でともに歩き出した。
出発してから三十分もしないうちに、彼らは明かりもなく、夜警もいない寂しい道へと出た。ここでさらにもう一人の「釣り人」が加わった――あまりにも静かだったので、もし若きジェリーが迷信深ければ、もう一人の同行者が突然分身したのかと思ったほどだった。
三人は進み続け、やがて道端の高台の下で立ち止まった。高台の上には低い煉瓦塀があり、その上に鉄柵があった。三人はその影の中で道を外れ、塀に沿った裏道に入った。塀はそのあたりで高さ八~十フィートにもなっていた。若きジェリーは物陰にしゃがみ、父たちの動きをじっと見守った。月明かりにぼんやり浮かぶ父の姿が、軽やかに鉄門をよじ登るのが見えた。すぐに二人目、三人目も同様に門を越え、敷地内に静かに着地し、しばらく地面に伏せていた――おそらく耳を澄ませていたのだろう。それから三人は這うようにして進んでいった。
若きジェリーも息を殺しつつ門に近づき、再び物陰に身をひそめて中をのぞくと、三人の「釣り人」が伸び放題の草むらを這っていくのを見た。墓地は広く、無数の墓石が白い幽霊のように見守っていた。教会の塔は、まるで巨大な幽霊のごとく暗闇にそびえていた。三人はすぐに立ち止まり、立ち上がった。彼らは「釣り」を始めた。
最初はスコップを使っていた。やがて父は大きなコルク抜きのような道具を調整する仕草を見せた。どんな道具を使っていたにせよ、必死で作業していた。だが、教会の時計が打ち鳴らされたとき、若きジェリーはあまりの恐ろしさに走り出し、髪の毛が父と同じくらい逆立ってしまった。
しかし、長年の好奇心が逃げ出す彼の足を止め、再び戻るよう誘惑した。もう一度門から覗き込むと、三人はなお根気よく「釣り」を続けていたが、今度はどうやら「手ごたえ」があったようだ。地面の下からきしむような音がし、三人の体が重さに引っ張られているように見えた。徐々に土がはがされ、何かが地表に現れた。若きジェリーにはそれが何か分かっていたが、実際にそれを目にし、父がそれをこじ開けようとするのを見たとき、新鮮な恐怖に駆られて再び走り出し、一マイル以上も止まらなかった。
そのとき、呼吸以外の理由では決して足を止めなかっただろう。それはまるで幽霊に追われるような恐怖の逃走であり、できるだけ早く終わらせたいと強く願った。彼は自分が見た棺が、自分の後を追っているという強い思いにとらわれた。その棺は、まるで細長い端で直立して、いつも今にも彼に追いついて隣に並び――おそらく腕を取って――歩きそうな気がして、彼にとっては何としても避けたい追跡者だった。しかもそれは一貫性のない、どこにでも現れる悪魔のようで、暗い路地から突然飛び出してきそうで怖くて大通りに出たり、戸口に潜んで肩をこすりつけたり、笑っているかのように両耳を引き上げたり、道の陰には背中をつけて寝そべり、彼を転ばせようと待ち構えたりしている気がした。そんなふうに絶え間なく後ろで跳ねまわって迫ってくるので、家の戸口にたどり着いたときには半ば死にそうだった。そしてそれでも幽霊のようについてきて、階段をひとつずつドンドンと上がり、ベッドに潜り込み、彼が眠りに落ちると重くのしかかってきた。
その胸苦しい眠りから、夜明け前、父が家の部屋にいる気配で目が覚めた。父に何かまずいことがあったらしい――少なくとも、父がクランチャー夫人の両耳をつかんで、ベッドのヘッドボードに頭を打ちつけている様子から、若きジェリーはそう推察した。
「言っただろう、やると。やったぞ」とクランチャー氏は言った。
「ジェリー、ジェリー、ジェリー!」と妻は懇願した。
「お前は商売の儲けに逆らった。俺と相棒たちが損をする。お前は夫に従い、敬うべきなのに、なぜできない?」
「私は良い妻になろうと努力してるのよ、ジェリー」と哀れな妻は涙ながらに訴えた。
「夫の商売に逆らうことが良い妻か? 夫の仕事を貶めるのが敬うことか? 夫の言うことに背くのが従うことか、しかも肝心の仕事に関して?」
「あなたがその恐ろしい商売を始めたのは、その後だったじゃないの、ジェリー。」
「お前はただ、誠実な商売人の妻でいればいい。旦那がいつその仕事を始めたとか、そんなことに女の頭を使うな。敬い従う妻なら、夫の商売には口出ししない。自分を信心深い女だと言うのか? 信心深い女より、不信心な女のほうがましだ! お前には義務感というものが、テムズ川の土台杭並みに欠けてる。だからこうして叩き込むしかない。」
言い争いは小声でなされ、最後はクランチャー氏が泥まみれの靴を脱ぎ散らかし、床に横になって終わった。彼の様子をおずおずと確かめた息子も、父と同じように、手の下に頭をのせて眠った。
朝食には魚はなく、他にめぼしいものもなかった。クランチャー氏は不機嫌で、鉄鍋の蓋を投げつけて妻が食前の祈りをしそうになるのを監視した。普段通り身なりを整え、息子とともに「表向きの稼業」へと出かけた。
父の横でスツールを抱え、日差しと人混みのフリート街を歩く若きジェリーは、前夜、闇と孤独の中でおどろおどろしい「追跡者」から逃げ帰ったあのジェリーとはまるで別人だった。朝日とともにずる賢さが戻り、夜の不安は消え去っていた――おそらくその点、ロンドンのフリート街やシティの多くの少年たちと同じだったことだろう。
「父さん」と若きジェリーは、父と距離をとり、スツールをしっかり盾にしながら言った。「リザレクション・マン[訳注:墓荒らし・遺体泥棒]って何?」
クランチャー氏は歩道で立ち止まって答えた。「何で俺が知ってるって言うんだ?」
「父さんは何でも知ってると思ってたよ」と純真そうに息子は言った。
「ふん」とクランチャー氏はまた歩き出し、帽子を取ってとげとげ頭をさらしながら言った。「商売人のことだ。」
「何を売るの、父さん?」と元気よく息子が聞いた。
「商売品は……」とクランチャー氏はしばらく考え、「科学方面の品物さ。」
「人間の体だろ、父さん?」と息子は生き生きと聞いた。
「まあ、そんなところだろうな」とクランチャー氏は答えた。
「父さん、僕も大人になったらリザレクション・マンになりたいな!」
クランチャー氏は満足げにしつつも、いくぶん道徳的な表情で首を振った。「それはお前がどんな才能を伸ばすか次第だ。自分の才能をよく伸ばせ、人には余計なことはしゃべるな、何が向いているかはわからんぞ。」そう励まされて、若きジェリーは先へ進み、スツールをバーの影に置いた。クランチャー氏はひとりごとで付け加えた。「ジェリー、お前は正直な商売人だが、あの子がいずれお前の救いとなり、かの女房の埋め合わせにもなるかもしれん。」
第十五章 編み物
ドファルジュ氏のワイン店では、いつになく朝早くから酒が売れていた。朝六時には、鉄格子越しにやつれた顔が中をうかがい、内ではさらに別の顔がワインのグラスに身を寄せていた。ドファルジュ氏が常に薄いワインしか売らなかったのは有名だが、このときのワインはことさらに薄かったようである。しかも酸味が強く、あるいは酸っぱくなりかけており、それを飲んだ者たちは気分が晴れぬどころか、ますます沈んだ。ドファルジュ氏のワインからは、陽気なバッカスの炎は立ち昇らず、むしろ暗がりにくすぶる火が澱の中に潜み、じわじわと燃えていた。
こうした早朝の酒盛りはこれで三日連続だった。月曜から始まり、今は水曜日である。実際には酒を飲むより、思いつめた面持ちで座っている者のほうが多かった。開店とともに集まった多くの男たちは、魂を売ってでも一銭もカウンターに払うことができないような者ばかりだったが、それでも彼らの関心は樽ごとワインを買える者に劣らぬほど強かった。彼らは席から席へ、隅から隅へとすべり歩き、酒の代わりに噂話を渇望のまなざしで飲み込んでいた。
人の出入りが普段より多いにもかかわらず、店主のドファルジュ氏は姿を見せなかった。だが誰も気にせず、誰も彼を探す様子も見せなかった。彼の代わりにドファルジュ夫人が自分の席でワインを取り仕切っていたが、彼女の前には傷だらけで原形をとどめていない小銭の山があり、それは、ワインが人間の薄汚れたポケットから掘り出されたことを物語っていた。
店を覗き込むスパイたちは、どこか上の空で間の抜けた雰囲気や、何かに注意が向いていない様子を感じ取ったことだろう。カード遊びはもたつき、ドミノを積み上げて塔を作る者、ワインをこぼして机に絵を描く者、ドファルジュ夫人は爪楊枝で袖の模様をなぞりつつ、はるか彼方の見えぬもの・聞こえぬものを見聞きしていた。
こうしてサン・タントワーヌは、昼までこの「酒臭い顔」を保っていた。真昼時、埃にまみれた二人の男が通りを歩いてきた。一人はドファルジュ氏、もう一人は青い帽子の道直しだった。埃まみれで喉をからしながら二人がワイン店に入ると、彼らの到来はサン・タントワーヌの胸に火をともしたように広がり、道々の窓や扉に顔がゆらめく。しかし誰も後をつけてこず、店に入ったときも誰一人声をかけなかった。ただ、店内の者全員が彼らをじっと見つめていた。
「ごきげんよう、諸君!」とドファルジュ氏が言った。
このひと言で沈黙がやや和らいだ。「ごきげんよう!」の合唱が返った。
「天気が悪いな、諸君」とドファルジュ氏は首を振った。
すると、皆が互いに顔を見合わせ、やがて皆視線を落とし、沈黙した。ひとりの男だけが立ち上がって出て行った。
「妻よ」とドファルジュ氏はドファルジュ夫人に向かって言った。「私はこのジャックと呼ばれる道直しの善き男と幾里も旅をしてきた。パリから一日半の道のりで偶然出会ったのだ。このジャックと呼ばれる道直しは、実にいい奴だ。妻よ、彼に飲み物を!」
さらに二人目が立ち上がって出て行った。ドファルジュ夫人は「ジャック」と呼ばれる道直しにワインを出し、彼は帽子を脱いで一同に礼をし、飲み干した。ブラウスの胸に粗末な黒パンを持っていて、それをかじりながらカウンターのそばでワインを飲み、もぐもぐやっていた。三人目が立ち上がって出て行った。
ドファルジュ氏もワインを飲んだが、珍しくもないので道直しより少ししか飲まず、村人が朝食を終えるまで黙って待った。彼は店内の誰も見ず、誰も彼を見なかった。ドファルジュ夫人も、編み物を手にして作業を始めていた。
「食事は済んだか、友よ?」と頃合いを見て尋ねた。
「はい、おかげさまで。」
「では、約束した部屋を見せよう。きっと気に入るはずだ。」
ワイン店から通りへ、通りから中庭へ、中庭から急な階段を上り、屋根裏部屋――かつて白髪の老人が低い腰掛けで靴作りに没頭していたあの部屋――へと向かった。
今やその白髪の老人の姿はなく、先ほどワイン店から一人ずつ出ていった三人の男が居た。彼らと白髪の老人をつなぐ唯一の細い糸は、かつて壁の隙間から老人を覗き見たことがあるという点だけだった。
ドファルジュ氏は扉を注意深く閉じ、控えめな声で語った。
「ジャック・ワン、ジャック・ツー、ジャック・スリー! この者は、私、ジャック・フォーが約束した証人だ。すべて話してくれる。話せ、ジャック・ファイブ!」
道直しは帽子で額の汗をぬぐいながら尋ねた。「どこから話せばよろしいでしょうか?」
「最初から話すのが道理だろう」とドファルジュ氏が応じた。
「では、あのとき見ました、皆さま――去年の夏、この時期、侯爵の馬車の下、鎖にぶら下がっていた男です。こうやって――」と道直しは身振りで再現した。――この一年、村では彼のこの話芸が何よりの娯楽となっていたのだ。
ジャック・ワンが口をはさんだ。「その男を前に見たことは?」
「一度もありません」と道直しは姿勢を正して答えた。
ジャック・スリーが「それなら、どうやってその後で見分けたんだ?」と尋ねた。
「背が高かったからです」と道直しは指を鼻にあて、声を落とした。「侯爵様があの夜『どんな男だ?』とお尋ねになったとき、『幽霊みたいに背が高い』と答えました。」
「『小人のように低い』と答えるべきだったな」とジャック・ツー。
「ですが、私は何も知りませんでした。あの時点で事件はまだ起こっておらず、彼も私に打ち明けてはくれませんでした。ですから、その場では証言などできるはずもありません。侯爵様が私を指さして『あの男だ、連れてこい!』とおっしゃいましたが、私は何も申し出ませんでした。」
「それが正解だ、ジャック」とドファルジュ氏はささやいた。「続けてくれ!」
「よろしい」と道直しは神妙な顔で続けた。「背の高い男は姿を消し、長いあいだ探し続けられました――何カ月でしょう、九ヶ月か十ヶ月、十一ヶ月か?」
「数は問題じゃない」とドファルジュ氏。「よく隠れていたが、ついに運悪く見つかった。続けて!」
「私はまたあの丘で働いておりました。夕日が沈みかけております。道具を集めて、もう暗くなった村の自分の小屋に帰ろうとしたとき、ふと目を上げると、丘を越えて六人の兵隊がやってきました。その真ん中に、両腕を縛られた背の高い男――まさにこうです!」
帽子を使って、肘を体に縛りつけられた様子を再現した。
「私は石の山の陰に立って、兵隊と囚人を眺めていました(あそこは人気もない道なので、何でも見物する価値があるのです)。最初は、ただ六人の兵と背の高い男が見えるだけで、皆埃まみれで、夕日側だけが赤く縁取られていました。彼らの長い影が反対側の尾根や丘にも伸び、まるで巨人の影のようでした。埃が彼らとともに舞い、足音がトントンと響きました。近くまで来たとき、私はその男を見分け、彼も私に気づきました――が、彼も私も兵隊にはそれを悟らせません。ただ目で合図しただけです。『行け!』と隊長が村を指して命じ、彼らは囚人を急がせます。私は後をつけました。縄でむくんだ腕、大きな木靴、足をひきずる男。遅いと銃でこうやって――」
と、銃床で背を押すしぐさをしてみせた。
「兵隊が狂ったように丘を下ると、男は倒れます。兵たちは笑ってまた起こします。顔は血だらけ、埃だらけ、でも手が使えなくて拭えません。そこでまた笑われます。村に着くと皆が見物に出てきて、彼を粉ひき屋の前から牢獄へ連れて行きます。村中が牢の門が開くのを見て、その暗闇が彼を飲み込むのです、こうやって!」
口を大きく開けて、パチンと歯を鳴らした。雰囲気を壊すまいと再び口を開かないので、ドファルジュ氏は促した。「続けてくれ、ジャック。」
「村中が――」道直しはつま先立ちで声をひそめて続けた。「村中が引き下がり、村中が泉でささやき、村中が眠り、村中があの哀れな男のことを夢見るのです。彼は岩山の牢の扉の中、決して出てこられず、死ぬしかないのです。翌朝、道具を肩に、黒パンをかじりつつ道すがら牢のそばを通ります。すると彼は高い鉄格子の奥に、昨夜のまま血と埃にまみれ、こちらを見つめていました。手は使えず、私は声もかけられず、彼は死人のような目で私を見ていました。」
ドファルジュ氏と三人は互いに暗いまなざしを交わした。彼らはみな、抑えた怒りと復讐心をその表情に湛え、秘密裏でありながら威厳ある雰囲気を漂わせていた。まるで即席の裁判官のようで、ジャック・ワンとツーは古い寝台に座り、手に顎を乗せて道直しをじっと見つめ、ジャック・スリーはその後ろでひざをつき、神経質に口元をなぞっていた。ドファルジュ氏はその間に立ち、証人の村人を窓際に立たせ、彼と彼らを交互に見比べていた。
「続けてくれ、ジャック」とドファルジュ氏。
「彼はその鉄格子の中に数日間留められました。村人はこっそり盗み見るだけで、みな怯えています。でも仕事を終えて泉に集まる夕方には、皆の目がいつも牢に向かっています。以前は郵便宿を見ていたのに、今は牢を見ています。泉では、『死刑にはならないだろう』『子どもの死で逆上し、狂ったのだとパリで嘆願書が出されている』『王様にも嘆願が届いた』などとささやきます。私には真偽は分かりません。」
「聞け、ジャック」と名乗る男が厳しく口を挟んだ。「嘆願書は王と王妃に提出された。ここにいる全員(お前以外)は、王が馬車で王妃の隣に座ってそれを受け取るのを見た。そのとき嘆願書を持って命を賭して馬前に飛び出したのが、ここにいるドファルジュだ。」
「もう一つ聞け、ジャック!」とひざまづくジャック・スリーは、絶えず口元に指を這わせ、何かを飢え求めるような表情で言った。「衛兵たちが請願者を取り囲み、殴りつけたのだ。分かったか?」
「はい、皆さま。」
「では続けて」とドファルジュ氏。
「また別の噂も泉でささやかれます。『奴は現地処刑のために連れてこられた』『必ずや処刑される』『領主殺しだから四つ裂きにされる』などなど。ある老人は、『右手を焼かれ、傷口に熱い油や鉛、松脂、蝋、硫黄を流し込まれ、最後は四頭の馬で四つ裂きにされる』と話します。その老人は、ルイ十五世暗殺未遂犯ダミアンにも同じことが公開で行われた、と言っています。でも私は学がないので本当かどうか分かりません。」
「もう一度聞け、ジャック!」と欲しげな風情の男。「その囚人の名はダミアン、公開処刑で、貴婦人たちが最後の最後まで熱心に見守った――夜になるまで、両脚と片腕を失ってなお息があった! そしてそれが行われたのは――お前何歳だ?」
「三十五です」と実年齢より老けて見える道直し。
「お前が十歳を過ぎたときだ。お前も見たかもしれん。」
「もういい!」とドファルジュ氏が苛立たしげに言った。「悪魔万歳! 続きを。」
「とにかく、村はその話ばかり。ついに日曜の夜、村が寝静まったころ、兵が牢から下りてきて、銃声が小道に響きました。職人が穴を掘り、金槌をふるい、兵は歌い笑い、翌朝泉のそばには高さ四十フィートの絞首台が建ち、水を毒していました。」
道直しは天井を通り越して空を見上げ、まるでそこに絞首台が見えるかのように指さした。
「すべての仕事が止まり、みんながそこに集まります。牛を連れ出す者もおらず、牛も他の者たちと一緒にいます。真昼、太鼓の音が鳴り響きます。夜のうちに兵士たちが牢獄に入り込み、彼は多くの兵士に囲まれています。彼は以前と同じように縛られ、口には猿ぐつわがはめられて――こうして、きつく紐で締め付けられ、まるで笑っているかのような顔つきになるのです。」彼は、口の端から耳まで両親指で顔を引きつらせて、その様子を示した。「絞首台の上には刃を上に向けてナイフが据え付けられ、刃先が空に突き出ています。彼はそこで四十フィートの高さに吊るされて――そのまま放置され、水を毒しています。」
彼が顔の汗を青い帽子で拭いながら、見世物の光景を思い出してまた汗をかいているのを見て、皆は互いに顔を見合わせた。
「恐ろしいことですな、ムッシュー。女や子どもたちはどうやって水を汲めばいいのか! あんな影の下で誰が夕方に噂話をする気になりますか! いや、“下で”などと言うべきではありません。私は月曜の夕暮れ、太陽が沈もうとする時に村を離れ、丘の上から振り返って見たのですが、その影は教会を横切り、水車小屋を横切り、牢獄を横切り――まるで大地を横切って、空が接する場所まで伸びているようでした!」
飢えた男は他の三人を見ながら自分の指を噛み、その指が飢えのため小刻みに震えていた。
「それがすべてです、ムッシュー。私は日没に(そうするよう警告を受けていたので)村を離れ、その夜から翌日半日歩き続けて(これも警告されていた通り)この同志に出会いました。彼と一緒に、昨日の残りと昨晩を乗ったり歩いたりしてここまで来たのです。そして今、こうして皆さんの前にいるのです!」
陰鬱な沈黙の後、最初のジャックが言った。「よろしい。君は忠実に行動し、話してくれた。我々が少しの間、外で待っていてくれるかな?」
「喜んで。」と道直しは答えた。ドファルジュ氏が彼を階段の上まで案内し、そこに腰掛けさせて戻ってきた。
三人は立ち上がり、頭を寄せ合っていた。
「どうするね、ジャック?」ナンバー・ワンが尋ねた。「記録すべきか?」
「記録する。破滅に定める者として。」とドファルジュが答えた。
「素晴らしい!」と飢えた男がしゃがれ声で言った。
「シャトーと一族全て?」と最初の男が尋ねた。
「シャトーと一族全てだ。」とドファルジュ。「根絶だ。」
飢えた男は恍惚とした声で「素晴らしい!」と繰り返し、また別の指を齧り始めた。
「確かか?」とジャック・ツーがドファルジュに尋ねた。「我々の記録の仕方から問題は生じないだろうか? もちろん安全だ、我々以外には解読できないのだから。しかし、我々がいつまでも解読できるか――いや、彼女ができるか?」
「ジャック。」ドファルジュは身を起こして答えた。「もし妻のマダムが記憶だけで記録を管理しても、一言たりとも、一音たりとも失わない。自分の編み目と記号で編み込めば、彼女には太陽のように明白だ。ドファルジュ夫人を信じよ。生ける最も臆病な臆病者が自らの存在を消すよりも、ドファルジュ夫人の編み物の記録から名前や罪の一文字を消すほうが遥かに難しい。」
信頼と賛同のざわめきが起こり、すると飢えた男が尋ねた。「この田舎者はすぐ送り返すのか? そうだといいが。あいつはとても単純だ、少し危険じゃないか?」
「何も知らんよ。」とドファルジュが言った。「少なくとも、同じ高さの絞首台に自分を上げるのに十分なこと以上はな。私が責任を持つ、彼は私と一緒にいさせよう。面倒を見るし、道もつけてやる。あいつは上流社会――王や王妃、宮廷を見たがっている。日曜に見せてやろう。」
「なんだって?」飢えた男が目を見張って叫んだ。「王侯貴族を見たがるとは、いい兆しか?」
「ジャック。」とドファルジュが言った。「猫に乳を渇望させたければ、巧みに乳を見せろ。犬に獲物を狩らせたければ、巧みに獲物を見せてやるものだ。」
これ以上何も言わず、道直しは階段の一番上で既に居眠りしかけていたので、寝台で休むよう勧められた。彼は勧めるまでもなく、すぐに眠りに落ちた。
パリで彼のような田舎の奴隷にとって、ドファルジュのワイン屋より悪い宿も珍しくなかった。彼の生活は新鮮で心地よいものだったが、唯一、夫人への神秘的な恐怖に絶えず苛まれていた。ただし、夫人は終日カウンターに座り、彼の存在など全く意識していないかのように振る舞い、表面下の何事とも彼が関わるなど決して認めない決意を示していたので、彼は夫人を一目見るたび木靴を震わせた。なにしろ彼は、あの婦人が次にどんな振りをするか予測がつかないと感じており、もし彼女の飾り立てられた頭で、彼が殺人を犯し、遺体の皮をはいだのを見たと“振り”をしようものなら、彼女は芝居が終わるまで必ずやり通すに違いないと確信していたのだ。
そのため、日曜が来て、ワイン屋の主人と自分に加えて夫人もヴェルサイユに同行すると分かった時、道直しは(そう口では言ったが)決して喜んではいなかった。さらに、公共の乗合馬車の道中、夫人がずっと編み物をしているのも気まずく、午後に群衆の中で王と王妃の馬車が来るのを待つ間も夫人が編み物を続けているのは、なおさら気が重かった。
「よく働かれますね、夫人。」近くの男が声をかけた。
「ええ。」ドファルジュ夫人は答えた。「することがたくさんありますから。」
「何を作っておられるんです?」
「いろいろなものを。」
「例えば――」
「例えば。」ドファルジュ夫人は平然と答えた。「死装束など。」
男はできるだけ早く少し離れ、道直しは青い帽子で自分を扇いだ。ひどく息苦しく、重苦しく感じたからだ。もし王と王妃が彼の気を晴らしてくれるなら、ちょうどその時に現れたのは幸いだった。やがて大きな顔の王、色白の王妃が金の馬車で現れ、眩い宮廷の連中――きらきら輝く貴婦人や紳士たちに囲まれてやってきた。宝石と絹と白粉と華麗さ、優雅に踏みつける身のこなし、美しいほどに傲然とした男女の顔――道直しはその輝きの中に酔いしれるほどで、「国王万歳、王妃万歳、みんな万歳!」と、まるでジャックが遍在する世界を知らぬかのように叫んだ。そして庭園、中庭、テラス、噴水、緑の土手、さらなる王と王妃、さらなる宮廷の連中、さらなる万歳――ついには感動のあまり涙まで流した。その三時間ほどの間、彼には共に叫び泣き感傷に浸る仲間がたくさんおり、ドファルジュ氏は彼の襟首をしっかり掴んで離さなかった。彼が一時の熱狂で馬車に飛びかかり、引き裂かんばかりの勢いを見せないように。
「よくやった!」とドファルジュ氏は終わると彼の背中を叩いた。「お前はいい奴だ!」
道直しは我に返り、自分の先ほどの言動に不安を覚えたが、無駄だった。
「君こそ我々が求めていた男だ。」ドファルジュが耳打ちした。「こうして愚か者どもに、これが永遠に続くと信じ込ませておけ。やつらがより傲慢になればなるほど、終わりも近い。」
「ほう!」と道直しはしみじみ呟いた。「その通りだ。」
「この愚か者どもは何も知らん。君の息を軽蔑し、君や百人のような者の命よりも、自分たちの馬や犬一匹の命の方が大切だと思っていながら、君の息が伝えること以外何も知らない。もう少しだけ欺いてやれ、それで十分だ。」
ドファルジュ夫人は顧客を高飛車に見下して頷いた。
「あなたはね。」夫人は言った。「見世物と騒ぎがあれば何にでも涙し歓声を上げる人でしょう? どう?」
「まさにその通りだと思います、その時は。」
「もし人形の山を見せて好きに引き裂いていいと言われれば、一番豪華で華やかなものを選ぶでしょう? どう?」
「まさしくその通りです、夫人。」
「ええ。そして飛べない鳥の群れがいたら、一番きれいな羽の鳥から羽をむしるでしょう?」
「本当にそうです、夫人。」
「今日、あなたは人形も鳥も見たわね。」ドファルジュ夫人は手を振って城と宮廷を指し示し、「さあ、家にお帰り。」
第十六章 なおも編み続けて
ドファルジュ夫妻は仲睦まじくサン・タントワーヌの懐に戻り、青い帽子の点が闇と埃の中、疲れた足で大通りを進み、墓の下の侯爵の館へと向かった。今では石の顔たちは、木々や泉の囁きに耳を傾ける十分な暇を与えられ、村のかかし達が食べられる草や薪になる枯れ枝を求めて石畳の中庭やテラス階段のそばに近づくと、その飢えた想像力には石の顔つきが変わって見えた。村には噂があった――人々と同じく、かろうじて生きる噂だった――あのナイフが振り下ろされたとき、顔は誇りから怒りと苦痛へと変わったと。そして四十フィートも泉の上に吊るされたあの人影が引き上げられると、また顔つきが変わり、復讐を果たしたという冷酷な表情になった、と。今や永久にそうなるのだと。寝室の大窓の上の石像の鼻には、誰も昔は気付かなかった細かなへこみが二つ現れていたし、時折、数人の薄汚れた農民が群れから抜け出して石像の侯爵をちらりと覗きに来ると、誰かがそのへこみを指差しても、みなすぐに苔や葉の中へと逃げ去った。まるで、そこで生きることを許されたうさぎのように。
シャトーも小屋も、石の顔も吊るされた人も、石床の赤い染みも村井戸の澄んだ水も、数千エーカーの土地も、フランスの一地方も、フランス全土さえも――夜空の下、かすかな線のように凝縮されて横たわっていた。ちょうど、あらゆる偉大さも卑小さも、星の瞬きの中に収まるこの世界のように。そして人知が一筋の光を分解してその本質を分析できるように、より高次の知性はこのかすかな地球の輝きに、そこに生きるすべての者の心と行い、悪徳と美徳を読み取るのであろう。
ドファルジュ夫妻は星明かりの下、がたごとと乗合馬車に揺られてパリの城門へと帰り着いた。例によって関所の詰所で止められ、例によってランタンが持ち出され、例によって調べと問いがあった。ドファルジュ氏は降り、見知った兵士や警官と挨拶を交わした。中でも警官とは親しく、抱き合って別れた。
サン・タントワーヌの闇に包まれ、境界近くで馬車を降りて泥とごみの道を歩くと、夫人が口を開いた。
「それで、警察のジャックは何と言ってた?」
「今夜は大したことは言わなかったが、知っているだけは教えてくれた。わが地区に新たなスパイが任命されたそうだ。もしかしたら他にもいるかもしれないが、少なくとも一人は確かだ。」
「そう。」夫人はビジネスライクに眉を上げた。「そいつも記録しないとね。名前は?」
「イギリス人だ。」
「それは好都合。名前は?」
「バーサッド。」とフランス語風に発音して答えたが、念を押すように正確に綴った。
「バーサッド。」夫人は繰り返した。「よし。洗礼名は?」
「ジョン。」
「ジョン・バーサッド。」夫人は自分にささやいてから繰り返した。「よし。容貌は分かってる?」
「年は四十前後、身長は五フィート九インチ、黒髪、色黒、全体的にかなり整った顔立ち。目は黒、顔は細長く黄ばみ、鷲鼻だが真っ直ぐではなく左頬に傾いているため、邪悪な印象。」
「なるほど、肖像画だわ!」と夫人は笑った。「明日、記録しておくわ。」
二人は閉店したワイン屋に戻った。夫人はすぐに帳場につき、その日の稼ぎを数え、在庫を確認し、帳簿に目を通し、自分の記録も加え、下男をあらゆる面でチェックし、最後に寝かせた。それから再度金入れの中の小銭を全部出して、自分のハンカチに一つずつ結び目を作り、夜の間しっかり保管できるようにした。その間、ドファルジュ氏は口にパイプをくゆらせ、満足げに見守るだけで、決して口を挟まなかった。彼の生活においても、仕事も家庭もこうして見守るだけだった。
夜は蒸し暑く、閉め切られた店は悪臭を放っていた。ドファルジュ氏は匂いに鈍感だったが、ワインよりも強く、ラムやブランデーやアニス酒の在庫もひどく臭った。彼はパイプを吹き終え、匂いの混ざり合いを手で払った。
「疲れているのね。」夫人は結び目を作りながら目を上げた。「いつもの臭いしかないわ。」
「少し疲れているよ。」と夫は認めた。
「少し気も滅入っているわね。」と夫人。帳簿にいくら目を落としていても、夫への気配りは逸らさない。「やれやれ、男は!」
「だが、君――」とドファルジュ氏が言いかける。
「だが、あなた!」夫人は毅然と頷いた。「あなたは今夜、弱気になっているのよ!」
「まあ、そうかもしれない。」と胸の奥から絞り出すように。「長い時間だからな。」
「長い時間よ。」夫人も繰り返した。「だけど、いつも長いもの。復讐と報いには時間がかかる――それが道理よ。」
「人を雷で打つのに長い時間はかからないさ。」と夫が言う。
「その雷を作り、蓄えるのにどれくらいかかるか、教えてごらんなさい。」
ドファルジュ氏は考え込むように頭を上げた。
「町を地震が飲み込むのに長い時間はかからない。でもその地震を準備するのにどれだけかかるか、答えてごらん?」
「長い時間だろうね。」
「でも、用意ができればすべて粉々よ。見えず聞こえずとも、いつも準備は進む。それが慰めよ。忘れないで。」
夫人は敵を絞め殺すかのように、目を光らせて結び目を作った。
「私は言うわよ。」夫人は右手を突き出して強調した。「たとえどんなに道のりが長くても、確実に進んでいる。決して後退せず、止まることもない。いつも前進している。周りを見渡して、私たちの知る世界の生き様や顔を考えてごらん。ジャックリーが向ける怒りや不満が、時とともに確かさを増していく。こんなことが長く続くわけがない。ばかばかしいわ。」
「勇ましい妻よ。」とドファルジュ氏は、教え子のように頭を少し垂れて両手を後ろに組みながら言った。「全部疑っているわけじゃない。でも長く続いているし、――もしかしたら、君も分かっているだろうけど、私たちが生きている間には実現しないかもしれない。」
「それで?」夫人はまた敵を絞め殺すように結び目を作った。
「そうだな。」と夫は半ば不満、半ば謝るように肩をすくめた。「勝利の瞬間を見られないかもしれない。」
「でも手助けはできる。」夫人は力強く手を振って答えた。「私たちのすることは何一つ無駄じゃない。私は、きっと勝利を見るって心から信じている。でも、もし見られないとしても、もし絶対に見られないと知っていても、貴族や圧政者の首が見えれば――」
そう言うと夫人は歯を食いしばって、とても恐ろしい結び目を作った。
「待て!」とドファルジュ氏は少し顔を赤らめて言った。「私も、何事にもためらわないよ。」
「ええ! でもあなたは時に、犠牲者と機会を目の前にしないと気力が湧かない。なしでも自分を支えなさい。いざというとき、虎と悪魔を解き放てばいい。でも時が来るまでは、虎と悪魔を鎖につないでおくのよ――見せず、でもいつでも放てるように。」
夫人はその結論を、鎖状にした金をカウンターに叩きつけて強調し、それからハンカチを脇に抱え、「もう寝る時間ね」と穏やかに言った。
翌日の昼、賢夫人はいつものように店で熱心に編み物をしていた。バラの花がそばにあり、時折その花に目をやったが、いつもの無関心な様子を崩すことはなかった。数人の客が飲んだり飲まなかったり、立ったり座ったりしていた。暑い日で、探検心旺盛なハエがグラスの中に落ちては底で死んでいた。他のハエはそれを象か何かほど遠いもののように無関心に見て歩き回り、やがて同じ運命をたどった。ハエとは何と鈍感なものか、考えると面白い――もしかしたら宮廷でも同じだったかもしれない。
その時、店のドアから入った人影がドファルジュ夫人に新しい影を投げかけた。夫人は編み物を置き、花を頭に挿そうとした後でようやくその人影を見た。
奇妙なことに、夫人がバラを手に取るや否や、客たちは話をやめ、徐々に店から出て行った。
「ごきげんよう、夫人。」新入りが言った。
「ごきげんよう、ムッシュー。」
夫人は声に出して言ったが、心の中ではこう続けた。「は! ごきげんよう、年は四十前後、身長五フィート九インチ、黒髪、なかなかの顔立ち、色黒、目も黒、細長く黄ばんだ顔、鷲鼻だが左頬に傾いていて不吉な印象――ごきげんよう、全部!」
「古いコニャックを一杯と、冷たい水を少しお願いします。」
夫人は丁寧な態度で応じた。
「素晴らしいコニャックですね!」
こんな賛辞を受けたのは初めてだったが、夫人は酒の素性をよく知っていたので、コニャックが褒められて光栄だとだけ答え、編み物に戻った。訪問者はしばらく彼女の指を見てから、店内を観察した。
「お見事な編み方ですね、夫人。」
「慣れているもので。」
「素敵な模様ですね!」
「そう思いますか?」夫人は微笑んで彼を見た。
「もちろんです。何のために?」
「暇つぶしです。」夫人はまだ微笑みながら、指を素早く動かした。
「使うためでは?」
「それは場合によります。いつか使うこともあるかも。その時は――」夫人は息をつき、強い調子で頷いた。「使いますとも!」
不思議なことに、サン・タントワーヌの連中は夫人の頭飾りのバラを嫌ったらしい。二人の男が別々に入り、飲み物を頼もうとしたが、その飾りを見ると誰かを探すふりをして、結局出ていった。最初にいた客も全ていなくなった。スパイは目を光らせていたが、決定的な証拠はつかめなかった。皆、自然で非の打ち所のないふりをして立ち去った。
「ジョンよ。」と夫人は手を動かしながら心の中で数えた。「もう少し長くいれば、あなたの“バーサッド”も編み込めるわ。」
「ご主人は?」
「おります。」
「お子さんは?」
「いません。」
「景気は悪いようですね?」
「とても悪いです。みんな貧しくて。」
「気の毒な人たちですね! ご苦労なさっている。」
「“あなたが”そうおっしゃいますけど。」夫人は訂正し、彼の名前に悪意ある細工を編み込んだ。
「失礼、確かに言いましたが、あなたもそう思われるでしょう。」
「“私が思う”?」夫人はきっぱり声を高くした。「私も夫も、この店を開けているだけで精一杯です。考えるのはどう生きるか、それだけです。それだけで朝から晩まで頭がいっぱいで、他人のことを考える余裕なんてありません。“私が”他人のために考える? とんでもない。」
スパイは、情報を引き出そうとしながらも顔に不満を出さず、カウンターにもたれてコニャックを飲んだ。
「ガスパールの処刑は辛いことでしたね、夫人。ああ、かわいそうなガスパール!」と同情の溜息をついた。
「まったく。」夫人は冷たく軽く言った。「人がナイフをそんなことに使えば、代償を払うのは当然です。彼は最初から分かっていたはず、そのぜいたくの代償を。払ったまでよ。」
「この界隈ではガスパールに対して大きな同情と怒りが渦巻いているそうですね、内緒ですが。」スパイは声を落とし、顔に革命家の被害者然とした表情を浮かべた。
「そうですか?」夫人は無関心に答えた。
「そうなのでは?」
「――あ、主人が来ました!」と夫人は言った。
ワイン屋の主人が入って来ると、スパイは帽子に手を当てて微笑み、「ごきげんよう、ジャック!」ドファルジュ氏は立ち止まり、彼を睨んだ。
「ごきげんよう、ジャック!」スパイはやや自信を失いながら繰り返した。
「お間違いですよ、ムッシュー。」と主人は応えた。「人違いです。それが私の名前ではない。私はエルネスト・ドファルジュです。」
「違いはありませんよ。」とスパイは軽くかわしたが、明らかに戸惑っていた。「ごきげんよう!」
「ごきげんよう!」ドファルジュはぶっきらぼうに返した。
「夫人と話していたんですが、サン・タントワーヌではガスパールの不幸な最期にみんな大きな同情と怒りを抱いているとか――誰が聞いても当然ですけど。」
「そんな話は聞いたことがない。」とドファルジュ氏は首を振った。「私は何も知りません。」
彼はそう言ってカウンターの後ろに入り、妻の椅子の背に手を置いて相手を見下ろした。その男が少しでも油断すれば、夫婦どちらでもためらわず撃ち殺しただろう。
スパイは慣れきった顔でコニャックを飲み干し、水を口にし、もう一杯頼んだ。夫人は注ぎ、また編み物と小歌に戻った。
「この界隈には詳しいんですね?」とドファルジュが言った。
「とんでもない。もっと知りたいだけです。ここの貧しい住民たちに深く同情しているもので。」
「ふん。」ドファルジュは唸った。
「ところで、ドファルジュさんと話して思い出しましたが、あなたの名にはいくつか面白い思い出があります。」
「ほう。」とドファルジュは無関心に答えた。
「マネット博士が釈放され、あなた――かつてのお宅の下男が世話をしていたそうですね。博士の娘さんが迎えに来て、あの茶色の小柄な男――名前は? ――小さなカツラをかぶった、ローリーさん――テルソン商会の――と一緒に博士をイギリスへ連れて行った……」
「事実です。」と短く答えた。妻の肘から合図を受け、できるだけ簡潔に答えるのが最善だと悟っていた。
「興味深い思い出ですね。私はイギリスでもマネット博士と娘さんを知っていました。」
「そうですか。」
「今ではあまり消息はご存じない?」
「ええ。」
「実のところ……」と夫人が会話に割って入った。「まったく消息はありません。無事到着の知らせを受け、その後は手紙も一通か二通ぐらい。今では互いに人生を歩んでいます。文通もありません。」
「全くその通り、夫人。」とスパイ。「彼女は結婚するそうです。」
「結婚?」夫人は驚いたように。「あの美しさならとっくに結婚していてもおかしくなかったのに。イギリス人は冷たいですね。」
「ご存知の通り、私はイギリス人です。」
「ええ、舌がそうですから、きっと人もそうなんでしょう。」
スパイは褒め言葉とは受け取らず苦笑した。飲み干してから付け加えた。
「ええ、ルーシー・マネット嬢は結婚するのですよ。でもお相手はイギリス人ではありません。彼女と同じく生まれはフランス人。あのガスパール――ああ、気の毒なガスパール! あれは残酷でした――のせいで処刑された侯爵の甥、つまり現侯爵です。でもイギリスでは平民として身を隠しており、チャールズ・ダーネイ氏と名乗っています。ドーネ家は母方の姓です。」
夫人は編み物を続けていたが、その知らせが夫に明らかな動揺をもたらした。小さなカウンターの後ろで火をつけたりパイプを吸おうとしたが、手が震えていた。スパイはそれを見逃さず、心に刻んだ。
これで少なくとも一つ成果を得たと満足し、他に客も来なかったため、バーサッド氏は支払いを済ませ、上品に別れの挨拶をして店を出た。夫婦はしばらくそのまま動かず、再び入ってこないか警戒した。
「本当だろうか……」とドファルジュ氏は低い声で妻を見下ろし、椅子の背に手を置きながら言った。「あの娘さんの話は?」
「彼の話だからまず嘘でしょう。でも本当かもしれない。」
「もし本当なら――」ドファルジュは言いかけて黙った。
「もし本当なら?」
「――そしてそれが、我々が生きて勝利を見る時に起きるなら……彼女のためにも、運命が夫をフランスに来させないといいのだが。」
「夫の運命は。」夫人はいつもの平然とした口調で。「導かれるところに導かれ、終わるべき場所に導かれて終わる。それだけです。」
「だが奇妙だ――少なくとも、今、奇妙だと思わないか。」ドファルジュはやや訴えるように。「我々があの父娘にこれほど同情したのに、今や夫の名前が、さっきの忌々しい犬の名前と並んで君の手で指名されているなんて。」
「それどころじゃなくなるわ。」と夫人。「二人の名前は確かにここにある。それぞれ当然の理由で。十分よ。」
言い終えて夫人は編み物を巻き上げ、やがて頭を包んでいたハンカチからバラを外した。サン・タントワーヌは、飾りがなくなったのを本能的に感じ取ったのか、それとも見張っていたのか、間もなく再び店へと戻り、いつもの様子を取り戻した。
夕方、サン・タントワーヌは家の外に出て階段や窓辺に座り、空気を吸いに通りや路地の隅へ集まる。夫人は編み物を手に歩き、あちこちの女たちの集まりを渡り歩いた――伝道者として。こんな女たちを、世界は二度と生み出さぬ方がいい。女たちは皆、役に立たぬものを編んでいたが、その手の動きは食べたり飲んだりの代わりだった。手が動いているうちは、腹の空きも紛れた。
だが、手が動けば目も動き、思いも動いた。夫人が集団ごとに通り過ぎるたび、それらは一層速く、激しく巡った。
夫は店先で煙草を吹かしながら、妻を見送った。「偉大な女だ、強い女だ、恐るべきほど偉大な女だ!」
闇が降り、やがて教会の鐘が鳴り、王宮の中庭から軍鼓の音が遠く響いた。女たちは座って編み続けていた。闇が降り、さらに別の闇も迫っていた。今、フランス中の鐘が軽やかに鳴っているが、やがてそれが轟く大砲に変わる日が来る。軍鼓が叫び声をかき消す日が来る。その時、編み続ける女たちは、未だ建てられていない場所で、首が落ちるのを数えながら編み続けることになるのだった。
第十七章 ある夜
ソーホーの静かな片隅に、かつてないほど美しい夕陽が沈んだ、忘れがたい夜があった。マネット博士と娘が、プラタナスの木の下に並んで座っていた。大きなロンドンの上に、これまでになく優しい月明かりが差したのも、その夜、二人がまだ木の下に座り、葉越しにその光が顔に差し掛かっていた時だった。
ルーシーは、明日結婚する予定だった。この最後の晩は父のために取っておき、二人きりでプラタナスの下に座っていた。
「幸せかい、愛しい娘よ?」
「ええ、とても。」
二人は長いことそこにいたが、あまり多くを語ってはいなかった。まだ明るくて仕事や読書ができる時間にも、彼女はいつものように手仕事もせず、父に本を読んであげることもしなかった。幾度も父のそばでそうしてきたけれど、今夜はこれまでとは違っていて、どうしても同じにはできなかった。
「私も今夜、とても幸せだわ。天の恵みを受けた愛――チャールズへの私の愛と、チャールズの私への愛――に深く幸せを感じているの。でも、もし私の人生が、これからもあなたに捧げられるものでなくなったり、結婚によって、ほんの数本の街路分でも私たちを引き離すものだったら、今よりもっと悲しくて、自分を責めずにいられなかったと思う。今ですら――」
今ですら、声が震えて制御できなかった。
悲しげな月明かりの中で、彼女は父の首に腕を回し、胸に顔を埋めた。月明かりはいつだって悲しみを伴う。太陽の光でさえそうなのだ――人生の光もまた、訪れる時も去る時も。
「一番大切な人! 最後にもう一度だけ、私の新しい愛情や義務が、私たちの間に入ることは絶対にないと、あなたは心の底から確信していると答えてくれますか? 私はよく分かっているけれど、あなた自身はどうなの? 本当に確信できる?」
父は、彼自身さえ驚くほど明るく力強い口調で答えた。「確信しているとも、愛しい子! それどころか――」彼は優しく娘にキスをして続けた。「君の結婚を通して見る私の未来は、独りだった頃より――いや、かつてよりも――はるかに明るいんだよ。」
「もしそれが本当なら、父さん……!」
「信じてくれ、ルーシー! 本当にそうなんだ。考えてごらん、どれほど自然で当然のことか。君は若く、献身的だけれど、私が君の人生を無駄にさせたくないとどれほど願ってきたか、君には完全には分からないだろう――」
彼女は手で父の唇を制そうとしたが、父はその手を取って言葉を続けた。
「――無駄に、愛しい子――私のために自然の道から外れ、人生を無駄にしてほしくなかったんだ。君の無私無欲では、私の心配を全部は理解できないだろう。でも考えてみてくれ、君が幸せじゃないのに、私が完全に幸せになれるはずがないだろう?」
「もしチャールズに会っていなかったら、私はあなたと一緒で十分幸せだったわ。」
父は、チャールズに会ってしまった今は彼なしでは幸せでいられない、という娘の無自覚な告白に微笑し、こう答えた。
「だが、君は彼に出会い、それがチャールズだった。もし彼でなくても、別の人だったろう。あるいは誰も現れなければ、その原因は私であり、私の人生の陰が君にも及んだだろう。」
彼が自分自身の苦しみの時期について語るのを彼女が耳にしたのは、裁判の時を除けば、これが初めてだった。その言葉が耳元にある間、彼女は奇妙で新しい感覚を覚え、それは後々まで彼女の記憶に残った。
「見てごらん!」とブーヴェの博士は、月に向かって手を上げて言った。「私は牢獄の窓からこの月を見たことがある。だが、その光に耐えきれずに目をそむけたこともあった。失ったものの上にこの月の光が降り注いでいると思うと、あまりの苦しさに頭を牢獄の壁に打ち付けたこともある。何も考えられないほど鈍く無気力な状態で、この満月に横線をいくつ引けるか、縦線でそれをいくつ交差できるか、それだけを思案していたこともあった。」彼は月を見ながら思索的に付け加えた。「どちらも二十本だったと覚えているが、その二十本目は無理やり押し込んだんだ。」
彼がその時代に立ち返って語るのを聞いて、彼女の胸に走る奇妙な震えは、彼がそれについて語り続けるうちにさらに深くなった。しかし、彼の語り口には彼女を驚かせるようなものは何もなかった。彼はただ今の自分の朗らかさや幸福を、すでに過ぎ去った過酷な忍耐と対比させているだけのように見えた。
「私は牢獄の窓から何千回となく、奪われてしまったまだ生まれていない子供のことを思いながら、この月を見た。その子は生きているのか。無事に生まれたのか、それとも哀れな母親の受けた衝撃で命を落としたのか。息子だったのなら、いずれ父の仇を討つ者になったのだろうか。(私が獄中にいた頃、復讐心が耐え難いほど高まった時期があった。)父の物語を何も知らず、もしかすると父が自分の意思で姿を消したのではないかと疑うほど長生きする息子だったのか。あるいは、娘となって成長していく子だったのか。」
彼女はそっと彼に寄り添い、その頬と手にキスをした。
「私は頭の中で、自分の娘が私のことなどすっかり忘れて――いや、むしろまったく知らず、意識すらしていない姿を思い描いてきた。年ごとに彼女の年齢を数え上げ、見知らぬ男と結婚し、私の運命を何も知らぬまま生きていく姿を想像した。私はこの世の人々の記憶から完全に消え去り、次の世代には、私の居場所は空白になっていた。」
「お父さま! そんなふうに、存在しない娘のことを思い悩んでいたなんて聞くだけで、まるで私がその娘だったかのように胸が締めつけられます。」
「ルーシー、君なのか? ――君がもたらしてくれた慰めと癒しのおかげで、こうした記憶が今夜、私たちと月との間に浮かぶのだよ。――私は今、何と言っただろう?」
「娘はお父さまのことを何も知らない、気にもかけていない、と。」
「そうだ! だが、別の月夜には、悲しみや静けさが私を別の形で包み込み――痛みを土台にした感情の中では、限りなく穏やかな安らぎのようなものに――私は娘が牢獄の中に現れて私を外の自由な世界へ導き出す姿を思い描いた。よく、月明かりの中に彼女の姿を見たものだ。今の君を見ているように――ただし、あの娘を腕に抱いたことは一度もなかった。その姿は、小さな格子窓と扉の間に立っていた。だが、君にも分かるだろう、あれは今話している娘そのものではなかったと?」
「姿形は……その……イメージ、空想だったのですか?」
「いや、違う。それはまた別のもので、私の動揺した視界の前に現れたが、決して動くことはなかった。私の心が追い求めていた幻は、もっと実在的な子供だった。外見については母親に似ている以外、私には分からない。もう一方の幻も君のように母親に似てはいたが、同じではなかった。分かるかい、ルーシー? ……いや、きっと一人きりで牢獄生活を送らなければ、この複雑な区別は理解できないだろう。」
彼の沈着で穏やかな語り口であっても、彼女の血は凍りつきそうだった。彼がかつての状態をこうして分析しようとするからだ。
「もっと穏やかな心持ちのときには、私は娘が月明かりの中で現れ、私を外に連れ出して、結婚生活の家には失われた父を想う愛が溢れているのだと見せてくれる姿を想像してきた。私の肖像が彼女の部屋にあり、祈りの中にも私がいた。彼女の生活は活動的で明るく有意義であったが、そのすべてに私の哀しい過去が影を落としていた。」
「その娘は私だったのです、お父さま。私はその理想には遠く及びませんでしたが、愛する気持ちだけは本物でした。」
「そして彼女は私に自分の子供たちを見せてくれた」とブーヴェの博士は言った。「その子たちは私のことを聞き、私を哀れむよう教えられていた。国家の牢獄の前を通るときには、その厳めしい壁から遠ざかり、鉄格子を見上げてひそひそと語り合った。彼女は私を救い出すことは決してできなかった。私は、彼女がそうしたことを見せた後は必ず私を牢に戻すと想像していた。だがそのとき私は涙の安らぎに恵まれ、ひざまずき、彼女を祝福した。」
「私はその娘になりたい、お父さま。ああ、私の大切な方、明日もどうか同じように私を祝福してくださいますか?」
「ルーシー、こうした昔の苦しみを振り返るのは、今夜、言葉では尽くせないほど君を愛し、私の大きな幸福を神に感謝しているからだよ。どれほど狂おしく思い悩んだときも、私が君と過ごして知った幸福、そしてこれからも続く幸福には及ばなかった。」
彼は彼女を抱きしめ、厳粛に彼女を天に委ね、自分に彼女を授けてくれたことを謙虚に感謝した。やがて、二人は家の中へと入っていった。
結婚式にはローリー氏以外誰も招かれておらず、付添人も痩せたミス・プロス一人だった。結婚しても住まいは変わらず、以前は実在が疑わしかった間借り人の部屋を上階として借り増しただけで、他には何も望まなかった。
マネット博士はささやかな夕食会でとても上機嫌だった。食卓には三人だけで、三人目はミス・プロスだった。博士はチャールズがいないのを残念がり、彼を遠ざけた小さな愛の策略に半ば以上反対しそうになりつつも、彼の健康を心から祝杯した。
やがてルーシーにおやすみを告げる時が来て、彼女たちは別れた。しかし、夜半のしじまに、ルーシーはまた階下へ降りて彼の部屋に忍び込んだ。漠然とした不安を抱えながら。
だが、すべては元通りだった。辺りは静まり返り、彼は白い髪を穏やかな枕に乗せ、手も安らかに掛け布の上に休めて眠っていた。彼女は無用な蝋燭を遠くの陰に置き、そっと彼の枕元に近づいて唇を寄せ、それから身を乗り出して彼を見つめた。
そのハンサムな顔には、長き囚われの苦渋の跡が刻まれていたが、それを覆い隠すような強い決意があり、眠っていてさえ苦しみを支配していた。その夜、眠りの支配する世界のどこにも、見えぬ敵と静かに、しかし不屈に闘うこれほど印象的な顔はなかっただろう。
彼女はおずおずとその胸に手を置き、いつまでも彼に誠実でありたいと、そして彼の苦しみにふさわしい愛を注げるようにと祈った。それから手を引き、もう一度唇を重ねて部屋を去った。やがて朝日が昇り、プラタナスの葉の影が、彼の顔の上を、彼女の祈りに動いた唇のようにやさしくなでた。
第十八章 九日間
結婚の日は明るく輝き、彼らは博士の部屋の閉ざされた扉の外で支度を整えていた。博士はチャールズ・ダーネイと話している最中だった。教会に行く準備は整った。美しい花嫁とローリー氏、そしてミス・プロス――彼女にとっては、長い間受け入れがたかった出来事も、今では完全な幸福となりつつあった。ただ一つ、兄のソロモンこそが花婿であるべきだった、という未練を除けば。
「つまりね」とローリー氏は、花嫁の美しさに感嘆し、静かできれいなドレスの隅々を見回しながら言った。「こうして可愛いルーシーを、赤ん坊同然で海を渡らせたのも、すべてこの日のためだったのだな! やれやれ、あの時は何とも思わずにやっていたよ! チャールズさんにこんな義理を作ったとも思わなかった!」
「そんなこと、あなたには分かるはずがなかったでしょう。だから気にしなくていいのよ!」と理屈屋のミス・プロスが言った。
「本当に? でも、泣かないで」と優しいローリー氏。
「泣いてなんかいません」とミス・プロス。「あなたこそ泣いてたでしょ。」
「わたしが? プロス?」(この頃になると、ローリー氏も時には彼女と軽口をたたくようになっていた。)
「さっき泣いてたのを見ましたよ。あの贈り物の銀食器を見れば、誰だって涙も出ますよ。箱が届いた晩なんか、私、フォークやスプーン一つ一つに涙して、見えなくなるまで泣きましたから。」
「それは嬉しいことです」とローリー氏。「でも、決して人を泣かせるつもりじゃなかったんですよ。いやはや、こんな日には男は失ったもののことを考えてしまう。ああ、もしかしたらこの五十年のうちにローリー夫人だってできたかもしれないのに!」
「そんなことありません!」ミス・プロスが即座に否定した。
「ローリー夫人になれたことが一度もなかったと思うのかい?」とローリー氏。
「そんなの当たり前でしょう。あなたはゆりかごの中から独身者だったのよ。」
「なるほど」とローリー氏は小さなカツラを直しながらにこやかに言った。「それももっともだ。」
「それに、あなたはゆりかごに入る前から独身者の素質だったのよ」とミス・プロス。
「じゃあ私は不当な扱いを受けたな。自分の運命くらい自分で選びたかったものだ。――さて、ルーシー、」と彼は彼女の腰に優しく腕を回して言った。「隣の部屋で動く気配がするし、ビジネスライクな私たちが最後に言いたいことを伝える時間もそろそろだ。君のお父さまは、君と同じくらい誠実で愛情深い手に託されるから安心しなさい。この二週間、君がウォリックシャーなどへいる間は、テルソン商会の仕事ですら(比喩的に言えば)後回しにするつもりだ。そして二週間後、君と愛するご主人がウェールズでまた二週間過ごすころ、お父さまも最高の健康と幸福で送り届けると約束するよ。さあ、誰かが来る足音がするよ。その前に独身者らしい祝福のキスをさせておくれ。」
しばし彼は彼女の美しい顔を見つめ、懐かしい表情を額に見出し、金髪を自分の小さな茶色いカツラに優しく寄せた。その真心と繊細さは、もし古風なものだとしても、アダムの時代からの伝統だった。
博士の部屋の扉が開き、彼はチャールズ・ダーネイと共に出てきた。その顔は、入ったときにはなかったほど死人のように青ざめており、一片の血の気も見えなかった。しかし、態度の落ち着きは変わらず、ただローリー氏の鋭い眼には、かつての回避と恐怖の影がさっと吹き抜けていったのが読み取れた。
彼は娘の腕を取り、ローリー氏がこの日のために手配した馬車へと連れていった。他の者たちはもう一台の馬車で続き、やがて近くの教会で、誰の目にも留まらぬうちにチャールズ・ダーネイとルーシー・マネットは幸福な結婚式を挙げた。
式が終わって小さな一団の笑顔の中に光る涙に混じり、花嫁の手にはローリー氏のポケットの闇から新たに現れた、きらめくダイヤモンドも輝いていた。皆で家に戻り朝食をとり、何もかも順調だった。そして、かつてパリの屋根裏で貧しい靴職人の白髪と混じり合った黄金の髪は、今また朝日の中で別れ際、玄関先で寄り添い合った。
別れは短くとも辛いものだった。しかし父は娘を励まし、ついにその腕から優しく彼女を解き放って「チャールズ、連れて行きなさい! 彼女は君のものだ!」と告げた。
そして動揺したその手が馬車の窓から手を振ると、彼女は去っていった。
この隅は人目につかない場所で、式もごく簡素に済ませたため、博士、ローリー氏、ミス・プロスの三人は誰にも邪魔されず残された。涼しい古いホールの陰に入ったとき、ローリー氏は博士に大きな変化が起きたことに気づいた。まるで黄金の腕が彼を打ったかのような、毒の痛みを帯びていた。
もともと多くを抑えてきた彼には、そうした反動があっても不思議ではなかった。しかし、ローリー氏を不安にさせたのは、あのかつての怯えた失意の表情だった。博士が頭を押さえ、上の階へ上がるとき、ぼんやりと部屋に入っていく様子が、ワイン商ドファルジュ氏や星明かりの馬車の旅を思い起こさせた。
「今は話しかけないほうがいいでしょう」と、ローリー氏は熟慮の末、ミス・プロスにささやいた。「私はテルソン商会に顔を出してすぐ戻ります。その後、博士を郊外に連れ出して食事でもすれば、きっと元気になるでしょう。」
だが、テルソン商会に顔を出すのは簡単でも、脱け出すのは難しかった。彼は二時間足止めされた。戻ると、使用人にも何も聞かず、ひとりで古い階段を上った。博士の部屋に入ろうとしたとき、低いノック音で止められた。
「なんということだ!」彼は驚いて言った。
ミス・プロスが怯えた顔で耳元に。「ああ、全部だめになった!」と彼女は手を揉みしだいて叫んだ。「ルーシーに何て説明すれば? ――博士には私が誰かも分からず、靴を作っているんです!」
ローリー氏は彼女をなだめ、博士の部屋に自ら入った。作業台は以前と同じように光のある方へ向けられ、彼は頭を下げ、忙しそうに働いていた。
「マネット博士。親愛なる友よ、マネット博士!」
博士は一瞬だけ彼を見た――半ば訝しげに、半ば話しかけられたことに怒っているような表情で――そしてまた作業に戻った。
上着もベストも脱ぎ、襟元を開け、顔も以前のようにやつれ、色褪せていた。せわしなく――まるで邪魔されたことへの苛立ちを込めて――靴作りに打ち込んでいた。
ローリー氏は手元の靴を見て、それがかつてのサイズと形と気付き、そばのもう一つを手に取って尋ねた。
「これは?」
「若い女性の散歩靴だ」と彼は顔を上げずにつぶやいた。「とっくに仕上げておくべきだった。放っておいてくれ。」
「でも、マネット博士。私を見てください!」
彼は昔の習慣どおり、機械的に従ったが、作業の手は止めなかった。
「私が誰か分かりますか? 考えてください。これはあなたの本当の仕事ではありません。思い出してください、親友よ!」
それ以上の言葉は引き出せなかった。頼むと一瞬だけ顔を上げるものの、何を言っても反応はなく、沈黙のまま靴作りを続けた。彼には、声をかけても、響きのない壁や空気に話しかけるのと同じことだった。唯一希望の光だったのは、時折、頼まれなくてもこっそり上目遣いに周囲を見ることだった。その表情には、何か疑念を自分の中で整理しようとするような、ごく淡い困惑が浮かんでいた。
ローリー氏が最も重要と考えたことが二つあった。第一に、このことをルーシーに絶対に秘密にすること。第二に、他の誰にも知られぬようにすること。ミス・プロスと協力し、博士は体調不良で数日間完全な休養が必要だ、と公表した。娘への優しい偽装のため、ミス・プロスが、博士が急な仕事で呼び出されたことを知らせる手紙を書き、博士自身の筆跡で走り書きしたと見せかける想像上の手紙に言及することにした。
これらの措置は、どのみち必要だったが、博士が自力で回復することを期待して取ったものだった。もしすぐに回復しなければ、ローリー氏は、専門家の意見を仰ぐという別の手段も用意していた。
彼は回復の望みをかけ、あくまで自然に見えるよう博士の様子を細かく観察することに決めた。そのため、テルソン商会を生まれて初めて長期で休み、同じ部屋の窓際に陣取ることにした。
話しかけるのがかえって博士を動揺させると分かった彼は、初日であっさりその試みをやめ、ただ自分がそこにいることを示すことで、彼の錯覚への無言の抗議とした。窓辺で読書や書き物をし、でき得る限り自由な空間だと感じさせるようにふるまった。
博士は出された食事を取り、最初の日は暗くなってもなお靴作りに没頭した――ローリー氏が読書も執務もできないほど暗くなった後も、なお三十分は続けていた。道具を脇に置いたとき、ローリー氏は立ち上がって声をかけた。
「外に出ませんか?」
博士は床の左右を見下ろし、昔のように低い声で繰り返した。
「外に?」
「ええ、私と一緒に散歩でも。なぜいけないんです?」
博士は何も答えず、理由も述べず、それ以上一言も発しなかった。でも、薄暗い中、ベンチに身を乗り出し、ひじを膝に、頭を手にあずけた姿に、ローリー氏は「なぜいけない?」と心の中で自問しているような気配を感じ取った。ビジネスマンとしての彼の洞察は、ここに突破口があると見て、それを活かすことに決めた。
ミス・プロスと夜の見張りを交互に分担し、隣室から時折様子をうかがった。博士は長いこと部屋を歩き回ったあと横になり、やがて眠りについた。翌朝は早起きし、まっすぐ作業台に向かった。
二日目、ローリー氏は明るく名前を呼び、最近馴染みだった話題を口にした。返事はなかったが、話は聞き、何かしら考えている様子だった。これに励まされ、ミス・プロスも数回仕事を持ち込んだ。その際は、ルーシーや父について、普段通り話し、何も異常がないように振る舞った。あまり長くなりすぎず、博士を疲れさせない程度に。こうした工夫で、彼がしばしば顔を上げ、周囲の不自然な点に気づいて動かされるように見えた。
また夜が訪れ、ローリー氏は再び尋ねた。
「博士、外に出ませんか?」
「外に?」
「ええ、私と一緒に。なぜいけないんです?」
今回も返答が得られなかったので、ローリー氏は出かけるふりをして一時間ほど家を空けて戻った。その間、博士は窓際の椅子へ移り、プラタナスの木を見下ろしていたが、ローリー氏が戻るとすぐベンチに戻った。
時はゆっくりと過ぎ、ローリー氏の希望は日ごとに暗くなり、心も重くなった。三日目が過ぎ、四日目、五日目。六日、七日、八日、九日。
希望が消え失せ、心が重く沈んだまま、ローリー氏はこの苦しい日々を過ごした。秘密は守られ、ルーシーは何も知らず幸せだったが、靴職人の手は最初こそぎこちなかったものの、日に日に巧みになり、九日目の夕闇にはかつてないほど熱心かつ器用に働いているのを見て、心はさらに重くなった。
第十九章 ある意見
不安な見張りに疲れ果て、ローリー氏はその場で眠り込んでしまった。十日目の朝、彼は夜の闇の中で眠りに落ちた部屋に陽の光が差し込むことで目を覚ました。
目をこすり、意識をはっきりさせたが、それでもまだ夢の中にいるのではと疑った。というのも、博士の部屋の扉まで行って中を覗くと、靴屋の作業台も道具も再び片付けられており、博士自身は窓辺で読書をしていたからだ。いつもの朝の服装で、顔は依然青白かったが、冷静で勉学に励む表情だった。
自分が目覚めていると確信してからも、ローリー氏は、近頃の靴作りが自分の混乱した夢ではなかったかとしばらく疑った。目の前には、昔通りの服装と風貌の親友がおり、いつものように仕事をしている。自分の強い印象に対応する現実の証拠がなければ、ここにいるはずもないのだ。
だが、それは混乱と驚きの中での一瞬の問いであり、答えは明白だった。もし現実でなければ、なぜ自分はここにいるのか。なぜ服を着たまま博士の診察室のソファで眠り、朝早く博士の寝室の扉の前でこの問題を考えているのか。
間もなく、ミス・プロスがささやきながらやってきた。もし疑いが少しでも残っていれば、彼女の話で解けたはずだが、すでに冷静さを取り戻していた。彼は、朝食の時刻まで静かに時を待ち、何事もなかったかのように博士と接することにした。もし博士が普段通りなら、ついに専門家の助言を求めるつもりだった。
ミス・プロスも彼の判断に従い、計画は慎重に遂行された。十分な時間をかけて身支度を整えたローリー氏は、白いリネン姿にきちんとした脚で朝食の席に現れた。博士はいつも通り呼ばれ、食卓に着いた。
慎重に様子をうかがう限り、博士はまず娘の結婚が昨日だったと思い込んでいるようだった。話の流れで曜日や日付に触れると、博士は考え込み、不安そうになったが、それ以外は落ち着いていたため、ローリー氏はついに本題に入る決心をした。その助言者とは――自分自身、すなわちマネット博士だった。
そこで、朝食が片付けられ二人きりになると、ローリー氏は心を込めて語りかけた。
「親愛なるマネットさん、私はとても気になる症例について、あなたのご意見をこっそり伺いたいのです。私にとっては非常に奇妙なことでして、あなたにはそれほどでもないかもしれません。」
博士は靴作りで汚れた手を見て、困惑した表情で熱心に耳を傾けた。すでに何度も手を見ていた。
「マネット博士」とローリー氏は親しみを込めて腕に触れ、「その症例は私のとても親しい友人のことなのです。彼のため――何よりその娘さんのために、よく考えて助言してください。」
「つまり」と博士は静かな口調で、「精神的な衝撃によるもの……?」
「そうです!」
「詳細に説明してください。どんなことでも話してください。」
二人は通じ合ったと悟ったローリー氏は話を続けた。
「親愛なるマネットさん、それは長きにわたる、非常に激しく深い心の衝撃による症例です。どれほど長かったか本人にも分からないほどで、他に知る方法もありません。その苦しみからは、本人にも説明のつかない過程で回復し――私はかつて公の場で彼が印象的に語るのを聞いたこともあります――今では高い知性と集中力、肉体的な活動力を備え、もともと豊富だった知識もさらに増やしてきました。ですが、不幸にも――」彼は深く息を吸った。「――わずかな再発がありました。」
博士は低い声で「どれくらい続いたのですか?」と尋ねた。
「九日と九晩です。」
「どんな形で現れましたか? 私の推測では――」と手を見ながら、「かつての症状と関連する行動の再現ですか?」
「その通りです。」
「では、あなたはその症状が元々現れていたとき、その友人の様子を見たことがありますか?」
「一度だけ。」
「再発したとき、その様子は――ほとんど、あるいはすべて――当時と同じでしたか?」
「すべて同じだったと思います。」
「娘さんについて話されましたね。娘さんは再発を知っていますか?」
「いいえ。彼女には隠してあり、これからもそうしたい。知っているのは私と、信頼できるもう一人だけです。」
博士は彼の手を握りしめ、「それはとても親切なことです。思慮深いご配慮です」とつぶやいた。ローリー氏も握り返し、しばらく二人とも黙っていた。
「さて、親愛なるマネットさん」とついにローリー氏は、最大限思いやりと愛情を込めて話し始めた。「私は単なる商人で、こうした複雑で困難な問題に対処する力がありません。必要な知識も知恵もない。導きが欲しいのです。この世でこれほど信頼して道を示してもらえる方はいません。どうして再発は起こるのでしょう? 再発の危険はまだあるのでしょうか? 予防できるのか、その場合どう対処すべきか? そもそもどうして起きるのか? 私は友人のために何ができるのか? これほど友人のために尽くしたいと願った者はいません。ですが、どう始めていいか分からない。あなたの賢明な知識と経験で正しい道筋を教えてくれれば、私は多くのことができるはずです。何も分からなければ、ほんの少ししかできません。どうか一緒に考え、私に少しでも明瞭に見えるようにし、役立てるよう導いてください。」
マネット博士はそれを聞いてしばし黙考し、ローリー氏は急かさなかった。
「おそらく」と意を決して博士は口を開いた。「お話の再発は、本人にとってまったく予期せぬものではなかったかもしれません。」
「本人は恐れていたのでしょうか?」とローリー氏は恐る恐る尋ねた。
「とても。」博士は無意識に身震いして答えた。
「そうした不安がどれほどその人の心に重くのしかかるか、そしてその話題についてひと言でも口に出すことが、いかに困難――ほとんど不可能か、想像もできません。」
「もし、本人がその内心を誰かに打ち明けることができたら、気が楽になりますか?」
「そう思います。ですが、先ほども話したように、ほとんど不可能です。場合によっては、まったく不可能かもしれません。」
「さて」とローリー氏はしばらくしてから再び腕に手を置いて、「この発作の原因は何でしょう?」
「私は思います」と博士は答えた。「病の元になった連想や記憶が、強く鮮明に蘇ったのだと。何か非常に苦しい出来事が脳裏に生き生きと浮かび上がったのでしょう。長い間、その連想がいつか蘇るのではと恐れていた――例えば、特定の状況下で――特定の日に。備えようと努力したものの、かえって耐える力を損ねたのかもしれません。」
「再発中の出来事を覚えているでしょうか?」
博士は部屋を虚ろに見回し、首を振って低い声で「全く覚えていません」と答えた。
「これからのことですが……」
「これからのことは」と博士はしっかりした声で言った。「大いに希望を持っています。天が哀れみ深く彼をすぐ回復させてくれたのですから、望みは大きい。複雑な重圧に屈しつつも、長く恐れ、抗ってきた霧が晴れた今、最悪は去ったと期待しています。」
「それは心強い。ありがたいことです!」とローリー氏。
「私も感謝します」と博士も頭を垂れた。
「あと二点、ご教示願いたい。よろしいですか?」
「それがあなたの友人への最善の助けとなるでしょう。」博士は手を差し伸べた。
「第一に。彼は勉強熱心で、異常なほど精力的です。専門知識の習得や実験、さまざまなことに没頭します。これはやり過ぎでしょうか?」
「そうは思いません。もともと何かに没頭しないといられない性格なのかもしれません。それは生来のものか、あるいは心の傷の結果かもしれません。健全な事に没頭しなくなれば、その分だけ病的な方向に向かう危険が大きくなる。彼自身もそれに気づき、工夫しているのでしょう。」
「過労の心配は?」
「それはないと断言できます。」
「もし今、彼が働き過ぎだったら……」
「親愛なるローリー、それは難しいでしょう。一方向への強いストレスには、対の重りが必要なのです。」
「しつこいようですが、仮に過労だった場合、また同じ症状が現れますか?」
「そうは思いません。」博士は確信をもって言った。「同じ連想の鎖以外で再発はないと思います。これだけのことが起き、しかも回復した今、あの弦が再び激しく鳴らされるとは想像しがたい。もう再発のきっかけとなる事情は尽きたと信じたいし、ほぼ信じています。」
彼は、心の機微がいかに脆いかを知る者らしい慎重さで語りながらも、長い苦しみと忍耐から勝ち取った自信もにじませていた。ローリー氏もその自信を損なうまいと、実際以上に安心したふりをして、最も難しい最後の問題に向かった。かつての日曜朝にミス・プロスと語ったこと、九日間の出来事を思い浮かべながら――
「あの一時的な悪化中に再び始めた仕事を、仮に『鍛冶屋の仕事』としましょう。たとえば、以前は小さな火床で作業していたのが、再発時にまたそこにいるのを見つけたとして……その道具を手元に置き続けるのは良くないと思いませんか?」
博士は手で額を隠し、足先で床を不安げに打った。
「彼は、ずっとその道具を手放しませんでした。今も、手放した方が良いと思いませんか?」
博士は額を隠したまま、足元で床を打ち続けた。
「助言が難しいですか?」とローリー氏。「それも当然でしょう。けれど私は――」と言いかけて首を振り、言葉を止めた。
「分かるでしょう」と博士は不安げにしばらく黙った後で言った。「この哀れな男の心の奥底を矛盾なく説明するのはとても難しい。かつて彼がこの仕事をどれほど渇望し、いざ与えられたときにどれほど心を慰められたか――指先の混乱が頭の混乱の代わりとなり、やがて熟練していくと、手先の工夫が心の苦しみの工夫の代わりになった。そのため、彼は手の届かないところにそれを置くことがどうしてもできなかった。今は自分にこれまで以上の希望と自信を持っているとはいえ、それでもあの古い作業を必要とし、手元にないと思うと、迷子の子どもの心に突き刺さるような恐怖を感じるのです。」
彼がローリー氏の顔を見上げたとき、その例えそのものの表情だった。
「ですが――私は無知な商人として、純粋に物質的なものしか扱わない者としてお尋ねします――道具を手元に置けば、考えも残ることになりませんか? もし手放せば、不安も消えませんか? 要するに、火床を残すのは不安に譲歩していることになりませんか?」
再び沈黙が訪れた。
「それに」と博士はかすかに震えながら言った。「それは長い付き合いの友でもあります。」
「私は置かない方がいいと思います」ローリー氏は首を振った。博士が動揺するのを見て、ますます確信を強めていた。「手放すよう勧めましょう。お嬢さんのためにも、私に権限をください。きっと害はありません。さあ、私に権限を、親愛なる友よ――お嬢さんのために!」
博士の心の中で、どれほど激しい葛藤が起きていることか――その様子は実に異様だった。
「それなら、彼女の名において行いましょう。私はそれに同意します。ただし、彼がいる間は持ち去らないでほしい。彼がいないときに片付けて、しばらくしてから、古い友がいなくなったことに気づくようにしてください。」
ローリー氏は快くそれを引き受け、会談は終わった。一行はその日を郊外で過ごし、マネット博士はすっかり元気を取り戻した。以後三日間、博士は全く健康であり、十四日目にはルーシーとその夫のもとへ旅立った。博士の沈黙を説明するために講じられた予防策については、ローリー氏が事前に説明し、それに従い博士はルーシーに手紙を書いていたので、彼女は何の疑念も抱かなかった。
博士が家を去った当夜、ローリー氏は斧、鋸、ノミ、金槌を手にして彼の部屋に入り、ミス・プロスが明かりを持って付き添った。そこで、扉を閉め、まるで罪深いことをするかのようにひそかに、ローリー氏は靴職人の作業台をバラバラに壊した。ミス・プロスはまるで殺人現場に立ち会うかのようにロウソクを持ち、実際その険しい表情はこの役に相応しかった。死体(あらかじめ適当な大きさに切り分けておいた)は、すぐに台所の火で焼かれ、道具や靴や革は庭に埋められた。誠実な心には、破壊と秘密主義はこれほどまでにも悪事に映るものなのか、ローリー氏とミス・プロスは、その行為を実行し証拠を隠滅する間、お互いが恐ろしい犯罪の共犯者のように感じ、また見えさえした。
第二十章 嘆願
新婚夫婦が帰宅すると、最初に祝福の言葉を述べに現れたのはシドニー・カートンだった。二人が家に戻って間もなくのことである。彼の生活習慣も、容貌も、物腰も少しも良くはなっていなかったが、彼の中に新たに感じられる、ごつごつとした忠誠心がダーネイには印象的だった。
カートンは隙を見て、ダーネイを窓辺に誘い、人目を避けて語りかけた。
「ダーネイさん、僕たち、友人になれたらいいのにと思う。」
「すでに友人じゃないか、そうだろう?」
「そう言ってくれるのは社交辞令としてありがたいが、僕はそういう言い回しをしているんじゃない。本当に言いたいのは、単なる社交辞令ではないんだ。いや、実は『友人になれたら』というのも、少し違うかもしれない。」
ダーネイは当然、快活に、親しみを込めて「それはどういう意味だい?」と尋ねた。
「いやもう、本当に、自分の頭では簡単に思えるのに、君に伝えるとなると難しい。とにかく説明してみよう。君は、僕が例の有名な場面で、いつもよりもさらに酔っていたことを覚えているだろう?」
「君が自分で酒を飲んだと告白させた、あの有名な夜のことは覚えているよ。」
「僕も覚えている。ああいうことがあった後は、いつも、それが重い呪いのように思い出される。いつか全ての時間が終わるとき、そのことが考慮されるといいがね! 心配しないでくれ、説教を始めるつもりはない。」
「全く心配していない。君が真剣になるのは、僕には少しも驚くことじゃない。」
「ふん!」とカートンは手を軽く振り、話題を流す素振りをした。「その時の僕は(他にもたくさんあるけど)、君が好きだとか好きじゃないだとか、ひどく迷惑なことを言っていた。どうか忘れてくれ。」
「もうとっくに忘れているよ。」
「また社交辞令を! でも、ダーネイさん、僕にとって忘れるのは君が言うほど簡単じゃない。僕は全く忘れていないし、軽い返事をされても余計に忘れられない。」
「もし僕の返事が軽率だったなら、どうか許してくれ。君がそんなに気にしているとは思わなかったから、たいしたことじゃないと流したかっただけなんだ。紳士として誓うけど、僕はもうとうに心からそのことを捨てている。本当に、捨て去るべきほどのことだったかい? 君があの日僕にしてくれた大きな恩の方が、よほど大切だったはずだ。」
「その大きな恩についてだけど」とカートンは言った。「君がそんなふうに言うなら、はっきり言っておくが、あれはただの職業上の作業だった。君の身の上を本気で気にしていたわけじゃない。――いいかい、あれは“あの時”の話だ。」
「君はその恩を軽く見ているようだけど、僕は君のその軽い返しに怒ったりしないよ。」
「本当のことだよ、ダーネイさん、信じてくれ! 話が逸れてしまった。友人のことについて話していたね。君はもう僕がどんな男か知っている。人並み以上も以下もできない人間だ。もし疑うならストライバー氏に聞いてみればいい。」
「いや、僕は自分自身で判断するよ。」
「まあ、少なくとも君は僕を、何の役にも立たず、これからもろくなことをしない男だと思っているだろう。」
「君が“これからも”何もしないとは限らないよ。」
「いや、僕には分かるんだ。君は僕の言葉を信じてくれ。もし君が、こんな価値のない男で、評判もよくない男が、たまに気まぐれにここに出入りしても我慢できるなら、僕はここに特別扱いで出入りさせてもらいたい。役立たずの(もし君との間に似たところがなければ“見栄えもしない”と言いたいところだけど)家具の一つとして、昔の恩で見逃されて、特に気にも留められずに居させてほしい。許しを悪用することはないと思う。たぶん年に四度も使うことはないだろう。ただ、そういう権利があると知っていれば、それで満足だと思う。」
「やってみてくれないか?」
「それはつまり、君が僕を今言った通りの立場に置いてくれるということだね。ありがとう、ダーネイ。君の名前をそんなふうに呼んでもいいかい?」
「もちろんだよ、カートン。もうそんな間柄だ。」
二人は固く握手し、カートンは背を向けた。ほんの一分後には、彼は再び、外から見れば、いつものように影のような存在になっていた。
彼が去った後、ミス・プロスやマネット博士、ローリー氏と共に過ごした夜の中で、チャールズ・ダーネイはこの会話について大まかに語り、シドニー・カートンを、無頓着で投げやりな“問題児”のように話した。彼を辛辣にではなく、ただありのままに見た人がそう語るように。
ダーネイには、それが愛しい若妻の心に残るとは思いもしなかった。しかし、その後自室で妻と会うと、彼女は例の美しい額の上げ方で待っていた。
「今夜はもの思いにふけっているんだね」とダーネイは腕を回しながら言った。
「ええ、最愛のチャールズ。」両手を彼の胸に置き、じっと見つめる表情で。「私たち、今夜は少し考えごとをしているの。」
「どうしたんだい、ルーシー?」
「もし私が、ある質問だけはしないと約束してとお願いしたら、聞かないでくれる?」
「約束してほしいだって? 愛しい君のためなら、どんな約束でもするよ。」
まったくその通り――彼の手は頬の金髪を優しく払い、もう一方の手は彼のために鼓動する心に当てて――
「チャールズ、可哀そうなカートンさんには、今夜あなたが言ったよりもっと思いやりと敬意が必要だと思うの。」
「そうなのかい、君? なぜだい?」
「それは、聞かないでと言ったでしょう。でも私は――分かるの――彼にはそれがふさわしいと。」
「君が知っているなら、それで十分だ。僕にどうしてほしい?」
「お願いがあるの、愛しい人。カートンさんにはいつも寛大でいて、彼がいないときでも欠点を責めないであげて。彼はめったに心を見せないけど、心の奥には深い傷があると信じてほしいの。私、それが血を流しているのを見たことがあるわ。」
「僕が彼を傷つけていたなんて……思いもしなかった。本当にそうなのか。」
「あなた、そうなの。彼はきっと立ち直れない人よ。性格も運命も、もうどうにもならないかもしれない。でも私は、彼が善いことや優しいこと、時に高潔なことさえできる人だと確信しているの。」
この失われた男への純粋な信頼に溢れた妻の美しさに、彼は何時間でも見とれていられそうだった。
「ねえ、私の最愛の人!」彼女はさらに強く彼に寄り添い、胸に頭を預け、彼の目を見上げながら続けた。「私たちがどれほど幸福で強いか、そして彼がどれほど不幸で弱いか、どうか忘れないで!」
その願いは彼の心を深く打った。「必ず覚えておくよ、愛しい人! 生きている限り忘れない。」
彼は妻の金色の髪に口づけし、薔薇色の唇に自らの唇を重ね、彼女を抱きしめた。もしその時、夜の暗い街をさまよう孤独な者が彼女の純粋な心の告白を聞き、夫がその優しい青い瞳から哀れみの涙をキスでぬぐうのを見たなら、彼は夜空に向かって叫んだだろう――しかもその言葉は、彼の口から初めて発せられるものではなかった――
「神よ、彼女の優しい慈しみに祝福を!」
第二十一章 響き合う足音
マネット博士の住むあの角は、昔から“こだま”の名所と言われてきた。夫、父、自分自身、そしてかつての家庭教師であり友であるミス・プロス――皆を黄金の糸で結びながら、ルーシーは静かな家の中で、時の足音を静かに聴いていた。
最初のうち、彼女は完全に幸せな新妻でありながらも、ふと手から作業が滑り落ち、目が潤むことがあった。こだまの中に、まだ遠く、かすかで、ほとんど聞こえない“何か”が近づいてきて、彼女の胸を激しく揺らすのだった。まだ知らぬ愛への淡い希望と疑念――その新しい喜びを味わえるのかという不安――それが心を二つに引き裂いた。こだまの中には、早すぎる自分の墓に向かう足音が混じり、残される夫がどれほど孤独に悲しむかを思うと、涙があふれて止まらなかった。
やがてその時は過ぎ、ルーシーの胸にはリトル・ルーシーが抱かれていた。その後は、こだまに混ざるのは幼い足音とたわいないおしゃべりの声。どんな大きなこだまが鳴り響こうとも、ゆりかごの母にはその足音がいつも聞こえていた。それは現実となり、薄暗い家は子どもの笑い声で明るくなった。悩みの中で彼女が託した子を、子どもの神が腕に抱き、かけがえのない喜びを与えてくれるようだった。
絶えず皆を結ぶ黄金の糸を巻き、幸せの影響を家族の日々に織り込み、どこにも出しゃばらず、こだまの中にあるのは優しい音ばかり。夫の足音は力強く、父のはしっかりとした調子で響く。ああ、ミス・プロスが縄で武装して、庭のプラタナスの下で、手綱を引かれた荒馬のように地面を蹄で叩く足音までも!
悲しみの音が混じるときも、決して残酷な響きではなかった。ルーシーそっくりの金髪が、すり減った小さな男の子の頬に光の輪を作り、彼がにこやかに「パパ、ママ、ごめんね。でもお姉ちゃんとも別れなきゃいけない。呼ばれているから、行かないといけないんだ!」と言って旅立った時も、母の頬を濡らした涙は、苦痛だけの涙ではなかった。「子らを来させるがよい。わたしの父の御顔を見るのだ。ああ、父よ、祝された言葉よ!」
こうして天使の羽音がこだまに溶け込み、現世のものだけでなく、天の息吹を帯びた音色となる。小さな墓を吹き抜ける風の吐息も混じり、朝の勉強に勤しむリトル・ルーシーや、母の足元で人形を着せ替える彼女が、二つの都市の言葉でおしゃべりする声の中に、静かに溶けていた。
こだまは、シドニー・カートンの実際の足音にはめったに応えなかった。多くて年に六度ほど、彼は招かれずに特権として現れ、家族と共に夜を過ごした。酔って家に来ることはなく、彼についてもう一つ、こだまは昔から密かにささやかれてきたことがある。
“男が女を本気で愛し、彼女を失い、彼女が潔白のまま妻となり母となったとき、その子らは不思議な直感で彼に同情し、哀れみを示すものだ。”どんな繊細な感情が働くのか、こだまは語らないが、確かにそうなのだし、ここでもそうだった。リトル・ルーシーが初めて両手を伸ばしたのはカートンであり、彼はその後も彼女に受け入れられ続けた。亡くなった男の子も、最期に「可哀そうなカートンさん! ぼくの代わりにキスしてあげて!」と言い残した。
ストライバー氏は、濁流に突き進む巨大なエンジンのように法曹界を邁進し、便利な友を曳航するボートのように引き連れていた。そのボートの運命が荒波にもまれて水浸しになるように、シドニーの人生も溺れがちだった。しかし、自己への満足感や恥辱よりも習慣の方が彼には強く、彼は自分が“ライオンのジャッカル”であり続ける人生を当然のものと受け入れていた。ストライバー氏は裕福になり、財産と三人の息子を持つ派手な未亡人と結婚したが、その三人の少年たちは、丸い頭の真っすぐな髪以外に目立つところはなかった。
この三人の若者は、ストライバー氏の恩着せがましい導きでソーホーの静かな家へ連れてこられ、ルーシーの夫に弟子入りを申し出た。「ほら、ダーネイ、これで君の結婚ピクニックにパンとチーズが三つ追加だ!」と皮肉交じりに。丁重なお断りを受けたストライバー氏は、激しい憤慨で膨れ上がり、その後少年たちをしごく時には、「あの教師のような乞食のプライドには気をつけろ」と言っていた。さらに夫人には、ワイン片手に「昔、ダーネイ夫人が僕を“釣ろう”とした策略」と、そんな自分は“釣らせなかった”巧妙なやり口について長々と語っていた。彼の法曹仲間は、ストライバー氏がその作り話をあまりに何度も語るので、ついには本人も信じてしまったのだろうと許していたが、それは最初の過ち以上にたちの悪いことだと言われても仕方のないことである。
こうした様々なこだまを、ルーシーはときに物思いにふけり、またときに微笑みながら聞いて過ごした。娘が六歳になるまでのことだった。子どもの足音、自分の父の、常に落ち着いた足音、最愛の夫の足音がどれだけ大切だったか、語るまでもない。彼女自身が賢く美しく切り盛りする家の調和がどれほど音楽のようだったかも。また、父は結婚してから娘がいっそう自分に尽くしてくれると何度も言い、夫も「君はどうして僕たち全員に、まるで一人しかいないかのように、十分な愛と助けを与えられるんだい? その秘密は?」と尋ねたことも、こだまのなかで甘やかに響いた。
だが、もっと遠くからのこだまもあり、この年月を通じて、あの角には不気味な響きをもたらしていた。そして、ちょうどリトル・ルーシーの六歳の誕生日頃、ついにその音は、フランスの嵐と恐ろしい海が立ち上がるような、忌まわしい響きとなって迫ってきた。
1789年7月半ばのある夜、ローリー氏はテルソン銀行から遅く帰宅し、ルーシーとその夫のいる暗い窓辺に座った。蒸し暑く、嵐めいた夜だった。三人は、かつて同じ窓から稲妻を眺めたあの古い日曜の夜を思い出した。
「今夜はテルソンで夜を明かす羽目になるかと思ったよ」とローリー氏はかつらを押し上げて言った。「一日中あまりに仕事が多くて、何から手を付ければいいか分からないほどだった。パリでは不安が高まっていて、こちらの顧客が財産をイギリスへ送るのに夢中でね。送るのが早い者勝ちのような有様だ。」
「それはよくない兆候ですね」とダーネイが言った。
「よくない兆候だって、ダーネイ君? そうだが、理由は分からない。人はどうも理屈が通じない! テルソンの連中も年を取ってきて、普通と違うことは理由がないと厄介で仕方がない。」
「でも」とダーネイ、「空模様は陰鬱で不穏なのは確かです。」
「それは分かってるさ」とローリー氏も同意し、自分の穏やかな気質が荒れてきたと信じ込もうとしていた。「今日はとにかく嫌になるほど忙しかったから、今夜は不機嫌でいさせてくれ。マネットはどこだ?」
「ここにいるよ」と博士が暗い部屋に入ってきた。
「君が家にいてくれて本当に良かったよ。今日一日中、不安や予感で神経がすり減った。外出はしないよね?」
「いや、今夜はあなたとバックギャモンをやろうかと思っている。」
「今の気分じゃ負けるだけだよ。ルーシー、ティーボードはまだそのまま?」
「もちろん、あなたのために取っておきました。」
「ありがとよ。あの宝物は無事に寝ているかい?」
「ええ、ぐっすり。」
「それなら良かった、何も心配することはないはずだ、神に感謝! でも今日は本当に参ったよ。もう若くないしな。お茶をありがとう。さあ、皆で輪になって座って、君の“こだま”の理論を聞かせてくれ。」
「理論じゃなくて、ただの空想です。」
「空想でもいい、賢い子だね」とローリー氏は彼女の手を軽くたたいた。「でもこだまはたくさんあるし、よく響くね。ほら、聞こえるかい!」
誰の人生にも入り込んでくる、激しく狂った、危険な足音。その足が一度でも赤く染まれば、もはやきれいには戻せない。ロンドンの暗い窓辺で小さな輪が座っているその時、サン・タントワーヌの遠くから、荒れ狂う足音が響いていた。
その朝のサン・タントワーヌは、無数の案山子がうねる大波のように揺れ、頭上には鋼の刃や銃剣が太陽にきらめいていた。サン・タントワーヌの喉からは大きな咆哮が上がり、冬の風に吹かれる木の枝のように、裸の腕が空に躍っていた――どんな武器、武器の形をしたものでも下から投げ上げられれば、皆が必死で掴み取っていた。
誰が武器を配り、どこから来たのか、どう動いているのか、群衆の誰にも分からなかったが、マスケット銃、弾薬、鉄や木の棒、ナイフ、斧、槍、ありとあらゆる武器が配られていた。何も手に入れられなかった者は、手を血まみれにしながら壁の石やレンガをこじ開けていた。サン・タントワーヌの心臓は熱病に浮かされ、命を惜しむ者は一人もいなかった。
煮えたぎる渦の中心のように、この怒涛はドファルジュ氏のワイン店を囲み、群衆の一滴一滴が渦の中心へと吸い寄せられていた。ドファルジュ氏は既に火薬と汗で黒くなり、命令を下し、武器を配り、この男を押し戻し、あの男を引き寄せ、一人から武器を取り上げては別の者に与え、騒乱のただ中で奮闘していた。
「ジャック・スリー、そばを離れるな!」とドファルジュ氏は叫んだ。「ジャック・ワンとツーは、できるだけ多くの愛国者を率いて分かれて動け。妻はどこだ?」
「ここにいるわよ!」とドファルジュ夫人は、いつも通り落ち着き払って現れた――この日だけは編み棒を持っていない。右手には斧、帯にはピストルと残酷なナイフが下がっていた。
「どこへ行くんだ、妻よ?」
「今は一緒に行くわ。すぐに女たちの先頭で現れるから。」
「よし、ならば出発だ!」とドファルジュ氏は声高らかに叫ぶ。「国民よ、友よ、我らは準備ができた! バスティーユへ!」
フランス中の息が憎悪の言葉となったかのごとく、群衆の波はうねり、波頭を重ねてついに街を飲み込んだ。警鐘が鳴り、太鼓が響き、新たな海はうなりを上げて岸に押し寄せ、攻撃が始まった。
深い堀、二重の跳ね橋、重厚な石壁、八つの大塔、大砲、マスケット銃、火と煙。火の中、煙の中――うねる海に押し上げられて大砲の前に出たドファルジュ氏は、勇ましい兵士のごとく二時間戦った。
深い堀、跳ね橋、石壁、八つの塔、大砲、マスケット銃、火と煙。ついに跳ね橋が一つ落ちた! 「働け、同志たち、働け! ジャック・ワン、ジャック・ツー、ジャック一千、ジャック二千、ジャック二万五千、天使でも悪魔でも、好きなものの名において働け!」ワイン店のドファルジュ氏は、熱くなった大砲のもとで叫ぶ。
「女たち、私のもとへ!」とドファルジュ夫人。「城が落ちたら、私たちだって男たちと同じくらい殺せるわ!」彼女を先頭に、飢えと復讐に燃えた女たちが武器を手に群がった。
大砲、マスケット銃、火と煙――だがなおも深い堀、跳ね橋、石壁、八つの塔。傷つき倒れる者の波が少し海を乱す。武器はきらめき、松明は燃え、わらの荷車は煙を上げ、四方のバリケードで戦いは続く。叫び、銃声、ののしり、勇気、爆音、うなり、怒号……それでもなお、跳ね橋と堀、石壁、八つの塔は崩れない。ドファルジュ氏の大砲は、ついに四時間も熱く燃えた。
やがて砦の中から白旗が上がり、交渉が始まる――嵐の中ではよく見えず、何も聞こえない――すると突然、群衆の波はさらに高く盛り上がり、跳ね橋を越え、外壁を越えて、八つの塔の中へとなだれ込んだ。
あまりの勢いに、息をするのも、頭を向けるのも困難なほどで、南洋の荒波にもまれるようだった。やっとバスティーユの外庭に打ち上げられたドファルジュ氏は、壁際でなんとか周囲を見渡した。ジャック・スリーがすぐそばにいた。ドファルジュ夫人は女たちを率いて内側におり、ナイフを手にしていた。そこは熱狂と歓喜、耳をつんざく騒乱、驚愕と騒音、そして激しい無言のジェスチャーに満ちていた。
「囚人たちを!」
「記録を!」
「秘密の牢を!」
「拷問の道具を!」
「囚人たちを!」
こうした叫びや無数の混乱の中でも、「囚人たちを!」という叫びが最も大きく海に響き渡った。群衆が刑務官たちを押し流し、秘密の部屋を隠していたら即座に死を、と脅した時、ドファルジュ氏はその一人――松明を持った白髪の男――を壁際に引き離した。
「北塔を見せろ!」とドファルジュ氏。「早く!」
「分かりました、ただし誰もいません。」
「“105号、北塔”とはどういう意味だ?」とドファルジュ氏。「早く!」
「意味ですか、ムッシュー?」
「囚人の番号か、監禁場所のことか? それともここで殺されたいのか?」
「殺せ!」とジャック・スリーがうめく。
「ムッシュー、それは独房です。」
「案内しろ!」
「こちらです。」
ジャック・スリーは血を見る展開を期待していたが、そうならず不満げにドファルジュ氏の腕にしがみついた。三人は頭を突き合わせ、混乱の中でかろうじて会話しながら先へ進んだ。周囲ではなおも怒涛のような喧騒が壁を打ち、時折轟きとなって空に舞った。
光の届かぬ薄暗い地下道、暗き牢獄の扉、洞窟のような階段――そして石の急坂を登り、三人は北塔の一室にたどり着いた。厚い壁に囲まれ、外の嵐は遠い響きだけになった。
看守は低い扉を開けた。「百五号、北塔!」
高い壁に小さな格子窓、石のスクリーン越しに空がわずかに見えるだけ。分厚い鉄格子の煙突、炉の上には古い木灰の山。椅子と机、藁の寝台、黒ずんだ四つの壁、鉄の輪。
「その松明を壁に沿ってゆっくり動かしてくれ」とドファルジュ氏。
男が従い、ドファルジュ氏は目でじっくり追った。
「待て! ――見ろ、ジャック!」
「A・M!」とジャック・スリーがむさぼるように読む。
「アレクサンドル・マネットだ」とドファルジュ氏は、火薬で黒ずんだ指で文字をなぞる。「ここに“哀れな医師”と書いてある。間違いなく、彼がこの石に日めくりも刻んだ。お前の手にあるのは何だ? バールか? よこせ!」
まだ大砲の点火棒を持っていたが、二つの道具を交換し、椅子と机を数度打ち壊した。
「もっと高く松明を!」と看守に怒鳴る。「破片をよく調べろ、ジャック。ほら、ナイフもやる。寝台を裂いて藁を探せ。松明を高く!」
彼は炉に這って登り、バールで煙突の隅を突き、鉄格子を外し、しばらくして漆喰と埃が落ちてきた。避けながら慎重に探るが、古い灰や壁の隙間にも何もなかった。
「木にも藁にも、何もなかったか、ジャック?」
「何も。」
「では全部ここに集めよう。よし、火をつけろ。」
看守が火をつけると、炎が高く上がった。三人は低いアーチの扉を屈んで出て、火を残して中庭へと戻った。下るにつれて、再び大海の怒涛の音が聞こえてきた。
群衆はドファルジュ氏を探し求め、サン・タントワーヌは、バスティーユを守った総督の警護役にワイン店主を立てることを要求した。さもないと、総督は市庁舎に連行されず、民衆の血が報われない。
灰色の軍服に赤い勲章をつけた総督を取り囲む、激情と争いの宇宙の中で、ただ一人、女だけが動かずにいた。「ほら、あれが私の夫よ!」と彼女は叫び、総督の隣を決して離れなかった。市庁舎に近づいても後ろから打たれても、最後に雨あられのような刺突と殴打が降り注ぎ、総督が倒れるまで、彼女は離れなかった。そして総督が死ぬや否や、彼女はその首に足をかけ、長い間準備してきた残酷なナイフで首を切り落とした。
ついにサン・タントワーヌが「街灯のために人間を吊るす」という恐ろしい考えを実行する時が来た。虐げられた血は高まり、圧政の血は――市庁舎の石段にも、ドファルジュ夫人が死体を踏んだ靴の裏にも――流れ落ちた。「あそこの灯りを下ろせ!」とサン・タントワーヌは新たな死の手段を探して叫ぶ。「見張り兵を残していけ!」吊るされた見張りが配され、群衆は再び押し寄せた。
黒く脅威的な波の海、波が波を持ち上げて転覆をもたらす破壊の海、その深さも力も未だ知れぬ海。復讐の声と、苦しみで硬直した顔が渦巻き、もはや哀れみの感情すらそこには残されていなかった。
だが、その激怒が渦巻く顔の海の中に、二つの七人ずつの顔の群れ――他の誰よりも鮮烈に対照的な顔――があった。嵐に墓を破られて解放された七人の囚人――皆、恐れと困惑と驚愕に満ちて、まるで最後の審判の日が来たかのよう。もう一方には、七つの首――半開きの瞼、うつろな目、血の気のない唇が「お前の仕業だ!」と沈黙の証言を突き付けているかのようだった。
七人の解放された囚人、七つの血まみれの首、八つの塔の忌まわしい要塞の鍵、昔の囚人の手紙や遺品――それらを高らかに掲げ、サン・タントワーヌのこだまする足音が1789年7月のパリを行進していった。どうか天よ、ルーシー・ダーネイの空想を打ち消し、この足音を彼女の人生から遠ざけてください! なぜなら、この足音は激しく、狂気に満ち、危険であり、一度赤く染まれば、あのワイン店の樽が割れてから長い年月を経ても、容易に清めることはできないのだから。
第二十二章 なおも高まる海
やつれ果てたサン・タントワーヌは、歓喜の抱擁と祝福で辛うじてわずかな固いパンを柔らかくしたわずか一週間しか幸せな時を持てなかった。その一週間の後、ドファルジュ夫人はいつものようにカウンターに座り、客を監督していた。夫人の髪にはバラの花はなかった。なぜなら、スパイの大同盟ですら、この一週間でサンの慈悲に自分の身を委ねることを極度に慎重になったからだ。通りの街灯も、何やら不吉に大きく揺れていた。
マダム・ドファルジュは腕を組み、朝の光と熱に包まれて、ワイン店と通りをじっと見つめていた。どちらにも、みすぼらしくみじめな人々の小集団がたむろしていたが、今やその顔つきには明らかに、自らの苦しみを玉座とする力の意識が宿っていた。最もみすぼらしい頭に斜めにかぶさった、ぼろぼろのナイトキャップにさえ、こうした皮肉な意味が見て取れた――「私、この帽子を被る者が、生きるのをどれほど苦労しているか、あなたに分かる? でも、あなた、この帽子を被る私が、あなたの命を奪うのがどれほど容易になったか、分かる?」かつては仕事もなかったやせ細った裸の腕は、いまや、いつでも振り下ろされるべき「仕事」を得ていた。編み物をする女たちの指先は、身を裂く力を得たという自覚で、冷酷に動いていた。サン・タントワーヌの様子は一変していた――その姿は何百年もかけて徐々に刻まれ、そして最後の仕上げの一撃が、その表情に決定的な変化をもたらしていた。
マダム・ドファルジュは、それを観察しながら、サン・タントワーヌの女たちのリーダーにふさわしい、抑えた満足の表情を浮かべていた。傍らでは、彼女の仲間の一人が編み物をしていた。その副官は、飢えた食料品店主の小柄でややふっくらした妻であり、二児の母でもあったが、すでに「復讐の女神」と呼ばれる名を賜っていた。
「聞いて!」と復讐の女神が言った。「静かにして! 誰が来るの?」
まるでサン・タントワーヌ地区の外れからワイン店の扉まで火薬が引かれ、一気に火がついたかのように、ざわめきが一気に広がった。
「ドファルジュよ」とマダムが言った。「静かに、愛国者たち!」
ドファルジュ氏が息を切らせて入ってきて、赤い帽子を脱ぎ、周囲を見回した。「どこも聞いているぞ!」とマダムが再び言った。「彼の話を聞いて!」ドファルジュ氏は、戸口の外で目を輝かせ口を開けている群衆を背にして、息を切らせて立っていた。ワイン店の中にいる人々はみな立ち上がっていた。
「さあ、旦那様。何事なの?」
「向こうの世界からの知らせだ!」
「ふん?」とマダムが軽蔑するように叫んだ。「向こうの世界?」
「ここにいるみんなは覚えているか、昔、飢えた人々に“草でも食え”と言い放ち、死んで地獄へ行ったといわれた、あのファロン爺のことを?」
「みんな覚えてる!」と一同が叫んだ。
「その彼についての知らせだ。今、俺たちの間にいる!」
「俺たちの間に!」とまた一同が叫ぶ。「そして死んでるのか?」
「いや、死んでない! 俺たちを恐れるあまり――当然のことだ――自分が死んだと偽って壮大な偽葬儀までした。だが、田舎で生きて隠れているところを見つかり、連れてこられた。さっき俺は、彼が市庁舎へ囚人として連れて行かれるのを見た。やつが俺たちを恐れる理由があったと言ったが、みんなもそう思うか?」
七十歳を超えたみじめな老悪党よ、もし今までそれを知らなかったとしても、この叫び声を聞けば、心の底で思い知ったことだろう。
深い沈黙が一瞬訪れた。ドファルジュ氏と妻はじっと見つめ合った。復讐の女神は身をかがめ、カウンターの後ろにあった太鼓を動かす音が聞こえた。
「愛国者たちよ!」とドファルジュ氏が決然と声をあげた。「準備はできているか?」
即座に、マダム・ドファルジュは腰にナイフを差し、街では太鼓が鳴り響き、まるで太鼓と奏者が魔法のように一体となって現れたかのように思えた。そして復讐の女神は、恐ろしい叫び声をあげ、まるで四十人のフューリーが一度に現れたように腕を頭上で振り回しながら、家から家へと駆け巡り、女たちを呼び起こした。
男たちは、怒りに燃え血に飢えた眼差しで窓越しに見たり、手に入る武器を掴み、通りに溢れ出てきたが、女たちの姿は最も勇敢な者さえも震え上がらせた。彼女たちは貧しさからくる家事や子供、地面にうずくまる飢えた裸の老いた者や病人の元さえも離れ、髪を振り乱し、互いを、そして自分自身をも狂気へと駆り立てながら、叫び声と激しい身振りで走り出した。「ファロンの悪党が捕まったぞ、姉妹よ! ファロン爺が捕まった、母さん! ファロンのろくでなしが捕まった、娘よ!」そこへさらに何十人もの女たちが駆け込んできて、胸を叩き、髪をかきむしり、叫びながら、「ファロンが生きている! 飢えた民に草を食えと言ったファロンが! 私の年老いた父にパンがなかった時、草を食えと言ったファロンが! この干上がった乳房で赤ん坊に草でも吸わせろと言ったファロンが! 神の御母よ、なんて奴だ、このファロン! 天よ、私たちの苦しみを見て! 死んだわが子と枯れ果てた父よ、私はこの石の上で、ファロンに復讐することを誓う!」夫たち、兄弟たち、若者たちよ、ファロンの血を、ファロンの首を、ファロンの心臓を、ファロンの体も魂もよこせ、ファロンを八つ裂きにし、その死骸を土に埋めて草を生やしてやれ! ――この叫びに煽られた女たちの多くは、盲目的な狂乱のうちに舞い狂い、友人同士でさえ殴り合い引き裂き合い、ついには激情の中で気絶して倒れ、男たちによって踏みつけにされるのをなんとか救われた。
それでも、一瞬たりとも時間は無駄にされなかった。ファロンは市庁舎にいて、逃がされるかもしれなかった。だが、サン・タントワーヌが自分たちの苦しみや屈辱、怒りを知っている限り、そんなことは決して許されない! 武装した男女は、ものすごい勢いで地区から溢れ出し、その勢いに吸い寄せられるように、最後の一滴まで吸い尽くす勢いで人々を巻き込んだ。十五分もしないうちに、サン・タントワーヌには年老いた老婆と泣き叫ぶ子供だけが残された。
いや、彼らはもうその時には、あの醜悪で邪悪な老人がいる「尋問の間」をぎゅうぎゅうに埋め尽くし、さらに隣接する広場や通りにまであふれていた。ドファルジュ夫妻、復讐の女神、ジャック・スリーは、群衆の先頭にいて、老人からさほど離れていなかった。
「見て!」とマダムがナイフで指さして叫ぶ。「あの悪党が縄で縛られている。背中に草の束をくくりつけてあるのは見事だわ。ははっ、いい気味だ。今こそ、食わせてやるがいい!」マダムはナイフを脇に挟み、芝居を見るように両手を叩いた。
マダム・ドファルジュのすぐ後ろにいる人たちは、その満足の理由をさらに後ろの人々へと説明し、またその後ろの人たちが更に後ろへ……と伝わっていき、周囲の通りまで拍手が鳴り響いた。同じように、二、三時間にわたるだらだらとした審問と数多くの空虚な言葉の中で、マダム・ドファルジュのしばしば現れる苛立ちの表情もまた、瞬く間に遠くまで伝わった。なぜなら、建物の外側から器用によじ登って窓越しに中を覗いていた男たちは、マダムをよく知っており、彼女と外の群衆をつなぐ伝令役となっていたからだ。
やがて太陽が高く昇り、まるで希望や加護の光のように、囚われた老人の頭に直接一筋の光が差し込んだ。その恩恵はあまりにも過剰だった――たちまち長らく保たれていた塵と殻の障壁は吹き飛び、サン・タントワーヌはついに彼を手中に収めた!
そのことは、たちまち群衆の隅々まで知られることとなった。ドファルジュ氏は柵や机を飛び越え、哀れな老人を死の抱擁で締め付け――マダム・ドファルジュはそれに続いて縄のひとつに手をかけ――復讐の女神とジャック・スリーはまだ追いついておらず、窓の男たちも猛禽のようにホールに飛び込んでは来ていなかったが――その瞬間、町中に叫びが上がった。「引きずり出せ! ランプへ連れて行け!」
建物の階段を下り、また上がり、頭から突き落とされ、膝をつき、立ち上がり、背中を下に引きずられ、何百もの手が顔に草と藁の束を押し付け、殴られ、引きずり回され、苦しみと出血に喘ぎながらも、ずっと命乞いを続けていた。時には激しい苦悶の中、群衆が彼を見ようと少し間を空け、時には死人の丸太のように脚の森を引きずられ、ついには近くの街角の死のランプの下に引き据えられた。そこでマダム・ドファルジュは、まるで猫が鼠を離すように、彼を手放し、何をするでもなく静かに彼を見つめていた。女たちは激しく叫び続け、男たちは草を口に詰めたまま殺せと叫んだ。一度、彼は吊るされて縄が切れ、叫びながら捕まえられた。二度目も同じ。三度目には縄は有情にも切れず、ほどなくして彼の首は槍先に掲げられ、口にはサン・タントワーヌ中が踊り狂うほどの草が詰め込まれていた。
だが、この日の凶行はこれで終わったわけではなかった。サン・タントワーヌは、血が沸き立つほど叫び踊った挙げ句、日が暮れるころ、「あの処刑された男の娘婿」――またしても民衆の敵で侮辱者――が、騎兵だけで五百人もの護衛に守られてパリに入ってくると聞いて、さらに激昂した。サン・タントワーヌは彼の罪状を大きな紙に書き立て、彼を捕らえ――軍勢の胸元から引きずり出してでもファロンの元に送ろうとし――その首と心臓を槍先に掲げ、この日の三つの戦利品を「狼の行進」で町中を練り歩いた。
夜がすっかり更けるまで、男も女も子供の元に戻らなかった。ようやく戻ると、みじめなパン屋の店先には、悪いパンを辛抱強く買おうとする長い行列ができ、空腹で意識も朦朧としながらも、彼らはその日得た勝利を互いに称えあい、話し合っては自らを慰めた。やがてこのぼろぼろの行列も短くなり、ばらばらと消えていき、貧しい灯りが高い窓に灯り、通りではか細い焚き火を囲んで隣人同士が調理し、戸口で質素な食事を共にした。
食事は肉もなく、多くの味付けもない哀れなパンばかりだったが、人の温かさが少しばかりの滋養を与え、わずかながら明るさをもたらした。一日の最悪の場面を味わった父母たちも、貧しい我が子たちと優しく遊び、恋人たちはこの世界で、ささやかな希望と愛を見出していた。
ほとんど夜明けに近い頃、ドファルジュのワイン店も最後の客を見送り、ドファルジュ氏は戸を閉めながら掠れた声で妻に言った。
「ついに来たな、私の愛しい人よ!」
「そうね」とマダムは応じた。「ほとんどね。」
サン・タントワーヌは眠りにつき、ドファルジュ夫妻も眠った。復讐の女神も、飢えた食料品店主と共に眠り、太鼓も沈黙した。太鼓だけがサン・タントワーヌで唯一、血と激動に変わらぬ声を保っていた。復讐の女神が太鼓を預かる者として、それを叩けば、バスティーユが落ちる前もファロンが捕まる前も同じ音が響いただろうが、サン・タントワーヌの男たちと女たちのしゃがれた声は、もはや元には戻らなかった。
第二十三章 炎、昇る
泉が流れるあの村にも変化が訪れていた。街道で石を打ちながら、わずかなパン屑を得て、無知で衰えた魂と体をかろうじて繋いでいた道直し男が毎日通うその村にも。岩山の上の牢獄は、かつてほど威圧的ではなかった。守る兵士はいるものの少なく、兵を監督する士官たちでさえ、自分の部下が何をするか分からず――ただ一つ、命令通りには動くまいということだけは分かっていた。
どこまでも荒れ果てた国土が広がり、生み出すものは荒廃のみ。緑の葉も草も穀物の茎も、すべて住む人々同様、しおれ貧しかった。すべてが、打ちひしがれ、圧迫され、壊れていた。住居、柵、家畜、男も女も子供も、そして彼らを抱く土壌さえ――すべてが擦り切れていた。
モンスニョール(個々人としては時に立派な紳士であったが)はもともと国の祝福であり、ものごとに騎士的な気風をもたらし、華やかで贅沢な生活の模範であり――他にもいろいろ立派な点があったのだが――それでも、モンスニョール階級が何故か国をこうした状態に追い込んでしまった。不思議なことに、モンスニョールのためだけに創造されたはずのこの天地が、あっという間に干からびて搾り取られてしまったのだ! きっと永遠の摂理にも短慮があったに違いない! ともあれ、最後の一滴まで血が搾り取られ、拷問台の最後のねじが何度も回されて摩耗し、もはや噛み合うものもないほどに空回りし始めると、モンスニョールはこのみすぼらしく説明のつかない現象から逃げ出し始めた。
だが、これが村や多くの村の変化の本質ではない。何十年にもわたり、モンスニョールはそれらを搾り取り、狩猟の楽しみ以外ではめったに足を踏み入れなかった――今では人狩りの楽しみ、かつては獣狩りの楽しみのために、野蛮で不毛の荒地を設け、そこを保存した。そうではない。変化は、モンスニョールの彫りの深い貴族的な顔立ちが消えることよりも、低層階級の見慣れぬ顔が現れ始めたことにあった。
この時代、道直し男が孤独にほこりまみれで働きながら――自分も土に還る身だなどと反省する暇もないほど、晩飯がどれだけ少ないか、もっと食べられたらどれほど嬉しいかばかり考えていたが――そんな彼がふと顔を上げて景色を見やると、かつては珍しかったはずの、不作法な身なりの男が歩いてくるのが、今では頻繁に目につくようになった。その男が近づくと、道直し男は驚きもせず、ぼさぼさ頭の野蛮人のような風貌で、木靴を履いた大男、何本もの街道の泥とほこりにまみれ、何箇所もの沼地の湿気に濡れ、森の小道を抜けては棘や葉や苔をまとった姿だと気づくのだった。
そんな男が、七月の昼、道直し男が石積みの上で雹を避けて休んでいると、まるで幽霊のように現れた。
その男は彼を見て、谷間の村を見て、製粉所を見て、岩山にそびえる牢獄を見た。それらを認識すると、なけなしの知恵でこう言った――方言混じりの言葉であったが、なんとか通じた。
「どうだい、ジャック?」
「変わりゃしないよ、ジャック。」
「握手しよう。」
二人は手を取り合い、男は石積みに腰を下ろした。
「昼飯は?」
「もう晩飯しかないよ」と道直し男が腹を空かせた顔で答えた。
「みんなそうだ」と男がうなった。「どこへ行っても、昼飯はない。」
男は黒ずんだパイプを取り出して詰め、火打石で火を付け、ぼうっと煙が上がるまで吸った。すると突然、パイプを口から離し、指先から何かを中に落とした。それはパッと燃えて、すぐに消えた。
「握手しよう。」今度は道直し男の番だった。二人は再び手を取り合った。
「今夜か?」と道直し男が言う。
「今夜だ」と男はパイプをくわえた。
「どこで?」
「ここで。」
二人は石積みに腰かけ、雹が銃剣のように間を突き抜ける中、無言で見つめ合っていたが、やがて空が晴れ始めた。
「案内しろ」と旅人が言い、丘の頂上へ歩き始めた。
「いいかい」道直し男は指を伸ばして言った。「ここを下りて、通りをまっすぐ、泉を越えて――」
「そんなのどうでもいい!」と相手は景色を見回しながら遮った。「俺は通りも泉も通らん。で?」
「で――あの村の上の丘を越えて、さらに二リーグほど行ったところだ。」
「よし。いつ仕事を終える?」
「日が沈んだら。」
「じゃあ、俺を起こしてくれ。二晩歩きづめで休んでない。パイプを吸い終わったら、子供のように眠れるから。必ず起こしてくれよ。」
「もちろん。」
旅人はパイプを吸い終え、胸にしまい、重い木靴を脱いで石積みの上に横たわり、すぐに眠りに落ちた。
道直し男はいつも通り埃にまみれて働きながら、雹雲が去って明るい空がのぞき、景色にも銀色のきらめきが戻るのを見た。今や赤い帽子を被った小柄な彼は、石積みの上の大男に心を奪われていた。何度も目を向け、道具を手で動かしながらも心ここにあらずだった。その銅色の顔、黒くぼさぼさの髪と髭、粗末な赤いウールの帽子、毛皮と自家製の布を織り交ぜた衣服、骨太な体躯もやせ細り、寝ている間の唇には頑なな決意が浮かんでいた。その姿に、道直し男は畏怖を感じた。長く旅をして足も血だらけで、木靴には葉や草が詰め込まれ、服も体も擦り切れ傷だらけだった。彼の胸元やどこかに隠し武器がないか覗き込もうとしたが、両腕を固く胸に組んで眠っており、無駄だった。砦も柵も見張りも、道直し男にはこの大男の前では空気のように無力に思えた。そして視線を遠く地平線へやると、フランス中のあちこちに同じような大男が障害もなく集まっている光景が、小さな想像力の中に浮かんだ。
その男は、雹にも晴れ間にも、顔に当たる日差しにも影にも、体に当たる氷の塊や、それが太陽で宝石のように輝く様子にも無関心で眠り続け、やがて太陽が西に傾き、空が赤く染まると、道直し男は道具を片付け、村へ下りる準備を整えて彼を起こした。
「よし!」と男は肘をついて起き上がった。「丘の頂上を越えて二リーグか?」
「だいたいな。」
「だいたいでいい。」
道直し男は埃をまとって風に吹かれながら村へ帰り、泉で痩せた牛たちと並んで水を飲ませながら、村人みんなに何やら囁いて回った。村人が粗末な晩飯を済ませると、普段なら寝床へと忍び込むところを、再び戸外に出てきてとどまっていた。不思議なほど囁き合いが伝染し、暗闇の中で泉に集まると、みな一つの方向だけを期待するように見上げていた。村の責任者であるガベル氏も不安になり、家の屋上に上って同じ方角を見やり、泉の暗い顔を覗き込み、教会の守衛に鐘を鳴らす用意を命じた。
夜が深まった。古い城館を囲む木々は、風に煽られて、まるでその巨大な建物を脅すかのように揺れていた。二段のテラス階段には、雨が激しく流れ込み、扉を叩いて中の者を呼び起こしているようだった。廊下では槍やナイフの間を風が駆け抜け、階段を嘆きながら上り、最後の侯爵が眠った寝室のカーテンを揺らした。森の東西南北から、四人の荒々しくみすぼらしい大男が、草を踏みしめ枝を折りつつ、慎重に歩み寄り、中庭で落ち合った。そこから四つの灯りが四方へ散り、また闇に沈んだ。
だが、それも長くは続かなかった。やがて城館は、まるで自らの光を帯び始めたかのように、怪しく浮かび上がってきた。正面の建物の裏で火がちらつき、透けた部分が浮かび上がり、手すりやアーチ、窓の位置が分かるようになった。やがて火は高く、広く、明るくなり、やがて二十もの大きな窓から炎が噴き出し、石像たちが火の中で目覚め、にらみつけていた。
家の周囲に残っていたわずかな人々がざわめき、馬に鞍をつけ、駆け去る者がいた。闇夜を馬で駆け抜ける蹄音が響き、村の泉の前で手綱を引き絞った馬は泡だらけになってガベル氏の家の前で止まった。「助けてくれ、ガベル! みんな、助けて!」教会の鐘はせわしなく鳴ったが、他には助けはなかった。道直し男と二百五十人の仲間たちは、泉の前で腕を組み、空に伸びる火柱をじっと見上げていた。「四十フィートはあるな」と彼らはうそぶいたが、誰一人動かなかった。
城館から駆け出した男と泡立った馬は村を駆け抜け、岩山の牢獄へと急いだ。門前では士官たちが火を眺め、離れて兵士たちがいた。「助けてくれ、紳士諸君――士官殿! 城館が燃えている、急げば貴重な品も助かる! 助けてくれ!」士官たちは兵士たちを見、兵士たちは火を見、誰も命令を出さず、肩をすくめて唇をかみしめ、「燃えるしかない」と答えた。
使者は再び坂を下り村を駆け抜けると、村は明かりに包まれ始めた。道直し男と二百五十人の仲間たちは、一斉に家に飛び込んで、すべての曇った窓にろうそくを灯していた。物資の欠乏からろうそくはガベル氏から半ば強引に借りられた。その際、かつては従順だった道直し男も、「馬車は焚き火にいいし、郵便馬は焼き肉にいい」と言い放った。
城館はひとりでに燃え続けた。炎と轟音の中、まるで地獄から吹き付けるような熱風が建物を吹き飛ばさんばかりだった。火勢が上がったり下がったりするたびに、石像の顔は苦悶するように浮かび上がった。大きな石や木材が崩れ落ちると、鼻に二筋の凹みがある顔は煙に覆われ、またしばらくして再び浮かび上がった――まるで冷酷な侯爵その人が火刑にされているかのように。
炎は城館を焼き尽くし、近くの木々は火に包まれ、遠くの木々も四人の男たちによって点火され、炎の森ができた。噴水の大理石の水盤では鉛や鉄が溶け、井戸水は枯れ、塔の屋根も熱で消え、四つの巨大な炎の井戸へと変わる。壁には結晶のような亀裂が走り、呆然とした鳥たちが飛び交い、やがて火の中に落ちていった。四人の男は東西南北へと闇夜の道を歩き、灯した狼煙とともに次の目的地へ向かった。村は鐘を奪い取り、正規の鐘つきを締め出して歓喜の鐘を鳴らし続けた。
それだけではない。飢えと火と鐘で熱に浮かされた村は、ガベル氏が地代と税金の徴収に関わっていたことを思い出し(とはいえ最近手にした税金はわずかで、地代は皆無だったが)、彼との面談をせがんで家を囲み、呼び出した。そこでガベル氏は重く扉を閉ざし、一人で熟慮することにした。その結果、再び屋上の煙突の影に身をひそめ、万一扉が破られたら頭から飛び降りて、下の者を道連れにしてやると決意した。
おそらくガベル氏は、火の灯りだけが頼りの屋上で、扉を叩く音と鐘の音をBGMに、一晩中過ごしたことだろう。その家の前には不吉なランプが吊るされていて、村人はそれをガベル氏のために外してやろうと画策していた。夏の夜を、黒い海の縁に立ち、いつ飛び込むかと覚悟しながら過ごす――何と辛いことか! だが、友なる夜明けが訪れ、村のろうそくも燃え尽きると、人々は幸いにも散っていき、ガベル氏もその命を携えて屋内に戻ることができた。
百マイル離れた別の場所では、その夜もまた他の官吏たちがもっと不運な目にあい、朝日が昇ると生まれ故郷のかつて平和だった通りに吊るされていた。また、道直し男たちより不運な村人や町民もいて、官吏や兵士たちに逆襲され、彼らが今度は吊るされることもあった。しかし、四人の男たちは容赦なく東西南北へ進み、誰が吊るされようと、火だけは消えなかった。火を消すほどのギロチンの高さを、官吏たちはどんな数学をもってしても計算できなかった。
第二十四章 磁石岩に引き寄せられて
火と海の荒れ狂い――かつてない波が陸を揺るがし、引き潮もなく、ただただ高まり続ける怒涛。その変動の三年間のうちに、リトル・ルーシーの誕生日も三度、金の糸となって家庭の平穏な日々に織り込まれた。
その家の者たちは幾晩も幾日も、隅の影に響く足音に耳を澄ませ、そのたびに心臓が縮み上がった。なぜなら、彼らにとってその足音は、赤い旗の下に国の危機を叫び、恐るべき呪文で野獣と化した民衆の足音そのものに思えたからである。
モンスニョール階級は、自分たちがありがたがられていない現象――つまりフランスで求められないどころか、命まで失いかねない現実――を認めようとしなかった。まるで悪魔を呼び出しておきながら、その姿に恐れをなし、何も尋ねられずに逃げ出す農民のように、モンスニョールたちは何年も主の祈りを逆さに唱え、様々な呪法を尽くして悪魔を招き寄せておきながら、いざその恐るべき姿を目の当たりにすると貴族らしく一目散に逃げ出したのだった。
宮廷の輝ける「牡牛の目」も失われていた。あれがあれば、今ごろは国民の銃弾の的になっていただろう。もともとよく見える目ではなく、ルシファーの傲慢、サルダナパルスの贅沢、そして盲目の暗さが詰まっていたが、その目も消え失せた。宮廷は内側から外縁の腐敗の輪に至るまで、すべて消え失せた。王権は失われ、宮殿で包囲され、「停止」されてしまったという最期の知らせも届いていた。
1792年8月が訪れ、モンスニョールたちは今や四散していた。
当然のことながら、ロンドンにおけるモンスニョールたちの本拠地、集会所はテルソン銀行であった。魂はかつて体が集った場所に留まるとされ、ギニー一枚残らぬモンスニョールたちも、かつて自分のギニーがあった場所をうろついていた。それだけではなく、もっとも信頼できるフランス情報が最速で集まるのもこの場所だった。そしてテルソン銀行は、没落した旧来の客にも惜しみない寛大さを示した。また、嵐の訪れを先読みして略奪や没収を避けようと資金を預けた貴族たちも、困った仲間がいつでもここで所在を確認できるようにしていた。さらに新たにフランスからやってきた者は、ほとんど例外なくテルソン銀行に自分の到着と情報を届けていた。多くの理由から、テルソン銀行はフランス情報の一大取引所となっており、そのことは世間に広く知られていたため、問い合わせが殺到し、銀行では最新情報を短い一文にまとめて窓に掲示することもしばしばだった。
蒸し暑い霧の午後、ローリー氏は机に向かい、チャールズ・ダーネイがそこによりかかり、声を潜めて話し込んでいた。かつて「銀行との面談室」とされた質素な部屋は、今では情報取引所と化し、溢れんばかりの人で賑わっていた。閉店まであと小一時間ほどだった。
「ですが、あなたはいまだかつてないほどお若い方ですが」とチャールズ・ダーネイがややためらいながら言った。「それでも私は――」
「私が年をとりすぎている、と言いたいのだね?」とローリー氏。
「天候も不安定ですし、長旅になりますし、交通も不確か、現地も混乱している。パリはあなたにとって安全とは言えないかもしれません。」
「チャールズ、私の親愛なる友よ」とローリー氏は快活に言った。「それらは私が行くべき理由の一部であって、行かない理由ではないよ。私など、もう八十に手が届く老人に誰が構うものか。今や狙われる価値のある者は他にいくらでもいる。混乱した町だというが、だからこそ、テルソンの信頼を受け、商売も町も知る私のような者が行く必要があるのだ。旅の不便や季節の厳しさも、テルソンでこれだけ長く食べてきた私が、今さら少々の苦労を厭ってどうする?」
「私が代わりに行ければよいのですが」とダーネイが落ち着かずにつぶやいた。
「おやおや、君は行くなと助言しながら自分が行きたいとは! しかもフランス生まれのくせに! なんて賢い相談役だ。」
「ローリーさん、フランス生まれだからこそ、そんな思いが(本当はここで言うつもりはなかったのですが)度々頭をよぎるのです。あれほど苦しむ人々に同情し、何かを手放した身としては――」ここで彼は思索的な調子に戻った。「もしかしたら耳を傾けてもらえるかも知れない、ある程度は自制を促せるかも知れない、と……。昨夜あなたが帰られた後、ルーシーと話していたのですが――」
「ルーシーと話していたのか」とローリー氏。「君はよくもルーシーの名を出せたものだ! 今この時勢に自分がフランスに行きたいなんて言って!」
「いえ、私は行きません」とダーネイが微笑んだ。「それより、あなたが行くと言われた方が重要です。」
「私は実際に行きますよ、正真正銘。実はね、チャールズ」とローリー氏は遠くの銀行ビルを見やり、声を落とした。「向こうでの業務がどれほど困難か、書類や帳簿がどれほど危険に晒されているか、君には想像もつかないだろう。もしそれらが押収されたり焼かれたりしたら、何人もの人がどれほど困った事態になるか、天のみぞ知る。パリが今日焼かれ、明日略奪される可能性だってあるんだ。だから、最も急いで適切な書類を選び出し、どこかに隠すなり安全な場所に移すなりできるのは、ほとんど――いや、私以外にはまずいない。テルソンがそれを知り、私に頼んでいる今、古びた関節の痛みを理由に尻込みするわけにはいかない。私はここの老人連中の半分より若いぐらいさ!」
「あなたの若々しい勇気と気概には心から敬服します。」
「冗談抜きで、チャールズ――」ローリー氏はまた銀行の方を見て言った。「今パリから何かを運び出すのは、何であれ、ほとんど不可能なんだ。今日だって、ものすごい危険を冒して、首が一本の髪の毛でぶら下がっているような男たちが荷物を持ってきた(これは内緒話だ、君にさえビジネスとしては囁くべきではないが)。普段なら小包のやり取りもイギリス並みに容易だったが、今は何もかも止められている。」
「本当に今夜お発ちですか?」
「本当に今夜だ。事態が切迫し、もはや猶予がない。」
「誰か同行する方は?」
「いろいろ勧められたが、皆断った。ジェリーを連れて行くよ。日曜の夜はずっと私の用心棒で慣れているし、誰もジェリーがただのイギリスのブルドッグだとしか思わないし、私に危害を加えようとする奴にはすぐ飛びかかるつもりにしか見えない。」
「やはりあなたの若々しい気概には敬服せざるを得ません。」
「またそれか! いいや、いいや! この小さな任務を終えたら、テルソンの提案通り引退して、ゆっくり暮らすのもいいだろう。年を取るのはそのときからで十分さ。」
このやりとりは、ローリー氏がいつもの机に座っている時に行われ、モンスニョールはそのすぐそばで、もうすぐ自分を愚民どもに復讐してやると豪語していた。亡命者として逆境にある時のモンスニョールのこうした態度は行きすぎていたし、英国流の正統派の間でも、まるでこの恐ろしい革命だけが天の下で種も蒔かずに収穫された唯一のものかのように語る傾向が強すぎた。まるで、これに至るまでに何も行われず、何も怠られてこなかったかのように、フランスの惨めな民衆や、本来なら民を豊かにするはずの資源がいかに悪用・歪曲されてきたかを見てきた者たちが、何年も前からこの事態が確実に来るのを見抜き、それを率直に記してきたことなどなかったかのようだった。このような空疎な大言壮語と、モンスニョールがかつての体制を復活させようとする途方もない陰謀とが合わさると、それ自体がもはや天も地も尽き果てた時代の遺物でしかない現状を回復しようとする無茶な企てであり、真実を知る正気の人間なら誰でも一言抗議せずにはいられないものだった。そして、まさにこの空虚な大言壮語が、頭の中の血の騒ぎのように彼の周囲を渦巻き、すでにチャールズ・ダーネイを落ち着かなくさせていた心の底の不安を一層かき立て、今も彼を悩ませ続けていた。
その場にいた話し手の中には、国王御用弁護士のストライバー氏もおり、出世街道をひた走る彼はこの話題に一際声高だった。モンスニョールに向かっては、民衆を一掃し地上から消し去ってしまう策や、それと同じ性質の、たとえばワシの尾に塩を振りかけて種族ごと絶滅させるような空論を次々と持ちかけていた。ダーネイは彼のこうした言動にとりわけ強い反感を覚え、これ以上聞くに堪えずその場を立ち去るべきか、あるいは自分の意見を挟むべきか迷っていた。その時、出来事は自然と次の展開へと動いていった。
「家(ハウス)」はローリー氏の元に近づき、汚れてまだ封も切られていない手紙を机の上に置き、「宛先の人物について何か手がかりは見つかりましたか?」と尋ねた。その手紙はダーネイのすぐ近くに置かれたので、彼は自分の本当の名前が書かれているのをすぐに目にした。宛名を英語に訳すと次のようになる。
「至急。かつてフランスのサン・エヴレモンド侯爵宛。ロンドン、イングランド、テルソン商会銀行の管理下に委託。」
結婚式の朝、マネット博士はチャールズ・ダーネイに、「この名の秘密は博士自身がその義務を解くまでは、二人の間で絶対に守るよう」強く念を押した。彼の本当の名前を知っているのは他には誰もいなかった。妻でさえその事実を知らず、ローリー氏もまったく心当たりがない。
「いえ」とローリー氏はハウスに答えた。「ここにいる全員に聞いてみましたが、誰もこの紳士の所在を知りません。」
時計の針が銀行の閉館時刻に近づくと、話し手たちは一斉にローリー氏の机の前を通り過ぎていった。ローリー氏は手紙を差し出して見せたが、モンスニョール――この陰謀好きで憤慨している亡命貴族――がそれを見、フランス語や英語で侯爵に対して軽蔑的な言葉を口々に述べた。
「殺された洗練された侯爵の甥、いや少なくとも堕落した後継者だろう。私は幸いにも彼を知らなかった」とある者が言った。
「持ち場を放棄した臆病者だ」と別の者が言った――このモンスニョールは何年か前、藁車に逆さまに乗せられ半ば窒息しながらパリを脱出した――
「新しい思想に感染した奴だ」と三人目が片眼鏡で宛名を覗きながら言った。「先代侯爵に逆らい、相続した領地を見捨て、暴徒の手に渡した。今ごろは連中から報いを受けているだろう。」
「なんだって?」とストライバー氏が叫んだ。「本当にそんな男なのか? 名を見せてみろ。忌々しい奴め!」
ダーネイはこれ以上抑えきれず、ストライバー氏の肩に触れて言った。
「その男を知っています。」
「なんだって、本当か?」とストライバー氏。「それは気の毒なことだ。」
「なぜです?」
「なぜだって? ダーネイさん、今の時勢に何を言うんです?」
「ですが、私はあえて尋ねます。なぜです?」
「では、もう一度言いますよ、ダーネイさん。あなたがそんな奇妙な質問をするとは残念です。その男は、人類史上最も有害で冒涜的な悪魔の法典に感染し、自分の財産を地上最低の凶悪な連中に譲り渡したんです。あなたは、青年を教育する者がそんな奴と知り合いだと聞いて残念じゃないんですか? いや、理由を言いましょう。私は、そういう悪党には感染力があると信じているからです。それが理由です。」
秘密を守るため、ダーネイはなんとか自制して言った。「あなたは、その紳士のことを誤解しているかもしれません。」
「おやおや、あなたを窮地に追い込む方法なら心得ていますよ、ダーネイさん」といばったストライバー氏は言った。「もしこの男が紳士だというなら、私は理解できませんね。そう言ってもらって結構。さらに伝えておいてください、彼が財産と地位をあの殺人集団に譲ったのなら、私なら今ごろその頭に立っていないのが不思議ですね。でも違うんですよ、諸君」とストライバー氏は周囲を見渡し、指を鳴らして続けた。「私は人間性というものを多少は知っているが、こういう男が自分の大事な“お仲間”の情けに身を委ねるようなことは絶対にしませんよ。いいですか、諸君、こういう奴は騒ぎが始まったら真っ先に逃げ去るんです。」
そう言って最後にもう一度指を鳴らすと、ストライバー氏は聴衆の喝采を浴びながらフリート街へと消えていった。ローリー氏とチャールズ・ダーネイだけが、銀行から人々が立ち去る中、机に残された。
「この手紙、お預かりいただけますか?」とローリー氏が言った。「届け先はご存知ですよね?」
「ええ。」
「では、宛先はこちらで知っていたから届けられたということと、しばらくここに保管されていたことを説明していただけますか?」
「分かりました。パリへはここから出発されますか?」
「ここから、八時発です。」
「また戻って、お見送りに来ます。」
ストライバー氏や他の多くの者、そして自分自身にも嫌気がさしながら、ダーネイは静かなテンプルへ向かい、手紙を開けて読んだ。そこにはこう記されていた。
「パリ、アベイ監獄
1792年6月21日 “かつての侯爵閣下へ
しばらく村人たちに命の危険にさらされておりましたが、ついに私は激しい暴力と侮辱をもって捕らえられ、徒歩で長い道のりをパリまで連行されました。道中も大変な苦しみを味わいました。それだけではありません。私の家は破壊され、跡形もありません。
私が監獄に入れられ、審問に呼ばれ、(あなたの寛大なお力添えがなければ)命を落とすであろう罪とは、『亡命者のために働いた』という人民の威光に対する反逆罪だと言われています。私は、あなたのご命令に従い人民のために尽くしたのだと何度も訴えていますが、無駄です。亡命者財産の差し押さえより前に、彼らが納めなくなった税も免除し、家賃も徴収せず、訴訟手続きも一切取らなかったと説明しましたが、それも無駄です。ただ一言、『亡命者のために働いた、亡命者はどこにいる?』と返されるだけです。
ああ、寛大なるかつての侯爵閣下、その亡命者はどこにおられるのですか? 私は眠りの中で叫び、天に問います、彼は私を救いに来てくれないのか? 返事はありません。ああ、かつての侯爵閣下、私はこの絶望の叫びを海を越えて送ります。パリにて知られるテルソン銀行を通じ、あなたの耳に届くことを願って!
天の御恵み、正義、寛大さ、そしてあなたの高貴なる名誉のために、どうか、かつての侯爵閣下、私を救い出してください。私の罪は、あなたに誠実であったことです。ああ、かつての侯爵閣下、どうかあなたも私に誠実であってください!
ここ、破滅に毎時近づくこの恐ろしい監獄から、私はあなたに、悲痛で不幸な忠誠の念を送ります。
あなたの苦しむ者
ガベル」
ダーネイの心の底にあった不安は、この手紙によって激しく蘇った。自分と家族に忠実だったことだけを罪に問われ危機に瀕している古くからの善き召使いの危難が、ダーネイの目の前で彼を強く責め立てた。彼はテンプルを行きつ戻りつつ、どうすべきか考えながら、道行く人々から顔を隠しそうになっていた。
彼はよく分かっていた――一族の悪行の頂点に立った忌まわしい事件におののき、叔父への疑念と、支えるべきとされた家の崩壊を良心が嫌悪したことから、自分の行動が不十分であったことを。ルーシーへの愛のもと、社会的地位の放棄を決意したものの、それは自分にとってけして新しいことではなかったが、急いで不完全なまま終わってしまったことも理解していた。本来なら体系的に問題を解決し、監督すべきだったのに、そうしようと決意しつつも、結局は成し遂げていなかった。
自ら選び取ったイギリスでの幸福な生活、常に何かの仕事をしていなければならなかったこと、時代の激しい変化や動乱――これらのせいで、先週立てた計画がその週の出来事ですべて無に帰し、翌週の出来事でまたすべてが変わる――自分がこれらの事情に抗いきれず、絶え間ない抵抗もできなかったこともよく分かっていた。行動の時を窺っているうちに時機を逸し、貴族たちはあらゆる道からフランスを脱出し、財産は没収・破壊され、名さえ消されつつある現状を、フランスの新しい権力者が非難するのと同じくらい自分でもよく分かっていた。
だが、自分は誰も虐げていないし、誰も投獄していない。取り立てを強行したどころか、自ら放棄し、好意などない世の中に身を投じ、自分の力で生計を立ててきたのだ。ガベル氏は、「人々をできる限り助け、冬は債権者が許す範囲で燃料を、夏は取立てを免れた分の収穫物を与えよ」と自分から書面で指示を受けていた。その事実も、今や自分の安全のために申し立て、証拠としているはずである。
これがチャールズ・ダーネイの心に芽生え始めていた「パリへ行く」という絶望的な決意を後押しした。
そうだ。昔話の水夫のように、風と潮に流されて磁石の岩(ロッドストーン・ロック)の引力圏に入り、引き寄せられるまま進まねばならなかった。心に浮かぶものすべてが、ますます強く、確実にこの恐るべき引力へ自分を押し流していく。自分の祖国で、悪しき目的が悪しき手で進められ、それを止めるため、慈悲と人道の主張をしようとしない自分――自分なら彼らより良くできるはずなのに、何もしないでいること――に対するうっすらとした不安。それは半ば抑えつけ、半ば自分を責めてきた。そして、強い責任感を持った高潔な老紳士(博士)と自分を比較してしまい(その結果は自分に不利で)、さらにモンスニョールやストライバー氏の嘲りの言葉――特にストライバー氏の粗野で心を痛める言葉――が重なった。そこにガベル氏の手紙、無実の囚人が自分の正義・名誉・良心に救いを求める訴えが届いたのだ。
彼の決意は固まった。パリに行かねばならない。
そうだ。磁石の岩に引き寄せられるように、進み続けるしかない。目の前に岩は見えなかったし、危険もほとんど感じなかった。自分の行動の動機――たとえそれが不十分でも――をもってフランスに出頭すれば、評価されるだろうと思っていた。そしてまた、多くの善意ある心がしばしば見る“善行の幻影”が彼の前に現れ、混乱した革命に自分が何らかの影響を与えることもできるのではないかという幻想さえ抱いた。
決意が固まると、ルーシーにもマネット博士にも、自分が旅立つまで知らせてはならないと考えた。ルーシーには別れの苦しみを味あわせず、博士には過去のフランスの記憶を呼び起こさせたくなかったからだ。自分の状況の不完全さの多くは、博士の古傷に配慮したせいでもあったが、それについては深く考えなかった。ただ、それも自分の行動に影響を与えていた。
思索に忙殺されながら、彼はテルソン銀行に戻り、ローリー氏に別れを告げる時間となった。パリに着いたらまずこの古い友人に会いに行こうと考えたが、今は自分の意図を何も明かしてはならなかった。
銀行の玄関には既に馬車が用意されており、ジェリーが長靴と旅行装備で待機していた。
「手紙は届けました」とチャールズ・ダーネイはローリー氏に言った。「書面で返事を託すことはしませんでしたが、口頭でならお伝えいただけるでしょうか?」
「もちろん、喜んで」とローリー氏。「危険でなければね。」
「まったく危険ではありません。アベイ監獄の囚人宛ですが。」
「名前は?」とローリー氏は手帳を開けて尋ねた。
「ガベルです。」
「ガベル。では、不運なガベル氏への伝言は?」
「ただ、『手紙は受け取った、そして行く』と。」
「日時は?」
「明晩、旅立つと。」
「他に誰か名は?」
「ありません。」
ローリー氏が重ね着をするのを手伝い、二人は暖かな銀行の空気を出てフリート街の霞む空気の中へ出た。「ルーシーとリトル・ルーシーによろしく、私が戻るまで大切に頼みますよ」とローリー氏が別れ際に言うと、ダーネイは曖昧に首を振りながら微笑み、馬車は走り去った。
その夜――8月14日――彼は遅くまで起きて、熱のこもった手紙を二通書いた。一通はルーシー宛で、パリへ行かねばならない強い義務と、身の安全に確信が持てる理由を詳しく説明するもの。もう一通は博士宛で、ルーシーと愛児を託し、同じ内容を力強く繰り返して書き、無事を証明する手紙を到着後すぐ送ると伝えた。
この日、彼らの共同生活で初めて大きな秘密を抱えて過ごすことは苦しいことだった。だが、何も知らず幸せに忙しくしている妻の愛らしい姿を目にして、彼は決意を新たにし、もう少しで打ち明けそうになった気持ちを抑えた。夕方早く妻と同名の可愛い娘を抱き締め、「すぐに戻る」と言い残して家を出た(架空の用事で出かけるふりをし、用意しておいた衣服入りの鞄を隠し持っていた)。こうして、重い心を抱え、濃い霧の立ち込める街へと姿を消した。
見えざる力が今や彼を強く引き寄せており、すべての潮流と風が彼のもとへ向かっていた。彼は二通の手紙を信頼できる門番に託し、夜半30分前まで配達しないよう指示し、すぐにドーヴァーを目指して馬に乗った。「天の御恵み、正義、寛大さ、あなたの高貴な名誉のために!」――囚人のこの叫びを胸に、彼はこの世で愛するすべてを後にして、“磁石の岩”へ旅立った。
第二部 ここまで
第三部 嵐の足跡
第一章 密かに
1792年の秋、イギリスからパリを目指す旅人の道のりは遅々として進まなかった。王政時代でさえ充分に悪路・悪馬車・悪馬に悩まされたであろうが、今や状況は一変し、それどころではない障害が満ちていた。あらゆる町の門も村の税関も、市民愛国者の一団が国民銃を手に爆発寸前の勢いで構え、通行人を止めては尋問し、書類を検査し、独自の名簿で名前を確認し、通過を許したり引き返させたり、拘束したりと、共和国一体・自由・平等・友愛あるいは死を掲げる夜明けの国のために気まぐれな判断を下していた。
ほんの数リーグ進んだだけで、チャールズ・ダーネイは、パリで「善良な市民」と認められるまで、この田舎道を通って故国へ戻る望みはないと悟った。もはや何が起ころうとも、最後まで進むしかなかった。どんな小さな村も、どんな簡単な関門も、通過するたびに、イングランドへの道を一枚一枚塞ぐ鉄の扉だと感じた。あらゆる監視が彼を取り囲み、自分が網にかけられ、あるいは檻に入れられて運ばれているのと何ら変わらぬほど、自由は失われていた。
この徹底した監視は、彼を一日に二十回も足止めしただけでなく、追いかけて引き返させたり、先回りして道を塞いだり、常に付き添って監視したりして、たびたび進行を遅らせた。フランス国内に入って何日も旅を続けたダーネイは、パリまでまだ遠い街道沿いの小さな町で、くたくたに疲れ果て宿に入った。
アベイ監獄のガベルからの手紙がなければ、ここまで進むことすらできなかっただろう。この小さな町の衛兵所でのやり取りは、それほど厳しいものだったので、彼は旅路が正念場に差し掛かったと感じていた。当然、夜中に小さな宿で目を覚まされた時も、驚きは少なかった。
目を覚ますと、気弱な地元役人と、赤い帽子をかぶりパイプをくわえた三人の武装愛国者がベッドの上に腰掛けていた。
「亡命者よ」と役人が言った。「お前を護送付きでパリに送る。」
「市民、私はパリに行きたいのだから、護送はなくて結構だが。」
「黙れ!」と赤帽の一人が銃床で寝具を叩きながら唸った。「黙れ、貴族め!」
「善き愛国者の言う通りです」と気弱な役人が言った。「あなたは貴族なので護送が必要です――そしてその費用も払ってもらいます。」
「選択の余地はないようですね」とダーネイは言った。
「選択だと? 聞いたか!」と同じ赤帽が叫んだ。「街灯に吊るされずにすむのを恩に思え!」
「全ては善き愛国者のおっしゃる通り」と役人は言った。「亡命者、起きて着替えなさい。」
ダーネイは従い、衛兵所に連れ戻された。そこでは他の赤帽たちが煙草をふかし、酒を飲み、焚火のそばで寝ていた。ここで彼は護送費用を重く払わされ、午前三時、雨の中、護送隊と共に出発した。
護送は赤帽と三色帽章をつけた騎馬の愛国者二人で、それぞれダーネイの両側に並び、国民銃と軍刀を携えていた。
護送されるダーネイは自分の馬を操るが、手綱には予備の綱が結ばれ、一方の愛国者がその端を手首に巻いていた。この状態で彼らは顔に雨を受けつつ、荒れた町の石畳をドラグーンの重い足取りで駆け抜け、泥深い街道へ出てパリを目指した。馬や歩調は変わっても、この道中は続いた。
彼らは夜通し進み、夜明け後に一、二時間休み、夕暮れまで潜んでいた。護送兵は服装もみすぼらしく、裸足に藁を巻き、肩には藁屋根のようにして雨をしのいでいた。個人的な不快や、護送兵の一人が常に酔っていて銃を乱暴に扱う危険を除けば、ダーネイは自分への拘束にあまり恐れを感じなかった――いまだ個別事情が明らかでなく、アベイ監獄の囚人によって裏付けられるはずの説明もなされていないのだから、と自分に言い聞かせていた。
しかし、夕方にボーヴェの町に到着し、人通りの多い通りで馬を降りる時、事態の深刻さを自覚せずにはいられなかった。不吉な人だかりが彼を一目見ようと集まり、「亡命者を打倒せよ!」と叫ぶ声も上がった。
彼は鞍から降りようとしかけ、むしろ一番安全だと考えて再び鞍に乗ったまま言った。
「亡命者? 皆さん、私は自らの意思でここフランスにいるのです。」
「呪われた亡命者め!」と鍛冶屋が群衆をかき分けて金槌を振りかざして叫んだ。「呪われた貴族め!」
郵便局長が馬の手綱を取ろうとする男をなだめて間に入り、「放っておけ、放っておけ! 彼はパリで裁かれる」と宥めた。
「裁かれる?」と鍛冶屋が金槌を振り回しながら繰り返した。「そうさ、裏切り者として処刑だ!」群衆はこれに大歓声を上げた。
郵便局長は馬を厩舎に入れようとしたが(酔った護送兵は平然と馬にまたがったまま、その様子を見ていたが)、ダーネイは人々に声を届かせようと叫んだ。
「皆さん、誤解しています、あるいは騙されています。私は裏切り者ではありません!」
「嘘を言うな!」と鍛冶屋が叫んだ。「あの布告以来、奴は裏切り者だ。奴の命は人民のものだ。呪われた命は奴自身のものではない!」
群衆の目に危険な殺気が走り、次の瞬間には殺到しそうになったとき、郵便局長が馬を厩舎へと導き、護送兵もすぐ後ろに続き、二重扉を閉めて閂を下ろした。鍛冶屋は扉を金槌で叩き、群衆は唸り声を上げたが、これ以上は何も起きなかった。
「鍛冶屋が言っていた布告とは何です?」とダーネイは郵便局長に尋ね、礼を述べつつ馬の側に立った。
「亡命者の財産を売却する布告だよ。」
「いつ出された?」
「十四日だ。」
「私が英国を発った日だ!」
「皆、あれは他にもいくつもある布告の一つに過ぎず、既にそうでなかったとしても、いずれ亡命者は全員追放され、戻った者は全員死刑になるだろうと言っている。だから命が自分のものではないと言ったのさ。」
「でも、まだそんな布告は出ていないのでは?」
「そんなこと、私に分かるものか!」と郵便局長は肩をすくめた。「たぶんあるし、いずれ出る。結局同じことさ。どうしようもない。」
彼らは納屋の藁の上で夜半まで休み、町が静まり返ると再び出発した。見慣れたはずの物も様変わりして、この奇妙な旅をさらに現実離れしたものにしていたが、中でも印象的だったのは「眠り」の稀少さだった。荒涼とした道を長く孤独に駆け抜けた後でも、貧しい小屋が集まる場所では、真夜中でも灯りが輝き、人々が枯れた自由の木の周りを手をつないで踊るか、自由の歌を合唱していた。とはいえ幸い、ボーヴェの町にはその夜安らぎがあり、彼らは再び孤独な旅路へと戻った。時ならぬ寒さと雨に打たれ、実りなき畑や焼け落ちた家々の跡、そして突然現れる愛国者の哨戒隊に道を塞がれつつ進んだ。
ついに夜明け、パリの城壁の前に到着した。関門は閉じられ、厳重に警備されていた。
「この囚人の書類はどこだ?」と権威ある人物が警備兵に呼び出されて現れた。
嫌な言葉に引っかかりつつも、ダーネイは自分は自由な旅行者であり、情勢不安のため護送を義務付けられ、費用も自分で払ったフランス市民だと主張した。
「この囚人の書類はどこだ?」とその男はまるで気にせず繰り返した。
酔った愛国者が帽子から書類を出した。男はガベルの手紙にざっと目を通し、やや動揺し驚きの表情でダーネイを注視した。
しかし何も言わず、護送と護送者を残して衛兵所の中に入っていった。ダーネイは馬の上で待たされ、その間に門の警備が兵士と愛国者の混成で、後者が圧倒的多数であることに気づいた。農民の荷車など物資搬入は容易だったが、出るのはごく庶民ですら厳しく、身分確認に長蛇の列ができていた。人々は順番が遠いと地面に寝転び、煙草を吸ったり、雑談したりしていた。男も女も赤帽と三色帽章が当たり前だった。
馬で30分ほど待った後、さきほどの権威ある男が現れ、警備兵に関門を開けさせた。そして護送隊に受領証を渡し、ダーネイに下馬を命じた。彼が従うと、二人の愛国者は疲れた馬を引いて引き返していった。
彼は案内人とともに、安酒と煙草の臭いが充満する衛兵室に入った。そこでは兵士や愛国者が、寝ている者も酔っている者も、酔いと素面の中間の者も、思い思いにたむろしていた。夜明け前の残り火と曇った日差しが混ざり合い、薄暗い部屋に帳簿が開かれている。粗野で色黒な顔立ちの士官が帳簿を前にしていた。
「ドファルジュ市民」と彼は案内人に言い、紙片に記入を始めた。「これが亡命者エヴレモンドか?」
「そうだ。」
「エヴレモンド、年齢は?」
「三十七。」
「既婚か?」
「はい。」
「どこで結婚した?」
「イングランドで。」
「やはりな。妻は今どこだ?」
「イングランドに。」
「やはりな。エヴレモンド、お前はラ・フォルス監獄に収監される。」
「なんということだ!」とダーネイは叫んだ。「どんな法律で、どんな罪でですか?」
士官は紙から顔を上げ、一瞬だけ言った。
「ここには新しい法律も、新しい罪もある、エヴレモンド。」そう言って薄ら笑いを浮かべ、書き続けた。
「私は、同胞の書状による要請に自発的に応じて来たのだとご承知ください。それ以上何も求めません。その機会を即刻与えられるのは私の権利ではありませんか?」
「亡命者に権利はない、エヴレモンド。」士官は無表情にそう返し、書き終えると内容を読み返し、砂を振りかけ、「密かに」と言ってドファルジュ氏に紙を渡した。
ドファルジュ氏は紙で合図し、囚人は同行した。武装した愛国者二人が警護した。
ドファルジュ氏は衛兵所の階段を降り、パリの町へ出ると小声でこう言った。「バスティーユに囚われていたマネット博士の娘と結婚したのはお前か?」
「そうです」とダーネイは驚いて見返した。
「私はドファルジュ、サン・タントワーヌ地区のワイン屋だ。聞いたことがあるだろう。」
「妻があなたの家に父を迎えに行きました。ええ。」
「妻」という言葉はドファルジュ氏に陰鬱な思いを呼び起こしたようで、彼は急に苛立った様子で言った。「あの生まれたばかりの鋭い女――ギロチン様の名において、なぜフランスに来た?」
「理由は今言った通りです。本当だと信じてくれませんか?」
「お前には不都合な真実だ」とドファルジュ氏は眉をひそめ、前方だけを見て言った。
「本当に私はここで迷っています。全てが前代未聞で、急激で理不尽です。少し助けていただけませんか?」
「何もせん。」ドファルジュ氏は前を向いたまま答えた。
「一つだけ質問に答えてもらえますか?」
「場合による。言ってみろ。」
「これから向かう監獄で、外部との連絡は取れますか?」
「そのうち分かる。」
「証言の機会も与えられず、埋もれてしまうのですか?」
「そのうち分かる。まあ、他の者ももっと酷い牢獄で同じ目に遭った。」
「だが私の手でそんな目に遭った者はいません、ドファルジュ市民。」
ドファルジュ氏は暗い目つきで一瞥し、黙々と歩き続けた。沈黙が深まるほど、わずかな望みも消えていく、とダーネイは感じた。だから彼は急いで切り出した。
「私にとって(あなたのほうがよくご存じのはずですが)何より大事なのは、テルソン銀行のローリー氏――今パリにいる英国紳士――に、私がラ・フォルス監獄に入れられたという事実だけを、何の注釈もなく伝えることです。それだけでもしてもらえませんか?」
「何もしない。」とドファルジュ氏は頑なに返した。「私の義務は祖国と人民へのものだ。私は誓って彼らに仕えている。お前には何もしない。」
ダーネイは、これ以上頼んでも無駄と感じ、また自尊心も傷ついた。二人は無言で歩き続けたが、ダーネイは囚人が町を通る光景に人々がいかに慣れてしまっているかを感じずにはいられなかった。子供たちでさえ関心を示さず、何人かが彼を貴族だと指さす以外は、良い服を着た男が監獄へ行くのも、労働者が働きに行くのと同じくらい平凡な事だった。暗く汚れた細い路地では、台の上で熱弁をふるう男が、王家の罪を人々に説いていた。ダーネイがその男の言葉から初めて、王が監獄に入れられ、外国大使も皆パリを去ったことを知った。道中(ボーヴェ以外)は何も知らされなかったのだ。護送隊と徹底した監視は彼を完全に孤立させていた。
彼は、イングランドを発った時よりもはるかに大きな危険の只中にいること、危難は急速に増しており、これからも加速するだろうことを、今や当然知っていた。数日後の出来事をあらかじめ知っていれば、この旅を決意しなかっただろうと自認した。しかし、それでも彼の不安は、後世の目から見れば薄かった。未来は不明瞭であり、その中には無知な希望があった。収穫の時期を血で染めることになる数日後の大虐殺も、彼には十万年前の出来事のように現実味がなかった。「生まれたばかりのギロチン様」も、まだ名前さえ知れ渡っておらず、これから起きる恐怖の出来事も、実行者の脳裏にもまだ浮かんでいなかった。まして優しい心の持ち主である彼にはなおさらだった。
不当な拘束や苦難、妻子との残酷な別離の予感――それだけは現実的に感じていたが、それ以外に明確な恐怖はなかった。その思いを胸に、彼は陰鬱な監獄の中庭へと到着した。
肥満顔の看守が頑丈な小扉を開け、ドファルジュ氏は「亡命者エヴレモンド」と彼を紹介した。
「なんてこった! またひとりか!」と看守が叫んだ。
ドファルジュ氏はその叫びを気にもせず、受領証を受け取ると、二人の愛国者と共に去った。
「なんてこった、まただ!」看守は妻に向かって言った。
返す言葉もない看守の妻はただ「辛抱しなくちゃね、あなた」と答え、呼び鈴で呼ばれた三人の看守もその意見に同意し、「自由のために」と付け加えたが、それはこの場所では何とも場違いな響きであった。
ラ・フォース監獄は陰鬱な場所で、暗く不潔で、ひどく不快な、囚人たちの眠りの悪臭が漂っていた。不思議なことに、こうした手入れの行き届かない場所では、囚人の寝息の悪臭がすぐに現れるものだ!
「しかも、密閉監禁か」と看守長は不満げに書類を見ながらつぶやいた。「もうこれ以上入らないくらい満杯だというのに!」
彼は不機嫌そうに書類をファイルに刺し、チャールズ・ダーネイはその後の指示を待たされること、三十分。時に強固なアーチ天井の部屋を行き来し、時に石のベンチに腰かけ――いずれも、看守長と部下たちの記憶に焼き付けるために留め置かれていた。
「来い!」とついに看守長が鍵を手に取り、「ついてこい、移民」と言った。
薄暗い監獄の夕闇の中を、ダーネイは彼の後に従い、廊下や階段を通り抜け、多くの扉が彼らの後ろで鳴り響き、施錠されていった。やがて彼らは、男女の囚人であふれる広く天井の低いアーチ状の大部屋に出た。女性たちは長いテーブルに座り、本を読んだり、手紙を書いたり、編み物や縫い物、刺繍をしていた。男性たちはほとんどが椅子の後ろに立ったり、部屋をうろうろしていた。
囚人=恥ずべき罪人・不名誉という本能的な連想から、ダーネイはこの集団を本能的に避けたくなった。しかし、彼が心の中でずっと現実味のない旅を続けてきた、その極致ともいうべき光景がここにはあった。彼らが一斉に立ち上がり、この時代に知られうるあらゆる洗練された礼儀や、魅力的な身のこなし、挨拶で彼を迎えたのである。
だが、これらの洗練は牢獄の習慣と陰鬱さによって不思議なほど曇らされ、場違いな悲惨さと汚れの中で、まるで亡霊のように見えた。ダーネイは自分が死人たちの集いの中に立っているように思えた。皆、亡霊ばかり! 美の亡霊、威厳の亡霊、優雅の亡霊、誇りの亡霊、気まぐれの亡霊、機知の亡霊、若さの亡霊、老いの亡霊――みなこの荒れ果てた岸辺からの解放を待ち、皆がダーネイへ、死によって変わり果てた目を向けている。
それは彼を呆然と立ちすくませた。隣に立つ看守や、動き回る他の看守たちは、普段であれば職務通りの外見でしかなかったろう。だが彼らは、ここにいる悲しむ母親や健やかな娘たち――艶やかな女、若き美女、気品高い婦人の幻影――と比べると、あまりにも粗野で、現実の秩序が完全に転倒していることを強調した。まさに、みな亡霊なのだ。長い非現実の旅路は、自分をこの陰鬱な影の世界へと連れてきた病の進行に過ぎなかったのか!
「不幸を共にする仲間一同の名において」と、礼儀正しい紳士が前に進み出て、「ラ・フォース監獄へようこそ、そしてあなたをここへ導いた災難をお悔やみ申し上げます。早く幸せに終わることをお祈りいたします。よそでは無礼かもしれませんが、ここではそうではありませんので、お名前とご身分をお伺いできますか?」
ダーネイは我に返り、できる限りふさわしい言葉で必要な情報を述べた。
「ですが」とその紳士は、部屋を横切る看守長を目で追いながら続けた。「あなたは密閉監禁ではありませんよね?」
「その言葉の意味はよく分かりませんが、そう言っているのは聞きました。」
「ああ、それはお気の毒に! みな非常に残念に思います。しかし、勇気を持ってください。我々の中にも最初は密閉監禁だった者が何人もいて、しかもごく短い期間で済んでいます。」そして声を上げて付け加えた。「皆さん、残念ですが――密閉監禁です。」
ダーネイが格子戸のところを通り過ぎるとき、同情のざわめきが起こった。その中でも、女性の柔らかく憐れみ深い声がとりわけ目立って、幸運を祈る言葉や励ましの声が次々にかけられた。ダーネイはその格子戸の前で、心からの感謝を表そうと振り返ったが、扉は看守の手で閉ざされ、幻影たちは彼の目の前から永遠に消えていった。
小扉は石造りの階段へと通じていた。二人が四十段(すでに半時間の囚人は数え上げていた)を上がると、看守は低い黒い扉を開け、二人は独房に入った。そこは冷たく湿っていたが、暗くはなかった。
「ここがあんたの部屋だ」と看守は言った。
「なぜ一人で閉じ込められるのですか?」
「そんなこと知るか!」
「ペンとインクと紙は買えますか?」
「そんな命令はされていない。面会が来たときにでも聞くことだ。今は食べ物だけ買える。」
独房には椅子、机、藁の寝台が置かれていた。看守がこれらの物や四つの壁をざっと検分して出ていくとき、囚人――反対側の壁にもたれる男の心には、奇妙な空想が浮かんだ。この看守は顔も体も不健康にむくんでいて、水死体のように見える、と。看守が去ると、さらにぼんやりと「これで私は死んだも同然だ」と思った。そして寝台を見下ろし、吐き気を覚えて目をそらし、「そこにうごめく虫こそ、死後すぐの身体の第一段階だ」と感じた。
「五歩と四歩半、五歩と四歩半、五歩と四歩半。」囚人は独房を歩き回り、その広さを数えた。街の轟音が遠くから太鼓のように響き、人々の叫びがそれに混じっていた。「彼は靴を作った、彼は靴を作った、彼は靴を作った。」また独房の広さを数え、速く歩き始め、心をほかへ向けようとした。「扉が閉まると消えた亡霊たち。中に、黒衣の婦人の姿があった。窓辺によりかかり、金髪に光が射していて、彼女はまるで――――。どうか、また明るい村を馬車で駆け抜けさせてくれ、村人たちが起きている中を――――。彼は靴を作った、彼は靴を作った、彼は靴を作った――――。五歩と四歩半。」そんな断片が頭の奥から沸き上がり、囚人はどんどん歩みを速めて、頑固に広さを数え続けた。街の轟音は、まだ遠くの太鼓のように響きつつ、今度は彼の知っている人々の嘆き声が、その音の上に重なっていった。
第二章 砥石
テルソン銀行パリ支店は、サン=ジェルマン区の大邸宅の一翼にあり、中庭を通って高い壁と頑丈な門で通りから隔てられていた。その家は、かつて大貴族が住んでいたが、騒乱から逃れるため自分の料理人の服装で国境を越えて脱出した。狩られる獣のように逃げたその人物は、転生してもやはり同じモンスニョールであり、かつてその口に供するチョコレートの用意に、料理人以外に三人の屈強な男たちが従事していた。
モンスニョールが去り、その三人の男たちも、高給を得ていた罪を共和国の夜明けの祭壇で彼の喉をかき切ることで贖おうと、進んで用意していた。モンスニョールの屋敷はまず押収され、その後没収された。すべてが急速に動き、法令が次々と苛烈に発布される中、9月の秋の三日目の夜には、法律の愛国使節たちがモンスニョールの家を占拠し、三色旗で印をつけ、豪奢な部屋でブランデーを飲んでいた。
ロンドンのテルソン銀行のような職場が、パリ支店のような有様なら、すぐに本社は正気を失い、新聞の「破産告知欄」行きとなっていただろう。なぜなら、イギリスの堅実な責任感と品格が、銀行の中庭に植木鉢のオレンジの木や、カウンターの上のキューピッド像に何と言うだろうか? しかし、そんなものが実際にあったのだ。テルソンではキューピッド像を白く塗ったが、今でも涼しげなリネンをまとって天井に見え、(よくあるように)朝から晩まで金銭を狙っている。この若き異教の神や、カーテン付きのアルコーブ、壁に嵌め込まれた鏡、そしてすぐに踊り出す若い事務員たちなど、ロンドンのロンバード街ではきっと破産を招いたろう。だが、フランスのテルソンではこうしたものも何とかやっていけたし、時代が続く限り、誰も恐れて預金を引き出したことはなかった。
だが、これからテルソン銀行からはどれだけの金が引き出され、どれだけが失われて忘れ去られるのか。預金者が牢獄に朽ち果て、死んでしまった後に、どれだけの銀器や宝石がテルソンの隠し場所でくすむのか。テルソンの帳簿で二度とこの世で清算されない口座がいくつ、あの世に持ち越されるのか――その夜、それを知る者は誰一人いなかったし、ローリー氏もまた、重苦しくそれらを考えながらも、答えが出せなかった。
彼は、テルソン銀行の一部となるほど深く忠誠心を持ち、銀行内に部屋を持っていた。愛国者たちが本館を占拠しているために一種の安全が得られるという偶然にも、彼は計算などしなかった。そんなことより、職務を果たすことがすべてだった。中庭の向かい側、柱廊の下には広い馬車置き場があり、モンスニョールの馬車が何台かいまだに止まっていた。二本の柱には大きな松明がともり、その光の中、屋外に大きな砥石が据えられていた。これは近くの鍛冶屋か工房から急ぎ運ばれたもののようだった。ローリー氏はこれらの無害な物に目をやり、窓から離れて暖炉のそばに戻った。彼はガラス窓も外側の格子雨戸も開けて、またすぐ閉じ、全身を震わせた。
高い壁と頑丈な門の外からは、いつもの夜の街のざわめきが響いていたが、ときおり、何とも言い難い、恐ろしい響きが混じって、まるで天にまで届くかのようだった。
「ありがたいことだ」とローリー氏は手を組み、「今夜この恐ろしい町に、親しい者が一人もいないのは。どうか危険な人々すべてに、神の慈悲がありますように!」
間もなく、大門の鐘が鳴り、「みな戻ってきたのだ」と思い、耳を澄ませたが、予想していたような大勢の押し寄せる音はなく、再び門がバタンと閉じ、また静寂が戻った。
彼にのしかかる神経質と恐怖は、銀行に対する漠然とした不安をかき立てた。警戒は厳重だったが、彼は信頼できる見張りたちの間を巡回しようと立ち上がったとき、突然、階段を上がる足音が聞こえ、二人の人物が勢いよく入ってきた。その姿を見て、驚きのあまり後ずさった。
ルーシーとその父! ルーシーは腕を彼に差し伸べ、かつて見せた真剣な表情がこの瞬間のために刻みつけられたように、激しく訴えかけていた。
「これは……」ローリー氏は息を切らせ、混乱しながら叫んだ。「どうしたのだ? ルーシー! マネット博士! 何があった? 一体どうしてここに? どうしたのだ?」
ルーシーはその顔を見つめ、青ざめて必死に息をしながら、彼の腕の中で懇願した。「お願いです、親愛なる友よ! 夫が――」
「ご主人が、ルーシー?」
「チャールズが。」
「チャールズが、どうした?」
「ここにいるの。」
「ここ、パリに?」
「もう何日も前から――三日か四日、いえ、何日か分からない、思考がまとまらなくて……。彼は善意からここに来たのですが、私たちには秘密で、検問所で捕まり、投獄されました。」
老博士は思わず叫び声をあげた。ほぼ同時に、大門の鐘が再び鳴り、足音と声の大きなうねりが中庭に押し寄せた。
「何の音だ?」と博士は窓に向かって言った。
「見るな!」とローリー氏が叫んだ。「外を見てはいけない! マネット博士、命が惜しければ、雨戸に触れるな!」
博士は窓の鍵に手をかけたまま、冷静で大胆な微笑みを浮かべて言った。
「親愛なる友よ、この町では私は不死身だ。私はバスティーユの囚人だった。私がバスティーユの囚人だったと知っている愛国者は――パリだけじゃない、フランス中で――私に手を出すどころか、抱擁や敬意を示すだけだ。そのおかげでバリケードも突破し、チャールズの消息も得て、ここに来られた。私は分かっていた、必ずチャールズを守れると、ルーシーにも言った――何の音だ?」またしても窓に手をかけた。
「見るな!」とローリー氏は必死に叫んだ。「だめだ、ルーシー、君も! 」彼はルーシーを腕で抱きしめた。「そんなに怖がらないでおくれ。私は誓ってチャールズが危険な目に遭ったとは知らないし、ここにいるとも思っていなかった。どこの牢にいる?」
「ラ・フォース!」
「ラ・フォースか! ルーシー、もし今まで勇敢で役に立ったことがあるなら――君はいつもそうだったが――どうか今は私の言うことにきっちり従ってくれ。君の行動一つで事態が大きく変わる。今夜は何もできない、外には絶対出られない。これはチャールズのために一番つらいことだが、今は言う通り静かに従ってくれ。裏の部屋に入ってもらう。君の父上と私はすぐに戻る。これは生死に関わることだ、頼む。」
「あなたに従います。今は、こうするしかないと分かっています。あなたを信じています。」
老人は彼女に口づけし、部屋に連れて行き鍵をかけた。急いで博士のもとに戻り、窓を開けて雨戸を少し開け、博士の腕に手を置いて中庭を見下ろした。
そこには男女の群衆――中庭を埋め尽くすには足りない四、五十人ほど――がいた。屋敷の占拠者たちが門を開けたのだろう、一斉に砥石の周りに集まっていた。明らかに彼らのためにここに設置されたのだ。
だが、その群れの恐ろしさ、そして恐ろしい作業!
砥石には二つの取っ手があり、二人の男が狂ったように回していた。砥石の回転で髪が振り乱れ、彼らの顔が現れると、それは野蛮な仮装をした未開人よりも残酷で恐ろしい形相だった。付け眉や付け髭がついており、血と汗で汚れ、絶叫で歪み、獣の興奮と寝不足で目はぎらぎらと光っていた。女たちは彼らの口にワインを流し込む。血とワインが滴り、砥石からは火花が飛び散り、すべてが地獄のような血と炎の空気に包まれていた。血の跡のない者は一人もいなかった。石のそばに群がり、斧やナイフ、銃剣、剣を研ごうと押し合う男たち――裸の上半身に血の染み、ぼろをまといそれにも血がつき、女物のレースやリボンで悪魔のように装った男たち、それらにも血が染みていた。武器はすべて赤く染まっていた。切り傷だらけの剣は、布やドレスの切れ端で手首に縛り付けられていた。狂気の男たちは研ぎ終えた武器を奪い、火花の流れから引き抜いて街へ駆け出す。その目もまた血に染まっていた――まともな人間なら、命を差し出してでもその目を撃ち抜き石にしたかったろう。
これらすべては一瞬のうちに見えた。溺れる者の走馬灯のように、極限状態の人間が一瞬で世界を見通すかのように。彼らは窓から離れ、博士は友の青ざめた顔に説明を求めた。
「彼らは……」ローリー氏はささやくように言い、恐る恐る鍵のかかった部屋を見やりながら、「囚人たちを虐殺しています。もしあなたが本当に言う通りの力を持つなら――私は信じますが――今すぐこの悪魔たちに自分を名乗り、ラ・フォースへ行かせてもらいなさい。もう遅いかもしれませんが、一分でも遅らせてはいけません!」
マネット博士は彼の手を握りしめ、帽子もかぶらず部屋を飛び出した。ローリー氏が雨戸に戻ったとき、博士はすでに中庭にいた。
その白髪と特徴的な顔立ち、そして自信に満ちた様子で武器を水を払うように脇へ避け、瞬く間に砥石の中心へ引き込まれていった。しばし静寂と混乱、博士の不明瞭な声が響き――やがてローリー氏は、博士が群衆に囲まれ、二十人ほどの男たちの列の中央で、肩と肩をつなぎ、声高に急がれて出ていくのを見た。「バスティーユ囚人万歳! バスティーユ囚人の親族をラ・フォースで助けろ! バスティーユ囚人に道を開け! ラ・フォースのエヴレモンド囚人を救え!」そして何百もの応答の叫び声が上がった。
ローリー氏は震える心で雨戸も窓もカーテンも閉じ、ルーシーの元へ急いだ。父親が人々に助けられて夫の捜索に向かったと伝えた。そこには娘とミス・プロスもいたが、そのことに驚く余裕もなく、ただ夜の静けさの中、彼女たちを見守った。
やがてルーシーはローリー氏の足元で、彼の手を握りしめたまま呆然と床に伏した。ミス・プロスは子どもをベッドに寝かせ、頭をその枕に乗せていた。ああ、長い長い夜、妻のうめき声とともに! そして、父親の帰りも知らせもないままの長い長い夜!
夜の間にさらに二度、大門の鐘が鳴り、群衆が押し寄せ、砥石は再び回った。「今度は何?」と怯えるルーシー。「静かに、兵隊たちが剣を研いでいるのだ」とローリー氏。「今やここは国の財産、武器庫のようなものだよ。」
それ以降は弱々しい作業だけが続き、やがて夜がほのぼのと明け始め、ローリー氏は静かに手をほどき、そっと窓を覗いた。血まみれで、まるで戦場で瀕死の兵士が意識を取り戻したかのような男が、砥石のそばの石畳から起き上がり、ぼんやりと辺りを見回していた。やがてこの疲れ切った殺人者は、薄明かりの中でモンスニョールの馬車の一台を見つけ、ふらつきながら中に入り、豪華な座席で眠りについた。
大いなる砥石=地球は、再び回転した。朝日が中庭を赤く照らしていた。しかし、小さな砥石は静かな朝の空気の中にぽつんと残り、太陽が与えたこともなく、決して消すこともできない赤色に染まっていた。
第三章 影
営業時間になると、ローリー氏の商人としての頭にまず浮かんだのは、テルソン銀行の屋根の下に、亡命囚人の妻を匿う権利は自分にはないということだった。もし自分の財産や安全や命で済むなら、ルーシーとその子のためなら一瞬でも迷わず差し出しただろう。しかし、大いなる信託は私物ではなく、職務責任に対しては徹底して厳格な男だった。
まずはドファルジュ氏を思い出し、再びワイン店を訪れて相談しようと考えたが、同時にそれを否定した。彼は最も過激な地区に住み、恐らくはその中枢に深く関わっているからだ。
正午になっても博士は帰らず、テルソン銀行を危険にさらす一分一秒が気がかりとなった。ローリー氏はルーシーに相談した。彼女は父が銀行の近くの界隈に短期間の下宿を借りるつもりだと言っていた。これなら業務の支障もなく、もしチャールズが釈放されたとしても街を出られないことは明白だったので、ローリー氏はその下宿を探しに出かけ、広場の建物がみな雨戸を閉じて廃墟となったような、寂しい裏通りの高層階にちょうど良い部屋を見つけた。
彼はすぐルーシーと娘、ミス・プロスを移し、できる限りの慰めを与え、自分以上の安堵を残した。ジェリーを護衛として残し、自分は仕事に戻った。心は乱れ、日々は重苦しく過ぎていった。
日もすっかり暮れ、銀行も閉じ、彼はまた前夜の部屋で一人、次に何をすべきか思案していた。その時、階段の足音が聞こえ、数分後、一人の男が現れ、鋭い観察の目を彼に向けて呼びかけた。
「お初にお目にかかります」ローリー氏が言った。「私をご存知ですか?」
その男は黒くカールした髪の、四十五歳から五十歳ほどの頑丈な体つきだった。答えは、抑揚も変えずに言葉を繰り返すだけだった。
「私をご存知ですか?」
「どこかでお会いしたような。」
「私のワイン店かもしれません。」
ローリー氏は強い関心と動揺の入り混じった様子で言った。「マネット博士から来たのですか?」
「はい。私はマネット博士の使いです。」
「それで、博士は何と? 何を届けてくれたのですか?」
ドファルジュ氏は彼の不安な手に、一枚の紙片を手渡した。そこには博士の筆跡で、
「チャールズは無事だが、私はまだ安全にここを離れられない。使者はチャールズから妻宛の短い手紙を所持することを許された。使者を妻に会わせてほしい。」
と記されていた。ラ・フォースから一時間以内の日付だった。
「あなたも一緒に来てくれますか」と朗読して大いに安堵したローリー氏が尋ねた。
「はい」とドファルジュ。
まだドファルジュ氏の妙に抑制された機械的な物言いに気づかぬまま、ローリー氏は帽子を取り、二人は中庭へ降りた。そこには二人の女――一人は編み物をしていた。
「ドファルジュ夫人ですね!」ローリー氏は、十七年前に全く同じ姿で彼女を見たことを思い出した。
「そうです」と夫が言った。
「夫人もご一緒ですか?」夫人が同行するのを見てローリー氏が尋ねた。
「はい。顔を確認し、人物を知るためです。安全のために。」
ドファルジュ氏の挙動に心を留めつつ、ローリー氏はやや不安げに道を案内した。二人の女も続いた。もう一人は復讐の女神だった。
一行は急いで通りを抜け、新しい住まいの階段を上がり、ジェリーに迎えられ、ルーシーのもとへ入った。彼女は一人泣いていた。ローリー氏が夫の消息を伝え、夫の手紙を渡すと、彼女は我を忘れるほど喜び、その手紙を届けてくれた手を握りしめた――まさかその手が夜中に夫のすぐ近くで、運命いかんでは彼をどうにかしていたかもしれなかったとは思いもせずに。
「最愛の人へ――勇気を持って。私は無事です。あなたの父には周囲に影響力があります。返事はできません。子どもにキスしてやってください。」
それだけの短い手紙だったが、ルーシーにとっては十分すぎるほどで、感極まってドファルジュ夫人の編み物の手にキスをした。それは情熱的で感謝と愛情に満ちた行為だったが、その手は冷たく、重く、反応せず、すぐに編み物へ戻った。
その手の感触はルーシーに不吉な予感を与えた。彼女は手紙を胸にしまいかけて動きを止め、両手を首に当てたまま、恐れを込めてドファルジュ夫人を見た。夫人は無表情で冷たいまなざしを返した。
「親愛なるルーシー」とローリー氏は割って入り、説明しようとした。「しばしば暴動がありますが、あなたたちが巻き込まれるとは思いません。ドファルジュ夫人は、万一のとき守れるよう、顔と人物を確認したいのです。そうですよね、ドファルジュ市民?」
ドファルジュ氏は陰鬱に妻を見やり、うなり声で同意を示しただけだった。
「ルーシー、子どもとプロス嬢をここに」とローリー氏は折り合いをつけようと努めて言った。「プロス嬢は英婦人で、仏語は分かりません。」
その本人、どんな外国人にも負けぬ自信を持つプロス嬢は腕組みして現れ、復讐の女神に英語で「あなたね、図々しいわね! お元気そうで何より!」と挨拶し、ドファルジュ夫人には咳払いをしたが、どちらも気にも留めなかった。
「これがお子さん?」と夫人は初めて手を止め、編み棒を運命の指のようにルーシーの娘に向けた。
「はい、これが囚人の愛娘で、たった一人の子です」とローリー氏。
ドファルジュ夫人とその一味の影は、その子に不吉なまでに重く落ちたので、ルーシーは思わず地に膝をつき、子を抱きしめた。その影は、母と子の上に、いよいよ暗く、重く垂れ込めた。
「もう十分です、あなた」ドファルジュ夫人が言った。「顔は見ました。行きましょう。」
しかし、その抑え込んだ様子には、はっきりしたものではないが、十分な脅威が込められていたので、ルーシーは夫人の衣服にすがりつき、切々と訴えた。
「どうか夫に優しくしてください。どうか害をなさないで。もしできるなら、彼に会わせてください。」
「あなたの夫は私の関心事ではありません」と夫人は平然と見下ろして言った。「私の関心は、あなたの父の娘――あなたです。」
「どうか私のために、夫に慈悲を――子のために! この子も手を合わせてお願いします。あなたが一番怖いのです。」
ドファルジュ夫人はそれを誉め言葉と受け取り、夫を見た。ドファルジュ氏は爪を噛みつつ不安げに妻を見ていたが、さらに険しい顔になった。
「夫はその手紙で何と言っています?」と夫人は意地悪そうに笑って尋ねた。「影響力、そんなことを書いていますね?」
「父が」とルーシーは急いで紙を胸から取り出し、相手から目を離さず、「周囲に影響力があると……」
「それなら解放されるでしょう」と夫人。「そうなるがよい。」
「妻として母として、お願いします。何の罪もない夫にあなたの力を行使なさらず、むしろ救うために使ってください。姉妹として、どうか私の身になってください。」
夫人は冷ややかに見下ろし、復讐の女神に言った。
「私たちが物心ついたころから見てきた妻や母たちは、大事にされたことがある? 夫や父を牢に入れられ、引き離されるのを何度も見てきたわよね?」
「他に何も見なかったわ」と復讐の女神。
「長い間耐えてきたわ」夫人はルーシーに再び目を向けた。「今さら一人の妻と母の苦しみが私たちに重く響くと思う?」
夫人は編み物を再開し、出て行った。復讐の女神もあとに続き、ドファルジュ氏が最後にドアを閉めた。
「勇気を出して、ルーシー」とローリー氏は彼女を抱き起こして言った。「大丈夫、今のところはこれ以上ないほど順調だよ。元気を出して、感謝の心を持とう。」
「私は感謝しています、でもあの恐ろしい女の人が、私と私の希望に影を投げかけるように思えて……」
「そんな、ルーシー、勇敢な心がどうした? 影なんてものはただの幻さ。」
だが、ドファルジュ夫妻の態度の影は、ローリー氏自身にも重くのしかかり、深い不安となった。
第四章 嵐の中の静けさ
マネット博士が戻ったのは、失踪から四日目の朝だった。この恐ろしい期間に起きたことのうち、ルーシーの耳に入らなかったものは巧みに隠された。彼女がずっと後になってフランスと遠く離れてから初めて知ったのは、男女年齢を問わず千百人の無抵抗な囚人たちが群衆に殺されたこと、四日四晩がこの惨劇に包まれていたこと、彼女の周囲の空気が死者の血に汚されていたことだった。彼女が知っていたのは、監獄が襲撃されたこと、すべての政治犯が危険にさらされたこと、そして一部の人々が群衆に引きずり出され殺された、ということだけだった。
ローリー氏には、博士が「絶対に他言しないように」と前置きして打ち明けた。群衆に連れられ、屠殺場のような光景の中を通り、ラ・フォース監獄にたどり着いたこと。そこでは身内で組織された裁判所が開かれ、囚人は一人ずつ引き出され、すぐに虐殺せよ、解放せよ、あるいは(ごく少数の場合)牢へ戻せと決められていたこと。自分が付き添いに紹介されると、十八年間無実のままバスティーユの密閉囚人だった名と職業を名乗った。審判団の一人が立ち上がって博士を認めたが、それはドファルジュ氏だった。
その後、台帳で義理の息子が生存囚人に入っていることを知り、必死でその命と自由を訴えた。審判団の中には眠っている者、血で汚れた者、清潔な者、酔った者、酔っていない者がいた。自分自身が体制に苦しめられた著名な被害者として熱狂的な歓迎を受け、そのおかげでチャールズ・ダーネイを裁判に呼び出してもらい、尋問を受けさせることが叶った。彼は今にも釈放されそうだったが、その賛意の流れが何かよく分からぬ事情で阻まれ、密談が交わされた。その後、議長がマネット博士に「囚人は拘留を継続するが、博士のために危害は加えず安全に保護する」と伝えた。直ちに合図でチャールズは再び監獄内へ連れ戻された。だが博士は必死に、自分がその場に残り、群衆の殺戮の声がしばしば審理をかき消す中、義理の息子が不幸にも虐殺されないよう見守る許可を求め、ついに許しを得て「血の間」に危険が去るまで残った。
そこで見た光景と、わずかな食事と睡眠の合間――そのすべては語られなかった。助かった囚人への狂喜は、虐殺された者への獣じみた残忍さに劣らず彼を驚愕させた。そこには、一人の囚人が釈放されて通りに出た矢先、間違った野蛮人に槍で突かれ、博士が頼まれて治療に行くと、殺された者たちの死体の上に座るサマリア人たちが彼を優しく手伝い、担架を作って丁寧に見送ったが、すぐさま武器を手に再び凄惨な虐殺に戻った。博士はあまりのことに目を覆い、その中で気を失ったのだった。
ローリー氏がこれらの告白を受け、六十二歳になった友人の顔を見守る中、かつての恐ろしい危機が再発するのでは、という不安が心に広がった。
しかし、ローリー氏は今の姿の友を、かつて見たことがなかった。今の彼の人格を知ったこともなかった。マネット博士が、自らの苦しみを力と権威として感じたのは、これが初めてだった。彼は、あの激しい苦難の炎の中で、ゆっくりと鍛え上げた鉄の意志こそが、娘の夫を閉じ込める牢獄の扉を打ち砕き、彼を救い出す力となったのだと、初めて実感したのである。「すべては良き結末のためだったのだ、友よ。あれは、単なる無駄や破滅ではなかった。最愛の娘が私を自分自身に立ち返らせてくれたように、今度は私が彼女の最愛の一部を彼女のもとに取り戻してみせる。天の助けを借りて、必ずやり遂げる!」――これがマネット博士の言葉だった。そしてローリー氏は、この長い空白の時を経て、まるで時計が再び動き出したかのように、かつての停滞を打ち破って甦った男の、燃えるような眼差しと決意に満ちた表情、落ち着きと強さをたたえた姿を見て、心から信じたのである。
当時マネット博士が直面していた以上の困難でさえ、この揺るぎない意志の前には屈しただろう。彼は自らの立場を守り、身分や境遇に関わらず万人を診る医師としての務めを果たす中で、その個人的な影響力を賢明に行使した。その結果、博士はまもなく三つの監獄の検診医となり、その中にはラ・フォルス監獄も含まれていた。これで彼はルーシーに、夫がもはや独房に拘禁されておらず、他の囚人たちと共に過ごしていることを伝えられた。博士は毎週夫に面会し、彼の口から直接聞いた優しい言葉をルーシーに届けていた。時には、夫自身が彼女に手紙を送ることもあった(ただし、決して博士の手で運ばれることはなかった)が、ルーシーから返事を書くことは許されなかった。監獄内では数々の陰謀が疑われる中、とりわけ国外に友人や親類を持つ移民に対する疑念が最も激しかったからである。
博士の新しい日々は、疑いなく不安に満ちていた。しかし、洞察力あるローリー氏は、そこに新たな誇りが支えとなっていることを見て取った。その誇りは決して不適切なものではなく、ごく自然で立派なものであったが、ローリー氏は興味深くも観察していた。博士自身も、それまで娘や友人の心の中で、自分の投獄が個人的な不幸や喪失、弱さと結びつけて受け止められていたことを知っていた。だが今や状況は変わり、かつての苦難を経て得た力により、二人がチャールズの最終的な安全と解放を託す存在となった自覚に満たされたとき、博士は高揚し、すっかり自らが主導する立場となり、彼らを弱き者として自身の強さに委ねるよう求めるまでになった。かつての自分とルーシーの立場は逆転したが、それはあくまで深い感謝と愛情がもたらすものであり、彼女に尽くすことでしか博士の誇りは満たされなかった。「実に興味深いことだ」とローリー氏は人情味と機知をまじえて心中で思った。「だがすべて自然で正しい成り行きだ。どうかそのまま導いてくれ、親友よ。これ以上の適任者はいない。」
だが、博士がどれほど努力し、決してあきらめることなくチャールズ・ダーネイの釈放、あるいは少なくとも裁判開始を働きかけても、時代の激流はあまりにも強く速く流れていた。新時代が幕を開け、国王は裁かれ、処刑され、共和国は「自由・平等・博愛、さもなくば死」と世界へ向けて宣戦布告した。ノートル=ダム大聖堂の高塔には昼夜を分かたず黒旗が翻り、三十万の兵が地上の全ての圧制者に立ち向かうべくフランス中から集められた。それはまるで竜の歯を蒔いたかのごとく、丘にも平野にも、岩場にも砂利にも湿地にも、南の青空の下にも北の雲の下にも、山野、森、葡萄畑やオリーブ畑、刈り取られた穀物の株や草地にも、広き川岸や海辺の砂にも、同様に人々が立ち現れた。個人の心配など、「自由元年」という時代の奔流――天からではなく地の底から湧き上がる奔流――の前には、到底抗しきれるものではなかった。
そこにあるのは、休止も、哀れみも、平穏も、安息も、時間の感覚さえもなかった。昼夜が昔と変わらず巡っても、もはや他の時間の数え方は存在しなかった。熱病に冒された患者のように、国全体が時を見失っていた。そして、静寂を破るかのように、死刑執行人が王の首を民衆に示し、続いて、八か月に及ぶ悲惨な獄中生活で髪も白くなった王妃の首が、ほとんど同時にさらされたのだった。
だが、こうした矛盾に満ちた事態の中で、時は猛然と駆け抜けていく一方で、奇妙に長く感じられた。都には革命裁判所が置かれ、全国各地には四万から五万もの革命委員会が設置された。「嫌疑者法」により、自由も生命も一切の保障が打ち砕かれ、善良で潔白な者が、悪人の手に引き渡された。何の罪もなく、訴えを聞かれることもないまま、牢獄は人々で溢れかえった。これらすべてが、またたく間に定められた秩序や伝統となり、数週間も経たぬうちに、あたかも太古からの慣習であるかのように見なされた。そして何より、あの鋭利な女神――ギロチン――の姿だけが、世界創世の時から人々の目にさらされていたかのように、日常のものとなった。
ギロチンは民衆の話題となり、頭痛の特効薬とされ、白髪予防の妙薬とも言われ、特有の美しさを与えるとまで噂された。国民の髭剃り道具とも称され、その「小窓」から顔を覗かせ、袋の中へ頭をくしゃみするのが常であった。それは人類再生の象徴であり、十字架に取って代わった。十字架を外した胸元にギロチンの模型が飾られ、十字架を否定した場所ではギロチンこそが崇拝され、信仰の対象となった。
あまりにも多くの首を刈ったため、ギロチンとその足元の地面は腐った赤色に染まった。まるで悪魔のための玩具パズルのように分解され、必要とあれば再び組み立てられた。それは雄弁家を黙らせ、権力者を打倒し、美しく善良な者をも消し去った。たった一朝で高名な二十二人の友――二十一人の生者と一人の死者の首を、次から次へと切り落とした。その処刑人には旧約聖書の巨人の名が与えられていたが、ギロチンを操る彼は、あのサムソンよりも強く、より盲目的に、日々神の神殿の門を引き裂くかのごとき行いを続けていた。
こうした恐怖とその影に包まれながらも、博士は確かな足取りを崩さなかった。自らの力に自信を持ち、慎重に目的を追い求め、最後には必ずルーシーの夫を救い出せると信じて疑わなかった。しかし、時代の流れはあまりにも激しく深く、時は容赦なく流れていった。チャールズが投獄されて一年三か月が経った今も、博士の心は揺るがなかった。その十二月、革命はさらに凶暴で混乱を極め、南方の川には夜に溺殺された死体があふれ、囚人たちは冬の太陽の下で列を成して銃殺された。それでも、博士は恐怖の中を平然と歩み続けた。当時のパリで、彼ほど名の知れた者はなかったし、これほど奇妙な立場の者もいなかった。沈黙を守り、人道的で、病院や牢獄に不可欠な存在であり、暗殺者にも犠牲者にも等しく医術を施した彼は、まさに「別格」だった。医師としての働きにおいては、バスティーユの元囚人という風貌と経歴が彼を他の人間から際立たせていた。まるで十八年前に本当に「生き返った」か、あるいは霊が人間の間を歩んでいるかのごとく、疑いを持たれたり詮索されることもなかった。
第五章 木こり
一年三か月もの間、ルーシーは一刻ごとに、明日こそギロチンが夫の首を落とすのではと、絶えず不安に苛まれていた。毎日、ごつごつした石畳の街路を、処刑を待つ者を乗せた荷車が重々しく揺れながら通り過ぎていった。美しい娘たち、聡明な女性たち――茶髪も黒髪も、白髪も――若者も、屈強な男たちや老人も、貴族の生まれも農民の生まれも、皆がギロチンに捧げる赤ワインのように、忌まわしい監獄の暗い地下室から毎日引き出され、喉の渇きを癒すために通りを運ばれていくのだった。自由・平等・博愛、あるいは死――ああ、ギロチンよ、そのうち「死」ほど容易に与えられるものはない!
もし悲劇の突然さや時代の渦に、博士の娘が茫然自失し、ただ虚しく成り行きを待つだけになったとしても、それは多くの人々と同じであったろう。しかし、彼女はサン=タントワーヌの屋根裏部屋で白髪の父を初めて胸に抱いたあの日から、ずっと自らの役目に忠実であった。そして苦難の時こそ、静かに誠実な人々がそうであるように、彼女もまた最もその務めに忠実だった。
新たな住まいに落ち着き、父が日課に戻ると、ルーシーは家の中を、まるで夫がそこにいるかのようにきちんと整えた。すべての物に定められた場所と時間があり、リトル・ルーシーにも規則正しく教育を施した――まるで皆で英国の家に暮らしているかのように。夫の早い帰還を信じているふりをして、自分を慰めるちょっとした工夫――彼の椅子や本を用意したり、夜ごとにたった一人の親しい囚人のために特別に祈ること――それだけが、彼女の重い心を言葉にする唯一の慰めだった。
外見は大きく変わらなかった。彼女と娘が着ていた質素な黒い服は、まるで喪服のようだったが、幸せな日々の明るい衣服にも劣らず、清潔に保たれていた。顔色は失っていたものの、以前の真剣な表情は今や日常的なものとなり、依然として端正で愛らしかった。時には夜、父にキスをするとき、日中抑えていた悲しみが溢れ、「私の唯一の頼みは、天の下でお父さまだけです」と訴えることもあった。博士はいつも毅然と言い返した。「彼に何か起こるなら、私は必ず知るし、私は彼を救えると分かっているよ、ルーシー。」
生活の変化にも慣れ始めたある晩、父が帰宅してこう言った。
「ルーシー、お前に話がある。監獄の上階の窓に、チャールズが午後三時ごろ入れることが時々ある。その窓に行けるかどうかは、いろいろな偶然や状況によるが、もしそこへ行けたら、君がある場所に立っているのが見えるかもしれない、と彼は言っている。だが、残念だが、君から彼を見ることはできないし、たとえ見えたとしても、合図を送るのは危険だ。」
「どうかその場所を教えてください、お父さま。私、毎日そこに行きます。」
それからというもの、どんな天気の日も、彼女はその場所で二時間待ち続けた。時計が二時を打つとそこに立ち、四時になると名残惜しそうに立ち去った。子供を連れて行ける天候なら一緒に、それ以外は一人で、ただの一日も欠かすことはなかった。
それは小さな曲がりくねった路地の、薄暗く汚れた隅だった。薪を切る木こり小屋だけがある場所で、他はすべて壁だった。三日目、木こりが彼女に気づいた。
「ごきげんよう、市民夫人。」
「ごきげんよう、市民。」
この呼び方は、今や政令で決められていた。しばらく前から熱心な愛国者の間では自主的に使われていたが、今では誰もが従うべき法律だった。
「またここを歩いてるのかい、市民夫人?」
「ご覧の通りです、市民。」
身振り多く小柄な木こり(かつては道直しだった)は、監獄をちらりと見て指差し、十本の指を顔の前に立てて鉄格子を真似し、冗談めかして覗き込んだ。
「けど、俺には関係ねえよ」と言い、また薪切りを続けた。
翌日は彼女を待つようになり、現れるとすぐ声をかけてきた。
「どうだい? またここを歩いてるのかい、市民夫人?」
「ええ、市民。」
「へえ! 子供も一緒か! お母さんだな? おちびさん。」
「『イエスって言う、ママ?』」リトル・ルーシーは母親のそばに寄り添いながら囁いた。
「ええ、いいのよ。」
「はい、市民。」
「ふん、だが俺の知ったこっちゃねえ。俺の仕事は木を切ることさ。見てみな! これが俺の“小さなギロチン”さ。ラララ、ラララ! そして首がコロリ!」
そう言いながら薪を一つ籠に投げ入れた。
「俺が名乗るのは“薪ギロチンのサムソン”だ。さあもう一回! ルールールー、ルールールー! そして彼女の首がコロリ! 次は子供だ。くすぐるぞ、ピクル、ピクル! ほら、家族全員首がコロリ。」
木こりがさらに二つ薪を籠に投げ入れるのを見て、ルーシーは身震いした。しかし、彼が仕事をしている間そこにいる限り、彼の目を逃れることはできなかった。以来、彼の機嫌を損ねぬよう、彼女は必ず先に挨拶し、小遣いを渡すようにした。木こりは気前よくそれを受け取った。
彼は観察好きで、ルーシーが監獄の屋根や格子を見つめ、心を夫に捧げているときでも、気がつくと彼女をじっと見つめていることがあった。膝をベンチに乗せ、鋸を止めて。「でも俺の知ったこっちゃねえ!」とよくその時は言い、また元気よく鋸を引き始めた。
冬の雪や霜、春の冷たい風、夏の強い日差し、秋の雨、再び冬の雪と霜の中、ルーシーは毎日この場所で二時間過ごした。そして帰る時、必ず監獄の壁にキスをした。彼女の姿を夫が見られたのは、五、六回に一度か、二、三日続けて見えることもあれば、一週間、二週間も見えないこともあった。それでも、彼が見てくれる可能性があるなら、一日七日間、丸一日でも待ち続けただろう。
こうしたことを重ねながら、博士が恐怖の中を堂々と歩む十二月が巡ってきた。ある日の午後、軽く雪が舞うなか、ルーシーはいつもの角へ向かった。祝祭の高揚が街を覆い、彼女が通りすがりに見た家々には小槍や赤い帽子が飾られ、三色のリボンや「共和国唯一かつ不可分、自由・平等・博愛、さもなくば死!」の標語(人気は三色の文字)が掲げられていた。
木こりの粗末な店はあまりに小さく、この標語を掲げるにも苦労していた。それでも無理やり「死!」まで書き込ませ、屋根には市民として槍と帽子を掲げ、窓には「小さな聖ギロチン」と名付けた自慢の鋸を誇らしげに飾っていた。ギロチンはすでに“聖女”として崇められていたのだ。今日は彼の店は閉まっていて、姿もなかったので、ルーシーはほっとして一人になれた。
だが、すぐに人だかりと叫び声が聞こえてきて、恐怖を覚えた。間もなく、木こりが「復讐の女神」と手をつないで、その中心に立ち、五百人は下らぬ群衆が監獄の角を踊りながら通り過ぎていった。五千の悪魔が踊るかのような激しさだった。音楽は彼ら自身の歌のみ。民衆は革命歌に合わせ、歯ぎしりするように激しく踊り、男と女、女と女、男と男が手当たり次第に組んで踊った。最初は粗野な赤帽やぼろ布の嵐だったが、やがてルーシーの周りに踊りの輪ができると、狂気に取り憑かれた舞踏の幻影が立ち現れた。前進し、後退し、互いの手や頭を叩き合い、独り回転し、二人組みで回転し、ついには倒れ伏した者も出た。倒れた者を残し、他の者たちは手をつなぎ一斉に回り出す。やがて輪が崩れ、二人組や四人組でぐるぐる回る。突然また全員が止まり、間を置いて再び拍子を取り直し、公共の通路いっぱいに列を作り、頭を低く、手を高く振り上げて叫びながら去っていった。どんな戦いも、この踊りほど恐ろしいものはなかった。もともと無垢であったはずの遊戯が、悪魔の狂宴に変じ、健全な娯楽が血をたぎらせ感覚を狂わせ、心を鋼鉄のように冷たくする手段となった。その中のどこかに残る優雅さが、かえって本来善であったものの歪みと堕落を際立たせていた。乙女の胸も、幼き少女の頭も、この中で乱され、繊細な足は血と泥のぬかるみを踏み鳴らした。これがカルマニョールだった。
この踊りが通り過ぎ、木こり小屋の戸口でルーシーが呆然と立ち尽くしていると、羽のような雪が静かに舞い降り、すべてが何事もなかったかのように白く柔らかく積もっていった。
「お父さま!」――目を覆っていた手をそっと下ろすと、そこに博士が立っていた――「なんて恐ろしい光景でしょう。」
「分かっているよ、ルーシー。これまで幾度も見てきた。怖がらなくていい。誰も君に危害を加えたりはしないよ。」
「自分のためではなく、夫のことと、こんな人々の情けに思いを馳せると……」
「すぐに、彼らの“情け”などの及ばぬところへ彼を導くよ。さっき彼が窓に登ろうとしているところを見て、君のところへ伝えに来たんだ。今は誰も見ていない。あの一番高い屋根に向かって、手を振ってやりなさい。」
「父さま、私そうします。心を込めて手を振ります!」
「姿が見えないのかい?」
「見えません、父さま。」――ルーシーは切なさに涙しながら手にキスをした――「見えません。」
雪の上に足音。ドファルジュ夫人。「ごきげんよう、市民夫人」――博士の挨拶。「ごきげんよう、市民」――すれ違いざま、ただそれだけ。ドファルジュ夫人は影のように白い道を通り過ぎていった。
「手を貸しておくれ、ルーシー。勇気と朗らかさを装って、ここを離れるんだ。よくできたね。すぐに無駄にはならない。チャールズが明日、召喚された。」
「明日ですって!」
「猶予はない。私は十分に備えてきたが、実際に裁判所から召喚状が届かなければ取れない対策もある。まだチャールズには通知が届いていないが、すぐに明日召喚され、コンシェルジュリー監獄に移送されるだろうと、私は確かな筋から聞いた。怖いかい?」
彼女はかろうじて答えた。「お父さまを信じています。」
「全幅の信頼を寄せてくれ。もうすぐだ、ルーシー。彼は数時間以内に君のもとへ戻る。万全の備えを施してきた。私はローリー氏に会わねば。」
彼は立ち止まった。車輪の重々しい音が耳に届く。二人には、その意味が痛いほど分かっていた――ひとつ、ふたつ、みっつ、三台の荷車が、忌まわしい死者を乗せて雪道を遠ざかっていく。
「どうしてもローリー氏に会わなくては」――博士はそう言って彼女を別方向へ導いた。
頼もしい老紳士は今も職務に忠実で、片時も離れたことがなかった。彼とその書類は、国有化された財産の調査にしきりに呼ばれていた。所有者のために救えるものはすべて救う。テルソン銀行の守るべきものを守り、沈黙を守る点で、彼ほどの人物はいなかった。
セーヌ川から沸き立つ靄と、くすんだ赤と黄色の空が、夕闇の迫りを告げていた。ほとんど暗くなった頃、彼らは銀行に到着した。モンスニョールの壮麗な邸宅は完全に荒れ果て、打ち棄てられていた。中庭の塵と灰の山の上には、「国有財産 共和国唯一かつ不可分、自由・平等・博愛、あるいは死!」の文字が走っていた。
ローリー氏のもとにいるのは誰だろう――椅子の上の外套の持ち主は? 誰に会って、彼は驚きと動揺を浮かべて、愛しい人を抱きしめに出てきたのか? 彼はどの部屋から出てきて、扉の向こうを振り返りながら、震える声をその人物に伝えたのか――「コンシェルジュリーに移送、そして明日召喚されたのだ」と。
第六章 勝利
恐るべき五人の裁判官、公訴人、そして頑なな陪審員たちから成る法廷が、毎日開かれていた。判決リストは毎晩発表され、各監獄の看守が囚人たちに読み上げた。「おい、中の者ども、“夕刊”を聞きに出て来い!」――それが看守たちの決まり文句だった。
「シャルル・エヴレモンド、別名ダーネイ!」
ついにラ・フォルス監獄の“夕刊”が、こうして始まった。
名前が呼ばれると、その者は死の記録が告げられた者として、決められた場所に分けて立たねばならなかった。シャルル・エヴレモンド(ダーネイ)は、そのやり方を十分に知っていた。これまで何百人もの囚人が、そうして去るのを見てきたからだ。
眼鏡をかけた肥えた看守は、上から覗き込んで彼が定められた位置にいることを確認し、名簿を読み進め、どの名にも同じく短い間を置いた。二十三人の名があったが、返事があったのは二十人だけ。ひとりは獄中死し、忘れられていた。二人はすでにギロチンにかけられ、同じく忘れられていた。名簿は、ダーネイが初めてこの監獄に来た夜に見かけた囚人たちのいた、あのアーチ型の部屋で読み上げられた。彼らは皆、虐殺で死に、以後関わった人々もすべて断頭台に消えていった。
別れの言葉も交わされたが、その儀式はあっという間に終わった。毎日のことだったし、今晩は罰当てとちょっとした演奏会の準備で賑わっていた。格子窓に集まって涙を流したが、二十の席を新たに埋めなくてはならず、共用部屋の夜間施錠までには、時間がいくらあっても足りなかった。囚人たちは決して無感覚でも無慈悲でもなかった。すべては時代の状況が生み出した振る舞いだった。ごく微妙な違いはあるものの、ギロチンを恐れず、時に自ら死に赴くほどの熱狂や陶酔は、単なる虚勢ではなく、動揺しきった世論に伝染した狂気だった。疫病流行の季節には、誰しも密かに病に惹かれる――死にたいという衝動がひそかに芽生えることもある。私たちの心の奥底にも、同じような不思議が潜んでいるのだ。
コンシェルジュリー監獄への移送路は短く暗く、虫の這う独房の夜は長く寒かった。翌日、ダーネイの名前が呼ばれるまでに十五人の囚人が法廷に立った。皆が有罪判決を受け、裁判全体で一時間半しかかからなかった。
ようやく「シャルル・エヴレモンド、別名ダーネイ」が被告席に立った。
裁判官たちは羽飾り付きの帽子を被っていたが、その他大勢の頭には粗末な赤帽と三色徽章があった。陪審員席や騒然たる傍聴席を見れば、まるで罪人が正直な者を裁いているかのようだった。都市の最底辺、最も残酷で悪辣な民衆が、場を牛耳っていた。大声で批評し、拍手し、非難し、結果を予測し、早めようとし、誰一人それを制止できなかった。男たちはほとんどが何かしら武器を持ち、女たちもナイフや短剣を帯び、飲み食いしながら見物し、多くが編み物をしていた。その中の一人は、脇に予備の毛糸を挟み、最前列で針を動かしていた。彼女は、ダーネイが検問所で出会ったドファルジュ氏の隣、まさにその妻と思しき人物だったが、二人は彼に目もくれず、何かを頑として待ち続けているようで、ただ陪審員席だけを見つめていた。陪審長の下には、いつもの地味な服装のマネット博士の姿があった。被告から見て、博士とローリー氏だけが法廷と無関係の服を着ており、カルマニョールの粗野な衣装に身を包んでいなかった。
公訴人は、エヴレモンド(ダーネイ)が移民であり、移民追放令(違反者は死刑)によって共和国に命を差し出すべき者だと告発した。彼が帰仏した日付が法令公布より後であろうが、そこに本人がいて、法令があり、フランスで捕らえられた以上、首を差し出せと要求された。
「首を落とせ!」観衆が叫ぶ。「共和国の敵だ!」
陪審長がベルを鳴らして場を静め、被告に、長年イギリスに住んでいたのは事実かと尋ねた。
間違いありません。
では移民ではないのか? 自分を何と呼ぶのか?
法の趣旨からしても、自分は移民ではないと願う。
なぜか? 陪審長が問いただす。
彼は答えた。肩書も地位も自ら嫌い、国を去ったのは、現在この法廷で使われている「移民」という言葉が一般化する前だった。イギリスでは自分の労働で生計を立てていたが、フランスではそれができなかった。だから去ったまでだ、と。
その証拠はあるのか?
ギャベル氏とマネット博士、二人の証人名を提出した。
だが、イギリスで結婚したのだろう? 陪審長が念押しする。
たしかにそうだが、相手はイギリス人ではない。
フランスの市民女性か?
ええ。生まれも。
名前と家族は?
「ルーシー・マネット。そこにいる善良な医師、マネット博士のひとり娘です。」
この答えは、観衆に大きな好印象を与えた。名高い善良な博士の名に、さっきまで憤怒に満ちていた顔にもたちまち涙が溢れた。
この危険な道を進むにあたり、ダーネイは博士の繰り返す指示に忠実だった。今後のあらゆる局面でも、用意周到な助言があった。
なぜ今帰仏したのか、もっと早くではなかったのかと陪審長が問う。
フランスで生きる術がなかったからだ。イギリスではフランス語と文学を教えて暮らしていた。帰ってきたのは、ひとりのフランス市民が自分の不在で命の危険に晒されていると書き送ってきたからで、その命を救うと同時に、真実を証言するためだった。それが共和国にとって罪なのか?
群衆は熱狂し「罪ではない!」と叫ぶ。陪審長はベルで鎮めようとしたが、群衆は自ら叫び終わるまで止まらなかった。
陪審長は、その市民の名を要求した。被告はそれが自分の第一証人であり、その手紙も検問所で押収されているはずだと答えた。
博士が手紙の存在を確認し、ここで証拠として提出された。ギャベル氏が呼び出され、それを裏付けた。ギャベル氏は、共和国の敵の多さゆえに自分がアベイ監獄に少々忘れられていたが、三日前に召喚され、陪審の満場一致で無罪が認められ、自由の身となったと、丁重な口調で説明した。
次いでマネット博士が質疑された。博士の絶大な人気と明快な答弁が大きな効果を生んだ。しかし被告が釈放後最初の友人であり、亡命中も博士と娘のために誠実に尽くしてきたこと、イギリス政府にさえ敵視されて裁判にかけられたこと、アメリカの友人でありイギリスの敵と見なされたことなど、真摯な態度と真実の力で語り始めると、陪審も民衆も一体となった。最後に、その場にいるイギリス紳士ローリー氏も、かつてイギリスの法廷で証人だったことを証言すると、陪審は満場一致で評決の用意ができたと宣言した。
陪審員が一人ずつ声に出して投票するたび、群衆は歓声を上げた。すべての票が被告に有利であり、陪審長は無罪放免を宣言した。
すると、民衆は時に残虐な怒りの埋め合わせとでも言うような、熱狂的な情けや気まぐれな寛大さを見せる、奇妙な場面が始まった。今となっては、どの感情が真実だったか誰にも分からない。たぶん三つの要素が混じり合い、とりわけ二つ目――寛大さ――が強かったのだろう。無罪判決が下るや否や、他の時には血を流す場所で、今度は涙が惜しげもなく流され、抱擁が男女問わず次々と注がれた。長く不健康な監禁生活の後で、ダーネイはむしろ気絶しそうなほどだった。なぜなら、さっきまで彼を引き裂き通りにばらまこうとしていたであろう人々が、同じ熱狂で彼に抱きついてきたのだから。
新たな被告を裁くため、その場から彼が救い出されたのは幸運だった。続いて五人が共和国の敵として裁かれた。彼らは言葉もなく、すでに死刑を宣告されていた。革命裁判所と民衆は、さっきの無罪を埋め合わせるかのように素早く彼らを死刑にした。そのうちの一人は、お決まりの「死」の合図――指を一本立てて――を示し、全員が「共和国万歳!」と叫んだ。
彼らには観客がいなかったので審理は一瞬で終わった。博士とダーネイが門を出た時、そこには法廷で見た顔が群衆となり、その中に二人が見たかった顔だけは見つけられなかった。出てきたダーネイに、今度は新たな歓声と涙と抱擁の嵐が押し寄せ、セーヌ川さえも狂乱する人々のように波立つ思いだった。
彼を群衆は大きな椅子に乗せた。それは法廷かその控室から持ち出されたもので、赤旗をかぶせ、後ろには赤帽をかぶせた槍が立ててあった。この勝利の車は、博士の願いも虚しく、肩車で家まで運ばれることとなった。赤帽子の海が彼を担ぎ上げ、雪道を革命色に染めながら、深い雪の下に血で染まった通りを進んだ。
博士は先に帰宅して彼女を迎える準備をしていた。夫が家に着いて立ち上がった瞬間、ルーシーは彼の腕の中で気を失った。
彼は彼女を抱きしめ、愛しい頭を自分と群衆の間に隠し、涙と唇が誰にも見られぬようにした。何人かが踊り始めると、瞬く間に全員が踊り出し、中庭はカルマニョールで埋め尽くされた。次に群衆は、自由の女神に見立てた若い女性を椅子に乗せ、さらに川を渡り、街を埋め尽くして踊りの渦に消えていった。
勝利と誇りに満ちて立つ博士の手を握り、カルマニョールの奔流をかいくぐって息を切らせたローリー氏の手を握り、リトル・ルーシーを抱き上げてキスし、篤実なミス・プロスにも抱擁を返すと、ダーネイは妻を抱えて部屋へ運んだ。
「ルーシー、僕は無事だ!」
「最愛のチャールズ、ずっと祈っていた神に、いまこそ感謝させて……」
皆が静かに頭を垂れ、心を神に捧げた。再び彼女が夫の腕に戻ると、ダーネイは言った。
「さあ、お父さまに話しかけて。僕のためにここまでしてくれたのは、このフランスでお父さまだけだ。」
彼女は、かつて自分の胸に父の白い頭を抱いたあの日のように、今度は父の胸に自分の頭を預けた。博士は、娘のために自分が返せた幸せに満たされ、苦難に報われ、強さに誇りを持った。「弱くなってはいけないよ、ルーシー。そんなに震えないで。私は彼を救ったのだから。」
第七章 ノックの音
「私は彼を救った」――それは、これまで幾度も夢で見てきた幻ではなかった。彼は本当にここにいる。だが妻は震え、漠然とした重い不安に包まれていた。
あたり一面の空気は濃く暗く、人々は激情的に復讐に燃え、気まぐれであり、無実の者たちは常に曖昧な疑いや邪悪な悪意によって処刑されていた。彼女の夫と同じほど潔白で、他の人々にとって彼女の夫と同じくらい大切な多くの人々が、毎日のように彼のように死の運命にさらされていることを思うと、心は本来感じるべきほどには軽くならなかった。冬の午後の影が落ち始める頃、今まさに恐ろしい荷馬車が通りを転がっていた。彼女の心はその荷馬車の後を追い、死刑囚の中に彼の姿を探した。そのたびに、彼の実在のぬくもりにすがっては、いっそう震えた。
彼女を励ます父マネット博士は、この女性の弱さに対するあわれみを込めた優越感を見せ、それは見る者にとって驚くべきものだった。もはや屋根裏部屋も、靴作りも、「北の塔百五号」もない! 彼は自らに課した務めを果たし、約束を守り、チャールズを救った。みな、彼に頼ればよいのだ。
彼らの家計はきわめて質素だった。それは、何よりも民衆の反感を買わない最も安全な生き方であるだけでなく、彼らが裕福ではなく、チャールズも投獄中は粗末な食事や看守、さらに貧しい囚人たちの生活費まで多額の金を払わねばならなかったからだ。そのため、また内通者を避けるためにも使用人は雇わなかった。中庭の門番を務める市民夫妻が時おり手助けする程度で、ジェリー(ほとんどローリー氏から彼らの家に移った形だった)が毎日のお抱えとして夜ごとここに寝泊まりしていた。
共和国「一と不可分」「自由・平等・博愛、さもなくば死」の法令により、すべての家の戸口や柱には、住人全員の名前を一定の大きさの文字で、地面から定められた高さに掲示しなければならなかった。したがって、ジェリー・クランチャーの名も、きちんと戸柱の下に飾られていた。午後の影が濃くなるころ、その名の主本人が姿を現した。マネット博士が雇った塗装工の仕事を監督していて、チャールズ・エヴレモンド、通称ダーネイの名をリストに加えさせるためだった。
時代を覆う不安と疑念の空気の中、普段は無害だった生活習慣もすっかり変わっていた。博士一家でも、他の多くの家庭と同じく、必要な日用品は毎晩少量ずつ、さまざまな小さな店で購入した。他人の目を引かず、うわさや嫉妬の種をまかないことが皆の目標だった。
ここ数か月、ミス・プロスとクランチャー氏が買い物係を担っていた。前者が金を持ち、後者がバスケットを持つ。毎日、公共の街灯がともるころ、二人はこの務めに出かけ、必要な品々を買い集めては家に持ち帰った。ミス・プロスは長い間フランス人家庭に仕えていたが、学ぶ意志さえあればフランス語も自国語並みに身についたはずなのに、そんな気は毛頭なかった。したがって「そんなナンセンス」(と彼女が呼ぶ)については、クランチャー氏同様、何も知らなかった。だから、買い物の仕方は、いきなり店主に名詞をぶつけてみて、もし欲しい物の名でなければ店内を見回し、それを見つけて手に取って離さず交渉を終えるまで握っている方式だった。いつも値切るときは、店主が指で示す本来の価格より必ず一本少ない指を立てて、これが正当な値段だと言い張った。
「さて、クランチャーさん」と、幸せで目を赤くしたミス・プロスが声をかけた。「準備ができたなら、行きましょう」
ジェリーはしわがれ声で、ミス・プロスのお供を申し出た。長年の錆はすでに落ちていたが、彼のとげとげしい頭だけはどう磨いても丸くならなかった。
「いろいろ買うものがあるわよ」とミス・プロス。「ワインも要るし。この赤帽たちは、どこで買っても素敵な乾杯をやるのでしょうね」
「お嬢さんのお知恵では」とジェリーは言い返した。「それがあんたの健康を祝しての乾杯でも、あの悪魔を祝してでも、違いはないでしょう」
「誰のこと?」とミス・プロス。
ジェリーはやや遠慮しながら、「オールド・ニック[悪魔、サタンの俗称]」のことだと説明した。
「ふん!」とミス・プロス。「あの連中の考えていることは通訳など要らないわ。ひとつだけよ。それは真夜中の殺人と悪事よ」
「しっ、お願いですから気をつけて!」とルーシーが叫ぶ。
「はいはい、気をつけますとも」とミス・プロス。「でも自分たちの中だけなら言わせてもらうけど、通りで玉ねぎとタバコ臭い抱擁大会が繰り広げられませんように。さあ、レディバード、私が戻るまで絶対その火のそばを離れないで! 取り戻した素敵なご主人を守って、今みたいにそのかわいい頭を彼の肩から動かさないでね! 出かける前に、マネット博士にひとつお尋ねしても?」
「どうぞ、そのくらいは」と博士は微笑んだ。
「お願いだから"自由"なんて言葉を出さないで」とミス・プロス。「もうたくさんですから」
「またですか?」とルーシーがたしなめる。
「まあ、可愛い子」とミス・プロスは力強くうなずいて言った。「要するに私は、英国王ジョージ三世陛下の忠実な臣民ですもの」――ミス・プロスはその名に一礼した――「だから私の座右の銘は、『奴らの政治を打ち砕け、その卑劣な企みを挫け、我らの希望を王に託し、神よ国王を守り給え!』よ」
ジェリーも忠誠心に駆られて、教会で唱和するようにゴロゴロと後につづけた。
「あなたの中にイングランド人らしさがあって嬉しいわ、でもその声の風邪は引かなきゃよかったのにね」とミス・プロスは満足げに言った。「で、本題よ、マネット博士。つまり――」ミス・プロスは皆の大きな不安事の話題でも、あえて軽くふれるのが常だった。「まだこの場所を離れる見込みは?」
「残念ながら、まだです。チャールズには危険です」
「はあ……」とミス・プロスは、溜息を抑えて、火に照らされた愛しい娘の金髪を見つめた。「じゃあ、我慢して待つしかないわね。兄のソロモンがよく言ったみたいに、頭を上げて腰を低くして戦うのよ。さあ、クランチャーさん! ――レディバード、動いちゃだめよ!」
彼らはルーシー、その夫、父、幼い娘を明るい暖炉のそばに残して出かけた。ローリー氏はもうすぐ銀行から戻る予定だ。ミス・プロスはランプに火をともしたが、みんなが暖炉の灯りを楽しめるよう隅に置いていた。リトル・ルーシーは祖父の腕に手を絡ませて座り、博士はささやくような声で、かつて妖精に恩を施した囚人を牢獄の壁から助け出す、偉大で力強い妖精の物語を語り始めた。室内は静まり返り、ルーシーの心も少し安らいでいた。
「今の音は何?」と突然ルーシーが叫んだ。
「おやおや!」と父は物語を止めて、彼女の手に手を重ねて言った。「落ちつきなさい。なんて興奮しているんだ! ほんの些細なこと――何もかも――に怯えて。父の娘のあなたが!」
「だって、お父さま」とルーシーは青ざめ、かすれ声で弁解した。「階段を変な足音が上がってくる気がして……」
「愛しい子よ、階段は死のように静かだよ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ドアが激しく叩かれた。
「ああ、お父さま、どうしましょう! チャールズを隠して。助けて!」
「娘よ」と博士は立ち上がり、彼女の肩に手を置いて言った。「私は彼を救ったじゃないか。どうしてそんな弱気になるんだ。私が出よう」
博士はランプを手に、隣の二つの部屋を通り抜けてドアを開けた。荒々しく床を踏み鳴らし、赤い帽子をかぶりサーベルやピストルで武装した粗野な男たち四人が部屋に入ってきた。
「市民エヴレモンド、通称ダーネイはどこだ」と最初の男が言った。
「私を探しているのか?」とダーネイが答えた。
「そうだ、私が探している。私たちが探している。エヴレモンド、お前は今日、裁判所で見たな。お前は共和国の囚人だ」
四人は、妻と子がしがみつくダーネイを囲んだ。
「どうしてまた捕まるのか、説明してくれ!」
「まっすぐコンシェルジュリーに戻れば明日わかる。召喚が出ているのだ」
マネット博士は、この訪問に石のようになり、ランプを手にしたまま像のように立ち尽くしていたが、その言葉を聞くと動き、ランプを置いて、話し手の緩んだ赤いシャツの胸元をそっとつかみ、穏やかだが毅然と向き合いながら言った。
「君は彼を知っていると言った。では私も知っているのか?」
「はい、市民医師、あなたも知っています」
「我々皆、あなたを知っています」と他の三人も言った。
彼はひとりひとりをぼんやり見つめ、しばらくして小さな声で尋ねた。
「では私に答えてくれないか。なぜこんなことが起こるんだ?」
「市民医師」と最初の男が渋々言った。「彼はサン・タントワーヌ区に告発された。この市民が」――入ってきた二番目の男を指して――「サン・タントワーヌの者だ」
示された市民はうなずいて、付け加えた。
「彼はサン・タントワーヌによって告発された」
「何の罪で?」と博士が尋ねた。
「市民医師」と最初の男は以前にも増して渋い口調で言った。「これ以上聞かないでくれ。共和国があなたに犠牲を求めるなら、あなたは優れた愛国者として喜んで応じるはずだ。共和国がすべてに優先する。人民が最高権威である。エヴレモンド、急げ」
「ひとことだけ」と博士は懇願した。「誰が彼を告発したのか教えてくれないか?」
「規則違反だ」と最初の男は答えた。「だが、ここにいるサン・タントワーヌの彼に聞いてみるがいい」
博士はその男に目を向けた。彼は落ち着きなく足を動かし、ひげをいじり、ついに言った。
「まあ、規則違反なのは確かだ。しかし告発者は――重大な告発だが――ドファルジュ夫妻。そしてもう一人」
「もう一人とは?」
「あなたが尋ねますか、市民医師?」
「ああ」
「では」とサン・タントワーヌの男は奇妙な目つきで言った。「明日わかります。今は口を閉ざします!」
第八章 カードの手
家で新たな不幸が起こったことなど知るよしもなく、ミス・プロスは細い通りを抜け、ポン・ヌフ橋を渡って必要な買い物の数を心の中で数えながら進んでいた。クランチャー氏はバスケットを手に隣を歩く。二人は通り過ぎる店を右に左に注意深く覗き込み、人が群れている場所には警戒し、興奮した話し声の集団は道を変えて避けた。生暖かい夕方、川は霞み、きらめく灯かりと耳をつんざく騒音に包まれて、共和国軍のために鍛冶屋たちが銃を作る艀の場所を示していた。その軍に逆らったり、不当な出世を遂げた者には災いが降りかかる。そんなことになるくらいなら、ひげなど生えない方がましだ。なぜなら「国民のカミソリ」が容赦なく剃り落とすからだ。
少量の日用品とランプ用の油を買った後、ミス・プロスはワインを思い出した。いくつかのワイン店を覗いた末、「古代の善良なる共和派ブルータス」という看板の店で足を止めた。そこは元(いや二度も)テュイルリー宮殿だった国民宮殿そばで、他のワイン店より落ち着いて見えた。赤帽は多かったが、ほかほど赤くはなかった。クランチャー氏も同意見とわかり、二人はこの店に入ることにした。
店内では、煙たい灯り、パイプをくわえてくたびれたカードや黄色いドミノを弄ぶ人々、裸の胸と腕を煤で汚した職人が新聞を音読し周囲がそれを聞く様子、身につけたり傍らに置いた武器、うつぶせになって眠る二、三人の客――その毛皮の肩当て姿はまるで眠る熊か犬のよう――といった光景が広がっていた。異国の客二人はカウンターに近づき、欲しいものを伝えた。
ワインを量ってもらっていると、隅にいた男がもう一人の男と別れて立ち上がり、出口に向かった。そのときミス・プロスの前を通りかかった瞬間、ミス・プロスは叫び声をあげ、手を打ち鳴らした。
一瞬で店内の全員が立ち上がった。誰かが意見の相違から誰かを刺し殺したに違いないというのが最も考えらしい事態だった。みな誰かが倒れるのを期待して見たが、男と女が互いに見つめ合って立っているだけだった。男はどう見てもフランス人の徹底した共和派、女は明らかにイギリス人だった。
この期待外れの場面で、「古代の善良なる共和派ブルータス」の弟子たちが何をわめいたのかは、ミス・プロスと彼女の護衛にとってヘブライ語かカルデア語も同然だったし、二人とも耳に入っていなかった。というのも、ミス・プロスが驚きと動揺で我を失っていたのはもちろん、クランチャー氏もまた、まるで自分自身のことのように、心底驚き呆れていたからだった。
「どうしたんだ?」ミス・プロスを叫ばせた男が、不機嫌で手短だが小声で、英語で尋ねた。
「ああ、ソロモン、愛しいソロモン!」とミス・プロスはもう一度手を打ち鳴らした。「こんなに長い間、音沙汰もなく、姿も見なかったのに、まさかこんなところで会うなんて!」
「ソロモンなんて呼ぶな。俺を殺す気か?」男はおびえたようにひそひそ言った。
「兄さん、兄さん!」とミス・プロスは泣きじゃくった。「私がそんなに冷たくしたことがあるって、どうしてそんな残酷なこと言うの?」
「だったら余計な口を利くな」とソロモンは言い、「話がしたいなら外へ出ろ。ワインを払って外に来い。この男は誰だ?」
ミス・プロスは愛情深くも落胆した面持ちで、決して愛想の良くない兄を見つめ、泣きながら「クランチャーさんよ」と答えた。
「そいつも外に来い。俺を幽霊だと思ってるのか?」
どうやらクランチャー氏はそう思っているらしく、表情はまさにその通りだった。ただ何も言わず、ミス・プロスは涙で手探りしながらやっとのことでワイン代を払った。ソロモンは「古代の善良なる共和派ブルータス」の面々にフランス語で釈明し、皆は元の場所に戻った。
「さあ、何の用だ?」とソロモンは暗い通り角で言った。
「こんなに兄思いの私に冷たいなんて!」とミス・プロスは涙ぐみながら。「あなたへの愛が消えたことなんて一度もないのに!」
「よしよし、わかった」とソロモンは言い、無愛想にミス・プロスの頬にキスした。「これで満足か?」
ミス・プロスはただ黙って首を振り、静かに泣いた。
「俺に驚くと思ってるのか?」とソロモン。「驚かんよ。お前がここにいるのは知ってた。たいがい誰がここにいるか把握してる。俺の身を危険にさらしたくないなら――半分信じちゃいるが――さっさと自分の道を行け。俺も忙しい。役人なんだ」
「イギリス生まれの兄ソロモンが、あんな立派な人間になれたはずなのに、外国人――しかもこんな連中の中で役人なんて! むしろ……」とミス・プロスは涙にぬれた目を天に向けた。
「ほら、みろ!」と兄はさえぎった。「やっぱり俺を破滅させる気だ。妹のせいで疑われる。せっかく出世してきたのに!」
「お願い、そんなことになりませんように!」とミス・プロス。「もう一言だけ、愛情のこもった言葉を聞かせて、仲違いがないと伝えてくれたら、もう引き止めない」
善良なミス・プロスよ! まるで疎遠の原因が自分にあるかのように。ローリー氏が何年も前から、ソーホーの静かな一隅で、この兄がミス・プロスの金を使い果たして去った事実を知らなかったとでもいうように!
それでも彼は、恩着せがましく、もし立場が逆だったらできなかったような態度で、しぶしぶ愛情ある言葉を口にしかけた。その時、クランチャー氏が肩をそっと叩き、意外にもこんな問いかけをした。
「ちょっとお伺い。あんたの名前、ジョン・ソロモン、それともソロモン・ジョン?」
役人は突然警戒して振り向いた。
「さあ言ってみな。はっきりしなよ」(クランチャー氏自身はそれが苦手だが)「彼女はソロモンって呼ぶし、妹なんだから知ってるだろ。で、俺はジョンだって知ってる。どっちが先だ? それからプロスって苗字も。大陸では違ったはずだ」
「何を言いたい?」
「いや、全部は思い出せんが、あんたのこっちでの名は二音節だった」
「ほう?」
「もう一人のは一音節。知ってるぞ。あんた、ベイリー裁判所の……。正直に言えよ、あのとき何て名乗ってた?」
「バーサッドだ」と、別の声が割って入った。
「それだ! 間違いない!」とジェリーは叫んだ。
割って入ったのはシドニー・カートンだった。彼は乗馬コートの裾から手を背中にまわし、まるでオールド・ベイリーの法廷でのごとく、クランチャー氏のすぐそばで無造作に立っていた。
「ご心配なく、ミス・プロス。私は昨日ローリー氏のもとに着いたのですが、すべてが無事に済むか、あるいは自分が役に立てる場合以外は、他所に顔を出すまいと二人で決めていました。今ここに現れたのは、あなたの兄上と少し話がしたいからです。あなたのためにもバーサッド氏がもっとましな仕事をしていればよかったのに。バーサッド氏が牢内の“羊”でなければよかったのに」
「羊」とは、この時代、看守の手先のスパイを指す隠語だった。スパイは青ざめ、さらに青ざめて、「どうしてそんなことを――」と問うた。
「話しましょう」とカートン。「さきほど一時間ほど前、コンシェルジュリー監獄の前であなたが出てくるのを見かけました。あなたの顔は忘れませんし、私は人の顔をよく覚えます。あなたをその場で見かけて興味を持ち、ある理由から――あなたもご存じの理由――今不運な友人とあなたとを結びつけることになりました。あなたの後を歩き、この酒場にも入って近くに座りました。あなたの率直な会話や、周囲の人々の噂話から、あなたの正体を知るのはたやすいことでした。こうして、偶然始めたことが、次第に目的を持つようになったのです、バーサッド氏」
「何の目的だ?」とスパイが問う。
「ここで話すのは面倒ですし危険も伴います。たとえばテルソン銀行で、数分だけお時間をいただけませんか?」
「脅すということか?」
「おや、そんなこと言いましたか?」
「では、なぜ行かねばならん?」
「本当に、バーサッド氏、ご自身がわからないなら、私にも申せません」
「つまり言いたくない、ということか?」とスパイは逡巡しながら尋ねた。
「ご明察です、バーサッド氏。言いません」
カートンの無頓着なふるまいは、こうした駆け引きと相手には非常に有効で、彼はそれを見抜き最大限に活かした。
「だから言っただろう」とスパイは妹を責めるような視線を送りつつ言った。「何かあったらお前のせいだ」
「まあまあ、バーサッド氏!」とカートン。「恩知らずなことを。あなたの妹への敬意がなければ、もっと手荒に持ちかけていたかもしれません。さあ、銀行へ同行してくれますか?」
「君の話を聞こう。行こう」
「まずは妹さんを自宅の角まで送り届けましょう。私がエスコート役を、あなたの兄とも知るクランチャー氏が同行役を務めます。それでは参りましょう!」
ミス・プロスは後に、彼女が腕を組み、シドニーの顔を見上げて兄に危害を加えないよう懇願したとき、彼の腕にはしっかりした決意、眼差しには不思議な高揚感が宿っていて、軽薄なふるまいとは似ても似つかず、彼自身を変え高めていると感じたことを、終生忘れなかった。その当時は、恩知らずの兄のことで不安になり、シドニーの励ましに気を取られて、それに十分気づく暇はなかった。
彼らはミス・プロスを家の角まで送り、カートンはローリー氏宅へ案内した。ジョン・バーサッド、またの名をソロモン・プロスも並んで歩いた。
ローリー氏はちょうど夕食を終え、暖かな薪の火の前に座っていた――かつてドーヴァーのロイヤル・ジョージで赤い石炭を見つめていた、あの若き老紳士を思い出していたのかもしれない。彼は来客を見て驚きの表情を浮かべた。
「ミス・プロスの兄上です、ローリーさん。バーサッド氏です」とシドニー。
「バーサッド?」と老人は繰り返す。「バーサッド……その名と顔には覚えが――」
「記憶に残る顔だと言ったでしょう、バーサッド氏」とカートンが冷ややかに。「座ってください」
カートンは椅子に腰かけつつ、ローリー氏に「証人席にいたあの人物です」としかめ面で付け加えた。ローリー氏はその瞬間すべてを思い出し、嫌悪の表情を隠さず新たな訪問者を見た。
「バーサッド氏は、あなたもご存じのミス・プロスの兄と認められました」とシドニー、「さて、もっと悪い知らせです。ダーネイがまた逮捕されました」
老人は愕然として叫んだ。「なんということだ! ついさっきまで無事だったのに、いまから戻るつもりだったのに!」
「それでも逮捕されました。いつのことです、バーサッド氏?」
「今さっき、だと思います」
「バーサッド氏以上の証拠はありません」とシドニー。「バーサッド氏がある“羊仲間”とワインを飲みながらそのことを話していたので、逮捕は間違いありません。彼は使者たちが門をくぐるのを見届けました。確かです」
ローリー氏は、これ以上この話題に時間を費やすのは無駄と見てとった。戸惑いながらも、咄嗟の判断が重要だと感じ、静かに注意を傾けた。
「さて」シドニーは言った。「マネット博士の名声が、明日また役立つことを願います。――明日また裁判にかけられるのですね、バーサッド氏?」
「はい、恐らく」
「――今日と同じく役立てばよいのですが、そうとは限りません。私は、博士がこの逮捕を未然に防げなかったことに動揺しています」
「博士は前もって知らなかったのかもしれません」とローリー氏。
「だとしても、娘婿と一心同体の彼が知らなかったというのは不安要素です」
「それは確かに」とローリー氏は顎に手を当て、カートンを見つめた。
「要するに」とシドニーは言う。「これは絶望的な時代で、絶望的な賭けがなされている。博士には勝ち目のある手を打ってもらい、私は負け手を打つことにしよう。誰の命も保証されない。今日民衆に担ぎ込まれた者が、明日は死刑判決を食らう。私は最悪の場合、コンシェルジュリー内の“友人”を確保するという賭けに出る。その“友人”とはバーサッド氏だ」
「よほど強いカードが要りますな」とスパイは言った。
「私の手札を見てみよう。――ローリーさん、ご存じの通り私は乱暴者なので、ブランデーを少しお願いします」
出されたブランデーを一杯、また一杯と飲み、カートンはボトルを遠ざけて考え込んだ。
「バーサッド氏」と彼は、あたかもカードの手を検討するような口調で続けた。「牢の羊、共和委員会の使い、今や看守、時に囚人、常にスパイかつ密告者。しかもイギリス人であることがフランス人より疑われにくく、ここではなお重宝される。雇い主に偽名で仕える――これは素晴らしいカード。バーサッド氏は今はフランス共和政府に仕えているが、かつてはフランスと自由の敵、イギリス貴族政府の手先だった――これも上等なカード。疑惑の時代において明白なのは、バーサッド氏が今なおイギリス貴族政府――ピットのスパイ、共和国の胸に潜むイギリスの裏切り者であり、誰もが噂するが正体不明の公敵その人――ということ。これに勝るカードはない。私の手の内、分かりますか?」
「ですが、あなたの意図が分かりません」とスパイはやや不安げに返した。
「私の切り札――あなたを直ちに区の委員会に告発する――を出しますよ。あなたも自分の手札をよくご覧なさい。急がなくていい」
彼はまたブランデーを注ぎ干した。スパイが、これ以上飲まれると本当に即座に告発されるのではと恐れているのを見て、さらに一杯飲んだ。
「じっくりご覧なさい、バーサッド氏。時間はある」
バーサッド氏の手札は思ったより悪かった。カートンが知らぬ敗因が彼には見えていた。イギリスで偽証のしすぎで職を失い、フランスに渡り同胞の間で誘惑者・盗み聞き役を経て、やがて地元民の間でも同じ役割を担うようになった。旧政権下ではサン・タントワーヌやドファルジュのワイン店の監視役、警察からマネット博士の投獄・釈放・経歴の情報を受け取り、ドファルジュ夫妻にもそれを試したが、特にドファルジュ夫人には全く通じなかった。彼女が編み物をしながら彼を睨みつけるのを思い出すだけで今も肝が冷える。その後も彼女がサン・タントワーヌの区で編み物の名簿を取り出し、告発した人々が確実にギロチン送りとなる現場を幾度も見ていた。こうしたスパイは皆、絶えず死の影に怯えていた。逃亡は不可能、斧の下に縛られ、一言で命が絶たれる。今示唆されたような重大な理由で告発されれば、あの女が恐ろしい名簿を出し、自分の生き残る最後の望みも潰されるだろう。秘密を生業にする者ほど臆病なものはない。これだけの「黒いスート」が揃えば、顔色が悪くなるのも仕方ない。
「手札の具合が良くないようですね」とカートンは至って平然と言った。「勝負しますか?」
「ローリーさん」とスパイはみじめな様子で振り向いた。「ご年配で心優しいあなたなら、若輩者の彼に、スパイの私を告発するような真似は品位に合わないと説いてくださるでしょう。私はスパイで、それは不名誉な職とは認めます――でも誰かがやらねばならない。あなたはスパイじゃないのですから、なぜ自らそんな卑しいことを?」
「私は切り札を出しますよ、バーサッド氏」とカートンは時計を見て言った。「ためらいません、もうすぐ」
「お二人とも」スパイはローリー氏を巻き込もうとし続けた。「私の妹へのご配慮を――」
「妹さんの重荷をおろすのが最大の配慮です」とシドニー・カートン。
「そう思いますか?」
「思いきり決めております」
スパイの丁寧な態度も、カートンの謎めいた不可解さに阻まれて失速した。カートンはカードをのぞき込むような仕草で続けた。
「そう言えば、もう一枚良いカードがあった気がします。“田舎の監獄で牧草を食む羊仲間”――彼は何者です?」
「フランス人だ。君は知らんよ」とスパイはすぐに答えた。
「フランス人ですか」とカートンはつぶやき、そのまま彼を見ずに言葉をなぞった。「そうかもしれませんね」
「そうですとも。大したことじゃない」
「大したことじゃない……。確かに大したことじゃない……。でも見たことがある顔だ」
「違います、絶対に。あり得ません」とスパイ。
「あり得ない……」カートンは回想するようにつぶやき、グラスを遊ばせた(幸い小さいグラスだった)。「流暢なフランス語を話したが、外人ぽかった気が……」
「地方訛りだ」とスパイ。
「いや、外人だ!」カートンはテーブルを手で打った。「クライだ! 変装していたが、同じ男。オールド・ベイリーで見た」
「そこは早合点だな」とバーサッドは言い、わずかに鷲鼻が曲がった。「それは君の勘違いだ。クライ(今なら私の仲間だったと認めます)は何年も前に死んだ。私は最期も看取ったし、セント・パンラス=イン=ザ=フィールズ教会に埋葬した。民衆に嫌われていて葬儀には参加できなかったが、棺に納めるのは手伝った」
このとき、ローリー氏は壁に奇妙な影が映るのに気づいた。よく見ると、それはクランチャー氏の髪の毛が逆立っていたせいだった。
「まあ、落ち着きましょう」とスパイは言った。「あなたの思い違いを証明するために、クライの埋葬証明書をお見せしましょう。偶然、ずっと財布に入れて持ち歩いていたんです」――と、慌てて取り出し――「ほら、これです。偽造じゃありません、どうぞご覧を」
ローリー氏が見ると、壁の影はさらに長く伸び、クランチャー氏が立ち上がった。まるで「ジャックの家の曲がった角の牛」に髪を逆立てられたかのようだ。
スパイの背後に忍び寄り、霊のように肩に手を置くクランチャー氏。
「あのロジャー・クライなら、旦那」とクランチャー氏は無表情に。「あんたが棺に入れたって?」
「そうだ」
「誰が棺から出した?」
バーサッドはのけぞり、「何を言ってる?」とどもった。
「言ってるのさ、実際は棺に入ってなかったと。いや、絶対に。あれはまやかしだ。石と土しか入ってなかった。俺ともう二人、ちゃんと知ってる」
「どうしてそんなことが?」
「それがあんたと何の関係がある? ええ?」とクランチャー氏は唸った。「あんたには昔から恨みがあるんだよ、商売人をだまくらかしやがって! 半ギニーもくれりゃ、あんたの喉を締めあげてやるところだ。」
この騒ぎの成り行きに、ローリー氏と一緒にただただ呆気に取られていたシドニー・カートンが、ここでクランチャー氏に落ち着くよう、そして説明を求めた。
「また別の機会に、旦那」と彼ははぐらかすように返した。「今は説明にはちと都合が悪い。俺が言いたいのは、こいつが“あのクライが棺桶に入ってなかった”ってことをよく知ってるってことだ。もし一言でも“入ってた”なんて言いやがったら、俺は半ギニーであんたの喉を締めあげてやるぜ」クランチャー氏はこの申し出がずいぶん寛大だと言わんばかりに強調した。「もしくは、外に出てあんたのことを公表してやる。」
「ふん、ひとつ分かったことがある」とカートンが言った。「俺はもう一枚、切り札を持っているぞ、バーサッド。今このパリで、疑惑が渦巻く中、あんたが同じ素性を持つもうひとりの貴族のスパイと連絡を取っている、しかもそいつは死んだふりをして生き返ったという謎まである。これじゃあ、あんたが密告されたら、命はない。外国人どもが共和国への陰謀を企てているって、監獄での筋書きもできてる。これは強力な札だ――確実なギロチン送りの札だ! どうだ、勝負するか?」
「いや!」とスパイは答えた。「降参だ。俺たちは暴徒どもにとことん憎まれてて、命がけでやっとイギリスを抜け出せたし、クライなんぞは上下ひっくり返して捜されて、あのやらせがなきゃ絶対逃げおおせなかった。だがなぜこの男がそれを知ってるのか、不思議でならん。」
「俺のことは気にするな」とクランチャー氏は負けじと言い返した。「あんたはあの紳士に気を取られてりゃ十分だ。そしてよく聞け! もう一度言っとくが――」と、クランチャー氏は自分の寛大さをこれ見よがしに見せつけずにいられなかった――「半ギニーくれりゃ、あんたの喉を締めあげてやる。」
獄舎の「羊」はクランチャー氏からシドニー・カートンへと向き直り、より毅然とした口調で言った。「もう限界だ。そろそろ持ち場に戻らなきゃならん。君が提案があると言っていたが、それは何だ? あんまり無理なことを頼んでも無駄だぞ。俺の立場で危険すぎることを頼むなら、いっそ断って自分の身運に賭けた方がまだマシだ。実際、俺ならそうする。絶望的だと言うが、ここじゃみんな絶望的だ。忘れるな! その気になれば俺はお前を告発できるし、石壁だって誓言で通り抜けられる奴らが他にもいる。で、俺に何の用だ?」
「大したことじゃない。お前はコンシェルジュリーの看守だろう?」
「はっきり言っておくが、脱獄なんて絶対に無理だ」とスパイはきっぱり言った。
「そんなこと聞いてないだろう。お前はコンシェルジュリーの看守か?」
「時々な。」
「なろうと思えばなれるか?」
「好きな時に出入りはできる。」
シドニー・カートンはもう一杯ブランデーを注ぎ、それを暖炉にゆっくりと注ぎかけ、滴り落ちていくのを見届けた。それがすっかりなくなると、彼は立ち上がって言った。
「ここまでは、この二人の前で話したが、カードの価値はお前と俺だけの間だけにしておくのもよくない。隣の暗い部屋に行こう、最後に二人きりで話したい。」
第九章 ゲームは決まった
シドニー・カートンと獄舎の「羊」とが隣の暗い部屋で、誰にも聞こえぬほど低く話している間、ローリー氏はジェリーを疑わしげに、そして不信の目で見ていた。その正直な商売人の態度は、信頼を抱かせるものではなかった。彼は支えている足を何度も何度も替え、まるで五十本も足があって全部試しているみたいだったし、指先はいやに熱心に爪を点検し、ローリー氏の目が合うと、決まって手のひらで咳払いをするという、どうにも裏表のない人物にはまず見られない癖を見せた。
「ジェリー」とローリー氏が言った。「こっちへ来なさい。」
クランチャー氏は肩を一つ前に出して横向きに近寄った。
「お前は使い走り以外に何をしていた?」
しばし思案し、主人をじっと見つめてから、クランチャー氏は妙案を思いついたように答えた。「農業関係で。」
「私はな、大いに心配しているぞ」とローリー氏は人差し指を振って怒り気味に言った。「お前はテルソンの立派で偉大な店を隠れ蓑にして、恥ずべき違法な稼業に手を染めていたのではないかと。もしそうなら、イギリスに戻った時、私に頼ろうなどと思うな。秘密を守ってくれるとも期待するな。テルソンは騙されてはならん。」
「どうか旦那」とうなだれ気味のクランチャー氏が懇願した。「これまでちょいちょいお世話になってきた貴族の旦那が、もしも――いや、もしもですよ――俺のことで手を下すことを二度考えてくれるって願ってます。いや、決してやったと言ってませんよ、でももしやったとしても、それは一方的なものじゃないはずです。今ごろ医者連中が、正直な商売人が銭一文拾えないようなところでギニーを稼いでいて――銭一文どころか半分も四分の一も! ――テルソンで煙のように儲けながら、その商売人をこっそり見てる、馬車で出入りしてる――これもまたテルソンにとっては負担でしょう? 片方だけ叩いてはいけません。クランチャー夫人も、少なくとも昔のイギリス時代にはそうでしたし、明日も理由があればまたそうなるでしょうが、商売の邪魔ばかりして、もう壊滅的です! でも医者の奥さん連中はそんなことしません――絶対に! いや、もしやったとしても、それは新たな患者を呼び込むためですし。これじゃあ本末転倒です。そして葬儀屋や教会の書記、墓守、私設の見張り番(みんな欲深でみんなグルです)ときたら、もし俺がやっていたとしても、たかが知れてます。それに、そんなわずかな稼ぎじゃ、結局幸せにはなれません。元の稼業に戻りたくなるばかりですよ、もし抜けられる道があるなら――もし本当にやってたとしたら、です。」
「うっ!」とローリー氏は少し気を緩めつつも叫んだ。「お前の姿を見るとぞっとする。」
「そこで、旦那に謹んで申し上げたいのはですね」とクランチャー氏は続けた。「仮にですよ、もしそうだったとして――」
「言い逃れはするな」とローリー氏。
「いえ、しませんとも、旦那」とクランチャー氏はまるでそんなつもりなど毛頭ないと言わんばかりに――「いや、決してそうだとは言いませんが――申し上げたいのはこれです。あの店の、あのカウンターのところに、俺の息子がいます。あいつは大人になるまでちゃんと育て上げてきた。あいつが旦那の使い走りや雑用を、旦那がご希望ならどこまでもやります。もし俺がやってたとしても――いや、決してそうだとは言いませんが――あの子に父親の席を譲って、母親を守らせてやってください――どうか旦那、その父親の秘密は黙っていてやってください――そして、その父親はちゃんと正業に戻り、掘り出す代わりに埋葬の仕事で贖いをします――もしそうだったとしたら、ですけど――今度は本気で、将来の安寧のために誠実にやります。これが、ローリー旦那」とクランチャー氏は腕で額の汗を拭い、話の締めを告げた。「俺からの謹んだお願いです。こんなにも恐ろしい首なし死体が、これでもかというほど並ぶのを見たら、どんな人間でもいろいろ考えます。俺がもしそうだったとしたら、こう考えるってことです。そしてさっきの話も、いい目的のために言ったのであって、本当なら隠しておくこともできたのに、あえて言ったんです。」
「それは確かに本当だ」とローリー氏。「もうこれ以上言うな。お前が本当に改心して行動で示すなら、まだ味方になってやるかもしれん。もう言葉はいらん。」
クランチャー氏は額に拳を当てて敬礼した。そこへシドニー・カートンとスパイが暗い部屋から戻ってきた。「さようなら、バーサッド」とカートンが言った。「約束通り、お前には何もしない。」
カートンは暖炉の前の椅子にどっかりと座った。二人きりになると、ローリー氏が「どうなった?」と尋ねた。
「大したことはできなかった。もしも囚人の身に万一のことがあった場合、彼に一度だけ面会できる保証を取り付けただけだ。」
ローリー氏の顔は沈んだ。
「これが精一杯だ」とカートン。「あまり多くを求めれば、この男の首が飛ぶし、彼自身が言ったように、告発されたらもうどうにもならない。立場の弱さは明らかだった。仕方がない。」
「だが、もし裁判で不利になった場合、面会できても助からんぞ」とローリー氏。
「助かるとは一言も言っていない。」
ローリー氏の目は徐々に火の方へと向き、愛する者への共感と再逮捕の重い失望に、年老いた彼の目には涙が溢れた。
「あなたは善き人、真の友です」とカートンは声を変えて言った。「感情的になっていることを許してください。父が泣くのを見て、何も感じずに傍観することなど私にはできません。もしあなたが父だったとしても、今以上にあなたの悲しみを尊敬することはできません。ですが、あなたはその不幸からは免れている。」
最後の言葉はいつもの調子に戻っていたが、そこには本物の感情と敬意があり、ローリー氏は彼の内面の良き面を初めて垣間見て、まったく不意を突かれた。ローリー氏はカートンに手を差し出し、カートンはやさしく握り返した。
「可哀そうなダーネイの話に戻るが」とカートン。「この面会や取り決めについては彼女に伝えないでくれ。たとえ知らせても、彼女が面会できるわけではないし、最悪の場合、囚人に自裁の手段を渡すための手はずだと思い込むかもしれない。」
ローリー氏はそんなこと思いもよらず、カートンの真意を探るように見つめた。彼もすぐに視線を返し、それを理解していることが明らかだった。
「彼女はいろんなことを考えてしまうだろう」とカートンは言った。「そのどれもが彼女の苦しみを増すだけだ。私のことは彼女に話さないでほしい。最初に来たときにあなたに言った通り、彼女には会わない方がいい。私の手にできる小さな手助けがあれば、それだけで十分だ。あなたはこれから彼女の元へ行くのだろう? 今夜の彼女はきっとひどく心細いはずだ。」
「これからすぐに向かう。」
「それはよかった。彼女はあなたにとても強い信頼を寄せている。彼女の様子は?」
「不安そうで悲しげだったが、とても美しかったよ。」
「そうか」
それは長い、嘆くような、ため息――ほとんど嗚咽のような音だった。それに引かれてローリー氏はカートンの顔を見た。カートンは火を見つめていた。どこかに光か影――老紳士にはどちらか判然としなかった――が表情をかすめ、カートンは小さな燃える薪が崩れ落ちそうになったのを足で戻した。彼は流行の白い乗馬コートとトップブーツを着ていて、火の明かりがその明るい生地を照らし、伸びた茶色の髪が無造作に垂れている様子も相まって、顔色がひどく青白く見えた。火への無頓着さは、ついにローリー氏に注意を促させるほどだった。薪がカートンの足の重みに耐えきれず崩れても、彼はまだ熱い炭の上に靴を乗せていた。
「忘れてた」と彼は言った。
ローリー氏は改めて彼の顔に目を向けた。やつれた空気が元々の美しい顔立ちを曇らせ、囚人たちの顔を思い出したばかりだったローリー氏は、強くその表情を思い起こした。
「あなたの務めもこれで終わり、ですね?」とカートンが話を向けた。
「はい。昨夜、ルーシーが思いがけず来たときに話しかけた通り、もうここでできることはすべてやりました。彼らを安全にしてパリを離れるつもりでした。通行許可証も持っているし、出発の準備もできていました。」
しばし、二人は黙った。
「あなたは長い人生を振り返ることができますね?」とカートンがしみじみと言った。
「私は今年で七十八歳です」
「あなたは生涯を通して人の役に立ち、休む間もなく働き、信頼され、尊敬され、慕われてきたのでしょう?」
「私は男になってから、ずっと商人でした。いや、子供の頃からすでに商人だったと言ってもいいでしょう。」
「七十八歳で、あなたが去れば寂しくなる人たちがこれだけいるのですよ!」
「寂しい独り身の老人さ」とローリー氏は首を振る。「私のために泣いてくれる者などいない。」
「そんなことありませんよ。彼女が泣かないでしょうか? その子どもが泣かないでしょうか?」
「そうだ、そうだ。神に感謝しよう。私が言ったのは本心じゃない。」
「本当に、神に感謝すべきことですね?」
「本当だ、本当だ」
「もし今夜、あなたの孤独な心に正直にこう言わなければならないとしたら――“私は誰の愛も信頼も、感謝も、尊敬も得られなかった。誰の記憶にも残るような優しさも役立つこともできなかった”――それなら七十八年は、まさに七十八もの呪いになるでしょう?」
「本当にそうだ、カートン氏。その通りだと思う。」
シドニーは再び火に目を向け、しばしの沈黙の後、こう尋ねた。
「ひとつ聞きたいんですが――子どもの頃が遠い昔に感じますか? お母さまの膝の上にいた頃は、とても昔のことのように感じますか?」
カートンの優しい口調に応えて、ローリー氏は答えた。
「二十年前ならそう思ったでしょうが、今は違います。人生の終わりが近づくほど、始まりにまた近づいていくような気がする。それはきっと、優しく道をならし準備してくれる、この世のありがたい働きなのでしょう。今は、もう長らく忘れていた若い母の面影が心に甦り(私はこんなに年を取ったのに)、世界が現実ではなかった日々や、悪癖がまだ根付いていなかった頃の思い出が、たくさん胸を打ちます。」
「その気持ち、私にもわかります!」とカートンは顔を紅潮させて叫んだ。「そしてあなたは、そのおかげでより良き人になっているのですね?」
「そうであればと願っています」
カートンはここで会話を切り上げ、外套を着せるのを手伝いながら、「でもあなたは」と話を戻された。
「私は若いですよ」とカートン。「でも私の若さは、年を重ねる道筋とは違いました。もう私の話は十分です。」
「私ももう十分です」とローリー氏。「どこかへ出かけるのかね?」
「彼女の門までご一緒しますよ。ご存じの通り、私は放浪癖があるから、しばらく街をうろつくかもしれませんが、心配はいりません。朝には戻ります。明日は裁判所に行くのですね?」
「はい、残念ながら。」
「私も行きますが、群衆の一人としてです。スパイが席を用意してくれます。さあ、腕をどうぞ。」
ローリー氏はその腕を取り、二人で階段を下りて通りへ出た。ほどなくしてローリー氏の目的地に着いた。カートンはそこで別れたが、少し離れてしばらく立ち止まると、門の方へ引き返し、手を触れた。彼は彼女が毎日牢獄へ通っていたと聞いていた。「彼女はここから出てきた」とあたりを見回し、「この道を曲がり、何度もこの石畳を踏みしめたはずだ。私もその跡を辿ろう。」
彼がラ・フォルス監獄の前に立ったときは、夜の十時だった。彼女が何百回も立った場所だ。小柄な木こりが店を閉め、店先で煙草をふかしていた。
「こんばんは、市民」とシドニー・カートンは立ち止まり、男の好奇のまなざしに応じて声をかけた。
「こんばんは、市民。」
「共和国の調子はどうだ?」
「ギロチンのことかね。まずまずだ。今日は六十三人。もうすぐ百人になるさ。サンソンとその仲間たちは、時々疲れ切ったってぼやいてる。ははは! あのサンソンは本当に面白い床屋だ!」
「よく見に行くのか――」
「髭剃りか? いつもさ。毎日だ。あんな床屋はないよ! あんたも彼の仕事を見たことがあるだろう?」
「一度もない」
「大勢処理する時に行ってごらん。考えてみな、市民。今日の六十三人、二本の煙管も吸い終わらないうちに剃ったんだぜ! 二本より早い、名誉に賭けて!」
にやにや笑う小男は、自分が吸っている煙管を差し出して、処刑人の仕事時間の目安を説明した。カートンは、その生命を叩き潰してやりたい衝動を自分でもはっきり感じ、そっぽを向いた。
「だがあんた、イギリス人じゃないだろう、服はイギリス風だけど?」
「そうだよ」とカートンは肩越しに答えた。
「フランス人みたいに話すじゃないか。」
「昔、ここで学生だった。」
「おお、完璧なフランス人だ! じゃあな、イギリス人。」
「じゃあな、市民。」
「でも、あの面白い奴を見に行きなよ」と木こりは執拗に呼びかけた。「煙管も持って行け!」
シドニーはその姿が見えなくなったあたりで、街灯の下に立ち止まり、紙片に鉛筆で何かを書き留めた。それから、迷いなく道を知っている者の足取りで、いくつもの暗く汚れた通り――この恐怖の時代には大通りですら清掃されず、普段よりずっと汚かった――を通り抜け、小さな薬屋に立ち寄った。店主が自ら戸締まりをしていた。小さく薄暗い、曲がりくねった坂にある小さな薬屋で、主人もまた小さく薄暗く曲がっていた。
この市民にも「こんばんは」と声をかけ、カウンターに紙片を差し出した。「ふむ!」と薬屋は小さく口笛を吹き、「へぇ、へぇ、へぇ!」
シドニー・カートンは無反応だったが、薬屋は言った。
「お前さんのかい、市民?」
「そうだ。」
「混ぜたらどうなるか分かってるな、市民? 絶対分けて扱うように。」
「承知している。」
いくつかの小さな包みが用意され、手渡された。ひとつずつ内ポケットにしまい、代金を数えて払うと、静かに店を出た。「あとは何もすることがない」と彼は天の月を見上げてつぶやいた。「明日までは。眠れそうにない。」
その声色は無謀でも怠慢でもなく、むしろ挑戦的ですらあった。さまよい続け、もがき、道を見失った男が、ついに自分の進むべき道とその先を見定めた者にふさわしい、落ち着き切った態度だった。
かつて、彼が若き有望な法学生として名を馳せていた頃、父親の死に際し、母親はすでに何年も前に亡くなっていた。父の墓前で読まれた荘厳なことばが、今も心に浮かび、暗い街路を歩きながら、頭上で月と雲が流れる下、彼の心に響いた。「われは復活なり、命なり、と主は言いたまう。われを信ずる者は、たとい死ぬるとも生きん。生きてわれを信ずる者は、とこしえに死なじ。」
斧が支配するこの都で、夜一人きり、六十三人の犠牲者や明日断罪を待つ者たちの悲しみを思い起こし、さらなる明日とまたその明日を思えば、その言葉が心に帰ってくる連想の鎖は容易にたどれた。彼はその鎖を求めてはいなかったが、ただ何度も唱えながら歩いた。
休息する人々が恐怖を忘れて眠ろうとする、明かりの灯る窓を厳かに眺め、祈りの声が絶えた教会の塔を、長年の聖職者の偽善や堕落が市民の信仰を破壊し尽くした証しとして見つめ、門に「永遠の眠り」とだけ記された遠い墓地を思い、牢獄のあふれる様を思い描き、六十余人の命が日々当たり前のように失われ、もはや霊の物語すら誰も語らなくなった通りを歩き、都市全体の命と死が一夜の短い休息に沈む有様を、厳かな関心とともに眺めながら、シドニー・カートンは再びセーヌ川を渡り、より明るい通りへと向かった。
馬車はほとんど見かけなかった。馬車に乗るだけで疑いの目を向けられる時世、上流階級は赤いナイトキャップで身元を隠し、重い靴で歩くしかなかった。しかし劇場はどこも満員で、人々は陽気に家路に着いた。ある劇場の前で、母親と少女が泥道を渡ろうとしていた。彼は少女を抱いて渡し、恐る恐る首にしがみつくその腕が離れる前に、キスをねだった。
「われは復活なり、命なり、と主は言いたまう。われを信ずる者は、たとい死ぬるとも生きん。生きてわれを信ずる者は、とこしえに死なじ。」
やがて街が静まり、夜が更けるほどに、その言葉は彼の足音の中に、空気の中に響いた。彼は落ち着き払って、時折自分でそっと繰り返したが、心の中では常に響いていた。
夜が明け、彼がパリ島の川岸に立ち、水の音に耳を澄ませる頃、月明かりに大聖堂や家々が輝き、夜は冷たく、まるで空から死人の顔が覗くようだった。やがて月も星も青ざめて消え、しばし創造のすべてが死の支配下にあるようにさえ感じられた。
だが、輝く朝日が昇ると、その長い光の筋が夜の重荷――あの言葉――をまっすぐ温かく彼の心に届けるようだった。彼はその光の先に、太陽と自分をつなぐ光の橋を見て、川面がきらめくのを見た。
力強い流れ――速く、深く、確実な流れ――が、静かな朝のうちには心を寄せる友のようだった。彼は川沿いを歩き、家並みから遠く離れたところで、陽光と温もりの中、川岸で眠りに落ちた。目覚めてからも、渦がくるくると回り、やがて流れに吸われ海へと運ばれるのをしばらく見ていた。「まるで自分のようだ」と。
その時、一艘の商船が、枯葉色の帆を張り、彼の横を静かに滑るように通り過ぎ、やがて消えていった。その水面に残る静かな跡が消えるとき、彼の心から湧き上がった“すべての迷いや過ちへの慈しみ深い配慮”の祈りは、こう締めくくられた。「われは復活なり、命なり。」
彼が戻ったとき、ローリー氏はすでに外出しており、どこに行ったかはすぐに察しがついた。カートンはコーヒーを少し飲み、パンを食べ、身支度を整え、裁判所へ向かった。
法廷は騒然としていた。忌み嫌われる「黒い羊」が押し込んで、カートンを群衆の片隅に追いやった。ローリー氏も、マネット博士もそこにいた。ルーシーも父の隣に座っていた。
夫が入廷するとき、彼女は力強く、励ましに満ち、憐れみと敬愛に溢れ、しかも彼のために勇敢なまなざしを向けた。その眼差しは夫の頬に健康な血色を蘇らせ、目を輝かせ、心を奮わせた。その影響がもしシドニー・カートンにも注がれていることに気づく者がいれば、それがまったく同じ効力であることが分かっただろう。
かの不公正な法廷には、まともな訴訟手続きなどほとんど存在しなかった。これほどの革命が起きたのも、あらゆる法律や形式や儀礼が、まずは怪物的に乱用され、報復の嵐がそれらすべてを吹き飛ばしたからだ。
全ての視線は陪審に集まった。昨日も一昨日も、明日も明後日も変わらぬ、意志堅固な愛国者と善良な共和国市民たち。その中でも目立つ一人、欲望に満ち、指が絶えず唇のあたりをうろつく男の姿が、観衆に大いなる満足を与えていた。血に飢えたカニバルのような、残忍な陪審員、サン・タントワーヌのジャック・スリー。全陪審が、獲物の鹿を裁く猟犬の群れのようだった。
今度は五人の判事と検事に注目が集まった。その側には今日、いかなる好意もなかった。冷酷で妥協を許さぬ殺気が満ちていた。やがて群衆の中の別の目を求めて視線が交差し、互いにうなずきあい、全身を乗り出して見入った。
シャルル・エヴレモンド、別名ダーネイ。昨日釈放。昨日再度告発・逮捕。今朝、起訴状が手渡される。共和国の敵、貴族、圧政者の一族、すでに特権を廃止された階級の人間。シャルル・エヴレモンド、別名ダーネイは、その理由により法の下にすでに「死者」とされる。
これが、検事による簡潔な説明だった。
裁判長が尋ねた。「被告は公然と告発されたのか、それとも密かにか?」
「公然と、裁判長。」
「告発者は誰だ?」
「三名です。サン・タントワーヌのワイン商、エルネスト・ドファルジュ。」
「よろしい。」
「その妻、テレーズ・ドファルジュ。」
「よろしい。」
「アレクサンドル・マネット、医師。」
法廷は大騒ぎとなり、その中でマネット博士は青ざめ、震えながら立ち上がった。
「裁判長、これは捏造であり、詐欺です。被告が私の娘婿であることはご存じのはず。娘やその大切な人々は、私の命よりも大切です。私が自ら娘婿を告発するなどという嘘の証人は誰です!」
「市民マネット、落ち着きなさい。法廷の権威に従わねば、あなた自身が法の外に置かれることになる。命より大切なものは、善良な市民にとって共和国以外にあり得ない。」
この叱責に大きな喝采が沸き起こった。裁判長はベルを鳴らし、熱を帯びて続けた。
「もし共和国があなたに自らの娘を犠牲にせよと求めたなら、あなたはそれに従う義務しかない。次の証言をよく聞くこと。しばらくは静かに!」
再び熱狂的な喝采。マネット博士は座り、周囲を見渡しながら唇を震わせていた。娘は博士の側にぴったりと寄り添った。陪審の中のあの欲深い男は手を擦り合わせ、また口元へと戻した。
法廷がようやく静まったところで、ドファルジュ氏が証言台に立ち、手短に牢獄での出来事、少年時代に博士に仕えていたこと、解放時の様子などを説明した。尋問もあっという間に終わった。
「バスティーユ陥落時、あなたはよき働きをしたのですね、市民?」
「そのつもりです。」
ここで興奮した女が群衆の中から叫んだ。「あんたは最高の愛国者の一人だったじゃない! その日、大砲を撃った仲間だし、最初にあの呪われた要塞に突入した一人よ! 皆さん、私は真実を語っています!」
それは復讐の女神が、群衆の賞賛の中、証言を補足していた。裁判長はベルを鳴らしたが、復讐の女神はますます勢いづき「そのベルになんか負けない!」と叫び、さらに喝采を浴びた。
「その日、バスティーユ内部で何をしたか、法廷に述べよ、市民。」
「私は――」とドファルジュ氏は階段下に立つ妻を見下ろしながら答えた。「この被告が“百五号、北の塔”という独房に閉じ込められていたことを知っていました。本人から聞いたのです。彼は私のもとで靴を作っていたとき、自分の名を“百五号、北の塔”としか知りませんでした。私はその日、大砲に仕えながら、陥落したらあの独房を調べようと決めていました。陥落後、陪審の一人と一緒に看守の案内でその独房に上がり、隅々まで調べました。煙突の穴――石が外され、またはめ込まれている――の中に、紙切れがありました。これがその書面です。私はマネット博士の筆跡を調べてきました。これは博士の筆跡です。この書面を、裁判長にお渡しします。」
「朗読せよ。」
死の静寂の中――被告は妻を愛しげに見つめ、妻は夫から父へと切々と視線を移し、マネット博士は朗読者を凝視し、ドファルジュ夫人は被告から目を離さず、ドファルジュ氏は栄光に酔う妻から目を離さず、他の全員もただ博士を見つめていたが、博士にはそれすらも見えなかった――その紙は読み上げられた。
第十章 影の実体
私は、アレクサンドル・マネット、不運な医師、ボーヴェ生まれ、のちパリ在住の者である。この悲しき書面をバスティーユの陰鬱な独房にて、1767年の年末に記す。幾多の困難の中、盗み取るようにして書く。私はこれを煙突の壁に隠すつもりだ。そこに私は長い年月をかけて隠し場所を作った。私と私の悲しみが塵となった後、哀れみ深い誰かの手がいつかこれを見つけてくれるかもしれない。
「これらの言葉は、獄中十年目の最後の月、私は錆びた鉄片で、煙突の煤や炭の削りかすに自らの血を混ぜて、苦労して書き記している。希望は私の胸から完全に消えた。自分自身に兆した恐ろしい警告から、理性がもう長くは保たないことを悟っている。しかし私は今この時点では正気を保っていることを厳かに誓う――記憶も正確かつ詳らかであり、最後の記述となるこれらの言葉が人目に触れるか否かにかかわらず、私は真実を書き記す。最後の審判の日においても、この言葉に責任を負う。
「1757年12月第3週(たしか22日)、曇りがちの月夜、私はサン河岸の人通りのない一角に寒さをしのぎに散歩していた。医学学校通りの自宅から一時間ほど離れた場所だった。すると、後ろから馬車が猛スピードでやって来た。私は轢かれぬよう脇へ寄ったが、馬車の窓から頭が覗き、御者に止まれと声がかかった。
「馬車は御者が手綱を引くやいなや止まり、同じ声が私の名を呼んだ。応じると、馬車が私よりかなり先にあったので、二人の紳士がドアを開けて降りるのに十分な時間があった。
「彼らはマントに身を包み、顔を隠しているようだった。二人は並んで馬車のドアの脇に立ち、私と同じか、それよりも若いくらい、背格好も、話し方も、声も、(見える範囲では)顔立ちもよく似ていた。
『あなたがマネット博士か?』と一人が言った。
「はい。」
『ボーヴェ出身で、最近パリで評判を上げている若い外科医、あのマネット博士か?』ともう一人。
『ご丁寧におっしゃっていただき、私はそのマネット博士でございます。』
『我々はあなたの住居を訪ねましたが不在だったため、散歩中と聞いて後を追い、こうしてお会いできました。どうか馬車にお乗り願いたい。』
「二人とも威圧的な態度で、私を馬車のドアと自分たちの間に挟むように動いた。二人は武装していたが、私は武装していなかった。
『失礼ですが、通常、依頼人がどなたで、案件の内容が何かをお尋ねするのが私の流儀です。』
「それに対し、二人目が答えた。『博士、依頼人は身分ある者です。案件については、あなたの手腕を信じているので、ご自身で見極めていただく方が我々が語るより確かです。よろしいですね、馬車にお乗りください。』
「私は従うしかなく、黙って馬車に乗った。二人も続いて乗り、最後に一人がステップを上げた。馬車は向きを変え、以前の速さで走り出した。
「この会話は正確に再現している。一言一句違いないはずだ。すべてありのままに記し、心が他へ逸れぬよう努めている。ここで一旦筆を置き、紙を隠し場所へ戻す――」
馬車は町を後にし、北のバリケードを通り抜けて田舎道へと出た。バリケードから三分の二リーグ[約2.6キロ]ほど行ったところで――その時には距離を見積もってはいなかったが、後で通ったときにわかった――馬車は大通りを外れ、やがて人里離れた家の前で止まった。我々三人は馬車を降り、荒れ果てた泉水が溢れる庭の、湿って柔らかな小道を歩いて家の扉へと向かった。ベルを鳴らしてもすぐには開かず、私の案内人の一人が現れた男の顔を重い乗馬用の手袋で打ち据えた。
この行動に特別な注意を払うことはなかった。なぜなら、私は犬よりも人間が打たれる場面をよく目にしていたからだ。しかし、もう一人の男もまた怒りをあらわにし、同じようにその男を腕で打った。その時、二人の兄弟の表情と態度があまりにもそっくりだったので、私は初めて彼らが双子であることに気づいた。
外門で馬車を降りてから(そこは施錠されており、兄弟の一人が開けて私たちを中に入れ、再び鍵をかけた)、私は上の階の部屋から叫び声が聞こえるのをずっと耳にしていた。私はまっすぐその部屋に案内され、階段を上がるにつれてその叫びはますます大きくなった。そこには高熱で脳を病んだ患者がベッドに横たわっていた。
その患者は非常に美しい若い女性で、確かに二十歳を少し過ぎたくらいだった。髪は乱れ、両腕は帯やハンカチで体の脇に縛りつけられていた。私は、それらの縛りがすべて紳士の服の一部であることに気づいた。そのうちの一つ、儀式用の房飾り付きのスカーフには貴族の紋章と「E」の文字があった。
これは、患者を見て最初の一分間で分かったことだ。彼女は苦しげにもがき、ベッドの端でうつ伏せになり、スカーフの端を口にくわえて窒息しそうになっていた。私の最初の行動は、彼女の呼吸を助けるために手を伸ばすことだった。スカーフを避けたとき、その隅の刺繍が目に入った。
私は彼女を優しく仰向けにし、両手を胸に置いて落ち着かせようとし、その顔を見つめた。彼女の瞳は見開かれ、狂気に満ち、「夫よ、父よ、兄よ!」と鋭く叫び続け、次いで一から十二まで数えて「静かに!」と言った。一瞬、ほんの一瞬だけ耳を澄ませて静かになり、また鋭い叫びとともに「夫よ、父よ、兄よ!」と繰り返し、数を数えて「静かに!」と言う。その順序も調子も一度たりとも乱れることはなかった。この言葉の発せられる間、規則的な一瞬の間以外、絶えることはなかった。
「どれほど続いているのですか?」私は尋ねた。
兄弟を区別するため、ここでは年長のほうを「兄」、若いほうを「弟」と呼ぶ。兄はより威厳を持っていた。答えたのは兄で、「昨夜のこの時分からだ」と言った。
「彼女には夫と父と兄がいるのですか?」
「兄がいる。」
「私は、彼女の兄に話しかけているのでは?」
彼は非常に軽蔑した様子で答えた。「違う。」
「彼女は十二という数字に、何か最近の連想があるのですか?」
弟は苛立たしげに「十二時と関係があるのか?」と言った。
「ご覧なさい、紳士方」と私はなおも彼女の胸に手を置きながら言った。「ご覧の通り、私は無力です。もし何を診るために呼ばれるのか知っていれば、用意して来られたものを。だがこの場所では薬が手に入りません。時間を失うだけです。」
兄は弟のほうを見た。弟は傲然と言った。「薬箱はここにある。」そしてクローゼットから取り出してテーブルに置いた。
私は何本かの瓶を開け、匂いをかぎ、栓を唇に当てた。もし麻薬性の毒薬以外を使いたいのであれば、どれも使えなかっただろう。
「疑っているのか?」と弟が尋ねた。
「ご覧の通り、ムッシュー、私は使います」と私は答え、それ以上何も言わなかった。
私は患者に苦労して、何度も試みた末に、望んだ薬を飲ませた。再度投与するつもりで、その効果を見守る必要があったので、私はベッドのそばに腰かけた。控えめでおびえた様子の女(階下の男の妻)が、部屋の隅に身を隠していた。家は湿って荒れ、家具も粗末で、明らかに最近一時的に使われている様子だった。分厚い古いカーテンが窓に打ち付けられ、叫び声が外に漏れにくくしてあった。その叫びは絶え間なく響き、「夫よ、父よ、兄よ!」と叫び、十二まで数え、「静かに!」と言い続けていた。狂乱はあまりにも激しかったので、私は腕の縛りを解かなかったが、苦しくないようには見ていた。唯一の救いは、苦しむ彼女の胸に手を置くと、時折数分だけ身体が落ち着いたことだった。だが叫びには何の効果もなく、振り子よりも規則的だった。
私の手がそのような効果を持った理由で(そう推察する)、私はベッドのそばに座り続け、兄弟二人が見守る中、三十分が過ぎた。そのとき兄が言った。
「もう一人、患者がいる。」
私は驚いて「重症ですか?」と尋ねた。
「見てみるがよい」と彼は無関心に答え、明かりを手に取った。
もう一人の患者は、別階段の向こうにある納屋のような部屋にいた。そこは天井の低い漆喰の部分と、屋根の棟まで吹き抜けの部分があり、梁が渡されていた。その一角には干し草や藁、薪、砂に埋もれたリンゴの山があった。私はそこを抜けていかなければならなかった。記憶は細部まで鮮明で、バスティーユのこの独房の中で、十年近い幽閉の末でさえ、その夜に見た光景がすべて見える。
地面の干し草の上に、枕代わりのクッションを頭に敷き、ハンサムな農民の少年が横たわっていた。多く見積もっても十七歳には満たないだろう。彼は仰向けで歯を食いしばり、右手を胸に握りしめ、ぎょろりとした目でまっすぐ天井を見ていた。私は片膝をついて彼を覗き込んだが、傷の場所はすぐには分からなかった。ただ、鋭利な刃物による傷で死にかかっていることだけははっきりした。
「私は医者だ、かわいそうな君、傷をみせてくれないか。」
「見せたくない。放っておいてくれ」と彼は答えた。
彼は手で傷を押さえていたが、私は宥めて手をどけさせた。傷は剣によるもので、二十から二十四時間前に受けたものだったが、すぐに治療しても助からなかっただろう。彼は急速に死に向かっていた。兄のほうを見ると、彼はこの美しい少年が命を落としていくのを、まるで傷ついた鳥か野兎でも見るように、同じ人間を見る目ではなかった。
「どうしてこうなったのですか、ムッシュー?」私は言った。
「気狂いの若い下民め! 奴隷だ! 兄に剣を抜かせ、兄の剣で倒れた――まるで紳士のようにね。」
答えには、哀れみも悲しみも人間的な情けも一つも感じられなかった。まるで、こういう種類の生き物はこんなところで死なず、どこか目につかない所でひっそり死ぬほうが都合がいいと言っているかのようだった。彼には少年やその運命に対する憐憫など微塵もなかった。
少年の目は、彼の言葉に合わせてゆっくり兄に向き、また私のほうへと向き直った。
「先生、貴族ってのはすごく傲慢だけど、俺たち下民も時にはプライドがある。奴らは俺たちを搾取し、辱め、殴り、殺す。でも、時には誇りが残っていることもある。彼女――先生は彼女を見たんですね?」
叫び声はここにも響き、距離の分だけ抑えられていた。彼はそれに言及した。まるで彼女が今ここにいるかのように。
「見たよ」と私は言った。
「彼女は俺の妹なんです。長い間、貴族どもは俺たちの妹たちの貞操を思うままにしてきた。でも、俺たちの中にも善い娘はいた。俺はそれを知っているし、父もそう言っていた。妹は善い子だった。婚約者も善い若者だった。奴の小作人だった。俺たちはみんな奴の小作人だった――そこに立っているあいつの。もう一人はその兄弟、最低の一族さ。」
彼は体力を振り絞って話していたが、魂には恐ろしい力がこもっていた。
「奴は俺たちから搾り取った――上に立つ者が下々から搾り取るように――容赦なく課税し、無賃で働かせ、粉を挽くのも奴の水車でしか許さず、俺たちの作物で何十羽もの飼い鳥を養うのに、俺たちには一羽の家禽すら飼わせない。搾取され、略奪され、肉が手に入れば戸や窓に鍵をかけ、見つからないように急いで食べるほどだった。あまりに貧しくされ、父は『子をこの世に生み出すのは恐ろしいことだ。女たちが不妊で、哀れな一族が絶えてくれればと願うべきだ』と言っていた!」
私は、抑圧される者の怒りが炎のように噴き出すのを初めて目にした。潜在していることは想像していたが、実際にそれが爆発するのを見たのはこの少年が初めてだった。
「それでも、先生、妹は結婚した。その時、相手の男は病気がちだったが、彼を看病し慰めるために小屋――あいつに言わせれば犬小屋に――嫁いだ。数週間も経たぬうちに、あいつの兄弟が妹を見て気に入り、奴に妹を貸せと頼んだ――俺たちの間で夫なんて何の意味もないから。奴は喜んで応じたが、妹は善良で貞操を守り、兄弟を激しく憎んでいた。二人はどうやって妹の夫を説得し、妹を従わせようとしたと思う?」
少年の目は私から兄弟へとゆっくり向けられ、二人の顔に、彼の話が真実である証拠を見た。貴族の傲慢と農民の踏みにじられた誇り、そして復讐心が対峙しているのが、ここバスティーユの独房からでも見て取れる。
「先生、貴族たちは俺たち下民を荷車につないで馬のように引かせる権利があるんですよ。奴もそうして夫を苦しめた。夜通し貴族の眠りが妨げられぬよう、庭のカエルを追い払わせたりもした。夫はそんな仕打ちにも屈しなかった。昼の休みに解放されて食事――といっても食うものがあれば――鐘の音に合わせて十二回すすり泣き、妹の腕の中で死んだ。」
この少年の命を繋ぎ止めているのは、すべての苦しみを語るという決意だけだった。彼は死の影を押し戻し、握りしめた右手で傷口を覆い続けた。
「そして、あいつの許しで、いや、むしろ手助けで、兄弟は妹を奪っていった。妹が彼に何を言ったか、先生にもいずれ分かるでしょう。兄弟は妹を連れ去り、しばらくの間、好き勝手にした。俺は道端で妹が通るのを見た。家に戻ってそのことを伝えたら、父の心臓は張り裂け、決して言葉を発しなかった。もう一人の幼い妹を、この男の手の届かぬ所へ連れて行った。二度と彼の隷属になることのない場所へ。それから兄弟を追い、この家にたどり着き、昨夜、剣を持って忍び込んだ。下民の犬が剣を持って――納屋の窓はどこに?」
部屋は薄暗くなり、少年の視界は狭まっていた。私は周囲を見渡すと、干し草や藁が乱れて床に散らばり、争いがあったことがすぐ分かった。
「妹は俺の声を聞いて駆け込んできた。俺は彼女に、俺が死ぬまで近づくなと言った。兄弟はまず金を投げつけ、それから鞭で打ちかかってきた。でも下民の犬でも、奴に剣を抜かせるほどの力はあった。俺の血で汚れたその剣、いくらでも粉々に砕け。奴は必死に自分の命を守ろうと剣を振るった。」
私は数分前、干し草の中に壊れた紳士用の剣の破片があるのを見ていた。その近くには、古い軍人の剣らしきものもあった。
「さあ、先生、俺を起こしてくれ。奴はどこだ?」
「ここにはいない」と私は支えながら答えた。彼が兄弟を指していると思ったからだ。
「奴は! 貴族どもはこれほど傲慢でも、俺には会うのが怖いのだ。さっきいた男はどこだ? 顔をそちらに向けてくれ。」
私はそうして彼の頭を膝に乗せた。だが、その一瞬、彼は驚くほどの力で完全に起き上がり、私も立ち上がらずには支えきれなかった。
「侯爵よ」と少年は目を見開き、右手を上げて彼に向かって言った。「すべてが裁かれるその日、お前とその一族が最後の一人まで、これらの罪を裁かれるよう召喚する。この血の十字でその証とする。同じように、お前の兄弟、最も悪しき者を別々に召喚する。この血の十字でその証とする。」
彼は二度、傷口に手を当て、指先で空中に十字を描いた。その指が下がるとともに、彼自身も力尽きて倒れ、私は彼を横たえた。
若い女性のもとへ戻ると、彼女は依然、全く同じ順序で狂乱していた。これが何時間も続き、やがて死の静寂に終わるだろうと私は悟った。
私は再び薬を与え、夜が更けるまでベッドのそばに座っていた。彼女の叫びは一度も鋭さを失わず、言葉の順序も明瞭さも乱れなかった。常に「夫よ、父よ、兄よ! 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二。静かに!」であった。
これが、私が初めて彼女を見てから二十六時間続いた。私は二度出入りし、再び彼女のそばにいたとき、彼女はついに弱り始めた。私はその機会を助けるためにできることをし、やがて彼女は昏睡状態に入り、屍のようになった。
それは、長く恐ろしい嵐の後、風と雨がようやく静まったかのようであった。私は腕の縛りを解き、女を呼んで、引き裂かれた服と彼女の体を整えるのを手伝わせた。そのとき、彼女が母となるべき兆しがあることに気づき、私のわずかな希望も消え失せた。
「死んだのか?」と侯爵――ここでは兄と呼ぶ――が、馬から降りて長靴のまま部屋へ入ってきて聞いた。
「死んではいませんが、死にかけています」と私は答えた。
「この下民の体はなんて強いんだ」と彼はやや好奇心を込めて見下ろしながら言った。
「悲しみと絶望には計り知れぬ力があるのです」と私は答えた。
彼は私の言葉に最初は笑い、次に顔を曇らせた。足で椅子を近づけ、女を下がらせ、声を落として言った。
「先生、兄がこうした下民どもと揉めているのを知り、あなたの助力を勧めた。あなたは評価の高い医師だし、これから名声を築く若者として、自分の利害には敏感だろう。ここで見たことは、あくまで見ただけにしておくことだ。」
私は患者の呼吸を聞き、返答を避けた。
「先生、私の話を聞いておられるか?」
「ムッシュー、私の職業では、患者の語ることは常に守秘義務の下にあります」と私は用心して答えた。見聞きしたことに心が乱れていたからだ。
彼女の呼吸は微かで、私は慎重に脈と心臓の鼓動を確かめた。命はあったが、それだけだった。席を戻して周囲を見渡すと、兄弟二人がじっと私を見つめていた。
私はこの記録を書くのが非常に困難だ。寒さは厳しく、発見されて地下牢に送られる恐怖に怯えているため、記述を省略せねばならない。記憶に曇りや混乱はなく、兄弟と交わした言葉を一つ残らず思い出せる。
彼女は一週間生き延びた。最期に近づき、私は口を耳元に近づけて、かすかに伝わる言葉を理解できるようになった。彼女は自分がどこにいるのか聞き、私は答えた。私が誰かと聞き、私は答えた。だが、家名を尋ねても、彼女は弱々しく首を振り、少年と同様に秘密を守った。
再び問いかける機会があったのは、兄弟に「もはや助からない」と告げた後のことだった。それまで、彼女の意識に触れたのは女と私だけだったが、どちらかの兄弟が必ず、私がいる間はベッドの頭の後ろのカーテン越しに見張っていた。しかし、いよいよ死期が迫ると、私と彼女がどんな話をしても気に留めない様子だった。まるで私まで死にかけているように思っていたのかもしれない。
私は、弟が下民の少年と剣を交えたことを、兄弟の誇りが深く憎んでいると常に感じていた。二人の気にかかっているのは、家の名誉が傷つけられたことと、その滑稽さらしかった。弟の視線が私に向くたび、彼は私が少年から真実を知っていることを深く嫌っているのを感じた。彼は兄よりも穏やかで礼儀正しかったが、それが見て取れた。兄もまた、私の存在を煩わしく思っているのは明らかだった。
私の患者は、真夜中の二時間前、私が初めて会った時刻とほぼ同じに亡くなった。私は一人で彼女の最期を看取った。彼女の哀れな若い頭が静かに傾き、すべての世の苦しみと悲しみが終わった。
兄弟たちは下の階の部屋で、出発を焦れて待っていた。私は一人きりで枕元にいる間、彼らがブーツを鞭で打ち鳴らし、廊下をうろついているのが聞こえた。
「ついに死んだか?」兄が言った。
「亡くなりました」と私は答えた。
「ご愁傷さま、弟よ」と彼は振り向きざまに言った。
彼はかねてから私に金を渡そうとしていたが、私は受け取りを延ばしていた。今、彼は金貨の包みを差し出した。私はそれを手から受け取ったが、テーブルに置いた。私は何も受け取らないと決めていたからだ。
「どうかご容赦を」と私は言った。「この状況では、辞退いたします。」
彼らは顔を見合わせ、私が頭を下げると同じように頭を下げ、言葉なく別れた。
私は疲れ果てている。苦しみで消耗しきっている。この痩せた手では書いたものさえ読めない。
翌朝早く、私の名が書かれた小箱に入った金貨が私の戸口に届けられていた。私は当初からどうすべきか悩み続けていた。その日、私はこっそり大臣に、呼ばれた二件の事例の内容と訪れた場所、つまりすべての事情を記した手紙を書こうと決意した。宮廷の影響力や貴族の特権がどれほど強いか知っていたので、この件が表沙汰にならないことは予測していたが、心の荷を下ろしたかったのだ。そのことも、妻にも一切打ち明けていなかったので、手紙にその旨も書くつもりだった。本当の危険を感じてはいなかったが、私の知識によって他人が危険にさらされる可能性はあると自覚していた。
私はその日は多忙で、その夜手紙を完成できなかった。翌朝、いつもより早く起きて書き上げた。それは大晦日だった。完成した手紙が目の前にあった時、婦人が訪ねてきたと知らされた。
私はますます筆が重くなってきた。寒さも、闇も、感覚の麻痺も、私を襲う陰鬱も、すべてが耐えがたい。
その婦人は若くて魅力的で美しかったが、長命ではない運命を宿していた。彼女は大きく動揺していた。自らをサン=エヴレモンド侯爵の妻と名乗った。私は少年が兄をそう呼び、スカーフに刺繍されたイニシャルを結びつけ、その貴族を最近見たばかりだとすぐに気付いた。
記憶ははっきりしているが、会話の言葉を書き写すことはできない。私は以前よりも監視が厳しいと感じ、いつ見張られるか分からないからだ。彼女は夫が関わったこの残酷な事件の主な内容、そして私の診察があったことを、部分的に察し、部分的に突き止めていた。少女が死んだことは知らなかった。彼女の願いは、ひそかにその娘へ女性としての同情を示すこと、そして長く多くの人々に憎まれ続ける家の上に神の怒りが下るのを避けることだった。
彼女には、妹が生きていると信じる理由があり、最大の望みはその妹を助けることだった。私は、妹がいること以外何も伝えられなかった。彼女が私を頼った動機は、その名と居場所を私が教えてくれるのでは、という希望だったが、私は今も何一つ知らなかった。
この紙片も底をついてきた。一枚は昨日、警告と共に取り上げられた。今日で記録を終えねばならない。
彼女は思いやり深く善良な婦人だったが、決して幸福な結婚生活ではなかった。それも当然だ。兄弟は彼女を信用せず、敵意を抱き、その影響力も常に彼女に不利だった。彼女は兄弟を、また夫をも恐れていた。私が彼女を玄関まで送ったとき、馬車には二、三歳の可愛らしい男の子がいた。
「この子のために、先生」と彼女は涙ながらに指差した。「できる限り償いをしたいのです。そうしなければ、この子の上にいつか報いが降りかかる気がしてなりません。私に残されたものはわずかな宝石ほどの価値しかありませんが、亡き母の思いと共に、もし妹が見つかれば、この子の人生最大の務めとして、この傷つけられた家族へ施すようにさせます。」
彼女は子を抱きしめ、「あなた自身のためよ。約束してくれるでしょう、小さなシャルル?」と優しく言った。子は勇敢に「うん!」と答えた。私は彼女の手に口づけし、彼女は子を抱いて去った。私は二度と彼女を見ることはなかった。
彼女が夫の名を私も知っていると信じて口にしたため、私は手紙にその名を追記しなかった。手紙は封をし、自分の手から離さぬよう、当日自ら届けた。
その夜、大晦日の九時頃、黒衣の男が門を叩き、私を呼び出した。彼は静かに召使いエルネスト・ドファルジュ[訳注:後のドファルジュ氏]に案内されて上がってきた。召使いが妻と私のいる部屋に入ると、門にいるはずの男が彼の背後に静かに立っていた。
急な用事があるという。サン=トノレ通りで、長くはかからず、馬車も用意してあるという。
それが私をここに、私の墓場へと導いた。家を出ると、背後から黒いマフラーで口を塞がれ、腕を縛られた。二人の兄弟が暗がりから現れ、私を一目で確認した。侯爵は私の手紙を取り出し、私に見せ、ランタンの光で燃やし、その灰を足で踏み消した。一言も発せられなかった。私はここに、生きたままの墓に連れて来られたのだ。
もし、神がこの長き恐ろしい年月の間に、どちらかの兄弟の冷酷な心に、最愛の妻の消息を伝える慈悲を授けてくださったなら――生死の一言でもあれば――私は彼らが見放されたとは思わなかっただろう。だが今や私は、あの赤い十字の印が彼らの死を招き、彼らが神の慈悲に与ることはないと信じている。彼らとその末裔が最後の一人まで、私はこの1767年の大晦日の夜、耐えがたい苦しみの中で、これらすべてが裁かれる時に天と地に訴えて告発する。私は彼らを天に、地に告発する。
――
この記録の朗読が終わったとき、恐ろしい唸りが湧き上がった。それは血以外の何物にも言葉を与えぬ、渇望と熱狂の唸りであった。その物語は時代の最も復讐心に満ちた情念を呼び覚まし、国中の誰もが頭を垂れざるを得なかった。
ドファルジュ夫妻が、他のバスティーユの遺品とは違い、この文書だけは公表せず、時が来るまで秘していた理由をここで説明するまでもない。この忌むべき一族の名がサン=タントワーヌに長く呪われ、運命の名簿に記載されていたことも、もはや説明を要さない。その日、あの場において、このような告発を前に耐えうる人物は一人もいない。
そして何より不運だったのは、告発者が著名であったこと、自身の友であり、妻の父であったことだった。民衆の熱狂は、古代の疑わしい公徳や、民の祭壇に捧げる自己犠牲を模倣することにあった。ゆえに、(大統領自身の命が危うい中で)「共和国の良医は、忌むべき貴族の一族を根絶やしにすることで、なおさら共和国に尽くし、娘を未亡人に、孫を孤児にしても、きっと聖なる喜びを感じるだろう」と宣告された時、会場は激しい愛国的熱狂に包まれ、人間的な同情のかけらもなかった。
「先生には大きな影響力があるようね」とドファルジュ夫人が復讐の女神に微笑みかけながら呟いた。「さあ、先生、今こそ助けてごらんなさい!」
陪審員が一人一人票を投じるごとに、轟音が起こった。次々と、次々と、叫びと咆哮が続いた。
全会一致で決定。心の底からも血筋からも貴族、共和国の敵、民衆の悪名高き圧制者。コンシェルジュリー監獄へ戻し、二十四時間以内に死刑!
第十一章 夕闇
無実の夫に死刑が宣告されたとき、その哀れな妻もまた、まるで命を絶たれたかのように倒れ込んだ。しかし、彼女は一言の悲鳴も上げなかった。全世界の誰よりも自分こそが彼を支えなければならない、苦しみを増してはならない――その内なる声があまりにも強かったため、彼女はたちまちその衝撃から立ち上がった。
裁判官たちは屋外での行事に参加するため、法廷は休廷となった。数多くの通路を通じて人々が法廷から溢れ出す騒がしさがまだ止まぬ中、ルーシーは両腕を夫に差し伸ばし、顔には愛と慰めの色しか見えなかった。
「せめて触れることが! 抱きしめさせてください、どうか、善良な市民の皆さま、私たちにほんのひとときの哀れみを!」
残っていたのは看守と、昨夜彼を連行した四人のうち二人、それにバーサッドだけだった。人々は皆、通りの催しに流れていった。バーサッドが他の者たちに提案した。「抱かせてやれ、一瞬だけだ。」誰も黙って異議を唱えず、彼女は席を越えて、檻の上にいる彼のもとへと導かれた。彼は身を乗り出して、彼女を腕に抱いた。
「さようなら、愛しい魂の宝。私の最期の祝福を、愛に込めて。疲れた者の憩う場所で、また会おう!」
それは夫が彼女を胸に抱きしめて言った言葉だった。
「私は耐えられます、チャールズ。天の助けがありますから。私のことで苦しまないで。娘への最後の祝福を。」
「君を通して送るよ。君を通してキスする。君を通して別れを告げる。」
「私の人。いいえ、待って!」彼は彼女を振りほどこうとしていた。「私たちは長くは離れません。これがやがて私の心を引き裂くと感じますが、できるうちは私の務めを果たします。そして、私が去るとき、神がきっと娘に友を与えてくださいます、私にしてくださったように。」
父が彼女の後を追い、二人の前に膝をつこうとしたが、ダーネイは手を伸ばしてそれを止め、叫んだ。
「だめです、だめです! どうしてあなたが私たちに膝をつくのですか! 昔、あなたがどんな苦闘をなさったか、今は分かります。私の素性を疑った時、知ってしまった時、あなたがどんな思いに打ち勝ったかも。私たちは心から、愛と感謝と敬意を捧げます。神のご加護を!」
彼女の父は、白髪の間に手を通し、絶望の叫びと共にうめいた。
「こうなるしかなかったのです」と囚人は言った。「すべてがこうなるべくしてなった。母の遺志を果たそうとしたこと、それが私の致命的な運命をあなたのもとにもたらしたのです。悪から善は生まれず、不幸な始まりから幸福な結末は望めません。どうか慰めを得て、私を許してください。神のご加護を。」
彼が引き離されると、妻は彼を放し、祈るように手を合わせ、晴れやかな、慰めに満ちた微笑みさえ浮かべながら見送った。囚人の扉から彼が出て行くと、彼女は振り返って父の胸に顔を埋め、言葉を発しようとし、足元に倒れた。
その時まで陰の片隅から一歩も動かずにいたシドニー・カートンが近づき、彼女を抱き上げた。その場には父とローリー氏だけがいた。彼は震える腕で彼女を支え、頭を抱えた。しかし彼には、ただ哀れみだけでなく、どこか誇りにも似た輝きがあった。
「馬車までお連れしましょう。重さなど感じません。」
彼は軽々と彼女を抱き上げ、馬車の中に優しく横たえた。父と老友は中に乗り込み、カートンは御者台の横に腰を下ろした。
数時間前に彼が暗闇の中で佇み、彼女の足がどの石を踏んだか思い描いたあの門に着くと、彼は彼女を再び抱き上げ、階段を上って彼らの部屋へ運んだ。そこで彼女は寝台に横たえられ、娘とミス・プロスが涙を流していた。
「そっとしてあげてください」と彼はミス・プロスに静かに言った。「今はこのままのほうが良い。意識を取り戻させないであげてください。」
「ああ、カートン、カートン、親愛なるカートン!」とルーシーは叫び、激しく彼に抱きついた。「あなたが来てくだされたからには、きっと何か助けてくださる、きっとパパを救ってくださる! お母さまを、ああカートン! あなたがこんな彼女を見ていて平気でいられるの?」
彼は子どもを抱き寄せて頬を寄せた。そして優しく彼女を離し、気を失った母親を見つめた。
「出かける前に」と彼は言い、少し言葉を切った。「彼女にキスしても?」
後に語り継がれたのは、彼が彼女の顔に唇を寄せたとき、何か言葉を呟いたということだった。彼のすぐそばにいた娘は後に家族や孫たちに語った――カートンが「あなたが愛する命」と言ったのを聞いたのだ、と。
彼は次の部屋に出ると、突然、ついてきたローリー氏と父に振り向いて言った。
「昨日まで、あなたには大きな影響力がありましたね、マネット博士。その力を試してみては? 裁判官や権力者はあなたに好意的で、功績を高く評価しているのでしょう?」
「チャールズのことは何一つ隠されていませんでした。必ず救うという強い保証も受けていました――そして救ったのです。」博士は大きく動揺しながら、ゆっくりと答えた。
「もう一度試してみてください。この数時間は短いが、やってみてください。」
「やります。片時も休みません。」
「それでいい。あなたのような情熱が大きなことを成し遂げるのを私は何度も見てきました――ただ、これほど大きなことはありませんが。でも、やってみてください。命は粗末に扱えば何でもない物ですが、精一杯努力する価値はある。失っても惜しくなどありません。」
「今から検事や大統領のところへ直行します。他にも名を出せない人の所へ行くつもりです。手紙も書きます、でも――待ってください! 今は街で祭典があり、誰も会えません、暗くなるまで。」
「その通りですね。まあ、どうせ絶望的な望みですし、暗くなるまで遅れても失うものはありません。進展があれば知りたいですが、期待はしません! いつ頃お会いできますか、博士?」
「暗くなってすぐ、できれば一、二時間以内に。」
「四時を過ぎればすぐに暗くなります。あと一、二時間は引き延ばしましょう。私が九時にローリー氏の所へ行けば、あなたか、あるいは我々の友人から、何をしたのか聞くことができますね?」
「はい。」
「ご武運を!」
ローリー氏はシドニーを外の扉まで送り、彼が立ち去ろうとするところで肩に手を置いて振り向かせた。
「私は希望を持てません」とローリー氏は、低く悲しげにささやいた。
「僕も同じです。」
「もし、ここの誰か一人でも、あるいは全員でも、彼を助けようという気持ちになったとしても――それは大きな仮定です、なぜなら、彼の命など、彼らにとっては何の意味もありません――今日の裁判でのあの様子を見た後で、彼らが彼を助ける勇気を持てるかどうか、私は疑っています。」
「私も同感です。あの音の中に、斧が落ちるのを聞きました。」
ローリー氏は腕を戸口の柱に預け、顔を伏せた。
「どうか絶望しないで」とカートンはとても優しく言った。「悲しまないで。私はマネット博士にこの考えを勧めました、なぜなら、いつかルーシーの慰めになるかもしれないと思ったからです。そうでなければ、彼女は『彼の命が無駄に捨てられた』とか『無意味に失われた』と思ってしまうかもしれず、それが彼女を苦しめてしまうでしょうから。」
「そうですね、そうですね」とローリー氏は目を拭いながら答えた。「あなたの言う通りです。しかし、彼は滅びるでしょう、本当の希望はありません。」
「はい、彼は滅びます、本当の希望はありません」とカートンも繰り返した。
そして、決意した足取りで階段を下りていった。
第十二章 闇
シドニー・カートンは通りで立ち止まり、どこへ行こうか迷っていた。「九時にテルソン銀行……」と、考え込む顔でつぶやいた。「それまでの間、姿を見せておくのが良いだろうか? そうしよう。自分という存在がここにいることを、彼らに知らしめておくのが賢明だ。用心のためだし、必要な準備かもしれない。だが、慎重に……慎重に! じっくり考えよう。」
向かい始めていた足を止め、すでに暗くなり始めた通りを行きつ戻りつしつつ、その考えがもたらす結果を頭の中でたどった。最初の直感が確信に変わる。「やはり、私という存在がここにいると知らせておくのが最善だ。」ついにそう決めて、サン・タントワーヌ方面へ向かった。
ドファルジュ氏は、今日、自分はサン・タントワーヌ郊外のワイン酒場の店主だと語っていた。町に詳しい者なら、道を尋ねるまでもなくその店を見つけられた。場所を確認したカートンは、再びその奥まった路地から出て、食堂で夕食をとった後、ぐっすり眠り込んだ。何年ぶりかで、彼は強い酒を口にしなかった。昨夜から、軽い薄いワインを少し口にしただけで、昨夜はローリー氏の暖炉に、もう必要ないというようにブランデーをゆっくりと注ぎ落とした。
目覚めたのは七時を回っており、すっかり元気を取り戻して再び通りへ出た。サン・タントワーヌへ向かう途中、ショーウィンドウに映る自分の姿を見て、乱れたネクタイやコートの襟、そして荒れた髪を少し整えた。それから、まっすぐドファルジュの店へと入り、中へ入った。
店内には、あの落ち着きなく指を動かし、ガラガラ声のジャック・スリーしか客はいなかった。カートンが陪審で見かけたこの男は、小さなカウンターで酒を飲みながら、ドファルジュ夫妻と話していた。復讐の女神も加わり、まるで従業員のように会話に参加していた。
カートンが入店し、席に着いて(非常に拙いフランス語で)ワインを少し注文すると、ドファルジュ夫人は無関心そうにちらりと彼を見て、次第に鋭い視線を向け、やがて自ら近付き注文内容を尋ねた。
彼は先ほど言ったことを繰り返した。
「イギリス人ですか?」とドファルジュ夫人は、濃い眉を上げて探るように尋ねた。
彼女の言葉を聞き取るのに少し苦労するふりをしながら、彼は以前と同じ強い外国訛りで答えた。「そうです、マダム。私はイギリス人です!」
夫人はカウンターに戻ってワインを用意し、カートンはジャコバン派の新聞を手に取って、その内容を解読するふりをしながら眺めた。そのとき、彼は夫人の声で「エヴレモンドにそっくりだわ!」という言葉を聞いた。
ドファルジュ氏がワインを持ってきて、「こんばんは」と挨拶した。
「え?」
「こんばんは。」
「ああ! こんばんは、市民」グラスを満たしながら。「ああ、良いワインだ。共和国のために乾杯!」
ドファルジュ氏はカウンターに戻り、「確かに、少し似てるな」と言った。夫人は厳しく「私はずっと似てると思う」と言い返した。ジャック・スリーは穏やかになだめて「それだけ彼があなたの心に強く残っているのですよ、マダム」と言い、復讐の女神も笑って「そうよ、本当に! あなたは明日また彼に会うのをとても楽しみにしているのですもの」と加えた。
カートンは、ゆっくりと人差し指で紙面を追い、熱心で没頭した表情を装っていた。彼らは皆カウンターに身を寄せ、低い声で話していた。しばらくの沈黙のあいだ、彼らは彼の方を見やったが、カートンはジャコバン党の新聞編集者へと注意を向けているふりを崩さなかった。やがて、彼らは会話を再開した。
「マダムの言うことは本当だ」とジャック・スリーが言った。「なぜ止まる? 止める理由はない。強い理由がある。なぜ止める?」
「まあまあ」とドファルジュ氏は諭した。「だが、どこかで止まらなければならない。結局、問題はどこで止まるかだ。」
「根絶やしよ」と夫人が言った。
「すばらしい!」とジャック・スリーがガラガラ声で賛同し、復讐の女神も大いに賛意を示した。
「根絶やしの論理は良い、妻よ」とドファルジュ氏はやや困って言った。「一般論としては反対しない。でもこの博士は多くの苦しみを味わった。今日、君は彼を見たろう? あの書類が読まれたときの顔を見たろう?」
「顔を見たとも!」と夫人は軽蔑と怒りを込めて繰り返した。「ああ、見たとも。共和国の真の友の顔ではなかった。顔には気をつけることね!」
「それに、妻よ」とドファルジュ氏は控えめに言った。「娘の苦しみを見たろう。それは彼にとっても恐ろしい苦しみのはずだ!」
「娘も見たわ」と夫人は言い、「今日だけじゃない。何度も見てきた。法廷でも、牢獄のそばの通りでも、今日も、他の日も見てきた。私が指一本上げれば――!」彼女は(カートンの目はずっと紙面にあったが)まるで斧が落ちたかのように、指を持ち上げてカウンターに音を立てて叩きつけたようだった。
「市民婦人はすばらしい!」と陪審員がうなった。
「彼女は天使だわ!」と復讐の女神が言い、彼女を抱きしめた。
「お前に関しては」と夫人は容赦なく夫に向かって続けた。「もし全てお前次第なら――幸いそうではないが――今でもこの男を助けようとするだろう。」
「いや!」とドファルジュ氏は抗議した。「このグラスを持ち上げるだけで助かるのなら、それでもしない! でも、そこで終わらせたい。私はそこまでにしておくべきだと言う。」
「いい? ジャック、そしてあなたも、私の小さな復讐の女神、よく聞きなさい! 他の犯罪――圧政者、暴君としての罪のためにも、この一族はずっと前から私の帳簿に滅亡と根絶やしの運命として記されているのよ。夫に聞いてみなさい、それが本当か。」
「その通りだ」とドファルジュ氏は聞かれずとも答えた。
「偉大な日々の始まり、バスティーユが陥落したとき、彼は今日のあの書類を見つけて家に持ち帰り、この店が閉まって誰もいなくなった真夜中、ここであのランプの下で読み合わせたのよ。聞いてみなさい、それが本当か。」
「その通りだ」とドファルジュ氏。
「その夜、私が書類を最後まで読み終え、ランプが消えて、あのシャッターと鉄格子越しに朝の光が差し込む頃、私は夫に伝える秘密があると打ち明けたの。聞いてみなさい、それが本当か。」
「その通りだ」とドファルジュ氏は再び答えた。
「私はその秘密を打ち明ける。今この胸を両手で叩くように、あの時も胸を叩いてこう言った――『ドファルジュ、私は海辺の漁師の家で育った。そのバスティーユの書類に書かれた、エヴレモンド兄弟たちに傷つけられた農民家族は私の家族なのよ。地面に倒れていた致命傷を負った少年の姉が私、その夫は私の姉の夫、その生まれる前の子供は彼らの子、その兄は私の兄、その父は私の父、死者は私の死者、そして彼らの罪を問う召喚は私に下された!』と。聞いてみなさい、それが本当か。」
「その通りだ」とドファルジュ氏はまた答えた。
「ならば、風や火に止まれと言いなさい。でも私には言わないで。」
夫人の怒りの恐ろしさに、聞いていた二人はぞっとしながらも、恐ろしい満足感を覚えていた――カートンは顔を見ずとも、夫人がどれほど蒼白になっているか感じ取れた――二人ともその激情を大いに称賛した。ドファルジュ氏は、侯爵夫人の慈悲深さを思い出してかすかに言葉を挟んだが、妻からは同じ返答――「風や火に止まれと言いなさい、私には言わないで!」――が戻るだけだった。
客が入ってきて、集まりは解散となった。イギリス人の客は注文した分の代金を払い、お釣りを不思議そうに数え、道に不慣れなふりをして国民宮殿への道を尋ねた。ドファルジュ夫人は彼を扉まで連れ、道を指し示す際に彼の腕に手を重ねた。そのときカートンは、その腕を掴み上げ、鋭く深く突き刺せば良いのではないかと一瞬考えた。
だが、彼はそのまま歩み去り、ほどなくして牢獄の壁の影に呑みこまれた。約束の時刻、彼はそこから現れ、再びローリー氏の部屋に姿を見せた。そこでは老人が不安げに部屋を行ったり来たりしていた。ローリー氏は、今さっきまでルーシーのそばにいて、ほんの数分前に約束のためだけに彼女の元を離れたばかりだと言った。マネット博士は、四時ごろ銀行を出て以来、誰も姿を見ていなかった。ルーシーは、父の仲裁がチャールズを救ってくれるかもとわずかな望みを抱いていたが、その希望も薄かった。博士は五時間以上も行方がわからない――どこにいるのか?
ローリー氏は十時まで待ったが、マネット博士は戻らず、そしてこれ以上ルーシーを一人にしておくのも忍びなかったため、彼女の元に戻り、真夜中にまた銀行に来ることになった。その間、カートンが一人で暖炉のそばで博士を待つこととなった。
カートンはひたすら待った。時計が十二時を打っても、マネット博士は戻らなかった。ローリー氏が再び現れたが、博士からも博士に関する知らせもなかった――いったいどこにいるのだろう?
二人はこの疑問を話し合い、博士の長い不在にかすかな希望の根拠を見出しそうになっていた、そのとき、階段で音がした。彼が部屋に入った瞬間、すべてが失われたと分かった。
彼が本当に誰かの元を訪れたのか、それともずっと通りをさまよっていたのか、誰にも分からなかった。彼は茫然と立ち尽くし、彼らは何も尋ねなかった。彼の表情がすべてを物語っていた。
「見つからない、どうしても必要なのに。どこだ?」と彼は言った。
彼は頭と喉をむき出しにし、助けを求めるような視線で辺りを見回しながら、コートを脱いで床に落とした。
「私の作業台はどこだ? どこを探しても見つからない。仕事はどうなった? 時間がない、靴を仕上げなければ。」
二人は顔を見合わせ、絶望に心が沈んだ。
「さあ、頼むから!」と彼は泣きそうな声で、「仕事をさせてくれ。私の仕事を……。」
何の返事も得られず、彼は髪をかきむしり、地面を足で激しく踏み鳴らした――まるで錯乱した子供のように。
「哀れなこの身を責めないでくれ!」と彼は絶望的に叫んだ。「仕事をさせて! 今夜靴ができなければ、私たちはどうなるんだ?」
失われた、完全に失われた!
彼をなだめたり、正気を取り戻させたりしようにも、もはや希望がないことは明らかだった。二人は、暗黙の了解のように、それぞれ彼の肩に手を置き、しばらくしたら仕事をさせてあげると約束して、暖炉の前に座らせて落ち着かせた。彼は椅子に沈み、火の残りに目を落とし、涙を流した。まるで屋根裏部屋時代から今までが一瞬の幻や夢だったかのように、ローリー氏には、彼がドファルジュ氏の監督下で見たままの姿へと縮みこんでいくように映った。
二人はこの光景に深く動揺し、恐怖すら覚えたが、今は感情に溺れている場合ではなかった。最後の希望と拠り所を失った一人娘が、彼ら二人に強く訴えかけていた。再び、暗黙の意思疎通のもと、二人は同じ意味のまなざしを交わした。カートンが最初に口を開く。
「最後の望みは消えました――もともと大した望みではなかった。ええ、彼女の元に連れて行くべきです。ですが、その前に、どうか私の言うことをしっかり聞いてください。なぜこれから条件を出し、約束を求めるのか、理由は問わないでください――ちゃんとした理由があります。」
「疑っていません」とローリー氏。「どうぞお話しください。」
椅子に座った男は、その間じゅう同じ調子で体を前後に揺らし、うめいていた。彼らは、夜の病床を見守るような静かな声で話していた。
カートンは足元に落ちかかっていたコートを拾い上げた。そのとき、博士が一日の仕事を書き留めていた小さなケースが軽く床に落ちた。カートンはそれを拾い、中に折り畳まれた紙があるのを見つけた。「これを見ましょう!」と言い、ローリー氏も同意した。カートンがそれを開くと、「神に感謝を! 」と叫んだ。
「なんです?」とローリー氏が熱心に尋ねる。
「あとで説明します。まず……」カートンはコートの中からもう一枚の紙を取り出した。「これは私がこの街を出るための許可証です。見てください。ここに――シドニー・カートン、イギリス人、と。」
ローリー氏はそれを手に取り、真剣な顔で見つめた。
「明日まで預かってください。ご存知の通り、明日彼に会いに行きますから、牢獄には持っていかない方がいい。」
「なぜ?」
「分かりません、でもそうしたいのです。さて、これがマネット博士が持ち歩いていた書類です。彼と娘、そしてその子が、いつでも検問所や国境を越えて出国できる許可証です。分かりますね?」
「はい!」
「おそらく昨日、最悪に備えて最大限の用心として手に入れたのでしょう。日付は? いや、今は調べる必要はありません、私のものと一緒に大切にしまっておいてください。さて、聞いてください! 私はつい一、二時間前まで、彼がこんな書類を持っていることに疑いを持ったことはありませんでした。これは呼び戻されるまで有効です。しかし、近々無効にされるかもしれず、そうなるだろうという理由があります。」
「彼らに危険が?」
「彼らは大いに危険にさらされています。ドファルジュ夫人による告発の危険です。今夜、私は彼女自身の口から、その危険を強く感じさせる言葉を聞きました。その後、私はスパイとも会い、彼も同じことを裏付けました。牢獄の壁際に住む木こりがドファルジュ夫妻の支配下にあり、夫人は、ルーシー[=彼女の名前は絶対に出さない]が囚人に合図を送るのを見たと証言するよう木こりに仕込んでいると知っています。でっち上げの口実は、よくある『牢獄陰謀』です。それは彼女の命――おそらく子の命、父の命まで――巻き込むことになるでしょう。その場に、両名とも同席していたからです。そんなに怖い顔をしないで、必ず彼ら全員を救います。」
「どうか天がそうしてくれますように、カートン! でも、どうやって?」
「今から説明します。あなた次第です――でも、あなた以上にふさわしい人はいません。この新たな告発は、明日以降、恐らく二、三日後――もっと可能性が高いのは一週間後まで起こりません。ギロチンの犠牲者を悼んだり同情したりするのは死罪だと知っていますよね。彼女と父親は間違いなくこの罪に問われますし、あの女(その執念は言葉で表せません)は、その証拠を積み上げて自分をより安全にするために、時を待つはず。分かりますか?」
「とても注意深く、そしてあなたの言葉に深い信頼を寄せて聞いています。今はこの悲惨さすら忘れてしまうほどに」――博士の椅子の背に触れながら――「。」
「あなたは資金があり、海岸まで最速で旅できる手段が買える。帰英の準備は数日前から整っていたはず。明朝、馬車が午後二時ぴったりに出発できるよう、全て備えてください。」
「必ずそうします!」
カートンの熱意と力強さに、ローリー氏も青年のように活気づいた。
「あなたは立派な心の持ち主です。これ以上頼りになる人はいないと申し上げたはず。今夜、彼女に危険が彼女の子と父にも及ぶことを伝えてください。その点を強調してください。彼女は夫のためなら自分の命を喜んで差し出す人ですから。」カートンは一瞬声を詰まらせ、再び続けた。「子と父のために、あなた自身と共にパリを離れる必要があると強く説いてください。それは夫の最後の手配だったと伝えて。彼女が想像も信じもできないほど大きなことが、そこにかかっていると伝えてください。父親も、たとえ今のような状態でも、彼女の言うことには従うでしょう?」
「確信しています。」
「そうだと思っていました。これらの準備は、ここ中庭で静かに確実に進めてください。馬車の自分の席につくところまで含めて。私が来たら、すぐに乗せて出発してください。」
「どんな状況でも、あなたを待てばいいのですね?」
「私の許可証があなたの手元にあります。私の席を取っておいてください。私の席が埋まるのを待つだけで、何も待たずに出発を――イングランドへ!」
「では」とローリー氏は、熱意に満ちたが、しっかりとしたカートンの手を握りしめて言った。「すべてがこの年老いた私ひとりにかかっているのではなく、若く情熱的な男が隣にいてくれるわけだ。」
「神の助けで、必ずそうします! 今ここで誓って――この方針を変えたり、少しでも遅らせたりする理由が、どんなものであれ、決して影響されないと。」
「約束します、カートン。」
「この言葉を明日よく覚えていてください。方針を変えたり、遅れたりすれば、一人も命は救えず、多くの命が必ず犠牲になる。」
「覚えておきます。自分の務めを誠実に果たしたい。」
「私もです。では、さようなら!」
カートンは真剣な笑みでそう言い、老人の手に口づけしたが、まだ別れはしなかった。燃え尽きかけた火のそばでゆらゆら揺れている博士を、クロークと帽子を着せて外へ誘い、「仕事台と仕事」を必死に求める彼の願いに応じるふりをしながら、家の中庭まで付き添った。その心がかつて自分の孤独な心を明かした思い出の夜を見守る娘の元へ向かわせた。カートンは中庭に入り、しばし一人で、彼女の部屋の明かりを見上げていた。去る前に、窓に向かって祝福と別れを心の中で捧げた。
第十三章 五十二人
コンシェルジュリー監獄の黒い牢獄で、その日の運命にある者たちが最後の時を待っていた。その数は一年の週の数と同じ、五十二人。彼らはこの午後、街の命の流れから永遠の広大な海へと流れ出す。彼らの牢が空く前に次の住人が決まる。昨日流れた血に、今日の血が混ざる前に、明日混ざる血もすでに割り当てられている。
四十二人と十二人――七十歳の徴税請負人のように、富でも命を買えなかった者から、二十歳の裁縫師のように、貧しさや無名で救われることのなかった者までが選ばれた。人間の悪徳や怠慢から生まれる肉体の病は、どの階級の者も襲う。言語を絶する苦しみ、耐え難い圧政、無慈悲な無関心から生まれたこの恐るべき道徳の混乱もまた、例外なく誰彼なく打ちのめした。
チャールズ・ダーネイは独房に一人、裁判所からここへ連れてこられて以来、幻想を抱かず耐えていた。彼が聞いた全ての証言の中に自分への死刑宣告を聞き取っていた。人の力では救えず、無数の群衆が彼を裁いた今、個人の影響ではどうにもできないことをはっきり悟っていた。
それでも、最愛の妻の顔が目に浮かぶと、覚悟を決めるのは容易ではなかった。生への執着は強く、手放すにはとても、とても苦しかった。少し手放しかけても別のところで強くつかみ直す――努力してようやく緩めても、またどこかでしがみついてしまう。思考はせわしなく、心は波立ち、素直に受け入れるのを拒んだ。ふと諦めに達しても、妻と子の「自分が死んだ後に生きていかねばならない」思いを思うと、それも利己的に感じられた。
だが、それも最初のうちだけだった。やがて「自分の運命には恥はなく、無実で同じ道を行く人は毎日大勢いる」と思え、それが自分を励ました。続いて「愛する者たちの心の安らかさは、自分が泰然と死を受け止めるかどうかにかかっている」と気づき、少しずつ心を落ち着かせ、やがて祈りと慰めを得られるようになった。
判決の夜が完全に暗くなる前には、彼は最後の道程をここまで歩んでいた。文房具と明かりの購入を許されると、灯りが消されるまで書き続けた。
彼はルーシーへ長い手紙を書いた。父の幽閉を知ったのは彼女から聞くまでであり、父や叔父の悪事もあの文書を読むまで知らなかったこと、また、彼女に自分の旧姓を隠していたのは、父との婚約の際に唯一求められた約束であり、結婚当日の朝にも再度誓わされたものだったこと、すべてを丁寧に説明した。父のためにも、塔の話や、あの庭のプラタナスの下での日曜に出た書類の存在について、父が忘れていたのか、それとも思い出したのかを決して探らないようルーシーに懇願した。もし父が鮮明な記憶を保っていたなら、バスティーユ陥落後、囚人の遺品の中にそれがなかったことから、破棄されたと思ったはずだとも書いた。そして――必要ないと知りつつも――彼女には、父が自分を責める理由はなく、常に家族のためだけに尽くしてきたことを、あらゆる優しい手段で父に伝え励ましてほしいと頼んだ。最後の感謝と祝福を伝え、悲しみを乗り越えて子を育ててほしいと、天国で再会する時の約束として懇願した。
父への手紙も同じ調子だったが、妻と子を託すことを強く書き添えた。父が絶望や過去への後悔に陥らぬよう、それが彼の願いだと強く伝えた。
ローリー氏には家族全員を託し、財産や世事について説明した。感謝と友情を込めて書き終えたとき、彼の心は他の者たちでいっぱいで、カートンのことは一度も思い浮かばなかった。
手紙を書き終えると、灯りが消される前だった。藁の寝床に横になり、この世に未練はないと思った。
けれど、夢の中で現世が彼を呼び戻し、輝く姿で現れた。自由で幸せなまま、ソーホーの古い家(現実とは似ても似つかぬ家)で、解放され心も軽く、再びルーシーと共にいた。彼女は「全部夢だった、あなたは遠く離れてなどいなかった」と告げた。忘却の間を挟み、今度は苦しみを経て戻ってきた彼が、死んでも変わらずルーシーの元へ戻る夢を見た。再び忘却の間を挟み、彼は陰鬱な朝に目覚めた――「今日は自分の死の日なのだ!」と突然思い出すまでは、どこにいて何が起きたかも分からなかった。
こうして彼は時を経て、五十二の首が落ちるその日を迎えた。今や心を静め、泰然と最後に臨む覚悟もできてきたが、目覚めてから新しい思考の波が押し寄せ、なかなか整理できなかった。
死をもたらす道具――ギロチン――を、彼はまだ実際に見たことがなかった。地上からどれくらいの高さか、段は幾つあるか、自分はどこに立たされるのか、どう触れられるのか、触れる手は血塗られているのか、自分の顔はどちらを向くのか、一番目か、それとも最後か……そうした疑問が意思とは無関係に、何度も何度も沸き上がった。恐怖からではない――彼は恐怖を感じていなかった――むしろ、いざその時が来たら何をすべきか知りたいという、現実とは不釣り合いな激しい願望が、まるで自分の中に別の魂がいるかのように沸いていた。
時が過ぎる。彼は歩き回り、二度と聞くことのない時報を聞く。九時が永遠に過ぎ、十時が去り、十一時が去り、十二時が来て過ぎようとしている。奇妙な思考と格闘した末、ようやく静けさを取り戻した。大切な人たちの名を繰り返し唱えながら、祈りに心を込めた。
十二時が永遠に過ぎた。
執行の時刻は三時と知らされていたが、荷馬車は重く遅く進むため、もっと早く呼ばれるはずだった。そこで彼は二時を目安に心を整え、その時以降、他の人を励ませるよう備えようと決めた。
腕を胸に組み、規則正しく歩き回る彼は、ラ・フォースでさまよっていた囚人とは別人に見えた。一時が過ぎても、もう驚かなかった。その時も他の時間と同じように過ぎていった。自分を取り戻せたことを天に感謝し、「もうあと一つ」と心で思い、また歩き始めた。
扉の外の石畳の廊下で足音がした。彼は立ち止まった。
鍵が錠前に差し込まれ、回された。扉が開く前か、開くと同時に、男の声が英語で低く聞こえた。「ここでは一度も姿を見せていません。中へは一人で入りなさい。私は近くで待つ。時間を惜しんで!」
扉が素早く開閉され、そこに静かに、穏やかに、微笑を浮かべながら、唇に警告の指を当てて立っていたのは、シドニー・カートンだった。
その表情はあまりに明るく際立っていたため、囚人は一瞬、幻かと思った。しかしカートンが口を開き、彼の声だと分かり、手を握ったとき、それが現実の握手だと分かった。
「地上の誰よりも、私に会うとは思わなかったろう?」と彼は言った。
「あなたが来るなんて信じられない。今も信じられない。あなたは……」と、突然恐れが蘇った。「囚人ではないのですか?」
「いや。私は、ここにいる看守の一人に偶然力を持っていて、それを利用してここに来た。彼女――君の妻、親愛なるダーネイ――から来た。」
囚人は彼の手を強く握った。
「彼女からの頼みを持ってきた。」
「何でしょう?」
「君がよく覚えている、あの愛しい声で、最も切実に、緊迫して、強く訴えかける願いだ。」
囚人は顔を半ば背けた。
「なぜ私がそれを持ってきたのか、何を意味するのか、尋ねる時間はないし、答える時間もない。従わなくてはならない――君の靴を脱いで、この私の靴を履いてくれ。」
独房の壁際に椅子があった。カートンは稲妻のような速さで彼を椅子に座らせ、裸足にした。
「この靴を履いてくれ。両手でしっかり、意志を込めて、急いで!」
「カートン、ここから逃げる手段はない。君も一緒に死ぬだけだ。無謀すぎる。」
「もし逃げろと言ったら、それは無謀だ。だが私はそうは言っていない。私が『あの扉から出て行け』と言ったら、その時こそ無謀だとして残ってくれ。このネクタイは私のものに、この上着も私のものに。君が着替える間に、このリボンを髪から外して、君の髪を私のように乱そう!」
驚くほど素早く、そして超人的な意志と行動力で、カートンはこれら一切の変装を彼に施した。囚人は子供のように成すがままだった。
「カートン! お願いだ、無謀だ。できっこない、決して成就しない。これまでにも失敗してきた。君の死を私の苦しみに重ねないでくれ。」
「私が君に『扉から出て行け』と言ったか? 違うだろう。さあ、ここに紙とペンとインクがある。君の手はまだ書けるか?」
「君が来た時は書けた。」
「もう一度しっかりして、私の言う通り書いてくれ。急げ、友よ、急げ!」
頭を押さえて混乱するダーネイは、机に着いた。カートンは右手を胸に入れ、すぐそばで立ち続けた。
「私の言う通り、正確に書いて。」
「宛名は?」
「なしだ。」カートンは胸に手を入れたまま。
「日付は?」
「いらない。」
囚人は質問ごとにカートンを見上げた。カートンは彼の頭上で胸に手を当てて見下ろしていた。
「『もしあなたが、かつて私たちの間に交わされた言葉を覚えていれば、これを見た時すぐに理解できるはずです。あなたはきっと覚えているでしょう。決して忘れない人ですから。』」
カートンは胸から手を出しかけ、囚人がぼんやり見上げた時、その手は何かを握ったまま止まった。
「『忘れない人』と書いたか?」
「書いた。それは武器なのか?」
「違う、私は武装していない。」
「その手には何が?」
「すぐ分かる。続きを書け、あと少しだ。」再び口述した。「『ようやくこの時が来たことに感謝しています。こうすることに後悔や悲しみはありません。』」この言葉を見つめながら、カートンの手はゆっくりと、そっと囚人の顔の近くまで下りていった。
ダーネイの指からペンが落ち、彼はぼんやりと辺りを見回した。
「何か煙のようなものが?」
「煙?」
「何かが自分を横切ったような?」
「何も感じない。ここには何もない。ペンを取って続きを。急げ、急げ!」
記憶が乱れ、意識が定まらないまま、囚人は集中しようと懸命に努めた。曇った瞳と乱れた息でカートンを見つめるダーネイに、カートンは再度胸に手を入れつつ、じっと彼を見つめた。
「急げ、急げ!」
囚人は再び紙に向かった。
「『もし違ったのなら――』」カートンの手はまたもやそっと顔に近づく。「『私はもっと長い時間を使おうとはしなかったでしょう。もし違ったのなら――』」カートンはペン先が乱れて文字が崩れ始めているのを見た。
カートンの手はもう胸に戻ることなく、囚人は非難するような視線を向けて立ち上がろうとしたが、カートンの手は彼の鼻をしっかりと押さえ、左腕で腰を抱え込んだ。数秒間だけ、彼は自分のために命を差し出した男ともみ合ったが、やがて昏倒し、床に横たわった。
すばやく、しかし心と同じほど確かな手つきで、カートンは囚人の服を身につけ、髪を梳いてリボンで結び直した。それから静かに「入ってくれ!」と呼ぶと、スパイが現れた。
「見ての通りだ」とカートンは片膝をついたまま、気を失った男の胸に書類を忍ばせながら顔を上げて言った。「危険は大きいか?」
「カートンさん」スパイはおそるおそる指を鳴らして答えた。「あなたさえ約束を守れば、この忙しい世の中で私の危険はこの程度です。」
「心配するな。必ず死ぬまで約束を守る。」
「そうでなければ困りますよ、カートンさん。五十二人の数が合わなくなります。あなたがこの姿で正しくやってくれれば、私は安心です。」
「安心しろ! 私はすぐにあなたの邪魔にならなくなるし、他の者たちもすぐ遠くへ行くだろう、神のご加護を! さあ、手伝いを呼んで私を馬車まで運んでくれ。」
「あなたを?」スパイは不安げに言った。
「交換した彼だ、私じゃない。君が私を連れてきた門から出るのだろう?」
「もちろん。」
「君が私を連れてきた時は弱っていたが、今さらに弱っている。最後の面会で気が動転したことにしてくれ。ここではよくあることだ。君の命は君自身の手にかかっている。早く! 手伝いを呼べ!」
「本当に裏切らないと誓ってくれるか?」スパイは身震いしながら念を押した。
「男よ、男よ!」とカートンは足を踏み鳴らして叫んだ。「俺はすでにこのことをやり遂げると、厳かな誓いまで立てているじゃないか。そんなふうに貴重な時間を無駄にしてどうする! お前が自分であの中庭に連れて行け、馬車に自分で乗せろ、ローリー氏に自分で引き合わせてくれ。そして自分で伝えるんだ――回復させるための薬は与えず、空気だけを吸わせること、そして昨夜の俺の言葉と、彼自身の約束を忘れずに、すぐに馬車を出すように、とな!」
スパイ[バーサッド]は退室し、カートンはテーブルに座り、額を手に埋めた。スパイはすぐに男を二人連れて戻ってきた。
「どうしたことだ?」そのうちの一人が、倒れている姿を見ながら言った。「友人がサント=ギロチンのくじで当たりを引いたのを知って、ひどく落胆したのか?」
「優れた愛国者なら、もしあの貴族が外れくじを引いていたら、これ以上に落胆しただろうな」ともう一人が言った。
彼らは気絶したままの姿を持ち上げ、扉の外に用意してきた担架に乗せ、運び出そうと身をかがめた。
「時間がないぞ、エヴレモンド」とスパイが警告する声で言った。
「わかっている」とカートンは答えた。「頼むから、友人を気遣ってくれ、そして俺を一人にしてくれ。」
「さあ、諸君、運ぶぞ!」とバーサッドが言った。「持ち上げろ、行くぞ!」
扉が閉じられ、カートンは一人きりになった。彼は全神経を耳に集中させ、疑いあるいは警戒を示す物音がないか、必死に聞き耳を立てた。しかし何もなかった。鍵の回る音、扉の閉まる音、遠くの廊下を歩く足音――どれも普段と変わらない。叫び声も、慌ただしさも感じられない。少しして息をつく余裕ができた彼は再びテーブルに座り、時計が二時を打つまでじっと耳をすませていた。
恐れることのない物音が、彼の予感通りに聞こえ始めた。いくつもの扉が次々に開けられ、ついに彼自身のいる部屋も開けられた。看守が名簿を手にして覗き、「ついて来い、エヴレモンド!」とだけ言う。カートンはそれに従い、少し離れた大きな暗い部屋へと足を進めた。冬の日の薄暗さと室内外の影が重なり、彼には同じく腕を縛られに連れてこられている人々の姿もぼんやりとしか見えなかった。立っている者も、座っている者もいた。悲しみで身をよじる者もいたが、それは少数で、大多数は沈黙し、じっと地面を見つめて動かない。
彼が薄暗い隅で壁際に立っていると、五十二人のうちの何人かが後から入ってきた。そのうちの一人が通りかかりざまに、知人であるかのように抱きしめてきた。それは発覚への大きな恐怖を彼に呼び起こしたが、その男は何もなく立ち去った。ほんの数瞬後、少女のように小柄で、やせた愛らしい顔に血色ひとつなく、大きく開かれた忍耐強い瞳を持つ若い女性が、彼が先ほどから座っているのを見ていた席から立ち上がり、彼に声をかけた。
「市民エヴレモンド」と、冷たい手で彼に触れながら彼女は言った。「私は、ラ・フォルスであなたと一緒だった、哀れな小さな裁縫師です。」
彼は答えるように呟いた。「そうだった。君は何の罪で訴えられていたんだっけ?」
「陰謀です。でも、天の正義がご存知の通り、私はまったく無実です。あり得ないでしょう? 私のような弱い小さな者と、誰が陰謀なんて考えるでしょう?」
彼女がそう言いながら見せた寂しげな微笑みに、彼の目には涙が浮かんだ。
「私は死ぬのが怖くはありません、市民エヴレモンド。でも、私は何もしていません。共和国が、貧しい私たちに良いことをしてくれるなら、私の死がその役に立つなら、死ぬのもやぶさかではありませんが、それがどう役立つのかは分かりません、市民エヴレモンド。本当に、私は弱くて小さな存在です!」
彼の心がこの世で最後に温もりと優しさを向けることになったのは、この哀れな少女に対してだった。
「あなたが釈放されたと聞きました、市民エヴレモンド。本当だったのですか?」
「ああ、本当だ。でも、再び捕らえられ、死刑を宣告された。」
「もしご一緒に馬車に乗れるなら、市民エヴレモンド、あなたの手を握らせてくださいますか? 私は怖くはないのですが、とても小さくて弱いので、そうすればもっと勇気が持てます。」
忍耐強い瞳が彼の顔を見上げると、ふいに疑念、そして驚きの色が浮かんだ。カートンは仕事に荒れ、飢えに痩せた若い指をそっと握り、自分の唇に触れた。
「あなたは、あの人のために死ぬのですか?」彼女がささやいた。
「彼と、その妻と子のために。静かに。そうだ。」
「まあ、見知らぬ方なのに、あなたの勇敢な手を握らせてくれるのですね?」
「静かに、そうだよ。可哀想な妹よ、最後まで君の手を握ろう。」
刑務所に落ちる同じ影は、その同じ午後早く、群衆の集まるバリケードにも落ちていた。そこに、パリを出ていく馬車が検査のため止まった。
「ここを通るのは誰だ? 中には誰がいる? 書類を!」
書類が差し出され、読み上げられる。
「アレクサンドル・マネット。医師。フランス人。本人はどれだ?」
この男だ。無力で、うわごとのように呟き、徘徊するような老人が示される。
「どうやら市民医師は、正気を失っているらしいな? 革命熱が強すぎたか?」
まったく、その通りだ。
「はは! 多くの者がそれで苦しんでいる。ルーシー。娘だな、フランス人。どれだ?」
この人だ。
「そうに違いない。ルーシー、エヴレモンドの妻だろう?」
その通りです。
「ふむ。エヴレモンドは別の場所で用があるらしいな。ルーシー、その子供。イギリス人。これか?」
間違いなくこの子だ。
「エヴレモンドの子よ、私にキスをしなさい。さあ、よき共和派にキスをしたぞ。君の家族には新しいことだな、それを覚えておくのだ! シドニー・カートン。弁護士。イギリス人。どれだ?」
彼は馬車の隅に横たわっている。これも指し示された。
「どうやらイギリス人の弁護士は気を失っているのか?」
外の空気で回復することを願うばかりだ。体が弱く、共和国の不興を買った友人と悲しい別れをしたのだと説明される。
「それだけか? 大したことではないな! 共和国の不興を買っている者など多い、皆小窓から外を見ておくがいい。ジャーヴィス・ローリー。銀行家。イギリス人。どれだ?」
「私です。最後の者ですから。」
これまでの質問すべてに答えていたのはジャーヴィス・ローリーだった。彼は馬車から降り、車の扉に手を置き、役人たちの一団に応じている。役人たちは悠然と馬車の周りを歩き、屋根のわずかな荷物を調べるために悠然とボックス席に上る。周囲の村人たちは馬車のドアに詰め寄り、貪欲な眼差しで中を覗きこむ。母親に抱かれた小さな子が、ギロチンに送られた貴族の妻に触れさせようと、短い腕を差し出されている。
「ほら、君の書類だ、ジャーヴィス・ローリー、署名済みだ。」
「これで出発してよいのですね、市民?」
「よいぞ。出発だ、御者たち! 良い旅を!」
「諸君に敬礼を――これで最初の危機は越えたぞ!」
これは再びジャーヴィス・ローリーの言葉である。彼は両手を組み、天を仰ぐ。馬車の中には恐怖が満ち、泣き声があり、気を失った旅人の荒い呼吸が響く。
「私たち、遅すぎるんじゃない? もっと速く走らせられないかしら?」とルーシーが老父にしがみついて尋ねる。
「急がせすぎると逃亡と見なされる、愛しい人よ。無理をさせれば疑われてしまう。」
「後ろを見て、追われていないか確認して!」
「道は空いているよ、愛しい人。今のところ、追手はいない。」
二、三軒ずつの家、孤立した農家、打ち捨てられた建物、染色場、なめし革工場などが過ぎ、開けた野原、葉を落とした木々の並木道を進む。でこぼこした石畳の下には深いぬかるみ。時には石を避けてぬかるみ側を走り、時には轍や泥に車輪がはまり、私たちの焦りと不安は激しくなり、降りて走ったほうがマシとまで思ってしまう。
また開けた野を抜け、崩れかけた建物や孤立した農家、染色場、なめし革工場、二、三軒の小屋、葉のない並木道――この道は騙されて引き返していないか? 同じ場所を通ったのでは? いや、村だ。後ろを見て、追われていないか! 静かに、駅馬車宿だ。
ゆっくりと四頭の馬が外され、馬車は馬もないまま狭い通りに放置される。新しい馬たちが一頭ずつ現れ、新しい御者たちが鞭の縄を編みつつゆっくりと出てくる。古い御者たちは金勘定に手間取り、不満げな顔。だが、馬車の中の私たちの鼓動は、どんな名馬の疾走より速く、高鳴っている。
とうとう新しい御者たちが鞍に乗り、古い御者たちは残される。村を抜け、丘を上り下りし、低い湿地を進む。突然、御者たちが身振りを交えて言葉を交わし、馬を急停止させた。追われているのか?
「おい! 馬車の中の者、返事しろ!」
「何だ?」とローリー氏が窓から尋ねる。
「何人って言った?」
「何のことですか?」
「――さっきの駅馬車宿で。今日はギロチンに何人行く?」
「五十二人です。」
「言ったろう! 立派な数だ! この同志は四十二人だと言ったが、十人多いほうがいい。ギロチンは上手くいってる。大好きだ。さあ、出発だ!」
夜が更ける。彼は動きだし、意識を取り戻しつつある。彼らがまだ一緒にいると思い、相手に名前を呼びかける。ああ、天よ、どうかお救いを! 後ろを見て、追われていないか。
風も、雲も、月も、荒れ狂う夜が私たちを追いかけてくるが、今のところ追っ手は他にはいない。
第十四章 編み終えられた編み物
同じ時刻、五十二人が運命を待つその時、ドファルジュ夫人は復讐の女神と革命陪審のジャック・スリーとともに、暗い不吉な協議をしていた。彼女はいつものワイン店ではなく、かつては道直しだった木こり小屋で会っていた。木こり自身は会話に加わらず、遠巻きに控えていた。必要とされるまで口を挟まず、意見も求められるまで述べない、衛星のような存在だった。
「でも私たちのドファルジュは、本当に良き共和派だよな?」とジャック・スリーが言った。
「彼より良い人はいませんよ!」と復讐の女神は甲高い声で主張した。「フランス一です!」
「静かに、小さな復讐の女神」とドファルジュ夫人は、軽く眉をひそめて副官の唇に手を当てる。「私の話を聞きなさい。私の夫は良き共和派、勇敢な男で、共和国に大いに尽くし、その信頼も得ている。でも夫には弱さがあって、このマネット博士に対しては情けをかけるほどに軟弱なのです。」
「それは残念なことだ」とジャック・スリーは口をへの字にし、残酷な指で飢えたように口元をなぞった。「良き市民らしくない。遺憾なことだ。」
「見てごらん」と夫人は言った。「私はこの博士のことなど全く興味はない。首が繋がろうが切られようが、私にはどうでもいい。でも、エヴレモンド家は根絶やしにしなければならない。妻と子も夫・父親の後を追わせるのです。」
「彼女の首は見事なものだ」とジャック・スリーはうっとりと呟いた。「以前、青い目に金髪の首をサンソンが差し上げるのを見たが、なんとも美しい眺めだった!」鬼のような彼は、美食家のごとく語った。
ドファルジュ夫人は目を伏せ、少し考え込んだ。
「子供もまた」とジャック・スリーが言葉を楽しむように付け加えた。「金髪で青い目。子供はめったにいないからね。綺麗な眺めさ!」
「要するに」と夫人は短い沈思から抜け出して言った。「私はこの件で夫を信じていられません。昨夜から、計画の詳細を夫に話すこともできないし、これ以上遅れれば夫が警告して逃亡を許す危険も感じています。」
「そんなことは絶対にあってはならん」とジャック・スリーがカラスのように言った。「誰も逃してはいけない。まだ半分も足りない。日に百二十人は必要だ。」
「要するに」と夫人は続けた。「私の夫は、この一家を滅ぼす私の理由を持たず、私は博士に同情する夫の理由を持たない。だから、自分で動くしかない。こっちへおいで、小さな市民。」
木こりは、彼女に対しては最大限の敬意と、己に対しては死ぬほどの恐怖を抱いて、赤い帽子に手をやりながら進み出た。
「例の合図の件だがな、小さな市民」と夫人は厳しく言った。「あの女が囚人たちに送っていた。その証言、今日中にできるな?」
「おう、できますとも!」と木こりは叫んだ。「毎日、どんな天気でも、二時から四時の間、いつも合図を送っていたさ。時には子供と一緒に、時には一人で。私は知っていることは知っている。自分の目で見た。」
彼は話しながら、見たこともないはずのさまざまな合図の真似をしてみせた。
「陰謀だな」とジャック・スリーが言う。「明白だ!」
「陪審に疑いはないのか?」と夫人は暗い微笑を浮かべて彼に目を向けた。
「愛国陪審にお任せください、親愛なる市民夫人。私が同僚の陪審員も保証します。」
「さて、考えてみよう」と夫人はまた考え込む。「もう一度だけ! この博士を夫に譲れるか? 私には何の思い入れもない。譲れるか?」
「一人分の首にはなる」とジャック・スリーが低い声で言った。「まだ数が足りない、もったいないくらいだ。」
「あれは彼女と一緒に合図をしていた」と夫人は言い張った。「どちらか一方だけ言うことはできないし、この小さな市民に全部任せて黙っているわけにもいかない。私は証人として悪くはないから。」
復讐の女神とジャック・スリーは、彼女が最も素晴らしい証人だと競うように賛美した。木こりも負けじと、彼女を天上の証人と称えた。
「彼も運命に任せよう」と夫人は言った。「だめだ、譲れない! 三時には用があるだろう、今日の一団の処刑を見に行くんだな? ――お前も?」
この問いは木こりに向けられ、彼は即座に肯定した。午後のパイプをくゆらせながら、おかしな国民理髪師[=ギロチン]を眺める楽しみがなくなるなんて、と大げさに訴えた。あまりに熱心なので、ドファルジュ夫人の冷たい目には、彼が自分の身を案じているのではと映ったかもしれない。
「私も同じ場所に用がある」と夫人は言う。「終わったら――八時ごろ――サン・タントワーヌの私のところへ来なさい。私たちのセクションで、あの一家を告発することにしましょう。」
木こりは大いに光栄だと述べた。ドファルジュ夫人が彼を見つめると、彼は小犬のように目をそらし、木材の陰に引っ込み、鋸の柄でごまかしながら逃げ込んだ。
夫人は陪審員と復讐の女神を扉近くに招き、さらに話を続けた。
「彼女は今、家で死の瞬間を待っているはず。嘆き悲しみ、共和国の正義さえ非難しかねない心境になっている。敵への同情で満ちている。私は彼女のもとへ行くつもりです。」
「なんて立派な女性、なんて魅力的な女性だ!」とジャック・スリーがうっとりと叫び、「ああ、愛しい人!」と復讐の女神が抱きついた。
「私の編み物を持っておいて」と夫人は副官に編み物を渡し、「いつもの席、椅子を確保しておきなさい。今日は普段より見物人が多いはずだから、すぐ行きなさい。」
「喜んで従います、首領さま」と復讐の女神は張り切って頬にキスをして言った。「遅れませんね?」
「始まる前には行くわ。」
「荷馬車が到着する前に。必ず来てね、私の命!」と復讐の女神は道に曲がる夫人に呼びかけた。
ドファルジュ夫人は手を軽く振り、必ず間に合うと示し、泥を踏んで刑務所の壁の角を回った。復讐の女神と陪審員は、その後ろ姿に彼女の見事な体格と道徳的資質を称えた。
当時、時代の恐るべき手によって容貌を損なわれた女性は多かったが、この冷酷な女ほど恐れられる者はいなかった。力強く恐れを知らず、抜け目なく決断力があり、その美しさは持ち主にだけでなく、他人にも本能的な畏れを与えた。この混乱の時代がなければ、どんな境遇でも彼女は頭角を現しただろう。しかし、幼少期から抑圧への執念と階級への憎悪を深く抱き、機会があれば虎のごとき存在に成長した。彼女には、一片の慈悲もなかった。もし、その徳がかつて心にあったとしても、今は完全に消え失せていた。
先祖の罪で無実の者が死ぬことも、彼女にはなんら痛痒を感じさせなかった。彼女の目には、個人でなく階級だけが見えていた。彼の妻が未亡人に、娘が孤児になることも、当然の報いにすぎない。彼女に訴えても無駄だった。自分自身にすら情けをかける心がないのだから。もし彼女が道端で倒れても自分を憐れまなかっただろうし、明日処刑されても、自分を送った者と立場を逆転したいという激しい欲望以外、優しい感情は持たなかっただろう。
そんな心を、ドファルジュ夫人は粗末なローブの下に抱えていた。そのローブは無造作にまとわれていたが、どこか不気味な美しさがあり、漆黒の髪が粗い赤帽の下で豊かに輝いていた。胸元には拳銃が、腰には研ぎ澄まされた短剣が隠されていた。そのような装備と、少女時代に裸足で海辺を歩き慣れた女のしなやかな自由な歩みで、夫人は通りを進んだ。
さて、まさしく今、馬車の旅の計画が立てられていた昨夜、ミス・プロスをその馬車に乗せることが大きな懸案となっていた。単に過積載を避けたいというだけでなく、検問の際にかかる時間を最小限に抑えることが何より重要だった。わずかな時間の節約が、脱出の成否を左右しかねないからだ。最終的にローリー氏は、苦心の末、ミス・プロスとジェリーが市外を自由に出られる立場であることを生かし、当時最も軽快な車両で午後三時に出発することを提案した。荷物もほとんどなく、馬車を追い抜きつつ先回りして馬を手配すれば、夜間の貴重な時間帯に遅れが最小限で済む計算だった。
その計画に、緊急時に貢献できる望みを見いだしたミス・プロスは喜んで応じた。彼女とジェリーは馬車の出発を見送り、ソロモン[バーサッド]が誰を連れてきたかも知っていた。十分ほど苦しい緊張の中で待機し、今まさに馬車を追って出発の準備をしていた。そのとき、ドファルジュ夫人もまた、通りを進み彼女たちが相談をしていた、ほとんど人気のない宿所へ近づいていた。
「さて、クランチャーさん」と、ミス・プロスは動揺のあまり声も出せず、立つことも、動くことも、生きることさえ困難な様子で言った。「私たち、この中庭から出発しない方がいいと思いませんか? 今日はもう一台馬車がここから出たので、不審に思われるかもしれません。」
「ごもっともです、お嬢さん」とクランチャー氏は答えた。「俺は、良いも悪いも、ずっとあなたの味方です。」
「私、愛しい人たちへの不安と希望で気も狂いそうで、何も考えられません。あなたは、何か計画が立てられますか? 親切なクランチャーさん。」
「将来の人生については考えたいですが、今この頭が役に立つとは思えません。お願いが二つあるんですが、ここで誓いを立てさせてくれませんか?」
「ああ、お願いだから!」とミス・プロスはまだ泣きながら叫んだ。「早く誓って、済ませてしまってください。」
「まず第一に」とクランチャー氏は震えながら、顔を蒼ざめさせて言った。「あの人たちさえ無事に逃げられたら、二度とやりません、絶対にやりません!」
「きっとあなたはもう二度とそんなことしませんよ、何であれ。詳細は言わなくて結構です。」
「はい、お嬢さん、言いません。第二に:あの人たちが無事に逃げられたら、クランチャー夫人の祈りの邪魔は二度としません、絶対に!」
「どんな家事のことか分かりませんが、奥さんの好きにさせておくのが一番でしょう。ああ、かわいそうなあの子たち!」
「それどころか」とクランチャー氏は説教でも始めるような勢いで続けた。「俺の奥さんの祈りに対する考え方も変わりました。今は心から、あの人が今この時にでも祈ってくれていればと願うばかりです。」
「そうですね、きっと祈ってますよ」とミス・プロスは泣きながら、「それが実を結ぶよう祈りましょう。」
「願わくば」とクランチャー氏はさらに厳かに、ゆっくりと、そして説教口調で続けた。「俺の言動が、今この時あの人たちの無事を妨げることがありませんように! できるなら私たち皆で祈って、あの危険から救い出したいものです。お願いです、お嬢さん、そう願ってください!」――これがクランチャー氏が長々と考えた末の結論だった。
その間もドファルジュ夫人は通りを進み、ますます近づいていた。
「もし祖国に戻れたら」とミス・プロスは言った。「あなたの言葉、できるだけ覚えて、クランチャー夫人に伝えますし、何よりも今あなたが真剣に思っていることを必ず証言します。さあ、考えましょう! クランチャーさん、一緒に考えて!」
それでも、ドファルジュ夫人は近づいていた。
「あなたが先に行って、馬車や馬がここに来ないように止めて、どこかで私を待ってくれたらどうでしょう?」
クランチャー氏も、それが良いかもしれないと考えた。
「どこで待っていてくれますか?」
クランチャー氏は混乱したあまり、思い浮かぶのはテンプル・バーばかりだった。しかし、その門ははるか遠く、ドファルジュ夫人はすぐそこに迫っていた。
「大聖堂の門の前ではどうでしょう。二つの塔の間、大聖堂の大きな門の前で拾ってもらえる?」
「いいですよ、お嬢さん。」
「では、お願いします、クランチャーさん。すぐに駅馬車宿へ行って、それでお願いします。」
「でも、お嬢さん、あなたを残していくのが心配なんです。何が起きるか分かりませんから。」
「本当に分かりませんが、私は大丈夫です。三時かできるだけ近い時間に大聖堂の前で拾ってください。それがここの出発よりきっと良いと思います。命が懸かっているかもしれませんから!」
この切実な訴えにクランチャー氏も決意し、頷いて出発の段取りを変えに出て行った。ミス・プロスは一人になり、計画通りにあとを追うことにした。
臨機応変の行動がすでに実行中であることはミス・プロスにとって大きな安堵だった。通りで目立たぬよう、身なりを整える必要もまた助けとなった。時計を見ると二時二十分、急いで準備しなければならなかった。
極度の不安で、人気のない部屋が怖く、開いたドアの陰から誰か覗いているような気がしてならない。ミス・プロスは冷たい水で腫れた目を洗い始めたが、水がかかって一瞬でも視界が遮られるのが耐えられず、何度も中断しては部屋を見回した。その時、不意に部屋の中に人影を認め、思わず叫んだ。
洗面器が落ちて割れ、水はドファルジュ夫人の足元に流れた。さまざまな厳しい道を辿り、血に染まったその足が、今ここで水に出会ったのだった。
ドファルジュ夫人は冷たく彼女を見据え、「エヴレモンドの妻はどこだ?」と問うた。
ミス・プロスはすぐに、すべてのドアが開いていることが逃亡を示唆してしまうと気づいた。まず四つのドアをすべて閉め、ルーシーの使っていた部屋の扉の前に立った。
ドファルジュ夫人の暗い目は、その素早い動きを追い、やがてミス・プロスの上で止まった。ミス・プロスに美しさはまるでなかったが、年を重ねても気性の激しさや厳しさは和らいではいなかった。彼女もまた、まったく別のタイプの決意を持った女であり、ドファルジュ夫人を隅々まで見据えていた。
「あなたのその風貌では、ルシファーの妻のようにも見えるけれど」とミス・プロスは息を荒げて言った。「だけど、私は負けない。私はイギリス女よ。」
ドファルジュ夫人は軽蔑の目で見返したが、同時に、互いに退路を断っているという感覚も共有していた。彼女の前には、頑強で筋張った女――かつてローリー氏が見て、「強い手を持つ女」と評した姿がある。夫人はミス・プロスが家族の熱烈な友人であることを知っていたし、ミス・プロスもドファルジュ夫人が家族の悪意ある敵であることを知っていた。
「私は、あちらの場所――私の席と編み物が用意されているあそこ――へ行く途中で、彼女に挨拶しに立ち寄ったのです。彼女に会いたい。」
「あなたの意図が邪悪なのは分かっているわ。私は絶対に負けません。」
それぞれが自国語で話しているため、互いの言葉は分からなかったが、表情や態度から意図を読み解こうと警戒していた。
「今彼女を隠しても無駄だ」とドファルジュ夫人は言った。「愛国者なら分かるはず。会わせなさい。彼女に私が会いたいと伝えなさい。分かったか?」
「あなたのその目が大砲でも、私がイギリスの四柱ベッドでも、一片も割れはしないわ。この邪悪な外国女、私はあなたの相手よ。」
ドファルジュ夫人は、こうした言い回しの詳細までは分からなかっただろうが、明らかに侮られていることは理解した。
「愚かで豚のような女め!」と夫人は眉をしかめて言った。「お前の返事など要らない。彼女に会わせろ。でなければどけ、私が中に入る!」
「まさか、私があなたの馬鹿げた言葉を理解したくなる日が来るなんて思わなかった。けれど、あなたが真実を疑っているのか、どこまで知っているのか、全財産を投げ打ってでも知りたいものだわ。」
二人は片時も視線を外さなかった。夫人は最初ミス・プロスが気付いた場所から動かなかったが、今一歩だけ前に出た。
「私は誇り高きイギリス人、絶望しているの。自分のことなんかどうでもいい。あなたをここに引き止めるほど、私の小鳥に希望が生まれる。もし私に手を出したら、その黒髪を一房たりとも残しはしないわ!」
こう言いながら、ミス・プロスは素早い一言ごとに頭を振り、目を光らせた。今まで一度も人を殴ったことがない彼女であった。
だがその勇気は、涙があふれるほど激しいものだった。ドファルジュ夫人は、それを弱さと勘違いするほど勇気を理解できなかった。「はは!」と夫人は嘲笑った。「哀れな奴め! 一体何の価値がある!」そして声を張り上げ、「市民博士! エヴレモンドの妻! エヴレモンドの子! この哀れなバカ以外は、誰でもいいから市民夫人ドファルジュに返事しなさい!」
続く沈黙や、ミス・プロスの表情に浮かぶ何らかの気配、あるいはただの予感が、彼らが去ったらしいとドファルジュ夫人に囁いた。彼女は三つの扉を素早く開けて中を見た。
「どの部屋も散らかり、荷造りが急がれている。あの部屋にもいない! 見せろ!」
「絶対にダメ!」ミス・プロスは夫人の要求を理解し、毅然と答えた。
「もしあの部屋にいなければ、もう逃げている。追跡して連れ戻せる」と夫人は独りごちた。
「あなたがあの部屋に彼女たちがいるかどうか分からなければ、どう動くか決められない。しかも、私がいる限り絶対に知らせない――何としてもここからは出さない」とミス・プロスも決意した。
「私は最初から通りに出てきた女、誰にも止められなかった。このドアからでも、力ずくでお前を引き離して入ってやる」と夫人。
「ここは高い建物の一番上、誰にも聞こえないはず。どうか私に力を与えて、あなたを引き止めさせてください。あなたの一分ごとに、私の小鳥の命が十万ギニー分の価値があるのです!」
ドファルジュ夫人がドアに向かって突進したその瞬間、ミス・プロスは本能で彼女の腰に両腕を回し、がっちりと抱きしめた。夫人がもがき、殴りつけても、ミス・プロスは愛の力で憎しみ以上の力を発揮し、しがみつき、ついには夫人を床から持ち上げるほどだった。夫人の手が彼女の顔を叩き、引っかいたが、ミス・プロスは頭を下げてさらに強く腰に抱きついた。
やがて夫人の手は殴るのをやめ、腰に探りを入れた。「それは私の腕の下だ、抜かせない。私はあなたより強い、神に感謝します。どちらかが気絶するか死ぬまで離しません!」
夫人の手は胸元にあった。ミス・プロスは見上げて、それが何かを知り、それを叩き、閃光と轟音が走り、煙に包まれた。
すべては一瞬だった。煙が晴れると、恐ろしい静けさが残り、まるで荒ぶる女の魂が空気へと抜けていくかのように、その肉体は床に崩れ落ちていた。
ミス・プロスは恐怖と衝撃のあまり、できるだけ死体から離れて部屋を出て、助けを呼ぼうと階段を駆け下りた。だが、すんでのところで自分の行動の結果を悟り、思いとどまり、再び部屋に戻った。再びあの部屋に入るのは恐ろしかったが、帽子や身に着ける物を取りにどうしても近づかねばならなかった。それらを階段で身につけ、ドアを閉めて鍵をかけ、鍵を持って下りた。しばらく階段で座って涙を流し、息を整えてから、急いで立ち去った。
幸い、彼女の帽子にはベールが付いていたので、通りで足止めされずに済んだ。また、元々特異な容貌だったので、他の女性のように傷が目立たなかった。どちらも必要なことで、顔には指の痕が深く刻まれ、髪は引きちぎられ、服は乱れた手でめちゃくちゃに引き裂かれていたのだから。
橋を渡るとき、彼女はドアの鍵を川に落としてしまった。護衛より数分早く大聖堂に到着し、そこで待ちながら、もしも鍵がすでに網にかかって、もしもそれが特定され、ドアが開けられて遺体が発見されたら、もしも自分が門で止められ、投獄されて殺人の罪を問われたら――そんな思いが彼女の胸を駆け巡った。その動揺の最中、護衛が現れ、彼女を中へと連れて行き、連れ去った。
「通りは何か騒がしいですか?」と彼女は尋ねた。
「いつもの騒ぎです」とクランチャー氏は答え、その質問と彼女の様子に驚いた顔をした。
「よく聞こえません」とミス・プロスは言った。「何とおっしゃいました?」
クランチャー氏が繰り返しても無駄だった。ミス・プロスには聞こえなかった。「じゃあ、うなずいて見せよう」とクランチャー氏は思い、驚きつつもそうした。「少なくとも、うなずけば伝わるだろう。」そして確かに彼女はそれを見た。
「今も通りに騒音はありますか?」とミス・プロスがまた尋ねた。
クランチャー氏は再びうなずいた。
「私には聞こえません。」
「たった一時間で耳が聞こえなくなったのか?」とクランチャー氏は動揺しながら考えた。「一体どうしたっていうんだ?」
「私は……」とミス・プロスは言った。「閃光と大きな音がして、その音がこの世で私が聞く最後のものだったような気がします。」
「こりゃあ本当に妙な具合だ!」とクランチャー氏はますます不安げにつぶやいた。「何かしら勇気づけるために変なものでも飲んだのか? おや、あの恐ろしい馬車の音が聞こえるだろう? お嬢さんには聞こえますか?」
「私には……」とミス・プロスは、彼が自分に話しかけているのを見て言った。「何も聞こえません。ああ、いい方、最初に大きな衝撃があり、その後に大きな静けさが訪れ、その静寂がもう決して破られることのないものとして、私の命ある限り続くように感じられるのです。」
「この恐ろしい馬車の轟音が、もうすぐ旅路の果てに来ているというのに聞こえないとなると、こりゃあ本当にこの世で他の音はもう何も聞くことはないだろうよ」とクランチャー氏は肩越しに振り返りながら言った。
そして本当に、彼女はもう何も聞くことはなかった。
第十五章 足音が永遠に消えゆく
パリの通りを、死の馬車ががらがらと不吉な音を響かせて進んでいく。六台の荷馬車が、その日の「葡萄酒」をギロチンへと運んでいく。想像しうる限りの、貪欲で飽くことを知らぬ怪物たちが、ひとつの現実、すなわちギロチンに集約されている。そして、それにもかかわらず、肥沃な大地と多様な気候を持つフランスには、この恐怖を生み出したものほど確実な条件で成長する刃も、葉も、根も、小枝も、胡椒粒ひとつもないのだ。もし再び同じ鉄槌で人間性をねじ曲げれば、同じような苦悶の形へと歪んでしまうだろう。もし再び貪欲な放縦と圧政の種を蒔けば、その種は必ずや同じ実を結ぶのだ。
六台の荷馬車が通りを進む。時の大いなる魔術師よ、これらを以前の姿に戻せるものなら戻してみよ。そうすればそれらは絶対君主の御者となり、封建貴族の馬車となり、眩いイゼベルの化粧室となり、父の家ではなく盗人の巣窟と化した教会となり、飢えに苦しむ何百万もの農民の小屋となるだろう! いや、創造主の定めた秩序を厳かに実現する大いなる魔術師は、その変化を決して逆戻りさせることはない。「もし汝が神の御心によりこの姿に変えられし者ならば、そのままであれ。されど、ただ一時の魔術でその姿をまとうのみならば、元の姿に戻れ」と、アラビアの賢者たちは物語で言う。変わることなく、希望もなく、荷馬車は進み続ける。
六台の車輪が回ると、通りの群衆の中に長く曲がりくねった溝を耕すようだ。顔の畝が左右に投げ出され、鋤は着実に進んでいく。住民たちはこの光景にすっかり慣れてしまっており、窓に人影もない家が多く、窓際にいても手を止めることなく、荷馬車の中の顔だけを眺めている者もいる。中には客人を呼んで見物させ、自慢気に指をさし、昨日は誰がここに、昨日は誰があそこに座っていたかを語る者もいる。
荷馬車に乗る者たちの中には、そうした様子や最後の道沿いのすべてを無表情に見つめる者もいれば、人生や人の営みにまだ名残の興味を持つ者もいる。うなだれて黙した絶望に沈む者もいれば、逆に自分の身なりを気にして、劇や絵で見たような視線を群衆に投げかける者もいる。目を閉じて思いを巡らす者、心をまとめようとする者も何人かいる。ただ一人、悲惨な様子で気が触れた男だけが、恐怖に打ちのめされ酔いつぶれたように歌い、踊ろうとする。誰一人として、群衆に哀れみを求めるような目つきや仕草を見せる者はいない。
護衛の騎馬兵が荷馬車と並んで進み、しばしば人々が彼らを見上げて何かを尋ねる。どうやらいつも同じ問いらしく、そのたび三番目の荷馬車の方に人の波が押し寄せる。その車と並走する騎馬兵は、よくその荷馬車の中の一人を剣で指し示す。最大の関心事は、誰がその人物なのかということだ。その男は荷馬車の後ろに立ち、顔をうつむけて隣に座る一人の若い娘と話し、彼女の手を握っている。彼は周囲の光景には無関心で、ただひたすら少女に話しかけている。サン・オノレ通りのあちこちで、彼に罵声が浴びせられる。もしそれが彼に何らかの影響を与えるとしても、それは静かな微笑みとして現れるだけで、彼は髪をほんの少し乱して顔にかける。両腕が縛られているので、顔に手をやることもできない。
教会の階段の上では、スパイであり牢獄の密告者である男が荷馬車の到着を待っている。彼は一台目を覗くが、いない。二台目を覗いても、いない。すでに「彼は私を見捨てたのか?」と自問するが、三台目を覗いた瞬間、顔が晴れる。
「どれがエヴレモンドだ?」と後ろの男が尋ねる。
「そこだ。後ろの方に。」
「少女と手をつないでいる?」
「ああ。」
男は叫ぶ。「エヴレモンドをやっつけろ! ギロチンにかけろ、貴族どもを! エヴレモンドをやっつけろ!」
「静かに、静かに……」とスパイはおずおずと彼をなだめる。
「なぜだ、市民?」
「彼はもうすぐ償いをする。あと五分のうちに終わる。静かにさせてやれ。」
だが男は「エヴレモンドをやっつけろ!」と叫び続けたので、エヴレモンドの顔が一瞬その方を向いた。エヴレモンドはスパイの姿を認め、じっと見つめ、それからまた前を向いた。
時計が三時を打とうとし、人々の間に耕された溝が、ついに処刑場に到達し終わろうとしている。その溝の左右に押しやられていた畝も、最後の荷馬車が通り過ぎると崩れ落ち、すべての者がギロチンへと続いていく。処刑場の前には、まるで公園のように椅子が並べられ、その上には忙しげに編み物を続ける女たちが座っている。その最前列の一つの椅子の上で、復讐の女神が辺りを見回して友人を探している。
「テレーズ!」と彼女は甲高い声で叫ぶ。「誰か見かけなかった? テレーズ・ドファルジュ!」
「彼女が来なかったことなんて今までなかったのに」と編み物仲間の一人が言う。
「そうよ、今日だってきっと来るはず」と復讐の女神が焦れて叫ぶ。「テレーズ!」
「もっと大きな声で」と女がすすめる。
そうだ、もっと大きな声で、もっともっと。それでも彼女にはほとんど届かない。もっと大きな声で、罵声でも添えて呼んでみても、それでも彼女は現れない。女たちをあちこちに探しにやらせるが、たとえ彼女たちが恐ろしいことを成し遂げてきたとしても、果たして自分の意志でどこまで探しに行くものか疑わしい。
「なんて運が悪いの!」と復讐の女神は椅子の上で足を踏み鳴らす。「もう荷馬車が来てしまった! エヴレモンドもすぐに片付けられるのに、彼女がいないとは! ほら、私の手には彼女の編み物が、椅子も彼女のために空いている。悔しくて泣きたいくらいよ!」
復讐の女神が椅子から飛び降りてそう叫ぶと、荷馬車は次々にその積み荷を降ろし始める。サント・ギロチーヌの執行人たちは法衣をまとい、準備万端だ。ガシャン――首が掲げられ、ついさっきまで考え、話すことのできたその頭を、編み物女たちは一瞥もくれずに「一」と数える。
二台目の荷馬車が空になり、次へと進む。三台目が前に出る。ガシャン――編み物女たちは、決して手を止めることなく「二」と数える。
エヴレモンドとされた男が降り、続いて裁縫師が抱え上げられる。彼は約束通り、手を離さずに彼女の手を握ったままだ。その手をそっと離して彼女を絶え間なく唸る処刑機の背に立たせ、彼女は彼の顔を見上げて感謝を述べる。
「あなたがいなければ、親切な方、私はこんなに落ち着いてはいられなかったでしょう。私は本来、気の弱い小さな人間ですから。あなたがいてくださったからこそ、私たちのために処刑された御方に思いを向けることもできました。きっと天があなたを送ってくださったのだと思います。」
「あるいはあなたが私に送られてきたのかもしれません」とシドニー・カートンは言う。「私を見ていてください、何も他のものを気にしないで。」
「あなたの手を握っている限り、私は何も気になりません。もし手を離すときが来ても、どうか迅速でありますように。」
「すぐに終わります。心配しないで。」
二人は被害者の列も薄まる中で、まるで二人きりのように語り合う。目と目、声と声、手と手、心と心――本来はあまりに遠く違いすぎる二人の、普遍なる母の子どもたちが、今は共にこの暗い道を歩き、共に家へ帰り、彼女の懐に抱かれて憩おうとしている。
「勇敢で寛大な友よ、最後にひとつだけ質問してもいいですか? 私はとても無知なので、ほんの少しだけ気がかりなのです。」
「何でもおっしゃい。」
「私には従姉妹が一人います。私と同じように孤児で親しい親族はそれだけ。彼女は私より五つ年下で、南部の農家に住んでいます。貧しさが私たちを引き離し、彼女は私の運命を何も知りません――手紙も書けず、書けたとしても何と伝えればいいのかわかりません。それでよかったと思います。」
「そうですね、それでよかったのです。」
「さっきからずっと考えていたことなのですが――あなたの優しく力強い顔を見ていると、ずいぶんと心強くて――もし共和国が本当に貧しい人々のためになるなら、彼女たちは飢えも減り、さまざまな苦しみも少なくなり、きっと長生きできるでしょう。もしかしたら、おばあさんになるまで生きるかもしれません。」
「それで、やさしい妹よ?」
「そう思うと――」苦しみを耐え抜いた瞳に涙が溢れ、唇が少し開いて震える。「私があの世で彼女を待っている間、長いと感じるでしょうか? あなたと私が、慈しみ深く守られることを信じているその場所で。」
「そんなことはありません、子よ。そこには時間も、苦しみもないのです。」
「あなたは本当に私を慰めてくださいます。私は無知なものです。今あなたにキスしてもいいのですか? その時が来たのでしょうか?」
「ええ。」
彼女は彼の唇にキスし、彼も彼女の唇にキスし、二人は互いを厳かに祝福する。彼が手を放しても、その手は震えず、忍耐強い顔には優しく明るい安らぎがたたえている。彼女は彼の直前に進み、消える。編み物女たちは「二十二」と数える。
「わたしはよみがえりであり、いのちである。わたしを信じるものは、たとえ死んでも生きるであろう。また、生きていてわたしを信じるものは、決して死なない。」
群衆の外れでざわめく多くの声、多くの顔が上を向き、多くの足音が押し寄せて波となる――すべて消え去る。二十三。
その夜、町中で彼について、あそこに現れたどんな男の顔よりも安らかな顔だったと語られた。中には彼の顔は崇高で預言者のようだったと言う者もあった。
同じ斧にかけられた中で、かつて処刑台の下でその霊感を記すことを許された、ある女性のことが語り草となっていた。もし彼が自身の思いを言葉にし、それが予言のようなものであったなら、それは次のようなものであっただろう。
「私はバーサッド、クライ、ドファルジュ、復讐の女神、陪審員、判事、かつての圧政を倒して今や新たなる圧政者となった長き列の者たちが、この報復の道具で次々と滅びていくのを見ている。この道具がその役目を終えるまでに。私はこの奈落から、美しい都市と輝かしい民が生まれ、真の自由を求めて長き闘争と勝利、敗北を繰り返し、この時代とその前の時代――つまり今が必然的に生まれた時代の悪が、徐々に贖われ、消え去るのを見ている。
私は、私が命を投げ出した人々の暮らしが、これからのイングランドで、平和で有用で、繁栄し、幸せであるのを見ている。私は彼女が胸に赤子を抱き、その子が私の名を持っているのを見ている。私は彼女の父親が、老い、背を曲げながらも、本来の癒やす者として人々に尽くし、安らかに生きているのを見ている。私は長年の友人であった善良な老人が、十年後に全財産を彼らに譲り、静かに報いを受けてこの世を去るのを見ている。
私は自分が彼らの、そして彼らの子孫の胸の中に聖域を持ち続けるのを見る。彼女が年老いたとき、この日の記念日に私のために涙を流すのを見ている。彼女とその夫が人生を終え、最後の眠りにつき、その魂が互いに敬愛し合っていたように、私もまた彼らの魂に敬われ、聖なるものとして残るのを知っている。
私は、彼女が胸に抱いた、私の名を受け継いだあの子が、かつて私が歩んだ人生の道を進み、見事に成功し、自分の輝きで私の名を高めていくのを見ている。私がその名につけた汚点も消え去っている。私は彼が正義の裁判官、名誉ある人物の筆頭となり、自分の名をつけた金髪で広い額の少年を連れて、この場所――その頃にはこの日の陰惨な跡もなく美しい場所――にやって来て、優しく震える声で子どもに私の物語を語るのを聞いている。
『私のなしうることの中で、これほど良いことはかつてなかった。私が向かう先は、今まで知ったどんな安らぎよりも、はるかに素晴らしい安息だ。』」
終